AAアミロイドーシス合併関節リウマチに対する 生 …...〔原 著〕...
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〔原 著〕
AAアミロイドーシス合併関節リウマチに対する
生物学的製剤の有用性に関する検討:
TNFα阻害療法と抗 IL-6受容体抗体療法の比較
田 村 裕 昭 松 本 巧 長谷川 公 範
桂 川 高 雄 鹿 野 哲
Key words:AAアミロイドーシス,抗 IL-6受容体抗体療法,TNF阻害療法
要 旨
関節リウマチ(以下 RA)に続発するAAアミ
ロイドーシスは予後不良な病態である。今回,
AAアミロイドーシス合併 RAに生物学的製剤
(tocilizumab7例,etanercept4例,infliximab
1例)を使用し,2年以上継続使用した tocil-
izumab群4例と etanercept群3例の治療成績
を比較検討した。血清 SAAの正常化ならびに
AAアミロイド沈着の組織学的改善度は tocil-
izumab群の方が良好な傾向を示した。しかし
2年以上にわたり tocilizumabを投与した症例
でも組織に沈着したAA蛋白の完全除去には
至らなかった。現時点では SAA産生を効果的
に制御できる抗 IL-6受容体抗体(tocilizumab)
が RAに続発するAAアミロイドーシスの治
療に最も有用であると考えられる。
また生物学的製剤の投与を中止した4例のう
ち2例は,同薬剤を中止後半年ほど経過した後
に,腎不全が徐々に悪化して死亡した。腎障害
が不可逆的になる以前にAAアミロイドーシ
スの早期診断に努め,生物学的製剤による治療
を早期に導入し,これを長期間継続することで
アミロイド腎症による腎機能障害の進行を抑制
できる可能性が示唆された。
1.は じ め に
関節リウマチ(以下 RA)に続発するAAアミ
ロイドーシスは予後不良な病態であり,これま
で有症状者の5年生存率は約50%と報告され
てきた 。一方,メソトレキサートが RA治療
に導入された1990年代を境に続発性AAアミ
ロイドーシスは減少した とされ,さらに生物
学的製剤の登場により「寛解」が RAの治療目
標として推奨されるようになった 今日,続発
性AAアミロイドーシスの予後の改善も期待
されている。
しかし,RAに続発するAAアミロイドーシ
ス患者の40~60%は腎不全で死亡する とさ
れ,アミロイド腎症由来の腎不全は血液浄化療
法導入後もその予後は不良である 。また感染
症や蛋白漏出性胃腸症を伴う難治性下痢,消化
管出血,頑固な便秘といった消化器症状が原因
で全身状態が悪化し,その治療に苦慮すること
も少なくない。このように続発性AAアミロイ
ドーシスは今日なお RAの合併症の中でも重
症かつコントロールに難渋する病態であるとい
えよう。
Effect of biologics in patients with AA amyloidosis complicating rheumatoid arthritis and compar-ison of anti-IL-6 receptor antibody and TNF blockers for treating secondary amyloidosis.Tamura,H.,Matsumoto,T.,Hasegawa,K.,Katsuragawa,T.:勤医協中央病院リウマチ膠原病内科Kano,S.:勤医協中央病院病理科
Vol.34 11
今回,われわれは続発性AAアミロイドーシ
ス合併 RA患者に対し,生物学的製剤を用いた
TNF阻害療法および抗 IL-6受容体抗体療法
を施し,RA疾患活動性に関する臨床指標なら
びに胃粘膜組織に沈着したAAアミロイド蛋
白の推移を検討した。その結果に文献的考察を
加え,AAアミロイドーシス合併 RAに対する
生物学的製剤の有用性と今後の課題について報
告する。
2.対象と方法
1)対象
1980年以後当院において病理組織学的に
AAアミロイド蛋白陽性を確認し,続発性AA
アミロイドーシス合併 RAと診断された患者
73例のうち,本研究への登録が開始された2008
年4月時点で20例が存命であったが,そのうち
生物学的製剤の使用が可能で,かつ本研究に同
意の得られた10例(表1)を対象とした。
内訳は全例女性,年齢は61.08~76.91才(平
均68.8±5.45才),RA罹病年数は15~53年
(平均27.4±11.3年),AAアミロイドーシス診
断時点からの罹病年数は1.33~19.33年(平均
7.89±5.13年)であった。研究開始時点におけ
る RAの Steinblocker病期分類は全例 Stage
,機能障害の Class分類では Class2が8例,
Class3が2例であった。
2)方法
①AAアミロイドーシスの組織学的診断とAA
蛋白の沈着度の評価
患者から同意を得て,上部消化管内視鏡検査
ならびに3ヶ所(前庭部小弯,同前壁,同後壁)
の胃粘膜生検を施行し,得られた生検組織をヘ
マトキシリンエオシンならびにコンゴ赤で染色
し,アミロイド沈着の有無を判定した。
また,アミロイド蛋白のβシート構造を認識
し特異的に結合するプローべである BF-227
表1 対 象
Bio=biologics,TCZ=tocilizumab,IFX=infliximab,ETN=etanercept
北勤医誌第34巻 2012年12月
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と脱パラフィン化標本とを反応させ,蛍光顕微
鏡でその染色像を観察した。BF227によるアミ
ロイド沈着の程度を標本毎に半定量的に0(沈
着なし)から3(広範囲かつ多量)の4段階に
分類し,これらの点数の総和(最大9から最小
0)で沈着度を評価した。
また抗免疫グロブリンL鎖抗体,抗AA抗
体,抗トランスサイレチン抗体,抗βミクログ
ロブリン抗体をセットで用い,その染色性を検
討した上でAAアミロイドーシスの診断を確
定した 。さらに抗AA抗体による染色画像を
デジタル化処理して,組織切片全体に対する抗
AA抗体染色陽性部分の面積比を算出した。
②生物学的製剤の使用方法
投与開始に先立ち胸部単純X線写真,肺縦隔
CT,ツベルクリン反応を施行し,活動性結核な
らびに呼吸器感染症の有無を判定し,患者の同
意を得た上で,各生物学的製剤を通常の投与量
(tocilizumab8mg/Kg/回,etanercept25mg/
回,infliximab 3mg/Kg/回)ならびに投与方
法・投与間隔で使用した。
③生物学的製剤使用前後の臨床指標検討項目
関節リウマチの疾患活動性は28関節につい
て圧痛関節数,腫脹関節数,患者による全般的
健康状態(VAS),赤沈値から算出される
DAS28-ESR で半年ごとに評価した。また血清
SAA,血清クレアチニン,予測 GFRを経時的に
測定し,その推移を検討した。
④胃粘膜AA蛋白定量
上部消化管内視鏡検査を施行し,前庭部大弯
から得た胃粘膜生検材料を4M グアニジン溶
液中で超音波処理し,可溶化した後,山田らが
開発した ELISA法 でAA蛋白定量した。
3.結 果
1)生物学的製剤使用患者の内訳とその転帰
(図1)
対象10例に対し,7例に tocilizumab(以下
TCZ),4例に etanercept(以下 ETN),1例に
infliximab(以下 IFX)が使用された。各患者に
使用した生物学的製剤と使用期間は表1に示し
た通りである。使用期間は2~74ヶ月,平均
28.83±19.28ヶ月であった。
TCZを使用した7例のうち2例で投与が中
止された。うち1例(#5)は投与期間わずか2ヶ
月で投与時反応(胸苦)と不安障害で脱落した。
この症例は TCZ投与中止から26ヶ月後に腎不
全で死亡という転帰をたどった。他の1例(#4)
は,IFXの二次無効に対し TCZを導入した症
例であるが,7ヶ月間投与した時点で TCZも
十分な効果がないまま二次無効となり,ETN
に変更となった。最終観察時点である2012年4
月には7例中5例で TCZが継続使用されてい
た。そのうち2年以上継続使用されていたもの
は4例(これを TCZ群とする)であった。
一方,TNF阻害療法を施行した患者は ETN
4例,IFX1例であった。先述の1例(#4)は
IFX投与から23ヶ月目で二次無効となり,
TCZに変更するも再び二次無効となり,最終的
に ETNに変更となった。本例はその後も中等
度疾患活動性が持続している。ETN4例中1例
(♯10)は右膝人工関節置換術後に同部位の遅発
感染症を反復し,13ヶ月目で投与中止を余儀な
くされた。本例は ETN中止から5年後に腎不
全で死亡した。結局2012年4月の調査時点にお
いて ETN投与4例中3例(これを ETN群と
する)で,同薬剤が2年以上継続投与されてい
た。
図1 生物学的製剤使用例の転帰
TCZ=tocilizumab,IFX=infliximab,ETN=etaner-cept
AAアミロイドーシス合併関節リウマチに対する生物学的製剤の有用性に関する検討:TNFα阻害療法と抗 IL-6受容体抗体療法の比較
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2)tocilizumab2年以上継続投与群(TCZ群)と
etanercept2年以上継続投与群(ETN群)の比
較検討
調査時点で2年以上ヒト化抗ヒト IL-6受容
体モノクローナル抗体である TCZを継続投与
されていた TCZ群(4例)と同じく完全ヒト型
可溶性 TNFα受容体結合蛋白製剤 ETNを継
続投与されていた ETN群(3例)の臨床像を比
較検討した結果は,表2に示すごとく RA平均
罹病年数(TCZ群24.75±8.38年 vs ETN群
25.50±8.26年),アミロイド平均罹病年数
(T C Z 群 88.75±49.30ヶ月 v s E T N 群
76.67±18.15ヶ月),各生物学的製剤使用開始時
DAS28-ESR(TCZ群5.125±1.229vs ETN群
5.727±0.934),2012年4月の調査時点におけ
る生物学的製剤投与期間(TCZ群35.50±
5.45ヶ月 vs ETN群48.67±21.22ヶ月)には統
計学的有意差は認めなかった。
TCZ群全例および ETN群3例中2例で経
過観察期間を通じて血清 SAA<10μg/mLを
維持し得た。図2に示したとおり,TCZ群では
投与開始から6ヶ月以後も全例で血清 SAA<
10μg/mLを安定的に維持しえた。ETN群では
good responseを示さなかった1例(#4)で血清
SAA<10μg/mLに至らず,2年目にはむしろ
上昇傾向を示した。
予測 GFR(mL/min/1.7)(図3)について,
生物学的製剤の投与前と投与から24か月経過
した時点で比較検討してみると,TCZ群4例中
2例,ETN群3例中1例でわずかに改善して
いたが,両群とも残りの2例では悪化していた。
血清クレアチニンの推移(図4)をみると,生
物学的製剤を何らかの理由で中止した群(A)
では投与の中止から半年~1年くらいの経過で
その値が上昇してくることが示された。一方,
生物学的製剤を継続投与している群(B)では
血清クレアチニン値の著しい上昇は認められな
かった。また生物学的製剤投与開始時点の血清
クレアチニン値の平均値を比較すると,(B)群
(0.786±0.257mg/mL)が(A)群(1.237±
0.040mg/mL)に比して有意に低値であった。
治療に対する反応性を2年間の DAS28-ESR
の推移で検討した結果,TCZ群4例中3例,
ETN群3例中2例で good responseであっ
た。また図5に示したとおり,TCZ群では2年
後も全例寛解,ETN群では2年後の時点で寛
解1例,低疾患活動性1例,高疾患活動性1例
という結果であり,疾患活動性のコントロール
に関しては1例を除き満足できる結果であっ
た。
表2 TCZ群と ETN群の比較
Bio=biologics,TCZ=tocilizumab,ETN=etanercept
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北勤医誌第34巻 2012年12月
3)胃粘膜AA蛋白定量の推移
前庭部大彎から採取した胃粘膜組織のAA
蛋白定量(SAA/AAng/mg)の推移を検討した
結果(図6),TCZ群では全例1年後に減少,2
年後に半数の例で軽度増加傾向を示した。一方,
ETN群では生物学的製剤の投与にも関わらず
AA蛋白定量値は増加傾向を示すものが1例存
在した。なお症例#4では(投与前にAA蛋白定
量の測定を実施していなかったが)ETN投与
開始から2年目の時点で依然として高値を呈し
ていた。
4)抗AA抗体染色による沈着面積の検討
抗AA抗体による染色画像をデジタル化処
理して組織切片全体に対する抗AA抗体染色
陽性部分の面積比を算出し,その推移を検討し
た結果(図7),TCZ群では経時的に減少する傾
向を示す症例が多く,ETN群では不変ないし
図3 予測 GFRの推移
※網かけ部分は血清 SSA≦10μg/mL
図2 血清 SAAの推移
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AAアミロイドーシス合併関節リウマチに対する生物学的製剤の有用性に関する検討:TNFα阻害療法と抗 IL-6受容体抗体療法の比較
図4 血清クレアチニンの推移
※網かけ部分は DAS28-ESR<2.6
図5 DAS28-ESRの推移
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北勤医誌第34巻 2012年12月
1年後に若干の減少を認めたものの2年後には
不変という結果であった。
5)BF227染色によるAAアミロイド蛋白沈着
度の検討
3ケ所(前庭部小彎,同前壁,同後壁)から
採取した胃粘膜生検組織とβシート構造を認
識する BF227プローべを反応させ,各生検組織
のAAアミロイド蛋白の沈着度を蛍光顕微鏡
下に半定量的に評価し,3ヶ所の点数の総和の
推移を検討した。図8に示したように,生物学
的製剤投与2年後では投与前と比較して,TCZ
図6 胃粘膜組織のAA蛋白定量の推移
図7 抗AA抗体染色陽性部分の面積比の推移
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AAアミロイドーシス合併関節リウマチに対する生物学的製剤の有用性に関する検討:TNFα阻害療法と抗 IL-6受容体抗体療法の比較
群の3例,ETN群の1例で減少していた。図9
に代表的な BF227染色によるAAアミロイド
蛋白の染色像の推移を示した。
6)胃粘膜組織におけるAAアミロイド蛋白沈
着度の推移に関する総合判定(表3)
胃粘膜組織のAA蛋白定量,生検組織におけ
る抗AA抗体染色陽性部分の面積比,BF227染
色によるAAアミロイド蛋白沈着度について,
それぞれ2年経過した後に改善+1点,不変±
※生検部位3点の沈着度総点数(各生検部位ごとの点数:0=アミロイド沈着なし,1=一部に限局または軽度沈着,2=やや多い,3=広範囲かつ多量)
図8 BF227によるAAアミロイド蛋白沈着度の推移
※数字はAAアミロイド蛋白沈着度の総和を示す
図9 ETN投与例と TCZ投与例のAAアミロイド蛋白沈着像(BF227染色)
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北勤医誌第34巻 2012年12月
0点,悪化-1点とし,三法の合計点数を算出
し,総合的に胃粘膜生検組織におけるAAアミ
ロイド蛋白沈着度の推移を評価した。その結果,
TCZ群は3例で改善,1例で悪化,ETN群は
1例で不変,1例で悪化という結果であった。
TCZ群で悪化という結果となった1例は経過
中に気道感染を反復し,計画通りに TCZ投与
が出来なかった症例であり,最終的に2012年5
月時点で本人の希望もあり,投与を中止した。
その後,徐々に腎不全が悪化し,血液透析導入
の予定である。
4.考 察
近年,RAに続発するAAアミロイドーシス
に対し,生物学的製剤の有効性を示唆する報
告 が蓄積されてきている。しかし,治療
効果発現のメカニズムやAAアミロイドーシ
ス合併 RAに最も有効な治療戦略が明らかに
なったと言える段階ではない。
TNFαが⑴AAアミロイド蛋白の前駆物質
である SAA産生を誘導し ,⑵アミロイド蛋
白沈着を促進し ,⑶アミロイド蛋白と結合し
て細胞機能障害をもたらすとされる RAGE
(Receptor for advanced glycation end prod-
ucts)の発現にも関与する との報告があり,
TNF阻害療法は RAに続発するAAアミロイ
ドーシスに有効である可能性がある。しかし,
先に報告した自験例 を含め,TNF阻害療法
で年余にわたり RA疾患活動性および血清
SAA値や尿所見が改善していても,胃粘膜生検
組織におけるAAアミロイド蛋白の2年間の
推移では改善が認められなかった。すなわち
TNF阻害療法は組織に沈着したAAアミロイ
ド蛋白のクリアランスという点で必ずしも十分
とはいえない可能性がある。
近年肝細胞由来のHepG2細胞を用いた
SAAmRNAの発現誘導実験の結果,IL-1また
は TNFα刺激に加え,IL-6作用が加わること
でその発現が相乗的に増強するということが明
らかにされ ,AAアミロイド蛋白の前駆体で
ある SAA産生をコントロールする上で IL-6
産生の抑制ならびに STAT3を中心とした IL-
6シグナル伝達に関わる分子制御が重要であ
る と考えられるようになってきた。より効果
的に SAAの供給を抑制することで「動的平衡
状態にある組織のアミロイド蛋白 」を減らせ
る可能性があり,IL-6およびそのシグナル伝達
制御はAAアミロイドーシスの治療にとって
戦略的課題であるといえよう。
Gillmoreらの報告 でも血清 SAAの制御
により SAP(血清アミロイドP)シンチで検討
したAAアミロイド蛋白の沈着量が減少した
とされ,本研究の結果から,現時点ではより確
実に SAAの制御を成し遂げられる TCZを
※1 ○:改善+1点,△:不変±0点,●:悪化-1点※2 総合判定は,◎:改善(≧+1),●:悪化(≦-1),△:改善とは言えない
(-1~+1)
表3 胃粘膜組織におけるAAアミロイド沈着推移に関する総合評価
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AAアミロイドーシス合併関節リウマチに対する生物学的製剤の有用性に関する検討:TNFα阻害療法と抗 IL-6受容体抗体療法の比較
AAアミロイドーシス合併 RAの第一選択薬と
して使用することが望ましい。しかし実臨床の
場面では感染症の併発や既に重篤な臓器障害を
合併している場合も多く,生物学的製剤の投与
が困難な場合も少なくない。したがってAAア
ミロイドーシスの早期診断に努め,より早い段
階で生物学的製剤を導入し,全治療期間を通じ
て血清 SAA濃度を正常に保つことを目標に治
療すべきである。
われわれの研究結果では既に組織に沈着した
AAアミロイド蛋白のクリアランスについても
抗 IL-6受容体抗体療法の方が TNF阻害療法
より優れている可能性が示された。その理由に
ついては生体側の要因によるものなのか,アミ
ロイド線維のクリアランスに関わる細胞や難溶
化に関わる分子に対し TCZが何らかの影響を
与えたためなのかは不明であり,今後の研究が
必要である。
一方,今回のわれわれの結果で明らかなよう
に,組織に沈着した難溶性のAAアミロイド蛋
白は抗 IL-6受容体抗体を2年以上投与しても
完全に取り除くことはできなかった。既に組織
に沈着したAAアミロイド蛋白をより効果的
に除去する治療法の開発が期待されるところで
ある。現在,アミロイド線維重合に関与するグ
リコサミノグリカンとアミロイド線維の結合を
阻止する低分子化合物 eprodisate の国際治
験が取り組まれているが,さらに沈着したアミ
ロイド線維の断片化やそのクリアランスに関わ
る細胞の機能制御など,より一層研究を推進す
る必要がある。
また本研究の結果では TNF阻害療法および
抗 IL-6受容体抗体療法のいずれもがAAアミ
ロイドーシス合併 RAの臨床経過,とくに腎機
能障害の進行に対し抑制的に作用する可能性が
示された。Gottenburgらの報告 では TNF
阻害療法を施行した4例の RA患者のうち2
例で蛋白尿の減少を認めたものの腎機能障害の
進行を阻止し得なかったとされるが,われわれ
の結果から,腎機能障害の進行を抑制するには,
AAアミロイドーシス合併 RAの早期診断,早
期治療が重要であり,出来るだけ早く生物学的
製剤による治療を開始し,これを継続すること
が肝要であると考えられた。
5.結 語
AAアミロイドーシス合併 RA10例に生物
学的製剤(TCZ7例,ETN4例,IFX1例)を
使用し,その効果を検討した結果,RA疾患活動
性の制御と腎機能障害の進行を抑えるという点
で効果的であることが示された。また2年以上
TCZを継続使用した群(4例)と2年以上
ETNを継続使用した群(3例)の治療成績を比
較検討した結果,血清 SAAの正常化とその維
持が組織学的改善にとって重要であることが示
唆され,TCZ群の方がより良好な経過であっ
た。しかし,いずれの治療でも既に組織に沈着
したAAアミロイド蛋白を完全に除去するに
は至らなかった。現時点では SAAの産生をよ
り効果的に制御できる抗 IL-6受容体抗体が
RAに続発するAAアミロイドーシスの治療に
最も有用であると考えられるが,AAアミロイ
ド蛋白の完全除去にはなお課題が残されてい
る。
謝 辞
本研究に当たり,生検組織のAA蛋白定量に
御協力いただいた自治医科大学 臨床検査医学
山田俊幸先生,抗AA抗体を含む免疫組織染色
に御協力いただいた山口大学病理形態学 河野
裕夫先生,BF227によるアミロイド染色に御協
力いただいた東北大学未来医工学治療開発セン
ター 工藤幸司先生に深謝致します。
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Abstract
Although recent advances in rheumatoid arthritis (RA) treatment strategies have greatly
improved the disease course of RA,AA amyloidosis is a life threatening clinical complication.
Then an effective treatment is desired for active RA complicated with AA amyloidosis.
To evaluate the efficacy of biologics on RA complicated with AA amyloidosis,we administer-
Vol.34 21
AAアミロイドーシス合併関節リウマチに対する生物学的製剤の有用性に関する検討:TNFα阻害療法と抗 IL-6受容体抗体療法の比較
ed one of biologics to 10 patients. Tocilizumab (TCZ),etanercept (ETN),and infliximab (IFX)
were each administered to 7,4 and one cases. After the treatment two years or more,clinical
and histopathological data were compared between TCZ group(4 cases)and ETN group(3 cases).
There was no difference in the administration period as well as the disease duration of RA and
secondary amyloidosis. In TCZ group,serum concentration of SAA was normalized in all cases
and maintained. AA amyloid protein content of gastric mucosal biopsy specimens was decreased
in three of TCZ group patients, but none of ETN group patients. In amyloid staining with
BF-227 or anti-AA antibody,3 cases of TCZ group showed improvement,but none of ETN group.
It suggested that TCZ could not only ameliorate the production of SAA but also might be superior
to remove AA amyloid deposits from the tissue.
In 4cases,each treatment was discontinued because of secondary failure,recurrent infection
and anxiety disorder at injection. Two of them died of renal failure several years later. The
progression of renal dysfunction in RA patients with AA amyloidosis might be delayed by the
treatment of biologics.
Vol.34 22
北勤医誌第34巻 2012年12月