ソーシャルゲームにおける互恵的利他主義に基づく協調行動

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CyberAgent, Inc. ソーシャルゲームにおける 互恵的利他主義に基づく協調行動 株式会社 サイバーエージェント 技術本部 ◯高野雅典, 和田計也, 福田一郎 14/08/20 1 ネットワークが創発する知能研究会 2014

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ネットワークが創発する知能研究会 2014 発表スライド 予稿: http://www.slideshare.net/MasanoriTakano1/jwein-takano-paper #jwein14

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ソーシャルゲームにおける  互恵的利他主義に基づく協調行動

株式会社 サイバーエージェント  技術本部  

◯高野雅典,  和田計也,  福田一郎

14/08/20 1

ネットワークが創発する知能研究会  2014

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協調行動

協調行動とは  行為者がコストを支払って  

他個体に利益を与える行動  人間社会を構成する  

重要な要素  → 多くの研究が存在  

14/08/20 2

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協調行動のパラドックス

協調したら利得が高くなるなんて  自明じゃないの?  

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お互いに協調

お互いに高い利得  

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協調行動のパラドックス

協調したら利得が高くなるなんて  自明じゃないの?  

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でも、相手だけ  協調してくれたら…

自分はもっと高い利得

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協調行動のパラドックス

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高利得

低利得

協調し合ったら集団全体が高利得  でも個人としては協調しないほうが高利得  

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協調行動のパラドックス

しかし、人間は協調し合って社会を構築している  

 

進化の過程で協調し合うためのメカニズムを獲得して

きたはず  14/08/20 6

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協調行動研究とソーシャルゲームのデータ解析

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調査対象は少人数  詳細なデータが取りにくい  

理解が煩雑  

調査対象は大量の個体  詳細なデータが取りやすい  理解がしやすい  

協調行動はヒトの社会性を理解するために重要  したがって多くの理論・実験・調査研究がなされ、  

重要な知見が得られてきた  

数理モデル  シミュレーション

研究室実験

✊ ✋

フィールドワーク  アンケート

※ 他にも動物との比較など

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協調行動研究とソーシャルゲームのデータ解析

8 14/08/21

調査対象は少人数  詳細なデータが取りにくい  

理解が煩雑  

調査対象は大量の個体  詳細なデータが取りやすい  理解がしやすい  

数理モデル  シミュレーション

研究室実験

✊ ✋

フィールドワーク  アンケート

ソーシャルゲームのデータ解析

※ 他にも動物との比較など

協調行動はヒトの社会性を理解するために重要  したがって多くの理論・実験・調査研究がなされ、  

重要な知見が得られてきた  

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協調行動研究とソーシャルゲームのデータ解析

9 14/08/21

調査対象は少人数  詳細なデータが取りにくい  

理解が煩雑  

調査対象は大量の個体  詳細なデータが取りやすい  理解がしやすい  

数理モデル  シミュレーション

研究室実験

✊ ✋

フィールドワーク  アンケート

ソーシャルゲームのデータ解析

※ 他にも動物との比較など

•  数理モデルや研究室実験よりも制約の少ない環境

•  人間行動のデータが詳細に記録可

•  プレイヤーの利益・属性は少数の定量的な値で評価・表現可(ランキングポイントやレベルなど)

•  多数の人間による協調と競合を含む複雑な社会的相互作用

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協調行動研究とソーシャルゲームのデータ解析

10 14/08/21

調査対象は少人数  詳細なデータが取りにくい  

理解が煩雑  

調査対象は大量の個体  詳細なデータが取りやすい  理解がしやすい  

数理モデル  シミュレーション

研究室実験

✊ ✋

フィールドワーク  アンケート

ソーシャルゲームのデータ解析

※ 他にも動物との比較など

実際のヒトの協調行動を

観測・分析するにあたって

都合のいい性質

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協調行動研究とソーシャルゲームのデータ解析

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調査対象は少人数  詳細なデータが取りにくい  

理解が煩雑  

調査対象は大量の個体  詳細なデータが取りやすい  理解がしやすい  

数理モデル  シミュレーション

研究室実験

✊ ✋

フィールドワーク  アンケート

ソーシャルゲームのデータ解析

※ 他にも動物との比較など

先行研究の延長線上に位置づけ可能な性質を利用して  

ヒトの協調行動に関する知見の獲得

協調行動研究の知見のサービスへの応用

をしたい  

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協調の進化を説明する5つのメカニズム

• 血縁選択  (Kin  Selec;on)  • 直接互恵性  (Direct  Reciprocity)  • 間接互恵性 (Indirect  Reciprocity)  • 空間互恵性 (Spa;al  Selec;on)  • マルチレベル選択 (Mul;level  Selec;on)  

12 14/08/20

David  G  Rand  and  Mar;n  A  Nowak.  Human  coopera;on.    Trends  in  cogni;ve  sciences,  Vol.  17,  No.  8,  pp.  413-­‐25,  August  2013.  

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協調の進化を説明する5つのメカニズム

• 血縁選択  (Kin  Selec;on)  • 直接互恵性  (Direct  Reciprocity)  • 間接互恵性 (Indirect  Reciprocity)  • 空間互恵性 (Spa;al  Selec;on)  • マルチレベル選択 (Mul;level  Selec;on)  

13 14/08/20

David  G  Rand  and  Mar;n  A  Nowak.  Human  coopera;on.    Trends  in  cogni;ve  sciences,  Vol.  17,  No.  8,  pp.  413-­‐25,  August  2013.  

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直接互恵性

•  後で見返りが期待できるならば,即座に自分の利益とならなくても,相手に対して協調的に振る舞う

•  一方で見返りが期待できない相手には協調的に振る舞わない

14 14/08/21

•  直接互恵性の実現には、長期的な社会関係と個体識別機能が必要 [長谷川,  2000]  

•  ソーシャルゲームはこの要件を満たす  –  おそらくプレイヤーは互恵関係を築き、協調し合っている  

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アプローチと目的

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1.  ソーシャルゲームにて協調行動とみなせる行動を定義    協調行動の頻度が高い  =  協調傾向にあるとする  

協調的なプレイヤーと非協調的なプレイヤーを分類  

2.  直接互恵性に基づく相互の協調が存在すること、    互恵的プレイヤーの有利さを検証  

互恵的利他主義について分析可能であることの検証  

3.  ソーシャルゲームにおいて互恵関係はどのような    メカニズムによって構築されたのか? を分析  

制約の少ない環境においてヒトはどのように互恵的関係を構築するのか?

目的

アプローチ

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分析対象のソーシャルゲーム

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URL:  hZp://vcard.ameba.jp  期間:  2013/4/5〜2013/4/8  イベント:  たすけて!マイヒーロー  –  お花見編  –  (レイドタイプのイベント)

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対象ゲームの基本的な仕様

14/08/21 17

•  1〜50人で構成されるギルドに所属

•  プレイヤーはポイントを獲得してランキング競争をする

•  協力しあうと色々特典あり  •  ランキング上昇のためには、お互いに協力しあって効率よくポ

イントを稼ぐことが重要

•  「あいさつ」という、いつでもコスト無しで30文字以内のメッセージ

を送ることができるコミュニケーション機能がある

•  活発なギルドだと、あいさつや掲示板機能をつかって戦略

練ったり、今回のイベントの個人的な目標を達成した人とか

が他のメンバーのサポートに回ったり、協力しあっている  1位:  田中(12040pt)

2位:  山田(11010pt)

3位:  菊池(11005pt)

4位:  斎藤(9015pt)

・・・

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焦点を当てるゲーム部分概要  –  レイドイベント

14/08/20 18

①クエスト

プレイヤー

⑤通常x1.5の  ポイント獲得

⑥ランキング競争

同じギルドのメンバーなど

②レイドボスに遭遇   → 攻撃

③救援依頼

④救援(攻撃)

1位:  田中(12040pt)

2位:  山田(11010pt)

3位:  菊池(11005pt)

4位:  斎藤(9015pt)

・・・

ボスを攻撃してポイントを稼ぎランキング上位を目指すイベント

•  与えたダメージに比例してイベントポイント獲得  •  攻撃回数は限られる(or 課金)ので効率のよいイベントポイント稼ぎが重要

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焦点を当てる状況

14/08/20 19

攻撃する 攻撃しない

攻撃する -­‐ 1,  3

攻撃しない 3,  1 0,  0

2人でボスを倒している場合を考えると…

他の誰かが攻撃してくれることを待つ  Snowdrieゲームに似たジレンマを持つ

この状況で攻撃する行動を協調的行動として、プレイヤーの 協調行動 について調査する  利得は有利さ(1円あたりに獲得したイベントポイント)と考える

レイドボスのHPが残り少しの場合

攻撃

HP

遭遇したユーザや  救援を依頼された  ギルドメンバー

「攻撃力  >  残りHP」なので、  「攻撃力 >  ダメージ」。そのため攻撃力より少ないイベントポイントを獲得。

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互恵関係の存在とその効果 一定数以上の相互の協調行動をしている関係の存在を確認

 → 互恵関係は存在していた  イベントポイント獲得における互恵関係を持つことの効果は?

 → イベントポイントに対する互恵関係にある他プレイヤー数の影響を分析

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目的変数:    イベントポイント

課金額 レベル 互恵関係にある他プレイヤー数

>  0

一般化線形モデル(負の二項分布※)

互恵関係にあるプレイヤー数が多いほど同課金額帯、同レベル帯の  プレイヤーよりもイベントポイントを多く獲得  →互恵関係を持てば持つほど有利(高利得)

分析結果

※  一般化線形回帰モデル(負の二項分布)と一般化線形混合モデル(Poisson分布)のAICを比較し小さい方を採用

詳細

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どのようにして互恵関係は構築されたのか?

どのようにして互恵関係は  構築されたのか?  

 

互恵関係構築に関する  社会的相互作用の  

効果を分析

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どのようにして互恵関係は構築されたのか?

22 14/08/21

>  0

>  0

<  0

協調されるほど / コミュニケーションされるほど、協調しやすい → 協調相手を選別して(非協調者を避けて)、    相互に協調したりコミュニケーションとるなどの相互作用によって構築

分析結果

※  一般化線形回帰モデル(負の二項分布)と一般化線形混合モデル(Poisson分布)のAICを比較し小さい方を採用

目的変数:     プレイヤー i  から j  への   協調回数

プレイヤー  j  から  i  への協調回数 プレイヤー  i  から  j  、j  から  i  

へのコミュニケーション回数

プレイヤー  i・j  の所属ギルドのアクティブメンバー数

自分→他者の協調回数に対する 他者→自分の協調回数と相互のコミュニケーションの頻度の影響を分析

一般化線形混合モデル(Poisson分布)※詳細

[Andr  ́e  10]  

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互恵関係の構築  –  シグナリングとしての解釈

•  協調行動  –  相手に利益を与え、自分にはコストがかかる  信頼性の高いシグナル [Andr  ́e  10]  

•  あいさつ(対象ゲームのコミュニケーション機能)  

–  相手にも自分にも利益もコストもほとんどない  信頼性の低いシグナル

「自分はあなたにとって協調者です」というシグナルを相互に送っていたことで、安定的な互恵的な協調関係を構築  

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信頼性の高いシグナルが成立していたにもかかわらず、  信頼性の低いシグナルも成立→ このような低コスト低信頼性のシグナルは、ヒト・霊長類などで観測され    社会関係の構築に重要であることが示唆(視線、うわさ話、毛づくろいなど)  

[Kobayashi  97]  [Dunbar  04]など  

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Win-­‐Winな状況での社会的相互作用

ここで救援(攻撃に参加)することは、  •  救援依頼者は倒すのが大変なボスが倒せてうれしい  •  救援者は1.5倍のポイントが獲得できてうれしい  →  共に利益があるWin-Winな状況

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レイドボスのHPが十分に残っている場合

攻撃

HP

遭遇したユーザや  救援を依頼された  ギルドメンバー

「攻撃力 <  残りHP」なので、  攻撃力  <  ダメージ。そのため攻撃力に応じたイベントポイントを獲得。

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Win-­‐Winな状況での社会的相互作用

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>  0

>  0

<  0

>  0

一般化線形モデル(負の二項分布)※

※  一般化線形回帰モデル(負の二項分布)と一般化線形混合モデル(Poisson分布)のAICを比較し小さい方を採用

協調するほど / コミュニケーションをするほど、Win-Win相互作用をしてもらいやすい →  「誰と相互作用しても得な状況」でも、   非協調的なプレイヤーよりも協調的なプレイヤーを選択(≒非協調的プレイヤーは不利)

目的変数:     プレイヤー i  から  j  への   救援回数

プレイヤーiからjへの協調回数

プレイヤー  i  から  j、j  から  i  へのコミュニケーション回数

プレイヤー  i・j  の所属ギルドのアクティブメンバー数

自分→他者のWin-Win相互作用回数に対する 他者→自分の協調回数と相互のコミュニケーションの頻度の影響を分析

分析結果

詳細

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まとめ

理論的・実験的な先行研究に比べて  制約の少ない環境において、  

ヒトの互恵的利他主義に基づく協調行動を分析

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互恵的利他主義に基づく協調は成立

→ それによって高い利得を獲得  

•  協調行動という高コスト高信頼性のシグナルと  低コスト低信頼性のシグナルによって  互恵関係を構築  

•  協調的なプレイヤーは「誰と相互作用しても得な状

況」でも、非協調的なプレイヤーよりも協調的なプレ

イヤーを選別。懲罰効果の可能性[Rand  11]。