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日獨医報 第50巻 第 1 号 7383 (2005) 73 (73) Past, Present, and Future of Vascular Interventional Radiology Masatoshi Okazaki Summary Interventional radiology is one of the most rapidly expanding radiologic subspecialties. On an almost daily basis, new interventional techniques and pro- cedures are being developed that expand the scope of intervention in the nonsur- gical management of an increasing variety of conditions that previously required major surgical procedures or systemic administration of chemotherapeutic agents. These therapeutic procedures are less invasive than surgical operations with equivalent therapeutic effects. Interventional radiology is changing many thera- peutic approaches as well as the fundamental philosophy of modern medicine. It NICHIDOKU-IHO Vol. 50 No. 1 73–83 (2005) Department of Radiology, Fukuoka University 放射線診療の過去・現在・未来 放射線診療 3-1.血管系IVRの過去・現在・未来 福岡大学医学部 放射線医学教室 岡崎 正敏 thus could be considered a revolution in surgical intervention. These procedures have reduced both the duration of hospital stays and costs of treatment. Interventional radiology can be divided into vascular intervention and non-vascular intervention. Recent advances in angiographic equipment, including micro-catheters, micro-guidewires, micro-coils, balloon catheters for angioplasty, and metallic stents, as well as advances in diagnostic modalities, such as interventional CT, DSA, US, CT, and MRI, have made vascular intervention safe and easy. This paper discusses the past, present, and future of vascular intervention, including embolotherapy, infusion therapy, angioplasty, and intravascular stenting. はじめに 21世紀の医療における重要なキーワードのひとつと して、低侵襲性治療が取り上げられているが、その代表 的治療法としてinterventional radiology(IVR)が存在す 1) IVRとはリアルタイムに画像を見ながら、ほとんどメ スを加えることなく、従来は外科手術でしかできなかっ た診断、治療を施行する「低侵襲的診断治療手技」であ る。すなわち、リアルタイムに画像を観察しながら種々 の診断(経皮的生検、経皮経肝的胆道造影など)および治 療行為を施行する手技を総称したものである。低侵襲で 安価な手技でかつ、手術とほぼ同等もしくは、それ以上 の診断および治療効果が得られる術式である 2) 。本邦で は同治療法はIVRの略称で親しまれているが、実はIVR はいわゆるJapanese Englishであり、外国ではinterven- tional radiologyとフルで呼ぶかIRの略語で呼称されて いる。しかしながら、日本の健康保険の項目にも手術と 同様な位置付けでIVRという名称が使用されている。 IVRは臓器や組織をできるだけ傷つけることなく、体 表から病変部やその近傍まで針、カテーテル、ガイドワ イヤー、穿刺金属などを穿刺、挿入し治療を行うことが

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特 集

日獨医報 第50巻 第 1 号 73–83 (2005) 73(73)

Past, Present, and Future of Vascular Interventional Radiology

Masatoshi Okazaki

SummaryInterventional radiology is one of the most rapidly expanding radiologic

subspecialties. On an almost daily basis, new interventional techniques and pro-

cedures are being developed that expand the scope of intervention in the nonsur-

gical management of an increasing variety of conditions that previously required

major surgical procedures or systemic administration of chemotherapeutic agents.

These therapeutic procedures are less invasive than surgical operations with

equivalent therapeutic effects. Interventional radiology is changing many thera-

peutic approaches as well as the fundamental philosophy of modern medicine. It

NICHIDOKU-IHOVol. 50 No. 1 73–83 (2005)

Department of Radiology,Fukuoka University

放射線診療の過去・現在・未来

放射線診療

3-1.血管系IVRの過去・現在・未来

福岡大学医学部 放射線医学教室

岡崎 正敏

thus could be considered a revolution in surgical intervention. These procedures have reduced both the duration of

hospital stays and costs of treatment.

Interventional radiology can be divided into vascular intervention and non-vascular intervention.

Recent advances in angiographic equipment, including micro-catheters, micro-guidewires, micro-coils, balloon

catheters for angioplasty, and metallic stents, as well as advances in diagnostic modalities, such as interventional

CT, DSA, US, CT, and MRI, have made vascular intervention safe and easy.

This paper discusses the past, present, and future of vascular intervention, including embolotherapy, infusion therapy,

angioplasty, and intravascular stenting.

はじめに

 21世紀の医療における重要なキーワードのひとつと

して、低侵襲性治療が取り上げられているが、その代表

的治療法としてinterventional radiology(IVR)が存在す

る1)。

 IVRとはリアルタイムに画像を見ながら、ほとんどメ

スを加えることなく、従来は外科手術でしかできなかっ

た診断、治療を施行する「低侵襲的診断治療手技」であ

る。すなわち、リアルタイムに画像を観察しながら種々

の診断(経皮的生検、経皮経肝的胆道造影など)および治

療行為を施行する手技を総称したものである。低侵襲で

安価な手技でかつ、手術とほぼ同等もしくは、それ以上

の診断および治療効果が得られる術式である2)。本邦で

は同治療法はIVRの略称で親しまれているが、実はIVR

はいわゆるJapanese Englishであり、外国ではinterven-

tional radiologyとフルで呼ぶかIRの略語で呼称されて

いる。しかしながら、日本の健康保険の項目にも手術と

同様な位置付けでIVRという名称が使用されている。

 IVRは臓器や組織をできるだけ傷つけることなく、体

表から病変部やその近傍まで針、カテーテル、ガイドワ

イヤー、穿刺金属などを穿刺、挿入し治療を行うことが

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種々の異なったIVR施行に際しても応用可能で、IVR適

応範囲は拡大の一途をたどった。IVR関係の学習会とし

ては1982年10月に日本血管造影IVR研究会が発足し、

1995年同学会へと移行し、現在22年を経過したところ

である。IVRの今日の地位向上は、平松京一前総務理

事、打田日出夫前理事長、山田龍作前理事の“IVR御三

家”のブルドーザー的御指導の賜であることは周知の事

実である。御三家をはじめ、日本からの多数の留学生の

指導をしてくださった欧米のIVRistなくして今日の日本

のIVRは存在しないものと考える。

 IVRはこの20数年間、放射線分野のなかで最も進歩、

普及してきた領域である。2004年10月現在、学会員数

も1,829名に増加し、IVRというJapanese Englishが保

険制度の治療法として採用され、なおかつ手術と同等の

治療手技として認定されたことは画期的出来事といえ

る。さらに、IVR学会の指導医試験も 3 回実施され、

412名の指導医が誕生し、各種のIVRワーキンググルー

プも立ち上がりつつある。

血管系IVRの過去・現在・未来

1.血管塞栓術

 Seldinger法3)を用いてカテーテルを血管内に挿入し、

同内腔を塞栓物質で閉塞し、血流を遮断する術式であ

る。塞栓術には ① カテーテル挿入部近傍の血管のみを

閉塞させる方法(金属コイルやデタッチャブルバルーン

などを使用)と ② カテーテル挿入部より末梢側の血管腔

から順次血流にのって閉塞させる方法[ゼラチンスポン

ジ、PVA(ポリビニールアルコールIVALON)微小澱粉

球、無水エタノールなどを使用]が存在する。

 前者 ① では、塞栓部よりも末梢側の血管腔は開存し

ており、塞栓部より末梢側の血管から支配される臓器の

機能は吻合枝や側副血行路経由の血流で温存される可能

性が高い。一方、後者 ② では、塞栓物質は血流にのり

末梢血管腔内に流入するため、治療目的病変部のみなら

ず、周辺臓器も阻血に陥り、機能障害をきたすことも稀

ではない。

 塞栓術は種々の画像診断機器やカテーテル、ガイドワ

イヤーなどの血管造影器具および塞栓物質の進歩によ

り、この10年間で急速に普及してきた。目的血管内へ

カテーテルを挿入することは多くの症例で極めて容易と

なってきている。その一番の原因はマイクロカテーテ

基本である。

 IVRは対象臓器別に血管系IVRと非血管系IVRに大別

される。前者は動・静脈や門脈などの血管内にカテーテ

ルを挿入し治療を行うIVRである。後者は血管以外の臓

器[管腔臓器(消化管、気管、胆管、尿管など)や体表か

ら穿刺して初めて到達できる実質臓器(肺、肝、腎、骨

など)]にカテーテルや穿刺針を挿入して診断・治療を行

う方法である。IVR治療内容別にみると管腔の閉塞術・

拡張術、組織の凝固療法や凍結療法などに大別できる。

本稿では血管系IVRの過去、現在および未来について総

説的に紹介する。

血管系IVRの歴史

 1949年、Seldingerは経皮的な血管造影法を考案し

た3)。このSeldinger法は外科的に血管を露出することな

く、経皮的にカテーテルを血管内に挿入可能な非侵襲的

手技である。本法の一連の操作手技(血管穿刺、ガイド

ワイヤー挿入、ガイドワイヤー誘導下カテーテル挿入、

選択的カテーテル挿入、血管造影)は、その後開発され

た種々のIVRの基本操作手技として引き継がれている。

したがって、Seldinger法はIVRの原点ともいえる術式

である。血管系IVRは1964年、Dotterら4)が閉塞血管を

開通、治療したのがSeldinger法を導入した実質的な臨

床の端緒とされる。その後、経カテーテル的動脈塞栓術

(transcatheter arterial embolization:TAE)による脊髄

動静脈奇形5)や消化管出血6)の治療報告がなされた。

IVRが全世界に強烈なインパクトを与えたのは癌に対す

るTAEの有効な治療結果(腎癌:Lang、1970年7)、肝

癌:Doyonら、1974年8))であった。当時、肝細胞癌

(hepatocellular carcinoma:HCC)は日本の三大悪性腫

瘍のひとつでありながら、何ら有効な治療法もない状態

であった。進行HCCに対する何らかの治療法の開発が

日本人に課せられた重要な課題のひとつであった。

1983年、本邦IVR学会の育ての親の一人である山田龍作

教授(大阪市立大学)がRadiologyにHCCに対する経カテ

ーテル的肝動脈塞栓術(TAE)成績(本邦では1979年に報

告)を発表された9)。この論文は日本人を勇気づけ、本

邦におけるIVR発展、普及の起爆剤となったものと考え

られる。山田論文の治療成績を根拠にHCCに対する

TAE治療法は全国的に普及した。多数例のTAE経験で

培った一連のカテーテル操作技術は、その後開発された

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ル、マイクロガイドワイヤーの進歩にあることは衆目の

一致するところである10)。塞栓術について動脈系、静脈

系別に述べる。

1)TAE

 救急と待期的なTAEが存在するが、前者は主に止血

目的、後者は血流豊富な腫瘍や血管性病変の治療と血流

変更術などである。いずれも、治療目的病変の責任動脈

のみを塞栓し、周辺臓器の機能温存を目指してマイクロ

カテーテルを用いた超選択的カテーテル挿入下の塞栓術

が施行されることが多い10–12)(図 1)。IVR-CT導入下の

血管造影は血流支配の同定には有用で、同法導入下の

TAEが頻用されるようになってきている13)。使用する

塞栓物質は個々の全身状態、病態およびカテーテル挿入

部位により異なる。HCCのゼラチンスポンジによる

TAEに慣れ親しんでいるわが国では、他臓器の腫瘍や

出血症例に対してもゼラチンスポンジを使用する傾向が

強い。腎や副腎は無水エタノールを使用する施設が多

い。

(1)腫瘍性病変

 (i)TAEの対象となる悪性腫瘍

 HCC、腎細胞癌、一部の転移性肝癌および肝内胆管

癌、骨軟部腫瘍、副腎悪性腫瘍、膀胱癌などである。

 (ii)その他TAEの対象となる良性腫瘍や良性疾患

 臨床症状を有する子宮筋腫、一側性の副腎腺腫、肝、

腎の血管筋脂肪腫や血管腫など、いずれも血流豊富な腫

瘍である。悪性腫瘍では切除不能で腫瘍壊死を目的とし

たTAE(HCC、腎細胞癌、転移性肝癌)と手術時やバイ

オプシー時の出血量減少を目的としたTAE(骨軟部腫

瘍、膀胱癌)が存在する。

 臓器外に発育した腎や肝の腫瘍(HCC、血管筋脂肪腫

など)では良性疾患でも、腫瘍と周期臓器との摩擦で破

裂する可能性もあり、腫瘍径減少、血流量低下を目的に

TAEが施行されることもある。その他、臓器の機能低

下廃絶を目指した脾腫や多発性�胞腎に対するTAEも

実施されている。

 (iii)HCCに対するTAE論文のエビデンスレベル

 ここで、世界中で最も多数のTAEが施行されている

HCCに対するTAE論文のエビデンスレベルを紹介す

る。

 Evidence-based medicine(EBM)の手法に基づいた効

果的なHCCの診断・治療法を体系化するために肝癌診

療ガイドラインを作成する班会議(幕内雅敏班長)が

2002年から開始された。

 HCCに対する塞栓療法の定義はEBMの高い論文でも

統一されていない。すなわち、ゼラチンスポンジや

PVAなどの塞栓物質を使用せず、抗癌剤とIODIZED

図 1 超選択的卵黄動脈造影われわれの施設にマイクロカテーテルが導入された1989年時の症例である.メッケル憩室からの出血の超選択的卵黄動脈塞栓術の世界初報告例である.14歳の少年のメッケル憩室からの出血で救急動脈造影がなされた.A 回腸動脈造影:腸管動脈同士の吻合枝を認めない卵黄動脈から造影剤の血管外漏出像が認められる.B 超選択的卵黄動脈造影:マイクロカテーテルを卵黄動脈内に挿入(矢印:カテーテルの先端)し,出血を確認

後ゼラチンスポンジ沫にて塞栓が施行され止血に成功した.止血後,メッケル憩室と回腸の一部が切除されたが,回腸には全く虚血性変化は認めなかった.

A B

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OILのemulsionのみの肝動脈内注入症例を(transcatheter

arterial chemoembolization:TACE)として取り扱って

いる無作為化比較試験(randomized controlled trial:

RCT)論文も存在する現状である14)。HCCに対する

TACE論文は日本から多数報告されている。その内容も

IODIZED OILを肝動脈内に注入するとHCC内に選択的

に貯留することに着目した治療法15)をはじめとして世界

をリードするものが多いが、TACEに関するEBMの高

い論文は認められない。外国のRCT論文のTACE手技な

どについては日本人の報告したcohort論文を参考にして

いるものが大多数である9、11、12)。

 1990年代に進行HCCに対するTACEと対症療法群を

比較したRCT論文が 5 編報告された14、16、17)。いずれも

抗腫瘍効果(腫瘍縮小、AFP低下、門脈腫瘍塞栓出現頻

度低下等)は認めるも、予後向上には何ら寄与しないと

の報告であった。これらのRCT論文のTACE法は選択性

のない、ほぼ全肝に施行されたものであった。定期的に

全肝をTACEすることにより、早期肝不全死した症例が

このような結果をもたらしたものと考えられた18)。

2000年代に入りRCT論文が 2 編報告され、TACEが対

症療法に比し前述の抗腫瘍効果および生存率向上に寄与

すると結論付けている19)。Cammaの 5 編のRCT論文の

meta analysisでもover allの 2 年死亡率は有意にTACE

の方が少ないことを述べている18)。さらにRCTはもう

少しTACEの方法(定期的か否か、カテーテルの選択

性、使用抗癌剤)や腫瘍進展度(腫瘍の数と径等)を統一

して行うべきであると述べている。

(2)動脈性出血

 喀血、消化管出血、腹腔内出血(図 2)、後腹膜出血、

泌尿生殖器出血、血性胆汁、外傷性臓器出血などがTAE

の対象となる。その多くは救急TAEが施行される20)。

 血管外漏出像、仮性動脈瘤、動・静脈短絡像を動脈性

出血の陽性所見とみなす。仮性動脈瘤と血管外漏出像は

表裏一体の像であり、仮性動脈瘤に圧を加えて造影剤や

塞栓物質などを注入すると血管外漏出像となって描出さ

れる(図 3)。

 動・静脈短絡像は動・静脈奇形などの血管病変の際、

認められる所見で大量出血の臨床症状があれば同部から

の出血とみなし処置する。

 動脈性出血に対するTAE報告はほぼ全臓器に及ぶ

が、TAE施行時の留意点を箇条書きで述べる。

 (i) 近年出血部位の同定に高速CTを用いた造影検査が

頻用され、その示現能は極めて良好である。出血症例の

救急検査法としては高速CT検査が第一選択肢であると

の説もある21)。

 (ii) 病態の把握:外傷性出血症例では多臓器傷害の場

合が多々存在する。出血にばかり注意することなく、出

血臓器のみならず他臓器の傷害の有無の把握が救命のた

めには必要である。

 (iii) 比較的血管径の大きな動脈からの出血症例で

は、出血部位(仮性動脈瘤や血管外造影剤の漏出部位)の

末梢側と中枢側に金属コイルを塞栓し止血する。近年は

破裂性動脈瘤、外傷性動脈損傷、動脈-消化管穿孔、動

脈-気管支穿孔などの出血性病変に対してステントグラ

フトによる止血も施行されるようになってきている22)。

末梢血管からの出血ではゼラチンスポンジ混合沫などに

よるTAEが施行されるが、最も吻合枝の少ない大腸な

どへのTAEでは塞栓物質の径の小さなものの注入は控

えるべきである。

 (iv) 出血動脈を 1 本のみと断定してしまわず、出血

が認められる動脈枝との吻合枝の存在を常に考慮すべき

である(膵・十二指腸出血などの血管多重支配)。TAE

で止血できたつもりでも、吻合枝からの血流による出血

が持続することもある。

 (v) 血管形成異常:TAEの適応のある血管性病変とし

て動静脈奇形、動静脈瘻などが存在する。肺動静脈奇

形、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、硬膜動静脈奇形、脊髄動

図 2 肝細胞癌腹腔内出血わずか 2cm大のS8の肝細胞癌破裂による腹腔内出血症例である.腹腔内に漏出している造影剤(矢印)と腫瘍濃染像を認める.S8の枝までカテーテルを挿入しTAEが施行され止血に成功した.

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静脈奇形などである。

2)静脈塞栓術

 静脈系の塞栓術が施行される病態の多くは門脈圧亢進

症に寄因するものである。適応となる疾患は一部の静脈

瘤(胃・食道・腸管静脈瘤、精巣静脈瘤)や肝性脳症など

である。

(1)静脈瘤出血

 門脈圧亢進症による食道・胃静脈瘤が代表的疾患であ

る。その治療法としては内視鏡的硬化療法が有効であ

る。本邦では熟練した内視鏡医が多く、ほとんどの食

道・噴門部の静脈瘤の出血は止血可能である。止血不能

例や難治性食道静脈瘤に対していくつかの経皮的門脈系

閉塞法が存在する。① 経皮経肝的に肝内門脈枝を穿刺

しカテーテルを逆行性に挿入し静脈瘤を塞栓する、経皮

経肝的胃食道静脈瘤閉塞術(percutaneous transhepatic

obliteration of gastroesophageal varices:PTO)23)、②

開腹下回結腸静脈経由で静脈瘤を閉塞する、経回結腸静

脈的胃食道静脈瘤閉塞術(trans-ileocolic vein oblitera-

tion of gastroesophageal varices:TIO)などが施行さ

れていたが、後述するTIPSやB-RTOの普及により、ほ

とんど前 2 法は施行されなくなった。経頸静脈的肝内門

脈静脈短絡術(transjugular intrahepatic portosystemic

shunt:TIPS)とは経頸静脈性にカテーテルを肝静脈に

挿入し、肝内の肝静脈-門脈間にステントを留置し短絡

路を形成する治療法である。Röschが考案した方法24)で

あるが臨床応用は1980年代後半になってからである。

米国に留学した日本の若手医師が本法を持ち帰り25)、

一時は食道静脈瘤および難治性腹水の治療はTIPSしか

ないという雰囲気も蔓延していた。

 本邦のC型肝硬変症例では欧米に比して肝の萎縮が著

明で、TIPS施行時には肝静脈からの門脈穿刺が困難な

ものが多い。これらの対応法としてMatsuiらが考案し

図 3 仮性動脈瘤と造影剤の血管外漏出像A 右肝動脈造影早期相:肝内胆管空腸吻合術後 1

年目の症例である.突然の大量下血で救急動脈造影が施行された.矢印部の右肝動脈に仮性動脈瘤を認める.

B 右肝動脈造影晩期相:造影剤の圧注入にて仮性動脈瘤は破裂し,造影剤は空腸内へと漏出しケルクリング壁が描出されている.このように仮性動脈瘤像と血管外漏出像は表裏一体の像である.

C コイル塞栓術後像:仮性動脈瘤部の遠位側と近位側をコイルにて塞栓し止血に成功した.

A B

C D

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た肝動脈内へのガイドワイヤー留置下の門脈穿刺は、目

標設定に極めて有用な方法26)として本邦では多くの術者

が導入している。

 胃静脈瘤のうち穹窿部に存在するものは前述した

TIPSやEIS(endoscopic injection sclerotherapy:内視

鏡的硬化療法)による治療は困難なものが多い。その理

由は、胃穹窿部は解剖学的に胃の最も背側で同静脈瘤は

巨大なものが多く、しかも胃(脾)、左腎静脈短絡に代表

される流出静脈を有するためである。EISを施行すると

硬化剤が巨大短絡経由で肺に流入する危険性が高い。

 これらの胃穹窿部静脈瘤からの出血に対しては、金川

らが開発したバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術

(balloon occluded retrograde transvenous obliteration:

B-RTO)が威力を発揮する27)。同法は、① 経静脈性にバ

ルーンカテーテルを左腎静脈経由で胃(脾)、左腎短絡路

(拡張した左下副腎静脈が大部分)に挿入し、② バルー

ン閉塞下に逆行性にエタノールアミン・オルレートと造

影剤を混ぜた液状の閉塞物質を注入する方法である。本

法は欧米にはほとんど普及していないが、側副血行路を

熟知していれば極めて安全、確実な治療法である。左下

横隔静脈や左心膜横隔静脈に代表される側副血行路への

エタノールアミン・オルレートの流入防止にはマイクロ

コイルを用いた塞栓術が頻用される(図 4)。

 その他、上部消化管の静脈瘤としては、稀ではある

が、十二指腸静脈瘤や結腸静脈瘤が存在する。

 膵アーケードや胃十二指腸の静脈、胃・小腸・結腸静

脈領域に静脈瘤が発生し、右精巣(卵巣)静脈や右腎被膜

静脈、下大静脈などへ短絡路を有するものである。肝性

脳症をきたす症例が多い。前述したB-RTOの術式が基

本的な治療法である。本術式は日本人が開発した数少な

い血管系IVRのひとつである。前述したPTOやTIOとB-

RTOの混合治療も散見される。

(2)経皮経肝門脈枝塞栓術(percutaneous transhepatic

portal vein embolization:PTPE)

 前述したPTOやTIOの術式を用いて肝内門脈枝をフィ

ブリン糊やアルコールで塞栓し、非塞栓部肝区域を代償

性に肥大させることを目的としている。近年肝切除の術

前治療として頻用されている28)。

 

2.血管内薬剤注入

 病変の存在する血管内にカテーテルを留置し薬剤を注

入するIVRである。動静脈内の血栓を溶解する方法や抗

癌剤などの薬剤を病変部を栄養する動脈内に注入する方

法である。本邦ではAraiら29)の努力により肝腫瘍に対す

る留置カテーテルリザーバーシステムを用いた間欠的動

注化学療法が普及し、国際的にも高い評価を受けてい

図 4 本邦で開発されたIVR(B-RTO):胃穹窿部の静脈瘤からの大量出血症例A 救急バルーン閉塞下・逆行性胃・左下副腎静脈シャントグラフィ:最大径1.2cmの拡張した胃静脈瘤,左下

横隔静脈および心臓のシルエットに沿って走行する左心膜横隔静脈が描出されている.B 左心膜横隔静脈造影:左腕頭静脈に流入する左心膜横隔静脈にバルーンカテーテルを挿入したバルーン閉

塞下造影像である.左下横隔静脈と左心膜横隔静脈を塞栓後,胃・左下副腎静脈短絡路に造影剤を混ぜたエタノールアミン・オルレートでB-RTOが施行され,止血に成功した.

A B

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る。

 悪性腫瘍に対する同法は肝腫瘍のみならず、膵癌、骨

軟部悪性腫瘍および骨盤内悪性腫瘍などに対しても施行

されている。薬剤の目的血管以外への流出を防止すべ

く、種々の血流変更術が必要であり、胃十二指腸動脈や

右胃動脈のTAEが併用される術式である。その他、良

性疾患に対しても重症膵炎に対する蛋白分解酵素阻害剤

の持続動注療法や難治性肝膿瘍に対する抗生物質の肝動

脈内動注などが施行されている。

 

3.血管拡張術

 血管の閉塞部や狭窄部を拡張、形成するIVRは前述し

たようにDotterら4)により提唱された経皮的血管形成術

(percutaneous transluminal angioplasty:PTA)が始ま

りである。同法はcoaxial systemを用いて主として下肢

動脈の狭窄や閉塞の治療に用いられた。Dotteringの名

称が現在も残っているが長期開存率が十分に得られなか

ったため広く普及するには至らなかった。1974年

Grüntzigら30)によって発表されたバルーンカテーテルに

よるバルーン拡張術がその後開発された。このバルーン

PTAカテーテルはかなりの加圧が可能で、下肢動脈のみ

ならず、腎動脈や冠動脈などの動脈系狭窄部を拡張する

ことが可能となり、PTAの主流となるに至った。さらに

本法は動脈のみにとどまらず、上大静脈症候群、Budd-

Chiari症候群、肝部下大静脈、鎖骨下静脈、腕頭静脈閉

塞、腸骨静脈狭窄に伴う急性静脈血栓症などの、血栓を

伴う静脈閉塞に対しても施行されるようになっている。

後述する血栓溶解療法、アテレクトミー、血管内放射線

治療、メタリックステント留置などが併用され、外科的

バイパス手術にPTAが取って代わる治療法になりつつあ

る。

1)血栓溶解療法

 血管閉塞の原因となった血栓(フィブリン)を溶解する

薬剤(プラスミノーゲンアクチベーター:TPA)などをカ

テーテルを用いて血栓内に直接注入することにより効率

よく血栓溶解することが可能である。全身の動静脈の閉

塞症、血栓症に施行される。近年、マスコミで話題のエ

コノミークラスシンドローム(肺塞栓症)の直接的治療の

中心となる療法である。血栓除去、破砕カテーテル、血

栓吸引カテーテルなどのmechanical devicesの併用によ

る積極的治療も試みられている。出血傾向、あるいは出

血源をもつ患者は絶対的禁忌、動脈瘤や動脈解離に起因

する急性動脈閉塞は相対的禁忌である。発症から 6 時間

以内の梗塞の認められない脳塞栓症(脳底動脈では12時

間)での血栓溶解療法、小腸の大量壊死をきたす上腸間

膜動脈血栓症や塞栓症では劇的治療効果を示し救命に寄

与することも多い。

2)経皮的血管形成術(バルーンPTA)

 バルーンPTAとは血管の狭窄、閉塞部にガイドワイヤ

ーを進め、ガイドワイヤーに沿わせてバルーンカテーテ

ルを通過させ、バルーンを膨張させて血管内腔を拡張さ

せる方法である。前述Grüntzigら30)によるバルーンカテ

ーテル開発以降、血管拡張のみならず管腔臓器の拡張

(non-vascular IVR)にも使用されるようになっている。

Grüntzig型のバルーンカテーテルはガイドワイヤーに沿

って進めるため「over the wire」とも呼称され、冠動脈以

外の領域のバルーンPTAのほとんどの症例ではこれを用

いて施行されている。腸骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈な

どの狭窄性病変では、病変長の短い(5cm以下)病変に対

するバルーンPTAの治療成績は極めて良好である。狭窄

の長い病変では他治療法との混合治療がなされることが

多い。この種の血管性病変に対するバルーンPTAの作用

機序については血管壁の外膜を傷つけることなく、アテ

ロームを含む内膜の亀裂、内弾性板の断裂、中膜の部分

的亀裂、中膜および外膜の伸展などを伴う血管壁全体の

伸展、拡張が主な変化とされている。バルーンPTA後の

問題点は術後の再狭窄である。急性期では拡張不充分

(elastic recoil)、慢性期では新生内膜増殖が再狭窄の原

因となる。これらの対応策として、バルーンPTA後にメ

タリックステントを留置する方法が広く普及してきた31)。

生活に支障をきたす重度の間欠性跛行や安静時痛、壊疽

などの虚血症状のある大腿動脈や膝窩動脈以下の慢性末

梢動脈完全閉塞症例には新たな血行再建法として内膜下

血管形成術が注目を浴びている32)。

3)ステント留置術

 血管系IVRにはメタリックステントが使用される31)。

メタリックステントはその拡張方法からバルーン拡張型

ステントと自己拡張型ステントに大別される。メタリッ

クステントは、拡張後の径に比べてデリバリーシステム

の径が著しく小さいため、より低侵襲での挿入が可能で

ある。メタリックステント留置後にはステントのワイヤ

ーが血管内皮内に埋没し、その後、ステントの表面が上

皮に覆われるため血管内異物とはなり難い。理想的メタ

リックステントの条件には、① ステントを正確に目的

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部位に留置できること、② 留置後の機能が長期維持で

きること、③ より低侵襲の細径の留置システムで、画

像による経過観察が容易であること、などが挙げられ

る。しかしこれらすべての条件を満たしているステント

はいまだ存在しない。近年、新しい試みとして、生体内

で吸収される生体吸収型ステント、新生内膜の増殖を防

ぐために免疫抑制剤や抗癌剤などの薬剤をステントにコ

ーティングした薬剤溶出性ステント33)や、放射活性を有

したステントの応用も進んできている。

 ステント留置術の適応病変は前述のバルーンPTAの対

象となる病変群である。血管系ステントの登場により

前述バルーンPTAの安全性と治療成績が著明に向上し

た34)。バルーンPTA後のelastic recoil症例、内膜剥離症

例、および完全閉塞症例は絶対的な適応である34)(図 5)。

動脈系では冠動脈、腎動脈、頸動脈、腸骨動脈、大腿動

脈、膝窩動脈などの狭窄や閉塞、静脈系では大静脈閉塞

(上大静脈症候群、Budd-Chiari症候群)、鎖骨下静脈狭

窄、透析シャント部やその中枢側の静脈狭窄、TIPSな

どが適応となっている。狭窄の硬さや伸展形式を術前、

術中の画像診断や圧較差を十分吟味しステントの種類や

径、長さが選択される。

 禁忌は出血傾向のある患者、抗凝固療法ができない患

者などである。術後合併症や術後管理はバルーンプラス

ティとほぼ同様で、内膜剥離、血管破裂、動脈解離、穿

刺部の血腫や仮性動脈瘤ステントの短縮、移動、ステン

トの急性閉塞、末梢塞栓などが挙げられる。末梢動脈塞

(80)

図 5 血管拡張術(左腸骨動脈閉塞症例)56歳,男性.切除不能膵尾部癌(肝転移,重症糖尿病合併)に対して右大腿動脈よりリザーバー留置下の膵・肝動脈の動注療法施行中の症例である.主訴は左間欠性跛行である.A 術前MIP像:左総腸骨動脈および左内腸骨動脈は造影されない.大腿動脈は左

腰動脈分枝の吻合枝経由で造影されている.閉塞した左腸骨動脈の長さは 8cmで、動脈壁の著明な石灰化像も認められる.

B 大動脈造影(DSA像):左大腿動脈穿刺後,穿刺針から造影を行い動脈閉塞部まで0.035インチラジフォーカスJガイドワイヤーを透視下で挿入した.次いで,7Frのシースを大腿動脈に挿入し,5Frツイストカテーテルを動脈閉塞部近傍まで挿入した.カテーテルを通して0.035インチラジフォーカスJガイドワイヤー

(3mm半径)を先進させ,腹部大動脈内へ穿破させた.ガイドワイヤーを大動脈内に留置下にシースイントロデューサー誘導下にシースを押し進め,次いで5Frカテーテルを大動脈内に挿入し大動脈造影を施行した.左総腸骨動脈は起始部から造影されない.

C PTAバルーンカテーテル留置下DA像:PTAバルーンカテーテル(4cm長,拡張時 4mm半径)を大動脈側へ挿入し,図のように 8mm径にバルーンを拡張させ

(矢印)大動脈側から順次末梢側へと拡張術を行った(12気圧,2 分間を 8 回).D ステント挿入後大動脈造影像:腹部大動脈から左総腸骨動脈に10cm長,4mm

半径のウォールステントを留置した.しかし左総腸骨動脈の大動脈分岐起始部の拡張不良で同部に 2cm長,4mm半径のウォールステントを追加留置した.2 本のステント留置後の大動脈造影である.左腸骨動脈および大腿動脈は明瞭に描出されている.

A B C

D C

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栓予防のため、術後血栓溶解療法や抗血小板療法が施行

される。日本血管造影IVR学会では、透析シャントの狭

窄病変および腸骨動脈や大腿・膝窩動脈などの四肢末梢

動脈閉塞性病変に対するIVRのワーキンググループを立

ち上げ、全国規模でのデータ整理、マニュアル作成、学

習会を行っている。

4)大動脈疾患に対するIVR

 末梢血管では外科的手術と同等あるいは、凌駕するま

でになったIVRであるが、大動脈疾患に対してはこれま

であまり関与する余地はなかった。しかし、1980年代

に登場したバルーンカテーテル、ステントといった末梢

血管用のデバイス30、31)は1990年代に入り、大動脈疾患

の治療にも応用されるようになり、ステントグラフト留

置術の登場により現在では大動脈解離の治療戦略のなか

で確固とした地位を占めるに至っている。残念ながら本

邦では大動脈に正式に使用可能なステントグラフトは存

在しない。ステントグラフトはZステントを人工血管

(ダクロンあるいはPTFE:polytetra-fluoro-ethylene)で

カバーしたものが最も多く使用されている35)。ステント

グラフト留置術は1980年代に動物実験で既に有用性が

確認されていた。臨床例では、ほぼ同時期にParodiらに

て留置術が開始された36)。当初は頻度の最も多い腹部大

動脈瘤が対象とされていたが、その後、胸部大動脈瘤や

急性および慢性大動脈解離症例における有用性も報告さ

れた35、37)。

 最新の無作為比較成績では、腹部大動脈瘤治療の初期

成績は、外科手術よりもステントグラフト成績の方が良

好であるとの報告がなされている38)。大動脈瘤の場合、

ステントグラフト留置術の適応は外科手術と同様に破裂

の予防である。① 紡錘状の真性瘤では径 5~6cmを超え

るもの、② �状の真性瘤の場合はたとえ小さくても適

応あり、③ 仮性の大動脈瘤は見つけ次第治療、などが

適応となる。大動脈解離症例の場合、急性では ① 大動

脈破裂、② 持続する疼痛、③ コントロール不良の高血

圧、④ 上行大動脈の径が 5cm以上のStanford A型を有

する症例は絶対的適応である39)。慢性の解離症例での同

法の適応基準としては ① 下行大動脈径が 5cm以上、②

大動脈分枝の虚血、③ 増大するULP(ul c e r l i k e

projection)などである。一方、同法の禁忌症例として

は ① 大動脈から主要動脈(頸動脈、腕頭動脈、上腸間膜

動脈、腎動脈など)が分枝している、② proximal neck

が90%以上屈曲している、③ 腹部大動脈瘤の遠位端が

両側内腸骨動脈に及んでいる、④ 大動脈内腔に広範囲

にわたり凹凸不整がみられる、⑤ 腸骨動脈が細く蛇行

し、石灰化が高度39)、などである。ステントグラフト留

置術の実際は、全身麻酔、硬膜外麻酔、あるいは局所麻

酔下で行われる。① 通常、大腿動脈を切開して行うた

め、心血管外科医と共同で施行される施設が多い。②

大腿動脈切開前にはヘパリンを100単位/体重kgを投与

しACTが200を超えていることを確認する。通常は大腿

動脈からのアクセスでデリバリーシステムを目的部位ま

で進めることは可能であるが症例によっては困難な場合

もある。左上腕動脈と大腿動脈のプルスルー法によるガ

イドワイヤー留置が頻用される。③ Amplatz型ガイドワ

イヤーに沿わせてシースを動脈側の頭側まで挿入し、前

述のステント留置法と同様に大動脈に留置する。ステン

トグラフト留置術中の問題点および留意点を以下箇条書

きに述べる39)。① 現在、本邦で使用されているZステン

ト製のステントグラフトは極端な屈曲には対応できな

い。② ステントグラフトの型やサイズ決定は本治療法

の成功を左右する最大のポイントである。通常は病変の

近位、遠位径の10~20%大きめのサイズを採用する。

術前、術中の画像診断で大動脈瘤の位置、形状を三次元

的に把握するのみならず、通常血管径、主要分枝との距

離を計測してステントグラフトは作製されるべきであ

る。③ 大動脈解離症例ではワイヤーやカテーテルが常

に真腔にあることを確認しながら一連の手技を行う。④

本治療法のアキレス腱といわれる術後のエンドリークは

5 型に分類されている。エンドリークとはグラフトの外

で瘤内に残存する血流と定義されているものである。な

かでもI型、密着部からのリークとIII型、人工血管の破

綻は可及的速やかな再治療が必要である。⑤ 本治療中

2 番目に多い合併症としては大径のシースを挿入するこ

とによって起こる大腿動脈、腸骨動脈の損傷である。⑥

そ の 他 の 合 併 症 と し て は 胸 部 大 動 脈 瘤 治 療 時

Adamkiewicz動脈を分枝する肋間動脈閉塞に伴う脊髄

虚血による対麻痺、などがある34、39)。

5)その他

 血管系IVRはそのほかにも多数存在する。誌面の都合

で割愛させていただくが、思いつくまま術式の一部を列

挙させていただく。

 ① 肺動脈血栓症に対する下大静脈フィルター留置

術、② 悪性腫瘍(肺、肝、骨盤内)に対するone shot動

注療法、③ 血管内異物除去術、④ 男性生殖器に対する

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IVR(不妊症、インポテンス)、⑤ 肝移植後血管合併症

などに対するIVRなどである。

さいごに

 IVRはさまざまな優れた利点を有するが、唯一欠点と

いえるのはX線被曝である。

 IVRの進歩とともに、従来は要求されなかったレベル

の治療が施行されるようになり、術者、被験者のX線被

曝量も増加し、問題となってきている40)。被曝線量の低

減のために ① IVRistは放射線防御に関する十分な知識

をもち、患者はもちろん、術者、スタッフの被曝を常に

意識してIVRを行う。② 放射線技師によるX線機器の整

備と透視および撮影時の線量管理を行う。この 2 項を遵

守することが必須である。

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