平成29年度全国剣道指導者研修会 -...

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平成 29 年度全国剣道指導者研修会関東ブロック (主催=日本武道館、全日本剣道連盟、全日本学 校剣道連盟、主管=栃木県学校剣道連盟)は 11 月 11・12 日の 2 日間、栃木県小山市の小山グランド ホテル及び白鷗大学体育館で、中学校保健体育科教 員 38 名を含む 79 名が参加して行われた。本事業 は平成 24 年度から完全実施された中学校保健体育 科における武道授業の充実に向けて、剣道の授業が 効果的に展開されるよう、全国 9 ブロックのうち、 毎年 5 ブロックで開催されている。 ■ 1 日目(11 月 11 日) 開講式では、はじめに石井政利日本武道館振興部 振興課主任が挨拶に立った。 「平成 24 年度から完全実施された武道必修化は 6 年目を迎え、これからいよいよ内容が問われる時期 に入った。安全で楽しく効果の上がる授業を展開す るため、研修を受け、剣道の楽しさ、奥深さを生徒 に伝えていただきたい。また、日本武道協議会設立 40 周年を記念して刊行した『中学校武道必修指導 書』をお配りしたので、現場でご活用いただきたい」 続いて網代忠宏全日本剣道連盟常任理事が挨拶。 「大変盛りだくさんの内容と過密なスケジュールの 中で研修をしていただくが、2 日間精力的に研修に 臨み、内容を理解して、現場に活かしていただけれ ばありがたい。日本全国の学校に剣道を展開してい ただくべく、普及方々努めていきたい。2 日間勉強 した内容を参加していない方にも伝えていただき、 子どもたちの教育にあたっていただければと思う」 開講式に続いて、中学校保健体育科における武道 の必修について、山田博子講師が教育基本法の改正 から学習指導要領の武道の取扱などを解説した。ま た、参加者のうち、中学校保健体育科教員(39 名) に対し、授業で選択している武道を挙手形式でア ンケートしたところ、剣道が 20 名程度、柔道が 15 名程度であった。最後に新学習指導要領の紹介を行 ったが、評価については基準が出ていないため、現 行の観点で行うことが示された。 続いて、百鬼史訓講師が安全指導について、過去 に起きた具体的な剣道事故の事例を上げながら講義 した。用具の管理については、竹刀の構造を解説し、 その上で防具、竹刀の確認するポイントを示した。 次に花澤博夫講師が体罰・暴力によらない剣道指 導について講義した。全員が校内研修で承知の内容 であろうとしながらも改めて体罰禁止の法令根拠や 文部科学省の通知などを確認した。また、事例とし てベテラン教員に多く見られることも紹介された。 その後、内海直之那須塩原市立東那須野中学校教 諭による剣道授業実践発表が行われた。 授業では剣道授業の前に剣道に対するイメージを アンケートを行い、否定的なイメージが強かったた め、楽しい授業を意識し、生徒の理解度を上げるた めに用具の工夫を行った。また、礼儀正しさやかっ こいいというイメージに合わせ、稽古着袴の装着を 実施した。特に楽しい授業の工夫として、「パート ナーを探せ」や「手ぬぐい奪取」などを挙げた。さ らに雰囲気を出すために合図を笛ではなく、太鼓や 拍子木を使用した。用具の工夫では竹刀の柄に印を 書き込んだり、居合刀を振らせて、竹刀はその代わ りであることを意識させた。簡易試合を行うために 300 円程度で購入できるソフト剣を用い、痛くない よう工夫した。授業後のアンケートでは 95% の生 徒が楽しいと感じる結果が出た。 午後は会場を白鷗大学体育館に移り、はじめに軽 米満世講師による剣道授業における楽しい動機付け が行われた。導入に使う教材として、武士や鎧、刀 剣の話、剣道の歴史、特性などが紹介された。続いて、 山神眞一講師によるアイスブレーキングでは、「剣 道じゃんけん」や「手ぬぐいゲーム」、「パートナー を探せ」など剣道の動きや用語が自然に身につく簡 単な動作を紹介された。次に山田講師により、新聞 紙切り、ボール打ちが 4 人 1 組で実践された。授 業では生徒たちは初めて竹刀を持つことになるので、 周囲の安全を必ず確認してから竹刀を振らせるよう 注意された。最後に軽米講師より、自然体、発声の 仕方、打突部位、踏み込み足、手刀による面、小手、 胴の打ち方、また、その打たせ方など基本動作の総 合的な指導がなされた。この内容は一度教えたら、 毎時間準備運動にも使えるとの紹介があった。 ここからは木刀がある場合の授業例の紹介。はじ めに宮原昇治講師より礼法の解説がなされた。日本 人は心が豊かであり、自分のことよりも他人のこと を思いやり、そういった心が礼につながっていると した。また、立ち方や座り方、座礼、木刀の置き方、 木刀の部位の名称などが丁寧に解説された。さらに、 木刀がない場合に代用できるペットボトル刀、新聞 刀などが紹介された。仮屋達彦講師からは木刀によ る剣道基本技稽古法のうち基本 1 〜 5 が指導され た。次に網代講師が木刀による剣道基本技稽古法を 授業で一斉指導するときの指導法を展開した。 休憩を挟んで 8 つのグループにわかれ、木刀によ る剣道基本技稽古法におけるそれぞれの課題を話し 合い、教材として取り入れるためにはどうしたらよ いのかを実技を交えながら話し合った。代表して 3 班がそれぞれ、払い方の段階的指導法、手刀による 基本打突の練習法、面抜き胴の合気法を発表した。 最後はグループのまま、剣道授業の現状と課題に ついて、研究協議がなされ、班ごとに発表を行った。 ■ 2 日目(11 月 12 日) はじめに竹刀がある場合の授業例として、宮原講 師が竹刀の握り方や面、小手、胴の打ち方、打たせ 方、踏み込んでの打突を指導した。続いて、佐藤義 則講師により、アメリカ民謡『ネリーブライ』に乗 せて剣道の動きを行うリズム剣道を指導した。また、 選曲の例として『CHA - CHA - CHA』や『365 日の 紙飛行機』なども合わせて紹介された。加えて、生 徒のやる気を引き出すために生徒自身が持ち寄った 曲を使うことも紹介された。 休憩を挟んで、仮屋講師が防具の着装法を紹介し た。胴紐を見えないところで結ぶのは難しいので、 体の前で結ぶ方法や面の下につける手ぬぐいを折り 紙の兜のように折って頭にかぶる方法が紹介された。 続いて、花澤講師より基本の打ちの段階的指導法、 小手面、面胴の連続技の指導法が紹介された。次に 山田講師によりごく簡単な試合が紹介された。その 中で気剣体の一致の判定について、それぞれの要素 の判断基準を明確にすることが大事であるとした。 山神講師より胴打ちの段階的指導法から、面抜き胴、 引き胴の指導が行われた。 研修の最後に軽米講師より、剣道授業における評 価の仕方についての講義が行われた。内容では新学 習指導要領の改訂点にも触れたが、強調されたのは 指導と評価の一体化であり、教員が指導した内容を 評価するのであって、生徒個人の資質や能力を評価 するものではないとのことであった。 閉講式では軽米講師が講評を、山下裕二栃木市立 栃木東中学校教諭が講師に対する謝辞を、それぞれ 述べて閉会となった。 平成 29 年度全国剣道指導者研修会 (関東ブロック) 新聞紙切りの体験

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 平成 29 年度全国剣道指導者研修会関東ブロック

(主催=日本武道館、全日本剣道連盟、全日本学

校剣道連盟、主管=栃木県学校剣道連盟)は 11 月

11・12 日の 2日間、栃木県小山市の小山グランド

ホテル及び白鷗大学体育館で、中学校保健体育科教

員 38 名を含む 79 名が参加して行われた。本事業

は平成 24 年度から完全実施された中学校保健体育

科における武道授業の充実に向けて、剣道の授業が

効果的に展開されるよう、全国 9ブロックのうち、

毎年 5ブロックで開催されている。

■ 1日目(11 月 11 日)

 開講式では、はじめに石井政利日本武道館振興部

振興課主任が挨拶に立った。

「平成 24 年度から完全実施された武道必修化は 6

年目を迎え、これからいよいよ内容が問われる時期

に入った。安全で楽しく効果の上がる授業を展開す

るため、研修を受け、剣道の楽しさ、奥深さを生徒

に伝えていただきたい。また、日本武道協議会設立

40 周年を記念して刊行した『中学校武道必修指導

書』をお配りしたので、現場でご活用いただきたい」

 続いて網代忠宏全日本剣道連盟常任理事が挨拶。

「大変盛りだくさんの内容と過密なスケジュールの

中で研修をしていただくが、2日間精力的に研修に

臨み、内容を理解して、現場に活かしていただけれ

ばありがたい。日本全国の学校に剣道を展開してい

ただくべく、普及方々努めていきたい。2日間勉強

した内容を参加していない方にも伝えていただき、

子どもたちの教育にあたっていただければと思う」

 開講式に続いて、中学校保健体育科における武道

の必修について、山田博子講師が教育基本法の改正

から学習指導要領の武道の取扱などを解説した。ま

た、参加者のうち、中学校保健体育科教員(39 名)

に対し、授業で選択している武道を挙手形式でア

ンケートしたところ、剣道が 20 名程度、柔道が 15

名程度であった。最後に新学習指導要領の紹介を行

ったが、評価については基準が出ていないため、現

行の観点で行うことが示された。

 続いて、百鬼史訓講師が安全指導について、過去

に起きた具体的な剣道事故の事例を上げながら講義

した。用具の管理については、竹刀の構造を解説し、

その上で防具、竹刀の確認するポイントを示した。

 次に花澤博夫講師が体罰・暴力によらない剣道指

導について講義した。全員が校内研修で承知の内容

であろうとしながらも改めて体罰禁止の法令根拠や

文部科学省の通知などを確認した。また、事例とし

てベテラン教員に多く見られることも紹介された。

 その後、内海直之那須塩原市立東那須野中学校教

諭による剣道授業実践発表が行われた。

 授業では剣道授業の前に剣道に対するイメージを

アンケートを行い、否定的なイメージが強かったた

め、楽しい授業を意識し、生徒の理解度を上げるた

めに用具の工夫を行った。また、礼儀正しさやかっ

こいいというイメージに合わせ、稽古着袴の装着を

実施した。特に楽しい授業の工夫として、「パート

ナーを探せ」や「手ぬぐい奪取」などを挙げた。さ

らに雰囲気を出すために合図を笛ではなく、太鼓や

拍子木を使用した。用具の工夫では竹刀の柄に印を

書き込んだり、居合刀を振らせて、竹刀はその代わ

りであることを意識させた。簡易試合を行うために

300 円程度で購入できるソフト剣を用い、痛くない

よう工夫した。授業後のアンケートでは 95% の生

徒が楽しいと感じる結果が出た。

 午後は会場を白鷗大学体育館に移り、はじめに軽

米満世講師による剣道授業における楽しい動機付け

が行われた。導入に使う教材として、武士や鎧、刀

剣の話、剣道の歴史、特性などが紹介された。続いて、

山神眞一講師によるアイスブレーキングでは、「剣

道じゃんけん」や「手ぬぐいゲーム」、「パートナー

を探せ」など剣道の動きや用語が自然に身につく簡

単な動作を紹介された。次に山田講師により、新聞

紙切り、ボール打ちが 4人 1 組で実践された。授

業では生徒たちは初めて竹刀を持つことになるので、

周囲の安全を必ず確認してから竹刀を振らせるよう

注意された。最後に軽米講師より、自然体、発声の

仕方、打突部位、踏み込み足、手刀による面、小手、

胴の打ち方、また、その打たせ方など基本動作の総

合的な指導がなされた。この内容は一度教えたら、

毎時間準備運動にも使えるとの紹介があった。

 ここからは木刀がある場合の授業例の紹介。はじ

めに宮原昇治講師より礼法の解説がなされた。日本

人は心が豊かであり、自分のことよりも他人のこと

を思いやり、そういった心が礼につながっていると

した。また、立ち方や座り方、座礼、木刀の置き方、

木刀の部位の名称などが丁寧に解説された。さらに、

木刀がない場合に代用できるペットボトル刀、新聞

刀などが紹介された。仮屋達彦講師からは木刀によ

る剣道基本技稽古法のうち基本 1〜 5 が指導され

た。次に網代講師が木刀による剣道基本技稽古法を

授業で一斉指導するときの指導法を展開した。

 休憩を挟んで 8つのグループにわかれ、木刀によ

る剣道基本技稽古法におけるそれぞれの課題を話し

合い、教材として取り入れるためにはどうしたらよ

いのかを実技を交えながら話し合った。代表して 3

班がそれぞれ、払い方の段階的指導法、手刀による

基本打突の練習法、面抜き胴の合気法を発表した。

 最後はグループのまま、剣道授業の現状と課題に

ついて、研究協議がなされ、班ごとに発表を行った。

■ 2日目(11 月 12 日)

 はじめに竹刀がある場合の授業例として、宮原講

師が竹刀の握り方や面、小手、胴の打ち方、打たせ

方、踏み込んでの打突を指導した。続いて、佐藤義

則講師により、アメリカ民謡『ネリーブライ』に乗

せて剣道の動きを行うリズム剣道を指導した。また、

選曲の例として『CHA-CHA-CHA』や『365 日の

紙飛行機』なども合わせて紹介された。加えて、生

徒のやる気を引き出すために生徒自身が持ち寄った

曲を使うことも紹介された。

 休憩を挟んで、仮屋講師が防具の着装法を紹介し

た。胴紐を見えないところで結ぶのは難しいので、

体の前で結ぶ方法や面の下につける手ぬぐいを折り

紙の兜のように折って頭にかぶる方法が紹介された。

 続いて、花澤講師より基本の打ちの段階的指導法、

小手面、面胴の連続技の指導法が紹介された。次に

山田講師によりごく簡単な試合が紹介された。その

中で気剣体の一致の判定について、それぞれの要素

の判断基準を明確にすることが大事であるとした。

山神講師より胴打ちの段階的指導法から、面抜き胴、

引き胴の指導が行われた。

 研修の最後に軽米講師より、剣道授業における評

価の仕方についての講義が行われた。内容では新学

習指導要領の改訂点にも触れたが、強調されたのは

指導と評価の一体化であり、教員が指導した内容を

評価するのであって、生徒個人の資質や能力を評価

するものではないとのことであった。

 閉講式では軽米講師が講評を、山下裕二栃木市立

栃木東中学校教諭が講師に対する謝辞を、それぞれ

述べて閉会となった。

平成 29 年度全国剣道指導者研修会(関東ブロック)

新聞紙切りの体験