平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に...

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平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る 基盤整備(IoTに関する国内外の実態調査) 報告書 2016 3 株式会社 野村総合研究所

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平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る

基盤整備(IoTに関する国内外の実態調査)

報告書

2016 年 3 月

株式会社 野村総合研究所

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§1 検討の背景と目的

ドイツ「インダストリ 4.0」を契機として、わが国でも IOT、ビッグデータ、人工知能

などの領域でのイノベーションの加速が既にはじまっている。

一方、ドイツ「インダストリ 4.0」では、さらに量産型の製造設備産業の産業大でのイ

ノベーションを、モジュール構造の設計と関連する各種の国際標準化施策を強力に推進す

ることで加速しようという動きをみせている。

こうした動きの中で、①量産ノウハウ・技術を形式知化、組織知化、デジタル化し、グ

ローバルな製造拠点のマネジメントをネットワークで行う中枢拠点としての「スマートな

マザー工場」、及び②「スマートなマザー工場(のネットワーク)」を支える基盤を製造プ

ラットフォームサービス(IT+業務支援サービス)として、急成長する新興国市場の製造

業に対し提供するという、いわば「製造プラットフォームサービス事業への展開」などの

注目すべき萌芽事例がある。

インダストリ 4.0 で政策的に推進されている当該産業の各種モジュール構造の設計とモ

ジュール間インタフェイスの国際標準化は、上記①、②のグローバル展開を加速すると予

想される。

一方、アベノミクスにより日本の製造業企業の投資余力は各段に改善したもののわが国

国内での設備投資は十分な拡大に至っていない。わが国製造業が、わが国基幹工場におい

て最先端の設備投資を行い「スマートなマザー工場」の整備を行うことは、マクロ経済に

もインパクトをもたらすものとして重要と考えられる。

このため、「産業政策としてのインダストリ 4.0」が、中長期的にみてわが国製造業の競

争環境へどのようなインパクトを与える可能性があるのか、注意深く分析を行うことが重

要と考えられる。

「産業政策としてのインダストリ 4.0」が、わが国製造業へ与えるインパクトを考える

視点は、大きく下記の4つが考えられる。

① 製造業におけるモジュール化・標準化のインパクト

② 「インダストリ 4.0 における国際標準化」のインパクト

③ グローバルオペレーションを支える「スマートなマザー工場」という視点

④ 中長期的にみた「わが国製造業の国際競争力への影響」

本勉強会では、上記の視点の検討を中心に、必要に応じ幅広い視点から「第4次産業革

命に関連した産業政策のあり方について検討を加えることを目的とする。

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§2 検討の基本的な考え方

第1の視点は、製造業におけるモジュール化・標準化のインパクトという視点である。

PC、半導体、半導体製造装置、エレクトロニクス、液晶パネル等において、産業構造の

モジュール化、モジュール間 IF の標準化が進展することにより製造領域のコモディティ化

が進展する結果、わが国産業の競争力が著しく低下していくケースが続いている。

国際標準やデファクトについての理解が遅れるとイノベーションのスピードで敗れる危

険性が大きい。同様のことが、自動車関連産業や製造設備産業で発生する危険性が全くない

わけではない。このため、製造業(製造設備産業含む)におけるモジュール化・標準化のイ

ンパクトを幅広く捉えて、将来のシナリオを検討しておくことは極めて重要と考えられる。

第2の視点は、「インダストリ 4.0 における国際標準化」のインパクトという視点である。

ドイツでは、インダストリ 4.0 を契機に、中堅・中小の製造設備関連産業(ソフトウェア

企業を含む)のグローバル展開が進展している。

一方、わが国中小企業は系列的な産業構造の下、グローバル市場への直接の事業展開の機

会を逸してしまう危険性もある。

もし、国際標準化活動や今後の産業の姿に対して中堅・中小の製造設備関連産業(ソフト

ウェア企業を含む)の理解や情報格差があるとすれば、政策的な啓蒙活動が必要となる可能

性も高い。

第3の視点は、グローバルオペレーションを支える「スマートなマザー工場」という視点

である。これは、マクロ的な視点とミクロ的な視点とにさらに区分される。

マクロ的な視点では、インダストリ 4.0 により、「ドイツでは、“スマートなマザー工場”

という考え方で、国内製造拠点の重要性が高まり設備投資が進み、一方日本企業では国内で

の設備投資は規模・内容とも縮小したままとなる危険性はないか」という点である。

民間企業の設備投資の意思決定であるので、政策的な誘導は必ずしも適切ではない可能

性もあるが、ドイツ政府が産業政策として「インダストリ 4.0」のビジョンを打ち出した結

果、国内への設備投資の誘因に成功しているとすれば、わが国の政策としても参考になると

考えられる。

ミクロ的な視点では、欧米製造業が「スマートなマザー工場」を機能させることにより、

グローバル展開が加速すると期待される一方、わが国企業が「スマートなマザー工場」の実

現に後れを取ればグローバルな拠点展開の「スピード」で劣ることになる危険性があるので

はないかという視点である。

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第4の視点は、中長期的にみた「わが国製造業の国際競争力への影響」という視点である。

インダストリ 4.0 のインパクトは、広範囲に及び、現段階で確定的な未来が約束されてい

るわけではない。一方、大きな産業構造変化の可能性もあり、各種の構想シナリオが実現し

た場合のインパクトは大きい。民間企業が、正確に認知できた時には、「時すでに遅し」と

なる危険性も大きいことは、PC、液晶、他エレクトロニクス産業等で既に現実となってい

ることである。

このため、たとえ構想段階であったとしても、その萌芽事例などを注意深く観察し、洞察

して、早めに手を打っていくことが必要と考えられる。もちろん、民間企業経営層への情報

提供・発信なども重要と考えられる。民間企業の組織内でも、技術者が認知している世界と

経営者が認知している世界に大きな格差が存在している企業も多いのである。

ここでは、さらに、大きく3つの仮説シナリオについて、検討を進めることが重要と考え

られる。

まず、第1の仮説は、製造設備産業のモジュール化によるオートメーションのレベルの高

度化である。

製造設備産業では、モジュール化が進展すると、オートメーションのレベルが一段階、抽

象化され、別次元でのオープン・イノベーションが加速する。新しい次元における製造設備

産業の競争力は維持できるのか。量産型製造業の競争力は維持できるのか。

事例としては、この 10 数年間、半導体製造装置産業で起きた競争環境の激変というよい

ケースがある。同様のことが、製造設備産業で起こる可能性はないのか、検討が必要である。

第2の仮説は、「製造設備産業におけるプラットフォーマーの台頭」である。

製造設備産業は同時に IOT を活用して現場の各種データをきめ細かくモニタできるよう

になる。この結果、ユーザーである製造業に継続的な製造設備サービスを提供し続ける多数

の多様な製造プラットフォームサービス産業(以下プラットフォーマー)が台頭してくる可

能性が高い。

つまり、製造設備産業の直接の顧客は、ユーザー企業ではなく、プラットフォーマーとな

ってくる可能性もある。この場合、わが国製造設備産業の多くが構成要素を提供するポジシ

ョンに陥る危険性がある。

既に、SIEMENS や BOSCH、KUKA はもちろん、この他ドイツには数 100 社、製造ラ

インのシステム・インテグレーターが存在するといわれている。

日本企業も圧倒的な製品差別化ができていれば問題は小さいが、差異が小さい場合は価

格競争に陥る。また、顧客ニーズの把握に遅れをとる危険性もあると危惧される。

わが国においても、平田機工他、製造ラインのシステム・インテグレーターの雄は存在す

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るが、M&A のリスク等を考慮すると万全とはいえない。また、プラットフォームサービス

を展開するだけの戦略投資を行う動機に乏しい。(現在、オファーが売上の数倍に達してお

り、イノベータ―のジレンマも存在すると考えられる)

第3の仮説は、「量産型製造業のバリューチェインの構造変化による競争環境の変化」

である。

先進国のプラットフォーマーの台頭により、今後、数年~10 年後にわが国製造業の競争

相手は下記の2つとなる危険性があるのではないか。

先進国の製造ノウハウを(製造プラットフォームとして)活用することに成功した新

興国の製造業との製品市場での競争。

製造プラットフォームサービスとして、ROA の高い事業部門を新たに創造し成長を

遂げた先進国製造業(高い株式時価総額になり M&A を仕掛けてくることが予想さ

れる)とのM&A、資本市場での競争。

最後に、これまでの検討を踏まえ、幅広い視点から「第4次産業革命に関連した産業

政策のあり方について検討を加える。具体的な施策は様々なものが考えられるが、こ

こでは、下記の2つを例として提示するにとどめる。

① 新産業育成のための国際標準化政策の推進体制

標準化政策として、新しい産業を育成するために、当該産業のモジュール構造を設

計し、その IF を標準化、さらに国際標準にしていく検討を行うことが効果的である

可能性が高い。

そのためには、標準化活動に参加しいち早く状況を把握することが重要である。ま

た、各種の国際基準認証の仕組みを構築することも重要との指摘がある。

海外諸国における当該産業育成のための標準化施策を行う体制とわが国との体制

の格差を分析し、対応策を検討することが重要と考えられる。

特に、新産業育成のためのモジュール構造の確立とモジュール間 IF の標準化を、

ある民間企業が標準化組織に提案し、提案に基づきコンソーシアムを形成、戦略的に

国際標準化活動を推進するという機能の存在などは重要と考えられる。

② その他(リカレント教育や人材供給の視点)

教育では、各種のレイヤー(社会システム、産業組織機能、機械、デバイス等)に

おいて、モデリング・シミュレーションを行い、産業システムや社会システムを設計

する力のある人材を大量に養成することが必要なのではないか。

ドイツ他海外諸国(アジアを含む)は、このような人材を大量に養成しようとして

いるようである。この点で、わが国の将来に懸念はないのか、具体的にはどのような

施策が考えられるのか、検討に値すると考えられる。

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§2 検討項目

1.ドイツ「インダストリ 4.0」とドイツ企業の動向

1)産業政策としてのインダストリ 4.0

2)標準化活動とその他の産業政策(教育・人材育成他)

3)ドイツ企業の動向(Bosch と Siemens)

2.インダストリ 4.0 関連動向を契機とした、わが国製造業の課題を考える視点

1)視点1:製造業におけるモジュール化・標準化のインパクトという視点

・モジュール化・モジュール間 IFの標準化

・オープン・クローズ戦略の重要性

・事例:PC産業及び半導体製造装置産業他

・仮説:オープン・イノベーションによるイノベーションが加速

:標準についての理解が遅れるとイノベーションのスピードで敗れる

危険性大

2)視点2:「インダストリ 4.0 における国際標準化」のインパクトという視点

・事例: E-PLAN、Bechoff、KEBA、・・・・

・仮説:産業のモジュール構造とモジュール間 IFの国際標準化により、ドイツは

中小事業者もグローバル市場へ展開して可能性が高い。一方、わが国中小企業は系

列的な産業構造の下、グローバル市場への直接の事業展開の機会を逸してしまう

危険性があるのではないか。

3)視点3:グローバルオペレーションを支える「スマートなマザー工場」という視

・仮説(マクロ):「ドイツでは国内製造拠点の重要性が高まり設備投資が進む」一方、

日本企業では国内での設備投資は規模・内容とも縮小する危険性が高いのではない

か。

・例:BOSCH のスマートなマザー工場 他

・事実確認:わが国製造業の国内設備投資の現状と課題

国内設備投資<<海外拠点の設備投資?

最新鋭設備は海外で投資され、国内は償却後資産(設備)を主に活

用?

今後も国内での最新鋭設備投資は進まない危険性大か?

わが国製造業の量産システムを支える IT 装備の現状

形式知化・組織知化・デジタル化は進んでいるのか

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・仮説(ミクロ):「スマートなマザー工場」を機能させることにより欧米製造業のグ

ローバル展開の加速が始まる。一方、わが国企業はグローバルな拠点展開の「スピー

ド」で劣ることになる危険性があるのではないか。

例:自動車、自動車部品工場 他

4)視点4:わが国製造業の国際競争力への影響という視点

・仮説:製造設備産業のモジュール化によるオートメーションのレベルの高度化

・製造設備産業では、モジュール化が進展すると、オートメーションのレベル

が一段階、抽象化され、別次元でのオープン・イノベーションが加速する。

・事例:半導体製造装置産業での競争環境の激変

・同様のことが、製造設備産業で起こる可能性はないのか。

・仮説:製造設備産業におけるプラットフォーマーの台頭

・多数の多様な製造プラットフォームサービス産業(以下プラットフォーマー)

の台頭とわが国製造設備産業のポジションの変化

・仮説:量産型製造業のバリューチェインの構造変化による競争環境の変化

・数年~10年後にわが国製造業の競争相手は下記の2つとなる危険性がある。

○ 先進国の製造ノウハウを(製造プラットフォームとして)活用すること

に成功した新興国の製造業との製品市場での競争。

○ 製造プラットフォームサービスとして、ROA の高い事業部門を新たに

創造し成長を遂げた先進国製造業(高い株式時価総額になり M&A を仕

掛けてくることが予想される)とのM&A、資本市場での競争。

3. 第4次産業革命に関連した産業政策のあり方について

1)新産業育成のための標準化政策の体制)

2)その他(リカレント教育や人材供給の視点)

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§3 検討フロー

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§4 検討方法

1.少人数のコアメンバーとゲストスピーカーによる話題提供と議論

・検討方法は、経済産業省本省の会議室において、一回 2 時間枠で行う。

・ゲストスピーカー(複数同時あり)からの話題提供+議論

・コアメンバー(経済産業省)+木村英紀(東大名誉教授)、藤野直明(野村総研主席

研究員)

・この他学識経験者の招聘も適宜検討する。

・12 月 25 日 オープン&クローズ戦略(小川紘一教授)

・1月~3月 数回~10 回 程度

・金曜日 基本 早朝 08:00~10:00 を想定

2.ゲストスピーカー候補(下記のうち数社を想定:赤字は優先企業)

ドイツ企業/米国企業

ドイツ大手企業

Siemens、Bosch、KUKA、E-Plan、ABB、BASF

フラウンフォーファー研究所他

米国大手企業

マイクロソフト、Rockwell、GE

標準化機関:日本規格化協会

わが国企業 ①生産設備提供企業

グループ1:三菱電機、安川電機、ファナック、森精機、アマダ

グループ 2:オムロン、Azbil、横河電機、村田機械、平田機工他

わが国企業 ②自動車関連産業

デンソー/HONDA/日産/トヨタ自動車/

カルソニックカンセイ、日立オートモーティブ、日本精工他

わが国企業 ③これまでの研究経緯他

IMS(木村文彦/吉川弘之他)

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(参考資料) 検討項目とゲスト・スピーカーとの関係

検討項目とヒアリング対象との関係

海外企業 わが国企業  その他

SIEMENS / Bosch / KUKA/E-Plan

①製造設備提供企業(G1:ジャイアント企業)

②製造設備提供企業(G:国際標準活用企業)オムロンAM/・・・他

③自動車関連製造業(DENSO/カルソニック/日立AM・・)

学識経験者

1.ドイツ「インダストリ4.0」とドイツ企業の動向 Q1. インダストリ4.0の政策内容Q2. 企業としての事業展開戦略の方向

Q.脅威や懸念があるのか?Q.事業機会、チャンスはどこにあると考えているのか?

  ①IMSプロジェクト (木村文彦教授)②オープン・クローズ戦略(小川紘一教授)

2.インダストリ4.0関連動向を契機とした、わが国製造

業の課題を考える視点

1)視点1:製造業におけるモジュール化・標準化のイン

パクトという視点Q.脅威や懸念があるのか? ・ 製造業におけるモジュール

化・IF標準化のインパクト(小川教授)

・モジュール化・モジュール間IFの標準化 Q.事業機会、チャンスはどこにあると考えているのか?

・事例:PC産業及び半導体製造装置産業他

・オープン・クローズ戦略の重要性

2)視点2:「インダストリ4.0における国際標準化」の

インパクトという視点

・事例: E-PLAN、Bechoff、KEBA、・・・・ E-PLAN他のグローバル展開動向

Q.脅威や懸念があるのか?Q.事業機会、チャンスはどこにあると考えているのか?

Q.事業機会をどう捉えているのか?Q.ボトルネックがあるとすれば、それは何か?

Q.海外での製造設備調達の現状と今後のシナリオは?

IMSプロジェクト (木村文彦教授)

3)視点3:グローバルオペレーションを支える「スマー

トなマザー工場」という視点

① マクロな視点 Q.スマートなマザー工場の背景と今後?

Q.ユーザーの設備投資動向をどのよう に想定しているのか?

  Q.スマートなマザー工場としての日本拠点の可能性はあるのか?

② ミクロな視点 Q.海外拠点展開の現状と課題、特に展開スピードについて

 

4)視点4:わが国製造業の国際競争力への影響という視

・仮説:製造設備産業のモジュール化によるオートメーションのレベルの高度化

Q.脅威や懸念があるのか?Q.事業機会、チャンスはどこにあると考えているのか?

 

・仮説:製造設備産業におけるプラットフォーマーの台頭       ・仮説:量産型製造業のバリューチェインの構造変化による競争環境の変化

3.第4次産業革命に関連した産業政策のあり方について

Q.国際的な標準化活動を経営戦略にどのように生かそうとしているのか?Q.政策的な支援の必要性はないのか?

Q.政策的な対応として、何が必要なのか?(必要だったのか?)

・新産業育成のための標準化政策の体制)

・その他(リカレント教育や人材供給の視点)

・これまでの類似プロジェクトの経緯と課題

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「第4次産業革命に関連した産業政策のあり方に関する勉強会」のまとめ

■ 勉強会を通じて認識された事実・日本の現状への認識

日本におけるものづくり産業の特徴(メリットとデメリット)

日本のものづくりは、「失われた 20 年」を迎える前までは、強いこだわりに裏打ち

された高品質を支える独自仕様品を、発注元である大手メーカーが要求し、中小の

部品メーカーがそれに応えることで構築された「すり合わせ」型のものづくりであ

った。

日本的な「匠」の概念が製造現場にも根を下ろしており、大手メーカー、中小企業

ともが「カイゼン」を続け、「匠」人材を継続的に育成することで、日本のものづ

くりの品質と競争力は維持されてきた。

しかし、失われた 20 年への突入を機に、「ものづくりの匠」というべき人材と、生

産設備設計・開発のプロセスへの投資を日本国内に残すことが難しくなり、このよ

うな人材とノウハウが国内から流出・消滅しつつあるのが実態である。

大手メーカーと中小部品メーカーの間には、極めて大きな交渉力の差が存在し、メ

ーカーによる「上意下達」の構造があった。そのため、中小部品メーカーは汎用品

化して規模を獲得しに行くことも、提案力を磨きメーカーに対し工程提案を行う

ことも、海外進出により事業規模を拡大することも、いずれも「風土として行いに

くい」状況があった。

一方で、海外(特に欧州・ドイツ)においても、日本と同時期に同様の「生産の海

外流出」が生じていたと思われるが、最終製品(電機・クルマ等)メーカー、部品

メーカー、設備メーカーの関係が比較的フラットであり、それぞれが独立してモジ

ュール化や海外進出、提案能力拡大の努力を重ねてきたと思われる。

また、日本に比べると、大学や研究機関等のアカデミアが企業に近い位置に存在し

ている。例えば、ドクター人材が企業へインターンに赴き、企業における自動化の

プロジェクトを長期支援することで学位を取得したり、エンジニアリングやオー

トメーションといった実学が「学科」として存在し、実業にすぐに活用できる人材

が大量に排出されている、などの実態にも注意すべきである。

ドイツでは、これら全体を統括する役割として Industry4.0 Platform のような産

官学の「国家プロジェクト」が存在しており、大手企業単独の努力では Industry4.0

に対抗することは難しいと考えられる。

海外 Industry4.0 先進企業の状況と、彼らから見た日本のものづくり

勉強会に登壇頂いた外資系企業各社は、従来型の「ものづくり企業」の発想よりも、

むしろ「IT 企業型経営」に近いスピード感と思考方法を身につけつつあるように

思われる。

すなわち、①過度な垂直統合は廃し、競争に寄与しない領域は、他者や標準品を活

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用することで、差別化領域に投資を集中する、②このようなビジネスモデルを他社

に先駆けて実現するために、まずは「テストベッド」的な取り組みを行う、あるい

はそれらの取り組みに積極的に参加する、③IoT 経営のコアとなる「データ」につ

いては、流出を過度に恐れるよりも、活用することで得られるメリットを模索して

いく、などの動きを実現している。いわば、海外のものづくり企業は、Google 等

IT 企業が得意する「Perpetual Beta」、あるいは「Proof of Concept」に対して、

企業大で取り組んでいると言う状況であるといえる。

そのため、彼らから見ると日本企業は「強みは持っているはず」であり、パートナ

ー、あるいは競合として大きな潜在的能力をもってはいるものの、IoT 活用

/Industry4.0 対応への意思決定が遅く、このまま閉じこっていれば将来的には欧米

企業、ひいては欧米企業が提供するノウハウで武装した新興国企業との競争にお

いて厳しい立場に追い込まれる、と見ている。

標準化、モジュール化等、日本におけるデジタルものづくり推進の環境づくり方策

欧米のリーディング企業は、IoT や Industry4.0 の魅力度を高める上で「データの

量」が重要であること、そのためには通信機器/回線は競争領域とすべきではなく、

標準化によりより多くの設備やシステムをつなげるようにしたほうが良いこと、

を十分に理解しており、通信プロトコルや回線仕様などは極めてオープンな標準

企画にしようとしている。

その上で、自社のノウハウを「モジュール」としてブラックボックス化し、自社の

収益につなげるべく、テストベッド等を通じて業界向けのノウハウや成功事例を

作りこもうとしているのが現在の段階である。

ただし、欧米企業も必ずしも一枚岩ではなく、自らの有利な「ものづくり IoT」の

姿を描こうとしている。例えば、デジタルプラットフォーム構築を目論む企業は、

ERP から生産現場まで全ての通信回線を Ethernet 化し、製造設備からも極力多

くのデータを吸い上げられるように極めて大量のデータ項目をRAMI4.0を通じて

標準化しようとしているものの、生産設備メーカーは工場内におけるエッジコン

ピューティングを実現し、自社設備の近い位置に付加価値を残そうとしている。

これらの競争において、工場内ネットワーク(Field Network)と企業内ネットワ

ーク(Enterprise Network)の接点領域は、現在では「分断」が生じているポイン

トとして注目すべきである。

日本においても、企業や業界団体を始めとして、Industry4.0 への対応策を講じて

始めてはいるものの、強力なイニシアティブを取ることが出来る企業や団体が存

在せず、個々の企業が囲い込みのために通信プロトコル等のレベルでプロプライ

エタリな仕様を普及させてきたため、現在の収益規模の喪失の懸念から、グローバ

ルなオープン標準への乗換えや統合・互換化が進みにくいのが現状である。

また、ネットワークを通じて収集されたデータや、その分析結果として得られたノ

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ウハウなどの知的財産が誰に帰属するのか、どこまで利用してよいのかといった

認識についても、国内市場の統一的な見解が存在しないため、日本企業が IoT 化

を進めにくい一因となっている可能性がある。

■ 勉強会からの示唆:今後検討すべき政策等

日本における「テストベッド」の推進

大企業のみでなく、核となる中小企業が参加し、将来は自律的に中小企業が IoT に

よる経営変革を実現できるようなトリガーとなるようなテストベッドを、産官学

の連携により仕立てることが必要ではないか

産官学の密接な連携、ヒトづくりのあり方の変革

現在の日本では、大学における教育は基礎学問分野に傾注しているため、実際の

「ものづくり人材」として育成は、入社後に各企業が自身のコスト負担で行ってい

る現状がある。欧州各国においては、教育課程の一環として実業の中での技術習得

が位置づけられており、企業・学生・教育機関双方にとってメリットを生んでいる。

日本においても同様の産学連携のあり方を模索すべきではないか

また、フラウンフォフォアー研究所に代表されるように、海外の国家研究機関は先

端技術開発のみでなく、技術や標準の普及段階にも積極的に係っているケースが

見受けられる。日本においても、特に中小企業への Industry4.0 対策の促進を促す

手段として同様の取り組みに向けた検討を深めるべきではないか。

ものづくりの技術が日本に残る経営環境づくり・日本流ものづくり IoT の具体化

日本の強みである「すり合わせ」と「カイゼン」を活かしながら IoT や Industry4.0

を活用する日本流ものづくり経営のモデルを構築し、その上で日本国内に積極的

な人材の育成や設備投資が行われる企業経営環境づくりが必要ではないか

標準化・データ活用の促進に向けた活動の強化

日本における IoT 活用・Industy4.0 対策を進めるには、日本にある製造設備(お

よび日系企業の海外工場の設備)が「つながる」ことが必須であり、その促進手段

として通信やミドルウエアの「標準化」については検討を進める必要がある。

どのレイヤーで標準化を推進すべきか、については日本流ものづくり IoT のビジ

ネスモデルとつき合わせた上での詳細な検討が必要だが、日本企業は歴史的にエ

ッジデバイス(生産設備)および PLCといった Automation Pyramidの低位レイ

ヤーに強みを持っており、この領域のネットワーク(Field Network)のあり方に

は影響力を及ぼしうる。これらの領域ではエコシステム形成を優先して標準化を

推進するなどの考え方についても検討を深めるべきではないか。

テストベッドとしての新興国市場の活用

従来の事業資産が多い Brawn Field な国内市場では変革が進みにくいという二律

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背反な状況にある。そのため、Green Field な新興国においてテストベッドを進め

られるよう国間の関係作りを推進するなどの必要があるのではないか。

ものづくり企業の意識変革

具体的な方策は明らかではないが、日本国内における従来の「上意下達」型のもの

づくり企業間の関係性を変革するために、中小企業や生産設備メーカーの経営者

の意識変革を図り、大手企業への提案力強化や海外展開への積極性を養う必要が

あるのではないか。

「専用設備」のメーカーについては業界団体が存在しないためそもそも企業間連

携が極めて弱いなどの実態があり、これらを解消するひとつの考え方として産業

分類の考え方等についても見直しを図る余地があるのではないか。

以上

Page 15: 平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に …平成27年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る 基盤整備(IoTに関する国内外の実態調査)

勉強会開催実績

日時 講演者 講演テーマ第1回 2015年12月21日 NRI 藤野 本勉強会の趣旨と今後の活動について第2回 2015年12月25日 東京大学 小川先生 モジュール化戦略、オープン&クローズ戦略の観点から見たとIndusty4.0と日本の製造業第3回 2016年1月15日 産業総合研究所 標準化戦略の観点から見たとIndusty4.0と日本における標準化の取り組み第4回 2016年1月22日 シーメンス 欧米先進企業のIndustry4.0への取り組み状況 -デジタルプラットフォームの考え方-第5回 2016年1月29日 オムロン IoT時代に向けたオムロンの取組 自社製造現場革新と標準化対応 -高度10mのAutomation革新-第6回 2016年2月5日 マイクロソフト 欧米先進企業のIndustry4.0への取り組み状況 -マルチベンダーソリューションとコンポーネントの考え方-第7回 2016年2月12日 三菱電機 ※NRI不参加第8回 2016年2月19日 KUKA 欧米先進企業のIndustry4.0への取り組み状況 -標準化への取り組みとエッジコンピューティングの考え方-第9回 2016年2月26日 DENSO 小島先生 日本の中小企業でのIoT活用促進のために -諸外国の制度との違いおよび国内工業会での活動事例-第10回 2016年3月4日 FNA/KEBA/E-Plan IoT/Industry4.0関連企業の現状第11回 2016年3月11日 ロックウェル 欧米先進企業のIndustry4.0への取り組み状況 -先進事例における自社の立ち居地の考え方-第12回 2016年3月18日 平田機構 設備エンジニアリング企業から見た日本のものづくりとIndustry4.0の状況第13回 2016年3月25日 日本精工 中小企業から見た日本のものづくりとIndustry4.0の状況