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平成23年度 文化庁購入文化財一覧 【絵画】...平成23年度...
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平成23年度 文化庁購入文化財一覧
【絵画】
能阿弥筆1 絹本墨画淡彩白衣観音図 一幅
けんぽんぼくがたんさいびやくえかんのんず
応仁二年六月七十二歳の款記がある
重要文化財(昭和63年6月6日指定)
室町時代 応仁二年( )146877.7×39.3cm
能阿弥( ~ )は室町幕府八代将軍足利義政の同朋衆として、将軍1397 1471家の唐物コレクションの鑑定や管理を任されていたが、自身も書画や連歌な
どに巧みな芸術家であった。いわゆる阿弥派の祖で、息子芸阿弥、孫の相阿
弥と合わせて三阿弥と称せられる。
本図は水墨を基調とし淡彩を駆使して描かれた白衣観音像で、水辺に突出し
た岩座上の敷物に坐し、傍らには柳枝を挿した水瓶を置く。背後には峻厳な
岩が立ち上がり、数本の竹が生え、周囲を霞が覆っている。
画面右端に墨書銘があり、応仁二年( )六月に息子周健のために描いた1468ことがわかる。この時能阿弥は七十二歳であった。この銘文により能阿弥の
生年が判明することでも重要である。
室町時代水墨画壇を代表する阿弥派の祖能阿弥の数少ない遺例の中でも製作
の時期や事情が判明する基準作としてきわめて貴重である。
2 絹本著色武陵桃源図 池大雅筆 一幅けんぽんちやくしよくぶりようとうげんず いけのたいがひつ
江戸時代
㎝110.7×44.6
本図は、江戸時代の南画の大成者といわれる池大雅
( ) 。 「 」1723 1776~ の作品である 陶淵明の 桃花源記
を題材としており、山に囲まれた村落での理想郷的生
活を、桃花の咲き誇る情景の内に描きだす。点描を多
用する独特の筆致の冴えは重要文化財紙本墨画漁楽図
に比肩し、池大雅の作品全体のなかでも彩色の保存状
態が比較的によく、描写密度の高い点でも希に見る作
品である。
3 紙本淡彩山水図 彭城百川筆 六曲屏風 一隻しほんたんさいさんすいず さかきひやくせんひつ ろつきよくびようぶ
( )江戸時代 寛延三年 1750cm158.0×370.0
、 ( )江戸時代中期の画家で 日本南画の先覚者の一人である彭城百川 ~1697 1752による類例の少ない屏風作品。百川は中国元明時代の様々な文人画風を学び、多
様な作品を残した。本図は元来一双屏風の左隻であったかと思われるが、画面左
側に峻厳な山崖が濃淡を強調した墨で描かれ、右側には川岸に沿って空間が遠方
に退くように拡がる様子が描かれる。画面全体に抑制の利いた淡彩が施され、各
所に人物が描き込まれる。同趣の作品にこの三年前に描かれた山水図屏風(六曲
一双 東京国立博物館 昭和 重文指定)があり、いずれも将来された中国48.6.6画に倣いながら独自の清澄な画面を作り上げている点で評価できる。
4 紙本淡彩雨江独釣図 一休宗純賛 掛幅装 一幅しほんたんさいうこうどくちようず いつきゆうそうじゆんさん かけふくそう
室町時代
89.4×34.0cm
時雨降る水辺の景色、前景の蘆が生える岩陰に一葉の
舟を浮かべ釣り糸を垂れる簑傘姿の人物が描かれる。遠
景は山々が雨に煙り、淡墨淡彩を駆使し瀟洒で湿潤な光
景を描き出す。
絵師の落款は伴わないが、画面上部に室町時代を代表
する大徳寺派の禅僧一休宗純による賛が記される。賛詩
は一休の詩文集『狂雲集』に「秋江独釣」として掲出さ
れるものである。これにより本図の絵師は一休周辺で禅
。 、林画を多く手がけた曽我墨溪と伝承されてきた しかし
本図にみる筆墨は墨渓作品に認める粗荒な要素は少な
く、むしろ如拙・周文の影響を受け継いでいると思われ
る。一休が着賛する水墨画は戯画風のものが多い中、独
特な空間構成を持つ正統的画風を示す作品に一休が着賛
している点で、興味深い作品となっている。
【彫刻】
5 厨子入木造大黒天立像 一軀ず し いりもくぞうだいこくてんりゆうぞう
18 6 9重要文化財(平成 年 月
日指定)
南北朝時代(貞和 ( )3 1347年)像高 ㎝55.7
93.2cm厨子高
東大寺食堂再建のための勧進を行うにあたり造立された大黒天像で、厨子
内壁に貼られた東大寺大勧進照玄による感夢記には造立のいきさつや作者快
兼ならびに彩色と厨子絵を担当した南都絵仏師、観慶の名が記される。後代
に一般的となる短軀で俵にのる像容ながら明確な笑みを浮かべない点に過渡
期的な様相が示され、大黒天図像の展開をうかがう上で重要な作例である。
彫り口は堅実で保存状態も良好であり、また厨子内後壁に描かれた食堂本
尊千手観音像や、伊勢神宮と東大寺造営との関わりを示す左右壁の「両宮神
躰」の図も絵画史あるいは神仏交渉史上で注目される。
6 木造伎楽面 一面もくぞうぎがくめん
重要美術品(昭和 年 月 日認定)13 10 22奈良時代
縦 ㎝35.8
唇をすぼめて突き出す形相を示す伎楽面で酔胡従のうちの一人の面とみられ、面裏すいこじゆう
に酔胡従中の順番を示すかと思われる「第六」の墨書がある 『集古十種』所掲の東。しゆうこじゆつしゆ
大寺伎楽面図中に本面とみられる面があり東大寺に伝来したことが知られ、製作技法
に天平勝宝4年( )東大寺大仏開眼会所用面に共通する特徴がみられる。顔が長752く面部いっぱいに大ぶりの目鼻を配する顔立ち、大づかみな彫法には当代の代表的作
家の一人、基永師の作風がうかがえる。き え い し
頬から口許にかけての筋肉の描写など、その造形は力強く、生動感と立体感に富ん
、 。でおり 大仏開眼会所用面にふさわしい優れた作行をみせる伎楽面として注目される
7 木造千手観音立像 一軀もくぞうせんじゆかんのんりゆうぞう
重要文化財(明治 年 月 日指定)34 3 27平安時代
111.5cm像高
十八臂を具える菩薩像で、本来の尊名は准胝観音とみられる。桜材の一木造、じゆんていかんのん
、 、彩色仕上げで 肥満した体軀やしのぎを立てた衣文に平安初期風をとどめながら
表情はおだやかで彫り口も浅めとなり、全体にうかがえる温雅な趣に次代の特色
を示す。台座蓮弁に天禄元年( )の墨書があり、本躰との関係に検討の余地を970遺すものの製作年代はその頃とみられる。本像の伝来した新薬師寺は東大寺の末
寺であり、その造立背景には東大寺東南院を建立した聖宝( ~ )の准胝観832 909音信仰が影を落としていると考えられる。
遺品の少ない准胝観音像の、平安時代に遡る唯一の彫像であり、当代南都にお
ける密教造像として特に注目される作例である。
【工芸】
8 松 竹双 雀葦手鏡 一面まつたけそうじやくあしできよう
( )重要文化財 昭和 年 月 日指定28 11 14
鎌倉時代( 世紀)1311.8cm 1.0cm 0.4cm径 縁厚 縁幅
鋳銅製で、中心に花心座の鈕を据え、縁は単圈・直角式の形式をとる小型の
和鏡である。鏡背面の下方に流水と洲浜を配し、その右には老松と竹を、左には
竹叢を表し、その樹間に双雀を配している。老松樹の幹には「いろかへぬ」の、
竹叢には「竹との」の文字が隠し字として鋳表されている。
本鏡は、平安時代後期以降に流行した、画中に文字を草木・岩・鳥などの形
に擬して書き込み 全体で和歌を表す葦手の意匠である 本作品の隠し文字は 拾、 。 『
遺和歌集』巻第五「賀」に納める斎宮内侍の「承平四年中宮の賀し侍りける屏風
に」の歌 「色かへぬ松と竹との末のよを、いづれひさしと君のみぞ見む」を意匠、
化したものと思われる。
小型の鏡ではあるが鋳上がりも良く、鏡では遺例が極めて少ない葦手絵の
最古作であり、貴重な作品である。
9 備前矢筈口水指 一口び ぜ んやはずぐちみずさし
桃山時代( 世紀)16高 口径 底径 ㎝20.0cm 19.5cm 20.5
備前窯で桃山時代に製作された大振りの矢筈口水指である。備前窯は16
世紀後半に日本でいち早く器に大胆な篦彫りなどの加飾を施し、桃山時代な
らではの変化ある器形を創出したが、これはまず本品のような水指で始めら
れて優品が生み出された。本矢筈口水指にも大胆な篦彫りが施され、器形に
も作為を加えて変化を作り出し、桃山時代の特徴を存分に示している。遺例
が少ない桃山時代の備前水指を代表する優品の一つである。
10 黒楽茶碗 銘ムキ栗 長次郎作 一口くろらくぢやわん ちようじろうさく
桃山時代
8.5cm 10.4×12.8cm高 口径
4.5cm高台径
長次郎作の黒楽茶碗で、胴を四方形とする他には例を見ない姿を有している。
この四方形の胴は、与次郎作の四方釜に共通するもので利休の好みを反映したも
のと思われる。全体に厚手に削られ、内面の茶溜まりが一段深くなり、初期の特
徴をよく示している。
長次郎の黒楽茶碗の中で初期の作になる優品であり、また他に類例が見られな
い四方形茶碗として桃山時代の茶道具の在り方を示す茶道文化史上極めて貴重な
作品である。
11 辻が花染裂幡 三 旒つじがはなそめきればん さんりゆう
室町時代
92.6×29.6cm 95.6×28.2cm 78.1×31.1cm① ② ③
① ② ③
(付属墨書書)
三旒とも同形の幡手幡足で、寸法もほぼ同じである。③より墨書紙片が発見
され、享禄三年( )に幡として製作されたことが分かる。幡身や縁に用1530いられている裂は、絞りと箔を併用し、部分的に色挿しを施すなど、いわゆ
る辻が花染の特徴が顕著である。製作年、製作の経緯が判明する最古の辻が
花染の遺例として、染織史上極めて貴重な作品である。
【書跡・典籍】
(色紙)12 和漢朗詠集残巻 二巻
わかんろうえいしゆうざんかん
重要文化財(昭和 年 月 日27 3 29指定)
平安時代後期
26.8cm 659.7cm巻上 縦 全長
27.1cm 961.8cm巻下 縦 全長
『和漢朗詠集』は藤原公任( ~ )によって撰せられたもので、秀句と和966 1041歌とからなる。本巻は『和漢朗詠集』の後半を存する残巻で、2巻からなる。料
紙には濃淡緑、濃淡萌葱、濃淡紫、濃淡茶、藍などの色紙および打曇、飛雲など
を用いる。漢字は行草体、字形は端正、仮名は自然な連綿で優美典雅である。そ
の書風は高野切本『古今集』第2種に通じており、 世紀中頃の名跡であるとい11える。
13 六 条顕季書 状、時頼書 状、 源 為義書 状 三通ろくじようあきすえしよじよう ときよりしよじよう みなもとのためよししよじよう
平安時代~南北朝時代
29.8cm 50.1cm六条顕季書状 縦 横
31.4cm 47.8cm時頼書状 縦 横
33.6cm 50.0cm源為義書状 縦 横
六条顕季( ~ )は歌道家六条家の始祖であり、また白河院政を支1055 1123える院別当として、歌壇、政界で活躍した。源為義( ~ )は院政期1096 1156の武将で、保元の乱には為朝らの子息を率いて崇徳上皇方に加担したが、嫡
子義朝に敗れた。歴史上著名な人物らの書状は極めて少ない。
平成19年度に買い上げた「明恵上人、平宗盛外書状 9通」と一連の史
料であり、まとまりのある一括史料として貴重である。近時、新出になるも
、 。ので その内容からみて歴史学・古文書学上において価値が高い作品である
14 足利尊氏奉納松尾社法楽和歌 一巻あしかがたかうじほうのう ま つ お しやほうらく わ か
南北朝時代
31.4cm 241.4cm縦 全長
足利尊氏( ~ )が観応二年、直義( ~ )との合戦中、1305 1358 1306 1352近江醍醐寺の陣中で霊夢を見て 「神祇」題で和歌を詠み、その懐紙を京都の、
松尾社に奉納した原本である。和歌史上に注目されるのみならず、観応擾乱
に関わる歴史上極めて重要な史料でもある。写を底本とした本文が『大日本
史料』第六編之十五に収載されている。
【考古資料】
15 壺形土器 一箇つ ぼ が た ど き
附 器台形土器 二箇き だ い が た ど き
岡山県都窪郡庄村上東出土つくぼぐんしようむらじようとう
重要文化財(昭和 年 月 日指41 6 11定)
弥生時代
40.8cm 21.0cm長頸壺 高 口径
30.4cm 33.0cm附 器台①高 口径
22.0cm 33.4cm器台②高 口径
岡山県南部に分布する、弥生時代後期の上東式に属する典型的な壺形土器 箇1と、附の器台形土器 箇で構成される。2壺形土器は、いわゆる長頸壺の形態を呈し、頸部にはハケ目調整の後に擬凹線
で飾られる。その下端には右上がり左下がりの刺突文が連続して施されている。
口縁部は大きく外反した朝顔状の受け口となり、口唇部は外削ぎ状に鋭角な屈曲
をもって成形されており、この土器のプロポーションに緊張感を与えている。胴
部の膨らみは概して弱く、最大径が比較的上部にあり、全体が丁寧なヘラ磨きで
。 、 。仕上げられている 全体の遺存状態が極めて良く 姿形ともに整った優品である
附の器台形土器 箇は、壺形土器と共通する作行きで、器台部の透かし孔や全体2の形態等、共に優れた造形ではあるが、一部に復元部が見られる。
壺形土器 一箇16つ ぼ が た ど き
重要文化財(昭和 年 月 日指定)41 6 11弥生時代
27.3cm 7.5cm高 口径
袋状の口縁と細長い頸部、算盤玉形の胴部を有する細頸壺で北部九州の弥生時
代中期の須玖式土器に属する優品である。外面には、全面に赤色顔料が塗られ、
頸部の上端と下端、胴部の最大径部位に巡っている、口縁部は算盤玉状につよく
膨れ、その内面は袋状に広がる。頸部と胴部中程に巡る2条の突線の間には、鋸
歯文状の暗文が細かく施され、この土器に装飾的な印象を与えている。このよう
な赤彩土器は、祭祀に使用されたものと考えられるが、本例はとりわけ全体の遺
存状態も良く、貴重な作品である。
【工芸技術資料】
17 釉裏金彩椿文飾皿 一点ゆう り きんさいつばきもんかざりざら
吉田 稔(吉田 美統)作よし た みのる よし た み のり
( 「 」 )重要無形文化財 釉裏金彩 保持者ゆう り きんさい
平成 年( 年)23 2011工芸技術記録映画対象作品
50.5cm 9.5cm径 高さ
放射線状の萌黄釉の下地に、金箔の厚手と薄手を使い分けて、椿の文様を表現
し、その上に透明釉をかけて焼成した、釉裏金彩の技法による七角形の飾皿であ
る。
釉裏金彩は、陶磁器の器地に金箔や金泥等の金彩を用いて文様を描き、その上
に釉薬を掛けて焼き上げる制作技法である。
作者は、加藤土師萌の釉裏金彩の作品に触発されたのを契機にこの技法によるか とう は じ め
作品制作に取り掛かり、技法・表現上の研究を真摯に重ねて、釉裏金彩の技法を
高度に体得した。下地となる色釉の表し方、金箔の扱い方等に創意工夫が加えら
れたその技法は近年いよいよ洗練度・完成度を高めてきている。
本作品においても、金箔に針彫りを施し、さらに金泥を描き加え、花の中心部
をいったんゴムで覆ってその周りに手作りの篩越しに和絵具を掛け、ぼかしを加
えて花の奥行きを表現するなどの工夫を凝らしている。
平成 年度工芸技術記録映画「釉裏金彩―吉田美統のわざ―」の対象作品。22
18 鉄釉花鳥文大鉢 一点てつゆう か ちようもんおおばち
原 清 作はら きよし
(重要無形文化財「鉄釉陶器」てつ ゆう とう き
保持者)
平成 年( 年)23 2011工芸技術記録映画対象作品
42.8cm 8.9cm径 高さ
二種の鉄釉を重ね掛けし、赤褐色の背景の中に動植物の文様を黒いシルエット
で浮かび上がらせた、大鉢の作品である。
陶土は、滋賀県産の篠原土。成形は、縁の部分を太い粘土の紐を使って造形を
行い、基本形を作り、その後コテやヘラなどの道具を活用して、鉢の形をととの
える。高台は、付高台。素焼きした後、黒釉(基礎釉に8%の酸化第一鉄)をずぶ
掛けする。縁の部分に生ゴム液で文様を描き、さらにその縁の部分に褐色釉(基礎
釉に8%の酸化第二鉄)を刷毛で塗る。乾燥後、固まったゴム液を剥がして焼成す
ると、その部分が黒く残り、縁の部分は赤褐色に発色する。花のシベの部分には
チタン黄と呼ばれる顔料を含んだ釉薬を象嵌する。
平成 年度工芸技術記録映画「鉄釉陶器―原清のわざ―」の対象作品。22
一点19 鋳ぐるみ鋳銅花器「地から宙から」い ちゆうどう か き ち そら
大澤 幸勝(大澤 光民)作おおざわ ゆきまさ おおざわ こうみん
(重要無形文化財「鋳金」保持者)ちゆうきん
平成 年( 年)23 2011工芸技術記録映画対象作品
45cm 31.6cm 14cm高さ 幅 奥行き
作者は本作で、火山の噴火に象徴される地球のエネルギーと、太陽の炎のコン
トラストを表現したという。黄銅による黄色、ステンレスと銅線による赤白の線
は、迸る自然の力を象徴している。
作者は、高岡の伝統的な焼型鋳造を高度に体得した上、鋳型に独自の工夫を加やきがたちゆうぞう
えることによって鋳物の表面に装飾的な文様を表す「鋳ぐるみ」の技法を追求し
てきた。鋳ぐるみとは、外型の内壁に、金属線や金属片などを釘止めしてから鋳
込むもの。それらが湯にくるみ込まれながら熔けて器の表面に固定され、文様と
なる。
本作は、青銅の三角形の部分(黒褐色に見える部分)を作品の寸法とデザイン
に合わせてあらかじめ鋳造してから、新たな鋳型を作り、銅線とステンレス線と
共に外型に留め付け、再度黄銅で鋳造したもの。
平成 年度工芸技術記録映画「鋳金―大澤光民のわざ―」の対象作品。22
20 殿様蛙帯留金具 一点とのさまがえるおびどめか な ぐ
桂 剛(桂 盛仁)作かつら たけし かつら もりひと
(重要無形文化財「彫金」保持者)ちようきん
平成 年( 年)23 2011工芸技術記録映画対象作品
3cm 2.5cm 1.5cm縦 横 高さ
本作は、殿様蛙をモデルにした帯留金具である。厚さ2ミリの朧銀の板から、おぼろぎん
高肉打ち出しの技法によって、ほぼ原寸大の蛙を打ち出し、その表面に赤銅と金たかにく
を用いた象嵌を施して、蛙の目玉、背中の文様を表現した。
象嵌の部分は、赤銅で平象嵌した上に、更に金で再度平象嵌する、いわゆる重
ね象嵌の技法が用いられている。蛙の喉の部分は銀箔を用いた銷象嵌である。朧けしぞうがん
銀、銀、金、赤銅それぞれの色彩が、蛙の艶や皮膚の質感の表現に活かされてい
る。裏面には、赤銅の板をかしめ、金銷象嵌で流水文を描いた。きんけしぞうがん
平成 年度工芸技術記録映画「彫金-桂盛仁のわざ―」の対象作品。22
21 久留米絣着物「おぼろアラレ」 一点く る め がすり き もの
森山 哲浩 作もりやま てつひろ
平成 年( 年)23 2011第 回日本伝統工芸展文部科58
学大臣賞
久留米絣の古典柄の一つ「アラレ」文は、濃紺地に白い四角形のモチーフを水
玉のように散らしたもの。古くから、モチーフの大小、配置などを工夫した様々
なアラレ文が織られてきた。
作者は、久留米絣の原点とも言える濃紺と白の2色のみを用いた伝統的な小柄
を現代風にアレンジした作風を特色としてきたが、本作においては新たな試みと
して明るい青色を取り入れ、白い線に囲まれた青と白の2色のアラレ文を考案し
た。地色の濃紺、青、白の三段階の明度の色を効果的に組み合わせて繰り返し、
リズム感と奥行きのある幾何学模様を織り出している。
第 回日本伝統工芸展文部科学大臣賞受賞作品。58
22 伊勢型紙 突彫 ひじき地に波と千鳥 一点い せ かたがみ つきぼり じ なみ ち どり
伊勢型紙技術保存会 (濱野勇夫) 作い せ かたがみ ぎ じゆつ ほ ぞんかい はま の いさ お
(重要無形文化財「伊勢型紙」保持団体)い せ かたがみ
平成 年( 年)23 2011× ㎝( × ㎝)29.9 54.1 16.5 39.9
23 伊勢型紙 突彫 縞に坂道 一点い せ かたがみ つきぼり しま さかみち
伊勢型紙技術保存会 (小川容明)作お がわようめい
(重要無形文化財「伊勢型紙」保持団体)い せ かたがみ
平成 年( 年)23 2011× ㎝( × ㎝)30.1 54.2 14.1 39.8
24 伊勢型紙 縞彫 七五三 一点い せ かたがみ しまぼり しち ご さん
伊勢型紙技術保存会 (坂哲雄、糸入れ 松井俊子)作:さかてつ お まつ い とし こ
(重要無形文化財「伊勢型紙」保持団体)い せ かたがみ
平成 年( 年)23 2011× ㎝( × ㎝)31.0 47.8 17.5 38.7
25 伊勢型紙 道具彫 四ツ目十 一点い せ かたがみ どう ぐ ぼり よ め じゆう
伊勢型紙技術保存会 (兼子吉生) 作かね こ よし お
(重要無形文化財「伊勢型紙」保持団体)い せ かたがみ
平成 年( 年)23 2011× ㎝( × ㎝)30.1 53.4 15.6 40.1
*( )内は彫刻部分の寸法
いずれも重要無形文化財「伊勢型紙」の指定要件に沿った伝統的な技術による
作品。重要無形文化財「伊勢型紙」保持団体の技術見本として、伝承者養成事業
等の参考となる優秀作品である。
(参考)
重要無形文化財「伊勢型紙」指定要件
一 突彫、錐彫、道具彫、縞彫等の彫刻は、伝統的技法により、手彫であるつきぼり きりぼり どう ぐ ぼり しまぼり
こと。
二 糸入れは、伝統的技法によるか、又はこれに準ずること。
三 製作用具等の調製は、代々の伝承に準ずること。
四 型地紙の調製は、伝統的技術により生漉きの楮紙に渋加工を施し自然枯
らしとするか、又はこれに準ずること。
五 型紙の紋様は、古代型紙、小本等の古典的な図柄を参考にした価値の高
いものであること。
六 染型紙製作においては、伝統的な伊勢型紙及び型染の優れた作調、品格
等の特質を保持すること。
26 佐賀錦菱襷文帯「玻璃光」 一点さ が にしきひしだすきもんおび は り こう
西山 フミ(古賀 フミ) 作にしやま こ が
(重要無形文化財「佐賀錦」保持者)さ が にしき
昭和 年( 年)57 1982第 回日本伝統工芸展日本工芸会会長賞29
30.5cm幅
佐賀錦は、細く裁った和紙を経紙とし、竹製の篦状の道具を用いて絹の緯糸をたて がみ
通して制作する技法である。この作品の経紙には、曲尺の一寸を47等分した幅
に裁った和紙を、白いままで用いた。約 の長さの経紙を、帯の長さになるま88cmで、織っては新しい紙を貼り継いで伸ばすことを繰り返して完成させた。
地色の緯糸には白の絹糸を用い、菱襷文様をレリーフのように織り出した。菱
文の中央には菱形の四弁花を配す。経紙の太さ、絹糸の太さは、白一色で表現さ
、 。れる文様が美しく現れるようにと 緻密な研究によって割り出されたものである
緯糸には、紫根染めによる紫、臭木染めによる淡い青磁色の絹糸と金糸を効果的く さ ぎ
に用い、三角形の連続模様を表した。タイトルにある玻璃とはガラスを意味し、
作者は作品のイメージをローマングラスから汲んだ。幾何学的な文様を繰り返す
ことによって、半透明のガラスの質感や光を表現している。
第 回日本伝統工芸展日本工芸会会長賞受賞作品。29
27 佐賀錦網代地籠目文笛袋「瑞光」 一点さ が にしき あ じろ じ かご め もんふえぶくろ ずいこう
西山 フミ(古賀 フミ) 作にしやま こ が
(重要無形文化財「佐賀錦」保持者)さ が にしき
昭和 年( 年)57 1982伝統工芸第 回日本染織展日本工芸会賞19
6.0cm 41cm幅 長さ
佐賀錦は、江戸時代の肥前(佐賀県)鹿島藩主・鍋島家の夫人が病で床に伏せ
った際、檜の薄板の網代組の天井の美しさに着想を得て始めた手工芸をその起源
とするとの伝説がある。本作品で作者は、佐賀錦の原点とも言える最も古い文様
の一つとして網代文に着目し、伝統的な技法を最大限に活かすことによって佐賀
錦の理想的な美を表現することを目指したという。
経紙には、金箔をおいた和紙を用いた。緯糸には、藍染めによって三段階にグ
ラデーションをつけた青い絹糸、西洋茜で染めたピンク色の絹糸、白い絹糸を用
いており、経紙の金色と組み合わせて精緻な網代文を織り出して籠目文を引き立
て、豪華な仕上がりとなった。
伝統工芸第 回日本染織展日本工芸会賞受賞作品。19
28 刀 銘(表)越後月岡天田昭次作之(裏)平成八年仲春吉日 一点かたな え ちごつきおかあま た あきつぐこれをつくる へいせいはちねんちゆうしゆんきちじつ
天田 誠一(天田 昭次) 作あま た せいいち あま た あきつぐ
(重要無形文化財「日本刀」保持者)に ほんとう
平成 年( 年)8 199673.0cm 1.8cm長 反り
、 、 、 。 。 、鎬造 庵棟 身幅やや広く 中 鋒 地文は板目よく詰む 刃文は互の目乱れしのぎづくり いおりむね ちゆうきつさき
。 。 。 、 、全体に沸よく付く 物打ちの辺りに砂流し入る 飛焼あり 帽子は 浅くのたれにえ す な が とびやき
小丸に返る。
この作品には、作者が自ら砂鉄を吟味し、精錬法を工夫して得た自家製の鉄が
素材に用いられている。作者は、古名刀を手本として、独自に山城伝、備前伝、
相州伝の鍛法を修め、その品位ある作風によって高い評価を得ている。また、日
本刀の素材である鉄の研究でも知られ、その成果を自らの作品に活かしている。
29 濁手蓼文輪花方形皿制作工程見本 一式にごしでたでもんりん か ほうけいざらせいさくこうてい み ほん
柿右衛門製陶技術保存会 作かき え も ん せいとう ぎ じゆつ ほ ぞんかい
(重要無形文化財「柿右衛門(濁手 」保持団体))かき え も ん にごしで
平成 年( 年)24 201220.7cm 7.9cm〈①生素地(型打前)〉径 高
20.5cm 5.5cm〈②生素地(型打成形後)〉径 高
21.2cm 4.8cm〈③素焼き素地〉径 高
21.2cm 4.8cm〈④施釉〉径 高
19.5cm 4.2cm〈⑤本焼素地~⑧完成品〉径 高
*②~⑧の径は対角線の長径、⑧の角形の一辺の長さは 。15.5cm
轆轤で丸く成形した素地を、半乾きのとき、型にかぶせ、掌と指で抑えながら
形を整えていく「型打」の技法による輪花方形皿。内面縁に如意頭花文の陽刻が
施され、見込み部分には蓼文様が旋回するように描かれる。外側面四方には、草
花文様を配す。本制作工程見本は 「濁手蓼文輪花方形皿」の制作における生素地、
(型打前)から完成に至る以下の8段階の工程を示すものである。
、 、 、 、 、①生素地(型打前) ②生素地(型打成形後) ③素焼き素地 ④施釉 ⑤本焼素地
⑥上絵線描き、⑦上絵濃み、⑧完成品(但し、①と②は生素地のままでは脆いの
で素焼きしている )。