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マーケティングの基礎 第6章

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マーケティングの基礎第6章

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① 消費者が希望するものは何かニーズを探る

② そのニーズに基づいて、製品の製造計画や製品の仕入計画、商品開発を検討する

③ その計画に基づいて生産または仕入れたものを、どのような方法で販売するかを検討する

④ 販売後のアフターサービスをどのようにするかを検討する

 212 第6章 マーケティングの基礎

6-1 マーケティングとは

(1)マーケティングとは マーケティングとは、消費者(個人や組織)に対して、有形・無形の製品や商品を販売するための計画、およびそのプロセスです。つまり、消費者のニーズを探り、ニーズに合った商品を開発し、顧客に満足してもらうために企業が行う一連の活動のことです。

(2)マーケティング・コンセプト マーケティング・コンセプトは、マーケティング活動における根本的な理念のことです。マーケティング・コンセプトは、時代とともに変遷しています。

① 生産志向 需要が供給を上回っている場合など、市場拡大の必要性がある場合に当てはまるコンセプトです。生産活動を経営の主体とし、生産の効率化を高めることを第一に考えます。そのため、販売活動などの生産活動以外の活動は、副次的なものととらえます。

② 製品志向 消費者は価格と比較して一番品質の良い製品を好むということを前提とし、製品の品質向上を重視するコンセプトです。企業は、顧客よりも製品の品質向上に関心があるため、マーケティング・マイオピア(近視眼的マーケティング)に陥りやすい傾向にあります。 マーケティング・マイオピアとは、企業が製品の質を高めることのみを追求し、実際の消費者のニーズとは、かけ離れた製品を作り出してしまうことです。

③ 販売志向 製品に対する消費者の興味を刺激しなければ、消費者はその製品を買わないとするコンセプトです。大量生産によって、市場に製品があふれるようになった時代に生まれた概念です。販売活動を経営の主体とします。販売志向は、「製品を作ってから販売方法を考える」というプロダクト・アウトの考え方をします。

④ マーケティング志向 マーケティング活動を最も重視するコンセプトです。顧客志向ともいいます。顧客のニーズやウォンツを的確に把握することを主眼とし、ニーズに合った製品を作り、市場に提供します。そして競合他社よりも顧客満足を得ることによって、企業の目標を達成しようとします。

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⑤ 社会志向 消費者および社会の福祉を維持・向上することにより望まれている満足を供給しようとするコンセプトです。消費者の長期的利益を重視するマーケティング、環境破壊や地球資源の問題など、社会のベネフィットや自然環境の保全に貢献するマーケティングが代表例となります。

(3)ニーズ・ウォンツ・シーズ

① ニーズ ニーズとは、一般的には、人間が生きて行く上で、必要不可欠な欲求をいいます。食欲や睡眠欲などのことです。人は、この不満や緊張の解消を求めて行動を起こすのです。ニーズは、人々の購買活動の基礎となるものです。 ニーズを満たすとは、消費者が物自体を購入したり、サービスを享受することです。

② ウォンツ ニーズに対し、意識化されていない欲求を意味します。 現代の日本の社会のように市場が成熟していると、消費者自身が自分の真の欲求に気づいていないケースが多いものです。特別必要に迫られていないものが対象で、なかなか意識されません。

③ シーズ シーズとは、製品の提供者(メーカーや小売業者など)が持っている特別な技術や材料、または、アイデアのことをいいます。また、シーズをもとに新製品開発や新製品の提案を行うことを、シーズ志向といいます。

(4)カスタマー・サティスファクション(CS) カスタマー・サティスファクションとは、顧客満足という意味で、英語の頭文字を取ってCS(Customer Satisfaction)と略します。 このカスタマー・サティスファクションとは、製品を顧客側から評価する場合の満足状態、あるいは、その度合いのことをいいます。 なお、一般的にカスタマー・サティスファクションを「顧客を満足させること」ととらえがちですが、実際は、「顧客が満足すること」と顧客の側から考えることが大切です。

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マーケティング機会の分析①⬇

マーケティング目標の設定②⬇

セグメンテーション(市場細分化)③⬇

ターゲティング(標的市場の選定)④⬇

ポジショニング⑤⬇

マーケティング・ミックスの構築⑥

 214 第6章 マーケティングの基礎

6-2 マーケティング戦略

 ここでは、企業がどのようにしてマーケティング戦略を策定するのか、またマーケティング戦略を策定する際に考慮すべき検討項目について学びます。 まず、マーケティング戦略の策定プロセスをみていきましょう。下図のようなプロセスを経ます。

(6-2-1を参照)

(6-2-2を参照)

(6-2-3を参照)

(6-2-4を参照)

(6-2-5を参照)

(6-2-6を参照)

① マーケティング機会の分析 マーケティング機会をさぐるための環境(企業の外部と内部)の分析を行います。分析には、様 な々リサーチや情報システムが活用されます。

② マーケティング目標の設定 マーケティング目標を設定します。

③ セグメンテーション(市場細分化) マーケティング活動対象の選別の前に、同じようなニーズを持つ消費者グループに市場を細分化します。

④ ターゲティング(標的市場の選定) 細分化した市場の中で、どの市場を標的とするのかを検討します。自社の製品が競争上最も優位性を保てる市場を標的として選定します。

⑤ ポジショニング 競合他社の製品に対して、自社製品がどのような差別化を行うべきかを決定します。

⑥ マーケティング・ミックスの構築 マーケティング・ミックスとは、顧客のニーズを満たすために、マーケティングの構成要素を効果的に組合せることです。マーケティング・ミックスを構築した後、製品を市場へ投下します。

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市場における自社製品の位置付け

自社製品のマーケットシェア(市場専有率)は、どれくらいあるかなど

企業の資源、目標、政策 自社の政策や目標を達成するために使える企業の経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)が、どれぐらいあるかなど

競合企業のマーケティング戦略

競合企業のマーケティング戦略の調査、比較、検討

市場の購買行動 市場の現状確認と分析

製品ライフサイクル上の段階 自社取扱製品は、製品ライフサイクル上、どの段階かを考察

社会情勢や経済特性 自社を取り巻く現在の社会情勢や、経済特性の調査や分析と今後の見通しを推定

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 マーケティング戦略を検討する際は、様 な々要素を材料として行います。代表的な検討項目は以下のとおりです。

【マーケティング戦略策定上の検討事項】

(※製品ライフサイクルについて、詳しくは6-3-2で解説します。)

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S Strength 強み

W Weakness 弱み

O Opportunity 機会

T Threat 脅威

好影響 悪影響

内部環境 S(強み) W(弱み)

外部環境 O(機会) T(脅威)

内部環境

外部環境

1 コア・コンピタンスとは、競合他社よりも優位に立つことが可能な企業の中核となる事業基盤のことをいう。

 216 第6章 マーケティングの基礎

6-2-1 マーケティング機会の分析

(1)SWOT分析 SWOT分析とは、企業の置かれている環境を把握する手法です。企業を取り巻く外部環境や内部環境が、企業にとって好影響か悪影響かに分類した表を作成し、分析をします。 SWOT分析の特徴は、環境要素を各マスに記入していくため、何が問題なのか、克服もしくは回避するためには何が必要なのか、何をコア・コンピタンス(中核的競争能力)1として開発していけばいいかが明確になります。

 SWOT分析の「SWOT」とは、次の4つの単語の頭文字をとったものです。「強み」と「弱み」は、企業の内部的な問題であり、「機会」と「脅威」は、企業の外部的な問題を意味します。

 一般的に、SWOT分析を行う際は、次のような表を使用します。

 企業の強みと弱みは、企業自身に関することです。企業の持つ特性や経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)において、どのような強みと弱みを持っているかを把握する必要があります。

 企業を取り巻いている現在と将来の環境に、機会と脅威は存在します。この機会も脅威も、すべての企業、特に競合他社にも等しく与えられています。そのため、機会を分析し、上手につかむことができるかどうかが大きなポイントとなります。

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政治 経済政策、環境政策、外交政策、法規制など

経済 経済成長力、産業構造、金融情勢など

文化・社会 価値観、人口動態など

自然環境 災害、天候など

技術 技術革新、現在の技術発展の将来像など

業界 業界構造、業界慣習など

市場 規模、成長性、顧客動向など

競合企業 シェア推移、競争新規参入、競争相手の戦略など

製品動向 新製品開発動向、代替製品圧力、生産動向など

中間媒介業者 仕入動向、流通構造など

ヒト 組織構造、人材力、販売力など

モノ 生産力、研究開発力、取扱製品など

カネ 資金調達力など

情報 技術・特許、マーケティング力など

好影響 悪影響

内部環境

S(強み)・社員の技術教育の充実・熟練社員から新入社員への技術教育の徹底・無借金経営

W(弱み)・設備の老朽化・情報システム構築の遅れ

外部環境

O(機会)・リタイアメント世代の次世代への資金供与・未開拓分野のため、競合他社なし

T(脅威)・少子化の進展・製品開発のスピードの速さ

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6-2 マーケティング戦略

(2)外部環境 外部環境とは、企業の外部の環境のことをいい、間接的に影響を及ぼすマクロ環境と直接的に影響をおよぼすミクロ環境に分けることができます。外部環境分析の要因は、以下のとおりです。 ① マクロ環境

② ミクロ環境

(3)内部環境 内部環境とは、企業の内部の状況や経営資源のことです。企業自身の努力でコントロールできる環境となります。内部環境の分析とは、自社の特性や経営資源などの企業内部の状況を客観的に評価します。主に以下の項目を評価します。

【SWOT分析の例】新製品の開発を進める製造会社の場合

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 218 第6章 マーケティングの基礎

6-2-2 マーケティング目標の設定

 マーケティング機会を分析した後は、マーケティング目標を決定します。下記のような目標を複数組み合せて、企業の目標とすることが一般的です。

(1)売上高目標 市場に提供する製品の売上高の目標を決めます。

(2)利益目標 市場に提供する製品の利益の目標を決めます。利益の種類には、粗利益、営業利益などがあります。

(3)マーケット・シェア(市場占有率)目標 市場に提供する製品の、その市場に占める割合(占有率)の目標を決めます。

6-2-3 セグメンテーション(市場細分化)

 価値観が多様な現代において、ある製品をすべての消費者に対して満足させるのは難しいことです。そのため、すべての消費者をターゲットとするのではなく、消費者のニーズを検討し、同じようなニーズを持つ消費者をターゲットとすることにより効果的なマーケティング活動が可能となります。そのために、まずは同じようなニーズを持つ消費者グループに市場を細分化します。これをセグメンテーションといいます。 また、セグメンテーションによって、新たなニーズを持つ消費者グループの発見などにもつながることがあります。

(1)セグメンテーションの基準 市場を細分化する際に、様々な基準(変数)が用いられます。これらの基準を1つあるいは複数組合せることによって、対象とするセグメントの特性やイメージを明確にすることができます。一般的に用いられる基準は、以下のとおりです。

① 地理的変数(ジオグラフィック変数) 市場を国、地域、都市、町村といった地理的単位で区分するものです。

② 人口動態的変数(人口統計変数、デモグラフィック変数) 市場を年齢、性別、所得、学歴、家族構成などに基づいて区分するものです。

③ 心理的変数(サイコグラフィック変数) 市場を社会階層、ライフスタイル、パーソナリティなどによって区分するものです。特徴としては、数値化することが困難な変数になります。

④ 行動変数 市場を消費者の態度、知識、反応、使用などの特性に区分するものです。具体的には、「使用者のタイプ」、「購買状況」、「使用率」などの変数が用いられます。

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6-2 マーケティング戦略

(2)有効なセグメンテーションの条件 細分化された各市場が、本当に効果的なものであるためには、以下の条件を満たしている必要があります。

① 測定可能性 細分化された各市場の規模や購買力を、測定できるかどうかということです。

② 到達可能性 細分化された各市場に到達して、マーケティングできるかどうかということです。

③ 維持可能性 細分化された各市場が十分な規模を持ち、対象となるに足る十分な利益が得られるかどうかということです。

④ 実行可能性 細分化された各市場を引き付けるだけの効果的なマーケティングが、実行可能かどうかということです。

6-2-4 ターゲティング(標的市場の選定)

 どのセグメントを対象にマーケティング活動を展開するかを決定することが、ターゲティングです。ターゲティングの際の基本となる選択方法は、以下の3つです。

(1)無差別型マーケティング 市場全体あるいは最大市場をターゲットとし、単一の製品を提供するマーケティング手法です。この手法は、大量生産、大量流通によって、あらゆる消費者に販売しようとするものですが、すべての消費者を満足させる製品やブランドを開発することは難しいため、多くの場合、その効果は疑問視されます。

(2)差別型マーケティング 複数の市場に対して、各市場のニーズに応え、異なる製品で対応するマーケティング手法です。消費者に多様性をアピールできるというメリットがあります。しかし、コストが増大して、経営資源も分散されるため、各市場への対応を効果的に行うには、経営資源が豊富であることが前提となります。

(3)集中型マーケティング 細分化したうちの1つあるいは少数の市場を選択して、全経営資源を集中してマーケティングを展開する手法です。資源の集中投入によって、中小企業や新興企業でも競争優位に立てる可能性があります。しかし、集中的に資源を投入しリスクを分散していないため、対象市場の選択を誤った場合は大きなリスクとなります。

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6-2-5 ポジショニング

 標的市場を選定した後は、その市場において自社がどのような「ポジション」をとるのか検討します。競合するブランド、製品との差別化を図り、相対的な強みを明確に定めます。このことをポジショニングといいます。 消費者に自社製品を購入してもらうために、どのような競争優位を築かなければならないのかをポジショニングすることによって見出します。差別化をはかる観点としては、「製品の差別化」、「サービスの差別化」、「従業員の差別化」、「イメージの差別化」などがあります。

 差別化をよりわかりやすくするために、ポジショニング・マップを作成する方法があります。 まず、属性、ベネフィット、用途や目的、品質、価格、サービスといった基準の中から自社の製品、ブランドの特性、強みを最もよくアピールできる2つを選択し、これを軸としてポジショニング・マップを作成します。その中に、競合他社と自社、または、競合製品と自社製品を割り当てます。 ポジショニングにより、「自社の将来の方向性」や「自社のマーケティング・ミックスの方向性」が明確になります。ターゲットとする消費者に、的確なマーケティング・ミックスを行うためにも、ポジショニングはとても重要な作業となります。

【ポジショニング・マップ:服飾品の場合】

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4P 内容

1 Product 製品戦略

2 Price 価格戦略

3 Place 流通チャネル戦略

4 Promotion 販売促進(広義)戦略

広告宣伝

販売促進(狭義)

パブリシティ

人的販売

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6-2 マーケティング戦略

6-2-6 マーケティング・ミックスの構築

 マーケティング・ミックスとは、マーケティングの4つの要素(4P)の組合せです。マーケティング目標達成のために、どのような要素の組合せで製品を市場に投入するかを検討し、実践します。

(1)4P マーケティングには、基本的に4つの要素があります。マーケティング・ミックスの要素である4Pは、4つの英単語の頭文字をとったものです。

【4P】

(2)4Pの内容について① Product(製品戦略) 製品の基本的機能、製品特性、付加価値機能などをどのように開発するかを決定する活動のことです。検討事項として、ブランドやパッケージなどがあります。

② Price(価格戦略) 製品の価格を設定する活動のことです。検討事項として、競争価格、値引き、リベートなどがあります。

③ Place(流通チャネル戦略) 製品の流通経路を設定する活動のことです。検討事項として、販売経路、流通業者の選択などがあります。

④ Promotion(販売促進戦略) 製品をどのように販売促進するかを設定する活動のことです。消費者に製品や価格などを認知してもらい、購買意欲を誘発して、最終的に購入してもらうための活動です。検討事項として、広告媒体の選択、広告予算などがあります。

 それでは、次節から、「4P」についてそれぞれ詳しくみていきます。

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6-3 製品(Product)

 マーケティング・ミックスを構成する要素「4P」の1つである製品(Product)を詳しくみていきます。 製品は「形になっている物」のみを表すわけではありません。「使用すること」「所有すること」「消費すること」などによって市場に提供され、人々のニーズや欲求を満たすことのできる物すべてを指します。例えば、パソコンなど形あるものはもちろん、旅行などの形のないものも「製品」の要素にあてはまります。

6-3-1 製品の適性、要素、分類

(1)製品の適性 売買の対象となり、製品としての価値を発揮するために備えるべき性質のことです。ただし、時代や社会情勢の変化により、その適性が失われることもあるため注意が必要です。

① 適合性 消費者は、製品そのものが欲しくて購入するのではなく、その製品がもつ効用を得たいがために購入します。そのため、消費者のニーズに合った効用を提供できるだけの品質水準、つまり消費者ニーズへの適合性が重要になります。

② 耐久性 使用に耐えられることです。さらに付け加えれば、使っていても価値の変化がなく、一定の水準を保つことができることも重要な要素になります。

③ 運搬性 製品は、生産者から消費者の手元まで、安全かつ容易に、そして経済的に運搬できることが大切です。

④ 代替性 量産品の場合、同質同量の製品をもって代替できる性質が大切です。

⑤ 情報性 製品の名称や品質、価格などの情報が、正確に提供されていることが大切になります。

⑥ 安全性 使う時や利用する際、使用者や利用者のみならず第三者に対しても安全が確保されていることが大切です。

⑦ 社会性 生産から廃棄までの間、第三者や社会に対しマイナスの効用をもたらさないことです。

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(2)製品の要素 有形の製品には、品質、デザイン、パッケージ、色彩、ブランド(商標)など5つの特性があります。

① 品質 品質は、製品の要素のうち最も大切な要素です。製品の機能を十分に果たすためには、適切な品質が必要となります。なお、安全性には特別に注意を払う必要があります。また、量産品の場合は、常に同じ品質である必要があります。

② デザイン 形状・色彩・模様の総合的工夫のことです。デザインの要件としては、製品の外観上の特徴を強調し、消費者に視覚的にアピールし、美的感覚に訴える必要があります。

③ パッケージ 内容物を覆う容器などのことです。外部から内容物を保護する役割と製品名や含有物、効果などの情報を伝達する役割があります。

④ 色彩 品質、等級や用途などの製品自体の識別や汚れの防止のほか、製品に対しての魅力を喚起する目的もあります。

⑤ ブランド(商標) メーカーや販売業者またはその団体が自己の製品であることを示し、競合他社の同一種類の製品と区別するために用いる文字、記号またはこれらを結合したものです。なお、商標は、販売促進の手段としても重要な役割を果たしています。また、商標は、以下のことを暗黙に保証しています。ア.製品の品質や性質の保証イ.競合製品との差別化ウ.固有市場の確保エ.顧客満足の獲得

(3)製品の分類① 物理的特性による分類ア.耐久財 何度も使用することが可能で、耐用期間が長い有形の製品のことです。販売単価は比較的高く、販売個数は少ないのが特徴です。主なものに、自動車、家電製品、コンピュータ、機械工具などがあります。

イ.非耐久財 耐用期間が短く、使用回数が少ない有形の製品です。販売単価は比較的安く、購買頻度が高いのが特徴です。主なものに、食料品、日用雑貨などがあります。

ウ.サービス 無形の製品であり、機能や便益などをいいます。主なものに、金融、旅行、ホテル、運送などがあります。

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② 使用目的による分類(消費財) 消費財とは、不特定多数の一般消費者が、消費を目的に購入するものです。ア.最寄品 購買頻度が高く、最小の購買努力でしか購入されないものをいいます。計画的に購入されることが少ないのが特徴です。主なものに、たばこ、雑誌、日用雑貨などがあります。

イ.買回品 品質、価格、デザインなどを比較して、自分の好みにあったものを探して選択購入するものです。わざわざ手間と時間をかけて買い回るため、製品単価は一般に高いのが特徴です。主なものに衣料品、家電製品、家具などがあります。

ウ.専門品 概ね高額な製品のことで、購入頻度が比較的低いものをいいます。販売している店舗数も限られていますが、消費者が購買努力を惜しまず、わざわざその製品を買いに出向いて購入するという特徴があります。主なものに、カメラ、宝飾貴金属、自動車などがあります。

③ 使用目的による分類(生産財) 生産財とは、生産者などが、産業用資材として購入する製品です。ア.材料や部品 加工などを施されて、すべてが完全にメーカーの製品に変わるものです。

イ.資本財 装置や付属設備のように、部分的に最終製品の構成要素となるものです。

ウ.備品やサービス 最終製品の構成要素にはならないもので、保守・修繕などがあります。

④ 仕入、管理面からの分類ア.ステーブル・グッズ 恒常製品のことです。生活必需品で、最寄品的性格を持っています。主なものに、肌着、食品、薬品などがあります。需要の幅は小さいけれど安定的な需要が継続的にあります。

イ.ファッション・グッズ 流行製品のことです。ファッション力でその売上が左右されるという特徴があります。買回品的性格を持っています。主なものに、家具、カメラ、自動車、高級服などがあります。

⑤ 購買慣習による分類 「② 使用目的による分類(消費財)」と同じです。

⑥ 仕入、製品の取扱いからの分類ア.継続製品 恒常的に取扱われる製品で、一定の季節にのみ取扱われる季節製品と一年中継続的に取扱われる非季節製品があります。

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6-3 製品(Product)

イ.導入製品 製造業が新規に開発し、新しく市場に導入する製品のことです。

ウ.臨時製品 イベントや特売などの時期や目的を限定して、臨時で取扱う製品のことです。

エ.試験製品 市場調査のため、一定期間のみ販売し、売行きを調べるための製品のことです。

オ.開発製品 小売業や卸売業者が企画・開発を行い製造業者に製造を依頼し、自社で販売する製品のことです。

カ.廃棄製品 モデルチェンジや流行遅れになったため、廃棄や返品されたり、取扱リストからはずされてしまう製品のことです。

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導入期 成長期 成熟期 衰退期

特徴製品が市場に導入されたばかりの時期

売上が増加し、市場規模が拡大する時期

市場規模が最大化。製品が市場にある程度行き渡った時期

売上が減少し、撤退を検討する必要がある時期

利益 小またはマイナス 大 低下 損失の可能性

 226 第6章 マーケティングの基礎

6-3-2 製品ライフサイクル

 人間のライフサイクルのように、製品も時間の経過に伴って、各プロセスをたどっていくという概念です。その期間は、製品の特性によって異なります。導入期、成長期、成熟期、衰退期の4段階に区分されます。

(1)第1段階:導入期 製品が市場に導入された時期です。製品の売行きは低く、たとえ伸びても、企業にとって初期投下したコスト(研究開発費、設備投資費、市場調査費、販売促進費など)があるため、利益は上がりません。

(2)第2段階:成長期 製品が市場で認知され、需要が伸びてゆく時期です。売上が急成長し、需要も増加します。企業にとって、最も高い利益が確保される時期です。

(3)第3段階:成熟期 需要が飽和状態となり、売行きが鈍化する時期です。競合他社の市場参入や代替品の登場により、競争が激化します。

(4)第4段階:衰退期 製品の売れ行きは低速し、売上も利益も低下する時期です。市場から撤退をするなど、新しい展開を検討する必要があります。

【製品ライフサイクル】

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6-3 製品(Product)

6-3-3 ブランディング

 ブランディングとは、価値のあるブランドを創造するためのプロセスのことをいいます。

(1)ブランドの機能 ブランドは以下の機能を有しています。

① 出所表示機能 製品がどの製造業者で製造され、どの販売業者で販売されているか、消費者が識別できる機能です。

② 品質保証機能 消費者が、製品に一定の品質が確保されていることを判断できる機能です。

③ 広告宣伝機能 消費者に認知され、好感度が向上する機能です。

④ 資産機能 ブランド自体が、資産的な価値を持つという機能です。

(2)ブランドの利点 ブランドの機能は消費者や企業に様 な々利点をもたらしています。

① 消費者に対しての利点ア.品質に対する判断基準イ.購買意思決定の迅速化による購買効率性の向上ウ.ブランドイメージによる使用・経験の満足度

② 企業に対しての利点ア.企業イメージや評判の向上イ.商標登録による他社の模倣防止と差別化ウ.ブランド・ロイヤルティの獲得による安定売上の確保エ.プレミア価格の設定が可能

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(3)ブランド・ロイヤルティ 消費者がブランドに抱く忠誠心のことです。消費者が同じブランドを繰り返し購入する割合を示します。そのレベルは、以下の3段階に分類されます。

ブランドの製品や名称などを知っているレベルです。

基本的には、特定のブランドを好んでいるものの、時として他のブランドも購入します。

ブランド・ロイヤルティが高く、購入する製品は特定のブランドのみとなります。

(4)適用範囲による分類

① コーポレート・ブランド 企業名をブランド名として活用するものです。

② 事業ブランド 企業内のある事業がブランドとして認知されたものです。

③ ファミリー・ブランド あらゆる製品を全体的にカバーするものです。

④ 製品群ブランド 1つの核となる製品を中心に、バリエーションをいくつも作ったものです。

⑤ 製品ブランド 個別の製品をブランド化したものです。

(5)所有区分による分類

① ナショナル・ブランド(NB) メーカーが自社製品に付したものです。

② プライベート・ブランド(PB) 流通業者が企画し、メーカーに製造委託した製品に付したものです。

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6-3 製品(Product)

③ ジェネリック・ブランド(ノー・ブランド) 製品本来の機能の追求と低価格を実現するために、ブランドを付さず販売される製品のことです。

(6)ブランドの要素と識別する記号

① ブランドの要素 基本的には、人間の五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を刺激するメッセージすべてがブランドの要素です。

② 識別する記号ア.ネーミング 製品名を一言で表現するためのものです。覚えやすく、親しみやすいネーミングが理想です。

イ.色彩(カラー) その物自体にイメージがあり、視覚に訴えてくる要素です。

ウ.ロゴマーク 企業名やブランド名を表した、デザインされたシンボルのことです。視覚に訴えてくる要素があります。

エ.トレードマーク 商標や製品名などを表した、デザインされたシンボルのことです。ロゴマークと同じように、視覚に訴える要素があります。

オ.ジングル(音楽) 広告宣伝時に使用される音楽のことです。聴覚に訴えてくる要素です。

カ.パッケージ 内容物を保護するために利用されるものです。そのデザインや色彩などによって、製品名、ロゴマークやトレードマークなどを表現します。

キ.キャラクター ブランドのイメージを具現化した実在の生物や架空の生物を表象化したものです。

(7)ブランド戦略

① ブランド拡張 既存ブランドネームを他の製品にも展開する戦略のことです。既存ブランドの認知度を新製品にも利用して、販促効果を高めます。

② マルチ・ブランド 1つの企業が、複数のブランドを使い分けて同様の製品群を展開する戦略です。市場のニーズが多様で、単一ブランドだけでは顧客ニーズを十分につかめない場合などに、この戦略がとられます。

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 230 第6章 マーケティングの基礎

6-4 価格設定(Price)

 マーケティング・ミックスを構成する要素「4P」の1つである価格設定(Price)を詳しくみていきます。市場では、製品が貨幣との交換によって売買されます。その売買される製品の交換価値を、価格といいます。この価格の設定方法には、様 な々方法があります。

6-4-1 価格決定方針

 価格を設定するには、コスト、需要、競争の3つのポイントを考慮して行うことが重要です。実際には、3つのポイントのうちどれか1つに重点を置くことによって設定することが一般的です。

(1)コスト志向型価格設定 製造コストや仕入コストを基準に価格を設定します。一般的な価格設定法とされています。

① 長所 基本的には、コストに利益を上乗せした価格設定のため、赤字の価格(売値がコストを下回る価格設定)にはならないことです。

② 短所 実際の市場で求められる価格(消費者の価格感)と乖

かい り

離した価格になる可能性や、他社や他の製品との競争状況を考慮に入れない価格に設定される可能性があります。

③ 価格の設定方法 以下の3種類の設定方法があります。ア.コストプラス価格設定 かかったコストに利益を上乗せして最終価格を決定する方法です。建設業界やシステム開発業界に多く見られます。

イ.マークアップ型価格設定 事前に原価に一定のマークアップ(上乗せ)を行って価格を算定する方法です。流通業界で多く見られます。

ウ.ターゲット価格設定 想定される事業規模を前提に、一定の収益率が維持できるように価格を設定する方法です。自動車業界や化学業界で多く見られます。

(2)需要志向型価格設定 消費者の需要の度合いやイメージを基準に、価格を設定します。

① 長所 消費者に値ごろ感のある価格を提供するため、購買へとつながりやすくなります。

② 短所 販売するための価格設定のため、目標とする利益をあげることができない可能性があります。

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変更要因 具体的な設定方法

1 形態 パッケージなど

2 顧客層 学生割引、レディース割引など

3 場所 飛行機のファーストクラスや映画館の指定席

4 時間 深夜割増など

 231  京都府若年者就業支援センター(ジョブカフェ京都)

③ 価格設定方法 以下の2種類の設定方法があります。

ア.知覚価値価格設定 消費者が、その製品の価値をどのようにとらえているかという相対的知覚価値を基準に価格を設定する方法です。基本的には、売れる価格をマーケティング・リサーチなどで見出し、それに原価を合わせていきます。

イ.需要差別価格設定 市場の細分化が可能で、そのセグメントごとに需要の強度が異なる場合に、同一製品の価格を各セグメントに合わせて設定する方法です。別名、価格差別化といいます。価格は、製品の形態、顧客層、場所、時間などの要因により変化させます。各要因に対する設定方法例は、以下の表のとおりです。

(3)競争指向型価格設定 競合他社の価格を指標として決定する価格設定方法です。この設定方法を利用した結果、設定価格が相対的に低価格であったり、高価格であったりすることがあります。 相対的に低価格の設定理由は、顧客の獲得や短期的な売上の上昇のためです。逆に、相対的に高価格の設定理由は、競合他社に比べ明確な差別化が図られている場合や企業や製品のイメージ確立のためです。

① 長所 競合他社の提供する価格や条件などの状況に素早く対応して販売できます。

② 短所 競合他社との競争にだけ目をとられるため、目標とする利益をあげることができない可能性があります。

③ 価格設定方法 以下の2種類の方法があります。ア.実勢価格設定方式 業界平均に合わせて価格を設定する方法です。

イ.入札価格設定方式 他社の動向や入札価格を推定しながら価格を設定する方法です。

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現金割引 現金による決済を行う場合に割引

数量割引 販売数量に応じて販売価格を割引

季節割引 販売する季節を条件に基準価格を割引

機能割引流通チャネルにおける流通業者の段階や流通機能の遂行に応じて行う割引。仲間割引、営業割引、業者割引がある

 232 第6章 マーケティングの基礎

6-4-2 市場シェア獲得と価格設定

 市場シェアを獲得するための価格設定は以下のとおりです。

(1)割引 売買取引の時点において、取引条件などを考えて売価の一定割合を値引きして販売します。 割引の種類には以下のものがあります。

(2)リベート 取引先と一定期間の取引内容によって、売上の一定割合を払い戻す制度です。取引先への販売促進、報償、統制・管理を目的として行われます。

(3)アローワンス ディーラーが、メーカーの意図に沿った販促活動を実施する場合の割引です。広告アローワンス、陳列アローワンスなどがあります。リベートが期間的な取引による割引であるのに対して、アローワンスは一時的・個別的な販売促進策です。

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メーカー 卸売業者 小売業者 消費者

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6-5 流通チャネル(Place)

 マーケティング・ミックスを構成する要素「4P」の1つである流通チャネル(Place)を詳しくみていきます。 メーカーが製品を市場へ出そうとするとき、一般的に仲介業者を使い、販売経路を築き上げようとします。流通チャネルとは、消費者のもとに製品を届ける役割を果たす過程にかかわる組織集合体です。

6-5-1 流通チャネルの機能

 流通戦略の基盤となるのが流通チャネルの形成です。流通チャネルは、流通の始点(生産地点)と終着点(消費地点)の間の隔たりを解消するものとして機能します。 流通チャネルにおける川上と川下とは、製品の流通経路を、川の流れにたとえて表現したものです。川上とは、生産業者や生産段階をいいます。反対に川下は、小売業者や小売段階をいいます。また、その間の卸売業者を川中という場合もあります。

(1)流通チャネルの種類

① メーカー主導のチャネル メーカーが系列化された卸売業者や小売業者に製品を流通させ、消費者に販売します。

② 卸売業者主導のチャネル 卸売業者がメーカーから製品を仕入れ、小売業者に卸します。

③ 小売業者主導のチャネル メーカーが、製品を卸売業者や小売業者を通してチェーンストアに流通させます。

④ 消費者主導のチャネル メーカーから、製品が直接消費者に販売されます。

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・ 最寄品の取引に多く採用・ できるだけ多くのルートを確保して製品を市場に提供することで製品の露出度を高める

・ 取引が小口化し、管理が煩はんざつ

雑となる傾向・ チャネルの統制力が弱い

 234 第6章 マーケティングの基礎

(2)流通チャネルの機能

① 所有権移転機能 製品の所有権を移転するための諸活動を行う機能です。製品を流通する過程で、代金の支払い、受け取りなどが発生し、その都度、所有権が移転していきます。

② 危険負担機能 流通過程において生ずる危険を負担する機能です。危険の種類としては、災厄などによる「製品としての価値の減少」、流行変化や新製品の出現などによる「経済的価値の減少」などがあります。

③ 輸送・保管 製品を異なる地点間へ移動する機能です。輸送業務の他、輸送のための包装、荷役作業なども含まれます。また、異なる時点間で製品の価値を損なわないように保持する保管機能もあります。

④ 情報伝達機能 流通の川上情報を川下に、逆に、川下の情報を川上に伝達する機能です。情報収集なども含みます。

6-5-2 流通チャネル戦略

 供給者が自社製品を消費者に届けるため、消費者との間をつなぐ中間業者(卸売業と小売業)の組合せを効率的、効果的に策定することです。

(1)流通チャネル戦略の分類

① 開放的チャネル政策 販売先を限定せず、取引条件の合う販売先すべてに製品を流通させる政策です。食料品や日用雑貨など、一度に大量の製品を販売したい場合に使われます。

【開放的チャネル政策の特徴】

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・ 買回品や専門品に多く採用・ 露出度が比較的低い・ 販売先は競合製品の取扱いも可能・ 開放的チャネル政策より統制力は強まるが、専売的チャネル政策より弱い

・ ブランドイメージや末端価格をコントロールしたい場合に採用・ 販売先には自社製品しか提供されないため、消費者側に対し品揃えの不満感を抱かせる可能性がある

・ チャネル統制力は最も強い

開放的チャネル政策 選択的チャネル政策 専売的チャネル政策

中間業者 最多 特定の販売地域で一定数の販売業者の選定

一販売地域につき一販売業者を選定して、自社製品の独占販売権を付与

目的 広範囲に市場をカバー ・生産者の市場支配 取引の安定化・販売効率の向上

・生産者の市場支配・製品イメージの向上

製品特性 最寄品、食料品、日用雑貨品

化粧品、薬品、家電 自動車、ガソリン、高級化粧品

マーケティング努力 販売促進費への投入 中間業者へのマーケティング活動支援

中間業者へのマーケティング活動支援、指導

チャネル統制力 弱い やや弱い もっとも強い

 235  京都府若年者就業支援センター(ジョブカフェ京都)

6-5 流通チャネル(Place)

② 選択的チャネル政策 自社の製品の販売促進およびチャネルの統制を強化するために、地域内の一定数の販売先に優先的に販売する政策です。

【選択的チャネル政策の特徴】

③ 専売的チャネル政策 一定地域内での販売先を一社のみに設定する政策です。販売先は、その地域内での専売権を得ることになり、この専売権を通してチャネル統制が行われます。

【専売的チャネル政策の特徴】

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メーカー 卸売業者 小売業者 消費者

メーカー

消費者卸売業者

小売業者

伝統的流通チャネル VMS

取引形態 個々の注文ごとに取引交渉 メンバー間の長期的な計画・調整

重視される情報 供給業者の生産や販売に関する情報 小売などの流通業者のマーチャンダイジング情報

関与する流通業者の目標

個別の売上高と粗利益の最大化 チャネル・メンバー全体の利益最大化

メーカーの目標 ・1回あたりの取引量の最大化・短期目標が選好

相互に利益のある取引関係の継続

チャネル・リーダー 不在(個々の構成員は独自に行動) 存在

2 チャネルを統合管理する機能をもつ企業のこと。チャネル・キャプテンともいう。

 236 第6章 マーケティングの基礎

6-5-3 流通チャネルの統合

(1)垂直型流通チャネル 垂直的に統合された流通チャネルを垂直的マーケティング・システム(VMS)といいます。

① 垂直的マーケティング・システム(VMS)とは 英語でVertical Marketing Systemといい、略してVMSとなります。流通チャネル全体の経済効率性や利益極大化を目的として、チャネル・メンバー(メーカー、卸売業者、小売業者)が強く結びつき、チャネル・リーダー2のもとで計画的に構築され、かつ統一目標のもとに専門的に管理される流通システムです。

【伝統的な流通チャネルと垂直的マーケティング・システム】

 伝統的な流通チャネル

 垂直的マーケティング・システム

② 伝統的流通チャネルとVMSの違い

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3 消費者ニーズに合った製品を適切な価格・数量で提供すること。

ボランタリー・チェーン(VC) フランチャイズ・チェーン(FC)

メリット

① ロイヤルティが少ない② 加盟店の要望が本部に通りやすい③ 加盟店同士の横のつながりが強い④ 自店独自の工夫余地が大きい

① 未経験者でも加入可能② 一定の利益保証③ 本部の指導力とマーチャンダイジング力が強い④ 仕入のスケールメリットが大きい

デメリット

① 店舗標準化のため、加入には一定  規模の資金が必要② 利益保証が少ない③ 本部のマーチャンダイジング3力が  FCに劣る

① 加盟店の要望が本部に受け入れられにくい② 加盟店同士の横のつながりが弱い③ 自店独自の工夫は困難

 237  京都府若年者就業支援センター(ジョブカフェ京都)

6-5 流通チャネル(Place)

(2)垂直的マーケティング・システム(VMS)の3つのタイプ

① 企業型垂直的マーケティング・システム 1つの企業が自己資本によって、製造、卸売、小売の各段階を統合し支配するシステムで、資金力を必要とします。

② 管理型垂直的マーケティング・システム チャネルの構成メンバーのうち最も影響力のある企業のリーダーシップによって、製造・流通の各段階間の協調を図るシステムです。

③ 契約型垂直的マーケティング・システム 独立した各企業が、契約によってお互いの目的を達成しようとする形態です。ア.ボランタリー・チェーン(VC) 加盟している小売業者や卸売業者が経営の独立性を保ちながら、本部機能の設置や仕入、販売促進など事業活動の共同化を行う自発的に結成されたチェーン組織です。規模の利益や事業効率性の向上を図るために行われます。 卸売主宰ボランタリー・チェーンは、卸売業者と複数の小売業者が結ぶ一種の契約取引です。一方、小売主宰ボランタリー・チェーンは別称、コーペラティブ・チェーンといい、小売業者の協同組合的組織です。

イ.フランチャイズ・チェーン(FC) FC本部が加盟店に対して、商標などを利用して事業活動を行う権利や経営に関するノウハウを提供します。加盟店は、本部に対しての加盟料や手数料などを支払うチェーン組織です。

【ボランタリー・チェーンとフランチャイズ・チェーン(FC)の比較】

(3)水平型チャネル 水平的に統合された流通チャネルのことです。異業種が集まり、マーケティング・システムを形成します。各々のもつ経営資源を有効に生かして、コラボレーションを図ります。本屋や銀行に併設する喫茶店や、ガソリンスタンドに併設するパン屋など、様 な々パターンがあります。

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 238 第6章 マーケティングの基礎

6-5-4 流通チャネル管理

(1)チャネル・コンフリクト チャネル組織は、資本的に独立した企業で構成されます。そのため、チャネル・メンバー間の利害の対立という波乱要因が潜在的に存在します。売上の伸び悩み、利益幅の縮小、新しいライバルの台頭、価格競争の激化などによって利害の対立が顕在化すると、チャネル・メンバー同士で衝突が生じます。これを、チャネル・コンフリクトといいます。同じ段階の企業間で起こるコンフリクトを「水平的コンフリクト」といいます。また、同じチャネル内の違う段階で起こるコンフリクトを「垂直的コンフリクト」といい、一般的に垂直的コンフリクトが多く見られます。

(2)チャネル・パワー チャネル組織の共通目標を実現していくパワーのことです。チャネル・リーダーに必要とされ、チャネル内部の利害衝突を緩和し、協調を生み出していくリーダーシップが期待されます。このチャネル・パワーには、以下の5つの特徴があります。

① 報酬パワー チャネル・リーダーが、他のメンバーに利益を与えてくれるという信念にもとづいて発生するパワーです。例えば、より有利なマージンやリベートの供与などによって、メンバーの協調や協力を得ることが可能になるということです。

② 制裁パワー チャネル・リーダーの意思に背いた場合に、制裁を与えられるという予感に基づいて発生するパワーです。具体的には、マージン率の削減、テリトリー保証の撤廃の可能性などがあります。このパワーは、短期的には影響力を持ちますが、長期的には不満を強めたり、新しい対抗勢力の台頭を招いたりします。

③ 専門性パワー チャネル・リーダーが、他のメンバーより優れた専門能力を持っていると認識された場合に発生するパワーです。近年では、報酬パワーや制裁パワーの重要性が低下し、専門性パワーの重要性が高まっています。

④ 一体化パワー あるチャネル・メンバーが、そのチャネル組織と強く結びつきたいと考えている場合に発生するパワーです。あるブランドを扱うことがステータスになる場合などに、このパワーが発生します。

⑤ 正当性パワー チャネル・リーダーに対して、影響力を行使する権利や正当性を保持していると他のメンバーが認識している場合に発生するパワーです。

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① 広告宣伝  マスメディアなどを使った有料広報活動全般のことです。② パブリシティ  マスコミに対する広報活動のことです。③ セールスプロモーション(狭義の販売促進)  サンプル品の試供、販売キャンペーン、リベートやリテールサポートなどの販売促  進策のことです。④ 人的販売  営業担当者や販売員による販売活動のことをいいます。

広告・宣伝 パブリシティ セールスプロモーション 人的販売

特徴 ・非人的・一方的コミュニケーション

・非人的・一方的コミュニケーション

・非人的・一方的コミュニケーション

・人的・双方コミュニケーション

機能 ・一般大衆への情報提供・好ましい感情を誘導

・ニュース価値のある情報提供

・広告と人的販売の調整・短期的な刺激策

・見込み客に対する特定情報提供・販売の締結

メリット ・多くのメッセージを伝達

・信頼性高い・無償で大きな効果

・必要に応じてきめ細かい対応

・個別対応可能・製品知識が必要な場合有効

デメリット ・説得力は弱い・コスト高

・思いどおりのメッセージは伝わらない

・長期的なブランド選好を獲得するのに不適格

・長期的コストの固定化・多数の顧客にアピールできない

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6-6 プロモーション(Promotion)

 マーケティング・ミックスを構成する要素「4P」の1つであるプロモーション(Promotion)を詳しくみていきます。プロモーションとは、別称「販売促進」といいます。消費者や顧客に対して、製品情報を提供したり使用方法を提案したり説明したりするなどして、製品に対する認知度を高めて、需要の喚起とその維持を図るために行われる活動のことです。つまり、企業と顧客の一種のコミュニケーション活動です。

6-6-1 プロモーション・ミックス

 プロモーション活動という、企業と顧客とのコミュニケーション活動のために、企業が使用する基本的な4つの手段があります。プロモーション・ミックスとは、その4つの手段を組合せて、市場や顧客にマッチしたプロモーション戦略を構築することです。

【プロモーション各要素比較】

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 240 第6章 マーケティングの基礎

 プロモーション・ミックスを策定の際に考慮する点は、以下のとおりです。

(1)消費者の購買意思決定プロセスの考慮 プロモーション・ミックスを策定する際には、プロモーションの各手段が消費者の態度変容の各段階に与える影響度を考慮する必要があります。消費者が、製品に対して認知し、興味を示す購買前の段階では広告が有効ですが、実際に購買する段階では人的販売が有効です。

(2)製品特性(消費財と生産財)の考慮 消費財と生産財それぞれの製品特性を考慮に入れる必要があります。消費財では、広告が最も頻繁に利用され、生産財では、人的販売が最も重要視されます。特に、専門的な製品知識を要する生産財では、製品の特徴や効能について綿密に比較し評価してから購買が行われるため、人的販売が効果的です。

(3)製品ライフサイクルの段階の考慮 製品ライフサイクルの各時期によって、有効なプロモーション手段は異なります。

6-6-2 プル戦略・プッシュ戦略

 メーカーは、製品の持つ特性によって異なった広告戦略を行います。

(1)プル戦略 消費者を自社製品に引き付けようとするプロモーション戦略です。消費者に直接広告を展開し、製品やブランドの認知度を高めて需要を喚起させる戦略です。 需要を持った消費者が自分で購入を行うことは、つまりメーカーが消費者を引き付けている(プル)ともいえるため、「プル戦略」といいます。主に、マスメディアを使った大規模な広告や販売キャンペーンを展開します。広告宣伝、パブリシティを重視します。

(2)プッシュ戦略 営業担当者や販売員が卸売業者に対して説得やリベートを働きかけるなど、人的販売やセールスプロモーションを重視して自社製品を消費者に売り込むプロモーション戦略です。製品を直接取り扱うようなプロモーション活動のため、「プッシュ戦略」と称されています。

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6-6 プロモーション(Promotion)

6-6-3 広告宣伝活動とPR(パブリック・リレーション)

(1)PRと広告の特性 PRと広告は、マーケティング上では、消費者に製品の良さをアピールし、購入することによってメリットを享受してもらうという面があります。反面、消費者をあおり、消費に駆り立てているともいえます。

(2)PRの仕方 企業のPRの方法としては、以下の種類があります。第三者が主体となる広報活動のため、社会性や客観性の高さが特徴です。

① パブリシティ マスコミがニュースとして企業情報を報道する広報活動です。

② プレス・リリース 記者会見やインタビューなどで情報を提供し、報道してもらう広報活動です。

③ ペイド・パブリシティ マスコミが有料で取り上げるニュース仕立ての広報活動です。

④ プレゼント・パブリシティ 製品紹介記事に製品のプレゼント提供が紹介される広報活動です。

6-6-4 広告の特性と戦略

(1)広告の特性 広告は、新聞の折込チラシ、TVやラジオコマーシャルなど、私たちの身の回りにたくさんあります。広告とは、英語でアドバータイジング(Advertising、略してAD)といい、企業が、新聞・雑誌やTVなどの広告媒体を使って、消費者に製品情報を提供し、販売することを目的とした広報活動です。

① 広告の特性 広告には、以下の3つの要素があります。ア.広告主や製品などが明示されています。 広告は、企業が消費者に製品の購入を促すもののため、広告主が示されないと意味がありません。

イ.広告は、有料な媒体です。 広告は、企業が製品を自主的にアピールするため、基本的には有料です。

ウ.広告は、非人的な呈示を行います。 広告は、情報伝達の方法が、人を介してのものでなく、印刷や映像など製作されたもののため、非人的です。

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【メリット】① 高い伝達力  短時間に広い地域の多くの人々に対してメッセージを伝達できます。そのた  め、製品の認知度を高めやすく、幅広く需要を刺激することが期待できます。② 機動性  必要な時に大量投下でき、不要になった場合、すぐに中止することができます。③ 高いブランド訴求効果  イメージを訴求しやすく、店頭におけるブランド指名購買を喚起することが  できます。

【デメリット】① 高い費用  ある一定量以上の広告量を確保しないと効果が低くなる傾向があるため、量  の確保のための費用がかさみます。② 広すぎる対象者  マス媒体が中心のため、対象者を絞って情報伝達を行うには適しません。③ 情報が一方通行  情報伝達の流れが一方向で消費者との対話が直接ありません。購買誘因は  作れますが、その場での直接的な購買活動には結びつきません。

 242 第6章 マーケティングの基礎

② 広告の機能 広告には、以下の4つの機能があります。ア.情報伝達性 広告は、一度に広範囲にわたって、同じ情報を伝えることができます。

イ.需要創造性 広告によって情報を伝達することにより、消費者のニーズに合致したり、ウォンツの発掘をしたりして、需要の創造ができます。

ウ.信頼性 広告は、情報が非人的であるために、情報に客観性があると思われがちです。そのため、信頼性を獲得することが可能です。

エ.文化性 CMソングやキャッチコピーなど、広告は1つの文化を創造する機能があります。

③ 広告のメリット・デメリット 広告には以下のメリットとデメリットがあります。

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6-6 プロモーション(Promotion)

④ 広告の種類 広告戦略には、いくつかの切口がありますが、以下が主な種類となります。ア.訴求内容による分類ⅰ 製品広告 消費者に、企業の製品の購買を促進するための広告です。ⅱ 企業広告 企業イメージを、向上させるための広告です。

イ.訴求目的による分類ⅰ 告知広告 ある情報を周知させる目的のもとに行われる広告です。新製品の紹介や、イベントやセールの告知などがあります。ⅱ 比較広告 消費やサービスについて自社と競合他社を比較し、自社製品の優位性を伝える目的の広告です。ⅲ リマインダー広告 自社製品が、消費者から忘れられないようにするために繰り返す広告です。

⑤ 広告媒体による分類・ 新聞・雑誌広告・ 折込チラシ・ TV、ラジオコマーシャル・ ダイレクトメール(DM)・ 看板・ インターネット広告

⑥ 訴求対象による分類・ 流通広告・ 消費者広告・ 産業広告

(2)広告戦略 広告戦略は、以下の手順で策定します。

① 広告の目的の決定 広告戦略は、誰に向けて何のために実施する広告なのかをまず明確にする必要があります。その目的によって、コンセプト、予算、使用媒体、内容が異なります。ア.開拓的広告 製品の存在を知ってもらうための広告です。

イ.競争的広告 指名買いをうながすための広告です。

ウ.維持的広告 需要を保つための広告です。

エ.企業広告 企業イメージを発信するための広告です。

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 244 第6章 マーケティングの基礎

② 広告予算の決定 広告予算は、いくつかの予算設定方法の中から選択して決めます。・ 支出可能額・ 売上高に対する一定比率・ 競合他社との比較

③ 媒体の決定 限られた予算内で最大効果を出せるように、使用媒体を決定します。特に、複数の媒体を使う場合は、どのように組合せるか(メディア・ミックス)を決定します。

④ 媒体効果の評価 基本的には、媒体効果の評価測定は数値的に表しにくいことと、対象媒体のみの効果なのかどうかを限定することが難しいため、正確な評価は困難とされています。そこで、ターゲット(標的市場)への広告の到達具合、心理的な効果、実際の反響や売上への効果の視点から評価を行います。なお、大切なことは、その結果を次回の広告展開に活かすことです。

6-6-5 広告媒体の種類と特性

(1)広告媒体 広告媒体とは、広告宣伝のための手段で、新聞、雑誌、TV、ラジオなどのことです。

(2)広告媒体の種類と特性 広告媒体の種類と特性は、以下のとおりです。

① 新聞・雑誌広告 新聞や雑誌の購読者を対象とした広告です。

② 折込チラシ 新聞などに折り込んで新聞購読者の所に送付されるものです。色も1色刷りからカラー印刷まで豊富な種類があります。

③ TV、ラジオコマーシャル 音声や音楽つきの映像(TV)や、音声や音楽(ラジオ)などのマス媒体を通じて、不特定多数の人間に反復継続的にイメージなどを伝える広告です。

④ ダイレクトメール(DM) 各個人の家庭や会社に直接届く手紙やハガキなどの広告です。

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・特定の製品の宣伝をしません。企業イメージの向上を目的としたキャンペーンなどが あります。・企業や自社の事業を取り巻く様 な々利害関係者(株主、従業員、取引先、顧客など) との間に、自社に対する理解と信頼を確立し、良好な態度を獲得するために行われ ます。

 245  京都府若年者就業支援センター(ジョブカフェ京都)

6-6 プロモーション(Promotion)

⑤ 看板 建物や道路沿いの空地などに設置された広告です。歩行者はもちろん、自動車の運転者や鉄道利用者などを対象とした広告です。

⑥ インターネット広告 インターネットは、企業にとって、媒体費用があまりかからず、広範囲に広告できる大切な手段です。企業のウェブページ、バナー広告、メールマガジンの発行、Eメールによる告知などいろいろあります。

6-6-6 PRとパブリシティ

(1)PRの特性

(2)パブリシティ

① パブリシティとは PRの一手段として使われるもので、企業がマーケティング目標の達成に有益と思われることを、媒体に報道してくれるように働きかける活動です。

② パブリシティの特徴ア.無料 媒体側からの行為のため、基本的に無料です。ただし、メディアに載せるか否かは媒体側の判断に委ねられます。

イ.信頼性が高い 内容について第三者の媒体側が決定し作成されるため、信頼性は高くなります。

ウ.管理が不十分 媒体側の行為のため、企業側が掲載や掲載内容の管理をすることが不十分となります。

③ パブリシティの種類 パブリシティには、受動的パブリシティと能動的パブリシティの2種類があります。受動的パブリシティとは、マスコミの取材要請に対して協力するものです。また、能動的パブリシティとは、企業や非営利組織のPR活動に基づいて、それを計画的、積極的に展開していくものです。

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第1ステップ

調査目的と問題の明確化

第2ステップ

調査計画の作成

第3ステップ

調査計画の実行

第4ステップ

調査結果の分析と報告書の作成

 246 第6章 マーケティングの基礎

6-7 マーケティング・リサーチ(市場調査)

 企業の外部、特に、ある製品の市場の動向を調べることをマーケティング・リサーチ(市場調査)といいます。結果として得られた情報は、企業の経営者やマーケティング担当者がマーケティング機会や問題の分析に使用されます。 マーケティング・リサーチは、効果的なマーケティング活動を展開するために、必要不可欠なものです。

(1)目的 市場や消費者の実態を把握し、企業が抱える諸問題を科学的なアプローチで分析し、判断を下していくことです。 調査結果から得られた定量的なデータや定性的な資料をもとに、企業の経営者やマーケティング担当者はそのときどきの意志決定に活用します。

(2)プロセス マーケティング・リサーチのプロセスは、大きく4つのステップで構成されます。

何のために、どのような問題を解決するためにマーケティング・リサーチを行うのかを明確にします。これによって、効率的な収集と効果的な分析が選択されることになります。

必要な情報を収集するための効率的な計画を設計します。・ 調査仮説の設定・ 情報ニーズの特定・ 2次データの調査・ 1次データの収集計画(調査方法、調査手段、サンプル抽出法  など)の決定・ 分析方法の決定・ 費用と時間の計画の決定・ 予算の決定

調査計画に基づいたマーケティング・リサーチを行います。

様 な々統計的分析手法を用いて収集したデータを加工分析します。そして、その分析結果を踏まえて検証し、報告書を作成します。

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① 消費者が望む新製品の開発② 現在の製品のリニューアルなどを通じた新市場開拓③ そのための広告宣伝・人的販売・プロモーションなどの販売促進活動や  価格政策などのあり方

1.マーケティング環境や諸問題の調査

2.マーケティング戦略の立案

3.プリテストの実施

4.マーケティング戦略の選定と実行

5.事後調査の実施

6.新しいマーケティング戦略に修正

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(3)対象と調査例 マーケティング・リサーチは、マーケティングの計画や実行、そして事後活動の過程を通じて、様 な々分野で利用されます。よく行われる調査は、市場特性調査、市場潜在力調査、市場占有率調査、販売調査、製品調査、流通チャネル調査、広告調査、価格調査、商圏調査、消費者調査などです。マーケティング・リサーチの調査対象として、以下のものが挙げられます。

(4)事前チェック マーケティング戦略を進めるために、事前にチェックを行うことをプリテストといいます。現在の企業の置かれた状況を判断し、効果的な戦略は何かなど、マーケティング・ミックスの角度からもチェックした上で、事前にマーケティング・リサーチにより測定します。

(5)事後調査 事後調査とは、マーケティング戦略を実施後の結果や、市場への影響度合いを調査することです。マーケティング戦略を選定し、実行した後、マーケティング・リサーチで測定します。 (例)6ヶ月前に実施したプレミアムキャンペーンが消費者にどのように認知され、その結果ブランドイメージの高揚や消費者支持率の向上につながったかどうかの調査。

【マーケティングとマーケティング・リサーチの関連】

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情報の入手先による分類

1次データ

2次データ

内部データ

外部データ

特定の目的のために独自に収集されたもの

他の目的のために、すでに収集済みのデータ

企業内部で入手可能例:財務諸表など

企業外部で入手可能例:新聞、雑誌など

収集するデータの性質による分類

定性的データ

定量的データ

 248 第6章 マーケティングの基礎

(6)データの分類法 データの分類方法は、一般的に2種類あります。 その分類方法の1つが、情報の入手先による分類です。情報の入手先によって、1次データと2次データに分類されます。 1次データは、ある特定の目的のために、独自に収集されたものです。2次データに比べて、収集に多くの時間と費用を要します。 2次データは、他の目的のためにすでに収集されている既存のデータのことです。情報の出所によって、内部データと外部データに分類されます。内部データは、企業内部で入手できるデータで、内部の資料分析などによって収集可能です。内部資料とは、主に、財務諸表、財務実績データ、営業報告書などがあります。外部データは、企業外部で入手できるデータです。刊行物や新聞・雑誌などの出版物、インターネットや各種データベースにて収集が可能です。外部資料には、行政機関や業界団体によって収集・編集された政府刊行物や業界誌などがあります。

 もう1つの分類方法が、収集するデータの性質による分類です。その性質によって定性的データと定量的データとに分類されます。 定性的データは、基本的には考え方、状況などを文字で表現したものです。定量的データは、アンケートなどによって収集され、数字で表すことが可能なデータです。

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① 質問法

個別調査法

訪問面接調査法

郵送調査法

電話調査法

留置調査法

街頭面接調査法

集合調査法集団面接調査法

集団質問調査法

真相質問法投影質問法

絵画質問法

② 観察法自由観察法 ファッション調査法など

組織観察法 交通量調査法など

③ 実験法

室内実験法感応検査法など

広告認知実験法など

実験法店内実験調査法など

消費者モニター調査など

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6-7 マーケティング・リサーチ(市場調査)

(7)技法 マーケティング・リサーチにおける、1次データの収集技法は、大別して質問法、観察法、実験法の3種類があります。

① 質問法 調査対象に質問をすることによって情報を収集する方法です。最も多く利用されている方法で、主として質問文と回答用紙を作成し、実施する方法がとられます。

② 観察法 調査対象者の行動や意識などについて、調査者が観察しながら記録し情報収集する方法です。市場や消費者の実態を知ることができます。

③ 実験法 特別な実験場所や状況を設定して調査する方法です。主として、原因と結果の相関関係を明らかにするために用いられます。

【マーケティング・リサーチの技法】

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 250 第6章 マーケティングの基礎

(8)対象領域 マーケティング・リサーチをする際、対象者の範囲(母集団)を設定する必要があります。基本的に、この母集団に対する全数調査をすることは不可能です。そのため、通常はその母集団から一部の対象者を抽

ちゅうしゅつ

出し、サンプルとしてその人 に々のみ調査が行われます。これを標本調査(サンプリング調査)といいます。 母集団からサンプルを抽出する方法は、大きく分けて有意標本抽出法と無作為標本抽出法の2つあります。

① 有意標本抽出法 有意標本抽出法は、非確率標本抽出法とも呼ばれています。調査担当者の経験に基づいて、主観的、意図的にサンプルを抽出する方法です。

② 無作為標本抽出法 無作為標本抽出法は、確率標本抽出法とも呼ばれています。母集団の中から一定の技術的なルールに従って、サンプルを等しい確率で抽出する方法です。

(9)データ集計と分析 マーケティング・リサーチデータの集計は、作業の「準備計画」と、実際の「処理作業」段階の2つに区分されます。 マーケティング・リサーチの終了後は、調査結果を関連データとしてまとめて集計処理し、因果関係などを分析する必要があります。

① 準備計画 実施前の準備計画の段階では、次のようなポイントを押さえる必要があります。ア.質問項目と回答要領 課題解決に向けて、どのような内容の質問項目か、回答の方法はどのように設定するかなどを決定します。

イ.分析内容と方法 調査結果をどのような角度から分析、処理し、アウトプットしていくか事前に決定しておきます。

ウ.予算と人員配置 コンピュータを使用したデータ処理は、自社内で行う以外は外注となります。特に、大規模な調査では莫大なデータ処理分析費用を要することから、あらかじめ予算化しておく必要があります。また、何人でリサーチを行うのか、どのような業務に人員を配置する必要があるのかなどを決定します。

エ.スケジューリング 準備計画段階からデータ作業処理の段階まで、誰が、いつまでに、どの作業を、どの段階まで進めていくか、詳細なスケジュールを立てておきます。

オ.データ設計 分析内容と方法に合わせて、データ入力のための様式を設計します。各質問の項目設計と、データ入力が効率的に行われるように調査票の様式を決定します。

カ.コーディングの準備 自由回答項目のコーディングをどのようにすべきかプリテストのデータを元に明解にしておきます。

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6-7 マーケティング・リサーチ(市場調査)

キ.プログラム作成 オリジナルな調査の場合は、データ処理のプログラムを作成する必要があります。すでにパッケージ化された調査の場合は、既存のプログラムを利用します。

② 処理作業 マーケティング・リサーチの実施後、データを分析するための処理作業を行います。ア.データ入力 調査で収集したデータの入力をします。この段階で、収集されたデータに記入ミスや漏れがないかの検査が行われます。

イ.EDP(Electronic Data Processing)処理 EDPとは、電子データ処理システムのことです。入力されたデータは、事前に作成されたコンピュータプログラムに基づき集計されます。

ウ.報告書まとめ コンピュータ処理されたデータがアウトプットされると、その結果を読み込み解釈します。事前に立てた仮説との整合性を検証したり、調査課題の解決策を検討します。それらの結果をまとめて、グラフや表の作成なども含めた調査報告書を作成します。

③ 分析方法 マーケティングでの分析は、「仮説の設定」→「将来の予測」→「仮説の検証」を繰り返すことによって実施されます。ア.仮説の設定 分析後の諸現象がなぜ生じたのかについての仮説を設定します。

イ.将来の予測 設定された仮説に基づいてモデルを設定し、実証分析を行います。

ウ.仮説の検証 この仮説が正しいかどうかを実施後のデータなどで検証します。ここで、この仮説にデータの裏づけが取れない場合は「仮説の設定」、あるいは「将来の予測」に戻ってやり直します。

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 252 第6章 マーケティングの基礎

6-8 顧客と消費者行動

6-8-1 顧客の定義、行動と心理

(1)「顧客」の定義 お店の商品や製品を購入する人たちのことを「顧客」といいます。ただし、一般的には、顧客は、ひいきの客やお得意様と定義されています。

(2)顧客の行動と心理 顧客は、どのような場合に製品や商品を購入する決断を行うかを確認します。

① 必要な物の購入(理性的判断) 私たちが日常よく行う購買行為として、必要に迫られたために買う行為があります。

② 衝動的な物の購入(感情的判断) 事前の購入予定がなく、その製品を衝動的に買う行為です。

③ 理性と感情が混在 必要に迫られて購入する場合もあれば、衝動的に購入する場合もあり、場面ごとに様々です。理性的な判断と感情的な判断が混在していることになります。

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6-8-2 顧客情報管理の目的

 顧客情報管理とは、顧客に関する各種のデータを目的に応じて活用できるように、収集、記録、整理しておくことです。

(1)顧客の実態把握 顧客がどの地域で暮らし、どの年齢層に属しているかなどの情報を把握することです。顧客の実態を把握することにより、効果的な広告を打ったり、新製品の開発へつなげたりすることができます。

(2)潜在需要の喚起 現在のような低成長下では、新規の顧客を次から次へと開拓するのは非常に難しくなっています。したがって、販売の主体は既存顧客のリピーター化や買い替えと買い増しなどであり、顧客の潜在需要を掘り起こすことが必要となります。

(3)顧客の信用管理 製品を売ったりサービスを提供するということは、代金の回収までを含むものです。そこで、代金が貸倒れ(回収不能)にならないように注意するためには、日ごろからの顧客の信用を管理することが重要になってきます。

(4)顧客サービスへの対応 顧客に対するアフターサービス、クレーム処理などの目的もあります。顧客情報管理によって迅速に対応することができ、顧客の信頼を得ることにつながります。

(5)顧客の固定化 一般的に既存の顧客は、毎年15~20%程度は脱落して行くといわれています。しかし、これを未然に防ぐことができる場合も少なくありません。顧客の脱落を未然に防止し、これを固定化していくことが必要となります。顧客情報管理をベースに情報発信をしたり、アフターフォローをしたりと、顧客に対しこまめにアプローチすることによって、顧客の固定化を図ります。

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第一次集団 小さくて継続的な関係のある集団(家族、友人、同僚、地域コミュニティなど)

第二次集団 労働組合、職場団体など

希求集団 自らは所属していないが影響を受ける集団(スポーツ選手やアイドルなど)

分離集団 同化したくない、拒絶の対象となる集団

 254 第6章 マーケティングの基礎

6-8-3 購買動機と意思決定プロセス

(1)購買の意思決定要素 意思決定には、大きく分けて心理的決定要素と社会的決定要素という2つの要素があります。購買が決定されるときには、以下のような複数の要因が組み合わされることが多いです。

① 心理的決定要素 購買者個人の内部で購買意思決定に与える要因であり、以下のものがあります。ア.ニーズ 必要を感じ、それが満たされていない状態のことです。

イ.動機 人間を行動へと駆り立てる心理的要因のことです。

ウ.学習 同一あるいは同種の経験を繰り返すことで、行動(購買行動や製品選定など)が変化していくことです。消費者がそれを購入するかどうかは過去の学習の結果に影響されることが多くあります。ある購買行動が学習され、習慣化し、同じ行動パターンで繰り返されるようになることを、「強化」といいます。

エ.信念 製品などに対し、個人が持っている固定的な考えのことです。例えば、「○○ブランドの製品だから信頼できる」などと消費者が考えることをいいます。

オ.知覚 視覚や触覚などの五感によって得た情報に対して意味づけを行うことです。同じ動機を持っていたとしても、知覚(感じ方・とらえ方)が違う場合、とる行動も変わります。

② 社会的決定要素 意思決定は、購買者を取り巻く社会的要因によっても影響を受けます。その社会的決定要素には以下のものがあります。ア.家族 自分の家族のことです。また結婚した場合には、相手方の家族も含まれます。

イ.社会階層 同じような社会的地位にある集団です。階層を分ける基準には、所得、職業、身分、学歴などがあります。

ウ.準拠集団 個人の意識や行動に影響を与える集団のことです。今現在所属している準拠集団だけでなく、過去に所属していた準拠集団やこれから所属を希望する準拠集団も、影響を与えます。

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① 問題認知

② 情報探索

③ 代替品の評価

④ 購買決定(購買行動)

⑤ 購買後評価

情報源 例

個人的情報源 家族、友人、知人など

商業的情報源 広告、営業担当者、店頭、パッケージなど

公的情報源 マスメディア、消費者団体など

経験的情報源 使用経験、試用

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6-8 顧客と消費者行動

エ.文化 思想、慣習、社会規範、価値観などのことです。

(2)意思決定プロセス 購買行動が起こる前の、意思決定プロセスについてみていきます。

① 問題認知 購買行動は、消費者がニーズを認識することによって始まります。

② 情報探索 ニーズが強まると、これを解消するための方法を探索し、情報を収集します。情報は、消費者自身が過去の購買経験や認知している広告など、すでに持っている情報を検索することから始まります。主な情報源は以下のとおりです。

③ 代替品の評価 必要な商品、製品そのものの情報だけでなく、代替品の情報も収集します。そして、その情報探索で収集した情報をもとにいくつかの選択肢を考え、比較・評価します。

④ 購買決定(購買行動) 評価結果に従って、最終的にどの製品を購入するかを決定します。そして、意思決定が終了すると、実際の購買行動を起こします。

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Attention(注意)

Interest(興味・関心)

Desire(欲求)

Action(行動)

Memory(記憶)

Satisfaction(満足)

 256 第6章 マーケティングの基礎

⑤ 購買後評価 購買した後、その購買行動が正しかったかどうか評価します。消費者は製品の購入によって満足を得ようとしますが、この度合いが購入前の期待に達しない場合、不満足感が起こり、その製品に対して否定的な感情を持ちます。これを認知的不協和といいます。購買後、このように不満足な感情を抱いた消費者は、以下の2種類の行動を取ります。・ 購入した物の返品、または、使用停止・ 自分の購買行動を正当化するための情報収集

例)自分の購買意思決定が正しかったと確認するために、売れ筋商品ランキングで自分の購入した商品が上位にランキングされているか検索したり、その商品を使用している人の肯定的な意見を聞いたりするなどの行動をとること。

(3)購買意思決定モデル 消費者がある製品を知覚してから最終的に購買するまでの心理的プロセスをモデル化したものが採用モデルです。主なモデルをみていきます。

① AIDA(AIDMA/AIDAS)モデル AIDAモデルとは、注意、興味・関心、欲求、行動という各段階を通じて、消費者が購買行動を起こす心理的過程のモデルです。 消費者は、ある製品に対して注意(Attention)し、次にそれに対して何らかの興味・関心(Interest)を持ち、それを欲しいと欲求(Desire)し、最後にそれを購買するという行動(Action)を起こします。このプロセスをモデル化したものがAIDAモデルです。 その後、このモデルをベースにさまざまな修正が加えられました。その1つは、欲求と行動の間に記憶(Memory)の段階を入れたAIDMAモデルです。もう1つは、最後に満足(Satisfaction)の段階を加えたAIDASモデルです。 消費者がこのモデルのどの段階にいるかによって、その段階に見合った販売活動を行うと効果的です。

【AIDA(AIDMA/AIDAS)モデル】

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1.知識段階 → 2.態度段階 → 3.決定段階 → 4.実行段階 → 5.確信段階

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6-8 顧客と消費者行動

② イノベーション採用モデル イノベーション採用モデルは、知識・態度・決定・実行・確信の5つの段階を経て意思決定されるという考え方です。

ア.知識段階 新製品やアイデアの存在を認知し、それに関するいくつかの知識を得ようとする段階です。

イ.態度段階 新製品やアイデアに対して、好意的か非好意的な態度を形成する段階です。消費者は、さらに詳しい情報を集めようとし、自分のニーズとの適合性を確かめる行動を起こします。

ウ.決定段階 新製品やアイデアを採用するかどうかを決定する段階です。

エ.実行段階 新製品やアイデアを実際に使用する段階です。消費者にとっては、実際に使用することによって効果を見極め、評価することができます。

オ.確信段階 新製品やアイデアを継続的・全面的に使用する段階です。消費者は、購入後にカタログ、宣伝などにより自分の意思決定を支持するような情報を集める行動を起こします。

(4)消費者の購買行動モデル 消費者の購買行動モデルには、以下の3種類のモデルがあり、消費者がどのような購買行動をとるか考えたものです。

① 刺激-反応モデル(S-Rモデル) 刺激(stimulus)-反応(response)モデルのことで、外的刺激を受けて反応にいたる過程に存在する消費者の内面をブラックボックスとして未解明のまま残したモデルです。

② 消費者行動モデル(S-O-Rモデル) 刺激-生活体(organism)-反応モデルのことで、刺激と反応の間に生活体を仲介変数として導入することによって、ブラックボックスの中身(消費者の購買意思決定に至るまでの過程)を分析していくモデルです。

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名称 価値観 特徴

革新者 冒険心 多少のリスクを意に介さず新しいものを試してみたいと思う人

初期採用者 尊敬 オピニオン・リーダー的存在で、ある程度の思慮はもつが、新しいものを早期に購入する人

前期追随者 慎重 社会の平均値よりは早く購入する人

後期追随者 猜さいぎ

疑心 大多数の人が採用して、その効用を肯定した時点で購入する人

採用遅滞者 伝統 変化を受け入れず、新しいものが伝統となるまで購入しない人

 258 第6章 マーケティングの基礎

③ ライフスタイル研究 消費者のライフスタイルに焦点を当てた分析・研究です。ア.AIO分析 活動(Action)、関心(Interest)、意見(Opinion)という3つの次元から消費者の行動をとらえようとするものです。

イ.VALS(Values and Lifestyles)研究 スタンフォード・リサーチが大規模な消費者調査を行い、アメリカ人の典型的な9つのライフスタイルを描き出したものです。具体的には、「その日暮し」「忍耐派」「帰属派」「野心派」「達成者」「個人主義」「体験派」「社会理念派」「トータル・バランス派」となります。

(5)購買意思決定における第三者の関与 消費者の意思決定に影響を与える第三者の関与についての理論には、購買意思決定における役割分担と新製品普及プロセスがあります。

① 購買意思決定における役割分担 消費者の購買意思決定に関与する第三者の役割には、購入製品や金額にもよりますが、以下の5つがあります。ア.発案者 最初に購入しようと思う人のことです。

イ.影響力行使者 別名、インフルエンサーとも呼ばれ、購買決定に影響を与える人です。

ウ.購買決定者 実際に購買の選択決定を行う人です。

エ.購買者 実際に購入する人です。

オ.使用者 購入した製品を使用したり、消費したりする人です。

② 新製品普及プロセス 新製品の購入のタイミングには個人差がありますが、購入時期によって分類すると、次の表の5つに分類できます。

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購買状況 日常的反応行動 限定的問題解決 拡大的問題解決

製品 最寄品 買回品、新製品 専門品

価格 低価格 中価格 高価格

意思決定 速い 中程度 遅い

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6-8 顧客と消費者行動

6-8-4 購買行動

 消費者の購買意思決定は購買行動によっても左右されます。そこで、製品知識の程度やその時の購買状況によって以下の3つの購買行動に分類されます。

(1)日常的反応行動 反復的問題解決とも呼ばれ、安価で購買頻度の高い製品を購入する際に典型的に見られる購買行動です。消費者は、製品に関してかなりの知識を有しており、さらに、製品に対する明確なブランド選好を形成していますので、情報探索や代替案の評価に多くの時間を費やすことなく購買意思決定がなされます。

(2)限定的問題解決 消費者は、製品についての知識は有しているものの、購買に際してそのブランドに関する知識を必要とする場合です。考慮すべきすべての情報を有していないため、追加的な情報処理が必要となります。そのため、限定的と呼ばれます。

(3)拡大的問題解決 消費者が製品に関する知識すら持たず、どのような基準で個々の製品を評価してよいか分からない場合に見られる購買行動です。対象となる製品は、購買頻度が低く、高価な場合が多いです。消費者は、製品に関わる広範囲におよぶ情報を必要とし、購買行動が複雑になります。そのため、情報探索や代替案の評価に要する時間も長くなります。

【購買行動の分類比較表】

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① 多数の人が、それぞれの異なった製品選定や購買決定の基準を持って購買プロ  セスに参加します。② 企業の目標への寄与という制約が購買プロセスに影響を与えます。

 260 第6章 マーケティングの基礎

6-8-5 企業購買者の購買行動

 購買者が組織体、つまり企業である場合は、次のような購買特性があります。

(1)企業の購買意思決定プロセス 企業の購買意思決定は以下の8段階に分けられます。

① 問題認知 製品を購入することで解決が可能な問題やニーズを、企業内の誰かが認知する段階です。

② 一般的なニーズの明確化 必要とされる製品の質と量を明らかにする段階です。

③ 製品仕様の作成 製品の具体的な仕様書を作成する段階です。

④ 供給業者の探索 適切な供給業者を探し出す段階です。

⑤ 提案書の請求 複数の供給業者に対して、見積などの提案書の提出を求める段階です。

⑥ 供給業者の選択 提案書を検討し、供給業者の選定を行う段階です。

⑦ 発注 選択された供給業者に対して発注書を作成し、契約を締結します。リスク回避のため複数業者から分割して購入する場合もあります。

⑧ 成果の評価 取引実績の評価をする段階です。購入した製品が使用者の様 な々要求に適合しているかどうかを検討し、後の意思決定に利用します。

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6-8 顧客と消費者行動

(2)企業の購買意思決定の関与者 企業の購買に関する意思決定は、複数の人間が関与します。

① ユーザー 購入する製品を実際に使用する人のことです。

② 影響力行使者(インフルエンサー) 購買意思決定に影響を与える人です。製品仕様の決定を助けたり、評価段階で情報を提供したりします。技術者が、この役割を果たす場合が多いです。

③ 決定者 製品の必要条件や供給業者を決定する人です。

④ 購買者 供給業者の選定や購買条件の交渉について公式権限を持つ人です。

⑤ 承認者 決定者や購買者の提案を承認する権限を持つ人です。

⑥ ゲートキーパー 組織内において様 な々人々の情報の流れをコントロールして、外部の情報窓口となる人です。