2017jaep sympo asano

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子どもの社会化に対する 担い手たちの重層的影響 2017/10/8 () 59回教心総会@名古屋国際会議場 社会化の担い手たちはいかにして子どもの社会性を育むのか 浅野良輔 (久留米大学文学部心理学科)

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子どもの社会化に対する担い手たちの重層的影響

2017/10/8 (日) 第59回教心総会@名古屋国際会議場社会化の担い手たちはいかにして子どもの社会性を育むのか

浅野良輔 (久留米大学文学部心理学科)

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1分バージョン

反社会性

養育者

教師 仲間集団

向社会性

研究2:学級レベル

研究1:個人レベル

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小中学生の問題行動

児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

小4 小5 小6 中1 中2 中3 高1 高2 高3

暴力行為加害児童生徒数

2012年 2013年 2014年 2015年

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小中学生の問題行動

児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査

0

5000

10000

15000

20000

25000

30000

35000

小4 小5 小6 中1 中2 中3 高1 高2 高3

いじめ認知件数

2012年 2013年 2014年 2015年

小中学生の社会化は特に重要な課題

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社会化と養育者

❖領域特定アプローチ (Grusec, 2011; Grusec & Davidov, 2010)

家族や養育者による子どもの社会化プロセスを複数の領域に分類する

個別の養育態度が独立して社会化をうながす

保護領域

– 子どものサポート源となって苦痛を和らげる

– 向社会性 反社会性

監督領域

– 子どもとの上下関係のなかでしつけをする

– 反社会性 向社会性

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社会化と養育者

❖養育認知による媒介過程

理論的言説

– 養育者の養育態度よりも、子どもの養育認知が社会化に対して重要な役割を果たす (Grusec & Davidov, 2010)

実証データ

– 養育者の養育態度よりも、子どもの養育認知が反社会的行動や抑うつと強く関連していた(Laird & De Los Reyes, 2013)

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研究1の目的

❖養育態度が向社会性・反社会性に与える影響

向社会性:共感性

反社会性:社会的認知バイアス

❖中学生の親子ペアデータ

1年生のみ、3年次までフォローアップ

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参加者

❖愛知県内の中学生とその養育者488組

Time 1 (2014年1月):1~3年生に実施

– N = 488 (浅野ら, 2016, 心研)

– 1年生のみ、Time 2, Time 3に参加

Time 2 (2015年1月)

– N = 188

Time 3 (2016年1月)

– N = 179

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参加者

中学生 養育者

女子 男子 母親 父親 その他 不明

Time 1 (N = 488) 268 220 429 33 4 22

Time 2 (N = 188) 97 91 177 7 0 4

Time 3 (N = 179) 93 86 169 7 0 3

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測定内容:中学生

❖養育認知 (姜・酒井, 2006; 5件法; Time 1)

受容認知 (10項目)

統制認知 (6項目)

❖共感性 (長谷川ら, 2009; 5件法; Times 1~3)

共感的関心 (7項目)

視点取得 (5項目)

❖社会的認知バイアス (吉澤ら, 2009; Times 1~3)

認知的歪曲 (14項目6件法)

一般攻撃信念 (8項目4件法)

潜在変数

潜在変数

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測定内容:養育者

❖養育態度 (姜・酒井, 2006; 5件法; Time 1)

受容 (10項目)

統制 (6項目)

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SEMによる媒介分析1 (N = 488)

社会的認知バイアス(Time 1)

受容(Time 1)

統制認知(Time 1)

統制(Time 1)

0.356***

0.383***

0.184***

−0.135**

0.057

0.141*

0.354***0.136***

共感性(Time 1)

−0.089***

−0.101

−0.047

0.102*

−0.161***

受容認知(Time 1)

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SEMによる媒介分析2 (N = 188)

社会的認知バイアス(Time 2)

受容(Time 1)

統制認知(Time 1)

統制(Time 1)

0.444***

0.599***

0.219*

−0.135

0.106

0.181

0.337***0.110***

共感性(Time 2)

−0.116***

−0.130

−0.106

0.138

−0.201**

受容認知(Time 1)

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SEMによる媒介分析3 (N = 175)

社会的認知バイアス(Time 3)

受容(Time 1)

統制認知(Time 1)

統制(Time 1)

0.470***

0.610***

0.145*

−0.064

0.062

0.079

0.303***0.100***

共感性(Time 3)

−0.201***

−0.026

−0.174

0.115

−0.212*

受容認知(Time 1)

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研究1のまとめ

❖受容的養育態度の効果が一貫して示された

受容→受容認知→共感性

受容→受容認知→社会的認知バイアス

保護領域の重要性

❖統制的養育態度の効果は限定的だった

監督領域はより機能しにくい

監督領域の影響は発達段階、性別、気質などによる個人差が大きい (Grusec & Davidov, 2010)

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研究1の課題と研究2に向けて

1. 社会性の行動的側面を扱っていない

反社会性としてのいじめ加害経験に焦点を当てる

2. 対象者が中学生に限られている

小学生の問題行動が増加している (cf. 冒頭のデータ)

小学生に対しても調査を実施する

3. エージェントが家庭内に限られている

家庭外の教師・仲間集団も子どもの社会化を担う(e.g., Bronfenbrenner, 1986; Smetana et al, 2006)

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社会化と個人–学級の階層性

❖風土変数 (Marsh et al., 2012)

教師・仲間集団は学級の風土・雰囲気を形成する

子どもの社会化に重要な役割を果たす

– 理論からみた学級レベルの意義

マルチレベル分析が実証研究を可能にする

– 方法論からみた学級レベルの意義

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社会化と個人–学級の階層性

大谷ら (2016)

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社会化と個人–学級の階層性

❖仲間集団の集合的道徳不活性化 (Gini et al., 2015)

学級レベル

– クラスメートへの攻撃を促進する

– クラスメートへの擁護を抑制する

– いじめ被害の防衛的傍観を促進する

個人レベル

– クラスメートへの攻撃を促進する

– クラスメートへの擁護を促進する

– いじめ被害の防衛的傍観とは関連しない

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社会化と個人–学級の階層性

❖風土変数に関する先行研究の限界

学級レベルの影響が十分に検討されていない

教師のリーダーシップがいじめに与える影響は?

仲間集団の質がいじめに与える影響は?

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研究2の目的

❖教師・仲間集団がいじめ加害経験に与える影響

分析1

– 教師リーダーシップ→いじめ加害経験

分析2

– 肯定的・否定的仲間集団→いじめ加害経験

❖小中学校の学級単位データ

マルチレベル構造方程式モデリングによる分析

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参加者

❖岐阜県内の小中学生95学級2,573名

全体 女子 男子

小学5年生 548 288 260

小学6年生 514 265 249

中学1年生 520 281 239

中学2年生 469 242 227

中学3年生 522 247 275

合計 2,573 1,323 1,250

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測定内容:分析1

❖いじめ加害経験 (岡安・高山, 2000; 3項目4件法)

❖教師リーダーシップ (三隅・矢守, 1989; 4件法)

P機能 (9項目)

M機能 (10項目)潜在変数

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測定内容:分析2

❖いじめ加害経験 (岡安・高山, 2000; 3項目4件法)

❖仲間集団の質

肯定的仲間集団 (Laird et al., 1999; 5項目3件法)

否定的仲間集団 (Bukowski et al., 1994; 4項目3件法)

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マルチレベルSEMによる分析1

いじめ加害経験

Between (学級レベル)

教師リーダーシップ

−0.240* (−.378)

いじめ加害経験

Within (個人レベル)

教師リーダーシップ

−0.222*** (−.163)

( ) = 標準化係数。* p < .05, *** p < .001

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マルチレベルSEMによる分析2

いじめ加害経験

肯定的仲間集団

否定的仲間集団

Between (学級レベル)

−0.815* (−.402)

0.764* (.480)

いじめ加害経験

肯定的仲間集団

否定的仲間集団

Within (個人レベル)

0.081* (.062)

0.328*** (.231)

( ) = 標準化係数。* p < .05, *** p < .001

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マルチレベルSEMによる分析2

いじめ加害経験

肯定的仲間集団

否定的仲間集団

Between (学級レベル)

−0.815* (−.402)

0.764* (.480)

いじめ加害経験

肯定的仲間集団

否定的仲間集団

Within (個人レベル)

0.081* (.062)

0.328*** (.231)

( ) = 標準化係数。* p < .05, *** p < .001

文脈効果 = −0.896*

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研究2のまとめ

❖学級レベルの効果が一貫して示された

教師リーダーシップ→いじめ加害経験

– 教師の指導スタイルの重要性 (大谷ら, 2016; Trautwein et al., 2006)

肯定的仲間集団→いじめ加害経験

– 個人レベルのいじめ促進効果を凌駕していた

– 集合的道徳活性化

否定的仲間集団→いじめ加害経験

– 集合的道徳不活性化 (Gini et al., 2015)

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Take-Home Messages

❖社会化エージェントの重層的影響モデル

エージェントを複数のレベルからとらえ直す

– 個人レベル:養育者

– 学級・学校レベル:教師、仲間集団

– 地域レベル:近隣住民

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Take-Home Messages

養育者

教師

仲間集団

学級レベル

個人レベル

社会性

近隣住民

地域レベル

Ryosuke ASANO ([email protected])

社会化メカニズムの統合的理解