2016 年度弘前大学 PBL プログラム アメリカテネシー州農業調 … · 2016...

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1 2016 年度弘前大学 PBL プログラム アメリカテネシー州農業調査報告書 15GP206 谷内 萌 1.派遣メンバー 【学生】(4 名) 黒川 直樹(学校教育教員養成課程教科教育専攻社会専修 3 年) 鹿内 裕仁(同上・3 年) 外山 颯 (同上・3 年) 谷内 萌 (教育学研究科教科教育専攻社会科教育専修 2 年) 【引率指導教員】(1 名) 秋葉 まり子 教授 2.プログラムの概要 (1)訪問の目的 ・青森県をはじめとした日本の農村部が抱える大きな問題は、若年層人口流出にともなう後 継者問題、都市との所得格差、荒廃地の増加など、いずれも深刻なものとして山積してい る。 ・我々は昨年度の PBL プログラムで、ベトナム・ハノ近郊農村の調査を行なった。ベトナム 農村でも日本と同じような課題を抱える中、様々な取り組み(安全野菜栽培や伝統工芸村) が行われてきていて、学ぶべき点も多々あったが、抜本的な問題解決には程遠いと思われ た。 ・そうした問題に対して、日本政府は、IT 化、高付加価値化、集積化、法人化、輸出志向 型の農業戦略を掲げている。 ・日本が目指す戦略を体現しているのが、農業従事者のうち年収 1,000 万円までの層が全 体の 56 割を占めるアメリカであろう。 ・アメリカの先進的な例が、青森県や津軽地域、弘前市でもどこまで適応可能かどうか、検 討することを本活動の目的とした。

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2016 年度弘前大学 PBL プログラム

アメリカテネシー州農業調査報告書

15GP206 谷内 萌

1.派遣メンバー 【学生】(4 名) 黒川 直樹(学校教育教員養成課程教科教育専攻社会専修 3 年) 鹿内 裕仁(同上・3 年) 外山 颯 (同上・3 年) 谷内 萌 (教育学研究科教科教育専攻社会科教育専修 2 年)

【引率指導教員】(1 名) 秋葉 まり子 教授

2.プログラムの概要

(1)訪問の目的

・青森県をはじめとした日本の農村部が抱える大きな問題は、若年層人口流出にともなう後

継者問題、都市との所得格差、荒廃地の増加など、いずれも深刻なものとして山積してい

る。

・我々は昨年度の PBL プログラムで、ベトナム・ハノ近郊農村の調査を行なった。ベトナム

農村でも日本と同じような課題を抱える中、様々な取り組み(安全野菜栽培や伝統工芸村)

が行われてきていて、学ぶべき点も多々あったが、抜本的な問題解決には程遠いと思われ

た。

・そうした問題に対して、日本政府は、IT 化、高付加価値化、集積化、法人化、輸出志向

型の農業戦略を掲げている。

・日本が目指す戦略を体現しているのが、農業従事者のうち年収 1,000 万円までの層が全

体の 5~6 割を占めるアメリカであろう。 ・アメリカの先進的な例が、青森県や津軽地域、弘前市でもどこまで適応可能かどうか、検

討することを本活動の目的とした。

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(2)期間

平成 28 年 9 月 12 日(月)~9 月 18 日(日)

(3)行程

<9 月 12 日> 成田国際空港に集合、11 時 15 分発 NH174 便にてテキサス州のジョージ・ブッシュ国際

空港へ。現地時間の同日 9 時 30 分に到着し、12 時 50 分発 UA6113 便にてメンフィス国

際空港へ。メンフィス国際空港 14 時 28 分到着し、テネシー州立大学マーチン校へ車移

動。 <9 月 13 日>

Mehlhorn 教授引率の Reelfoot 湖周辺のツアー 大学が所有する農場を見学 Mehlhorn 教授のご自宅にての夕食会参加

<9 月 14 日> Nashville にある Tennessee State Fair(年に一度の農作物品評会)の見学 “Middle Tennessee Agricultural Club”の昼食会への参加 同市 CO-OP の金属加工工場見学、CO-OP の飼料工場見学

<9 月 15 日> 大学農学部授業へ参加、マーチン市内の Green Plains のエタノール工場見学

<9 月 16 日> マーチン校学長主催朝食会へ招待される マーチン市のマイク氏の農場見学 大学 ESL(English Second Language) Class への参加

<9 月 17 日> メンフィス国際空港 10 時 32 分発 の UA4435 便にて、ニューアーク・リバティー国際

空港へ。14 時 16 分にニューアーク・リバティー国際空港に到着。 <9 月 18 日> ジョン・F・ケネディ国際空港 18 時 05 分発 NH103 便で成田国際空港へ。 翌 9 月 19 日 21 時 00 分に成田国際空港に到着して、現地解散。

3.現地交流

(1)大学の講義への参加

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【実施日】 ① 15 日(木)8 時半~9 時半 ②16 日(金)11 時~12 時

農学部 Tewari 教授のクラス Fackler 先生の留学生向けの英作文のクラス テネシー州立大学マーチン校では、2 つのクラスに参加させていただいた。 1 つ目は、農学部 Tewari 教授のクラスである。40 名程度の受講者の前で、引率の秋葉

教授が青森県や弘前市の紹介、そしてアメリカと日本の農業問題の共通点と相違点につ

いて講義された。その後に、私達学生がアメリカ全体とテネシー州の農業の現状と、日本

の農村部が抱える問題とを比較しながら、日本が学ぶべき課題などについて、英語でプレ

ゼンテーションを行った。受講している学生たちは熱心に聞いてくれたようだった。大勢

のネイティブ・アメリカンの前で英語の発表を行う機会は初めてであったということも

あり、私達にとって非常に貴重な経験となった。 2 つ目は、Fackler 先生による、第 2 言語として英語を学ぶ留学生向けに開講されてい

る英作文のクラスだ。クラスは 7 名前後の留学生によって構成されており、それぞれの

出身国はベトナム、スペインなど多岐に渡っていた。私たち日本人学生は 1~2 名ずつ、

留学生の 3 つのグループにそれぞれ割り振られて、グループごとに段落ごとに切り分け

られた英文を、意味が通るように並び替えるという活動をゲーム形式で行った。また、そ

の後には各自が任意で選んだ語句から連想する英文をつくる活動をそれぞれ個人で行っ

た。第 2 言語として英語を学ぶ学生との交流は、お互いに発音やイントネーションに特

徴などがあることもあって聞き取りや理解が難しく、英語での意思疎通を図りながらの

グループワークには困難もあったが、楽しみながら行うことができた。 図 1 農学部での報告の様子

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図 2 英作文の授業風景

(2)テネシー大学マーチン校 学長との会食

【訪問日】9 月 16 日(金)8 時 00 分~8 時 40 分 大学の学長旧邸の朝食会にご招待いただき、マーチン校学長のボブ・スミス氏や国際学

部の学部長 Malcolm Koch 教授、農学部学部長ウィンターズ教授、メルホーン教授、トゥ

ワリ准教授、国際学部の Fenning 氏と会食を行った。弘前大学とマーチン校は協定校と

して 50 年の歴史があるということ、日本とアメリカの農業について、メンフィスの寒さ

についてなどをお話しされた。また、今回の訪問で印象に残った事柄について学生がお伝

えする機会もあり、和やかな雰囲気の中で進められた。スミス氏の優しいお人柄によって、

当初持っていた緊張感もいつの間にかほぐれ、楽しく過ごさせていただいた。 図 3 会食後の 1 枚

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アメリカ農業に関する現地調査報告書

Ⅰ. アメリカ農業の概況

外山 颯

1. 調査の目的 昨年 2 月に行った弘前大学 PBL プログラムのベトナム調査では、安全野菜や伝統的工芸

村など、農村の世界への発信力の高さが見られた一方で、農村からの若年層人口の流出や耕

作放棄地といった日本と同じ問題の解決が急がれていることが理解できた。 日本では、こうした農業問題に対し、政府によって今後目指すべき方向性として大規模

化・法人化・IT 化・高付加価値化・輸出型農業化などが打ち出されてきた。そこで、これ

らを既に体現しているであろうアメリカ農業の例を実際に見ながら、それが日本、中でも弘

前にとってどれだけ適応可能かどうか検討することを今回の調査の目的とした。 2. アメリカの農業の概要 調査実施前に以下のデータを収集して、アメリカ農業の概況や日本農業との比較を行っ

た。 2-1 農業部門

表 1 は、日米の農業部門の GDP に占める割合を比較したものである。日本とアメリカの

間の GDP に占める農業部門の割合は 0.2%の差しかない。また、表 2 では、アメリカ国内

における農産品上位 5 品目が示されている。そのうち、牛と子牛が も多く、上位 5 品目

の中で約 50%を占める。 表1 農業部門の割合比較

(注) GDP は名目額。( )内の数値は対 GDP 比率

(資料)国連統計(2013)

表2 アメリカ農産品(Agriculture Commodities)上位 5 品目

(億USドル)アメリカ 日本

国内総生産(GDP) 167,681 48,985うち農林水産業 2,266 577

(1.4) (1.2)1人当たりGDP 52,392 38,528

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(参考) 「State fact sheets」USDA(2015)

2-2 日米間の農産物貿易

表 3 では日本とアメリカの農産物輸出額と輸出総額に占める割合が、表 4 では日本の対

米農産物貿易の上位 5 品目とその割合がそれぞれ示されている。日本からの輸出と比較し

て、アメリカの対日農産物輸出額と輸出総額に占める割合 23.2%と多い。具体的な品目を

みると、日本からは主に海産物が多く輸出され、逆にとうもろこしや大豆などの農産物をア

メリカから輸入している。 表3 日米の農産物輸出額割合

(注) ( )内の数値は総額に占める割合

(資料)財務省貿易統計(2015)

表 4 農産物貿易上位 5 品目

(千ドル) シェア(%)牛と子牛(Cattle and calves) 78,228,639 20.8とうもろこし(Corn) 48,094,118 12.8乳製品、牛乳(Dairy products, Milk) 35,739,249 9.5大豆(Soybeans) 33,184,310 8.8ブロイラー(Broilers) 28,709,834 7.6その他 155,212,791 40.9総額 379,168,941 100.0

(百万ドル)

総額 125,814 66,588農林水産物 885 15,450

(0.7) (23.2)

日本→アメリカ アメリカ→日本

日本→アメリカ (百万ドル) シェア(%)ホタテ貝(生・蔵・凍等) 105 11.9ぶり(生・蔵・凍) 96 10.9アルコール飲料 78 8.8ソース混合調味料 48 5.4緑茶 36 4.1その他 522 59.0アメリカへの農林水産物の輸出総額 885 100

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(資料)財務省貿易統計(2015)

2-3 農業部門生産性 表5は、アメリカと日本の農業部門生産額、農業経営体数、耕作地面積、労働生産性と土

地生産性及びその増加率を表している。アメリカと日本はどちらも農業部門生産額、労働生

産性と土地生産性が過去 10 年間で増加している一方で、農業経営体数と耕作地面積は減少

している。生産性に着目するとアメリカの労働生産性については日本の約2~3倍、土地生

産性は日本の約8分の 1 であることから、アメリカの農業は土地集約的であり、他方日本

の農業は労働集約的であることが分かる。ただし、その増加率は、労働生産性、土地生産性

ともにアメリカの方がはるかに高い値になっており、それは農業技術の高度化の違いが原

因になっているものと想像できる。

表5 農業部門生産性

(注) 1ドル=100 円換算で計算

(参考)「State fact sheets」USDA(2015)、「農業センサス」農林水産省(2000,2005,2010,2015)、

(参考)「生産所得農業統計」農林水産省(2000,2005,2010,2015)

2-4 農業経営体

表6は農業経営組織の形態を表している。経営体数は、アメリカ、日本ともに過去 10 年

間減少しているが、日本の経営体数の方が大きく減少している。そのうち個人/家族経営が、

アメリカ、日本ともに中心的な組織体であり、10 年間少しずつ減り続けている。 日本と比べて、アメリカの個人/家族経営の割合は 10%ほど低く、代わりに家族経営法人

や付近の少数の農家での共同経営の割合が高くなっている。それに対して、日本は会社や農

事組合法人による法人化が多い。 アメリカは 2002 年から 2007 年にかけて経営体の総数が増加しているのにも関わらず、

個人/家族経営・個人事業数とその全体に占める割合が減少している。そのため、この時期

アメリカ→日本 (百万ドル) シェア(%)とうもろこし 2,611 16.9大豆 1,175 7.6豚肉 1,165 7.5牛肉 976 6.3生鮮・乾燥果実 957 6.2その他 8,566 55.4アメリカからの農林水産物の輸入総額 15,450 100

2002 2007 2012 2000 2005 2010 2012農業部門生産額(千ドル) 218,156,238 327,656,296 439,138,863 85,028,406 85,119,000 86,260,223 93,119,607農業経営体数(千経営体) 2,128 2,204 2,109 2,337 2,009 1,679 1,377農業部門 労働生産性(ドル) 102,517 148,664 208,221 36,384 42,369 51,376 67,625増加率(%) 45.0 40.1 16.5 21.3 31.6耕作地面積(千ha) 175,700 164,474 157,702 4,830 4,692 4,593 4,549農業部門 土地生産性(ドル) 1,242 1,992 2,785 17604 18,122 18,532 20470増加率(%) 60.4 39.8 2.9 2.3 10.5

アメリカ 日本

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に組織化が活発に行われていたと思われる。実際、この時期では共同経営の割合が も増加

している。一方で、日本については経営体数が 10 年前はアメリカとだいたい同じくらいだ

ったが、現在までに大きく減少している。非法人化されている経営体の割合が徐々に減少し

ているため、組織化が行われていることは確かだが、それよりも農業自体をやめてしまうこ

とによる減少が多いと思われる。 表6 アメリカと日本の農業経営組織形態

(注) ( )内の数値は農家数に占める割合

(参考) 「State fact sheets」USDA(2015)

(注) ( )内の数値は全経営体数に占める割合

(参考)「農業センサス」農林水産省(2005,2010,2015)

表7は、耕作地面積からみた農家の規模の割合を表している。アメリカと日本では国全体

の耕作地面積に大きな差があるため、一概に言えないが、アメリカにおける中規模以上(500エーカー以上)の農家と日本における中規模以上(5.0ha 以上)の農家の割合を比較すると、ア

メリカは日本の約 2 倍の割合が中規模以上の農家となる。また、100 エーカー未満の規模

(1エーカーは約 0.405ha)の農家は、アメリカ 54.8%に対して、日本は日本の 97%以上

である。

2002 2007 2012農業経営組織(アメリカ) 2,128,000 2,204,000 2,109,000

個人/家族経営・個人事業主 1,909,598 1,906,335 1,828,964(89.7) (86.5) (86.7)

家族経営法人 66,667 85,937 95,142(3.1) (3.9) (4.5)

非家族経営法人 7,085 10,237 11,574(0.3) (0.5) (0.5)

共同経営 129,593 174,247 137,987(6.1) (7.9) (6.5)

その他 16,039 28,136 35,654(0.8) (1.3) (1.7)

2005 2010 2015農業経営組織(日本) 2,009,380 1,679,084 1,377,266

非法人化 1,989,739 1,657,120 1,349,937個人/家族経営体 1,976,016 1,643,518 1,339,964

(98.3) (97.9) (97.3)法人化されている 19,136 21,627 27,101

(1.0) (1.3) (2.0)会社 10,982 12,984 16,573各種団体 5,053 4,069 3,438

農協 4,508 3,362 2,644森林組合 17 33 27その他 528 674 767

農事組合法人 2,610 4,049 6,199その他 491 525 891

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表8は、販売金額からみた農家の規模の割合を表している。両国ともに 50,000 ドル(500 万

円)以上の規模の農家の割合が増加している。しかし、日本は 500 万円以下の規模の農家の

割合がアメリカより高く、100,000 ドル(1,000 万円)以上の規模になるとアメリカの方が圧

倒的に多い。 表7 農家の規模別割合

(参考) 「State fact sheets」USDA(2015)、「農業センサス」農林水産省(2010,2015)

表8 販売金額規模別経営体数割合

(参考) 「State fact sheets」USDA(2015)、「農業センサス」農林水産省(2010,2015)

2-5 農業の高齢化、耕作放棄地

表9から見た農業就業者の平均年齢は、日本は 60 歳を超えていて、アメリカよりも7~

8歳高いということが分かる。両国とも年々高齢化が進んでいる。 また、耕作放棄地面積についても日本は増加している。アメリカの耕作放棄地に関する詳

細なデータは事前調査の段階では得られなかった。しかし、現地テネシー州ナッシュビル農

業組合所長や職員へのインタビューから「アメリカは耕作地が広大であり、需要が大きいた

め不動産が積極的に介入するし、個人での土地のやりとりもよく行われている。そのため、

耕作放棄地は存在しない」ということであった。確かにそのような状態であれば土地が流動

的で集積されやすく、大規模化にもつながりやすいのではないかと思う。 表9 農業就業者の平均年齢

(参考) 「State fact sheets」USDA(2015)、「農業センサス」農林水産省(2005,2010,2015)

耕作地面積規模別経営体割合(%) 耕作地面積規模別経営体割合(%)2,002 2007 2012 2010 2015

1~99エーカー 51.0 54.4 54.6 1.05 1.17 経営耕地なし100~499エーカー 33.1 31.0 30.4 54.66 52.66 ~1.0ha500~999エーカー 7.6 6.8 6.8 38.51 38.55 1.0~5.0ha1000~1999エーカー 4.7 4.2 4.3 3.12 3.79 5.0~10.0ha2000エーカー~ 3.7 3.6 3.9 2.96 3.83 10.0ha~

アメリカ 日本

販売金額規模別経営体割合(%) 販売金額規模別経営体割合(%)2002 2007 2012 2010 2,015

10.30 9.59 販売なし~9999ドル 59.3 59.8 56.6 48.78 49.50 ~100万円10,000~49,999ドル 19.4 18.3 18.9 26.44 24.73 100万~500万円50,000~99,999ドル 6.6 5.7 6.1 6.83 7.07 500万~1,000万円100,000~499,999ドル 11.3 10.9 11.0 7.06 7.88 1,000万~5,000万円500,000ドル~ 3.3 5.3 7.4 0.89 1.23 5,000万円~

アメリカ 日本

年 2002 2007 2012 2005 2010 2015

平均年齢(歳) 55.3 57.1 58.3 63.2 65.8 66.4

アメリカ 日本

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3. アメリカの農業組合(Farmer Cooperative) 9 月 14 日に TFC (Tennessee Farmers Cooperative、テネシー州ナッシュビル農業組合)を訪問した。同日は、品評会と農業会の会議が行われる日であった。TFC 組合長や職員へ

のインタビューによると、TFC は農家がメンバーとなって、1945 年に創設された。現在州

内に 160 の店舗、7,500 近くの農場が加盟している。これは、テネシー州の約 7 割の農家を

占めており、農家以外の人々も加盟はできるようだが数は少ない。TFC が携わる業務とし

ては農作物や、化学肥料、エタノール等の加工品、農耕用機械などの生産、販売の他にも、

農業部門への参入希望者に対するインターンシップ実施などの教育部門にも力を入れてい

る。

品評会の様子 農業会の会議の様子

TFC の Feed Mill 工場も見学した。そこでは袋詰めからトレーラーに積むまでほとんど

が自動で行われていた。案内してくださった TFC のメンバーの説明によるとこの工場では、

飼料用に 1 日に約 150 トンの牧草と 120 トンのコーンを袋詰めしている。Feed Mill 工場

は他に2つあるが、この工場は年間約 250,000 トン、テネシー州の約 70%の飼料を生産し

ていることになる。原料はテネシー州以外からも仕入れており、時期によって仕入れる先を

変えている。特に、テネシー州で収穫できない冬の時期は南部から原料を仕入れるようだ。

輸送については 60~70%は専用の列車を、残りはトラックが用いられている。 TFC は、農作物の高付加価値化だけではなく、他にも農業用器具、機械を製造する工場

や、エネルギーとしてのエタノール工場も多くあり、インターンシップの実施と合わせて農

業部門における雇用の増加に積極的な役割を果たしている。これらの雇用の増加が都会か

ら田舎へ U ターンしてきた人々や移動してきた人々の受け皿となる。また、TFC は「儲か

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る農業」を掲げており、都会へ出て働くよりも稼げる農業の実現を目指している。 このように COOP の業務は多岐にわたるが、それらは「マーケティング型(Marketing

Cooperatives)」「購買型(Purchasing Cooperatives)」「サービス型(Service Cooperatives)」「複合サービス型(Multi-Service Cooperatives)」の4つに分類できる。具体的には、

Marketing Cooperatives では農作物等(牛乳、野菜、綿花、砂糖、…)の販売、Purchasing Cooperatives は farm supply や supply cooperatives とも呼ばれ、農作業に必要な生産財

(化学肥料、種苗、ビニールハウス等の設備、…)の販売、Service Cooperatives は保険、灌

漑、植物と動物の研究(リサーチ)、害虫駆除などのサービス、Multi-Service Cooperative で

は農業部品や機械の製造、流通、輸出など複数のサービスが行なわれている。 COOP は原則、会員によって運営される。複数のエリアごとに会員の中からリーダーが

選出されるが、その際、会員 1 人につき 1 票で投票が行われる。COOP 内の重要な決定も

同じである。 日本の農業協同組合(JA)と比較すると、業務の内容はだいたい似ているように感じる。

しかし、会員の構成は大幅に異なる。先ほども述べたが、TFC では会員のほとんどが農家

であり、農家以外の会員はごく少数であった。表10は、JA の組合員のうち農家の正組合

員数と非農家の准組合員数とその比率を表している。正組合員数は年々減少しており 2009年には過半数が准組合員によって占められるようになった。 表10 農協組合員構成

(注) ( )内の数値は全組合員数に占める割合

(参考) 「総合農協統計表」農林水産省(2008,2009,2010,2011,2012,2013)

農業用器具の工場

2008 2009 2010 2011 2012 2013全組合員数 9,494,334 9,579,441 9,693,855 9,834,031 9,977,967 10,145,363正組合員数 4,828,192 4,775,204 4,720,274 4,668,961 4,614,306 4,561,504

(50.9) (49.8) (48.7) (47.5) (46.2) (45.0)准組合員数 4,666,142 4,804,237 4,973,581 5,165,070 5,363,661 5,583,859

(49.1) (50.2) (51.3) (52.5) (53.8) (55.0)

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Feed Mill 工場

農業用器具の工場

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TFC での集合写真

2.エタノール工場見学

鹿内裕仁

我々が見学したエタノール工場 Green Plains Obion LLC は、2007 年設立され、1 年で

1 億 2500 万ガロンを生産している。これは 2015 年アメリカの総エタノール生産量の

14

0.8%ほどである。目的は、生のコーンは価格が流動的であるため、エタノールに加工し

て安定した価格で販売することで、農業組合が中心となって設立された。14 のエタノール

企業(企業・組合)が 1 つになり、この工場以外にも 3 つある。見学した工場では、国内用

を生産しており、他の工場ではメキシコ、ヨーロッパ、シンガポールへの輸出用として生

産している。この工場では 60 人の雇用を創出しており、エンジニアの雇用はないが、技

術を持っている従業員はいる。ここでは、まず、とうもろこしの成分を分析して、ローカ

ル用(飼料)かエタノール用に分けて買い取り価格などを決める。この会社の周りに自社の

コーン畑があり、テネシー州内から原料を集めるが、在庫が尽きそうな場合は他州から持

ってくる。コーンの貯蔵施設があり、5.5million ブッシュ(1 ブッシュ=5860 ポンド)の

コーンが入り、油分による火災を防止するため一定の温度で貯蔵される。 下の①のグラフから、世界的なエタノールの生産量は上昇しており、近年はアメリカの

生産量が全世界の半分を占めていることがわかる。また、図②は、アメリカにおけるコー

ン生産量の約 3 割弱がエタノール用コーンとして使われていることを示している。図③を

見ると、エタノールの消費量は年々伸びており、代わりに MTBE(MTBE とはメチルタ

ーシャリーブチルエーテル CH₃OC(CH₃)₃の略称であり、メタノールとイソブチレンの

含酸素化合物である。効果として、ガソリンのオクタン価を上げる役割がある。)の消費

量は 2007 年から全くないことがわかる。アメリカでは、2005 年「エネルギー政策法」、

2007 年「エタノール自立・保障法」により RFS(Renewable Fuels Standard:再生燃料使

用基準量)の増加を決定して以降、エタノールの生産量・消費量・コーンの総生産量とエタ

ノール生産に用いられるコーン量、またそのプラント量・エタノール消費量すべてが上昇

傾向にあり、アメリカでのエタノールの需要が高まって、生産規模は拡大していると言え

る。図④で、それが確認できる。 エタノール貯蔵庫

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原料搬入口

図① 各国のエタノール生産量

図②コーンの総生産量とエタノール用コーンの生産量

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図③ アメリカのエタノール消費量

図④ アメリカのエタノールプラント量

3.テネシー州の農業と大規模農場

黒川直樹

(1)テネシー州農業の基礎データ

17

1-1)アメリカ全土とテネシー州の農業 初めに、アメリカ全土と我々が調査で訪れたテネシー州の農業を比較してみたい。 全農業経営組織をみてみると、個人・家族経営・自営業形態の組織の割合は全ての年で 9

割を少し超える値になっているが、テネシー州では 1997 年に 8 万 3,403 個から 2012 年に

は 6 万 3,175 個にまで減少した。アメリカ全土ではその割合は 8 割強で、テネシー州は個

人・家族経営・自営業の割合が高い州となっている。一方で共同経営と法人を合わせた組織

化の割合は、アメリカ全土では 2012 年 11.5%となっているものの、テネシー州では 6.4%と低い。 農業経営者の平均年齢はテネシー州では 1997 年の 54.8 歳から 2012 年には 59.2 歳へ、

アメリカでは 1997 年の 54.0 歳から 58.3 歳へともに上昇しているが、テネシー州のほうが

若干高齢化は進んでいるといえる。 農業で生計を立てる経営者の割合は、テネシー州とアメリカの両方で 2002 年から 2007

年にかけて減少し、2012 年には微増した。2012 年のテネシー州は 41.8%に対してアメリ

カ全土では 47.8%と、すべての年でテネシー州のほうが低い値となっている。農業収入も

少なく、兼業化が多いためと考えられる。 テネシー州の農地に占める耕作地の割合が 2012 年では 49.0%で、アメリカ全土の 42.8%

と比べて耕作が盛んであるといえる。しかし、テネシー州のその割合は 1997 年 62.2%から

2012 年には 49.0%まで減少した。牧草地の割合からは、2012 年アメリカ全土は 45.4%と

大きいが、テネシー州の場合 1997 年 9.2%から 26.8%まで増加していることから、徐々に

耕作地の牧草地への移転が進んでいると予想できる。 表 1 アメリカとテネシー州の農業比較

1997年 2002年 2007年 2012年 1997年 2002年 2007年 2012年91,536 87,595 79,280 68,050 2,215,876 2,128,982 2,204,792 2,109,30383,403 82,866 72,675 63,175 1,922,590 1,909,598 1,906,335 1,828,96491.1 94.6 91.7 92.8 86.8 89.7 86.5 86.77,031 3,996 5,568 3,419 185,607 129,593 174,247 137,9877.7 4.6 7.0 5.0 8.4 6.1 7.9 6.5769 452 865 963 90,432 73,752 96,074 106,7160.8 0.5 1.1 1.4 4.1 3.4 4.4 5.0ー 392 693 841 ー 66,667 85,837 95,142ー 60 172 122 ー 7,085 10,237 11,574333 281 172 493 17,247 16,039 28,136 35,654

54.8 56 57.8 59.2 54.0 55.3 57.1 58.3ー 50.3 38.9 41.8 ー 57.5 45.1 47.8

26,380,477 26,378,957 26,383,003 26,391,606 2,262,462,025 2,263,960,501 2,260,994,361 2,260,583,85211,986,258 11,681,533 10,969,798 10,867,812 954,752,502 938,279,056 922,095,840 914,527,6577,451,482 6,992,992 6,047,348 5,329,692 445,324,765 434,164,946 406,424,909 389,690,414

62.2 59.9 55.1 49.0 46.6 46.3 44.1 42.64,233,018 4,365,360 4,226,440 4,546,788 318,937,401 302,697,252 309,607,601 314,964,6002,903,842 2,338,495 2,042,868 2,303,156 76,854,833 75,878,213 75,098,603 77,012,907

24.2 20.0 18.6 21.2 8.0 8.1 8.1 8.41,104,756 1,948,445 2,545,047 2,915,268 398,232,125 395,278,829 408,832,116 415,309,280

9.2 16.7 23.2 26.8 41.7 42.1 44.3 45.4526,178 401,601 334,535 319,696 34,340,781 32,957,068 31,740,212 32,515,057

4.4 3.4 3.0 2.9 3.6 3.5 3.4 3.6(出所)USDA「Census of agriculture」、「Census of agriculture Tennessee」、「State Fact Sheet: Tennessee」

テネシー州 アメリカ

全農業経営組織(個) 個人・家族経営・自営業(個)  全農場経営組織に占める割合(%)

  非家族経営法人(個) その他(個)

農業経営者の平均年齢(歳)

 共同経営(個)  全農場経営組織に占める割合(%) 法人(個)  全農場経営組織に占める割合(%)  家族経営法人(個)

農業で生計を立てる経営者の割合(%)

合計土地面積(エーカー) 農地(エーカー)  耕作地(エーカー)   農地に占める割合(%)

  その他(エーカー)   農地に占める割合(%)

   収穫された耕作地(エーカー)  森林地帯(エーカー)   農地に占める割合(%)  牧草地(エーカー)   農地に占める割合(%)

18

1-2)テネシー州の主要農産物、主要輸出農産物 次にテネシー州の主要農産物と主要輸出農産物を見ることにしよう。 テネシー州の主要農産物は Soybeans、Cattle and calves、Broiler、とうもろこしとなっ

ている。2015 年はこれら 4 つの品目で全体の生産額の 64.7%を占めている。特に Soybeansは 2008 年から 2015 年にかけて生産額が 3 億 3,770 万ドルから 6 億 5,630 万ドルへ急増し

た。総生産額も 28 億 3,580 万ドルから 33 億 4,450 万ドルへ 1.2 倍となった。Soybeans や

とうもろこしは家畜の飼料やエタノールの原料に使われている。 主要輸出農作物は Soybeans が 2014 年では 27.2%を占めており、Soybean meal を併せ

ると全体の 33.5%に達する。その他にも小麦やとうもろこしが輸出され、小麦は生産額の

うち約 7 割が輸出されている。生産額の増加に伴って輸出額は 2008 年の 11 億 1,520 万ド

ルから 2014 年には 17 億 2,120 万ドルへ拡大した。テネシー州で生産されるこれらの農作

物はアメリカの主要輸出物となっており、総生産額に占める総輸出額が 2014 年に 44.0%に達することから、テネシー州では輸出志向型の農業が行われているといえる。

表 2 テネシー州の主要生産農作物

表 3 テネシー州の主要輸出農産物

テネシー州主要生産農産物(100万ドル、シェア(%)はテネシー州の生産額に占める割合)

生産額 シェア 生産額 シェア 生産額 シェア 生産額 シェア 生産額 シェア 生産額 シェア 生産額 シェア 生産額 シェア337.7 11.9 655.0 22.2 493.0 16.2 455.4 14.3 546.1 15.4 762.3 19.9 768.2 19.6 656.3 19.696.8 3.4 107.1 3.8 97.3 3.2 93.2 2.9 105.1 3.0 104.2 2.7 105.5 2.7 106.9 3.2279 9.8 283.1 9.6 268.5 8.8 404.1 12.7 505.2 14.2 535.4 14.0 448.1 11.4 386.6 11.6

139.7 4.9 111.0 3.8 51.8 1.7 100.9 3.2 140.1 3.9 211.9 5.5 197.4 5.0 125.9 3.8472.2 16.7 442.1 15.0 469.8 15.4 439.7 13.8 414.4 11.6 538.7 14.1 550.4 14.1 480.7 14.4

Cattle and calves 537.7 19.0 428.4 14.5 538.1 17.7 569.2 17.9 709.0 19.9 585.0 15.3 747.7 19.1 640.5 19.1All commodities 2,835.8 100.0 2,944.8 100.0 3,046.5 100.0 3,184.5 100.0 3,557.7 100.0 3,827.0 100.0 3,914.6 100.0 3,345.5 100.0(出所)USDA「Farm income and Wealth Statistics」

TobaccoCornWheat

2013年 2014年 2015年

Soybeans

2008年 2009年 2010年 2011年 2012年

Broiler

テネシー州主要輸出農作物(100万ドル、シェア(%)は総輸出額に占める割合)

輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア 輸出額 シェア199.6 17.9 324.3 27.8 276.5 21.8 253.8 16.9 326.6 21.8 400.1 23.4 468.1 27.294.5 8.5 82.1 7.0 89.1 7.0 104.8 7.0 85.4 5.7 77.5 4.5 73.1 4.276.6 6.9 57.5 4.9 56.0 4.4 90.9 6.0 68.7 4.6 61.0 3.6 93.6 5.4

107.1 9.6 50.6 4.3 32.2 2.5 86.1 5.7 72.8 4.9 168.7 9.9 137.5 8.041.4 3.7 69.1 5.9 52.2 4.1 46.4 3.1 64.5 4.3 100.8 5.9 107.7 6.371.0 6.4 66.7 5.7 62.7 4.9 72.1 4.8 73.4 4.9 79.4 4.6 74.2 4.335.2 3.2 30.2 2.6 43.4 3.4 51.1 3.4 62.2 4.2 57.3 3.3 72.4 4.2

1,115.2 100.0 1,164.8 100.0 1,270.0 100.0 1,505.0 100.0 1,495.5 100.0 1,710.3 100.0 1,721.2 100(出所)US Census Bureau「State Export Data」

2015年2011年 2012年 2013年 2014年2008年 2009年

WheatSoybean mealBroiler meatBeef and vealTotal agricultural exports

SoybeansTobaccoCorn

2010年

19

とうもろこし畑 Soybeans 畑

1-3)テネシー州の農場

まず農場を面積別にみると、2012 年には農場面積 1~99 エーカーの農場は 4 万 2,016 個

となっており全体の 61.8%を占めている。100~499 エーカーの農場は 2 万 2,278 個で少な

く、経年変化をたどってみると 1~99、100~499、500~999 エーカーの農場数はいずれも

減少している。1,000~1,999 エーカーの農場は増減を繰り返しており、2,000 エーカー以上

の農場は 1997 年の 367 個から 2012 年には 532 個へと増加している。規模別の農場割合の

変化をみると 1~99 エーカーの中小規模の農場割合は減少しているが、500 エーカー以上

の大規模農場の割合は 1997 年の 4.3%から 2012 年の 5.5%へ拡大している。また平均農場

面積は 131 エーカーから 160 エーカーへと増えている。これらのことからテネシー州では

農場の大規模化が進んでいるといえる。

図表 1 テネシー州の規模別による農場の割合

65.2%  66.3 % 66.2%61.8%

30.5% 29.4% 29.2%

32.7%

2.8% 2.8%

2.9%

3.3%

1.1%1.0%

1.1%

1.4%

0.4% 0.5%

0.6%

0.8%

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

90,000

100,000

1997年 2002年 2007年 2012年

エー

カー

農場

規模別による農場割合(Farms by size)

2000~エーカー

1000~1999エー

カー500~999エー

カー100~499エー

カー1~99エーカー

20

(出所)USDA「Census of agriculture Tennessee」をもとに作成。

(2)アメリカの大規模農場 -マイクさんの共同経営農場-

【訪問日】2016 年 9 月 16 日(金) マーチン校から車で 30 分ほどのところに位置するマイクさんの共同経営農場は、テネシ

ー州でも 大規模に近い 3 万 7,000 エーカーの面積を有している、典型的な大規模農場で

ある。マイクさんと息子2人(37、32 歳)、2 人のフルタイマー、2 人のパートタイマーの

計 7 人で農業を営んでいる。テネシー州あたりでは、基本的に他人は信用できないので農

地に他人や企業を入れることは無く、家族や親戚で行っている農場が多いという。技術集約

的な農業を行っているが、技術は独力で習得し、競争力や効率性をかなり重視している。 またテネシー州支部、アメリカ農家支部という農場組織に加盟しており、ワシントンでロ

ビー活動を行っている。団体に不利益なことがあるときは、団結して立ち向かうこともある

と聞いた。

大規模農場の見学のようす

規模別による農場数(Farms by size)1997年 2002年 2007年 2012年

1~99エーカー(個) 59,689 58,036 52,488 42,016100~499エーカー(個) 27,961 25,775 23,157 22,278500~999エーカー(個) 2,550 2,446 2,287 2,2681000~1999エーカー(個) 969 896 892 9562000~エーカー(個) 367 442 456 532

131 133 138 160平均農場面積(エーカー)

21

この農場ではとうもろこし、Soybeans、冬小麦を生産している。とうもろこしは 4 月に

植えて 8 月に、Soybeans は 3 月に植えて 9 月に、冬小麦は 10 月に植えて翌年の 6 月に収

穫する。とうもろこしをそのまま販売するだけでは利益が少ないため、ほとんどがエタノー

ルや豚の飼料として商品化する。冬小麦は場所を選ばずに生産できるため、とうもろこしの

収穫後の農地でも生産している。生産量はそれぞれとうもろこしが 30 万ブッシェル(7,620トン)、Soybeans が 92 万ブッシェル(2 万 5,038 トン)、冬小麦が 25 万ブッシェル(6,804トン)となっている。近くを流れるミシシッピ川の水運を利用してニューオーリンズまで運

搬し、そこから国外へ輸出している。近年アメリカとキューバの関係が改善して市場の開拓

が進められようとしており、これをビジネスチャンスと考えている。かなり大型のコンバイ

ン 2 台、トラクター2 台、農薬を散布する農業機械を所有しているが、さらに多くの機械を

所持して競争力を高めたいが資金不足のため実現していないという。しかし、他の投入財を

可能な限り少なくすることで、出来るだけ多くの利益をうみ出そうとしていた。

収穫後のとうもろこし畑

GPSを活用した農業が行われていた。GPSによって正確な位置を機械に入力することで、

コンバインが自動で耕作できるようになっていた。自動化されているため 24 時間、夜でも

農作業が行える。また生産データの記録もできるので、種や肥料を節約することが可能とな

った。 農作物市場の価格の動向はパソコンを使ってリアルタイムで確認できるようになってい

た。価格変動を随時チェックすることができるので、適当な時期や価格を考えて出荷のタイ

ミングを調整しているとのことだった。 このように IT を活用した資本集約的な農業が展開されており、若い人が担い手の中心で

あった。機械化が進んでいるため高齢者では対応が困難になっている。

22

大型のコンバイン

(3)青森県農業との比較 ―土地/労働生産性から―

これまでテネシー州の大規模農場をみてきたが、国土面積の違いから日本とアメリカを

単純に比較することはできない。ここでは、農業生産額を耕作地面積で除した土地生産性と

農業生産額を農業経営体数で除した労働生産性を確認しながら、テネシー州と青森県の農

業を比較してみたい。 土地生産性は図 2 のとおりである。青森県は統計の制約上データが 5 年ごとになってい

るが、テネシー州は連続した変化をみることができる。青森県の土地生産性は 2010 年に 1エーカーあたり 3,796 ドルとなっており 2005 年から 170 ドル増加した。テネシー州の 2010年の土地生産性は 343 ドルであり、2002 年から増加しているものの青森県と 10 倍以上の

差がある。青森県の場合、少ない土地面積に多くの労働力や生産財を投入して多収穫を目指

すため土地生産性が高い。 労働生産性は、図 3 のようにテネシー州が青森県を上回っている。青森県の労働生産性

は 2010 年に 1 経営体あたり 3 万 3,310 ドルだが、テネシー州の労働生産性は 2010 年に 4万 7,667 ドルを記録して 2013 年には 7 万 147 ドルに達した。青森県は労働集約的な農業

を行っているため低く、テネシー州は大規模農場で機械を使って収穫する資本集約的であ

るため高くなっている。 このように青森県はテネシー州より土地生産性は 10 倍以上高いが、労働生産性は二分の

一程度にとどまっている。

23

図 1 テネシー州と青森県の土地生産性

図 2 テネシー州と青森県の労働生産性

(出所)図 1、2 ともに USDA「Farms and Land in Farms」、「Farm Income and Wealth Statistics」、内閣府「県民経済計算」、農林水産省「農林業センサス」をもとに作成。

279 310 340 315 318 309 356 349 343 389 391 438 412 383

3,626 3,796

0500

1000150020002500300035004000

20022003200420052006200720082009201020112012201320142015

土地生産性

テネシー州 青森県

37,325 41,277 46,385 43,177 

44,265 

42,739 49,141 

48,322 

47,667 54,375 

62,585 70,147 66,784 

61,960 

27,615 33,310 

010,00020,00030,00040,00050,00060,00070,00080,000

20022003200420052006200720082009201020112012201320142015

労働生産性

テネシー州 青森県

24

まとめ

2016 年度の弘前大学グローカル人材育成事業海外 PBL プログラムに参加した私たちの

活動目的は、日本の農村は、弘前市も含めて、若者の農村人口の流出や荒廃地の増加といっ

た問題に直面しており、これに対して国は IT 化、機械化、集約化、高付加価値化、輸出志

向型農業といった戦略を掲げているが、これらを先進的に体現していると思われるアメリ

カの農業に触れて、それが我々の地域でも適応可能かどうかを検討することであった。 9 月 12 日から 18 日までの間本学の協定校であるテネシー大学マーチン校農学部を訪問

して、教員や学生達との交流を始め、近隣農村、工場、農業組合でインタビュー調査を行っ

た。その結果、まず、アメリカ農業は、輸出志向型、大規模化、機械化が基本であり、農家

や農業組合の在り方として高生産性、収益力、そして競争力を目指すものとなっている実態

を確認することができた。そうしたアメリカ農業の特徴から、また制度的な面からも土地の

流動性が高く、耕作放棄地の問題が発生しない。農地の拡大が容易なので大規模化や機械化

を進め、生産量を増やすことでさらに収益力をアップさせることになるのである。それに対

して日本では、荒廃農地の問題は深刻で、農林水産省が 2014 年に実施した「耕作放棄地対

策に関する意向及び実態把握調査結果」によると、高齢化・労働力不足、土地持ち非農家の

増加、農産物価格の低迷がその理由に挙げられている。2015 年の日本の耕作放棄地は 105万 7,660 エーカー、青森県は 4 万 3,300 エーカーを記録し、年々増え続けている。 次に、アメリカの農業組合は、農業人口の減少に歯止めをかけることにも大きな役割を担

っていた。都会で就職したものの失業して州内に戻ってきた人、農業に関心のある一般人や

学生にインターンシップを行って就農のチャンスを与える以外に、大型の生産財や農業機

械の工場、販売所を設置して、そこに地域で生産した原料を納品させるだけでなく、雇用の

創出にも一役かって、地方からの人口流出を食い止めている。 機械化や大規模化されているアメリカ農業では、それに適したコーンや大豆といった農

作物が飼料や肥料、またエタノールの原料として大量に生産され、労働生産性も高い。それ

に対して、日本、特に弘前の農業は、1 戸あたりの耕作地面積が小さく、生産財や労働力を

多く投入して、非常に付加価値の高い、安心・安全な野菜、宝石のようなりんご等を生産し

ている。しかし、アメリカと比較してコスト高という弱点や、農業従事者の減少と高齢化に

直面する中では、やはり大規模化、競争力強化、収益力向上は避けて通ることができない課

題である。日本の農業の長所、弘前の農業の強みを生かしながら、現状に合わせた大規模化、

機械化、輸出志向型にどう移行させていくかが、今問われている。我々の周りでも鰺ヶ沢町

の風丸農場など、少しずつこうした取り組みが見られるようになってきた。 後に、この度訪米の機械を得て、調査にご協力いただきました方々、調査を後押しして

下さった弘前大学関係者、弘前市の支援者の皆様に心よりお礼申し上げます。青森県、弘前

市の農業の在り方に、今後も大きな関心を持ち続けていきたい。