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アドバンス国際特許事務所 107-0052 東京都港区赤坂 2-13-5 赤坂会館 3 03-5570-6081 03-5570-6085 [email protected] Contents Topics ・アップル、サムスンとの訴訟に先立ち相互特許使用契約を提案していた 【特許】 ・特許制度調和関連会合、二国間会合等の結果報告 【四法共通】 判決情報 ・平成23年(ワ)第27941号 損害賠償請求事件 【特許】 ・平成23年(ワ)第40316号 職務発明の再譲渡請求事件 【特許】 ・平成23年(行ケ)第10398号 審決取消請求事件 【特許】 ・平成22年(ワ)第36664号 作権侵害差止等請求事件(第 1 事件) 平成23年(ワ)第976号 著作権侵害差止等請求事件(第2事件) 【著作権】 ・平成23年(ワ)第23260号商標権侵害差止請求事件 【商標】 海外情報 ・単独の第一審専門裁判所の設置 (スイス) 【特許】 ・ドイツでの特許・意匠法に関する最近の動向 【特許・意匠】 2012 11 1 35

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アドバンス国際特許事務所

〒107-0052 東京都港区赤坂 2-13-5赤坂会館 3階

03-5570-6081 03-5570-6085 [email protected]

Contents

Topics

・アップル、サムスンとの訴訟に先立ち相互特許使用契約を提案していた

【特許】

・特許制度調和関連会合、二国間会合等の結果報告 【四法共通】

判決情報

・平成23年(ワ)第27941号 損害賠償請求事件 【特許】

・平成23年(ワ)第40316号 職務発明の再譲渡請求事件 【特許】

・平成23年(行ケ)第10398号 審決取消請求事件 【特許】

・平成22年(ワ)第36664号 作権侵害差止等請求事件(第1事件)

平成23年(ワ)第976号 著作権侵害差止等請求事件(第2事件)

【著作権】

・平成23年(ワ)第23260号商標権侵害差止請求事件 【商標】

海外情報 ・単独の第一審専門裁判所の設置 (スイス) 【特許】

・ドイツでの特許・意匠法に関する最近の動向 【特許・意匠】

後 記

2012年11月1日

第35号

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概 要

CNET Japan(http://japan.cnet.com/)2012年10月4日更新記事によりますと、アップルコンピュー

タ社(以下、「Apple」とします。)は、サムスン電子(以下、「サムスン」とします。)との訴訟※1が始ま

る数ヶ月前に、サムスンに対して特許の相互使用契約に関する提案を行っていた、としております。

※1:当IPニュース34号トピックス「米国アップル社と韓国サムスン社の特許紛争」及び当IPニュ

ース35号判例紹介「平成23年(ワ)第27941号 損害賠償請求事件」を合せてご覧頂くと良いか

と思います。

当該更新記事の内容

Appleの知的財産ライセンス契約担当ディレクターを務めるT氏が、サムスン側の担当者であるK氏に

宛てた、契約の概要を説明した3ページからなる書簡が今週(10月4日の週)になって公開されました。

これは、非公開に留めておいてほしいという両社からの請求を米連邦裁判所の判事が却下したことを受け

たものであります。

T氏は4月30日(2012年)付けの書簡※2のなかでAppleは、サムスンの3G/UMTS関連特許のライセン

スを使用するにあたり、サムスンが(自社特許の使用料として)要求している2.4%ではなく、合理的か

つ非差別的だとみなす条件(FRAND条件)に基づく使用料にするという提案を行いました。

Appleはその一方で、デバイス1台あたりの自社の特許使用料を、FRAND条件に基づいて33セントと算

定していました。ただしこの提案は、サムスン側が「必須標準特許であると認められた特許の使用をApple

に許可するうえで、ロイヤリティに関するこの共通の基準を採用することに同意するとともに、特許使用

料率に対しても同じ手法をとることに同意する」ことが前提条件となっています。

Appleは米国時間5月7日(2012年)までの回答を要求していたものの、サムスンが回答を返したのか、

また返したのであればどのような内容だったのかについては明らかにされておらず、結局は合意に至らな

かったということになります。

なお、米CNET(CNET Japanの米国法人)はこの書簡についてAppleとサムスンにコメントを求めたも

のの、本記事執筆時点では回答は得られていない、と記事は結んでおります。

(一部更新記事を抜粋し、その一部を当方で変更しました。)

※2:上記トピックスの該当記事(下記に示します。)にて翻訳文が公開されております。

【コメント】

上記に示したように書簡を交わして妥協点を見出そうと努力したのにもかかわらず、結局両社は合意に

到らず、世界各国で訴訟提起という結果になりました(合せて当IPニュース34号トピックス「米国ア

ップル社と韓国サムスン社の特許紛争」をご覧下さい。)。

日本では、特許権を侵害せずという判決が下りましたが(合せて当IPニュース35号判例紹介「平成

23年(ワ)第27941号 損害賠償請求事件」をご覧下さい。)、今後控訴、さらには上告となった場

合にどのような判断を示すか、今後の動きが注目されます。

・上記トピックスの該当記事は下記URLをご覧下さい。

『アップル、サムスンとの訴訟に先立ち相互特許使用契約を提案していた』

http://japan.cnet.com/news/business/35022626/ (CNET Japan2012年10月4日更新記事)

アップル、サムスンとの訴訟に先立ち

相互特許使用契約を提案していた【特許】

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概 要

経済産業省ホームページ本年10月9日付更新記事によりますと、特許庁は、10月1日から4日にか

けてジュネーブで開催された、特許制度調和に関連する一連の会合に出席し、各国制度の比較研究の進展

を確認し、今後ユーザーとの会合を開催することに合意するなど、制度調和の議論の進展に貢献しました。

また、10以上の国・地域の特許庁等と会合を行い、多くの分野で協力を進めていくことを確認しました。

背 景

経済活動のグローバル化に伴い、国際的に事業展開する企業が増加しています。事業活動には、その活

動を行う国における権利の保護が不可欠であるため、事業を展開する国の数だけ出願することが必要で

す。結果として、一つの発明等を複数国に出願する傾向が強まり、外国への出願件数が増大しています。

また、各国・地域の特許庁は同じ発明等について各々審査を行う必要があります。

このような出願人のコスト増や各国特許庁における審査負担の増大といった課題に対処するため、特許

庁は国際的な制度・運用の調和や二国間の協力を推進しています。

日米欧の特許制度調和に関する研究の進展

10月4日にジュネーブにおいて日本、米国、欧州主要国(英国、独国、仏国、デンマーク)の特許庁

と欧州特許庁による「テゲルンゼイ・グループ」※1の会合が開催されました。このグループでは、特許

制度調和に向けて日米欧の制度について比較研究を進めています。今年4月以降、特許制度において大き

な論点となっている重要項目に関して、各国・地域の制度の背景、現在の運用状況、特許制度ユーザーの

意見などの情報を収集・分析する研究を進めてきましたが、今回の会合では、この研究が大きく進展した

ことを確認するとともに、今後、来年春の次回会合に向けて、各国でユーザーとの会合を開催し、研究結

果に対して大学や中小企業も含めたユーザーの幅広い意見を聴取し、議論を進めていくことが合意されま

した。

各国・地域の特許庁等との協力の推進

(1)「先進国会合」を通じた取組

10月3日に先進国による特許制度調和に関する会合(「先進国会合」)が開催されました。各国の法制

度の調和の議論だけでなく、実務的な側面からの調和という観点から、特許協力条約(PCT)の枠組み

の改善等を通じた各国の審査協力の取組や、その取組を支える IT環境の整備について、活発な議論が行

われました。今回の会合では、これらの協力の重要性を確認し、今後も議論を進めていくことが合意され

ました。

また、米国、英国、欧州等の先進国・地域の特許庁とそれぞれ会談を行い、審査協力、機械翻訳、分類

について引き続き協力を進めていくことを確認しました。

特許制度調和関連会合、二国間会合等の結果報告

【四法共通】

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(2)新興国との協力の推進

インド、ブラジル、エジプト等の経済発展の著しい新興国の特許庁と積極的に会談を行いました。新興

国においては経済発展を図るために知的財産の保護・活用を重視した取組が始まっています。インドとの

間では、特許審査処理に関する研修の実施や、インドが受理したPCT出願に対して国際調査を行う機関

として日本特許庁を指定することの検討を進めていくことに合意しました。また、ブラジルとの間では、

日本から専門家を派遣して、急増する出願に対応するために新規採用した審査官に対する研修を実施する

ことに合意しました。

さらに、日本との経済的な結びつきが強いアセアン諸国については、アセアン諸国の特許庁と日本国特

許庁の長官が一堂に会し、アセアンと日本との知的財産分野での協力について議論を行いました。マドリ

ッド協定議定書※2やヘーグ協定※3の加盟に向けた支援等に関して、今後も協力を進めていくことを確認

するとともに、来年4月、日本において「第3回日アセアン特許庁長官会合」を開催することが確認され

ました。

今後の取組

今般の一連の会合の成果を活用し、今後も、我が国を始めとする知財制度のユーザーにとって、世界的

に低コストで予見性の高い権利取得が可能となるように、特許制度調和を始め知的財産分野の国際協力を

推進してまいります、と結んでおります。

※1:「テゲルンゼイ・グループ」につきましては、当IPニュース第30号トピックス「第2回テゲル

ンゼイ会合の結果概要」をご覧頂くと良いと思います。

※2:「マドリッド協定議定書(正式名称:標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月2

7日にマドリッドで採択された議定書)」とは商標についての国際的な出願の取り決めを決めた条約です。

ちなみに日本は、2000年3月14日に該条約の効力を発効しました。

※3:「ヘーグ協定(正式名称:意匠の国際登録に関するヘーグ協定)」とは意匠についての国際的な出願

の取り決めを決めた条約です。ヘーグ協定自体は1925年に作成され、現在までジュネーブ改正協定(2

003年12月23日発効)が発効されておりますが、日本は2012年10月1日現在、未加盟であり

ます。

※上記トピックスの詳細は、下記のURLをご覧下さい。

「特許制度調和を始め知的財産分野の国際協力が前進しました ~特許制度調和関連会合、二国間会合等

の結果報告~(経済産業省ホームページ)」:

http://www.meti.go.jp/press/2012/10/20121009007/20121009007.html

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標 題

「ファイルサイズ」の比較は、本件発明にいう「メディア情報」の比較にほかならず、構成要件G1

及びG2を充足する旨の主張は採用することができない、と判示され、請求が棄却された事例。

(平成24年8月31日 東京地裁判決言渡)

関連

特許法規 第101条第5号

事案の概要

原告が有する名称を「メディアプレーヤーのためのインテリジェントなシンクロ操作」とする特許(以

下、「本件特許」とし、本件特許に係る特許権を「本件特許権」とします。)につき、被告らが別紙被告

製品目録記載1ないし8の各製品を輸入、販売等する行為が同特許権の間接侵害(特許法第101条第

5号)に当たると主張して、被告らに対し、特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の一部請求とし

て、連帯して1億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に

よる遅延損害金の支払を求める事案であります。

本件発明の要旨

本件特許における、特許請求の範囲請求項11、13及び14の記載は、以下のとおりであります(本

判決文では、当該請求項11に係る発明を「本件発明1」、当該請求項13に係る発明を「本件発明2」、

当該請求項14に係る発明を「本件発明3」とし、それらを総称して「本件発明」としております。)。

【請求項11(本件発明1)】

A1 メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって、

B1 前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し、

C1 前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており、

D1 前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており、

E1 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、前記メディアプレーヤーにより再

生可能なコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの属性として少なくともタ

イトル名、アーチスト名および品質上の特徴を備えており、

F1 該品質上の特徴には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設

定、および総時間のうちの少なくとも1つが含まれており、

G1 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定

し、両者が不一致の場合に、両者が一致するように、前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法。

なお、上記に記した記号A1~G1は、本件発明1の構成要件を分説した場合の記号であり、以下「構

成要件A1~G1」とします。

平成23年(ワ)第27941号

損害賠償請求事件 【特許】

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【請求項13(本件発明2)】

A2 メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって、

B2 前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し、

C2 前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており、

D2 前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており、

E2 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは、前記メディアプレーヤーにより再

生可能なメデイアコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に、メディアアイテムの少なくともタイ

トル名およびアーチスト名を含む属性および品質上の特徴を備えており、

G2 当該プレーヤーメディア情報と当該ホストメディア情報とを比較し、両者の一致または不一致を

示す比較情報に基づいて、前記メディアプレーヤーと前記ホストコンピュータとの間でメディアコンテ

ンツのシンクロを行ない、

H2 更に当該シンクロの処理は、前記比較情報が両メディア情報の不一致を示しているとき、前記プ

レーヤーメディア情報には含まれ前記ホストメディア情報には含まれない前記メディアアイテムを、前

記メディアプレーヤーから削除されるべきメディアアイテムとして特定すること、および前記特定され

たメディアアイテムを前記メディアプレーヤーから削除することを含む方法。

本件発明2についてもまた、本件発明1同様に上記に記すように構成要件A2~E2、G2及びH2

に分説しました(以下「構成要件A2~E2、G2及びH2」とします。)。

【請求項14(本件発明3)】

請求項13に記載の方法であって、前記品質上の特徴には、ビットレート、サンプルレート、イコライ

ゼーション設定、ボリューム設定、および総時間のうちの少なくとも1つを含む方法。(以下「構成要件

F2」とします。)

争 点

本件事案における争点を次に示します。

(争点1) 被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か

ア 構成要件E1及びE2の充足性

イ 構成要件F1の充足性

ウ 構成要件G1及びG2の充足性

エ 構成要件H2の充足性

オ 構成要件F2の充足性

(争点2) 被告各製品を輸入、販売等する行為が特許法101条5号の間接侵害に該当するか否か

(争点3) 被告日本法人が被告各製品を輸入、販売等しているか否か

(争点4) 原告の損害額

本件では、上記争点1のウ、エ、オのみ判断しており、いずれも理由がない、即ちいずれも本件特許

の技術範囲に属さない、と判断しております。なお、本稿では上記争点1ウについて次に紹介します。

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当裁判所の判断(要旨)

(1)、(2)省略

(3) 「ファイルサイズ」による比較について

ア 「ファイルサイズ」の「メディア情報」該当性について

原告は、本件発明の「メディア情報」には、当然に「ファイルサイズ」が含まれるから、被告方法は

構成要件G1及びG2を充足すると主張する。

しかし、本件発明における「メディア情報」は、音楽、映像、画像等のメディアアイテムに特有の情

報を意味すると解すべきところ、証拠〈略〉によれば、楽曲ファイル、ワードファイル及びエクセルフ

ァイルにおいて、「ファイルサイズ」は、ファイル名や更新日時といった項目と同列に扱われている一

方、楽曲ファイルにおいては、「ファイルサイズ」はアーチスト、アルバムのタイトル、トラック番号、

ジャンル、タイトル、長さ、ビットレート、オーディオサンプルレートといった楽曲に特有の情報項目

とは区別された項目として分類されていることが認められるから、「ファイルサイズ」は、ファイル名

やファイル更新日と同様に、ワードファイルやエクセルファイルなどの通常のファイルに一般的に備わ

るものであって、音楽ファイル等のメディアアイテムに特有の情報とはいえないというべきである。

したがって、「ファイルサイズ」は、本件発明における「メディア情報」に該当しないと認めるのが

相当である。

イ 原告の主張について

(ア) (省略)

(イ) (中略)

なお、原告は、メディアファイルのファイルサイズは総時間とビットレートに密接に関連するもので

あるのに対し、通常のデータファイルのファイルサイズは総時間とビットレートとの関係性を欠いてい

るから、両ファイルの性質が根本的に異なるとして、音楽ファイルのファイルサイズのみが「メディア

情報」に該当するとも主張するが、そもそも通常のデータファイルには、総時間やビットレートのよう

な属性が存在せず、そのファイルサイズが総時間やビットレートと関係性を有することはあり得ないの

であるから、それを根拠に、メディアファイルのファイルサイズと通常のファイルのファイルサイズが

別物であるとする原告の主張は採用することができない。

(ウ) (中略)

(エ) さらに、原告は、音楽ファイルのファイル名及び変更日と、音楽ファイルのファイルサイズと

を同一視するのは相当でないと主張する。

(中略)。しかし、同時に、本件明細書等には、本件発明が、適切なシンクロ処理のために、ファイ

ル名や変更日に代えて採用した「メディア情報」の中に、ファイルサイズが含まれることを裏付け、又

はこれを示唆する記載があるわけでもない。そして、前記(1)ウのとおり、「メディア情報」をメデ

ィアアイテムに特有の情報と解する限り、通常のデータファイルにも備わるファイルサイズは、ファイ

ル名及び変更日と同様、「メディア情報」には含まれないと解することに何ら支障はないというべきで

あるから、原告の上記主張は採用することができない。

(オ) このほか、原告は、被告製品1では、「メディア情報」の表題の下に、音楽ファイルについて

のタイトル名、総時間などの属性とともに、ファイルサイズが記載されていることから、被告らが、フ

ァイルサイズが「メディア情報」であることを認めていると主張する。

(中略)

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しかし、そもそも本件全証拠を精査しても、当業者において、「メディア情報」という用語が、技術

常識あるいは定義に基づいて確定的な意味を有する用語として使用されていると認めるに足りる証拠は

ないから、たまたま被告製品1に関して、被告らが「メディア情報」との表題の下にその下位概念とし

て「サイズ」を含めて用いていたとしても、それが必ずしも本件発明における「メディア情報」と同義

であるということはできない。また、上記証拠によれば、被告製品1は、「メディア情報」の表題の下

に、タイトル、アルバム、サイズなどのほかに、当該音楽ファイルが保存されている「場所」をも表示

していることが認められるから、上記原告の論法によれば、ファイルの保存「場所」も本件発明におけ

る「メディア情報」に含まれることになるところ、原告の主張を前提としても「場所」が本件発明にお

けるメディアファイルの一致・不一致の判定のための比較対象とされることはないと考えられるから、

原告の上記主張は採用することができない。

(中略)

しかし、たとえ被告らの親会社が出願した特許の公開特許公報において上記のような記載があったと

しても、同公開特許公報における「基本メタデータ」が、本件発明における「メディア情報」と同義で

あると解すべき根拠はないから、この点に関する原告の主張も採用することはできない。

ウ 構成要件の充足性について

以上のとおり、本件発明における「メディア情報」は、メディアアイテムに特有の情報を意味すると

解され、通常のファイルに一般的に備わっている情報項目であるファイルサイズは、この「メディア情

報」には該当しない。

したがって、ファイルサイズを用いたシンクロ方法(被告方法)は、「メディア情報」を比較するも

のとはいえず、構成要件G1及びG2を充足するものと認めることはできない。

(4)、(5)省略

【コメント】

本稿では当裁判所の判断の一部について紹介しましたが、構成要件の充足性について、技術用語等の

文言解釈を主に判断材料として用い、全て被告製品(方法)が構成要件を充足しない、という判断をし

ました。なお、本件事案は、当IPニュース第34号トピックス「米国アップル社と韓国サムスン社の

特許紛争」にも記されているように、諸外国によって判決が様々ですので、前記トピックスと併せてご

覧になると良いかと思います。

本件の詳細は、下記のURLをご参照下さい。

URL:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120905110711.pdf

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標 題

「特許を受ける権利の承継」の解釈が争われた事例。(平成24年9月12日 東京地裁判決言渡)

関連

特許法規 第35条

事案の概要

本件事案は、発明の名称を「不揮発性半導体記憶装置の製造方法」(以下「本件発明※」とします。)

の発明者である原告が、被告(本稿中では「被告会社」とすることもあります。)に対し、原告-被告

間において、原告が本件発明につき特許を受ける権利を有することの確認を求めるとともに、被告が本

件発明の審判手続等において原告に拒絶理由通知書等を通読し、意見を述べる機会を与えなかったこと

などが原告に対する不法行為に該当すると主張し、民法第709条に基づく損害賠償請求として、30

万5694円の支払を求める事案であります。

※:本件事案につきましては、本件発明の内容については争っておりませんので、本件発明の要旨など

は割愛します。

争 点

本件事案における争点は次に示す2点であります。

(争点1) 原告は、本件発明につき特許を受ける権利を有するか。

(争点2) 不法行為の成否及び損害額

本件事案では、上記争点1及び2を判断しており、いずれも理由がない、と判断しております。なお、

本稿では上記争点1について、原告及び被告の主張並びに当裁判所の判断を次に紹介します。

争点1に係る原告及び被告の主張

原告の主張

(1)特許法35条は、使用者が契約、就業規則等により職務発明譲渡義務を定めることができる一方、

従業者が職務発明譲渡対価請求権をもつとすることで、使用者・従業者間の不均衡をイーブンに保とう

とするものであることが大前提である。

上記大前提を基にすると、職務発明につき特許を受ける権利の承継は、特許法35条に適う範囲での

み有効となると解されるところ、当該職務発明が特許を受けるに値する考案であるか否かは特許庁が判

断すべき事項であり、上記判断が未了の段階では、特許を受ける権利の譲渡を完了させることはできず、

特許を受ける権利の承継予約が可能であるにすぎない。

そして、従業者が会社都合退職した場合には、上記退職時点で、職務発明につき特許を受ける権利を

承継する旨の予約は無効となり、特許を受ける権利は、発明者である従業者に、再度帰属すると解する

のが相当である。

平成23年(ワ)第40316号

職務発明の再譲渡請求事件【特許】

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なぜなら、使用者は、職務発明につき通常実施権を有することに加え、従業者との間で、特許を受け

る権利の独占的承継予約をすることにより、特許出願公開以前においては、発明を秘密情報として秘匿

したまま他社に先行する利益及び不正競争防止法に基づく恩恵を享受することができ、特許出願公開以

後においては、特許法29条の2、34条の2・3、65条に基づく恩恵も享受することができる。発

明者が従業者であり続ける場合には、昇進等の形で、上記利益・恩恵の対価を現実化させることが可能

である。しかし、発明者である従業者が退職した場合には、上記対価を現実化させる手段が存せず、使

用者と従業員との間の不均衡が拡大するばかりということになる。

従業者が解雇され、又は、自己都合退職した場合には、上記不均衡が会社により強制されてしまうか

もしれないが、従業者が会社都合退職した場合には、使用者・従業者間の不均衡はイーブンに保たれる

べきである。

特許法35条の趣旨からみて、特許を受ける権利は発明者に帰属するものと考えるべきである。

(2)被告は、倒産を回避するためには労務費を削減する必要があり、そのために、早期退職優遇制度

を利用することを前提に、希望退職者を700名募集することで、全人員の44%を削減したい旨従業

員に働きかけ、原告は、これを受けて退職したものであり、会社都合により退職したものであることは

明らかである。したがって、上記退職時点で、本件発明につき特許を受ける権利の承継予約は無効とな

り、上記権利は原告に再度帰属した。

(3)したがって、原告は、本件発明につき特許を受ける権利を有する。

被告の主張

(1)原告の主張は争う。

(2)職務発明については、使用者は従業者との間で特許を受ける権利等に関し事前に取決めをするこ

とが可能とされており(特許法35条2項の反対解釈)、権利承継等の時期については法文上特段の定

めがなく、この点に関しては、当事者間の合意や使用者の一方的な意思表示により定めることが可能で

あると解される。

本件において、乙社(被告の親会社。原告は甲社の元社員であり、甲社が新規分割して被告会社が設

立された際、被告会社に移籍する。)は、「従業員等の発明取扱規程」によって、従業員等が届け出た

発明が職務発明であるときは、それに基づく特許を受ける権利を会社に譲渡しなければならないと定め

ていた。原告は、平成10年3月30日に、本件発明についての届出書を甲社に提出し、本件発明につ

き特許を受ける権利を乙社に譲渡する意思表示を行っており、乙社は、これに基づいて本件発明の特許

出願手続を進めているのであって、本件発明につき特許を受ける権利が乙社に譲渡されていることは明

らかである。なお、上記「従業員等の発明取扱規程」には、原告と乙社の間において、原告が退職した

時点で上記譲渡が無効になる旨の定めはなされていない。また、原告が上記届出書を提出される際に、

原告と乙社との間で、原告が退職した時点で本件発明につき特許を受ける権利の譲渡が無効となる旨の

合意をしたことはない。加えて、乙社又は被告が、本件発明につき特許を受ける権利を放棄したことは

なく、被告が上記権利を原告に再譲渡した事実もない。

(3)以上によれば、原告が本件発明につき特許を受ける権利を有しないことは明白である。

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11

争点1に係る当裁判所の判断

(1)証拠によれば、乙社の「従業員等の発明取扱規程」には、次の定めがあることが認められる。

ア.第3条(発明の届出)

従業員等が、会社の業務または自己の職務に関する発明を行ったときは遅滞なく会社に届け出なけれ

ばならない。

イ.第4条(権利承継の決定および発明区分の認定)

(ア)第1項

会社は前条に定める届出をうけたときは、当該発明の特許を受ける権利を承継するか否かの決定を行

い、その結果を発明者に通知する。ただし、会社が権利の承継を決定し、かつ発明者から乙の規程で定

める条件で特許を受ける権利を譲渡する旨の意思表示があったものについては、会社が当該発明の出願

適否の判断に基づき行う処理結果をもって、この通知に代えるものとする。

(イ)第2項

前項における意思表示は、前条の届出にあたって届出書の所定欄に記名捺印することによって行う。

ウ.第5条(特許を受ける権利の帰属)

従業員等は、第3条の定めにより届け出た発明が職務発明であるときは、それに基づく特許を受ける

権利を会社に譲渡しなければならない。

(2)本件発明は、乙社における原告の職務発明に当たるものであるところ、原告は、本件発明につき

特許を受ける権利を就業規定等に定める条件で乙社に譲渡した旨の譲渡証書に記名押印した上で、本件

発明の届出書を乙社に提出しているのであって、乙社は、本件発明につき特許出願を行っているのであ

るから、本件発明につき特許を受ける権利は、前記(1)の「従業員等の発明取扱規程」に従い、乙社

に譲渡されたものと認められる。

(3)この点に関し、原告は、特許庁における特許権設定登録前の時点においては、特許を受ける権利

の承継予約が可能であるにすぎず、発明者である従業者が会社都合により退職した時点で上記承継予約

は無効となる旨主張する。

しかし、特許を受ける権利は、当該発明の完成と同時に発生し、当該発明の発明者に原始的に帰属す

るものであって、使用者等は、その発明が職務発明である場合には、契約や勤務規則その他の定めによ

り、予め、当該発明につき特許を受ける権利が使用者等に承継される旨を定めることができると解され

るところ、本件において、乙社が、「従業員等の発明取扱規程」において、職務発明につき特許を受け

る権利を承継する旨定めていること及び本件発明につき特許を受ける権利が、上記定めに従い、原告か

ら乙社に承継されたことは前記(1)及び(2)でみたとおりである。本件発明につき特許を受ける権

利の譲渡(承継)は、上記時点で完了しているものと解されるのであって、特許法35条の趣旨を考慮

しても、上記譲渡(承継)が、発明者の退職によって無効となるものと解することはできない。

本件において、ほかに、上記承継の効力を否定すべき理由は見いだせず、また、上記のとおり承継さ

れた特許を受ける権利が、原告に再度帰属したとみるべき事情も認められない。

(4) したがって、原告の主張は採用できず、原告は、本件発明につき特許を受ける権利を有しない。

主 文

(1)原告の請求をいずれも棄却する。

(2)訴訟費用は原告の負担とする。

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【コメント】

本件事案においては、特許を受ける権利の承継の解釈において、原告が「特許庁における特許権設定

登録前の時点においては、特許を受ける権利の承継予約が可能であるにすぎず、発明者である従業者が

会社都合により退職した時点で上記承継予約は無効となる」と主張したのに対し、当裁判所では『特許

を受ける権利は、当該発明の完成と同時に発生し、当該発明の発明者に原始的に帰属するものであって、

使用者等は、その発明が職務発明である場合には、契約や勤務規則その他の定めにより、予め、当該発

明につき特許を受ける権利が使用者等に承継される旨を定めることができると解されるところ、本件に

おいて、乙社が、「従業員等の発明取扱規程」において、職務発明につき特許を受ける権利を承継する

旨定めていること及び本件発明につき特許を受ける権利が、上記定めに従い、原告から乙社に承継され

たことは前記(1)及び(2)でみたとおりである。本件発明につき特許を受ける権利の譲渡(承継)

は、上記時点で完了しているものと解されるのであって、特許法35条の趣旨を考慮しても、上記譲渡

(承継)が、発明者の退職によって無効となるものと解することはできない。』と判示して、乙社にお

ける「従業員等の発明取扱規程」を重視した判決になりました。

なお、本件事案のような「特許を受ける権利の承継」の解釈が争われた代表的な事件として、「青色発

光ダイオード事件(中間判決)」(平成13年(ワ)第17772号)などがありますので、合せてご覧

頂くと良いと思います。

本件の詳細は、下記のURLをご参照下さい。

URL:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121005181021.pdf

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標 題

引用発明は、構造が複雑で高価な「エジェクター」の代替手段として「スプレーノズル」を用いるものであるか

ら、引用発明には本願発明のように「エジェクター」と「噴霧装置」とを併用することの示唆や動機付けがあると

はいえないと判示され、審決が取り消された事例 (平成24年9月19日 知財高裁判決言渡)

関連法規 特許法第29条第2項

事案の概要

本事案は、本件特許出願に対する拒絶査定不服審判請求において、特許庁が、同請求は成り立たないとし

た本件審決には取り消し事由があると主張して、その取消しを求めたものです。なお、本稿は、容易想到性に

係る審決の認定、判断について執りあげてみました。

事案の経緯

訴外会社は、名称を「水処理装置」とする特許出願をし、拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服審判を請求し

た。これに対し特許庁は本件審判の請求は成り立たないとの審決をした。訴外会社はこの審決を取消す訴訟

を提起したところ、知財高裁はこれを取り消す旨の判決を言い渡した。審理の結果、本件審判の請求は成り立

たないとする本件審決の謄本が訴外会社に送達された。なお、その後、本件特許を受ける権利が訴外会社か

ら本件原告に譲渡された経緯があります。

本件発明の内容

上部に被処理水の供給口2、下部に排出口3が設けてある圧力容器1と、前記圧力容器1の供給口2には被

処理水を供給する管路7が接続してあり、この管路7にオゾン発生装置8が連結してあるエジェクター9が設け

てあり、前記圧力容器1内部には供給口2に連結した噴霧装置4が設けてある水処理装置。

本願発明 引用発明

引用発明の内容

底部に排出口が設けてあるオゾン反応タンク(容器)1の供給口に液体(被処理水)を供給する管路4が接続し

てあり、反応タンク1内部には、オゾンガスが供給されると共に供給口に連結したスプレーノズル(噴霧装置)

2、3が設けてある反応装置。

本件審決理由(被告の主張)の要旨

(1)本願発明は、引用発明(引用例に記載された発明)及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明する

ことができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

平成23年(行ケ)第10398号

審決取消請求事件 【特許】

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(2)本願発明では、「被処理水を供給する管路に、オゾン発生装置が連結してあるエジェクターが設けてあり、容器

内部には供給口に連結した噴霧装置が設けてある」のに対し、引用発明は、「オゾン反応タンク(容器)の供給口に

液体(被処理水)を供給する管路が接続してあり、反応タンク内部には、オゾンガスが供給されると共に供給口に連

結したスプレーノズル(噴霧装置)が設けてある」点で相違している。

(3)しかし、被処理水にガスを供給するにあたり、被処理水とガスを加圧状態で送り出す機能を有する気液混合のた

めのエジェクターを管路に設けることは周知の事項である。(4)引用例には、オゾンガスを液体中に容易に溶解させ

るという課題を解決するにあたり、エジェクターのような複雑で高価な設備を用いずとも課題解決を図ることができる

手段が開示されてはいるが、引用例では、エジェクターは「複雑で高価な設備」とされているに過ぎない。

審決取消事由(原告の主張)の要旨

(1)引用発明は、エジェクターを使用してオゾンガスを被処理水に溶解することを否定してオゾン容器内にノズルで

単に噴霧するとしたものであるから、エジェクターとノズルを組み合わせることはあり得ない。

(2)本願発明は、圧力容器とエジェクターとを組み合わせることにより、供給される被処理水の圧力を高め、圧力容

器内のオゾンガス圧力を維持するものであるが、引用例にはこの点についての記載がない。

当裁判所の判断

(1)(本願明細書の記載によれば)本願発明は、オゾンを被処理水に効率良く溶解させるために、オゾン発生装置に

連結された管路にエジェクターを設け、このエジェクターによって圧力容器内の圧力を高めるとともに、噴霧装置に

よってオゾンと被処理水の接触面積を増やすものであって、「エジェクター」と「噴霧装置」を併用するものである。

(2)他方、引用発明は、接触反応が構造が複雑で、しかも高価なエジェクターに替えて、エジェクターより接触反応

器の構造が簡単で安価なスプレーノズルを用いるものであるから、スプレーノズルはエジェクターの代替手段であ

る。そうすると、引用発明において、接触反応器の構造が複雑で、しかも高価なエジェクターを敢えて用いようとする

動機付けがあるとはいえない。

(3)被告は、引用例ではエジェクターは「複雑で高価な設備」とされているに過ぎないものであるから、引用発明に

おいてエジェクターの適用を阻害する事由はないと主張するが、仮にそうであったとしても、上記のとおり、引用発明

のスプレーノズルはエジェクターの代替手段であるから、引用発明にエジェクターを適用しても、本願発明のように

エジェクターと噴霧装置とを併用する構成とはならない。

(4)また、引用発明には、本願発明のようにエジェクターとスプレーノズル(噴霧装置)とを併用することの示唆や動

機付けがあるとはいえない。よって、「エジェクターが設けられた管路を圧力容器に接続すること」が周知の事項であ

ったとしても、引用発明に上記周知の事項を適用できるとはいえない。

(5)以上のとおり、本件審決の判断は誤りであるから、取り消されるべきものである。

【コメント】

進歩性に特有の取消事由として、(1)動機付け、(2)阻害事由、(3)顕著な効果、(4)その他がありますが、本件は

主として(1)に分類される事案と思われます。また、この動機付けについては、①引用例における示唆を挙げたも

の、②周知技術に言及したもの、③技術分野、課題、機能作用の共通性を挙げたもの、④当業者の設計変更に過ぎ

ないことを挙げたもの等に分類されますが、本事案は主として①及び②に該当するものと思われます。上述したよう

に、当裁判所は、本件に関し、引用例には本願発明のような構成(すなわちエジェクターと噴霧装置とを併用する構

成)についての示唆がなく、また周知の事項を引用発明に適用するには阻害要因がある旨判示しています。進歩性

判断の参考となる事例と思います。

本件の詳細は、右記のURLをご参照下さい。URL:http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121005094059.pdf

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標 題

昭和52年頃に餃子・焼売の商品パッケージに使用するイラストの制作を広告代理店Dを介して原告

に依頼した当該商品パッケージの製造業者である被告Pと、完成した当該イラストを当該商品パッケー

ジと商品包装(本件ポリ袋)等に使用している被告Kらに対し、原告が当該完成イラストについて有す

る同一性保持権、氏名表示権、公衆送信権、複製権及び譲渡権等を侵害するとして、損害賠償金等の支

払いが命じられた事案。 (平成24年9月27日 東京地裁民事第46部)

関連法規 著作権法19条1項、同法21条、同法23条1項、同法26条の2第1項

民法163条

判決文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121003120034.pdf

事案の概要

本件は,被告各イラストの著作者である第1事件・第2事件原告(以下「原告」という。)が,①第1

事件被告(以下「被告K」という。)及び第2事件被告(以下「被告P」という。)が被告Kの餃子・焼

売の商品の箱として被告イラスト1-1ないし5-2が付された紙製の本件各カートンを共同して製造

し,本件各カートンを使用した餃子・焼売の商品を共同して販売する行為は,上記原画のイラストにつ

いて原告が保有する著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害行為に当たる,

②被告Kが自己のウェブサイト上に被告イラスト1-1の画像を掲載する行為は,上記原画のイラスト

について原告が保有する著作権(公衆送信権)の侵害行為に当たる,③被告Kが被告イラスト6が付さ

れたポリエチレン製の手提げ袋(以下「本件ポリ袋」という。)を製造し,顧客に手渡す行為が,上記原

画のイラストについて原告が保有する著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一

性保持権)の侵害行為に当たるとともに,著作者の名誉又は声望を害する方法による著作物の利用行為

として著作者人格権のみなし侵害行為(著作権法113条6項)に当たるなどと主張して,被告Kに対

し,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告各イラストを使用した商品包装等の製作,頒布等の

差止め及び被告イラスト6を使用した商品包装等の廃棄を求めるとともに,著作権侵害及び著作者人格

権侵害の不法行為(本件各カートンに係る分は共同不法行為)による損害賠償請求及び不当利得返還請

求の一部請求として3000万円及び遅延損害金の支払を(第1事件),被告Pに対し,同条1項に基づ

き,被告イラスト1-1ないし5-2を使用した商品包装等の製作,頒布等の差止めを求めるとともに,

著作権侵害及び著作者人格権侵害の共同不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の一部請求

として3000万円及び遅延損害金の支払を(第2事件),それぞれ求めた事案です。

本件の争点

本件の争点は多岐にわたりますが、大きくは、(1)被告らによる著作権侵害(請求原因(1)ア)の成

否について、(2)被告らによる著作者人格権侵害(請求原因(1)イ)の成否について、(3)被告Kによ

る著作権及び著作者人格権の侵害(請求原因(2))の成否について、(4)差止めの必要性(請求原因(3))

について、(5)被告らの損害賠償義務(請求原因(4))について、(6)原告の損害額等(請求原因(5))

について、が主な争点となりました。

平成22年(ワ)第36664号著作権侵害差止等請求事件(第1事件)

平成23年(ワ)第976号著作権侵害差止等請求事件(第2事件)

【著作権】

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裁判所の判断

裁判所では、まず事実認定を行った後、各争点について判断を行い、原告の請求を一部認容しました。

(1)裁判所による主な事実認定

ア 原告は,昭和52年ころ,Dの担当者から,被告Kの餃子・焼売の商品のパッケージに使用する

イラストの制作を依頼され,墨一色で描いた5枚のイラスト(本件各イラスト)を制作し,それらの原

画(本件原画)をDに引き渡した。原告は,その際,Dから,少なくとも10万円を超える報酬を受け

取った。

イ 被告Kは,昭和52年ころ,被告Pの担当者から,被告Kの餃子・焼売の商品のパッケージに使用

するイラストのデザインとして,本件原画とFが制作したイラストを紹介され,本件原画を採用した。

被告Pは,そのころ,本件原画を基に,着色をし,「手づくりの味」,「餃子」,「焼売」等の文字を

新たに配置するなどして,被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1を制作した。

ウ 原告は,昭和52年ころ,Dの担当者から,被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1

の校正刷りを示され,色等の仕上がりを確認し,これらのイラストを被告Kが販売する餃子・焼売の商

品のパッケージに印刷して使用することを承諾した。

(2) 被告らによる著作権侵害(請求原因(1)ア)の成否について。

本争点については、更に、(2-1)著作権譲渡について、(2-2)複製権及び譲渡権の取得時効に

ついて、(2-3)使用許諾について、の各内容について判断がなされました。

(2-1)著作権譲渡について。

被告Kは、原告は,昭和52年ころ,Dを介して,被告Pとの間で,原告が被告Pに対し本件各イラ

ストの著作権を譲渡する旨の譲渡契約を締結した旨を主張していました。また、被告Pは,①原告は,

昭和52年ころ,Dから,被告Kの餃子・焼売の商品のパッケージ用のイラスト制作の依頼を受けて,

本件各イラストを制作してその原画(本件原画)をDに提供し,Dから報酬を受領していること,原告

は,その際,被告Kが上記商品のパッケージに本件各イラストを印刷して販売することを承認し,被告

イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1の校正刷りを確認していることからすれば,原告とD

との間で,昭和52年ころ,原告がDに対し本件各イラストの著作権を譲渡する旨の譲渡契約が成立し

た等と主張していました。

しかし、裁判所では、「被告Kの上記譲渡契約の締結の事実をうかがわせる契約書その他の客観的な証

拠は提出されていない」等として被告Kの主張を否定し、被告Pの主張についても「原告がDに対して

上記報酬の支払を受けて本件各イラストの原作品である本件原画を引き渡したことは,本件原画の所有

権の譲渡の事実をうかがわせる事情には当たるものの,著作物の原作品の所有権と当該著作物の著作権

とは別個の権利であり,原作品の所有権は,その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり,

無体物である著作物自体を直接排他的に支配する権能ではないから,著作物の原作品の所有権が譲渡さ

れたからといって直ちに著作権が譲渡されたことになるものではない」点及び、「原告が,本件原画を基

に制作された被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1を被告Kが販売する餃子・焼売の商

品のパッケージに印刷して使用することを承諾したことは,原告がDに対し本件各イラストの著作権を

譲渡したことの根拠となるものではない」などとして、著作権を譲渡する旨の譲渡契約の成立を否定し

ました。

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(2-2)複製権及び譲渡権の取得時効について。

被告Kは、「被告Kが,著作権の譲渡契約を原因として,昭和52年初めころから平成22年3月こ

ろまで本件各イラストを被告Kの商品のパッケージに継続して使用し,自己のためにする意思をもって,

平穏かつ公然に著作物である本件各イラストについて継続して複製権及び譲渡権を行使したから,上記

使用開始時から10年を経過した昭和62年初めころ又は20年を経過した平成9年初めころ,上記複

製権及び譲渡権の取得時効が成立した」旨を主張しました。

しかし、裁判所は、判断の前提として、「複製権(著作権法21条)及び譲渡権(同法26条の2第

1項)は,民法163条にいう「所有権以外の財産権」に含まれるから,自己のためにする意思をもっ

て,平穏に,かつ,公然と著作物の全部又は一部につき継続して複製権又は譲渡権を行使する者は,複

製権又は譲渡権を時効により取得することができるものと解されるが,時効取得の要件としての複製権

又は譲渡権の継続的な行使があるというためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利又

は譲渡する権利を専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的,排他

的に行使する状態が継続されていることを要するものというべきであり,また,民法163条にいう「自

己のためにする意思」は,財産権の行使の原因たる事実によって外形的客観的に定められるものであっ

て,準占有者がその性質上自己のためにする意思のないものとされる権原に基づいて財産権を行使して

いるときは,その財産権の行使は「自己のためにする意思」を欠くものというべきである(複製権につ

き,最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)。」との判例を示し

ました。

そして、裁判所は、「被告Kは,被告P又は被告Kが,「著作権の譲渡契約を原因として」,本件各

イラストを被告Kの商品のパッケージに継続して使用した旨主張するが,前記認定のとおり,原告が本

件各イラストの著作権について譲渡契約を締結したことは認められないから,被告P又は被告Kが,「著

作権の譲渡契約を原因として」,本件各イラストの使用を開始し,これを継続したものということはで

きない。かえって,被告K,原告が,本件各イラストの原画(本件原画)を基に制作された被告イラス

ト1-1,2-1,3,4-1及び5-1を被告Kが販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷し

て使用することを承諾したことに基づいて,被告Pから納品を受けた上記各イラストが付された本件カ

ートン1-1,2-1,3,4-1及び5-1に箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始し,これ

を継続したものであるから,被告Kおいては,その性質上自己のためにする意思のないものとされる権

原に基づいて財産権(複製権又は譲渡権)を行使したものであり,「自己のためにする意思」を欠くも

のといえる。また,被告K,本件各イラストについて他者に利用許諾をして許諾料を得たり,他者によ

る本件各イラストの利用の差止めを求めるなど,外形的に著作権者と同様に複製権又は譲渡権を独占的,

排他的に行使していたことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はない。したがって,本件各イラ

ストの複製権及び譲渡権について取得時効が成立したとの被告Kの主張は,理由がない。」と判断しま

した。

(2-3)使用許諾について。

被告Kは,昭和52年ころ,Dを介して,被告P又は被告Kとの間で,原告が被告らに対し,使用期

間を制限することなく,あるいは被告Kが本件各イラストの著作権を使用し続ける限り,その著作権を

使用許諾する旨の使用許諾契約を締結した旨を主張していました。

これに対し裁判所は、①原告は,昭和52年ころ,Dの担当者から,被告Kの餃子・焼売の商品のパ

ッケージに使用するイラストの制作を依頼され,墨一色で描いた5枚のイラスト(本件各イラスト)を

制作し,それらの原画(本件原画)をDに引き渡し,その際,Dから,少なくとも10万円を超える報

酬を受け取ったこと,②原告は,同年ころ,Dの担当者から,本件原画を基に着色をするなどして制作

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18

された被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1の校正刷りを示され,色等の仕上がりを確

認し,これらのイラストを被告Kが販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することを

承諾したこと,③被告Kは,同年ころ,被告Pに対し,被告Kの餃子・焼売の商品の箱として被告イラ

スト1-1,2-1,3,4-1及び5-1が付された紙製の各カートンを発注し,これに基づいて被

告Pが製作して納品した上記各カートンに箱詰めをした餃子・焼売の商品の販売を開始したこと,④原

告は,昭和55年ころ,被告Kの店舗で,被告イラスト1-1,2-1,3,4-1又は5-1が付さ

れたカートンを使用した餃子・焼売の商品を購入し,さらには,平成13年ころ,被告Kの店舗で,上

記カートンを使用した餃子・焼売の商品が販売のため展示されていることを確認したが,その後,平成

22年2月16日,原告から依頼を受けたBが問い合わせのファックスを送信するまでの間,被告Kに

対し,被告Kが販売する餃子・焼売の商品のカートンに被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び

5-1を使用することが原告の本件各イラストの著作権及び著作者人格権侵害に当たる旨を指摘した

り,抗議等をすることはなかったこと,⑤原告が上記②の承諾をした後,上記④のファックスが被告K

に送信されるまでの間,約33年が経過していることなどの事情を考慮し、更に、餃子・焼売などの食

品のパッケージに使用される図柄等は,当該食品の販売が継続する限り使用されることやその使用が長

期間に及ぶことがあることは,一般的なことであるといえること,被告Kは,昭和29年12月の設立

以来,餃子・焼売等の惣菜の製造販売を業として行っており,昭和52年当時において,餃子・焼売の

商品は被告Kの主力商品であったこと(弁論の全趣旨)を総合考慮して、「原告は,昭和52年ころ,本

件各イラストの原画(本件原画)を基に着色をするなどして制作された被告イラスト1-1,2-1,

3,4-1及び5-1を被告Kが販売する餃子・焼売の商品のパッケージに印刷して使用することの承

諾をすることにより,被告Kに対し,本件各イラストを被告Kが販売する餃子・焼売の商品のカートン

に使用することについて,期間の制限なく,許諾したものと認めるのが相当である。」と判断しました。

(2-4)まとめ

以上の結果、裁判所は、「被告らが,平成12年9月以降において,本件各イラストの複製物である

被告イラスト1-1ないし5-2をカートンに印刷し,本件各カートンを共同して製造し,被告Kが本

件各カートンを使用した餃子・焼売の商品を販売することによって本件各カートンの譲渡を行うことに

ついて,本件使用許諾契約に基づく原告の使用許諾があったものと認められるから,被告らのかかる行

為が本件各イラストについて原告が保有する複製権及び譲渡権の侵害行為に当たる旨の原告の主張(請

求原因(1)ア)は理由がない。」と判断しました。

(3)被告らによる著作者人格権侵害(請求原因(1)イ)の成否について。

原告は、被告らは,共同して「A1」のサインの表示を削除した本件カートン1-2,2-2,4-

2及び5ー2を使用し,本件各イラストについて原告が保有する氏名表示権の侵害をしている旨を主張

しました。

これに対し裁判所は、被告らの上記行為は,原告の氏名表示権侵害行為に当たるものと認められる、

として、原告の主張を認めました。

一方被告らは、被告Kは,原告の著作権等管理事業者の代表者であるBから「A1」の表示を使用し

ないよう示唆と指示を受け,「A1」のサインの表示のないカートンを使用するようになったものであ

るから,被告らの行為は原告の氏名表示権の侵害行為に当たらない旨を主張していましたが、裁判所で

は、Bからそのような指示があったとは認められない、として否定されました。

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19

(4)被告Kによる著作権及び著作者人格権の侵害(請求原因(2))の成否について。

本争点については、更に、(4-1) 公衆送信権侵害について、(4-2) 本件ポリ袋に係る複製権及

び譲渡権の侵害について、 (4-3) 本件ポリ袋に係る氏名表示権及び同一性保持権の侵害について、

(4-4) 著作者人格権のみなし侵害について、の各内容について判断がなされました。

(4-1) 公衆送信権侵害について。

被告Kは,平成22年2月当時,被告Kの本件ウェブサイト上に,被告イラスト1-1の画像を掲載

していました。これに対して原告は,被告Kの本件ウェブサイト上における上記掲載行為が原告が保有

する公衆送信権の侵害に当たる旨主張しました。これに対し裁判所は、被告Kは,本件各イラストの著

作権譲渡,複製権及び譲渡権の取得時効を抗弁として主張するが,上記抗弁がいずれも理由がないこと

は,前記のとおりであり、原告の被告Kによる公衆送信権侵害の主張(請求原因(2)ア)には,理由が

あると判断しました。

(4-2) 本件ポリ袋に係る複製権及び譲渡権の侵害について。

原告は,被告Kは,遅くとも平成15年11月から平成22年11月までの間,被告イラスト6を表

示した本件ポリ袋を製造し,本件ポリ袋に被告Kの商品を入れて顧客に手渡し,本件ポリ袋を譲渡して

おり,被告Kのかかる行為は,本件各イラストについて原告が保有する複製権及び譲渡権の侵害行為に

当たる旨を主張しました。

これに対し裁判所は、認定された事実に基づいて、被告Kの上記行為は,原告の著作物である本件各

イラストの複製及び譲渡に当たるものと認めました。

被告Kはこれに対し、抗弁として「被告Kは,原告と被告Kは昭和52年ころに本件各イラストの著

作権の使用許諾契約を締結し,この使用許諾契約は,使用許諾の対象を限定していないから,本件各カ

ートンのみならず,本件ポリ袋に本件各イラストを使用することも許諾の対象に含まれる,仮に原告が

上記使用許諾契約によって包装・包装紙に限定して著作権の使用を許諾したとしても,本件ポリ袋は,

包装紙の範疇にあるから,上記使用許諾契約の許諾の範囲に含まれる」と主張しました。

これについて裁判所は、「原告と被告Kとの間で,昭和52年ころ,原告が保有する本件各イラストの

著作権について,原告が被告Kに対し,被告Kが販売する餃子・焼売の商品のカートンに使用すること

について,期間の制限なく,許諾する旨の本件使用許諾契約が成立したことは前記認定のとおりである。」

としたものの、「しかしながら,前記のとおり,原告は,昭和52年ころ,Dの担当者から,被告Kの餃

子・焼売の商品のパッケージに使用するイラストの制作を依頼され,墨一色で描いた5枚のイラスト(本

件各イラスト)を制作し,これらの原画(本件原画)をDに引き渡した後,Dの担当者から,本件原画

を基に着色をするなどして制作された被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-1の校正刷り

を示され,色等の仕上がりを確認し,これらのイラストを被告Kが販売する餃子・焼売の商品のパッケ

ージに印刷して使用することを承諾しているが,一方で,原告とDとの間において,本件各イラストを

被告Kの餃子・焼売の商品のパッケージ以外のものに使用することや,5枚のイラストの各図柄を組み

合わせて使用することが話題となったことをうかがわせる証拠はなく,原告が,上記承諾をした際に,

本件各イラストを上記のような態様で使用することを許諾したことを認めるに足りる証拠もない。した

がって,原告の本件使用許諾契約に基づく本件各イラストの使用の許諾が,被告Kが被告イラスト6を

制作することや被告イラスト6が付された本件ポリ袋の譲渡に及ぶものと認めることはできないから,

被告Kの上記主張は,採用することができない。」として被告の主張を否定しました。

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(4-3) 本件ポリ袋に係る氏名表示権及び同一性保持権の侵害について。

ア.氏名表示権については、本件ポリ袋に原告の氏名表示が無い事自体に争いは無く、原告の主張に

対し被告Kは、①本件各カートンに原告の著作者名(「A1」のサイン)を表示している事②一般に包

装紙などには著作者の氏名の表示をしない慣行となっている事、を主張しました。

しかし裁判所では、「上記①の点については,本件各カートンと本件ポリ袋は,別個独立の有体物で

あり,本件各カートンに原告の著作者名の表示があるからといって,本件ポリ袋に付された被告イラス

ト6について原告の著作者名を表示したことにはならない」とし、「上記②の点については,当該慣行

があることを認めることはできないし,また,著作者名の表示をしないことは原告の意思に反すること

が認められる。」として、被告の主張を否定しました。

イ.同一性保持権の侵害について、裁判所は、「本件各イラストと被告イラスト6を対比すると,被

告イラスト6は,原告が主張するように,本件各イラストの図柄を縮小し,色を黒色から緑色に変更し

た上,変更した複数の各イラストを同一平面上に並べるなどして改変したものであるところ,原告本人

の供述によれば,本件各イラストの上記改変が原告の意に反することは明らかである。」として、同一

性保持権の侵害の成立を認めました。

(4-4) 著作者人格権のみなし侵害について。

原告は、「被告Kが本件各イラストの複製物である被告イラスト6を本件ポリ袋に使用する行為は,

本件各イラストを劣化させた上,イラスト単体ではなく模様の一部として使用し,ポリ袋という,安っ

ぽく,およそ芸術性を感じさせることのない素材に使用するものであって,本件各イラストの芸術的価

値を著しく損ねるものであり,原告の名誉又は声望を害する方法による本件各イラストの利用に当たる

といえるから,著作者人格権のみなし侵害行為(著作権法113条6項)に該当する」と主張しました。

しかし裁判所は、「前記認定事実によれば,本件各イラストは,原告が,被告Kが販売する餃子・焼

売の商品を詰めて包装する紙の箱のパッケージ(カートン)に使用する目的で制作した商業的デザイン

であって,原告は,本件各イラストの複製物である被告イラスト1-1,2-1,3,4-1及び5-

1を被告Kの餃子・焼売の商品のパッケージ(カートン)に印刷して使用することを承諾していたもの

であるところ,本件ポリ袋は,被告Kの商品を入れる包装袋として使用されており,カートンとは包装

の形態は異なるが,被告Kの商品を包装するという点ではカートンと共通していること,本件ポリ袋(甲

18)に付された被告イラスト6の構成態様等に照らすならば,被告Kが本件各イラストの複製物であ

る被告イラスト6を本件ポリ袋に使用することによって,絵本作家である原告が社会から受ける客観的

な評価の低下を来たし,その社会的名誉又は声望が毀損されたものとまで認めることはできない」とし

て、原告の主張を否定しました。

(5) 以上の判断を前提として、裁判所では、差止めの必要性(請求原因(3))については、被告イラ

スト6を使用した商品包装の譲渡の差止め並びに同商品包装(本件ポリ袋)の廃棄を求める限度で必要

があるとしました。また、被告らの損害賠償義務(請求原因(4))については、被告Kには、「Bを介し

て,原告から,被告Kが販売する餃子・焼売の商品のカートンに「A1」のサインの表示をしないよう

指示された事実がないのに,これがあったものと誤解した点で過失があり」、更に、「被告イラスト6

が付された本件ポリ袋を使用する際,原告に対し,その使用の許諾の有無について調査確認をしていな

い点で過失がある」として、損害賠償義務の存在を認めました。そして、原告の損害額等(請求原因(5))

については、被告らのカートンに係る著作者人格権侵害による慰謝料(各5万円)、被告Kの本件ポリ

袋に係る著作権侵害による損害額額(54万9千円)、被告Kの本件ポリ袋に係る著作者人格権侵害に

よる慰謝料(30万円)が認定されました。

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【コメント】

本件は、昭和52年頃に被告が自己の商品のパッケージに使用するイラストの作成を訴外Dを介して

原告に依頼し、完成した当該イラストを商品パッケージに使用すると共に、当該イラストを改変して、

商品の包装用袋に使用していたところ、原告から著作権侵害を理由に訴えられたという事案です。

通常の感覚でいうと、報酬の支払いを条件に他人に仕事の完成を依頼した場合には、完成した成果物

は依頼者に引き渡され、その所有権も依頼者側に帰属すると考えがちです。

しかし、著作物は、思想又は感情を創作的に表現した無体財産権であり、人格的要素を含むものでも

あるため、通常の感覚とは異なり、著作物特有の性質を考慮する必要があります。

本件で被告側は、Dを介してイラストの制作を原告に依頼し、完成原稿の引き渡しを受けており、改

変した個々のイラストについても原告のチェックを受けていたため、当該イラストについて自由に使用

できると思い込んでいました。

しかし、完成原稿が引き渡された事で当該原稿の有体物としての所有権は被告に移転したとしても、

当該原稿に表現された無体物としての著作権は移転する訳では無く、そもそも同一性保持権のような人

格権は移転自体が出来ないことになっています。

そのため、被告が当該イラストを使用できる対象は、依頼時に言及された商品パッケージに使用する

範囲に限られ、当該イラストを組み合わせた図柄についても、同一性保持権があるため、自由に使用で

きるものではありませんでした。

一方、著作権者である原告は、「本件各イラストを制作した当時,被告Kが餃子や焼売のパッケージ

に本件各イラストを一定期間(長くて5年,通常は2,3年,短ければ1年以内)に限り使用すること

を許諾したが,永続的な使用許諾や長期間の使用許諾をしたことはない」旨を出張していましたが、裁

判所では、「原告の内心において,原告の絵が個性的であるため,本件各イラストが長く使われること

はなく,自然に本件各イラストの使用が中止されるだろうと予想していたにすぎず,原告が使用期間を

制限する旨の意思表示をしたものと認めることはできない。」とされています。

著作権に限られることではありませんが、当事者双方が内心で思っているだけでは意思表示をしたも

のとは認められません。そのため、こうした当事者間のトラブルを防ぐためには、契約書を作成して、

予め当事者間の意思を明確にしておく事が有益です。

著作権契約書の作成については、著作権特有の制度や規定があるため、専門家に御相談戴くのが最も

望ましいのですが、最近では、文化庁も「著作権契約書作成支援システム」を提供しているため、いく

つかの種類の契約書については、簡便に作成する事が可能です。(文化庁「著作権契約書作成支援シス

テム」http://www.bunka.go.jp/chosakuken/c-system/index.asp)

著作権の移転や使用許諾の範囲及び人格権が問題になった事件として、最近では「ひこにゃん事件」

があり、当事者間で予防的に充分な内容の契約を締結しておくことの重要性が指摘されているところで

すが、著作権の契約は、巨額の投資が関連する事業を除いて、一般には、まだあまり馴染みが薄いよう

です。しかし最近は、著作権が関連する訴訟件数も増加しており、特に人格権の要素が関連する著作権

問題では、著作者の作品に対するこだわりが背景にあるため、訴額の大小に係らずに訴訟に至るケース

もあるようですので、将来を見据えた対策を採っておくことが重要です。

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標 題

原告が、自己の登録商標を侵害するとして、被告に対して差し止め、損害賠償を請求した事件

本件判決文は、下記のURLをご参照下さい。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120913150545.pdf

事案の概要

『本件は、別紙2原告商標目録記載の登録商標の商標権を有する原告が、被告が指定商品に含まれる

シャツに別紙1被告標章目録記載の標章を付する行為が原告の商標権を侵害すると主張して、被告に対

し、商標法36条1項に基づき、シャツに上記標章を付することや上記標章を付したシャツの譲渡、引

渡し等をすることの差止めを求めるとともに、同条2項に基づき、上記シャツの廃棄を求め、さらに、

民法709条に基づき、損害金186万7320円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成2

3年7月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であ

る。』

(原告商標) (被告標章)

争 点

(1)本件の争点は複数ありましたが、裁判所が判断したのは『被告標章の使用が本来の商標としての

使用(商標的使用)といえるかどうか』です。

(2)商標的使用について

商標法では、「商標」及び「標章の使用」について規定しており(商標法2条1項、3項)、他人の登

録「商標」を「使用」した場合には、形式的に侵害となります(商標法25条、37条)(形式的な商標

の使用)。

一方で、登録商標は自他商品識別機能や出所表示機能等を有することが必要とされており(商標法1

条、3条等)、これらの機能が発揮されている使用(本質的な商標の使用)でない、例えば意匠的、装飾

的な使用の場合には、その登録商標の使用とはいえず、商標権の侵害は成立しません。

つまり、形式的には商標を使用していても、実質的、本質的に商標の機能を害していない場合には、

商標権の侵害には該当しません。

平成23年(ワ)第23260号

商標権侵害差止請求事件 【商標】

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当裁判所の判断

裁判所は被告標章について、『被告標章は、胸元に目立つように表示され、その中でも「SURF’S

UP」の部分が大きく表示されているが、「SURF’S UP」は、 原告の造語などではなく、サー

フィン関連のものとして、一般にも、また、Tシャツ等にもしばしば使用されるありふれた表現であり、

需要者がその標章により原告の商品であると認識するなど、それが原告の商標として周知又は著名であ

ると認めるに足りる証拠もないから、それ自体が有する出所識別力はもともと弱いものということがで

きる。

そして、被告標章は、「SURF’S UP」のみからなるものではなく、その「P」の縦棒部分には、

白抜きで「GOTCHA」の文字が「C」を左右反転させた人目を引く形態で配され、また、「UP」の

上部には波の図やGマーク商標が配され、これらが一体として表示されているものである。Tシャツの

出所が一般に表示される襟ネームや前身頃の裾付近に付された2か所のタグには、胸元に付された「G

OTCHA」の文字やGマーク商標に対応するGOTCHA商標やGマーク商標等が付され、襟ネーム

の下方にも「GOTCHA」の文字が記載され、背面側にもGOTCHA商標2等が表示されていて、

商品タグにも「GOTCHA」の文字やGマーク商標が記載されている。これに対し、「SURF’S U

P」は上記の胸元部分以外には表示されていない。こうした表示態様に照らすと、被告商品に接した需

要者は、被告商品を、「SURF’S UP」なるブランドのものとしてではなく、むしろ「GOTCH

A」というブランドのものと認識するものと考えられる。とりわけ、被告が、「GOTCHA」の名を冠

したサーフィンの大会を協賛し、雑誌にも「GOTCHA」や被告の各商標を頻繁に掲載していること

からすると、被告の「GOTCHA」や被告の各商標は、サーフィン愛好家はもちろんのこと、被告商

品の需要者と考えられる10代から20代の若者の間においても相当程度周知性を有すると推認される

上、被告商品は、被告やその関連会社の直営店で、「GOTCHA」と明示される態様で販売され、かつ、

それらの店舗では被告やその関連会社以外の商品は取り扱われていないから、被告商品の胸元に「SU

RF’S UP」が目立つように表示されているとしても、被告商品に接した需要者は、「SURF’S

UP」ではなく、むしろ「GOTCHA」によってその出所を識別するのが普通であると考えられる。

そうすると、被告標章における「SURF’S UP」の表示は、商品の出所識別機能を果たす態様で

使用されていると認めることはできないから、被告標章の使用は本来の商標としての使用には当たらな

いというべきである。』と判断し、原告の請求を認めませんでした。

【コメント】

裁判所は、被告標章の使用が、原告の登録商標をその指定商品に使用しており、形式的な商標の使用

ではあるが、被告標章の使用態様、構成態様とともに被告商標「GOTCHA」(「C」は左右反転させ

たもの)の周知性と「SURF’S UP」がありふれた表現であることを認定して、登録商標の自他

商品識別機能や出所表示機能を害するものではないとして、商標権侵害は認められないと判断しました。

上記被告標章を見ると、最も大きく、赤糸で刺繍された「SURF’S」が最も強く認識され、図形

等を配した全体構成からは、自他商品識別標識としての「SURF’S UP」の印象は軽微であり、

意匠的、装飾的な使用であるものと考えられます。また、「SURF’S UP」の語が、取引業界であ

りふれたものであるならば、タグや被告標章に付加された「GOTCHA」から出所識別機能等が発揮

されるものと考えられます。したがって、被告標章の商標の本質的機能は、原告商標「SURF’S U

P」からではなく、被告標章から導かれているため、裁判所の判断は妥当であると考えます。

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2012 年1月1日より、新しいスイス連邦特許裁判所(ドイツ語では”

Bundespatentgericht”、フランス語では”Tribunal federal des brevets”)が

スイス領域全体に亘る特許訴訟のための単独の第一審専門裁判所として利用可

能となりました。これにより、スイス国内における特許紛争の裁定の質及びス

ピードが増大することが期待されています。

最近まで、スイス国内において、特許訴訟の第一審判決は、26あるスイス諸

州の裁判所により下されていました。各諸州が独自に民事訴訟手続を行っていたため、その結果、これ

らの諸州裁判所で適用される訴訟規則は、異なるものとなっていました。その上、スイス国内では、新

規の特許訴訟が平均で年間およそ30件しかないことを考慮しますと、大部分の諸州裁判所には、特許紛

争の裁定において、満足な専門性を身に付けるための十分な機会が全く与えられていなかったというこ

とができます。その結果、スイスの裁判所は、特許訴訟の判決を下さなければならないときに、技術的、

また時として法律的な争点についても、裁判所が任命した専門家に強く依存する傾向がありました。さ

らに、特許訴訟の第一審は、非常に長い期間にわたり継続するものとして、しばしば受け取られていま

した。

現在では、2009年3月20日のスイス特許裁判所法(PCA)の第

26条第1段落に従い、スイス連邦特許裁判所が以下について専門

的に管轄するようになりました。

a.特許に関する有効性或いは侵害の紛争並びにライセンス

付与の法的措置

b.a項で定めた告訴を起こす前に行われる仮処分命令

c.自己の専門的な管轄において採択された判決の執行

これに加えて、連邦特許裁判所は、特に特許を受ける権利又はその譲渡を受ける正当な資格について、

特許と実質的に関係性を持つ他の民事訴訟をも管轄します。しかしながら、スイス連邦特許裁判所の管

轄は、諸州裁判所の管轄を妨げるものではありません(PCAの第26条、第2段落)。原告には、望ましい

裁判所を選択することが委ねられています。

予備的審問或いは答弁に基づいて、諸州裁判所により特許の無効或いは侵害の判決が下される場合に、

裁判官は当事者に、連邦特許裁判所に対して有効性或いは侵害についての法的措置の訴えを行うための

適正な期間を付与します。諸州裁判所は、その訴訟において、最終的かつ確定的な判決が出されるまで

訴訟手続を停止させます。指定された期間内に、連邦特許裁判所に対して法的措置の訴えが行われなか

った場合には、諸州裁判所が訴訟手続を再開し、予備的審問又は答弁は無視されます(PCA第 26条、第

3 段落)。しかしながら、被告側当事者が特許の有効性或いは侵害に関する反訴を提出する場合には、諸

州裁判所は、双方の訴訟について連邦特許裁判所に移譲することになります(PCA第26条、第4段落)。

2名の専任裁判官とは別に、連邦特許裁判所は 36名の兼任裁判官を有しており、彼らのうち 25名に

は技術専門教育が、また11名には法学専門教育が行われています。彼らの全員が、特許法に関する公認

された知識を有しています。裁判所管理部は、長官、次席専任裁判官及び副長官から構成されます。個々

の訴訟においては、3名、5名又は7名の裁判官から構成されるパネルが聴取を行います。各パネルに

は、法学教育及び技術教育を受けた専門家が含まれています。

単独の第一審専門裁判所の設置 (スイス) 【特許】

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パネルメンバーは、専門知識基準に従い指名されます。仮処分に関する判決は、長官が単独で採択しま

す。訴訟が技術的問題を含んでいる場合に、長官は、必要な技術教育を受けている2名の裁判官を参加

させます。

訴訟の当事者は、連邦特許裁判所への文書提出及び口頭審理にあたり、スイスの公用語(すなわち、

ドイツ語、フランス語或いはイタリア語)のいずれか1つに代えて英語を使用することができますが、

それには、この訴訟の他の当事者又は当事者たちの同意を得る必要があります。ただし、連邦特許裁判

所から言い渡される判決においては、いかなる場合でもスイスの公用語のいずれか1つが用いられます

(PCA第36条)。

連邦特許裁判所は、連邦最高裁判所の前審として自身の判決を下します。連邦特許裁判所は、連邦最

高裁判所の行政監察並びに連邦議会の最終監察を受けます。

連邦特許裁判所での訴訟は、主として2011年1月1日から施行されてい

る連邦民事訴訟法(CCP)により律則されます。ただし、審理前開示評議の

規定といった連邦特許での訴訟において適用され得る具体的ないくつかの

手続規則については、言及する価値があります。第1に、2011年1月1日

から施行されているスイス国特許法の新しい規定は、現実の或いは切迫し

た侵害の単なる推定に基づいて、方法、製品及び/又は製造手段を侵害し

ているとされた特許の正確な説明を、裁判により請求する権利を特許権所

有者に対して与えています(フランスにおける saisie contrefacon:偽造

品差し押えと類似)(スイス国特許法第77条)。第2に、連邦民事訴訟法第

158条は、証拠が危機にさらされていること或いは保護に値する利害関係が

あることを、請求を行う当事者が十分に説明する場合には、特許権所有者

が具体的な文書(例えば企画書、図面、文書)の作成或いは証拠陳述書の

取得及び/又は専門家報告書の提供を請求することを許諾しています。

結論として、連邦特許裁判所は、訴訟を早急かつ効率的に執り行うべく尽力しています。連邦特許裁

判所の裁判官が保有する技術的専門知識により、法廷は、時間と費用を要する法廷外部の専門知識の調

達に頼らずとも、ほとんどの訴訟の裁定を下せるようになることを目指しています。

(インドのD.P.AHUJA & Co.からのWORLD PATENT & TRADEMARK NEWSに拠る)

【コメント】

スイス特許法第77条の規定は下記の通りです。

(1) 訴訟を提起する適格を有する者の申請により当局は,証拠を確保し事物の現状を保存し,争のある

権利を一時行使させ又はある結果の生じることを阻止するため仮の処分を命じる。裁判所は,特に,法

に違反して使用され又は製造された物,これらの物の製造の用に供せられた設備,装置等の正確な説明,

又は前記の物,設備等の差押を命じることができる。

(2) 申請人は,相手方が本法に違反する行為を犯し又は犯そうとしていること及び申請人には容易に回

復不可能な損害で仮処分によってのみ避けることができるものを申請人がこうむる虞があることを推定

させる証拠を提出しなければならない。

(3) 当局は,仮命令に先立って相手方を審問しなければならない。ただし急迫な場合は,予め非常の措

置をとることができる。相手方は,当該措置の実行後直ちにその旨の通知を受けるものとする。

(4) 申請を認容するにあたり,当局は申請人に対し,本案訴訟を提起するために30日以下の猶予を与え

るとともに,申請人が当該期間内に訴訟を提起しなければ、かかる命じられた措置は失効することを知

らしめる。

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近い将来の施行が期待されている興味深い動向がいくつか存在

しています。その1つは、ドイツ国特許の付与に対する異議申立期

間に関係するものです。3ヶ月間という最新の期限は、時として非常

に短いものです。あなたは、その特許の付与に関する情報を入手し

なければなりません。あなたは、その特許が何らかのトラブルを引き

起こしているかどうか、評価する必要があります。また、あなたは、

異議申立手続を行うことを決意する必要があります。あなたは、その

特許を無効にするために、最先端の文献を探し求めなければなりません。そして、最終的に、あなたは、異議

申立手続のための十分な理由を用意し、その異議申立をドイツ特許商標庁に提出し、また、異議申立手数料を

支払わなければなりません。この全てを、特許の公開から3ヶ月以内に完了する必要があることを考慮しま

すと、特に外国のクライアントにとって、この期間はやや短か過ぎます。

調和(harmonisation)のための取り組みにより、ドイツ国特許の

異議申立期間が、先行する欧州特許の場合と同じように、9ヶ月

へと引き上げられることが期待されています。これにより、ドイツ

国特許と欧州特許の両方について、より均一化された取り扱い

が行われるようになります。そして、それにより、異議申立を決

意して提出するために必要な期間が得られることになります。

さらに、政府は、異なる物品区分に対する多意匠一出願制度

を認めることを計画しています。これにより、100 以上の物品区

分に及ぶ 100 以上の意匠を、単独の多意匠一出願により登録

することが可能となります。異なる物品区分に属する、異なる意匠が、単独の多意匠一出願により提出可能とな

るため、そのような多意匠一出願による費用減免を活用できる出願人にとって、これはずっと容易なものとなり

ます。他方で、調査のための努力の必要性は、大幅に増大すると見込まれています。物品の区分の1番目と無

関係な全ての意匠登録には、”隠れた(hidden)”意匠が存在する可能性があります。

これらの期待された変更点に加えて、先月は興味深い判決がいくつか見られました。ドイツ国特許或いは実

用新案の保護範囲の判定(measurement)に関する昔からの問題は、依然として存在している。侵害が特許又は

実用新案の各々の特徴を文言の意味で利用している限りにおいては、そこに大きな問題は生じません。しかし

ながら、侵害の可能性がある製品が、その特許クレームの特徴の一部のみを全く同じように利用している場合

には、そこに侵害が存在するか否かといった状況を評価するために、何らかのトラブルがしばしば生じます。

このように、私の見解では、最近の判決で最も重要なものの1つが、ドイツ連邦最高裁判所による ”

Okklusionsvorrichtung(閉塞)”X ZR 16/09 です。この判決における1つの話題は、特許の保護範囲に関する

論点でした。詳細に述べますと、この論点は、特許クレームの文言により、保護範囲がどの程度まで制限される

のかということでした。さらに、外国製品が特許明細書の教示を利用しているものの、特許クレームの文言を利

用していない場合に、これが特許の均等侵害となるのかどうかです。その判決において、最高裁判所は、出願

人が自身の特許の保護範囲について十分な責任を負っていると指摘しています。明細書の一部は、クレーム

を理解する目的においてのみ利用可能ですが、このクレーム内に個別の特徴が存在しない場合には、その保

護範囲を拡大するものであってはなりません。

ドイツでの特許・意匠法に関する最近の動向 【特許・意匠】

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言い換えれば、クレーム内に書かれていない何かが特許明細書中に存在している場合に、それに基づい

て、保護を得るための方法はありません。すなわち、課題を解決するための異なる実施態様について明細書

中で説明されているものの、クレーム内にはそれら実施態様のうちの1つのみが記載されている場合には、例

え均等侵害の方法によらないとしても、これ以外の実施態様の保護を得るための方法はありません。このよう

に、均等侵害の訴訟に関する明確な規定が与えられ、保護範囲の推定を容易にしました。私の意見では、これ

により、一方での実現される保護範囲に対する特許権者からの必要性と、他方での保護範囲の信頼できる判

定に対する第三者からの必要性との間で、益々の妥協案が形成されることになると思われます。

過去数ヵ月間における別の重要な判決は、進歩性推定の問題

について言及しているものです。ドイツ特許法の欧州特許条約

との調和により、ドイツ国特許の進歩性の閾値が、欧州特許の進

歩性要件を満たすまで引き下げられました。これにより、従来ま

で、”Demonstartionsschrank(デモンストレーション用キャビネッ

ト)”X ZB 27/05 の判決がもたらされており、その中で最高裁判

所は、我々の意見内容に理解を示した上で、ドイツ国特許の進

歩性の閾値が引き下げられたことにより、この閾値を下回る実用

新案の進歩性にとって有用な閾値はもはや存在しないと述べま

した。関連技術分野における当業者にとって、最先端の教示を

組み合わせるための明白なヒントの必要性はあるのか、という疑

問が以前より度々生じていました。

最高裁判所による ”Installiereinrichtung(インストールされている

デバイス)II”X ZB 6/10 の判決では、関連技術分野における当

業者にとって、最先端の教示を組み合わせて、その結果を自明とするための明白なヒントの必要性はないと明

確に述べられています。この判決は、進歩性評価に対する我々の理解を追認するものであるため、この訴訟

において勝利したことを我々は誇りに感じています。詳細に言いますと、ドイツにおける進歩性のバーは依然

としてかなり高いものであり、特に欧州特許の進歩性の閾値よりも低くはなっていないということです。

(インドのD.P.AHUJA & Co.からのWORLD PATENT & TRADEMARK NEWSに拠る)

【コメント】

ドイツ特許法の異議申立に関する第59条には、以下のような規定があります。

(1) 何人も,ただし,窃取の場合は被害者のみが,特許付与の公告後3月以内に特許に対する異議申立通知

書を出すことができる。異議申立は,書面によるものとし,かつ理由が付されなければならない。異議申立は,

第21条にいう取消理由の1が存在している旨の主張のみを根拠とすることができる。異議申立を正当化する事

実は,詳細に記述しなければならない。異議申立書類に未だ含まれていない明細は,その後異議申立期間の

満了前に,書面により提出しなければならない。

(2) 特許に対する異議申立の場合は,第三者であって,同人を相手として当該特許の侵害を理由とする訴訟が

提起されていることを証明する者は,異議申立期間の満了後,その異議申立手続に異議申立人として参加す

ることができるが,ただし,当該異議申立人が,侵害訴訟が提起された日から3月以内に参加通知書を出すこと

を条件とする。同一規定が,第三者であって,特許所有者が同人は侵害と称されている行為を中止するよう要

求した後,特許所有者を相手方とし,同人は特許を侵害していない旨の確認を要求する訴訟を提起しているこ

とを証明する者に適用される。

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IPニュース第35号をお届け致します。

今年は残暑が長く暑さに負けていましたが、ようやく待望の秋です。秋は、食欲、スポーツが旺盛になるとともに、紅

葉が季節の移ろいを感じさせ、様々な感情が味わえる季節であります。

さて、先月、知的財産に関するニュースが2つありました。

1つ目は、京都大学の山中伸弥教授が今年のノーベル医学生理学賞を受賞したニュースです。政治や経済の閉塞

感の中でのこのニュースは、日本中が明るくなれるものでした。

受賞理由は「成熟細胞が初期化され多能姓を持つことの発見」、いわゆる、iPS細胞の発見です。iPS細胞は、新薬の

開発、再生医療等の実現に向けて既に基礎研究が行われており、経済的にも新たな産業として期待されています。

受賞内容はもちろん、受賞された山中教授の言葉も話題となりました。謙虚さとストイックさが表れるその言葉に勇気

や力をもらっている人も多いのではないかと思います。

ノーベル賞の受賞と関係して、研究費の問題も取り上げられております。国がどこに向かっているのか感じられない

閉塞感の中では、iPS 細胞に限らず、新たな産業の創出にこそ光を向けて、国が支援をしていく必要があるのではな

いかと感じています。そして、近年の特許件数の減少も同様のことが言えるのではないかと思います。特許件数が単

に増えればいいというものではなく、価値ある発明にいかに多くの人が意識を持てるかが重要である気がします。

2つ目のニュースは、著作権法の改正です。

施行日は平成25年1月1日で、一部(下記の1,2)については今年10月1日より施行されています。改正された内容

は複数ありますが、以下の3つを挙げたいと思います。詳細については、

http://ouchinews.doorblog.jp/archives/19323798.html

又は http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/24_houkaisei_horitsu_gaiyou_ver3.pdfを参照ください。

1、違法ダウンロードの刑罰化(今年10月1日より施行)

対象となる行為は、「①有償著作物等について、②私的使用の目的をもって、③著作権又は著作隣接権を侵害する

自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、④自らその事実を知りながら行って、⑤著作権又は

著作隣接権を侵害する行為」が該当します。これに該当する場合には、2年以下の懲役若しくは200百万円以下の罰

金に処されるか、又はこれが併科されます。

2、技術的保護手段を回避して行う私的使用目的の複製の例外規定(今年10月1日より施行)

これにより、アクセスガードを回避するリッピングソフトによる私的な複製が違法となることが規定されました。

3、付随対象著作物の利用(来年1月1より施行)

例えば、写真撮影の際に、本来意図した撮影対象だけでなく、背景に有名キャラクター等が写り込んだ場合に、この

有名キャラクター等(付随対象著作物)を、写真撮影に伴って複製することなどの利用が一定要件下、適法になりまし

た。

著作物の利用については、従来から教育目的等で一定要件下、利用可能でしたが、本改正により新たに4項目の

著作物の利用が可能となりました。

今回の法改正で取り上げた上記の3つは、著作物の利用を円滑化するために、私的な行為についての著作物の利

用を新たに規定し、また、著作物の保護のために、私的な行為についての侵害、刑罰を規定するものです。

著作物は世に溢れており、特にインターネット社会、デジタル化に生きる現代は、著作物のコピーや改変、配信、配

布が容易にできます。そのため、個人それぞれが著作物の権利を意識していくことがより一層必要になっていくので

はないかと思っています。