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INTERVIEW グローバル市場で勝つために、 日本の良さを生かす モジュラーデザインを 株式会社 日本能率協会コンサルティング 経営コンサルティング事業本部 RD&E マネジメント革新センター センター長 シニア・コンサルタント 鬼束 智昭 製造業を変革させる 7 つの力、 それに対処するためには ものづくり情報プラットフォームの 構築が重要となる PTC ジャパン株式会社 社長 桑原 宏昭 [掲載事例] 株式会社ケーヒン シャープ株式会社 株式会社ゼットエムピー 株式会社デンソー 日本無線株式会社 日立オートモティブシステムズ株式会社 株式会社 日立製作所 都市開発システム社 株式会社 牧野技術サービス ヤンマー株式会社 50 音順に記載しております。 Executive エグゼクティブ 2013 AUTUMN

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INTERVIEW

グローバル市場で勝つために、日本の良さを生かすモジュラーデザインを株式会社 日本能率協会コンサルティング 経営コンサルティング事業本部 RD&E マネジメント革新センター センター長 シニア・コンサルタント

鬼束 智昭 氏

製造業を変革させる7つの力、それに対処するためにはものづくり情報プラットフォームの 構築が重要となるPTCジャパン株式会社 社長 桑原 宏昭

[掲載事例]

株式会社ケーヒンシャープ株式会社株式会社ゼットエムピー株式会社デンソー日本無線株式会社

日立オートモティブシステムズ株式会社株式会社 日立製作所 都市開発システム社株式会社 牧野技術サービスヤンマー株式会社 ※50音順に記載しております。

Executiveエグゼクティブ2013 AUTUMN

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―数多くのコンサルティングを手がけている鬼束さんが認識されている中で、日本の製造業者が抱える最大の課題はどのようなものですか。

鬼束 昔から変わらないのですが、

「いかに QCDを高めていくか」という

命題に尽きます。グローバル化が進ん

だことで、Q(品質)の部分に「現地

ニーズにどうやってこたえるか」「機

能を現地化するためにどうするか」と

いう項目が増えました。海外の品質基

準は日本と全く違いますから、クリア

するのは以前より難しくなっています。

―グローバル化による設計部門の変化について教えて下さい。

鬼束 10年前までは日本で造ったもの

を海外で売ろうとしていましたが、現

在は、現地のニーズに対応できるもの

を現地の仕様に落とし、現地で生産し

ています。設計開発における最大の課

題は、研究開発や設計の人員を日本中

心ではなく世界に広げることです。現

地での設計者育成はもちろん必要なの

ですが、日本の高い技術を現地のニー

ズに合わせる体制づくりや、技術移転

の部分で各社が悩みを抱えています。

現地ニーズを取り入れようとする

と、製品ラインアップが増え、開発リ

ソースが追いつかないという課題も出

てきます。それを解決するのが、モ

ジュラーデザインと呼ばれる製品のプ

ラットフォーム化で、各社はすでに取

り組み始めています。

―現在の生産と開発の海外移転状況について教えて下さい。

鬼束 すでに低コストを狙って現地で

生産を行う海外工場という考え方では

なく、現地消費を前提にした現地生産

のあり方を考える方向へとシフトしてい

ます。次の段階は、現地での開発設計

になります。価値観の違いを取り入れな

がら現地仕様の製品開発を行うわけで

すが、そのためには設計力や技術力が

必要になります。現時点では日本で

培った高度なノウハウは日本人の方が

良く理解していますから、日本人と現

地人が話し合って詰めているようです。

―好みは、デザインについても言えます。デザインの現地化は進んでいますか。

鬼束 今後の課題ですね。戦略上、デ

ザインは開発プロセスの中でもコンセ

プトを決めたり、“売り” の部分を決

めたりする極めて重要な部分ですから、

日本企業はデザイナーの地位を高める

努力も必要になるでしょう。自動車

メーカーや一部の家電メーカーは、デ

ザインを重視できる組織を作り上げて

います。

―研究開発部門にも変化は出てきましたか。

鬼束 自分たちの技術をコアにしなが

ら、新たな事業を興す取り組みがよう

やく本格化してきました。これをやろ

うとすると、長く技術について深く考

えてきた人が、事業についてアイデア

を求められることになるため、ハード

ルが高かったのですが、営業部門と技

術部門が協力できる土壌が整ってきた

ようです。

最近、あるメーカーがかなりの人員

を割いて新事業の開発部門を創設する

というニュースが流れましたが、専任

部隊を作って進めるやり方は正しい方

向性だと考えています。ただ、日本の

メーカーは、どこも進出したい分野が

「健康」「環境」「エネルギー」と横並

びで……。技術的な観点やビジネスモ

デルも含め、今後自社独特のものが出

せるかが大きな課題になってくるで

しょうね。

―ITの話が出ましたが、製造業にとって ITは今後どのようなものになっていくでしょう。

鬼束 ITを活用できる新製品を世に出

すだけでなく、社内の ITプラット

フォームを整えることは不可欠になる

でしょう。モジュラーデザインを実現

するためには優れた ITが必要ですし、

グローバル開発を進めるにあたっても

開発プロセスの IT化は欠かせません。

現時点では、「せっかくツールを入れ

たのにうまく活用できていない」とい

う企業の話もよく聞きます。最も大切

になるのは、導入前にきちんとグラン

ドデザインを描くことです。現場をわ

かっている人と、導入を担当する情報

システム部門がきちんと連携をとっ

て、目的を明確化することで、ITの活

用が果たされるはず。今後はグローバ

ルな PLMなど先進的な ITの導入と活

用が本格化するでしょうから、企業に

はグランドデザインの重要性について

深く認識することが望まれます。

―最後に、グローバル化が進んだ今、日本の大手製造業がグローバルな市場で生き残るための提言をお願いします。

鬼束 買ってきたものを組み合わせれ

ば出来てしまうような物の作り方では

なく、モジュールそのものを、日本の

技術を使って差別化できるように作り

上げてほしいと考えています。つまり、

モジュールの中身にすり合わせ的な要

素を盛り込んだり、モジュール間のイ

ンタフェースのすり合わせができるよ

うにしたりするなど、各モジュールを

強みとして生かせる「インテグラルモ

ジュール」の実現により、日本の製造

業は変わらず世界をリードしていける

と信じています。

グローバル化の進展により、日本の製造業は新たな課題に直面している。いま取り組むべきことは何なのか、将来はどこを目指せばいいのか。数多くの製造業者にアドバイスを送ってきた株式会社 日本能率協会コンサルティング 経営コンサルティング事業本部 RD&Eマネジメント革新センター センター長 シニア・コンサルタント 鬼束 智昭氏に話を聞いた。

株式会社 日本能率協会コンサルティング経営コンサルティング事業本部 RD&Eマネジメント革新センター センター長シニア・コンサルタント

鬼束 智昭氏

グローバル市場で勝つために、

鬼束 智昭〈主なコンサルティングテーマ〉・技術戦略・商品戦略立案 ・新事業開発・推進 ・製品開発革新・モジュラーデザインお客様に感動を与え、会社に収益をもたらす商品創りの為の研究開発・商品開発革新を支援している。

日本の良さを生かすモジュラーデザインを

2013 AUTUMN CONTENTS

02 グローバル市場で勝つために、 日本の良さを生かす モジュラーデザインを株式会社 日本能率協会コンサルティング 経営コンサルティング事業本部 RD&Eマネジメント革新センター センター長 シニア・コンサルタント 鬼束 智昭氏

04 製造業を変革させる 7つの力、 それに対処するためには ものづくり情報プラットフォームの 構築が重要となるPTCジャパン株式会社 社長 桑原 宏昭

08 トヨタ流 PLM活用の秘訣 エコカー時代の エンジン開発に求められるもの

Product Lifecycle Management10 日本無線株式会社

真のコンカレト エンジニアリングのために 日本無線が選択したのは グローバル スタンダードな PLMだった

14 株式会社 日立製作所 都市開発システム社PTC® Windchill®を活用した グローバル PLMで 昇降機のグローバル高効率開発、 生産体制の構築を支える IT基盤を構築

Application Lifecycle Management18 株式会社ケーヒン

ISO26262対応に PTC Integrity™を採用 現場の話を聞き、 時間をかけて確実に成功させる

20 株式会社デンソーPTC Integrity™でソフトウェア開発 ライフサイクルを網羅的に管理 機能安全規格に準拠し、 ソフトウェア品質の向上も実現

22 日立オートモティブシステムズ株式会社PTC Integrity™を利用して、 ISO26262対応のトレーサビリティ管理に 費やす工数を約 5分の 1に

Service Lifecycle Management24 株式会社 牧野技術サービス

PTC® Service Knowledge Management の利用で、サービス ナレッジの蓄積と 共有化を行い、技術継承を容易化し グローバルでの情報活用を実現

28 シャープ株式会社PTC® Service Knowledge Managementで 日本のナレッジを各国で容易に共有 コールセンター対応の質を向上し グローバルで顧客満足度No.1を目指す

CAD34 株式会社ゼットエムピー

PTC® Creo®を全面的に活用し、 RoboCar®の設計・開発を最適化

36 ヤンマー株式会社3D CADへの取り組みが、 100年構想を支える競争力の源泉に

©2013, PTC Inc. (PTC)PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、PTC(米国および他国の子会社を含む)の商標または登録商標です。その他、記載している会社名、製品名は、各社の商標または登録商標です。

PTCマガジンExecutive 2013 AUTUMN発行日:2013年8月9日企画発行:PTCジャパン株式会社〒163-6037 東京都新宿区西新宿6-8-1 新宿オークタワーTEL. 03-3346-8100 FAX. 03-3346-8290編集長:大湯 道徳 編集担当:若山 麻衣子編集協力:株式会社ビッグビート

02 03PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

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製造業を変革させる 7 つの力

MANUFACTURERS

SOFTWARE-INTENSIVE PRODUCTS

DIGITIZATION

GLOBALIZATIONCONNECTIVITY

SERVITIZATION

PERSONALIZATIONREGULATION

製造業を変革させる7つの力

「製造業をとりまく 7つの変革は、

マーケットシフトとテクノロジートレ

ンドに対応し、グローバル競争に勝ち

抜くための、いま製造業の方々が直面

している、環境変化そのものです」

(桑原社長)。

7つの変革の最初に挙げられるのが、

『Digitization(デジタル化)』。デジタル

化により多くの情報をリアルタイムで

共有することが容易になった。昨今で

は 3D プリンタをはじめ、ものづくり

のデジタル化が一層進み、製造プロセ

スにも大きな変革がおきている。デジ

タル化といったテクノロジーシフトに

より、製品、および製造プロセスはこ

れからも当分の間、イノベーションが

求められる。

2つ目の変革が『Globalization(グ

ローバル対応)』。すでに多くの製造業

が生産拠点を海外にも展開はしている

が、それに加え「世界各国を市場と捉

え、各国のローカルニーズをどう製品

に反映させるか。そして、どのように

生産と連携を行うのか、拠点ごとに効

率的な設計、サービスを行う体制を考

えなければなりません」と桑原社長。

真のグローバル対応を進めて行く上

で必要となるのが、『Regulation(規制

対応)』だ。各国で生産、販売を行う

際には、仕向け地ごとに規制や法律に

厳密に対処する必要がある。これは、

幅広く市場展開をすればするほど、対

処すべき規制は増えることになる。

4つ目は『Personalization(パーソ

ナル化)』。ニーズが多様化する中、

個々のニーズに応えられるようカスタ

マイズした製品を提供したい。たとえ

ば、工作機械など企業ごとに使い方が

異なるような場合は、1から個別に設

計を行いニーズに合った製品を生産す

ることもできる。これには、手間もコ

ストもかかる。「コンフィギュレー

ションを変更することで簡単にカスタ

マイズしたり、部品の標準化を行い、

組み合わせのパターンでさまざまなバ

リエーションに対処したりといった方

法が必要です」と桑原社長は言う。

5つ目の変革が『Software-Intensive

Products(高まる組み込みソフトの重

要性)』だ。PCや携帯電話だけでなく

医療機器などさまざまな製品にソフト

ウェアが組み込まれている。ソフト

ウェアで多くの機能が実現され特長も

生まれる。それが、競合優位性にもな

る。Personalizationの実現にも、ソフ

トウェアは極めて重要。とはいえ「製

造業にとってソフトウェア開発は、メ

インの業務ではありませんでした。そ

のような中、オフショアも利用しグ

ローバルにソフトウェアを開発し統合

しなければなりません。これは、大き

なチャレンジです」と桑原社長は指摘

する。

6 つ目の変革は、『Connectivity(接

続性)』だ。「製品開発に対する組み込

みソフトの比率が高まることにより、

今まで以上にメカ・エレ・ソフトの連

携が重要になってきています。スマー

ト・プロダクツと呼ばれるような製品

は、インターネットにつながることで

新たな価値を生み出します」と説明す

る。また製品とメーカー、メンテナン

ス会社がつながることで、予防保守な

ど新たなアフターサービスの形も出て

きている。つながることで、新たなイ

ノベーションが起こっているのだ。

最後は、『Servitization(サービタイ

ゼーション)』。製造業では以前から

サービスに注力している、製品販売後

のアフターサービスを担う保守サービ

ス部門、お客様からの問い合わせに対

応するコンタクトセンター部門といっ

景気回復の兆しが見えつつあるものの、依然として企業のビジネス環境には厳しいものがある。とくに製造業をとりまく環境の変化は著しく、それにどう対応しビジネスの拡大を目指せばいいのか。2013年6月、米国カリフォルニア州アナハイムで開催された年次イベント「PTC Live Global 2013」、そこでは製造業がいま直面している 7つの変革とそれにどう対処すればいいのか、そして PTCでは変革に対し、どのようにお客様への支援ができるか講演が行われた。PTCが考える変革への対応について、PTCジャパン株式会社 桑原宏昭社長に話を訊いた。

PTCジャパン株式会社 社長

桑原 宏昭

製造業を変革させる 7つの力、それに対処するためには ものづくり情報プラットフォームの構築が重要となる

04 05PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

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CAD、ALM(アプリケーション ライフ

サイクル管理)、PLM(製品ライフサイ

クル管理)、SLM(サービス ライフサ

イクル管理)を提供しています」と桑

原社長は言う。7つの変革に対応する

には、必要となる業務プロセスをライ

フサイクルで捉える必要がある。製品

を設計、生産し、販売、お客様に利用

してもらい、アフターサービスを行

う。そして、さまざまなフィードバッ

クを得て、新たな製品を企画、開発す

る。「製品+サービス=商品」として、

ライフサイクルで考える必要があるの

だ。そして、必要なプロセスはつなが

りを持ち、情報は常にフィードバック

されなければならない。設計・生産か

らサービスまでつながりフィードバッ

クされる事により、バリューチェーン

の最適化が可能となる。

個々のプロセスの IT化、デジタル

化は理解され、個別最適されたシステ

ムの導入は進んでいる。しかし「それ

らがうまくつながっていません。きち

んとつながりクローズドループを形成

していないと、情報がうまく廻らない。

結果的に 7つの変革への対応が遅れる

ことになります」と桑原社長。変革に

柔軟に迅速に対応するにはクローズド

ループになったものづくり情報プラッ

トフォームの構築が必要となる。しか

しこれはまだ、企業にあまり認識され

ていない。

というのも、設計、生産などでは

「現場」が強い。そのため、設計や生

産に関するシステムは、現場主導で導

入される。その際、各現場のプロセス

の最適化を考えるが、前後との連携は

そこまで重視してこなかった。これに

対しものづくり情報プラットフォーム

は、多くの部門に跨がる基盤システム

だ。それぞれがつながりループしてい

ることが重要であり、「これは、企業を

横断してシステムを見ている CIO、も

しくは企業の経営者層が中心になって

進める必要があります」と指摘する。

日本の現場の強さを活かす アプローチがある

現場の強さは、日本の製造業の高品

質を支えてきた大きな要因でもある。

現場の強さを活かしつつ、クローズ

ドループのものづくり情報プラット

フォームを実現する。それを実践した

事例が、すでに海外のグローバル企業

ではいくつも出てきている。

「単純に海外事例をコピーするので

はなく、それを参考に日本独自のもの

づくり情報プラットフォームを構築す

る必要があります」(桑原社長)。

そのために PTCでは、約 900社を

超える世界各国のグローバル企業とイ

ンタビューを行い共通するテーマを解

明した。そして業務プロセスの因果関

係をつなぎ合わせた。それらに豊富な

アプリケーション構築ノウハウを加

え、ものづくり情報プラットフォーム

を構築するロードマップを作成した。

これは、メソドロジーとも呼べるもの

で、生産効率化や顧客満足度向上など

の KPIと、そのために必要な業務プロ

セスが洗い出され、それぞれのプロセ

スごとに事例がマッピングされてい

る。「自分たちの課題に対し必要なこ

とは何か、解決するのに何をしなけれ

ばいけないかがすぐに分かります」と

桑原社長。もちろん、解決のために活

用できる PTC のアプリケーションも

マッピングされ、どれを利用すればい

いかがすぐに分かる。

このロードマップを利用する、ワー

クショップを行っている。これはあく

までもお客様が主体で、ものづくり情

報プラットフォーム構築のために自社

の状況を分析するためのもの。これに

は PTCのエンジニアも参加しサポー

トする。しかしながら、PTC製品の導

入に必ずしも至るわけではない。「まず

は、ワークショップでものづくり情報

プラットフォームの重要性を認識して

もらうことが重要です」と桑原社長は

言う。

PTCとしては、提供しているアプリ

ケーションには絶対の自信がある。そ

れに加え「一番の良さは、お客様に貢

献できることです」と桑原社長。グ

ローバル企業であり、世界でいま何が

起こっているのか、顧客の競合他社は

何を考えているのか。そういった情報

を伝えることができる。それらを踏ま

え、日本の製造業の強さを活かす提案

ができるのだ。そのために PTCジャパ

ンでは、日本に独自の R&Dセンター

も設置した。日本のお客様は海外と比

べてソフトウェア品質に対する目が特

に厳しい。顧客特有の状況を理解し

て、対面する問題や不具合を効率よく

洗い出し、製品の導入および定着化を

支援する。もちろん、そこから得られ

たものはフィードバックし、製品にも

反映させる。

「外資系ソフトウェアベンダーで、

日本に R&Dセンターを作っていると

ころはほとんどありません。しかし、

日本の高度な製造業の皆さんに対応す

るには、これくらいは必要なことです」

(桑原社長)。

ここ最近は、ものづくり情報プラッ

トフォームの構築となるような提案も

増えている。リーマンショック直後の

ような停滞感はなく、むしろ中規模の

企業もグローバルレベルの取り組みに

挑戦する企業が増えている。そういっ

た面からも「悲観はしていません。お

客様、皆さんが変革を確実に感じ取っ

ており、そのための動きを始めている

と感じています」とのこと。7つの変

革にチャレンジする企業は、日本にお

いても確実に増えていきそうだ。

た組織はこれまでもあったが、製造

メーカーがサービス開発を進め、生産

した製品をサービスとして提供する

"Products as a Service” という考え方

も出てきている。「これを実現するに

は、顧客にとって何が必要なのか?顧

客経験価値を高めるために膨大なビッ

グデータを分析するなど、ITをうまく

活用しなければなりません」と桑原社

長は言う。

クローズドループとなった ものづくり情報 プラットフォームが必要

この 7つの変革のために「ものづくり

情報プラットフォームを提供できるの

が、PTCの価値です。PTC では、もの

づくり情報プラットフォームを支える

ものづくり情報プラットフォーム

製品への設計変更要求

ワランティ/サポート契約管理

機器情報管理製品出荷クレーム管理

詳細設計 製品情報 サービス情報

作業手順/整備戦略の最適化 要員/工程

管理

整備/修理

サービス稼働分析生産計画

要件定義

サービス情報制作

設計時信頼性・整備性

分析

機能設計

サービス計画立案

製品の稼働状況分析

不具合/不適合分析是正措置検討

サービス情報の配信

製品サポート

06 07PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

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燃費を上げる 2つのアプローチトヨタでは、エコカーの普及に向け

て、新たなエンジン開発に乗り出して

いる。最近では従来のガソリンや軽油

だけでなく、ガス燃料、合成液体燃

料、バイオ燃料、電気、水素などの自

動車用燃料が多様化しており、次世代

技術を採用した多くのパワートレーン

(動力および動力伝達、駆動系のこと)

も登場している。

児玉氏は「燃費を良くするためには、

エンジン側とドライブトレーン側から

の 2つのアプローチがある」と語る。

エンジン側から熱効率そのものを向

上させたり、ドライブトレーン側から

使用頻度分布(5AT、6AT、CTV)をエ

ンジン熱効率の高い領域にシフトさせ

る工夫を凝らしている。その技術とし

て、たとえば最大熱効率を高める「ア

トキンソンサイクル」や、熱効率の高

い領域を拡げる「過給ダウンサイジン

グ」などがある。

アトキンソンサイクルは、同社のハ

イブリッドカー「プリウス」のエンジ

ンに搭載されたことでも知られている。

これは、空気の圧縮比よりも膨張比を

大きくして熱効率を改善した内燃機関

の理論だ。普通のエンジンでは下死点

(ピストンが下がりきった状態)まで

空気を吸い込んで圧縮するが、アトキ

ンソンサイクルではピストンの途中ま

での容量分の空気しか吸わず、圧縮し

て爆発させる。つまり少ない吸気量

で、従来と同じ仕事ができる効率的な

エンジンといえる。

一方、過給ダウンサイジングは、エ

ンジンの排気量を下げて、ターボや

スーパーチャージャーなどでパワーを

補う方式のこと。普通のエンジンより

排気量を下げ、相対的にピストンや回

転摩擦の抵抗が小さくなるように、軽

負荷領域に近づける。小さいエンジン

を目いっぱい利用して燃費を稼ぎ、足

りない出力は過給で補うイメージだ。

「これらの技術を利用することで、

低燃費・高出力を実現した新型エンジ

ンを、続々と市場へ投入する予定だ」

(同氏)。

たとえば 2014年以降に、小排気量

化(2.0L)とターボチャージャーを採

用した新型エンジンを市場に投入する

予定だ。これは過給ダウンサイジング

を利用したものとなる。また HV用につ

いてはアトキンソンサイクルによって

世界最高となる熱効率 38.5%を実現し

た新型ガソリンエンジンを 2013年以

降にも販売する(注:2012年 12月発

表のクラウンに採用)。このほか排出ガ

スクリーン化を図った商用/乗用車用の

新ディーゼルエンジンも開発中である。

トヨタのエンジン設計、 グローバル開発環境

このような先進的なエンジン設計・管

理で活用されているのが、エンタープ

ライズ PLMソリューションだ。

PLMは「Product Lifecycle Manage ment」

の略称で、製品の企画から、設計、調

達、製造、生産、出荷後サポートまで

のサイクル全体にわたって、製品情報

を包括的に管理する仕組みだ。PLMは、

ERP、SCM、CRMに続く「第四の基幹

システム」と呼ばれており、コスト削減

と売上拡大の両面から企業経営の課題

を解決するものとして期待されている。

トヨタでは、2001年から社内基幹

CADシステムに市販システムを採用す

ることを決定し、その翌年には PTCの

3次元設計ソリューション「Pro/

ENGINEER」(現:PTC Creo)と、ワー

クグループデータ管理ソリューション

「Pro/INTRALINK」をエンジン開発の

基幹 CADシステムとして導入した。そ

の後、データ管理をコンテンツ/プロ

セス管理ソリューション「Windchill」

へと切り替えている。

「現在、すべてのエンジン設計は

“Pro/ENGINEER Wildfire 5.0” で行わ

れ、生成されるすべての CADデータ

を “Windchill 9.1” によって管理して

いる。」(同氏)

Pro/ENGINEERは、3次元 CADでデ

ファクトになった「フィーチャーパラ

メトリックモデリング」という手法を

世界で始めて導入したソリューション

だ。フィーチャーとは、設計意図を

持った形状の最小単位で、これらを組

み合わせて複雑な形状を徐々に構築し

ていく。Pro/ENGINEERは、フィー

チャーの履歴を記録し、設計変更や流

用時に情報伝達が確実に行える。

またパラメトリックは、変化させる

という意味だ。寸法を修正してフィー

チャーを変化させることで、後工程の

設計変更のほか、モデリングで寸法を

決定する前に構成部品の概要を俯瞰

し、部品間の干渉や強度などを段階的

に評価しながら設計を進められる。

一方、Windchillのほうは、要件定義

から、環境設計、構築・設定、運用支

援、テスト運用、本番運用までの各段

階における製品ライフサイクル情報を

取り込んで構成・管理する PLMだ。

さらに企業の目標達成に向けて効率よ

く対応し、ビジネスプロセスを最適化

できる特長があるという。

Windchillを導入することで、企業

の戦略に沿った製品開発が可能とな

り、業績の向上を期待できる。またグ

ローバルメーカーの各拠点に分散した

製品情報を一元的に管理することも可

能だ。雑然とした開発プロセスを効果

的に管理するグローバル開発設計のイ

ンフラを構築できる。

トヨタでは、これら PTCのエン

タープライズソリューションにより、

設計部門から生産技術部門に至るデー

タの一気通貫プロセスを構築した。

同 氏 は「CASE(Computer Aided

Simultaneous Engineering)によって

つくり込んだデータを、粗形材・型設

計、機械加工設計などに活用し、モノ

づくりにおけるデータや情報の不整合

を排除した」と説明する。

また図面のマスターデータを管理

し、出図から承認までのプロセスをす

べて電子化。CADデータも 2次元図面

と 3次元モデルをセットで管理するこ

とで、アソシエイティビティ(双方向

連携機能)を維持している。これは、

構成部品の寸法や形状などの修正が行

われた場合に、その変更が他の図面に

反映されるという機能だ。

同社は、北米、ヨーロッパ、アジア

などに開発拠点を持つグローバル企業

であり、これらの拠点でも、Windchillの

機能が遺憾なく発揮されているという。

「海外拠点と日本で PTCのWindchill

サーバを連携させ、ほぼリアルタイムに

データ共有を実現した。グローバルな

協業環境を構築して開発できる体制を整

えた。」(同氏)

いいクルマづくりに向けたPLMソリューションへの期待トヨタでは、安定した経営基盤のもと

で、顧客の期待を超える「いいクルマ

づくり」、豊かな地域社会と新たなモ

ビリティ社会に貢献する「いい町・い

い社会」を目指しており、この持続的

成長を促すサイクルを回すことが再重

要課題であると捉えている。

具体的には、デザインや感性品質を

大幅に向上させ、地域ニーズにあった

商品を投入していくという。前述のよ

うに、HV車のラインアップを拡充す

るほか、高効率ガソリンエンジンの開

発や、PHV、EV、FCVといった次世代

環境車を投入していく方針だ。このよ

うな商品力の強化のために、PLMソ

リューションには期待をかけていると

いう。

同氏は「PLMでキーとなるポイン

トは、設計初期段階での企画を充実さ

せることだ」と強調する。

たとえば車両の軽量・コンパクト

化、低重心設計や車両搭載性、エンジ

ン改良や種類削減、各種部品点数の削

減、モジュール化設計、既存の生産ラ

イン活用などで、PLMは効果を発揮す

る。また製品情報管理の側面から、バ

リエーション管理やグローバル情報管

理に活用することで「いいクルマ・い

い商品づくり」に貢献できるツールに

もなるという。

「ユーザーに喜んでもらえるクルマ、

環境にやさしいクルマ、お客さまにワク

ワクしてもらえるクルマづくりを進めた

い。そのためには PLMを活用して商品

力を強化し、環境車のラインアップを

拡大していく必要がある」(同氏)。

今や自動車は、従来のガソリンや軽油だけでなく、電気、ガス燃料、バイオ燃料、水素など、多様な燃料で駆動することが求められつつある。これらのエンジンは、既にさまざまな形で実車に採用されているが、その開発プロセスは複雑さを増している。「PTC Live Tech Forum 2012東京」で登壇したトヨタ自動車 第 2技術開発本部 エンジン統括部 エンジン総括室長 児玉 憲和氏(開催当時)は、「いいクルマづくりには、PLMソリューションが欠かせない」と指摘する。児玉氏は、同社のエンジン開発について、設計からデータ管理に至るすべてのプロセスにおける PLMの活用方法について解説した。

トヨタ流 PLM活用の秘訣エコカー時代の エンジン開発に求められるもの

この記事はWeb「ソフトバンク ビジネス+IT」を一部修正のうえ転載しております。(執筆:井上 猛雄)『トヨタ流PLM活用の秘訣、エコカー時代のエンジン開発に求められるもの』

2012年12月12日開催「PTC Live Tech Forum 2012東京」基調講演レポート

08 09PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 6: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

無線やレーダーといった航行支援装置

など海上用無線通信機器の製造、販

売、そして各種無線通信機器技術を組

み合わせシステムとして提供するソ

リューション事業が 3つの柱となって

いる。

陸上用の無線通信機器は民生用途に

近い部分もあり、数的には多くの販売

が期待できる一方、競合との価格競争

は厳しい。ソリューション ビジネス

としては、防災無線やダムなどの水位

を計測し遠隔地から知らせるテレメー

ターなどがあり、公共機関への納入も

多い。日本無線には無線通信分野で得

てきた高い信頼性を支える技術があ

り、ソリューション事業においてもそ

れをベースに柔軟な提案を行う。「痒

いところに手が届く、顧客の欲しいも

のを提案できるのが強みです」と、日

本無線 執行役員 技術本部 副本部長の

岡村 俊幸氏は言う。

海上用無線通信機器のビジネスで

歴史あるメーカーに訪れた ビジネス環境の変化日本無線の創立は 1915年、2015年に

は 100周年を迎える歴史ある無線通信

機器メーカーだ。現在は、業務用無線

や無線 LAN装置、GPS受信機など陸

上用無線通信機器の製造、販売、船舶

は、中大型船向けを得意としている。

衛星を利用した通信システムや一度に

船舶の周りの状況を把握できるレー

ダー装置など、安全航行には必須だ。

昨今は、日本が強かった造船の世界に

韓国や中国が進出し、東アジアを中心

にグローバルな造船市場が形成されて

いる。その結果、造船会社の競合によ

り船価の低下が進み無線通信機器につ

いても市場価格の低下を余儀なくされ

ている。

目指した生産構造改革は、 国産 PDM では 実現できなかった

「無線機は 20年前は特殊な技術を要す

るもので、専門技術を持った人しか携

われませんでした」と岡村氏。しかし

携帯電話が普及するようになり、一般

家電化しつつある。今では汎用部品を

組み合わせることで、比較的容易に無

線機は作れる。競合参入障壁はかなり

低く、高性能な製品を作りさえすれば

評価される時代ではもはやない。今は

「顧客立脚の時代になりました。性能

が高いよりも顧客が満足する製品が良

い製品です」と岡村氏は言う。

新たな時代を迎え、日本無線では全

社規模でコスト構造改革、生産改革そ

して成長戦略を骨子とした事業構造改

革を進めている。具体的には、グロー

バル市場の拡大、安心・安全 /環境に

配慮した製品展開、各種無線通信機器

から得られる情報を活用する新サービ

スの展開、M&Aを含む競合対策強化、

効率化と新たなチャレンジのための積

極的な IT投資だ。

陸上無線通信製品は、製品の販売数

も多く納期は比較的短い。一方、船舶

用の無線通信機器は小量で多様、納期

も長いものが多い。さらにソリュー

ションとなれば、顧客要求に合わせた

システムの構築が必要となるため、受

注から納品までかなりの時間がかかる

ものも多い。「多様な製品をさまざま

な納期で提供する必要があります。こ

れらをタイムリーで無駄なく生産をす

るには、生産プロセスの見直しが必要

です。そのためには購買の一括発注化

など、生産の前後の業務も含めたプロ

セスの再検討を行っています」と岡村

氏は言う。

この生産プロセスの見直しのため

に、積極的な IT投資も行う。その 1

つが PLMの導入だ。もともと日本無

線では国産の PDMパッケージを利用

してきた。これは「どちらかと言えば

技術情報の管理にポイントを置いたも

のでした」と岡村氏。なので、電気や

機械の設計情報を入れて管理し、そこ

からの出図がおもな目的だった。

PDMでもそれは実現していたが、レ

スポンスが悪い、使い勝手が良くな

い、さらにはプロセス変更をしようと

すると手間とコストがかかるといった

問題があった。また、これから全社レ

日本無線株式会社http://www.jrc.co.jp/

日本無線株式会社

真のコンカレト エンジニアリングのために日本無線が選択したのはグローバル スタンダードなPLMだった

Product Lifecycle

Management

船舶用レーダー装置 JMA-5300MK2

平面アンテナ可搬型衛星通信装置 JUM-5041

日本無線株式会社執行役員 技術本部 副本部長

岡村 俊幸氏

10 11PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 7: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

ベルで生産改革するためには、さまざ

まなシステムとの連携も必要。既存の

PDMでも連携はできるが、それには大

きな手間がかかることが予測された。

「従来の PDMは使い勝手が悪く、

ユーザーにアンケートをとると 9割く

らいが使いにくいと答えるようなシス

テムでした。さらに、生産改革のため

に PDMの更新を考え見積もりを行っ

たのですが、かなりの高額となってし

まいました」(岡村氏)。

そこで、7年あまり利用してきた

PDMを更新するのではなく、それを捨

て新しい PLMの導入を決めた。その際

に選ばれたのが、PTC® Windchill®だっ

た。2013年 1月に PLMへの乗り換えを

決め、3月にはWindchillを選択、4月

から導入プロジェクトがスタートする

という極めて短期間での決断だった。

選択ポイントは カスタマイズの少なさと 使い勝手の良さ選択の最大のポイントは、カスタマイ

ズなどほとんどなしで目的とする使い

方ができること。Windchillのカスタマ

イズの少なさ、さらには使い勝手の良

さを目の当たりにし「愕然とした」と

岡村氏。使い勝手の良さは、コスト削

減にもつながる。「使い勝手が改善さ

れ、仮に 1,000人が 1日 2分間作業を

効率化できれば、年間換算ではあっと

言う間に数千万円のコスト削減になり

ます」とのこと。

さらに、「アドオンやカスタマイズ

が少ないので、バージョンアップなど

の際にも苦労は少なく、これなら企業

成長に合わせて長く使い続けられると

考えています。今Windchillに関わっ

用がよくあります。他社ツールでは、

このように国を跨がると別途ライセン

ス費用が発生するのです。」これでは、

国が増えれば増えるほどライセンス

費用は膨れあがる。このライセンス体

系は、じつは PLMでは珍しくない。

「PTCは、いい意味で PLMの常識を逸

脱しています」と岡村氏。

さらに、システムを動かすサーバー

を日本に置き、各国からネットワーク

越しに利用する際、ネットワーク ス

ループットがあまり良くない国でも良

好なレスポンスが得られる点も評価さ

れた。このようにグローバルにシステ

ム展開する際は、機能面だけでは計り

知れない評価ポイントがあるのだ。

評価は、机上だけではない。「全製

品データをWindchillに入れ、必要な

検索性能が出るかを調べました。さら

に、実際の使い勝手も検証しました」

とのこと。その結果、目標性能を上回

る検索性能が発揮され、使い勝手の評

価も上々だった。

「従来の PDMでは 3クリックでたど

り着くような機能が、1クリックで OK

といったことが多々ありました。将来

的には水や空気のように意識をせず、

存在することがあたりまえとして利用

できるようになってもらいたい」(岡村

氏)。

岡村氏は、生産改革で真のコンカレ

ント エンジニアリングを実現したい

と言う。そのためには、「ワールドワ

イドにビジネスを展開していく上でグ

ローバル スタンダードの製品を利用

すべきだ」という上司の言葉が心に響

き、その面からもWindchillを選んだ

と言う。海外製のグローバル スタン

ダード製品は、ともすると日本人には

使いにくい。しかし、Windchillは「日

本人が使ってなんら違和感がない」と

のこと。日本人の要求に十分に応えら

れれば、海外展開しても問題はないは

ずだと断言する。

日本無線では、Windchillを活用し知

的作業を 30%以上増やすという目標

を立てている。また、データ、ナレッ

ジを共有化することで、さらなる作業

の効率化も目指す。そのためにグロー

バルでの PLMの活用情報の提供など、

PTCにはビジネスパートナーとしての

一層のサポートが期待されている。

Corporate Profile日本無線株式会社(Japan Radio Co., Ltd.) およそ 100 年の歴史をもつ日本無線は、産業用および公共用の無線通信機器、システムを製造、販売するメーカー。おもに陸上用の各種無線、通信機器の製造、販売、海上用無線機器の製造、販売、さらには無線通信機器等を活用するソリューションの提供という、3 つの領域で業務を展開している。永きにわたる無線通信分野での実績、そこで培われた高い技術力を核に、創意工夫により独自技術の開発に注力している。その結果、得意の無線通信機器のみならず、カーナビゲーションの GPS 受信機ではトップシェアを獲得するなど、無線通信技術を応用する領域へも積極的な展開を行っている。創立 1915 年(大正 4 年)。

日本無線株式会社

真のコンカレト エンジニアリングのために日本無線が選択したのは

グローバル スタンダードな PLMだった

デジタルタクシー無線機 JHM-438

ている人間は、将来についての不安を

まったく持っていないと思います」と

岡村氏は言う。

もう 1つのポイントは、グローバル

対応だった。これは、多言語対応で各

国レギュレーションなどにも容易に対

応できるだけではない。Windchillで

は、1つのライセンス形態でグローバ

ル展開ができる点が大きく評価され

た。「船舶用の無線通信機器では、港

に到着した際に修理用部品を発注し次

の国の港でそれを受け取るといった運

日本無線株式会社 技術本部 マイスターチーム 担当部長 副参与張替 幸治氏

日本無線株式会社執行役員 技術本部 副本部長

岡村 俊幸氏

13PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN12 PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 8: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

海外昇降機事業の 更なる拡大のためには、 拠点間での迅速な 技術情報共有が必須だった

IT技術を活用するさまざまな社会イン

フラを提供している日立製作所。その

一カンパニーである都市開発システム

社では、エレベーターやエスカレー

ターなどの昇降機の製品開発、販売か

ら製造を一貫して行っている。昇降機

は、施設や建物があればかならず必要

になる重要設備。そのため、国内はも

ちろん、海外においても幅広いニーズ

がある。とくに現状では、中国や東南

アジアなど、都市開発事業が盛んな地

域での需要が高い。

また、昇降機ビジネスは、国内外に

多数の競合他社がいる厳しい市場でも

ある。そのような中で、日立ならでは

の強みである安全性、信頼性、そして

品質の高い製品提供が、顧客からは求

められる。「それぞれの地域のニーズ

に合った、安全で信頼性の高い製品

を、迅速かつ市場にあった価格で提供

することが強く求められます」と言う

のは、都市開発システム社 水戸事業

所 設計開発本部 エレベータ設計部 担

当部長の小野 浩隆氏だ。

海外ではとくに、日本製品の品質は

高いイメージがある。期待される高品

質を維持しつつ、各地域のニーズに

合った製品を迅速に提供する。そのた

めには、「昇降機製品の地産地消を実

施する必要があります」と小野氏。こ

の地産地消を実現するには、現地ニー

ズに合った製品を現地で設計し、現地

で製造することになる。とはいえ、製

品の基本的な開発、設計は日本で行わ

れる。それを基に各地で受注仕様に応

じたカスタマイズ設計を施し、製造を

行う。これら一連の作業を、国境を越

えて拠点間で連携しながら効率的に行

えなければならない。「情報を海外拠

点に迅速に提供し、常に最新の情報を

共有する必要がありました」 (小野氏)。

システムの標準仕様を 最大活用して、業務プロセス のグローバル標準化を図る市場のニーズに合致した高品質な製品

の開発、市場への早期投入を実現する

ためにも、「国内外の拠点で共通利用

できる新たなグローバル IT基盤が必

要でした」と小野氏。

これは、同社が推進するグローバル

高効率開発、生産体制構築の一環でも

あり、これを支えるための基幹システ

ムを新たに導入することになった。

2009年 4月、新たな基幹システム

となる Product Lifecycle Management

(PLM) システムの導入検討が始まる。

1年あまりの時間をかけ検討した結果、

選ばれたのが「PTC Windchill」だっ

た。その理由には、Windchillの持つ標

準機能の充実が挙げられる。「グロー

バルで共通利用するシステムなので、

なるべくパッケージの標準機能だけ

で、自分たちがやりたいことが実現で

きる必要がありました」 (小野氏)。

株式会社 日立製作所 都市開発システム社http://WWW.hitachi.co.jp/urban/

株式会社

日立製作所

都市開発システム社

PTC® Windchill®を活用したグローバル PLMで昇降機のグローバル高効率開発、生産体制の構築を支える IT基盤を構築

ANA インターコンチネンタル 万座ビーチリゾートエレベーター納入事例

株式会社 日立製作所都市開発システム社 水戸事業所設計開発本部 エレベータ設計部

担当部長 小野 浩隆氏

世界一の高さ (※) を誇るエレベーター研究塔「G1TOWER」※2013年5月現在 日立調べ

Product Lifecycle

Management

14 15PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 9: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

また、Windchillを先行導入していた

中国の現地法人の運用実績から、業務

の実現性を確認できたこと、Windchill

はアーキテクチャの信頼性が高く、同

業他社も含めて国内外での導入実績が

豊富なグローバル製品であることも決

め手となった。

とはいえ、パッケージの標準機能に

業務を適合させるところでは苦労もし

た。都市開発システム社 水戸事業所

設計開発本部 エレベータ設計部 主任

技師の武田 憲治氏は「海外拠点の一

部は、図面や資料を紙で管理していま

した。また、技術資料の承認プロセ

ス、改廃プロセスにも拠点毎に運用レ

ベルに差異があり、それをWindchill

の標準レベルへ引き上げる必要があっ

たのです」と言う。つまり苦労したの

は、PLMの導入に伴う業務の標準化徹

底の部分だ。

たとえば、Windchill標準の改廃プロ

セスは、かなり強固なものだ。海外拠

点では紙ベースで行ってきた業務プロ

セスがあり、それを一新してWind chill

に合わせるのは大変だったのだ。そこ

で、国内外の各拠点においてパッケー

ジ製品の標準機能を共通利用するとい

う面で、PTCのコンサルタントが支援

することになる。「結果的には、パッ

ケージの標準機能をうまく活用するこ

とで、業務プロセスの標準化が実現で

きたと考えています。これは、業務の

高効率化や図面、BOMなど技術情報の

品質向上にも貢献しています」(武田

氏)。

Windchill導入と図面規格の 標準化で、製品技術情報の グローバル共有化を実現

2011年 5月から、開発、設計拠点を

有する日本、シンガポール、タイで順

次 PLMを導入し、先行導入していた

中国の PLMとの相互連携も開始した。

これにより、拠点間で情報共有に有す

るリード タイムは約 1日に大幅短縮

された。

「以前は、中国拠点に月平均 4万枚、

多いときには 8万枚もの紙図面を送付

していました。これが一切なくなりま

した」 (小野氏)。紙図面の送付がなく

なったことによる輸送費の削減や管理

スペースの削減も大きいが、むしろ技

術情報の共有リードタイムの短縮効果

が大きいとのこと。特に中国に紙図面

を送付する際には税関の手続きもあ

り、2週間程度の時間を要していた。

これが今では、技術情報はWindchill

に一元管理されており、送付元の承認

プロセスを入れても、1日あれば情報

共有が可能となったのだ。

さらに、紙図面の場合は、他拠点か

ら受領した図面が最新のものか否かの

判断が難しく、拠点間で管理している

図面の来歴に差異が生じることもあっ

た。「訂正図面を送付しても、図面の

差し替えが確実に行われず、拠点間で

異なる来歴の図面を使用していたこと

もありました」 (武田氏)。

それが今では、常に最新の技術情報

を各拠点間で共有できるようになっ

た。これは、製品の開発、設計業務の

効率化だけでなく、製品の品質向上に

もつながる。「今では海外拠点で日本

の図面を見たいと思えば、自席の PC

で参照することができます。もちろん

最新の改廃情報を確認することも可能

です。この変化には、海外拠点の設計

者も多いに喜んでいます」と武田氏は

言う。

また、グローバルに統一された新図

面規格も合わせて導入し、各拠点間で

図面や BOMの流用が可能となった。

他拠点図面をもとにローカライズ設計

をする際にも、CADや BOMデータ等

の電子データの流用が可能となり業務

の高効率化を実現した。更に、PLMと

各拠点の生産管理システム間で BOM

連携を実現。グローバル開発、生産体

制を支える IT基盤を構築した。

「今回のWindchillの導入で、海外

拠点との協業のスピードを上げたいと

考えていました。さまざまな面で待ち

時間をなくすことで、業務効率を向上

させることが出来ます。今後、日本と

海外拠点が共同で実施する製品開発プ

ロジェクト等において、開発から生産

準備までの大幅なリードタイム低減を

見込んでいます」 (小野氏)。

業務の効率化を実現したことで、余

裕の生まれるエンジニアも出てくる。

そういった人材については、新たに注

力するリニューアル事業にシフトする

取り組みも始まろうとしている。また、

部品表の情報共有が実現したこともあ

り、今後はサービス BOMの共有など、

リニューアル製品の開発、保守、保全

サービスまで改革の幅を拡大していく

予定である。「これからは、製品ライ

フサイクル全般に渡る情報の一元化を

実現し、さらに業務の軸を増やしてい

くことを考えています」と小野氏。

それに伴い、Windchillについても、

新たに保守サービス機能の活用を検討

する予定でいる。また、今回の PLM

導入経験を社内でも積極的に共有して

おり、日立全社においてグローバルレ

ベルでの PLMソリューションの重要

性が高まりつつあるとのことだ。これ

らを支援するためにも、「PTCにはグ

ローバルでの製品活用事例など、さま

ざまな情報を積極的に提供して欲し

い」と小野氏は期待する。

Corporate Profile株式会社 日立製作所 (HITACHI, Ltd.)日本を代表する高度な社会インフラを提供するグローバル企業。情報、電力、電機を融合させたビジネスモデルで、電力システム、都市開発システム、インフラシステム、ディフェンスシステム、交通システム、情報通信システムといった分野において、幅広い製品とサービスを提供している。明治43年 (1910年) 創業。

株式会社 日立製作所都市開発システム社 水戸事業所設計開発本部 エレベータ設計部主任技師 武田 憲治氏

グローバルに一元管理された製品技術情報

PTC® Windchill®を活用した グローバル PLMで

昇降機のグローバル高効率開発、生産体制の構築を支える IT基盤を構築

株式会社

日立製作所

都市開発システム社

16 17PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 10: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

プロセスの途中でも適切な成果物を用

意しなければならない。さらに、開発

プロセス自体のトレーサビリティも確

保する必要がある。

栃木開発センター 開発本部 第 0開

発部 第四課 課長 安部 俊二氏は、「製

品開発は限られた期間で行いますか

ら、開発者に新たな負担をお願いする

わけにはいきません。現場の工数を最

小化しながら、開発内容の記録や、開

発にかかる工数管理、開発プロセス管

理を網羅するとなると、ツールを使う

しかないと判断しました」と話す。

同社はそれまで、ソフトウェア開発

の一部において管理ツールを使用して

きた。しかし大半のドキュメントは紙

で保存され、残りは電子ファイルとし

てファイルサーバに蓄積していた。し

かし、ISO26262に対応するとなると、

開発過程において、V字プロセスの左

側(要件)と右側(検証)を整合させ

ながら管理していくことが必要になる。

また、トレーサビリティ要件をみたす

ために、最終的な開発成果に至るまで

に出てくるあらゆるドキュメントは一

元管理し、いつでも取り出せるように

しておく必要がある。

既存バージョン管理ツールの 流用を断念

ツールを導入するにあたって、同社は

当初、一部で利用されてきたバージョ

ン管理ツールを流用し対応しようと考

えた。しかし、ISO26262対応のために

は、それに加えてプロジェクト管理や

要件管理、構成管理といった機能が必

要になる。そして、最も重要なのは、

それぞれの機能が密に統合されている

必要があることだ。このため、バー

ジョン管理ツールと要件管理ツールや

テスト管理などの複数のツールを組み

合わせ、利用できる状態に整備し直す

ことは現実的ではなかった。

安部氏は、「現場からは、いままで

の機能をそれまでどおり使えることが

大前提、という希望を受けています。

新しいツールに切り替えるにしても、

現場の生産性を低下させてしまう事態

は絶対に防ぐ、という意志を持って再

検討することになりました」と当時を

振り返る。

ソリューションを探す中で 2011年 7

月に出会ったのが、機能安全のための

統合された機能を備えた PTC Integ rity

だった。ISO26262対応という要件には

合致していたが、現場が気にするのは

すでに使ったことのあるバージョン管理

部分。そこで、関心事であるバージョ

ン管理機能が、今後の ISO26262管理

手法にどう繋がるのかをメインに現場

への説明会を開催することになった。

栃木開発センター 開発本部 第 0開

発部 第四課 芳賀 麻子氏は、「自動車

業界における組み込みソフトウェア開

発向けの機能が、特に優れていると感

じました。現場からも、このツールな

ら使えそうだと同意してもらうことが

できました」と話す。

2011年 11月、PTC Integrityの採用が

決定し、2012年 1月に導入。

環境構築とマニュアルの整備などを経

て、9月ごろより社内トレーニングを

重ね、バージョン管理機能と構成管理

の一部機能から段階的にリリースして

いった。

現場に納得してもらいながら展開していきたい

2013年 6月時点では、構成管理、要

件管理、プロジェクト管理はまだ全面

展開に至っていない。それは、各機能

の全体像を見える形にした上でトレー

ニングを開始し、開発プロセスを統一

した上で展開したいという思いがある

ためだ。現在のところ、構成管理は 8

月、要件管理は年内の展開開始が目標

になっている。

「PTC Integrityは、ツールの使い方

を教えるとだれもがすぐに使えるよう

になる、という製品ではありません。

開発製品の特性によって管理のやり方

は違います。現場のやり方をすり合わ

せてみんなが納得した上で、すべての

プロジェクトが共通して使える土台を

作り、それから展開しなければ、組織

での標準化を求める ISO26262の規格

をみたせません」(芳賀氏)。

現実には、すべての開発プロセスに

完全に同一の標準を当てはめることは

できない。標準化の範囲を決め、個別

対応するところと社内で標準化すると

ころをコントロールすることが大切に

なってくる。成功のカギは、各開発現

場のキーパーソンから話を聞き、納得

感を醸成しながら時間をかけてこの部

分をクリアし、一気に全面展開に持っ

ていくことだ。それが実現すると、セ

キュリティ面などのインフラ要件を解

決し、海外子会社への展開も進めてい

く計画だ。

すでに、トレーサビリティの確保や、

上流開発の成果物まで厳格に構成管理

できる環境はある。問題解決管理、リ

スク管理、不具合管理および変更管理

を可能にするプロジェクト管理環境も

整っている。ケーヒンは今期、ソフト

ウェア領域に対し集中的に展開を進

め、その後、定着化の具合を見て、シ

ステム開発全領域に渡る網羅的な管理

も視野に入れて推進する方向だ。

安部氏は、「最初からすぐにうまく行

くとは考えていません。プロセスは、

徐々にしみこむように定着していくも

の。時間をかけて改善を繰り返し、最

終的に良いものになった、とだれもが

感じられるソリューションになるよう、

展開していきます」と話している。

株式会社ケーヒンhttp://www.keihin-corp.co.jp/

株式会社ケーヒン

ISO26262対応に PTC Integrity™を採用 現場の話を聞き、 時間をかけて確実に成功させる

株式会社ケーヒン栃木開発センター

開発本部 第0開発部 第四課 課長安部 俊二氏

株式会社ケーヒン栃木開発センター開発本部 第0開発部 第四課芳賀 麻子氏

現場の工数を 最小化するためには ツールが不可欠株式会社ケーヒン(以下、ケーヒン)

は、二輪/四輪の電子制御系、燃料供

給系、空調系などのシステムモジュー

ルに実績を持ち、現在は部品サプライ

ヤーにとどまらない総合システム開発

メーカーとしての存在感を高めてい

る。新技術分野にも積極的に投資して

おり、中でもガス燃料車向け製品で

は、その技術とシステムによって世界

中の企業から注目を集めている。

2011年 11月、開発プロセスにおけ

る厳格な作業成果物管理を要求する

ISO26262(運転手を除く乗員 8人以

下、かつ総重量 3.5トン以下の自動車

に搭載される電子制御部品の「機能安

全」についての国際規格)が発行。同

社のシステム開発においても、この新

しい規格に対応することが不可欠に

なった。規格を遵守するためには、最

終的なアウトプットだけでなく、開発

Application Lifecycle

Management

Corporate Profile株式会社ケーヒン設立: 1956年12月19日

本社: 〒163-0539 東京都新宿区西新宿一丁目26番2号 新宿野村ビル 39F

代表者: 代表取締役社長 田内 常夫

資本金: 69億32百万円(2013年3月31日現在) 従業員: (就業人員ベース) 連結 20,807名 単独 4,313名(2013年3月31日現在) 事業内容: 二輪車・汎用製品および四輪車製品の製造販売

4R Fi ECU:四輪車向け燃料噴射制御装置

18 19PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 11: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

速度的に増えている。2015年には、車

載ソフトウェア(制御コード)の総行

数は 1億行に達する見通しだ。

このように、車載ソフトウェアが大

規模複雑化すれば、その開発はより困

難になる。ソフトウェアは簡単に変更

できると思われがちだが、一つの要件

変更に対して関係する設計上の変更点

を特定し、慎重にソースコードを変更

し、網羅的なテストを実施しなければ

ならず、その開発量は大規模複雑化に

より加速度的に増加している。さらに

事態を複雑化させているのが、グロー

バルなソフトウェア開発の分業体制

だ。エンジニア間のコミュニケーショ

ンが円滑になされなければ、要件変更

の伝達ミスや、設計レビューの漏れな

どが発生し、スケジュール遅延や、コ

スト超過といった状況が容易に発生す

ることになる。

これらの課題に加えて、世界の大手

自動車メーカー約 30社が中心となっ

て策定した自動車分野の機能安全規格

「ISO26262」への準拠対応も進めなけ

ればならない。ISO26262は、業界内で

安全性に関する説明責任を果たそうと

する意識が次第に高まった結果として

規格化された。機能安全を確保する上

で有効と考えられる開発手法や基準、

指針を体系的に定めた国際規格とし

て、2011年 11月に正式に発行された。

福田氏は、「われわれはこれまでも、

安全という観点で当たり前のようにソ

フトウェアを設計、検証してきまし

た。しかし、安全要件に対して設計

ソースコード テストといった一連の

開発工程で制作される成果物の因果関

係については、エンジニアの頭の中し

かなかったり、Excelを使ったトレー

サビリティ管理となっていました。し

かし、車載システムの大規模複雑化が

進行するに伴い、こうした方法で要件

のトレーサビリティを確保することに

限界が見えてきたのです。そこで、

2003 年から要件管理ツールの導入の

検討を始めました」と話す。

検討当初は、オープンソースの

Eclipseが世界の潮流になると予想して

いた。2009年には、Eclipseをベースに

した仕組みを完成させ、基本となる構

成変更管理をサポートできる環境が

整った。しかし、この仕組みでは、高

度なトレーサビリティ管理や ISO26262

が求める要件の一つであるツール認証

を満足するためにプラスアルファの努

力を要することが明らかであった。そ

こで新たにいくつかのツールを検討し

た結果、豊富な実績に裏打ちされた技

術力、ISO26262に準拠する信頼性の高

さ、充実したサポート体制などを評価

し、2011年に ALM(アプリケーション

ライフサイクル マネジメント)ツール

の PTC Integrityを全社導入することに

決定した。同ツールを利用すれば、ソ

フトウェア開発プロセスの全段階にわ

たって要件の追跡や変更管理、構成管

理を行うことが可能になる。

現在は、定着化に向けた取り組みを

行っている段階だが、徐々に成果も現

れはじめている。PTC Integrityは、単

一のリポジトリで管理対象となるすべ

ての要件やドキュメント、ソースコー

ド、テストケースなどをひも付けて管

理できる。これにより、全開発工程の

成果物のトレーサビリティを十分に確

保できるため、ソフトウェア品質の確

保が従来よりも容易になった。また、

全開発工程を通じてすべてのチームが

要件を確認しながらコミュニケーショ

ンを行えるため、作業の無駄な手戻り

は極小。開発効率が高まった。さら

に、PTC Integrityでは要件変更が発生

した場合にその影響範囲を自動的に特

定してくれるため、設計への反映箇

所、ソースコードの変更箇所、実施す

べきテストケースなどを判断しやすく

なったことも大きな成果だ。これらの

結果として、作業工数も削減できる見

込みだ。プロジェクトの規模によって

異なるが、トレーサビリティ管理の徹

底によって増加する作業量が、平均で

13% 程度は削減できるという。

福田氏は、「PTC Integrity導入の最

大の成果は、複雑化大規模化するソフ

トウェアの開発をこれまでの品質第一

の考え方を変えることなく対応できる

ようになったことです」と話す。

続けて、「いまや、ソフトウェア開

発において PTC Integrityは不可欠な存

在です。今後は、海外を含めた分散開

発拠点間でさまざまな問題を共有する

仕組みの中核に PTC Integrity を据え、

品質と開発効率のさらなる改善を目指

します」と講演を締めくくった。

株式会社デンソーhttp://www.denso.co.jp/

株式会社デンソー

PTC Integrity™でソフトウェア開発ライフサイクルを網羅的に管理機能安全規格に準拠し、ソフトウェア品質の向上も実現

株式会社デンソー 電子プラットフォーム開発部電子システム企画室 担当次長 

福田 淳一氏

要件変更の影響範囲を 自動的に特定PTCジャパン株式会社(以下、PTC)

は、PTCの最新ソリューションやテク

ノロジ、製品戦略、先進的な企業によ

るユーザー事例などを紹介するプライ

ベート イベントを開催。同イベント

の基調講演において、株式会社デン

ソー 電子プラットフォーム開発部 電

子システム企画室 担当次長 福田 淳一

氏が、「車載ソフトウェア開発に必要

な開発環境とは~PTC Integrity導入に

よるソフト開発の効率化を目指して

~」と題した講演を行った。

講演の冒頭で福田氏は、「自動車業

界では 1970年に成立したマスキー法

(自動車排気ガス規制法)を契機に電

子制御の導入が進み、いまではパワー

トレイン系、シャーシ系、ボデー制御

系、情報通信系の機能の多くが車載電

子システムによって実現されています。

また、これまで独立していた複数の機

能を統合することで新しい機能やサー

ビスを提供する機能連携も進み始めて

おり、必然的に車載電子システムの大

規模化と複雑化をもたらしています」

と語る。

車載電子システムの役割が大きくな

るにつれ、ソフトウェアのサイズは加

Corporate Profile株式会社デンソー設立: 1949年12月16日本社: 〒448-8661 愛知県刈谷市昭和町1-1

代表者:取締役社長 加藤 宣明資本金:1,874億円(2013年3月31日現在)従業員:連結 132,276名、単独 38,385名 (2013年3月31日現在) (就業人員ベース)事業内容:自動車関連、産業・生活関連機器分野から、住宅設備機器や医療関連などの新規事業

Application Lifecycle

Management

20 21PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 12: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

り巻く課題を解決するためのさまざま

な取り組みを続けてきた。代表的なの

が電子プラットフォームの構築だ。こ

れは大きく実装プラットフォームと開

発プラットフォームに分けられる。

実装プラットフォームは、ソフト

ウェア階層構造仕様や基本ソフトウェ

ア仕様、インタフェース仕様などを標

準化、共通化するための基盤だ。ソフ

トウェアを部品化して再利用性を高

め、開発するソフトウェアを削減する

アプローチである。同社は、車載ソフ

トウェアの国際標準化団体である

AUTOSARや国内の標準化団体である

JasParの標準規格への準拠を推進し

ている。

開発プラットフォームは、制御モデ

ル記述言語、ツール、制御対象のモデ

ル化とシミュレーション、自動コード

生成により、開発負荷を軽減するアプ

ローチを導入。開発工程の上流から下

流のプロセスにおいて一貫してモデル

を利用するモデルベース開発手法を用

い、組み込みシステム開発の効率改善

を図っている。

組み込みシステム開発には、新たな

潮流もある。自動車の安全性規格に対

応しようとする機運が業界内で高まっ

ているのだ。これを後押ししているの

が、自動車分野の機能安全規格である

ISO26262。その要求内容は、同社がこ

れまで充たしてきた品質管理要求に類

似する点も多いが、いくつかの違いも

ある。機能安全の観点で設計、検証し

たことを証跡として残す必要があるこ

と、設計、検証において一部定量的な

判定を求められることだ。同社は、

ISO26262が求める要件とギャップの

ある部分を充足し、ISO26262より上を

行く品質管理レベルは現状を維持する

方針だ。

機能安全の確保は大きなチャレンジ

になる。単体で制御される機能群は相

互に通信を行って付加価値となるサー

ビスを提供する仕様だが、車載電子制

御システムが高度化、複雑化している

ためだ。たとえば、機能安全に関連す

るエラーが機能単位間の相互作用に

よっても発生する可能性があり、そう

ならぬよう設計、検証するのに多大な

時間と費用がかかってしまう。

宮崎氏は、「Excelを使ってトレー

サビリティ管理することもできます。

ただ、項目数が増えて階層も深くなれ

ば、当然ながら管理の複雑性は増しま

す。また、要件変更があった際、それ

によって影響を受ける範囲を漏れなく

特定して対策検証する作業が必要であ

り、結果的に開発効率の低下や開発コ

ストの増大を招いてしまいます。激し

さを増すグローバル競争を勝ち抜くた

めには、機能安全を含めた要件のト

レーサビリティを確保し、ソフトウェ

ア品質や開発効率をさらに高められる

ツールの導入が必要でした」と語る。

そこで同社は、安全に関する要件管

理、およびトレーサビリティ管理を実

現するソリューションとして PTCの

PTC Integrityを導入した。ソフトウェ

ア開発工程をさらに短縮し、機会損失

を最小限に抑えるために最も有効なソ

リューションと判断したためだ。

PTC Integrity を使って管理対象とな

るすべての要件や仕様書、ソースコー

ド、そしてテストケースなどを関連づ

けし、トレース可能な形式で管理す

る。これにより、要求定義からアーキ

テクチャ設計、詳細設計、コーディン

グ、単体テスト、結合テスト、総合テ

ストに至る開発ライフサイクル全体の

トレーサビリティを確保し、安全要件

がソフトウェア成果物によって満たさ

れていることを迅速に確認できるよう

にする。

宮崎氏は PTC Integrityの導入効果の

一例として、ISO26262の安全機能要件

に関するトレーサビリティ管理に費や

した時間を、Excelと PTC Integrityを

使ったそれぞれのケースで計測した結

果を紹介。「Excelを使って約 40時間

を要した作業を、PTC Integrityでは約

8 時間で完了できるようになりました 」

とその成果を会場に披露した。

日立オートモティブシステムズ 株式会社http://www.hitachi-automotive.co.jp

日立オートモティブシステムズ株式会社

PTC Integrity™を利用して、ISO26262対応のトレーサビリティ管理に 費やす工数を約 5分の 1に

日立オートモティブシステムズ株式会社技術開発本部 主管技師長

電子プラットフォーム技術統括宮崎 義弘氏

PTC Integrityで ソフトウェアの大規模化、 複雑化に対応PTCジャパン株式会社(以下、PTC)

は、PTCの最新ソリューションやテク

ノロジ、製品戦略、先進的な企業によ

るユーザ事例などを紹介するプライ

ベート・イベントを開催。同イベント

において、日立オートモティブシステ

ムズ株式会社 技術開発本部 主管技師

長 電子プラットフォーム技術統括 宮

崎 義弘氏が、「自動車用機能安全規格

ISO26262 への取り組みとソフトウェ

ア開発ツールの活用事例」と題した講

演を行った。

講演の冒頭で宮崎氏は、「排気、燃

費規制などの社会的要求の高まりや消

費者の嗜好の多様化を背景に、エンジ

ン制御コントローラのソフトウェアサ

イズはここ 20 年で数百倍に膨れあがっ

ています。このように、大規模化 、複

雑化する組み込みシステムの開発は時

間とともに難しくなっていますが、一

方で開発コストの削減や開発期間の短

縮、信頼性の維持、向上を実現するこ

とも同様に求められています」と話す。

同社は、組み込みシステム開発を取

Corporate Profile日立オートモティブシステムズ株式会社設立: 2009年7月1日本社: 東京都千代田区大手町二丁目2-1 新大手町ビル代表: 取締役会長 兼 CEO 大沼 邦彦 取締役社長 兼 COO 佐藤 寛資本金:150億円 (株式会社日立製作所 100%)事業内容:自動車部分品及び輸送用並びに産業用機械器具・システムの開発、製造、販売及びサービス

Application Lifecycle

Management

22 23PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 13: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

や家電製品など、さまざまな「ものづ

くり」を支える重要な存在だ。工作機

械で生産される最終製品は、早いもの

で半年や 1 年など短いスパンでモデル

チェンジする。製品の使用年数は、た

とえば家電ではせいぜい 7、8年に対し

て、「工作機械は軽く 20年、長いもの

では 30年以上利用されます」と、牧

野技術サービス システムサポートセ

ンタ 部長の松下 国弘氏は言う。昨今

の景気先行きの不透明感からか、ユー

ザーは新しいものを導入するよりも手

許の機械を長く使いたいという意向も

強い。この長期間にわたる使用が、こ

の業界のアフターサービスの難しいと

ころでもある。

また、製造業のグローバル化もあ

り、国内工作機械設置は減少傾向、逆

に海外は増加している。工場移転にと

もない、国内の機器を海外へと移転す

る動きもある。当然、それら状況に合

わせたサポートも必要だ。「10年前は

インドや中国は、ほんの小さな市場で

20 年、30 年と使われる 工作機械、そのサービス ナレッジの共有化を目指すマシニングセンターや放電加工機な

ど、製造業で欠かせない各種工作機械

を生産、販売する牧野フライス製作所

とマキノジェイ。両社が提供する工作

機械のアフターサービスを、一手に引

き受けているのが牧野技術サービスだ。

工作機械は「マザー マシン」とも

いわれ、世の中の経済を支える自動車

した。しかしそれが今、年々拡大して

います」と松下氏。

20年、30年と利用される工作機械

のサポートでは、技術継承が難しい。

熟練エンジニアなら、古い機種に触っ

たこともあるだろう。しかし経験が 10

年あっても、20年以上前の機種は見た

ことすらないことも。そして、20年も

前では、技術情報は紙の書類でしか

残っていない。書類だけでも、必要な

すべてがあればいいが、個人のノウハ

ウとしてエンジニアの頭の中に蓄積さ

れ、簡単に共有できないものも多い。

そして、エンジニアの高齢化も問題

だ。2007 年以降に団塊世代の熟練エン

ジニアの大量退職時期を迎え、彼らの

ノウハウを若いエンジニアに伝えた

い。その対策も模索していた。

また、工作機械にまつわる技術用語

には「方言」も多い。同じものを指す

言葉でも、技術者によって表現が異な

り略称も多い。なので、個々のエンジ

ニアのノウハウをそのまま文字化して

も、文字検索では目的の情報にたどり

着けないこともある。そして、前述し

たように海外へのシフトも必要だ。

「工作機械だけが海外に行き、機器の

履歴情報は付いていきません」と松下

氏。海外へのさまざまな情報提供も、

課題だった。

これら多くの課題解決のために、牧

野技術サービスではナレッジ管理の仕

組みの、新たな取り組みを検討した。

当初は、スキャニングによる紙情報の

電子化を行い資料のライブラリを構築

し、また作業報告書の内容を分類・

コード化をして SQLデータベースなど

で検索できるようにしていた。とはい

え、情報量が増えればこれらでは対処

しきれない。さらに、PCソフトウェア

ではバージョンアップ時の互換性問題

などもあり、運用の手間も大きかった。

「ナレッジ管理をするための、専用ソ

フトウェアが必要だと考えました」と

松下氏。単純な文字検索だけではなく、

技術用語の方言があっても、さまざま

なアプローチで、目的の情報に確実に

たどり着ける。そんな仕組みが必要だっ

たのだ。さらに、工作機械のサポート

は 20年、30年と続く。ナレッジ管理の

仕組みも、それに対応できるものが

必要だった。そしてもちろん、海外展

開への対応もいる。これらの要望に

応えたのが、「PTC Service Knowl edge

Management」だった。

エンジニアの方言にも対応し 多様なアプローチで 解決案を導き出す

「日本で最初の導入だったこともあり、

フランスからわざわざ開発担当者が来

て、詳細な説明をしてくれました。そ

の内容などを評価し、採用を決めまし

た」(松下氏)。

コールセンターのオペレーター (CTI)

が電話を受ける際に利用、フィールド

サービス エンジニア(FSE)が蓄積さ

れた情報を参照し実際に修理作業の参

考にする、この 2つに対応できることも

株式会社 牧野技術サービスhttp://www.makino-mts.co.jp/

株式会社

牧野技術サービス

PTC® Service Knowledge Managementの利用で、サービス ナレッジの蓄積と共有化を行い、技術継承を容易化しグローバルでの情報活用を実現

株式会社 牧野技術サービスシステムサポートセンタ 部長

松下 国弘氏

Service Lifecycle

Management

立形マシニングセンタ V33i

24 25PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 14: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

選択の理由だったと松下氏は説明する。

また、障害解決方法は、入り口が 1

つで答えが 1つの場合もあれば、入り

口が複数で回答が 1つ、入り口が複数

で可能性のある回答が複数など、さま

ざまなパターンがある。「障害原因が複

雑な場合は、可能性のある解決案す

べてを検証する必要があります」と、

ソリューション開発グループ 課長の

矢田 賢一氏は言う。複雑な解決方法

パターンを適切に絞り込める。それが、

PTC Service Knowledge Manage ment

の、質問と回答による対話型インター

アが活用する。蓄積されているのはテ

キストや図面情報だけではない。たと

えば、機器の異常振動時に発生する

「音」の情報もあり、実際の音と聴き

比べることも可能だ。詳細なノイズ周

波数を検知する測定ソフトウェアへの

リンクなどもあり、フィールド サー

ビス エンジニアがすぐに利用できるよ

うになっている。さらに、動画の追加

も始めており、言葉では説明しきれな

い状況を、正確に伝える工夫も始めて

いる。

「現在は、修理などに関わった人か

らのノウハウを中心に蓄積しています

が、これからは利用した人からの

フィードバックも入れたいと考えてい

ます。facebookの『いいね !』のよう

な評価や、追加で資料が欲しいといっ

た声も反映できればと思っています」

と松下氏は言う。

システム利用開始から 3年目にな

り、100名を超えるエンジニアが日常

的に利用している。「最近では海外か

らのアクセスも増えています。アクセ

ス数が着実に増えているのは、現場が

メリットを感じている証拠です。また、

ナレッジを事前に参照してからお客様

に行くことで、現場対応時間は確実に

短くなっているはずです」と矢田氏は

言う。

どの情報に誰がどのタイミングでア

クセスしたか、詳細な利用状況の把握

もできる。そこから、アクセスの多い

機種に関する情報を増やしたり、経験

値の浅いエンジニアが同じ情報を何度

もアクセスしていれば再教育を促しス

キルアップに応用したりと、情報共有

以外の利用も拡大している。

このナレッジ管理の仕組みは、今後

20年、30年と利用され、さらに成長

を続けることになる。「PTCには、こ

れからも長期にわたってサポートして

くれるベンダーであり続けて欲しい」

と松下氏は言う。

Corporate Profile株式会社 牧野技術サービス(MAKINO TECHNICAL SERVICE CO.,LTD.)各種工作機械を製作し国内外に展開する牧野フライス製作所、マキノジェイ。牧野技術サービスは、両社の工作機械のアフターサービスを提供する。機械の据え付けや試運転に始まり、操作方法と各機能の説明、さらには導入後の工場移転、レイアウト変更にともなう再据え付けや動作確認、あるいは緊急を要する不具合への対応など、顧客にとってかけがえのない 1 台が、いつも最善の状態で稼動できるようサポートを行っている。また、アフターサービスに加え、年間保守サービスの提供、テクニカル スクールも開催する。1977 年 2 月設立。

株式会社 牧野技術サービス厚木パーツセンタ 課長(在庫計画・手配、ソリューション開発担当)矢田 賢一氏

PTC® Service Knowledge Managementの利用で、サービス ナレッジの蓄積と共有化を行い、技術継承を容易化しグローバルでの情報活用を実現

株式会社

牧野技術サービス

Serve H.E.L.P. のガイド検索画面例

フェースだった。これは、障害症状に

関する質問に、順に答えるだけで対策

方法を適切に絞り込めるもの。さら

に、エンジニアの使う「方言」に対し

ても「多様性を柔軟に辞書などで作り

込める点を評価しました」と矢田氏は

言う。

もう 1つのポイントは、ソフトウェ

アの軽さ。サーバーで稼動し、クライ

アントはブラウザさえあれば利用でき

る。なので、タブレット端末など、オ

フィス外での利用も可能だ。そして、

サーバーで一元管理できるので、情報

を翻訳さえすれば、言語を切り替え

ネットワーク越しに海外へも容易に展

開できる。

システムへのアクセスが 確実に増加し 現場作業時間の短縮にも貢献

ナレッジ管理の仕組みの活用には、相

当なデータ蓄積が必要だ。さまざまな

アプローチで障害解決案を絞り込める

ようにするには、多くのデータを詳細

に作り込む必要がある。これは、手間

のかかる作業だ。

とはいえ、ワークフローに沿って

ツールを利用することで、プログラミ

ング スキルなしに、ノウハウのデー

タ化が可能だった。これで、全社展開

前に導入プロジェクトでは、200件の

ノウハウを蓄積する。「実際のデータ

がないと、エンジニアはどんなものか

分からず、使ってくれません」と矢田

氏。まずは、この 200件のナレッジ管

理の仕組みを全国のエンジニアに説明

して廻り、その便利さを納得しても

らった。

現在は、フィールド サービス エン

ジニアも現場のナレッジを提供してく

れる。そして、エンジニア経験のある

編集スタッフがさらなるナレッジを追

加し、2013年 6月時点で解決案は対

象機種 100以上、総数 2,640件を超え

た。さらに、開発部門のノウハウも蓄

積し、開発部門への問い合わせを減ら

す取り組みも始めている。

蓄積されたナレッジは、30名のコー

ルセンターのオペレーターと 140名

ほどのフィールド サービス エンジニワイヤ放電加工機 W53FB

26 27PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 15: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

日本で蓄積したコンテンツを グローバルで効率よく 共有したいシャープでは AV機器、冷蔵庫、エア

コンなど、一般家電商品をグローバル

に販売している。さらに、商品を安心

して使ってもらうため、アフターサー

ビスにも力を入れている。その結果、

国内では 4年連続で顧客満足度 No.1

の評価も得ており、海外でもこれを目

標に積極的な取り組みを行っている。

顧客満足度向上には、問い合わせに

迅速かつ的確に対応する必要がある。

一方で、アフターサービスを手厚くす

ればするほど、サービス経費はかかっ

てしまう。顧客満足度を向上させつつ

コストを削減する、そんなアフター

サービス体制の確立が急務だった。

「シャープが目指す顧客満足度とは、

商品の良さだけでなく修理などのアフ

ターサービスでもお客様が満足感を得

ること。それで買い換え時に次も

シャープ、ずっとシャープとなってく

れることです。」

シャープ株式会社 CS・環境推進本

部 CS企画推進部 副参事の中山 善生氏

は、顧客満足度を極めて重視している

と言う。お客様からの声やサービス員

からの声をものづくりに活用すること

で、より良い商品を生み出す。

そのために、アフターサービスの最

初の窓口となるコールセンターは重要

であり、サービスの司令塔機能をもつ

べきとしている。

例えば、「コールセンターは、単に

お客様の修理受付し、サービス員はお

客様を訪問しますが、実際は機器故障

ではなく使い方の説明で作業が終了す

ることがあります」と中山氏。

これは、コールを受けた際に、適切

にお客様の状況診断ができなかったか

ら。本来、電話口で適切に診断し対処

方法を伝えられれば、トラブルはその

時点で解決する。それが誤って故障と

判断され、サービス員の出張になる

と、対処までに時間がかかり無駄な

サービス経費の発生となる。

こういった故障ではなく使い方の問

い合わせだったコールは、社内では

「お困りコール」と呼ばれる。このお

困りコールに適切に対処し無駄な出張

作業を減らせれば、顧客満足度向上と

コスト削減を両立できる。

多言語対応、さらには 自動で最適な質問を提示する 操作性の良さを評価

幸い日本には、コールセンターで活用

できるコンテンツが多数蓄積されてい

る。それらを活用するナレッジ システ

ムも導入済みで、高いレベルのアフ

ターサービスを提供している。しかし

欧州、中国、香港、インド、マレーシ

ア、オーストラリアのコールセンター

では、故障診断用のナレッジ システム

は導入されていなかった。そのため、

お困りコールへの対処も十分ではなく、

無駄な出張コストも発生していた。

この状況を解決するため、シャープ

では各国へのナレッジ システム導入

を検討した。しかし、国の状況に合わ

せ個々にナレッジ システムを導入す

ると、コスト負担も大きい。また、各

地の状況に合わせるには、それ相当の

手間もかかる。

「各国で共通に使えるコンテンツが、

日本にはたくさんありました。これを

なんとか、効率的に共有できないかと

考えました。」(中山氏)

そこで導き出されたのが、1つのシス

テムでコンテンツを共有できるグロー

バル ナレッジ システムだった。とはい

え、それを一気に展開するのは難しい。

まずは、アジア地域で販売が拡大して

いるインドネシアで導入し、それを横

展開する方法をとることとなる。

はじめに、日本のコンテンツからグ

ローバルで利用できるものを抽出、そ

れを英訳し共有できるようにする。加

えて、各地域特有のコンテンツは、地

域担当者が独自にコンテンツを作成し

加えることにした。

シャープ株式会社http://www.sharp.co.jp/

シャープ株式会社

PTC® Service Knowledge Managementで日本のナレッジを各国で容易に共有コールセンター対応の質を向上しグローバルで顧客満足度 No.1を目指す

シャープ株式会社CS・環境推進本部

CS企画推進部副参事 中山 善生氏

Service Lifecycle

Management

28 29PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 16: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

このグローバル ナレッジ システム

のソリューションに選ばれたのが、

PTC Service Knowledge Management

だった。対応言語が非常に多いことは

選択のポイントだった。さらには、シ

ステムで最適な質問を自動表示でき、

解決策に最短でたどり着ける利便性の

高い操作性も評価された。「新人でも

いちいち考える必要はなく、システム

が自動で最適な質問を出してくれま

す」と中山氏。

また、ガイド検索、フリーテキスト

検索など、エージェントのスキルに合

わせ、検索方法を使い分けられる点も

魅力だった。そして「よくある買い物

相談などに利用できる、コンテンツ比

較機能も便利だと感じました」と中山

氏は言う。

コールへの対応時間の短縮と無駄な出張の削減を実現

グローバル ナレッジ システムを最初

に導入したインドネシアのコールセン

ターは、スーパーバイザーを含む 26

名のエージェントすべてがシャープの

社員。相談チャネルは電話、電子メー

ル、SMS、問い合わせ対象は、エアコ

ンや冷蔵庫、洗濯機、テレビなどだ。

2011年 4月、日本でまず体制構築

と展開プランの策定が始まる。そし

て、蓄積されていた液晶テレビのコン

テンツの共通ナレッジ化を行った。同

時に、インドネシアの責任者に対し日

本で研修を行い、さらに現地に日本の

担当者が出張し研修も実施。2012年 2

月からは現地スタッフによる研修も開

始し、システムのテスト稼働を行いな

がら現地体制が整えられた。また、イ

ンドネシアで問い合わせの多い冷蔵庫

に関するコンテンツのナレッジ化も行

われた。その結果、稼動時点までに、

液晶テレビ 50、冷蔵庫 100の解決策

をシステムに登録する。

2012年 5月 15日、インドネシアの

コールセンターでグローバル ナレッ

ジ システムの利用が始まった。これに

より「新人エージェントの対応時間が

短縮され、紙カタログを参照しなくて

もシステム画面だけで素早く回答でき

るようになりました」と中山氏。また、

導入前に比べ導入後は、サービス員の

無駄な訪問が 16%減少した。エー

ジェントのナレッジ活用率も確実に増

え 2013年 5月時点で 36.9%、「当面

はこれを 50%まで上げたい」と中山氏

は言う。そのために、モニターを 2台

用意し、ナレッジの活用度合いを評価

の対象に組み入れるなど行っている。

インドネシアに続き、オーストラリ

アにもグローバル ナレッジ システム

の導入を行った。オーストラリアのア

フターサービスは、マレーシアのパー

トナーに業務委託されている。一次

コールはマレーシアで受け、内容に応

じてオーストラリアに転送される。そ

のため、実際にナレッジ システムを

利用するのはマレーシアだ。

「すでにノウハウがあったので、3ヶ

月半という短期間で導入が完了しまし

た」(中山氏)。

現地への出張などはほとんど行わず、

打ち合わせや研修はほぼテレビ会議を

使った。2013年 1月からプロジェクト

が開始し、解決策は液晶テレビ 118、

電子レンジ 52件を登録、同年 4月 16

日には稼動を開始したのだ。

1ヶ月ほどの利用でエージェントに

よる 1回での解決率が 5%向上するな

ど、早くもナレッジ システムの効果は

現れている。オーストラリアでも、活

用率を 50%にすることが当初の目標

だ。

ナレッジ システムのサーバーは、

日本のデータ センターに設置されてい

る。一元管理されているので、運用管

理の手間はそれほどかからない。各拠

点では、ネットワーク越しにナレッジ

システムを利用するが、レスポンスも

特に問題はない。1年以上の稼動で、

サービスに影響を及ぼすようなトラブ

ルも一切発生していないとのことだ。

2013年度中には中国、インドにも

システムを展開する。すでに他地域へ

の展開も視野に入っている。より広範

囲に導入することで、グローバルでの

顧客満足度 No.1を目指すのだ。今後

のさらなるグローバル化に伴い、PTC

にはよりきめ細かなサポートが求めら

れる。

Corporate Profileシャープ株式会社(Sharp Corporation)液晶カラー テレビ、プロジェクター、ブルーレイ ディスク レコーダー、携帯電話、タブレット端末など各種 AV・通信機器、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、エアコン、空気清浄機、LED照明機器など健康・環境機器、POSシステム機器、電子レジスタ、インフォメーション ディスプレイ、デジタル複合機など情報機器、これら商品を顧客向けにグローバルに製造、販売し、併せて商品を安心して利用してもらうためのアフターサービスも展開する。また、液晶パネルや太陽電池、さらには CCD・CMOSイメージャ、液晶用 LSIなど各種電子デバイスの製造、販売も幅広く行っている。シャープは独創的な製品の創出と取り組みにより、常に新たな需要を創造し社会に貢献を果たしている。創業1912年(大正元年)。

PTC® Service Knowledge Managementで日本のナレッジを各国で容易に共有コールセンター対応の質を向上し

グローバルで顧客満足度 No.1を目指す

シャープ株式会社

30 31PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

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PTC Creo® とアイデアがあれば想いはすぐに、形になる

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れた拡張性と直感的な操作が可能な設計ソフトウェア。設計プロセスのあらゆる場面

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社 代表取締役社長 谷口 恒氏は、「ロ

ボットカーは、自動車の抱える 3つの

課題を解決してくれます。3つの課題

は、安全、渋滞、そして退屈。予防安

全技術で安全を確保し、走行速度の調

節で渋滞を緩和できます。安全な自動

走行が可能になれば、退屈な道を走っ

ているときに、映画を観られるように

なるかもしれません」と語る。

PTC Creo 初体験の インターン生が 主要部分を設計

ZMPは、ロボットカーの研究開発分

野で重要な役割を担っている。2010

年、自律走行が可能な一人乗りの

超小型電気自動車「RoboCar MEV」を

開発。2013年 2月にその後継として

「Robo Car MV2」の販売を開始した。

これは、トヨタ車体製の超小型電気自

動車「coms」に制御コントローラ、

自動操舵システム、自動ブレーキシス

テムを搭載し、ステアリング、アクセ

ル、ブレーキをコンピュータ制御でき

るようにしたものだ。自動車メー

カー、部品メーカー、および大学など

の研究機関での引き合いが増えている。

RoboCar MV2の設計・開発に活用

されたのは、3次元 CAD ソフトウェア

の PTC Creoだ。同社は創業以来、機

械設計分野で PTC Creoの前ブランド

である Pro/ENGINEERを利用。これ

までもバージョンアップのたびに最新

版を導入し、より優れた機能を利用で

きる環境を整えてきた。そのため、今

回のプロジェクトでは、各種の機能が

大幅に強化された PTC Creo を利用す

ることになった。

開発プロジェクトにおいて、インター

ン生のモジェ・シャルル氏が主要部分

の設計を行った。同氏はフランスで 5

年間、運動学関連の研究に携わった後、

東京工業大学(以下、東工大)大学院

に留学。そこでバイオメカニクスや運動

学、応力解析、部品設計を学び、同社

のインターンシップに参加した。

シャルル氏はフランス時代、図面の

作成、構想設計、モデルチェック、ア

センブリ設計、ダイナミック計算、お

よびキネマティクス・シミュレーショ

ンで CATIAを経験。東工大では、部

品設計やキネマティクス解析、応力解

析に SolidWorksを使っていた。PTC

Creoを使うのは、今回のプロジェク

トが初めてだった。

同氏は、PTC Creoを利用してRoboCar

MV2のベースとなる車体のモデリング

を実施。モーター、油圧シリンダー、

ソレノイドバルブなどの装置を動かす

アクチュエイターや、部品を取り付け

るためのブラケットなど、約 15の主

要部品を PTC Creoで設計した。熱伝

導解析や応力解析による数値シミュ

レーションも行っている。

PTC Creo が仕様を固めることの大切さを教えてくれたPTC Creoは、柔軟なワークフローと、

直感的なユーザーインタフェースを備

えている。画面上で迅速かつ容易にオ

ブジェクトを必要な位置に移動した

り、制約条件を設定したりできる。ま

た、パラメータ値についても規定値を

設定したり、提示される複数の選択肢

から編集したりすることが可能だ。

シャルル氏は、PTCが公開する無料

のチュートリアル(Learning Ex change)

を活用し、PTC Creoを学んでいった。

動画や画像、テキストを組み合わせた

教材はシーンや特定の作業別に作成さ

れており、豊富な機能を理解する際に

役に立った。約 1カ月半がすぎたこ

ろ、自在に PTC Creoを使えるまでに

なったという。

「PTC Creoは人間工学的によく考え

られた操作性を備えているため、制約

の設定や図面の作成を容易に行えます。

自分がやりたいことに加えて、さまざ

まな選択肢を提示してくれるので、よ

り良い答えにたどりつけることも、PTC

Creoの優れた点です。将来、使用する

CADソフトを自由に決められる立場に

なれば、PTC Creoを選ぶことになりそ

うです」(シャルル氏)。

PTC Creoを使用するにあたっては、

何を作るか、何がしたいかといった目

的を事前に明確にしておくことが重要

になる。構想を固めて事前に適切な設

定を施すことで、詳細設計時に手戻り

が発生するリスクが低くなる。つま

り、事前に仕様さえはっきり決めてお

けば、PTC Creoが流れるような設計作

業を支援してくれるのだ。シャルル氏

は、「PTC Creoは、仕様を固めること

の大切さを教えてくれました」と話し

ている。

ZMPは今後、センサーの取り付け

位置を最適化することにも PTC Creo

を活用したい考えだ。人間が自動車を

運転する際、目から得た情報に頼るの

と同様に、ロボットカーにとって目の

役割を果たすセンサーは生命線にな

る。微妙な角度や位置をパラメータの

値を変えるだけで調整するパラメト

リック機能を備えた PTC Creoを利用

すれば、センサーの届く範囲や角度を

自在にシミュレートし、最適な取り付

け位置を確定できる。谷口氏は、「ロ

ボットカーは世界的に注目を集めてい

る分野です。この分野に注力し、イン

ターンシップの受け入れや産学連携を

さらに推進することで、業界における

ZMPの存在感をより高めていきたいと

考えています」と話している。

株式会社ゼットエムピーhttp://www.zmp.co.jp/

株式会社ゼットエムピー

PTC® Creo® を全面的に活用し、RoboCar® の設計・開発を最適化

ロボット専業メーカーの株式会社ゼッ

トエムピー(以下、ZMP)は、自動車

とロボット技術を融合したロボット

カーの開発・販売も手がけている。同

社は、最新版ロボットカー「RoboCar

MV2」の設計・開発にあたり、PTC

Creoを採用。今後は、RoboCarのセ

ンサー取り付け位置を最適化するシ

ミュレーションツールとしても利用す

るなど、PTC Creoの活用範囲を拡大し

たい考えだ。

自動車とロボット技術の融合で 運転者を強力にアシスト

ZMPは、2001年に創業したロボット

ベンチャーだ。自動車とロボット技術

を融合した次世代自動車の開発用プ

ラットフォーム「RoboCar」シリーズ

をはじめ、センサー・画像認識ソ

リューション、ロボット・自動制御技

術のライセンス、大学や企業のエンジ

ニアに向けた研究・教育用ロボットな

どの開発・販売でビジネスを展開して

いる。

自動車業界では、運転者がいなくて

も自動走行可能なロボットカーが大き

なトレンドになっており、複数のロ

ボット技術が試されてきた。技術の一

部はすでに市販車に導入されており、

今後さらに普及していく見通しだ。同

CAD

Corporate Profile株式会社ゼットエムピー所在地: 東京都文京区設立: 2001 年資本金: 3000 万円事業内容:次世代自動車の開発用プラットフォーム「RoboCar」シリーズ、センサ・画像認識ソリューション、大学、企業のエンジニア向け研究用・教育用ロボット等の製造・販売を行うロボットベンチャー企業

株式会社ゼットエムピーインターン生モジェ・シャルル氏

RoboCar MV

34 35PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

Page 19: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

も 80%以上。たとえば、小形エンジ

ンでは、3,000点以上の部品が 3Dで描

かれている。商品に貼る銘板やシー

ル、仕様書など、3D化しない方が効率

的なものもあるため、100%になるこ

とが現実的でない中で、かなりのスコ

アを得られている。

早くから 3D設計に取り組んでいた

成果は現在、強力な競争力となった。

ビジネスシステム部 エンジニアリン

グシステム部 部長 黒田 良一氏は、

「開発期間の短期化は、3D化なくして

はあり得ません。たとえば、プレ

ジャーボートの場合、1年に 1度ある

イベントでお客様のニーズを聞き、1

年以内に商品化して、翌年のイベント

で世に問うことが理想。それを実現で

きているのは、3D設計があるからで

す」と語る。

3D化する前は、試作を繰り返し、

量産の直前まで詰めの作業を行ってい

た。1年以内の商品化など夢のまた夢

だった。ユニットごとに設計した部品

を 3Dで可視化し、バーチャルにはめ

込んで見ることで、部品の干渉を事前

に把握し、試作回数を大幅に減らし

た。開発期間だけでなく、開発コスト

も大きく下げられたことになる。

グローバル化で3D 設計の 良さをさらに実感

2012年に創業 100年を迎えたヤンマー

は、中期計画として、2015年に 7,000

億円の売上目標を掲げた。翌 2013年 3

月には長期成長戦略として、1兆円企

業へ飛躍するという次の 100年に向け

た新方針を発表した。コアバリューと

して大切にしてきた「信頼性」「効率

性」「革新性」はそのままに、ブランド

戦略も新たに、グローバル市場でのさ

らなる存在感アップを狙う。

3D化の目的の 1つに、グローバル

化があった。3D化を始めたころは、設

計はすべて国内で行っていた。現在

も、主要部分の設計は日本で行うが、

現地ニーズを取り入れた設計は現地で

行われる。3D CAD端末は全世界でお

よそ 1,000台。うち 10%が海外で運用

されており、海外で利用される 3D

CADは年々増えている。

黒田氏は、およそ 3万点の機能部品

が軽量コンパクトな筐体に配置される

コンバイン(稲収穫機)が、3D設計

が生きる最も顕著な例であると話す。

水田稲作は作付規模に合せて使用され

る田植え機やコンバインの機種も 4

条、6条、大規模な 8条など多種多様

である。そこで各国・地域のニーズを

取り入れる際に、3Dで可視化し、部品

を組み合わせて現地仕様に落とし込む

プロセスを経て、グローバル品質を早

期に確保している。

さらに、海外生産の際には、開発段

階から図面を描いた国と生産国を明確

に分けている。開発図面に対して生産

国で部品番号を採番するプロセスに

なっているのだ。「部品を生産した場

所の情報を認識しておくことで、たと

えば品質や環境保全などの影響を特定

しやすくなります。これが、お客様の

安全や安心を守り、かつ、商品の信頼

性を高めることにつながります」(黒田

氏)。

ヤンマー商品のライフサイクルは、

農業機械や建設機械などが 20年、エ

ンジンは 30年と長い。同社では設計

情報と部品情報そして 3Dを一元的に

データ管理しているので、求められれ

ば間違いなくサービス部品を提供でき

ている。これが、「お客様の手を止め

ない」というアフターサービスの充実

につながっている。

最新機能を常にウォッチし、 バージョンアップは一気に行う

ヤンマー情報システムサービス株式会

社 技術情報システム部 EDMグループ

課長 上松 司善氏は、「システム導入に

おいて、最大の課題になるのは現場へ

の展開なのですが、3Dは定着させるこ

とができています。これからは、PDM

も 3D CADもグローバル化をキーワー

ドに発展させていきたいと考えていま

す」と話す。

実際、ヤンマーの設計プロセスにお

いて、3D文化は社内に根付き、そのメ

リットも十分に認識されている。海外

に展開する際にも、まずは日本から数

人の技術者が派遣され、徐々に派遣人

数を減らして、現地技術者への技術移

転を行う手法を取っている。一方、同

じソフトウェアを使う人が増えると、

アップグレードへの抵抗も増えるもの

だが、それほど問題視されていないと

いう。

ビジネスシステム部 エンジニアリ

ングシステム部 推進グループ 専任課

長 横山 大悟氏は、「これまで 4回アッ

プグレードしましたが、ポイントにな

る機能を使うためにアップグレードす

る、というコンセンサスを取ってから

一斉に行いました。はじめはとまどい

もありますが、すぐに慣れるものです

よ」と話す。

次回のアップグレードでは、最新

バージョンの PTC Creoが導入される。

横山氏は、製品アセンブリの作成と検

証のための専用アプリである PTC Creo

Options Modelerについて、グローバ

ル化のために必要な機能であると期待

しているという。

「導入から、何十回も現場とのミー

ティングを重ねてきました。初めのこ

ろは、ソフトの使い方やデータ管理の

やり方が主なトピックでしたが、いま

はどうやって活用すればいいのか、と

いう前を向いた議論ができています。

今後も、コンカレント・エンジニアリ

ングのグローバル展開、レベルアップ

のため、積極的に PTCのソリュー

ションを活用したいと考えています」

(横山氏)。

ヤンマー株式会社http://www.yanmar.co.jp/

ヤンマー株式会社

3D CADへの取り組みが、100年構想を支える競争力の源泉に

ヤンマー株式会社(以下、ヤンマー)

は、グループ一丸となって 3D設計に

取り組んできた。1998年、山岡健人氏

の社長就任に伴ってスタートした 3D

によるコンカレント・エンジニアリン

グへの取り組みは現場に根付き、創業

100年を迎えたいま、次の 100年を支

えるビジネスインフラとして、大きな

役割を期待されている。

トップダウンで3D の コンカレント・ エンジニアリングを展開

ディーゼルエンジンで世界有数の企業

であるヤンマーは、1912年に「山岡発

動機工作所」として創業された老舗総

合産業機械メーカーだ。ディーゼルエ

ンジンビジネスをコア事業に、現在で

は農業機械、建設機械、エネルギーシ

ステム、マリン商品などを、幅広くか

つグローバルに提供している。

その同社が商品開発プロセスの改革

を図ったのは、1998年のこと。現在も

社長を務める山岡 健人氏の社長就任

に際し、トップダウンで 3Dのコンカ

レント・エンジニアリングに取り組む

方針が発表されたのだ。全社統一シス

テムとして PTCの 3D CAD製品である

Pro/ENGINEERを採用。設計の 3D化

に取り組むと同時に、PDMの構築にも

着手した。

現在、ヤンマー商品の設計 3D化率

は、高いものでは 90%台、低いもので

CAD

Corporate Profileヤンマー株式会社所在地: 大阪府大阪市設立: 1912 年資本金: 63 億円従業員数: 16055人(連結)事業内容: 産業用ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスタービンなどをコアビジネスに、農業機械、建設機械、エネルギーシステム、マリン商品など耐久性、効率性、革新性をコアバリューに、事業を幅広く展開

ヤンマー株式会社 ビジネスシステム部エンジニアリングシステム部 部長黒田 良一氏

ヤンマー株式会社 ビジネスシステム部エンジニアリングシステム部 推進グループ 専任課長横山 大悟氏

ヤンマー情報システムサービス株式会社技術情報システム部 EDMグループ 課長上松 司善氏

36 37PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN PTC Magazine Executive 2013 AUTUMN

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Application Lifecycle Management

Service Lifecycle ManagementComputer Aided Design

Product Lifecycle Management

Supply Chain Management

製品の要件、システムモデル、 ソフトウェア構成、テスト計画、

および欠陥の管理

構想設計と 詳細設計の作成、

設計の分析、製造ツールと ツールパスの作成、 工学技術計算の実行

サービスライフサイクル 全体にわたるサービス情報、 メンテナンス、補修部品、 保証における計画、

管理、提供、および分析製品ライフサイクル

全体にわたり展開される、 製品の全定義を管理

部品とサプライヤの管理、 コンプライアンスの評価と管理、

製品コストの分析

ALM

CAD SLM

PLM

SCM

PTC がご提供するソリューション領域

Page 21: 2013 AUTUMN - PTCsupport.ptc.com/WCMS/files/157718/ja/PTC_2013_AUTUMN.pdf · 2013. 9. 19. · ©2013, PTC Inc. (PTC) PTCの社名、すべての PTC 製品の名称およびロゴマークは、

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