2011.09.18 日本学術会議哲学委 原発災害シンポ 押川講演

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「科学的評価」は 「正しい」か? 東京大学物性研究所 押川正毅

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日本学術会議 哲学委員会 公開シンポジウム 「原発災害をめぐる科学者の社会的責任―科学と科学を超えるもの」 開催要項 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jfssr/symposium_110918.html 各講演者のスライド http://wwwsoc.nii.ac.jp/jfssr/symposium_110918_2.html Togetterまとめ 各種 http://togetter.com/li/189530 http://togetter.com/li/189554 http://togetter.com/li/192758

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「科学的評価」は「正しい」か?

東京大学物性研究所 押川正毅

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「正しく恐れる」?

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問題1) 仮にこのようなリスク評価が正しいとして、「専門家」が「気にするべきではない」と断定できるのか?

2)「専門家」の「科学的評価」は本当に正しいのか?

cf.) 影浦 峽氏の著書⇒

今回の話

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専門家は何を語ってきたか原子炉格納容器が壊れる確率は、1億年に1回            大橋弘忠 東大教授(「核分裂反応を止めても炉心の温度上昇は続く」との石橋教授の指摘に対し)燃料棒は常に水の中にあるべきである万一の事故に備えて、緊急炉心冷却装置を備えており…ウランが溶けないようにしている 班目春樹 東大教授・静岡県原子力対策アドバイザー

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被害は甲状腺ガンだけ?甲状腺ガンは、もともと極めて稀な病気 小児甲状腺ガン:100万人・年あたり数件⇒疫学的に原発事故の影響であると結論しやすい

しかし、もっとありふれた病気の発症率が上がった場合、被害としてはより大きくても疫学的に因果関係の証明は困難

「科学者の都合」≠「市民にとっての重要性」

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Jacobs et al., Nature 392, 31 (1998)

甲状腺等価線量 1 Sv の被曝 ⇒2.3 件/1万人・年 の過剰発生

この結果を福島県児童の調査結果 「最大でも 35mSv (甲状腺等価線量)」に単純適用

最大でも 0.08件/1万人・年

リスクはかなり小さい?

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2011/7/11 New York Times コラムチェルノブイリ事故当時、ポーランド Olsztyn(チェルノブイリから640km以上)居住の5才児⇒ アメリカに移民、2006年頃甲状腺の腫れ  呼吸も困難に⇒故郷に帰って手術そこでは多数の甲状腺患者が!(病棟が全て甲状腺の治療に、彼女の母親、友人も手術) 

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どういうことなの?Yablokovらの報告 (Ann. New York Acad. Sci.2009)

甲状腺ガン1件について、約1,000件の甲状腺に関するさまざまな症状

広河隆一「チェルノブイリ報告」(岩波新書)

スラブゴロド中央病院医師の談 (1990年当時)

「およそ50%の子供に甲状腺の腫れ」「この分野は統計がないため、事故以前と以後で数字を比べることができないのです」

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放射能汚染による健康被害・ミクロな機構は多くが未解明・実験的研究は困難・過去の原爆・原発事故からの「疫学研究」に頼るしかし、「科学的研究」が捉えきれていないものは

たくさんありそう⇔ ジャーナリズム、体験談 etc.

甲状腺に限っても、疫学研究の進んでいるガンだけに注目すると、被害の過小評価になるそして、甲状腺はおそらく「氷山の一角」

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もちろん、報道に捏造(誇張、誤報、誤解…)

はあり得る!

朝日新聞サンゴ礁落書き事件

(1989年)

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しかし「科学的研究」も同様!

シェーン事件

(2002年)

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シェーンの捏造の一例

異なる物質に関する2つの論文で、同一のグラフが!

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念のためここでの議論は、放射線・放射能の健康リスクに関する特定の言説が捏造に基づいている、という

主張ではない。

しかし、報道も科学的研究も、(善意であっても)原理的に誤りを含む可能性がある。

その極端な場合が、捏造。誤りを検出し正していくことで、信頼性が向上。

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シェーン事件は何故判明?・シェーンの論文は一流論文誌(Science, Nature, ....)に査読を経て掲載・形式的には、科学研究の要件を十分満たしていた・正式調査の直接のきっかけは、数名の物理学者が異なる論文で同一のグラフを発見したこと・しかし、それ以前から、多くの研究者がシェーンの実験を再現しようと試み誰も成功しなかったことから、怪しむ声はあった

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藤村新一旧石器発掘捏造事件

(2000年)

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旧石器発掘捏造事件学界では長年の間、藤村氏の「業績」が認められ、教科書にまで掲載

怪しむ声もあったが、少数派

毎日新聞のスクープ記事一本で全て瓦解

アカデミズムのジャーナリズムに対する敗北

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どうしてこうなった?考古学者がアホだった? かもしれないが、それだけの問題ではない

考古学は科学なのか?定義の問題だが、再現可能な実験を多数試行できない点に困難逆に、「科学的」な年代測定法に惑わされた面も

考古学(・歴史学)特有の困難を認識する必要あり実験で再現不可能であれば、史料の選択とその批判が重要に

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まとめ・被曝、特に内部被曝による健康リスクのミクロな機構は多くが未解明(cf. 児玉龍彦教授国会意見陳述)・現状では「科学的評価」は「疫学研究」に依存・その基礎である広島・長崎原爆、チェルノブイリ原発事故等のイベントでは十分にコントロールされたデータは得られていない・実験として再現することも不可能、もしくは社会的に許容できない ⇒ 通常の「科学」よりも考古学・歴史学に近い困難

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科学者はどうするべきか?(狭義の)科学的方法の限界を認識する

対策にあたっては、科学的評価より予防原則を優先「ある数値は安全か、そうでないか。その様な無用な神学論争の様な議論に時間を浪費していては、今回の事故による放射能汚染に対して有効な対策を取ることは出来ない。」

              (児玉龍彦 東大教授)

研究・評価にあたっては、ジャーナリズムによる報告や人々の体験談などの資料、また歴史学的な方法論なども採用する