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ii iii

診療ガイドラインとは、「医療者と患者が特定の臨床状況で適切な決断を下せるよう支援

する目的で、体系的な方法に則って作成された文書」(Minds 診療ガイドライン作成の手引き

2007,医学書院)と定義されております。これまでも経験則や専門家の意見に基づくガイドラ

イン的なものは存在していましたが、現在ではとくにランダム化比較試験に基づく、エビデン

スに裏づけられた診療ガイドラインが推奨されております。実際、(財)日本医療機能評価機

構が厚生労働科学研究費補助金を受け、2004 年 5 月より公開中の医療情報サービス「Minds(マ

インズ)」を閲覧すると、脳神経系疾患、眼・耳鼻咽喉科疾患、呼吸器系疾患あるいは循環器

系疾患などについて、50 以上の診療ガイドラインが掲載されていることがわかります。しかし

ながら、そこには歯科疾患に関する診療ガイドラインは 1 件も見当たりません(2009 年 6 月末

日現在)。これは、歯科領域における臨床ガイドラインの脆弱さを露呈していることにほかなり

ません。すなわち、エビデンスに基づき体系的な方法に則って作成された、さまざまな歯科疾

患に関する臨床ガイドラインを提供することが焦眉の急となっております。

上記のような現状に鑑み、特定非営利活動法人 日本歯科保存学会(以下、「本会」)では、「う

蝕治療ガイドライン」の策定を鋭意進めてまいりましたが、このたび本会医療合理化委員会の

委員各位の献身的な熱意あふれる作業が完了し、本ガイドラインを上梓する運びとなりました。

この作業は、本会前理事長 恵比須繁之教授の命により開始されましたが、4 年におよぶ努力が

結実したことに対し、委員各位に心から敬意を表するとともに、厚く御礼申し上げます。また、

本ガイドラインの作成に際しては、9 名の外部評価者の先生方からも貴重なご助言を頂戴しま

した。ここに改めて深謝いたします。

本ガイドラインは、歯科における最重要疾患のひとつである「う蝕」を対象とし、MI(Minimal

Intervention)の理念を基盤に、エビデンスに基づき、エキスパートの合意によって作成され

たものです。う蝕治療に関するパイオニア的ガイドラインがここに提示されることにより、臨

床現場での懸案事項や混乱の多くが解消されるものと確信しております。

言うまでもなく本ガイドラインは画一的なう蝕治療を強制するものではありませんが、標準

的な指針として臨床現場で今後広く活用されることを期待しております。さらに本ガイドライ

ンを嚆矢として、国際標準に基づいて作成された臨床ガイドラインが、歯科領域において続々

と提供されることを願ってやみません。

2009 年 6 月

特定非営利活動法人 日本歯科保存学会前理事長 須田 英明

この度、本学会医療合理化委員会(う蝕治療ガイドライン作成小委員会)から、初版(2009

年)ガイドラインの一部を更新し、さらに新たなガイドラインを加えた第 2 版(2015 年)『う

蝕治療ガイドライン』を上梓することになった。初版は構想、着手後4年という長い年月を経

て刊行に至ったが、クリニカル・クエスチョン(CQ)に対応したエビデンスを蒐集して作成さ

れ、また、外部評価者による指導や評価を受けて作成されたものであり、臨床系の歯科医学界

においては、その後に刊行された他のガイドラインの範にもなったと自負している。

この度の更新版の編集、発行に向けた作業も 4,500 余名の会員、役員の深い理解と支援のも

とで、初版刊行直後から開始された。第 2 版の編集にあたった委員会委員の意欲と熱意はき

わめて強く、前ガイドライン完成時点で、すでに次版の刊行、長期的展望に立った内容の充実、

う蝕治療に限らず、歯科保存領域全般の治療ガイドラインの作成について検討されてきたよう

である。したがってこの第 2 版の刊行は、しかるべくして実現したものである。委員各位のこ

うした熱意と献身的な労力に対し、あらためて心からの感謝と敬意を表したい。

近代の歯科医療は、どちらかといえば修復治療を中心として発展してきた。しかしながら、特

にう蝕については、発症・進行機構、発症要因が明らかになり、これらを管理、制御することに

より発症を防ぐ、進行を抑制することが可能となった。2002 年に FDI 総会で採択された Minimal

Intervention(MI)の理念は、まさしくこれらに基づいたう蝕治療を実現することを提唱している。

MI とは、う窩の修復治療のための歯質の削除量を減じることと解釈されることが多いよう

であるが、疾患原因である口腔細菌叢の改善を図り、う蝕の脱灰/再石灰化という流動的現象

への積極的な介入をして、発症と進行を抑制する治療を採用することを提唱している。したがっ

て FDI は、“Drill & Fill”などと酷評されるような、十分な検査や診断のない一方通行の修復

治療に対して、あらためて警鐘を鳴らしたと言えよう。

最近、日本では、歯科医療が健康長寿を支える重要な役割を担うということが、さまざまな

場面で、明確にうたわれている。歯科医療による口腔領域の健康が国民一人ひとりの長寿を、

一層健康で心豊なものにすることは、多くのエビデンスとして示されている。したがって、一

般の臨床家が新たな概念に基づいたう蝕治療を実現していくためにも、水先案内としての本ガ

イドライン更新版が果たす役割は、きわめて大きなものになると確信している。しかし一方では、

超高齢社会のなか 8020 達成率が 30% となり、残存している歯の根面う蝕、Tooth Wear など

への対応をいかに行うのかなど、新たな課題も山積し始めている。本書がこれらの新たな課題

の解決にも貢献できるよう、一層充実して今後も永く継続発刊できることを願い、第 2 版『う

蝕治療ガイドライン』の序文とする。

2015 年 6 月

特定非営利活動法人 日本歯科保存学会前理事長 千田 彰

序(第2版)序(初版)

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第Ⅰ部 本ガイドラインについて 1

1.作成の目的ならびに目標 2.本ガイドラインの基本姿勢3.MIの定義4.う蝕治療の現状とガイドライン作成・更新の経緯5.対象6.利用者7.作成者 8.作成者の利益相反(COI)9.資金提供者・スポンサー10. 公開の取り組み11. 更新の計画12. 意思決定支援としての推奨13. 患者の希望14. クリニカル・クエスチョン(CQ)の設定15. クリニカル・クエスチョン(CQ)の一覧16. 外部評価

第Ⅱ部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応 11

第1章 GRADEによるガイドライン作成の手順 12

1.クリニカル・クエスチョン(CQ)の一覧2.本ガイドラインのCQ1〜3が対象とする初期エナメル質う蝕3.CQの背景とアウトカムの設定4.文献を抽出する5.アウトカムごとにエビデンスの質を評価する6.ガイドラインパネルを編成する7.アウトカム全般に関するエビデンスの質を評価する8.患者の価値観や好み、コストなどを評価する9.推奨の方向と強さを決定する

第2章 ガイドライン本論 17

1.エナメル質の初期う蝕への非切削での対応 17

CQ1:永久歯エナメル質の初期う蝕に、フッ化物の塗布は有効か。 17

目 次

CQ2:永久歯エナメル質の初期う蝕に、高フッ化物徐放性グラスアイオノマー   セメントの塗布は有効か。 32CQ3:永久歯エナメル質の初期う蝕に、レジン系材料による封鎖は有効か。                40

第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 53

第1章 Mindsによるガイドライン作成の手順 54

1. クリニカル・クエスチョン(CQ)の設定2. クリニカル・クエスチョン(CQ)の一覧3. エビデンスレベルと推奨の強さの決定4. エビデンス統合のための手法

第2章 ガイドライン本論 58

2.初発う蝕に対する検査・診断と切削介入の決定 58

CQ4:咬合面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。 58CQ5:隣接面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。 58CQ6:切削の対象となるのはどの程度に進行したう蝕か。 78

3.中等度の深さの象牙質う蝕におけるう蝕の除去範囲 90

CQ7:歯質の硬さや色は、除去すべきう蝕象牙質の診断基準となるか。 90CQ8:う蝕象牙質の除去にう蝕検知液を使用すべきか。 90

4.深在性う蝕における歯髄保護 105

CQ9:コンポジットレジン修復に裏層は必要か。 105

5.露髄の可能性の高い深在性う蝕への対応   (歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈するう蝕) 113

CQ10:歯髄温存療法により、期間をあけて段階的に   う蝕を除去することで、露髄を回避できるか。 113

CQ11:歯髄温存療法を行った場合、歯髄症状の発現は   う蝕完全除去の場合と同じか。 113

CQ12:歯髄温存療法にはどの覆髄剤が適当か。 123

CQ13:歯髄温存療法の後、リエントリーまで   どれくらい期間をあけるべきか。 123

参考資料 保険収載医療技術「歯髄温存療法(AIPC)」の治療指針 136

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6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性 139

CQ14:臼歯咬合面(1級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。 139

CQ15:臼歯隣接面(2級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。 139

CQ16:臼歯コンポジットレジン修復窩洞の咬合面にベベルは必要か。 153

CQ17:根管治療後の臼歯の修復にコンポジットレジンは有効か。 166

7.補修(再研磨、シーラント、補修修復)の有用性 175

CQ18:辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修(辺縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)は再修復と同等の効果を発揮するか。 175

CQ19:二次う蝕が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修修復は再修復と同等の効果を発揮するか。 175

第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 187

第1章 Mindsによるガイドライン作成の手順 189

1.クリニカル・クエスチョン(CQ)の設定2.CQの一覧3.推奨の強さの決定4.エビデンス統合のための手法

第2章 ガイドライン本論 190

8.根面う蝕への対応 190

CQ20:初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か。 190

CQ21:根面う蝕の修復処置にコンポジットレジンと   グラスアイオノマーセメントのどちらを使用するか。 204

参考資料 フッ化ジアンミン銀による根面う蝕の進行抑制 209

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第Ⅰ部本ガイドラインについて

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第Ⅰ部 本ガイドラインについて

3

1 作成の目的ならびに目標

歯質と歯髄の保存を図り、口腔機能の保持増進を目指すことにより、国民の QOL の向上に寄与

すること、また、国民の口腔の健康増進にかかわる人々を支援することを目的とする。国民の問題

である超高齢社会において、生涯にわたり健全な咀嚼機能を維持し、健やかで楽しい食生活を過ご

そうと 8020 運動が展開されている。この運動は、80 歳で 20 本の歯を保つことを目標に我が国が

世界に先駆けて 1989 年に開始した長期の口腔保健運動である。ここでは、8020 運動に貢献しうる

MI(Minimal Intervention)を中心理念に置いたエビデンス(根拠)に基づくう蝕治療ガイドライ

ンを目標とする。

2 本ガイドラインの基本姿勢

① 何よりも患者を中心とした医療を目指すための診療ガイドラインであり、う蝕治療を必要とする

患者が、安心して治療を受けられることを目標とした。

② MI の理念を基本に据えた。

③ 医療行為には、可能な限りエビデンスの質やレベルを示し、推奨と推奨の強さは、GRADE1)(The

Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システム(表 1)

または Minds(2007)2)(表 2)により決定した。

④ 専門書に記載されている方法、理論的根拠のある方法、臨床的に長年の実績がある方法、う蝕

治療に際し必ず実施しなければならない医療行為などについては、臨床医や専門医の意見を参

考に、本委員会におけるコンセンサスを推奨の強さに反映させた。

⑤ エナメル質初期う蝕は、早期に検出したうえで、患者個人のう蝕リスクと初期脱灰病変をマネジ

メントするという考えに基づき、非切削での治療指針を発信することとした。

⑥ 露髄の可能性の高い深在性う蝕は、抜髄を回避するための対応において通常のう蝕とは異なる

ので、別項目とした。

⑦ 超高齢社会を迎え、高齢者や義歯装着患者に多くみられる根面う蝕については別項目とし、進行

抑制の方法について提示した。

う蝕はきわめて広範囲な年齢層に広くみられる疾患であるが、厚生労働省の平成 23 年歯科疾患

実態調査によると高齢者のう蝕が増加する傾向にある。接着を軸に目覚ましい発展を遂げている現

在のう蝕治療の恩恵を、広く国民に提供することは、歯科医師の義務であり誇りである。このガイド

ラインがそれらの要求に応えられるものであることを期待する。今後、本ガイドラインは、新たなエ

ビデンスを反映させ、学術の進歩・発展、社会の要請に対応しその内容に検討を加え、4〜5年

ごとにより良いものに更新されなければならない。

3 MI の定義

FDI(国際歯科連盟)は 2002 年に声明として、Minimal Intervention(MI)の概念を提唱した。

その基本的な考え方は、以下の5項目からなっている。

● FDI POLICY STATEMENT(Vienna, Austria, 2002)1)口腔内細菌叢の改善

う蝕は感染症であるから、まず最も重要なことは感染そのもののコントロール、すなわちプラー

クを除去し、糖分の摂取を制限することが必要である。

2)患者教育患者にはう蝕の成り立ちを説明し、同時に食事指導と口腔清掃指導を通してみずからもう蝕リス

クの低減を図る必要があることを説明する。

3)エナメル質および象牙質のう蝕でまだう窩を形成していないう蝕の再石灰化唾液は、脱灰と再石灰化のサイクルにおいて重大な役割を演じているので、量的および質的に評

価されなければならない。エナメル質の白斑や、う窩を形成していない象牙質う蝕は、その進行が

停止したり治癒したりすることが証明されている。したがって、そのような病変に対しては、まずは

再石灰化療法を行って経過観察すべきである。病変が拡大したかどうかが経過観察によって確認で

きるよう、病変の範囲は客観的に記録しておく必要がある。

4)う窩を形成したう蝕への最小の侵襲歯質を削るという外科的な介入は、たとえば、う蝕の進行を停止させることができないう窩があ

表1 GRADE システム 1)の推奨とエビデンスの質推奨の強さ

することを強く推奨

することを弱く推奨

しないことを弱く推奨

しないことを強く推奨

エビデンスの質

高 中 低 非常に低 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見はエビデンスとしない

表 2 Minds(2007)2)の推奨とエビデンスレベル推奨の強さ

強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる。

科学的根拠があり、行うよう勧められる。

高いレベルの科学的根拠はないが、行うよう勧められる。

行うよう勧めるだけの、科学的根拠はない。

無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる。

A B C1 C2 D

エビデンスレベル

システマティックレビュー / ランダム化比較試験のメタアナリシス

1 つ以上のランダム化比較試験による

非ランダム化比較試験による

分析疫学的研究(コホート研究、

症例対照研究、横断研究)

記述研究(症例報告やケースシリーズ)

患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ

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第Ⅰ部 本ガイドラインについて

5

る場合や、機能的あるいは審美的な要求がある場合に限るべきである。歯の切削に際しては、極力

天然歯質を保存するよう努め、切削するのは破折しそうなエナメル質と感染した象牙質のみに限定

すべきである。この切削操作には、状況に応じて、手用器具、回転器具、音波・超音波装置、エアー

ブレージョン装置、あるいはレーザー装置が用いられる。窩洞はほとんどの場合、感染した象牙質

の広がり具合によって決まるので、一つひとつ違った形になり、あらかじめ窩洞の形が決められるも

のではない。窩洞の大きさを最小限にすることで、グラスアイオノマーセメントや、コンポジットレ

ジンなどの接着性材料で修復することが可能となる。グラスアイオノマーセメントは、中程度に脱灰

した非感染象牙質の再石灰化を促すとするいくつかの報告はあるが、この点については、さらなる

臨床研究が必要である。

5)欠陥のある修復物の補修修復物の除去においては、結果として健全歯質もいくらかは削除することになるので、窩洞のサ

イズが大きくなることは避けられない。臨床的判断に従い、それぞれの状況に応じて、修復物全体

を再修復する代わりに補修をするのも一つの選択である。

4 う蝕治療の現状とガイドライン作成・更新の経緯

1)う蝕治療の現状と問題点近年、歯科医学は、カリオロジーの分野、修復材料の分野、さらに接着の分野で著しい発展を

遂げてきた。それらの研究成果を積極的に取り入れたう蝕治療法が開発され、エビデンスも蓄積

されてきた。国民のいわゆる「8020 社会」を達成するには、旧来の “drill and fill” 中心のう蝕治

療法からの脱却と、MI(Minimal Intervention)の理念を基本としたう蝕治療法の普及が必須であ

る。しかし現実には、旧来のパターン化した方法で健全歯質が大量に切削されたり、いわゆる MI

によるう蝕治療とは言っても、エビデンスに基づいて実施されている場合も、そうでない場合もある。

そのため、いろいろな治療法が混在し、臨床の場は言うに及ばず、学生や臨床研修医の教育現場

でも、また治療を受ける患者にも戸惑いや混乱が生じている。今日までのわが国におけるう蝕治療

を鑑みると、う蝕の診断や発生原因の検討もないまま歯が切削されたり、ときには保険点数を意識

した切削や修復が行われてきたことも否定できない。歯科治療の根幹をなすう蝕治療におけるこの

ような混乱や保険点数の高低に基づく修復法の決定は、早急に解消する必要がある。

2)エナメル質の初期う蝕への対応最近では「う蝕は脱灰と再石灰化を繰り返すダイナミックな病態を示す」との理解に基づいて、

エナメル質に限局した病変はもちろん、象牙質に達する病変でさえもう蝕リスクを低くコントロー

ルできる場合には、切削せずに再石灰化処置を施して観察するという考えが受け入れられつつある。

う蝕という疾患が “ 脱灰と再石灰化のバランス ” の上に成り立っていることを理解すれば、エナメル

質初期う蝕を早期に検出したうえで、非切削にてう蝕の進行抑制や再石灰化を促し、長期的に患者

個人のう蝕リスクと初期脱灰病変をマネジメントするという考えは、生物学的な観点に基づいたア

プローチと言える。このようなアプローチは、言うまでもなく歯の健康維持に貢献するばかりか、患

者の精神的・肉体的、そしておそらく経済的な負担も少ない治療である。しかし、どのような非切

削でのう蝕治療が最も効果的であるかについて、エビデンスに基づく見解が示されていないのが現

状である。そこで、今回のガイドラインの更新では、新たにエナメル質の初期う蝕に対する非切削

での治療指針を加えて発信することとした。

3)象牙質う蝕への対応象牙質う蝕の切削は、う蝕の進行・拡大が切削介入することでしか停止できない、また切削でし

か機能的・審美的回復が図れないと診断した場合に限るべきである。また、切削介入する場合には、

細菌が侵入し感染が成立した「感染象牙質」と、脱灰してはいるが細菌感染はなく、再石灰化が可

能な「う蝕影響象牙質」とを鑑別し、切削を感染象牙質にとどめることが重要となる。これより一歩

進め、歯髄が臨床的に健康であれば、たとえ感染していても象牙質を除去せず、これを無菌化し再

石灰化を促して歯髄を温存すべき場合もある。また、現在、象牙質に長期に安定して接着するよう

になったコンポジットレジン修復は、適応範囲をさらに拡げてもよいはずである。接着テクノロジー

の進化は、修復物の二次う蝕さえ、“ つぎはぎ(補修)” で修復することを可能にしている。これら

の治療コンセプトを、世の臨床現場は言うに及ばず、教育の現場にもさらに浸透させるには、科学

的根拠を示したうえで専門家が合意し、説得力のある治療ガイドラインを示す必要がある。今回の

ガイドライン第2版の作成にあたっては、新たなエビデンスに基づき初版ガイドライン(2009)の

推奨を見直し、新たな治療指針も加え、象牙質う蝕に対するより侵襲の少ない治療こそ歯髄の保存

につながり歯の延命に貢献するとの見解を、引き続き強く示すことを旨とした。

4)根面う蝕への対応超高齢社会を迎え、急増する歯根面に発生するう蝕の対応には苦慮する場面が多くなっている。

その根面う蝕の治療では、実質欠損が大きい場合には、従来どおり感染歯質の切削を伴う充填処

置を行ってきた。一方、初期の根面う蝕では、非切削にて再石灰化によりその進行を抑制し、う蝕

をマネジメントすることが提唱されており、これは特に在宅医療に代表される治療環境に制限があ

る場合には有益な対処法である。しかし、どの程度進行した根面う蝕病変に非切削での治療で対応

できるかや、再石灰化治療の具体的な効果については明らかになっていない点も多い。今回のガイ

ドライン第2版では、象牙質う蝕と同様に初版に新たなエビデンスを加えて、根面う蝕への切削お

よび非切削での対応それぞれについて治療指針を示すこととした。 

5)MI の理念に基づくう蝕治療ガイドラインの作成と更新以上のような背景により、多様化するう蝕を的確かつ包括的にマネジメントすべきという視点か

らも、今の時代にマッチした MI の理念に基づくう蝕治療ガイドラインを作成することは急務である。

そこで、これまで一般的に実践されてきた切削介入を伴う象牙質う蝕の治療、および切削・非切

削での根面う蝕の治療については、「Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2007」2)の推奨に則り、

2009 年に世界に先駆けて『MI(Minimal intervention)を理念としたエビデンス(根拠)とコンセ

ンサス(合意)に基づくう蝕治療ガイドライン』3)初版を発表した。そしてこの度、第 1 回目の更

新を行った。一方、切削介入を伴わないエナメル質の初期う蝕の治療については、診療ガイドライ

ン作成の国際標準的な手法となっている GRADE1)に則り、新たにガイドラインを作成した。

5 対象

本ガイドラインの対象は、永久歯におけるエナメル質の初期う蝕と、う窩を形成しう蝕の進行を

停止させることができず、修復処置を必要とする歯冠部象牙質う蝕と、歯冠部う蝕とは異なる病態

を示す根面う蝕である。今回のガイドラインでは乳歯は対象としていない。

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第Ⅰ部 本ガイドラインについて

7

6 利用者

本ガイドラインの利用者は歯科医療従事者とする。

7 作成者

特定非営利活動法人 日本歯科保存学会医療合理化委員会内設置「う蝕治療ガイドライン作成小委員会」

委員長

桃井 保子 :鶴見大学歯学部保存修復学講座 教授(歯科保存指導医、接着歯科治療認定医)

副委員長

清水 明彦 :兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 講師(非常勤)

林 美加子 :大阪大学大学院歯学研究科口腔分子感染制御学講座(歯科保存学教室)教授(歯科保存指導医)

委員

今里 聡 :大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座(歯科理工学教室) 教授(歯科保存指導医、接着歯科治療認定医、日本歯科理工学会 Dental Materials Senior

Advisor)

畦森 雅子 :九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座歯科保存学研究分野 非常勤講師(歯科保存専門医、接着歯科治療認定医、日本歯科理工学会 Dental Materials Senior

Advisor)

北迫 勇一 :東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科う蝕制御学分野 助教(歯科保存専門医)

久保 至誠 :長崎大学病院医療教育開発センター 准教授(歯科保存指導医)

高橋 礼奈 :東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科う蝕制御学分野 助教(接着歯科治療認定医)

中嶋 省志 :東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科う蝕制御学分野 特任講師

二階堂 徹 :東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科う蝕制御学分野 講師(歯科保存指導医、接着歯科治療認定医、日本歯科理工学会 Dental Materials Senior

Advisor)

福島 正義 :新潟大学大学院医歯学総合研究科 口腔保健学分野 教授(歯科保存指導医、接着歯科治療認定医、日本歯科理工学会 Dental Materials Senior

Advisor、日本老年歯科医学会指導医)

冨士谷 盛興 :愛知学院大学歯学部特殊診療科 教授(歯科保存指導医、接着歯科治療認定医、日本歯科理工学会 Dental Materials Senior

Advisor)

八巻 千波 :鶴見大学図書館(文献検索担当)

菅井 健一 : 日本歯科大学生命歯学部図書館(文献検索担当)

本委員会の現時点での構成員は、日本歯科保存学会員 12 名と図書館司書2名である。本ガイド

ラインは、2008 年1月から 2014 年 10 月までの期間に開催された 31 回の委員会を経て作成された。

8 作成者の利益相反(COI)

委員のなかには、行った研究が当該ガイドラインの扱うテーマに関係する者がいる。しかし、こ

れらの委員の専門性が、CQ の選定、推奨の作成など診療ガイドライン作成に強く影響することは

なかった。本ガイドライン作成においては、すべての作成委員にアカデミック COI および経済的

COI について開示すべき利益相反はない。

9 資金提供者・スポンサー

ガイドラインは、すべて特定非営利活動法人 日本歯科保存学会の事業費によって作成された。

本ガイドラインの作成に際し、学会賛助会員を含め歯科材料メーカーや製薬会社など企業からの資

金援助は受けていない。

10 公開の取り組み

本ガイドラインについては、実用版は書籍として出版し、詳細版は学会ホームページおよび

Minds のホームページ上で無料公開することとしている。さらに、セミナーやシンポジウムを開催し

普及に努める。今後は、ガイドラインの活用を促進するために、簡易版や一般向けガイドライン解

説も必要と考えている。

11 更新の計画

本ガイドラインは 4 〜 5 年ごとに更新を行う。なお、この期間については、歯科臨床医療の変化

に応じて適宜、短縮・延長を検討する。本委員会は、本ガイドラインの公開後、新しく発表される

エビデンスを系統的に把握し、更新時の資料を収集する。ガイドラインの部分的更新が必要になっ

た場合には、学会ホームページに掲載する。

12 意思決定支援としての推奨

本ガイドラインは、医療従事者の意思決定を支援するものであり、推奨された治療を強制する

ものではない。主な対象は、歯科医師であるが、う蝕治療に携わるすべての医療従事者が、さま

ざまな状況でう蝕の診断・治療をめぐる医療行為を決定する局面で参照し、活用することを想定し

て作成した。推奨と、その根拠となる文献の具体的な関係は、ガイドライン中の各項目で記載した。

本ガイドラインの推奨の強さは、経験のある医療従事者の判断に代わるものではなく、あくまでも

意思決定を支援するものであることを強調したい。また、本ガイドラインの内容に関しては、特定

非営利活動法人 日本歯科保存学会が責任をもつが、ガイドラインに記載した治療により生じた結果

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8

第Ⅰ部 本ガイドラインについて

9

について学会が責任を負うものではない。

13 患者の希望

医療現場での意思決定は、エビデンスや推奨、医療者の経験・専門性、そして患者の希望およ

び価値観を包括的に勘案して行われる必要があることは明らかである。本ガイドラインにおける推

奨の決定に際しては、GRADE システム 1)に従って作成された第Ⅱ部(エナメル質の初期う蝕への

非切削での対応)については、ガイドラインパネル会議において患者の価値観と希望を反映させた。

Minds2)に従って作成された第Ⅲ部(象牙質う蝕への切削による対応)と第Ⅳ部(根面う蝕への非

切削および切削での対応)については、患者の意見および希望を積極的に考慮することはしていない。

次回の更新に際しては、患者の希望をより反映する取り組みを検討する予定である。

14 クリニカル・クエスチョン(CQ)の設定

CQ の設定は、ガイドラインの方向を決定づける重要なプロセスである。今回は、日本歯科保存

学会会員から広く意見を収集し作成委員会のなかで設定した。しかし、本来 CQ は、一般の臨床家、

関連領域の専門家、患者などさらに広くから意見を収集すべきものであるが、これについては、次

回更新時に取り組む予定である。今回の CQ は、委員間における「う蝕の治療は、う窩を生じる前

段階における再石灰化療法に始まり、感染歯質の除去、切削象牙質の即時封鎖、次いで実質欠損

の回復までが対象であり、う蝕の対象は幅広い」との一致した意見のもと設定された。

15 クリニカル・クエスチョン(CQ)の一覧

1.エナメル質の初期う蝕への非切削での対応CQ1: 永久歯エナメル質の初期う蝕にフッ化物の塗布は有効か。

CQ2: 永久歯エナメル質の初期う蝕に高フッ化物徐放性グラスアイオノマーセメントの塗布は有効か。

CQ3: 永久歯エナメル質の初期う蝕に、レジン系材料による封鎖は有効か。

2.初発う蝕に対する検査・診断と切削介入の決定CQ4:咬合面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

CQ5:隣接面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

CQ6:切削の対象となるのはどの程度に進行したう蝕か。

3.中等度の深さの象牙質う蝕におけるう蝕の除去範囲CQ7:歯質の硬さや色は、除去すべきう蝕象牙質の診断基準となるか。

CQ8:う蝕象牙質の除去にう蝕検知液を使用すべきか。

4.深在性う蝕における歯髄保護CQ9:コンポジットレジン修復に裏層は必要か。

5.露髄の可能性の高い深在性う蝕への対応(歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状  を呈するう蝕)CQ10:歯髄温存療法により、期間をあけて段階的にう蝕を除去することで、露髄を回避できるか。

CQ11:歯髄温存療法を行った場合、歯髄症状の発現はう蝕完全除去の場合と同じか。

CQ12:歯髄温存療法にはどの覆髄剤が適当か。

CQ13:歯髄温存療法の後、リエントリーまでどれくらい期間をあけるべきか。

6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性CQ14:臼歯咬合面(1級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー

修復の臨床成績に違いはあるか。

CQ15:臼歯隣接面(2級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー

修復の臨床成績に違いはあるか。

CQ16:臼歯コンポジットレジン修復窩洞の咬合面にべベルは必要か。

CQ17:根管治療後の臼歯の修復にコンポジットレジンは有効か。

7.補修(再研磨、シーラント、補修修復)の有用性CQ18:辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修(辺

縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)は再修復と同等の効果を発揮するか。

CQ19:二次う蝕が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修修復は再修復と同等の

効果を発揮するか。

8.根面う蝕への対応CQ20:初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か。

CQ21:根面う蝕の修復処置にコンポジットレジンとグラスアイオノマーセメントのどちらを使用

するか。

16 外部評価

本ガイドラインは、公開に先立ち、本学会の全理事から意見収集を行い、同時に草案全体について

外部評価を受けた。外部評価者はガイドライン作成専門家と臨床歯科医師とし(p.10)、評価ツールに

は AGREE II (Advancing the guideline development, reporting and evaluation in healthcare)4)、を使

用した。評価は、「対象と目的」、「利害関係者の参加」、「作成の厳密さ」、「提示の明確さ」、「適用可能性」、

「編集の独立性」の6領域と「全体評価」について行われた。表 4 に結果の概要を示す。評価者から

のコメントについては、可能な限り本ガイドラインに反映させた。反映できなかったコメントについては、

次回更新時にそれらへの応答を検討する予定である。また、公開後も、学会ホームページなどで、常

時利用者からのフィードバックを受け、それを更新時の情報として活用する予定である。

文献1) 相原守夫,三原華子,村山隆之,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADE システム – 治療介入 – 第 1 版.

青森:凸版メディア;2010.2) Minds 診療ガイドライン選定部会監修,福井次矢,吉田雅博,山口直人編集.Minds 診療ガイドライン作成の手引き

2007.東京:医学書院;2007.3) 日本歯科保存学会 編,MI(Minimal Intervention)を理念としたエビデンス(根拠)とコンセンサス(合意)に基づくう

蝕治療ガイドライン.京都:永末書店;2009.4) AGREE II 日本語訳 試行版 ver.01(2014.3.31): http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/guideline/pdf/AGREE2jpn.pdf

Page 10: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

10

第Ⅰ部 本ガイドラインについて

表3 外部評価(AGREE Ⅱによる公開前の草案に対する評価)の結果の概要ガイドライン全体の評価:11 名の評価者の平均点(7点満点)。各領域のスコア(%) :各項目の獲得評点をすべて合計し、その合計点を各領域の満点に対するパーセンテージで示した。

ガイドライン全体の評価

1. このガイドライン全体の質を評価してください。 6

2. このガイドラインの使用を推奨する。 推奨する:10 名  推奨する(条件付き):1 名  推薦しない:0 名

領域1.対象と目的

1. ガイドライン全体の目的が具体的に記載されている。

91%2. ガイドラインが取り扱う健康上の課題が具体的

に記載されている。

3. ガイドラインの適用が想定される対象集団(患者、一般など)が具体的に記載されている。

領域2.利害関係者の参加

4. ガイドライン作成グループには、関係するすべての専門家グループの代表者が加わっている。

76%5. 対象集団(患者・一般など)の価値観や希望が探し求められたか。

6. ガイドラインの利用者が明確に定義されている。

領域3.作成の厳密さ

7. エビデンスを検索するために系統的な方法が用いられている。

84%

8. エビデンスの選択基準が明確に記載されている。

9. エビデンス総体の強固さと限界が明確に記載されている。

10. 推奨を作成する方法が明確に記載されている。

11. 推奨の作成にあたって、健康上の利益、副作用、リスクが考慮されている。

12. 推奨とそれを支持するエビデンスとの対応関係が明確である。

13. ガイドラインの公表に先立って、専門家による外部評価がなされている。

14. ガイドラインの改訂手続きが示されている。

領域4.提示の明確さ

15. 推奨が具体的であり、曖昧でない。

82%16. 患者の状態や健康上の問題に応じて、他の選択

肢が明確に示されている。

17. どれが重要な推奨か容易にわかる。

領域5.適用可能性

18. ガイドラインの適用にあたっての促進要因と阻害要因が記載されている。

60%

19. どのように推奨を適用するかについての助言・ツールを提供している。

20. 推奨の適用にあたり、潜在的に資源に関して意味する事柄が考慮されている。

21. ガイドラインにモニタリング・監査のための基準が示されている。

領域6.編集の独立性

22. 資金源によりガイドラインの内容が影響されていない。

92%23. ガイドライン作成グループメンバーの利益相反

が記載され、適切な対応がなされている。

外部評価者

猪越 重久 東京都台東区開業

木森 久人 神奈川県足柄下郡湯河原町開業

清村 正弥 熊本県熊本市開業

杉山 精一 千葉県八千代市開業

須崎 明 愛知県北名古屋市開業

内藤 徹 福岡歯科大学口腔歯学部総合歯科学講座高齢者歯科学分野

南郷 栄秀 東京北医療センター総合診療科

南郷 里奈 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科健康推進歯学分野

蓮池 聡 日本大学歯学部歯科保存学第Ⅲ講座

福西 一浩 大阪府大阪市開業

堀内 博 東北大学名誉教授 (五十音順 敬称略)

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第Ⅱ部エナメル質の初期う蝕への

非切削での対応

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12

   

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

13

第1章 GRADEによるガイドライン作成の手順

GRADE によるガイドライン作成の手順1第 章

1 クリニカル・クエスチョン(CQ)の一覧

CQ1: 永久歯エナメル質の初期う蝕に、フッ化物の塗布は有効か。

CQ 2: 永久歯エナメル質の初期う蝕に、高フッ化物徐放性グラスアイオノマーセメントの塗布は

    有 効か。

CQ3: 永久歯エナメル質の初期う蝕に、レジン系材料による封鎖は有効か。

2 本ガイドラインのCQ1〜3が対象とする初期エナメル質う蝕

本ガイドラインが対象とする初期エナメル質う蝕は、う蝕進行開始時期におけるう窩(実質欠損)

の形成がないエナメル質病変、すなわちエナメル質表層の脱灰や表層下脱灰による白斑病変(white

spot lesion)である 1-3)。ただし、エビデンスとして採用した論文には、エナメル質内に限局したう

窩を伴う病変も含まれていた。

3 CQの背景とアウトカムの設定

う蝕の抑制を考える場合、う蝕の発生抑制と進行抑制とが区別される 4)。う蝕の発生抑制とは、

う蝕が初発するのを防止することであり、う蝕の進行抑制は、すでに存在するう蝕が進行するのを

抑制することであり、本ガイドラインで扱うのは後者、すなわち初期う蝕の進行抑制である。う蝕が

存在する場合、そのう蝕は進行する(Progress)か、停止する(Arrest)か、回復する(Regress)

のいずれかである 5)。したがって、う蝕の進行抑制のなかには、う蝕としては進行しているがそのス

ピードが遅くなる場合、う蝕が停止する場合、う蝕が回復する場合の3つが含まれる。

一般に、初期エナメル質う蝕(白斑)が進行すると、エナメル質の表層に限局的な崩壊を生じ、

いわゆるう窩を形成する。エナメル質面にう窩が形成されるとその実質欠損が自然に修復されるこ

とはなく、う窩は時間の経過とと

もにその大きさと深さを増す。や

がて歯の機能や審美性が損なわ

れ、歯髄症状を呈するようにな

る。この段階までう蝕が進行した

歯を修復するためには、相当の

時間と手間と医療費が必要にな

る。エナメル質の表層がまだ明

らかに崩壊していない初期の段

階でう蝕の進行を食い止めること

は、歯質を最大限に保存し、医

療費の無駄をなくすために非常

注 : C i には、C2も含まれる。

注 : CO(要相談) には、ICDAS の Code4 (hidden caries) が含まれる。

平成 17 年・平成 23 年の歯科疾患実態調査

日本学校歯科医会

精密検査(診療室)(日本口腔衛生学会)7)

ICDAS

健全 C i

CO C

CO C1

Code 2Code 1 Code 3

健全

健全

健全(Code 0)

図1 エナメル質う蝕の診断基準

表1 エナメル質う蝕の診断基準

●厚生労働省の歯科疾患実態調査が示すう蝕の診断基準 (昭和38年〜昭和56年) C0 : 平滑面ではう窩の形成はなく、肉眼的に歯質の不透明化、白濁や褐色色素沈着が認められるもの。小窩裂溝で

は探針が入らない。 C1 : 表面的な小う窩があり、平滑面では探針がひっかかる。小窩裂溝では探針が 1mm 程度圧入される。

 (昭和62年〜平成 5年) C1 : 表面的な小う窩があり、平滑面では探針がひっかかる。小窩裂溝では探針が 1mm 程度圧入される

 (平成11年) C1 : エナメル質に限局したう窩の形成が認められるもの。

 (平成17年〜) Ci : 軽度う蝕 (Caries incipient)、明らかなう窩、脱灰・浸食されたエナメル質、軟化底、軟化壁が探知できる小窩

裂溝または平滑面のう蝕  Ch : 重度う蝕 (Caries high grade)、歯髄まで病変が波及しているものまたは、それ以上に病変が進行しているう蝕

 日本学校歯科医会が示す検出基準(平成 28年 4月〜)う歯(C):実質欠損(う窩)が認められれば C

(1)咬合面または頰面、舌面の小窩裂溝において、視診にて歯質にう蝕性病変と思われる実質欠損(う窩)が認められるもの。

(2)隣接面では、明らかな実質欠損(う窩)を認めた場合にう蝕とする。(3)平滑面においては、白斑、褐色斑、変色着色などの所見があっても、歯質に実質欠損が認められない場

合にはう蝕とはしない。 要観察歯(CO):視診にて明らかなう窩は確認できないが、う蝕の初期病変の徴候(白濁、白斑、褐色斑)が認められ、放置するとう歯に進行すると考えられる歯である。状態を経時的に注意深く観察する必要のある歯で、記号CO を用いる(平成7年より導入)。

(ア)小窩裂溝において、エナメル質の実質欠損は認められないが、う蝕の初期病変を疑うような褐色、黒色などの着色や白濁が認められるもの。

(イ)平滑面において、エナメル質の実質欠損は認められないが、脱灰を疑うような白濁や褐色斑などが認められるもの。

(ウ)そのほか、たとえば、隣接面や修復物下部の着色変化、(ア)や(イ)の状態が多数認められる場合など、地域の歯科医療機関との連携が必要な場合が該当し、学校歯科医所見欄に「要相談」と記載する。

●望ましい初期う蝕の診断法ー精密検査(診療室)における基準 7)(平成12年) CO:エナメル質にう窩が認められないが、白濁、白斑、着色が認められるう蝕 C1 : エナメル質に限局した小う窩が認められるう蝕

●ICDAS(InternationalCariesDetectionandAssessmentSystem)が示すう蝕の診断基準Code 0:健全 Code 1:エナメル質における目視可能な初期変化(湿潤状態ではわからないが、十分な歯面乾燥で白斑が現れる

状態)Code 2:エナメル質の明瞭な変化(湿潤状態で白斑あるいは褐色斑として見える状態)Code 3:限局したエナメル質の崩壊(象牙質病変の兆候を伴わない)

*検査に際しては、十分な照明とフロッシングを含めたプラークの除去が必要とされている。

記: 厚生労働省の歯科診療録および診療報酬明細書に使用できる略称に、 C1”、C2”、C3”(二次う蝕によるう蝕症第 1、2、3 度)はあるものの、C0、CO、C1、C2、C3、C4 の記載なし(平成 26 年 3 月 19 日)。なお、診療情報提供サービスの傷病名マスターには、う蝕第 1、2、3、4 度が掲載されていた。

に大切なことである。

しかし、エナメル質の初期う蝕の進行を抑制するためには、いかなる処置が有効なのかについて

は、現在のところ EBM に基づいた診療ガイドラインが存在しない。そこで、世界のガイドライン作

成法の主流である GRADE システム 6)に準拠し、永久歯エナメル質の初期う蝕(白斑)に対するフッ

化物塗布の有効性(CQ 1)、高フッ化物徐放性グラスアイオノマーセメント塗布の有効性(CQ 2)、

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14

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

15

第1章 GRADEによるガイドライン作成の手順

レジン系材料による封鎖の有効性(CQ 3)に関して、エビデンスの質を明らかにし、さらに、正

味の利益と負担のバランス、患者の価値観や好みなどを総合的に考慮して、推奨するかどうかを診

療ガイドラインとして示すこととした。そのために5つのアウトカム(評価項目・指標)を設定した。

すなわち、重大なアウトカムとしてう窩形成の抑制(アウトカム①)と白斑の縮小(アウトカム②)を

設定し、さらに重大ではないが重要なアウトカムとして、白斑の滑沢化(アウトカム③)、エックス線

透過性の減少(アウトカム④)、そしてダイアグノデント値の減少(アウトカム⑤)を設定した。

なお、日本において現在用いられているエナメル質う蝕の診断基準を図1に挙げ、表1に解説し

た。表2には、日本におけるう蝕の診断基準をその変遷を含めて示し、これらとう窩の有無、エナ

メル質・象牙質への進行程度、また ICDAS との関係を整理して示した。

4 文献を抽出する

今回のガイドライン作成に際して、PubMed では 1949~2013 年の 64 年間に、医学中央雑誌で

は 1983~2013 年の 30 年間に専門誌に掲載された英語および日本語論文のなかから、各 CQ に関

係する論文を抽出した。抽出にあたっては、ランダム化比較試験(RCT)にしぼったが、準 RCT 研

究や観察研究を採用した場合もある。

5 アウトカムごとにエビデンスの質を評価する

複数の研究の結果をアウトカムごとに横断的に統合し、GRADE システムに従ってエビデンスの質

を「高」「中」「低」「非常に低」で評価し、さらに統合した結果の要約と効果推定値を示し、エビ

デンス・プロファイルとしてまとめた。このようにしてそれぞれの CQ において、アウトカムごとにエ

ビデンス・プロファイルを作成しパネル会議に提出した。

  

6 ガイドラインパネルを編成する

ガイドラインパネルのメンバー全員は、ガイドラインで言及される臨床試験への関与や、利益相

反がないことを前提に選出された。ガイドラインパネルは、外部の専門家、医療関係者、一般の

消費者などから構成され、ガイドライン作成の際の推奨および推奨度の判断において、ガイドライ

ン作成過程の透明性、厳格さ、適時性、資源の活用、さらにその医療を受ける患者の立場から好

みや価値観などを評価、判定する。つまり、ある特定の治療について、その利益がリスク、不便さ

などに対してどのように位置づけられるかをさまざまな視点から検討し、治療の推奨および推奨度

を判断する。本ガイドライン作成にあたっては、CQ1、CQ2、 CQ3 について、GRADE システムに則り、

以下のパネルメンバー全員の出席により一日のガイドラインパネル会議を実施した。

パネル会議メンバー

飯島 洋一 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻社会医療科学講座口腔保健学 分野

(日本口腔衛生学会)

今井 文彰 今井歯科クリニック院長(茨城県歯科医師会)

植松 裕美 日本歯科大学附属病院歯科衛生士室

大田 えりか 国立成育医療研究センター

清村 正弥 清村歯科医院院長(熊本県歯科医師会)

佐伯 晴子 東京 SP ( 模擬患者 ) 研究会代表

菅原 豊太郎 鶴見大学歯学部歯学科大学院生

田上 直美 長崎大学病院歯科系診療部門(日本補綴歯科学会)

山城 隆 大阪大学大学院歯学研究科 口腔分化発育情報学講座顎顔面口腔矯正学教室

(日本矯正歯科学会)

(五十音順 敬称略)

7 アウトカム全般に関するエビデンスの質を評価する

パネル会議は、それぞれの CQ においてアウトカム全般のエビデンスの質を一つに決定した。そ

の際、GRADE システムでは重大なアウトカムに着目し、それらがいずれも患者にとって同じ方向(利

益になる方向)を示している場合、重大なアウトカムに関するエビデンスの質のなかで最も高いも

のを、アウトカム全般に関するエビデンスの質とした。

8 患者の価値観や好み、コストなどを評価する

パネル会議では、さらに以下の3つの要因も検討し評価した。

①患者の受ける利益と害のバランスはどうか? ②患者の価値観や好みはどうか? ③正味の利益、

コストはどうか?

表2 日本におけるう蝕の診断(検出)基準と ICDAS歯科疾患実態調査 学校での歯・

口腔の健康診断

(平成 28 年〜)

う窩 歯の構造と進行程度

精密検査 7)

(診察室)ICDAS

(昭和 38 〜56 年)

(昭和 62〜平成 5年)

(平成 11年)(平成 17年〜)

視診と鋭利な探針併用

視診と鋭利な探針併用

視診が中心(鈍な探針)

視診が中心(CPI プロー

ブ)

視診が中心(鈍な探針)

視診・探針・う蝕診断

機器

5 秒エアー乾燥後、視診が中心(CPIプローブ)

健全健全 健全 健全

健全-

健全Code 0 (健全)

エナメル質

Code 1

C0 CO CO Code 2

C1 C1 C1

Ci

C + C1 Code 3

C2 C2 C2CO(要相談) -

象牙質 C2

Code 4

C +

Code 5

C3 C3C3 以上 Ch

Code 6

歯髄腔C3

C4 C4 C4

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16

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

   

17

CQ

1

第2章 ガイドライン本論

ガイドライン本論2第 章

1.エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ 1 永久歯エナメル質の初期う蝕に、フッ化物の塗布は有効か。

【 推奨 】永久歯エナメル質の初期う蝕へのフッ化物の塗布は、う窩形成の抑制、白斑の縮小、白斑の滑沢化にとって有効である。永久歯エナメル質の初期う蝕に、フッ化物を塗布することを推奨する(推奨の強さ「強い推奨」)。

文献の抽出

CQ1 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1949 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 9月 17 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 9月 13 日

上記のデータベースの検索により、PubMed から 402 編の英語論文が、医学中央雑誌から 93 編

の日本語論文が抽出された。そのなかから、設定された CQ とアウトカムに関係するヒト臨床研究

を選択し、さらにランダム化比較試験と準ランダム化比較試験を中心に絞り込んだ。その結果、ラ

ンダム化比較試験として4論文、観察研究として1論文の計5論文が、エビデンスとして採用する

可能性のある論文として採択された。そしてこれらの論文を精読するとともに、GRADE システムに

従ってアウトカムごとにエビデンス・プロファイルを作成し、エビデンスの質を評価した。

1 背景・目的

う蝕は一般に “ むし歯 ” と言われ、自然治癒することはなく、放置するとむし歯の穴(う窩)は大

きくなり、最後には激しい痛みが生じる病気であることは、ほとんどの国民が認知している。わが国

では、小・中・高校において、歯科健診が実施され、また、国民の口腔衛生に対する意識の向上

などにより、う蝕の罹患率は減少している。しかし一方では、白斑のようなう窩形成のない初期のう

蝕が見過ごされたり、歯科矯正治療の普及に伴い治療後の白斑が増加し、その対応に苦慮する場

合が多いのも事実である。

永久歯エナメル質の初期のう蝕に関しては、従来より CO と C1 に分類されてきたが、最近、欧州

および北米から提唱されている ICDAS(InternationalCariesDetectionandAssessmentSystem)

(p.13)1)による診断・評価が国際的基準になろうとしている。この ICDAS が提唱された背景に

9 推奨の方向と強さを決定する

CQ に対して推奨の方向と強さを決めるにあたり、パネル会議はアウトカム全般のエビデンスの質

(上記の項目7)だけでなく、さらに上記項目8の要因を総合的に検討した。もし、パネルによっ

て推奨の強さや方向が異なった場合は、再度討論し、最終的には投票による多数決で推奨の強さ

と方向を決定した。

文献1) Edited by Fejerskov O and Kidd E.Dental Caries: The Disease and its Clinical Management, Second Edition.

Denmark: Blackwell Munksgaard; 2008, 5-6.2) Fontana M, Young DA, Wolff MS, Pitts NB, Longbottom C. Defining Dental Caries for 2010 and Beyond. Dent Clin N Am.

2010; 54: 423-440, doi:10.1016/j.cden.2010.03.007. Elsevier inc.3) Longbottom C, Huysmans MC, Pitts NB, Fontana M, Pitts NB (ed).Detection, Assessment, Diagnosis and Monitoring

of Caries.Monogr Oral Sci. 2009; 21: 209-16. 4) Bader JD, Shugars DA, Bonito AJ. A systematic review of selected caries prevention and management methods.

Community Dent Oral Epidemiol. 2001; 29: 399-411.5) 飯島洋一.初期う蝕の早期検出と脱灰。再石灰化の評価.日本歯科評論.2003; 63: 146-49.6) 相原守夫,三原華子,村山隆之,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADEシステム.青森:凸版メディア;2010.7) 雫石 聰 , 青山 旬 , 飯島 洋一 , 小林 清吾 , 竹原 直道 , 中垣 晴男 , 宮崎 秀夫 , 宮武 光吉 , 米満 正美 , 渡邊 達夫.望ましい

初期う蝕の診断法.口腔衛生会誌.2000; 50: 137-52.

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18

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

19

CQ

1

第2章 ガイドライン本論

は、次のようなことがある。すなわち、MI の定義(詳細は p.2 〜 4 参照)の普及に伴い、う窩を

形成したう蝕への最少の切削介入だけでなく、まだう窩を形成していない初期う蝕への再石灰化に

ついて関心が高まったこと。加えて、このような初期う蝕において再石灰化が可能であるとの知見か

ら、これらを臨床現場で可能な限り早くに発見し、再石灰化の機会を最大限に広げて人々の口腔保

健を維持することの重要性が認識されたことである。ICDAS ではエナメル質の初期のう蝕に関して、

Code 1、Code 2、および Code 3を提唱している。Code 1は、エナメル質の目視可能な初期変

化で、湿潤状態ではわからないが、十分な歯面乾燥で白斑が現れる状態である。Code 2は、エナ

メル質の明瞭な変化で、湿潤状態で白斑あるいは褐色斑として見える状態である。これら Code 1

および2が、従来の CO に相当する。Code 3は、限局したエナメル質の崩壊を認めるが、象牙質

病変の徴候を伴わない状態であり、従来の C1 に相当する。

さて、う蝕の予防(発生抑制)に関しては、フッ化物の塗布が有効であり推奨されている2)。し

かし、白斑あるいは褐色斑として認められるエナメル質の初期う蝕の進行抑制に関して、2001 年の

システマティックレビューでは、フッ化物の有効性のエビデンスは不十分とされている3)。エナメル

質の初期う蝕が進行し、いったんう窩を形成すると、もはや自然治癒しないう蝕病変の特殊性を考

えると、初期う蝕の進行抑制に対するフッ化物の局所塗布の有効性については、改めてエビデンス

に基づいた検証が必要であろう。そこで GRADE システム4)に準拠し、エナメル質の初期う蝕(白斑)

にフッ化物塗布が有効かどうかについて、エビデンスの質を明らかにし、さらにエビデンスの質だ

けでなく、正味の利益と負担のバランス、患者の価値観や好みなどを総合的に考慮して、フッ化物

の塗布を推奨するかどうかを、ガイドラインとして明らかにすることとした。

2 解 説

う蝕が存在する場合、そのう蝕は進行する(progress)か、停止する(arrest)か、回復する(regress)

かのいずれかである5)。そこで CQ 1の「エナメル質の初期う蝕に、フッ化物の塗布は有効か」を

換言すれば、「フッ化物の塗布により初期う蝕の進行が抑制されるか? う蝕が停止または回復する

か?」と解釈される。

アウトカム①う窩形成の抑制(重大)に対するエビデンスの質エナメル質の初期う蝕が進行し、いったんう窩が形成されると、う窩が自然治癒することはなく、

時間の経過とともにう窩は拡大し、最終的には歯を失うことになる。したがって、本ガイドラインで

は、歯の喪失の始まりを回避するために「う窩形成の抑制」を最も重大なアウトカムとして設定した。

よって、臨床の疑問は、「永久歯エナメル質の初期う蝕にフッ化物を塗布すると、う窩の形成が抑制

されるか?」である。この疑問に答えるためには、永久歯エナメル質の初期う蝕にフッ化物を塗布

する群と、塗布しない群とを設定し、一定期間後にう窩形成に違いが生じるかどうか観察する必要

がある。しかし、このような目的で実施された研究は、今回、PubMed(1949 〜 2013 年)と医学

中央雑誌(1983 〜 2013 年)で論文を検索したかぎりでは存在しなかった。被験者の歯にう窩が

形成されるまで経過観察することは、倫理的に許されないためと思われる。しかし、う蝕ハイリスク

の患者 239 人(年齢9〜 16 歳)を対象とし、実験群 120 人の活動性白斑(n=604)に 1.23%APF

ゲル(リン酸酸性フッ化ナトリウム、フッ化物イオン濃度として 12,300ppm、以後 12,300ppmF)を

塗布、対照群 119 人の活動性白斑(n=585)にフッ化物を塗布せず、1年後に非活動性白斑の数

を調べた研究6)において、実験群では 80.0%が非活動性になり、3.5%がう窩に至ったが、対照群

では 35.6%が非活動性になり 10.4%がう窩に至ったことが報告された(エビデンスの質「高」)。本

研究における口腔清掃指導は、ベースライン時と6カ月後の2回だけであったことから、被験者の

口腔清掃状態はそれほど良好ではなかったと推察される。以上より、本研究は口腔清掃状態が良好

とは言えない場合、エナメル質の活動性白斑にフッ化物を塗布すれば、う窩の形成が抑制されるこ

とを示したことになる。この研究は、十分な口腔清掃が期待できない9〜 16 歳の患者を対象にし

たものではあるが、現在のわが国は超高齢社会を迎えており、若いときには十分な口腔清掃ができ

た人でも、高齢化に伴い十分な口腔清掃ができなくなることを考えた場合、このインドの研究結果

はわが国においても大いに参考になるはずである。

アウトカム②白斑の縮小(重大)に対するエビデンスの質エナメル質の一部が初期う蝕に罹患すると、その部分だけが白斑あるいは褐色斑を呈するため、

審美的には明らかに不良であり、患者は白斑(褐色斑)ができるだけ小さくなることを望むであろう。

そこで「白斑の縮小」を2番目に重大なアウトカムとして設定した。この場合、臨床の疑問は、「永

久歯エナメル質の白斑にフッ化物を塗布すると、白斑は縮小するか?」となる。この疑問に答えるた

めには、エナメル質の白斑にフッ化物を塗布する群と、塗布しない群を設定し、被験歯の白斑の大

きさの変化を臨床で観察する必要がある。フッ化物塗布の実験群だけを設定した2つの研究7,8)に

おいて、白斑の縮小が示されたが、対照群がないため、それをフッ化物塗布の効果と判定するには

無理がある。フッ化物による白斑の縮小を適切に評価した研究報告がないなかで、実験群(患者9人、

白斑数 41)と対照群(患者5人、白斑数 27)に対し、再石灰化効果の期待される歯磨剤(エナメ

ロン、1,130ppmF)を使用して日に2回ブラッシングし、実験群ではさらにトレーを使って同歯磨剤

を5分間塗布した研究 9)によると、白斑面積は3カ月後いずれの群も縮小したが、実験群の白斑面

積が 6.43mm2、対照群が 7.99mm2 であり、白斑の縮小率は実験群のほうが 20%大きかった(エビ

デンスの質「非常に低」)。この成績は、フッ化物の塗布がエナメル質の白斑面積の縮小に有効であ

ることを示唆している。

アウトカム③白斑の滑沢化(重要)に対するエビデンスの質エナメル質の初期う蝕は、臨床的に白斑あるいは褐色斑として認められるが、滑沢性は、その

病変が活動性(active)か非活動性(inactive)かによって決まる。活動性の白斑は、チョーク様

の不透明な白色(褐色)を呈し、プロービングにより粗で軟らかく感じるが、非活動性の白斑は滑

沢で光沢があり、プロービングで硬く感じる 10,11)。このように非活動性の白斑は、光沢のある外観

を呈するため、活動性白斑に比べ審美的に優れる。そこで「白斑の滑沢化」を重要なアウトカムと

して設定した。そこで臨床の疑問は、「永久歯エナメル質の不透明な白斑にフッ化物を塗布すると、

白斑は滑沢化するか?」である。

う蝕ハイリスクの患者 239 人(年齢9〜 16 歳)の活動性白斑(n=1189)を対象とした研究(口

腔清掃指導はベースライン時と6カ月後の2回で 12 カ月後の判定)において、1.23%F APFゲル

(12,300ppmF)塗布群では 80.0%(483/604)が非活動性白斑になったのに対し、対照群では

35.6%(208/585)であった6)(エビデンスの質「高」)。一方、活動性白斑(n=258)を有する患

者(年齢 12 歳)を対象に、実験群では週1回の口腔清掃指導と 1.23%F APF ゲル(12,300ppmF)

の塗布を行い、対照群では週1回の口腔清掃指導のみとし、3カ月後に非活動性になった白斑の

割合を調べた研究では、実験群が 58%(73/126)、対照群で 57%(75/132)で差はなかった 12)(エ

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20

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

21

CQ

1

第2章 ガイドライン本論

ビデンスの質「高」)。これら2つの研究で異なる結果になったのは、口腔清掃の差が関係している

と思われる。すなわち、口腔清掃が不十分な場合は白斑の滑沢化にフッ化物が効果を発揮するが、

口腔清掃が良好な場合は、ブラッシングの効果にフッ化物の効果がマスキングされると考えられる。

これら2つの研究成績を統合した結果、フッ化物の塗布は白斑の滑沢化に有効であることが示され

た(エビデンスの質「低」)。

アウトカム④エックス線透過性の減少(重要)に対するエビデンスの質該当する研究はなかったため、エビデンスの質の評価はなし。

アウトカム⑤ダイアグノデント値の減少(重要)に関するエビデンスの質う蝕の診断機器の一つとしてダイアグノデント(KaVo)が普及しつつある。これは、歯面に

655nm のレーザー光を照射することで起こる蛍光反射を測定して、う蝕の状態を数値化するもので、

健全な歯質では低い数値を、う蝕などで歯質が変化している場合は高い値を表示するとされている。

ダイアグノデントは、う蝕を客観的に判定できる機器であるとの報告も多いが、的確にう蝕を診断

できるかどうかについては、まだ研究の余地があることも事実である。このような状況から、「ダイ

アグノデント値の減少」は重要なアウトカムでも最下位に設定した。臨床の疑問は、「永久歯エナメ

ル質の初期う蝕にフッ化物を塗布すると、ダイアグノデント値は減少するか?」である。

これに関して、2つのランダム化比較試験(RCT)13,14)があり、0.5%NaF(フッ化ナトリウム、

2,260ppmF)塗布を5回 / 日×6週間、あるいは5%NaF バニッシュ(22,600ppmF)塗布を1回

/ 月×6カ月により、ダイアグノデント値は有意に減少した。これら2つの研究を統合したところ、フッ

化物を塗布した白斑のダイアグノデント値は 7.3(n = 183 歯)、塗布しなかった対照群では 11.25(n

= 176)であり、フッ化物の塗布によりダイアグノデント値は有意に減少することが示された(エビ

デンスの質「中」)。

3 パネル会議(アウトカム全体のエビデンスの質と推奨の強さを決定する)

エビデンスの要約エナメル質の初期う蝕にフッ化物を塗布することにより、う窩形成が抑制されることが、1つの

ランダム化比較試験(RCT)により示され(被験歯数 1,189 歯、観察期間1年、RR 1.08、95%CI

1.04 〜 1.11)、白斑の面積が 20%小さくなることが1つの観察研究(被験歯 68 歯、観察期間3カ

月)で示された。フッ化物の塗布により、活動性の白斑が非活動性になり滑沢化するかどうかにつ

いては2つの RCT があり、口腔清掃指導の不十分な集団では滑沢化が示された(被験歯数 1,189

歯、観察期間1年、RR 2.25、95% CI 2.00 〜 2.53)が、口腔清掃指導の行き届いた集団ではフッ

化物の有効性は示されなかった(被験歯数 258 歯、観察期間3カ月、RR 1.02、95% CI 0.83 〜 1.26)。

ダイアグノデント値の減少については2つの RCT があり、値は減少することが示された(被験歯

359、観察期間6週間〜6カ月、平均差 -3.95、95% CI -5.81 〜 -2.08)。

アウトカム全般に関するエビデンスの質はどうか?重大なアウトカムは、う窩形成の抑制(アウトカム①)と白斑の縮小(アウトカム②)である。ア

ウトカム①のエビデンスの質は「高」、アウトカム②のエビデンスの質は「非常に低」であったが、

う窩形成の抑制と白斑の縮小は、いずれも患者にとって同じ方向(利益になる方向)を示している

ので、アウトカム全般に関するエビデンスの質は、重大なアウトカムに関するエビデンスの質のな

かで最も高いものが採用され「高」となる。

以上より、永久歯エナメル質の初期う蝕にフッ化物を塗布することの有効性に関して、アウトカム

全般のエビデンスの質は「高」と判定される。

利益と害・負担のバランスに問題はないか?(有益性と有害性の差は大きいか? 正味の利益が大きいか小さいか?)

フッ化物の塗布は術者の技量による差が少ない医療行為であることから、フッ化物の塗布による

エナメル質の初期う蝕に対する抑制効果(有益性)にばらつきは少ないと考えられる。しかも患者

にとって経済的負担は少なく有害事象もないので、正味の利益が大きいと考えられる。

また、一般の患者はもとより特に高齢者や障害者にとって、フッ化物の塗布によりう蝕の進行が

抑制される利益は、う蝕が進行して重症化し、麻酔下で歯を削られたり抜歯されるなど負担の大き

な治療を受ける不利益をはるかにしのぐものであろう。参考としてわが国で販売されているフッ化物

製剤の一覧を表1に示した(p.28)。

患者の価値観や好みはどうか?(価値観や好みにばらつきはないか?)フッ化物塗布により、永久歯エナメル質の初期う蝕(白斑)の進行が抑制されるのであれば、患

者はそのコストや苦痛をはるかにしのぐ価値があると考えるであろう。

したがって、ほとんどの患者は永久歯エナメル質の初期う蝕(白斑)の進行抑制や白斑の縮小、

滑沢化のために、フッ化物の塗布を受け入れるであろう。

正味の利益と消費するコストや資源のバランスに問題ないか?使用されるフッ化物のコストは安価である。さらにフッ化物塗布は年2回でも効果が示されてい

ることから、患者にとって正味の利益は大きいと考えられる。

最良の推定値永久歯エナメル質の初期う蝕(白斑)にフッ化物を塗布すると、う窩形成(エナメル質の崩壊)

が抑制され、白斑の面積も縮小する。また、活動性の白斑は非活動性になり、滑沢な外観を呈す

るようになるため審美的な改善も得られる。

推奨のグレーディング患者にとって重要なアウトカムのエビデンスの質は「高」である。

推奨の表現:永久歯エナメル質の初期う蝕に、フッ化物を塗布することを推奨する(推奨の強さ

は強い推奨であり、エビデンスの質は「高」である)。

作成委員会よりの声明:この推奨作成においては、う窩形成の抑制や白斑の縮小に比較的高い

価値を、ダイアグノデント値の減少に比較的低い価値を置いた。

ガイドラインパネルの投票結果推奨の強さ 強い 弱い 弱い 強い

推 奨“ 実施する ” ことを推奨する

“ 実施する ” ことを提案する

“ 実施しない ” ことを提案する

“ 実施しない ” ことを推奨する

1回目投票 10 票 0 票 0 票 0 票

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GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

23

CQ

1

第2章 ガイドライン本論

● エビデンス・プロファイルを読み解くために

エビデンス・プロファイル(p.27、36、47 〜 49):システマティックレビューの作成者やガイドラ

インパネルの判断を情報提供するものである。ここには、患者にとって重要な各アウトカム(評価項

目・指標)に対応した項目を設定し、研究数、患者数、研究デザイン(RCT か観察研究か)、エビデ

ンスの質を決定する関連要因、当該アウトカムに関するエビデンスの質のグレード「高」「中」「低」「非

常に低」、そして介入の効果の推定値を示す欄が必要である。

研究の限界:バイアスリスク(risk of bias)のことを指す。結論や推論における系統誤差、または真

実からの逸脱である。

非一貫性(inconsistency):結果に対する説明のつかない異質性(heterogeneity)を指す。

非直接性(indirectness):外的妥当性と同義。研究の結果がどの程度一般的なものであるかの程度

を指す。

非精確性(imprecision):研究に含まれる患者数(サンプル数)やイベント数が少なく、そのために

効果推定値を取り巻く信頼区間が広いことを指す。非精確性の判断基準として信頼区間(CI)が

使われる。

出版バイアス(publicationbias):研究が選択により偏って出版されることが原因で本来のプラス効

果またはマイナス効果が系統的に過小または過大に評価されることを指す。

RR:相対リスク(危険度)。対照群に対して実験群に何倍の変化があったかを指す。

AR:絶対リスク(危険度)。あるアウトカムが発生する確率を指す。

95%IC:95 パーセント信頼区間。RR や平均差などの1つの値だけでなく、ある程度の幅をもって推

定値を示したもの。厳密ではないが台風の予想円図のようなものである。

イベント:通常は疾患を指す。

4 エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ1)(エビデンスの質が高い順に記載)

FeasibilityofincludingAPFgelapplicationinaschooloralhealthpromotionprogramasacaries-preventiveagent:acommunityinterventiontrial.AgrawalNandPushpanjaliKJOralSci.2011;53(2):185-91.

目 的 :インドのう蝕ハイリスク患者の活動性初期エナメル質う蝕(active incipient lesion)に対する 1.23%APF gel(12,300ppmF)の有効性を調査する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :M. S. Dental College and Hospital, Bangalore, India

対 象 :インドの Bangalore 市の Chrystal House School および Shishu Mandir School の経済的に恵まれない 9 〜 16 歳のう蝕ハイリスク患者 239 人(対象となった活動性初期エナメル質う蝕数 1,189)。

介 入 :実験群;Chrystal House School の 120 人の患者(平均 12.8 歳で活動性初期エナメル質う蝕歯 604)に、実験開始時と6カ月目に口腔衛生教育の後、トレーを使って 1.23%APF gel を 4 分間塗布した。

 対照群;Shishu Mandir School の 119 人の患者(平均 12.9 歳、活動性初期エナメル質う蝕歯 585)に、実験開始時と6カ月目に口腔衛生教育を行った。

主要評価項目 :活動性初期エナメル質う蝕の診断は、肉眼的視診と疑わしいときはエキスプロラーによる触診を併用した。12 カ月後にう蝕病変の変化を、no change、inactive、 progressed に分けてその数を数えた。

結 果 :実験群(APF gel 2 回 / 年塗布);活動性初期エナメル質う蝕 604 歯のうち、12カ月後変化のなかったものが 100 歯(16.5%)、inactive になったものが 483 歯

(80.0%)、progress したものが 21 歯(3.5%)であった。 対照群;585 歯のうち変化のなかったものが 316 歯(54.0%)、inactive になっ

たものが 208 歯(35.6%)、progress したものが 61 歯(10.4%)であった。なお、DMF は実験群と対照群で差はなかった。

結 論 :トレーを用いて 1.23%APFgelを年2回4分間塗布することは、永久歯の活動性初期エナメル質う蝕の進行抑制や再石灰化に有効であった。

Treatmentoforthodonticwhite spot lesionswitha remineralizingdentifriceappliedbytoothbrushingormouthtrays.KleberCJ,MillemanJL,DavidsonKR,PuttMS,TriolCW,WinstonAEJClinDent.1999;10(1):44-9.

目 的 :フッ化物を含有する2相性の新しい歯磨剤(エナメロン*)によるブラッシングや、同歯磨剤のトレーを使った塗布は、矯正治療後の白斑の再石灰化に有効か?

*エナメロンは、NaF(1,130ppmF)、1%CaSO4、1.1%NH4H2PO4 を含有する歯磨剤。

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GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

25

CQ

1

第2章 ガイドライン本論

研究デザイン :観察研究(エナメロンによるブラッシングのみを選択するか、ブラッシング+トレーによる塗布を選択するかは、被験患者の希望に従った)

研究施設 : Indiana University & Purdue University, Wayne, IN, USA

対 象 :歯科矯正治療後に白斑が認められた 15 歳の患者 14 人(対象となった前歯唇側面の白斑数 68)。

介 入 :実験群; 9 人の患者(41 の白斑)は、エナメロンで日に2回1分間の歯ブラシの後にトレーを使ってエナメロンを 5 分間塗布した。

 対照群;5人の患者(27 の白斑)は、エナメロンで日に2回1分間の歯ブラシのみ。エナメロンの使用は各患者の家庭で実施。観察期間は実験群、対照群ともに3カ月間。

主要評価項目 :白斑の面積の変化と白斑の色調スコア(0:shiny、1:dull、chalky、2:pitted、loss of surface)の変化を調べた。

結 果 :白斑の面積;実験群ではベースライン 7.55mm2、3カ月後は 5.25mm2(30% 縮小)であった。一方、対照群ではベースライン 12.58mm2、3カ月後は 9.78mm2(22%縮小)であった。しかし、ベースラインにおける白斑面積が異なるので、共分散分析で調整したところ、3カ月後の白斑面積は実験群で 6.43 ± 0.44 mm2、対照群で 7.99 ± 0.55 mm2 となり、有意差が認められた(p< 0.05)。

 白斑の色調スコア;実験群はベースラインが 1.05 ± 0.38、3カ月後 0.41 ± 0.58であった。対照群ではベースラインが 1.00 ± 0.00、3カ月後 0.93 ± 0.38 であり、有意の差が認められた。

結 論 :2相性の歯磨剤エナメロンによるブラッシングの後に、さらにトレーを用いて5分間塗布することにより、エナメロンでブラッシングするだけの場合に比べ、白斑の再石灰化は有意に促進した。

Effectofregularfluoridegelapplicationonincipientcariouslesions.FerreiraMAF,LatorreMRDO,RodriguesCS,LimaKCOralHealthPrevDent.2005;3(3):141-9.

目 的 :毎週1回のブラッシング指導後に 1.23%APF gel(12,300ppmF)を塗布した場合と、毎週1回のブラッシング指導だけの場合と、あるいは何も介入しなかった場合とで、活動性白斑(active white spot lesion)に対する抑制効果を比較する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :Federal University of Rio Grande do Norte, Rio Grande do Norte, Brazil

対 象 : ブラジルの 25 の学校の経済的に恵まれない 12 歳のう蝕ハイリスク学童 258 人(対象となった上顎前歯唇側の活動性白斑数は 404)。

介 入 :無作為に3つのグループに分けた。 グループⅠ(フッ化物塗布群 126 歯);週1回のブラッシング指導の後に 1.23%APF

gel を綿球にて1分間塗布した。 グループⅡ(フッ化物非塗布群 132 歯);週1回のブラッシング指導の後にプラ

セボ gel を塗布した。 グループⅢ(対照群 146 歯);介入なし。

主要評価項目 :3カ月後、プラークスコアと白斑の活動性の変化を調べた。

結 果 :プラークスコア;グループⅠとグループⅡのプラークスコアはベースラインに比べ有意に減少したが、グループⅢでは有意の減少は認められなかった。

 非活動性(inactive)になった白斑;グループⅠでは 126 の活動性白斑のうち 73(58%)が、グループⅡでは 132 のうち 75(57%)が非活動性の白斑になった。一方、

グループⅢで非活動性白斑になったのは 146 のうち 63(43%)であった。グループⅠとグループⅡの間に有意差はなかったが、グループⅠ、ⅡとグループⅢの間には有意の差が認められた。

結 論 :毎週1回のブラッシング指導は、活動性白斑を非活動性白斑にするうえで有効であった。しかし、ブラッシング指導にさらにフッ化物の塗布を追加しても、さらなる効果は認められなかった。

Effectoffluoridatedchewingsticks(Miswaks)onwhitespotlesionsinpostorthodonticpatients.BaeshenHA,LingstromP,BirkhedDAmJOrthodDentofacialOrthop.2011;140:291-7.

目 的 :歯科矯正治療後の白斑に対し、0.5%NaF(2,260ppmF)を含浸させた chewingsticks(Miswaks *)の効果をダイアグノデント値と ICDAS で評価する。

*本研究で使用された 0.5%NaF 含浸 chewing stick は、著者の一人 Baeshen により開発されたもの。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :University of Gothenburg, Göteborg, Sweden

対 象 :サウジアラビアの Jeddah 市の3つの歯科病院で矯正治療を受けた患者 37 人(平均年齢 17.2 歳、男 11 人、女 26 人)。対象となった上顎の6〜6に認められた白斑数は 150。

介 入 :実験群;19 人の 79 歯の白斑に対し 0.5%NaF 含浸 chewing stick を1日5回使用した。対照群;18 人 71 歯の白斑にフッ化物非含浸 chewing stick を1日5回使用した。両群とも chewing stick の使用期間は6週間とした。

主要評価項目 :ダイアグノデント値と ICDAS Ⅱスコアをベースラインと比較した。ダイアグノデント値は3回測定し、最も高い値を採用。

結 果 :ダイアグノデント値;実験群のベースラインは 13.2 ± 5.6 であったが、6週間後は 4.5 ± 2.9 となり、ダイアグノデント値は有意に減少した。一方、対照群ではベースラインが 11.5 ± 6.1 で、6週間後は 9.4 ± 5.3 であり有意差はなかった。ICDAS Ⅱスコア;実験群のベースラインは 2.4 ± 0.8 であったが、6週間後は 1.0 ± 0.8 となり有意に減少した。一方、対照群ではベースラインが 2.0 ± 0.9 で、6週間後は 1.7 ± 1.0 であり、有意差はなかった。

 ICDAS スコアとダイアグノデント値の間には強い相関(r=0.76)が認められた。

結 論 : 0.5%NaF含浸 chewingstickの頻回の使用は、白斑の再石灰化に有効であった。ダイアグノデントは白斑病変の診断とモニタリングに有用な機器であろう。

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GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

27

CQ

1

第2章 ガイドライン本論

5 エビデンス・プロファイル

CQ 1 永久歯エナメル質の初期う蝕に、フッ化物の塗布は有効か。

質の評価

結果の要約

エビデンス

の質

重要性

研究数デザイン

限界

非一貫性非直接性非精確性

出版

バイアス

その他

イベント数/白斑数

(イベント発生率)

相対効果

RR[95%CI]

絶対リスクAR[95%CI]

フッ化物

塗布あり

フッ化物

塗布なし

対照群イベント発生

率介入群イベント発

生率

アウトカム①

う窩

形成

の抑

制(

12カ

月後

にう

窩形

成に

至ら

なか

った

白斑

の割

合)〈

相対

効果

(RR

)は

効果

のイ

ベン

ト比

のた

め、

1を

超え

ると

フッ

化物

の効

果あ

り〉

1RC

Tな

し評

価不

能な

しな

し評

価不

能な

し58

3/60

4 (

96.5

%)

#152

4/58

5 (

89.6

%)

1.08

[1.

04〜

1.11

896/

1000

(871

/100

0〜

921/

1000

)

965/

1000

(950

/100

0〜

980/

1000

)高

重大

アウトカム②

白斑

の縮

小(

3カ

月後

の 白

斑の

面積

の差

(m

m2 )〈

白斑

部の

面積

の平

均値

(値

が小

さい

ほど

効果

あり

)の

差の

ため

、0

未満

で効

果あ

り〉

1観

察研

究あ

り評

価不

能な

し深

刻評

価不

能な

介入

群の

白斑

面積

対照

群の

白斑

面積

白斑

面積

の平

均差

(95%

CI)

非常

に低

重大

6.43

±0.

44

mm

2

n=41

#2

7.99

±0.5

5 m

m2

n=27

-1.5

6 (-1

.81

〜 -1

.31)

mm

2

(白

斑の

面積

20%

縮小

アウトカム③

白斑

の滑

沢化

(3

〜12

カ月

後に

滑沢

化し

た白

斑の

割合

)〈相

対効

果(

RR)

は効

果の

イベ

ント

比の

ため

、1

を超

える

とフ

ッ化

物の

効果

あり

2RC

Tな

し深

刻 #

3な

し深

刻 #

4な

しな

し55

6/73

0 (

76.2

%)

283/

717

(39

.5%

)1.

52[

0.70〜

3.30]

395/

1000

(359

〜43

1/10

00)

762/

1000

(731

〜79

3/10

00)

低重

個別

評価

イン

ドRC

Tな

しな

しな

し48

3/60

4 (

80.0

%)

208/

585

(35.

6%)

2.25 (

2.00〜

2.53)

356/

1000

800/

1000

ブラ

ジル

RCT

なし

なし

なし

73/1

26

(57

.9%

)75

/132

(5

6.8%

)1.0

2 (0

.83

〜1.

26)

568/

1000

579/

1000

Randomizedcontrolledtrialonfluoridevarnishapplicationfortreatmentofwhitespotlesionafterfixedorthodontictreatment.DuM,ChengN,TaiB,JiangH,LiJ,BianZClinOralInvest.2012;16:463-8.

目 的 :歯科矯正科治療後の白斑に対する 5%NaF(22,600ppmF)バニッシュの効果をダイアグノデント値で評価する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :Wuhan University, Wuhan, China

対 象 :Wuhan 大学で歯科矯正治療後1口腔に2つ以上の白斑が認められる患者 96 人(対象となった白斑数は 209)。

介 入 :実験群;47 人の患者の 104 の白斑に5%NaF バニッシュ(Duraphat)を月1回で6回塗布した。

 対照群;49 人の患者の 105 の白斑に生理食塩液を月 1 回で 6 回塗布。

主要評価項目 :ベースラインと6カ月後のダイアグノデント値を比較した。

結 果 : 実験群のダイアグノデント値:ベースラインが 17.66 ± 5.36、6カ月後 10.10 ± 4.86 であった。

 対照群のダイアグノデント値:ベースラインは 16.19 ± 5.70、6カ月後 13.10 ± 5.19 であった。

 5%NaF バニッシュ塗布群は、生理食塩液を塗布した対照群に比べダイアグノデント値は有意に減少した。

結 論 :白斑にNaFバニッシュを塗布することは白斑の再石灰化に有効である。

●フッ化物配合バニッシュの有効性

フッ化物配合バニッシュ(22,600ppmF)による初期エナメル質う蝕の再石灰化治療については、

コクラン・システマティックレビュー(2013)* で有効性が示されている。ただし、表1(p.27)に示

すように、わが国で入手可能なフッ化物配合バニッシュ(F バニッシュ歯科用 5%、ダイアデント歯

科用ゲル 5%)は、その薬効分類が象牙質知覚過敏鈍麻剤とされており、欧米で普及しているように

初期う蝕の進行抑制や再石灰化とはされていない。わが国においては、初期う蝕に対するフッ化物

を用いた非侵襲的な取り組みが、世界標準とかけ離れているのが現状である。

* Marinho VCC, Worthington HV, Walsh T, Clarkson JE. Fluoride varnishes for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database of Systematic Reviews 2013, Issue 7. DOI: 10.1002/14651858.CD002279.pub2.

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28

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

29

CQ

1

第2章 ガイドライン本論

表1 日本で販売されているフッ化物製剤のリスト(2014年8月調べ)

対応

種類

薬効分類名

製品名

成分

性状

フッ化物

イオン濃度

(ppm)

pH添付文書に記載

されている販売・

発売・製造発売元

プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル ケ ア

歯 面 塗 布

フッ

化物

歯面

塗布

う蝕

予防

フッ

化物

歯面

塗布

剤フ

ルオ

ール

液歯

科用

2%

フッ

化ナ

トリ

ウム

液状

9,00

0 酸

性製

造販

売元

:東

洋製

薬化

成/発

売元

:ビ

ーブ

ラン

ド・

メデ

ィコ

ーデ

ンタ

フル

オー

ル・

ゼリ

ー歯

科用

2%

ゼリ

ー状

フッ

化物

歯面

塗布

バト

ラー

 フ

ロー

デン

フォ

ーム

A酸

性2

%フ

ッ化

ナト

リウ

ム泡

状9,

000

酸性

製造

販売

元:

サン

スタ

ーバ

トラ

ー 

フロ

ーデ

ンフ

ォー

ムN

中性

う蝕

予防

剤弗

化ナ

トリ

ウム

液「

ネオ

」フ

ッ化

ナト

リウ

ム液

状9,

000

中性

製造

販売

元:

ネオ

製薬

工業

/発売

元:

ナル

コー

ム製

作所

フッ

化ナ

トリ

ウム

製剤

(フ

ッ化

物配

合バ

ニッ

シュ

象牙

質知

覚過

敏鈍

麻剤

Fバ

ニッ

シュ

歯科

用5

%フ

ッ化

ナト

リウ

ムペ

ース

ト状

22,6

00─

製造

販売

元:

東洋

製薬

化成

/発売

元:

ビー

ブラ

ンド

・メ

ディ

コー

デン

タル

ダイ

アデ

ント

歯科

用ゲ

ル5

%フ

ッ化

ナト

リウ

ムペ

ース

ト状

22,6

00─

製造

販売

元:

昭和

薬品

化工

フッ

化ジ

アン

ミン

銀製

剤う

蝕抑

制・

象牙

質知

覚過

敏鈍

麻剤

サホ

ライ

ド液

歯科

用3

8%

フッ

化ジ

アン

ミン

銀液

状48

,400

アル

カリ

性製

造販

売元

:東

洋製

薬化

成/発

売元

:ビ

ーブ

ラン

ド・

メデ

ィコ

ーデ

ンタ

ホ ー ム ケ ア

洗 口フ

ッ化

物洗

口剤

う蝕

予防

フッ

化物

洗口

ミラ

ノー

ル顆

粒11

% 

1g

分包

フッ

化ナ

トリ

ウム

顆粒

250

中性

製造

販売

元:

東洋

製薬

化成

/発売

元:

ビー

ブラ

ンド

・メ

ディ

コー

デン

タル

ミラ

ノー

ル顆

粒11

% 

1.8

g分

包45

0

900

オラ

ブリ

ス顆

粒11

% 

1.5

g分

包フ

ッ化

ナト

リウ

ム顆

250

中性

製造

販売

元:

昭和

薬品

化工

450

オラ

ブリ

ス顆

粒11

% 

6g

分包

ステ

ィッ

ク90

0

フッ

化物

洗口

フッ

化ナ

トリ

ウム

洗口

液0.

1%「

ビー

ブラ

ンド

」フ

ッ化

ナト

リウ

ム液

体45

0中

性製

造販

売元

:ビ

ーブ

ラン

ド・

メデ

ィコ

ーデ

ンタ

フッ

化ナ

トリ

ウム

洗口

液0.

1%「ジ

ーシ

ー」

フッ

化ナ

トリ

ウム

液体

450

中性

製造

販売

元:

ジー

シー

/発売

元:

ジー

シー

バト

ラー

F洗

口液

0.1%

フッ

化ナ

トリ

ウム

液体

450

中性

製造

販売

元:

サン

スタ

フッ

化ナ

トリ

ウム

洗口

液0.

1%「

ライ

オン

」フ

ッ化

ナト

リウ

ム液

体45

0中

性製

造販

売元

:昭

和薬

品化

工/販

売元

:ラ

イオ

ン歯

科材

質の評価

結果の要約

エビデンス

の質

重要性

研究数デザイン

限界

非一貫性非直接性非精確性

出版

バイアス

その他

アウトカム⑤

ダイ

アグ

ノデ

ント

値の

減少

(各

群平

均値

の差

)〈平

均値

(値

が小

さい

ほど

効果

あり

)の

差の

ため

、0

未満

で効

果あ

り〉

2RC

Tな

しな

しな

#5深

刻 #6

なし

なし

介入

群の

値対

照群

の値

ダイ

アグ

ノデ

ント

値の

平均

差 (9

5% C

I)

中重

要平

均値

7.3

n=18

3

平均

値11

.25

n=17

6-3

.95(

-5.8

1〜

-2.0

8)

個別

評価

スェ

ーデ

ンRC

Tな

しな

しな

し平

均値

4.5

±2.

9n=

79

#7

平均

値9.4

±5.

3n=

71

-4.9(

-6.2

〜-3

.6)

中国

RCT

なし

なし

なし

平均

値10

.10

±4.

86n=

104

#8

平均

値13

.10

±5.

19n=

105

-3.0(

-4.3

5〜

-1.6

5)中

#1:介

入群

:口

腔清

掃指

導と

トレ

ーを

使っ

て1.

23%

APF

ゲル

の4

分間

塗布

,6

カ月

後に

再度

口腔

清掃

指導

と1.

23%

APF

ゲル

の再

塗布

vs 対

照群

:口

腔清

掃指

導(

2回

)の

#2:介

入群

:エ

ナメ

ロン

(113

0ppm

) によ

る歯

磨き

にト

レー

によ

るエ

ナメ

ロン

の5

分間

塗布

を毎

日2

回 v

s 対照

群:

毎日

2回

エナ

メロ

ンよ

る歯

磨き

のみ

#3

:白斑

が滑

沢化

する

とい

う研

究(

観察

期間

12カ

月、

イン

ド)

と、

関係

がな

いと

する

研究

(観

察期

間3

カ月

、ブ

ラジ

ル)

が存

在す

るた

め、

非一

貫性

は深

#4:相

対リ

スク

の95

%信

頼区

間は

0.7

0〜

3.30

と広

いた

め、

非精

確性

は深

#5:適

用フ

ッ化

物が

研究

間で

異な

って

いる

が、

グレ

ード

ダウ

ンし

ない

#6

:研究

間で

観察

期間

の違

いが

大き

いた

め、

非精

確性

は深

#7:介

入群

:0.

5% N

aF含

浸 c

hew

ing

stic

kを

1日

5回

使用

vs 対

照群

:フ

ッ化

物非

配合

chew

ing

stic

kを

1日

5回

使用

(観

察期

間6

週間

) #8

:介入

群:

Dur

apha

t®(5

%N

aFバ

ニッ

シュ

)を月

1回

の塗

布を

6回

vs 対

照群

:生

理食

塩液

を塗

布(

観察

期間

6ヵ

月)

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30

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

31

CQ

1

第2章 ガイドライン本論

文献1)  ICDAS Coordinating Committee : Rationale and evidence for the international caries detection and assessment system

(ICDAS II), reviewed Sept 2011(unchanged from 2005), http://www.icdas.org/(検索日 12/06/15) .2)  American Dental Association Council on Scientific Affairs. Professional applied topical fluoride; Evidence-based clinical

recommendations. J Am Dent Assoc. 2006; 137: 1151-9.3)  Bader JD, Shugars DA, Bonito AJ. A systematic review of selected caries prevention and management methods.

Community Dent Oral Epidemiol. 2001; 29: 399-411.4)  相原守夫,三原華子,村山隆之,相原智之,福田眞作.診療ガイドラインのための GRADE システム.青森:凸版メディ

ア;2010.5)  飯島洋一.初期う蝕の早期検出と脱灰.再石灰化の評価.日本歯科評論 . 2003; 63: 146-9.6)  Agrawal N and Pushnanjali K. Feasibility of including APF gel application in a school oral health promotion program as

a caries-preventive agent: a community intervention trial.J Oral Science. 2011; 53: 185-91.7)  de Almeida MQ, Costa OXI, Ferreira JMS, de Menezes VA, Leal RB, Sampaio FC. Therapeutic potential of Brazilian

fluoride varnishes: an in vitro study. Braz Dent J. 2011; 22: 193-7.8)  Ferreira JMS, Silva MFA, Oliveira AFB, Sampaio FC. Evaluation of different methods for monitoring incipient carious

lesions in smooth surfaces under fluoride varnish therapy. Int J Pediatr Dent. 2008; 18: 300-5.9)  Kleber CJ, Milleman JL, Davidson KR, Putt MS, Triol CW, Winston, AE. Treatment of orthodontic white spot lesions with

a remineralizing dentifrice applied by toothbrushing or mouth trays. J Clin Dent. 1999; 10: 44-9.10) Nyvad B, Machiulskiene V, Baelum V. Reliability of a new caries diagnostic system differentiating between active and

inactive caries lesions. Caries Res. 1999; 33: 252-60.11) Fontana M, Young DA, Wolff MS, Pitts NB, Longbottom C. Defining dental caries for 2010 and beyond. Dent Clin N Am.

2010; 54: 432-40.12) Ferreira MAF, Latorre MRDO, Rodrigues CS, Lima KC. Effect of regular fluoride gel application on incipient carous

lesions. Oral Health Prev Dent. 2005; 3: 141-9.13) Baeshen HA, Lingstrom P, Birkhed D. Effect of fluoride chewing stick( Miswaks) on white spot lesions in

postorthodontic patients. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2011; 140: 291-7.14) Du M, Cheng N, Tai B, Jiang H, Li J, Bian Z. Randomized controlled trial on fluoride varnish application for treatment of

white spot lesion after fixed orthodontic treatment. Clin Oral Invest. 2012; 16: 463-8.

6 文献検索式

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1949〜 2013年、検索日:2013年 9 月 17 日)

#1  enamel#2  dental caries[MeSH]#3  #1 AND #2#4  subsurface lesion#5  Incipient lesion#6  Non-cavitated lesion#7  Primary lesion#8  Initial lesion#9  #4 OR #5 OR #6 OR #7 OR #8#10 #2 AND #9#11 #3 OR #10#12 white spot#13 brown spot#14 #12 OR #13#15 #11 AND #14#16 tooth remineralization[MeSH]#17 reverse#18 repair

#19 regress#20 remineralization#21 regression#22 #16 OR #17 OR #18 OR #19 OR #20 OR #21#23 ICDASOR"International Caries   Assessment and Detection System"#24 #15 AND #22#25 #23 OR #24#26 Fluoride#27 varnish#28 #26 OR #27#29 #25 AND #28#30 #29 Filters: Humans; English; Japanese#31 #30 Filters: Preschool Child: 2-5 years;

Newborn: birth-1 month;Infant: 1-23 months; Infant: birth-23 months

#32 #30 NOT #31

 検索結果:402 件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1983〜 2013年、検索日:2013 年 9月 13 日)

#1  初期 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#2  初発 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#3  エナメル /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#4  (白斑 /TH or 白斑 /AL)and(う蝕 /TH or

う蝕 /AL)#5  褐色斑 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#6  褐色斑 /AL and エナメル /AL#7  (白斑 /TH or 白斑 /AL)and エナメル /AL#8  表層下脱灰 /AL#9  要観察歯 /A#10 #1 or #2 or #3 or #4 or #5 or #6 or #7 or #8

or #9#11 (再石灰化 /TH or 再石灰化 L)

#12 (歯牙再石灰化 /TH or 歯牙再石灰 /AL)#13 #11 or #12#14 #10 and #13#15 ICDAS/AL#16 #14 or #15#17 (フッ化物 /TH or Fluoride/AL)or(フッ化

物 /TH or フッ化物 /AL)#18 (フッ素 /TH or フッ素 /AL)#19 varnish/AL or バーニッシュ /AL#20 #17 or #18 or #19#21 #16 and #20#22 (乳歯 /TH or 乳歯 /AL)#23 #21 not #22

 検索結果:93件

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32

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

33

CQ

2

第2章 ガイドライン本論

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ 2 永久歯エナメル質の初期う蝕に、高フッ化物徐放性グラスアイオノマーセメントの塗布は有効か。

【 推奨 】永久歯エナメル質の初期う蝕に、高フッ化物徐放性グラスアイオノマーセメントを塗布することを条件つきで推奨する(推奨の強さ「弱い推奨」)。

●付帯事項  適用材料:FujiⅦ(ジーシー)       適応部位:咬合面および塗布容易な平滑面

文献の抽出

CQ2 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1949 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 9月 17 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 9月 13 日

上記のデータベースの検索により、PubMed から 51 編の英語論文が、医学中央雑誌から3編の

日本語論文がそれぞれ抽出された。そのなかから、設定された CQ とアウトカムに関係するヒト臨

床研究を選択し、さらにランダム化比較試験と準ランダム化比較試験に絞り込んだ。その結果、ラ

ンダム化比較試験として1編1)がエビデンスとして採用する可能性のある論文として採択された。

そして、この論文を精読するとともに、GRADE システムに従ってアウトカムごとにエビデンス・プロファ

イルを作成し、エビデンスの質を評価した。

1 背景・目的

グラスアイオノマーセメント2)は 1971 年に英国の Wilson AD と Kent BE によって開発された歯

科用セメントの一つで、40 年以上の臨床使用実績がある。このセメントはフッ化アルミノシリケート

グラスの粉末とポリカルボン酸水溶液を練和することで酸-塩基反応により硬化する。現在はレジ

ン成分を含む光硬化タイプが多く使われている。用途は合着、歯冠修復、シーラント、ベース、支

台築造などである。このセメントの最大の特徴はフッ化物イオンの徐放と取り込み(リチャージ)で

ある。この材料の開発の長い歴史のなかで材料自体の抗う蝕性効果は明らかになってきている。し

かしながら、高度な再石灰化効果、材料からのフッ化物イオンの徐放および硬組織へのフッ化物の

取り込みなどに関する臨床的なエビデンスは限られている 3)。

最近、歯質保護を目的に従来のグラスアイオノマーセメントの数倍のフッ化物イオンを徐放する

高フッ化物イオン徐放性グラスアイオノマーセメントが開発された。この種の材料を初期う蝕歯面

に塗布・硬化させることによって、これがフッ化物イオンの貯蔵・供給源として働き、永久歯エナメ

ル質の初期う蝕の治療効果に期待できるか検討した。

2 解 説

アウトカム①う窩形成の抑制(重大)に対するエビデンスの質該当する研究はなかったため、エビデンスの質の評価はなし。

アウトカム②白斑の縮小(重大)に対するエビデンスの質該当する研究はなかったため、エビデンスの質の評価はなし。

アウトカム③白斑の滑沢化(重要)に対するエビデンスの質該当する研究はなかったため、エビデンスの質の評価はなし。

アウトカム④エックス線透過性の減少(重要)に対するエビデンスの質高フッ化物徐放性グラスアイオノマーセメント練和泥を初期エナメル質う蝕病変に塗布する処置

法では、う窩形成の抑制、白斑の縮小、白斑の滑沢化やダイアグノデント値の減少を経時的に直接

観察することはできない。また、エナメル質病変のエックス線透過性の変化も咬合面や唇側舌側の

平滑面では評価できない。こうした限られた条件のなかで隣接面う蝕に対する効果を評価したラン

ダム化比較試験(RCT)論文1)が1編あった。研究対象は7〜 19 歳で平均年齢 13.15 歳、(男7人、

女 19 人)の臼歯 41 対の初期活動性隣接面う蝕に、実験群では弾性 O リングで歯間離開後にベー

スライン時にグラスアイオノマーセメント(Fuji Ⅶ,ジーシー:図1)によるコーティング処置を行っ

た。対照群はコーティングなし。なお、倫理的理由により実験群と対照群のいずれもフッ化物入り

歯磨剤を毎日使用し、6カ月ごとに 1.23% APF ゲルの塗布を実施していた。咬翼法エックス線写真で、

う蝕の深さがエナメル質の 1/2 未満ならスコア1、1/2 以上ならスコア2として評価した。観察期

間は 12 カ月間。実験群では、開始時にスコア1が2歯、スコア2が 39 歯であったが、12 カ月後

にスコア1が 10 歯、スコア2が 31 歯で、8歯(19.5%)がスコア2から1に改善した。対照群では、

開始時にスコア1が3歯、スコア2が 38 歯であったが、12 カ月後にスコア1が2歯、スコア2が

39 歯で、2歯(4.9%)がスコア2から1に改善した。

実際の臨床場面で介入を行なうのが困難なことや、アウトカムが「重要」なものしかなかったこ

とよりエビデンスの質は低いと判定した。

アウトカム⑤ダイアグノデント値の減少(重要)に対するエビデンスの質該当する研究はなかったため、エビデンスの質の評価はなし。

3 パネル会議(アウトカム全体のエビデンスの質と推奨の強さを決定する)

エビデンスの要約隣接面エナメル質の初期う蝕に高フッ化物徐放性グラスアイオノマーセメント(Fuji Ⅶ)を塗布

することにより、エックス線透過性が減少することが1つのランダム化比較試験により示された(被

験歯数臼歯 41 対、観察期間 12 カ月、RR 3.90、95%CI 0.88 〜 17.18)。

アウトカム全般に関するエビデンスの質はどうか?実際の臨床場面で介入を行うのが困難なことや、アウトカムが「重要」なものしかなかったことよ

りエビデンスの質は「低」と判定した。

利益と害・負担のバランスに問題はないか?(有益性と有害性の差は大きいか? 正味の利益が大きいか小さいか?)

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34

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

35

CQ

2

第2章 ガイドライン本論

グラスアイオノマーセメントの最大の特徴はフッ化物イオンの徐放と取り込み(リチャージ)であ

る。歯髄刺激性はかなり少なく、これまで有害事象の報告はない。本 CQ で推奨される材料は 1 社

の製品に限られる。本材は従来型の粉液タイプで歯質保護用として開発されたもので、通常のグラ

スアイオノマーセメントの数倍のフッ化物徐放量を示すとされている(図2)。

エナメル質の初期う蝕の脱灰面に、意図的にフッ化物塗布剤としてグラスアイオノマーセメントを

塗布することはわが国では一般的でない。今回採用した RCT 論文のような隣接面のエナメル質病変

に対しては、歯間離開を行ってから塗布するという手間がかかる。また、隣接面部がセメントで覆わ

れることで隣接面の清掃が困難になり歯肉炎の発症が懸念される。平滑面エナメル質病変への塗布

も塗布面が粗造になるためプラークコントロールをしっかり行うことが求められる。したがって、治療

期間が過ぎるとグラスアイオノマーセメントを除去する必要があろう。しかし、Fuji Ⅶはう蝕予防のた

めの咬合面シーラント材の適応があるため、初期活動性う蝕に対する適用拡大には問題ないと思わ

れる。

以上より、グラスアイオノマーセメント練和泥の歯面塗布は治療効果の有益性が有害性より上回

るであろうと判定した。

患者の価値観や好みはどうか?(価値観や好みにばらつきはないか?)採用された RCT 論文が隣接面う蝕に応用されたものであったため、後述のようにパネラーの意

見が分かれ、価値観にばらつきがみられた。そのために適用に条件をつけることが求められた。

正味の利益と消費するコストや資源のバランスに問題はないか?本治療法は歯を切削せず、1歯あたりの処置時間は数分であることが特徴である。材料コストは

通常のグラスアイオノマーセメント充填と同程度である。ただし、隣接面では事前に歯間離開処置

を行う必要があるため通院回数が増える。

最良の推定値隣接面における永久歯エナメル質の初期う蝕(白斑)に高フッ化物徐放性グラスアイオノマーセ

メントを塗布するとエックス線透過性が減少することが示された。グラスアイオノマーセメントによ

るう蝕の進行抑制と回復をエックス線透過性で評価するためには、隣接面う蝕を対象にせざるをえ

μ

図2 脱イオン水(pH7)に浸漬したFujiVIIとFujiIXのサンプルから溶出したフッ化物イオンの累積量(文献4のデータから本委員会で作成)

図 1 Fuji Ⅶ(ジーシー)

ないという研究デザイン上の制限がある。そのことから、隣接面う蝕で確認された効果は平滑面や

咬合面の永久歯エナメル質初期う蝕にも期待される。

推奨のグレーディングガイドラインパネルによる推奨の投票では「実施することを提案する」が8票、「実施しないこと

を提案する」が2票であった。多数決により推奨の強さは「弱い」で「実施することを提案する」となっ

た。なお、「実施することを提案する」としたパネルからは「症例を選択すべき」、「適応の条件を

明示すること」、「切削する前の選択肢とする」の付帯条件が求められた。一方、「実施しないことを

提案する」とした2人からは「フッ化物塗布より効果が低い」、「口腔内違和感による QOL 低下」、「隣

接面では歯間離開の侵襲がある」、「来院回数が増加する」、「効果の確認のためにエックス線被曝

を伴う」、「プラークが付着しやすくなる」、「適用する初期う蝕のレベルが判断できない」の理由で、

むしろ CQ 1におけるフッ化物の塗布を強く推奨した。

患者にとって重要なアウトカムのエビデンスの質は「低」である。

ガイドラインパネルの投票結果推奨の強さ 強い 弱い 弱い 強い

推 奨 “ 実施する ” ことを推奨する

“ 実施する ” ことを提案する

“ 実施しない ” ことを提案する

“ 実施しない ” ことを推奨する

1回目投票 0 票 8 票 2 票 0 票

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36

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

37

CQ

2

第2章 ガイドライン本論

5 エビデンス・プロファイル

CQ 2 永久歯エナメル質の初期う蝕に、高フッ化物徐放性グラスアイオノマーセメントの塗布は有効か。

質の評価 結果の要約

エビデンスの質 重要性

研究数 デザイン 限界 非一貫性

非直接性

非精確性

出版バイアス その他

イベント発生率 #1#2RR

[95%CI]グラスアイオノマーセメントの塗布あり#3

塗布なし#4

アウトカム④エックス線透過性の減少(咬翼法エックス線写真で、う蝕の深さをスコア化)

1 RCT なし評価不能

なし 深刻評価不能

深刻#5

8/39(20.5%)

2/38(5.3%)

3.90[0.88 〜

17.18]低 重要

#1 咬翼法エックス線写真で、う蝕の深さがエナメル質の 1/2 未満ならスコア 1、1/2 以上ならスコア 2 として評価。#2 スコア 2 から1 へ変化した場合を改善のイベント発生とした。#3 弾性ゴムで歯間離開後にベースライン時 GIC(Fuji Ⅶ)によるコーティング処理を行った。#4 実験群と対照群のいずれもフッ化物入り歯磨剤を毎日使用し、6カ月ごとに APF(1.23% F)ゲルの塗布を実施した。#5 介入が、実際の臨床場面で行うのが困難なことや、アウトカムが重要なものしか存在しなかったことにより、エビデンスの質は低いと判定した。

4 エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ2)(エビデンスの質が高い順に記載)

Effectofglass-ionomercementontheprogressionofproximalcaries.TrairatvorakulC,ItsaraviriyakulS,WiboonchanWJDentRes.2011;90(1):99-103.

目 的 :グラスアイオノマーセメント(GIC)の直接応用が臼歯部の初期隣接面う蝕病変の進行に及ぼす影響を調べる。仮説は GIC 処置群のう蝕進行は未処置群のそれより少ない。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :タイ王国、Chulalongkon 大学小児歯科診療室、2005 年 11 月〜 2008 年3月

対 象 :7〜 19 歳で平均年齢 13.15 歳、(男7人、女 19 人)の臼歯 41 対の Initial active caries( proximal white lesion)初期活動性隣接面う蝕。

介 入 : 実験群では弾性 O リングで歯間離開後にベースライン時に GIC(Fuji Ⅶ、ジーシー)によるコーティング処置を行なった。6カ月後の来院時にはがれていた場合は再度コーティングを行なった。対照群はコーティングなし。なお、倫理的理由により実験群と対照群のいずれもフッ化物入り歯磨剤を毎日使用し、6カ月ごとに 1.23% APF ゲルの塗布を実施した。

主要評価項目 :咬翼法エックス線写真で、う蝕の深さがエナメル質の 1/2 未満ならスコア1、1/2 以上ならスコア2として評価。観察期間は6カ月後と 12 カ月後。

結 果 :実験群では、開始時スコア1が2歯、スコア2が 39 歯であったが、12 カ月後にスコア1が 10 歯、スコア2が 31 歯で、8歯がスコア2から1に改善した。対照群では、開始時スコア1が3歯、スコア2が 38 歯であったが、12 カ月後にスコア1が2歯、スコア2が 39 歯で、2歯がスコア2から1に改善した(オッズ比 =6.3、95%信頼区間 1.3 〜 30.9)。

結 論 :GIC によるコーティングは、初期活動性隣接面う蝕歯の進行停止あるいは回復に有効であった。

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38

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

39

CQ

2

第2章 ガイドライン本論

文献1) Trairatvorakul C, Itsaraviriyakul S, Wiboonchan W. Effect of glass-ionomer cement on the progression of proximal

caries. J Dent Res. 2011; 90: 99-103.2) 田上順次,千田 彰,奈良陽一郎,桃井保子 監修.第四版 保存修復学 21.京都:永末書店;2011, 193-203.3) Mickenautsh S, Mount G, Yengopal V. Therapeutic effect of glass-ionomers: an overview of evidence. Aust Dent J. 2011;

56: 10-5.4) Gandolfi MG, Chersoni S, Acquaviva GL, Piana G, Prati C, Mongiorgi R. Fluoride release and absorption at different pH

from glass-ionomer cements. Dent Mater. 2006; 22: 441-9.

6 文献検索式

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1949 〜 2013 年、検索日:2013 年 9月 17 日)

#1  enamel#2  dental caries [MeSH]#3  #1 AND #2#4  subsurface lesion#5  Incipient lesion#6  Non-cavitated lesion#7  Primary lesion#8  Initial lesion#9  #4 OR #5 OR #6 OR #7 OR #8#10 #2 AND #9#11 #3 OR #10#12 white spot#13 brown spot#14 #12 OR #13#15 #11 AND #14#16 tooth remineralization [MeSH]

#17 reverse#18 repair#19 regress#20 remineralization#21 regression#22 #16 OR #17 OR #18 OR #19 OR #20 OR #21#23 ICDASOR "International Caries   Assessment and Detection System"#24 #15 AND #22#25 #23 OR #24#26 Glass ionomer cement#27 GIC#28 #26 OR #27#29 #25 AND #28#30 #29 Filters: Humans; English; Japanese

 検索結果:51件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1983 〜 2013 年、検索日:2013 年 9月 13 日)

#1  初期 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#2  初発 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#3  エナメル /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#4  (白斑 /TH or 白斑 /AL)and(う蝕 /THor

う蝕 /AL)#5  褐色斑 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#6  褐色斑 /AL and エナメル /AL#7  (白斑 /TH or 白斑 /AL)and エナメル /AL#8  表層下脱灰 /AL#9  要観察歯 /AL#10 #1 or #2 or #3 or #4 or #5 or #6 or #7 or#8

or #9

#11 (再石灰化 /TH or 再石灰化 / AL)#12 (歯牙再石灰化 /TH or 歯牙再石灰化 / AL)#13 #11 or #12#14 #10 and #13#15 ICDAS/AL#16 #14 or #15#17 (グラスアイオノマーセメント /TH or グラス

アイオノマーセメント /AL)#18 "Glass ionomer cement" / AL or "GIC" / AL#19 #17 or #18#20 #16 and #19

 検索結果:3件

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GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

41

CQ

3

第2章 ガイドライン本論

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ 3 永久歯エナメル質の初期う蝕に、レジン系材料による封鎖は有効か。

【 推奨 】永久歯エナメル質の初期う蝕を、レジン系材料で封鎖することは、う窩形成の抑制において有効である。一方、この方法において隣接面の初期う蝕を封鎖する場合、歯間離開が必要となる。その場合、痛みやコストなど患者に一定の負担が伴う。したがって、本方法を条件つきで推奨する(推奨の強さ「弱い推奨」)。

●付帯事項:咬合面および隣接面。隣接面の場合は、歯間離開が必要。その場合は痛みを伴う こともある。

文献の抽出

CQ3 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1949 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 9月 17 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 9月 13 日

以上のデータベース検索より、PubMed から 91 編、医学中央雑誌から 15 編が抽出された。そ

れらについて、研究デサインの質(被験者のランダム化、十分な被験者数と十分な臨床観察期間)

が満足されていること、対照群(シーラントの非使用)との比較研究であること、などの要件から、

最終的に4編の英語論文に絞られた。今回採用した4論文には、アウトカム「う窩形成の抑制」に

対応するものが3編、「エックス線透過性の減少」に対応するものが2編含まれており、その他の

アウトカムに該当する論文はなかった。

1 背景・目的

咬合面シーラントなどレジン系材料がう蝕の初発を抑制することは、1970 代から多くの研究で立

証されている 1)。これに関連して、シーラントの経年後の保持性とう蝕の発症との関連性も検討され、

保持性が高いほど、う蝕の発症は少ない傾向にある 2)。

一方、エナメル質に明らかな実質欠損が認められない病変、あるいはエナメル質の厚さの 1/2

以内にとどまっている比較的軽度な病変(本節では、これらをエナメル質初期う蝕とする)の場合

でも、同様にレジン系材料を適用し、う蝕の進行を抑制・停止または再石灰化させてこれを改善し

ようとする臨床研究が多数報告されている 3)。それは最近のレジン系材料の進歩により、歯質との

高い接着性が可能となり、その結果、長期にわたってレジンによって初期う蝕を封鎖することができ

るようになったためと思われる。最近では脱灰歯質への含浸性という特徴を有したレジン系材料の

有効性も報告されている 4)。

このような技術的進歩がう蝕の進行抑制・停止(場合によっては再石灰化)に貢献していると考

えられる。

本節の目的は、エナメル質初期う蝕をレジン系材料で封鎖した場合の効果について、GRADE シ

ステムに準拠してエビデンスの質を評価するとともに、推奨の強さを決めることである。

2 解 説

アウトカム①う窩形成の抑制(重大)に対するエビデンスの質ここでの臨床の疑問は、「永久歯エナメル質の初期う蝕をレジン系材料で封鎖することにより、う

窩形成が抑制されるか?」である。使用されているレジン系材料および術式は、研究によって異なっ

ていた。これらの材料が仮に入手できなくとも、現在入手可能な材料を適切に処置して良好な保持

性が得られれば、同様の効果が得られると推察される。

論文15)では、小学生 103 人の咬合面初期う蝕を対象に評価した。封鎖群の初期う蝕の患部

を清掃し、30 秒間のエッチングの後、光重合タイプのレジン(Delton,Dentsply)にて封鎖した。

非封鎖(対照)群では封鎖をせず、う蝕の進行を5年間経過観察した。本研究では、群分けは必

ずしもランダムではなく、シーラントの封鎖を拒んだ者を非封鎖群とした点では、結果に対して一定

のバイアスが考えられたため、準 RCT とした。なお、評価は視診と触診で行った。その結果、非

封鎖群で初期う蝕がう窩に進行しなかったのは 56 歯面のうち 27 歯面(48.2%)であったのに対し、

封鎖群では 380 歯のうち 339 歯(89.2%)であった。

論文26)では、患者の 1 口腔の左右側の咬合面に初期う蝕を有する者を対象に、片方(58 歯面)

をシーラント封鎖群(bis-GMA self polymerizing red color resin,3M)、もう片方(53 歯面)を非

封鎖群とし、う蝕の進行を 30 カ月間経過観察した。本研究では、患者の1口腔をランダムに左右

2つに分けて実施した点では、理想的なランダム化が行われたと考えられる。なお、評価は視診と

触診にて行った。その結果、初期う蝕がう窩に進行しなかった割合は、非封鎖群では 53 歯面中 12

歯面(22.6%)であったのに対し、封鎖群で 58 歯面中 47 歯面(81.0%)であった。

論文37)では患者の1口腔の左右側の隣接面に初期う蝕を有する者を対象に、片方をシーラント

封鎖群(Gluma One Bond Adhesive,Heraeus Kulzer)、もう片方(69 歯面)を非封鎖群とし、う

蝕の進行を 18 カ月間経過観察した。なお、評価はエックス線検査にて行った。その結果、初期う

蝕歯がう窩に進行しなかった割合は、非封鎖群では 69 歯面中 11 歯面(15.9%)であったのに対し、

封鎖群では、69 歯面中 39 歯面(56.5%)であった。以上、3つの研究論文を統合して解析した結果、

有意な阻止効果が示された(被験歯面数:685、観察期間 1.5 〜 5 年、RR:2.73、95% CI:1.65

〜 4.53)。

アウトカム②白斑の縮小(重大)に対するエビデンスの質該当する研究はなかったため、エビデンスの質の評価はなし。

アウトカム③白斑の滑沢化(重要)に対するエビデンスの質該当する研究はなかったため、エビデンスの質の評価はなし。

アウトカム④エックス線透過性の減少(重要)に対するエビデンスの質論文48)では、患者の1口腔の左右側の隣接面に初期う蝕を有する者(35 人、平均年齢 21.3 歳)

を対象に、片方をシーラント封鎖群(Heliobond,Ivoclar Vivadent)、もう片方を非封鎖群とし、う蝕

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42

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

43

CQ

3

第2章 ガイドライン本論

の進行を2年間経過観察した。その結果、エックス線透過性が減少し初期う蝕の程度が改善した歯

面数の割合は、非封鎖群で 35 歯面中4歯面(11.4%)であったのに対し、封鎖群では 35 歯面中9

歯面(25.7%)であった。

論文37)でも患者の1口腔の左右側の隣接面に初期う蝕を有する者(69 人、15 〜 39 歳)を対象に、

片方をシーラント封鎖群(Gluma One Bond Adhesive,Heraeus Kulzer)、もう片方を非封鎖群とし、

う蝕の進行を 18 カ月間経過観察した。その結果、エックス線透過性が減少し初期う蝕の程度が改

善した歯面数の割合は、非封鎖群で 69 歯面中9歯面(13.0%)であったのに対し、封鎖群では 69

歯面中 27 歯面(39.1%)であった。

これら2つの論文について、エックス線透過性が減少した歯面数を基に RevMan で統合して解

析した結果、エックス線透過性が減少した歯面数の割合は、封鎖群において 104 歯面中 36 歯面

(34.6%)、非封鎖群では 104 歯面中 13 歯面(12.5%)で、封鎖群において有意に高かった(被

験歯数:208 歯、観察期間:1.5 〜 2 年、RR:2.77、95% CI:1.56~4.91)。

なお今回、最終的に採用した上記4編の論文において、レジン系材料にフッ化物が配合されてい

るか否かについての言及はなく、フッ化物の影響は不明であった。また、被験者がフッ化物配合歯

磨剤を使用しているか否かについても明記してある論文とそうでない論文とがあったが、これらの研

究が欧米でなされたことを考えれば、被験者がフッ化物配合歯磨剤を使用していたと推定すること

は妥当であろう。

上記の4編以外の論文に加えて、最近、シーラントを施すことで、エナメル質初期う蝕のう窩へ

の進行を抑制できるとするシステマティックレビューが報告された 3)。なお、本レビューは、GRADE

システムでは解析していない。著者らは、1966 〜 2005 年の間に MEDLINE で検索できる雑誌に登

録された論文を調査し、そのなかから 311 編を候補として選び、これらを精読して最終的に6編に

絞り込んだ。そして、これら6編(うち4編はランダム化比較試験〈RCT〉)について統合してメタ

アナリシス(被験者 384 人、観察歯数 840 歯、観察歯面 1,090 面)を行い、 以下の結果を得た。

試験群(シーラントあり)では、う窩への年間進行率は 2.6% であったのに対し、対照群(シー

ラントなし)では 12.6% であった。特に RCT 研究では、う窩への進行抑制率が 71.3%(95% CI:

52.8 〜 82.5%、非一貫性なし)と高い効果を示した。このことから、本システマティックレビューに

おいてはエナメル質初期う蝕にシーラントを施すことは、う蝕の進行を抑制するうえで有効な手段で

あると結論づけることができる。

アウトカム⑤ダイアグノデント値の減少(重要)に対するエビデンスの質該当する研究はなかったため、エビデンスの質の評価はなし。

3 パネル会議(アウトカム全体のエビデンスの質と推奨の強さを決定する)

エビデンスの要約エナメル質初期う蝕をレジン系材料で封鎖した場合のう窩の形成または拡大阻止効果(重大)を

調べたランダム化および準ランダム比較試験(視診、触診、エックス線検査効果を評価)が4編み

つかり、これらの結果を統合して解析した結果、有意なう窩の形成または拡大阻止効果が示された。

また、エックス線検査にて、再石灰化の促進効果(重要)を調べたランダム化および準ランダム

化比較試験が2編みつかり、これらの結果を統合して解析した結果、有意な再石灰化促進効果が示

された。

アウトカム全般に関するエビデンスの質はどうか? GRADE システムにより、複数のアウトカムのうち、「重大」に該当するアウトカムのみにて、全体

の質を評価することになる。レジン系材料の場合は、「う窩形成の抑制」が該当する。

システマティックレビューとメタアナリシスの結果、「う窩形成の抑制」のエビデンスの質は「中」

と判断された。ただし、ガイドラインパネルから、「臨床期間中にレジン系材料が脱離した場合の

再封鎖の有無について、その記載が論文中にないのは有効性を過大に評価している可能性がある」

との指摘があった。

利益と害・負担のバランスに問題はないか?(有益性と有害性の差は大きいか? 正味の利益が大きいか小さいか?)

有益性(う窩形成の抑制または拡大阻止効果および再石灰化促進効果)も期待できるが、望まし

くない影響、すなわち、特に隣接面の初期う蝕を処置する場合、決して簡便ではなく比較的時間の

かかる処置と痛みが伴うこともありうる。

患者の価値観や好みはどうか? (価値観や好みにばらつきはないか?)レジン系材料で永久歯エナメル質の初期う蝕(白斑)の進行抑制あるいは再石灰化促進が期待

されるのは確かであるが、患者には一定のコストや痛みを伴う場合があり、すべての患者に受け入

れられるとは限らない。

最良の推定値 永久歯エナメル質の初期う蝕(白斑)をレジン系材料で封鎖することは、う窩の形成・拡大阻止

および再石灰化の促進に有効であることが示された。

正味の利益と消費するコストや資源のバランスに問題はないか?材料費の他にラバーダムなどの材料費が発生する。ある事例では、1歯あたり約 2,500 円の材料

費を含み最低で合計約1万円の場合もあり、必ずしも安価ではない。また、隣接面では歯間離開

が必要な場合もあり、通院回数も増える。そのためすべての患者にとって正味の利益が大きいとは

限らない。

推奨のグレーディング患者にとって重大なアウトカム(①が該当)のエビデンスの質は「中」であり、推奨の強さは、「弱

い」となった。推奨の強さの判定に際して「強い」とするには同意できないとする意見(右ページ

表の投票結果)が多数あり、最終的に「弱い」とした。なお、同意できないとする意見の主な内容は、

特に隣接面の初期う蝕を処置する場合、歯間離開が必要な場合があり、そのため通院など比較的

時間のかかる処置と痛みも伴うという理由からである。このような意見を参考に、最終的には冒頭

の推奨文とした。

ガイドラインパネルの投票結果推奨の強さ 強い 弱い 弱い 強い

推 奨“ 実施する ” ことを推奨する

“ 実施する ” ことを提案する

“ 実施しない ” ことを提案する

“ 実施しない ” ことを推奨する

1回目投票 2 票 8 票 0 票 0 票

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44

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

45

CQ

3

第2章 ガイドライン本論

4 エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ3)(エビデンスの質が高い順に記載)

Longitudinalevaluationofsealingmolarswithandwithoutincipientdentalcariesinapublichealthprogram.HellerKE,ReedSG,BrunerFW,EklundSA,BurtBAJPublicHealthDent.1995;55(3):148-53.

目 的 :健全および初期う蝕状態にある永久歯咬合面にシーラントを施した場合のう窩への進行抑制効果を評価する。

研究デザイン : 後ろ向き研究、多施設。論文ではランダム化比較試験(RCT)の宣言はないが、本委員会では準 RCT とした。

研究施設 :米国(ミシガン)Mott Children’s Health Center( MCHC)が組織した複数の小学校

対 象 : 小学生 103 人(具体的年齢の記載なし)。

介 入 :健全歯では、297 歯面を処置面とし 64 歯面を非処置面とした。初期う蝕歯では、380 歯面を処置面とし 56 歯面を非処置面とした。シーラントとしては、 Delton

(Dentsply)を使用した(30 秒間エッチング後、光重合)。

主要評価項目 : 視 診 と 触 診 に よ る 初 期 う 蝕 の 診 断 法: dark staining、chalky appearance、sticking on probing、no apparent visible enamel defects のような状態にある場合、これを初期う蝕とした。う窩は apparent visible enamel defects とした。

結 果 :5年後の初期う蝕のみの結果を示す。シーラントを施した 380 歯面のうち、41歯面(10.8%)で、う窩への進行が認められたのに対し、非処置面では 56 歯面のうち、29 歯面(51.8%)でう窩に進行した。

結 論 :初期う蝕の状態にある咬合面にシーラントを施すことは、う窩への進行を抑制するうえで有効であった。

Stickyfissuremanagement.30-monthreport.GibsonGB,RichardsonASJCanadaDentAssn.1980;46(4):255-8.

目 的 :初期う蝕状態にある永久歯咬合面にシーラントを施した場合のう窩への進行抑制効果を評価する。

研究デザイン :1口腔を2分割しランダム化(RCT の宣言はないが準 RCT とした)

研究施設 :カナダ(バンクーバー)

対 象 : 小学校2年生(具体的人数の記載なし)。

介 入 :58 歯面を処置面とし 53 歯面を非処置面とした。シーラントとしては、3M 社製の bis-GMA self polymerizing red color resin を使用した(90 秒間エッチング後、光重合)

主要評価項目 :視診と触診による初期う蝕の診断法;Cleavdent # 5で咬合面を触診したとき、中程度の抵抗を感じ、明らかなう窩がない状態にある場合、これを初期う蝕とした。う窩への進行の有無はエックス線写真を用いて評価した。

結 果 : 30 カ月後、シーラントを施した 58 歯面では、11 歯面(19.0%)でう窩に進行し、2歯面(3.4%)で進行が停止し、45 歯面(77.6%)では改善した。一方、非処置面の 53 歯面では、41 歯面(77.4%)がう窩に進行し、4歯面(7.5%)で進行が停止し、8歯面(15.1%)で改善がみられた。

結 論 :初期う蝕の状態にある咬合面にシーラントを施すことは、う窩への進行を抑制するうえで有効であった。

Efficacyofsealingproximalearlyactivelesions:An18-monthclinicalstudyevaluatedbyconventionalandsubtractionradiography.MartignonS,EkstrandKR,EllwoodRCariesRes.2006;40:382-8.

目 的 :隣接面におけるエナメル質初期う蝕にシーラントを施した場合のう窩への進行抑制効果を評価する。

研究デザイン :1口腔を2分割しランダム化と盲検化(RCT)

研究施設 :デンマーク(コペンハーゲン)とコロンビア(ボゴダ)

対 象 : 1口腔に2つの隣接面う蝕(う窩を伴わない初期う蝕)を有するデンマーク人39 人とコロンビア人 33 人(合計 72 人)、いずれも 15 〜 39 歳。

介 入 :片方のう蝕にシーラント(Gluma One Bond Adhesive, Heraeus Kulzer、またはConcise sealant, 3M-ESPE)でシール処置し、もう片方をシール処置なしとした。

 試験期間中、被験者は家庭でフロスを1日3回するよう指示された。

主要評価項目 :エックス線検査にてスコア化;〈score 1〉エナメル質う蝕、〈score 2〉象牙質う蝕が半分以下、〈score 3〉象牙質う蝕が半分以上

結 果 :18 カ月後、69 人がエックス線検査を受け、解析対象となった。シーラントを施した 69 歯面では、30 歯面(43.5%)でう窩に進行し、12 歯面(17.4%)で進行が停止し、27 歯面(39.1%)では改善した。一方、非処置面では、58 歯面(84.1%)がう窩に進行し、2歯面(2.9%)で進行が停止し、9歯面(13.0%)で改善が認められた。

結 論 :隣接面での初期う蝕にシーラントを施すと、う蝕の進行抑制に有効であった。また、初期う蝕の改善効果も認められた。

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46

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

47

CQ

3

第2章 ガイドライン本論

Sealingofproximalsurfaceswithpolyurethanetape:atwo-yearclinicalandradiographicfeasibilitystudy.AlkilzyM,BerndtC,MellerC,SchidlowskM,SplienthCJAdhesiveDent.2009;11:91-4.

目 的 :隣接面におけるエナメル質初期う蝕にシーラントを施した場合のう窩への進行抑制効果を評価する。

研究デザイン :1口腔を2分割しランダム化と盲検化(RCT)

研究施設 :ドイツ(Greifswald)

対 象 : 1口腔に2つの隣接面う蝕(明らかなう窩を伴わない D1 から D3)を有する 35人(21.3 ± 5.6 歳)。

介 入 :片方のう蝕にシーラント(Polyurethane-dimethyacrylate foil とボンデイング材:Heliobond、Ivoclar Vivadent)でシールし、もう片方をシールしなかった。試験期間中、被験者はフロスとフッ化物配合歯磨剤を使用した。

主要評価項目 :エックス線検査にて、D0 から D4 のスコアで評価。D0:透過性なし、D1:エナメル質の 1/2 外層にて脱灰、D2:エナメル質 1/2 内層に脱灰、D3:象牙質外層に脱灰、D4:象牙質内層に脱灰

結 果 :2年後、35 人がエックス線検査を受けた。シーラントを施した 35 歯面では、2歯面(5.7%)でう窩に進行した。24 歯面(68.6%)で進行が停止し、9歯面(25.7%)では改善した(合計 33 歯)。一方、非処置面では、2歯面(5.7%)がう窩に進行した。29 歯面(82.9%)で進行が停止し、4歯面(11.4%)で改善が認められた(合計 33 歯)。

結 論 :隣接面の初期う蝕にシーラントを施した群とそうでない群との間に、う蝕の進行抑制に関し有意な差はみられなかった。

5 エビデンス・プロファイル

CQ 3 永久歯エナメル質の初期う蝕に、レジン系材料による封鎖は有効か。

アウトカム①う窩形成の抑制:視診+触診+エックス線検査

質の評価

結果の要約

重要性

研究数

デザイン

限界

非一貫性

非直接性非精確性出版バイ

アス

その他

視診+触診+エックス線検査

RR[95%CL]

エビデ

ンスの質

3RC

T=2

研究 準

RCT=

1研

なし

I2 =74

%異

質性

:大

なし

なし

評価

不能

なし

介入

初期

う蝕

歯面

数う

窩に

至ら

なか

った

歯面

数2.

73 [1

.65

〜4.

53]

中重

大レ

ジン

系材

料の

処置

507

425

無処

置(コ

ント

ロー

ル)

178

50

アウトカム①う窩形成の抑制:視診と触診

質の評価

結果の要約

重要性

文献

デザイン

限界

非一貫性

非直接性非精確性出版バイ

アス

その他

初期う蝕の診断基準

5年後の変化

エビデ

ンスの質

Hel

ler

準RC

T(ブ

ライ

ンド

の記

載な

し)

(ア

メリ

カ)

(19

95年

-1〈

視診

〉褐

色斑

、チ

ョー

ク様

外観

、〈触

診〉s

ticky

感が

ある

が、

エナ

メル

質に

実質

欠損

なし

の歯

初期

う蝕

歯面

数う

窩に

至ら

なか

った

歯面

数う

窩に

至っ

た歯

面数

Exp

(n=

380)

339

41

Cont

(n=

56)

2729

〈介

入〉

Exp:

シー

ラン

ト(

Del

ton、

Den

tspl

y)の

処置

 Co

nt:

シー

ラン

ト無

処置

アウトカム①う窩形成の抑制:視診と触診

質の評価

結果の要約

重要性

文献

デザイン

限界

非一貫性

非直接性非精確性出版バイ

アス

その他初期う蝕の診断基準

30カ月後の変化

エビデ

ンスの質

Gib

son

RCT:

同一

口腔

内で

の2

群ラ

ンダ

ム割

り付

け(

カナ

ダ)

(19

80年

〈視

診〉〈

触診

〉so

und、

stic

k、ca

rious

or fi

lled

初期

う蝕

歯面

数改

善し

た歯

面数

進行

が停

止し

た歯

面数

う蝕

/充填

歯面

Exp(

n=58

) 45

211

Cont

n=53

)8

441

〈介

入〉

Exp:

シー

ラン

ト処

置(

bis-

GM

A se

lf po

lym

eriz

ing

red

colo

r res

in,

3M) 

Cont

:シ

ーラ

ント

無処

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48

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

49

CQ

3

第2章 ガイドライン本論

アウトカム①う窩形成の抑制:エックス線検査

質の評価

結果の要約

重要性

文献

デザイン

限界

非一貫性

非直接性非精確性出版バイ

アス

大きな効

果初期う蝕の診断基準

18カ月後の変化

エビデン

スの質

Mar

tigto

nRC

T:同

一口

腔内

での

2群

ラン

ダム

割り

付け

(デ

ンマ

ーク

)(

2006

年)

-1-1

n数

不足

〈エ

ック

ス線

検査

〉sc

ore

1:エ

ナメ

ル質

う蝕

、sc

ore

2:象

牙質

う蝕

が半

分以

下、

scor

e 3:

象牙

質う

蝕が

半分

以上

初期

う蝕

歯面

数改

善し

た歯

面数

進行

が停

止し

た歯

面数

う蝕

/充填

歯面

Exp

(n=

69)

2712

30

Cont

n=69

)9

258

〈介

入〉

Exp:

シー

ラン

ト処

置(

Glu

ma

One

Bon

d Ad

hesi

ve; H

erae

us K

ulze

r)、

家庭

では

週3

回の

フロ

スを

使用

。Co

nt:

シー

ラン

ト無

処置

、家

庭で

は週

3回

のフ

ロス

を使

用。

アウトカム④エックス線透過性の減少

質の評価

結果の要約

重要性

研究数

デザイン

限界

非一貫性

非直接性非精確性出版バイ

アス

その他

診断法

(エックス線検査)

RR[95%CL]

エビデンスの質

2RC

T=1

研究

準RC

T=1

研究

あり

I2 =0%

異質

性:

なし

なし

-1n

数不

足評

価不

能な

し介

入初

期う

蝕歯

面数

改善

した

歯面

数2.

77 [1

.56

〜4.

91]

重要

レジ

ン系

材料

の処

置10

436

無処

置(コ

ント

ロー

ル)

104

13

アウトカム④エックス線透過性の減少

質の評価

結果の要約

重要性

文献

デザイン

限界

非一貫性

非直接性非精確性出版バイ

アス

その他

初期う蝕の診断基準

2年後の変化

エビデン

スの質

Alki

lzy

準RC

T評

価は

ブラ

イン

ド(

ドイ

ツ)

(20

09年

-1-1

n数

不足

〈エ

ック

ス線

検査

〉D

0か

らD

4の

スコ

アで

評価

。D

0:透

過性

なし

、D1

: エナ

メル

質の

1/2

外層

にて

脱灰

、D2

: エナ

メル

質1/

2内

層に

脱灰

、D

3: 象

牙質

外層

に脱

灰、

D4:

象牙

質内

層に

脱灰

初期

う蝕

歯面

数改

善し

た歯

面数

進行

が停

止し

た歯

面数

悪化

した

歯面

Exp(

n=35

) 9

242

Cont

(n=

35)

429

2

<介

入>

Exp:

ボン

ディ

ング

剤/

ポリ

ウレ

タン

テー

プレ

ジン

(H

elib

ond,

Ivoc

lar V

ivad

ent)

の処

置 

Cont

:無

処置

。た

だし

通常

通り

、両

群と

もフ

ロス

とフ

ッ化

物配

合歯

磨剤

を使

アウトカム④エックス線透過性の減少

質の評価

結果の要約

重要性

文献

デザイン

限界

非一貫性

非直接性非精確性出版バイ

アス

その他

初期う蝕の診断基準

18カ月後の変化

エビデン

スの質

Mar

tigto

nRC

T:同

一口

腔内

での

2群

ラン

ダム

割り

付け

(デン

マー

ク)

(20

06年

-1-1

n数

不足

〈エ

ック

ス線

検査

〉sc

ore

1:エ

ナメ

ル質

う蝕

、sc

ore

2:象

牙質

う蝕

が半

分以

下、

scor

e 3:

象牙

質う

蝕が

半分

以上

初期

う蝕

歯面

数改

善し

た歯

面数

進行

が停

止し

た歯

面数

う蝕

/充填

歯面

Exp(

n=69

) 27

1230

Cont

(n=

69)

92

58

<介

入>

Exp

:シ

ーラ

ント

処置

(Glu

ma

One

Bon

d Ad

hesiv

e; H

erae

us K

ulze

rまた

はCo

ncise

Sea

laue

, 3M

-ESP

E)、

家庭

では

週3

回の

フロ

スを

使用

。 

Cont

:シ

ーラ

ント

無処

置、

家庭

では

週3

回の

フロ

スを

使用

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50

GRADE 第 II 部 エナメル質の初期う蝕への非切削での対応

51

CQ

3

第2章 ガイドライン本論

文献1) Bagramian RA, Graves RC, Bhat M. A combined approach to preventing dental caries in schoolchildren: caries

reductions after one year. J Am Dent Assoc. 1976; 93: 1014-9.2) Jodkowska E. Efficacy of pit and fissure sealing: long-term clinical observations. Quintessence Int. 2008; 39: 593-602.3) Griffin SO, Oong E, Kohn W, Vidakovic B, Gooch BF; CDC Dental Sealant Systematic Review Work Group, Bader J,

Clarkson J, Fontana MR, Meyer DM, Rozier RG, Weintraub JA, Zero DT. The effectiveness of sealants in managing caries lesions. J Dent Res. 2008; 87: 169-74.

4) Meyer-Lueckel H, Bitter K, Paris S. Randamized controlled clinical trial on proximal caries infiltration: Three-year followup. Caries Res. 2012; 46: 544-8.

5) Heller KH, Reed SG, Bruner FW, Eklund SA, Burt BA. Longitudinal evaluation of sealing molar with and without incipient dental caries in a public health program. J Public Health Dent. 1995; 55: 148-53.

6) Gibson GB, Richardson AS. Sticky fissure management. 30-month report. J Can Dent Assoc. 1980; 46: 255-8.7) Martigton S, Ekstrand KR, Ellwood R. Efficacy of sealing proximal early active lesions: An 18-month clinical study

evaluated by conventional and subtraction radiography. Caries Res. 2006; 40: 382-8.8) Alkilzy M, Berndt C, Meller C, Schidlowski M, Splieth C. Sealing of proximal surfaces with polyurethane tape: a two-year

clinical and radiographic feasibility study. J Adhes Dent. 2009; 11: 91-4.

6 文献検索式

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1949〜 2013年、検索日:2013年 9 月 17 日)

#1  enamel#2  dental caries[MeSH]#3  #1 AND #2#4  subsurface lesion#5  Incipient lesion#6  Non-cavitated lesion#7  Primary lesion#8  Initial lesion#9  #4 OR #5 OR #6 OR #7 OR #8#10 #2 AND #9#11 #3 OR #10#12 white spot#13 brown spot#14 #12 OR #13#15 #11 AND #14#16 tooth remineralization[MeSH]#17 reverse

#18 repair#19 regress#20 remineralization#21 regression#22 #16 OR #17 OR #18 OR #19 OR #20 OR #21#23 ICDASOR"InternationalCaries   Assessment and Detection System"#24 #15 AND #22#25 #23 OR #24#26 Sealant#27 Coating#28 Resin#29 Coating material#30 ICON#31 #26 OR #27 OR #28 OR #29 OR #30#32 #25 AND #31#33 #32 Filters: Humans; English; Japanese

 検索結果:91件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1983 〜 2013 年、検索日:2013年 9 月 13 日)

#1  初期 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#2  初発 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#3  エナメル /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#4  (白斑 /TH or 白斑 /AL) and(う蝕 /THor う

蝕 /AL)#5  褐色斑 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#6  褐色斑 /AL and エナメル /AL#7  (白斑 /TH or 白斑 /AL) and エナメル /AL#8  表層下脱灰 /AL#9  要観察歯 /A#10 #1 or #2 or #3 or #4 or #5 or #6 or #7 or #8

or #9

#11 (再石灰化 /TH or 再石灰化 L)#12 (歯牙再石灰化 /TH or 歯牙再石灰 /AL)#13 #11 or #12#14 #10 and #13#15 ICDAS/AL#16 #14 or #15#17 Sealant/AL or( 仮封材 /TH or シーラント /

AL)#18 コーティング /AL or coating/AL#19 resin/AL or レジン /AL#20 (Cyhalothrin/TH or ICON/AL)#21 #17 or #18 or #19 or #20#22 #16 and #21

 検索結果:15件

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第Ⅲ部象牙質う蝕への切削による対応

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54

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第1章 Minds によるガイドライン作成の手順

55

修復の臨床成績に違いはあるか。

CQ16:臼歯コンポジットレジン修復窩洞の咬合面にべベルは必要か。

CQ17:根管治療後の臼歯の修復にコンポジットレジンは有効か。

補修(再研磨、シーラント、補修修復)の有用性CQ18:辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修(辺

縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)は再修復と同等の効果を発揮するか。

CQ19:二次う蝕が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修修復は再修復と同等の

効果を発揮するか。

3 エビデンスレベルと推奨の強さの決定

エビデンスレベルは次に示す Minds (2007) の提案する表示方法を選択した。

   表1 エビデンスレベル(質の高いもの順)

レベル 該当する臨床研究デザインの種類

Ⅰ システマティックレビュー/ランダム化比較試験のメタアナリシス

Ⅱ 1つ以上のランダム化比較試験による

Ⅲ 非ランダム化比較試験による

Ⅳ 分析疫学的研究(コホート研究、症例対照研究、横断研究)

Ⅴ 記述研究(症例報告やケースシリーズ)

Ⅵ 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

検索で得られたエビデンスに基づいて推奨の強さを決定した。推奨の強さの明示は、診療ガイド

ラインに期待される最も重要な役割の一つであるが、どのような要因を考慮して推奨の強さを決定

するのが望ましいかに関しては多くの議論がある。本委員会では、Minds が提案するなかの脳卒中

のガイドライン2)と以下の要素とを勘案し総合的に判断した。

● エビデンスのレベル(Ⅰ〜Ⅵ)

● エビデンスの質(臨床研究デザイン)

● エビデンスの一貫性(複数の研究による支持)

● 直接性(臨床的有効性の大きさ、外的妥当性、間接的なエビデンス、代理アウトカムでの評価)

● 臨床上の適用性

● 害やコストに関するエビデンス

Minds によるガイドライン作成の手順1第 章

1 クリニカル・クエスチョン(CQ)の設定

第Ⅲ部では、切削介入が必要となった象牙質う蝕の段階を対象とする。また、う蝕治療に続く基

本的修復は連続して扱う必要があるとの現実的判断を下した。これらを踏まえ、委員会では MI の

視点から、初版のガイドラインにおいて、臨床家が現場で直面するであろう数多くの CQ のうち、実

効あるガイドライン作成を目指し、16 の CQ が設定された。今回の更新版では、これら 16 の CQ

の更新に加え、日本歯科保存学会会員から要望の多かった2つの CQ(CQ16 と CQ17)を新たに

追加して設定した。根面う蝕を対象とした CQ20 と CQ21 については第Ⅳ部に記す。

2 クリニカル・クエスチョン(CQ)の一覧

以下の 16 項目を設定した。

初発う蝕に対する検査・診断と切削介入の決定CQ4:咬合面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

CQ5:隣接面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

CQ6:切削の対象となるのはどの程度に進行したう蝕か。

中等度の深さの象牙質う蝕におけるう蝕の除去範囲CQ7:歯質の硬さや色は、除去すべきう蝕象牙質の診断基準となるか。

CQ8:う蝕象牙質の除去にう蝕検知液を使用すべきか。

深在性う蝕における歯髄保護CQ9:コンポジットレジン修復に裏層は必要か。

露髄の可能性の高い深在性う蝕への対応(歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈するう蝕)CQ10:歯髄温存療法により、期間をあけて段階的にう蝕を除去することで、露髄を回避できるか。

CQ11:歯髄温存療法を行った場合、歯髄症状の発現はう蝕完全除去の場合と同じか。

CQ12:歯髄温存療法にはどの覆髄剤が適当か。

CQ13:歯髄温存療法の後、リエントリーまでどれくらい期間をあけるべきか。

臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性CQ14:臼歯咬合面(1級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー

修復の臨床成績に違いはあるか。

CQ15:臼歯隣接面(2級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー

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56

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第1章 Minds によるガイドライン作成の手順

57

表2 推奨の強さ

推奨の強さ 説 明

A 強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる(レベル「Ⅱ」以上)

B 科学的根拠があり、行うよう勧められる(レベル「Ⅲ」以上)

C1 高いレベルの科学的根拠はないが、行うよう勧められる

C2 行うよう勧めるだけの、科学的根拠はない

D 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる

推奨の強さ「A」は、わが国の現状において適応可能で、1編以上のレベル「Ⅱ」以上のエビ

デンスがあり、臨床的効果が大きいと本委員会が判断したものとした。

推奨の強さ「B」は、わが国の現状において適応可能と本委員会が判断し、少なくともレベル「Ⅲ」

以上のエビデンスがあるものとした。

推奨の強さ「C1」は、レベル「Ⅲ」以上のエビデンスはないが、わが国の現状に適応可能で臨

床的効果が大きいと本委員会が判断したものとした。

推奨の強さ「C 2」は、レベル「Ⅲ」以上のエビデンスがなく、推奨するだけの臨床効果が明ら

かでないと本委員会が判断したものとした。

推奨の強さ「D」は、無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、本委員会が行わないよう勧め

るものとした。

ただし、エビデンスレベルが低いものでも、臨床的効果が非常に大きく、わが国の現状に適応でき、

しかも害が少ないと判断したものに関しては、本委員会での合意のうえで推奨の強さを上げた。

さらに、各 CQ に対する推奨の強さの最終決定には、外部評価者や日本歯科保存学会会員の意

見を収集し反映させるよう努めた。このように、推奨の強さの決定に際しては、客観性および透明

性を維持することに努めたが、すべての内容について万全を保証するものではない。今後、本ガイ

ドラインの更新に向け、本ガイドラインで述べられている推奨の内容および推奨の強さに対する利

用者の意見や提案を受け入れる体制を整備していく予定である。

4 エビデンス統合のための手法

エビデンスの統合のために、個々の文献の主たる知見を抽出してエビデンス・テーブルを作成し、

それぞれの文献の特徴を比較・評価した。検索でメタアナリシスが得られた場合には、その結果を

参照し、新たなメタアナリシスは実施しなかった。

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58

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

CQ

CQ

CQ

4

5

6

59

以上のデータベース検索より PubMed から CQ 4、CQ 5についてそれぞれ 535 編、316 編、さ

らに医学中央雑誌から CQ 4、CQ 5についてそれぞれ 152 編、165 編が抽出された。それらの抄

録より、エビデンスとして採用する可能性のある 10 編の論文(英文 9 編、和文 1 編)が抽出された。

これらの論文を精読し、研究デザインの質に基づいてエビデンスレベルを確定し、CQ 4、5に対

するエビデンスとして採用した。そして、それぞれの CQ の「推奨」の最後に、エビデンスとして採

用した論文の構造化抄録を記載した。

背景・目的

う蝕診断は病変の検出、病変の深さおよび病変の活動性を判断する過程 2)であり、歯科医師にとっ

て日常臨床での重要な部分である。これまでわが国におけるう蝕にかかわる切削介入の決断のコン

センサスは、以下のような要件が複数認められた場合であると考えられる。

1)肉眼的に明らかなう窩を認める。

2)食片圧入や冷水痛などの自覚症状がある。

3)審美障害の訴えがある。

4)エックス線写真でエナメル質あるいは象牙質に達する病変を認める。

5)その他

近年のクリニカル・カリオロジーの発展により、う窩形成前の初期う蝕を早期に診断し、う窩形

成・切削介入に至らないように早期管理することがう蝕治療の課題になっている。エナメル質初期

う蝕(白斑・褐色斑病変)の診断に、視診に重点を置いた新しいう蝕進行分類 ICDAS(International

Caries Detection and Assessment System)2)(GRADE 第Ⅱ部第1章 p.13 表1)が国際的基準に

なろうとしている。これは MI Dentistry の基本概念にある再石灰化療法のためのう蝕診断に役立つ

と思われる。進行の早い7〜 18 歳の永久歯初発う蝕に対する診断は特に重要である。

しかし、永久歯咬合面のいわゆる hidden caries1)および隣接面における初発う蝕の診断にはば

らつきが大きく、切削介入の決断基準が歯科医師間で定まっていない現実がある 3)。そこで、咬合

面う蝕および隣接面う蝕の検出に精度の高い検査法は何か、また、どの程度進行したう蝕であれば、

ただちに修復対象にすべきかをガイドラインとして示すことで、わが国における切削介入の決断の

新たなコンセンサス形成の一助にしたい。

解 説

現在、う蝕検査には視診、触診、咬翼法エックス線、電気抵抗、fiber-optic transillumination(FOTI)

による透照診、レーザー蛍光法(ダイアグノデント,KaVo)などが用いられている 1, 4, 5)。それらの

検査の有効性に関しては咬合面う蝕では視診、触診、咬翼法エックス線、電気抵抗およびレーザー

蛍光法、隣接面う蝕では視診、触診、咬翼法エックス線、FOTI が評価対象になっている 4, 5)。

古くから、う蝕の検査には明るい照明の下でミラーと探針を用いた視診と触診が行われてきた。

咬合面う蝕では小窩裂溝部の着色状態、探針を引き抜くときの抵抗感などを指標にしてきたが、そ

の病理的判断は術者により大きく異なっている 1, 3)。また、探針により再石灰化可能な裂溝を医原的

に破壊してしまうことが懸念されるようになり 1)、従来の検査法は咬合面う蝕では特異度は高いが感

ガイドライン本論2第 章

2.初発う蝕に対する検査・診断と切削介入の決定

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ4 咬合面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

CQ5 隣接面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

CQ6 切削の対象となるのはどの程度に進行したう蝕か。

CQ 4 咬合面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

【 推奨 】う窩の形成がある場合は視診や触診は有効である。いわゆるhiddencaries*のようなう窩の形成がない場合はエックス線検査を併用することが必須である(エビデンスレベル「Ⅰ」/推奨の強さ「A」)。

*hidden caries1)とは不顕性う蝕(かくれう蝕)のこと。術野を清掃・乾燥し、注意深く観察しても見過ごされるが、エックス線写真では明らかに認識されるほど大きくかつ脱灰された象牙質病変を認めるう蝕を言う(図1)。

CQ 5 隣接面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

【 推奨 】う窩の形成がある場合は視診や触診は有効である。う窩の形成がない場合はエックス線検査あるいは透照診が有効である(エビデンスレベル「Ⅰ」/推奨の強さ「A」)。

文献の抽出

CQ4 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1979 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 18 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1981 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 19 日

CQ5 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1970 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 18 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1981 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 19 日

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れる。

米国の調査(2011 年)14)によると、咬合面う蝕と修復物辺縁のう蝕の検出には探針が最も使わ

れており、レーザー蛍光装置はまれにしか使われていない。一方、隣接面う蝕の検出にはエックス

線検査がほとんどである。視診、触診およびエックス線画像の3つの基本的検査法によって 95%以

上の精度でう蝕が検出できれば、それ以外の診断法は必要ないであろう。しかし、それが困難であ

る以上、費用対効果と実用性を考慮して現在利用可能なその他の補助的診断法を組み合わせること

によって検出精度を高めることができる(エビデンスレベル「Ⅰ」)8 -13)。

図1 hiddencaries(不顕性う蝕、かくれう蝕)の臨床像(左)とエックス線像(右)(症例1、2は猪越重久先生のご厚意による)。

症例 3 54歳女性 6遠心隣接面

症例2 12歳男性 6咬合面遠心小窩

症例1 11歳男性 6咬合面中心小窩

度は低いと結論づけられている 4, 5)(エビデンスレベル「Ⅰ」)。しかし、視診は患者の口腔内全体

を観察するという点では、う蝕経験や清掃状態などのう蝕のリスク判定には欠かせない。また、探

針による触診は強い力で歯質を突き刺すようなことをしなければ、咬合面や隣接面のプラークや食

片を除去し、歯や修復物の表面およびそれらの界面における微妙な感触でう蝕病変の情報を得る

ことができる。また、う窩形成のある場合は視診と触診の感度はう窩形成のない場合に比べて各段

に上がるとされている 4, 5)(エビデンスレベル「Ⅰ」)。視診では鋭い目をもつことが要求されるため、

裸眼だけではなく双眼拡大鏡を用意することも有効である 5)。特に中高年の老眼の歯科医師には必

要であろう。う蝕検査を精密に行うために、検査に先立ってブラシやデンタルフロスによる歯面清

掃とスリーウェイシリンジで歯面乾燥を十分に行うことは言うまでもない。したがって、従来どおり

の視診と触診は推奨される。

一方、肉眼では健全に見える咬合面の内部に存在する象牙質う蝕、いわゆる「hidden caries」(図

1)や、臨床視診でも発見できなかった隠れた隣接面う蝕を正確に診断するには、他の検査法を

併用して総合的に判断する必要がある。エックス線検査はエックス線装置が装備されていない歯科

診療所はないほど最も普及しているう蝕診断法である。咬合面ではエナメル質に限局した初期う蝕

を検出できないことがあるが、視診と咬翼法エックス線写真を併用することによってより感度の高

い診断ができることが証明されている 4, 5)(エビデンスレベル「Ⅰ」)。最近では放射線被曝量が格

段に少なく、暗室での現像作業の手間がなく、環境にやさしいデジタルエックス線写真撮影技術が

発展したことにより、コンピュータ処理による画像解析や画像情報管理が容易となっている。感度

はフィルムタイプとほとんど変わらないとされている 1)。したがって、う窩の形成がない、いわゆる

hidden caries の場合はエックス線検査を併用することが必須である 5)。

前歯部の隣接面う蝕は無影灯の光を透過させて舌側からミラーで観察する透照診によって、う蝕

部は暗い影として深部への広がりまで知ることができる。しかし、臼歯部では辺縁隆線部の白濁あ

るいは黒変の微妙な変化を鋭い目で観察することになる。それを補助するために先端外径 0.5mm

の光ファイバーによる FOTI が使われている。FOTI を活用することで視診のみに比べて、隣接面象

牙質う蝕の検出感度を上げることができる 4)(エビデンスレベル「Ⅰ」)。したがって、隣接面う蝕の

検出には FOTI による透照診が推奨される。

う窩と口腔粘膜との間の電気抵抗値を測定し、う蝕の進行程度を診断する方法はわが国で考案さ

れたものである。電気抵抗による診断は咬翼法エックス線写真と比較してより正確であるとされてい

る 1, 4-6)(エビデンスレベル「Ⅰ」)。しかし、残念ながら日本製の診断装置は製造中止され、現在は

海外製品の入手も困難であるため推奨することができない。本装置の復活が望まれる。

レーザーを用いたう蝕診断装置(ダイアグノデント)の動作原理は、レーザー光(波長 655nm)

を照射したときに発する蛍光のスペクトルが健康歯質とう蝕罹患歯質では異なることを応用している。

この差を検出器で検出してディスプレイに 00 から 99 までの数値が客観的に表示される。臨床使用

基準としてう蝕閾値は永久歯で> 10 〜> 22.1、乳歯で>9〜> 17 で幅が広い 7)。ダイアグノデン

トによる咬合面象牙質う蝕の検出は視診より明らかに感度は高いが、裂溝の着色、プラーク、歯石、

研磨材、シーラント、修復材などの存在によって偽陽性が出やすいとされている(エビデンスレベル

「Ⅰ」)7)。また、エナメル質う蝕の検出は象牙質う蝕よりも感度は低く、特異度は高い 7)。したがって、

基本的な診断装置としての有用性には限界があるとされている 7)。わが国においては本装置がそれ

ほど広く普及していないことから、今後この種の補助的診断法が広く使われるようになることが期待さ

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Asystematicreviewoftheperformanceofalaserfluorescencedevicefordetectingcaries.BarderJD,ShugarsDAJADA2004;135:1413-26.

目 的 :ダイアグノデントの性能に関する論文のシスマティックレビューの結果を報告する。

研究デザイン :システマティックレビュー

研究施設 :University of North Carolina at Chapel Hill

対 象 :MEDLINE(2003 年 5 月、2004 年 6 月更新)包含基準:市販装置であること、ヒト歯研究であること、感度と特異度で評価していること、組織学的評価に基づいているもの

介 入 :1999 年〜 2004 年 6 月、英語論文

主要評価項目 :検索キーワード:ダイアグノデント、 laser fluorescence、 fluorescence、 dental caries、研究デザイン: in vitro と in vivo 研究、咬合面エナメル質う蝕と咬合面象牙質う蝕、歯の保管条件、歯数、検査者数、信頼度、う蝕罹患率、検出レベル、感度と特異度、ダイアグノデント、 視診、咬翼法エックス線写真、ECM(電気伝導度)

結 果 :115 編を検索し、そのうち 25 編を採用した。感度は 0.19 〜 1.0(多くの研究は高い傾向)、特異度は 0.52 〜 1.0、視診と比較して常に感度は高く、特異度は低かった。う蝕閾値は永久歯で> 10 〜> 22.1、乳歯で> 9 〜> 17、エビデンスの本体は大部分が in vitro 研究によって特徴づけられていたため臨床環境にあてはめることには疑問が残る。う蝕閾値は研究によって相当に変化するため検出性能を総合的に推定することはできない。

結 論 :ダイアグノデントによる咬合面象牙質う蝕の検出は視診より感度は高い。しかしながら、視診と比べて偽陽性が出やすい。エナメル質う蝕の検出は象牙質う蝕の検出よりも感度は低く、特異度は高い。主要な診断装置としての使用には限界がある。

Adjunctmethodsforcariesdetection:asystematicreviewofliterature.TwetmanS,AxelssonS,DahlenG,EspelidI,MejareI,NorlundA,TranausSActaOdontolScand.2013;71:388-97.

目 的 :う蝕の検出と定量化に用いられる補助的方法の診断精度を評価する。

研究デザイン :システマティックレビュー

研究施設 :University of Copenhagen, Denmark

対 象 : PubMed、The Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cochrane Reviews(検索対象年 1985 年 1 月〜 2005 年 4 月、検索日 2011 年 5 月)を用いて関連論

文の系統的文献検索があらかじめ決められた包含基準および除外基準によって行なわれた。

介 入 :194 編の抄録を抽出。抄録あるいは全文論文が2人のレビュアーによって別々に評価された。

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ4、CQ5)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Asystematicreviewoftheperformanceofmethodsforidentifyingcariouslesions.BarderJD,ShugarsDA,BonitoAJJPublicHealthDent.2002;62:201-13.

目 的 :う蝕病変を識別する方法の性能に関する科学論文の厳格なシステマティックレビューから得られた調査結果を報告する。

研究デザイン :システマティックレビュー

研究施設 :Research Triangle Institute-Univ. of North Carolina Evidence-based Practice Center, AHRQ, NIDCR

対 象 :MEDLINE、EMBASE

介 入 :1966 年〜 1999 年 10 月の英語論文、検索対象の包含基準と除外基準を明記

主要評価項目 :検索したう蝕診断法は視診、視診/触診、エックス線(フィルム/デジタル)、FOTI、電気抵抗、レーザー蛍光法。研究対象は in vivo および in vitro 研究、ヒト永久歯と乳歯、咬合面と隣接面、う窩ありとう窩なし、エナメル質う蝕と象牙質う蝕、臼歯と前歯。採用論文の質的評価を 11 項目の独自評価で採点した(100点満点)。病変の進行が連続した咬翼法エックス線写真で調べられた。

結 果 :1,407 編(MEDLINE 1,328 編、EMBASE79 編)の検索より 39 編の論文を抽出した。各診断法およびそれらの組み合わせの感度と特異度は表1のとおりである。論文の質的評価は5点から 75 点に分布し、 in vivo および in vitro 研究の平均点はそれぞれ 61 点と 46 点であった。

結 論 :エビデンスの強さはすべての応用において弱いと判断された。すなわち、採用された情報からは一つの診断法をどのように応用しても感度と特異度を一般化できる推定値として支持するには不十分であった。

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Fluorescence-basedmethodsfordetectingcarieslesions:systematicreview,Meta-analysisandsourcesofheterogeneity.GimenezT,BragaMM,RaggioDP,DeeryC,RickettsDN,MendesFMPLoSONE.2013;8;e60421.

目 的 :う蝕病変を検出する蛍光法(QLF、LF、LFpen、FC)の精度を評価するために包括的なシステマチックレビューとメタアナリシスを行う。

研究デザイン :システマティックレビュー、メタアナリシス

研究施設 :University of Sao Paulo, Brazil

対 象 :2人のレビュアーが論文を抽出するために 2012 年 6 月に PubMed、Embase および Scopus を検索した。その他の情報は非公開文献から得られた。

介 入 :的確な研究の定義は(1)実験室あるいは臨床の環境でヒト乳歯あるいは永久歯における咬合面、隣接面あるいは平滑面のう蝕病変を検出する蛍光法の精度を評価したもの、(2)対照となるものを用いたもの、(3)試料数と方法の精度について十分なデータがあるものである。

主要評価項目 :診断用 2 × 2 表が感度、特異度および総合的な精度パラメーター(オッズ比、ROC)を算定するために採用された研究から抽出された。分析は各方法および異なる研究の特性ごとに別々に行われた。研究の質より異質性も評価された。

結 果 :434 論文中 75 論文が採用された。分析はすべての歯種、歯面あるいは環境に対して同様な精度をもつ傾向があった。蛍光法はより進行したう蝕病変の検出に良い性能を示す傾向があった。中等度から高度な異質性が観察され、出版バイアスを立証した。

結 論 :蛍光法は類似した総合的な性能を有していた。しかしながら、より進行したう蝕病変の検出でより良い精度が観察された。

Theperformanceofconventionalandfluorescence-basedmethodsforocclusalcariesdetection:aninvivostudywithhistologicvalidations.DinizMB,BodieriT,RodriguesJA,Santos-PintoL,LussiA,CordeiroRCJAmDentAssoc.2012;143:339-50.

目 的 :レーザー蛍光(LF)装置、LF pen および蛍光カメラ(FC)の臨床カットオフ値を決めるために in vivo 研究を実施した。同様に試料の総合的な確証を得るために組織学的評価を用いて永久歯の咬合面う蝕を検出する従来法とこれらの方法の臨床性能を評価した。

研究デザイン :横断研究

研究施設 :UNICSUL-Cruseiro do Sul University, Brazil

対 象 :口腔外科に来院した 18 〜 35 歳の 88 人の患者から抜歯予定の 105 歯の咬合面を対象にした。

介 入 :1人の熟練医が咬合面を LF、LF pen、FC、ICDAS、咬翼法エックス線(BW)によって評価した。その後、抜歯して組織学的に評価した。

主要評価項目 :研究の特徴が表にまとめられ、研究の質が QUADAS(診断精度研究における限界を評価する)ツールによって等級分けされた。各診断法(FOTI、DIFOTI、ダイアグノデント、QLF、ECM)のエビデンスレベルは GRADE 法による高いあるいは中等度の質の研究に基づいた。

結 果 : 25 編が評価対象になった。研究の質は1編が高く、10 編が中等度、14 編が低かった。ECM とダイアグノデントは咬合面象牙質う蝕では感度と特異度が 70〜 80%であった(Yoden's index:〈感度+特異度-1〉が最大値となるポイント、0.52 〜 0.54)。エナメル質病変および象牙質病変に対するダイアグノデントの検出精度はそれぞれ 0.68 と 0.91 であった。論文の異質性(heterogeneity)が分析を阻害した。

結 論 :FOTI と QLF の診断精度に対する科学的エビデンスは不十分であった(エビデンスレベルは非常に低い)。ECMとダイアグノデントは特に永久歯と乳歯の咬合面において視診・触診およびエックス線検査の補助に役立つと考えられる。しかし、エビデンスレベルは低いに限られた。検査方法の費用対効果については結論づけることはできなかった。異なる方法の invitro および invivo での確証のための研究デザインを標準化する必要がある。

Non-cavitatedcariouslesionsdetectionmethods:asystematicreview.GomezJ,TellezM,PrettyIA,EllwoodRP,IsmailAICommunityDentOralEpidemiol.2013;41:55-66.

目 的 :う窩形成のないう蝕病変の検出法の性能を批判的に吟味する。

研究デザイン :システマティックレビュー

研究施設 :University of Manchester, UK

対 象 :MEDLINE、Cochrane Collaboration、Scielo、EMBASE から 2,054 編の論文が検索された。3人のレビュアーによって 124 編に絞り込まれた。視診(V)、Caries Lesion Activity Assessment (CLAA)、 レ ー ザ ー 蛍 光(LF) 、 エ ッ ク ス 線(R)、FOTI、電気抵抗(EC) 、QLF を評価対象にした。

介 入 :評価対象には in vitro では組織学的評価を、in vivo では臨床的 / 視診による確証がある研究を含めた。これらの研究では感度、特異度、AUROC および信頼度のような結果測定が報告されていた。

主要評価項目 :研究の質は Bader ら(2002 年)の方法によって評価した。124 編のうち 42 編が最終的に抽出され、85 項目の臨床評価について検討した。

結 果 :全般的に検出法のエビデンスのレベルは EC の “fair” 以外は “poor” であった。感度は V(0.17 〜 0.96)、 LF(0.16 〜 0.96)、 R(0.12 〜 0.84)、 FOTI(0.21 〜 0.96)、 EC(0.61〜 0.92)、 QLF(0.82)、特異度は V(0.46 〜 1.0)、LF(0.25 〜 1.00)、R(0.55 〜 0.99)、FOTI(0.74 〜 0.88)、 EC(0.73 〜 1.0)、QLF(0.92)であった。感度と特異度は方法によって大きなばらつきがあり、疾病を明確にすることと分析法の一貫性に欠いていた。

結 論 :EC と QLF は初期病変の検出に有望であると思われる。コストと実用性を考慮すると、視診が依然として歯科臨床における臨床評価法の標準である。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

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Therelativediagnosticyieldsofclinical,FOTIandradiographicexaminationsforthedetectionofapproximalcariesinyoungsters.MialheFL,PereiraAC,MeneghimMDC,AmbrosanoGMB,PardiVIndianJDentRes.2009;20:136-40.

目 的 :う窩形成のないおよびう窩形成のある隣接面う蝕の検出のために3つの方法すなわち臨床的視診、FOTI および咬翼法エックス線撮影を比較する。

研究デザイン :横断研究

研究施設 :Piracicaba 歯科大学、ブラジル

対 象 :う蝕罹患率の低い 70 人(平均年齢 14 歳)の学童

介 入 :3人の検査者が3つの検査法のいずれか一つで別々に臼歯部隣接面の検査を行なった。

主要評価項目 :少なくとも1人の検査者あるいは一つの検査法によって臼歯部の隣接面う蝕と診断された歯面が歯間分離され、肉眼でう蝕が確認された。

結 果 :70 人の 171 歯面がう蝕と診断された。171 歯面のうち 72 歯面(42.1%)が臨床的視診、65 歯面(38.0%)が FOTI、111 歯面(64.9%)がエックス線写真で検出された。臨床的視診と FOTI の組み合わせで 108 歯面、臨床的視診とエックス線写真の組み合わせで 151 歯面が検出された。

結 論 :臨床的視診の補助として FOTI あるいはエックス線写真診断あるいはその両者の組み合わせは隣接面う蝕の検出精度を高める。FOTI は咬翼法エックス線写真に代わるものではないが、う蝕罹患率の低い学童の臼歯部の隣接面う蝕の検出に付加的価値がある。

Cariesriskassessment.AnusaviceKJOperDent.2001;Supplement6:19-26.

目 的 :う蝕のリスク評価の意義について考察する。

研究デザイン :レビュー

研究施設 :フロリダ大学歯学部

主要評価項目 :リスク評価の根拠、疾患制御の要因、う蝕罹患率の変化、う蝕進行度の分類、う蝕リスク評価

結 果 :表3参照

結 論 :エックス線検査と視診を組み合わせれば、う蝕検出はかなり有効になる。

【参考】う蝕の検査法は有効性(validity)と信頼性(reliability)に優れていなければならない。有効な

検査法とはう蝕の状態を正確に表示することであり、信頼性のある検査とは検査を繰り返し行っても

同じ結果が得られる、すなわち再現性(reproducibility、consistency あるいは repeatability)が

主要評価項目 :ROC 曲線から適切な臨床カットオフ値を求めた。

結 果 :「エナメル質・象牙質う蝕(D1)」対「象牙質う蝕(D3)」の検出の特異度と感度は ICDAS では 0.60、 0.93、 0.77、 0.52、BW では 1.00、0.29、 0.97、0.44、LF では 1.00、0.85、0.77、0.81、LFpen では 0.80、0.89、0.71、0.85、FC では 0.80、0.74、0.49、0.85、検出精度は ICDAS、LF および LF pen が BW と FC より高かった(表2)。

結 論 :健全歯、エナメル質う蝕および象牙質う蝕の臨床カットオフ値は LF:0 〜 4、5〜 27、28 〜 99、LFpen:0 〜 4、5〜 32、33 〜 99、FC:0 〜 1.2、1.3 〜 1.4、1.4〜 5.0 であった。ICDAS、LF および LFpen は invivo で咬合面う蝕の検出を助けるのに良い性能を示した。ICDAS は D1 閾値(組織スコア1〜4)と同じくらい D3 閾値(組織スコア3と4)で評価できるとは思われなかった。BWと FCは D1 と D3 で病変の検出性能は最も低かった。咬合面う蝕の検出は主に視診に基づくべきである。蛍光診断法は臨床の実際ではセカンドオピニオンを提供するのに用いることができる。

Clinicaldiagnosisoffissurecarieswithconventionalandlaser-inducedfluorescence.ChuCH,LoECM,YouDSHLasersMedSci.2010;25:355-62.

目 的 :視診、咬翼法エックス線およびダイアグノデントによる象牙質裂溝う蝕の診断の in vivo における有効性について研究した。

研究デザイン :横断研究

研究施設 :香港大学

対 象 :2007 年 8 月に実施した無料歯科健診に参加した香港大学新入生のなかで大臼歯に初期う蝕が疑われた学生。対象歯は一見健全であるが、う蝕が疑われる第一および第二大臼歯。

介 入 :視診スコアで V1、V3、V4、エックス線スコアで R1、R2、ダイアグノデント 値で 20 ≦を示した大臼歯の小窩裂溝をカーバイドバーで開拡して組織学的に健全B0、エナメル質う蝕 B1、象牙質う蝕 B2 に分類した。

主要評価項目 : 検査者間の再現性をカッパ値、診断法の感度、特異度、ROC、ダイアグノデント のカットオフ値を求めた。

結 果 :新入生 1,178 人中 135 人に大臼歯の初期う蝕が疑われた。そのうち 41 人(男18、女 23、平均年齢 19.8 歳)が研究に参加した。視診により総数 144 歯が初期う蝕の可能性と診断された。組織学的診断では6歯が B0(健全)、74 歯が B1

(エナメル質う蝕)、64 歯が B2(象牙質う蝕)であった。象牙質う蝕の検出感度と特異度は視診ではそれぞれ 0.89 と 0.44、エックス線では 0.13 と 1.0、ダイアグノデントではカットオフ値 40 では 0.7 と 0.84 であった。

結 論 :視診とダイアグノデントの組み合わせによるう蝕検査が感度 0.67、特異度 0.94であった。ROC分析ではこの組み合わせが他の方法よりも優れていた。

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CQ 4 咬合面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。CQ 5 隣接面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

論文コード(年代順)

研究デザイン

介入 /治療 結 果エビデンスレベル

Twetman et al. 2013

システマティックレビュー

PubMed、The Cochrane Central R e g i s t e r o f C o n t r o l l e d Tr i a l s 、Cochrane Reviews(1985 年 1 月 〜2005 年 4 月、2011 年 5 月)を用いて関連論文の系統的文献検索があらかじめ決められた包含基準および除外基準によって行われた。194 編の抄録を抽出。抄録あるいは全文論文が2人の検閲者によって別々に評価された。研究の特徴が表にまとめられ、研究の質がQUADAS ツールによって等級分けされた。各診断法(FOT、レーザー蛍光法、ダイアグノデント、電気抵抗 ECM)のエビデンスレベルは GRADE 法による高いあるいは中等度の質の研究に基づいた。

5 編が評価対象になった。研究の質は 1 編が高く、10 編が中等度、14 編が低かった。ECM とダイアグノデントは咬合面象牙質う蝕では感度と特異度が 70 〜 80%であった

(Yoden's index 0.52 〜 0.54)。エナメル質病変および象牙質病変に対するダイアグノデントの検出精度はそれぞれ 0.68 と 0.91 であった。論文の異質性(heterogeneity)が分析を阻害した。FOTI と QLF の診断精度の診断精度に対する科学的エビデンスは不十分であった(+ ○○○)。ECM とダイアグノデントは特に永久歯と乳歯の咬合面において視診・触診およびエックス線検査の補助に役立つと考えられる。しかし、エビデンスレベルは ++ ○○に限られた。検査方法の費用対効果については結論づけることはできなかった。異なる方法の in vitro および in vivo での確証のための研究デザインを標準化する必要がある。

Gomez et al. 2013

システマティックレビュー

Medline、Cochrane Collaboration、Scielo、EMBASE か ら 2,054 編 の 論文が検索された。3 人の校閲者によって 124 編が 絞り込まれた。視 診(V)、Caries Lesion Activity Assessment

(CLAA)、レーザー蛍光(LF)、エックス線(R)、FOTI、電気抵抗(EC)、QLF を評価対象にした。評価対象すべては in vitro では組織学的評価を、in vivo では臨床的/視診による確証がある研究を含めた。これらの研究には感度、特異度、AUROC および 信頼 度のような結果測定が報告されていた。研究の質はBader ら(2002 年)の方法によって評価した。124 編のうち 42 編が最終的に抽出され、85 の臨床評価について検討した。

全般的に検出法のエビデンスレベルは ECの ”fair” 以外は ”poor” であった。感度は V

(0.17-0.96)、LF(0.16-0.96)、R(0.12-0.84)、FOTI(0.21-0.96)、 EC(0.61-0.92)、QLF(0.82)、特 異 度 は V(0.46-1.0)、LF(0.25-1.00)、R

(0.55-0.99)、FOTI(0.74-0.88)、EC(0.73-1.0)、QLF(0.92)であった。感度と特異度は方法によって大きなばらつきがあり、疾病を明確にすることと分析法の一貫性に欠いていた。EC と QLF は初期病変の検出に有望であると思われる。コストと実用性を考慮すると視診が依然として歯科臨床における臨床評価法の標準である。

高いことを意味する。再現性は同一検査者が繰り返し行う場合(intraexaminer reliability)と異な

る検査者が行う場合(interexaminer reliability)に分けられる。再現性の良し悪しは統計学的に0

〜1の カッパ値で表わされ、通常 0.7 以上あることが望ましいとされている。いずれにしても再現

性を高めるには事前の訓練が必要である。

う蝕検査は、まず、う蝕の有無を正しく判定することが求められる。しかし、残念ながら、検査に

は誤差はつきものである。検査結果として考えられる判定には次の4つがある。

 ・真の陽性(true-positive; TP):う蝕を正しくう蝕と判定

 ・真の陰性(true-negative; TN):健全を正しく健全と判定

 ・偽陽性(false-positive; FP):健全を誤ってう蝕と判定

 ・偽陰性(false-negative; FN):う蝕を誤って健全と判定

う蝕検査でう蝕(陽性)と健全(陰性)を正しく判定できる検出能力は感度(sensitivity)と特異

度(specificity)で表される。感度とは真の陽性(TP)の検出比で TP/(TP+FN)から求められる。

一方、特異度は真の陰性の検出比で TN/(TN+FP)から求められる。検査法の精度はこれら感

度と特異度の2つの値で語られる。検査の感度が高いと病気の見逃しは減るが、誤って病気と判断

することが増える。一方、特異度が高いと誤って病気と判断することは減るが、病気を見逃してしま

うことになる。このように感度と特異度は二律背反の関係にある。現代のう蝕のコントロールの考え

方からみると、疑わしきは健全と判断して定期的な観察が行える環境が整っていれば特異度が高い

ほうがよい場合もあろう。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

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Diniz et al. 2012

ケースシリーズ

口腔外科に来院した 18 〜 35 歳の 88人の患者から抜歯予定の 105 歯の咬合面を対象にした。1人の熟練医が咬合面を LF、LF pen、FC、ICDAS、咬翼法エックス線(BW)によって評価した。その後、抜歯して組織学的に評価した。ROC 曲線から適切な臨床カットオフ値を求めた。

「エナメル質・象牙質う蝕」対「象牙質う蝕」の検出の特異度と感度は ICDAS では 0.60、0.93、0.77、0.52、BW では 1.00、0.29、0.97、0.44、LF では 1.00、0.85、0.77、0.81、LF pen で は 0.80、0.89、0.71、0.85、FC では 0.80、0.74、0.49、0.85。 検 出 精 度 はBW と FC よりは ICDAS、LF および LF penが高かった。健全歯、エナメルう蝕および象牙質う蝕の臨床カットオフ値は、LF: 0 〜4、5 〜 27、28 〜 99、LF pen: 0 〜 4、5〜 32、33 〜 99、FC: 0 〜 1.2、1.3 〜 1.4、1.4 〜 5.0。ICDAS、LF および LF pen は in vivo で咬合面う蝕の検出を助けるのに良い性能を示した。ICDAS は D1 閾値(組織スコア 1 〜 4)と同じくらい D3 閾値(組織スコア 3 と 4)で評価できるとは思われなかった。BW と FC は D1 と D3 で病変の検出性能は最も低かった。咬合面う蝕の検出は主に視診に基づくべきである。蛍光診断法は臨床の実際ではセカンドオピニオンを提供するのに用いることができる(表2)。

Chu et al. 2010

ケースシリーズ

2007 年 8 月に実施した無料歯科健診に参加した香港大学新入生のなかで大臼歯に初期う蝕が疑われた学生。対象歯は一見健全であるがう蝕が疑われる第一および第二大臼歯。視診スコアでV1、V3、V4、エックス線スコアで R1、R2、ダイアグノデント 値で 20 ≦を示した大臼歯の小窩裂溝をカーバイドバーで開拡して組織学的に健全 B0、エナメル質う蝕 B1、象牙質う蝕 B2 に分類した。検査者間の再現性をカッパ値、診断法の感度、特異度、ROC、ダイアグノデントのカットオフ値を求めた。

新入生 1,178 人中 135 人に大臼歯の初期う蝕が疑われた。そのうち 41 人(男 18 人、女 23 人、平均年齢 19.8 歳)が研究に参加した。視診により総数 144 歯が初期う蝕の可能性と診断された。組織学的診断では 6歯が B0、74 歯が B1、64 歯が B2 であった。象牙質う蝕の検出感度と特異度は視診ではそれぞれ 0.89 と 0.44、エックス線では 0.13と 1.0、ダイアグノデントではカットオフ値40 では 0.7と 0.84 であった。視診とダイアグノデントの組み合わせによるう蝕検査が感度 0.67、特異度 0.94 であった。ROC 分析ではこの組み合わせが他の方法よりも優れていた。

Mialhe et al. 2009

ケースシリーズ

う蝕罹患率の低い 70 人(平均年齢 14歳)の学童。3人の検査者が3つの検査法のいずれか1つで別々に臼歯部隣接面の検査を行なった。少なくとも1 人の検査者あるいは1つの検査法によって臼歯部の隣接面う蝕と診断された歯面が歯間分離され、肉眼でう蝕が確認された。

70 人の 171 歯面がう蝕と診断された。171歯面のうち 72 歯面(42.1%)が臨床的視診、65 歯面(38.0%)が FOTI、111 歯面(64.9%)がエックス線写真で検出された。臨床的視診と FOTI の組み合わせで 108 歯面、臨床的視診とエックス線写真の組み合わせで151 歯面が検出された。臨床的視診の補助として FOTI あるいはエックス線写真診断あるいはその両者の組み合わせは隣接面う蝕の検出精度を高める。FOTI は咬翼法エックス線写真に代わるものではないが、う蝕罹患率の低い学童の臼歯部の隣接面う蝕の検出に、付加的価値を示すように思われる。

論文コード(年代順)

研究デザイン 介入 /治療 結 果 エビデンス

レベル

Gimenez et al. 2013

システマティックレビュー、メタアナリシス

2人の校閲者が論文を抽出するために2012 年6月に PubMed、EMBASE および Scopus を検索した。その他の情報は非公開文献から得られた。的確な研究の定義は(1)実験室あるいは臨床の環境でヒト乳歯あるいは永久歯における咬合面、隣接面あるいは平滑面のう蝕病変を検出する蛍光法の精度を評価したもの、(2)対照となるものを用いたもの、(3)試料数と方法の精度について十分なデータがあるものである。診断用2×2表が感度、特異度および総合的な精度パラメーター(オッズ比、ROC)を算定するために採用された研究から抽出された。分析は各方法および異なる研究の特性ごとに別々に行われた。研究の質より異質性も評価された。

434 論文中 75 論文が採用された。分析はすべての歯種、歯面あるいは環境に対して同様な精度をもつ傾向があった。蛍光法はより進行したう蝕病変の検出に良い性能を示す傾向があった。中等度から高度な異質性が観察され、出版バイアスを立証した。蛍光法は類似した総合的な性能を有していた。しかしながら、より進行したう蝕病変の検出でより良い精度が観察された。

Barder et al. 2004

システマティックレビュー

1999 年 〜 2004 年 6 月、 英 語 論 文MEDLINE(2003 年 5 月、2004 年 6 月更新) 包含基準:市販装置であること、ヒト歯研究であること、感度と特異度で評価していること、組織学的評価に基づいているもの検 索キーワード:ダイアグノデ ント、laser f luorescence、fluorescence、dental caries、研究デザイン:in vitro と in vivo 研究、咬合面エナメルう蝕と咬合面象牙質う蝕、歯の保管条件、歯数、検査者数、信頼度、う蝕罹患率、検出レベル、感度と特異度、ダイアグノデント、 視診、咬翼法エックス線写真、ECM。

115 編を検索し、そのうち 25 編を採用した。感度は 0.19 〜1.0(多くの研究は高い傾向)、特異度は 0.52 〜 1.0、視診と比較して常に感度は高く、特異度は低かった。う蝕閾値は永久歯で> 10 〜>22.1、乳歯で> 9 〜>17、エビデンスの本体は大部分が in vitro研究によって特徴づけられていたため臨床環境にあてはめることには疑問が残る。う蝕閾値は研究によって相当に変化するため検出性能を総合的に推定することはできない。ダイアグノデントによる咬合面象牙質う蝕の検出は視診より感度は高い、しかしながら、視診と比べて疑陽性が出やすい。エナメルう蝕の検出は象牙質う蝕の検出よりも感度は低く、特異度は高い。主要な診断装置としての使用には限界がある。

I

Barder et al. 2002

システマティックレビュー

1966 年 〜 1999 年 10 月、 英 語 論 文、MEDLINE、EMBASE、検索対象の包含基準と除外基準を明記。診断法は視診、視診/触診、エックス線(フィルム/デジタル)、FOT、電気抵抗、レーザー蛍 光 法。 研 究 法 は in vivo、in vitro、研究対象は ヒト永久歯と乳歯、咬合面と隣接面、う窩ありとう窩なし、エナメルう蝕と象牙質う蝕、臼歯と前歯、採用論文の質について 11 項目の独自評価で採点(100 点満点)。

1,407 編(Medline 1, 328 編、EMBASE79 編)の検索論文より 39 編を抽出した。各診断法の感度と特異度はそれぞれ視診 0.03 〜0.95、0.41 〜 1.0、視診 + 触診 0.17 〜 0.73、0.71 〜 1.0、エックス線検査 0.12 〜 1.0、0.5〜 1.0、電気抵抗 0.61 〜 0.92、0.74 〜 1.0、FOTI0.04 〜 0.74、0.85 〜 1.0、レーザー蛍光法 0.42 〜 0.84、0.87 〜 1.0、視診 + エックス線 0.49 〜 0.86、0.64 〜 0.87。論文の質の評価は5点から 75 点に分布し、in vivoおよび in vitro 研究の平均点はそれぞれ 61点と 46 点であった。エビデンスの強さはすべての応用において弱いと判断された。すなわち、採用された情報からは1つの診断法をどのように応用しても感度と特異度を一般化できる推定値として支持するには不十分であった(表1)。

I

論文コード(年代順)

研究デザイン 介入 /治療 結 果 エビデンス

レベル

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

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表3 う蝕検出法の感度(sensitivity)と特異度(specificity)

検出法 う蝕の状態 感度 特異度

光ファイバー診断 隣接面う蝕、う窩あり 0.00 〜 0.08 0.99

視診 隣接面う蝕、う窩あり 0.12〜 0.50 > 0.90 〜 0.97

視診 咬合面う蝕、等倍拡大 0.32 0.97

視診と拡大鏡の使用 咬合面う蝕、3.25 倍拡大 0.42 0.94

視診 咬合面う蝕、う窩なし 0.12 0.93

視診 咬合面う蝕、う窩あり 0.62 0.93

視診と探針の使用 咬合面象牙質う蝕、う窩なし 0.14 0.93

視診と探針の使用 咬合面象牙質う蝕、う窩あり 0.82 0.93

咬翼法エックス線写真 咬合面象牙質う蝕、う窩なし 0.45 0.83

咬翼法エックス線写真 咬合面象牙質う蝕、う窩あり 0.79 0.83

視診と咬翼法エックス線写真 軽度、中等度の咬合面象牙質う蝕、う窩なし 0.49 0.87

視診と咬翼法エックス線写真 軽度、中等度の咬合面象牙質う蝕、う窩あり 0.9 0.87

咬翼法エックス線写真 軽度、中等度の咬合面象牙質う蝕、う窩なし 0.45 0.83

咬翼法エックス線写真 軽度、中等度の咬合面象牙質う蝕、う窩あり 0.79 0.83

着色のある小窩裂溝 0.74 0.45

二次う蝕 0.68 0.98

レーザー蛍光法(ダイアグノデント) 咬合面エナメル質う蝕、う窩なし 0.87 0.78

レーザー蛍光法(ダイアグノデント) 軽度、中等度の咬合面象牙質う蝕、う窩なし 0.76 0.87

電気伝導度(ECM) 咬合面エナメル質う蝕、う窩なし 0.87 0.64

電気伝導度(ECM) 軽度、中等度の咬合面象牙質う蝕、う窩なし 0.92 0.78

Anusavice KJ(2001)

表2 う蝕検出法の感度(sensitivity)と特異度(specificity)

検査法特異度 感度 精度

D1 D3 D1 D3 D1 D3ICDAS 0.60 0.77 0.93 0.52 0.91 0.70Bitewing 1.00 0.97 0.29 0.44 0.32 0.84LF 1.00 0.77 0.85 0.81 0.86 0.78LFpen 0.80 0.71 0.89 0.85 0.89 0.74FC 0.74 0.85 0.74 0.85 0.74 0.58

Diniz MB et al.(2012)

表1 う蝕検出法の感度(sensitivity)と特異度(specificity)

検査法 感度 特異度視診 0.03 〜 0.95 0.41〜1.0視診/触診 0.17〜 0.73 0.71〜1.0視診/エックス線 0.49 〜 0.86 0.64 〜 0.87エックス線 0.12〜1.0 0.5 〜1.0電気抵抗 0.61〜 0.92 0.74 〜1.0FOTI 0.04 〜 0.74 0.85 〜1.0レーザー蛍光法 0.42〜 0.84 0.87〜1.0

Barder et al(2002)

Anusavice 2001

レビュー リスク評価の根拠、疾患制御の要因、う蝕罹患率の変化、う蝕進行度の分類、う蝕リスク評価

エックス線検査と視診を組み合わせれば、う蝕検出はかなり有効になる(表3)。

VI

Lussi 2000 レビュー 視診、触診による検査、咬翼法エックス線写真による検査、電気伝導度の測定、光学装置

従来のう蝕検査法は特異度は優れているが感度に欠けている。ダイアグノデントは感度は良好であるが特異度が多少犠牲になる。探針の代わりにミラーとスリーウェイシリンジを用いて検査する。そのとき、う蝕が疑われれば感度の高い診断装置を使用する。

VI

論文コード(年代順)

研究デザイン 介入 /治療 結 果 エビデンス

レベル

Page 44: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

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#28 QLF/AL#29 #26 or #27 or #28#30 透過光 /AL and 診断法 /AL#31 透過光 /AL and(診断 /TH or 診断 /AL)#32 FOTI/AL#33 #30 or #31 or #32#34 #10 and #11#35 #10 and #12#36 #10 and #13 #37 #10 and #16 #38 #10 and #17

#39 #10 and #18 #40 #10 and #21 #41 #10 and #22 #42 #10 and #25 #43 #10 and #29 #44 #10 and #33 #45 #22 or #34 or #35 or #36 or #37 or #38

or #39 or #40 or #41 or #42 or #43 or #44

 検索結果:152件

CQ 5 隣接面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1970 〜 2013 年、検索日:2013 年 11 月 18 日)

#1   approximal caries#2  approximal carious#3  approximal surface#4  approximal surfaces#5  approximal cavitation#6  proximal caries#7  proximal carious#8  proximal surface#9  proximal surfaces#10 proximal cavitation#11 #1 or #2 or #3 or #4 or #5 or #6 or #7

or #8 or #9 or #10#12 Dental Caries[MH]#13 #11 and #12#14 Radiography, Bitewing[MH]#15 radiographic#16 Bicuspid[MH]#17 (#13 and #14 and #15)not #16

#18 #13 and #14 and #16#19 #12 and #7 and #12 and #16#20 Fiber Optic Technology[MH]#21 #13 and #20#22 Dental Caries Activity Tests[MH]#23 #13 and #22#24 Dental Restoration, Permanent[MH]#25 approximal carious lesions#26 #13 and #24 and #25#27 Decision Making[MH]#28 Dental Care[MH]#29 #13 and#27#30 #12 and #27 and #28#31 #17 or #18 or #19 or #21 or #23 or #26 or

#29 or #30 #32 #31 Limits: Publication Date From 1970

to 2013, Humans, Journal Article, English, Japanese Sort by: Publication Date

 検索結果:316件

CQ 4 咬合面う蝕の診断にはどの検査法が有効か。

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1979 〜 2013 年、検索日:2013 年 11 月 18 日)

#1  occlusal caries#2  occlusal carious#3  occlusal surface#4  occlusal surfaces#5  #1 or #2 or #3 or #4#6  Dental Caries[MH]#7  #5 and #6#8  Radiography, Bitewing[MH]#9  #7 and #8  #10 Fluorescence[MH]#11 #6 and #8 and #10#12 Fiber Optic Technology[MH]#13 #6 and #12#14 electrical resistance#15 #7 and #14

#16 Bicuspid[MH]#17 #7 and #16#18  light microscope#19  #7 and #18#20  ダイアグノデント#21  #6 and #20#22  #4 and #20#23  Decision Trees[MH]#24  #6 and #23#25  #9 or #11 or #13 or #15 or #17 or #19 or #21

or #24#26  #25 Limits: Publication Date from 1978

to 2013, Humans, Journal Article,English, Japanese

#27  #22 or #26 Sort by: Publication Date

 検索結果:535件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1981 〜 2013 年、検索日:2013 年 11 月 19 日)

#1  (咬合 /TH or 咬合面 /AL)and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)

#2  初期 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#3  初発 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#4  エナメル /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#5  (象牙質 /TH or 象牙質 /AL)and(う蝕 /

TH or う蝕 /AL)#6  #1 or #2 or #3 or #4 or #5#7  (う蝕 /TH or う蝕 /AL)and(診断 /TH or

診断 /AL)#8  (う蝕 /TH or う蝕 /AL)and(診断 /TH or

診断 /AL)and 基準 /AL#9   #7 or #8#10 #6 and #9#11 (視診 /TH or 視診 /AL)#12 (触診 /TH or 触診 /AL)#13 (X 線 /THor エックス 線 /AL)and 検 査 /

AL #14 咬翼法 /AL and(X 線 /TH or エックス線

/AL)and(写真撮影 /TH or 写真 /AL)

#15 咬翼法 /AL#16 #14 or #15#17 (インピーダンス /TH or インピーダンス

/AL)and 測定 /AL #18 う蝕 /TH or カリエス /AL)or(歯根う

蝕 /TH orカリエス /AL andメーター/AL

#19 (う蝕 /TH or う蝕 /AL)and(電気 /TH or 電気 /AL)and(診断 /TH or 診断 /AL)

#20 ECM/AL#21 #19 or #20 #22 (レーザー /TH or レーザー /AL)and

蛍光法 /AL#23 ダイアグノデント /AL#24 ダイアグノデント /AL#25 #23 or #24#26 ( 光 /TH or 可 視 光 /AL)and 励 起 /

ALand 蛍光法 /AL#27 励起 /AL and 蛍光法 /AL

Page 45: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

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Community Dent. Oral Epidemiol. 1993; 21: 273-8.4) Barder JD, Shugars DA, Bonito AJ. A systematic review of the performance of methods for identifying carious

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10)Gomez J, Tellez M, Pretty IA, Ellwood RP, Ismail AI. Non-cavitated carious lesions detection methods : a systematic review. Community Dent Oral Epidemiol. 2013; 41: 55-66.

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14)Gordan VV, Rilly JL3rd, Carvalho RM, Snyder J, Sanderson JL, Anderson M, Gilbert GH;DPBRN Collaborative Group:Methods used by Dental Practice-Based Research Network (DPBRN) dentists to diagnose dental caries. Oper Dent. 2011; 36: 2-11.

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1981 〜 2013 年、検索日:2013 年 11 月 19 日)

#1  隣 接面 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)

#2  初期 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#3  初発 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#4  エナメル /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /

AL)#5  (象牙質 /TH or 象牙質 /AL)and(う蝕

/TH or う蝕 /AL)#6  #1 or #2 or #3 or #4 or #5#7  (う蝕 /TH or う蝕 /AL)and(診断 /TH

or 診断 /AL)#8  (う蝕 /TH or う蝕 /AL)and(診断 /TH

or 診断 /AL)and 基準 /AL#9  #7 or #8#10 (視診 /TH or 視診 /AL)#11 (触診 /TH or 触診 /AL)#12 (X 線 /TH or エックス線 /AL)and 検

査 /AL #13 咬翼法 /AL and(X 線 /TH or エック

ス線 /AL)and(写真撮影 /TH or 写真 /AL)

#14 咬翼法 /AL and(写真撮影 /TH or 写真 /AL)

#15 #13 or #14#16 (インピーダンス /TH or インピーダン

ス /AL)and 測定 /AL#17 カリエスメーター /AL#18 (う蝕 /TH or カリエス /AL)or(歯根う

蝕 /TH or カリエス /AL) and メーター /AL

#19 #17 or #18

#20 (う蝕 /TH or う蝕 /AL)and(電気 /TH or電気 /AL)and(診断 /TH or 診断 /AL)

#21 ECM/AL#22 #20 or #21#23 (レーザー /TH or レーザー /AL)and 蛍光

法 /AL#24 ダイアグノデント /AL#25 ダイアグノデント /AL#26 #24 or #25#27 (光 /TH or 可視光 /AL)and 励起 /AL and

蛍光法 /AL#28 励起 /AL and 蛍光法 /AL#29 QLF/AL#30 #27 or #28 or #29#31 透過光 /AL and 診断法 /AL#32 透過光 /AL and(診断 /TH or 診断 /AL)#33 FOTI/AL#34 #31 or #32 or #33#35 #6 and #9#36 #6 and #10#37 #6 and #11#38 #6 and #12#39 #6 and #15#40 #6 and #16#41 #6 and #19#42 #6 and #22#43 #6 and #23 #44 #6 and #26 #45 #6 and #30 #46 #6 and #34 #47 #36 or #37 or #38 or #39 or #40 or #41 or

#42 or #43 or #44 or #45 or #46

 検索結果:165件

参考文献1) Fejerskov O, Kidd E. Dental caries – the disease and its clinical management 2nd edition. Oxford :Blackwell

Munksgaard; 2008.2) ICDAS Coordinating Committee : Rationale and evidence for the international caries detection and

assessment system(ICDAS II), reviewed Sept 2011(unchanged from 2005), http://www.icdas.org/(検索日12/06/15) .

3) Nuttall NM, Pitts NB, Fyffe HE. Assessment of reports by dentists of their restorative treatment thresholds.

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

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蝕はただちに充填、4)象牙質の 1/2 を超えて

いないう蝕は予防プログラムを実施し、半年ご

とにエックス線写真で追跡し、拡大傾向であれ

ば充填処置を行うとしている(エビデンスレベル

「Ⅵ」)。

切削介入が早いか遅いかによるその後の臨床

経過を比較した臨床研究は、国内外では見あた

らなかった。Foster3) は 65 人の成人患者(男

35 人、女 30 人)の象牙質内1mm まで進行し

た隣接面う蝕病変を咬翼法エックス線写真で 36

カ月間追跡した。病変の 29%が8カ月以内に

進行し、20 カ月後には 56%、36 カ月には 69%

が進行していた。36 カ月後、象牙質に 0.5mm

まで進行していた病変(50%)よりも 0.5 〜1

mm 進行していた病変(92%)のほうが有意に

進行していた。したがって、修復処置は象牙質

内に 0.5mm より深い病変で考慮し、それより浅

い病変では予防処置や再評価を考慮することが

推奨されるとしている(エビデンスレベル「Ⅳ」)。

したがって、象牙質に達した場合は個々の症例

で自覚症状の有無、患者の年齢、う蝕のリスク、

患者の希望、術者の経験などからその進行速度

を見きわめたうえで切削介入をしてもよいであろ

う。

象牙質層のどの程度に達すれば歯髄保存の

観点から 100%の歯科医師が切削介入を決断す

るかが興味深いところである。ブラジルで 840

人の歯科医師を対象にした咬翼法エックス線写

真による質問紙調査 4)では 31.5%の歯科医師がエナメル質外層 1/2 に達している症例、54.5%の

歯科医師がエナメル質内層 1/2 で EDJ に達していない症例、79.0%の歯科医師が EDJ まで達して

いる症例、96.9%の歯科医師が象牙質の 1/2 に達している症例を修復すると回答している。また、

21.8%の歯科医師が脱灰の徴候のない着色のある小窩裂溝の症例に対して修復すると回答しており、

過剰修復処置の傾向があることが報告されている。スカンジナビア諸国(スウェーデン 923 人、デ

ンマーク 173 人、ノルウェー 759 人)での調査 5)では、咬合面う蝕で明らかなう窩、あるいは象牙

質の外側 1/3 に及ぶエックス線透過像が認められるまでは切削は行わない傾向が認められた。特に

651 人のスウェーデン歯科医師の調査 6)ではう蝕活動性が低く、口腔衛生状態が良い若者において

は隣接面う蝕では、エックス線所見で象牙質外側 1/3 〜 1/2 までに病変が認められなければ 90%

の歯科医師は修復しない。一方、咬合面う蝕では明らかなう窩あるいは象牙質う蝕の徴候がエック

ス線写真で認められた場合に 67%の歯科医師は修復すると報告している。

表 4 う蝕のハイリスク要因

全身的既往歴糖衣錠の服用口腔乾燥症を引き起こす薬物の服用頭頸部腫瘍の放射線治療シェーグレン症候群身体障害

歯科的既往多数の修復歯の存在頻回な再修復一度に多数歯に及ぶ修復処置

口腔衛生状態少ない歯口清掃回数フッ化物を含まない歯磨剤の使用矯正装置や義歯の装着

食事頻回な甘いお菓子や飲み物の摂取

フッ化物フッ化物の不使用歯磨きの未実施

唾液唾液分泌量の低下

社会生活貧困低い教育レベル非雇用者水道水のフッ化物濃度の無調整

Kidd, EAM, Essentials of Dental Caries 3rd ed, P61, Oxford Univ Press(2005)より引用改変。

CQ 6 切削の対象となるのはどの程度に進行したう蝕か。

【 推 奨 】以下の1)〜5)の所見が認められる場合は修復処置の対象となる。特に複数認められる場合にはただちに修復処置を行うことが望ましい(エビデンスレベル「Ⅴ」/推奨の強さ「B」)。  1)歯面を清掃乾燥した状態で肉眼あるいは拡大鏡でう窩を認める。  2)食片圧入や冷水痛などの自覚症状がある。  3)審美障害の訴えがある。  4)エックス線写真で象牙質層の1/3を超える病変を認める。  5)う蝕リスクが高い(表 4)。

文献の抽出

CQ6 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1982 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 18 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1981 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 19 日

以上のデータベース検索より、CQ 6について PubMed から 341 編、さらに医学中央雑誌から

216 編が抽出された。それらの抄録より、エビデンスとして採用する可能性のある9編の論文(英

文8編、和文1編)が抽出された。これらの論文を精読し、研究デザインの質に基づいてエビデン

スレベルを確定し、CQ 6に対するエビデンスとして採用した。そして、それぞれの CQ の「推奨」

の最後に、エビデンスとして採用した論文の構造化抄録を記載した。

背景・目的

前項で述べたとおりである。

解 説

一般に臨床決断基準は臨床研究のエビデンスに加えて、患者の希望と同意や医師側の技能や医

療環境によって決まると言われている 1)。したがって、切削介入の決断も、う蝕検出の結果だけで

必ずしも決まるものではない。患者のう蝕リスク、歯科医師の勤務体系、自費患者の割合、う蝕予

防プログラムの普及度や歯科医療保険制度の違いなどにも大きく影響される 8-11)。したがって、日

本独自の背景を加味して日本語論文を検索したところ、2編のレビューと解説が同じ研究グループ

から出されていた 1, 2)。それらによると臼歯部隣接面の初期う蝕への対応は、1)咬翼法エックス

線写真により診断、2)象牙質に達していないう蝕は経過観察、3)象牙質の 1/2 を超えているう

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

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北米、デンマーク、ノルウェーおよびスウェーデンの4カ国の 517 人の DPBRN メンバーを対象に

した質問紙調査では、咬合面う蝕について低リスク患者の場合、63%がエナメル質内層に達したう

蝕を修復し、90%が象牙質外層に達したう蝕を修復すると回答した。一方、高リスク患者の場合は

77%がエナメル質内層に達したう蝕を修復し、94%が象牙質外層に達したう蝕を修復すると回答し

た 8)。同様に隣接面う蝕について調査した報告 9)では調査対象の 500 人の歯科医師のうち低リスク

患者の場合は 39%がエナメル質う蝕、54%が象牙質外層 1/3 で修復すると回答し、高リスクの患

者の場合は 66%がエナメル質う蝕、24%が象牙質外層 1/3 で修復すると回答した。

クロアチアの歯科医師に対する調査 10)では、調査対象者 307 人のうち 39%が EDJ に達した隣

接面う蝕を修復し、42%がエナメル質に限局したう蝕を処置すると回答した。

日本人歯科医師 182 人に対する調査 11)では、高リスク患者のエナメル質う蝕に対して外科的介

入を行う歯科医師の割合(73.8%)が低リスク患者に対する(46.5%)よりも有意に高かった。

Elderton7)は一般的な修復処置の基準として以下を挙げている。

 1)歯冠部う蝕では象牙質へ達している場合

 2)う蝕によって歯髄症状が生じている、あるいはすぐに生じそうな場合

 3)修復処置によって回復することのできる咬合・機能障害がある場合

 4)審美的障害があり、修復処置で改善することができる場合

 5)歯の欠損部への食片圧入やそれによる口臭の訴えがある場合

 6)近接する歯周組織の健康状態を回復することができる場合

 7)修復物がアレルギー反応を引き起こした場合

 8)患者が過度な心理的ストレスのために修復処置を望む場合

以上のような情報を参考にして本ガイドライン委員会でも議論を行った結果、修復対象となるう

蝕の深さは歯髄保護と修復処置のやりやすさ、患者への負担や治療後の満足感などを配慮して、エッ

クス線写真で象牙質の外側 1/3 を超える場合であり、さらに推奨文中の5つの所見のうち、複数認

められた場合はただちに修復処置を行なうことが推奨されるという合意に至った。

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ6)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Threeyear invivoinvestigationtodeterminetheprogressionofapproximalprimarycariouslesionsextendingintodentine.FosterLVBrDentJ.1998;185:353-7.

目 的 :象牙質内に 1mm に及んだ隣接面う蝕病変が 3 年間でどの程度進行するか、また、進行に影響する因子を明らかにする。

研究デザイン :前向き研究、単独施設、臨床研究

研究施設 :英国、Bristol Dental School、Restorative Clinic

対 象 :65 人成人患者(男 35 人、女 30 人)。

介 入 :象牙質に1mm まで進行した隣接面う蝕病変を 36 カ月間追跡した。すべての患者には衛生指導が行われた。

主要評価項目 :病変の進行が連続した咬翼法エックス線写真で調べられた。

結 果 :病変の 29%が8カ月以内に進行していた。20 カ月後には 56%、36 カ月後には69%が進行していた。36 カ月後、象牙質に 0.5mm まで進行していた病変(50%)よりも 0.5 〜1mm 進行していた病変(92%)のほうが有意に進行していた。

結 論 :隣接面う蝕の深さはう蝕の進行の目安になる。修復処置は象牙質内に 0.5mmより深い病変で考慮し、それより浅い病変では予防処置や再評価を考慮することが推奨される。

初期齲蝕に対する切削処置の時期決定に関するevidenceに基づいたアプローチ五十嵐賀世,大山 篤,佐々木好幸,寺岡加代,豊島義博,野村義明,花崎友香,山田里奈歯界展望.2000;95:56-64.

目 的 :切削修復処置の対象となるのはどの程度のう蝕なのか。

研究デザイン :レビュー

研究施設 :EBH 研究会(8人)

対 象 :検索用語:approximal caries、diagnosis、progression

介 入 :症例シナリオ設定(隣接面う蝕)、MEDLINE 検索 検索日:99/07/01 ヒットした文献 41 編。

主要評価項目 :3文献について構造化抄録作成

結 果 :病変の 29%が8カ月以内に進行していた。20 カ月後には 56%、36 カ月後には69%が進行していた。36 カ月後、象牙質に 0.5mm まで進行していた病変(50%)よりも 0.5 〜1mm 進行していた病変(92%)のほうが有意に進行していた。

結 論 :臼歯部隣接面の初期う蝕への対応は、1)咬翼法エックス線写真により診断、2)象牙質に達していないう蝕は経過観察、3)象牙質の1/2を超えているう蝕はただちに充填、4)象牙質の1/2を超えていないう蝕は予防プログラムを実施し、半年ごとにエックス線写真で追跡し、拡大傾向であれば充填処置を行う。

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Braziliandentists’restorativetreatmentdecisions.TraebertJ,MarcenesW,KreutzJV,OliveiraR,PiazzaCH,PeresMAOralHealthPrevDent.2005;3:53-60.

目 的 :う蝕修復処置に関して南ブラジルの歯科医師による決断のパターンを調べた。

研究デザイン :アンケート調査による横断研究

研究施設 :ブラジル、South of Santana Catarina 大学歯学部

対 象 :南ブラジル 3州で無作為に選ばれた 840 人の歯科医師。

介 入 :3人の歯科医師によって電話インタビューが行われた。

主要評価項目 :咬翼法エックス線に基づいて深さの異なる透過像、着色した小窩裂溝、白斑のある臨床状況を述べて、それに対する治療決断を質問した。

結 果 :回答率は 89.4%であった。31.5%の歯科医師がエナメル質外層 1/2 に達している症例、54.5%の歯科医師がエナメル質内層 1/2 で EDJ に達していない症例、79.0%の歯科医師が EDJ まで達している症例、96.9%の歯科医師が象牙質の 1/2に達している症例を修復すると回答した。また、21.8%の歯科医師が脱灰の徴候のない着色のある小窩裂溝の症例に対して修復すると回答した。

結 論 :う蝕に対して過剰修復処置の傾向が認められた。

RestorativetreatmentdecisionsonocclusalcariesinScandinavia.EspelidI,TveitAB,MejareI,SundbergH,HallonstenALActaOdontolScand.2001;59:21-7.

目 的 :咬合面う蝕に対する修復処置の判断の違いを調査する。

研究デザイン :アンケート調査による横断研究

研究施設 :ノルウェー、Bergen 大学歯学部

対 象 :ノルウェーの歯科医師 759 人、スウェーデンの歯科医師 923 人、デンマークの歯科医師 173 人。

介 入 :3カ国の歯科医師に質問表を送付した。

主要評価項目 :20 歳の下顎第二大臼歯の咬合面う蝕を想定して、修復処置方針を質問した。

結 果 :スウェーデンでは 26.7%の歯科医師が、デンマークでは 24.3%が大きなう窩あるいはエックス線写真で病変が象牙質の 2/3 に認められるまで修復処置を行わない。また、ノルウェーでは 11.5%がそのように回答した。

結 論 :咬合面う蝕で明らかなう窩、あるいは象牙質の外側1/3に及ぶエックス線透過像が認められるまでは切削は行わない傾向にあった。

CariesassessmentandrestorativetreatmentthresholdsreportedbySwedishdentists.MejareI,SundbergH,EspelidI,TveitBActaOdontolScand.1999;57:149-54.

目 的 :スウェーデンの歯科医師を対象に隣接面および咬合面う蝕の診断と治療決断の違いを調べた。

研究デザイン :アンケート調査による横断研究

研究施設 :スウェーデン、Eastman Dental Institute

対 象 :スウェーデンの歯科医師 923 人。

介 入 :質問表を郵送した。

主要評価項目 :20 歳の下顎第二大臼歯の咬合面う蝕を想定して、修復処置方針を質問した。

結 果 :回答率は 70.5%(651 人)であった。う蝕活動性が低く、口腔衛生状態が良い若者においては隣接面う蝕ではエックス線所見で象牙質外側 1/3 〜 1/2 までに病変が認められなければ 90%の歯科医師は修復しない。一方、咬合面う蝕では明らかなう窩あるいは象牙質う蝕の徴候がエックス線写真で認められた場合に67%の歯科医師は修復すると回答した。

結 論 :う蝕が疑われるとき、エックス線写真は大きなよりどころとされていた。隣接面う蝕では若い歯科医師ほどかなり進行した状態にならないと処置しない傾向があった。開業医のほうが公的歯科診療所勤務医より早い時期に隣接面う蝕を修復する傾向があった。

RestorativetreatmentthresholdsforocclusalprimarycariesamongdentistsintheDentalPractice-BasedResearchNetwork.GordanVV,BaderJD,GarvanCW,RichmanJS,QvistV,FellowsJL,RindalDB,GilbertGH;DPBRNCollaborativeGroupJADA.2010;141:171-84.

目 的 : 歯科医師がう蝕の進行とリスクの異なる症例に対して外科的介入を行うと判断するう蝕病変の深さを定量化する。さらに外科的介入に関連する特徴を確認する。

研究デザイン :アンケート調査による横断研究

研究施設 :米国、フロリダ大学ほか多施設

対 象 :DPBRN メンバー(米国、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)の臨床医 901 人。

介 入 : Online 調査(www.dpbrn.org/users/publications/Supplement.aspx)。3つのう蝕症例の下顎第一大臼歯の咬合面写真を見て、患者の高リスクと低リスクのシナリオに応じたそれぞれの処置方針を処置リストから選択してもらった。

主要評価項目 : ロジスティック回帰分析を用いて歯科医師自体および診療形態の特徴と患者のう蝕リスクレベルとの間の関係を解析した。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

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結 果 :回収率は 57%(517 人)であった。低リスク患者の場合、63%がエナメル質内層に達したう蝕を修復し、90%が象牙質外層に達したう蝕を修復すると回答した。高リスク患者の場合は 77%がエナメル質内層に達したう蝕を修復し、94%が象牙質外層に達したう蝕を修復すると回答した。う蝕リスクを評価しない歯科医師は評価する歯科医師よりも象牙質病変に修復介入する傾向があった。歯科医師が単独あるいは4人以下の小型歯科診療所に所属する歯科医師は4人以上の大型歯科診療所に所属する歯科医師よりも有意に外科的介入をする傾向があった。

結 論 :多くの歯科医師がエナメル質内層に達したう蝕に何らかの処置を選択した。また、ほとんどの歯科医師が象牙質外層に達したう蝕を外科的に修復することを選んだ。う蝕の過程で外科的介入の決断はう蝕病変の深さ、患者のう蝕リスク、う蝕リスクの評価、臨床形態のタイプ、自費患者の割合によって異なっていた。

Restorativetreatmentthresholdsforinterproximalprimarycariesbasedonradiographicimages:findingfromtheDentalPractice-BasedResearchNetwork.GordanVV,GarvanCW,HeftMW,FellowsJL,QvistV,RindalDB,GilbertGH;DPBRNCollaborativeGroupGenDent.2009;57:654-63.

目 的 :歯科医師がエックス線写真とう蝕リスクの異なる患者シナリオに基づいて隣接面う蝕に対する修復介入を決断するう蝕の深さを定量化する。さらにエナメル質う蝕を修復介入するのに関連する特徴を確認する。

研究デザイン :アンケート調査による横断研究

研究施設 :米国、フロリダ大学、他多施設

対 象 :DPBRN メンバー(米国、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)の臨床医 901 人。

介 入 :質問紙を郵送した。下顎小臼歯で、う蝕病変が進行する一連の隣接面う蝕を描いたエックス線写真に基づいて修復する病変の深さを質問した。また、高リスク者と低リスク者の2つのシナリオについて質問した。

主要評価項目 :ロジスティック回帰分析により修復介入の決断と歯科医師、診療形態および患者特性との関連を解析した。

結 果 :回収率は 56%(500 人)であった。高リスク者の場合は 66%が隣接面エナメル質う蝕を修復し、24%が象牙質外層 1/3 で修復すると回答した。低リスク者の場合は 39%がエナメル質う蝕で修復し、54%が象牙質外層 1/3 で修復すると回答した。

結 論 :歯科医師と臨床形態を説明する多変量解析では、大型歯科診療所の歯科医師が患者のリスクにかかわらずエナメル質う蝕への介入が少ない傾向にあった。

SurveyofCroatiandentists'restorativetreatmentdecisiononapproximalcarieslesions.BarabaA,AnicI,Domejean-OrliagurtS,EspelidI,TveitAb,MileticICroatMedJ.2010;51:509-14.

目 的 :隣接面う蝕に対するクロアチアの歯科医師の修復処置の決断についてその基準と修復法および修復材料を含めて評価する。

研究デザイン :アンケート調査による横断研究

研究施設 :Zagreb 大学、クロアチア共和国

対 象 :クロアチア歯科医師会メンバー 400 人および学会参加者 400 人。

介 入 :無記名質問紙による調査

主要評価項目 : 1)ただちに修復処置が必要な病変の深さ、2)切削充填を行う病変の窩洞形態、3)修復材料の選択について質問した。統計分析にはカイ2乗検定を行った。

結 果 :回収率は 38%(307 人)であった。39%が EDJ に達した隣接面う蝕を修復し、42%がエナメル質に限局したう蝕を処置すると回答した。隣接面う蝕の治療には 66%がコンポジットレジンを用いると回答した。

結 論 :クロアチアの歯科医師は病変がエナメル質に限局し、その進行が慢性化できる隣接面う蝕病変を修復する傾向がある。

RestorativetreatmentthresholdsforproximalcariesindentalPBRN.KakudateN,SumidaF,MatsumotoY,ManabeK,YokoyamaY,GilbertGH,GordanVVJDentRes.2012;91:1202-8.

目 的 :日本の歯科医師が、エックス線写真とう蝕リスクの異なる患者シナリオに基づいて隣接面う蝕に対する修復介入を行うと判断するう蝕の深さを定量化する。さらにエナメル質う蝕を修復介入するのに関連する特徴を確認する。

研究デザイン :アンケート調査による横断研究

研究施設 :Stanford 大学、米国

対 象 :DPBRN の日本人臨床医 189 人。

介 入 :Online 調査。下顎小臼歯でう蝕病変が進行する一連の隣接面う蝕を描いたエックス線写真に基づいて、修復する病変の深さを質問した。また、高リスク者と低リスク者の2つのシナリオについて質問した。

主要評価項目 : 治療介入基準の違いはカイ2乗検定により分析し、修復介入の決断と歯科医師、臨床体系および患者特性との関連をロジスティック回帰分析により解析した。

結 果 :う蝕高リスク者のエナメル質う蝕に対して外科的介入を行なう歯科医師の割合(73.8%)が、低リスク者に対する(46.5%)よりも有意に高かった。高リスク

者シナリオにおける多変量解析では歯科医師の性別、都市人口、開業形態、う蝕リスク評価、栄養指導が、外科的エナメル質う蝕処置に有意な関連要因であった。しかしながら、低リスク者シナリオでは都市人口、開業形態、探針の使用が関連要因であった。

結 論 :隣接面う蝕の修復処置の基準はう蝕リスクによって異なっていた。ほとんどの歯科医師は高う蝕リスク者におけるエナメル質病変を修復する傾向にあった。

Page 50: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

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CQ 6 切削の対象となるのはどの程度に進行したう蝕か。

論文コード(年代順)

研究デザイン

介入 /治療 結 果エビデンスレベル

Foster, 1998 前向き研究、単独施設、臨床研究

65 人 成 人 患者( 男 35 人、女 30 人 )、象牙質に1mm まで進行した隣接面う蝕病変を 36 カ月間追跡した。すべての患者には口腔衛生指導が行われた。病変の進行が連続した咬翼法エックス線写真で調べられた。

病変の 29%が8カ月以内に進行していた。20 カ月後には 56%、36 カ月には 69%が進行していた。36 カ月後、象牙質に 0.5mmまで進行していた病変(50%)よりも 0.5〜 1mm 進行していた病変(92%)のほうが有意に進行していた。隣接面う蝕の深さはう蝕の進行の目安になる。修復処置は象牙質内に 0.5mm より深い病変で考慮し、それより浅い病変では予防処置や再評価を考慮することが推奨される。

IV

Kakudate et al. 2012

アンケート調査による横断研究

DPBRNの日本人臨床医 189 人。Online 調査。下顎小臼歯でう蝕病変が進行する一連の隣接面う蝕を描いたエックス線写真に基づいて修復する病変の深さを質問した。また、高リスク者と低リスク者の2つのシナリオについて質問した。治療介入基準の違いはカイ2乗検定により分析し、修復介入の決断と歯科医師、臨床体系および患者特性との関連をロジスティック回帰分析により解析した。

高う蝕リスク者のエナメル質う蝕に対して外科的介入を行う歯科医師の割合(73.8%)が低リスク者に対する(46.5%)よりも有意に高かった。高リスク者シナリオにおける多変量解析では歯科医師の性別、都市人口、開業形態、う蝕リスク評価、栄養指導が外科的エナメル質う蝕処置に有意な関連要因であった。しかしながら、低リスク者シナリオでは都市人口、開業形態、探針の使用が関連要因であった。隣接面う蝕の修復処置の基準はう蝕リスクによって異なっていた。ほとんどの歯科医師は高う蝕リスク者におけるエナメル質病変を修復するようであった。

Baraba et al. 2010

アンケート調査による横断研究

クロアチア歯科医師会メンバー 400 人および学会参加者 400 人。無記名質問紙による調査。1)ただちに修復処置が必要な病変の深さ、2)切削充填を行う病変の窩洞形態、3)修復材料の選択について質問した。統計分析にはカイ2乗検定を行った。

回収率は 38%(307人)であった。39%がEDJ に達した隣接面う蝕を修復し、42%がエナメル質に限局したう蝕を処置すると回答した。隣接面う蝕の治療には 66%がコンポジットレジンを用いると回答した。クロアチアの歯科医師は病変がエナメル質に限局し、その進行が慢性化できる隣接面う蝕病変を修復する傾向がある。

論文コード(年代順)

研究デザイン 介入 /治療 結 果 エビデンス

レベル

Gordan et al. 2010

アンケート調査による横断研究

DPBRN メンバー(北 米、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)の臨床医901 人。Online 調 査(www.dpbrn.org/users/publications/Supplement.aspx)。3つのう蝕症例の下顎第一大臼歯の咬合面写真を見て、患者の高リスクと低リスクのシナリオに応じたそれぞれの処置方針を処置リストから選択してもらった。ロジスティック回帰分析を用いて歯科医師自体および臨床形態の特徴と患者のう蝕リスクレベルとの間の関係を解析した。

回収率は 57%(517人)であった。低リスク患者の場合、63%がエナメル質内層に達したう蝕を修復し、90%が象牙質外層に達したう蝕を修復すると回答した。高リスク患者の場合は 77%がエナメル質内層に達したう蝕を修復し、94%が象牙質外層に達したう蝕を修復すると回答した。う蝕のリスクを評価しない歯科医師はリスクを評価する歯科医師よりも象牙質病変に修復介入する傾向があった。歯科医師が単独あるいは4人以下の小型歯科診療所に所属する歯科医は4人以上の大型歯科診療所に所属する歯科医師よりも有意に外科的介入する傾向があった。多くの歯科医師がエナメル質内層に達したう蝕に何らかの処置を選択した。また、ほとんどの歯科医師が象牙質外層に達したう蝕を外科的に修復することを選んだ。う蝕の過程で外科的介入の決断はう蝕病変の深さ、患者のう蝕リスク、う蝕リスクの評価、臨床形態のタイプ、自費患者の割合によって異なっていた。

Gordan et al. 2009

アンケート調査による横断研究

DPBRN メンバー(北 米、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)の臨床医901 人。質問紙を郵送した。下顎小臼歯でう蝕病変が進行する一連の隣接面う蝕を描いたエックス線写真に基づいて修復する病変の深さを質問した。また、高リスク者と低リスク者の2つのシナリオについて質問した。ロジスティック回帰分析により修復介入の決断と歯科医師、臨床体系および患者特性との関連を解析した。

回収率は 56%(500 人)であった。高リスク者の場合は 66%が隣接面エナメル質う蝕を修復し、24%が象牙質外層 1/3 で修復すると回答した。低リスク者の場合は 39%がエナメル質う蝕で修復し、54%が象牙質外層 1/3 で修復すると回答した。歯科医師と臨床形態を説明する多変量解析では大型歯科診療所の歯科医師が患者のリスクにかかわらずエナメル質う蝕への介入が少ない傾向があった。

Traebert et al. 2005

アンケート調査による横断研究

南ブラジル 3 州で無作為に選ばれた840 人の歯科医師を対象にした。3 人の歯科医師によって電話インタビューが行われた。咬翼法エックス線に基づいて深さの異なる透過像、着色した小窩裂溝、白斑のある臨床状況を述べて、それに対する治療決断を質問した。

回収率は 89.4%であった。31.5%の歯科医師がエナメル質外層 1/2 に達している症例、54.5%の歯科医師がエナメル質内層 1/2 でEDJ に達していない症例、79.0%の歯科医師が EDJ まで達している症例、96.9%の歯科医師が象牙質の 1/2 に達している症例を修復すると回答した。また、21.8%の歯科医師が脱灰の徴候のない着色のある小窩裂溝の症例に対して修復すると回答した。

VI

Espelid et al. 2001

アンケート調査による横断研究

ノルウェーの歯科医師 759 人、スウェーデンの歯科医師 923 人、デンマークの歯科医師 173 人を対象にした。20 歳の下顎第二大臼歯の咬合面う蝕を想定して、修復処置方針を質問した。

スウェーデンでは 26.7%の歯科医師が、デンマークでは 24.3%が大きなう窩あるいはエックス線写真で病変が象牙質の 2/3 に認められるまで修復処置を行わない。また、ノルウェーでは 11.5%がそのように回答した。咬合面う蝕で明らかなう窩、あるいは象牙質の外側 1/3 に及ぶエックス線透過像が認められるまでは切削は行わない傾向にあった。

VI

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88

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応 第2章 ガイドライン本論

CQ

CQ

CQ

4

5

6

89

五十嵐賀世ら、2000

レビュー 症 例 シ ナリオ 設 定( 隣 接 面 う蝕 )、MEDLINE 検 索  検 索 日:99/07/01 ヒットした文献 41 編、3 文献について構造化抄録作成。

臼歯部隣接面の初期う蝕への対応は、1)咬翼法エックス線写真により診断、2)象牙質に達していないう蝕は経過観察、3)象牙質の 1/2 を超えているう蝕はただちに充填、4)象牙質の 1/2 を超えていないう蝕は予防プログラムを実施し、半年ごとにエックス線写真で追跡し、拡大傾向であれば充填処置。

VI

Mejare et al. 1999

アンケート調査による横断研究

スウェーデンの歯科医師 923 人を対象に質問表を郵送した。隣接面う蝕と咬合面う蝕の診断と修復処置の決断に関する4項目を質問した。

回答率は 70.5%(651 人)であった。う蝕活動性が低く、口腔衛生状態が良い若者においては隣接面う蝕ではエックス線所見で象牙質外側 1/3 〜 1/2 までに病変が認められなければ 90%の歯科医師は修復しない。一方、咬合面う蝕では明らかなう窩あるいは象牙質う蝕の徴候がエックス線写真で認められた場合に 67%の歯科医師は修復すると回答した。

VI

CQ 6 切削の対象となるのはどの程度に進行したう蝕か。

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1982 〜 2013 年、検索日:2013 年 11 月 18 日)

#1  Dental Caries[MH]#2 Dental restoration, Permanent [MH]#3  Decision making[MH]#4  #1 and #2 and #3#5  Dental Caries Activity Tests[MH]#6  caries detection#7  operative management#8  treatment decisions#9  Decisions Support Techniques

#10 successful decisions#11 #1 and #5 and #6#12 #1 and #2 and #7#13 #2 and #3 and #8#14 #1 and #3 and #9#15 #1 and #3 and #10#16 #4 or #11 or #12 or #13 or #14 or #15#17 #16 Limits : Publication Date from

1982to 2013, Humans, Journal Article, English,Japanese Sort by: Publication Date

 検索結果:341 件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1981 〜 2013年、検索日:2013 年 11 月 19 日)

#1  (う蝕 /TH or う蝕 /AL)#2  隣接面 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#3  初期 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#4  初発 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#5  う窩 /AL#6  急性 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#7  慢性 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)

#8 エナメル /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#9 (象牙質 /TH or 象牙質 /AL)and(う蝕 /TH

or う蝕 /AL)#10 隠れ /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#11 #1 or #2 or #3 or #4 or #5 or #6 or #7 or #8 or

#9 or #10

論文コード(年代順)

研究デザイン 介入 /治療 結 果 エビデンス

レベル #12 (う蝕 / TH or う蝕 /AL)and(診断 / TH or 診断 /AL)

#13 (う蝕 / TH or う蝕 /AL)and( 診断 / TH or 診断 /AL)and 基準 /AL

#14 #12 or #13#15 #11 and #14#16 (決定樹 / TH or 決定樹 /AL)#17 (治療 / TH or 治療 /AL)and 決定 /AL#18 切削 / AL and 介入 /AL#19 切削 / AL#20 #18 or #19#21 (う蝕 / TH or う蝕 / AL)and 進行 / AL

#22 #11 and #16#23 #11 and #17#24 #11 and #20#25 #11 and #21#26 #15 and #21#27 #15 and #20#28 #22 or #23 or #26 or #27#29 幼弱 /AL and(永久歯列 / TH or 永久歯 /

AL)#30 (う蝕 / TH or う蝕 /AL)and 病変 /AL and

進行 /AL#31 #28 or #29 or #30

 検索結果:216 件

文献1) 五十嵐賀世,大山 篤,佐々木好幸,寺岡加代,豊島義博,野村義明,花崎友香,山田里奈.初期う蝕に対

する切削処置の時期決定に関する evidence に基づいたアプローチ.歯界展望.2000; 95: 56-64.2) 大山 篤.切削治療のタイミング-隣接面う蝕について.デンタルダイヤモンド増刊号,新・MI 臨床&接着修復.

東京:デンタルダイヤモンド ; 2002, 44-9.3) Foster LV. Three year in vivo investigation to determine the progression of approximal primary carious

lesions extending into dentine. Br Dent J. 1998; 185: 353-7.4) Traebert J, Marcenes W, Kreutz JV, Oliveira R, Piazza CH, Peres MA; Brazilian dentists’ restorative treatment

decisions. Oral Health Prev Dent. 2005; 3: 53-60.5) Espeli I, Tveit AB, Mejare I, Sundberg H, Hallonsten AL. Restorative treatment decisions on occlusal caries in

Scandinavia. Acta Odontol Scand. 2001; 59: 21-7.6) Mejare I, Sundberg H, Espelid I, Tveit B. Caries assessment and restorative treatment thresholds reported by

Swedish dentists. Acta Odontol Scand. 1999; 57: 149-54.7) Elderton RJ. Overtreatment with restorative dentistry : when to intervene? Int Dent J. 1993; 43: 17-24.8) Gordan VV, Bader JD, Garvan CW, Richman JS, Qvist V, Fellows JL, Rindal DB, Gilbert GH. DPBRN Collaborative

Group: Restorative treatment thresholds for occlusal primary caries among dentists in the Dental Practice-Based Research Network. JADA. 2010; 141: 171-84.

9) Gordan VV, Garvan CW, Heft MW, Fellows JL, Qvist V, Rindal DB, Gilbert GH. DPBRN Collaborative Group:Restorative treatment thresholds for interproximal primary caries based on radiographic images : finding from the Dental Practice-Based Research Network. Gen Dent. 2009; 57: 654-63.

10)Baraba A, Anic I, Domejean-Orliagurt S, Espelid I, Tveit Ab, Miletic I. Survey of Croatian dentists' restorative treatment decision on approximal caries lesions. Croat Med J. 2010; 51: 509-14.

11)Kakudate N, Sumida F, Matsumoto Y, Manabe K, Yokoyama Y, Gilbert GH, Gordan VV. Restorative treatment thresholds for proximal caries in dental PBRN. J Dent Res. 2012; 91: 1202-8.

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

CQ

7

8

91

第2章 ガイドライン本論

3.中等度の深さの象牙質う蝕におけるう蝕の除去範囲

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ7 歯質の硬さや色は、除去すべきう蝕象牙質の診断基準となるか。

CQ8 う蝕象牙質の除去にう蝕検知液を使用すべきか。

CQ 7 歯質の硬さや色は、除去すべきう蝕象牙質の診断基準となるか。

【 推奨 】硬いう蝕象牙質は軟らかいう蝕象牙質に比べ、細菌数が有意に少ない(エビデンスレベル「Ⅴ」)。一方、濃く着色したう蝕象牙質を除去すると、細菌感染のない「飴色」ないし「亜麻色」の透明層となる(エビデンスレベル「Ⅴ」)。よって、鋭利なスプーンエキスカベータまたは低回転のラウンドバーを用い、歯質の硬さや色を基準にしてう蝕象牙質を除去することが推奨される(推奨の強さ「C1」)。

CQ 8 う蝕象牙質の除去にう蝕検知液を使用すべきか。

【 推奨 】う蝕象牙質を削除するにあたり、う蝕検知液の染色性を指標にすることは、除去すべきう蝕病変部を識別するうえで有用である(1%アシッドレッド・プロピレングリコール溶液:エビデンスレベル「Ⅴ」、1%アシッドレッド・ポリプロピレングリコール溶液:エビデンスレベル「Ⅵ」)。よって、う蝕象牙質の除去にう蝕検知液の使用を推奨する。(推奨の強さ「B」)

文献の抽出

CQ7CQ8 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1978 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 10 月 23 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 10 月 23 日

以上のデータベース検索より、PubMed および医学中央雑誌からそれぞれ 313 と 258 文献が抽

出された。それらの抄録より、う蝕除去に関するヒト臨床研究のうち、システマティックレビュー、

ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、ケースシリーズおよび一部の基礎研究を選択した結

果、エビデンスとして採用する可能性のある 19 論文(英語 13 件、日本語6件)に絞られた。これ

らの 19 論文と関連する論文として選択された7編(英語4件、日本語3件)を加えた計 26 論文

をエビデンスとして採用する可能性のある論文とした。そして、最終的に選択された6論文を精読

し、研究デザインと質に基づいてエビデンスレベルを確定して CQ に対するエビデンスとして採用し

た。なお、CQ の「推奨」の最後に、エビデンスとして採用した論文の構造化抄録を記載した。

背景・目的

う蝕除去は日常的に臨床で行われる治療法であるにもかかわらず、除去すべきう蝕象牙質の客観

的な診断基準が確立されていない 1)。そのため多くの臨床家は、術者の経験や手指の感覚に従っ

て主観的基準によって、う蝕象牙質を除去しているのが一般的であると思われる。

象牙質う蝕では脱灰による軟化が最も先行し、着色がこれに続き、細菌侵入が最も遅れることが

報告されている 2)。したがって、着色前縁と細菌侵入の前縁が近接している慢性う蝕の場合は、着

色したう蝕象牙質を除去すれば、感染象牙質を確実に除去することが可能である 2)。しかし、着色

した硬いう蝕象牙質には細菌が残存しているが臨床上問題になるほどの細菌数ではないので、着色

した硬いう蝕象牙質を残置してよいとする報告もあり 3-5)、着色しているが硬いう蝕象牙質を除去す

べきか否かについては現在のところ合意が得られていない 6)。

一方、急性う蝕では着色が著明ではなく、軟化の前縁と細菌侵入の前縁が離れているため 2)、着

色や硬さを指標に感染象牙質のみを除去し、細菌侵入のない層を保存することは困難である。さら

に総山ら 7)は、軟化したう蝕象牙質は、細菌感染があり再石灰化不可能で知覚がない「う蝕象牙

質外層」と、細菌感染がなく再石灰化可能で知覚のある「う蝕象牙質内層」の2層からなることを

報告した。そしてう蝕除去に際し、この再石灰化可能なう蝕象牙質内層は保存すべきであると指摘

している。

しかし、う蝕象牙質内層および外層はどちらも着色が薄く軟らかいので、色や硬さを指標に2層

を識別することはできない。そこで総山らはこれら2層を客観的に識別するため、1%アシッドレッ

ドのプロピレングリコール溶液からなるう蝕検知液を開発した 7-9)。開発当初、染色されるう蝕象牙

質はすべて除去するよう指示されていたが、染色部位をすべて除去すると過剰切削となることを指

摘する報告も多く3-5,10-12)、最近では淡いピンクに染色されるう蝕象牙質は残置するよう勧められて

いる。しかし、肉眼的に “ 淡いピンク ” という色調を判定する場合、主観に左右されることは否定で

きない 13)。そこで、従来のプロピレングリコール(分子量= 76)より大きい分子量のポリプロピレ

ングリコール(分子量= 300)を基材に用い、検知液の組織浸透性を小さくすることにより、う蝕

象牙質外層のみを染色し内層は染色しないとする、1%アシッドレッドのポリプロピレングリコール

溶液からなるう蝕検知液も開発されている 14-17)。

しかし、う蝕検知液の有効性を危惧する歯科医師も依然として多いようであり、また、硬さの識

別が困難な高速切削器具を多用したう蝕除去も依然として行われているようである。したがって、除

去すべきう蝕象牙質の診断基準として、う蝕検知液の染色性やう蝕象牙質の硬さ・色は有効である

か否かについて整理し、治療指針を示す必要がある。

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92

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

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93

第2章 ガイドライン本論

解 説

う蝕象牙質の硬さや色およびう蝕検知液への染色性は、除去すべき感染象牙質の除去基準として

有効であることが複数の臨床研究・基礎研究で示されている。

Kidd ら 4)は、修復処置を必要として来院した患者の永久歯 564 歯(初発う蝕:161 歯、再修復:

403 歯)に対して、う窩を開拡後、エナメル象牙境から象牙質試料を採取・培養し、その細菌数と

採取部位の臨床所見(う蝕象牙質の硬さ、色、湿潤状態)との関連性について調べた。それによ

ると、軟らかく湿潤なう蝕象牙質の総細菌数、mutans streptococci(MS)数、lactobacilli(LB)

数は、軟らかく乾燥したう蝕象牙質より多く(P < 0.001)、軟らかく乾燥したう蝕象牙質のそれらは、

硬く乾燥したう蝕象牙質より多かった(P < 0.01)。よって、硬いう蝕象牙質は、軟らかく湿潤なう

蝕象牙質に比べ有意に細菌数が少ないことが確認された(エビデンスレベル「Ⅴ」)。う蝕象牙質

の色に関しては、着色した硬いう蝕象牙質の総細菌数は着色のない硬いう蝕象牙質より多い(P <

0.05)が、着色の有無にかかわらず 100 CFU/mL 以下であること、MS 数・LB 数は、硬いう蝕象牙

質では着色がある場合とない場合との間に有意差がないことから、着色した硬いう蝕象牙質を除去

する必要はないと述べている。

一方、福島 11)は、中等度のう蝕を有するヒト臼歯に対し、口腔内または抜去直後(生活歯 10 歯・

新鮮抜去歯 10 歯)に歯質の着色をガイドにう蝕除去を行い、着色状態と細菌侵入との関連性につ

いて調べた。それによると、低回転のラウンドバーに抵抗性を示す程度に硬くても、着色している

部分は細菌感染のある脱灰層であり、このような着色部を除去すると病理組織学的に細菌の存在が

認められない透明層となった。よって、褐色や黒色に濃く着色した部位を除去することにより、細

菌感染のない「飴色」ないし「亜麻色」の透明層(JIS の慣用色名 http://www.colordream.net/

jiscolor1.htm〈検索日 2014 年 5 月〉の 55 番黄土色に近い色)となることを確認している(エビデ

ンスレベル「Ⅴ」)。

「硬いが濃く着色したう蝕象牙質」を除去すべきか否かについては意見が分かれるところであるが、

残置させた細菌がどのような経過をたどるかについて十分には明らかにされていないため、硬いが

濃く着色したう蝕象牙質を残置してよいか否かについて指針を示すに足る明らかな根拠を得ること

ができなかった(p.95 参考資料①)。

硬さをガイドにう蝕除去を行う際に有効な器具として、スプーンエキスカベータとラウンドバーが

ある。清水ら 18)は、刃先が鋭利なスプーンエキスカベータを用いて、できる限りう蝕象牙質を除去

すると、残存象牙質のヌープ硬さは 24.1 ± 3.9KHN になるのに対し、臨床で数年間使用した鈍な

刃先のスプーンエキスカベータの場合は 6.7 ± 2.0KHN であったと報告している。また、佐野 12)は、

中等度の初発象牙質う蝕を有するヒト抜去歯を用い、細菌侵入度と象牙質硬さとの関係について調

べ、細菌侵入領域は、ヌープ硬さ 20KHN 以内の領域であったことを認めている。よって、う蝕除去

にスプーンエキスカベータを使用する場合、刃先が鋭利なものを使用する必要があることが確認さ

れた(エビデンスレベル「Ⅵ」)。ラウンドバーを用いてう蝕象牙質の除去を行う場合は、①回転し

ている様子が目でわかる程度の回転数で削除する、②う蝕の大きさに合わせてラウンドバーを選択

し、健全象牙質にバーが触れないよう注意する、③使い古されたバーは切れ味が悪く、切削面に

圧力が加わる原因となるので使用しない、などの注意が必要である 19)。

臨床において、歯質の硬さはしばしば探針や WHO プローブによる触診(感触)で評価される。

Maltz ら 20)は、臨床研究において、ラウンドバーでう蝕象牙質を削除後にプローブを用いて硬さを

評価し、う蝕象牙質は完全に削除されたと判定したが、培養すれば多くの症例で細菌が検出され

たと報告している。しかし、探針やプローブで歯質の硬さを調べる方法は、術者の主観や使用器具

の先端形状の違いによって、その評価が大きく左右されるので、再現性に乏しく信頼性は高いとは

言えない。一方、新しいラウンドバーや鋭利なスプーンエキスカベータを使用し、歯質の硬さや色

を基準にう蝕象牙質の削除を行なうと、初めはう蝕象牙質片が大きな塊として容易に除去されるが、

歯質が硬くなると切削抵抗が増し、やがて削片は粉体状になる。この時点で、特にエキスカベータ

の場合は、それ以上の切削が困難となり、象牙質は光沢感のある「飴色」あるいは「亜麻色」を

呈する。

歯質の硬さや色を基準に行うう蝕除去は、高速切削器具を用いたう蝕除去に比べ、時間効率が

悪いかもしれない。しかし後者は、う蝕の取り残し、あるいは透明層・健全歯質の過剰切削を増大

させる可能性が高く、その結果、再発う蝕や術後性知覚過敏・歯髄傷害を惹起する危険性が高い。

健全歯質の保存 21)・歯髄保護の重要性 22)が認識されている現在、歯質の硬さや色をガイドに慎

重にう蝕除去を行い、健全歯質を温存し歯髄傷害を可及的に回避することの意義は大きい。さらに、

このとき用いられるラウンドバーやスプーンエキスカベータは臨床で日常的に使用されている器材

であるため、これらの一般臨床への導入は容易である。

う蝕検知液に関しては、1%アシッドレッドのプロピレングリコール溶液からなるう蝕検知液(CD)

について、その染色性と細菌侵入との関連性を調べた福島 11)の報告がある。すなわち、中等度の

う蝕を有するヒト臼歯に対し、口腔内または抜去直後に(生活歯 10 歯、新鮮抜去歯 10 歯)、う蝕

検知液(CD)をガイドにう窩側から順次、染色とう蝕象牙質の削除を繰り返した。その結果、う窩

の深部へいくに従ってう蝕象牙質の染色性は赤染、ピンク染、淡いピンク染、不染へと変化し、赤

染部および一部のピンク染部では細菌の残存が認められたのに対し、淡いピンク染部および不染部

では病理組織学的に細菌の存在を認めなかった。また、淡いピンク染部は脱灰層と透明層からな

る象牙質であった(エビデンスレベル「Ⅴ」)。

さらに Oikawa23)らは、う蝕を有するヒト抜去歯に対し、2種のう蝕検知液(CD および CC:1%

アシッドレッドのポリプロピレングリコール溶液からなるう蝕検知液)に不染になるまでう蝕除去を

行い、除去面の SEM 観察、縦断面の細菌侵入度検査およびマイクロビッカース硬さ(MVH)測定

を行った。同様に、触診をガイドにしたう蝕除去についても観察を行った(TS)。その結果、SEM

観察において、TS 群では細管がすべて結晶様物質で満たされていたのに対し、CD 群では細管が

完全に開口しており、CC 群では約半数の細管が結晶様物質で満たされていた。TS 群、CC 群、CD

群の MVH 値はそれぞれ 25.5 ± 7.8、32.7 ± 8.2、44.7 ± 6.6 であり、3者間に統計学的有意差があっ

た(P<0.001)。さらに、3種のいずれの除去法でも、う蝕除去後の残存歯質において病理組織学

的に細菌は確認されなかった(エビデンスレベル「Ⅵ」)。

よって、1%アシッドレッドのプロピレングリコール溶液からなるう蝕検知液(カリエスディテク

ター,クラレノリタケデンタル)に淡いピンク染(p.95 参考資料②)になるまで、あるいは1%アシッ

ドレッドのポリプロピレングリコール溶液からなるう蝕検知液(カリエスチェック,日本歯科薬品)に

不染になるまでう蝕除去を行うと、病理組織学的には感染象牙質を除去できるとともに、う蝕象牙

質内層および透明層を保存できることが確認された。一方、高橋ら 24)は、レーザー照射がう蝕除

去後の残存細菌に与える影響を臨床的に調べる研究のなかで、う蝕検知液(カリエスディテクター)

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

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95

第2章 ガイドライン本論

で淡いピンク染になるまでう蝕象牙質を削除したのち、淡いピンク染の象牙質を採取し、残存細菌

の有無、細菌数、細菌種について培養法を用いて検索した。その結果、残存細菌の有無について

は、29 歯中 20 歯(69%)の試料から細菌が検出され、平均細菌数は 319 CFU/mL であった(エ

ビデンスレベル「Ⅲ」)。以上のように、細菌の有無を病理組織学的に調べた結果と、細菌学的に

調べた結果に不一致が生じるのは、病理組織学的検索に比べ細菌学的検索では、きわめてわずか

の細菌でも検出されるためと思われる。わずかに残った細菌が、将来的に何らかの問題を惹起する

かどうか議論の余地があるが、検知液を使用すれば、う蝕象牙質のうちの細菌感染した層のほぼす

べてが、除去されると考えても間違いはない。

臨床経験豊かな歯科医師では、う蝕検知液を使用しなくても確実にう蝕を除去することができる

かもしれない。しかし、視診・触診にてう蝕除去完了と判定した段階で、う蝕検知液を用いて染色

すると、臨床実習の歯学部学生では 40 〜 98%にう蝕の取り残しが、経験年数 15 年の歯科医師で

も 13%に取り残しがあったことが報告されている 25)。う蝕検知液による染色性の判定も主観に左右

されることが指摘されてはいるが 13)、現在のところ、う蝕検知液の染色性以上に客観性をもって除

去すべきう蝕象牙質を判定できる方法はない。また、う蝕検知液をガイドにう蝕象牙質外層を削除

する処置は、多くの症例で局所麻酔を必要とせず、無痛または軽度の疼痛でう蝕除去を完了するこ

とが可能であり 26,27)、患者の肉体的・精神的負担も小さい。さらにう蝕検知液は比較的安価な材料

であり、術式も非常に簡単であることから、一般臨床への導入は容易であると考えられる。

う蝕検知液の使用は、過去に保険収載(10 点)されていたが、現在は “ 充形 ” や “ 修形 ” に包

括されている。歯科医師が臨床経験を積めば、いずれは歯質の硬さや色だけをガイドにして、過不

足なくう蝕象牙質を削除できるようになるかもしれない。しかし、そのためにはかなりの歳月と経験

を要することを考えた場合、歯科学生や臨床研修医だけでなくすべての臨床医にとって、感染歯質

除去におけるう蝕検知液の有効性は明らかであり、決して “ 充形 ” や “ 修形 ” 処置のなかに包括さ

れる形で過小評価されるべきものではない。

以上のことより、鋭利なスプーンエキスカベータまたは低回転のラウンドバーを用い、歯質の硬

さや色を基準にしてう蝕象牙質を除去するとともに(推奨の強さ「C1」)、う蝕検知液の染色性を指

標にすることは、除去すべきう蝕象牙質の識別に有効であることから、う蝕検知液を使用することが

推奨される(推奨の強さ「B」)。

参考資料①

着色しているが硬いう蝕象牙質について『エビデンス(根拠)とコンセンサス(合意)に基づくガイドライン』を作成すべく、う蝕治療ガ

イドライン作成委員会において、濃く着色しているが硬いう蝕象牙質を残置してよいか否かについ

て合議した。その結果、本委員会の委員(10 人)中、歯科医師である委員(9人)全員が残置す

ることを合意できた色調は図1の C であった。図1の A ないし B の色調に着色した象牙質の場合は、

残置するとする委員4人、すべて除去するとする委員5人であり、濃く着色した硬い象牙質への対

応は委員間を二分する結果であった。したがって、本ガイドライン作成委員会において、濃く着色

した硬い象牙質を残置して良いか否かについて合意を得ることができなかった。この分野における

今後の臨床研究に期待する。

参考資料②

う蝕検知液についてう蝕検知液の使用を推奨する根拠として採用した論文のエビデンスレベルは「Ⅴ」または「Ⅵ」

であり、本来推奨の強さは「C1」である。しかし、確実に感染歯質を除去し過剰切削を回避するた

めには、う蝕検知液の染色性以上の客観的診断基準は現在のところないことから、本ガイドライン

作成委員会で合議の結果、う蝕検知液の使用に対する推奨グレードを、「C1」から「B」にアップグレー

ドするとの合意に達した。また、1%アシッドレッドのプロピレングリコール溶液からなるう蝕検知

液(カリエスディテクター)に関して、委員全員が合意できた除去基準を図2に示した。

図1 う蝕象牙質の着色状態(Fejerskovら 28)より引用、改変)

図2 1%アシッドレッドのプロピレングリコール溶液を成分とするう蝕検知液によって染色された象牙質(高津ら26)より引用、一部改変)

A B C D

A B

除去する 除去しない

c D E F G

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96

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

CQ

7

8

97

第2章 ガイドライン本論

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ7、CQ8)(エビデンスレベルが高い順に記載)

う蝕象牙質除去後の残存細菌に Er:YAGレーザーが与える影響について高橋雄介,吉岡靖介,朝日陽子,永山智崇,野杁由一郎,林美加子日歯保存誌.2013;56:1-8.

目 的 :う蝕除去後の残存象牙質に対する Er:YAG レーザーの照射が、残存細菌に与える影響について検討すること。

研究デザイン :非ランダム化比較試験

研究施設 :大阪大学

対 象 : う蝕治療が必要な患歯 57 歯(前歯隣接面う蝕、臼歯咬合面ならびに隣接面う蝕)より採取された Er:YAG レーザー照射または非照射う蝕象牙質サンプル。

介 入 :う蝕検知液にて象牙質が淡いピンクに染色されるまでう蝕象牙質を除去した後、レーザー照射群(28 歯)では Er:YAG レーザーをう蝕除去後の残存象牙質に照射し、同部の象牙質採取を行い、定性的かつ定量的な細菌学的検索に供した。非照射群(29 歯)では、レーザー照射を行わずにレーザー照射群と同様の手順で実験を行った。また、一部のサンプルでは残存細菌の生死について共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。

主要評価項目 : 臨床所見、細菌培養による残存細菌の有無および細菌数、形態学的観察ならびに生化学的性状試験による細菌種の同定、残存細菌の生死に関する共焦点レーザー顕微鏡観察

結 果 : レーザー照射群・非照射群とも、術後に臨床症状が出現した症例は認めなかった。また、非照射群では 69% のサンプルから細菌が検出されたのに対し、レーザー照射群では 43% のサンプルから細菌が検出され、照射群では有意に残存細菌の検出率が低下していた(p < 0.05)。一方、細菌が検出されたサンプルで細菌数について評価したところ、非照射群と比較してレーザー照射群では検出された細菌数が有意に減少しており(p < 0.05)、このことは共焦点レーザー顕微鏡による観察でも確認された。検出された細菌種については、レーザー照射群と非照射群の間で明確な違いは認められなかった。

結 論 :う蝕象牙質除去後の残存細菌に対する殺菌効果について、低出力 Er:YAGレーザーの照射は有用であることが明らかとなった。

Criteriaforcariesremovalattheenamel-dentinejunction:aclinicalandmicrobiologicalstudy.KiddEAM,RickettsDNJ,BeightonDBrDentJ.1996;180:287-91.

目 的 :エナメル象牙境のう蝕象牙質の硬さや色に関する臨床所見とその組織中の細菌学的性状との関連を調べること。

研究デザイン :ケースシリーズ

研究施設 :Guy's Hospital and King's College School of Medicine and Dentistry, UK

対 象 :修復処置を必要として Guy's Hospital の歯科を受診した患者の 564 窩洞(初発う蝕:161・再修復 : 403)より採取されたう蝕象牙質試料。

介 入 :う窩の開拡後、滅菌ラウンドバー(#3)にて EDJ の組織を採取し培養するとともに、採取部位の硬さを、「hard」・「soft」、湿潤状態を「wet」・「dry」、色を「着色あり」・「着色なし」に分類し、これら臨床所見と細菌学的性状の関連について調べた。

主要評価項目 : サ ン プ ル 採 取 部 位 の 硬 さ・ 色 の 性 状、 サ ン プ ル 中 の 総 細 菌 数、mutans streptococci (MS)数、lactobacilli (LB)数、および総細菌数に対する MS(% MS)および LB(% LB)の割合。

結 果 : 軟らかいう蝕象牙質の総細菌数は、硬い象牙質の総細菌数より多い(P < 0.001)。湿潤で軟らかいう蝕象牙質は、軟らかく乾燥したう蝕象牙質より、総細菌数が多く(P < 0.001)、MS 数、LB 数、% LB も多い(P < 0.01)。着色のある硬いう蝕象牙質は着色のない硬いう蝕象牙質より総細菌数は多い(P < 0.05)が、硬い象牙質の MS 数、LB 数、% LB は、着色の有無によって有意差はなかった。さらに、着色した軟らかいう蝕象牙質、着色した硬いう蝕象牙質、および着色のない硬いう蝕象牙質の総細菌数(Log 10CFU)はそれぞれ 2.94、1.82、1.38 であり、これはそれぞれの試料あたり約 1,000、90、40 の細菌が存在することを意味することから、着色した硬いう蝕象牙質と着色のない硬いう蝕象牙質の間の総細菌数の差は臨床的に意味のある差ではない。% MS は、う蝕象牙質の状態によっ

て有意差はなかった。

結 論 :臨床所見と細菌学的性状との間には有意な相関があった。感染を最小にするために、軟化象牙質はすべて除去する必要がある。硬い着色象牙質は残しても問題ない。

接着性レジンのう蝕象牙質内浸入に関する研究福島正義口腔病会誌.1981;48(4):362-85.

目 的 :う蝕象牙質に対するう蝕検知液の染色所見およびう蝕象牙質の着色状態と残存象牙質の組織学的および細菌学的評価との関連性について検討すること。

研究デザイン :ケースシリーズ

研究施設 : 新潟大学

対 象 :中等度の深さのう蝕を有するヒト臼歯 20 本(生活歯 10 本、新鮮抜去歯 10 本)

介 入 :う窩の開拡後、低回転のラウンドバー(#1 〜 #3)を用い、う蝕検知液(1%アシッドレッドのプロピレングリコール溶液)でピンク染または不染状態になるまでう蝕除去を繰り返した。自然着色部は、う蝕検知液に染まりにくく低回転のラウンドバーに対して抵抗性のある層は残置、または一部のケースは自然着色部を完全除去した。

主要評価項目 :①未脱灰研磨標本の光線透過性・エックス線透過性により鑑別された脱灰層・透明層、②細菌残存の有無

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

CQ

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第2章 ガイドライン本論

結 果 :①検知液染色部をすべて除去すると脱灰層が残存しない透明層となり、細菌も存在しなかった。

②検知液にごく薄くピンクに染色される層を残置すると、少量の脱灰層と透明層からなる層となり、細菌の存在も確認されなかった。

③検知液に薄くピンクに染色される層を残置すると、脱灰層と透明層からなる層となり、細菌がわずかに確認されるが、ほとんどの脱灰層に細菌は確認されなかった。

④硬い自然着色部を残置すると、脱灰層となり、細菌も存在した。⑤自然着色部をすべて除去すると、脱灰層のない透明層となり、細菌の存在も

確認されなかった。

結 論 :接着性レジン修復において、検知液に淡いピンク染の細菌感染のない脱灰層を残置させることが有効である。

AnExperimentalCariousDetectortoStaintheCariouslnfectedDentin.OikawaM,KusunokiM,ItohK,HisamitsuHDentalMedRes.2008;28(1):7-12.

目 的 :硬化象牙質を染色しない、1%アシッドレッドのポリプロピレングリコールからなる試作う蝕検知液を開発し、この検知液をガイドにう蝕除去を行った象牙質中の細菌感染の有無を確認する。

研究デザイン :基礎研究

研究施設 :昭和大学

対 象 :う蝕を有するヒト抜去歯。

介 入 :う蝕を有するヒト抜去歯に対し、①1%アシッドレッドのポリプロピレングリコールからなる試作う蝕検知液(CC)、または、②1%アシッドレッドのプロピレングリコール溶液からなるう蝕検知液(CD)に染色しなくなるまで、低速スチールラウンドバーを用いてう蝕除去を行い、う蝕除去完了面の SEM 観察を行うとともに、縦断面をグラム染色し、光学顕微鏡下にて細菌侵入度の観察を行った。また、う蝕の中央で長軸方向に切断した切断面に対し、歯髄側壁からう窩の窩底部に向かってマイクロビッカース硬さ(MVH)測定を行った後に、う蝕検知液 CD(n=15)および CC(n=15)に染色しなくなるまでう蝕除去を行い、除去完了面の MVH を決定した。コントロールとして、触診にてう蝕除去を行った試料(TS)に対しても、同様の方法で SEM 観察、細菌侵入度の光顕観察および MVH 測定を行った。

主要評価項目 :SEM 観察による細管口の状態、象牙質中の細菌侵入度、MVH

結 果 :SEM 観察において、TS 群では細管がすべて結晶様物質で満たされていたのに対し、CD 群では細管が完全に開口しており、CC 群では約半数の細管が結晶様物質で満たされていた。TS 群、CC 群、CD 群の MVH 値はそれぞれ 25.5 ± 7.8、32.7 ± 8.2、44.7 ± 6.6 であり、3者間に統計学的有意差があった(P < 0.001)。また、CD 群の MVH 値は、健全歯質と同等であった。さらに、3種のいずれの除去法でも、う蝕除去後に細菌は確認されなかった。

結 論 :試作う蝕検知液(CC)の染色性をガイドにう蝕除去を行うと、感染象牙質は完全に除去できるとともに、硬化象牙質を温存することができる。

スプーンエキスカベータに関する研究 第2報 スプーンエキスカベータの刃先のシャープネスと剔削能力との関係清水明彦,鳥井康弘日歯保存誌.1985;28(2):690-4.

目 的 :鋭利な刃先を有するスプーンエキスカベータ(以後、エキスカと略す)と鈍な刃先のエキスカを用いて軟化象牙質を剔削し、残存象牙質の硬さを比較検討する。

研究デザイン :基礎研究

研究施設 :大阪大学

対 象 :隣接面歯頚部に象牙質に達するう蝕を有するヒト抜去歯 10 本(ホルマリン中に保存)。

介 入 :う蝕部分をカッターナイフで左右に2等分し、一側の軟化象牙質を未使用の鋭利な刃先のエキスカを用い、他の半側を数年間臨床で使用した鈍な刃先のエキスカを用いて剔削した。その後、歯軸方向に磨り減らして縦断面を作成し、残置象牙質表層から 50 μm 歯髄側の部位のヌープ硬さ測定を行った。また、剔削終了までの時間も測定した。

主要評価項目 :う蝕除去後の残存象牙質のヌープ硬さ、う蝕除去完了までの所要時間

結 果 :う蝕象牙質除去後の残存象牙質の硬さは、エキスカ〈鋭〉で 24.1 ± 3.9KHN、エキスカ〈鈍〉で 6.7 ± 2.0KHN であった。軟化象牙質 1 カ所の剔削終了までの所要時間は、エキスカ〈鋭〉で 40 秒、エキスカ〈鈍〉で 53 秒であった。

結 論 :鋭利な刃先を有するエキスカの切削能は刃先の鈍なエキスカに比べ有意に優れていた。

齲蝕検知液による齲蝕象牙質の染色性と構造について―齲蝕除去法の再検討を目指して―佐野英彦口腔病会誌.1987;54(1):241-70.

目 的 :①半切されたままの断面、半切された面を鏡面研磨した断面およびう窩切削面の検知液染色性の比較、②上記染色性に対応した象牙質の表面微細構造との関係、③う蝕象牙質の色調・検知液染色性・ヌープ硬さ・細菌侵入度との関係を検討すること。

研究デザイン :基礎研究

研究施設 :東京医科歯科大学

対 象 :咬合面または軸側面に中等度の初発象牙質う蝕を有するヒト抜去歯 160 本。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

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第2章 ガイドライン本論

CQ 7 歯質の硬さや色は、除去すべきう蝕象牙質の診断基準となるか。CQ 8 う蝕象牙質の除去にう蝕検知液を使用すべきか。

ケースシリーズ論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入 /治療 結 果エビデンスレベル

高橋ら 2013 日本

ケースシリーズ

う蝕治療が必要な患歯 57 歯(前歯隣接面う蝕、臼歯咬 合面ならびに隣接面う蝕)より採取された Er:YAGレーザー照 射または非照射う蝕象牙質サンプル

う蝕検知液にて象牙質が淡いピンクに染色されるまでう蝕象牙質を除去した後、レーザー照射群(28 歯)では、Er:YAG レ ーザーをう蝕除去後の残存象牙質に照射し、同部の象牙質採取を行い、定性的かつ定量的な細菌学的検索に供した。非照射群(29 歯)では、レーザー照 射 を行 わず にレ ーザー照射群と同様の手順で実験を行った。また、一部の試料では残存細菌の生死について共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。

①レーザー照射群・非照射群とも、術後に臨床症状が出現した症例は認めなかった。

②非照射群では 69%の試料から細菌が検出されたのに対し、レーザー照射群では 43%の試料から細菌が検出され、照射群では有意に残存細菌の検出率が低下していた(p < 0.05)。

③細菌が検出された試料で細菌数について評価したところ、非照射群と比較してレーザー照射群では検出された細菌数が有意に減少しており(p < 0.05)、このことは共焦点レーザー顕微鏡による観察でも確認された。

④検出された細菌種については、レーザー照射群と非照射群の間で明確な違いは認められなかった。

Kiddet al.1996英国

ケースシリーズ

修 復 処置を必 要とする患者の 564 窩洞(初発う蝕:161・再修復:403)より採取されたう蝕象牙質試料:849サンプル

う窩の開拡後、EDJ のう蝕象牙質を採取し細菌培養。採取部位の硬さを、「hard」・

「soft」、湿潤状態を「wet」・「dry」、色を「着色あり」・「着

色なし」と判定分類。これらの臨床所見と、採取部 位の 細 菌学 的 性状を比較。

①総細菌数はs o f t & w e t > s o f t & d r y >hard&dry着 色 あ り &soft > 着 色 あ り&hard >着色なし &hard(統計学的有意差あり)

②mutans streptococci 数、lactobacilli数、総細菌数に対する lactobacilliの占め る 割 合 は、soft&wet >soft&dry > hard&dry(統計学的有意差あり)、着色あり &hard ≒着色なし &hard

福島1981日本

ケースシリーズ

中等度の咬合面象牙質う蝕を有するヒト臼歯( 生 活 歯 10 本・新鮮抜去歯 10 本)

う窩の開拡後、低回転のラウンドバーでう蝕検知液をガイドに薄いピンク染または不染状態になるまでう蝕除去を繰り返す。着色部は、低回転のラウンドバーに対して抵抗性のある層は残置、または一部のケースは着色部をすべて除去。レジン充填後、長軸方向に研磨薄片試料を作成し、顕微エックス線撮影、細菌染色を行った。

①検知液にごく薄いピンク染を残置:脱灰層少+透明層 細菌の存在なし

②検知液に薄いピンク染を残置:脱灰層やや多い+透明層 細菌わずかに確認されるが、ほとんどの脱灰層に細菌存在せず

③硬い着色部を残置:脱灰層。細菌の存在あり(約 1.4mm の深さまで)

④着色部をすべて除去:透明層。脱灰層なし 細菌の存在なし

介 入 :う蝕中央部を通り歯軸に平行にう蝕歯を半切し、未研磨半切面の SEM 観察、他の半切面を鏡面研磨し、う窩の中央部およびその両側に平行な線上を、表層部から 50 μm ごとに歯髄までヌープ硬さ測定。さらに中心線上 400 〜 500 μm ごとに象牙細管と直行する線を設定し、その線上を 50 μm ごとに健全部に至までヌープ硬さを測定。その後、断面を約 0.5mm 削除後、同様な部位のヌープ硬さ測定を行った。ヌープ硬さ測定後断面を検知液にて染色し、各ヌープ硬さと染色性の関係を検索。臨床に即してう蝕検知液(1%アシッドレッドのプロピレングリコール溶液)を使ってう蝕除去を行い、染色状態が赤染、ピンク染、淡いピンク染、不染状態の試料を作成。削除表面の顕微鏡観察の後、う窩中央で歯軸に平行に半切・鏡面研磨し、上述と同様なヌープ硬さ測定。各ヌープ硬さ測定が終了した試料の連続切片を作成し、Taylor 変法によるグラム染色を行い、光学顕微鏡下にて試片断面上での細菌侵入・分布を観察。

主要評価項目 :細菌侵入・分布状態、う蝕除去後の残存象牙質のヌープ硬さ、表面微細構造

結 果 :①う蝕検知液の染色部と不染部との境界は不明瞭。②う蝕検知液によるう蝕象牙質染色性を左右する要因は、基質の緻密性と象牙細管の開口状態。③う蝕象牙質は側方部では健全部に向かって硬さが急激に増加したが、う窩から歯髄に向かって軟化開始前縁まで漸次移行的に硬さが上昇した。④中等度のう蝕では軟化が最も先行し、う蝕検知液による染色前縁がこれに次ぎ、細菌侵入前縁は最も後方に位置した。⑤淡いピンク染部には細菌の残存は認められなかった。⑥中等度う蝕の細菌侵入領域は、自然着色の比較的濃い試片ではおおむねヌープ硬さ 20 以下の範囲にあり、比較的自然着色の淡い試片では、おおむねヌープ硬さ 10 以下の範囲にあった。

結 論 :う蝕検知液によるう蝕象牙質除去法については、さらに的確にして能率的な方法を考察する必要があろう。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

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第2章 ガイドライン本論

基礎研究論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入 /治療 結 果エビデンスレベル

Oikawaet al.2008日本

基礎研究

う蝕を有するヒト抜去歯

低 回 転 の ラウンドバーを用 い、 ① 試作う蝕 検 知 液

(CC)、②カリエスディテクター(CD)、③触覚(TS)をガイドにう蝕除去を行った。①②は完全に染まらなくなるまでう蝕除去を繰り返した。う蝕除去終了後、除去面のSEM 観察、縦断面の光顕による細菌学的観察およびマイクロビッカース硬さ(MVH)測定を行った。

① SEM 観察:TS 群:細管がすべて結晶様物質で 満たされていた。CD 群:細管が完全に開口していた。CC 群:半分ぐらいの細管が結晶様物質で満たされていた。

② MVH 測定:健全歯質≒ CD > CC > TS(P <0.001)

③除去後の残存象牙質中の細菌の存在:いずれの除去法でもう蝕除去後に細菌は確認されなかった。

佐野1987日本

基礎研究

咬合面または軸側面に中等度の初発象牙質う蝕を有するヒト抜去歯 160 本

う蝕中央部を通り歯軸に平行な切断面のヌープ硬さ測定後、ヌープ硬さ測定面に平行な連続切片を作成し、細菌の侵入度・分布を観察。

細菌侵入領域は、自然着色の比較的濃い試片ではおおむねヌープ硬さ 20 以下の範囲にあり、比較的自然着色の淡い試片では、おおむねヌープ硬さ 10 以下の範囲にあった。

清水ら1985日本

基礎研究

隣接面歯頚部に象牙質に達するう蝕を有するヒト抜去歯 10 本(ホルマリン中に保存)

う蝕部分半側の軟化象牙質を未使用の鋭利な刃先のエキスカを用い、他の半側を数年間臨床で使用した鈍な刃先のエキスカを用いて剔削した。う蝕除去後の試料縦断面について、残置象牙質表層から 50μm 歯髄側の部位のヌープ硬さを測定。

う蝕象牙質除去後の残存象牙質の硬さは、エキスカ<鋭>で 24.1 ± 3.9KHN、エキスカ<鈍>で 6.7 ± 2.0 KHNであった。

CQ 7 歯質の硬さや色は、除去すべきう蝕象牙質の診断基準となるか。CQ 8 う蝕象牙質の除去にう蝕検知液を使用すべきか。

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1978 〜 2013 年、検索日:2013 年 10 月 23 日)

#1   dental caries[MH]#2   infected carious dentin#3   carious affected dentin#4   outer carious dentin#5   inner carious dentin#6   soft carious dentin#7   #1 or #2 or #3 or #4 or #5 or #6#8   caries removal#9   caries detect solution#10 caries disclosing solution

#11 caries disclosing dye#12 caries detector dye#13 sealed restoration#14 #8 or #9 or #10 or #11 or #12 or #13#15 #7 and #14#16 ( (#15) AND "2009/1/23"[MHDA]-) Filters:

Humans; Clinical Trial; Randomized Controlled Trial; Comparative Study; Controlled Clinical Trial Sortby : PublicationDate

 検索結果:313 件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1983 〜 2013年、検索日:2013 年 10 月 23 日)

#1  う蝕 /TH or う蝕 /AL#2  感染象牙質 /AL#3  軟化象牙質 /TH or 軟化象牙質 /AL#4  軟化象牙質 /TH or う蝕象牙質 /AL#5  象牙質う蝕 /AL#6   #1 or #2 or #3 or #4 or #5

#7  う蝕検知液 /TH or う蝕検知液 /AL#8  (う蝕 /TH or う蝕 /AL)and 除去 /AL#9   #7 or #8#10 #6 and #9#11 #10 and(DT=2008 :2013 PT= 原著論文)

 検索結果:258 件

文献1) Banerjee A, Watson TF, Kidd EAM. Dentine caries : take it or leave it? Dent Update. 2000; 27: 272-6.2) 奥瀬孝一.ウ蝕象牙質の硬さと着色および細菌侵入度との関係.口腔病会誌.1964 ; 31 : 187-200.3) Kidd EAM, Joyston-Bechal S, Beighton D. Microbiological validation of assessments of caries activity during

cavity preparation. Caries Res. 1993; 27: 402-8.4) Kidd EAM, Ricketts DNJ, Beighton D. Criteria for caries removal at the enamel-dentine junction:A clinical and

microbiological study. Br Dent J. 1996; 180: 287-91.5) Fejerskov O, Kidd E, ed. Dental Caries: The disease and its clinical management. Second Edition.

Oxford:Blackwell Munksgaard; 2008; 367-83.6) 猪越重久.う蝕象牙質の削除は、どこまでか? 歯界展望.2004; 104: 75-81.7) 総山孝雄,高津寿夫,伊藤和雄,山内淳一,柴谷亭一郎.齲蝕検知液の新組成について.日歯保存誌.

1979; 22: 261-4.8) 寺嶋節子.ウ蝕象牙質二層の染別に関する研究.口腔病会誌.1970; 37: 279-86.9) Fusayama T. Clinical guide for removing caries using a caries-detecting solution. Quintessence Int. 1988;

19:397-401.10)Kidd EAM, Joyston-Bechal S, Beighton D. The use of a caries detector dye in cavity preparation. Br Dent J.

1989; 174: 245-8.

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104

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

9

105

第2章 ガイドライン本論

4.深在性う蝕における歯髄保護

クリニカル・クエスチョン(Clinical Question: CQ)

CQ9 コンポジットレジン修復に裏層は必要か。

CQ 9 コンポジットレジン修復に裏層は必要か。

【 推奨 】露髄はしていない深い窩洞を確実な接着によってコンポジットレジンで修復した場合、裏層の有無は術後の歯髄症状の発現に影響を及ぼさない(エビデンスレベル「Ⅱ」)。よって、深在性う蝕に対するコンポジットレジン修復に裏層は必要ない。(推奨の強さ「B」)

文献の抽出

CQ9 英語論文検索 :MEDLINE(Dialog)検索対象年 :1970 〜 2008 年検 索 日 :2008 年4 月 14 日

英語論文検索 :PubMed検索対象年 :2008 〜2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 15 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1983 〜2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 13 日

以上のデータベース検索より、MEDLINE、PubMed および医学中央雑誌からそれぞれ 266、110

と 106 文献が抽出された。それらの抄録より、永久歯の深在性う蝕に対する間接覆髄に関するヒト

臨床研究のうち、システマティックレビュー、ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、および

ケースシリーズを選択した結果、エビデンスとして採用する可能性のある 45 論文(英語 28、日本

語 17)に絞られた。これらの 45 論文を精読して、深在性う蝕に対するコンポジットレジン修復に

関する論文に絞ったうえで、研究デザインと質に基づいてエビデンスレベルを確定し採用した。また、

「推奨」の最後にエビデンスとして採用した論文の構造化抄録を記載した。

背景・目的

1960 〜 1970 年代において、裏層なしでコンポジットレジン修復を行うと歯髄刺激が出現すると

報告され、レジン材料の化学的毒性が懸念された 1)。さらに、象牙質にリン酸処理を施してコンポ

ジットレジン充填を行うと歯髄症状が増悪するとも報告され 2)、その原因として、リン酸の低い pH

11)福島正義.接着性レジンのウ蝕象牙質内浸入に関する研究.口腔病会誌.1981; 49: 362-85.12)佐野英彦.齲蝕検知液による齲蝕象牙質の染色性と構造について―齲蝕除去法の再検討を目指して―.口腔

病会誌.1987; 54: 241-70.13)岩見行晃,清水亜矢子,山本洋子,川上克子,伊藤祥作,高橋雄介,薮根敏晃,金子智之,恵比須繁之.う

蝕検知液を用いたう蝕除去の客観性についての臨床的評価.日歯保存誌.2004; 47: 716-22.14)伊藤和雄.確実な象牙質接着の理論と新しい齲蝕検知液「カリエスチェック」 EDTA, GM によるデンティンボ

ンディング理論の確立と新しい齲蝕検知液「カリエスチェック」.歯界展望.2004; 104: 910-23.15)田上順次.MI 時代の齲蝕検知液「ニシカカリエスチェック」について.日歯評論.2005; 65: 111-6.16)石崎裕子,福島正義.新・臨床に役立つすぐれモノ ニシカカリエスチェック.DENT DIAMOND.2004;

29:146-8.17)猪越重久.染まりすぎない新しい齲蝕検知液.歯界展望別冊.2005; 106: 303-8.18)清水明彦,鳥井康弘.スプーンエキスカベーターに関する研究 第2報 スプーンエキスカベーターの刃先

のシャープネスと剔削能力との関係.日歯保存誌.1985; 28: 690-4.19)河野 篤 監修,秋本尚武,桃井保子 著.レジン充填でいこう「使いこなしのテクニック」.京都:永末書店;

2002, 18-25.20)Maltz M, Henz SL, de Olivera EF, Jardim JJ. Conventional caries removal and sealed caries in permanent

teeth: A microbiological evaluation. J Dent. 2012; 40: 776-82.21)Tyas MJ, Anusavice KJ, Frencken JE, Mount G. Minimal intervention dentistry-a review. Int Dent J. 2000; 50:

1-12.22) 須田英明,興地隆史,中村 洋,𠮷山昌宏.失敗しない歯髄保存療法.東京:クインテッセンス出版 ; 2006,

10-24.23)Oikawa M, Kusunoki M, Itoh K, Hisamitsu H. An Experimental carious detector to stain the carious infected

dentin. Dental Med Res. 2008; 28: 7-12.24)高橋雄介,吉岡靖介,朝日陽子,永山智崇,野杁由一郎,林 美加子.う蝕象牙質除去後の残存細菌に Er:YAG レー

ザーが与える影響.日歯保誌.2013; 56: 1-8.25)Tassery H, Déjou J, Chafaie A, Camps J. In vivo diagnostic assessment of dentinal caries by junior and senior

students using red acid dye. Eur J Dent Educ. 2001; 5: 38-42.26)高津寿夫,頼 偉生,新田義人,奥谷謙一郎,冨士谷盛興,堤 千鶴子,他.検知液をガイドとしたう蝕処置

時における臨床的諸問題―作業量,窩壁最終染色度,疼痛について―.日歯保存誌.1984; 27: 874-84.27)猪越重久.猪越重久の MI 臨床―接着性コンポジットレジン充填修復.東京:デンタルダイヤモンド社 ; 2005,

22-30.28)Fejerskov O, Kidd E,ed . Dental Caries: The disease and its clinical management. Second edition. Oxford:

Blackwell Munksgaard; 2008, 17, 369, 378.

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106

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

9

107

第2章 ガイドライン本論

による刺激や、スミヤー層が除去されて象牙細管が開口することによる外来刺激物の侵入などが考

えられた。その一方で、象牙質に酸処理を行っても、細菌感染がなければ歯髄症状は発現しないこ

とが報告され 3)、レジン修復における歯髄刺激の原因は混沌としていた。

その後も、コンポジットレジン自体に細胞毒性があることを指摘した報告 4)や、コンポジットレ

ジン修復直後の歯髄症状の発現の原因として、レジンモノマーによる歯髄刺激を懸念した報告 5)も

依然としてあり、コンポジットレジン修復の際には象牙質を水酸化カルシウム製剤やグラスアイオノ

マーセメントで裏層することが推奨された。

ところが、技術革新によりレジンの接着性や辺縁封鎖性が向上したことに伴い、細菌侵入を排除

した窩洞においてレジンの成分を個々に塗布した実験から、成分自体の歯髄刺激は軽微であること

が確認され 6)、また、接着性レジンから溶出した細胞毒性を示す構成成分を混合すると、その毒性

は軽減されることも明らかにされた 7)。

さらに、コンポジットレジン修復時の象牙質エッチングの刺激は軽微で一過性であり、歯髄に炎

症が発生する主な原因は細菌侵入に代表されるレジンの辺縁微小漏洩であることも再確認された 8)。

最近のレジン接着システムは、露髄窩洞に用いても重篤な歯髄反応を惹起することなく被着硬組織

の形成を伴った歯髄の治癒を導くことができることも示され 9,10)、近年では接着システムが生体適合

性を有することが理解されるようになってきた。

このような背景に加えて、特に 1990 年代にセルフエッチングプライマーを用いた接着システムが

わが国において開発され、象牙質接着性能の信頼性が著しく向上したことにより 11)、歯髄に近接し

た深い窩洞をコンポジットレジンにて修復する場合でも、従来のような裏層は行わずに、象牙質を

接着システムにて処理したうえでコンポジットレジンを直接填塞するようになってきた。

しかし、深い窩洞をコンポジットレジン修復する際に、歯髄刺激に関するかつての懸念から習慣

的に裏層を行っている歯科医師も依然として多いようである。したがって、深い窩洞におけるコンポ

ジットレジン修復に裏層が必要かどうかについて、根拠を示す必要がある。

解 説

Whitworth らは、6カ所の開業歯科医院において行われた臼歯修復について、臨床成績に影響

を及ぼす因子を検討した 12)。それによると、602 本の臼歯の窩洞を水酸化カルシウム製剤による覆

髄、あるいはリン酸エッチンングを用いた接着システムを直接応用する群にランダムに割り付けて

処置を行った後、アマルガムあるいはコンポジットレジンにて修復した。そして、3年後に 279 歯

の臨床成績を評価した結果、16 歯に歯髄処置が必要となり、歯髄症状の発現に影響を及ぼす因子

は、窩洞の深さ、露髄の有無、最終修復材料であり、覆髄の種類は影響を及ぼさないことが明らか

となった(エビデンスレベル「Ⅱ」)。

また、Unemori らは、456 歯のコンポジットレジン修復について、接着システムの違いが術直後

の歯髄症状の発現に及ぼす影響を評価している 13)。それによると、リン酸エッチングを用いた接着

システムおよびセルフエッチングタイプの接着システムのいずれを用いた場合でも、深い窩洞にお

いて歯髄症状が発現した症例は従来の裏層を行っており、裏層なしで接着システムを直接応用した

症例では歯髄症状の発現は認められなかった(エビデンスレベル「Ⅲ」)。

さらに、Unemori らは、セルフエッチングタイプの接着システムを用いてコンポジットレジン修復

した 106 歯における 2.2 〜 6.5 年後の歯髄症状の発現を評価している 14)。その結果、4歯に歯髄

炎が発症しており、それはいずれも深い窩洞を水酸化カルシウム製剤あるいはグラスアイオノマー

セメントで裏層したうえで修復された歯であり、裏層なしで修復された歯はすべて良好に経過して

いたと報告している(エビデンスレベル「Ⅴ」)。

これらの臨床研究の結果は、象牙質への接着性が飛躍的に向上した現在の接着システムを用い

たコンポジットレジン修復においては、術後の歯髄症状の発現が顕著に少ないことを実証している。

さらに、裏層なしでコンポジットレジン修復を行うことは、治療ステップが簡略化され、治療時

間の短縮や材料費の節減にもつながることより、開業歯科医院でも容易に導入できると考えられる。

以上のことより、深在性う蝕に対するコンポジットレジン修復に裏層は必要ない(推奨の強さ「B」)。

なお、この CQ に対する文献のエビデンスレベルはⅡであるので、本来ならば推奨の強さは「A」

である。ところが、本ガイドラインでは推奨の強さを「B」にダウングレードしたが、その背景は以

下のとおりである。まず、Whitworth らのランダム化割付臨床試験 12)の 3年経過時のリコール率

は 46.3%ときわめて低く、得られた結果にバイアスが含まれる可能性が否定できない。さらに、わ

が国の大学教育では、MI の理念に基づいたコンポジットレジン修復、すなわちう窩における歯質

の硬さや色(CQ 7 参照)、あるいはう蝕検知液による染色性(CQ 8 参照)などを指標に、細菌感

染のある「感染象牙質」のみを除去し、脱灰はしているが細菌感染はなく、再石灰化が可能な「う

蝕影響象牙質」を極力残してレジン修復した際の裏層は必要ないという教育と、積極的ではないに

しても裏層をしたほうがよいという教育とが混在している。したがって、教育の現場で見解の統一が

図られていないために、臨床の実際においても混乱をきたしているのが現状である。推奨の強さの

決定にあたっては、わが国の裏層に関するこのような諸般の事情を勘案した。

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108

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

9

109

第2章 ガイドライン本論

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ9)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Endodonticcomplicationsafterplasticrestorationsingeneralpractice.WhitworthJM,MyersPM,SmithJ,WallsAWG,McCabeJFIntEndodJ.2005;38:409-16.

目 的 :接着システムが直接応用された場合の歯髄症状が、従来の水酸化カルシウム製剤により裏層した場合の歯髄症状に匹敵するかどうかを検討する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 : Newcastle(UK)の6カ所の開業歯科医師対象研究:1999 〜 2001 年に、新たな修復あるいは再修復を必要とする臼歯 602 本をコンポジットレジンあるいはアマルガムにて修復。その際、リン酸エッチンングを用いた接着システムを無裏層の窩洞に直接応用するか、あるいは水酸化カルシウム製剤による歯髄保護を施した。

主要評価項目 :術後の歯髄症状の発現。

結 果 :36 カ月経過時に 16 歯に歯髄処置が必要となった。歯髄症状の発現に影響する因子は、窩洞の深さ、露髄の有無および最終修復材料であり、覆髄の有無は影響を及ぼさないことがわかった。

結 論 :接着システムを無裏層で直接応用した場合および水酸化カルシウム製剤で歯髄保護を施した場合のいずれも、36カ月経過時に歯髄は良好な状態を保っていた。

Self-etchingadhesivesandpostoperativesensitivity.UnemoriM,MatsuyaY,AkashiA,GotoY,AkamineAAmJDent.2004;17:191-5.

目 的 :裏層なしでセルフエッチングタイプの接着システムとコンポジットレジンにて修復を行った場合の術直後の歯髄症状の発現を、トータルエッチングタイプの接着システムを用いた場合と比較する。

研究デザイン :非ランダム化比較試験

研究施設 :九州大学

対 象 :4年以上コンポジットレジン修復の臨床研究に参加している 16 〜 83 歳の 220人の患者における 456 修復。修復に際し、150 人の 330 修復にはセルフエッチングタイプの接着システムを、70 人の 126 修復にはリン酸エッチンングを用いた接着システムを用いた。

主要評価項目 :修復1週間後の歯髄症状の発現。

結 果 :深い窩洞における歯髄症状の発現は、セルフエッチングタイプの接着システムを用いた群では 14%に、リン酸エッチンングを用いた接着システムでは 35%に認められた。また、深い窩洞において歯髄症状が発現した症例は、いずれの接着システムを用いた場合でも従来の裏層を行っており、無裏層で接着システムを直接応用した症例では歯髄症状の発現は認められなかった。

結 論 :セルフエッチングタイプの接着システムとコンポジットレジンにて深い窩洞を修復した場合、裏層を行わなくても修復1週間後の歯髄症状の発現は認められなかった。

Long-termfollow-upofcompositeresinrestorationswithself-etchingadhesives.UnemoriM,MatsuyaY,HyakutakeH,MatsuyaS,GotoY,AkamineAJDent.2007;35:535-40.

目 的 :裏層なしでセルフエッチングタイプの接着システムとコンポジットレジンにて修復を行うことが、長期経過後の歯髄症状の発現に影響を及ぼすかどうかを検証する。

研究デザイン :ケースシリーズ

研究施設 :九州大学

対 象 :47 人の患者の 106 歯を、セルフエッチングタイプの接着システムとコンポジットレジンにて修復し、2.2 〜 6.5 年後の経過を評価した。深い窩洞を修復する際に、裏層を行うかどうかは術者の判断に委ねられた。

主要評価項目 :長期経過後の歯髄症状の発現。

結 果 :4歯が観察期間中に歯髄炎を発症し、それらはいずれも深い窩洞を裏層して修復した症例であった。

結 論 :セルフエッチングタイプの接着システムとコンポジットレジンにて深い窩洞を修復する場合、裏層を行わないことが長期経過後の歯髄症状の発現につながるわけではない。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

CQ

9

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第2章 ガイドライン本論

CQ 9 コンポジットレジン修復に裏層は必要か。

ランダム化比較試験と非ランダム化比較試験論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入 /治療 結 果エビデンスレベル

Whitworth2005英国

ランダム化比較試験

新たな修 復あるいは再修復が必要な臼歯602 歯を 1999 〜 2001年に修復

リコ ー ル 率:12 カ 月51%(307 歯)、24 カ月60.3%(363 歯)、36 カ月 46.3%(279 歯)6 ヵ所の開業歯科医院で実施

覆髄:①水酸化カルシウム製剤(52.2%)、②象牙質接着システム(47.8%)(リン酸エッチンングを用いた接着システム)

最 終修復:CR(225 歯)または Am(377 歯)

16 歯(5.7%) が 36 カ月時 に歯髄処置が必要となった。

ロジスティック回帰分析の結果、窩洞の深さ、露髄の有無、最終修復材料が歯髄症状の発現に影響を及ぼす。覆髄剤の種類は歯髄症状の発現に影響しない。

Ⅱ(リコール率低い)

Unemori et al. 2004日本

非ランダム化比較試験

4 年 以 上 CR 修 復 臨床研究に参加している16 〜 83 歳の患者 220名

1996 〜 1999 年 に 修復

象牙質接着システム①セルフエッチングタイプ:

150 人 330 窩洞、②リン酸エッチンングを用いた接着システム:70 人 126窩洞

窩洞の深さと裏層の有無(有/無)①セルフエッチングタイプ:

浅 26/131、中 60/62、深34/17、②リン酸エッチンングを用いた接着システム: 浅 32/18、 中 41/9、深 25/1

修復 1 週間後の歯髄症状の発現接着システムと窩洞深さ① セルフエッチングタイプ:浅

5%、中 6%、深 14%、②リン酸エッチンングを用いた接着システム:浅 4%、中 16%、深35%

深い窩洞における裏層の有無①セルフエッチングタイプ:あり

7/34、 なし 0/17、②リン酸エッチンングを用いた接着システム:あり 9/25、なし 0/1

深い窩洞に裏層を行うと歯髄症状の発現率が高い

Unemori et al. 2007日本

ケースシリーズ

セルフエッチング象牙質 接 着 システムにてCR 修復を受けた 47人の 106 歯

1996 〜 1999 年に修復観察期間 2.2 〜 6.5 年

リコール率 31%(41 人/150 人)

セルフエッチング象牙質接着 シ ス テ ム(Fluoro Bond, Liner Bond Ⅱ , Mac-Bond)に て CR 修 復(Clearifl APX, Estio LC, Lite Fil Ⅱ, Palfique Estelite)を受けた 106 歯の長期経過後の歯髄症状の発現を評価。裏層(水酸化カルシウム製剤か GIC)は術者の判断に任された。窩洞の深さを 3 段階に区分:浅 45、中 38、深 23

4 歯(3.7%)が歯髄炎に陥った。窩洞の深さと歯髄症状:浅 0/45、中 0/38、深 4/23裏層の有無と歯髄症状:裏層あり 4/28、なし 0/78短期の歯髄症状の有無:症状あり 3/12、なし 1/94歯髄症状は裏層をした場合にのみ発現した。

CQ 9 コンポジットレジン修復に裏層は必要か。

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1978 〜 2013 年、検索日:2013 年 10 月 23 日)

Set DescriptionS1  DENTAL(W)CARIES?/DES2  (TEETH+TOOTH+DENTAL?) AND(CAR

IES+CARIOUS+DECAY?+LESIONS?)S3  (DEEP+EXTENSIVE+ASYMPTOMATIC?)AND

(CARIE?+CARIOUS+DECAY?+LES IONS?)S4  S1+S2+S3S5  DENTAL(W)PULP?S6 ((DENTAL+TOOTH+TEETH) AND PULP?)

EXPOSE?(3W)S7  DENTAL(W)PULP(W)CAVITYS8  DENTAL(W)PULP(W) DISEASE?/DES9  (CARIOUS(W)PULP)OR(CARIE?(W)

PULP)S10 S5+S6+S7+S8+S9

S11 PULP?(W)DEVITALIZATION?S12 PULP(W)PROTECTION?S13 PULP?(W)MANAGEMENT?S14 PULP?(W)(TREAT?+THERAP?+EXTIRPATE?   +REMOVE?+EXPO SE?+EXTRACT?+CAP?)S15 STEPWISE(1W)EXCAVATION?S16 S11+S12+S13+S17+S18S17 (S4 OR S10)AND S16S18 S17/HUMANS19 DT=(CLINICAL TRIAL?+ RANDOMIZED

CONTROLLED TRIAL?)+(STUD???+TRIAL?+ RANDOMIZED( )CONTROLLED( ) TRIAL?)/DE

S20 S18 AND S19S21 S20 AND PY>1970

 検索結果:266 件

英語論文検索:PubMed(検索対象年:2008 〜 2013 年、検索日:2013 年 11 月 15 日)

#1  dental caries[MH]#2  teeth or tooth or dental#3  caries or carious or decay* or lesion*#4  #2 and #3#5  (deep or extensive or asymptomatic*)#6  carie* or carious or decay* or lesions*#7  (#5 and #6)#8  #1 or #4 or #7#9  dental pulp*#10 dental pulp* expose*#11 tooth pulp* expose*#12 teeth pulp* expose*#13 dental pulp cavity#14 dental pulp disease*#15 carious pulp or carie* pulp

#16 (#9 or #10 or #11 or #12 or #13 or #14 or #15)

#17 pulp* devitalization*#18 pulp* protection*#19 pulp* management*#20 pulp treat* or pulp extirpate* or pulp

remove* or pulp expose* or pulp extract* or pulp cap*

#21 stepwise excavation*#22 (#17 or #18 or #19 or #20 or #21)#23 (((#8 or #16) and #22))#24 (((#8 or #16) and #22)) Filters: Clinical

Trial; Comparative Study; Controlled Clinical Trial; Randomized Controlled Trial; Publication date from 2008/01/01 to 2013/10/31; Humans

 検索結果:110 件

Page 63: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

112

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

113

CQ

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第2章 ガイドライン本論

5.露髄の可能性の高い深在性う蝕への対応  (歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈するう蝕)

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ10 歯髄温存療法により、期間をあけて段階的にう蝕を除去することで、露髄を回避できるか。

CQ11 歯髄温存療法を行った場合、歯髄症状の発現はう蝕完全除去の場合と同じか。

CQ12 歯髄温存療法にはどの覆髄剤が適当か。

CQ13 歯髄温存療法の後、リエントリーまでどれくらい期間をあけるべきか。

CQ10 歯髄温存療法により、期間をあけて段階的にう蝕を除去することで、露髄を回避できるか。

【 推奨 】歯髄に到達するような深在性う蝕で、歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈する場合、歯髄温存療法を行うことによって露髄を少なくすることができる(エビデンスレベル「I」)。よって、歯髄温存療法を行うよう推奨される。(推奨の強さ「B」)

CQ11 歯髄温存療法を行った場合、歯髄症状の発現はう蝕完全除去の場合と同じか。

【 推奨 】歯髄に到達するような深在性う蝕で、歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈する場合、歯髄温存療法を適応した歯髄は、露髄をきたさず行われたう蝕完全除去と同様に正常状態を保っている(エビデンスレベル「I」)。よって、歯髄温存療法を行うよう推奨される(推奨の強さ「B」)。

文献の抽出

CQ10CQ11CQ12CQ13

英語論文検索 :MEDLINE(Dialog)検索対象年 :1970 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 9月 13 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 13 日

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1983〜 2013年、検索日:2008年 11月 13日)

#1  (う蝕 /TH or う蝕 /AL)#2  (軟化象牙質 /TH or う蝕象牙質 /AL)#3  象牙質う蝕 /AL#4  深在性う蝕 /AL#5  (歯髄 /TH or 歯髄 /AL)#6  #1 or #2 or #3 or #4 or #5#7  覆髄 /AL#8  直接覆髄 /AL#9  間接覆髄 /AL#10 暫間的間接覆髄 /AL#11 ( 覆髄法 /TH or 歯髄覆罩 /AL)

#12  直接歯髄覆罩 /AL#13  間接歯髄覆罩 /AL#14  暫間的間接歯髄覆罩 /AL#15  (歯髄保護 /TH or 歯髄保護 /AL)#16 ( 歯髄露出 /TH or 露髄 /AL)#17  #7 or #8 or #9 or #10 or #11 or #12 or #13

or #14 or #15 or #16#18  #6 and #17#19 ( #18) and(DT=1983:2013 PT= 原著論文

CK= ヒト)

 検索結果:106 件

文献1) Rao SR. Pulp response in the rhesus monkey to“composite”dental restorative materials in unlined cavities.

Oral Surg. 1971; 31: 676-88.2) Stanlay HR, Going RE, Chauncey HH. Human pulp response to acid pretreatment of dentin and to composite

restorations. J Am Dent Assoc. 1975; 91: 817-25.3) Brännström M, Nordenvall KJ. Bacterial penetration, pulpal reaction and inner surface of Concise Enamel

Bond. Composite fillings in etched and unetched cavities. J Dent Res. 1978; 57: 3-10.4) Hume WR. A new technique for screening chemical toxicity to the pulp from dental restorative materials

and procedures. J Dent Res. 1985; 64: 1322-5.5) 笠井 徹.コンポジットレジン修復法が無菌飼育ラット歯髄に及ぼす影響に関する実験病理学的研究.歯科学

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restorations. Int Dent J. 1992; 42: 3-11.9) Akimoto N, Momoi Y, Kohno A, Suzuki S, Otsuki M, Suzuki S, Cox CF. Biocompatibility of Clearfil Liner Bond 2

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クインテッセンス出版;2004, 14-29.12)Whitworth JM, Myers PM, Smith J, Walls AWG, McCabe JF. Endodontic complications after plastic

restorations in general practice. Int Endod J. 2005; 38: 409-16.13)Unemori M, Matsuya Y, Akashi A, Goto Y, Akamine A. Self-etching adhesives and postoperative sensitivity.

Am J Dent. 2004; 17: 191-5.14)Unemori M, Matsuya Y, Hyakutake H, Matsuya S, Goto Y, Akamine A. Long-term follow-up of composite resin

restorations with self-etching adhesives. J Dent. 2007; 35: 535-40.

Page 64: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

114

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

115

CQ

10

CQ

CQ

11

12

CQ

13

第2章 ガイドライン本論

以上のデータベース検索より、MEDLINE および医学中央雑誌からそれぞれ 311 と 106 文献が抽

出された。それらの抄録より、永久歯の深在性う蝕に対する間接覆髄に関するヒト臨床研究のうち、

システマティックレビュー、ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、およびケースシリーズを

選択した結果、エビデンスとして採用する可能性のある 52 論文(英語 35、日本語 17)に絞られた。

これらの 52 論文を精読して、研究デザインと質に基づいてエビデンスレベルを確定し、間接覆髄

の CQ 10 〜 13 に対するエビデンスとして採用した。そして、それぞれの CQ の「推奨」の最後に、

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録を記載した。

背景・目的

日常臨床では、臨床症状が認められないものの歯髄にまで達するような深在性う蝕にしばしば遭

遇する。従来は、う蝕が原因で露髄した場合には抜髄が適応されてきたが、近年の歯髄に関する

生物学的考察 1, 2)より、歯髄が高い再生能力を備えており、歯髄の炎症はより可逆的であることが

理解されるようになってきたことと、歯髄保護の重要性が認識されるに伴って、う蝕で露髄した歯髄

も極力保存するよう努められるようになってきた 3-6)。

しかし、う蝕で露髄した歯髄に対する直接覆髄はその成功率が 30 〜 80% 3-7)と報告にばらつき

があり、必ずしも常に良好な長期成績が得られているわけではない。これに対して、露髄をきたす

ことなく深在性う蝕を修復できた場合には、ほとんどすべての症例で良好な予後が得られたとの報

告 7-15)が多数あり、直接覆髄と比較して予後が確実なアプローチと言える。したがって、臨床症状

がなく歯髄にまで達するような深在性う蝕を露髄させることなく修復することは、歯髄保存の観点

から意義深く、ひいては、「健康日本 21」を推進している現在、長期の歯の健康維持にもつながり、

「8020」の達成に大きく貢献できると期待できる。

現在までにも、う蝕象牙質を一気に除去すると露髄をきたしそうな部分の感染象牙質を残し、そ

の部位に覆髄剤を貼付して仮封すると、数カ月後には軟化した象牙質の硬化と修復象牙質の添加が

促進され、その後、期間をあけて段階的に感染象牙質を除去することによって、露髄することなく

生活歯の状態で修復できることを経験してきた。さらに、平成 20 年度診療報酬の改定では、これ

を新規医療技術として非侵襲性歯髄覆罩(AIPC)の項目で保険収載され、平成 22 年度には歯髄

温存療法との名称に変更されて臨床での適用が広がってきている。ちなみに、Atraumatic(非侵襲

性)Indirect Pulp Capping(間接覆罩)を語源とした非侵襲性歯髄覆罩(AIPC)および歯髄温存

療法は、教科書などの成書が示す暫間的間接歯髄覆罩(髄)法(通称 IPC)であり、英語表記で

は Stepwise excavation(ステップワイズエキスカベーション)が一般的である。

すでに、日本歯科保存学会より保険収載医療技術「歯髄温存療法(AIPC)」の治療指針が呈示さ

れ(p.136 参照)、その治療指針は明らかにされているところであるが、歯髄温存療法がう蝕除去の

際の露髄を効果的に防ぐことができているのか、あるいは術後の歯髄症状の発現頻度はどうなのか

など、臨床適応に際して明らかにすべき点は多い。

解 説

歯髄温存療法は、歯髄に近接した深在性う蝕を除去する際の偶発的露髄の回避に効果がある(図

1、2)。このことは、乳歯および永久歯を対象とした2編のシステマティックレビュー 16, 17)で述べら

れており、いずれも3編の永久歯を対象としたランダム化比較試験 7, 8, 12)の結果から結論を導いて

いる。

2013 年に発表されたコクランシステマティックレビュー 16)では、乳歯および永久歯のう蝕に対し

てステップワイズエキスカベーション、う蝕一部除去、う蝕除去なしの場合と、う蝕一括完全除去

を行った場合について、露髄の頻度、術後の歯髄症状の発現、および修復の失敗を比較したラン

ダム化割り付け試験を、4データベースより 1946 〜 2012 年までの論文を抽出している。そのうち、

ステップワイズエキスカベーションと一括完全除去を比較した3編のランダム化比較試験 7, 8, 12)に含

まれる 454 永久歯のデータをメタ分析したところ、ステップワイズエキスカベーションにより一括除

去と比較して 49% 露髄のリスクが減少したことがわかった。また、2編のランダム化比較試験 7, 8)

の結果より、露髄をきたさなかった場合には、両者の術後歯髄症状の発現には差はなかった(エ

ビデンスレベル「I」)。

他方のシステマティックレビュー 17)では、乳歯と永久歯のう蝕に対してステップワイズエキスカベー

ション、う蝕一部除去、あるいはう蝕一括完全除去を行った場合の比較を 10 編のランダム化比較

試験の結果を統合して分析している。永久歯については上述のコクランシステマティックレビュー 16)

仮封材・グラスアイオノマーセメント・コンポジットレジン

覆髄剤・水酸化カルシウム製剤・タンニン・フッ化物合剤配合 カルボキシレートセメント

残置感染象牙質・無菌化・再石灰化

修復(第三)象牙質・新生添加

図1 歯髄温存療法の概念図覆髄剤応用とう蝕象牙質の段階的除去により、感染象牙質の無菌化、再石灰化、ならびに修復(第三)象牙質の形成誘導、促進を図り、露髄を回避する。

図2b 術前 図2c う窩の開拡う窩を長期間(3カ月)密封することが可能でなければならない。

図2d リエントリー時の検査露出した感 染 象牙質が、①乾 燥、②硬化していれば最終修復に移行する。

図2a 7咬合面の深在性う蝕(術中)実際に切削してみると、エックス線写真で見られる病変よりさらに進展している場合が多く、露髄の危険性が非常に高い。う窩と歯髄の間に象牙質の介在が認められ、根尖病変がなく歯槽硬線が正常であることが要件である。(図2は愛知学院大学歯学部 千田彰先生のご厚意による)

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

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第2章 ガイドライン本論

と同じ論文 7, 8, 12)を採用しており、露髄の頻度および歯髄症状の発現については同様の見解を示し

ている。

歯髄温存療法の治療技術レベルは歯科の基本治療の範囲であり、ほとんどの症例で浸潤麻酔を

使用せず無痛治療として行うことが可能で、患者の肉体的・精神的な負担も少ない。さらに、平成

20 年4月より保険収載されたことより、治療コスト面でも支援が図られた。加えて、抜髄後に歯冠

修復を行う場合と比較して、歯髄保存を図った場合に必要な費用は明らかに少なく、医療費削減に

確実に貢献できる。また、術直後の軽度な不快症状と、う蝕の一括完全除去と比較して治療期間が

長くなる以外には有害事象が認められず、歯髄を失うことに併発する歯根破折などの問題と比較し

た場合、歯髄温存療法で歯髄保存を図る意義は非常に大きい。よって、臨床症状がない歯髄に近

接した深在性う蝕に歯髄温存療法を適用し、歯髄保存を図ることが推奨される。

歯髄温存療法の後、う窩を再開拡して残置させたう蝕を再診断(リエントリー)し、そのう蝕を

完全に除去すべきかどうかに関しては、さらなる臨床研究が必要である。歯髄に非常に近接した

感染象牙質を残置させて水酸化カルシウム製剤を貼付し、強化型酸化亜鉛ユージノールセメント

にて仮封した後、6カ月後にう窩を再開拡して深部のう蝕を残置したまま水酸化カルシウム製剤を

再び貼付してコンポジットレジン修復を行った症例では、40 カ月後のエックス線検査にてう蝕の進

行が認められなかったとの報告がある 18)。同グループが 2012 年に発表したランダム化比較試

験(RCT)19)では、深在性う蝕を有する 213 本の永久歯にステップワイズエキスカベーション、あ

るいはう蝕一部除去(リエントリーなし)を適用した結果、3年後の成功率はステップワイズエキ

スカベーションが 69%、う蝕一部除去が 91%であったことより、リエントリーの必要はないと結論

づけている。これらの結果は、頻繁に来院できない状況にある患者には、リエントリーなしで最終

修復に移行できる可能性を示唆している。しかし、先に示した2編のシステマティックレビュー 16, 17)

では、う蝕を完全に除去せず最終修復を行うことについては、結論を導くには十分な根拠がないと

している。以上のことから、今回のガイドラインでは、歯髄温存療法によって露髄を回避し、リエン

トリーしてう蝕を除去したうえで最終修復を行うことを推奨する(推奨の強さ「B」)。

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ10、CQ11)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Operativecariesmanagementinadultsandchildren.RickettsD,LamontT,InnesNPD,KiddE,ClarksonJECochraneDatabaseofSystematicReviews(Online).2013Issue3.

目 的 : 乳歯および永久歯の深在性う蝕に対して、ステップワイズエキスカベーション、う蝕一部除去、う蝕除去なし、あるいは一括完全除去した場合、露髄、歯髄症状の発現、および修復の予後に及ぼす影響を検討。

研究デザイン :システマティックレビュー

研究論文 :Dundee Dental Hospital and School, UK, Guy’s, King’s and St Thomas Dental School, UK

対 象 :乳歯および永久歯の深在性う蝕に対して、ステップワイズエキスカベーション、う蝕一部除去、う蝕除去なし、あるいは一括完全除去を比較したランダム化比較試験および非ランダム化比較試験を4データベースから抽出。

主要評価項目 :う蝕除去中の露髄、術後の歯髄症状の発現、および修復の成功率をメタ分析で評価。

結 果 :ステップワイズエキスカベーションと一括完全除去を比較したランダム化比較試験では、3論文が本システマティックレビューの文献選択基準を満たした。これら3ランダム化比較試験における永久歯の 454 のデータをメタ分析したところ、ステップワイズエキスカベーションにより露髄のリスクが 49%減少した。また、2編のランダム化比較試験の結果より、露髄をきたさなかった場合、両者の術後歯髄症状の発現には差はなかった。

結 論 :深在性う蝕を完全に除去するには、う蝕の部分的・段階的な除去が露髄の回避に有効である。しかし、う蝕を残置させて最終修復してよいかどうかを論じるには十分なエビデンスはない。

Incompletecariesremoval:asystematicreviewandmeta-analysis.SchwendickeF,DorferCE,ParisSJDentRes.2013;92(4):306-14.

目 的 :乳歯および永久歯のう蝕に対して、ステップワイズエキスカベーション、う蝕一部除去、あるいは一括完全除去することが、露髄、歯髄症状の発現、および修復の予後に及ぼす影響を検討。

研究デザイン :システマティックレビュー

研究施設 :Christian-Albrechts-University, Germany

対象論文 :乳歯および永久歯のう蝕に対して、ステップワイズエキスカベーション、う蝕一部除去、あるいは一括完全除去を比較したランダム化比較試験および非ランダム化比較試験を4データベースから抽出。

主要評価項目 :う蝕除去中の露髄、術後の歯髄症状の発現および修復の成功率をメタ分析によって総合評価した。乳歯および永久歯は一括で分析している。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

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第2章 ガイドライン本論

結 果 : 永久歯についてステップワイズエキスカベーションと一括完全除去を比較した2編のランダム化比較試験の結果を抽出して分析したところ、ステップワイズエキスカベーションで有意に露髄が少なく、露髄をきたさなかった場合、両者の術後歯髄症状の発現および修復の成功率には差はなかった。

結 論 :う蝕を除去する際の露髄の回避には、う蝕の部分的あるいは段階的な除去が有効である。しかし、う蝕を残置させて修復してよいかどうかを論じるには十分なエビデンスはない。

Treatmentofdeepcaries lesionsinadults:randomizedclinicaltrialscomparingstepwisevs.directcompleteexcavation,anddirectpulpcappingvs.partialpulpotomy.BjørndalL,ReitC,BruunG,MarkvartM,KjaldgaardM,NasmanP,ThordrupM,DigeI,NyvadB,FranssonH,LagerA,EricsonD,PeterssonK,OlssonJ,SantimanoEM,WennstriimA,WinkelP,GluudCEurJOralSci.2010;118(3):290-7.

目 的 :永久歯の深在性う蝕に対して、ステップワイズエキスカベーションあるいは一括完全除去した場合の、露髄、歯髄症状の発現、および修復の予後に及ぼす影響を検討。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :University of Copenhagen, Denmark

対 象 :25 〜 38 歳の患者 314 人の永久歯に認められた象牙質 2/3 以上進行したう蝕で、エックス線所見で歯髄までに1層象牙質が確認できるもの。

主要評価項目 :う蝕除去中の露髄、術後の歯髄症状の発現および修復の成功率。

介 入 :ステップワイズエキスカベーション(156 歯)あるいはう蝕一括除去(158 歯)を行って、1年後の臨床成績を評価。ステップワイズエキスカベーション群では水酸化カルシウム製剤(Dycal)にて覆髄した後、グラスアイオノマーセメントにて8〜 12 週仮封。リエントリー時にう蝕除去後に水酸化カルシウム製剤を貼付したうえでコンポジットレジン修復。一括除去群でもステップワイズエキスカベーション群と同様、仮封の後にグラスアイオノマーセメントのみを除去してコンポジットレジン修復。

結 果 :ステップワイズエキスカベーション(143 歯)はう蝕一括除去(149 歯)と比較して 11.4% 露髄が少なく(17.5% vs 28.9%)、1年後の成功率は 11.7% 有意に高かった(74.1% vs 62.4%)。

結 論 :深在性う蝕の除去にステップワイズエキスカベーションを行うことで露髄を回避できる。う蝕による露髄で歯髄の予後が悪いことを考慮すると、深在性う蝕に除去にはステップワイズエキスカベーションが推奨される。

Pulpexposureoccurrenceandoutcomesafter1-or2-visit indirectpulptherapyvscompletecariesremovalinprimaryandpermanentmolars.OrhanAI,OzFT,OrhanKPediatrDent.2010;32(4):347-55.

目 的 : 乳歯あるいは永久歯の深在性う蝕に対して、ステップワイズエキスカベーション、う蝕一部除去、あるいは一括完全除去した場合の、露髄、および修復の予後に及ぼす影響を検討。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :Ankara University、トルコ

対 象 :4〜 15 歳の患者 123 人の深在性う蝕を有する 94 乳臼歯と 60 永久歯(第一大臼歯)で臨床症状のないもの。

主要評価項目 :う蝕除去中の露髄、および1年後の修復の成功率。

介 入 :う蝕象牙質を残置させたまま最終修復、ステップワイズエキスカベーション(水酸化カルシウム製剤(Dycal)にて覆髄した後、強化型酸化亜鉛ユージノールセメントにて3カ月仮封)、あるいは一括完全除去を適用。いずれも最終修復は水酸化カルシウム製剤(Dycal)を貼付し、グラスアイオノマーセメントで裏層した後、コンポジットレジン修復。

結 果 :永久歯の露髄頻度はう蝕象牙質を残置させたまま最終修復では 19 歯のうち1歯(5%)、ステップワイズエキスカベーションでは 17 歯のうち1歯(6%)、一括

除去では 24 歯のうち6歯(25%)であった。また、1年後の成功率はいずれも100%であった。

結 論 :深在性う蝕は部分的あるいは段階的に除去することが推奨される。

Pulpexposureafterstepwiseversusdirectcompleteexcavationofdeepcariouslesionsinyoungposteriorpermanentteeth.LeksellE,RidellK,CvekM,MejareIEndodDentTraumatol.1996;12(4):192-6.

目 的 :若年者の永久臼歯の深在性う蝕をステップワイズエキスカベーションにて除去した場合と一括完全除去した場合の露髄頻度の比較。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :Department of Pedodontics, Stockholm, Sweden

対 象 :6〜 16 歳(平均 10.2 歳)の 116 人の患者において、エックス線検査でう蝕を完全に除去すると露髄する可能性がある臨床症状のない 127 歯。

主要評価項目 :露髄頻度および歯髄の臨床症状。

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第2章 ガイドライン本論

CQ10 歯髄温存療法により、期間をあけて段階的にう蝕を除去することで、露髄   を回避できるか。CQ11 歯髄温存療法を行った場合、歯髄症状の発現はう蝕完全除去の場合と同   じか。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Ricketts et al. 2013英国

シ ス テ マティックレビュー

乳歯および永久歯のう蝕に対して①ステップワイズエキスカベーション(SE)、②う蝕一部除去、③う蝕除去なしの場合と、④う蝕一括完全除去について、露髄の頻度、術後の歯髄症状の発現、および修復の成功率を比較したランダム化割り付け試験を 1946 〜 2012 年までの論文を4データベースより抽出。① SE vs ④一括完全除去:3RCT ②う蝕一部除去 vs ④一括完全除去 :2RCT ③う蝕除去なし vs ④一括完全除去:2RCT

① SE vs ④一括完全除去を比較した3RCT のうち、永久歯のデータをメタ分析したところ、SE は一括除去と比較して 49% 露髄のリスクが減少した、また2RCTの結果より、露髄をきたさなかった場合、両者の術後歯髄症状の発現には差はなかった。

I

Schwendicke et al . 2013ドイツ

シ ス テ マティックレビュー

乳歯および永久歯のう蝕に対して、①う蝕一部除去、あるいは②ステップワイズエキスカベーション (SE)を行った場合と、③う蝕一括完全除去について、露髄の頻度、術後の歯髄症状の発現、および修復の成功率を比較したランダム化割り付け試験を、1967 〜 2012 年までの論文を4データベースより抽出。①う蝕一部除去 vs ③一括完全除去 : 6RCT ② SE vs ③一括完全除去 : 5RCT 永久歯および乳歯のデータを統合してメタ分析

永久歯について② SE vs ③一括完全除去を比較した2RCT の結果を分析したところ、SE で有意に露髄が少なく、露髄をきたさなかった場合、両者の術後歯髄症状の発現には差はなかった。

I

Bjørndal et al.2010デンマーク

ランダム化比較試験

25 〜 38 歳の患者 314 人の永久歯に認められた象 牙質 2/3 以 上 進 行したう蝕。エックス線所見で歯髄までに1層象牙質が確認できるもの。

ステップワイズエキスカベーション(SE) 156 歯、あるいはう蝕一括除去を158 歯に行って、1 年後の臨床成 績を評 価。SE群では水酸化カルシウム製 剤(Dycal) にて覆 髄し GIC にて8〜 12 週仮封。リエントリー時にう蝕除去後に Dycal を貼付したうえで CR 修復。一括除去群でも SE 群と同様の仮封をした後に GICのみ除去して CR 修復。

SE(143 歯)はう蝕一括除去(149 歯)と比較して 11.4%

露 髄 が 少 な く(17.5% vs 28.9%)、1年後の成功率は11.7% 有意に高かった(74.1% vs 62.4%)。

II

介 入 :ステップワイズエキスカベーション群:う蝕象牙質の大部分を除去の後、水酸化カルシウム製剤を貼付し酸化亜鉛ユージノールセメントで仮封。8〜 24 週間後に残置したう蝕を除去し、再度、水酸化カルシウム製剤と酸化亜鉛ユージノールセメントを貼付した後、最終修復。一括完全除去群:う蝕象牙質を完全除去の後、水酸化カルシウム製剤と酸化亜鉛ユージノールセメントを貼付した後、最終修復。

結 果 :露髄頻度:ステップワイズエキスカベーション群で 17.5% を、一括完全除去群では 40%を示した。ステップワイズエキスカベーション群において、8〜 10週でう窩を再開拡した群と 11 〜 24 週で再開拡した群では露髄頻度に差は認められなかった。両群で露髄をきたさなかった 40 歯それぞれの歯髄は、平均 43カ月後も臨床的およびエックス線検査にて正常であった。

結 論 :ステップワイズエキスカベーションは永久歯の深在性う蝕において露髄回避に有効である。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

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第2章 ガイドライン本論

Orhan et al. 2010トルコ

ランダム化比較試験

4 〜 15 歳の患者 123 人の深在性う蝕を有する 94乳臼歯と 60 永久歯(第一大臼歯)で臨床症状のないもの。

う蝕象牙質を残置させたまま最終修復 vs ステップ ワイズエキス カベーシ ョ ン (SE:Dycal+ 強化型酸化亜鉛ユージノールセメントにて3カ月) vs 一括除去した場合の露髄 頻 度と 1 年 後 の成功率を比較。いずれも最終修復は水酸化カルシウム製剤(Dycal)+GIC+CR修復

永久歯の露髄頻度う蝕象牙質を残置:19 歯のうち1歯

(5%)、SE: 17 歯のうち1歯(6%)、一括除去 24 歯のう

ち6歯(25%)1年後の成功率う蝕象牙質を残置(18 歯)、 SE(16 歯)、一括除去(18 歯)、いずれも成功(100%)。

II

Leksell et al. 1996スウェーデン

ランダム化比較試験

6 〜 16 歳(平均 10.2 歳)の 116 人の 患 者 の 深 在性う蝕を有する 127 永久歯。 エックス線所見でう蝕を完全に除去すると露髄する可能性があり、臨床症状のないもの。

ステップワイズエキスカベーション(SE)あるいはう蝕一 括除去を行って、露髄の確率および歯髄症状の発現を臨床症状およびエックス線所見により比較。

露髄の確率SE:17.5% う 蝕 一 括 除 去 : 40.0%両群で露髄をきたさなかった症例は、平均 43 カ月後に歯髄は正常であった。

II

Bjørndal(2010)、Orhan(2010)、Leksell (1996)の RCT はいずれも Ricketts(2013)と Schwendicke(2013)のシステマティックレビューに含まれている。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

CQ12 歯髄温存療法にはどの覆髄剤が適当か。【 推奨 】

歯髄に到達するような深在性う蝕で、歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈する場合、水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントで歯髄温存療法を行うことによって、う蝕関連細菌は減少し(エビデンスレベル「Ⅲ」)、う蝕象牙質が硬化する(水酸化カルシウム製剤:エビデンスレベル「Ⅱ」、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント:エビデンスレベル「Ⅲ」)。よって、歯髄温存療法に、水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを使用するよう推奨される(推奨の強さ「B」)。

CQ13 歯髄温存療法の後、リエントリーまでどれくらい期間をあけるべきか。【 推奨 】

歯髄に到達するような深在性う蝕で、歯髄が臨床的に健康または可逆性の歯髄炎の症状を呈する場合、水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントで歯髄温存療法を行うことによって、3〜12カ月でう蝕象牙質の硬化が認められた(水酸化カルシウム製剤:エビデンスレベル「Ⅱ」、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント:エビデンスレベル「Ⅲ」)。よって、歯髄温存療法に水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを使用した場合、3カ月経過後にリエントリーし、残置した感染象牙質を除去するよう推奨される(推奨の強さ「B」)。

背景・目的

CQ 10 および CQ 11 で述べたとおり、歯髄温存療法の臨床での有用性が認められているものの、

どの材料を覆髄剤として用いればよいか、あるいは、覆髄からどれくらいの期間をあけて残置した

感染象牙質を除去すればよいかなど、臨床適応に際して明らかにすべき点が多く残されている。

解 説

歯髄温存療法に水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセ

メントを用いることによって、う蝕関連細菌数は減少し、残置した感染象牙質が硬化することが複数

の臨床研究で示されている。

Leung ら 1)は、臨床症状がなく、う蝕を完全に除去すると露髄しそうな深在性う蝕を有する永久

歯 40 歯に歯髄温存療法を適用し、初回のう蝕除去時と4週間後のう窩の再開拡時にう蝕象牙質か

ら採取し培養した細菌数を比較した。具体的には、初回にう蝕象牙質を部分的に除去した後、水

酸化カルシウム製剤(Dycal,Dentsply/Caulk)またはコントロールとしてワックスを貼付し、仮封

した後、4週間後にう窩を再開拡した。その結果、水酸化カルシウム製剤を貼付した群の細菌数

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

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第2章 ガイドライン本論

は 1.4 × 105CFU から 1.0 × 104CFU に有意に減少していたのに対し、ワックスで封鎖した群の細菌

数は 1.1 × 105CFU から 2.3 × 105CFU 有意に増加していた。よって、水酸化カルシウム製剤は、う

蝕象牙質に生息する細菌に対して抗菌性を発揮することが確認された(エビデンスレベル「Ⅲ」)。

また、Corralo らのランダム化比較試験(RCT)2)(エビデンスレベル「Ⅱ」)および Bjørndal ら

の一連のケースシリーズ 3-5)(エビデンスレベル「Ⅴ」)でも、歯髄温存療法に水酸化カルシウム製剤

(Dycal)を用いることで、う蝕関連細菌の減少と残置した感染象牙質が硬化することが示されている。

一方、永峰 6)は、深在性う蝕に貼付したタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント

(HY-Bond Temporary Cement Soft,松風)がう蝕象牙質に生息する細菌に及ぼす影響およびう蝕

象牙質の再石灰化に及ぼす影響を検討した。岡山大学歯学部附属病院において、15 〜 46 歳までの

20 人の患者の、深在性う蝕を有するが歯髄が健全と診断された上下顎臼歯 23 本に対して、う蝕象

牙質を部分的に除去した後、18 歯にはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを、5

歯には水硬性仮封材を貼付し、3カ月後にう窩を再開拡した。そして、再開拡前後の生息細菌の測定、

および規格エックス線撮影による再石灰化を評価した結果、生息細菌は、タンニン・フッ化物合剤配

合カルボキシレートセメント貼付では、再開拡時にすべての症例で log102 〜 7CFU/mg dentin から

log100 〜 3CFU/mg dentin に細菌数が減少したのに対し、水硬性仮封材では変化が認められなかっ

た。また、エックス線不透過度は、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントでは 16 例

中 14 例で増加していたのに対し、水硬性仮封材の4歯では変化が認められなかった。よって、タン

ニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントは、う蝕象牙質に生息する細菌に対して抗菌性を

発揮するとともに、残存う蝕象牙質の再石灰化を促進することが確認された(エビデンスレベル「Ⅲ」)。

なお、残置した感染象牙質の硬化は、水酸化カルシウム製剤では3〜 12 カ月経過時に認めたと

の報告があり 2-5, 7)(エビデンスレベル「Ⅱ」)、タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメン

トでは3カ月経過時に 16 例中 14 例(87.5%)で効果を認めている(エビデンスレベル「Ⅲ」)。よっ

て、歯髄温存療法の後のリエントリーは3カ月以降が適切と考えられる。

また、歯髄温存療法の際の修復(第三)象牙質の添加に関しては、水酸化カルシウム製剤を貼付後、

12 週経過時に6症例中2症例(33%)8)、あるいは6カ月経過時に 28 症例中2症例(7%)7)にエッ

クス線検査にて修復象牙質の添加を認めたとの報告にとどまっており、現在のところ明らかなエビデ

ンスが得られなかった。

水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントは、従来

より歯科治療に広く使用されてきた比較的安価な材料であり、一般診療への導入は容易であると考

えられる。また、歯髄に近接する深在性う蝕に用いた場合、術直後の軽度な不快症状の発現のほ

かには、全身への副作用といった有害事象は報告されていない。

以上により、歯髄温存療法に際しては、水酸化カルシウム製剤あるいはタンニン・フッ化物合剤

配合カルボキシレートセメントを使用し、残置した感染象牙質を覆髄3カ月以降にリエントリーして

除去することが推奨される(推奨の強さ「B」)。

ところで、3Mix を用いた材料に関しては、現時点ではランダム化比較試験および非ランダム化

比較試験といった高いレベルの根拠が得られていない。そのような根拠が示された場合には、本ガ

イドラインでも推奨を検討する予定である。

なお、日本歯科保存学会の示す保険収載医療技術「歯髄温存療法(AIPC)」の治療指針を参考

資料として(p.136)付した。

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ12、CQ13)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Clinicalanduntrastructuraleffectofdifferent liners/restorativematerialsondeepcariousdentin:Arandomizedclinicaltrial.CorraloDJ,MaltsMCariesRes.2013;47(3):243-50.

目 的 :深在性う蝕においてう蝕象牙質を部分的に除去し、水酸化カルシウム製剤あるいはグラスアイオノマーセメントを貼付した場合、残置させたう蝕象牙質の状態を評価する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :Federal University of Rio Grande

対 象 :臨床症状がなく、う蝕を完全に除去すると露髄しそうな深在性う蝕を有する永久歯 60 歯。

介 入 :う蝕象牙質を部分的に除去した後、水酸化カルシウム製剤(Dycal)、グラスアイオノマーセメントまたはワックスを貼付して仮封し、3〜4カ月後にリエントリー。

主要評価項目 :残置させたう蝕象牙質の色と硬さの評価、および走査電子顕微鏡による象牙質の微細構造と細菌の有無の観察。

結 果 :水酸化カルシウム製剤、グラスアイオノマーセメント、あるいはワックスのいずれでも、3カ月後にはう蝕象牙質が硬化し、走査電子顕微鏡にて観察される細菌は減少した。

結 論 :深在性う蝕においてう蝕象牙質を部分的に除去して仮封すると、作用させた材料に関わらず残置させたう蝕象牙質が硬化し、細菌数が減少する。

EffectofDycalonbacteriaindeepcariouslesions.LeungRL,LoescheWJ,CharbeneuGTAmDentAssoc.1980;100(2):193-7.

目 的 :水酸化カルシウム製剤の貼付および機械的なう蝕除去が、深在性う蝕における残存細菌数に及ぼす影響を比較。

研究デザイン :非ランダム化比較試験

研究施設 :Department of Restorative Dentistry, University of California, San Francisco

対 象 :臨床症状がなく、う蝕を完全に除去すると露髄しそうな深在性う蝕を有する永久歯 40 歯。

介 入 :う蝕象牙質を部分的に除去した後、水酸化カルシウム製剤(Dycal)またはワックスを貼付し、仮封。4週間後にリエントリー。

主要評価項目 :初回のう蝕除去時と4週間後のう窩の再開拡時にう蝕象牙質から採取し培養した細菌数。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

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第2章 ガイドライン本論

結 果 :水酸化カルシウム製剤貼付群の細菌数は 1.4 × 105CFU から 1.0 × 104CFU に有意に減少していたのに対し、ワックスで封鎖した群の細菌数は 1.1 × 105CFU から 2.3 × 105CFU 有意に増加していた。特に Lactobacilli 群が水酸化カルシウム製剤貼付群で有意に減少し、コントロール群で増加していた。

結 論 :水酸化カルシウム製剤は残存う蝕象牙質の細菌数を減少させる。暫間的間接覆髄で残置させたう蝕象牙質はう窩を再開拡して除去すべきである。

暫間的間接歯髄覆罩法の歯髄に及ぼす影響に関する臨床病理学的研究後藤譲治小児歯誌.1985;23(4):926-38.

目 的 :水酸化カルシウム製剤(Dycal)と酸化亜鉛ユージノールセメント(Neodyne, Neo)を暫間的間接歯髄覆罩に用いた場合の臨床成績と病理所見を比較。

研究デザイン :非ランダム化比較試験

研究施設 :長崎大学歯学部小児歯科学講座

対 象 :19 〜 33 歳の患者における、う蝕を完全に除去すると露髄しそうな深在性う蝕を有する永久歯 10 歯。

介 入 :う蝕象牙質を部分的に除去した後、6歯には水酸化カルシウム製剤を、4歯には酸化亜鉛ユージノールセメントを貼付した。12 週後にう窩を再開拡。

主要評価項目 : 臨床成績および病理所見

結 果 :水酸化カルシウム製剤と酸化亜鉛ユージノールセメントのいずれも経過良好であった。新生修復象牙質の添加は水酸化カルシウム製剤群で6症例中2症例に、酸化亜鉛ユージノールセメント群で4症例中1症例に認められた。

結 論 :暫間的間接歯髄覆罩法は、臨床成績と病理成績ともに良好であり、生活歯髄を損傷することなく保存できる有用な治療法である。

タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントによる深部う蝕治療に関する研究永峰道博岡山歯誌.1993;12(1):1-25.

目 的 : 深在性う蝕に貼付したタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント(ハイ - ボンド テンポラリーセメント ソフト,松風)のう蝕象牙質細菌に及ぼす

影響、およびう蝕象牙質の再石灰化に及ぼす影響を検討。

研究デザイン :非ランダム化比較試験

研究施設 :岡山大学歯学部歯科保存学第1講座

対 象 :15 〜 46 歳までの 20 人で、深在性う蝕を有するが歯髄が健全と診断された上下顎臼歯 23 本。

介 入 :う蝕象牙質を部分的に除去した後、18 歯にはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを、5歯には水硬性仮封材を貼付して仮封。3カ月後にう窩を再開拡。

主要評価項目 :う窩の再開拡前後の生息細菌の測定、および規格エックス線写真による再石灰化の評価。

結 果 :生息細菌:タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメント貼付した場合、う窩の再開拡時にすべての症例で log102 〜 7CFU/mg dentin から log100 〜 3CFU/mg dentin に細菌数が減少したのに対し、水硬性仮封材では変化が認められなかった。エックス線不透過度の増加:タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントでは 16 例中 14 例でエックス線不透過度が増加したのに対し、水硬性仮封材の4歯では変化が認められなかった。

結 論 :タンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントは、う蝕象牙質に生息する細菌に対して抗菌性を発揮するとともに、残存う蝕象牙質の再石灰化を促進し、深在性う蝕象牙質治療薬として有効である。

Changesinthecultivablefloraindeepcariouslesionsfollowingastepwiseexcavationprocedure.BjørndalL,LarsenTCariesRes.2000;34(6):502-8.

目 的 :深在性う蝕における培養可能なう蝕関連菌がステップワイズエキスカベーション前後で変化するかどうかを検証。

研究デザイン :ケースシリーズ

研究施設 :Department of Cariology, School of Dentistry, Faculty of Health Sciences,University of Copenhagen, Denmark

対 象 :深在性う蝕9歯。

介 入 :う窩中央のう蝕病原性の高い軟化が著しい象牙質と表層の壊死象牙質を除去した後、最終的なう蝕除去前後の脱灰象牙質を滅菌バーで採取し、水酸化カルシウム製剤(Dycal)を貼付して仮封。4〜6カ月後にう窩を再開拡して同様にサンプルを採取。

主要評価項目 :う蝕関連細菌数とう蝕の色と硬さ。

結 果 :仮封前は黄色あるいは薄茶色のう蝕軟化象牙質が、う窩の再開拡時には色が濃くなり硬化していた。仮封前は 70%にグラム陽性桿菌と 50%に Lactobacilli を認め、グラム陰性桿菌と streptococci 属が続いて優勢であった。う窩の再開拡時には、総細菌数と Lactobacilli の検出頻度はともに減少していた。グラム陰性桿菌も減少し A. naeslundii や種々の streptococci が優勢となっていた。

結 論 :培養可能なう蝕関連細菌はステップワイズエキスカベーション後で有意に減少し、その分布は典型的な深在性う蝕の細菌叢ではなくなっていた。このことは臨床的なう蝕の進行抑制を示唆している。

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第2章 ガイドライン本論

Apractice-basedstudyonstepwiseexcavationofdeepcariouslesionsinpermanentteeth:a1-yearfollow-upstudy.BjørndalL,ThylstrupACommunityDentOralEpidemiol.1998;26(2):122-8.

目 的 :深在性う蝕に対するステップワイズエキスカベーションの効果を臨床的に検討。

研究デザイン :ケースシリーズ

介 入 :う窩辺縁のう蝕を完全に除去した後、中央のう蝕病原性の高い軟化が著しい象牙質と表層の壊死象牙質を鋭利なエキスカベータで除去した。水酸化カルシウム製剤を貼付する前にう蝕の色と硬さを評価した。2〜 19 カ月後(平均6カ月後)にう窩を再開拡し、脱灰象牙質除去前後に、再び色と硬さを評価した。

主要評価項目 :う蝕の色と硬さ

結 果 :う窩の再開拡時には窩洞中央部の象牙質は明らかに褐色で硬化していた。脱灰象牙質を除去して現れた窩底象牙質の色と硬さは、う蝕を完全除去した辺縁象牙質と同等であった。94 症例中5例が露髄をきたした。

結 論 :ステップワイズエキスカベーションにて露髄を回避して修復した歯は、1年経過時に高い成功率を示した。このことは、ステップワイズエキスカベーションが、深在性う蝕に対する治療法として、歯内療法と比較した場合、歯の生存に貢献できる可能性があることを示している。

Aclinicalandmicrobiologicalstudyofdeepcariouslesionsduringstepwiseexcavationusinglongtreatmentintervals.BjørndalL,LarsenT,ThylstrupACariesRes.1997;31(6):411-7.

目 的 :ステップワイズエキスカベーション前後での深在性う蝕の細菌叢と象牙質の色と硬さの変化を検証。

研究デザイン :ケースシリーズ

研究施設 :Department of Cariology and Endodontics, School of Dentistry, Faculty of Health Sciences, University of Copenhagen, Denmark

対 象 :う蝕を完全に除去すると露髄が予想される永久歯の深在性う蝕 31 窩洞。

介 入 :う窩辺縁のう蝕を完全に除去した後、中央のう蝕病原性の高い軟化が著しい象牙質と表層の壊死象牙質を鋭利なエキスカベータで除去した。水酸化カルシウム製剤を貼付する前に、う蝕の色と硬さを評価した。6〜 12 カ月後にう窩を再開拡し、脱灰象牙質除去前後に、再度、色と硬さを評価した。

主要評価項目 :脱灰象牙質除去前後のう蝕関連菌数、および色と硬さをう窩の再開拡前後に評価。

結 果 :培養可能な細菌の検出がない症例はステップワイズエキスカベーション直後で6例であったものが、最終う蝕除去後には9例に増加した。ステップワイズエキスカベーションを行うことによってう蝕象牙質中の細菌は減少し、う蝕象牙質は硬化していた。

結 論 :う蝕関連細菌が残存しているにもかかわらず露髄が回避できたことは、軟化が著しい象牙質を除去することがう蝕の進行抑制に重要であることを示している。ステップワイズエキスカベーションは深在性う蝕に適切な治療法である。

深在性齲蝕に対する暫間的間接歯髄覆罩法の臨床観察小川冬樹,町田幸雄歯科学報.1984;84(12):43-50.

目 的 :深在性う蝕に対する水酸化カルシウム製剤の効果を検証。

研究デザイン :ケースシリーズ

研究施設 :東京歯科大学小児歯科

対 象 :6〜 13 歳の患者において、う蝕を完全に除去すると露髄しそうな深在性う蝕を有する永久歯 28 歯。

介 入 : う蝕象牙質を部分的に除去した後、水酸化カルシウム製剤(Procal,3M)を貼付し、3カ月後にう窩を再開拡した。さらに、再度、水酸化カルシウム製剤を貼付した後、6カ月後にう窩を再開拡した。

主要評価項目 : 臨床症状、う蝕象牙質の性状変化、新生修復象牙質の添加、う蝕象牙質の石灰化、および電気抵抗値の変化。

結 果 :28 例中2症例で術後に冷水痛が発現するも、1週間で消退した。う蝕象牙質は、3カ月経過時に乾燥した褐色に変化し、6カ月経過時には硬化していた。エックス線不透過性の亢進は、3カ月経過時に2例(7.1%)、6カ月経過時には 12例(42.9%)に認められた。新生象牙質は、6カ月経過時に2例にのみ認められた。電気抵抗値で健全象牙質を有すると考えられる 18.1k Ωを示す症例は、3カ月経過時に 18 例であり、6カ月経過時には全症例(28 例)に認められた。

結 論 :深在性う蝕を有する永久歯に対して、暫間的間接歯髄覆罩法は優れた保存処置である。

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第2章 ガイドライン本論

CQ12 歯髄温存療法にはどの覆髄剤が適当か。CQ13 歯髄温存療法の後、リエントリーまでどれくらい期間をあけるべきか。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Corraloet al.2013ブラジル

ランダム化比較試験

11 〜 35 歳 の患 者 44 人の永久歯に認められた象 牙質 2/3 以 上 進 行したう蝕。エックス線所見でう蝕を完全に除去すると露髄する可能性があり、臨床症状のないもの。

ステップ ワイズエキスカベーションを 60 歯に行って、①水酸化カルシウム製剤(Dycal) にて覆 髄し強化型酸化亜鉛ユージノールセメントにて仮封、② GICにて仮封、 ③ワックスを貼付し 強化型酸化亜鉛ユージノールセメントにて仮封。 3〜4カ月後にリエントリー時に、残置させたう蝕の色および硬さと、走査電子顕微鏡による象牙質の微細構造と細菌の有無を観察。

水酸化カルシウム製剤、グラスアイオノマーセメント、あるいはワックスのいずれでも、3 カ月後にはう蝕象牙質が硬化し、走査電子顕微鏡にて観察される細菌は減少した。

Wicht et al. 2004ドイツ

ランダム化比較試験

22 人の成人の大臼歯(23本)、 小 臼 歯(7 本) の初発の深在性う蝕 30 本患者年齢:18 〜 67 歳

覆髄剤:① 1% クロルヘキシジン /1% チモール含有バニッシュ Cervitec(CE)、②デメクロサイクリン / ハイドロコルチゾン含有ペースト Ledermix(LE)、③覆髄剤なし(CO)、各群 10 歯ずつ処置。

6 週間後の細菌数総細菌数:CE=CO, LE<COLactobacillus:CE, LE<CO CE および LE のいずれでも細菌数は 0 にはならなかった。

Nirschlet al.1983米国

ランダム化比較試験

歯髄に不可逆性の炎症がなくう蝕を完全に除去すると露髄 が予想される、永久歯の深在性う蝕33 本

う蝕象牙質を部分的に除去した後、物性の異なる 2種類の水酸化カルシウム製 剤(Dycal) をランダムに割り付けて貼付し、3 カ月ごとに臨床症状を観察。6カ月後にリエントリーしてう蝕を完全除去。

2 種 類の Dycal の 6 カ月経過時の成功率は 94.4% および 93.3%。エックス線検査より修復象牙質の添加を認めた。リエントリー後のう蝕除去時に、各群に 1 例ずつ露髄を認めた。

永峰1993 日本

非ランダム化 比 較 試験

う蝕を完全に除去すると露髄 が予想される、永久歯の深在性う蝕 23 本患者年齢:15 〜 46 歳

覆髄剤:① HY 材配合カルボキシレートセメント(ハイ- ボンド テンポラリーセメント ソフト)23 歯、②水 硬 性 仮 封 材(Lumicon; LUM)5 歯 3 カ月後にエックス線規格写真撮影。

リエントリー前後の生息細菌数:① HY;すべての症例で細菌数がLog100-3CFU/mg dentin に減少、② LUM;細菌数は変化なし3 カ 月 後 の 再 石 灰 化: ①HY;14/16 症例で再石灰化、② LUM;観察 4 例で再石灰化はなし。

コントロール群(D

ycal

なし)が

設定されていないため、ケース

シリーズ(レベルV)とみなした

使用されている薬剤が日本

では広くは用いられていな

いため除外

後藤1985日本

非ランダム化 比 較 試験

う蝕を完全に除去すると露髄 が予想される、永久歯の深在性う蝕 10 本患者年齢:19 〜 33 歳

覆髄剤:①水酸化カルシウム製剤(Dycal)6 歯、②酸化亜鉛ユージノールセメント(Neodyne)4 歯。12 週後にリエントリー。

病理評価:う蝕象牙質は褐色に変化し硬化。修復象牙質の形成:①水酸化カルシウム製剤 2/6、②酸化亜鉛ユージノールセメント 1/4

Sawusch1982米国

非ランダム化 比 較 試験

う蝕を完全に除去すると露髄 が予想される、永久歯の深在性う蝕 48 本

う蝕を一部除去した後、物性の異なる 2 種類の水酸化カルシウム製剤(Dycal) を貼付して 6 カ月後の臨床成績を評価。

覆髄歯 48 歯の予後はすべて良好。

Leung1980米国

非ランダム化 比 較 試験

う蝕を完全に除去すると露髄 が予想される、臨床症状のない永久歯の深在性う蝕 40 本

覆髄剤:①水酸化カルシウム製剤(Dycal)20 歯、②コントロール:ワックス 20歯4 週後にリエントリー。

リエントリー 前 後 の 細 菌数 を 比 較:Dycal 貼 付 群の 細 菌 数 は Log105 CFU から Log104 CFU に 有 意 に 減少、ワックスで封鎖した群の 細 菌 数 は Log105 CFU レベ ルで 有 意 に 増 加。 特 にlactobacilli 群が Dycal 群で有意に減少し、ワックス群で増加した。

Bjørndalet al.2000デンマーク

ケ ース シリーズ

深在性隣接面う蝕 9 本:大臼歯(5 本)、小臼歯(4本)う窩の深さは象牙質の厚さの 2/3

う蝕の部分除去が終了した 時 点 の 脱 灰 象 牙 質 を滅菌バーで採取し、窩洞は水酸化カルシウム製剤

(Dycal)を貼付して仮封。4〜 6カ月後にリエントリーし同様にサンプルを採取。

う蝕象牙質の色の変化:仮封前は黄色あるいは薄茶色のう蝕軟化象牙質が、リエントリー時には色が濃くなり硬化した。う蝕原因細菌:培養可能なう蝕原因細菌はステップワイズエキスカベーション後で有意に減少し、その分布は典型的な深在性う蝕の細菌叢とは異なっていた。

Bjørndalet al. 1998デンマーク

ケ ース シリーズ

う蝕を完全に除去すると露髄が予想される永久歯の深在性う蝕 94 本。開業歯科医院で実施。

ステップ ワイズエキスカベーション前後でのう蝕象牙質の色と硬さの変化を観察。窩洞は水酸化カルシウム製剤(Dycal)を貼付した後、仮 封し、2 〜 19 カ月後(平均 6 カ月後)にリエントリー。

リエントリー時に脱灰象牙質を除去して現れた窩底象牙質の色と硬さは、う蝕を完全除去した窩洞辺縁象牙質と同等にまで硬化94 症例中 5 例が露髄。

コントロール群(Dycal

なし)が

設定されていないため、ケース

シリーズ(レベルV)とみなした

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Page 73: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

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第2章 ガイドライン本論

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

小川ら1984日本

ケ ース シリーズ

う蝕を完全に除去すると露髄が予想される永久歯の深在性う蝕 28 本患者年齢:6 〜 13 歳

ステップ ワイズエキスカベーション前後でのう蝕象牙質の色と硬さの変化を観察。窩洞は水酸化カルシウム製 剤(Procal) で 仮 封し、2 および 6 カ月後にリエントリー。

う蝕象牙質は 3 カ月後に乾燥した褐色に変化し、6 カ月後には硬化した。エックス線不透過性は、3 カ月後に 2 例(7.1%)、6 カ月後には 12 例(42.9%)で亢進。

Hutchinset al.1972米国

ケースシリーズ

う蝕を完全に除去すると露髄 が予想される、永久歯の深在性う蝕 35 本

う蝕象牙質を部分的に除去した後、 メチルメタクリレート強化型酸化亜鉛ユージノールセメント(IRM)を貼付し 6 カ月後ごとに臨床評価とエックス線検査にて修復象牙質の添加を観察。

18 カ月経 過時 の成 功 率は94.3%。エックス線検査より修復象牙質の添加あり。

Jordanet al.1971カナダ

ケ ース シリーズ

う蝕を完全に除去すると露髄が予想される、永久歯の深在性う蝕 243 本、患者 97人

う蝕象牙質を部分的に除去した後、①水酸化カルシウム製剤(Dycal)、②水酸化カルシウムとクレゾールのサリチル酸エステル、③酸化亜鉛ユージノールセメントのいずれかで覆髄した後、強化型 ZOE+Am 仮封。リエントリーしてう蝕完全除去後に最終修復。

243 歯 中 236 歯(98%) 成功。7 歯で歯内療法が必要となった。エックス線検査で再石灰化は 10 週以前には認められず、10 〜 16 週(平均 12 週)で確認できた。覆髄材料の効果の違いは検討されていない。

Law et al.1961米国

ケ ース シリーズ

う蝕を完全に除去すると露髄 が予想される、永久歯の深在性う蝕 20 本

(乳歯 +38 本)

う窩を開拡の後、滅菌水で練和した水酸化カルシウムをう蝕 の上 から 1 〜2mm 厚さで貼付して、アマルガムにて修復。6 カ月経過時にう蝕を完全に除去した後、酸化亜鉛ユージノールセメントで裏層しアマルガム修復。2 年後に臨床評価。

最終アマルガム修復後 2 年経過時の成功率は、永久歯で 20 症 例 中 16 例(80%)。乳歯は 28 例中 38 例(74%)。

CQ10 歯髄温存療法により、期間をあけて段階的にう蝕を除去することで、露髄   を回避できるか。CQ11 歯髄温存療法を行った場合、歯髄症状の発現はう蝕完全除去の場合と同   じか。CQ12 歯髄温存療法にはどの覆髄剤が適当か。CQ13 歯髄温存療法の後、リエントリーまでどれくらい期間をあけるべきか。

英語論文検索:MEDLINE(Dialog)(検索対象年:1970〜 2013年、検索日:2013年 9 月 13 日)

#1  dental caries[MH]#2  teeth or tooth or dental#3  caries or carious or decay* or lesion*#4  #2 and #3#5  deep or extensive or asymptomatic*#6  carie* or carious or decay* or lesions*#7  #5 and #6#8  #1 or #4 or #7#9  dental pulp*#10 dental pulp* expose*#11 tooth pulp* expose*#12 teeth pulp* expose*#13 dental pulp cavity

#14  dental pulp disease*#15  carious pulp or carie* pulp#16  #9 or #10 or #11 or #12 or #13 or #14 or #15#17  pulp* devitalization*#18  pulp* protection*#19  pulp* management*#20 pulp treat* or pulp extirpate* or pulpremove* or pulp expose* or pulp extract*or pulp cap*#21 stepwise excavation*#22 #17 or #18 or #19 or #20 or #21#23 (#8 or #16) and #22 #24 (#8 or #16) and #22

 検索結果:311 件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1983〜 2013年、検索日:2013年 11月 13日)

#1 ( う蝕 /TH or う蝕 /AL)#2 ( 軟化象牙質 /TH or う蝕象牙質 /AL)#3  象牙質う蝕 /AL#4  深在性う蝕 /AL#5 ( 歯髄 /TH or 歯髄 /AL)AND(PT= 原著

論文)#6  #1 or #2 or #3 or #4 or #5#7  覆髄 /AL#8  直接覆髄 /AL#9  間接覆髄 /AL#10 暫間的間接覆髄 /AL

#11 (覆髄法 /TH or 歯髄覆罩 /AL)AND(PT= 原著論文)

#12 直接歯髄覆罩 /AL#13 間接歯髄覆罩 /AL#14 暫間的間接歯髄覆罩 /AL#15 (歯髄保護 /TH or 歯髄保護 /AL)#16 (歯髄露出 /TH or 露髄 /AL)#17 #7 or #8 or #9 or #10 or #11 or#12 or #13 or

#14or #15 or #16#18 #6 and #17#19 ( #18) and( DT=2012:2013 PT= 原著論文

CK= ヒト)

 検索結果:106 件

Page 74: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

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第2章 ガイドライン本論

文献(CQ10、CQ11)1) Kidd EAM. Caries removal and the pulpo-dentinal complex. Dent Update. 2000 ; 27: 476-82.2) Ranly DM, Garcia-Godoy F. Current and potential pulp therapies for primary and young permanent teeth. J

Dent. 2000; 28: 153-61.3) Shovelton DS, Friend LA, Krik EEJ, Rowe AHR. The efficacy of pulp capping materials – A comparative trial. Br

Dent J. 1971; 130: 385-91.4) Matsuo T, Nakanishi T, Shimizu H, Ebisu S. A clinical study of direct pulp capping applied to carious-exposed

pulps. J Endod. 1996; 22: 551-6.5) Haskell EW, Stanley HR, Chelemi J, Stringfellow H. Direct pulp capping treatment: a long-term follow-up. J

Am Dent Assoc. 1978; 97 : 607-12.6) Barthel CR, Rosenkranz B, Leuenberg A, Roulet J-F. Pulp capping of carious exposures: Treatment outcome

after 5 and 10 years: A retrospective study. J Endod. 2000; 26: 525-8.7) Bjørndal L, Reit C, Bruun G, Markvart M, Kjaldgaard M, Nasman P, Thordrup M, Dige I, Nyvad B, Fransson H,

Lager A, Ericson D, Petersson K, Olsson J, Santimano EM, Wennstriim A, Winkel P, Gluud C. Treatment of deep caries lesions in adults: randomized clinical trials comparing stepwise vs. direct complete excavation, and direct pulp capping vs. partial pulpotomy. Eur J Oral Sci. 2010; 118: 290-7.

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136

参考資料 保険収載医療技術「歯髄温存療法(AIPC)」の治療方針

137

参考資料

保険収載医療技術「歯髄温存療法(AIPC)」の治療指針

はじめに

平成 20 年度より、新規医療技術として非侵襲性歯髄覆罩(AIPC)が 1 歯につき 150 点で保険導

入された。その後、本技術は、平成 22 年度の診療報酬改定で歯髄温存療法と名称を変更し、今

日に至っている。歯科の診療録および診療報酬明細書に使用できる略記は「AIPC」である。これ

は、Atraumatic(非侵襲性) Indirect Pulp Capping(間接覆髄)を語源としている。本法は、教科

書などの成書が示す暫間的間接覆髄法(通称 IPC)である。本法の保険収載に際し懸念されるのは、

本技術が既存の間接歯髄保護処置(間保護、間覆または間 PCap)と異なる点や、使用できる覆髄

剤に関して、臨床家の間に情報が不足していることである。そこで、日本歯科保存学会として、この

治療法が正しく応用されるよう以下に治療指針を示す。

歯髄温存療法とは

う蝕が歯髄に近接する深部象牙質まで進行した症例において、感染象牙質を徹底して除去すると、

露髄が生じるために抜髄を選択せざるをえない場合がある。このような場合に、感染象牙質を意図

的に残しそこに覆髄剤を貼付することで、残置した感染象牙質の無菌化や再石灰化、さらには第三

(修復)象牙質の形成を促進して治癒を図る治療法である。本法は、1 回の処置で感染象牙質の

徹底除去を行って歯髄保護を図る既存の間接歯髄保護処置と、この点で異なる。

歯髄温存療法の科学的根拠

1)露髄を回避することができる。

2)水酸化カルシウム製剤やタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを貼付するこ

とによって、う窩の細菌数が減少する。

3)水酸化カルシウム製剤やタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを貼付するこ

とによって、う蝕象牙質が再石灰化する。

4)水酸化カルシウム製剤やタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセメントを貼付するこ

とによって、3 〜 6 カ月で第三象牙質(修復象牙質)の形成が認められる。

適応症

本指針の科学的根拠となった臨床研究が対象とした年齢層は、学童期、青年期、壮年期に及ぶ

ものであったが、中年期や高齢期における臨床的有用性を否定するものではない。感染象牙質の

徹底除去を行った場合に、露髄をまねき抜髄に至る可能性の高い深在性う蝕を対象とする。下記の

要件を満たすことにより AIPC の成功率は高くなる。

1)歯髄の状態は電気歯髄検査で生活反応を示し、臨床的に健康または可逆性の歯髄炎であること。

自発痛またはその既往がある場合は非適応とする。

2)エックス線写真によって、う窩と歯髄の間に、象牙質の介在が確認可能であること。

3)ラバーダム防湿(不可能な場合は簡易防湿)下で清潔な操作が可能であること。

4)覆髄後に辺縁漏洩がないよう窩洞が封鎖可能であること。

術式

1 回目① 術野の防湿

② う窩の開拡

③ 感染象牙質の除去

ⅰ.痛みが生じない範囲での感染象牙質除去が推奨されるので、原則的に無麻酔下での施術

が望ましい。

ⅱ.滅菌した鋭利なスプーンエキスカベータ、またはラウンドバーを低回転(回転が視認できる)

で用いて行う。

ⅲ.エナメル象牙境に沿って側壁から感染象牙質を除去する。窩洞周囲側壁の感染象牙質は、

う蝕検知液を使用して完全に除去する。

ⅳ.う蝕検知液で染色しながら、痛みのない範囲で濃染される感染象牙質を除去する。

ⅴ.感染象牙質の除去中に痛みが生じたら、その部分の除去は中止し、露髄させないよう注意

する。

④ う窩の水洗と乾燥:痛みを与えないよう水洗し、弱圧エアーで乾燥する。検知液の色は残って

いても、そのまま次のステップに進んでよい。

⑤ 覆髄剤の貼付:水酸化カルシウム製剤またはタンニン・フッ化物合剤配合カルボキシレートセ

メントを用いる。残した感染象牙質面はすべて覆髄剤で覆う。その時、覆髄剤が窩縁に付着し

てはならない。

⑥ 暫間修復(仮封):暫間修復中の辺縁漏洩を避けるため、暫間修復材(仮封材)にはグラス

アイオノマー系セメントまたは接着性コンポジットレジンを用いる。

⑦ 術直後は、一過性の冷水痛や不快感(ズキズキではないがジーンとした感じ)が生じる場合

もあることを、患者に説明しておく。必要に応じて鎮痛薬を処方する。

2 回目経過の確認:約 1 週間後に、歯髄の生死を含めた術後の経過を確認する。強い歯髄症状が持続

している場合は、歯内療法に移行する。

3回目① 3 カ月以上経過後に、自発痛、冷水痛、打診痛、根尖部に圧痛がないこと、また、電気歯髄

検査により歯髄が生活していること、エックス線写真上で根尖部に透過像が認められないことな

どを確認する。

②エックス線写真で、根尖部に透過像を認めなければ、暫間修復材を注意深く除去後、覆髄剤

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参考資料

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CQ

CQ

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15

第2章 ガイドライン本論

をスプーンエキスカベータなどで除去し、残置させた感染象牙質を露出させる。

③露出させた感染象牙質が乾燥していて、スプーンエキスカベータや探針で硬化が確認できれば

最終修復に移行する。

④露出した感染象牙質が乾燥・硬化していない場合、1 回目の ③〜⑦を行う。

⑤上記の操作を 4 回まで繰り返して効果がなければ歯内療法に移行する。

最終修復直接修復(充填、成形修復)を選択する場合は、接着性コンポジットレジン修復またはグラスア

イオノマーセメント修復とする。間接修復(インレー・アンレー)を選択する場合は、ベース材(グ

ラスアイオノマーセメントや接着性コンポジットレジン)で歯髄に近接した象牙質を接着補強してか

ら、窩洞形成や印象など一連の修復操作に移る。

付記う蝕検知液:カリエスディテクター(クラレノリタケデンタル)とカリエスチェック(日本歯科薬品)

の有効性に根拠が示されている。

覆髄剤  :水酸化カルシウム製剤として Dycal (Dentsply/Caulk)、タンニン・フッ化物合剤配合

カルボキシレートセメントとしてハイ - ボンド テンポラリーセメント ソフト(松風)の

有効性に科学的根拠が示されている。

6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ14 臼歯咬合面(1級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨

床成績に違いはあるか。

CQ15 臼歯隣接面(2級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨

床成績に違いはあるか。

CQ14 臼歯咬合面(1級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。

【 推奨 】臼歯咬合面(1級窩洞)に対するコンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨床成績に有意な差はない(エビデンスレベル「Ⅴ」)。しかし、コンポジットレジン修復は、MIの理念に基づいてう蝕除去を行い、確実な接着操作を行うことによって、健全歯質を可及的に保存し、審美的な修復が可能である。よって、臼歯咬合面(1級窩洞)に対して直接コンポジットレジン修復を行うことが推奨される。(推奨の強さ「B」)

CQ15 臼歯隣接面(2級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。

【 推奨 】臼歯隣接面(2級窩洞)に対するコンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨床成績に有意な差はない(エビデンスレベル「Ⅴ」)。しかし、コンポジットレジン修復は、MIの理念に基づいてう蝕除去を行うため、健全歯質を可及的に保存し、審美的な修復ができる。よって、確実な接着操作とコンポジットレジンの填塞操作が可能であれば、臼歯隣接面(2級窩洞)に対して直接コンポジットレジン修復を行うことが推奨される。(推奨の強さ「C1」)

文献の抽出

CQ14CQ15 英語論文検索 :PubMed(コンポジットレジン)検索対象年 :1990 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 18 日

英語論文検索 :PubMed(メタルインレー)検索対象年 :1990 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 18 日

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140

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

141

CQ

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第2章 ガイドライン本論

日本語論文検索 :医学中央雑誌(コンポジットレジン)検索対象年 :1990 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 19 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌(メタルインレー)検索対象年 :1990 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 18 日

以上のデータベース検索より、PubMed および医学中央雑誌からそれぞれ 617 と 1,025 文献が抽

出された。それらの抄録より、永久歯の臼歯部咬合面および隣接面(1級、2級窩洞)に対する

直接コンポジットレジン修復とメタルインレー修復に関するヒト臨床研究のうち、わが国の現状に即

した長期の臨床研究を中心に選択した結果、エビデンスとして採用する可能性のある5論文(英文

3、和文2)に絞られた。これらの5論文を精読して、研究デザインの質に基づいてエビデンスレ

ベルを確定し、CQ14、15 に対するエビデンスとして採用した。そして、それぞれの CQ の「推奨」

の最後に、エビデンスとして採用した論文の構造化抄録を記載した。

背景・目的

わが国における臼歯部の修復では、金銀パラジウム合金による鋳造修復が保険適用されているた

め、諸外国と比べてメタルインレー修復が広く普及しているのが特徴である。一方、1980 年初頭に

水銀による環境汚染が社会的な問題となり、これを発端に歯科用アマルガムの使用が著しく制限さ

れた(2006 年にアマルガムの国内での製造は中止され、現在入手困難な状態である)。その対策

の一つとして、臼歯に化学重合型コンポジットレジンが緊急的に実用化された。その後、光重合型

コンポジットレジンが登場し、諸物性や審美性に改良が加えられて現在に至っている。その間、接

着技術も確実に進歩を遂げてきたが、1990 年代に入り、セルフエッチングタイプの接着システムが

開発され、従来のリン酸エッチングを用いた接着システムと比べて象牙質接着の信頼性が著しく向

上した。最近では接着システムの簡略化がさらに進み、オールインワンシステムが登場している。

このように国内においては、コンポジットレジンの臼歯部への応用が比較的早く進んでおり、臼

歯部修復の長期臨床研究は、すでに臼歯用コンポジットレジンがアマルガムに匹敵する臼歯用成形

修復材であると結論づけている(エビデンスレベル「Ⅴ」)1,2,3)。

わが国における臼歯部修復をめぐる社会的背景や歯学教育ならびに歯科医療保険制度は、諸外

国とは大きく異なり、この違いは修復物の臨床成績にも影響を及ぼす可能性がある。今日、患者の

審美的要求はますます向上しており、臼歯部と言えども、より審美的で歯質保存的な修復方法が求

められている。

解 説

臼歯部におけるコンポジットレジン修復とメタルインレー修復の臨床成績を直接比較した論文は

きわめて少ない 4,5)。また、これらの論文の結果からは、臼歯部に対する修復法としてコンポジット

レジン修復とメタルインレー修復の臨床成績について、どちらか一方に明らかな優位性は認められ

ない。

久保ら 4)は、コンポジットレジン修復とメタルインレー修復について臨床成績(最長 19 年)を

比較検討している(エビデンスレベル「Ⅴ」)。調査は診療録による後ろ向き調査であり、長崎大学

歯学部附属病院において 2000 年2〜7月の半年間に調査したコンポジットレジン修復 577 症例(1

〜5級を含む)と鋳造修復 128 症例が対象である。その結果、コンポジットレジン修復では窩洞形

態によって生存率に違いがみられ、1級、2級修復における 10 年後の推計生存率は 83.0%であり、

鋳造修復のそれは 84.7%である。したがって、臼歯部におけるコンポジットレジン修復と鋳造修復

との生存率に有意差はないと報告している。

青山ら 5)は、札幌市内の一般歯科医院において行われた臼歯修復物について、修復物の生存

期間とそれに関連する要因について、診療録による後向き調査を行った(エビデンスレベル「Ⅴ」)。

1991 〜 2005 年を観察期間として臼歯に修復処置(コンポジットレジン、メタルインレー、4/5 冠、

メタルクラウン、メタルブリッジ)を受け、その後、1回以上再来院した患者の修復物について修

復物の生存期間と修復物の予後に関与する因子を検討した。その結果、修復物ごとの生存率(10 年)

は、メタルインレー 67.5%、コンポジットレジン 60.4%、メタルクラウン 55.8%であり、再治療の

原因は二次う蝕によるものが最も多かった。生存期間の長さに影響する因子として、臼歯部の咬合

接触状態の不良な患者(Eichner の分類 B-1、B-2、B-3:参考資料①)では経過不良であり、咬合

関係が臨床成績に影響するとしている。

しかし、MI の理念に基づいたう蝕治療の観点からコンポジットレジン修復とメタルインレー修復

を考えた場合、メタルインレー修復においては窩洞形成に伴う健全歯質の削除量が大きく、それに

伴って局所麻酔の使用や歯髄刺激の惹起などがある。また、久保ら4)は、コンポジットレジン修復

の際、使用する接着材料は臨床成績に影響を及ぼすことを指摘しており、象牙質への接着性が向上

した接着システム(3ステップの接着システムや2ステップのセルフエッチングタイプの接着システ

ムなど)を使用した場合、5級修復の生存率の向上がみられたと報告している。一方、実験室での

最近の接着性材料の長期耐久試験によると、2ステップのセルフエッチングタイプの接着システム

のう蝕罹患象牙質に対する接着性は、健全象牙質に比べて低いものの、長期にわたって高い接着

性が得られている6)。また、Akimoto ら7)は、2ステップのセルフエッチングタイプの接着システ

ムを用いたコンポジットレジン修復(1〜5級を含む 87 症例)の 10 年間の臨床評価を行っており(エ

ビデンスレベル「Ⅴ」)、無麻酔、ラバーダム防湿下でう蝕検知液を用いてう蝕除去を行い、2ステッ

プのセルフエッチングタイプの接着システムを用いて接着処理後、コンポジットレジン修復を行っ

た結果、10 年後まで脱落、歯髄症状は全く認められなかったと報告している。一方、オールインワ

ンシステムが数多く市販されているが、これらの臼歯部への応用に関する長期臨床成績の報告はな

い。Heintze 3)らは、コンポジットレジン修復に関する観察期間2年以上の前向き臨床研究を検索し、

373 の臨床研究の中から 59 論文を抽出した。その結果、コンポジットレジン修復の 10 年後の成功

率は約 90%であり、さらにラバーダム防湿下での修復は、再修復の必要例がほとんどなく、効果は

顕著であったと報告している。本論文では、セルフエッチングタイプの接着システムで修復した場合、

より多くの欠陥や短い生存率を指摘しているが、対象となる接着システムはオールインワンシステム

と考えられ、2ステップのセルフエッチングタイプの接着システムとは異なる。

近年、臼歯部においても患者の審美的要求は高く、審美性を考慮すれば、メタルインレーよりも

コンポジットレジンが望ましい。角舘ら8)は、医療経済的な観点から歯冠修復および定期歯科健診

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142

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

143

CQ

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第2章 ガイドライン本論

についての歯科医業収支を比較、検討している。その結果、単位時間あたりの収支差額は、コン

ポジットレジン修復、成人の定期歯科健診、抜髄後に鋳造歯冠修復、インレー修復の順に大きかっ

たと報告している。すなわち、比較的チェアタイムの短い簡単な症例であれば、コンポジットレジン

修復を選択する経営的メリットも大きい。

大臼歯部へのコンポジットレジン修復の適用基準として、福島ら1)は、内側性の小・中窩洞で、

上下の咬合接触がエナメル質同士で確保されていることを挙げている。近年の修復材料と術式の著

しい進歩によって、コンポジットレジン修復の適用範囲は拡大する傾向にある。しかし、窩洞の形

態や大きさと臨床成績との関係についてのエビデンスレベルの高い研究が少ないのが現状である。

一方、コンポジットレジン修復の利点として、たとえ修復物が破折や摩耗しても、接着材料を応

用することによって容易に補修することが可能である。この点もコンポジットレジンが優れている

点であり、歯の寿命にとって有利に影響すると考えられる。

van de Sande ら9)は、ブラジルの一般歯科医院で行った臼歯コンポジットレジン修復につい

て、患者のリスクファクターと臨床成績との関係について調査した。10 〜 18 年経過したコンポジッ

トレジン修復 306 症例について、診療録の記載、修復物の評価と患者のう蝕と咬合ストレスに関す

るリスクファクターの評価を行った。その結果、修復物全体の 30%に不具合が認められ、そのうち

82%の患者に1つまたは2つのリスクファクターが存在したと報告している。このことは患者のリス

クファクターがコンポジットレジン修復の臨床成績に大きな影響を及ぼすことを示しており、リスク

評価とその低減は今後の課題である。

以上の点を総合的に勘案すると、臨床的エビデンスからは、臼歯部に対するコンポジットレジン

修復とメタルインレー修復の臨床成績に有意な差はない(エビデンスレベル「Ⅴ」)。しかし、コン

ポジットレジン修復では、MI の理念に基づいたう蝕除去を行い、確実な接着操作を行うことによっ

て、健全歯質を可及的に保存し、審美的に修復することが可能である。よって、臼歯咬合面(1級

窩洞)に対しては、直接コンポジットレジン修復を行うことが推奨される(推奨の強さ「B」)。一方、

臼歯隣接面(2級窩洞)に対しては、症例ごとに窩洞の形態が異なり、修復の難易度が大きく異なる。

すなわち、隣接面に限局した小さな窩洞では修復操作は容易であるが、隅角を超えた比較的大き

な窩洞では難しくなる(参考資料②)。したがって、個々の症例についてその適用の可否の判断が

必要であるが、確実な接着操作と填塞操作が可能な症例については、直接コンポジットレジン修復

を行うことが推奨される(推奨の強さ「C1」)。

参考資料①

Eichner の分類Eichner K(1955)によって発表された分類で、欠損歯列だけではなく、健全歯列から無歯顎に至

るすべての歯列の関係を分類の対象にしている。分類の基本となるのは、残存歯で咬合が支持され

ている部位の数であり、機能を重視した補綴学的な立場から発表された分類法である(図1)10)。

A:4支持域すべてに対合歯との接触があるもの。

A- 1:上下顎の全歯がそろっているもの。

A- 2:片顎に限局的な欠損があるもの。

A- 3:上下顎に欠損はあるが、4支持域で対合歯との接触があるもの。

B:4支持域全部には対合歯との接触がないもの。

B- 1:3つの支持域に対合歯との接触があるもの。

B- 2:2つの支持域に対合歯との接触があるもの。

B- 3:1つの支持域に対合歯との接触があるもの。

B- 4:支持域以外(前歯部)に対合歯との接触があるもの。

C:対合歯との接触が全くないもの。

C- 1:上下顎に残存歯はあるが対合歯との接触がないもの。

C- 2:片顎は無歯顎で対顎に残存歯があるもの。

C- 3:上下顎が無歯顎のもの。

図1 咬合支持域Eichner の咬合支持域による欠損歯列の分類(Körber の原図を引用)(『スタンダード部分床義歯補綴学』10)より引用、一部改変)

4 2 1 3

4 2 1 3

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

145

CQ

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第2章 ガイドライン本論

参考資料②

臼歯隣接面(2級窩洞)の窩洞の形態とコンポジットレジン修復の難易度(図2)隣接面に限局した小さな窩洞では修復操作は容易。隅角を超えた比較的大きな窩洞では修復が

難しくなる。

図2 コンポジットレジン修復の難易度(『猪越重久のMI 臨床―接着性コンポジットレジン充填修復』11)より引用、一部改変)

低い

コンタクト保存 コンタクトなし 隅角を超える

高い

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ14、CQ15)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Patientriskfactors'influenceonsurvivalofposteriorcomposites.vandeSandeFH,OpdamNJ,RodolphoPA,CorreaMB,DemarcoFF,CenciMSJDentRes.2013:92(Suppl1);S78-83.

目 的 :患者のリスクファクターが臼歯コンポジットレジン修復の長期臨床成績に及ぼす影響を調査する。

研究デザイン :後向き臨床研究

研究施設 :ブラジル Caxias RS の一般歯科医院

対 象 :44 人の成人(男 38.6%、女 61.4%)、平均年齢 47.2 歳(24.6 〜 71.2 歳)。

介 入 :臼歯コンポジットレジン修復 306 症例(10 〜 18 年経過)。歯科医師1人。ラバーダム防湿。深い窩洞では水酸化カルシウムまたはグラスアイオノマーによる裏層。リン酸エッチング、Scotchbond Multi-Purpose または Single Bond(3M ESPE)により接着し、コンポジットレジンを充填。

主要評価項目 : 診 療 録 か ら 修 復 歯 の 記 録 を 調 査。 口 腔 内 検 査 に よ り 修 復 物 を 評 価(FDI criteria,Hickel et al., 2012)。患者のカリエスリスクおよび咬合ストレスのリスク

(ブラキシズムに関連する)の状態を評価。修復後3年以内に咬翼法エックス線検査によりう蝕の発生が認められた場合にカリエスリスク高と判定。問診票と検査により歯ぎしりや習慣性咬合異常に関連する2項目以上に該当した場合に咬合ストレスのリスク高と判定。

結 果 :全体の 30%の修復物に不具合が認められ、そのうち 82%の患者に1つまたは2つのリスクファクターが存在した。二次う蝕はカリエスリスクの高い患者に主に認められたのに対し、破折は咬合ストレスの高い患者に主に認められた。患者の性別、年齢による統計学的な違いは認められなかったのに対し、リスクファクター、歯種、歯列、歯髄の生死は修復物の臨床成績に大きく影響した。歯面数と修復材料による影響は認められなかった。

結 論 :リスクファクターは臼歯部のコンポジットレジン修復の臨床成績に影響を及ぼすことがわかった。修復物の臨床評価においては患者のリスク評価を含めるべきである。

ClinicaleffectivenessofdirectclassIIrestorations–Ameta-analysis.HeintzeSD,RoussonVJAdhesDent.2012:14(5);407-31.

目 的 :2級直接コンポジットレジン修復の臨床成績について文献検索を行い、その有効性を評価する。

研究デザイン :SCOPUS データベース(1966 〜 2011)からコンポジットレジン修復に関する観察期間2年以上の前向き臨床研究を検索。

研究施設 :リヒテンシュタイン、Ivoclar Vivadent AG、スイス、University of Lausanne

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146

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

147

CQ

CQ

14

15

第2章 ガイドライン本論

対 象 : 最 終 リ コ ー ル 時 に 20 症 例 以 上 の 臨 床 研 究、 検 索 用 語:Class II、posterior、clinical。

介 入 :永久歯の1級、2級直接コンポジットレジン修復、コンポマー修復、アマルガム修復(臨床術式と使用材料の記述あり)。

主要評価項目 :評価項目(辺縁着色、辺縁の適合、辺縁のう蝕、修復物の破折、色調適合性、解剖学的な形態)および追加項目(表面粗さ、表面の着色、術後疼痛、根管処置)

結 果 :373 の臨床研究の中から 59 論文を抽出し、その 70%で1級および2級修復が行われていた。コンポジットレジン修復の 10 年後の成功率は約 90%であり、アマルガム修復との違いはなかった。しかし、コンポマーによる修復の臨床成績は有意に低かった。主な再修復の理由として修復物の破折と二次う蝕が指摘されている臨床研究もあったが、その頻度は低かった。10 年で再修復に至ったのは約6%であった。マクロフィラー型コンポジットレジンとコンポマーによる修復物では、解剖学的形態のロスが多く認められた。エナメル質に対する酸エッチングや象牙質の接着を行わない修復物では、エナメル質に対する酸エッチングを行ったものと比べて、辺縁着色と辺縁不適合が有意に多く認められた。セルフエッチングタイプの接着システムを用いた場合、その中間であった。コンポマー修復では、より多くの補修可能な小破折が認められた。ラバーダム防湿下での修復は、再修復の必要例はほとんどなく、ラバーダム防湿の効果は顕著であった。

結 論 :ラバーダム防湿下でエナメルエッチングを行い、ハイブリッド型またはマイクロフィラー型コンポジットレジンで修復することが最も良好な臨床成績を示した。その臨床成績は、アマルガム修復と同等であった。コンポマーやマクロフィラー型コンポジットレジンを用いた修復、さらに酸エッチングを行わない修復やセルフエッチングタイプの接着システムを用いた修復では、著しい欠陥やより短期の生存率を示した。

臼歯部修復物の生存期間に関連する要因青山貴則,相田 潤,竹原順次,森田 学口腔衛会誌.2008;58(1);16-24.

目 的 :一般歯科医院における臼歯部修復物の生存期間を分析し、それに関連する要因を検討。

研究デザイン :記述研究(診療録による後ろ向き調査)

研究施設 :札幌市内の 1 軒の歯科医院

対 象 :1991 〜 2005 年を観察期間とし、臼歯に修復処置(コンポジットレジン、メタルインレー、4/5 冠、メタルクラウン、メタルブリッジ)を受け、その後1回以上再来院した患者 95 人(男 34 人、女 61 人、平均年齢 33.3 歳)

主要評価項目 :生存期間の算出(Kaplan-Meyer 法)、治療成績に関与する因子:患者の年齢・性別・治療部位(小臼歯 / 大臼歯)・Eichner の分類・歯内療法時の状態(麻酔抜髄処置 / 感染根管処置)の検討(Cox 比例ハザード)。

結 果 :修復物ごとの生存率(10 年)は、メタルインレー 67.5%、4/5 冠 60.5%、コンポジットレジン 60.4%、メタルクラウン 55.8%、メタルブリッジ 31.9%であった。再治療の原因は二次う蝕によるものが最も多かった。生存期間の長さに影響する因子として、臼歯部の咬合接触状態の不良な患者(Eichner の分類 B-1、B-2、B-3:参考資料①)では経過不良であり、咬合関係が臨床成績に影響した。

結 論 :メタルブリッジの生存期間が最も短く、また咬合の要因が生存期間と関連していることが示唆された。

10-yearclinicalevaluationofaself-etchingadhesivesystem.AkimotoN,TakamizuM,MomoiYOperDent.2007;32(1):3-10.

目 的 :セルフエッチングプライマーシステム(クリアフィルライナーボンドⅡ)を用いたコンポジットレジン修復の 10 年間の臨床評価。

研究デザイン :記述研究(ケースシリーズ)

研究施設 :鶴見大学歯学部保存科外来

対 象 :象牙質う蝕を有する患者 42 人(男 14 人、女 28 人)。総山の方法に従い、無麻酔、ラバーダム防湿下でう蝕検知液を用いてう蝕除去を行い、2ステップセルフエッチングプライマーシステムを用いて接着処理後、コンポジットレジン修復を行った。

主要評価項目 :Modified USPHS criteria(Wilcoxon signed-ranks test)

結 果 :87 症例(1〜5級を含む)の 10 年後のリコール率は 50.6%であった。セルフエッチングプライマーシステムを用いたコンポジットレジン修復は、10 年後まで歯髄症状、脱落、二次う蝕は全く認められなかった。大部分の症例で修復物辺縁の封鎖性、辺縁着色を認めたが臨床的に許容できた。

結 論 :セルフエッチングプライマーシステムを用いたコンポジットレジン修復は、10年後でも十分に臨床的に許容できるものであった。

コンポジットレジンならびに鋳造修復の生存率久保至誠,仲佐理紀,林 善彦日歯保存誌.2001;44:802-9.

目 的 :1〜 19 年前に治療したコンポジットレジン修復と鋳造修復について臨床成績とその動向を調査し、生存分析と臨床成績に関与する要因について検討。

研究デザイン :記述研究(診療録による後向き調査)

研究施設 :長崎大学歯学部附属病院保存科外来

対 象 :2000 年2〜7月の半年間に外来を訪れた患者 93 人(男 36 人、女 57 人、調査時の平均年齢 54.6 歳)。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

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CQ

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第2章 ガイドライン本論

CQ14 臼歯咬合面(1級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復と   メタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。CQ15 臼歯隣接面(2級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復と   メタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

van de Sande et al. 2013ブラジルオランダ

記述研究(修復物の後

向き調査と口腔内検査、リスクファクター評価)

44 人の成人(男 38.6%、女

61.4 %)。 平 均年齢 47.2 歳

ブラジルの個人開業医。臼歯コンポジットレ ジ ン 306症例。 ラバーダム防湿。深い窩洞では裏層。リン酸エッチング。ボンディング 材:Scotchbond Multi-Purpose または Single Bond(3M ESPE)。

全体の 30%の修復物に不具合が認められ、82%の患者に1または2つのリスクファクターが存在した。二次う蝕はカリエスリスクの高い患者に主に認められたのに対し、破折は咬合ストレスの高い患者に主に認められた。患者の性別、年齢による統計学的な違いは認められなかった。リスクファクター、歯種、歯列、歯髄の生死は修復物の臨床成績に大きく影響した。歯面数と修復材料による影響は認められなかった。

Heintze et al. 2012リヒテンシュタイン、スイス

レビュー 最終リコール時に 20 症例以上の臨床研究

永久歯の1級、2級直接修復(コンポジットレジン修復、コ ン ポ マ ー 修 復、アマルガム修復)

373 の臨床研究の中から 59 論文を抽出。10 年後のコンポジットレジン修復の生存率は約 90%でアマルガム修復との違いはなかったが、コンポマーの臨床成績は有意に低かった。主な再修復の理由は修復物の破折と二次う蝕であるが頻度は低かった。マクロフィラー型コンポジットレジンとコンポマーによる修復物では解剖学的形態のロスが多く認められた。エナメル質に対する酸エッチングや象牙質の接着を行わない修復物では辺縁着色と辺縁不適合が多く認められた。セルフエッチングシステムの成績はその中間であった。ラバーダム防湿の使用は臨床成績の向上に効果的であった。

青山ら2008日本

記述研究(診療録によ

る後ろ向き調査)

臼歯に修 復 処置を受け、その後 1 回 以 上 再来 院した 患 者95 人(男 34 人、女 61 人、平 均年齢 33.3 歳)

札幌市の歯科医院。観察期間:1991 〜2005 年。臼歯の修復物(コンポジットレジン、メタルインレー、4/5冠、メタルクラウン、メタルブリッジ)。

生存期間と治療成績に関与する因子を調査。①各修復物の10 年生存率:メタルインレー

67.5%、4/5 冠 60.5%、コンポジットレジン 60.4%、メタルクラウン 55.8%、メタルブリッジ 31.9%。

②臼歯部の不良な咬合接触状態が生存期間に影響。

主要評価項目 :歯冠修復物(コンポジットレジン修復と鋳造修復)の臨床成績。生存分析にはKaplan-Meyer 法を使用。修復材料、窩洞形態、接着システム間の差を比較検討

(Cox-Mantel test)。

結 果 :コンポジットレジン修復 577 症例(1〜5級を含む)と鋳造修復 128 症例。コンポジットレジン修復では窩洞形態と接着システムによって生存率に違いがみられた。10 年後のコンポジットレジン修復(1級、2級修復)における推計生存率は 83.0%であり、鋳造修復の 84.7%との間に統計学的有意差はなかった。

結 論 :臼歯部におけるコンポジットレジン修復と鋳造修復との生存率に違いは認められなかった。

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150

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

151

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第2章 ガイドライン本論

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Akimotoet al.2007日本

記述研究(ケースシリー

ズ)

象 牙 質う蝕 を有する患者 42人(男14 人、女28 人)87 症例(Ⅰ〜Ⅴ級)

鶴見大学歯学部保存科外来。セルフエッチングプライマーシステムを用いたコンポジットレジン修復。

Modified-USPHS Criteria に よる 臨 床 評価。① 10 年後まで歯髄症状、脱落、二次う

蝕は認められない。②大部分の症例で修復物辺縁の封鎖性、

辺縁着色を認めたが臨床的許容範囲。

久保ら2001日本

記述研究(診療録によ

る後ろ向き調査)

患者 93人(男36人、女 57人、平均年齢 54.6歳)。コンポジットレ ジ ン 修 復5 7 7 症 例 、 鋳造修復 128症例。

長崎大学歯学部附属病院保存科外来。観察期間:2000 年2 月〜 7 月。

歯冠修復物の臨床成績と動向調査。①コンポジットレジン修復では窩洞形態と

接着システムによって生存率に違いがみられた。

② 10 年後の臼歯コンポジットレジン修復 の 推 計 生 存 率 83.0 %、 鋳 造 修 復84.7%。両者の間に統計学的な有意差なし。

CQ14 臼歯咬合面(1級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復と   メタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。CQ15 臼歯隣接面(2級窩洞)の修復法として、直接コンポジットレジン修復と   メタルインレー修復の臨床成績に違いはあるか。

英語論文検索:PubMed(コンポジットレジン)       (検索対象年:1990〜 2013年、検索日:2013 年 11 月 18 日)

#1  composite resins[MH]#2  molar[MH]#3  Follow-up studies[MH]#4  dental restoration failure[MH]#5  survival rate#6  success rate#7  survival analysis#8 (#1)AND(#3)AND(#4)

#9  ((#2)AND(#3))AND(#4)#10 (((#1)AND(#5))AND(#6))AND(#7)#11 ((#2)AND(#5))AND(#6))AND(#7)#12 (((#8)OR(#9))OR(#10))OR(#11)#13 ((#8)OR(#9))OR(#10))OR(#11)

Limits: Publication Date from 1990 to 2013/11, Humans Sort by: Publication Date

 検索結果:388 件

英語論文検索:PubMed(メタルインレー)       (検索対象年:1990〜 2013年、検索日:2013 年 11 月 18 日)

#1  Inlays[MH]#2  metal inlay#3  #1 or #2#4  molar[MH]#5  Follow-up studies[MH]#6  dental restoration failure[MH]#7  survival rate#8  success rate

#9  survival analysis#10 #3 and #5 and #6#11 #4 and #5 and #6#12 #3 and #7 and #8 and #9#13 #4 and #7 and #8 and #9#14 #10 or #11 or #12 or #13#15 #14 Limits: Publication Date from 1990 to 2013/11,

Humans Sort by: Publication Date

 検索結果:229 件

日本語論文検索:医学中央雑誌(コンポジットレジン)        (検索対象年:1990〜 2013年、検索日:2013 年 11 月 19 日)

#1 ( 臼歯 /TH or 臼歯 /AL)#2  コンポジットレジン /TH#3 (生存 /TH or Survival/AL)and rate/

AL#4  長期臨床 /AL#5 ( 生存率 /TH or 生存率 /AL)#6 ( 治療成績 /TH or 臨床成績 /AL)#7  #1 and #3

#8  #1 and #4#9  #1 and #5#10 #1 and #6#11 #2 and #3#12 #2 and #4#13 #2 and #5#14 #2 and #6#15 #7 or #8 or #9 or #10 or #11 or #12 or #13 or #14

 検索結果:566 件

Page 83: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

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CQ

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第2章 ガイドライン本論

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ16 臼歯コンポジットレジン修復窩洞の咬合面にベベルは必要か。

CQ16 臼歯コンポジットレジン修復窩洞の咬合面にベベルは必要か。【 推奨 】臼歯コンポジットレジン修復窩洞において、咬合面のベベルの有無によって臨床成績に差は認められず(エビデンスレベル「Ⅱ」)、ベベルによる問題点も指摘されている(エビデンスレベル「Ⅱ」)。よって、MIの理念に基づき、健全歯質の削除と窩洞幅径の増大を伴う咬合面へのベベル付与は行わないよう推奨する。(推奨の強さ「D」)

文献の抽出

CQ16 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1950 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 12 月 17 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 12 月 17 日

以上のデータベース検索より、PubMed および医学中央雑誌から 19 と 31 文献が抽出された。そ

れらの抄録より、臼歯コンポジットレジン修復におけるベベルの有用性に関するヒト臨床研究のうち、

システマティックレビュー、ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、および症例対照研究を

選択した結果、エビデンスとして採用する可能性のある 12 論文(英語4、日本語8)に絞られた。

これらの 12 論文を精読して、研究デザインと質に基づいてエビデンスレベルを確定し、CQ16 に対

するエビデンスとして採用した。そして、「推奨」の最後に、エビデンスとして採用した論文の構造

化抄録を記載した(同じ研究の場合、観察期間が最も長い文献を選択し、不足情報に関しては前

報を参照して補充した)。

背景・目的

コンポジットレジン修復窩洞における窩縁形態について、多くの大学で用いられている歯科保存

修復学の教科書 1)には、接着への配慮、修復部位、修復物に加わる咬合力などを勘案し、また窩

洞の部位、歯面、さらには修復の状況に応じて、バットジョイント、ラウンドベベル、シャンファー

ベベル、ストレートベベル(ショートまたはロングベベル)が選択され、付与されると記載されている。

ベベルを付与する目的は、エナメル質窩縁の保護、保持力および辺縁封鎖性の向上(接着面積の

増大、接着に有利なエナメル小柱斜断面の獲得)、色調適合性の向上が挙げられる。特に、審美

的要求が高く、大きな咬合力も加わらない前歯部では、ベベルを付与することが多い。

わが国では、水銀による環境汚染の社会的問題もあり、歯科用アマルガムから臼歯用コンポジッ

日本語論文検索:医学中央雑誌(メタルインレー)        (検索対象年:1990〜 2013年、検索日:2013年 11月 18日)

#1  (臼歯 /TH or 臼歯 /AL)#2  (金属 /TH or メタル /AL)and(インレー /

TH or インレー /AL)#3  鋳造 /AL and 修復 /AL#4  (生存 /TH or Survival/AL)and rate/ AL#5  長期臨床 /AL#6  (生存率 /TH or 生存率 /AL)#7  (治療成績 /TH or 臨床成績 /AL)#8  #1 and #4#9  #1 and #5 #12 #3 and #7 and #8 and #9#10 #1 and #6

#11 #1 and #7#12 #2 and #4#13 #2 and #5#14 #2 and #6#15 #2 and #7#16 #3 and #4#17 #3 and #5#18 #3 and #6#19 #3 and #7#20 #8 or #9 or #10 or #11 or #12 or #13 or #14

or #15 or #16 or #17 or #18 or #19

 検索結果:459 件

文献1) 福島正義,仲又俊夫,佃 美宏,湯田純子,岡本 明,岩久正明.臼歯用コンポジットレジン修復物の寿命

―化学重合型レジンの 10 年間の観察を通じて.日歯保存誌.1993; 36: 331-40.2) 北野忠則,清水建彦,上田新一,成川公一,星野 茂,井上正義.臼歯用可視光線重合型コンポジットレジ

ン Lite-fil P の長期臨床経過観察.日歯保存誌 . 2000; 43: 564-71.3) Heintze SD, Rousson V. Clinical effectiveness of direct class II restorations – A meta-analysis. J Adhes Dent.

2012; 14: 407-31.4) 久保至誠,仲佐理紀,林 善彦.コンポジットレジンならびに鋳造修復の生存率.日歯保存誌.2001; 44:

802-9.5) 青山貴則,相田 潤,竹原順次,森田 学.臼歯部修復物の生存期間に関連する要因.口腔衛会誌 . 2008;

58: 16-24.6) Nakajima M, Hosaka K, Yamauti M, Foxton RM, Tagami J. Bonding durability of a self-etching primer system

to normal and caries-affected dentin under hydrostatic pulpal pressure in vitro. Am J Dent. 2006; 19: 147-50.7) Akimoto N, Takamizu M, Momoi Y. 10-year clinical evaluation of a self-etching adhesive system. Oper Dent.

2007; 32: 3-10.8) 角舘直樹,須貝 誠,藤澤雅子,森田 学.歯科医院における歯冠修復処置と定期歯科健診の歯科医業収支

の比較.口腔衛会誌.2007; 57: 640-9.9) van de Sande FH, Opdam NJ, Da Rosa Rodolpho PA, Correa MB, Demarco FF, Cenci MS. Patient risk factors'

influence on survival of posterior composites. J Dent Res. 2013; 92: 78-83.10) 藍 稔,編.スタンダード部分床義歯補綴学.第 1 版.東京:学建書院;2006, 28-9.11) 猪越重久,編.猪越重久の MI 臨床 ― 接着性コンポジットレジン充填修復.第 1 版.東京 :デンタルダイヤモ

ンド社;2005, 129.

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154

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

155

CQ

16

第2章 ガイドライン本論

トレジンへの転換が積極的に図られた。臼歯用コンポジットレジンが実用化され始めた 1980 年代

前半、辺縁破折を防止する目的で、咬合面にラウンドベベルを付与して窩縁隅角を可及的に 90°に

近づけることが推奨された 2)。このためか、わが国の歯科医師国家試験では 3)、咬合面窩洞辺縁の

ベベル形成を正解としている。しかし、大学教育では、臼歯コンポジットレジン修復窩洞の咬合面

にベベルを付与するかどうか、統一されていないのが現状であろう。実際には、口腔内で咬合面に

ラウンドベベルを正しく形成するのは難しく、結果的に窩洞幅が大きくなるだけで、バットジョイン

トと窩縁隅角は大差ないと推測される 4)。また、基礎研究ではコンポジットレジン辺縁の厚みが薄

くなると逆に破折しやすいことも指摘されている 5)。

このような状況において、臼歯コンポジットレジン修復の窩縁形態に関し、エビデンスと MI の理

念に基づいた指針が求められている。 

解 説

臼歯コンポジットレジン修復において、ベベルの有無によって臨床成績に差は認められないが、材

料によってはベベルによる問題点が指摘されている。このことは、10 編のランダム化比較試験 4,6-14)

(エビデンスレベル「Ⅱ」)と2編の準ランダム化比較試験 15,16)で述べられている(エビデンスレベ

ル「Ⅲ」)。加藤ら 6-11)は、窩縁形態が異なる(ノンベベル、ラウンドベベルおよびショートベベル)

窩洞を2種類(化学重合型と光重合型)の臼歯用コンポジットレジンで修復し、臨床経過を5年間

追跡調査した。その結果、材料に関係なく、ベベル窩洞においてベベル相当部に有意に高い選択

的摩耗が認められたことから、ノンベベル窩洞を推奨している。香西ら 15)も、4種の化学重合型

臼歯用コンポジットレジンを4種類の窩洞に填塞した結果、製品によってはベベルを付与した窩洞

が2年後に辺縁破折の著しい増加を示したため、ベベル付与に対する懸念を表明している。さらに、

Isenberg & Leinfelder12)は、ベベル(幅1mm)の有無で光重合型コンポジットレジン修復の臨床

成績(2年後)に差が認められなかったので、ベベルを付与すべきでないとしている。熊田ら 4)は、

4種の化学重合型臼歯用コンポジットレジン修復物を3年間フォローし、材料間でわずかながら相

違があるものの、窩縁形態(バットジョイントとラウンドベベル)による辺縁の劣化傾向に差がなかっ

たことを報告している。Wilson16)らも、初期光重合型コンポジットレジン修復の5年間の臨床成績

において、ベベル(幅 0.5mm、窩縁隅角 125°)の有無で差はみられなかったことを明らかにして

いる。上記はすべて 1980 年代に実施された研究であるが、Coelho-de-Souza ら 13,14)による比較的

最近の試験でも、ベベル(窩縁隅角 135°)の効果ははっきりと得られていない。

抽出された研究は、総じてサンプルサイズが小さく、観察期間も5年以下と短い。さらに、わが

国で主に用いられている接着システム(セルフエッチシステム)やコンポジットレジンを用いた臨

床試験は見あたらない。本委員会では、これらのことも考慮して合議した結果、MI の理念に基づき、

臼歯コンポジットレジン修復の窩洞形成において、健全歯質の削除と窩洞幅径の増大を伴う咬合面

へのベベル付与を行わないよう推奨することにした(推奨の強さ「D」)。

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ16)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Arandomizeddouble-blindclinicaltrialofposteriorcompositerestorationswithorwithoutbevel:1-yearfollow-up.Coelho-de-SouzaFH,CamargoJC,BeskowT,BalestrinMD,Klein-JuniorCA,DemarcoFFJApplOralSci.2012;20(2):174-9.

目 的 :臼歯コンポジットレジンにおけるベベルの有無による臨床成績を比較する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :記載なし。

対 象 :13 人(20 〜 30 歳)。1級か2級修復物を少なくとも2つ有する。さらに、20歯以上有し、対象歯には対咬歯と隣接歯がある。口腔衛生状態不良、機能異常な習癖、大型の修復物が必要な患者は除外した。29 例(ノンベベル:14 例、ベベルあり:15 例)。臼歯:24 例、小臼歯:5例。1級:17 例、2級:12 例。

介 入 :エナメル質窩縁(歯肉側も)にダイヤモンドポイント(#2135, KG Sorensen)でベベル(窩縁隅角 135°)形成し、ラバーダム装着後に Single Bond(3M ESPE)と Filtek P60(3M ESPE)で修復した。同日にダイヤモンドバー(#3195F or #1190F)とエンハンスシステム(Dentsply)で仕上げ・研磨を行った。

主要評価項目 : FDI criteria( excellent、good、sufficient、unsatisfactory、poor の 5 段 階 ) に基づいて、保持、(辺縁)破折、辺縁着色、辺縁適合性、歯髄症状、二次う蝕、表面光沢性、解剖学的形態を判定した。

結 果 :1年後のリコール率 100%。辺縁着色に関しては、ベベル付与した窩洞のほうが有意に優れた成績を示したが(ただし、ノンベベルでもすべて good 以上)、他の評価項目では差は認められなかった。

結 論 :1年後、すべての修復物は良好な成績を示していたが、辺縁着色に関してはベベルを付与したほうが優れていた。

臼歯修復用コンポジットレジン修復歯の経時的変化に関する基礎的および臨床的研究―第5報 窩縁形態と塡塞法が修復歯の臨床経過に及ぼす影響について(5カ年の観察成績)―加藤喜郎,新海航一,高橋 泉,片岡昌士日歯保存誌 .2000;43:109-20.

目 的 :2年経過後の成績ではベベル相当部に選択的摩耗が認められ、ベベル付与は推奨しかねるという結論が得られたが、5年経過したらどうなるかを調べる。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :日本歯科大学新潟歯学部附属病院歯科保存科

対 象 :26 人。修復前に口腔清掃指導を行い、Gingival Index( GI)と Plaque Index( PI)を1以下にコントロール。全9群(修復材料、窩縁形態、填塞法別:各群 10 例)。ノンベベル、ラウンドベベル、ショートベベル:各 30 例。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

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16

第2章 ガイドライン本論

介 入 :窩縁形態は3種類(#330 のみで形成;#330 で形成後、#440 にてラウンドベベルを付与;#330 で形成後、#401 にてショートベベル付与)。窩底部露出象牙質は Life(Kerr)で可及的に薄く裏層した。製品付属の接着システムを用いて接着操作を行う。化学重合型のクリアフィルポステリア(クラレ)では、スティックコンパウンドであらかじめ調整しておいた圧接子を用いる方法(3分間圧接)と用いない方法で填塞した。光重合型の Lite-Fil P(松風)は圧接子を用いないで填塞した。仕上げ・研磨は 48 時間後にホワイトポイントとシリコーンポイントを用いて行った。

主要評価項目 :辺縁部適合性、辺縁部変色、二次う蝕に関しては USPHS に基づいて評価した。摩耗、表面粗さ、歯髄反応、色調安定性については独自の評価基準に従って判定した。

結 果 :5年後のリコール率は 80% であった。材料に関係なくベベルが付与されたほうが有意に高い摩耗を示した。ベベル窩洞に対しては圧接子による摩耗抑制効果が発揮された。Lite-Fil P のショートベベルでは辺縁適合性の劣化傾向がみられた。窩縁形態や、圧接子使用の有無で、5年後の表面粗さに差は認められなかった。他の評価項目では、経時的な変化はみられなかった。

結 論 :臼歯コンポジットレジン修復では、窩洞幅径が小さいノンベベル窩洞を形成し、圧接子を使用して填塞し硬化を図ることを推奨する。辺縁封鎖性や保持力の向上を目的として、どうしてもベベル付与が必要な場合、小窩裂溝延長線上に限局した小範囲の窩縁部にとどめるべきである。

Efficacyofbevelingposteriorcompositeresinpreparations.IsenbergBP,LeinfelderKF.JEsthetDent.1990;2(3):70-3.

目 的 :臼歯コンポジットレジンの長期臨床成績からベベル付与の効果に検討を加える。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :記載なし。

対 象 :成人(人数、年齢、性別、リスクなど詳細不明)。1級と2級修復(比率約 50:50)の 43 例。

介 入 :ランダムに選択した 21 例の窩洞咬合面にベベルを形成した(通常のアマルガム窩洞を形成後、テーパーのついた微粒子ダイヤモンドバー(1DT)を用いて幅1mm のベベルを付与した)。37%リン酸でエナメル質のみエッチングし、その後水洗・乾燥してボンディング材を塗布した。Estilux Posterior CVS(Kulzer)を積層塡塞(各層 20 秒光照射)し、最終層は1分間光照射した。仕上げ・研磨は、12 枚刃のフィニッシングカーバイドバーとソフレックスディスクで行った。

主要評価項目 :USPHS に基づいて、色調適合性、接着界面の着色、二次う蝕、解剖学的形態、辺縁適合性、表面性状を評価。Alfa(良好)、Bravo(問題があるも許容範囲内)、Charlie(許容範囲外)の3段階評価。

結 果 :2年後のリコール率は不明であった。窩洞の幅は平均 2.1mm であり、色調適合性、辺縁着色、二次う蝕に関しては、ベベルの有無にかかわらず、2年後もすべて Alfa と評価された。表面性状は2年後には劣化していたが、ベベルの有無で差は認められなかった。2年後の平均摩耗量はノンベベルで 69.8 μ m(正規分布)、ベベルで 81.2 μ m(右にゆがむ)であった。

結 論 :ベベルによって耐摩耗性が強化されなかった。また、他の項目でも効果は認められなかった。したがって、ベベルは付与すべきではないことが示唆された。

3年間にわたる臼歯用コンポジットレジンの臨床成績-特に修復物辺縁部の変化について-熊田さえみ,中嶋 正,青野忠之,久保田顕正,花岡孝治,岩本次男神奈川歯学 .1988;22(4):715-23.

目 的 :4種の臼歯コンポジットレジン修復の臨床経過(特に修復物辺縁部の変化)を3年間追跡する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :神奈川歯科大学附属病院第2保存科

対 象 :69 人。1級あるいは1級複雑、計 113 例。ベベルあり:67 例。全6群(修復材料別)。

介 入 :窩縁形態は2種類(#56 のみで形成;#56 で形成後、#440 にてラウンドベベルを付与)。プロテクトバーニッシュで窩縁を明示し、窩底部露出象牙質は Dycal

(Dentsply)で可及的に薄く裏層した。製品付属の接着システムを用いて接着操作を行い、化学重合型のクリアフィルポステリア(クラレ)、ベルファーム P(カネボウ)、ミクロレストジャータイプ(ジーシー)、P10(3M)、前歯用マクロフィラーのアダプティック(Johnson & Johnson)を填塞後、圧子を用いて圧接硬化させた。アマルガム(スフェリカル D,松風)では、接着システムはもちろんのこと圧子を用いることなく充填した。仕上げ・研磨は 24 時間後、ホワイトポイントとシリコーンポイントを用いて行った。

主要評価項目 : オリジナルの評価基準に基づいて、辺縁破折、体部破折、歯質破折、脱落、動揺、着色、二次う蝕、歯髄反応の8項目を判定した。修復物辺縁の経時的変化(破折幅)は5人の歯科医師(4年以上の経験)が SEM 写真で評価(0: 30μm 以下、1:50 μm、2: 80 μm、3: 100 μm、4: 100 μm 以上)した。

結 果 :3年後の平均リコール率は 43% であった(材料によって大きく異なる:25 〜60%)。さらに、材料ごとのベベルとバットジョイントの症例数は不明であった。各種臼歯用コンポジットレジンによる修復物辺縁はいずれも経時的に有意に劣化したが、それらの劣化傾向には材料間でわずかながら相違があった。窩縁形態および修復部位(大臼歯、小臼歯)による辺縁の劣化傾向に差はみられなかった。

結 論 :臼歯用コンポジットレジン修復物辺縁は経時的に有意に劣化した。ベベルの有無によってコンポジットレジン辺縁の経時的変化に差は認められなかった。

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158

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

159

CQ

16

第2章 ガイドライン本論

PerformanceofOcclusininbutt-jointandbevel-edgedpreparations:Five-yearresults.WilsonNHF,WilsonMA,WastellDG,SmithGADentMater.1991;7(2):92-8.

目 的 :臼歯コンポジットレジン修復(5年経過)におけるベベルの効果に検討を加える。

研究デザイン :非ランダム化比較試験

研究施設 :記載なし 。

対 象 :55 人(16 〜 66 歳、平均 32 歳;男 26 人、女 29 人)に対し 119 症例修復。一人につき4症例以下。バットジョイント 84 例、ベベル 35 例。1級 59 例、2 級60 例。大型窩洞 78 症例(66%)、中型窩洞 41 例(34%)。

介 入 :プレーンカットタングステンカーバイドバーを低速で用いてベベル(幅 0.5mm以下、窩縁隅角 125°)形成した。水酸化カルシウム製剤(Dycal,Dentsply)によるライニング、カルボキシレートセメント(Poly F,Dentsply)によるベースを行い、リン酸処理(60 秒)してボンディング材を塗布した。その後、光重合型コンポジットレジン(Occlusin,ICI)を一括填塞(57%)または積層(2層)填塞(34%)した。仕上げ・研磨は超微粒子ダイヤモンド、研磨用ストリップス、ディスクなどを用いて行った。

主要評価項目 : USPHS(一部修正)に基づいて、色調適合性、解剖学的形態、辺縁適合性、辺縁着色、咬合接触、隣接歯とのコンタクト、温熱痛、二次う蝕、歯肉状態を評価した。

結 果 :5年後のリコール率は、バットジョイントで 80%(67 例)、ベベルで 77%(27 例)であった。5年間に再治療となった症例は 20 症例あり、ベベルの有無に関係なく各群 17% であった。5年後に評価した修復物はすべて臨床的に満足できるものであった。大きな修復物ほどより劣化した。2級では1級より有意に大きな摩耗量を示した。

結 論 :ベベルの効果は認められなかった。臨床成績には修復物の大きさが最も大きな影響を及ぼしていた。

臼歯部用コンポジットレジンの2年間の予後成績について香西淑子,橋本朋子,二神正文,山根いずみ,林原久盛,新谷英章,井上時雄日歯保存誌 .1985;28(2):695-710.

目 的 :臼歯修復用コンポジットレジンを用いた臼歯咬合面修復物の2年間の臨床成績を調べる。

研究デザイン :非ランダム化比較試験

研究施設 :広島大学歯学部附属病院と関連病院2カ所

対 象 :56 人(15 〜 64 歳)。男 20 人、女 36 人。計 138 例(1 級窩洞)。臼歯部咬合面に限局する C1:(72 例)、C2:(66 例)。下顎:90 例、上顎:48 例。実験群は材料4種、窩洞形態4種の 16 群(各群7〜 10 例)。

介 入 :窩洞形態は4種類(#330 のみで形成;#330 で形成後、#1/2 にてベベルを付与;#1 のみで窩洞形成;# 1で形成後、#1/2 にてベベル付与)。う蝕をスチールラウンドバーで除去後、Life で裏層した。各製品に付属しているエッチング材およびボンディング材を用いて処理後、P10(35 例)、クリアフィルポステリア(36例)、ミクロレストジャータイプ(37 例)またはベルファーム P(30 例)を塡塞し、咬合面コアを圧接して硬化させた。研磨は 24 時間後にホワイトポイントを用いて行った。

主要評価項目 : 独自の判定基準に基づいて、症状、表面粗造性、変色、辺縁破折、(辺縁)着色、摩耗の6項目を評価した。

結 果 : リコール率は3カ月後:81%、6カ月後:47%、1年後:64%、2年後:69% であった。各リコール時に認められた症状とレジン種との間に関連性はなく、また、症状は一時的なもので1歯に継続して認められるものはなかった。ベルファーム P においては、その表面は比較的滑沢性が維持されていた。変色や着色はクリアフィルポステリアおよびミクロレストジャータイプに特に認められ、2年後には両種ともに褐線を有するものが出現した。摩耗はベルファーム P の2例にのみ認められた。ミクロレストジャータイプでは1年以内に比較的早期に辺縁破折の増加が認められ、クリアフィルポステリアでは1年以降に辺縁破折が急増した。P10 やベルファーム P では、ベベル付与した窩洞がベベル付与のない窩洞に比べて辺縁破折の増加が著しかった。検査6項目を通して全般的に#330 と # 1の窩洞では P10 およびベルファーム P のほうがクリアフィルポステリアおよびミクロレストジャータイプに比べて良好な臨床成績を示したが、ベベル付与した窩洞では材料間に差はなかった。2年間のリコール期間中、辺縁破折や褐線の出現は認められたが、レジン修復に起因すると考えられる二次う蝕は1例もみられなかった。

結 論 :製品によっては、辺縁破折の増加が著しく、ベベル付与が疑問視された。

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Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

161

CQ

16

第2章 ガイドライン本論

CQ16 臼歯コンポジットレジン修復窩洞の咬合面にベベルは必要か。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Coelho-de-Souza et al.2012ブラジル

ランダム化比較試験

13 人(20 〜 30 歳)。1級か2級修復物を少なくとも2つ有する。 さ ら に、20 歯以上有し、対象歯には対咬歯と隣接歯がある。口腔衛生状態不良、機能異常な習癖、大型の修復物が必要な患者は除外した。29 例。 ノ ン ベベ ル:14 例、 ベ ベルあり:15 例。臼歯:24 例、小臼歯:5例。1級:17 例、2級:12 例。

① 窩 縁 形 成: エ ナ メ ル 質 窩縁(歯肉側も)にダイヤモン ド ポ イ ン ト(#2135: KG Sorensen)でベベル(窩縁隅角 135°)を付与した。

②接着操作:ラバーダム装着後に Single Bond を用いた。

③コンポジットレジンの填塞:Filtek P60 を使用した。

④仕上げ・研磨:当日にダイヤ モ ン ド バ ー(#3195F or #1190F)とエンハンスシステムを用いて行った。

① 1 年後のリコール率は 100%であった。

②辺縁着色に関しては、ノンベベル窩洞に軽度(good)の着 色が 高頻 度にみられた。

③ 他の評 価 項目では、 ベベルの有無で差は認められなかった。

加藤ら2000日本

ランダム化比較試験

26 人。修復前に口腔清掃指導を行い、Gingival Index と Plaque Index を 1 以下にコントロール。90 症例。ノンベベル、ラウンドベベル、ショートベベル:各 30 例。全9群(修復材料、窩縁形態、填塞法別:各群 10 例)。

①窩洞形成:ア)#330 のみで形成。イ)#330 で形成後、#440 にて

ラウンドベベルを付与。ウ)#330 で形成後、#401 にて

ショートベベル付与。②窩底象牙質の裏層:Life を可

及的に薄く塗布した。③接着操作:各製品付属のシ

ステムを用いた。④コンポジットレジンの填塞:

化学重合型のクリアフィルポステリアでは、スティックコンパウンドであらかじめ調整しておいた圧接子を用いる方法(3分間圧接)と用いない方法で填塞した。光重合型の Lite-Fil P では圧接子を用いないで填塞した。

⑤ 仕 上げ・研 磨:48 時 間 後、ホワイトポイントとシリコーンポイントを用いて行った。

①5年後のリコール率は 80%であった。

②材料に関係なくベベルが付与されたほうが有意に高い摩耗を示した。

③ベベル窩洞に対しては圧接子による摩耗抑制効果が発揮された。

④ Lite-Fil P のショートベベルでは辺縁適合性の劣化傾向がみられた。

⑤窩縁形態や圧接子使用の有無で、5年後の表面粗さに差は認められなかった。

⑥他の評価項目では、経時的な変化はみられなかった。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Isenberg& Leinfelder 1990 米国

ランダム化比較試験

成 人( 人 数、 年 齢、性別、リスクなど詳細不明)。43 例。1級 と 2 級( 比 率 約50:50)。

①窩洞形成:通常のアマルガム窩洞を形成後、21 例の窩洞咬合面には、テーパーのついた微粒子ダイヤモンドバーを用いてベベル(幅1mm)を付与した。

②接着操作:37%リン酸でエナメル質のみエッチングし、その後水洗・乾燥してボンディング材を塗布した。

③コンポジットレジンの填塞:Estilux Posterior CVS を積層塡塞(各層 20 秒光照射し、最終層は 1 分間光照射)した。

④仕上げ・研磨:12 枚刃のフィニッシングカーバイドバーとソフレックスディスクで行った。

①2年後のリコール率は記載されていなかった。

②窩洞の幅は平均 2.1mm であった。

③色調適合性、辺縁着色、二次う蝕に関しては、ベベルの有無にかかわらず、2年後もすべて Alfa と評価された。

④表面性状は2年後には劣化していたが、ベベルの有無で差は認められなかった。

⑤ 2 年後の摩耗量はノンベベルで 69.8 μ m(正規分布)、ベベルで 81.2 μ m(右にゆがむ)であった。

熊田ら1988日本

ランダム化比較試験

69 人。113 例。1級あるいは1級複雑。ベベルあり:67 例。全6群(修復材料別)。

①圧子の作製:インレーワックスと即時重合レジンを用いて作製した。

②窩縁形成: ア)#56 のみで形成。 イ )#56 で 形 成 後、#440 に

てラウンドベベルを付与。③窩底象牙質の裏層:Dycal で

可及的に薄く塗布した。④接着操作:各製品付属のシ

ステムを用いた。⑤コンポジットレジンの填塞:

クリアフィルポステリア、ベルファーム P、ミクロレストジャータイプ、P10、アダプティックを填塞後、圧子を圧接して硬化させた。アマルガム(スフェリカル D)は接着システム、圧子を用いないで填塞した。

⑥ 仕 上げ・研 磨:24 時 間 後、ホワイトポイントとシリコーンポイントを用いて行った。

①3年後の平均リコール率は43% であった(材料によって 大 き く 異 な る:25 〜60%。さらに、材料ごとのベベルとバットジョイントの症例数は不明)。

②各種臼歯用コンポジットレジン修復物辺縁はいずれも経時的に有意に劣化した。ただし、材料間でわずかながら相違があった。

③窩縁形態および修復部位(大臼歯、小臼歯)による

辺縁の劣化傾向に差はなかった。

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162

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

163

CQ

16

第2章 ガイドライン本論

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Wilson et al.1991英国

非ランダム化比較試験

55 人(16 〜 66 歳、平 均 32 歳 )、 男 26人、 女 29 人、119症例。一人につき4症 例 以 下。 バ ッ トジョイント:84 例、ベベル:35 例。1級:59 例、2級:60 例、大 型 窩 洞:78 症 例

(66%)、 中 型 窩 洞:41 例(34%)。

①窩洞形成:ベベル(幅 0.5mm以下、窩縁隅角 125°)はプレーンカットタングステンカーバイドバーを用いて形成した。

②裏層:Dycal による塗布裏層とカルボキシレートセメント Poly F によるベースを行った。

③接着操作:リン酸エッチング 60 秒、水洗・乾燥後、液レジン(ICI bonding agent)を塗布して光照射した。

④コンポジットレジンの填塞:Occlusin を一括填塞(57%)ま た は 積 層( 2 層 ) 填 塞

(34%)した。⑤仕上げ・研磨:超微粒子ダ

イヤモンド、研磨用ストリップス、ディスクなどを用いて行った。

① 5 年後のリコール率はバット ジ ョ イ ン ト で 80%(67例)、ベベルで 77%(27 例)であった。

② 5 年間に再治療となった症例は 20 例あり、べべルの有無に関係なく各群 17%であった。

③ 5 年後に評価した修復物はすべて臨床的に満足できるものであった。

④大きな修復物ほど、より劣化した。

⑤2級では1級より有意に大きな摩耗量を示した。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

香西ら1985日本

非ランダム化比較試験

56 人(15 〜 64 歳)。男 20 人、 女 36 人。138 例。臼歯部咬合面に限局する C1:72例、C2:66 例。下顎:90 例、上顎:48 例。全 16 群(材料4種、窩洞形態4種:各群7〜 10 例)。

①コアの作製:インレーワックスとモデリングコンパウンドを用いて作製した。

②窩洞形成: ア)#330 のみで形成 イ)#330 で形成後、#1/2 

 にてベベルを付与 ウ)# 1のみで窩洞形成 エ)# 1で形成後、#1/2 に

 てベベル付与③裏層:う蝕除去後、Life で

裏層した。④接着操作:各製品付属のエッ

チング材およびボンディング材を用いた。

④コンポジットレジンの填塞:P10、クリアフィルポステリア、ミクロレストジャータイプ、ベルファーム P を塡塞後、咬合面コアを圧接して硬化させた。

⑤仕上げ・研磨:24 時間後、ホワイトポイントを用いて行った。

①2年後のリコール率は 69%であった。

②ベルファーム P においては、その表面は比較的滑沢性が維持されていた。

③変色や着色はクリアフィルポステリアおよびミクロレストジャータイプに特に認められ、2年後には両種ともに褐線を有するものが出現した。

④摩耗はベルファーム P の2例にのみ認められた。

⑤ミクロレストジャータイプでは1年以内に比較的早期に辺縁破折の増加が認められ、クリアフィルポステリアでは1年以降に辺縁破折が急増した。

⑥ P10 や ベ ル フ ァ ー ム P では、ベベル付与した窩洞がベベル付与のない窩洞に比べて辺縁破折の増加が著しかった。

⑦検査6項目を通して全般に、#330 と # 1 の 窩 洞 では P10 お よ び ベ ル フ ァ ーム P のほうがクリアフィルポステリアおよびミクロレストジャータイプに比べて良好であったが、ベベル付与した窩洞では材料間に差はなかった。

⑧2年間のリコール期間中、辺縁破折や褐線の出現は認められたが、コンポジットレジン修復に起因すると考えられる二次う蝕は 1 例もみられなかった。

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164

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

165

CQ

16

第2章 ガイドライン本論

文献1) 田上順次,千田 彰,奈良陽一郎,桃井保子 監修.第四版 保存修復学 21.京都:永末書店 ; 2011, 171.2) 山田敏元,田上順次,猪越重久,高津寿夫,細田裕康.レジン充填窩洞のためのラウンドベーベル形成用切

削器具の選択 特に臼歯咬合面窩洞のラウンドベーベルの場合について.日歯保存誌.1983; 26: 845-50.3) 第 103 回歯科医師国家試験問題および正当について:D 問題,問 51 www.mhlw.go.jp/topics/2010/04/

tp0414-1.html.4) 熊田さえみ,中嶋 正,青野忠之,久保田顕正,花岡孝治,岩本次男.3年間にわたる臼歯用コンポジット

レジンの臨床成績-特に修復物辺縁部の変化について-.神奈川歯学.1988; 22: 715-23.5) 久保至誠.コンポジットレジンの辺縁破折に関するメカニズムについて 第3報 窩縁隅角ならびに窩縁形態

とコンポジットレジンの辺縁破折との関連性.日歯保存誌.1987; 30: 1266-80.6) 片岡昌士,加藤喜郎.臼歯修復用コンポジットレジン修復歯の経時的変化に関する基礎的および臨床的研究(第

二報)窩縁形態と填塞法が修復歯の臨床経過におよぼす影響について 短期的観察.日歯保存誌.1986; 29:1124-50.7) 片岡昌士,加藤喜郎.臼歯修復用コンポジットレジン修復歯の経時的変化に関する臨床的研究 窩縁形態と填

塞法が修復歯の臨床経過におよぼす影響について2ヵ年の観察成績.接着歯学.1988; 6: 29-40.8) 片岡昌士,新海航一,山口龍司,加藤喜郎.臼歯修復用コンポジットレジン修復歯の長経時的変化に関する

基礎的および臨床的研究(第3報)窩縁形態と填塞法が修復歯の臨床経過に及ぼす影響について3ヵ年の観察成績.日歯保存誌 . 1989; 32: 920-33.

9) 新海航一.臼歯用コンポジットレジン修復歯の臨床経過 長期予後成績に及ぼす諸因子の検討.接着歯学.1999; 17: 251-7.

10)加藤喜郎,新海航一,高橋 泉,片岡昌士.臼歯修復用コンポジットレジン修復歯の経時的変化に関する基礎的および臨床的研究 ―第5報 窩縁形態と塡塞法が修復歯の臨床経過に及ぼす影響について(5ヵ年の観察成績)―.日歯保存誌.2000; 43: 109-20.

11)新海航一,加藤喜郎.臼歯用コンポジットレジンの長期予後成績に及ぼす諸因子の影響に関する臨床的検討.日歯保存誌.2000; 43: 121-33.

12)Isenberg BP, Leinfelder KF. Efficacy of beveling posterior composite resin preparations. J Esthet Dent. 1990; 2: 70-3.

13)Coelho-de-Souza FH, Klein-Júnior CA, Camargo JC, Beskow T, Balestrin MD, Demarco FF. Double-blind randomized clinical trial of posterior composite restorations with or without bevel: 6-month follow-up. J Contemp Dent Pract. 2010; 11: 1-8.

14)Coelho-de-Souza FH, Camargo JC, Beskow T, Balestrin MD, Klein-Junior CA, Demarco FF. A randomized double-blind clinical trial of posterior composite restorations with or without bevel: 1-year follow-up. J Appl Oral Sci. 2012; 20: 174-9.

15)香西淑子,橋本朋子,二神正文,山根いずみ,林原久盛,新谷英章,井上時雄.臼歯部用コンポジットレジンの2年間の予後成績について.日歯保存誌.1985; 28: 695-710.

16)Wilson NHF, Wilson MA, Wastell DG, Smith GA. Performance of Occlusin in butt-joint and bevel-edged preparations: Five-year results. Dent Mater. 1991; 7: 92-8.

CQ16 臼歯コンポジットレジン修復窩洞の咬合面にベベルは必要か。英語論文検索:PubMed(検索対象年:1950〜 2013年、検索日:2013年 12月 17日)

#1  bevel#2  molar#3  premolar#4  posterior#5  #2 or #3 or #4#6  composite resins[Mesh Terms]#7  dental restoration, permanent[Mesh Terms]#8  #6 or #7#9  clinical

#10 #1 and #5 and #8 and #9#11 tooth deciduous#12 ceramic#13 porcelain#14 inlay#15 cad cam#16 #11 or #12 or #13 or #14 or #15#17 #10 not #16#18 #10 not #16 Filters: Humans

 検索結果:19件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1983〜 2013年、検索日:2013年 12月 17日)

#1  ベベル /AL#2  窩縁 /AL#3 ( 予後 /TH or 予後 /AL)#4 ( 治療成績 /TH or 治療成績 /AL)#5 ( 治療成績 /TH or 臨床成績 /AL)#6  効果 /AL#7  形態 /AL

#8  (臼歯 /TH or 臼歯 /AL)#9  (コンポジットレジン /TH or コンポジットレ

ジン / AL)#10 #1 or #2#11 #3 or #4 or #5 or #6 or #7#12 #8 and #9 and #10 and #11#13 (#12) and( PT= 原著論文)

 検索結果:31件

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166

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

167

CQ

17

第2章 ガイドライン本論

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ17 根管治療後の臼歯の修復にコンポジットレジンは有効か。

CQ17 根管治療後の臼歯の修復にコンポジットレジンは有効か。【 推奨 】小臼歯において歯質が比較的多く残った根管治療歯に対するコンポジットレジン修復は有効である(エビデンスレベル「Ⅱ」)。根管治療後、咬頭が保存された臼歯咬合面の窩洞(1級窩洞・4壁残存)や臼歯隣接面窩洞(2級窩洞・3壁残存)に対するコンポジットレジン修復は、歯質保存的で審美的な修復法として推奨される。(推奨の強さ「B」)

文献の抽出

CQ17 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1990 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 9月 17 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1990 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 9月 17 日

以上のデータベース検索より、PubMed および医学中央雑誌から 114 文献と 59 文献が抽出され

た。それらの抄録より、根管治療後の臼歯コンポジットレジン修復に関するヒト臨床研究のうち、シ

ステマティックレビュー、ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験および症例対象研究を選択

した結果、エビデンスとして採用する可能性のある3英語論文に絞られた。これらの3論文を精読

して、研究デザインと質に基づいてエビデンスレベルを確定し、CQ17 に対するエビデンスとして採

用した。そして、CQ の「推奨」の最後に、エビデンスとして採用した論文の構造化抄録を記載した。

背景・目的

根管治療後の臼歯の修復においては、従来支台築造と鋳造冠による修復が一般的であった。し

かし、支台歯形成に伴う歯質削除量は大きく、歯質を弱体化させる原因となる 1, 2)。さらにメタルコ

アによる支台築造は、重篤な歯根破折による歯の喪失につながる危険性が高い 3, 4)。

生活歯においては、臼歯部におけるう蝕治療について歯質保存的立場からコンポジットレジン修

復の応用が推奨されている(CQ14、CQ15)。コンポジットレジン修復を根管治療後の欠損に応用す

ることで歯質保存的で審美的な修復を行うことができる。しかし、根管治療後の歯質の残存状態はさ

まざまであり、コンポジットレジン修復を確実に行うためには、対象となる根管治療歯の保存状態を

限定する必要がある(参考資料①)5)。ここでは根管治療後の臼歯の咬頭が保存された咬合面窩洞(1

級・4壁残存)や隣接面窩洞(2級・3壁残存)に対するコンポジットレジン修復の有効性について

検討した。

解 説

根管治療歯と生活歯との大きな違いは、根管治療に伴って歯質が失われ、菲薄となることである。

これによって根管治療歯では天蓋などの天然歯の構造が失われて生活歯と比べて強度的にも脆弱に

なる 6)。コンポジットレジン修復を選択する利点は、歯質削除量を最小限にとどめて残存歯質を保

存し、接着によって歯質とコンポジットレジンとを一体化させて歯質を補強でき、さらに1回の治療

で審美的な修復が可能な点である 7)。

根管治療後のコンポジットレジン修復については、いくつかの臨床研究が存在するが 10 年を超

える報告はない。また、過去の臨床研究における修復対象は、実質欠損の比較的小さい根管治療

歯に限定され、しかも小臼歯が中心である 8-10)。Adolphi ら(2007)8)は、患者の同一口腔内に存

在する生活歯および根管治療歯でサイズが同等である小臼歯(1咬頭欠損まで)と大臼歯(2咬

頭欠損)の2級窩洞に対してコンポジットレジン修復を行い、6〜8年の臨床成績を比較した。そ

の結果、8年後の修復物の生存率は、根管治療歯で 86%、生活歯で 93%であった。根管治療歯

では、生活歯に比べて観察期間内での破折とそれに対する補修修復の頻度がより高かったが、コン

ポジットレジン修復は根管治療歯において十分に機能することを示している。

Mannocci ら(2002)9)は、根管治療した小臼歯2級窩洞(咬頭は保存)に対してファイバー併

用コンポジットレジン修復または陶材焼付鋳造冠による修復を行い、3年後の臨床成績を比較した。

その結果、両修復物の臨床成績は同等であり、全部被覆冠にする臨床的な優位性はないと結論した。

さらに Mannocci ら(2005)10)は、根管治療した小臼歯2級窩洞(咬頭は保存)に対してコンポジッ

トレジン修復(ファイバーポスト併用)またはアマルガム修復を行い、修復物の5年生存率を比較

した。その結果、コンポジットレジンの5年生存率は 90%であり、アマルガムとの間に有意差は認

められなかった。以上の結果より修復対象を小臼歯における1級窩洞と2級窩洞に限定すれば、根

管治療歯に対するコンポジットレジン修復は、生活歯と同等の臨床成績を示し、他の修復方法と比

べても良好な臨床成績を得ている。

これまでの臨床的エビデンスを考慮すると、採用できるコンポジットレジン修復の対象歯の条件

は、小臼歯において咬頭が保存された1級窩洞と3壁が残存する2級窩洞である(参考資料②)。

さらに広範な歯質の欠損については、修復が可能かどうかについての十分な精査が必要である。

コンポジットレジン修復の成功の是非は、接着操作とその後のコンポジットレジンの塡塞操作の両者

にかかわる。良好な接着を得るためには、その対象となる被着面をできるだけ広く確保し、汚染を回

避することが重要である。根管治療歯では、根管治療に用いる各種薬剤の接着への影響を避けるため、

根管充填後1週間はあけてから修復することが望ましい 11)。ガッタパーチャを根管口で切断してシーラー

などと共に除去し、歯冠部の象牙質新鮮面を露出させる(図2)。この際、シーラーなども象牙質面の汚

染因子となるため徹底的に除去する 7)。ボンディング材は、生活歯と同様に信頼性の高い材料の選択

が重要であるが、照射器先端から窩底部までの距離は4〜5mm に達するため、光照射時間の延長も

必要である 12)。コンポジットレジンの積層充填は必須であり、深さ2mm ごとに光照射を十分に行う 13)。

コンポジットレジン修復時のファイバーポスト併用効果についての明確な臨床的エビデンスは現

時点ではない。しかし、本ガイドラインで推奨するような歯質が比較的多く残存するケースにおい

ては、ファイバーポストを併用する必要はない 5)。しかし、残存歯質がさらに少なく、咬合負荷に

対する歯質の破折抵抗性が低いと判断した場合には、ファイバーポスト併用の可能性が生じる。ファ

Page 91: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

168

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

169

CQ

17

第2章 ガイドライン本論

イバーポストを接着する場合には、ポスト表面をシラン処理することが必須である 14)。

参考資料①

根管治療後の臼歯部歯質の残存状態の分類(図1)根管治療後の臼歯について残存する窩壁の数で分類すると、残存壁の多い順に4壁、3壁、2壁、

1壁、0壁となる。残存壁の数が少なくなるほど、歯質の強度は低下する。また、咬頭および辺縁

隆線の保存状態も歯の破壊抵抗性に大きく影響する。咬頭が保存され、4壁あるいは3壁が残存

した窩洞であれば、確実なコンポジットレジン修復が可能と言える。

参考資料②

コンポジットレジン修復の対象となる窩洞形態根管充填後の第二小臼歯(2 級窩洞・3 壁残存)。周囲に十分な歯質が残っている内側性窩洞で

は、直接コンポジットレジン修復が第一選択である。ガッタパーチャを根管口で切断してシーラーな

どとともに除去し、象牙質の新鮮面を露出させる(図 2a)。2 級コンポジットレジン修復においては、

隔壁を行い(図 2b)、積層充填を行う。ファイバーポストの併用は不要である。

4 壁残存確実なコンポジットレジン修復が可能なケース

精査を要するケース

3壁残存

2壁残存

0壁(残存なし)

1壁残存

図1 根管治療歯の残存状態による分類(SalamehZ,他 5)より引用改変)

図2 コンポジットレジン修復の対象となる窩洞形態の例(第二小臼歯)

a b

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ17)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Randomizedclinicalcomparisonofendodonticallytreatedteethrestoredwithamalgamorwithfiberpostsandresincomposite:Five-yearresults.MannocciF,QualtroughAJE,WorthingtonHV,WatsonTF,PittFordTROperDent.2005;30:9-15.

目 的 :根管治療した小臼歯に対してアマルガム修復またはポスト併用コンポジットレジンで修復し、その臨床成績を比較する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :Florence の歯科医院。Department of University of Siena, Italy

対 象 :219 人(男 103 人、女 116 人)。矯正治療のため抜歯予定の隣接面う蝕を有し、2 咬頭ともに健全な小臼歯。

介 入 :小臼歯はすべて単根。1回で根管治療を終了し、1週間後に修復処置。アマルガム修復群(109 歯);深さ4mm の窩洞形成後、メタルマトリックスバンドによる隔壁を行い、アマルガム充填。コンポジットレジン修復群(110 歯);深さ4mm の窩洞を形成後、深さ7mm(または根管長の 3/4)のポスト孔を形成。根管壁象牙質をリン酸、All Bond 2(Bisco)で処理後、接着性レジンセメント

(C&B,Bisco)にてファイバーポストを根管に挿入して接着。セメント硬化後、メタルマトリックスバンドによる隔壁を行い、光重合型コンポジットレジンを積層充填。

主要評価項目 :1、3、5年後にリコール。修復物の失敗の原因─歯根破折、ポストの破折、ポストの脱離、修復物辺縁のギャップ、二次う蝕に分けて視診とエックス線写真で判定。

結 果 :観察期間中の外傷、根管治療、歯周病による欠落はなく、失敗例はう蝕と歯根破折によるものであった。1年後と3年後の成績に修復物による差はなかった。5年後の成績には差が認められ、アマルガム修復においてはより多くの歯根破折が認められたのに対し、コンポジットレジン修復でより多くのう蝕が認められた。失敗例は上顎と下顎で有意差はなかった。5年生存率は、アマルガム91.3%、コンポジットレジン 90%であった。

結 論 :根管治療後の小臼歯に対するファイバーポスト併用コンポジットレジン修復は、アマルガム修復に比べて歯根破折の予防には有効であったが、二次う蝕の抑制効果においては劣っていた。しかし、両修復物の間に成功率の違いはなかった。

Page 92: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

170

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

171

CQ

17

第2章 ガイドライン本論

Three-yearclinicalcomparisonofsurvivalofendodonticallytreatedteethrestoredwitheitherfullcastcoverageorwithdirectcompositerestoration.MannocciF,BertelliE,SherriffM,WatsonTF,PittFordTRJProsthetDent.2002;88:297-301.

目 的 :根管治療後の咬頭の保存された小臼歯2級窩洞に対して、ファイバーポスト併用コンポジットレジン修復を行った場合と、さらに支台歯形成して歯冠修復を行った場合の3年間の臨床成績を比較検討する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :University of Siena, Italy

対 象 :男 54 人、女 63 人(平均年齢 48 歳)。根管処置を行った上下顎小臼歯で、咬頭が保存され隣接面にう蝕を有する2級窩洞(117 歯);コンポジットレジン修復

(60 歯)、陶材焼付鋳造冠修復(57 歯)。

介 入 : コンポジットレジン修復:根管治療1週間後に根管内のガッタパーチャを除去(深さ7mm または根管長に相当する深さ)し、ファイバーポスト専用バーにて

根管壁を形成。接着操作は、32%リン酸処理後、水洗・乾燥し、象牙質接着システム(All Bond 2,Bisco)を用いて処理。ファイバーポスト(Composipost,RDT)表面を All Bond 2 Primer で処理後、コア用レジン(C&B,Bisco)を塗布し、根管内に挿入し7分間硬化を待つ。その後、トッフルマイヤーのリテーナーとくさびを用いて隔壁後、コンポジットレジン(Z100,3M)を積層充填(2mm ごとに 40 秒間光照射)。陶材焼付鋳造冠修復:前述と同様にコンポジットレジン修復した歯に対して、1週間後に支台歯形成して印象採得を行い、仮封冠を作製する。1週間後にフレームワークの試適を行い、さらに1週間後に陶材焼付鋳造冠を試適、仮着する。さらに2週間後に陶材焼付鋳造冠をリン酸亜鉛セメントで合着する。術者は1人。

主要評価項目 :失敗の原因の分類(歯根破折、ポストの破折・脱落、臨床的またはエックス線写真による辺縁のギャップ形成、二次う蝕)。評価者2人により1、2、3年後に評価。

結 果 :1年後に失敗例なし。2、3年後にポストの脱落とエックス線写真上での辺縁ギャップの観察のみ(2例以下)であり、修復方法による2群間での統計学的な違いは認められなかった。3年後まで重篤な失敗例(歯根・ポストの破折など)はなかった。

結 論 :根管治療歯に対するファイバーポスト併用コンポジットレジン修復の3年後の臨床成績は、メタルセラミック冠による歯冠修復と同等であり、咬頭が保存された小臼歯2級窩洞においては、全部被覆冠にする臨床的優位性はない。

Direct resincomposite restorations invitalversusroot-filledposterior teeth:Acontrolledcomparativelong-termfollow-up.AdolphiG,ZehnderM,BachmannLM,GöhringTNOperDent.2007;32:437-42.

目 的 :生活歯と根管治療歯に対するコンポジットレジン修復の6〜8年後の臨床成績を比較する。

研究デザイン :非ランダム化比較試験(同一口腔内の同じサイズの窩洞)

研究施設 :Department of Preventive Dentistry, Periodontology and Cariology, University of Zürich, School of Dental Medicine, Zürich, Switzerland

対 象 : 外来患者 44 人(平均 44.2 歳)、小臼歯(1咬頭欠損まで)・大臼歯(2咬頭欠損まで)の2級窩洞。根管治療歯:1根管以上の根管処置、隣接面の要修復歯。生活歯

(control):同一口腔内の窩洞サイズの一致した歯。

介 入 :根管治療歯:2級修復(ポストなし)。光硬化型グラスアイオノマーセメント(Vitrebond, 3M ESPE)で根管を築造。窩洞を仕上げた後、エナメルエッチング、ボンディング(Heliobond,Ivoclar Vivadent)してプラスチックストリップスとくさび(Luciwedge,Kerr)で隔壁後にコンポジットレジン(Tetric Ceram,Ivoclar Vivadent)を積層して修復。生活歯:コンポジットレジン修復。

主要評価項目 :Modified USPHS(辺縁着色、辺縁適合性、修復物の破折、歯の破折)、6〜8年

結 果 :84 人中 44 人がリコール。根管治療歯の 21 症例、生活歯の 13 症例で修復物の修正が必要であった。修正の理由は歯の破折(歯冠または垂直歯根破折)であり、根管治療歯ではその頻度が 10 倍高かった。根管治療歯の 21 症例のうち、4例はリコール時にすでに抜歯、2例もう蝕と歯内治療関連を理由に抜歯が必要であった。生活歯 13 例のうち、1例はリコール時にすでに抜歯、2例は多発う蝕と残根により抜歯が必要であった。他の修復物は、コンポジットレジンを用いた再治療によるメインテナンスが可能であった。生存率は根管治療歯で 38/44

(86%)、生活歯で 41/44(93%)であった。

結 論 :根管治療歯に対するコンポジットレジン修復では、修復物の修正の頻度が生活歯に比べて多いものの、違いはわずかである。

Page 93: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

172

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

173

CQ

17

第2章 ガイドライン本論

CQ17 根管治療後の臼歯の修復にコンポジットレジンは有効か。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Mannocciet al.2005 イタリアイギリス

ランダム化比較試験

男 103 人、女 116 人根管治療した小臼歯

(隣接面にう蝕)。グループ1:アマルガム修復(109 歯)グループ2:ファイバーポストとコンポジ ッ ト レ ジ ン(110歯)

根管治療1週間後に修復グループ1:深さ 4mm の窩洞にアマルガム修復。グループ2:深さ 7mm の窩洞+ポスト孔2mm、ファイバーポストを接着、コンポジットレジン修復。

修復物の破折、二次う蝕を視診とエックス線写真で判定。5 年 生 存 率 は ア マ ル ガ ム91.3%、コンポジットレジン90%であり、両者に差はなかった。修復物の失敗は二次う蝕と歯根破折であった。5年後の成績においては、アマルガム修復でより多く歯根破折が認められたのに対し、コンポジットレジン修復でより多く二次う蝕が認められた。上顎と下顎で両修復に違いは認められなかった。

Mannocciet al.2002イタリアイギリス

ランダム化比較試験

117 人(男 54 人、女 63 人)根管治療した小臼歯で咬頭は保存された2級窩洞コンポジットレジン修復(60歯)、陶材焼付鋳造冠(57 歯)

コンポジットレジン修復:ポスト併用しコンポジットレジン修復。陶材焼付鋳造冠:コンポジットレジン修復した後、1週間後に支台形成して陶材焼付鋳造冠を装着。

1 年 後 の 失 敗 例 な し。 2、3年後にポスト脱落と辺縁ギャップが認められた症例がわずかにあり。歯根・ファイバーポストの破折などの重篤な失敗例なし。修復方法による差はなかった。

Adolphiet al.2007スイス

非ランダム化比較試験

チューリッヒ大学の外来患者 44 人。同一口腔内の小臼歯

(1咬頭以上残存)・大臼歯(2咬頭以上残存)で類似した生活歯と根管治療歯の2級窩洞

根管治療歯(44 症例):光硬化型グラスアイオノマーで築造後、コンポジットレジン修復。生活歯(44 症例):コンポジットレジン修復。

Modified USPHS により評価。観察期間6〜8年。根管治療歯の 21 症例、生活歯の 13 症例で修復物の修正が必要。その主な理由は歯冠・歯根破折であり、根管治療歯では修復頻度が 10 倍多かった。生存率は根管治療歯で 86%、生活歯で 93%。

CQ17 根管治療後の臼歯の修復にコンポジットレジンは有効か。英語論文検索:PubMed(検索対象年:1990〜 2013年、検索日:2013年 9月 17日)

#1  "tooth, nonvital"[MeSH Terms]#2  "nonvital tooth"[All Fields]#3  "nonvital teeth"[All Fields]#4  "endodontically treated tooth"[All Fields]#5  "endodontically treated teeth"[All Fields]#6  #1 or #2 or #3 or #4 or #5  #7  "composite resins"[MeSH Terms]#8  "composite resins"[All Fields]#9  "composite resin"[All Fields]#10 "resin composite"[All Fields]#11 "dental composite"[All Fields]

#12 "dental composites"[All Fields]#13 "composite"[All Fields]#14 "composites"[All Fields]#15 #7 or #8 or #9 or #10 or #11 or #12 or #13 or

#14#16 #6 AND #12 #17 Limits: Humans, Clinical Trial, Meta-

Analysis, Practice Guideline, Randomized Controlled Trial, Controlled Clinical Trial, English, Japanese Publication Date from 1990/01/01 to 2013/9/17

 検索結果:114 件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1990〜 2013年、検索日:2013年 9月 17日)

#1  ( 失活歯 /TH or 失活歯 /AL)#2  ( 失活歯 /TH or 無髄歯 /AL)#3  根管治療歯 /AL#4  #1 or #2 or #3

#5  (コンポジットレジン /TH or コンポジットレジン /AL)

#6  #4 and #5#7  (#6)and(DT=1990:2013)

 検索結果:59件

文献1) Reeh ES. Reduction in tooth stiffness as a result of endodontic restorative procedures. J Endod. 1989; 15:

512–6.2) Schwartz RS, Robbins JW. Post placement and restoration of endodontically treated teeth: A literature

review. J Endodon. 2004; 30: 289-301.3) Heydecke G, Butz F, Strub JR. Fracture strength and survival rate of endodontically treated maxillary incisors

with approximal cavities after restoration with different post and core systems: an in-vitro study. J Dent.2001; 29: 427–33.4) Axelsson P, Nyström B, Lindhe J. The long-term effect of a plaque control program on tooth mortality, caries

and periodontal disease in adults, Results after 30 years of maintenance. J Clin Periodontol. 2004; 31: 749–57.5) Salameh Z, Sorrentino R, Papacchini F, Hani F, Ounsi HF, Tashkandi E, Goracci C, Ferrari M. Fracture resistance

and failure patterns of endodontically treated mandibular molars restored using resin composite with or without translucent glass fiber posts. J Endod. 2006; 32: 752-5.

6) Gutmann JL. The dentin-root complex: anatomic and biologic considerations in restoring endodontically treated teeth. J Prosthet Dent. 1992; 67: 458–67.

7) 二階堂徹,高垣智博,田上順次 . う蝕治療を見直す―接着修復の視点から , 2.失活歯の CR 修復について . 日本歯科評論 . 2011; 71: 40-6.

8) Adolphi G, Zehnder M, Bachmann LM, Göhring TN. Direct resin composite restorations in vital versus

Page 94: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

174

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

175

CQ

CQ

18

19

第2章 ガイドライン本論

rootfilled posterior teeth: A controlled comparative long-term follow-up. Oper Dent. 2007; 32: 437-42.9) Mannocci F, Bertelli E, Sherriff M, Watson TF, Pitt Ford TR. Three-year clinical comparison of survival of

endodontically treated teeth restored with either full cast coverage or with direct composite restoration. J Prosthet Dent. 2002; 88: 297-301.

10)Mannocci F, Qualtrough AJE, Worthington HV, Watson TF, Pitt Ford TR. Randomized clinical comparison of endodontically treated teeth restored with amalgam or with fiber posts and resin composite: Five-year results. Oper Dent. 2005; 30: 9-15.

11)Sasafuchi Y, Nikaido T, Tagami J. Effect of chemical irrigants and medicaments for endodontic treatment on dentin bonding. Int Chin J Dent. 2003; 3: 7-12.

12)Aksornmuang J, Nakajima M, Foxton RM, Tagami J. Effect of prolonged photo-irradiation time to three selfetch systems on the bonding to root canal dentine. J Dent. 2006; 34: 389-97.

13)Akagawa H, Nikaido T, Takada T, Burrow MF, Tagami J. Shear bond strengths to coronal and pulpchamber floor dentin. Am J Dent. 2002; 15: 383-8.

14)Bitter K, Kielbassa AM. Post-endodontic restorations with adhesively luted fiber-reinforced composite post systems: A review. Am J Dent. 2007; 20: 353-60.

7.補修(再研磨、シーラント、補修修復)の有用性

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ18 辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修(辺縁の封鎖、

形態修正・再研磨および補修修復)は再修復と同等の効果を発揮するか。

CQ19 二次う蝕が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修修復は再修復と同等の効果を発揮

するか。

CQ18 辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修(辺縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)は再修復と同等の効果を発揮するか。

【 推奨 】辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修(辺縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)は再修復と同等の効果を発揮する(エビデンスレベル「Ⅲ」)。よって、健全歯質をより多く保存できる補修を行うよう推奨される。(推奨の強さ「B」)

CQ19 二次う蝕が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修修復は再修復と同等の効果を発揮するか。

【 推奨 】コンポジットレジン修復物の二次う蝕に対して、補修修復の効果に検討を加えた信頼できる臨床研究は見あたらなかったが、本委員会で合議の結果、以下の合意に達した(エビデンスレベル「Ⅵ」)。すなわち、二次う蝕に関しては、う蝕除去が確実にでき、修復操作も困難でない場合、歯質保存の観点ならびに患者の肉体的負担軽減から、補修修復を行うよう推奨される。(推奨の強さ「C1」)

文献の抽出

CQ18CQ19 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1950 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 12 日

日本語論文検索:医学中央雑誌検索対象年 :2003 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 19 日

以上のデータベース検索より、PubMed および医学中央雑誌から 71 文献と 66 文献が抽出され

Page 95: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

176

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

177

CQ

CQ

18

19

第2章 ガイドライン本論

た。それらの抄録より、コンポジットレジン修復の補修に関するヒト臨床研究のうち、システマティッ

クレビュー、ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験および症例対照研究を選択した結果、エ

ビデンスとして採用する可能性のある7英語論文に絞られた。これらの7論文を精読して、研究デ

ザインと質に基づいてエビデンスレベルを確定し、CQ 18、19 に対するエビデンスとして採用した。

そして、それぞれの CQ の「推奨」の最後に、エビデンスとして採用した論文の構造化抄録を記載

した(対象患者が同一の研究では、観察期間が最も長い文献を選択した)。

背景・目的

修復物に臨床的に許容できない何らかの問題が認められた場合、旧修復物をすべて除去し、新

たに修復し直す再修復が一般的に行われてきた。しかし、再修復によって問題点は解決されるが、

原因が除去されなければ、再発の可能性は高い。さらに、再修復によって窩洞サイズが大きくなる

だけでなく1, 2)、良好な経過を示していた別部位に問題が生じる危険性も増大する。

確立された再修復の判定基準のない現状では、「早期発見・早期治療(予防)」という治療方針

のもと、再修復が行われていることも多いと推測される。必要以上に再修復が繰り返されると(リピー

ト・レストレーション・サイクル)、「歯髄の保存」や「歯の長寿化」という修復治療の本来の目的

に反する結果をまねく可能性が高くなる。したがって、MI を提唱した論文や FDI の声明では、補修

修復を1つの選択肢として推奨している(エビデンスレベル「Ⅵ」、本ガイドラインの推奨の強さ「C1」

に相当)3, 4)。

2000 年に MI の理念が提唱され、なかでも「う窩を形成したう蝕への最小の侵襲」は今では広

く普及、浸透している。一方、医療の現場では DOS(Doctor/Disease Oriented System:医師 / 疾

患中心の医療)から POS(Patient/Problem Oriented System:患者 / 問題中心の医療)への転換

が急速に進み、エビデンスに基づいた医療の重要性も認識されるようになった。また、超高齢社会

となったわが国では、歯の保存を介した健康長寿への貢献と医療費抑制の面から、修復物に問題

がある時の治療指針の必要性がさらに高まっている。

解 説

辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修修復(当該部

位の修復材料の削除と着色や軟化した歯質の削除を伴う)は問題点の改善、進行阻止に関して再

修復と同等の効果を発揮する。また、辺縁欠陥(裂溝、ギャップ、微小な辺縁破折など)に対して

は辺縁の封鎖(削除せずにリン酸エッチングしてシーラントによる封鎖)も高い効果を示す。このこ

とは、1つの非ランダム化比較試験(2年と7年)5, 6)で述べられている(エビデンスレベル「Ⅲ」)。

7年後の成績において、補修修復と辺縁の封鎖では色調適合性や辺縁適合性が劣化するものの、

再修復に至った症例はなく、優れた成績を示した。これに対し、再修復では色調適合性や辺縁適

合性の劣化が認められ、辺縁着色も発生し、再治療率は 21%であった。ただし、この試験には再

修復の主原因である二次う蝕症例は含まれておらず、再修復の必要がない問題点(Bravo)に介入

していたので、未処置(経過観察)も同等の成績を示した。さらに、症例数が少ないことや適応症

が異なる対処法を比較しているなど、結論の適用には注意が必要である。

他の5編 7-11)は上記筆頭研究者と共同して他国(チリ)で行われた研究であり(エビデンスレベ

ル「Ⅲ」)、アマルガム修復とコンポジットレジン修復における補修(辺縁の封鎖、形態修正・再研

磨および補修修復)の効果に検討を加えている(1、2、3、4、5年後)。補修は再修復と同等

の改善効果を示した。しかし、選択バイアスが大きいだけでなく、アマルガムとコンポジットレジン

が混在し、データの解析法にも疑義がある。2010 年に公開されたコンポジットレジンの補修修復

に関するコクランレビュー 12)でも、279 件中から4編(本ガイドラインでも採用した文献 5,7-9))抽

出されたが、最終的に選択基準を満たした論文は0件であった。

本委員会で合議の結果、辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に

対しては、健全歯質をより多く保存できる補修(辺縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)

を行うよう推奨することとした(推奨の強さ「B」)(図1)。一方、二次う蝕に関しては、う蝕除去

が確実にできて修復操作も困難でない場合、歯質保存の観点ならびに患者の肉体的負担軽減から、

補修修復を行うよう勧めるとの合意に達した(推奨の強さ「C1」)(図 2)。

図1 再研磨(矢印)a:ベースライン(修復後 13 年経過)。b:再研磨。c:再研磨から 4 年経過後。

a b c

図 2 前歯コンポジットレジンの補修修復(矢印)a:6年前からう蝕を経過観察していたが、着色が進み、審美的な問題も生じた。b: メガボンド(クラレノリタケデンタル)と AP-X(クラレノリタケデンタル)を用いて

補修修復を行った。c:補修修復から5年経過後。

a b c

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178

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

179

CQ

CQ

18

19

第2章 ガイドライン本論

図 3 メタルインレーの補修修復(矢印:上顎左側小臼歯近心隣接面部分)a:修復物から離れた部位にう蝕発生し、経過観察を開始した。b:う蝕は活動期にあり、2年の間に拡大・進行して、修復物に接するようになった。c:メガボンドと AP-X を用いて補修修復を行った。d:補修修復から8年経過後。

a

c

b

d

補修修復では、接着システムの性能、接着操作の良否が臨床成績に大きな影響を及ぼすと推測

される。コンポジットレジン修復を補修修復する場合、接着界面はコンポジットレジンと歯質で構成

され、メタルインレー修復であれば、接着の対象は金属と歯質となる。それぞれの面に対して確実

に接着させるためには、被着面の清掃と各々に適した前処理の選択が必要である。被着面の清掃

では、リン酸処理が一般的に行われるが、セルフエッチングシステムの場合、リン酸が象牙質に接

すると接着性が低下するので、慎重な操作が求められる。各被着体に対する前処理では、コンポジッ

トレジン(セラミックスも同様)に対してはシラン処理が有効であり、貴金属(金銀パラジウム合金

も含む)に対しては金属用プライマーの使用が推奨されている。これらの前処理の歯面への影響に

ついては議論のあるところであるが 13, 14)、処理材の歯面への接触は原則的に避けなければならない。

しかし、実際に補修修復を行う場合、対象となる窩洞は小さいため、被着面ごと確実に前処理を

行うことは困難である。このような状況では、歯面、特に象牙質面に対する接着を優先すべきだと

考える。最近、上記のような接着操作の困難性、煩雑性、不確実性の問題点を解決し、補修修復

を視野に入れた接着システムが開発され出した。残念ながらエビデンスはないが、補修修復普及

への貢献と良好な臨床成績を期待される。

参考までに、メタルインレー修復物の二次う蝕や辺縁破折に関しては、比較試験や分析疫学的研

究は依然として認められないが、メタルインレーでも症例によってはコンポジットレジンによる補修

修復を行うよう勧められる(図3〜5)。

図 4 メタルインレーの補修修復(矢印)a:第一小臼歯の近心辺縁隆線部から隣接面にかけてう窩が生じた。両小臼歯のメタルインレー修復は装着後9年経過。b:う蝕除去後。Life(Kerr)による間接覆髄、Fuji Ⅱ LC(ジーシー)による象牙質と覆髄材の被覆後、フォトボンド(クラレノリタケデンタル)と AP-X を用いて補修修復を行った。c:補修修復後5年経過した時点で、第二小臼歯の遠心辺縁隆線部から隣接面にかけてう窩が生じた。d:う蝕除去、窩洞概形形成後。e:フォトボンドと AP-X を用いて補修修復を行った。f:第一小臼歯の補修修復から13 年経過後。

図 5 メタルインレーの補修修復(6咬合面〈矢印〉)a:う窩をメタルを含めて開拡し、う蝕検知液で可及的に象牙質う蝕濃染部を除去、V プライマー(サン  メディカル)+メガボンド+ハーキュライト(Kerr)で修復。b:4年経過後。

a

d

a b

b

e

c

f

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180

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

181

CQ

CQ

18

19

第2章 ガイドライン本論

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ18、CQ19)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Minimalinvasivetreatmentfordefectiverestorations:five-yearresultsusingsealants.MartinJ,FernandezE,EstayJ,GordanVV,MjorIA,MoncadaGOperDent.2013;38:125-33.

目 的 :1級、2級のアマルガムおよびコンポジットレジン修復の辺縁欠陥に対し、MIによる対処法(シーラントによる封鎖)と再修復した場合の成績(5年後)を比較し、その効果を明らかにする。

研究デザイン :ランダム化比較試験(ただし、介入前の状態がグループ間で明らかに異なっており、ランダム化されていないと判断し、エビデンスレベルをダウングレードした。)

研究施設 :1カ国(チリ)。1施設(チリ大学保存修復外来)

対 象 :シーラントでの封鎖に適した辺縁に問題のある修復物(一部修正 USPHS でBravo と判定)を有する 18 歳以上の 32 人(男 13 人、女 19 人。18 〜 80 歳、平均 26.8 歳)。さらに、20 歯以上有し、対象歯には対咬歯と隣接歯がある。1級(94 例)と2級(32 例)のアマルガム修復 69 例、コンポジットレジン修復57 例、計 126 例。

 *本文には記載されていないが、掲載図から再修復を行った症例の 45%程度は  二次う蝕であったと推測される。

介 入 :シーラント(43 例):ラバーダム装着。削除せずに 35%リン酸エッチング 15 秒処理後、Clinpro Sealant を塡塞した(術者一人)。再修復(40 例):旧修復物をすべて除去し、窩洞形成後ラバーダム装着してアマルガム(Tytin, Kerr)またはコンポジットレジン(Filtek Supreme)を填塞した(シーラントを行った術者とは別の術者一人)。未処置(43 例)。

主要評価項目 :USPHS(一部修正)に基づいて、辺縁適合性、表面粗さ、辺縁着色、歯髄症状、二次う蝕を評価。Alfa(良好)、Bravo(問題があるも許容範囲内)、Charlie(許容範囲外)の 3 段階の評価。

結 果 :5年間、毎年評価された被験者は 23 人(男9人、女 14 人:72%)、症例数は90 例(アマルガム修復 53 例、コンポジットレジン修復 37 例:71%)であった。シーラントでは、ベースラインと比較し5年後も辺縁適合性は有意に改善されていたが、表面粗さと辺縁着色は有意に劣化した。歯髄症状と二次う蝕の評価項目では有意な変化は観察されなかった。再修復では、辺縁適合性と二次う蝕は有意に改善されたが、辺縁着色、表面粗さと歯髄症状では元に戻って5年後に差は認められなくなった。未処置(経過観察)では、辺縁適合性、表面粗さおよび辺縁着色が5年間で有意に劣化したが、知覚過敏と二次う蝕の項目ではまったく変化がみられなかった。シーラントと再修復との比較では、すべての評価項目で差は認められなかった。両方とも、経過観察より優れた辺縁適合性を示した。アマルガム修復とコンポジットレジン修復間で差はみられなかった。

結 論 :辺縁に問題のある修復物へのシーラント処理の5年後の辺縁適合性は再修復と同等の成績を示した。シーラントで辺縁欠陥を封鎖することで(最小限の介入、費用、歯の損傷)修復物の寿命は延びる。

Survivalrateofsealed,refurbishedandrepaireddefectiverestorations:4-yearfollow-up.FernándezEM,MartinJA,AngelPA,MjörIA,GordanVV,MoncadaGABrazDentJ.2011;22:134-9.

目 的 :辺縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復が修復物の寿命を延ばすかどうかを明らかにするため、欠陥を有するアマルガム修復物およびコンポジットレジン修復物の補修(辺縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)、再修復ならびに経過観察を行い、各対処法の生存時間の中央値(Alfa の割合が 50%となるのに要した時間)を推計する。

研究デザイン :非ランダム化比較試験(ランダム割り付けの記載あるも、後述するように対処法は原因に依存していた)

研究施設 :1カ国(チリ)。1施設(チリ大学保存修復外来)

対 象 :18 歳以上の 66 人(18 〜 80 歳、平均 26.6 歳)の 271 症例。20 歯以上有し、対象歯には対咬歯と隣接歯がある。1級(176 例)と2級(95 例)のアマルガム修復 193 例およびコンポジットレジン修復 78 例。

介 入 :辺縁欠陥(Bravo)はシーラントによる辺縁の封鎖(シーラント)か未処置、二次う蝕(Charlie)は補修修復か再修復、オーバーカントゥア(Bravo と Charlie)は形態修正・再研磨か未処置、アンダーカントゥア(Bravo)は補修修復か再修復にランダムに割り付けた。補修修復(27 例):ラウンドカーバイドバーで問題部位を削除後、アマルガム修復では穿下を形成して分散強化型アマルガム(Original D,Wykle Research)を填塞した。コンポジットレジン修復ではAdperPrompt L-Pop(3M ESPE)と Filtek Supreme(3M ESPE)を用いた。シーラント(48 例):35%リン酸エッチング 15 秒処理後、Clinpro Sealant(3M ESPE)を填塞した。形態修正・再研磨(73 例):カーバイドバーで仕上げ、アマルガム修復ではシリコーンポイントで、コンポジットレジン修復では研磨用ポイントやディスクで研磨した。再修復(42 例):旧修復物をすべて除去して窩洞形成し、Original D または Filtek Supreme を填塞した。未処置(81 例)。

主要評価項目 : USPHS(一部修正)に基づいて、辺縁適合性、解剖学的形態、表面粗さ、二次う蝕、光沢性を評価。

結 果 :52 人(79%)が4年後のリコールに応じた(シーラント:36/48 例、形態修正・再研磨:63/73 例、補修修復:21/27 例、再修復 28/42 例、未処置:60/81例、計 208/271 例)。修復材料別では、アマルガム修復:150 例、コンポジットレジン修復 58 例を評価した。直後はすべて Alfa で、その後に劣化。4年後にCharlie と評価された症例は、辺縁適合性 3.4%、面粗れ 1.9%、光沢性 2.9%であった。辺縁適合性において、補修修復の生存時間の中央値は2年で、他の対処法より有意に劣っていた。また、解剖学的形態、面粗れ、光沢性でも最悪の成績を示した。

結 論 :ギャップのシーラントによる封鎖、形態不良の形態修正・再研磨および限局した二次う蝕の補修修復は再修復と同等の成績を示した。欠陥を有する修復物の寿命は補修修復で有意に延び、再修復を行う必要はない。

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182

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

183

CQ

CQ

18

19

第2章 ガイドライン本論

CQ18 辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修(辺縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)は再修復と

同等の効果を発揮するか。CQ19 二次う蝕が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修修復は再

修復と同等の効果を発揮するか。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Martin et al.2013チリ

ランダム化比較試験(選択バ イ ア ス が大きく、ランダム化されていないと判断し、エビデンスレベルをダウングレードした)

辺縁にシーラントでの対応に適した問題のある修復物(一部修正 USPHS で Bravoと判定)を有する18 歳以上の 32 人(男13 人、女 19 人。18〜 80 歳、平均 26.8歳)。さらに、20 歯以上有し、対象歯には対咬歯と隣接歯がある。1級(94 例)と2級(32 例)のアマルガム修復 69例およびコンポジットレジン修復 57 例。

①シーラント(43 例):ラバーダム装着。削除せずに 35%リン酸エッチング 15 秒処理後、Clinpro Sealant を塡塞した(術者一人)。

②再修復(40 例):旧修復物をすべて除去し、窩洞形成後ラバーダム装着して Tytin またはFiltek Supremeを填塞した

(シーラントを行った術者とは別の術者一人)。

③未処置(43 例)。

5 年間、毎年評価された被験者は 23 人(男 9 人、女 14 人:72%)、症例数は 90 例(アマルガム修復 53 例、コンポジット レ ジ ン 修 復 37 例:71%)であった。①シーラントでは、ベースライ

ンに比較し5年後も辺縁適合性は有意に改善されていたが、表面粗さと辺縁着色は有意に劣化した。歯髄症状と二次う蝕では有意な変化は観察されなかった。

②再修復では、辺縁適合性と二次う蝕は有意に改善されていたが、辺縁着色、表面粗さと歯髄症状では5年後に元に戻って差は認められなくなった。

③未処置(経過観察)では、辺縁適合性、表面粗さおよび辺縁着色が5年間の間で有意に劣化したが、知覚過敏と二次う蝕の項目ではまったく変化がみられなかった。

④シーラントと再修復との比較では、すべての評価項目で差は認められなかった。両方とも、経過観察より優れた辺縁適合性を示した。

⑤アマル ガ ム 修 復 と コ ン ポジットレジン修復間で差はみられなかった。

Along-termevaluationofalternativetreatmentstoreplacementofresin-basedcompositerestorations:resultsofaseven-yearstudy.GordanVV,GarvanCW,BlaserPK,MondragonE,MjörIAJAmDentAssoc.2009;140:1476-84.

目 的 :コンポジットレジン修復物の再修復に代わる対処法(辺縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)の生存時間を求める。また、臨床家が修復物に欠陥ありと診断する主原因を特定する。

研究デザイン :非ランダム化比較試験

研究施設 :1カ国(米国)。1施設(フロリダ大学歯学部保存修復外来)

対 象 : 37 人(男 18 人、女 19 人、27 〜 78 歳、平均 57 歳、標準偏差 13 歳)。修正を加えた USPHS で Bravo と評価され、近い将来再修復になると思われたコンポジットレジン修復 88 例。基本的に前歯(3級:44 例、4級:13 例、5級:24 例)で、臼歯は7例(2級:2例、5級:5例)。

介 入 : 3年生と4年生の歯学部学生が指導者の下で、補修修復(ラウンドカーバイドバーで問題部位を削除後、Single Bond〈3M ESPE〉で接着処理し、Filtek Z 250〈3M ESPE〉を填塞)、辺縁の封鎖(34%リン酸で 15 秒処理後、シーラント〈Delton, Dentsply〉を用いて封鎖)または形態修正・再研磨を行う。比較対象として再修復(Single Bond と Filtek Z 250)と未処置(経過観察)を設定する。補修修復 25 例、辺縁の封鎖 12 例、形態修正・再研磨 19 例、再修復 16 例、経過観察16 例。

主要評価項目 : USPHS(一部修正)に基づいて、色調適合性、辺縁適合性、解剖学的形態、表面粗さ、辺縁着色、変色、咬合接触、隣接面のコンタクト、二次う蝕、表面の光沢を評価。Alfa から Bravo、Bravo から Charlie など評価が低下した場合、劣化とする。

結 果 :補修に至った主原因は辺縁着色(60.2%)、辺縁不適合(20.5%)および色調不適合(19.3%)であった。リコール率は半年後 78%(69 例)、1年後 77%(68例)、2年後 70%(62 例)、7年後 60%(53 例)であった。処置内容にかかわらず、色調適合、辺縁適合、辺縁着色、滑沢性で劣化がみられた。辺縁の封鎖と補修修復は7年間で再治療になった症例はなく、優れた成績を示した。形態修正・再研磨では2例(18%)、再修復では3例(21%)、未処置では3例(23%)が再治療に至ったが、処置群間で有意差は認められなかった。

結 論 :修復物に関する欠陥の主原因は辺縁着色であった。修復物の問題点が限局している場合、再修復より本研究で取り上げたようなMI的対処法をまず行うべきである。

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184

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

185

CQ

CQ

18

19

第2章 ガイドライン本論

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入・治療・評価 結 果エビデンスレベル

Fernández EM et al.2011チリ

非ランダム化比較試験

18 歳以上の 66 人(18〜 80 歳、 平 均 26.6歳)の 271 症例。20歯以上有し、対象歯には対咬歯と隣接歯が あ る。USPHS でBravo(臨床的許容範囲内)か Charlie(許容範囲外)と評価された1級(176 例)と2級(95 例)のアマルガム修復 193 例およびコンポジットレジン修復 78 例。

辺縁欠陥(Bravo)はシーラントによる封鎖か未処置;二次う蝕(Charlie)は補修修復か再修復;オーバーカントゥア(Bravo と Charlie)は形態修正・再研磨か未処置;アンダーカントゥア(Bravo)は補修修復か再修復にランダムに割り付けた。① 補 修 修 復(27 例):問題部

位を削除後、アマルガム修復では分散強化型アマルガム(Original D)を填塞した。コンポジットレジン修復では Adper Prompt L-Pop と Filtek Supreme を用いた。

②辺縁の封鎖(48 例):35% リン酸エッチング 15 秒処理後、Clinpro Sealant を填塞した。

③形態修正・再研磨(73 例):形態修正後、研磨した。

④再修 復(42 例):旧修 復物をすべて除去して窩洞形成し、Original D ま た は Filtek Supreme を填塞した。

⑤未処置(81 例)。Median survival time( 生 存時間の中央値:Alfa の割合が50% となるのに要した時間)

52 人(79%) が 4 年 後 の リコールに応じた(辺縁の封鎖:36 例、 形 態 修 正・ 再 研 磨:63 例、補修修復:21 例、再修 復 28 例、 未 処 置:60 例、計 208 例)。修復材料別では、アマルガム修復:150 例、コンポジットレジン修復 58 例を評価した。① 直 後 はすべて Alfa( 良 好 )

で、その後に劣化。4年後に Charlie と評価された症例は、辺縁適合性 3.4%、面粗れ 1.9%、光沢性 2.9% であった。

②辺縁適合性において、補修修復の生存時間の中央値は2年で、他の対処法より有意に劣っていた。

③補修修復は解剖学的形態、面粗れ、光沢性でも最悪の成績を示した。

Gordan et al.2009米国

非ランダム化比較試験

37 人(男 18 人、女19 人、27 〜 78 歳、平均 57 歳、標準偏差 13 歳)。修正を加えた USPHS で Bravoと評価され、近い将来再修復になると思われたコンポジットレジン修復 88 例。基本的に前歯(3級:44 例、4級:13 例、5級:24 例)で、臼歯は7例(2級:2例、5級:5例)。

3年生と4年生の歯学部学生が指導者の下で処置を行った。 ①補修修復(25 例):ラウンド

カーバイドバーで問題部位を 削 除 し、Single Bond とFiltek Z250 を用いて修 復した。

②辺縁の封鎖(12 例):34% リン酸エッチング 15 秒処理後、Delton を塡塞した。

③形態修正・再研磨(19 例)④再修復(16 例):Single Bond

と Filtek Z250 を用いて修復した。

⑤未処置(16 例)。

補修に至った主原因は辺縁着色(60.2%)、辺縁不適合(20.5%)および色調不適合(19.3%)であった。88 例中、6カ月後 69例(78%)、1年後 68 例(77%)、2年後 62 例(70%)、7年後53 例(60%)を調査した。①処置内容にかかわらず、色

調適合、辺縁適合、辺縁着色、滑沢性で劣化がみられた。

②辺縁の封鎖と補修修復は7年間で再治療になった症例はなく、優れた成績を示した。

③ 形 態 修 正・再 研 磨 で は2例(18%)、 再 修 復 で は 3例(21%)、未処置では3例

(23%)が再治療に至ったが、処置群間で有意差は認められなかった。

CQ18 辺縁着色または辺縁不適合が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修(辺縁の封鎖、形態修正・再研磨および補修修復)は再修復と

同等の効果を発揮するか。CQ19 二次う蝕が認められるコンポジットレジン修復物に対して、補修修復は再

修復と同等の効果を発揮するか。

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1950〜 2013年、検索日:2013年 11月 12日)

#1  composite resins[MH]#2  composite repair#3  dental restoration failure[MH]#4  success rate#5  survival rate#6  survival analysis#7  longitudinal study#8  retrospective study#9  follow-up studies[MH]#10 (#3 or #4 or #5 or #6 or #7 or #8 or #9)#11 (#1 and #2 and #10)#12 (#1 and #2 and #10) Filters: Randomized

controlled trial; Controlled clinical trial; Case reports; ReSupport, Non-U.S.

#13 deciduous tooth[MH]#14 primary tooth#15 sealant

#16 porcelain#17 ceramic#18 denture#19 post and core technique#20 dental prosthesis#21 dental pulp#22 tooth nonvital#23 root-canal filling materials#24 tooth root#25 (#13 or #14 or #15 or #16 or #17 or #18 or

#19 or #20 or #21 or #22 or #23 or #24)#26 (#13 or #14 or #15 or #16 or #17 or #18 or

#19 or #20 or #21 or #22 or #23 or #24) Filters: In Vitro

#27 (#12 not #26)#28 (#12 not #26) Filters: Publication date

from 1950/01/01 to 2013/10/31

 検索結果:71件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:2003〜 2013年、検索日:2013年 11月 19日)

#1  (コンポジットレジン /TH orコンポジットレジン /AL)

#2  補修 /AL#3  (治療成績 /TH or 臨床成績 /AL)#4  成功率 /AL#5  臨床効果 /AL#6  #1 or #2#7  #3 and #6

#8  #4 and #6#9  #5 and #6#10 #7 or #8 or #9#11 (乳歯 /TH or 乳歯 /AL)#12 (仮封材 /TH or シーラント /AL)#13 #11 or #12#14 #10 not #13#15 (#14) and( DT=2003:2013)

 検索結果:66件

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186

Minds 第Ⅲ部 象牙質う蝕への切削による対応

文献1) Hunter AR, Treasure ET, Hunter AJ. Increases in cavity volume associated with the removal of Class 2

amalgam and composite restorations. Oper Dent. 1995; 20: 2-6.2) Gordan VV. Clinical evaluation of replacement of class V resin based composite restorations. J Dent. 2001; 29:

485-8.3) Tyas MJ, Anusavice KJ, Frencken JE, Mount G. Minimal intervention dentistry-a review. Int Dent J. 2000; 50:

1-12.4) http://www.fdiworldental.org/media/11275/Minimal-intervention-in-the-management-of-dentalcaries-

2002.pdf5) Gordan VV, Shen C, Riley J 3rd, Mjör IA. Two-year clinical evaluation of repair versus replacement of

composite restorations. J Esthet Restor Dent. 2006; 18: 144-54.6) Gordan VV, Garvan CW, Blaser PK, Mondragon E, Mjör IA. A long-term evaluation of alternative treatments

to replacement of resin-based composite restorations: results of a seven-year study. J Am Dent Assoc. 2009; 140: 1476-84.

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13)二階堂徹,高野由佳,田上順次.口腔内リペアにおける各種前処理が歯質接着性に及ぼす影響.接着歯学.2004; 22: 128-33.

14)中島正俊.リペアの方法を教えてください.歯界展望別冊「使いこなそうコンポジットレジン」.東京:医歯薬出版;2004; 121-7.

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第Ⅳ部根面う蝕への非切削および

切削での対応

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第1章 Minds によるガイドライン作成の手順

189

Minds によるガイドライン作成の手順1第 章

1 クリニカル・クエスチョン(CQ)の設定

第 IV 部では、社会の高齢化に伴い根面う蝕への対応に関心が高まるなか、2つの CQ を設定し

た。CQ 20 は、根面のう蝕病変への非切削での対応として、フッ化物の塗布が初期う蝕の進行抑制

に有効か否かを問うたものであり、CQ 21 は、根面のう蝕病変が進行し切削修復が必要となった場

合、どの修復材料を選択すべきか問うたものである。

2 CQの一覧

CQ20:初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か。

CQ21:根面う蝕の修復処置にコンポジットレジンとグラスアイオノマーセメントのどちらを使用

するか。

3 推奨の強さの決定

第Ⅲ部に同じ。

4 エビデンス統合のための手法

第Ⅲ部に同じ。

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Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 第2章 ガイドライン本論

CQ

CQ

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背景・目的

超高齢社会を迎え、中〜高年者の保有歯数の増加に伴って、歯根面に発生するう蝕が急増し、日

常的にその治療を行う頻度がきわめて高くなっている。厚生労働省の歯科疾患実態調査 1)でも、経

年的に高齢者におけるう蝕有病者率の上昇が報告されており、また、わが国の 60 〜 78 歳の高齢

者 287 人を対象とした疫学調査 2)では、根面う蝕の発症率(歯根面にう蝕が認められる人、およ

び歯根面に修復処置が施されており過去に根面う蝕に罹患した既往が認められる人の被験者総数に

占める割合)は 53.3%であったとされている。

根面う蝕に対しては、ステージが進行して実質欠損が大きくなっている場合は、通常、感染歯質

を削除した後に充填修復処置が適用される。しかし、歯根面は、歯冠部エナメル質と比較して無機

質含有量が少なく、う蝕の初期段階では、表面の脱灰軟化が生じていても大きな欠損にはなって

いない場合も多い。また、酸に対する抵抗性が低い歯根面に選択的に脱灰が生じて側方に広がり、

歯頚部を取り巻く広い範囲に軟化が生じることも珍しくない。このような初期根面う蝕は、病変の辺

縁が不明瞭で、修復処置に際してどこまで削除すれば良いかの判定が困難であるうえ、部位的に切

削や修復操作が容易でないことも多い。そのため、感染歯質の切削を行わずに、再石灰化により

その進行を抑制し、う蝕を管理することが治療法の一つとして提唱されている 3-6)。このような非侵

襲的な治療は、MI の理念に則った意義深いものであるうえ、在宅医療をはじめとして、全身的な問

題により治療の環境や時間が制限を受ける場合にも有益な対処法であると言える。

脱灰が生じているが欠損の浅い初期活動性根面う蝕に対して再石灰化を図り、非活動性にする治

療法については、これまで、欧米を中心にフッ化物の応用に関するいくつかの臨床研究がなされて

おり 7-20)、わが国でも経験的に臨床でのフッ化物応用が行われている。

また、平成 26 年度歯科診療報酬改定において、在宅等療養患者の初期根面う蝕に対するフッ化

物歯面塗布処置が保険導入され、本治療法の重要性がますます増大している。しかし、非侵襲的

な根面う蝕の治療法についてはなお明らかにすべき点が多く、治療指針が必要とされている。

解 説

フッ化物配合歯磨剤の使用に加えて、フッ化物配合洗口剤で毎日洗口を行うことにより、初期活

動性う蝕を非活動性にすることが可能である。このことは、2編のランダム化比較試験(エビデン

スレベルⅡ)13, 17)により証明されている。そのうちの1編 13)においては、フッ化物配合歯磨剤を

日常的に使用している 60 歳以上、466 人の高齢者を、0.05% NaF(約 230ppm F)配合洗口剤ま

たはプラセボ洗口剤による毎日の洗口を行うグループ、ならびにプラセボ洗口剤による毎日の洗口

と 1.2% F(12,000ppm F)のフッ化物配合ジェルの年2回塗布を行うグループの3群にランダムに

割り付けて、4年経過後に活動性のう蝕病変が非活動性になる割合が比較された。その結果、0.05%

NaF(約 230ppm F)配合洗口剤による洗口群では、非活動性となったう蝕病変の割合が、プラセ

ボ洗口剤使用群や年2回のフッ化物配合ジェル塗布群に比べて有意に高いことがわかった。また、

1,400 ppm F のフッ化物配合歯磨剤と 250 ppm F のフッ化物配合洗口剤の併用の効果を検討したも

う一つのランダム化比較試験 17)では、フッ化物配合歯磨剤単独の使用と比べて、洗口剤を併用し

た場合で有意に再石灰化効果が高く、67%の活動性病変が1年後に非活動性に変化したとされて

ガイドライン本論2第 章

8.根面う蝕への対応

クリニカル・クエスチョン(Clinical Questions: CQ)

CQ20 初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か。

CQ21 根面う蝕の修復処置にコンポジットレジンとグラスアイオノマーセメントのどちらを使用するか。

CQ20 初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か。【 推奨 】フッ化物配合歯磨剤と0.05%NaF(約 230ppmF)配合洗口剤を日常的に併用することにより、初期活動性根面う蝕を再石灰化させ、非活動性にすることが可能である(エビデンスレベル「Ⅱ」)。また、1,100ppmF以上のフッ化物配合歯磨剤の使用だけでも、表面の欠損の深さが 0.5mm未満のう蝕であれば、再石灰化できる可能性がある(エビデンスレベル「Ⅲ」)。よって、欠損の浅い初期活動性根面う蝕の場合は、まずフッ化物を用いた非侵襲的治療を行って再石灰化を試み、う蝕を管理するよう推奨される。(推奨の強さ「B」)

文献の抽出

CO20 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 12 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 19 日

以上のデータベース検索より、PubMed および医学中央雑誌からそれぞれ 407 文献と 95 文献が

抽出された。それらの抄録より、フッ化物による根面う蝕の再石灰化に関するヒト臨床研究を絞り

込み、そのなかからシステマティックレビュー、ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、お

よびケースシリーズを選択した結果、エビデンスとして採用する可能性のある 17 英語論文が得られ

た。

そして、最終的に選択されたこれらの論文を精読し、研究デザインと質に基づいてエビデンスレ

ベルを確定して各 CQ に対するエビデンスとして採用した。なお、それぞれの CQ の「推奨」の最

後に、エビデンスとして採用した論文の構造化抄録を記載した。

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Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 第2章 ガイドライン本論

CQ

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Code 1:根面やセメントエナメル境に限局した色調変化 (light/dark brown、black) が認められ

るが、0.5 mm 以上の深さの実質欠損がみられない。

Code 2: 根面やセメントエナメル境に限局した色調変化(light/dark brown、black)が認められ、

0.5mm 以上の深さの実質欠損がみられる。

フッ化物を用いた非侵襲的治療の適用対象となる “初期活動性根面う蝕 ”は、エビデンスとして

採用した論文の記載内容からすれば、肉眼的に表面の陥凹が軽度な soft および leathery lesion で

ある(表1)。具体的には、プローブによってソフト感あるいはやや粘ついた感じが触知され、実

質欠損がおよそ 0.5mm 未満の病変と考えるのが適当である(図1参照)。

前述のとおり、フッ化物を用いた非侵襲的治療のエビデンスを示す報告のほとんどは欧米からの発

出であり、そこで使用されている材料は必ずしもわが国で入手可能なものばかりではない。28 ペー

ジの表 1 に、現在わが国で市販されているフッ化物製剤の一覧を示しているが、特に、現在わが国

で市販されているフッ化物配合歯磨剤中のフッ化物イオン濃度は最高でも 950ppm 程度であることか

ら、今回、エビデンスとして採用した論文のような成果が得られにくい場合もあるかもしれない。さら

に、フッ化物配合洗口剤の使用に代表されるホームケアの効果は、患者のコンプライアンス(実行性)

に依存しているうえ、高齢者の唾液分泌量やブラッシングスキルの個人差は非常に大きく、根面う蝕

の進行に関与するリスクファクターは複雑である。初期根面う蝕に対する非侵襲的な治療法をより成

功率の高い確実なものとして定着させるためには、少なくとも、明確なエビデンスが確認されている

高濃度のフッ化物配合歯磨剤を日常的に使用できるよう、医薬品医療機器法などの整備がなされるこ

とが望まれる。

平成 26 年度の歯科診療報酬改定では、在宅などで療養を行う患者の初期根面う蝕に対して、歯

科医師またはその指示を受けた歯科衛生士がフッ化物歯面塗布処置を行うことに保険点数の算定

が認められた。歯質を切削して修復する治療と比較した場合、非侵襲的な治療は、患者の経済的

および精神的な負担も少なく、また、治療環境の制限をあまり受けることなく実施できる点でその

意義は大きい。さらに、欧州ではミルクへのフッ化物の添加 22)なども実施されており、身近な媒体

を利用した簡便な方法で効果を得ることも可能である。非侵襲的な処置は一見不確実なように捉え

られがちであるが、う蝕リスクに応じて定期的なフォローアップを行い、再石灰化が奏功せずにう蝕

が進行した場合には速やかに修復処置に移行するプログラムを実践していれば、重篤な状態に至っ

てしまうことも少ない。よって、欠損の浅い初期活動性根面う蝕の場合、う蝕リスクの低減を図りつ

つ、まずフッ化物を用いた非侵襲的治療を実施して再石灰化を試み、う蝕を管理するよう推奨される

(推奨の強さ「B」)。また、最近、高齢者・要介護者の根面う蝕の「進行止め」としてフッ化ジア

ンミン銀が注目されてきている。(p.209 参考資料)

参考資料

CQ 20:初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か。う蝕治療ガイドライン作成委員会の8名の委員(臨床経験 20 〜 38 年)に、上顎前歯の根面う

蝕を6年間にわたり経過観察した図2の症例写真を提示した。そして、上顎右側中切歯の頰側歯

根面のう蝕を対象とし、う蝕リスクの情報は提供せずに、審美性の要求はないものとして2つの点

について質問を行った。なお、本症例では、冷水痛など痛みに関する訴えがなく、かつ審美的要求

もなかったことから、患者の求めに応じ6年間経過観察を続けた。

いる(エビデンスレベル「Ⅱ」)。

一方、前述のランダム化比較試験 13)では、フッ化物配合歯磨剤とフッ化物配合洗口剤の併用よ

りも効果は低かったものの、フッ化物配合歯磨剤の日常使用に加えてプロフェッショナルケアとして

フッ化物局所塗布を行うことの有効性が、2つのケースシリーズ 8, 20)により示されている。そのうち

の 1 編 20)は、0.32% NaF(約 1,400ppm F)配合歯磨剤での1日2回のブラッシングに加えて、試

験開始時と3および6カ月後にフッ化物(22,300ppm F)含有バニッシュの塗布または8% SnF2(約

19,000ppm F)溶液の5分間塗布を行うと、 いずれも 1 年後に 20 病変中 19 病変が非活動性になっ

たことを報告している(エビデンスレベル「V」)。また、頰側歯根面に存在する 24 の活動性病変

を対象にしたもう1編のケースシリーズ 8)でも、約 0.1% F(1,000ppm F)のフッ化物配合歯磨剤

を日常的に使用しながら、試験開始時と2カ月後に2% NaF(約 9,000ppm F)溶液を2分間塗り

込む処置を行った場合、2〜6カ月のうちにすべての病変が非活動性になったことが示されている

(エビデンスレベル「V」)。

さらに、1 編のケースシリーズ 7)は、1% NaF(約 4,500ppm F)が配合されたジェルを家庭

で日常的に用いれば、活動性病変を高率に再石灰化できることを報告している(エビデンスレベル

「V」)。すなわち、表面に欠損のない初期活動性病変に対して、カスタムトレーを用いて1% NaF

(約 4,500ppm F)ジェルをホームケアとして日常的に適用した場合、2年後には 20 のうちの 14

病変(70%)が非活動性になり、また、0.5 mm 未満の浅い凹みを生じている活動性病変に対しては、

表面の滑沢化を行った後に1% NaF(約 4,500ppm F)ジェルを日常使用することにより、13 病変

すべてが6カ月で非活動性に変化している。

これらに加え、高濃度のフッ化物を配合した歯磨剤の使用だけでも、初期活動性病変の再石灰化

が生じることが2編の論文 15, 18)により示されている。そのうちの1編 15)では、5,000ppm F の NaF

配合歯磨剤の毎日の使用で、6カ月後に約 52%の活動性病変が非活動性になり、1,100ppm F の

NaF 配合歯磨剤でも、6カ月後に約 26%が非活動性になったとされている。さらに、当該研究で

は、対象とした活動性病変を、周囲の健全な歯根面よりも 0.5mm 以上の深さの欠損を生じている

もの(cavitated lesion)と 0.5mm 未満のもの(non-cavitated lesion)に分け、再石灰化率の比

較が行われている(エビデンスレベル「Ⅲ」)。その結果、5,000ppm F、1,100ppm F の NaF 配合

歯磨剤いずれの場合でも、再石灰化した病変の割合は2群間で異なり、0.5 mm 以上の深さの欠損

となっている病変では、6カ月後の再石灰化率は、それぞれ 19%と9%であったのに対し、0.5mm

未満の深さの場合は、それぞれ 76%と 35%であり、non-cavitated lesion のほうが非活動性に変

化しやすいと結論づけられている。

根面う蝕の診断基準はまだ明確に確立されているとは言えないが、厚生労働省による歯科疾患実

態調査 1)では、「根面部のう蝕については、病変部を CPI プローブで触診し、ソフト感あるいはざ

らついた感じがあればう蝕とする」と定められている。また、う蝕の診断基準として世界的な広がり

をみせている ICDAS(International Caries Detection and Assessment System)では、根面う蝕の

病態に関して以下の臨床的分類(コーディング)を提案している 21)。

Code E:歯肉退縮がなく根面が目視できない。

Code 0:根面にう蝕を疑う色調変化が認められない。また、セメントエナメル境や根面に実質欠

損が認められない。根面の実質欠損や陥凹が認められたとしても、それがう蝕によるも

のでない場合は Code 0とする。

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Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 第2章 ガイドライン本論

CQ

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図 2 6年間にわたり経過観察した根面う蝕上顎右側中切歯の頰側歯根面におけるう蝕の進行(68 歳、男)。a:ベースライン。b:2年後。c:3年後。d:4年後。e:5年後。f:6年後。

a

d e f

b c

質問1:フッ化物を用いた非侵襲的治療の対象となる、欠損の浅い初期活動性う蝕(深さ 0.5mm

未満)はどの段階と考えるか?

回答:すべての委員が3年後(図 2-c)と回答した。活動性う蝕と判定した理由はう蝕の表面が濡

れて軟らかそうである、表面に凸凹がある、色調が淡い、などが活動性う蝕と判定した理由であった。

質問2:どの段階で切削修復に踏み切るか?

回答:4年後(図 2-d)が1名、5年後(図 2-e)が7名であった。4年後では再石灰化療法が

功を奏せばそのまま管理に移行する。5年後になると歯面が再石灰化しても、欠損がプラークの停

滞しやすい形態なので修復に踏み切るとの意見があった。また、このアンケートではあらかじめ経

過がわかっているため、実際の臨床判断より切削介入が遅くなる可能性があるとの意見もあった。

表1 根面う蝕の臨床的分類

表面性状 診断基準 病変の状態

Softlesion 軟らかい容易に探針が

挿入できる活動性

Leatherylesion

なめし革(レザー)様

探針は挿入できるが引き抜く際に抵抗がある

活動性または

非活動性

Hardlesion健全歯根面と同程度に硬い

探針の挿入はできない

非活動性図1 探針による初期根面う蝕の検査(エビデンスとして採用した論文における解釈)

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ20)(エビデンスレベルが高い順に記載)

Remineralizationofprimaryrootcarieslesionsusinganaminefluoriderinseanddentifricetwiceaday.PeterssonLG,HakestamU,BaigiA,LynchEAmJDent.2007;20(2):93-6.

目 的 :フッ化物配合歯磨剤の単独使用と、フッ化物配合歯磨剤と洗口剤の併用による根面う蝕の再石灰化効果を比較する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :Special Dental Clinic, Ljungby; Specialist Dental Clinic to the Dental and Maxillofacial Unit, Central Hospital, Halmstad, Sweden

対 象 :初期活動性根面う蝕病変(soft または leathery lesion)を有する 55 〜 81 歳の患者 70 人。

介 入 : 併用群:1,400ppm F のフッ化物配合歯磨剤の使用( 1 日2 回) と Amine fluoride/Potassium fluoride(250ppm F)洗口剤による1日2回の洗口を行う群

(35 人)、歯磨剤単独群:1,400ppm F のフッ化物配合歯磨剤の使用(1日2回)とプラセボ洗口剤による1日2回の洗口を行う群(35 人)

主要評価項目 :3、6、9、12 カ月後に、非活動性(hard lesion)への変化を調べるとともに、Electronic caries monitor(ECM)により病変の抵抗値を測定。

結 果 :3、6、9、12 カ月後のすべての期間において、併用群では、歯磨剤単独群と比較して、再石灰化した病変の数が有意に多く、ECM 測定値も有意に高かった。12 カ月後の結果は、併用群では、182 の活動性病変(soft lesion 74%、leatherylesion 26%)のうち 67%が再石灰化して hard lesion になり、歯磨剤単独群では、143 の活動性病変(soft lesion 73%、leathery lesion 27%)のうち再石灰化したのは7%のみであった。また、 log10ECM 値は、試験開始時は両群に有意差はなかったが、12 カ月後では、併用群 2.67 ± 2.56 k Ω、歯磨剤単独群 2.12 ± 1.88k Ωであり、併用群のほうが高い値を示した。

結 論 :フッ化物配合歯磨剤とフッ化物配合洗口剤の併用は、活動性根面う蝕病変を再石灰化するうえで有効である。

The48-monthincrementofrootcariesinanurbanpopulationofolderadultsparticipatinginapreventivedentalprogram.WallaceMC,RetiefDH,BradleyELJPublicHealthDent.1993;53(3):133-7.

目 的 :水道水フッ化物化地域在住の高齢者における、48 カ月間のう蝕予防プログラムの根面う蝕に対する効果を検討する。

研究デザイン :ランダム化比較試験

研究施設 :米国 Alabama 州 Birmingham 市(水道水のフッ化物化地域)

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Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 第2章 ガイドライン本論

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対 象 :60 歳以上で 15 本以上の残存歯を有する高齢者 466 人。濃く変色し、探針を用いた中等度圧でのプロービングにより tacky または leathery の感触を有するleathery lesion を対象。全員がフッ化物配合歯磨剤を使用。

介 入 :F 洗口群(148 人):0.05% NaF(約 230ppm F)配合洗口剤による毎日の洗口、コントロール群(171 人):プラセボ洗口剤による毎日の洗口、F ジェル塗布群(147人):プラセボ洗口剤による毎日の洗口と 1.2% F(12,000ppm F)のフッ化物配合 APF ジェルの年2回塗布(トレーを用いて4分間)

主要評価項目 :非活動性に変化した病変の数を判定。

結 果 :F 洗口群:1.53 ± 2.03、Control 群:1.11 ± 1.74、F ジェル塗布群:1.01 ± 1.86。F 洗口群では、コントロール群または F ジェル塗布群と比較して有意に非活動性に変化した病変の数が多かった。

結 論 :0.05%NaF(約 230ppmF)配合洗口剤による毎日の洗口は、活動性根面う蝕を非活動性にするうえで有効である。

Reversalofprimaryrootcariesusingdentifricescontaining5000and1100ppmfluoride.BaysanA,LynchE,EllwoodR,DaviesR,PeterssonL,BorsboomPCariesRes.2001;35:41-6.

目 的 :5,000ppm F と 1,100ppm F のフッ化物配合歯磨剤の初期根面う蝕に対する再石灰化の効果を検討する。

研究デザイン :2種のフッ化物濃度の比較の点ではランダム化比較試験であるが、cavitated lesion と non-cavitated lesion の比較の点では非ランダム化比較試験

研究施設 :Department of Conservative Dentistry at St. Bartholomew's and the Royal London School of Medicine and Dentistry, UK

対 象 :初期活動性根面う蝕病変(leathery または soft lesion)を有する 27 〜 90 歳(58.9± 13.0 歳)の患者 186 人。

介 入 :5,000NaF 群:5,000 ppm F の NaF 配合歯磨剤で1日1回以上ブラッシング(125 の活動性病変:124 leathery lesion と 1soft lesion を対象)、1,100NaF 群:

1,100ppm F の NaF 配合歯磨剤で1日1回以上ブラッシング(117 の活動性病変:116 leathery lesion と 1 soft lesion を対象)。

主要評価項目 :3および6カ月後に、硬さの変化を調べるとともに、Electronic caries monitor(ECM)により病変の抵抗値を測定。

結 果 :3、6カ月後とも、5,000NaF 群では、1,100NaF 群と比較して、非活動性となった病変(hard lesion)の数が有意に多く、ECM 測定値も有意に高かった。6カ月後の結果は、5,000NaF 群では、leathery lesion の 52%(65/124 病変)がhard lesion に変化し、1つの soft lesion(1/1 病変)が leathery lesion となったのに対し、1,100NaF 群では、leathery lesion の 26%(30/116 病変)が hard lesion に、1つの soft lesion(1/1 病変)が leathery lesion に変化した。また、log10ECM 値は、5,000NaF 群では、6カ月後に 0.41 ± 0.78 増加したのに対し、1,100NaF 群では 0.11 ± 0.82 の増加であった。

 さらに、対象の病変を、健全な歯根面よりも 0.5mm 以上の深さのう蝕になって い る も の(cavitated lesion) と 0.5mm 未 満 の も の(non-cavitated lesion)に分けて分析した結果、non-cavitated lesion においてより高率で hard lesion への変化がみられた。すなわち、5,000NaF 群の場合、6カ月後に hard lesion と な っ た 割 合 が、cavitated lesion で は 19 %(10/54 病 変 ) で あ る の に 対し、noncavitated lesion で は 76 %(54/71 病 変 ) で あ り、1,100NaF 群 で も、cavitated lesion では9 %(4/43 病変) にすぎなかったが、non-cavitated lesion では 35%(26/74 病変)が再石灰化した。ECM 測定値(log10ECM 値)の変化においても、5,000NaF 群の場合、cavitated lesion では 0.18 ± 0.74 の増加であるのに対し、non-cavitated lesion では 0.81 ± 0.71 増加し、1,100NaF 群においても、cavitated lesion での - 0.11 ± 0.65 に対して、non-cavitated lesion では 0.25 ± 0.88 の増加が認められた。

結 論 :初期活動性根面う蝕に対する再石灰化の効果は、5,000ppmFの NaF配合歯磨剤のほうが1,100ppmFの NaF配合歯磨剤よりも有意に高い。また、いずれのフッ化物濃度でも、non-cavitatedlesionのほうがcavitatedlesionよりも再石灰化しやすい。

Evaluationofdifferentfluoridetreatmentsofinitialrootcariouslesionsinvivo.FureS,LingströmPOralHealthPrevDent.2009;7:147-54.

目 的 :3種の局所フッ化物適用処置による初期根面う蝕の進行抑制効果を比較する。

研究デザイン :3種の処置の比較の点ではランダム化比較試験であるが、フッ化物による効果の評価として捉えた場合はケースシリーズ

研究施設 :Faculty of Odontology, Göteborg University, Sweden

対 象 : Soft または medium(leathery に相当) lesion(直径2mm 以上、深さ1mm 未満)を有する 31 〜 85 歳(平均年齢 55 歳)の患者 40 人。水道水中のフッ化物濃度は 0.1mg/L(0.1ppm F)。

介 入 : 0.32% NaF(約 1,400ppm F)配合歯磨剤による1日2回のブラッシングに加え、Carisolv によりう蝕を除去後 2.23% F(22,300ppm F)のフッ化物含有バーニッシュを塗布、う蝕を除去せずに 2.23% F(22,300ppm F)のフッ化物含有バーニッシュまたは8% SnF2(約 19,000ppm F)溶液を塗布、の3群を設定(各 20 病変)。フッ化物の塗布は、ベースライン時、3および6カ月後に実施。

主要評価項目 :3、6、12 カ月後に、軽度のプロービングと視診(色調の判定)により非活動性への変化を調べる。

結 果 : 12 カ月後、Carisolv +フッ化物バーニッシュ塗布群で 18 病変、フッ化物バーニッシュ塗布群で 19 病変、SnF2 溶液塗布群で 19 病変が hard lesion となった。

結 論 :フッ化物の頻回の局所適用は初期根面う蝕の進行抑制に有効である。

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Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 第2章 ガイドライン本論

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Comparativeefficacyofstabilizedstannousfluoride/sodiumhexametaphosphatedentifriceandsodiumfluoride/triclosan/copolymerdentifriceforthepreventionofperiodontitisinxerostomicpatients:a2-yearrandomizedclinicaltrial.PapasA,HeT,MartuscelliG,SinghM,BartizekRD,BiesbrockAJPeriodontol.2007;78:1505-14.

目 的 :薬剤による口腔乾燥症患者における SnF2 配合歯磨剤とトリクロサン配合歯磨剤の根面う蝕の再石灰化効果を比較する。

研究デザイン :2種の歯磨剤の効果の比較の点ではランダム化比較試験であるが、フッ化物配合歯磨剤による再石灰化効果の評価として総合的に捉えた場合はケースシリーズ

研究施設 :Tufts University in Boston, USA

対 象 :薬剤による口腔乾燥症(無刺激唾液≦ 0.3mL/min)がみられ、活動性根面う蝕病変(non-cavitated の leathery または soft lesion)を有する 40 〜 80 歳の患者344 人。2 年後、279 人を評価(リコール率 81.1%)

介 入 :0.454% SnF2(約 1,100ppm F)/sodium hexametaphosphate 配合歯磨剤またはNaF/0.3%トリクロサン配合歯磨剤(ポジティブコントロール)で1日2回(1分間)ブラッシング。

主要評価項目 :2年後に硬さの変化を調べ、再石灰化の有無を判定。

結 果 :SnF2/sodium hexametaphosphate 配合歯磨剤使用群では、22%(29/134 病変)が hard lesion になり、NaF/ トリクロサン配合歯磨剤使用群では 36%(38/145病変)が hard lesion に変化したが、両群の間に有意差は認められなかった。

結 論 :口腔乾燥症患者における活動性根面う蝕の再石灰化については、SnF2/sodiumhexametaphosphate配合歯磨剤によるブラッシングは、NaF/トリクロサン配合歯磨剤と同様の効果がある。

Activerootsurfacecariesconvertedintoinactivecariesasaresponsetooralhygiene.NyvadB,FejereskovOScandJDentRes.1986;94:281-4.

目 的 :フッ化物配合歯磨剤の日常使用により頰側面の活動性根面う蝕を非活動性にすることが可能かどうかを検討する。

研究デザイン :ケースシリーズ

研究施設 :記載なし

対 象 : 頰側歯根面に活動性う蝕病変を有する 20 〜 66 歳(47.2 ± 14.8 歳)の患者 10 人。24 の病変(soft lesion)を対象。

介 入 :約 0.1% F(1,000ppm F)配合歯磨剤による1日2回のブラッシング+試験開始時および2カ月後に 2% NaF(約 9,000ppm F)溶液の局所塗布(2分間の塗り込み処置)。

主要評価項目 :2、4、6、12、18 カ月後に、軽度のプロービングと視診(色調、表面性状の判定)により非活動性への変化を調べる。

結 果 :2〜6カ月のうちにすべての病変が leathery 〜 hard の硬さで濃い着色状態になり、その後、表面の滑沢性と着色がさらに進行した。

結 論 :頰側面のように清掃がしやすい部位の根面う蝕は非侵襲的に治療が可能である。

Contemporarytreatmentstrategiesforrootsurfacedentalcaries.BillingsRJ,BrownLR,KasterAGGerodontics.1985;1:20-7.

目 的 :活動性根面う蝕に対するフッ化物配合ジェルの日常使用による再石灰化効果を検討する。

研究デザイン :ケースシリーズ

研究施設 :University of Texas Dental Branch at Houston, USA

対 象 :初期活動性根面う蝕病変(soft lesion)を有する 31 〜 71 歳の患者6人。

介 入 :表面に全く欠損がみられない 20 病変に対しては、1% NaF(約 4,500ppm F)ジェルの家庭での5分間の塗布。表面から深さ 0.5mm 未満の浅い凹みを有する病変に対しては、1% Na(F 約 4,500ppm F)ジェルの家庭での5分間の塗布のみ(5病変)と、表面滑沢化+1% NaF(約 4,500ppm F)ジェルの5分間の家庭での塗布(13 病変)の2群を設定。

主要評価項目 :2年後に、探針によるプロービングで非活動性への変化を硬さにより判定。

結 果 :表面に欠損がみられない場合、70%(14/20 病変)に硬化が認められ、非活動性に変化した。欠損の浅いう蝕病変の場合は、ジェルの塗布のみでは2年後に1病変のみが非活動性となったのに対し、表面の滑沢化を行ってからジェルの塗布を行うと、6カ月後には全病変が非活動性となった。

結 論 :日常的なNaFの局所塗布により、初期根面う蝕を非侵襲的に治療することが可能である。

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200

Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 第2章 ガイドライン本論

CQ

CQ

20

21

201

CQ20 初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か。ラ

ンダ

ム化

比較

試験

と非

ラン

ダム

化比

較試

験論文コード

(年代順)

研究

デザイン

患 者

介入/治療

結 果

エビデンスレベル

(コメント)

Pete

rsso

n et

al.

2007

Sw

eden

ラン

ダム

化比

較試

験70

人の

患者

の初

期活

動性

根面

う蝕

病変(

soft

また

はle

athe

ry le

sion)

を対

象患

者年

齢:

55〜

81歳

①併

用群

:1,

400

ppm

Fの

フッ

化物

配合

歯磨

剤の

使用

(1

日2

回)

とA

min

e flu

orid

e/Po

tass

ium

flu

orid

e(

250

ppm

F)

洗口

剤に

よる

1日

2回

の洗

口(

35人

)②

歯磨

剤単

独群

:1,

400

ppm

Fの

フッ

化物

配合

歯磨

剤の

使用

(1

日2

回)

とプ

ラセ

ボ洗

口剤

によ

る1

日2

回の

洗口

(35

人)

12カ

月後

にha

rd le

sion

に変

化し

た割

合①

全18

2病

変の

うち

67%

②全

143

病変

のう

ち7%

用群

で有

意に

高い

12カ

月後

のEl

ectr

onic

car

ies m

onito

r(EC

M)

測定

値(

log 1

0ECM

値)

2.67

±2.

56 k

Ω②

2.12

±1.

88 k

Ω

用群

で有

意に

高い

Wal

lace

et a

l.19

93U

SA

ラン

ダム

化比

較試

験水

道水

フッ

素化

地域

在住

で、

フッ

化物

配合

歯磨

剤を

日常

的に

使用

して

いる

466

人の

活動

性根

面う

蝕病

変(le

athe

ry

lesio

n)を

対象

患者

年齢

:60

歳以

①F

洗口

群:

0.05

%N

aF(約

230p

pm F

)配

合洗

口剤

によ

る毎

日の

洗口(

148

人)

②コ

ント

ロー

ル群

:プ

ラセ

ボ洗

口剤

によ

る毎

日の

洗口(

171

人)

③ F

ジェ

ル塗

布群

:1.2

% F(

12,0

00pp

m F

)の

フッ

化物

配合

APF

ジェ

ルの

年2

回塗

布(ト

レー

を用

いて

4分

間)

+プ

ラセ

ボ洗

口剤

によ

る毎

日の

洗口(

147人

視診

とプ

ロー

ビン

グに

よる

評価

48カ

月後

に非

活動

性と

なっ

た病

変の

数①

1.53

±2.

03②

1.11

±1.

74③

1.01

±1.

86F

洗口

群で

はCo

ntro

l群ま

たは

Fジ

ェル

塗布

群よ

り有

意に

多い

Bays

an

et a

l.20

01U

K

非ラ

ンダ

ム化

比較

試験

ラン

ダム

化比

較試

験)

186

人の

患者

の活

動性

根面

う蝕

病変(

leat

hery

また

はso

ft le

sion)

を対

象患

者年

齢:27

〜90

歳(平

均58

.9±

13.0

歳)

①50

00N

aF群

:5,

000

ppm

Fの

NaF

配合

歯磨

剤で

1日

1回

以上

ブラ

ッシ

ング

(12

5病

変)

②11

00N

aF群

:1,1

00 p

pm F

のN

aF配

合歯

磨剤

で1

日1

回以

上ブ

ラッ

シン

グ(

117

病変

6カ

月後

の硬

さの

変化

①le

athe

ry le

sion

の52

%(65

/124

病変

)が

hard

に変

化 

soft

lesio

n(1/

1病

変)

はle

athe

ry le

sion

に変

化②

leat

hery

lesio

nの

26%(

30/1

16病

変)

がha

rdに

変化

 so

ft le

sion(

1/1

病変

)は

leat

hery

lesio

nに

変化

6カ

月後

のEC

M測

定値

 ①

0.41

±0.

78増

加 

②0.1

0.82

増加

Ⅲ(

2種

のフ

ッ化

物濃

度の

比較

の点

では

RCT

であ

るが

、ca

vita

ted

lesio

nと

non-

cavi

tate

d le

sion

の比

較の

点で

はCC

T)

上記

の病

変を

①健

全な

歯根

面よ

りも

0.5m

m以

上の

深さ

の凹

みが

ある

もの(

cavi

tate

d le

sion)

②表

面の

凹み

が0.

5mm

未満

のも

の(

non-

cavi

tate

d le

sion)

に分

けて

分析

6カ

月後

にha

rd le

sion

に変

化し

た割

合①

5000

NaF

群:

19%

,11

00N

aF群

:9%

②50

00N

aF群

:76

%,

1100

NaF

群:

35%

6カ

月後

のEC

M値

の増

加①

5000

NaF

群:

0.18

±0.

74,

1100

NaF

群:

-0.11

±0.

65②

5000

NaF

群:

0.81

±0.

71,

1100

NaF

群:

0.25

±0.

88

ケー

スシ

リー

ズ論文コード

(年代順)

研究

デザイン

患 者

介入/治療

結 果

エビデンスレベル

(コメント)

Fure

et a

l.20

09

Swed

en

ケー

スシ

リー

ズ(

ラン

ダム

化比

較試

験)

定期

的な

歯科

健診

を受

けて

いる

患者

40人

のso

ftま

たは

med

ium(

leat

hery

に相

当)

lesio

n(直

径2m

m

以上

、深

さ1m

m未

満)

を対

象水

道水

中の

フッ

化物

濃度

は0.1

ppm

F患

者年

齢:

31〜

85歳(

平均

年齢

55歳

0.32%

NaF(

約1,4

00pp

m F

)配

合歯

磨剤(

Peps

oden

t)に

よる

1日

2回

のブ

ラッ

シン

グに

加え

、①

Caris

olv

によ

りう

蝕を

除去

後、

2.23%

F(22

,300p

pm F

)含

有バ

ニッ

シュ(

Dur

apha

t var

nish

,Col

gate

)を

塗布(

20病

変:so

ft 7

病変

、m

ediu

m 13

病変

)②

う蝕

を除

去せ

ずに

2.23%

F(22

,300p

pm F

)含

有バ

ーニ

ッシ

ュを

塗布(

20病

変:

soft

6病

変、

med

ium

14病

変)

③う

蝕を

除去

せず

に8%

SnF

2 (約

19,0

00pp

m F

)溶

液を

5分

間塗

布(20

病変

:so

ft 4

病変

、m

ediu

m 16

病変

)Ca

risol

vに

よる

処置

以外

は、

ベー

スラ

イン

時、

3お

よび

6カ

月後

に実

施。

3、6、

12カ

月後

に、

硬さ

およ

び色

調変

化に

より

評価

①18

病変

がha

rd le

sion

に変

化②

19病

変が

hard

lesio

nに

変化

③19

病変

がha

rd le

sion

に変

化 

3群

間に

有意

差な

3群

とも

濃色

への

色調

変化

が認

めら

れた

(有

意差

なし

Ⅴ(

3種

の処

置の

比較

の点

では

RCT

であ

るが

、フッ

化物

局所

塗布

の評

価と

して

総合

的に

捉え

た場

合は

ケー

スシ

リー

ズ)

Papa

s et

al.

2007

USA

ケー

スシ

リー

ズ(

ラン

ダム

化比

較試

験)

薬剤

によ

る口

腔乾

燥症

患者(

無刺

激唾

液 ≦

0.3

mL/

min

) 34

4人

の活

動性

根面

う蝕

病変

(le

athe

ryま

たは

soft

lesio

n)を

対象

患者

年齢

:40

〜80

歳2

年後

のリ

コー

ル率

81.1%

①0.4

54%

SnF 2

(約

1,100

ppm

F)/s

odiu

m h

exam

eta-

phos

phat

e配

合歯

磨剤

で1日

2回

(1

分間

)ブ

ラッ

シン

グ②

NaF/

0.3%

トリ

クロ

サン

配合

歯磨

剤で

1日2

回(1

分間

)ブ

ラッ

シン

プロ

ービ

ング

によ

る硬

さの

評価

①22

%(29

/134

病変

)が

hard

に変

化②

36%(

38/1

45病

変)

がha

rdに

変化

Ⅴ(

2種

の歯

磨剤

の比

較の

点で

はRC

Tで

ある

が、

フッ

化物

配合

歯磨

剤の

評価

とし

て総

合的

に捉

えた

場合

はケ

ース

シリ

ーズ

)N

yvad

et

al.

1986

D

enm

ark

ケー

スシ

リー

ズ10

人の

患者

の頰

側面

の活

動性

根面

う蝕

病変

(so

ft le

sion)

を対

象患

者年

齢:

20〜

66歳(

平均

47.2

±14

.8歳

約0.1

% F(

1,000

ppm

F)

のフ

ッ化

物配

合歯

磨剤

によ

る1日

2回

のブ

ラッ

シン

グ+

2%Na

F(約

9,000

ppm

F)

溶液

の2

分間

の塗

り込

み(試

験開

始時

およ

び2

カ月

後の

2回

プロ

ービ

ング

と視

診に

よる

評価

2〜

6カ

月の

うち

にす

べて

の病

変が

leat

hery

〜ha

rd le

sion

に変

化、

その

後18

カ月

まで

表面

の滑

沢性

と着

色が

進行

Billi

ngs

et a

l.19

85U

SA

ケー

スシ

リー

ズ6

人の

患者

の初

期活

動性

根面

う蝕

病変(

soft

lesio

n)を

対象

患者

年齢

:31

〜71

①表

面に

全く

欠損

がみ

られ

ない

病変

に対

して

、1%

NaF(

約4,5

00pp

m F)

ジェ

ルの

5分

間家

庭で

の塗

布(20

病変

)②

0.5m

m未

満の

欠損

を有

する

浅い

病変

に対

して

、 1%

NaF

(約

4,500

ppm

F)ジ

ェル

の5

分間

家庭

での

塗布(

5病

変)

③0.5

mm

未満

の欠

損を

有す

る浅

い病

変に

対し

て、

表面

滑沢

化+

1 %

NaF(

約4,5

00pp

m F

)ジ

ェル

の5

分間

家庭

での

塗布(

13病

変)

硬さ

によ

る評

価①

2年

後に

は14

/20

病変

が非

活動

性に

変化

②2

年後

には

1/5

病変

が非

活動

性に

変化

③6

カ月

後に

は13

/13

病変

が非

活動

性に

変化

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202

Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 第2章 ガイドライン本論

CQ

CQ

20

21

203

CQ20 初期根面う蝕に対してフッ化物を用いた非侵襲的治療は有効か。英語論文検索:PubMed(検索対象年:1983〜 2013年、検索日:2013年 11月 12日)

#1  dental caries [MH]#2  tooth root [MH]#3  #1 and #2#4  tooth remineralization [MH]#5  #1 and #4

#6  #3 or #5#7  Limits: Humans, English, Japanese, Adult

: 19-44 years, Middle Aged+Aged: 45+ years Sort by: Publication Date

 検索結果:407 件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1983〜 2013年、検索日:2013年 11月 19日)

#1  根面 /AL and(う蝕 /TH or う蝕 /AL)#2  (歯根 /TH or 歯根 /AL)and(う蝕 / TH or

う蝕 /AL)#3  #1 or #2#4  (再石灰化 /TH or 再石灰化 /AL)

#5  (再石灰化 /TH or 再石灰化 /AL)and 療法 /AL

#6  #4 or #5#7  #6 and(臨床 /AL or 実験 /AL)#8  #7 AND(CK= ヒト)

 検索結果:95件

文献1) 日本口腔衛生学会,編.平成 23 年歯科疾患実態調査報告.東京:口腔保健協会 ; 2013.2) Imazato S, Ikebe K, Nokubi T, Ebisu S, Walls AWG. Prevalence of root caries in a selected population of older adults

in Japan. J Oral Rehabil. 2006; 33: 137-43.3) 真木吉信.初期う蝕とは何か? CO の定義・診断と介入の方法.ザ・クインテッセンス.2004; 23: 595-601.4) 田上順次,花田信弘,桃井保子,編.う蝕学―チェアサイドの予防と回復のプログラム―.京都:永末書店;

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dental root surfaces and progression of root-surface caries. J Dent Res. 1991; 70: 150-3.12)Nemes J, Bánóczy J, Wierzbicka M, Rost M. Clinical study on the effect of amine fluoride/stannous fluoride on

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participating in a preventive dental program. J Public Health Dent. 1993; 53: 133-7.14)Lynch E, Baysan A, Ellwood R, Davies R, Petersson L, Borsboom P. Effectiveness of two fluoride dentifrices to arrest

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2001;35(Suppl 1): 60-4.17)Petersson LG, Hakestam U, Baigi A, Lynch E. Remineralization of primary root caries lesions using an amine

fluoride rinse and dentifrice twice a day. Am J Dent. 2007; 20: 93-6.18)Papas A, He T, Martuscelli G, Singh M, Bartizek RD, Biesbrock A. Comparative efficacy of stabilized stannous

fluoride/sodium hexametaphosphate dentifrice and sodium fluoride/triclosan/copolymer dentifrice for the prevention of periodontitis in xerostomic patients: a 2-year randomized clinical trial. J Periodontol. 2007; 78: 1505-14.

19)Papas A, Russell D, Singh M, Kent R, Triol C, Winston A. Caries clinical trial of a remineralising toothpaste in radiation patients. Gerodontology. 2008; 25: 76-88.

20)Fure S, Lingström P. Evaluation of different fluoride treatments of initial root carious lesions in vivo. Oral Health Prev Dent. 2009; 7: 147-54.

21)Shivakumar K, Prasad S, Chandu G. International Caries Detection and Assessment System: A new paradigm in detection of dental caries. J Conserv Dent. 2009; 12: 10-6.

22)Petersson LG, Magnusson K, Hakestam U, Baigi A, Twetman S. Reversal of primary root caries lesions after daily intake of milk supplemented with fluoride and probiotic lactobacilli in older adults. Acta Odontol Scand. 2011; 69: 321-7.

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Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 第2章 ガイドライン本論

CQ

CQ

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21

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CQ21 根面う蝕の修復処置にコンポジットレジンとグラスアイオノマーセメントのどちらを使用するか。

【 推奨 】辺縁適合性や二次う蝕の発生の点で、根面う蝕に対するコンポジットレジン修復とグラスアイオノマーセメント修復の1年後までの臨床成績に有意な差は認められない(エビデンスレベル「Ⅲ」)。よって、接着システムの性能を十分に発揮させうる条件下ではコンポジットレジンを使用し、う蝕が歯肉縁下に及び、防湿が困難な場合にはグラスアイオノマーセメントを使用するよう推奨される。(推奨の強さ「C1」)

文献の抽出

CO21 英語論文検索 :PubMed検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 12 日

日本語論文検索 :医学中央雑誌検索対象年 :1983 〜 2013 年検 索 日 :2013 年 11 月 19 日

以上のデータベース検索より、PubMed および医学中央雑誌から検索された 214 文献と 185 文

献より、ヒト臨床研究としてのシステマティックレビュー、ランダム化比較試験、非ランダム化比較

試験、およびケースシリーズを選択した結果、7英語論文が抽出され、これに、関連する論文とし

て選択された1編の日本語論文を加えた計8論文をエビデンスとして採用する可能性のある論文と

した。

背景・目的

う窩の形成に至り、修復処置が必要とされる根面のう蝕に対しては、臼歯の隣接面であっても充

填処置が行われることが多い。これは、インレーやアンレーによる修復を行おうとすれば歯冠を大

きく削除しなければならず、抜髄を余儀なくされるケースが少なくないからである。

現在、わが国における根面う蝕の修復には、コンポジットレジンかグラスアイオノマーセメントが

用いられている。歯質接着性や強度、審美性の点では、コンポジットレジンは明らかにグラスアイ

オノマーセメントよりも優れており 1)、5級窩洞やくさび状欠損の場合と同様に、根面う蝕の修復で

も非常に高頻度に使用されている。一方、歯冠部と異なり咬合力が直接作用しない部位であること

や一連の修復操作が簡便であること、あるいはフッ化物徐放性を有することなどから、従来型また

はレジン添加型グラスアイオノマーセメントの使用を推奨する意見も根強い(図2)2)。両者の使

い分けについては、う蝕リスクに基づく選択などが提唱されてはいる 3, 4)ものの、根拠に基づく明

確な指針とは言えず、論理的かつ実用的な適用指針の必要性が高まっている。

解 説

根面う蝕に対するコンポジットレジン修復とグラスアイオノマーセメント修復の臨床成績を直接比

較した研究は少なく5-8)、また、特にコンポジットレジン修復に関しては、単独での臨床評価を含め、

現在は市販されていない材料についての成績を報告したものがほとんどである 5-7, 9, 10)。現時点でも

臨床で使用されている材料を用いた1編の非ランダム化比較試験 8)では、う蝕ハイリスク者の根面

う蝕の修復処置におけるコンポジットレジンとレジン添加型グラスアイオノマーセメントの1年間の

臨床成績が比較された(エビデンスレベルⅢ)。その結果、コンポジットレジン修復では 21 例すべ

てで脱落はみられなかったが、レジン添加型グラスアイオノマーセメントでは 27 例中1例(4%)

に脱落が認められ、修復物の保持の点ではコンポジットレジンのほうが優れていたとされている。

また、二次う蝕や辺縁適合性を含めたその他の評価項目では、両者には有意差は認められず、う

蝕ハイリスク者において、フッ化物を徐放するグラスアイオノマーセメント修復に優位性はなかった

と結論づけられている。

一方、酸-塩基反応によって硬化するグラスアイオノマーセメントは、被着面に多少の水分や汚

染が存在しても硬化や接着に問題が生じにくい材料であり 1)、この特性は、ある程度十分にう蝕が

除去された被着面と厳密な防湿を必要とするコンポジットレジン修復にはない利点である。その

ため、歯肉縁下に及ぶ窩洞で、水分などから被着面を完全に隔離することが難しい場合には、グ

ラスアイオノマーセメントを用いることで問題の発生を少なくできるとする意見も多い 11, 12)。ま

た、頭頚部の放射線治療により唾液流量が低下しているう蝕ハイリスク者の歯頚部窩洞に、グラス

アイオノマーセメントとコンポジットレジン充填を行い、24 カ月までの評価を行った臨床研究によ

ると、従来型グラスアイオノマーセメントは形態や辺縁適合性の維持の点で劣るものの,特にフッ

化物を日常的に使用していない場合には、二次う蝕の発生がコンポジットレジンよりも有意に少な

いとの報告がある 13)。口腔内でグラスアイオノマーセメント上に形成されたプラーク中の mutans

streptococci 数は、コンポジットレジン上のプラーク中よりも少ないという報告 13, 14)や、フッ化物徐

放性修復材料による修復処置を行うと、フッ化物非配合の修復材料を用いた場合に比べて唾液中の

mutans streptococci 数の低下が有意に大きいという臨床試験結果 14,15)も併せて考えると、グラス

アイオノマーセメントの二次う蝕予防の点での有用性を否定するのは早計と言える。

以上のことより、根面う蝕の修復処置には、防湿が容易で接着システムの性能を十分に発揮させ

うる条件下ではコンポジットレジンを第一選択とし、う蝕が歯肉縁下に及び、防湿が困難な場合に

はグラスアイオノマーセメントを使用するよう推奨される(推奨の強さ「C1」)。

図 2 コンポジットレジンとグラスアイオノマーセメントの使い分け。図中の犬歯や第一小臼歯に示す根面う蝕には、防湿が容易で接着システムの性能が十分に発揮できることから、コンポジットレジン修復が適応である。一方、第二小臼歯や大一臼歯に示す根面う蝕には、う蝕が歯肉縁下に及び防湿が困難なため、グラスアイオノマーセメントが適応である(今里 聡、尾崎和美『やさしい説明、上手な治療[4]根面う蝕』京都:永末書店 2004 より転載)。

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Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 第2章 ガイドライン本論

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CQ21 根面う蝕の修復処置にコンポジットレジンとグラスアイオノマーセメントのどちらを使用するか。

論文コード(年代順)

研究デザイン

患 者 介入 /治療 結 果エビデンスレベル

(コメント)

福島2004日本

非ランダム化比較試験

頭頸部腫瘍の術後放射線治療による口腔乾燥症のために定期的な口腔管理を受けている患者7人および複数歯にわたって根面う蝕を有する患者5人の活動性 根 面う蝕(leathery lesion)を対象

う蝕検知液の染色性を指標に低速バーで感染象牙質を削除後、①レジン添加型グラスアイ

オノマーセメント(Dentin conditioner + Fuji II LC)修復(27 例)

②コンポマー(Compoglass F)修復(24 例)

③コンポジットレジン(Liner Bond I I ∑ + Clear f i l AP-X)修復(21 例)

1年後に USPHS 評価法を参考に評価脱落に関しては①レジン添加型グラスアイオノ  マーセメント 1/27 例(4%)②コンポマー 6/24 例(25%)③コンポジットレジン 0/21例(0%) で3材料間に有意差あり。それ以外の項目(新生う蝕、二次う蝕、辺縁着色、破折、辺縁適合性、色調)については3材料間に有意差なし。

英語論文検索:PubMed(検索対象年:1983〜 2013年、検索日:2013年 11月 12日)

#1  Root caries [MH]#2  Root surface caries#3  #1 or #2#4  restoration#5  #3 and #4#6  glass ionomer cements [MH]

#7  composite resins [MH]#8  #5 and #6#9  #5 and #7#10 #8 or #9#11 #10 Limits: Humans Sort by: Publication

Date

 検索結果:214 件

日本語論文検索:医学中央雑誌(検索対象年:1983〜 2013年、検索日:2013年 11月 19日)

#1  in/AL and vivo/AL#2  (グラスアイオノマーセメント /TH or グラス

アイオノマーセメント /AL)#3  #2 and(臨床 /AL or 評価 /AL)#4  #1 and #2#5  #3 or #4

#6  (コンポジットレジン /TH or コンポジットレジン /AL)and 修復 /AL

#7  #6 and 臨床評価 /AL#8  #6 and #7#9  #1 and #6#10 #8 or #9#11 #5 or #10

 検索結果:185 件

エビデンスとして採用した論文の構造化抄録(CQ21)(エビデンスレベルが高い順に記載)

う蝕ハイリスク者におけるフッ素徐放性修復材料の二次う蝕予防効果に関する予備的臨床研究福島正義厚生労働科研「フッ化物応用による歯科疾患の予防技術評価に関する総合的研究」平成17年度研究報告書.2004;149-59.

目 的 :口腔乾燥症などにより根面う蝕が多発しているう蝕ハイリスク者を対象に、フッ化物徐放性修復材料の二次う蝕予防効果を確認する。

研究デザイン :非ランダム化比較試験

研究施設 :新潟大学歯学部

対 象 :頭頚部腫瘍の術後放射線治療による口腔乾燥症のために定期的な口腔管理(PMTC、フッ化物ジェル塗布)を受けている患者7人(55 歯)、および複数歯にわたって根面う蝕を有する患者5人(17 歯)。活動性根面う蝕(leathery lesion)を対象。

介 入 :う蝕検知液の染色性を指標に低速バーで感染象牙質を削除後、レジン添加型グラスアイオノマーセメント(Dentin conditioner〈ジーシー〉+Fuji Ⅱ LC〈ジーシー〉、27 例)、コンポマー(Compoglass F〈Ivoclar Vivadent〉、24 例)、あるいはコンポジットレジン(Liner Bond ⅡΣ〈クラレメディカル〉 + Clearfil AP-X〈クラレメディカル〉、21 例)による修復を行う。

主要評価項目 :1 年後に、USPHS 評価法を参考に、脱落、新生う蝕、二次う蝕、辺縁着色、破折、辺縁適合性、色調について評価。

結 果 : 脱落に関しては、レジン添加型グラスアイオノマーセメント 1/27 例(4%)、コンポマー6/24 例(25%)、コンポジットレジン 0/21 例(0%)で3材料間に有意差が認められた。それ以外の項目については、3材料間に有意差なし。

結 論 :う蝕ハイリスク者の根面う蝕の修復治療において、二次う蝕の発生の点では、レジン添加型グラスアイオノマーセメント、コンポマー、ならびにコンポジットレジン間に差は認められない。

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Minds 第Ⅳ部 根面う蝕への非切削および切削での対応 フッ化ジアンミン銀による根面う蝕の進行抑制

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参考資料

フッ化ジアンミン銀による根面う蝕の進行抑制

日本で開発された最初の歯科用薬剤

山賀らにより開発されたフッ化ジアンミン銀 38%水溶液「サホライド」(ビーブランド・メディコー

デンタル)は、1970 年厚生省中央薬事審議会において、う蝕の進行を抑制する有効な薬剤である

ことが判定された。フッ化ジアンミン銀は硝酸銀とフッ化物の特長を兼ね備えており、銀イオンとフッ

化物イオンが歯質の有機質および無機質にそれぞれ作用してタンパク銀、リン酸銀およびフッ化カ

ルシウムを生成することにより、石灰化の促進、軟化象牙質の再石灰化、象牙細管の封鎖、抗菌性、

抗酵素性、プラークの生成抑制などの効果があるとされている。

優れたう蝕進行抑制効果

西野(1969)1)は、フッ化ジアンミン銀により乳歯う蝕の進行が抑制されることを明らかにした。

1970 年代に歯科医師を悩ませた、歯科治療が満足に行えない低年齢児のランパントカリエスに対

図1 根面う蝕にフッ化ジアンミン銀 38%水溶液「サホライド」を塗布し、3年半経過観察した症例(左:下顎右側第一大臼歯、右:下顎右側第二大臼歯)a:術前。エアー痛あり。隣接面にう窩を伴う根面う蝕が認められた。b:サホライド塗布直後。露出根面のう蝕部分がすでに淡く黒染されている。c:サホライド塗布により知覚過敏の症状は軽減した。不明瞭であったう蝕部分が黒染、明瞭化された。下顎右側第一大臼歯遠心隣接面に大きなう窩があったので、メガボンド FA (クラレノリタケデンタル)とエステライトΣクイック(トクヤマデンタル)を用いて修復した。d:3年半後。2年半後に舌側にも活動性のう蝕がみられたため、再度(2回目)サホライド塗布を行った。

a

c

b

d

文献1) 桃井保子.グラスアイオノマーセメント、コンポマー、コンポジットレジン修復を比較評価する.日歯評論.

2000; 695: 169-82.2) 千田 彰.根面う蝕治療の現状と問題点.日歯評論.2002; 713: 63-70.3) Erickson RL. Root surface treatment with glass ionomers and resin composites. Am J Dent. 1994; 7: 279-85.4) Burgess JO. Dental materials for the restoration of root surface caries. Am J Dent. 1995; 8: 342-51.5) Levy SM, Jensen ME, Doering JV, Sheth JJ. Evaluation of a glass ionomer cement and a microfilled composite resin

in the treatment of root surface caries. Gen Dent. 1989; 37: 468-72.6) Levy SM, Jensen ME. A clinical evaluation of the restoration of root surface caries. Spec Care Dent. 1990; 10: 156-

60.7) Kaurich M, Kawakami K, Perez P, Munn T, Hasse AL, Garrett NR. A clinical comparison of a glass ionomer cement

and a microfilled composite resin in restoring root caries: Two-year results. Gen Dent. 1991; 39: 346- 9.8) 福島正義.う蝕ハイリスク者におけるフッ素徐放性修復材料の2次う蝕予防効果に関する予備的臨床研究.

厚生労働科研「フッ化物応用による歯科疾患の予防技術評価に関する総合的研究」平成 17 年度研究報告書.2004; 149-59.

9) Sheth JJ, Jensen ME, Wefel JS, Levy SM. Restoration of root caries with dentinal bonding agent and microfilled comoposite resin: 1-year clinical evaluation. Gerodontics. 1988; 4: 71-7.

10)Duke ES, Robbins JW, Snyder DS. Clinical evaluation of a dental adhesive system: three-year results. Quint Int. 1991; 22: 889-95.

11)Chalmers JM. Minimal intervention dentistry: Part 2. Strategies for addressing restorative challenges in older patients. J Can Dent Assoc. 2006; 72: 435-40.

12)Jenson L, Budenz AW, Featherstone JDB, Ramos-Gomez FJ, Spolsky VW, Young D. Clinical protocols for caries management by risk assessment. J Calif Dent Assoc. 2007; 35: 714-23.

13)De Moor RJ, Stassen IG, van 't Veldt Y, Torbeyns D, Hommez GMG. Two-year clinical performance of glass ionomer and resin composite restorations in xerostomic head- and neck-irradiated cancer patients. Clin Oral Investig. 2011; 15: 31-8.

14)Forss H, Jokinen J, Spets-Happonen S, Seppä L, Luoma H. Fluoride and mutans streptococci in plaque grown on glass ionomer and composite. Caries Res. 1991; 25: 454-8.

15)今里 聡.フッ化物徐放性修復材料による充填処置が caries activity に及ぼす影響.厚生労働科研「フッ化物応用による歯科疾患の予防技術評価に関する総合的研究」平成 17 年度研究報告書.2004; 161-5.

Page 113: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

210

参考資料

211

する救世主として、フッ化ジアンミン銀が「むし歯の進行止め」として多くの小児をむし歯の痛みか

ら救った。その優れたう蝕進行抑制効果は、現在、海外でのランダム化比較試験(RCT)など高い

レベルの臨床研究によっても検証されている(Yee ら , 2009 2)、 Riu ら , 2012 3))。特に経済発展の

著しい国ではかつての日本と同じようにう蝕が増加しており、その対策として注目されている。しか

し、フッ化ジアンミン銀にはう蝕病変を黒変させるという審美上の問題があり、前歯永久歯などへ

の使用は敬遠されている。ところが超高齢社会を迎えた現在、口腔清掃の行き届かない要介護高

齢者、頭頚部腫瘍の放射線治療に伴う唾液腺障害や内服薬の副作用による口腔乾燥症患者などで

は、全顎的に根面う蝕が多発することが問題になっている。診療室でさえ修復処置が難しい根面う

蝕は在宅診療等の現場で満足な修復処置が行えず、歯科医師を悩ませている。このような状況のな

かで、開発から約半世紀が経過したフッ化ジアンミン銀が根面う蝕の「進行止め」として再び脚光

を浴びている(図1)。最近、高齢者・要介護者の根面う蝕の1次予防にとって、サホライドのよ

うな高濃度のフッ化物歯面塗布の有効性が、処置の簡便さによる費用対効果も含めて、高く評価さ

れている(Gluzman ら、2013 4))。

使用法

術式はいたって簡単である。製造者の添付文書に従えば、小綿球に本剤を染み込ませ、乾燥し

た歯面に3〜4分間塗布し、水洗あるいは洗口する。この処置を2〜7日間隔で3回程度繰り返す。

以後3〜6カ月ごとに経過観察してう蝕の進行状態を確認し、必要に応じて追加塗布を行う。

経過観察期間中にう蝕リスクを低減させる生活指導やう蝕予防処置を行い、口腔内環境の改善を

図る。この間に患者の状態をみて必要に応じて修復処置を行う。ただし、この薬剤がう蝕病巣を黒

変させることを事前に患者あるいは家族に説明する必要はある。本剤による処置は多数歯に及ぶ根

面う蝕を応急的に進行抑制し、その間に口腔内環境の改善が行える点では有効かつ現実的な方法

である。

文献1) 西野瑞穂 . ふっ化アンモニア銀による乳歯齲蝕の進行抑制に関する研究 . 阪大歯誌 . 1969; 14: 1-14.2) Yee R, Holmgren C, Mulder J, Lama D, Walker D, van Palenstein Helderman W. Efficacy of silver diamine

fluoride for arresting caries treatment. J Dent Res. 2009; 88: 644-7.3)  Liu BY, Lo EC, Chu CH, Lin HC. Randomized trial on fluorides and sealants for fissure caries prevention. J Dent

Res. 2012; 91: 753-8.4) Gluzman R, Katz RV, Frey BJ, McGowan R. Prevention of root caries: a literature review of primary and

secondary preventive agents. Spec Care Dentist. 2013; 33: 133-40.

う蝕治療は正しく医療行為であるにもかかわらず、う蝕治療を受けた患者からは、「歯を削

られた!」と言われる場合が多い。これは今日までのう蝕治療が、歯を削られる立場の患者

の心の奥まで十分理解していなかったためではなかろうか。入り口は狭くても歯の内部で広

がっている咬合面う蝕や、咬合面からはみえない隣接面う蝕の様子をエックス線写真でみせ

られ、削る前に説明を聞いても、患者は「黒くないところは、削られるはずはない」と常識

的に思うものである。しかし多くの場合、う窩の開拡とう蝕象牙質の除去は、患者がみえな

いところで、しかもしゃべれない状態で実施される。処置後の歯をみた患者は愕然とする。「何

と穴はびっくりするほど大きくなっているではないか!」 このような体験は、患者の心のな

かに、恨みと後悔の思いを残すことになる。したがって、患者と歯科医師の常識にズレが生

じないように、また、どうしても削らなければ確実な治療ができないことの理解を得るため

に、たとえば患者が治療の様子を鏡でみられるようにするなどの、配慮や工夫が必要である。

う蝕の修復治療は、もとどおり良く噛めるよう機能の回復をはかるだけでなく、自然らしさ・

色調・形態など審美的な面においても、患者一人ひとりの歯への思いを理解し、その期待を

裏切ることがないように努めなければならない。修復された歯は、その後も長く患者ととも

に人生を歩むことになるからである。

本ガイドラインの基本理念である MI によるう蝕治療は、「歯を削られたくない」患者の気

持と一致した治療法であるが、それでもわれわれ歯科医師は、歯を削られる患者の心の深層

に常に思いを馳せながら治療を進めることが大切である。そうすれば、う蝕治療を受けた患

者から「喜ばれる」ことはあっても、「歯を削られた」と言われることはなくなるであろう。

本ガイドラインが、患者のう蝕治療に対する従来のイメージを変えることに寄与すること

ができれば、それこそ本ガイドライン作成委員全員にとって望外の喜びである。

あとがき(初版)

Page 114: 第2版 詳細版 - Mindsガイドラインライブラリminds4.jcqhc.or.jp/minds/dental_caries/dental_caries.pdf · vi 6.臼歯部におけるコンポジットレジン修復の有用性

212 213

初版のガイドライン(2009 年 10 月発行)を更新するにあたり、エナメル質の初期う蝕に

対する非切削での対応に関する CQ を新たに設定した。この新規 CQ に対しては GRADE シ

ステムに準拠してガイドラインを作成した。一方、象牙質う蝕および根面う蝕への切削によ

る対応については、更新前と同様、Minds(『Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2007』)

により作成したが、新しい CQ を追加するとともに、最新のエビデンスに基づき全面的に見

直しを行った。したがって、今回の更新版ガイドラインでは、CQ 1~3は GRADE システ

ムによるエビデンスと推奨であり、CQ 4~ 21 は Minds(2007)によるエビデンスと推奨で

ある。

今回の更新では、作成に要する時間と労力の関係上、やむをえず GRADE システムと

Minds(2007)が混在する形となったが、今後は、GRADE システムがガイドラインの主流

となることが予想される。その大きな特徴は、都合のよい論文を選ばないことと推奨の決定

に患者の価値観や好みなどがより強く反映されることにある。

現在、わが国の歯科臨床では、どの程度患者の価値観や好みなどに耳を傾けた治療がなさ

れているであろうか? 医療提供者が良かれと思う方法で治療が進められ、個々の患者の価

値観や好みなどがくみとられることは少ないのではないだろうか? 術者にとってその治療が

経験や知識に基づく最善のものであっても、患者にとっては価値のない、好みに合わない治

療であるかも知れない。たとえば、患者はコンポジットレジンによる審美的な修復を望んで

いたにもかかわらず、術者の個人的な判断基準(欠損が大きいなど)で金属修復が施された

場合などである。修復という行為は間違っていなくても、患者中心の医療とは言えない。患

者にとって価値のある医療が提供されるために、ガイドラインで推奨の強さを決めるにあたっ

ては、エビデンスの質だけでなく、患者の好みや価値観などにも大いに配慮をする必要があ

ろう。

今回は、GRADE システムと Minds(2007)の2つのスタイルで作成したガイドラインを

1冊の本にまとめたため、ガイドラインとしての統一感に欠けることは否めない。しかしそ

の一方で、う蝕治療という共通のテーマに対し、2つのガイドライン作成法を比較してみる

ことが可能である。このことが、本ガイドラインの次の更新に役立つことを期待するとともに、

ガイドラインの作成を予定されている方々にとっての参考になれば幸いである。

あとがき(第2版)

本ガイドライン作成にあたり、EBM(Evidence-based medicine)に基づく診療ガイドラ

インの作成に造詣の深い以下の先生方から、さまざまな局面において、専門的なご助言ご指

導を賜り、さらには先生方との議論を通じ多くの知識や示唆をいただきました。

吉田 雅博 先生 (日本医療機能評価機構) 

湯浅 秀道 先生 (豊橋医療センター)

豊島 義博 先生 (JCOHR)

大田 えりか 先生(国立成育医療研究センター)

先生方の献身的なご指導なくしては、本ガイドラインは現在の形にはなりえなかったこと

を思い、作成委員一同ここに深く感謝の意を表します。

謝辞