1)シソ=紫蘇 -...

7
花の縁 050201 1 1 1)シソ=紫蘇 シソはシソ科の一年草である。原産地は中国南部からビルマ、ヒマラヤで、日本 でも古くから栽培されている。茎は四角形となって高さは 80cm1m に達し、よく枝 を出す。葉は対生し先の尖った卵形で縁には鋸歯がある。秋には枝先に花穂を出して 総状の花序をつける。花をよく見ると唇形をしており果実は萼に包まれている。 葉が暗紫色のアカジソ、緑色のアオジソ、葉の表面が緑紫色で裏面が赤紫色をした カタメンジソ、葉が縮緬状に縮れているチリメンジソ、緑色で葉の縮れたアオチリメン ジソなどの種類がある。 花の色はアカジソは淡紫色で、アオジソは白色である。和 名は漢名の『紫蘇』に由来するもので、別称としては、ノラエ、イヌエ、ヌカエな どがある。紫蘇はエゴマによく似ており、こうした別称はエゴマに似て非なるものと いう意味である。学名は『Perilla frutescens』で、属名は東部インドの地名を、種 小辞は低木状のということを表わしている。 漢方では葉を『紫蘇葉』(シソヨウ)とか単に『蘇葉』と呼び、種子を『紫蘇子』 ( シソシ) または『蘇子』という。茎は『蘇梗』( ソコウ) といい、いずれも発汗、去痰、 解熱、健胃、鎮痛などの作用があり、感冒、胸痛、腹痛、嘔吐、消化不良、食欲 不振などの治療薬として用いられた。また魚、蟹などの食中毒に対して解毒効果が あるとされている。よく刺身の付け合わせにされるのもこのためである。 紫蘇は極めて古い時代から食料として利用されてきた。今から 5,000 年前の縄文式 遺跡の一つである福井県の鳥浜貝塚から、牛蒡( ゴボウ ) の種子とともに出土し、岩手県 和賀郡江釣子(エヅリコ)村の鳩岡崎(ハトオカザキ)遺跡からも、縄文中期のものと 思われる種子が発見されている。雑草と同じように、何もしなくとも自然に生えて くる野菜として、縄文人も重宝していたのだろう。中国でも古くから栽培されていた と思われ、 6 世紀の 『斉民要術』 ( セイミンヨウジュツ) には、紫蘇の葉を羊肉と豚肉の 醤油漬けに用いたことが、その栽培法とともに記されている。 紫蘇葉の香気の主成分は、全草の 0.5%を占める『シソ油』で、そのうちのほとんど 『シソアルデヒド』 『リモネン』 で、紫紅色の色素は 『シアニン』 とその化合物で ある。前述のように、紫蘇の成分は食欲を増進させるばかりか殺菌力があり、種々 の食品とあわせて紫蘇巻などとして用いられている。ことに梅干しの中に入れて赤み のある色合いを出したり、ショウガの酢漬けや柴漬けなどには欠かすことができない。 紫蘇の花の咲ききった穂は「穂紫蘇」として、穂の半分ほど開化したものは「花穂」として 料理の薬味やツマとして用いられ、未熟な果実は塩漬けにして香の物としても利用 される。 また赤紫蘇の芽は「赤芽」と呼ばれ、白身魚の刺身のツマに、青紫蘇の芽は 「青芽」と呼ばれ、赤身魚に用いられる。これは紫蘇の香りと味わいが、日本人の嗜好 によく馴染んでいたからであろう。というよりもこのような植物に囲まれながら、 日本人の嗜好が作り上げられたと言ったほうが、適切なのかも知れない。

Transcript of 1)シソ=紫蘇 -...

Page 1: 1)シソ=紫蘇 - さくらのレンタルサーバkakashi.sakura.ne.jp/100hana2014pdf/050201shiso.pdf · 2017. 3. 2. · 紫蘇葉の香気の主成分は、全草の0.5%を占める『シソ油』で、そのうちのほとんど

花の縁 05-02-01

1

1

1)シソ=紫蘇 シソはシソ科の一年草である。原産地は中国南部からビルマ、ヒマラヤで、日本

でも古くから栽培されている。茎は四角形となって高さは 80cm~1m に達し、よく枝

を出す。葉は対生し先の尖った卵形で縁には鋸歯がある。秋には枝先に花穂を出して

総状の花序をつける。花をよく見ると唇形をしており果実は萼に包まれている。

葉が暗紫色のアカジソ、緑色のアオジソ、葉の表面が緑紫色で裏面が赤紫色をした

カタメンジソ、葉が縮緬状に縮れているチリメンジソ、緑色で葉の縮れたアオチリメン

ジソなどの種類がある。 花の色はアカジソは淡紫色で、アオジソは白色である。和

名は漢名の『紫蘇』に由来するもので、別称としては、ノラエ、イヌエ、ヌカエな

どがある。紫蘇はエゴマによく似ており、こうした別称はエゴマに似て非なるものと

いう意味である。学名は『Perilla frutescens』で、属名は東部インドの地名を、種

小辞は低木状のということを表わしている。

漢方では葉を『紫蘇葉』(シソヨウ)とか単に『蘇葉』と呼び、種子を『紫蘇子』

(シソシ)または『蘇子』という。茎は『蘇梗』(ソコウ)といい、いずれも発汗、去痰、

解熱、健胃、鎮痛などの作用があり、感冒、胸痛、腹痛、嘔吐、消化不良、食欲

不振などの治療薬として用いられた。また魚、蟹などの食中毒に対して解毒効果が

あるとされている。よく刺身の付け合わせにされるのもこのためである。

紫蘇は極めて古い時代から食料として利用されてきた。今から 5,000 年前の縄文式

遺跡の一つである福井県の鳥浜貝塚から、牛蒡(ゴボウ)の種子とともに出土し、岩手県

和賀郡江釣子(エヅリコ)村の鳩岡崎(ハトオカザキ)遺跡からも、縄文中期のものと

思われる種子が発見されている。雑草と同じように、何もしなくとも自然に生えて

くる野菜として、縄文人も重宝していたのだろう。中国でも古くから栽培されていた

と思われ、6世紀の『斉民要術』(セイミンヨウジュツ)には、紫蘇の葉を羊肉と豚肉の

醤油漬けに用いたことが、その栽培法とともに記されている。

紫蘇葉の香気の主成分は、全草の0.5%を占める『シソ油』で、そのうちのほとんど

が『シソアルデヒド』と『リモネン』で、紫紅色の色素は『シアニン』とその化合物で

ある。前述のように、紫蘇の成分は食欲を増進させるばかりか殺菌力があり、種々

の食品とあわせて紫蘇巻などとして用いられている。ことに梅干しの中に入れて赤み

のある色合いを出したり、ショウガの酢漬けや柴漬けなどには欠かすことができない。

紫蘇の花の咲ききった穂は「穂紫蘇」として、穂の半分ほど開化したものは「花穂」として

料理の薬味やツマとして用いられ、未熟な果実は塩漬けにして香の物としても利用

される。 また赤紫蘇の芽は「赤芽」と呼ばれ、白身魚の刺身のツマに、青紫蘇の芽は

「青芽」と呼ばれ、赤身魚に用いられる。これは紫蘇の香りと味わいが、日本人の嗜好

によく馴染んでいたからであろう。というよりもこのような植物に囲まれながら、

日本人の嗜好が作り上げられたと言ったほうが、適切なのかも知れない。

Page 2: 1)シソ=紫蘇 - さくらのレンタルサーバkakashi.sakura.ne.jp/100hana2014pdf/050201shiso.pdf · 2017. 3. 2. · 紫蘇葉の香気の主成分は、全草の0.5%を占める『シソ油』で、そのうちのほとんど

花の縁 05-02-01

2

2

夕日に映えるアオジソの花穂。近くで見るとなかなか可愛らしい花である(埼玉県日高市)。

Page 3: 1)シソ=紫蘇 - さくらのレンタルサーバkakashi.sakura.ne.jp/100hana2014pdf/050201shiso.pdf · 2017. 3. 2. · 紫蘇葉の香気の主成分は、全草の0.5%を占める『シソ油』で、そのうちのほとんど

花の縁 05-02-01

3

3

シソの花。ハーブと呼ばれているものには、シソ科の植物が多い(埼玉県日高市)。

Page 4: 1)シソ=紫蘇 - さくらのレンタルサーバkakashi.sakura.ne.jp/100hana2014pdf/050201shiso.pdf · 2017. 3. 2. · 紫蘇葉の香気の主成分は、全草の0.5%を占める『シソ油』で、そのうちのほとんど

花の縁 05-02-01

4

4

紫のシソの葉にはシソニンが多く含まれ、細胞の老化を防止する効果があるという(埼玉県深谷市)。

Page 5: 1)シソ=紫蘇 - さくらのレンタルサーバkakashi.sakura.ne.jp/100hana2014pdf/050201shiso.pdf · 2017. 3. 2. · 紫蘇葉の香気の主成分は、全草の0.5%を占める『シソ油』で、そのうちのほとんど

花の縁 05-02-01

5

5

アオジソの葉、シソは漢字では「紫蘇」と記す。「蘇」一字でもシソを意味し、蘇はよみがえると

いう意味である。シソには細胞を蘇らせる効果があるための名であろう(埼玉県深谷市農林公園)。

観賞用のシソの葉(埼玉県深谷市農林公園)。

Page 6: 1)シソ=紫蘇 - さくらのレンタルサーバkakashi.sakura.ne.jp/100hana2014pdf/050201shiso.pdf · 2017. 3. 2. · 紫蘇葉の香気の主成分は、全草の0.5%を占める『シソ油』で、そのうちのほとんど

花の縁 05-02-01

6

6

観賞用のシソの花穂(埼玉県深谷市農林公園)。

Page 7: 1)シソ=紫蘇 - さくらのレンタルサーバkakashi.sakura.ne.jp/100hana2014pdf/050201shiso.pdf · 2017. 3. 2. · 紫蘇葉の香気の主成分は、全草の0.5%を占める『シソ油』で、そのうちのほとんど

花の縁 05-02-01

7

7

シソの仲間は多いが、これもその一つでレモンエゴマ『Perilla frutesceus』。アオジソに似ているがシソ

の匂いはなく、むしろレモンに近い香りのために この呼称となった(さいたま市緑区)。 目次に戻る