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1.働く者の権利と労働組合
《 はじめに 》
現代社会では、他人に雇用され、労務を提供し、その対価として賃
金の支払いを受ける人々(雇用者)が多数を占めており、国の調査に
よると、その数は5,596万人になっています(※1)。
このような労働者にとっては、賃金や労働時間をはじめとする労働
条件の内容がその生活の豊かさや質を決定することになります。
しかしながら、労働者といわれる階層が登場した「資本主義」の草
創期には、これらの人々の労働条件は極めて厳しく、また、これを保
障する法制度も整っていませんでした。
つまり、労働条件は、使用者と労働者「個人」の「自由な対等」の
契約によって決定されており、実際には、労働者は、使用者に対して
非常に弱い立場におかれていたことから、結果として、安い賃金で長
い時間働かなければなりませんでした。
このような状況において、労働者は、一人ひとりの労働者が使用者
と話し合うのではなく、みんなが団結しなければ使用者と本当に対等
にはなれないことを、徐々に知るようになっていきます。ここから生
まれてきたのが『労働組合』です。
このように、歴史的にみれば、労働組合は労働者の生活を守ること
を基本として存在していること、また、そうでなければならないこと
がわかります。
現在のわが国では、様々な法制度により、労働者の最低労働条件が
確保され、また、労働者の団結権をはじめとする諸権利が認められて
います。
推定組織率
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しかしながら、昭和40 年代には約 35%であった労働組合の組織
率が現在では約18%(H25.6月末現在 17.7%)にまで低下して
います(※2)。また、近年、パート労働者や派遣労働者等、従来型の
労働組合に組織しにくい、いわゆる非正社員(非正規雇用労働者)が
増加する傾向にあります。
〔※1 総務省「労働力調査」(平成25年10月分)、※2 厚生労働省「労
働組合基礎調査」(平成 25年)〕
【資料】平成 25 年労働組合基礎調査
雇用者数、労働組合員数及び推定組織率の推移
雇用者数・労働組合員数
推定組織率
(年)
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《 働く者の権利 》
働く者の権利は憲法ではっきり認められています。
第 27 条では、国民すべてが労働の権利と義務を有していること、
賃金、労働時間、休日などの労働条件について法律でその基準を定め
るべきことを規定しています。
この憲法の規定に基づいて、労働組合法、労働基準法、労働関係調
整法〔いわゆる労働三法〕が制定されているほか、職業安定法、雇用
保険法などが整えられており、労働者の生活を守る法体系が形成され
ています。
第 28 条では、労働者が団結して組合をつくり(団結権)、団体交渉
を行い(団体交渉権)、ストライキなどの労働争議を行う(争議権)こ
とを保障しています。労働三権とか労働基本権といわれているのがそ
れです。
(憲法)
第 27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
② 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基
準は、法律でこれを定める。
③ 児童は、これを酷使してはならない。
第 28 条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動
をする権利は、これを保障する。
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これらの法律の内容は、採用から退職にいたる労働者と使用者の関
係に関するものですが、それは二つの側面から整理することができま
す。その一つは、労働者個人と使用者との関係〔個別的労使関係〕で
あり、雇用の確保や労働条件の“最低基準”を設けて労働者の生活の
安定を図っています。もう一つは、労働組合と使用者の関係〔集団的
労使関係〕であり、労働者が団結して“団体交渉による労働条件の決
定”を行い、これを通じて労働者の生活や地位の向上を図ることとし
ています(A図)。
最低基準を下回らない
労働条件の保障
労 働 契 約 労 働 者
労 働 協 約
(個別的労使関係)
(集団的労使関係)
団体交渉による労働
条件の決定
労 働 組 合
団
結
(A図)
(憲法第 27 条)
(憲法第 28 条)
使
用
者
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《 労働組合とは 》
労働者が自らの生活を守るため、団結して労働組合をつくろうとす
ることは、先に述べたとおりです。しかし、労働組合とは何かを考え
るとき、次のことをはっきり確認しておくことが必要です。
○労働組合は自主的に労働者自身が主体となってつくる団体です。
ここで「自主的に」というのは、対使用者との関係で真に対等でな
ければならないということであり、会社の役員や総務部長、労務課長
といった「使用者の利益代表者」を組合に入れたり、使用者からいろ
いろな経費の援助を受けたりする組合はその自主性を疑われることに
なります。
ただし、労働組合への経費援助に関しては、勤務時間中に有給で使
用者と交渉を行うことや、必要最小限の組合事務所を貸与することな
どはこれに当たりません。
○労働組合は、労働条件の維持改善とその他経済的地位の向上を主た
る目的とする団体です。
したがって、政治運動や社会運動を主たる目的とするものや、福利
事業のみを主たる目的とする団体は労働組合とは認められません。
この二つのことは<自主的要件>といい、これさえ満たしていれば、
労働組合を自由につくることができます(労組法第 2 条)。
労働組合法では、このほかに<民主的要件>といわれるものを定めて
います(労組法第 5 条 2 項)。これは、労働組合の規約に“大会は少
なくとも年一回開催する”とか“ストライキは組合員の過半数の支持
を得て行う”などの規定を設けなければならないとするもので、労働
組合の民主的な運営を図るという目的をもっています。しかし、この
要件は、労働組合法に定める諸手続き(労働委員会への不当労働行為
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の救済申立てなど)に参与する資格を得るために必要とされており、
この要件の一部が欠けていたとしても必ずしも労働組合ではないとは
いえません。
いずれにしても、労働組合が本当にその役割を果たしていくために
は、こうした自主性なり民主性は車の両輪のようなものですから、結
成、運営に際してはこれらの要件を具備することが望まれます。
《 労働組合の種類 》
労働組合には、組織の形態、範囲によりいろいろな種類のものがあ
ります。
(1) 組織形態による分類
① 職業別組合(職能別組合)
同じ職種の労働者が、所属する産業や雇用されている企業の枠
を超え、職業の共通性を基礎として組織する労働組合です。
② 産業別組合
同じ産業の労働者が、職種等に関係なく、組織する横断的な労
働組合です。
③ 一般組合
様々な職業や産業に分散する労働者を一つの組合の中に広く包
含する労働組合です。
④ 企業別組合
一つの企業、事業所を組織単位とし、その企業の従業員だけで
組織する労働組合です。わが国の労働組合は、大多数がこの企業
別組合です。
⑤ 合同労組
企業別組合に組織しにくい中小企業の労働者などが、所属する
産業や企業にとらわれず、同一地域等の中で一人でも入れるとい
う個人加盟方式により結成する労働組合です。
(2) 組織範囲による分類
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① 単位組合
個々の労働者個人を構成員とする(個人加入)労働組合をいいま
す。
② 連合組合
単位組合を構成員とする労働組合をいいます。
③ 混合組合
労働者個人と労働組合の双方を構成員とする労働組合をいいま
す。組合員への適用法規(一般民間企業の組合員は労働組合法が
適用されますが、これ以外の公務員等には、国家公務員法や地方
公務員法等が適用されます。)が混在する構成員を持つ労働組合を
いう場合もあります。
(労働組合法)
第2条 この法律で「労働組合」とは、労働者が主体となって自主
的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ること
を主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。
但し、左の各号の一に該当するものは、この限りではない。
1 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督
的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針
とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と
責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接に
てい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表
する者の参加を許すもの
2 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助
を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失
うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許す
ことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸
若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に
用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限
の広さの事務所の供与を除くものとする。
3 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの
4 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの
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2.労働組合の結成
《 労働組合をつくるには 》
私たちが働いている職場には、“賃金が低い”、“労働時間が長い”、“有
給休暇が取りにくい”、“作業環境が悪い”など労働条件に関するいろ
いろな不満が存在していることがあります。しかし、そうした職場環
境の改善や労働条件の向上を労働者個人が使用者に対し要求しても、
そこにはおのずと力の限界があるわけです。そこで、多数の労働者自
らが団結して労働組合を結成することにより、初めて労使が対等の立
場で話し合うことが可能になります。
労働組合は、労働者が二人以上集まればいつでも自由に結成するこ
とができます。官公庁への届出や使用者の承認は不要です。
労働組合の結成そのものは職場の労働者の団結があればむずかしい
ことではありませんが、問題は準備段階から結成までをどのように運
営していくかにかかっています。せっかく組合を結成しようとしても
準備不足だったり、意思統一されていなかったりすると結局結成でき
なかったということになりかねません。
一般的な組合結成の例を紹介しますと、次のような経過によること
が多いようです(P9 図)。
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【組合結成までの流れ】
準 備 段 階
有志による結成準備会の発足
↓
組合加入の呼びかけ
組合規約、活動方針案の作成
要求のとりまとめ
学習会の開催
結成大会の準備
結 成
結成大会・組合規約・活動方針
要求書・役員
について決定
活 動
使用者へ結成通知
要求書の提出
団体交渉
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組合結成に至るまでには、いろいろな経過がありますが、特に次
の点に留意することが大切です。
・話し合いの場を可能な限り多くする。
・組合員個々の要求を集約してまとめる。
・組織運営をどうするかをはっきりと決める。
・組合員全員の意思統一を図る。
《 準備段階 》
ア.結成準備(会)
労働組合の結成には様々な準備を行う必要があるので、結成のた
めの委員を選び準備会を作ることが効果的です。
メンバーはみんなの信頼が厚く、冷静な判断力と責任感をもって
対処できる人が望ましいでしょう。そして、そのメンバーを中心に
次の(1)から(5)の作業を進めます。
(1) 組合結成の趣意書を作成し、一人でも多くその趣旨に賛同をす
るように務めます。
(2) 組合規約案、運動方針案を作成します(P45 組合規約例参照)。
(3) 運動方針とともに組合費を決定し、これに基づき初年度の予算
案を作ります。
(4) 役員選出の方法手順を決めます。
(5) 結成大会の日時、場所、大会の次第を決めます。
イ.学習(会)
準備段階でもっとも重視しなければならないのが、学習(会)で
す。この時期に結成の趣旨に賛同した人達で、なぜ組合をつくるの
か、どういう要求を実現したいのか、そのためにどんな活動をすれ
ばよいかなどを十分理解しあっておく必要があります。
組合結成に当たっての留意点
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《 結成大会 》
組合の意思を決定する最高の機関を大会(総会)といい、結成に当
たっての大会を特に結成大会といいます。
この結成大会を通じて、労働組合を結成すること、全員で運動をす
すめることなどを確認し、具体的な活動に入っていくのですが、特に、
結成大会では少なくとも、①労働組合の組織、運営についての規則と
なる組合規約、②今後、どういう活動を展開するかを示した活動方針、
③組合員全員の意思として集約した要求書、④組合役員の選出(執行
委員長、書記長、執行委員、会計等)についての諸議案を決定しなけ
ればなりません。
大会当日の順序の一例をあげると、次のようになります。
開会→議長選出→書記等の大会役員任命→経過報告→議案提案→質疑
→採決→閉会
《 結成したら 》
結成大会が終了したら、使用者に対し速やかに結成通知を行うとと
もに、大会で確認した要求書を提出し、団体交渉を求めて、組合活動
を軌道に乗せる方法が一般的です(P57~59 様式例参照)。
なお、労働組合が結成されると、使用者のなかには、驚いて交渉を
拒否したり、組合員名簿の提出を執拗に求めたりする場合もあります。
組合としては、あくまで冷静になって、使用者に組合結成の正当性、
必要性などについて説得をしていくことが大切です。
なお、結成通知や要求書・団体交渉申入書の形式上の最低条件は、
労働組合が結成されたことと代表者(執行委員長)を明らかにするこ
とであり、全役員の氏名、全組合員の氏名、組合規約を明らかにする
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ことは法的に義務づけられているものではありません。
《 合同労組に加入することもできる 》
突然解雇通告を受け時間的余裕がない、組合結成に同調してくれる
人が見つからないなど、職場内において労働組合を結成することが困
難な場合もあります。
このような場合には、合同労組(ユニオン、地域労組などとも呼ば
れています)に加入するという方法もあります。
合同労組は一人でも加入できるので、これに加入し、合同労組から
会社に対し、自分が抱えている問題について団体交渉を申し入れるこ
とになります。使用者は、合同労組からの団体交渉申入れに対しても、
正当な理由なくこれを拒否することはできません(P37~38 Q&A
1参照)。
また、一人の労働者が合同労組に加入した場合も、その加入につい
て使用者に通告することとなりますが、そのタイミングは当該労組と
よく相談することが必要でしょう。
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3.団体交渉
《 団体交渉とは 》
労働組合が結成されると労働組合は使用者に対し、賃金その他の労
働条件等について要求書を提出し、要求についての話合いの申入れ、
すなわち団体交渉の申入れを行うことになります。
労働組合を結成した目的は、自分達の労働条件の向上や職場環境の
改善にあります。この目的を遂行していく手段が団体交渉です。
団体交渉というのは、労働組合が労働条件の基準や労使関係事項な
どに関する“取り決め”をするために、使用者と対等の立場に立って
話し合うことです。この“取り決め”は、たんに口約束をかわすだけ
でなく、文書化し、労働協約としていくことが大切です。
こうした労働組合の団体交渉を行う権利は、憲法が保障しています。
そして、これを受けて法律は、“労働組合の代表者”あるいは“その
委任を受けた者”が使用者と団体交渉をする権利を有すると定めてお
り(労組法第 6 条)、団体交渉権は労働組合の固有の権利です。
《 団体交渉の進め方 》
組合結成当初は、ともすれば労使ともに感情的になりがちですが、
冷静な態度で交渉にあたり、正常な話合いの場をつくるよう心がけて、
まず、労使の信頼関係の確立に努力しなければなりません。
相手に罵詈雑言をあびせたり、誹謗中傷したりすることなどは厳に
慎むべきことです。
次に、団体交渉を行っていく上で注意すべき点について説明します。
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労使関係事項とは、賃金、労働時間等の労働条件に関する事項
と対比されるもので、「団体交渉のルール」、「就業時間中の組合活
動のあり方」、「会社施設の利用」等、労働組合と使用者の関係に
関する事項をいいます。
(労働組合法)
第6条 労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労
働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約
の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。
○要求、主張について資料を整えること
要求や主張が正当なものであることは当然のことですが、この正当
な要求等を相手にうまく説明でき、お互いが理解しあえるように十分な
資料を整えて交渉に臨むことが大切です。
○適正な交渉委員の選任
団体交渉は、大切な労働条件等を決めるわけですから、交渉委員に
は信頼ある人を選び、その人の権限をはっきりと決めておくとよいで
しょう。
○秩序正しい運営
団体交渉は、労働組合が団結を背景に行うものですが、ただむやみ
に大勢おしかけていって交渉するのではうまくいきません。相手の立
場も十分理解して、あくまで秩序正しく、冷静な態度で進めていくこ
とが大切です。
○交渉ルールの確立
交渉に出席する双方の人数や交渉の時間、場所、交渉申入れの手続
労使関係事項
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きなど、交渉ルールを確立することが必要です。出席人数を何人にす
るかは別段法律で定められているわけではありませんが、冷静な話合
いをするためには、一定の限界もあるでしょう。
○確認事項の整理
このほか、相互に確認事項を整理して進めていくことなども次の交
渉をスムーズにし、また、合理的に運営していく上で大いに役立つも
のとなります。
このように、団体交渉は、あくまで労使が自主的に行うことが原則
ですが、場合によっては、労使の主張にへだたりがある場合や、交渉
が一歩も前に進まない場合もよく見受けられます。こうした場合は、
労働委員会のあっせん(P63~64参照)などを利用することも有効
な解決への道となります。
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《 使用者は正当な理由なく団体交渉を拒否できない 》
使用者が労働組合の代表に会わないことはもちろん、会っても要求
の内容も聞かず頭からはねつけるなど、正当な理由なく団体交渉を拒
むことは“不当労働行為”として禁止されています(P27 不当労働行
為の類型参照)。
団体交渉に応じない理由として使用者がよくあげるのは次のような
ものですが、これらはいずれも団体交渉を拒否する正当な理由には当
たりません(P39~40 Q&A3参照)。
・「多忙である」
→単に多忙であるというだけでは団体交渉に応じられない理由
にはなりません。
・「組合の要求が過大すぎる」
→要求が過大かどうかということと団体交渉に応じないことと
は別問題です。
・「従業員以外の者(上部団体の役員)が出席している」
→交渉委員を誰にするかは組合が決めることであり、従業員以
外の者でも組合の委任を受ければ団体交渉に出席することが
できます。
・「要求の中に使用者の経営権に属する事項が含まれている」
→経営権や人事権は使用者の専権事項であるとされていますが、
これらが組合員の労働条件に影響を与える場合(経営規模の
縮小による配置転換、リストラなど)は、その範囲において
交渉事項となります。
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4.労働協約
《 労働協約とは 》
労働組合の目的は、団体交渉や争議行為を経て、労働協約が締結さ
れることによって実現されます。
労働協約とは、労働組合と使用者とが団体交渉によって、組合員の
労働条件や労使関係事項について合意に達したことがらを文書化し、
双方の代表者が署名または記名押印したものをいいます(労組法第1
4条)。したがって、たとえその名称が覚書、協定などであっても、あ
るいは一項目に関する合意であったとしても、それは労働協約です。
(労働組合法)
第 14条 労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他
に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、
又は記名押印することによってその効力を生ずる。
《 労働協約と労働契約、就業規則 》
この労働協約と区別しておかなければならないものに“労働契約”
と“就業規則”とがあります。
労働契約は、労働条件についての一人ひとりの労働者と使用者との
間の約束であり、就業規則は、使用者が仕事をうまく進ませるために
つくる職場の規律で、これで賃金や就業時間等の労働条件を決めるこ
とができます。したがって、労働協約の内容と労働契約や就業規則の
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規定とが矛盾を生じるケースがあります。
そこで法律は、労使の合意を優先させ、労働協約で決めた労働条件
よりも悪い条件を労働契約や就業規則で決めてもそれは無効である、
つまり労働協約で決めた内容に従う(労組法第16条、労基法第92
条)と定めているわけです。ですから、労働協約は、「労使関係の根幹」
ともいえるわけです。三者の関係は次のようになります。
労 働 協 約 > 就 業 規 則 > 労 働 契 約
もちろん、労働協約の内容は、労働基準法及びその他の法令に反す
ることはできません。
《 労働協約のはたらき 》
労働協約では、労使の納得の上で労働条件がはっきり決められます
から、一定期間労働条件は確定し、労働者は安心して業務に励むこと
ができ、ひいては、作業能率を向上させ、企業の発展にもつながりま
す。
(労働組合法)
第 15条 労働協約には、3年をこえる有効期間の定をすることが
できない。
② 3年をこえる有効期間の定をした労働協約は、3年の
有効期間の定をした労働協約とみなす。
③ 有効期間の定がない労働協約は、当事者の一方が、署
名し、又は記名押印した文書によって相手方に予告して、
解約することができる。一定の期間を定める労働協約で
あって、その期間の経過後も期限を定めず効力を存続す
る旨の定があるものについて、その期間の経過後も、同
様とする。
④ 前項の予告は、解約しようとする日の少なくとも 90
日前にしなければならない。
第 16条 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関す
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る基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場
合において無効となった部分は、基準の定めるところによ
る。労働契約に定がない部分についても、同様とする。
(労働基準法)
第 92条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労
働協約に反してはならない。
《 労働協約の有効期間 》
労働協約の有効期間について、労働組合法は3年を超える有効期間
を定めることができないとしています。ですから、3年を超えて有効
期間を定めてもその協約は3年の有効期間しか認められません。これ
は、同じ協約をあまり長く続けて労働条件等を固定することは、職場
の実情や経済事情の変化にそぐわない点が生じることがあるからです。
《 期間の定めのない労働協約 》
しかし、協約に有効期間を設けない場合はこのような制限はありま
せん(自動更新規定を設けているところも多いようです。) その場合、
労使のいずれかが、破棄したいと思った場合は、相手方にその旨を署
名または記名押印した文書で通告すると90日たてば自動的に失効す
るとされています。しかし、例えば使用者が労働組合を弱体化する企
図をもって労働協約を解約し、その件についての団体交渉を拒否して
いるような場合には不当労働行為となる場合もあり、注意しなければ
なりません。
労働協約締結が労使の共同作業である以上、その改定や解約も共同
作業でというのが原則です。
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《 労働協約の種類 》
労働協約には、賃金、労働時間等の個々のことがらについて、その
つど締結する「個別協約」と、これらの事項を体系的にとりまとめた
「包括協約」とがあります。組合結成当初は、はじめから包括協約を
締結するよりも個別協約を段々と積み重ね実績をつくり、包括協約に
近づけていく方がよいでしょう。
また、労働協約は、公序良俗や法に反しない限り、労使が自由に決
めることができますが、表現があいまいだったり内容が抽象的であっ
たりすると、その解釈や運用をめぐり、争いが生じかねません。した
がって、協約締結に際しては、適切かつ明確な表現を使うよう心がけ
ることが大切です。
なお、使用者が、雇入れ後当該労働組合に加入しない者、当該労働
組合を除名された者または脱退した者を解雇することを義務付ける労
働協約が締結されている場合があります。このような労働協約をユニ
オン・ショップ協定(ユ・シ協定)といいます(P40~41 Q&A4
参照)。
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5.争議行為
《 争議行為とは 》
労働者の賃金やその他の労働条件については、労使が対等の立場で
団体交渉を行い自主的に決定することが原則ですが、双方の主張にへ
だたりがある場合や、いくら団体交渉を行っても意見が一致しない場
合があります。このような場合に、労働組合は自らの要求を実現させ
るため、労働組合の統制のもとに労務の提供を拒否する(同盟罷業=
ストライキ)などの争議行為を行います。
《 争議行為は労働組合の正当な活動 》
争議行為を行う権利は、憲法第28条により保障されています。し
たがって、民主的な手続きを経て行われるストライキなどの労働組合
の争議行為は正当な活動です。しかし、法的に認められているからと
いっても、暴行や傷害などに当たる行為、また、脅迫あるいは名誉毀
損のような刑罰規定にふれる行為は、正当とはいえません。
法は、労働組合の正当な争議行為について、刑法上・民事上の免責
を与え、さらに不当労働行為救済制度により保障しています。
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・正当な争議行為は正当な組合業務(行為)として罰せられない
(労組法第1条2項、刑法第35条)。
・争議行為をしたことによって生じた損害に対して損害賠償を請
求されない(労組法第8条)。
・争議行為を行ったことを理由に解雇されたり不利益な取扱いを
受けたりしない(労組法第7条1号)。
(労働組合法)
第1条 ② 刑法第35条の規定(※)は、労働組合の団体交渉
その他の行為であって前項に掲げる目的を達成するために
した正当なものについて適用があるものとする。但し、い
かなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な
行為と解釈されてはならない。
第8条 使用者は、同盟罷業その他の争議行為であって正当なも
のによって損害を受けたことの故をもって、労働組合又は
その組合員に対し賠償を請求することができない。
※法令又は正当な業務による行為は罰しない(正当行為)
免責事項
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《 争議行為は要求実現の手段 》
争議行為は、労務の提供を拒否する(働かない)ことなどにより、
使用者に経済的、社会的な圧力などを加え、労働組合の要求を実現さ
せるための手段です。実施することが目的ではありません。ですから、
団体交渉が決裂したからといって、むやみに争議を行うのではなく、
どうすれば問題解決につながるかを見定めたうえで、労働組合として
最も効果的な方法は何かを検討すべきでしょう。
また、争議はややもすると、当事者である労使双方に大きな損失を
招くおそれがあります。たとえば、ストライキを行うと、当然その間
(時間分)の賃金がカットされます。使用者にとっても生産活動がス
トップ、または低下するので経営に影響するなどの事態が発生しかね
ません。ですから、争議(なかでもストライキ)の開始は慎重に取り
組むことが大切です。
《 ストライキを行うには 》
先に述べたように、争議行為は要求実現の手段ですから、その開始
は要求づくりと同様に組合員の声を反映して進めることが望まれます。
争議行為にはさまざまな形のものがありますが、なかでも、ストライ
キを行う場合については、労働組合法第5条2項8号で、ストライキ
権確立についての規定を組合規約に定めるよう義務づけています。し
たがって、ストライキを開始するには、事前に組合員の意思を確認す
る必要があります。
ストライキ権の確立は、組合員の直接無記名投票(批准投票)で行
います。その投票は、要求を決めるときに大会などの場で行う場合と、
団体交渉と並行して行う場合、交渉が決裂したときに行う場合があり
ます。その時の状況によって自分達の組合規約に基づいて行えばよい
でしょう。
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《 ストライキ中でも交渉窓口の確保を 》
ともあれ、労働組合は自らの要求を実現させるため、あらゆる戦術
を考えて団体交渉に臨みますが、その団体交渉が決裂し進展しなけれ
ば、ストライキの行使に至ります。ここで注意しなければならないこ
とは、団体交渉が決裂したからといって権利の行使だけをするのでは
なく、問題解決への糸口を見出す努力をすることです。すなわち、ス
トライキ中であっても交渉の窓口を設けておくということです。労働
組合結成時は労使双方ともに不慣れなことが多く、ややもすると感情
が先行して紛争が長期化することがあります。解決への糸口を見失わ
ないよう紛争当事者である労使は、誠意をもって最大限の努力を図る
よう配慮しましょう。
また、ストライキ中、交渉が妥結した場合、労働組合はただちに就
労できる体制をつくっておく必要があります。たとえば問題が解決し
ているのに就労の復帰が遅れたりすると、労使の間に無用のわだかま
りを生じさせることにもなりかねません。
定期路線の運輸(私鉄等)、水道、電気、ガス、病院などのいわ
ゆる公益事業の労働組合は、争議を開始する日の10日前までに
労働委員会と厚生労働大臣又は都道府県知事に、争議の目的、日
時、場所などを通知しなければなりません(労働関係調整法第8
条、第37条)。
公益事業の労働組合は
25
6.不当労働行為とその救済
《 不当労働行為とは 》
労働組合と使用者はお互いにその立場を尊重しながら信頼関係を築
いていくことが大切です。ところが、組合結成時などには使用者の労
働組合や労働法についての無理解から正当な組合活動に対して不当な
圧力や攻撃が加えられることがあります。使用者のこうした行為を不
当労働行為といいます。労働者が団結することは憲法で保障されてお
り、労働組合法では使用者のこれらの行為を“してはならない行為”
として禁止しています(労組法第7条)(P27 不当労働行為の類型参
照)。
《 救済の方法は 》
こうした不当労働行為を使用者が行ったときは、労働者または労働
組合は労働委員会にその救済を申し立てることができます。労働委員
会は、その申立てにもとづいて審査を行い、不当労働行為の事実があ
ると認めたときは使用者に対し、「原職に復帰させよ」、「誠実に団体交
渉に応じよ」などという命令を出します。
これは不当労働行為を刑罰で処罰したり、損害賠償を実現させたり
することを目的とするのではなく、不当労働行為による権利侵害のな
かった状態に戻すこと、即ち、“原状回復”を命ずることによって労使
間の正しいルールを使用者に守らせる中で正常な労使関係を育成しよ
うとするものであることに注意してください。
26
したがって、原状回復命令が出された場合は、使用者にルールを守
らせ、正常な労使関係を作り上げるとともに、自らの労働条件の向上
を図っていくことが必要となるわけです。
なお、労働委員会から出された命令を使用者は守らなければならず、
命令違反には罰則が課せられる場合があります。また、内容に不服が
ある場合は、中央労働委員会へ再審査の申立てができますし、別途、
裁判所で争うことも可能です。
ただし、不当労働行為の申立てを行い、法律上の救済を受けようと
するときは、労働組合法上の労働組合であることが求められます。労
働組合は、労働委員会に証拠を提出して、労働組合法第2条の規定に
適合すること、規約が一定の要件に適合することの立証をしなければ
なりません。これを労働組合の資格審査といいます。大阪府労働委員
会では資格審査と不当労働行為の審査は並行して行われるので、資格
審査を終えていないと不当労働行為の申立てができない訳ではありま
せん。なお、労働委員会が行う調整(あっせん等)については、資格
審査の必要はありません。
27
《 不当労働行為にはどんなものがあるか 》
不当労働行為として禁止されている使用者の行為をまとめると、次
の表のようになります。
◇不当労働行為の類型(労組法第7条)
号
別種 類 不当労働行為として禁止されている使用者の行為
労働組合の組合員であること
労働組合を結成しようとしたこと
労働組合に加入しようとしたこと
労働組合の正当な行為をしたこと
労働組合に加入しないこと
労働組合から脱退すること
2
号団体交渉拒否
雇用する労働者の代表者と団体交渉することを正当な理由
がなく拒むこと
労働組合を結成すること
労働組合を運営すること
経費援助労働組合の運営に要する経費の支払につき経理上の援助を
すること
不当労働行為の申立てをしたこと
再審査の申立てをしたこと
上記申立ての審査及び争議行為の
調整の場合に証拠を提出したり、
発言したこと
4
号
報復的
不利益取扱
1
号
不利益取扱
黄犬契約
3
号
支配介入
を理由に労働者を解雇したり、その他不利益な取扱いをすること
を支配したり、これに介入すること
を理由に労働者を解雇したり、
その他不利益な取扱いをすること
を労働者の雇用条件
とすること
28
《 忘れてはならない大事なこと 》
不当労働行為の意味、その具体例、その救済の方法などについて述
べましたが、今日でもなお一部には、知識不足、理解不足から労働組
合を対等の存在と見ずにこれを嫌悪する使用者がいます。特に組合結
成時などは組合もその運営に不慣れなせいもあってお互いに疑心暗鬼
となり、無用のトラブルを起しがちです。そうしたとき、労働者の救
済のためには、労働委員会の制度の活用が役に立ちます。しかし、そ
れだけでは、労使双方にとって望ましい労使関係を築くことはできま
せん。
大事なことは双方が誠実な対応を重ねる中で、信頼関係を築き、不
当労働行為など権利侵害の発生を防止していくことにあると言えまし
ょう。
29
7.労働組合の運営
《 執行機関と意思決定機関 》
労働組合には、民主的な運営による組合員相互に信頼がもっとも必
要とされます。そのため、通常、活動をリードする執行機関(執行委
員会)と、活動方針などを組合員の総意で決めていく意思決定機関(大
会など)が設けられます。労働組合法で、これらの機関の設置とその
民主的運営を求めています。この二つの機関の構成、運営は組合規約
に定められるのが普通です。
《 組合結成直後の留意点 》
組合結成直後は、労働組合に対する信頼が不足していたり、執行委
員会への過剰な期待があったりすることも多く、その一方では、使用
者との関係がまだ確立されていないために組合役員と組合員、あるい
は組合員間に不信感が生まれるおそれがあります。ですから、この時
期には組合員全員による意思統一の場や情報交換、当面の方針につい
ての会議をできるだけ多く開催することが重要です。
また、組合結成による気持の高ぶりが、つい冷静な判断をくるわせ
ることもあります。こうした会議の効用はそれを防ぐといったところ
にもあるでしょう。
《 大会の意義 》
大会は通常、年一回以上開催されます。労働組合における最高の議
決機関で、その組合の方針、予算、組合規約の改廃などの重要な案件
を組合員の総意で決める場です。大会は組合員の意思が反映される機
30
関ですから、組合員全員が参加して開くのが最もよいのですが、大き
な組合になると全員が集まることが困難となります。そこで、代議員
制を採用したり、代議員会(中央委員会)を大会に次ぐ議決機関とし
て設けたりしている労働組合もあります。
《 執行委員会とその機能 》
執行委員会は、大会で決定した方針(要求課題とそれを実現するた
めの行動指針)をより具体化する機関です。委員長以下組合役員が各々
の任務を分担し、意思統一しながら活動を進めます。通常は、専門部
制を取り入れていますが、ここではそれぞれの機能分担について見て
いきましょう。
(総務機能)
労働組合を代表し、総括する役割を持ちます。まず、委員長がそ
の組合を代表し、副委員長はこれを補佐します。書記長は、執行
委員会の統一に気を配りながら組合事務を統括します。会計は、
組合費の徴収、活動資金の管理、運用を行います。
(組織機能)
自らの組合の維持、拡大を図ります。組合員の加入、脱退に関す
ること、各種の活動への参加要請、点検などを行います。
(教育宣伝機能)
組合活動の理解を図り、団結を強めるための教育宣伝がその役割
です。かべ新聞やニュースなどを通じ、組合員に活動状況の報告、
資料の提供を行います。また、組合員の意識向上のための学習会
を開催します。
(調査機能)
組合員の労働条件の調査や要求の集約を行い、必要な資料を作成
します。
(文化厚生機能)
組合員相互、組合役員と組合員との交流を深める役割をはたしま
す。スポーツ、文化、レクリエーション活動や各種共済活動を行
います。
31
《 組合運営の実際 》
次に例をあげて、組合運営についてご説明します。
下の図は、要求集約の仕方の一例です。まず、①組合員の声を幅広
く吸収し、それをとりまとめ、②十分な検討を加えて、要求書案をつ
くります。そして、③その案を各組合員に提起し、理解を深めてもら
い、④大会などの場で決定します。これで、多くの組合員の意見が反
映され、その意思で確認された要求書ができることになります。⑤執
行委員会は、使用者にその要求書を提出し、団結を背景に団体交渉に
入っていきます。執行委員会としては、⑥これ以降も団体交渉の経過
や妥結する内容について、的確に組合員に知らせ、活動が常に組合員
全員のものとなっていることが大切です。
《 大切な日常活動 》
地道な日常活動が組織強化の近道です。ここでも執行委員会の役割
は重要です。常に組合員相互、執行委員会と組合員の交流を深め(組
織、文化厚生機能)、執行委員会の考え方、活動状況を早く、的確に組
合員に知らせて、コミュニケーションを図る(組織、教育宣伝機能)
ことが、組合員の労働組合に対する信頼を強めることになります。
そして、これらの機能が生き生きと活動している組織は、いざとい
う時、おどろくほどの力を発揮するものです。
①
要求集約
組合員
執行委員会
②十分な検討
参 加
③方針提起
④
大会・
活発な議論
⑤団結
要求実現に向けた活動
⑥報告
組合員の承認
32
8.パート・派遣労働者等と労働組合
《 増加する非正規雇用労働者 》
近年、パート労働者、派遣労働者、有期雇用の契約社員など、いわ
ゆる非正社員(非正規雇用労働者)が増加する傾向にあります。国の
調査によると、パート、アルバイト、派遣社員、契約社員などの非正
社員は1,964万人で、全雇用者(役員を除く)の 37.4%を占め、
また、派遣労働者は121万人となっています(※)。
わが国の労働組合は、長年、正社員のみを対象とする企業別組合を
基本形態としてきました。これらの労働組合は、組合員の範囲につい
て、組合規約に「正社員をもって組織する」と規定したり、労使協定
でも正社員以外を排除する旨を定めている場合が少なくありません。
しかしながら、最近では、パート労働者等を積極的に労働組合に組織
化しようとする動きも見られるようになりました。
〔※ 総務省「労働力調査」(平成25年10月分)〕
《 労働組合への参加は自由 》
働いていると、「正社員と違い賃金が上がらない」「有給休暇がない」
「雇用契約が更新されないかもしれない」など労働条件に関する不満
や疑問が出てくることがあります。使用者は、パート労働者等が個人
で労働条件の改善を求めて話合いを申し入れた場合必ずしも話し合う
義務を負いませんが、労働組合から団体交渉の申入れがあった場合は
これを拒否することはできません。この点が個人と労働組合との取扱
33
い上の大きな違いです。
パート労働者、派遣労働者、契約社員等も正社員と同じように、労
働組合に加入し、あるいは労働組合を結成して、使用者と団体交渉を
行ったり、争議行為を行う権利が憲法で保障されています。
パート労働者や派遣労働者も同じ職場で働く労働者なのですから、
労働条件等について何か問題があれば、まずは職場にある労働組合に
相談してみることです。職場に労働組合がない場合や、労働組合はあ
っても組合規約や労使協定上の制約がある場合は、パート労働者や派
遣労働者が自ら労働組合を結成することができます。最近では、企業
の枠を越えてパート労働者や派遣労働者がまとまって結成された労働
組合もみられます。
また、パート労働者や派遣労働者が労働組合を結成・運営すること
が困難な場合は、一人でも加入できる労働組合に加入する方法もあり
ます(P12参照)。
34
9.おわりに
以上みてきましたように、憲法や労働関係諸法は「労働者が団結し
て、自分たちの労働条件や働く権利を、使用者との話合いによって自
主的に決めていく」ことを求めています。
戦後半世紀以上を経た今日、多くの企業において一定の安定した労
使関係が確立され、一部の労働組合では、経営参加や国あるいは自治
体の政策に対して意見反映させるまでに至っています。
《 増加する未組織労働者 》
しかし、その一方で、いまだ安定した労使関係を築くに至っていな
い労働組合も多くみられます。また、雇用労働者全体でみると、労働
組合に加入している労働者は約 2 割にすぎません。あとの約8割の労
働者は未組織の状態であり、近年の労働組合組織率は低下傾向にあり、
未組織労働者は増加しつつあります。この未組織労働者の中には低位
な労働条件の下におかれている場合も少なくありません。
35
《 こんなときは総合労働事務所へ 》
大阪府では、総合労働事務所において、労働相談、労働教育、労使
間の自主的調整の援助などを行い、「労働者が労働組合を結成し労使が
対等の立場に立つ中で、自らの労働条件の維持向上を図る」ことを手
助けしています。
“労働組合をつくりたい”とか“組合をつくったが、運営の仕方や
運動の進め方がわからない”、“要求をまとめたいが、資料が不足して
いる”、“使用者が労働法に理解を示さない”などの労使関係について
の相談や疑問のみならず、“解雇された”とか“賃金が支給されない”
あるいは“どの窓口に行けばよいかわからない”といった相談まで、
およそ労働者に関わる問題すべてについて、総合労働事務所でご相談
に応じています。
また、“労働組合ができたが、どのように対応すればよいかわからな
い”といった使用者の方のご相談にも応じています。そして、関係機
関と連携しながら解決への道すじをたてられるようお手伝いをしてい
ます。
労働問題の解決には労使双方が自ら努力していくことが大切です。
しかし、どうしてよいかわからない時、労使双方のみでは解決しない
時には、総合労働事務所をご利用ください。(P67~68 参照)
最後に、このパンフレットが皆さんの問題解決への良きガイドブッ
クとなるとともに、総合労働事務所が良き相談相手となり、そして、
それらの活用を通じて皆さんが合理的なより良い労使関係を築き上げ
ていかれることを願ってやみません。
36
37
10.Q&A
1 合同労組からの団体交渉の申入れについて
Q 私は、社員 30 名の会社に勤めていましたが、会社の経営状
況が悪化し、先日、リストラの一環として解雇されました。私は
この措置に納得ができず、解雇後、ある合同労組に加入し、現在、
合同労組から会社に対し、私の解雇を撤回することを求めて団体
交渉を申し入れています。
ところが、会社は、会社内にある企業別組合と同組合を唯一の
交渉団体とする旨の労働協約を締結していること、既に私とは雇
用関係がないこと、を理由に団体交渉に応じる必要はないと言っ
ています。どのように対処すれば良いでしょうか。
A 労働組合法第 7 条 2 号は、「使用者が雇用する労働者の代表者
と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むこと」を不当労働行為
として禁止していますが、この場合の「雇用する労働者の代表者」
とは、企業別組合であるか、合同労組であるかは問われていません。
労働組合法第 2 条本文は、労働組合の組合員たる労働者について、
その範囲を特定しておらず、労働組合を組織する組合員の数につい
ても、特に要件を定めていないと解されるからです。
また、使用者が特定の労働組合と、労働協約により、当該労働組
合を唯一の交渉団体と定めていたとしても、これは使用者に当該労
働組合を承認させる意味を持つのみであり、それ以上の法律的意味
はないので、このことを根拠に他の労働組合の交渉権を制限するこ
とはできません。
従業員が解雇または退職後に労働組合に加入した場合、既に同人
とは雇用関係がないことから、団体交渉応諾の義務がないと考える
38
使用者が案外多いものと思われます。一般的には、解雇された者、
退職した者は、使用者との雇用関係は終了しており、「雇用する労働
者」には該当しません。しかし、解雇・退職などに関して労働契約
関係の継続の有無や未払い賃金・退職金などについて争いがある場
合には、その争いの範囲において「雇用する労働者」であると解さ
れます。
さらに、重要な労働条件に関する問題は労使が自主的に解決する
ことが労働組合法の趣旨であることからも、解雇など労働契約関係
の継続の有無について争いがある場合における合同労組からの団体
交渉申入れについては、会社は正当な理由なく拒否することはでき
ないと思われます。
2 管理職組合について
Q 私の会社には企業別組合がありますが、組合員の範囲を課長
代理以下としており、課長になると組合員の範囲から外れること
となっています。
最近、会社が管理職に対する希望退職者募集などのリストラ策
を打ち出したため、管理職の間では、希望退職者が募集人員に達
しない場合、整理解雇が強行されるのではないかとの不安が広が
っています。そこで、私を含め課長数人で労働組合を結成し、会
社に対し団体交渉を申し入れました。
しかしながら、会社は、課長は会社側の方針を実行すべき立場
にあるとして、団体交渉に応じる必要はないと言っています。ど
のように対処すれば良いでしょうか。
A 労働組合法第 2 条但し書きでは、「役員、雇入解雇昇進又は異
動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労
働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのた
めにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠
意と責任とに直接に抵触する監督的地位にある労働者その他使用者
の利益を代表する者の参加を許すもの」については、労働組合とし
39
て認められないと規定しています。管理職が労働組合法にいう「使
用者の利益代表者」に該当するかどうかの判断については、会社に
おける肩書きや名目上の職務権限ではなく、個別具体的なその管理
職の会社における実質的な職務権限により判断する必要があるとさ
れています。
最近のリストラの進行に伴い、管理職がその対象とされることが
多いため、管理職組合の結成も珍しいことではなくなりました。結
論としては、管理職組合の構成員が労働組合法にいう「使用者の利
益代表者」に該当せず、したがって、管理職組合が労働組合法上の
労働組合と認められる場合、会社は当該労働組合からの団体交渉の
申入れを拒否することはできないと思われます。
3 不誠実な団体交渉について
Q 私の会社では、最近、社長から「経営状態が悪いため賃金体
系を見直す」との話がありました。社長が言うように賃金体系が
見直されると実質的な賃下げとなるため、私を含め何人かの社員
が不安を感じ、話し合って労働組合を結成しました。
先日、会社に対し、労働組合の結成を通知するとともに、賃金
体系見直しを撤回することを求めて団体交渉を申し入れました。
ところが、社長は「多忙である」と繰り返すばかりで、団体交渉
に応じようとしません。
約1か月後、やっと団体交渉が行われたのですが、会社側を代
表して出席した専務は「社長でないと分からない」などと述べる
ばかりで交渉が進展しません。どのように対処すれば良いでしょ
うか。
A 労働組合法第 7 条 2 号は、「使用者が雇用する労働者の代表者
と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むこと」を不当労働行為
として禁止しています。しかしながら、使用者が形式的に労働組合
と面会していれば団体交渉を行ったことになるのではなく、労働組
合の要求に対し、その内容を検討することもなく頭からはねつける、
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十分な説明や資料の提示をすることなく拒否回答をする、などの不
誠実な団体交渉を行うことも、不当労働行為に該当します。
労働委員会命令や判例では不誠実な団体交渉とされたものの事例
としては、
○以前行われた団体交渉で要求を認めておきながら、次の団体交
渉でそれを拒否したり、文書化する段階になって、それまで全
く話にも出なかったことを協定に盛り込ませようとした場合
○「社長に伝えておく」などとして何一つ交渉が進展しないよう
な、実際に交渉権限がない者による形ばかりの交渉態度であっ
た場合
○労働組合に対し、回答はしても納得させるに足る説明をせず、
その論拠となる具体的資料も提示せず、回答に固執する場合
などがあります。ただし、団体交渉応諾義務は、交渉のテーブルに
つき誠実に交渉を行う義務であって、労働組合の要求に必ず使用者
が応じなければならない義務ではない点に留意する必要があります。
最終的に労使が合意に達しなかったとしても、団体交渉の過程にお
いて、労使双方は自己の主張を相手方に納得させるべく誠実に交渉
を行わなければなりません。
したがって、会社の対応は不誠実な団体交渉であり、労働組合法
が禁止している不当労働行為に該当する可能性が大きいと思われま
す。会社の態度が改まらないようであれば、労働委員会の制度を利
用することもできます。
4 ユニオン・ショップ協定に伴う解雇について
Q 私は、従業員 100 人の会社で労務担当をしています。当社で
は、A労働組合とユニオン・ショップ協定(ユ・シ協定といいます)
を結んでおり、管理職を除く従業員全員がA労働組合に加入してい
ます。
昨年、組合の定期大会で意見が分かれ、数名の組合員がA労働組
合を脱退しました。
このため、A労働組合からユ・シ協定に基づき脱退した者を解雇
41
するよう求められています。脱退した数名は、その後、新たにB労
働組合を結成しました。どのように対処すれば良いでしょうか。
A ユ・シ協定の中心的な効力は、その労働組合に加入しない者、
脱退した者、除名された者を、使用者がその協定に基づいて解雇す
る義務を負うということです。実際には、ユ・シ協定といっても、「従
業員はすべて組合員でなければならない」という規定のみで不加入
者、脱退者等の解雇について具体的な規定を欠くものや、不加入者、
脱退者等の解雇について「原則として解雇する」とか「労使協議し
て定める」などと規定している場合が多いようです。
仮に、ユ・シ協定において、すべての不加入者、脱退者等につい
て無条件に解雇する旨規定していた場合でも、ユ・シ協定締結組合
を脱退し、新たに他の労働組合に加入し、あるいは新たに労働組合
を結成した者を解雇することは、公序良俗に反し無効であるとする
最高裁判決があります。
したがって、脱退後新たな労働組合を結成した従業員の処遇につ
いては、判例の動向から見て、ユ・シ協定に基づき解雇することは
できないと考えられます。もちろん、使用者にはユ・シ協定締結組
合脱退後他の労働組合に加入していない従業員を解雇する義務はあ
るでしょう。
5 組合事務所の貸与について
Q 従業員約 300 名の企業の役員をしています。これまで社内の
労働組合に対し、労働協約に基づいて組合事務所を無償貸与してき
ましたが、経営上のコスト削減のため、今後、組合事務所の貸与を
有償としたり、事務所を狭めたりすることを検討しています。組合
事務所として貸与している場所は会社の施設の一部なので、一方的
に有償化、もしくは規模を小さくしても、良いでしょうか。
A 労働組合法は、使用者が「労働組合の運営のための経費援助を
与えること」を原則として禁止していますが、「(使用者が労働組合
42
に)最小限の広さの事務所や掲示板の提供をすること」(労働組合法
2条3号但書、7条3号但書)については対象外となっており、組
合事務所の貸与は認められています。
お尋ねの場合は、労使の合意である労働協約に基づいて無償貸与
されていた以上は、組合の権利にもなっており、これを一方的に中
止することは、労働組合の弱体化を意図する不当労働行為に該当す
るおそれがあります。まずは、事前に労働組合との協議の場を設け、
その中で会社の経営状況を十分説明して理解を求め、労使で話し合
って決めるといった、誠実な対応が望ましいと思われます。
6 労働協約の解約について
Q 当社には労働組合と 30 年以上前に締結した労働協約があります
が、その中に有効期間にかかる規定はありません。現在、その内容が
形骸化し、実態と合わなくなっています。そこで現在の労働協約を解
約し、新たな労働協約を締結することを考えていますが、どのような
手続きを踏むことが良いでしょうか。
A 有効期間の定めがない労働協約について、労働組合法第 15 条第3
項・第4項では、「当事者の一方が署名し、又は記名押印した文書によ
って相手方に予告して、解約することができる。」「予告は、解約しよ
うとする日の少なくとも90日前までにしなければならない。」とあり、
そのため、本件の場合も当事者のいずれか一方が署名または記名押印
した文書によって 90 日前までに予告することで、解約することがで
きます。
一方、例えば、使用者が労働組合を弱体化する意図をもって労働協
約を解約し、労働協約の改廃に関する団体交渉も拒否しているような
場合には、労働組合法第7条にある、「労働者が労働組合を結成し、若
しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること」である
43
支配介入の不当労働行為とされるなど、事情によっては、労働協約の
解約が不当労働行為と判断されたり、権利濫用のため無効と評価され
たりする場合もあります。
形骸化しているとはいえ、労働協約の内容は、労働組合と使用者と
の団体交渉における合意事項であるため、まずは使用者側の考えを労
働組合に打診し、十分に話し合われることが良いでしょう。
7 裁判で係争中である社員の団体交渉の扱い
Q 昨年、ある社員を解雇したところ、その社員は納得せず、解雇無効
を主張して会社を提訴し、現在、裁判を係争中です。先日、この社員
が 1 人でも加入できる合同労働組合(合同労組)に加入したとして、
同労組から解雇を交渉事項とする団体交渉の申入れを受けました。会
社としては、裁判で係争中であるため、団体交渉には応じなくても良
いでしょうか。
A 労働組合法第 7 条第 2 号により「使用者が雇用する労働者の代表
者と団体交渉することを正当な理由なく拒むこと」は、不当労働行為
として禁止されています。解雇した労働者については、労働契約関係
の継続の有無について争いがある範囲において「雇用する労働者」で
あると解され、当該解雇に関する団体交渉についても同様に正当な理
由なく拒むことはできません。また、当該問題が同時に裁判所で争わ
れていることも団体交渉を拒否する正当な理由にはならないと考えら
れています【日本鋼管鶴見造船所事件/最三小判/昭 61.7.15】。
裁判所は、権利問題の解決のために重要な役割を果たしますが、団
体交渉は、それぞれの問題について、政策的考慮も加え、将来にわた
る労働関係を形成しようとする独自の意義を持っています。また、団
体交渉を通じて権利問題を含む紛争が自主的に解決されることは、法
44
の要請にも適合するといえます。そのため、裁判中であることのみを
理由として団体交渉を拒否することは、正当なものとは認められず、
不当労働行為に該当する可能性が高いと考えられます。
8 労働組合の情宣活動の扱いについて
Q ある日、ある従業員が合同労組に加入しました。従業員の組合加入
以降、同労組が毎日のように街宣車で抗議行動をしたり、会社名や社
長個人名の入ったビラを撒いたりしており、拡声器を使ってのシュプ
レヒコールなどは、会社や社長を誹謗中傷する内容のものです。この
ような行動は問題ではないのでしょうか。
A 労働組合法第1条2項、刑法第35条には、「労働組合の団体交渉
その他の行為であって、正当なものは、犯罪として罰せられることは
ない。」、労働組合法第8条には「労働組合や労働者は、正当な争議行
為により使用者が被った被害について損害賠償を請求されることはな
い。」とあり、労働組合は、自らの主張を広く訴えるために、ビラの配
付、貼付、横断幕等の掲示、拡声器を用いた演説・シュプレヒコール
などの情宣活動を行うことができます。しかし、こうした情宣活動は
無制限に許される訳ではありません。労働組合または労働者の情宣活
動の正当性については、情宣活動の内容のみならず、当該情宣活動が
なされるに至った経緯、目的、態様、当該情宣活動により生じた影響
など諸般の事情が総合的に考慮された上でなされなければならないと
いう判例があります【国労高崎地本事件/東京高裁/平5.2.10】。