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花の縁 010214 1 1 14)キンランとギンラン=金蘭と銀蘭 キンランはラン科の多年草で、北海道を除く本州以西、朝鮮半島、中国に分布し、 山林の日陰に生える。高さ 3060cm になり 5 月の連休の頃、茎頂に 1.5cm ほどの 鮮黄色の花を、十数個斜め上向きに総状につける。花は全開せず、半開き状態のままで花弁は 5 枚、3 裂する唇弁には赤褐色の隆起がある。無柄の葉は狭楕円形状で長さ 10cm 前後、縦方向の脈に沿って皺が多く、茎を抱き 7 8 枚が互生する 和名の由来は この花色によるもので、別称としてはキサンラン、オウラン、アサマソウ、アリマソウ などと呼ぶ地方もある。学名は『Cephalanthera falcata』で、属名は「cephalos=頭」 と「 anthera =ヤク」との合成語で花糸の頂上にある大きなヤクの形状を表わしたもので、 種小辞は「鎌状の」と言う意味である。以前は本州、四国、九州の山野にごく普通に 見られたが、最近では乱獲がたたりほとんど見ることはできない。このため現在では 『絶滅危惧品種』に指定されている。 花の色が白いものにギンラン( 学名は『Cephalanthera erecta』)とササバギンラン (学名は『Cephalanthera longibracteata)などがある。キンランと同じような場所 に生え、以前は共存することも少なくなかったが、現在ではキンランとギンランを 同時に見ることは自然状態ではほとんどない。このような可憐な花が心ない人々の 乱獲により失われて行くことは残念だが、埼玉県東松山市にある国営武蔵丘丘陵森林 公園内や、千葉市近郊の山野には比較的多く、連休の頃、山野を散策していると まれに同時に巡り会うことが出来る。 ラン科の植物はラン菌根と呼ばれる独特の菌根を形成し、ほとんどのものは多かれ 少なかれ菌根から栄養分を得て生活している。このためその生存上、菌根が欠かせ ない条件になっている。その菌根とは植物と共生する菌類のことで、土壌中のいわば カビが、植物の根の表面または内部に着生したものを菌根と呼んでいるのである。 多くのラン科植物の場合、菌根を形成するカビは腐生菌で、腐生菌は落ち葉や倒木 など、生物のいわば遺体を栄養源にして生活している。ところがキンランの場合は この菌根菌腐生菌ではなく、樹木の外菌根に寄生している点で他のラン科植物とは 異なっている。 外菌根とは菌根類の一種であるものの、菌糸が根の細胞壁の内側に 侵入しないタイプで、その代表例としてはキノコの菌と樹木との関係である。つまり 『マツタケ』と『松』の関係ということになる。この関係を見ても分かるように、 松がなければマツタケは生存することはできず、キンランの場合も、ある特定の樹木 に寄生しているわけで、この樹木がなくなると早晩枯死してしまう運命ということ になる。(04-01-09 思い草と銀龍草の項参照)。このような植物は意外に多く、この キンランやギンランの他、ギンリュウソウやイチヤクソウ(一薬草)などがよく知ら れている。このためキンランもギンランも美しい花ではあるが、採取して庭で育て ることはまず不可能で、このまま野山に残したい植物なのである。

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14)キンランとギンラン=金蘭と銀蘭 キンランはラン科の多年草で、北海道を除く本州以西、朝鮮半島、中国に分布し、

山林の日陰に生える。高さ 30~60cm になり 5 月の連休の頃、茎頂に 1.5cm ほどの

鮮黄色の花を、十数個斜め上向きに総状につける。花は全開せず、半開き状態のままで、

花弁は 5 枚、3 裂する唇弁には赤褐色の隆起がある。無柄の葉は狭楕円形状で長さ

10cm前後、縦方向の脈に沿って皺が多く、茎を抱き7~8枚が互生する。和名の由来は

この花色によるもので、別称としてはキサンラン、オウラン、アサマソウ、アリマソウ

などと呼ぶ地方もある。学名は『Cephalanthera falcata』で、属名は「cephalos=頭」

と「anthera=ヤク」との合成語で花糸の頂上にある大きなヤクの形状を表わしたもので、

種小辞は「鎌状の」と言う意味である。以前は本州、四国、九州の山野にごく普通に

見られたが、最近では乱獲がたたりほとんど見ることはできない。このため現在では

『絶滅危惧品種』に指定されている。

花の色が白いものにギンラン(学名は『Cephalanthera erecta』)とササバギンラン

(学名は『Cephalanthera longibracteata』)などがある。キンランと同じような場所

に生え、以前は共存することも少なくなかったが、現在ではキンランとギンランを

同時に見ることは自然状態ではほとんどない。このような可憐な花が心ない人々の

乱獲により失われて行くことは残念だが、埼玉県東松山市にある国営武蔵丘丘陵森林

公園内や、千葉市近郊の山野には比較的多く、連休の頃、山野を散策していると

まれに同時に巡り会うことが出来る。

ラン科の植物はラン菌根と呼ばれる独特の菌根を形成し、ほとんどのものは多かれ

少なかれ菌根から栄養分を得て生活している。このためその生存上、菌根が欠かせ

ない条件になっている。その菌根とは植物と共生する菌類のことで、土壌中のいわば

カビが、植物の根の表面または内部に着生したものを菌根と呼んでいるのである。

多くのラン科植物の場合、菌根を形成するカビは腐生菌で、腐生菌は落ち葉や倒木

など、生物のいわば遺体を栄養源にして生活している。ところがキンランの場合は

この菌根菌が腐生菌ではなく、樹木の外菌根に寄生している点で他のラン科植物とは

異なっている。外菌根とは菌根類の一種であるものの、菌糸が根の細胞壁の内側に

侵入しないタイプで、その代表例としてはキノコの菌と樹木との関係である。つまり

『マツタケ』と『松』の関係ということになる。この関係を見ても分かるように、

松がなければマツタケは生存することはできず、キンランの場合も、ある特定の樹木

に寄生しているわけで、この樹木がなくなると早晩枯死してしまう運命ということ

になる。(04-01-09思い草と銀龍草の項参照)。このような植物は意外に多く、この

キンランやギンランの他、ギンリュウソウやイチヤクソウ(一薬草)などがよく知ら

れている。このためキンランもギンランも美しい花ではあるが、採取して庭で育て

ることはまず不可能で、このまま野山に残したい植物なのである。

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千葉市郊外のキンラン。半世紀前には関東平野にも普通に自生したが、今では殆ど見られない。

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キンランは移植しても殆どの場合根付かない。というのはキンランはある種の植物と共生

しないと生存できず、松がないところにマツタケが生えないのと似ている(千葉市郊外)。

雑木林の中で開花したキンランの花(千葉市郊外)。

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ギンランの花は平地では連休の頃、標高1,000m地帯では5月下旬~6月頃である。

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ギンランの花、疎林中の落ち葉の中から芽を出して花を咲かせる(長野県軽井沢町)。

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キンランと同様にある種の植物に寄生して生存する紅花イチヤクソウ(長野県上高地)。

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蓼科高原で見つけた紅花イチヤクソウ。道端の陽だまりに自生していた。

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軽井沢の雑木の中で見つけた紅花イチヤクソウ。すぐ近くには白花イチヤクソウがあった。

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白花のイチヤクソウ。紅花とまれに共存することもあるが、紅は紅、白は白で群落を作る

ことが多い。イチヤクソウの根は細い棒根のみで、それが他の固体とつながっており群落

を作るからであろうか。しかしここでは紅花と混棲していた(長野県軽井沢町)。

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ミズナラやカラマツ、モミジなどが繁る雑木林の斜面で群落を作るイチヤクソウ。タチツボ

スミレやマイヅルソウなどとも共存している。日光は1日に数時間射す程度である。目次に戻る