1.0 より大きくなる(抵抗モーメントが滑動モーメントより...
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円弧すべりによる斜面の安定
フェレニウス法とビショップ法
■はじめに
円弧すべりを仮定した斜面の安定計算では,滑動モーメント𝑀𝐷に対する抵抗モーメント
𝑀𝑅の大きさを表す安全率が用いられる。
𝐹𝑆 =𝑀𝑅
𝑀𝐷
この安全率が 1.0 より大きくなる(抵抗モーメントが滑動モーメントより大きくなる)と,
仮定した円弧すべりに対して斜面は安定と判定され,1.0より小さくなると不安定と判定さ
れる。斜面の安定の検討には,このような円弧すべりを複数仮定し,最も小さくなる安全
率(最小安全率)を探索し,最小安全率が基準を上回れば斜面は安定と判断され,そうで
なければ不安定と判断される。
図-1 円弧すべりと各モーメント
各モーメントの計算には,すべり土塊を N 個のスライスに分割し,スライス単位で滑動モ
ーメントと抵抗モーメントを求め,総和を取ることによって行う方法が一般である。
𝐹𝑆 =𝑀𝑅
𝑀𝐷= ∑ 𝑀𝑅𝑖
𝑁
𝑖=1
∑ 𝑀𝐷𝑖
𝑁
𝑖=1
⁄
図-2 すべり土塊の分割例
図-2 に示したスライス i に作用する力を考えてみると図-3 のようになる。各変数の説明は
表-1に示すとおりである。
図-3 スライスに作用する力
これらのうち𝑉𝑖および𝐻𝑖は,(𝑁 + 1)個出てくるが,両端ではスライス側面がないことから
𝑉1 = 𝑉𝑁+1 = 0, 𝐻1 = 𝐻𝑁+1 = 0より未知数の数は(𝑁 − 1)個。さらに,スライス底面から𝐻𝑖作
用点までの高さℎ𝑖は𝐻𝑖の未知数の数となるので(𝑁 − 1)個となっている。以上,未知数の総
数は(5𝑁 − 2)個となる。モーメントを求めるためには,このスライスに作用する力を釣り合
い式などから求めることが必要となる。
表-1 変数の説明
記号 説明 未知・既知 個数
𝑊𝑖 スライスの重量
スライスの面積と土の単位体積重量で求められる。
既知 𝑁
𝑉𝑖 スライス側面に対し平行に作用する力 未知 𝑁 − 1
𝐻𝑖 スライス側面に対し垂直に作用する力 未知 𝑁 − 1
ℎ𝑖 スライス底面から𝐻𝑖作用点までの高さ 未知 𝑁 − 1
𝐸𝑖 スライス側面に作用する間隙水圧の合力
地下水の流れにより決定される。
既知 𝑁 − 1
𝑇𝑖 スライス底面(すべり面)に作用するせん断力 未知 𝑁
𝑁′𝑖 スライス底面(すべり面)に作用する有効垂直力 未知 𝑁
𝑈𝑖 スライス底面(すべり面)に作用する間隙水圧の合力
地下水の流れにより決定される。
既知 𝑁
𝐹𝑆 安全率 未知 1
○力の釣り合い式
すべり面に平行な方向と垂直な方向のそれぞれの力の釣り合い式は次式で表される。
𝑇𝑖 = (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖) sin 𝛼𝑖 + (∆𝐻𝑖 + ∆𝐸𝑖) cos 𝛼𝑖 (A.1)
𝑁′𝑖 + 𝑈𝑖 = (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖) cos 𝛼𝑖 − (∆𝐻𝑖 + ∆𝐸𝑖) sin 𝛼𝑖 (A.2)
ここで,
∆𝑉𝑖 = 𝑉𝑖 − 𝑉𝑖−1 (A.3)
∆𝐻𝑖 = 𝐻𝑖 − 𝐻𝑖−1 (A.4)
∆𝐸𝑖 = 𝐸𝑖 − 𝐸𝑖−1 (A.5)
とおいた。
以上より、力の釣り合い式はスライスの個数組みあるので、2𝑁個の方程式となる。
○モーメントの釣り合い式
スライス底面中点に関するモーメントの釣り合いを考えたモーメントの釣り合い式は次
式で表される。
(𝑉𝑖 + 𝑉𝑖−1)𝑏𝑖
2− 𝐻𝑖−1 (ℎ𝑖−1 +
𝑙𝑖
2sin 𝛼𝑖) + 𝐻𝑖 (ℎ𝑖 −
𝑙𝑖
2sin 𝛼𝑖) = 0 (A.6)
モーメントの釣り合い式はスライスの個数あるので、𝑁個の方程式となる。
○クーロンの破壊規準式
すべり面上で発揮する土のせん断強さはクーロンの破壊規準式で与えられる。
𝜏𝑓𝑖 = 𝑐′𝑖 + 𝜎′𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′𝑖 (A.7)
ここで,すべり面上の垂直有効応力𝜎′𝑖は,
𝜎′𝑖 =𝑁′𝑖
𝑙𝑖 (A.8)
と与えられる。ここで,すべり面上で発揮できる土のせん断抵抗力を𝑆𝑖と置くと,𝑆𝑖は次の
ように表すことができる。
𝑆𝑖 = 𝜏𝑓𝑖𝑙𝑖 = 𝑐′𝑖𝑙𝑖 + 𝑁′𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′𝑖 (A.9)
ここで,i 番目のあるスライスについて、土が発揮可能なせん断力を𝑆𝑖、斜面が安定に必要
なせん断力(極限状態におけるせん断力)を𝑇𝑖とし、この比が安全の度合いと考え𝐹𝐵𝑖とし
て次式で表すことにする。
𝐹𝐵𝑖 =𝑆𝑖
𝑇𝑖 (A.10)
これより,
𝑇𝑖 =𝑐′𝑖𝑙𝑖 + 𝑁′𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′𝑖
𝐹𝐵𝑖 (A.11)
が得られる。クーロンの破壊規準より導かれる関係式はスライスの個数あるので、𝑁個の方
程式となる。
以上、力の釣り合い式2𝑁個、モーメントの釣り合い式𝑁個、クーロンの破壊規準式𝑁個とな
り、関係式の総数は4𝑁個である。したがって、未知数5𝑁 − 2個に対して、関係式4𝑁個であ
るので、𝑁 − 2個関係式が不足することになる。すなわち,(𝑁 − 2)次の不静定問題である。
この問題を解くためには,未知数に対する何らかの仮定を設けることによって,解ける問
題にする必要がある。
□フェレニウス法・通常簡便法・スウェーデン法
フェレニウス法では、次の仮定を設ける。
𝑉𝑖 − 𝑉𝑖−1 = ∆𝑉𝑖 = 0 (B.1)
𝐻𝑖 − 𝐻𝑖−1 = ∆𝐻𝑖 = 0 (B.2)
これらの関係式は(2𝑁 − 2)個ある。この仮定により不静定次数は−𝑁となる。すなわち、未
知数の数より関係式が上回ることとなるが,以下に示すように式(A.1)で表されるすべり面
に平行な方向の力の釣り合い式を安全率計算のため用いないので、未知数と関係式の数が
一致して解ける問題にしている。
なお、式(B.1)、式(B.2)の仮定により、すべてのスライスについて順次つり合いを考えて
いくと、次の関係が導かれる。
𝑉1 = 𝑉2 = ⋯ = 𝑉𝑁+1 = 0 (B.3)
𝐻1 = 𝐻2 = ⋯ = 𝐻𝑁+1 = 0 (B.4)
すなわち、フェレニウス法はスライス側面に作用する垂直力と水平力を無視したこととな
る。
まず、円弧すべりにおける抵抗モーメント𝑀𝑅を導いてみよう。抵抗モーメント𝑀𝑅は、𝑆𝑖を
用いて次のように表される。
𝑀𝑅 = 𝑅 ∑ 𝑆𝑖
𝑁
𝑖=1
(B.5)
クーロンの破壊規準から導かれた式(A.9)を代入すると,
𝑀𝑅 = 𝑅 ∑(𝑐′𝑖𝑙𝑖 + 𝑁′𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′𝑖)
𝑁
𝑖=1
(B.6)
となる。フェレニウス法における仮定(B.1)、(B.2)を考慮し、すべり面に垂直な方向の力の
つりあい式(A.2)から、
𝑁′𝑖 = 𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖 − 𝑈𝑖 − ∆𝐸𝑖 sin 𝛼𝑖 (B.7)
を得るので、これを式(B.6)に代入すると、円弧すべりにおける抵抗モーメント𝑀𝑅は次のよ
うになる。
𝑀𝑅 = 𝑅 ∑{𝑐′𝑖𝑙𝑖 + (𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖 − 𝑈𝑖 − ∆𝐸𝑖 sin 𝛼𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′}
𝑁
𝑖=1
(B.8)
一方、滑動モーメント𝑀𝐷は、スライスに作用する側面の力を無視している(式(B.3)と式
(B.4))ので、自重によるモーメントと水圧によるモーメントとなり、次式で表される。
𝑀𝐷 = ∑(𝑊𝑖𝑅 sin 𝛼𝑖 + ∆𝐸𝑖𝑅 cos 𝛼𝑖)
𝑁
𝑖=1
= 𝑅 ∑(𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 + ∆𝐸𝑖 cos 𝛼𝑖)
𝑁
𝑖=1
(B.9)
したがって,円弧すべりに対する安全率は、
𝐹𝑆 =𝑀𝑅
𝑀𝐷 (B.10)
と定義されるので、式(B.8),(B.9)を代入すると次の関係が得られる。
𝐹𝑆 =∑{𝑐′𝑖𝑙𝑖 + (𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖 − 𝑈𝑖 − ∆𝐸𝑖 sin 𝛼𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′}
∑(𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 + ∆𝐸𝑖 cos 𝛼𝑖) (B.11)
スライス幅を十分小さくとれば、スライス側面に作用する水圧差∆𝐸𝑖は無視できる。このよ
うに考えた場合の安全率𝐹𝑆は、次のようになる。
𝐹𝑆 =∑{𝑐′𝑖𝑙𝑖 + (𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖 − 𝑈𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′}
∑ 𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 (B.12)
これが、フェレニウス法(スウェーデン法、通常簡便法)による安全率を求める式である。
なお、すべり土塊に地下水が存在しない場合は、水圧𝑈𝑖 = 0となるので、式(B.11)は次のよ
うになる。(教科書 p.223 式(12.9))
𝐹𝑆 =∑{𝑐′𝑖𝑙𝑖 + 𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′}
∑ 𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 (B.13)
また、すべり面における土質が粘土のようなせん断抵抗角𝜙′ = 0°である地盤材料である場
合は、粘着力𝑐′𝑖を用いて、あるいは、粘着力を非排水せん断強さ𝑠𝑢𝑖に置き換えて、次式と
なる。(教科書 p.223 式(12.8))
𝐹𝑆 =∑ 𝑐′𝑖𝑙𝑖
∑ 𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖=
∑ 𝑠𝑢𝑖𝑙𝑖
∑ 𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 (B.14)
フェレニウス法で用いる変数一覧(既知な変数と未知な変数)は以下のとおりとなる。
記号 説明 未知・既知 個数
𝑊𝑖 スライスの重量
スライスの面積と土の単位体積重量で求められる。
既知 𝑁
𝑇𝑖 スライス底面(すべり面)に作用するせん断力 未知 𝑁
𝑁′𝑖 スライス底面(すべり面)に作用する有効垂直力 未知 𝑁
𝑈𝑖 スライス底面(すべり面)に作用する間隙水圧の合力
地下水の流れにより決定される。
既知 𝑁
𝐹𝑆 安全率 未知 1
したがって,未知数は 2N+1個である。また,フェレニウス法で用いた関係式は,
すべり面に対し垂直方向の力の釣り合い式、
𝑁′𝑖 + 𝑈𝑖 = 𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖
および,クーロンの破壊規準式
𝑆𝑖 = 𝑐′𝑖𝑙𝑖 + 𝑁′𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′𝑖
そして,安全率の定義式
𝐹𝑆 =𝑀𝑅
𝑀𝐷
であり,諸関係式もまた 2N+1 個であることから,未知数の数と一致し,解ける問題とな
っている。
ただし,すべり面上の水平方向の力の釣り合い式は用いていないことから,未知数は不定
となり,スライスに対しての力の多角形(釣り合い)は一般には閉合するとは言えず,ま
た,全体に対する力の多角形も閉合しない。
□修正フェレニウス法
すべり土塊に地下水位が存在する場合のフェレニウス法による安全率は、式(B.13)で与え
られるが、すべり面が水平面となす角𝛼𝑖が大きく、急なスライスでは、𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖 − 𝑈𝑖の値が
負となる場合が生じることがある。これは理論的にも不合理となる。そこで、すべり面に
対する垂直方向の力のつり合い式(式(B.7))において、スライス重量𝑊𝑖ではなくスライス
有効重量𝑊′𝑖を用いた力のつり合い式を考える。フェレニウス法で導入したスライス側面に
作用する水圧差∆𝐸𝑖を無視した場合、式(B.7)は次のようになる。
𝑁′𝑖 = 𝑊′𝑖 cos 𝛼𝑖 (C.1)
ここで、スライス有効重量𝑊′𝑖は、地下水位以下の土塊については、水中単位体積重量を用
いて重量を計算した値である。この時、安全率は次式で表される。
𝐹𝑆 =∑{𝑐′𝑖𝑙𝑖 + 𝑊′𝑖 cos 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′}
∑ 𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 (C.2)
これにより安全率を求める方法を修正フェレニウス法と呼ぶ。
□ビショップの簡易法
力のつり合い式(A.1)、(A.2)より∆𝐻𝑖を消去すると次の関係式が得られる。
𝑇𝑖 sin 𝛼𝑖 + (𝑁′𝑖 + 𝑈𝑖) cos 𝛼𝑖 = 𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖 (D.1)
クーロンの破壊規準から導かれた式(A.11)を式(D.1)へ代入すると
𝑐′𝑖𝑙𝑖 + 𝑁′
𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝐵𝑖sin 𝛼𝑖 + (𝑁′𝑖 + 𝑈𝑖) cos 𝛼𝑖 = 𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖 (D.2)
これを𝑁′𝑖について解くと、
𝑁′𝑖 =𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖 −
𝑐′𝑖𝑙𝑖 sin 𝛼𝑖
𝐹𝑆− 𝑈𝑖 cos 𝛼𝑖
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝐵𝑖
(D.3)
式(D.3)で表される垂直力𝑁′𝑖は、力の釣り合い式およびクーロンの破壊規準を満たすもので
ある。土が発揮可能なせん断力𝑆𝑖は、式(D.3)を式(A.9)に代入することによって、次のよう
に書くことができる。
𝑆𝑖 =
𝑐′𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖 − 𝑈𝑖 cos 𝛼𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝐵𝑖
(D.4)
抵抗モーメント、滑動モーメントをそれぞれ求めよう。まず、抵抗モーメント𝑀𝑅は、
𝑀𝑅 = 𝑅 ∑ 𝑆𝑖 (D.5)
と書けるので、式(D.4)を代入すると、次のようになる。
𝑀𝑅 = 𝑅 ∑
𝑐′𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖 − 𝑈𝑖 cos 𝛼𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝐵𝑖
(D.6)
次に滑動モーメントは、側面に作用する垂直力および水平力は隣り合うスライス間で互
いに打ち消し合うことを考慮して,
𝑀𝐷 = 𝑅 ∑(𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 + ∆𝐸𝑖 cos 𝛼𝑖) (D.7)
となる。
円弧すべりに対する安全率は、
𝐹𝑆 =𝑀𝑅
𝑀𝐷 (D.8)
と定義されるので、式(D.6),(D.7),(D.8)より、次の関係が得られる。
𝐹𝑆 =
∑𝑐′
𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖 − 𝑈𝑖 cos 𝛼𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝐵𝑖
∑(𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 + ∆𝐸𝑖 cos 𝛼𝑖)
(D.9)
円弧すべりに対する安全率𝐹𝑆とスライスのすべりに対する安全率𝐹𝐵𝑖が等しいとすると、式
(D.9)は次のように書ける。
𝐹𝑆 =
∑𝑐′
𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖 − 𝑈𝑖 cos 𝛼𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
∑(𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 + ∆𝐸𝑖 cos 𝛼𝑖)
(D.10)
この式には未知数𝐹𝑆と∆𝑉𝑖が存在し,式(D.10)だけでは安全率𝐹𝑆を求めることができない。
そこでもう1つの式を誘導する。
スライス間力については,
∑(𝑉𝑖+1 − 𝑉𝑖)
𝑁
𝑛=1
= ∑ ∆𝑉𝑖
𝑁
𝑛=1
= 0 (D.11)
∑(𝐻𝑖+1 − 𝐻𝑖)
𝑁
𝑛=1
= ∑ ∆𝐻𝑖
𝑁
𝑛=1
= 0 (D.12)
が成立する。ここで,すべり面方向の力の釣り合い式(A.1)において,式(D.3)を代入すると,
𝑆𝑖
𝐹𝐵𝑖= (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖) sin 𝛼𝑖 + (∆𝐻𝑖 + ∆𝐸𝑖) cos 𝛼𝑖 (D.13)
両辺をcos 𝛼𝑖で除し,𝐹𝐵𝑖 = 𝐹𝑆および式(D.4)より,
{
𝑐′𝑖 ∙ 𝑙𝑖 + (𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖⁄ − ∆𝑉𝑖 cos 𝛼𝑖⁄ − 𝑈𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
} 𝐹𝑆⁄
= (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖) tan 𝛼𝑖 + (∆𝐻𝑖 + ∆𝐸𝑖)
(D.14)
を得る。ここで,
𝑚𝑖 =
𝑐′𝑖 ∙ 𝑙𝑖 + (𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖⁄ − ∆𝑉𝑖 cos 𝛼𝑖⁄ − 𝑈𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′
1 +tan 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
(D.15)
と置くと,式(D.14)は次のように書ける。
𝑚𝑖 sec 𝛼𝑖 𝐹𝑆⁄ − (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖) tan 𝛼𝑖 − (∆𝐻𝑖 + ∆𝐸𝑖) = 0 (D.16)
上式において総和をとり,かつ,式(D.12)を考慮すると,
∑{𝑚𝑖 sec 𝛼𝑖 𝐹𝑆⁄ − (𝑊𝑖 − ∆𝑉𝑖) tan 𝛼𝑖 − ∆𝐸𝑖}
𝑁
𝑛=1
= 0 (D.17)
すなわち,式(D.10)と式(D.17)を満足する𝐹𝑆と∆𝑉𝑖を試行錯誤により決定する。その結果を
用いて,∆𝐻𝑖は式(D.16)から求めることができる。さらに,式(A.6)よりℎ𝑖が求まる。以上の
ようにして,安全率𝐹𝑆およびその他の未知数を決定する方法をビショップの厳密法と呼んで
いる。しかし,条件式よりも未知数が多く,いわゆる不静定問題であるため,解が求まっ
てもそれが唯一の解とはならない。
解を求めるために,∆𝑉𝑖をほぼゼロとみなして安全率を求める方法をビショップの簡便法
(単にビショップ法と呼ばれることもある)と呼び,この方法が実用的に用いられている。
この時,式(D.10)は次のようになる。
𝐹𝑆 =
∑𝑐′
𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + (𝑊𝑖 − 𝑈𝑖 cos 𝛼𝑖)𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
∑(𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖 + ∆𝐸𝑖 cos 𝛼𝑖)
(D.18)
この式には未知数𝐹𝑆だけが存在し,両辺に未知数𝐹𝑆を含んだ陰関数であるが,収束計算
(|∆𝐹𝑆| < 0.01程度)により解を求めることが可能である。
■例題
図のような円弧すべりに対する斜面の安全率をフェレニウス法とビショップ法(ビショッ
プの簡便法)を用いて算出する例を示す。なお、斜面の材料定数は表のとおりとする。
図-4 対象とする斜面のすべりとスライス分割
表-3 斜面地盤の材料定数
単位体積重量 𝛾𝑡 18kN/m3
せん断抵抗角 𝜙′ 25°
粘着力 𝑐′ 5.0kN/m2
(1)フェレニウス法による安全率
フェレニウス法による安全率𝐹𝑆は、式(B.13)を用いて計算する。
𝐹𝑆 =𝑀𝑅
𝑀𝐷=
∑{𝑐′𝑖𝑙𝑖 + 𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′}
∑ 𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖
この安全率の計算にはスライス毎に計算を実行するので、次のような表を用いて計算す
ることが有効である。さらに、エクセルなどの表計算ソフトを用いると計算が容易である。
表-4 ファレニウス法による安全率計算表
𝐴𝑖
(m2)
𝑊𝑖
(kN/m)
𝛼𝑖
(°)
𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖
(kN/m)
𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
(kN/m)
𝑙𝑖
(m)
𝑐′𝑖𝑙𝑖
(kN/m)
𝑐′𝑖𝑙𝑖
+ 𝑊𝑖 cos 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
(kN/m)
① 4.32 77.7 62.9 69.2 16.5 4.43 22.2 38.7
② 10.19 183.4 44.4 128.4 61.1 2.84 14.2 75.3
③ 11.27 202.8 30.0 101.4 81.9 2.32 11.6 93.5
④ 9.04 162.7 17.5 48.8 72.4 2.10 10.5 82.9
⑤ 5.87 105.6 5.7 10.6 49.0 2.01 10.1 59.1
⑥ 3.87 69.6 -5.7 -7.0 32.3 2.01 10.1 42.4
⑦ 3.04 54.7 -17.5 -16.4 24.3 2.10 10.5 34.9
⑧ 1.27 22.8 -30.0 -11.4 9.2 2.32 11.6 20.8
𝑀𝐷 323.6 𝑀𝑅 447.4
したがって、フェレニウス法による安全率𝐹𝑆は、
𝐹𝑆 =𝑀𝑅
𝑀𝐷=
447.4
323.6= 1.38
と求められる。
(2)ビショップ法(ビショップの簡便法)による安全率
フェレニウス法による安全率𝐹𝑆は、式(D.18)を用いて計算する。
𝐹𝑆 =
𝑀𝑅
𝑀𝐷=
∑𝑐′
𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + 𝑊𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
∑ 𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖
なお、地下水が無いので、𝑈𝑖 = 0、∆𝐸𝑖 = 0である。この安全率の計算もフェレニウス法同
様スライス毎に計算を実行するので、表を用いて計算することが有効である。
フェレニウス法との違いは、安全率𝐹𝑆を求めるためには収束計算が必要である。まず、右
表-5.1 ファレニウス法による安全率計算表(𝐹𝑆 = 1.0を仮定)
𝐴𝑖
(m2)
𝑊𝑖
(kN/m)
𝛼𝑖
(°)
𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖
(kN/m)
𝑙𝑖
(m)
𝑐′𝑖
∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖
+ 𝑊𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
(kN/m)
cos 𝛼𝑖
+sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
(kN/m)
𝑐′𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + 𝑊𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
(kN/m)
① 4.32 77.7 62.9 69.2 4.43 46.3 0.87 53.2
② 10.19 183.4 44.4 128.4 2.84 95.7 1.04 91.9
③ 11.27 202.8 30.0 101.4 2.32 104.6 1.10 95.2
④ 9.04 162.7 17.5 48.8 2.10 85.9 1.09 78.5
⑤ 5.87 105.6 5.7 10.6 2.01 59.3 1.04 56.9
⑥ 3.87 69.6 -5.7 -7.0 2.01 42.5 0.95 44.8
⑦ 3.04 54.7 -17.5 -16.4 2.10 35.5 0.81 43.7
⑧ 1.27 22.8 -30.0 -11.4 2.32 20.7 0.63 32.7
𝑀𝐷 323.6 𝑀𝑅 496.9
𝐹𝑆 = 𝑀𝑅 𝑀𝐷⁄ 1.54
表-5.2 ファレニウス法による安全率計算表(𝐹𝑆 = 1.54を仮定)
𝐴𝑖
(m2)
𝑊𝑖
(kN/m)
𝛼𝑖
(°)
𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖
(kN/m)
𝑙𝑖
(m)
𝑐′𝑖
∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖
+ 𝑊𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
(kN/m)
cos 𝛼𝑖
+sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
(kN/m)
𝑐′𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + 𝑊𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
(kN/m)
① 4.32 77.7 62.9 69.2 4.43 46.3 0.73 63.8
② 10.19 183.4 44.4 128.4 2.84 95.7 0.93 103.2
③ 11.27 202.8 30.0 101.4 2.32 104.6 1.02 102.8
④ 9.04 162.7 17.5 48.8 2.10 85.9 1.05 82.2
⑤ 5.87 105.6 5.7 10.6 2.01 59.3 1.03 57.8
⑥ 3.87 69.6 -5.7 -7.0 2.01 42.5 0.96 44.0
⑦ 3.04 54.7 -17.5 -16.4 2.10 35.5 0.86 41.2
⑧ 1.27 22.8 -30.0 -11.4 2.32 20.7 0.71 29.0
𝑀𝐷 323.6 𝑀𝑅 524.0
𝐹𝑆 = 𝑀𝑅 𝑀𝐷⁄ 1.62
表-5.3 ファレニウス法による安全率計算表(𝐹𝑆 = 1.62を仮定)
𝐴𝑖
(m2)
𝑊𝑖
(kN/m)
𝛼𝑖
(°)
𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖
(kN/m)
𝑙𝑖
(m)
𝑐′𝑖
∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖
+ 𝑊𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
(kN/m)
cos 𝛼𝑖
+sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
(kN/m)
𝑐′𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + 𝑊𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
(kN/m)
① 4.32 77.7 62.9 69.2 4.43 46.3 0.71 65.1
② 10.19 183.4 44.4 128.4 2.84 95.7 0.92 104.5
③ 11.27 202.8 30.0 101.4 2.32 104.6 1.01 103.6
④ 9.04 162.7 17.5 48.8 2.10 85.9 1.04 82.6
⑤ 5.87 105.6 5.7 10.6 2.01 59.3 1.02 57.9
⑥ 3.87 69.6 -5.7 -7.0 2.01 42.5 0.97 44.0
⑦ 3.04 54.7 -17.5 -16.4 2.10 35.5 0.87 41.0
⑧ 1.27 22.8 -30.0 -11.4 2.32 20.7 0.72 28.7
𝑀𝐷 323.6 𝑀𝑅 527.2
𝐹𝑆 = 𝑀𝑅 𝑀𝐷⁄ 1.63
表-5.4 ファレニウス法による安全率計算表(𝐹𝑆 = 1.63を仮定)
𝐴𝑖
(m2)
𝑊𝑖
(kN/m)
𝛼𝑖
(°)
𝑊𝑖 sin 𝛼𝑖
(kN/m)
𝑙𝑖
(m)
𝑐′𝑖
∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖
+ 𝑊𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
(kN/m)
cos 𝛼𝑖
+sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
(kN/m)
𝑐′𝑖 ∙ 𝑙𝑖 cos 𝛼𝑖 + 𝑊𝑖𝑡𝑎𝑛𝜙′
cos 𝛼𝑖 +sin 𝛼𝑖 𝑡𝑎𝑛𝜙′
𝐹𝑆
(kN/m)
① 4.32 77.7 62.9 69.2 4.43 46.3 0.71 65.2
② 10.19 183.4 44.4 128.4 2.84 95.7 0.91 104.6
③ 11.27 202.8 30.0 101.4 2.32 104.6 1.01 103.7
④ 9.04 162.7 17.5 48.8 2.10 85.9 1.04 82.6
⑤ 5.87 105.6 5.7 10.6 2.01 59.3 1.02 57.9
⑥ 3.87 69.6 -5.7 -7.0 2.01 42.5 0.97 43.9
⑦ 3.04 54.7 -17.5 -16.4 2.10 35.5 0.87 40.9
⑧ 1.27 22.8 -30.0 -11.4 2.32 20.7 0.72 28.6
𝑀𝐷 323.6 𝑀𝑅 527.5
𝐹𝑆 = 𝑀𝑅 𝑀𝐷⁄ 1.63
辺の安全率を𝐹𝑆 = 1.0とおいて左辺の安全率を求めると表-5.1のように𝐹𝑆 = 1.54を得る。次
に、右辺の安全率を𝐹𝑆 = 1.54とおいて左辺の安全率を求めると表-5.2 のように𝐹𝑆 = 1.62を
得る。このように新しく得られた安全率を順次代入し、安全率の差が 0.01 以下となるまで
計算を繰り返すと、最終的な安全率として、𝐹𝑆 = 1.63が求まる。これがビショップ法によ
り求めた安全率である。