1 .薬剤性腎障害について - J-STAGE

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1 はじめに:薬剤性腎障害の疫学 我々が日常臨床を行っていても,薬剤性腎障害を見かけ る機会は決して少なくない.正確な発生率を求めることは 困難ではあるが, 2011 年厚生労働省科学研究費による腎臓 専門医を有する全国の主な大学病院,基幹病院を対象とし た国内アンケート調査では,全入院患者の 0.94%とされ 1) .この際の原因薬剤としては,非ステロイド性抗炎症 薬(NSAIDs),抗腫瘍薬,抗菌薬で約半数を占めていた Figure 1).また薬物有害反応を臓器別・症状別に分類した 外国の報告では,腎・電解質異常は全体の約 16%を占め, 消化器系に次いで 2 番目に頻度が高かったと報告されてい 2) 2 薬剤性腎障害と急性腎障害 薬剤性腎障害というと,NSAIDs を過量投与して乏尿や 急性腎不全を起こした,というような急性障害をイメージ することが多い.原因を問わず,現在ではこのような障害 のことを acute kidney injury AKI ;急性腎障害)と呼び,血 清クレアチニン濃度の急性変化程度によりいくつかのグ レードに大別する.そしてまた�古典的�には,薬剤性腎 障害も急性腎障害の分類と同じように,1)腎前性,2)腎 性,3)腎後性とに分類される(Figure 2).一方,薬剤性腎 障害には,後述するように AKI の範疇には入らないもの がかなり含まれる.それは,血清クレアチニン濃度を規定 する尿中へのクレアチニン排泄が,糸球体機能という腎機 能の一部を示すにすぎないからである. 3 腎機能とは そもそも生物が陸上生活を営むことができたのは,その 内部環境(細胞外液組成)に変化が起きないように適応す る機構を備えていたからである(Figure 3).腎臓はこの環 境適応に際し,その生物に適した尿を産生するという形で 52 臨床薬理 Jpn J Clin Pharmacol Ther 2017 ; 48(2): 52-57 Key wordsadverse reactionglomerular functiontubular functionguideline 日本医科大学腎臓内科 著者連絡先:鶴岡秀一 日本医科大学腎臓内科 113-8603 東京都文京区千駄木 1-1-5 E-mail[email protected] ISSN 0388-1601 Copyright : ©2017 the Japanese Society of Clinical Pharmacology and TherapeuticsJSCPT) 1 .薬剤性腎障害について ガイドラインの目指すもの 薬物治療の安全性 〈記録〉第 23 回 臨床薬理学講習会 2016 12 4 日(日)米子 1992年 2009年 抗菌薬 3位 異なるアンケート結果での、(実数ではなく)頻度調査という限界はあるが、 • 抗菌薬・抗リウマチ薬の頻度が減少 • その他の頻度増加 • 市販薬の認識 1992年 厚生省 進行性腎障害研究班 (酒井紀) 2011高齢者における薬剤性腎障害の調査,CKDの 早期発見・予防・治療標準化・進展阻止に関する 調査研究.研究代表者今井圓裕 1位 2位 NSAIDs 抗腫瘍薬 抗リウマチ薬 造影剤 その他 市販薬 その他 抗菌薬 造影剤 抗リウマチ薬 抗腫瘍薬 NSAIDs NSAIDs その他 抗菌薬 市販薬 造影剤 抗腫瘍薬 Figure 1 厚生省研究班アンケート:薬剤性腎障害における原因薬剤別頻度(単位%)

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1.はじめに:薬剤性腎障害の疫学

我々が日常臨床を行っていても,薬剤性腎障害を見かけ

る機会は決して少なくない.正確な発生率を求めることは

困難ではあるが,2011年厚生労働省科学研究費による腎臓

専門医を有する全国の主な大学病院,基幹病院を対象とし

た国内アンケート調査では,全入院患者の 0.94%とされ

る1).この際の原因薬剤としては,非ステロイド性抗炎症

薬(NSAIDs),抗腫瘍薬,抗菌薬で約半数を占めていた

(Figure 1).また薬物有害反応を臓器別・症状別に分類した

外国の報告では,腎・電解質異常は全体の約 16%を占め,

消化器系に次いで 2番目に頻度が高かったと報告されてい

る2).

2.薬剤性腎障害と急性腎障害

薬剤性腎障害というと,NSAIDs を過量投与して乏尿や

急性腎不全を起こした,というような急性障害をイメージ

することが多い.原因を問わず,現在ではこのような障害

のことを acute kidney injury(AKI;急性腎障害)と呼び,血

清クレアチニン濃度の急性変化程度によりいくつかのグ

レードに大別する.そしてまた�古典的�には,薬剤性腎

障害も急性腎障害の分類と同じように,1)腎前性,2)腎

性,3)腎後性とに分類される(Figure 2).一方,薬剤性腎

障害には,後述するように AKI の範疇には入らないもの

がかなり含まれる.それは,血清クレアチニン濃度を規定

する尿中へのクレアチニン排泄が,糸球体機能という腎機

能の一部を示すにすぎないからである.

3.腎機能とは

そもそも生物が陸上生活を営むことができたのは,その

内部環境(細胞外液組成)に変化が起きないように適応す

る機構を備えていたからである(Figure 3).腎臓はこの環

境適応に際し,その生物に適した尿を産生するという形で

52 臨床薬理 Jpn J Clin Pharmacol Ther 2017; 48(2): 52-57

Key words:adverse reaction,glomerular function,tubular function,guideline*

日本医科大学腎臓内科

著者連絡先:鶴岡秀一 日本医科大学腎臓内科 〒 113-8603 東京都文京区千駄木 1-1-5 E-mail:[email protected]

ISSN 0388-1601 Copyright : ©2017 the Japanese Society of Clinical Pharmacology and Therapeutics(JSCPT)

鶴 岡 秀 一*

1.薬剤性腎障害について

―ガイドラインの目指すもの―

薬物治療の安全性

〈記録〉第 23回 臨床薬理学講習会 2016年 12月 4日(日)米子

1992年 2009年

抗菌薬 3位

異なるアンケート結果での、(実数ではなく)頻度調査という限界はあるが、• 抗菌薬・抗リウマチ薬の頻度が減少• その他の頻度増加• 市販薬の認識

1992年 厚生省 進行性腎障害研究班(酒井紀)

2011高齢者における薬剤性腎障害の調査,CKDの早期発見・予防・治療標準化・進展阻止に関する調査研究.研究代表者今井圓裕

1位2位

NSAIDs抗腫瘍薬抗リウマチ薬造影剤その他市販薬

その他抗菌薬造影剤

抗リウマチ薬

抗腫瘍薬

NSAIDs

NSAIDs

その他

抗菌薬市販薬

造影剤

抗腫瘍薬

Figure 1 厚生省研究班アンケート:薬剤性腎障害における原因薬剤別頻度(単位%)

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大きく関与している3).ヒトの腎糸球体は血漿成分に等し

い電解質濃度を含む原尿を 1 日 150 L 産生するが,これが

尿細管を通過する間に Na+,H2O,ブドウ糖,HCO3

−などが

大量に再吸収され,一方では K+,NH4

+などの老廃物が大

量に尿細管で分泌され,結果 1 日約 1〜2 L の尿が産生さ

れる.このように腎機能には糸球体機能のみならず尿細管

機能を代表とするような多彩なものが含まれている.

4.急性腎障害に含まれない薬剤性腎障害

急性腎障害に含まれない薬剤性腎障害の例をいくつか挙

げる(Table 1,2)

1 ) 糸球体障害の例:ネフローゼ症候群

腎糸球体にはサイズバリアがあり蛋白質や細胞成分は濾

過できないが,これに障害が起こることで蛋白質まで濾過

してしまう状態がネフローゼ症候群である.したがって,

クレアチニンの濾過障害を伴わない(血清クレアチニン濃

度の上昇しない)ことも多い.薬剤によるネフローゼ症候

群としては,ブシラミンによる膜性腎症のようにアレル

鶴岡:薬剤性腎障害について 53

・腎前性:腎血流減少  ・血管収縮(NSAIDs, シクロスポリンなど)  ・体液量減少(利尿薬過剰)

・腎性:糸球体・尿細管直接障害  ・薬剤は蛋白結合が多いため、薬剤分泌による   尿細管細胞障害が主(アミノグリコシド、造   影剤、NSAIDsなど)

・腎後性:薬剤の尿細管内析出  (抗ウィルス薬、MTXなど)

輸入細動脈 輸出細動脈

⇒“薬剤による”急性腎不全、急性腎障害

・腎前性:腎血流減少  ・血管収縮(NSAIDs, シクロスポリンなど)  ・体液量減少(利尿薬過剰)

・腎性:糸球体・尿細管直接障害  ・薬剤は蛋白結合が多いため、薬剤分泌による   尿細管細胞障害が主(アミノグリコシド、造   影剤、NSAIDsなど)

・腎後性:薬剤の尿細管内析出  (抗ウィルス薬、MTXなど)

輸入細動脈 輸出細動脈

⇒“薬剤による”急性腎不全、急性腎障害

Figure 2 薬剤性腎障害の�古典的�分類

尿の産生という形で腎臓の関与

体液の区分と組成

◆生物の進化

◆細胞をとりまく環境

外部環境

Claude Bernard Milieu interieur

内部環境 =細胞外液

恒常性

恒常性Homeostasis1)体液量2)体液組成

海水 淡水魚類

両生類・爬虫類鳥類・哺乳類

陸上環境への適応

細胞外液を変化させずにすむような適応

@今井正パワーポイントで学ぶ腎臓の働き

Figure 3

薬剤性「腎障害」=薬剤による「腎機能障害」

・腎機能⇒濾過,分泌,再吸収など様々な機能

・基本的には濾過能を用いる(分泌・再吸収のない指標⇒クレアチニン濃度を濾過指標)

・しかし本来は濾過障害以外にも多彩なものがある

Table 1

�クレアチニン濃度上昇�以外の腎障害の例

1.ネフローゼ症候群(蛋白尿)

✓「濾過できない」ではなく「濾過しないものを濾過」

✓間接(アレルギー・免疫学的機序)性が主であった

例:ブシラミン,NSAIDS

✓近年糸球体血管を直接に障害する薬剤も出現しはじめた

例:抗 VEGF抗体

2.水・電解質異常

✓直接にネフロン構成細胞を障害する

・近位尿細管機能 例:アミノグリコシド

・集合管機能障害 例:ST合剤,シクロスポリン

Table 2

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ギー性(間接性)に起こるものが多い.しかし,近年は抗

VEGF(血管内皮増殖因子)抗体のように,直接性に発症す

るものもある.元々糸球体血管内皮細胞には VEGF 受容体

があり,糸球体上皮細胞の分泌した VEGF によるサイズバ

リア維持に関与している.抗 VEGF 抗体はこの機能を障害

するためネフローゼ症候群を呈するとされている4�.

2 ) 尿細管障害の例:高カリウム血症

尿細管障害もアレルギー性に起こることで電解質異常を

きたすことが多いと考えられてきた.しかし,近年では直

接に用量依存性に障害を起こすものが多数同定されてきて

いる.腎集合管は尿細管の中で唯一カリウムを分泌するが,

ここが直接障害されるとカリウム分泌が低下し高カリウム

血症を生じる.ST 合剤は高カリウム血症をきたすことが

知られているが,この成分のうちトリメトプリムが直接か

つ用量依存性にカリウム分泌を抑制し,もう一つの成分で

あるサルファメトキサゾールにはその作用がないことも報

告されている5�(Figure 4).メシル酸ナファモスタットも同

様の機序で直接的に高カリウム血症をきたす6�.

糸球体濾過障害によっても高カリウム血症をきたすた

め,日常臨床で見かける高カリウム血症がすべて糸球体障

害によると誤解されている.しかし実際には,糸球体濾過

量がかなり(<30 mL/min とされる)低下しないと糸球体

障害による高カリウム血症は生じないとされる.そのため

臨床場面で見られる高カリウム血症のかなりの部分は尿細

54 臨床薬理 Vol. 48 No. 2�2017� 第 23 回 臨床薬理学講習会記録

管腔内トリメトプリムは用量依存性にNaコンダクタンスを抑制

サルファメトキサゾールはNaコンダクタンスに影響しない

Muto et al. Nephron 2006

Figure 4 ウサギ皮質集合管 Na コンダクタンスへの ST合剤の影響

アシドーシスにすると基底膜側Cl除去時の細胞内pH低下反応が消失CsA併用で適応現象が消失     ⇒直接(用量依存)に遠位型尿細管性アシドーシス発症

カルシニューリン阻害作用のないCsAアナログでも同様peptidyl prolyl cis-trans isomerase activityによる

Watanabe et al. Am J Physiol 2004

Figure 5 酸負荷時集合管間在細胞内 pHの変化に対するシクロスポリン A(CsA)の効果

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管性であるにもかかわらず糸球体性と誤解されていると考

えられるため注意が必要である.

3 ) 尿細管障害の例:遠位型尿細管性アシドーシス

また,集合管はカリウム分泌のみならず水素イオン分泌

も司っている.そのため集合管の直接障害により水素イオ

ン排泄障害(遠位型尿細管性アシドーシス;dRTA)が起こ

る.一方,高度な糸球体障害時にも代謝性アシドーシスが

起こる.しかし,先ほどの高カリウム血症同様に,糸球体

障害が軽微な際にみられるアシドーシスのかなりの部分は

この dRTAを誤解していると考えられるので,注意が必要

である.薬剤による直接性 dRTA としてはシクロスポリン

が知られている7)(Figure 5).シクロスポリンは腎輸入細動

脈を収縮させるとともにアシドーシスをきたすため,すべ

て糸球体性と考えられがちであるが,症例によっては集合

管直接障害が先行する場合があるので特に注意が必要であ

る.

5.透析導入患者を減らすための新しい薬剤性腎障害ガイ

ドライン

このように腎機能は多彩であり,腎障害の機序も多彩で

ある.薬剤性腎障害も,発症形式が急性のものとは限らず,

また障害形式も従来から重要視されてきたクレアチニン排

泄とは無関係なものまであることがわかり,多彩な形式で

生じることがわかってきた(Figure 6).さらに重要なこと

に,ネフローゼ症候群や尿細管障害などのクレアチニン排

泄障害を伴わない腎障害が長期間続くことによっても糸球

体におけるクレアチニンや老廃物の排泄障害を引き起こす

ことが判明した8).透析患者の中には,このような�一見軽

微な�障害を過去に複数受けた結果徐々に腎機能が低下し,

さらに脱水・感染・薬剤暴露など�最後の一撃�を受けて

透析導入となった患者が増えつつある(Figure 7).この�一

見軽微な�障害の中にも薬剤によるものがかなり含まれて

いるようで,このような障害まで認識し対処することが,

ひいては透析導入を減らす大きな対策の一つと考えられて

いる.

このような背景のもと,日本医療研究開発機構(AMED)

腎実用化研究事業の一つとして薬剤性腎障害診療ガイドラ

イン 2016 が昨年(2016 年)刊行された9).筆者も参加させ

ていただいたが,重要な点はこのように広範な薬剤による

腎障害を drug-induced kidney injury;DKIという新しい概念

鶴岡:薬剤性腎障害について 55

急性腎障害

血清Cr・尿量の急性異常

薬剤性腎障害薬剤による腎機能異常

急性・亜急性・慢性

尿量・Cr以外も含めた腎機能の異常

Adverse reaction,dysfunction

Acute injury慢性腎臓病・慢性腎不全(⇒透析)の

大きなリスク

Figure 6

加齢 高血圧・ARB

年透析導入

糸球体濾過率GFR

腰痛・カゼNSAIDs

心不全・利尿薬治療低カリウム/脱水

透析導入までに複数の薬剤が、様々な時相で関連して完成した腎不全症例が多い

特に複合技に注意!

Figure 7 �典型的な�ある透析導入患者の腎機能推移

「薬剤性腎障害診療ガイドライン 2016」(AMED 2015 年腎実用化研究事業)

診断

1 ) 該当する薬剤の投与後に新たに発生した腎障害であること

2 ) 該当薬剤の中止により腎障害の消失,進行の停止を認めること

上記の 1)2)があれば診断できる.

ただし

①薬剤投与から発症までの時間が個々の薬剤で異なること

②既存の腎障害の存在などにより,診断に難渋すること

③原因と推定される薬剤も複数が該当し,確定診断は困難なことが多々あること

④ときに腎障害が固定して改善しないこと,長期にわたり緩徐に進行する場合があること

以上の問題点もあり,薬剤性腎障害の診断並びに原因薬剤の特定がしばしば困難となる.

発症機序による主な臨床病型・病態・薬剤名を列挙

Table 3

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のもとに新たに定義したことである.さらに診断基準とし

て,1)薬剤投与から発症までの時間が個々の薬剤で異なる

こと,2)ときに腎障害が固定して改善せず長期にわたり緩

徐に進行する場合がある,と明記したことである(Table

3).これに加えて,3)発症機序による主な臨床病型・病態・

薬剤名を列挙し,急性腎障害に含まれないような腎障害,

特に直接性の障害にも目をむけている(Table 4).

6.おわりに

薬物有害反応の一つとして薬剤性腎障害について,特に

最近のガイドラインについて概説した.まだ薬剤による腎

障害には機序不明のままのものも多く,これからも透析導

入リスク軽減までも念頭に置いた,腎臓に関する薬物有害

反応の回避が重要である.

文 献

1) 今井圓裕.高齢者における薬剤性腎障害の調査:CKD の早期発

見・予防・治療標準化・進展阻止に関する調査研究(厚生労働省

科学研究費事業).2011.

2) Gurwitz JH, Field TS, Harrold LR, Rothschild J, Debellis K, Seger AC,

et al. Incidence and preventability of adverse drug events among older

persons in the ambulatory setting. JAMA. 2003; 289 �9) : 1107-16.

doi : 10.1001/jama.289.9.1107.

3) 今井正.体液の区分と組成.パワーポイントで学ぶ腎臓の働き.

東京医学社,2004.

4) Ballermann BJ. Contribution of the endothelium to the glomerular

permselectivity barrier in health and disease. Nephron Physiol. 2007;

106�2) : p19-25. doi : 10.1159/000101796.

56 臨床薬理 Vol. 48 No. 2�2017) 第 23 回 臨床薬理学講習会記録

尿細管毒性物質による急性尿細管壊死,尿細管萎縮

病態

過剰にプリン体生成の結果,尿酸結石により閉塞

急性腎障害,水腎症

抗ウィルス薬,抗菌薬の一部

非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs),重金属,アリストロキア酸

アミノグリコシド系抗生物質,白金製剤,ヨード造影剤,バンコマイシン,コリスチン,浸透圧製剤

主要薬剤

尿路閉塞性

中毒性

発症機序

Table 4

ビタミン D製剤,カルシウム製剤

急性腎障害

慢性腎不全

急性腎障害,慢性腎不全

主な臨床病型

高カルシウム血症による浸透圧利尿多尿

利尿薬,下剤慢性低カリウム血症による尿細管障害偽性バーター症候群

抗癌剤による腫瘍崩壊症候群

結晶形成性薬剤による尿細管閉塞

慢性間質性腎炎

間接毒性

同上腎血流障害の遷延による急性尿細管壊死急性腎障害

各種向精神薬,スタチン類,フィブラート系横紋筋融解症による尿細管障害→尿細管壊死

急性腎障害

カルシニュリンインヒビター,NSAIDs,ヨード造影剤,利尿薬

各薬剤の作用部位による低ナトリウム血症

NSAIDs主に遠位尿細管障害低カリウム血症

金製剤,d-ペニシラミン,ブシラミン,NSAID,カプトプリル,インフリキシマブ

膜性腎症タンパク尿〜ネフローゼ

d-ペニシラミン,ブシラミン半月体形成性腎炎急性腎障害〜慢性腎不全

プロピルチオウラシル(PTU),アロプリノール,d-ペニシラミン

ANCA 関連血管炎急性腎障害〜慢性腎不全

NSAIDs,RAS阻害薬(ACEI,ARB,抗アルドステロン薬)

腎血流量の低下,脱水/血圧低下に併発する急性尿細管障害

急性腎障害

アミノグリコシド系抗生物質近位尿細管での各種障害近位尿細管障害

リチウム製剤,アムホテリシン B,ST合剤,カルシニュリンインヒビター

集合管での各種障害(カリウム・酸排泄障害)

遠位尿細管障害(カリウム血症,遠位型尿細管性アシドーシス)

抗菌薬,H2ブロッカー,NSAIDs など多数急性尿細管間質性腎炎急性腎障害

アレルギー・免疫学的機序

金製剤,d-ペニシラミン,NSAID,リチウム製剤,インターフェロン a,トリメタジオン

微小変化型ネフローゼネフローゼ

カルシニュリンインヒビター,マイトマイシン C

血栓性微小血管症急性腎障害

リチウム製剤,アムホテリシン B集合管での尿濃縮障害腎性尿崩症

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52-57_RY0204責B.mcd Page 7 17/03/23 08:54 v6.10

5) Muto S, Tsuruoka S, Miyata Y, Fujimura A, Kusano E. Effect of

trimethoprim-sulfamethoxazole on Na and K+transport properties in

the rabbit cortical collecting duct perfused in vitro. Nephron Physiol.

2006; 102(3-4) : p51-60. doi : 10.1159/000089682.

6) Muto S, Imai M, Asano Y. Mechanisms of the hyperkalaemia caused by

nafamostat mesilate : effects of its two metabolites on Na+

and K+

transport properties in the rabbit cortical collecting duct. Br J

Pharmacol. 1994; 111(1) : 173-8. doi : 10.1111/j.1476-5381.1994.

tb14040.x.

7) Watanabe S, Tsuruoka S, Vijayakumar S, Fischer G, Zhang Y,

Fujimura A, et al. Cyclosporin A produces distal renal tubular acidosis

by blocking peptidyl prolyl cis-trans isomerase activity of cyclophilin.

Am J Physiol Renal Physiol. 2005; 288(1) : F40-7. doi : 10.1152/

ajprenal.00218.2004.

8) Vallet M, Metzger M, Haymann JP, Flamant M, Gauci C, Thervet E, et

al. Urinary ammonia and long-term outcomes in chronic kidney disease.

Kidney Int. 2015; 88(1) : 137-45. doi : 10.1038/ki.2015.52.

9) 薬剤性腎障害診療ガイドライン 2016.日腎会誌.2016;58(4):

477-555.

鶴岡:薬剤性腎障害について 57