時系列リモートセンシング技術を用いた森林解析 Yasumichi Created Date 6/16/2005...

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【衛星リモートセンシング地域応用成果報告】林業分野 時系列リモートセンシング技術を用いた森林解析 -航空機リモセンによる事例と衛星リモセンへの展望- 国立環境研究所 米 康充・小熊 宏之 1.はじめに 温室効果ガス排出の削減目的を定めた京都議定書が批准され、森林の CO2 吸収量を精度良く評 価する手法の研究・開発が求められている。そのためには、精度の良い森林材積 (バイオマス) 測手法と樹齢構成や回転時間(森林が入れかわるのにかかる時間)情報が必要となる。森林材積を高 精度に計測する方法として期待されているものにレーザ計測がある (山形ら,2001,米ら, 2002) そこで、まず最初に航空機レーザ計測による森林計測を紹介する。一方齢構成・回転時間につい ては、人工林においては森林簿の植栽年等で把握できるが、天然林では把握は困難である。天然 林は人工林と異なり「更新時期」が明確ではなく、また不均一性を持つため、広域に継続的な調 査が必要となる。この点航空写真は、過去 50 年のデータを入手することが可能な唯一のものであ ると考えられる。そこで、次に航空写真を用いた森林計測手法を紹介する。さらに、今後広域化 を図るためには、衛星リモセンを視野に入れなくてはならないが、これら航空機リモセンで得ら れた知見を生かしていく方法について最後に述べる。 2.航空機レーザ計測 国有林苫小牧 1198 林班のカラマツ人工林(1958 年植栽)を対象に 1999 年、 2001 年、 2003 年に レーザ計測を行い、その間の林分成長について解析を行った事例を紹介する。 レーザ計測により観測されたデータは、レーザ反射位置の3次元座標の点群として取得される。 この点群から樹冠上面標高である DSM(Digital Surface Model)データと、立木等のノイズを除去 した地盤標高である DTM(Digital Terrain Model)データを作成した。DSM DTM の差分を DCHM(Digital Canopy Height Model)とし(図-1)、その DCHM から Watershed アルゴリズ ムを用いて樹冠の抽出を行い、個体毎の樹高の計測を行った(図-2)。一方、林分材積の推定に は、推定樹高から胸高直径を推定し材積表を用いて求めた。また上空から検出の困難な下層木に ついては、MNY (Hozumi1971) を使用して本数の推定を行った。 DSM DTM DCHM 計測データ 樹冠抽出 抽出樹冠 補間地盤高 計測点データ 計測樹高 抽出樹冠内の 最高点 抽出樹冠内の 最低地盤高 樹冠外周の自動抽出 樹冠パルス 地盤パルス 計測データ 樹冠抽出 抽出樹冠 補間地盤高 計測点データ 計測樹高 抽出樹冠内の 最高点 抽出樹冠内の 最低地盤高 樹冠外周の自動抽出 樹冠パルス 地盤パルス 図-1 DSM DTM, DCHM 図-2 樹高計測の手順 レーザ計測による林分上層木の平均樹高と樹高階別本数を図-3に示す。林分平均樹高の年平 均伸張量は 0.23~0.25cm·y -1 であった。本調査地に隣接する 1197 林班にてカラマツ 10 本を伐倒 し、梢端の分枝点間距離から年あたりの伸張量を調査したところ、約 0.25cm·y -1 であったことか ら、本手法による林分樹高の成長量計測は有効な手法であると考えられる。 25

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【衛星リモートセンシング地域応用成果報告】林業分野

時系列リモートセンシング技術を用いた森林解析

-航空機リモセンによる事例と衛星リモセンへの展望-

国立環境研究所 米 康充・小熊 宏之 1.はじめに

温室効果ガス排出の削減目的を定めた京都議定書が批准され、森林の CO2 吸収量を精度良く評

価する手法の研究・開発が求められている。そのためには、精度の良い森林材積 (バイオマス) 計測手法と樹齢構成や回転時間(森林が入れかわるのにかかる時間)情報が必要となる。森林材積を高

精度に計測する方法として期待されているものにレーザ計測がある (山形ら,2001,米ら, 2002) 。そこで、まず最初に航空機レーザ計測による森林計測を紹介する。一方齢構成・回転時間につい

ては、人工林においては森林簿の植栽年等で把握できるが、天然林では把握は困難である。天然

林は人工林と異なり「更新時期」が明確ではなく、また不均一性を持つため、広域に継続的な調

査が必要となる。この点航空写真は、過去 50 年のデータを入手することが可能な唯一のものであ

ると考えられる。そこで、次に航空写真を用いた森林計測手法を紹介する。さらに、今後広域化

を図るためには、衛星リモセンを視野に入れなくてはならないが、これら航空機リモセンで得ら

れた知見を生かしていく方法について最後に述べる。 2.航空機レーザ計測

国有林苫小牧 1198 林班のカラマツ人工林(1958 年植栽)を対象に 1999 年、2001 年、2003 年に

レーザ計測を行い、その間の林分成長について解析を行った事例を紹介する。 レーザ計測により観測されたデータは、レーザ反射位置の3次元座標の点群として取得される。

この点群から樹冠上面標高である DSM(Digital Surface Model)データと、立木等のノイズを除去

した地盤標高である DTM(Digital Terrain Model)データを作成した。DSM と DTM の差分を

DCHM(Digital Canopy Height Model)とし(図-1)、その DCHM から Watershed アルゴリズ

ムを用いて樹冠の抽出を行い、個体毎の樹高の計測を行った(図-2)。一方、林分材積の推定に

は、推定樹高から胸高直径を推定し材積表を用いて求めた。また上空から検出の困難な下層木に

ついては、MNY 法 (Hozumi,1971) を使用して本数の推定を行った。

DSM

DTM

DCHM

計測データ

樹冠抽出

抽出樹冠

補間地盤高

計測点データ

計測樹高

抽出樹冠内の最高点

抽出樹冠内の最低地盤高

樹冠外周の自動抽出

樹冠パルス

地盤パルス

計測データ

樹冠抽出

抽出樹冠

補間地盤高

計測点データ

計測樹高

抽出樹冠内の最高点

抽出樹冠内の最低地盤高

樹冠外周の自動抽出

樹冠パルス

地盤パルス

図-1 DSM と DTM, DCHM 図-2 樹高計測の手順

レーザ計測による林分上層木の平均樹高と樹高階別本数を図-3に示す。林分平均樹高の年平

均伸張量は 0.23~0.25cm·y-1であった。本調査地に隣接する 1197 林班にてカラマツ 10 本を伐倒

し、梢端の分枝点間距離から年あたりの伸張量を調査したところ、約 0.25cm·y-1であったことか

ら、本手法による林分樹高の成長量計測は有効な手法であると考えられる。

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【衛星リモートセンシング地域応用成果報告】林業分野

図-3 レーザ計測により得られた林分平均樹高(左)と樹高階別本数(右)

次に、毎木調査・レーザ計測・レーザ計測と MNY 法による樹高階別本数を図-4に、推定林

分材積を図-5に示す。これらの結果からは、レーザ計測により取得できた個体が上層木のみで

あり、林分材積は過小評価される傾向があった。しかし、MNY 法を適用したところ、その推定

分布様式は毎木調査によって得られた分布様式と近い結果となった。また、林分材積の過小評価

傾向も改善され、毎木調査による林分材積に近い結果を得ることができた。

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1999 2001 2003

Year

Tree

Hei

ght (

m)

Avg.+S.D.-S.D.

n=507 n=523 n=505

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6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

Height (m)

Num

ber o

f Tre

es (h

a-1) 1999

2001

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Height (m)

Num

ber o

f Tre

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a-1) B2001

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1999 2001 2003

ear

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3 ha-1

)

(P) complete enumeration

(F) laser survey

(B) prediction from laser surveyusing the MNY method

Y

図-4 樹高階別本数の例(2001 年) 図-5 林分材積の変化

実線:レーザ 波線:毎木調査 細線:MNY 法 実線:レーザ 波線:毎木調査 細線:MNY 法

3.航空写真測量による計測

北海道北部に位置する北海道大学中川研究林の照査法試験林(天然林施業実験林)を対象に航空

写真を用いて、デジタル写真測量解析を行った事例を紹介する。

調査には 1980、1991、2001 年撮影の 1/20,000 航空写真を使用した。まず最初に、航空写真上

に実座標と対応する点 (GCP) の標定を行うが、調査地には明瞭な地物が少ないため森林基本図 (1:5000) と対応点を探すのが困難である。そこで当該林分で取得されたレーザ計測データ DSMを作成し、この DSM 上の点と写真上との対応点を探し GCP とした。この標定結果をもとに空中

三角測量を行い、撮影時のカメラの座標と傾きを算出する。最後に、隣り合う二枚の航空写真の

ステレオペアを用い自動画像マッチング処理を行うことで、写真撮影時の DSM を再現した(図-

6)。次に 2001 年 DSM から 1980 年 DSM の差分を図-7に示す。これによると、DSM の差分

解析で現地での施業等が推察できることがわかる。

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【衛星リモートセンシング地域応用成果報告】林業分野

0 250 500 m

標高変化量

造林地

択抜・林道開設造林地

補助造林地

河畔林

造林地

択抜・林道開設造林地

補助造林地

河畔林

-10m

0m

+10m

-10m

0m

+10m

図-6 航空写真による鳥瞰図の例 図-7 DSM変化量と現地の対応

次に、森林の回転時間の計算をこのDSM変化量から行った。1980 年から 2001 年の間に地盤高

は変わらなかったと仮定して各年のDCHMを、DSMからレーザ計測により得たDTMとの差をと

ることで求めた。DCHMが 10m以上のクラスから 5m以下のクラスに遷移する場合を枯死、5m以下のクラスから 5m以上のクラスに遷移する場合を更新と考え、それぞれの面積と時間から回

転時間を求めたところ、91 年~96 年となった。調査地の周辺の原生林の回転時間は 100~200 年

との報告があるが、本結果はこれよりも短く、施業により回転時間が早くなっているものと考え

られた。また、DCHMから 2500 ㎡毎の林分材積を推定したところ、RMSE=30~40m3ha-1で推定

することができた。 4.衛星リモセンへ

上記、航空機レーザ計測・航空写真測量による方法で共通した計測対象は、DTM と DSM であ

る。DTM 計測は航空機レーザ計測で行う必要があるが、DSM は航空機レーザ計測・航空写真測

量と異なる手法であっても連続した観測が可能であった。森林モニタリングの目的であれば、

DTM は不変と仮定できるため、DTM が共通基盤データとして整備されるなら、森林モニタリン

グでは DSM 観測のみ行えば良いことになる。DSM 計測であれば、範囲・頻度・解像度によって

様々なセンサーが利用可能であり、航空機レーザ・航空写真測量で得られた知見(林分材積表や

理論)がそこに使用できるものと考えられる。広域観測では衛星リモセンが有利である。今後、

衛星リモセンの中でも高解像度で DSM が得られるものとして、ALOS の PRISM(画像解像度

2.5m の画像 3 枚から DSM を発生)や、TerraSAR-X (X バンドの干渉 SAR; DSM 解像度 10m×

10m、相対高さ精度 <2m) がある。それぞれ 2005 年、2006 年に打ち上げが予定されており、そ

の成果が期待される。 引用文献

山形与志樹・小熊宏之・土田 聡・関根秀真・六川修一(2001): 京都議定書で評価される吸収

源活動のモニタリングと認証に関わるリモートセンシング計測手法の役割. 日本リモートセンシ

ング学会誌, 21(1): 43-57.

米 康充・小熊宏之・山形与志樹(2002):京都議定書に関わる吸収源計測システムの開発-航空

機 Lidar によるカラマツ林の樹冠計測と材積・炭素重量計測精度の検証-. 日本リモートセンシン

グ学会誌, 22(5): 531-543.

Hozumi, K 1971. Studies on the frequency distribution of the weight of individual trees

in a forest stand III. A beta-type distribution. - Jpn. J. Ecol. 21: 152-167.

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