ジオエコノミクス・レビュー Vol.15 20160903

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1 ジオエコノミクス・レビュー 1 巻 15 号 理論編 会社にも外交政策が必要とされる!? ハーバード・ビジネス・レビュー最新号に、このような題目の論文が掲載されました。 「あなたの会社が外交政策を必要とする理由: 多国籍企業は、増大する地政学的 不確実性に対応しなければならない」 ジョン・チップマン 最近、地政学がビジネスの世界でも注目を集めつつあります。私たちは何となく国際 情勢に何となく不安を感じ、今後の世界がどうなるのかに目を向けずにはいられない のかもしれません。たしかに日本企業を取り巻く環境を見ても、無差別テロの脅威も さることながら、南シナ海や東シナ海の動向も注視せざるを得ない環境になってきて います。また記憶に新しいところとしましては、英国の EU 離脱が挙げられます。ヨーロ ッパでビジネスを展開する企業にとっては大きな影響があると考えられ、まさに起こった 「不測のリスク」への対応が迫られています。 いま、ビジネスリーダーから地政学的リスクが注目される理由 このように今一度地政学的リスクがビジネスリーダーの最重要アジェンダの 1 つとして 浮上してきたのには、いくつかの背景が考えられます。ジョン・チップマン氏の記事は以 下のような理由を挙げています。 まず第一に、米国の孤立主義への回帰傾向です。オバマ大統領は同盟関係や、 アジアへの「ピボット(旋回)」を強調することもありますが、いずれも敏捷性や決意・ 覚悟を欠いており、それがグローバルな秩序への脅威となっていると指摘しています。 今回の米大統領選でも、孤立主義やナショナリズムに訴える候補が支持を獲得して いる傾向も見受けられます。その意味でも、大統領選の行方、両候補の外交政策 から目が離せません。 ご挨拶 本ニューズレターも第 15 号発行とな りました。 本ニューズレターでは最近注目を集 めている「ジオエコノミクス」的観点か ら日本を取り巻く政治経済情勢を 分析し、皆様のビジネス上の意思 決定の一助となれればと思っており ます。 今回は閑話休題。最近ハーバー ド・ビジネス・レビューに掲載された記 事について解説します。 株式会社藤村総合研究所 代表取締役 藤村慎也

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ジオエコノミクス・レビュー 1 巻 15 号 理論編

会社にも外交政策が必要とされる!?

ハーバード・ビジネス・レビュー最新号に、このような題目の論文が掲載されました。

「あなたの会社が外交政策を必要とする理由: 多国籍企業は、増大する地政学的

不確実性に対応しなければならない」 ジョン・チップマン

最近、地政学がビジネスの世界でも注目を集めつつあります。私たちは何となく国際

情勢に何となく不安を感じ、今後の世界がどうなるのかに目を向けずにはいられない

のかもしれません。たしかに日本企業を取り巻く環境を見ても、無差別テロの脅威も

さることながら、南シナ海や東シナ海の動向も注視せざるを得ない環境になってきて

います。また記憶に新しいところとしましては、英国の EU 離脱が挙げられます。ヨーロ

ッパでビジネスを展開する企業にとっては大きな影響があると考えられ、まさに起こった

「不測のリスク」への対応が迫られています。

いま、ビジネスリーダーから地政学的リスクが注目される理由

このように今一度地政学的リスクがビジネスリーダーの最重要アジェンダの 1 つとして

浮上してきたのには、いくつかの背景が考えられます。ジョン・チップマン氏の記事は以

下のような理由を挙げています。

まず第一に、米国の孤立主義への回帰傾向です。オバマ大統領は同盟関係や、

アジアへの「ピボット(旋回)」を強調することもありますが、いずれも敏捷性や決意・

覚悟を欠いており、それがグローバルな秩序への脅威となっていると指摘しています。

今回の米大統領選でも、孤立主義やナショナリズムに訴える候補が支持を獲得して

いる傾向も見受けられます。その意味でも、大統領選の行方、両候補の外交政策

から目が離せません。

ご挨拶

本ニューズレターも第 15号発行とな

りました。

本ニューズレターでは最近注目を集

めている「ジオエコノミクス」的観点か

ら日本を取り巻く政治経済情勢を

分析し、皆様のビジネス上の意思

決定の一助となれればと思っており

ます。

今回は閑話休題。最近ハーバー

ド・ビジネス・レビューに掲載された記

事について解説します。

株式会社藤村総合研究所 代表取締役

藤村慎也

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第二に、経済制裁の増加が挙げられます。ウクライナ問題に関するロシアへの対応、

核実験問題に関するイランや北朝鮮への対応もそうですが、国家間の紛争解決の

手段として経済制裁を利用することが増えているそうです。言うまでもなく、それらの

諸国で事業展開している企業は突如貿易が行えなくなることもあり得るわけで、甚

大な影響を受けます。

第三に、南南貿易の増加が挙げられます。成長市場である新興国でのビジネスは

日々増える一方ですが、それらの中には相対的に政情不安定な国が多いということ

です。その国の内政環境自体が、地政学的リスクとなりえます。

“多国籍企業は、増大する地政学的不確実性に対応しなければならな

い。” ジョン・チップマン

「会社の外交政策」のあるべき姿とは!?

それでは、企業としてはどのような対策を取れば良いのでしょうか。チップマン氏は、会

社の外交政策として大きく 2 つの要素が必要であるとしています。

まず 1 つ目が、「地政学的デュー・ディリジェンス」です。これまでもカントリー・リスクに

関するデュー・ディリジェンスは行われてきました。しかしながら、これからは「国」単位でのデュー・ディリジェンスでは追いつかないと言いま

す。すなわち、トランズナショナル=国内外に深くまたがるようなリスクや、数か国にまたがる地域レベルのリスク、そして、一国内の特定

の地域に関わるリスクといったように、様々なレベルでの地政学的リスクの把握が必要だということです。加えて意外と見落とされがちな

のが、本国や近隣でのリスクだそうです。英国企業のうち、本気で EU から離脱することになると考えた人が、どれほどいたでしょうか。

2 つ目は、「企業外交」です。会社としての外交政策のスタンスを決め、人間関係を築き、積極的に関わっていくことが必要なのだそう

です。これはデュー・ディリジェンスよりも更に厄介かもしれません。日本企業でも国内でロビイングを行うための組織は充実させていると

ころもありますが、外国までは手が回っていないことも多いかもしれません。また、すべての国で積極的に活動することは不可能ですか

ら、優先順位づけや、現地専門家とのネットワークも課題となってきます。

私たちは冷戦後の 20 年とは別次元の「不安定な時代」に突入しており、それらのリスクへの対応が求められていると言えそうです。

参考文献

John Chipman, “Why Your Company Needs a Foreign Policy”, Harvard Business Review, Sep. 2016

MIT、スタータという名物の建物の前

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