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はじめに 竹は中山間地域の身近な資源として長年に わたり様々な分野で利活用されてきたが、高 度経済成長に伴う生活様式の変化やグローバ ル化による安価な製品の輸入等により竹林・ 竹材利用の激減、更に、管理してきた竹林所 有者の高齢化や後継者不足等に伴い管理され ない放置林が急増し“社会問題”ともなってい る。 そこで、竹の良さを見直しその特性を活か すための整備法や竹林・竹材利用について報 告する。 国内の主要な竹 日本列島は沖縄から北海道までの南北に長 くしかも標高の高低差もあって、温度や降水 量等の気候変化に富み竹の種類も約 650 と言 われ多種多様であるが、多くは笹系統で竹細 工や農林水産業用資材・建築資材など多様な 用途に使用されるのはモウソウチク、マタケ、 ハチクでこれが日本を代表する竹とも言える。 なお、竹と笹の区別について一般には大き いものを竹、小さいものを笹と漠然と言われ ているが正確には竹の皮の落ち方に違いが見 られタケノコの成長とともに落ちていくもの を竹、いつまでも節に残っているものを笹と 言っている。例えば日本の三大有用竹である モウソウチクやマタケ及びハチク等は竹であ り、メダケやヤダケ等は笹に分類される。 国内の竹分布は関東以西、特に九州・四国 など温暖多雨地域ではモウソウチク・マタケ 等の大径竹が多く、ササ系統は関東以北や関 東以西でも標高の高い所に多く見られる。 これら国内の竹林面積は約 26 万 ha と言 われるが、今日では放置によって旺盛な繁殖 力を持つモウソウチクの自然増の傾向が強く みられる。竹種割合でみると全国的にはマタ ケ 60%、モウソウチク 30%、その他 10%で あるが、筆者の住んでいる福岡県ではモウソ ウチク 62%、マタケ 32%、その他6%と地域 により更に市町村によってその割合は大きく異 なっている。 竹種の特性も様々で主要三大竹で比較する と、マタケは最も竹稈長が高く節間も長く、 更に弾力性に優れているために竹細工用資材 としての利用価値が高く、また環境への順応 性も高いので全国に分布している。一方、モ ウソウチクは稈の大きさが最大で目通直径 (地上部約 1.5 m)で 15~16cm にもなるが、 竹稈長はマタケより低く、弾力性が劣りその うえ肉厚のために竹細工用としての利用は少 ない。ところが食用としてのタケノコは重量 九州における放置竹林問題と求められる対応方策 ―タケノコと竹の有用性を踏まえて― 竹林利活用アドバイザー 野中重之 44 地方自治ふくおか 68 号

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はじめに

竹は中山間地域の身近な資源として長年にわたり様々な分野で利活用されてきたが、高度経済成長に伴う生活様式の変化やグローバル化による安価な製品の輸入等により竹林・竹材利用の激減、更に、管理してきた竹林所有者の高齢化や後継者不足等に伴い管理されない放置林が急増し“社会問題”ともなっている。

そこで、竹の良さを見直しその特性を活かすための整備法や竹林・竹材利用について報告する。

1 国内の主要な竹

日本列島は沖縄から北海道までの南北に長くしかも標高の高低差もあって、温度や降水量等の気候変化に富み竹の種類も約 650 と言われ多種多様であるが、多くは笹系統で竹細工や農林水産業用資材・建築資材など多様な用途に使用されるのはモウソウチク、マタケ、ハチクでこれが日本を代表する竹とも言える。

なお、竹と笹の区別について一般には大きいものを竹、小さいものを笹と漠然と言われているが正確には竹の皮の落ち方に違いが見られタケノコの成長とともに落ちていくもの

を竹、いつまでも節に残っているものを笹と言っている。例えば日本の三大有用竹であるモウソウチクやマタケ及びハチク等は竹であり、メダケやヤダケ等は笹に分類される。

国内の竹分布は関東以西、特に九州・四国など温暖多雨地域ではモウソウチク・マタケ等の大径竹が多く、ササ系統は関東以北や関東以西でも標高の高い所に多く見られる。

これら国内の竹林面積は約 26 万 ha と言われるが、今日では放置によって旺盛な繁殖力を持つモウソウチクの自然増の傾向が強くみられる。竹種割合でみると全国的にはマタケ 60%、モウソウチク 30%、その他 10%であるが、筆者の住んでいる福岡県ではモウソウチク 62%、マタケ 32%、その他6%と地域により更に市町村によってその割合は大きく異なっている。

竹種の特性も様々で主要三大竹で比較すると、マタケは最も竹稈長が高く節間も長く、更に弾力性に優れているために竹細工用資材としての利用価値が高く、また環境への順応性も高いので全国に分布している。一方、モウソウチクは稈の大きさが最大で目通直径

(地上部約 1.5 m)で 15~16cm にもなるが、竹稈長はマタケより低く、弾力性が劣りそのうえ肉厚のために竹細工用としての利用は少ない。ところが食用としてのタケノコは重量

九州における放置竹林問題と求められる対応方策―タケノコと竹の有用性を踏まえて―

竹林利活用アドバイザー 野中重之

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感があり春の食材として九州・四国・関西・関東等タケノコ産地が多い。ハチクはマタケと似た竹材特性を持ち、特に弾力性に優れ、竹細工用として貴重で、更にタケノコとしての美味しさはモウソウチク・マタケ以上で5月のタケノコとして珍重されている。

2 日本人は竹の特性を上手に利用してきた

竹は身近な生活や生産資材として竹細工・農林漁業・建築・食用として、文化芸術では地域の民俗行事や茶道、竹取物語など文学の題材として、また防災面では河川堤防の護岸や防風・地震時における緊急避難場所の植物としての利用、庭園では住環境の潤いをもたらすなど竹の特性を活かして様々な所で利用されている。

竹の特性を木材と比較すると、先ず「弾力性」に優れていること、例えば釣竿など曲がっても元に復元するし、「柔軟性」「割裂性」と言う点では細く・薄く削って竹ひごができ、これで竹篭や提灯など多様な竹製品が作られている。そのほか「非伸縮性」と言って竹は充分な乾燥をさせれば非常に伸び縮みが少なく、竹尺や計算尺にも利用される。更に竹は中空で軽量、しかも通直なため有明海に於ける海苔養殖支柱竹として昭和 50 年代まで大量に利用されてきた。また、竹は炭化すれば微細なハニカム構造(ハチの巣状)特性を活かして、土壌改良材や床下調湿材用等としての利用、炭化時に得られる竹酢液を精製して植物の生長促進や殺菌・殺虫用にも使用されている。

3 竹の繁殖特性

3-1 地下茎が繁殖の母体樹木と違って竹の繁殖特性の第一は、地下

茎で繁殖をすることでこれが竹の繁殖の母体とも言える重要な働きをしている。この地下茎には約5cm間隔で芽子が付いており、これがタケノコとなるものや分岐して新たな地下茎として伸びる。地下茎の年間伸長量は概ね3~5m、10a 当たりの地下茎総延長は繋ぎ合せたとした場合 2,500~11,000m とも言われる。地下茎の伸び方は水平方向に波打ちながら林内は勿論、林外へも伸び竹林を拡大する。なお、地下茎の深さ(垂直方向の伸び)は、概ね 10~20cm に多く、意外と浅い所に分布していることから地下茎ネットとも言い、これが河川敷の護岸用として古くから竹が植栽されている。たとえば、福岡県の八女市矢部川に約 400 年前の藩政時代に流域の住民や田畑を守るために「水害防備林」として柳川藩が作ったものがあり、先人たちの知恵と努力に感心させられる。

3-2 競争性が非常に高いモウソウチクの高さは目通直径(概ね地上

1.5 m部位)と関係があり、この直径に概ね130 倍すれば竹の高さとなるが、高密度の竹林やスギ・ヒノキ林に侵入した場合には150~180 倍にもなるなど競争性が非常に強い特性がある。これは竹がスギやヒノキ等に被圧されると、竹自体が光を得られず被圧され枯損に至ること、更には竹の成長がタケノコ発生から 40~50 日で上長成長すること等もその要因と考えられる。

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3-3 驚異的な成長竹は前年の8~9月頃に芽子が形成されタ

ケノコとなるが、地上部に出てくるのは翌春の3月頃であり、この間の成長は超スローであるのに対して、地上部に出れば前述したように驚異的な成長を行う。

地上部におけるモウソウチクの成長経過事例でみると、地上部に発生し上長成長が完了するまでの期間は 50 日、竹稈長 13 mとなったが、この間の1日平均伸長 26cm、伸長最盛期になれば 70~80cm と驚異的な成長が見られる。更にモウソウチクよりマタケの方がより成長が早く、1日当たりの最大伸長量が120cm と言った記録もある。ところが2年目以降は全く上長及び肥大生長をしないのも竹の成長特性とも言える。この驚異的なスピード成長する理由として①各節ごとに成長点があること、②竹稈内が中空であること、③チロシンやジベレリン等の成長物質を含有していることなどが考えられている。

3-4 水を非常に好むタケノコ関係者の間では、タケノコ発生の

多少を「表年」や「裏年」と言ったり「雨後のタケノコ」と言う言葉があるが、これは正しく竹は水を非常に好むことを表している。すなわち、タケノコの芽子ができる前年の夏季に雨が多ければ多いほど翌年のタケノコは豊作(表年)、逆に乾燥年の夏では凶作(裏年)と予測、タケノコ収穫期間に雨が多く降ればタケノコが沢山発生することを意味しており水(降雨量)と深い関係があり、多いほど竹

の生育が良好な事を示し、また、地下茎の伸長方向も土壌水分が多い方向に良く伸びる。

このため、放置された竹藪(※1)では竹の密度が異常に高く、それだけ降った雨の多くを竹が吸い上げ、結果的には下流域の水の流れを少なくすることにもつながり公益的機能と言う面ではマイナスとなる。

3-5 開花した竹は枯れる竹の開花は非常に珍しい現象で、開花した

竹はすべて枯死する。この開花原因については周期説・病菌説・地味不良説・養分不足説・環境説など様々なことが言われている。

モウソウチクの開花状態で竹稈の先端部が曲がっているのは開花結実した状態を示している。マタケの開花では周期的に開花が記録されており 60 年或いは 120 年に一回開花しており、福岡県では昭和 30 年代の後半~40年代にかけ約6割の竹林が開花枯死し、竹細工用のマタケ材が不足し、これを補うために輸入材が急激に増加した。

竹の開花後の現象として林内全ての竹が枯死するが、地下茎は生き残るために枯死翌年から小さいながらも開花した再生竹が3~4年にかけ発生、やがて開花しない竹が復活するが開花前の大きさに戻るには 10 年位を要している。もし開花した竹藪を整備して新たな樹種に転換する場合には、開花時は絶好の機会で再生竹を徹底的に3~4年間切り捨てることで竹林や竹藪を一掃できる。

(※1)毎年の伐竹をしないため枯竹を含め 500 本 /10a 以上もある放置林。

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4 竹の拡大メカニズムと竹林の広がり

竹の拡大と前述の竹の繁殖特性には深い関係があり、特に竹は地下茎を持っていること、そして竹林は概ね数十本単位の“家族構成”で営まれ、子孫繁栄を図るために光や水分・養分を求めて近隣に侵入拡大する。

竹の拡大は全国的に言われているが特に九州・四国が顕著に見られ、平成 25 年8月1日付の西日本新聞によると 30 年間で全国平均が 11.8%に対して九州は 15.1%で全国一位の伸び、ちなみに福岡県は 12.5%で全国3位の増え方を示している。

なお、竹林は全体的には増えてはいるが竹の種類によって盛衰がみられ、拡大が著しいのはモウソウチクで繁殖が最も旺盛なことと、タケノコ生産林として増殖が図られ多くの地域に点在していることも要因ではないかと推察される。一方、日本古来の竹種と言われるマタケは「テングス病(※2)」によって衰退傾向が見られ、そのメカニズムは竹の枝先が細く蔓状に垂れ下がり、その葉は正常なものに比べ長さが 1/10~1/15 と異常に小さく光合成作用ができてない状態で、これでは子孫繁栄のための働きが減退し竹林として衰退している。

5 竹藪急増がもたらす影響

5-1 竹林放置の要因竹林放置の要因として主なものは竹に替わ

る石油製品の開発、海外からの輸入、竹林所有者の高齢化等が考えられ、そのうえ前述の

繁殖特性からくる地下茎による増殖が考えられる。

①高度経済成長に伴う生活様式の変化で竹製品からプラスチック製品に変わったこと、

②中国を始めとして非常に安価なタケノコ、或いは竹製品の輸入急増、

③竹林管理の担い手の高齢化・後継者不足や竹材利用の減少、によって竹林管理に入らない人が多くなった。

5-2 竹藪で懸念される事竹林は管理すれば多くの恩恵を与えてくれ

るが、放置すれば高密度化し竹藪となって様々な支障が懸念される。主なこととして①農林水産業への支障・・主として近隣の森林に侵入し、スギやヒノキ・広葉樹などを被圧・枯損を引き起す。畑地では地下茎が野菜や果樹・茶等に広がり管理が困難になる。②公益的機能の低下・・例えば、前述したように竹の繁殖には、多量の水が必要であるため地中への浸透前に竹に吸収され下流域の小河川の水枯れや地下水の減少にもつながる。③動植物多様性の低下・・竹藪になると多くの植物は光線不足で生育が不可能となり、また、多様な実を求めて集まる動物や鳥類も減少するなど動物や植物の多様性の低下につながる。④二酸化炭素吸着能力の低下・・本来モウソウチク 1 本には 3 万~5 万枚の竹の葉を付けているが、竹藪状態となれば中下段が枯枝となり、それだけ葉量が減少し二酸化炭素を吸着する能力の低下にもなる。

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(※2)放置によって高密度となり老衰した竹が増え、テングス病菌に侵され竹林全体の活力が低下する。特にマタケ林に多い。

6 竹藪の整備と利活用

竹藪の整備に当たっては前述の竹の繁殖(再生力)特性を知り、整備後の利用を明確にして取り組まなければ目的達成が困難である。

竹は、伐れば伐るほど新たな竹を発生する非常に繁殖力の強い特性を持っているが、その源は、竹にとって母体と言える地下茎を持ちこれには約5cm間隔で節があり、竹になる芽・新たな地下茎になる芽・タケノコ(竹)

になる芽がついており、地上部の親竹が伐られるとその“後継者”として新たな竹を発生させる、このことが繁殖力旺盛な源となっている。ちなみに竹を全伐してその後の再生力の旺盛さを一事例でみると、全伐時の親竹本数450 本 /10a、大きさ 11cm であったのが4年間で発生本数は全伐時の本数に回復、大きさでは6年目に復活しており如何に竹の再生力が強いかがみられる(図表1)。

図表1 竹の再生力の旺盛さ

ところが、繁殖力の強い竹とはいえ葉が付いていない竹は全く繁殖能力が無いのも特性で、竹藪を竹以外に転換する場合はこの特性を活かせば短期間で竹を消滅できる。

そこで、竹藪整備後の利用目的として大き

くは竹林として活かす場合と他の樹種や畑地等に転用する場合に分けられる。

6-1 タケノコ林を目指す竹林として活かすための整備法は、大きく

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分けてタケノコ栽培林として復活させるか、あるいは竹材生産を目指すかによって整備法が異なる。また、タケノコ生産と言っても様々な経営法があり、例えば ①自家林を自力で収穫・出荷、②自家林をオーナーに貸し出す、 ③観光園として来客が収穫、 ④穂先タケノコ生産等があり、この前提となるのが竹林整備である。

整備の前に国内タケノコ概要について述べると、国内でタケノコと言えばモウソウチクのタケノコが中心であるが、本種は応仁年間

(1470 年)に中国から渡来したのが始まりとされ、原産地中国の竹林面積は日本の200~250 倍と広大な面積を有している。この中国から安価なタケノコが大量に輸入され、国内モウソウチク竹林放置要因の一つとなっていたが、中国産野菜の安全性が問題となり国産タケノコが不足傾向にある(図表2)。今、タケノコは安心安全なものを求めて国産物志向が急激に高まってタケノコ復活のチャンスとなっている。

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図表2 タケノコをめぐる明るい兆し

⑴ タケノコを増産するには間伐方式で竹藪整備を

タケノコ生産で求められているのは、春を先取りする早期の収穫・出荷、単位面積当た

りの収穫量を多く、しかも毎年安定した生産が重要である。

このためには、タケノコ発生は「親竹の本数と収穫量は反比例」する関係があり、先ず

竹藪の間伐法による整備が必要で、具体的には、10a 当たりの親竹本数を 300 本以下としなければならない。このことによって林内に充分な光が入り、親竹の光合成作用が活発となり収穫量が急激に増える。竹藪改良後の親竹本数と収穫量を示した事例でみると、改良

前(竹藪時)1,800 本 /10a であったものを300 本に整備、その後、年々親竹本数を減らし現在 130 本に調整、この間の収穫量は急激に増加、当初の目的である 1,000kg を4年目で達成している(図表3)。

図表3 短期間でのタケノコ林の造成

ちなみに、上記竹林管理の基本的事項を示すと①1~5年の竹を出来るだけ均等にしなが

ら 300 本とする。②春には新竹を総本数の 1/5 本だけ親竹用

として残す。③秋には5年目竹だけを伐竹。④この間2月・5月・8月の3回施肥をする。⑤春には徹底して収穫を行う。タケノコ生産は、掘取り鍬や鋸など簡易な

道具を揃え、技術的には剪定や害虫駆除のた

めの消毒が不要なため誰にでも取り組めるが、大切なのは上記①~⑤の作業を毎年続けることである。

⑵ タケノコ林は様々な経営が可能上記事例は竹林所有者が自ら収穫・出荷を

行っていることを示しているが、高齢化・後継者不足が進む今日では、竹林管理が出来ない場合が多い中で、竹林所有者以外の人(オーナー)に竹林を貸し出し管理・収穫をしても

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らう竹林オーナー制度や竹林管理は所有者自

ら行うが収穫は来客で行うタケノコ観光園と

して竹林を活かすケースもみられる(図表

4)。

図表4 竹林オーナー制とタケノコ観光園

①竹林オーナー制度管理できなくなった竹林を一定期間、竹林

の所有者と竹林を持たない都市住民等とが賃貸借契約を結び、竹林オーナーとなってもらい、その期間中はオーナーが竹林の管理からタケノコ収穫までの一連の作業を楽しみながら行ってもらう制度である。福岡県内では15 市町村で約 400 人がオーナーとなっており、その概要は、オーナー1人の契約面積約300㎡、契約期間5年、借地料年間で平均 8,000 円、収穫量 100~200kg となっており、春休み期間の親子連れや職場・お隣同士など多くの人々で賑わっている。

②タケノコ観光園親竹の伐採や施肥等の竹林管理は所有者自

ら或いは地域の有志・ボランティア等が行い、来客は自らタケノコを探し、好みのタケノコを必要な量だけ収穫する制度で地域の活性化にも貢献している。なお、タケノコ発生は期間(概ね2月~5月中旬)により発生量や大きさ等が大きく異なり、特に観光園では大きい物が沢山発生していることが喜ばれるため早期(2~3月)の小形・少量・高価格の期間中は自力で収穫・出荷し、その後の4月以降に開園することも可能である。

③穂先タケノコ生産穂先タケノコとは、4月後半~5月頃人の

背丈位まで伸びたタケノコの先端約 50cm を鋸で切り取り収穫したもので、通常行われる唐鍬での掘り取り作業に比べ高齢者や婦女子でも容易に行うことができる。このタケノコの特長は柔らかい中にタケノコ独特の歯触り感・甘みがあるためサラダ感覚で食べられ若人向きとして大好評の新たなタケノコ食材でもある。通常、穂先タケノコ生産はタケノコ生産林において行われるが、後述の竹藪から広葉樹への転換や新たな竹林跡地を利用する場合の親竹全伐後の再生竹処理法としても有効である。

6-2 竹材を目的とした竹林管理竹は繁殖特性でも述べたように既存林では

植栽をしないでも毎年竹材を産み出してくれるので、適正な伐竹をするだけで工業用資材林としても最適の植物と言える。

竹材の利用は、これまで主に家内工業として竹ヒゴに一次処理、これに編み加工し竹篭・笊などの竹製品作りや丸竹のままで果樹の支柱や茶園の被覆材・海苔養殖支柱竹等の農林水産業資材として長年使用されてきた。しかし、このような利用は安価な製品輸入や加工業者等の高齢化、鉄骨材・コンクリート柱の普及でその利用が激減している。

一方、竹を原料とした工業用資材として新たな利用に向けての試作や検討が進みつつあり、竹の利用も大きく変わることが予想される。これに伴い竹林管理もタケノコ生産のための間伐方式から、工業用資材では広域、大

面積、集約的な竹林が対象となるために帯状間伐や全伐方式等での対応が必要となっている。

工業用資材として求められているのは価格・定量・定質・継続で、このための管理方法もタケノコ生産方式と異なり、伐竹法も間伐法から全伐法でないと供給できない。全伐法も大面積全伐すれば、再生産までの期間に長期を要することから、親竹を残す箇所と全伐する箇所を交互に約5m幅に仕立てる帯状仕立てが望ましい。

また、工業用資材では大量供給となり、このための伐竹も手鋸やチエンソー等では対応できないことから、竹林整備用機械のバンブー・カッター他の大型機械による伐竹が望ましく、これに伴う作業道の開設も必要である。

なお、工業用資材と言っても丸竹のままで使用されることは稀で、多くは割竹やチップ状態など形状も様々で、このため粉砕機の特性を充分に検討しておかなければならない。

6-3 全伐した跡地に広葉樹の森ここまでは、竹藪を整備して適正な竹林管

理をしながら、タケノコや竹材生産に関して述べてきた。これからは、竹藪を全伐しその跡地に新たな樹種を導入して里山の環境や観光林に転換する場合の樹種の選定や植栽後の再生竹処理について述べる。

竹藪を全伐し粉砕すれば大量の有機物(伐竹材概ね 10a 当たり 20 トン+地下茎(※3)約5トン)がその場で得られ、これを林内に散布すれば①肥料に還元 ②降雨浸透促進 ③後継樹の生育促進 ④雑草抑制等の効果が想定できる。

(※3)地下茎が腐朽する事で地中に空気層ができ根茎の活性化に寄与する。

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竹藪跡地への広葉樹等の植栽で問題となる

のは、再生竹による植栽樹への被圧で成長阻

害や枯死に至ることも多いので、これの処理

を充分に検討しておかなければならない。幸

い、広葉樹等の植栽は一般的には春季に行わ

れるが、この時期はタケノコ発生時期とも重

なり、親子など住民協働の植栽参加者にとっ

てはタケノコ掘りを兼ねた植樹となるばかり

か、これが再生竹の処理にもつながるなど竹

藪整備跡地の植樹メリットも多い。

植栽する樹木は、主に広葉樹が多いが選択

に当たっては漠然としたものではなく、樹種

の特性を活かした森作りが望ましい。例え

ば、「野鳥の森」とする場合にはツバキ・カキ・

クロガネモチ他、「紅葉の森」にはモミジ・ア

メリカフウ・ハゼ他、「香りの森」にはキンモ

クセイ・ギンモクセイ・オガタマノキ他、「き

のこの森(※4)」にはクヌギやコナラ(シイタ

ケ用)・ヤマザクラ(ナメコ用)、「蜜蜂の

森(※5)」にはシイノキ・ミカン・サザンカ他、

各市町村には“町の木”があり、これを「郷土

の森」として選択、例えばクス・ツバキ・イ

チョウ他、そのほか「記念樹の森」など様々

考えられ、これが地域住民の憩いの場や自然

観光林に展開することも可能となる。

しかし、竹藪を伐採すれば再生竹が発生し、

その処理を誤れば広葉樹などの植栽木の成長

を妨げることにもなり適切な処理が望まれ

る。そのためには先ず、再生竹の発生を出来

るだけ少なくするために、竹の光合成を減退

させておくこと、すなわち、活発な光合成を

行う夏季以前に伐竹し、同化養分の地下茎へ

の還流を抑えておけば発筍力が弱まり、再生

竹の処理が容易に行える。それでも再生竹の

発生がみられるが、この場合、5月頃に前述

の穂先タケノコとして収穫するか、収穫しな

い場合には出来るだけタケノコを伸ばし葉の

展開と同時に切り取れば地下茎内の栄養分が

消耗され地下茎の活力も減退する。このこと

を3~4年間行うことによって、竹の勢力は

急激に衰え消滅、広葉樹林へ円滑に転換でき

る。

7 竹藪の整備は伐竹材の利用が決め手

竹藪と言われる林内には、10a 当たり枯竹

を含め 500~1,500 本もの竹が混在しており、

これの処理を適切に行わないと、前述したタ

ケノコ林や広葉樹への転換でも様々な作業上

の支障となるため伐竹材の利活用が整備の決

め手となる。

伐竹材の利活用を大別すると、場所につい

ては、①タケノコ林や整備した林内や、②住

居など身近な所での利活用があり、利用用途

としては、③農業用資材、④工業用資材とし

て考えられる。

7-1 タケノコ林や整備した林内での利用

事例

タケノコ林や整備した林内での竹稈の利用

例には以下のようなものがある(図表5)。

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(※4)きのこ発生樹種を植栽し適期に達した樹木できのこ生産。(※5)蜜蜂による受粉効果で多様な樹種を産み出す。

図表5 切り出した竹稈の林内利用法

筋置き・・枝を除去した稈部分を2~3m間隔で等高線状に並べる事で雨による肥料や土砂流出を防止、収穫や肥料散布の範囲目安にもなり、また、急斜面の作業に慣れない人にとっては安心感を与えるなどの効果が見られる。

危険防止柵・・竹林の多くは急斜面にあり礫を含む竹林も見られ、タケノコ収穫時の落石や親竹の伐採・搬出材の滑落等もあり、これらの危険性を防止柵で防止できる。

イノシシ侵入防止柵・・早期の高価時のタケノコをイノシシによる食害が至る所でみられ、生産者にとって大きな被害となっている。イノシシの侵入防止対策として電気柵やワイヤーメッシュ等の設置で防止できるが、毎年伐竹を要するタケノコ林では伐竹時の押し倒しによる支障もありその補修も必要となる

が、竹柵では安心して伐倒ができ、更には伐竹材の現地活用と言う点でもメリットがある。設置方法としては、竹林周囲の幅 1 m位に伐竹材を枝付きのままで積み込むだけでイノシシの侵入を止められるが、1 年だけでは竹材の重みで低い防止柵となり侵入を許すことになるので、毎年積み重ねていくことが大切である。

竹林散策道路の袖垣・・竹林が観光の一つとなっている京都府の竹林では、伐竹した竹の枝部分を用い散策道路沿いに袖垣として利用しているが、イノシシ等の侵入防止効果も見られる。

7-2 住居など身近な所で竹は簡易な道具で伐ることも・割ることも

誰でも容易にできるので、身近な所で多様な

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利用ができ、例えば、住居の目隠しとしての竹垣や丸竹を二分割し、これに土を入れれば玄関の花壇として季節毎の花を楽しむことができる。最近は家庭菜園を楽しむ人が増えているが、簡易なビニールトンネルの骨組みとしてハウス栽培も可能である。

このように竹は身近な所で様々に利用できるが、虫害やカビに弱い欠点があり、この対策として秋季を中心に 5 年生位の竹を伐竹したものは虫害にも強く竹材の強度も増すことができるが、より長い耐用年数を望むなら生材より若干天日乾燥させた竹材が理想である。

7-3 農業用資材として最近、安心安全な食材として無農薬や減農

薬での栽培が見直されているが、これには堆肥施用による土作りが基本であり、竹の堆肥化事例も見られる。竹の堆肥化で重要なことは、竹材の欠点として窒素が少なく炭素が多いために堆肥化時の成分、特に炭素率(炭素量/窒素量)が高いと窒素飢餓現象(※6)をおこし作物への悪影響を及ぼすので窒素補給資材として家畜糞尿や油粕等を加えて調整しないといけない。

7-4 伐竹やチップ化に使用される主な機械整備後の伐竹材が大量にある場合の処理機

材には様々な粉砕機があり、例えば大面積伐竹には竹林整備用機械(バンブー・カッター他)が、破砕専用機(チップシュレッダー他)があり、小規模・少量の場合には小型粉砕機などの機材を使ってチップ化でき竹堆肥など農業資材や工業用資材として有効に利用でき

竹藪の整備が進めやすい。例えば、軽トラックでも搬送できる自走式の小型粉砕機であれば稈・枝葉含め1本の竹を2~3分でチップ化、これを堆肥化すれば果樹や野菜の土壌改良や肥料として使用できる。また、竹を果樹な ど の マ ル チ 材 と し て 使 う 場 合 に は、700~800 度で熱し、練り合せを組み合わせて繊維をつぶすことができる植繊械や竹をパウダー状にする竹粉機など、目的に応じた機械が開発されている。なお、前記の粉砕機でできた竹チップは、カブトムシの大好物餌で林内に積み込んでおくだけでカブトムシの養成ができるので、校区の住民や親子一緒になって地域の竹藪整備につながる。

7-5 工業用資材としての新たな利用

竹を工業用等の新素材とし実用化しているものや研究開発中など様々な分野で取組みが行われている。

例えば、既に実用化しているのが竹を粉砕・パルプ化して紙の生産に、これも当初は他の樹種との混合材料であったのが今では竹100%の紙が生産されている。衣料品資材として竹を砕いて溶かしセルローズをパルプ化して糸状になったものを織機でジャケットやスーツ・タオルなど清涼感のある衣料として実用化されている。

研究開発中としては、プラスチックに竹繊維を混ぜた強化プラスチックの研究も進みつつあり、新素材として建築や自動車部品等への活用が期待されている。

建築資材として竹チップと杉の皮をミック

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(※4)発酵過程で窒素が不足すると土壌中の窒素を横取りし作物は窒素不足となり黄色化して成長不良や枯れる現象。

スしたバンブー・ボードは家具の部材・壁・床下地材や高密度に圧縮、ブロックして構造材・外装材等の建築材への活用が期待されている。

燃料として竹チップから糖分を取り出し、これを酵母で発酵させてバイオエタノールを生産、自動車燃料や施設園芸の暖房など農業への活用が期待されている。

その他、竹粉入り食パンや竹焼酎等の食用、竹を粉砕して綿状に膨らませ家畜の飼料、竹の粉末とトウモロコシから作るポリ乳酸に混ぜた竹食器、炭化して土壌改良剤・床下調湿材、炭化中に得られる竹酢液は植物生長促進や化粧品等としても開発が進められている。

ここでは、工業用資材などの新素材としての一部を述べているが、他にも多くの研究・開発が行われており、これには原料である竹材の供給が定量・定質・継続・広域的・低価格などの要因を満たさなければならない。

8 多様な竹林整備活動支援

竹林整備、特に長い年月放置された竹藪では枯竹や大小竹が混在し、林内に容易には入れない状態となっており、多くの人手や経費も嵩むのが現状である。このため国・県・市町村等の行政も整備支援に乗り出している。主なものを列記すると次のような事業が実施されている。

①福岡県森林づくり活動公募事業荒廃した森林の整備や事業実施のための運

営資金として補助金が交付されるもので主にボランティア団体からの要望が高い。福岡県

では、10 年ほど前から竹林サミットが県内各地を巡回しながら開催され、各地域の竹林整備ボランティア団体等が集まり活動内容や課題などを検討している。

②厚生労働省雇用創造協議会厚生労働省所管で各地域の雇用創造協議会

が実施主体となり、整備方法やタケノコ生産・販売方法などに関してのセミナーを開催し新たな人材育成を目指している。

③市民提案型街作り事業市の単独事業で、市民が地域の課題を抽出

し市民が直接、課題解決に向け実施、これに要する経費を補助するもので、具体的には竹藪を整備して得られたタケノコを新たな食材“糸島メンマ”として商品化が進められている。

④福岡県特用林産整備事業タケノコやシイタケ生産農家の後継者や新

規就農者等に対して生産基盤の整備、栽培技術の研修会で技術力アップを図り整備や生産量の向上を目指す事業である。このためには前年から同地域の複数の人と企画立案し、地元市町村に計画を提出、その後県や国の認可を得て実施する。

⑤竹は地域興しの貴重な資材竹を地域興しに無くてはならない貴重な資

源として整備し、竹材を観光に活かしている事業を紹介する。大分県で大々的に開催されているのが臼杵市の「うすき竹宵」、竹田市の

「竹田竹楽」、日田市の「日田千明灯り」が有名で何れも行政とボランィアが一体となり、

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放置された竹林の整備による竹やタケノコ生

産農家からの伐竹材を持ちより約1カ月の期

間で竹灯篭を作成、11 月に祭りが開催される

(図表6)。

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図表6 竹灯籠イベントによる地域興し

臼杵市の例でみると、人口4万人の同市に土・日の2日間で県内外からの延べ約 10 万人の来客で賑わいを見せている。このように竹を利用することによって、観光面では来訪者が増え、環境の面では竹林再生に、市民から見れば故郷の再発見にも繋がっているなど多面に渡っての効果を産み出している。

⑥タケノコ婚活で地産地消の学校給食用にタケノコ生産者の高齢化で管理できない竹

林が増加している一方、竹林は持っていないが整備やタケノコ生産に意欲的な人や団体がいる中で、両者をマッチング(お見合い)して竹林整備やタケノコ生産の拡大を図るため

の「タケノコんかつ(婚活)事業」が鳥取県の指導で行われている(図表7)。

この背景には、地産地消による安心安全な食材を学校給食用に届けること、地域の産業としてのタケノコ増産を目標にタケノコ生産者や団体が取り組み、5年間で当初の生産目標を達成している。

⑦山口うべ式 竹エコ・システム山口県宇部市では、恵まれた竹林資源を活

用したエコ・システムで地域を豊かにするモノ、ヒト、カネの持続的な循環を作る計画である(図表8)。

図表7 タケノコ婚活の取り組み

図表8 山口うべ式 竹エコ・システム

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具体的には○竹林を活用したエコ・システム:竹林の整備をすることで多面的な活用を図る(タケノコ生産増・六次産業化、竹材活用:発電等により収入や雇用の増加)。○地域の協働:目的達成のため一次~三次産業者や市民・行政などの連携。○持続的な仕組み作り:公共的・総合的・長期的な組織を作る。

これらの事業を通して「厄介者(竹藪)」から「宝の山(竹林)」復活、さらには新たな活用を目指している。

9 竹の侵入を止める

最近は高齢化等によって、竹林だけでなく人工林を含めた森林や果樹園・畑など管理されないで放棄された箇所もみられ、ここに地下茎で繁殖する竹による侵入、拡大傾向がある。竹の拡大による様々な支障について既述してきたが、竹の領域を設けるとか侵入防止方法を求める地域や住民も見受けられる。

地下茎の侵入を止める方法はその対象の違いによって異なり、森林のような広域では林道などの作業道を7~8㎝厚みのコンクリート道路に、果樹園や畑の場合には約 50cm 深さにブロックや畔波(※7)等の資材の埋込みで侵入を止めるのも一方法である(図表9)。

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図表9 竹の侵入防止方法

(※7)水田の水漏れに使用される塩化ビニール製品。

10 まとめ―竹林整備がもたらす効果

竹は地下茎によって繁殖するために放置すれば近隣に侵入して様々な支障を起こすことから「厄介者」とされる。しかし、この繁殖は他に例を見ない特性であり、この特性を活かした管理・活用をすれば、竹林所有者は勿論、地域にも多くの恩恵を与えてくれる「宝の山」となる。

幸いタケノコは消費者の国産物への志向が高まっている。一方、竹材は新たな環境に優しい工業用の新素材としての研究開発が多岐にわたり進みつつあり、1人でも多くの人が竹への関心を持つようになり竹藪が整備されれば里山の公益的機能や多様性の回復、ひいては地域の活性化にも寄与するものと考えられる。

*本稿は、2016 年9月 17 日に行われた福岡県地方自治研究所定例研究会での講演内容をテープ起こししたものに加筆・修正を加えたものである。

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