宅医療における麻酔科疾患 (鎮痛薬の使い方)‚¢ヘン(Opium)...

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在宅医療における麻酔科疾患 (鎮痛薬の使い方) 名古屋市立東部医療センター 疼痛緩和支持治療科 春原啓一 2017年9月11日 岐阜県医師会

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在宅医療における麻酔科疾患 (鎮痛薬の使い方)

名古屋市立東部医療センター

疼痛緩和支持治療科 春原啓一

2017年9月11日 岐阜県医師会

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在宅医療における麻酔科疾患 (鎮痛薬の使い方)

在宅医療において

• どのような痛みに

• どのようなくすりを

• どのように使うか

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どのような痛みに

痛みの病態

原因から考える

機序から考える

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原因からみた痛みの病態 (在宅医療の視点で)

1. 急性痛

急性疾患による痛み

2. 慢性痛(目安として3ヶ月以上続く痛み)

• 慢性疾患による痛み

• 器質的疾患をともなわない痛み

3. がんに関連する痛み

• がん病変による痛み(がん性疼痛)

• がん治療による痛み(がんに関連した慢性痛)

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機序からみた痛みの病態

1. 侵害受容性疼痛

体性痛

内臓痛

2. 神経障害性疼痛

1. 非器質的疼痛

心因性疼痛

機能性疼痛症候群

中枢機能障害性疼痛

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神経障害性疼痛

体性感覚系に対する損傷や疾患によって直接引き起こされる疼痛

現症 1.痛みが神経解剖学的に妥当 2.神経障害をもたらし得る病変 評価 1.神経障害領域の感覚障害 2.神経病変を診断し得る検査結果

診断のポイント

定義

日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版

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神経障害性疼痛の特徴

特徴的な痛みの性質

1. 刺激に依存しない痛み

• 焼けるような

• 電気が走るような

2. 刺激に誘発される痛み

• 痛覚過敏

• アロディニア

3. 異常感覚

• つっぱる

• 締め付けられる

病理

• 末梢・中枢神経系感作

• 精神心理的要因

疫学その他

• 関連疾患の重症度が高い

• 罹病期間が長い

• 心理社会面への影響が大きい

• 著しいQOL低下をもたらす

• 先進国における罹患率8−10%

日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版

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神経障害性疼痛に関連する疾患の例

栄養・代謝

• 糖尿病性神経障害

• アルコール性ニューロパチー

外傷

• 脊髄損傷後疼痛

• 術後疼痛症候群

• CRPS

• 脳血管障害後の中枢痛

• 放射線照射後神経障害

• 神経根引き抜き損傷

中毒

• 化学療法誘発性ニューロパチー

• 水銀中毒

変性疾患

• アミロイドーシス

感染

• 帯状疱疹後神経痛

• 神経梅毒

• HIV感覚神経障害

圧迫

• 脊髄・脊椎疾患に伴うもの

• 手根管症候群

• 三叉神経痛

免疫性

• ギランバレー症候群

腫瘍性

• 腫瘍による神経への浸潤

• 脳腫瘍

日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版

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機序から痛みを分類する

侵害受容性疼痛

神経障害性疼痛 非器質的疼痛

心因性疼痛 機能性疼痛症候群 中枢機能障害性疼痛

日本整形外科学会運動器疼痛対策委員会 2013

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痛みの診断

• 急性痛か慢性痛か

• 原因疾患は何か

→ がん性疼痛かがん関連の慢性痛かも鑑別

• 疼痛機序は何か

身体的要因の確認(併存疾患、既往歴、併用薬)

痛みの治療歴

患者の鎮痛以外の希望

心理・社会的要因の確認(悩み・仕事・家族など)

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担がん患者: 背中が痛い(特に体動時)下肢にしびれ痛み

がん性疼痛(腰椎骨転移) 骨侵害受容性疼痛・腰髄神経障害性疼痛

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60代女性 昨日転倒後 診断:腰椎圧迫骨折

背中が痛い(特に体動時)下肢にしびれ痛み

急性痛 (新たな椎体骨折) 骨侵害受容性疼痛 腰髄神経障害性疼痛

80代女性 3ヶ月前転倒後から 軽減あるも痛み持続 診断:腰椎圧迫骨折

慢性痛 (陳旧性の椎体骨折) 骨侵害受容性疼痛 腰髄神経障害性疼痛

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帯状疱疹に関連する痛み

侵害受容性疼痛 神経障害性疼痛

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痛み治療の目標

1. 急性痛

急性疾患の治癒による鎮痛 → 鎮痛薬も並行して使用

2. 慢性痛

痛みを持ちながらも生活していくことができること

リハビリ、運動、生活環境の整備、心理療法が重要 → 薬物療法は、安全で現実的な方法を慎重に検討する

3. がん性疼痛

• がん病変による痛み → 積極的な鎮痛

• がん治療による痛み → 慢性痛として対応

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痛みの治療に使われる薬物

NSAIDs アセトアミノフェン トラマドール

トラムセット®

コデイン ペンタゾシン ブプレノルフィン モルヒネ オキシコドン フェンタニル タペンタドール メサドン

抗うつ薬 デュロキセチン

抗けいれん薬 プレガバリン カルバマゼピン

メキシレチン

ノイロトロピン®

抗不安薬 筋弛緩薬 ステロイド

非オピオイド

弱オピオイド

強オピオイド

鎮痛薬 鎮痛補助薬

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各種鎮痛薬の商品名 薬剤名 商品名

非オピオ

イド

アセトアミノフェン アンヒバ、カロナール、ピリナジン、アセリオ

NASIDs ロキソニン、ボルタレン、バファリン、アスピリン、ナイキサン、ロピオン

オピオイド

モルヒネ モルヒネ散・錠・注、プレペノン、オプソ、MSコンチン、アンペック

フェンタニル フェンタニル注、デュロテップ、フェントス、ワンデュロ、アブストラル、イーフェン

オキシコドン オキノーム、オキシコンチン、オキファスト

ブプレノルフィン レペタン注・坐、ノルスパンテープ

メサドン メサペイン

タペンタドール タペンタ

コデイン コデインリン酸塩

トラマドール トラマール注・カプセル・OD錠、トラムセット、ワントラム

ペンタゾシン ソセゴン注、ペルタゾン

鎮痛補助

プレガバリン リリカ・カプセル・OD錠

デュロキセチン サインバルタ

カルバマゼピン テグレトール

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痛みの経路

脊髄後角

・一次ニューロンと二次ニューロンのシナプス部

・下行性抑制系作用点

視床下部

視床

下降性抑制系

脊髄後角

体性感覚野

ノルアドレナリン系

Pain Matrix

一次ニューロン

二次ニューロン

セロトニン系

中脳

延髄

脊髄

痛み刺激

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痛み関連情動脳ネットワーク

Japanease Journal of Traumatic Stress Vol13.No.1 P12-22.2015 住谷昌彦:ペインクリニックからみた痛みと心身反応と慢性疼痛

前帯状回

後部帯状回

前頭前野 島

扁桃体

中脳水道灰白質

島・体性感覚野:痛みの識別

前部帯状回:島前部:痛みの情動

・脳領域の痛みネットワークが安静時も活動している

後部帯状回 前部帯状回の感度を変容させる

前頭前野 痛みに対する価値判断

扁桃体:不安恐怖

中脳水道灰白質 下行性抑制系の中枢

体性感覚野

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痛みの経路と鎮痛薬

痛み刺激

視床下部

視床

脊髄後角

体性感覚野

ノルアドレナリン系

Pain Matrix

一次ニューロン

二次ニューロン

セロトニン系

中脳

延髄

脊髄

抗けいれん薬・ オピオイド・アセトアミノフェン

抗けいれん薬・抗うつ薬・オピオイド

NSAIDs・ステロイド

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下行性抑制系

抗うつ薬の鎮痛作用

セロトニン作動性ニューロン ノルアドレナリン作動性ニューロン

一次ニューロン

二次ニューロン

トランスポータの遮断

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抗けいれん薬

Naチャンネル遮断

カルバマゼピン フェニトイン バルプロ酸

Caチャンネル遮断

プレガバリン ガバペンチン

神経伝達物質の放出を抑制する

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NSAIDsの作用機序

侵害刺激

炎症

虚血 組織障害

COX

NSAIDs

プロスタグランディン

ブラジキニン

カリウム・セロトニン・ヒスタミン

アラキドン酸

COX cyclooxygenase

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アラキドン酸カスケードとNSAIDs

リン脂質 アラキドン酸

PG中間体

PGI2 PGE2 TXA2

LTA4

LTE4 LTB4

血管拡張 血小板凝集抑制

血管拡張 腫脹・疼痛

血小板凝集促進 血管収縮 気管支収縮

白血球遊走 活性化

COX NSAIDs

腎障害・胃粘膜障害 胃粘膜障害・気管支喘息

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NSAIDsの副作用・他薬剤との相互作用

• プロスタグランジン阻害による

① 腎障害⇒浮腫・高血圧

② 胃粘膜保護抑制:高率(4-43%)

• ロイコトリエン増加による

① 気管支喘息

• 薬物相互作用

① ワーファリン:遊離型ワーファリンの増加、代謝の遅延

② 抗血小板薬:血小板凝集抑制作用を増強

③ キノロン系抗菌薬:痙攣の誘発

④ SU剤:遊離型SU剤の増加

⑤ 降圧薬:,ACE阻害薬やARBの降圧作用を減弱させる

⑥ NSAIDs同士の併用は禁忌

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NSAIDsのCOX選択性 COX選択性 NSAIDs

COX2 5-50 倍 ・エトドラク(ハイペン、オステラック) ・メロキシカム(モービック) ・セレコキシブ(セレコックス)

5倍以下 ・ジクロフェナク(ボルタレン) ・スリンダク(クリノリル) ・ロキソプロフェン(ロキソニン) ・ピロキシカム(フェルデン)

COX1 ・イブプロフェン(ブルフェン) ・ナプロキセン(ナイキサン) ・アスピリン(バイアスピリン、バッファリン) ・インドメタシン(インテバン、インフリー) ・フルビビプロフェン(ロピオン) ・オキサプロフェン(アルボ) ・ケトプロフェン(カピステン、モーラス) ・モフェゾラク(ジソペイン)

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アセトアミノフェン

• 抗炎症作用は持たない鎮痛解熱薬

• 主に中枢神経系で鎮痛作用を示す

• 他の鎮痛薬との併用可

• 1回1000mg・1日3-4回(1日4gが上限)

• 肝障害あり(大量長期服用注意)

• 消化性潰瘍・腎障害はないので、これらの既往のある症例(高齢者、全

身状態不良例など)にも使用できる

• アスピリン喘息症例にも使える(5%のみに反応)

• とりあえず使ってみる、とりあえず加えてみる

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オピオイド

オピオイド・レセプターに持続活性をもたらす全ての薬物

• 弱オピオイド

コデイン・ペンタゾシン・トラマドール

• 強オピオイド

モルヒネ・フェンタニル・オキシコドン・ペチジン・ブプレノルフィン・タペンタドール・メサドン

• 拮抗作用

ナロキソン

強力な鎮痛作用 薬物依存 多彩な生理作用

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オピオイド受容体

オピオイドが作用することによって、陽イオンの細胞内への流入抑制、細胞外への流出促進、エネルギー代謝の抑制などが起こる

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各種オピオイド

オピオイド 受容体 商品名

モルヒネ μ モルヒネ散・錠・注、プレペノン、オプソ、MSコンチンMS、ツワイスロン、モルペス、カディアン、ピーガード、パシーフ、アンペック

フェンタニル μ フェンタニル注、デュロテップMT、フェントス、ワンデュロ、アブストラル、イーフェン

オキシコドン μ オキノーム、オキシコンチン、パビナール注、オキファスト

ブプレノルフィン μ(P) レペタン注・坐、ノルスパンテープ

メサドン μ メサペイン

タペンタドール μ タペンタ

コデイン μ コデインリン酸塩

トラマドール μ トラマール注・カプセル/トラムセット

ペンタゾシン κμ(P) ソセゴン注、ペルタゾン

P:Partial agonist

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オピオイドのルーツ アヘン(Opium)

• ケシの実から出る乳液

アツミゲシ

植えてはいけないケシの例

ヒナゲシ

植えてよいケシの例

モルヒネ 10.0%

コデイン 0.5%

デバイン 0.2%

生アヘン

紀元前4000年ころから精製されていた 「喜びをもたらす植物」と呼ばれていた

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関脇

大関

横綱

オピオイド番付表

メサドン

モルヒネ

フェンタニル

トラマドール

タペンタドール

オキシコドン

コデイン

番外

ブプレノルフィン

ペンタゾシン

強 オピオイド

弱 オピオイド

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トラマドールの鎮痛作用

一次ニューロン

二次ニューロン μ受容体作用

トラマドール

トラマドールの代謝物 M1

トランスポータの遮断=SNRI作用

セロトニン作動性ニューロン ノルアドレナリン作動性ニューロン

セロトニンの分泌促進作用

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各オピオイドの鎮痛薬としての特徴

• コデイン:肝代謝後モルヒネとして作用 100倍散は一般薬扱い

• トラマドール:SNRI作用が大きく、依存少ない

• モルヒネ:徐放薬はがん性疼痛のみに適応

• フェンタニル:先行オピオイドからのスイッチで使用される

貼付薬が慢性痛に適応あり

• ブプレノルフィン:貼付薬(ノルスパンテープ®)が変形性関節症・腰

痛症に適応あり

• ペンタゾシン:精神依存が強い

• オキシコドン・メサドン・タペンタドール:がん性疼痛のみに適応

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• オピオイド(薬理)

• 医療用麻薬(臨床)

• 麻薬(社会一般)

法 律

処方箋医薬品 向精神薬 医療用麻薬

拮抗薬 ナロキソン

トラマドール

リン酸コデイン(100倍散)

ブプレノルフィン ペンタゾシン

モルヒネ フェンタニル オキシコドン リン酸コデイン (10倍散) タペンタドール メサドン

ケタミン

オピオイド

オピオイド鎮痛薬

ナーシングケアQ&A11一般病棟でできる緩和ケアQ&A(堀夏樹他編)より一部改変

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病態による鎮痛薬(鎮痛補助薬)の選択

侵害受容性疼痛

•アセトアミノフェン

• NSAIDs

•オピオイド

神経障害性疼痛

•プレガバリン

•抗うつ薬

• SNRI

•オピオイド

非器質性 疼痛

•各症例ごとに検討する

•オピオイドは使用しない

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アセトアミノフェンかNASIDsか

リスクの有無

・腎機能障害 ・消化性潰瘍の既往 ・高齢 ・ステロイド、抗凝固療法

NSAIDsの必要性を評価 いずれも使用可能

NSAIDsを抗潰瘍薬とともに使用する COX-2選択薬を考慮

アセトアミノフェン

あり なし

あり なし

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神経障害痛に対する薬物療法

• プレガバリン

• デュロキセチン

• 三環系抗うつ薬

第一選択薬

• ノイロトロピン

• トラマドール

第二選択薬

• 強オピオイド

第三選択薬

日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン.改訂第2版 2016 を改変

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効果と副作用の指標 NNTとNNH

NNT(number needed to treat) その薬剤を何人に投与すれば、疼痛軽減(50%以上)が得られるか

NNH(number needed to harm) 何人にその薬剤を使うと一人に副作用がでるか

NNT NNH

デュロキセチン 5−7 10−15

三環系抗うつ薬 2−4 15前後

プレガバリン 3−8 10−20

トラマドール 5−7 10−15

強オピオイド 2−5 15−20

Finnerup.NB,et.al. Pain.2010/150(3).573-81 Finnerup.NB,et.al. Lancet Neurol.2015:14:162-73 より改変

神経障害痛に対する各薬物のNNTとNNH

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神経障害性疼痛に対する薬物療法の注意点

• 薬物療法の鎮痛効果は限定的

– 少量から始め忍容性を確認しつつ、効果・副作用のバランスを計りながら増量

– 鎮痛のみならずQOL、ADLの改善を評価する必要あり

• ガイドラインの根拠になっている論文の研究期間は4週から13週

– 漫然と投与しない、徐々に減量中止

• 自動車運転などの制限・注意についてIC必要

• 副作用に関心を払う

– プレガバリン:霧視、意識消失、体重増加 – デュロキセチン:セロトニン症候群 – トラマドールなどのオピオイド:依存、便秘

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サインバルタ®の使い方

• SNRI(セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

• 適応 • うつ病、うつ状態

• 疼痛:糖尿病性神経障害、線維筋痛症、慢性腰痛症

• 副作用(国内臨床試験では発現率73%):傾眠、便秘、悪心、頭痛、不安

• 20mgから開始60mgまで増量可

• 例)サインバルタ(20)1T/分1朝

• トラマドールとの併用注意(セロトニン症候群)

• 適応以外の病態に対する効果の可能性 • 化学療法誘発性末梢神経障害

• 中枢性神経障害性疼痛

• 運動器の痛み(侵害受容性疼痛)

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リリカ®の使い方

• 興奮性前シナプスのCaチャネルに結合してCaの流入を抑制し神経伝達物質の放出を抑制する

• 適応:神経障害性疼痛・線維筋痛症

• 転倒・ふらつき・健忘・失神に注意。気分の高揚・食欲増進・体重増加、末梢性浮腫、霧視など特異な作用あり

• 使い方の例(東大痛みセンター) 睡眠効果が期待できる眠前25−50mgから開始し、増量 375mgまでは眠前で使用する 日中の眠気がある場合は夕、眠前で使用する 抗うつ効果、抗不安効果を期待する

• 腎排泄 腎機能を常に勘案する必要あり、高齢者では腎機能低下が潜在している

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オピオイドの使い方

• 急性痛の強い痛みに対して短期間使用する 強オピオイドが必要な強い痛みは病院紹介の適応

• 慢性痛に対しては、オピオイドの使用は慎重に検討する トラマドールを検討する

強オピオイドの使用は専門医に任せた方が良い

• 契約

• 患者の依存リスクの評価

• 上限の設定・レスキューの禁止・効果の評価・減量中止

• がん病変による痛みには積極的に使用する

緩和医療の方法で行う。特に終末期で痛みが強くなる時期には注射剤を含め積極的に使用していく

治療が奏功した場合等では、減量・中止などの調整が必要

• がん治療による痛みには慎重に検討する がんの病名のみで、オピオイドを選択してはならない

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• 非がん性疼痛では依存は高頻度に発生 50%という報告もある

• Jette Hojsted,et.al.Addiction to opioids in chronic pain patients: a literature review.European J of Pain,2007

• 過量投与の報告も多い ワシントン州(人口600万人)で年間450人以上が医療用麻薬の過量服用によって死亡(2007年)

• http://emergency.cdc.gov/coca/pdf/AGReportFinal.pdf

9940例中6件の死亡例を含む51件の過量投与が同定された • Kate M.Dun,et,al.Opioid Prescriptions for Chronic Pain and Overdose:A

Cohort Study. Annals of Internal Medicine 2010

モルヒネ1日100mg以上投与、過剰摂取による死亡リスクはがん患者で12倍、慢性疼痛患者で7倍

• Bohnert AS,et.al.Association between opioid prescribing patterns and opioid overdose-related deaths.JAMA. 2011 Apr 6;305(13):1315-21.

非がん性疼痛治療におけるオピオイドは

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オピオイド乱用の危険因子

Webster LR.Risk factor for opioid abuse.North Branch,Sunrise River Press,2007,69-85

① 薬物乱用の既往や乱用の家族歴

② 若年である

③ 精神疾患

④ 心理的ストレス

⑤ 生活環境・家族関係が悪い

⑥ たばこ・アルコール依存

⑦ 痛みの慢性化と過度の訴え

⑧ 原因不明の痛み

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オピオイドの慢性痛に対する効果

• 慢性腰痛ではエビデンスがない – Curr Med Res Opin 2005:21:1819-1828

• 非がん性疼痛に対するオピオイドのRCTは短期すぎる – Arthritis Res Ther 2005:7:R1046-R1051

• 慢性疼痛の長期治療(16w以上)の有用性にエビデンスがない – Ann Intern Med 2007:146:116-127

• 慢性非がん性疼痛において、QOLや身体活動低下などの不良なアウトカムが認められる – Pain 2006:125:172-179

• 労災補償の患者には逆効果 – Spine 2007:33:2127-2132

• 治験対象者と診療現場の患者との間に乖離? – J Pain Symptom Manage 2008:36:280-288

• 米国のような誤用・乱用・流用・過量投与関連死を起こさないために科学的検証が急務 – J Pain 2009 :10:131-146

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トラマドールの使い方

• 処方箋医薬品扱い(麻薬ではない)であるがオピオイド → 痛み診断、効果・副作用の評価を厳密に行う必要がある

• オピオイドの等鎮痛力価換算:トラマドール300mg=モルヒネ60mg

• ワントラム®など大量のトラマドールでは依存の可能性あり

• 自動車運転禁止

• NSAIDs等が無効な侵害受容痛、NSAIDs長期投与や副作用例が適応

• 60歳以上で鎮痛効果が高く、また高齢者では依存が少ないといわれているので、比較的高齢の症例に有用

• 副作用:便秘、嘔気はよく見られ、場合によっては強い症状のことあり。セロトニン症候群注意

• 導入は眠前25mgから開始、嘔気時屯用制吐薬・緩下剤併用する数日から1週間で忍容性を確認し、必要であれば2T/分2へ増量

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ノルスパンテープ®の使い方

• ブプレノルフィン • μ受容体の部分作動薬

• モルヒネの25−40倍の鎮痛作用

• ノルスパンテープ®

• 5mg 10mg 20mg =5μg/hr 10μg/hr 20μg/hr

=モルヒネ換算で5mg/日 10mg/日 20mg/日

• 72時間で血中濃度が安定

• 7日ごとに貼付

• e-learning受講が必要

• 悪心嘔吐、便秘、傾眠、掻痒、めまい

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担がん患者: 背中が痛い(特に体動時)下肢にしびれ痛み

がん性疼痛(腰椎骨転移) 骨侵害受容性疼痛・腰髄神経障害性疼痛

骨侵害受容痛に対して NSAIDs+オキシコンチン® +ビスフォスフォネート(ゾメタ®)開始 腰髄神経障害痛に対して リリカ®開始

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60代女性 昨日転倒後 診断:腰椎圧迫骨折

背中が痛い(特に体動時)下肢にしびれ痛み

急性痛 (新たな椎体骨折) 骨侵害受容性疼痛 腰髄神経障害性疼痛

80代女性 3ヶ月前転倒後から 軽減あるも痛み持続 診断:腰椎圧迫骨折

慢性痛 (陳旧性の椎体骨折) 骨侵害受容性疼痛 腰髄神経障害性疼痛

骨侵害受容痛に対して NSAIDs+ノルスパンテープ® もしくは、トラムセット®またはトラマール® 腰髄神経障害痛に対して リリカ®開始 いずれも経過を見て減量へ

骨侵害受容痛に対して カロナール®2000mg/分4 腰髄神経障害痛に対して まずは経過観察

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帯状疱疹に関連する痛み

侵害受容性疼痛 神経障害性疼痛

急性期にNSAIDs+アセトアミノフェン さらに必要なら、トラマール®追加 神経障害痛に移行したらにリリカ®開始 NSAIDs等徐々に中止 慢性期には抗うつ薬併用など検討

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痛みと向き合う

緩和医療やロコモティブシンドロームの認知、新薬の登場など痛み診療の社会的な広がりがある TVCMでは

痛みに負けるな! 早く効く! 痛みは我慢しない! 神経障害性疼痛かもしれません。お医者さんに相談してください!

良い点もあるが、その一方で • 鎮痛薬の不適切な処方、処方薬の不適切な使用 • 鎮痛薬のOTC化(セルフメディケーション)、インターネット販売 • 痛み行動の強化、治療依存を助長、鎮痛薬の副作用から、かえってADL、

QOLの低下を招く • 患者の痛み行動に医療者が翻弄される

患者さんの身体・心理・生活を含めた全体像をみることが、重要

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メッセージ

• 痛み治療における薬物療法は、痛み診断に基づいて行う

• 薬物療法の限界をふまえ、他の療法を積極的に併用する

• オピオイドは安易に使用しない

• 痛み治療の目標は鎮痛ではなくQOLの向上である