グローバル・インバランスと世界金 融危機の中の国...

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MBA国際金融2017 1 グローバル・インバランスと世界金 融危機の中の国際通貨問題

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グローバル・インバランスと世界金融危機の中の国際通貨問題

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グローバル・インバランス

• グローバル・インバランス(世界的な経常収支不均衡)

(1) アメリカの経常収支赤字(←ITブームの中の設備投

資、財政赤字、住宅投資(その後、サブプライム問題に発展))

(2) 日本、中国、東アジアの経常収支黒字(←過剰貯蓄(Bernanke(2005)))

(3) 原油産油諸国の経常収支黒字(←原油高、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF))【オイルマネー⇒ロンドン・シティ⇒アメリカ】

グローバル・インバランス

MBA国際金融2017 3 原典:IMF, World Economic Outlook, October 2015

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Current Account / GDP

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%

US

JP

Asia (JP inc.)

Asia (JP exc.)

アメリカと日本と東アジア(ASEAN5+3)の経常収支不均衡

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アメリカの民間と政府の貯蓄・投資バランス

Figure 3: The US Saving-Investment Balance

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3:1

1975:1

1977:1

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1

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:1

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2003:

1

2005

:1

Perc

ent

of

GD

P

Private

Government

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米国の財政収支

0.130.24

0.13

-0.15

-0.38-0.41-0.32

-0.25-0.16

-0.45

-1.75

-1.17

-0.91

-0.58-0.53-0.57-0.58

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2000

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

財政収支(単位:兆ドル)

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穏やかなドル高とユーロの暴落

• リーマン・ブラザーズ・ショック(2008年9月)以降、穏やかなドル高とユーロの暴落。

• リーマン・ブラザーズ・ショックがインターバンク市場でカウンターパーティ・リスクを顕在化。

• 特に、サブプライム・ローン関連の証券化商品の損失によってバランスシートの悪化した欧州金融機関がドル資金を調達できない。

• ユーロ圏の域内取引はユーロが利用可能だが、域外取引にはドルが必要。

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ユーロとポンドの対ドル為替相場

世界金融危機時の米ドル流動性不足 • 住宅価格バブルの崩壊によってサブプライムローンの問題が発

生した。サブプライムローン及びMBSなどの証券化商品に資金

運用していた米国の金融機関とともに欧州の金融機関のバランスシートの資産サイドが毀損した。

• そのため、欧州の金融機関は、カウンターパーティ・リスクのために欧州の銀行間金融市場において米ドル流動性を調達することが困難となった。カウンターパーティ・リスクとは、銀行間金融取引において取引相手の金融機関がどれほどの不良債権化した証券化商品を保有しているかについて不確実性を意味。

• 米国ではFRBが中央銀行として米ドルを供給できるが、欧州ではECBなどが中央銀行として米ドルを供給することに限りがあっ

たために、米ドル流動性の供給不足となった。そのため、外国為替市場でドルに対する超過需要が発生していた。

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信用スプレッド • 信用スプレッド=安全資産(国債)との金利差 信用スプレッド=LIBOR-US TB金利 ⇒信用スプレッドを信用リスク・プレミアムと流動性リスク・プレミアムに分解。 ・信用リスク・プレミアム=LIBOR-OIS金利 ・流動性リスク・プレミアム=OIS金利-US TB金利 LIBOR=London InterBank Offered Rate (無担保) OIS=Overnight Index Swap (有担保)

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LIBOR (USD,3mo)とOIS金利(USD,3mo)とUS TB金利(USD,3mo)

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Data: Datastream

信用スプレッドと信用リスク・プレミアムと流動性リスク・プレミアム

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Data: Datastream

米ドル流動性不足に対するFRBの対応

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• FRBは、米ドル流動性不足を解消するために、政策金利であるFF金利をゼロとして量的金融緩和政策を開始するとともに、通貨スワップ協定を締結して、主要諸外国の中央銀行に無限の米ドル供給を行った。 そして、ECBなどの中央銀行は、欧州の金融機関に対して、FRBによって供給された米ドル流動性に基づいて欧州の金融機関に無限の流動性供給を行った。

=>カウンターパーティリスク及び信用スプレッドが2008年11月以降縮小。 • このことは、ユーロ圏やEU域内において域内経済取引のた

めにユーロが利用されているにもかかわらず、米ドルを域外経済取引の決済通貨として必要としていたことを意味する。

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MBA国際金融2017 14 原典:日本銀行

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アジア通貨の反応

• 一橋大学グローバルCOEと経済産業研究所との共同プロジェクト:AMUとAMU乖離指標(http://www.rieti.go.jp/users/amu/index.html)

(1) AMU(Asian Monetary Unit):アジア通貨(ASEAN+3(日中韓))の加重平均値

(2) AMU乖離指標:基準時(2000-2001年)に比較した各国通貨のアジア通貨における地位

• 2008年8月以降、アジア通貨はドル・ユーロに対して増価

• 2008年4月以降、アジア通貨はドルに対して減価 • 2008年7月以降、アジア通貨はユーロに対して増

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【参考】AMUの東アジア通貨のシェアとウェイト

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AMUの対外価値

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• アジア通貨の加重平均値(AMU (Asian Monetary Unit))は若干、増価(http://www.rieti.go.jp/users/amu/index.html)。

• アジア各国通貨のAMU乖離指標が非対称的反応を示している。

• 日本円:2007年7月の13%の過小評価から2008年10月末の8%の過大評価へ。20%ポイント以上の増価。

• 韓国ウォン:2007年10月末の20%の過大評価から2008年10月末の27%の過小評価へ。この1年間にアジア通貨の中で、47%ポイントの減価。

世界金融危機前後のアジア各国通貨の非対称的反応

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名目AMU乖離指標(日次)

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AMU乖離指標(名目)

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0

10

20

30

40

2007/1/1

2007/2/1

2007/3/1

2007/4/1

2007/5/1

2007/6/1

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2007/9/1

2007/10/1

2007/11/1

2007/12/1

2008/1/1

2008/2/1

2008/3/1

2008/4/1

2008/5/1

2008/6/1

2008/7/1

2008/8/1

2008/9/1

2008/10/1

2008/11/1

Indonesia

South Korea

Malaysia

Philippines

Singapore

Thailand

(データ)http://www.rieti.go.jp/users/amu/index.html

減価通貨のAMU乖離指標

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AMU乖離指標(名目)

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-5

0

5

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15

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2007/1/1

2007/2/1

2007/3/1

2007/4/1

2007/5/1

2007/6/1

2007/7/1

2007/8/1

2007/9/1

2007/10/1

2007/11/1

2007/12/1

2008/1/1

2008/2/1

2008/3/1

2008/4/1

2008/5/1

2008/6/1

2008/7/1

2008/8/1

2008/9/1

2008/10/1

2008/11/1

China,P.R.

Japan

(データ)http://www.rieti.go.jp/users/amu/index.html

増価通貨のAMU乖離指標

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世界金融危機の国際通貨システムへの影響

• 短期的には、ドルの信認失墜よりもドル流動性不足(インターバンク市場におけるドル資金取引の欠如)が深刻。⇒ユーロに対してドル高

• 長期的には、アメリカ政府の金融機関への資本注入が財政赤字を深刻化。⇒アメリカの経常収支赤字を拡大⇒ドルの全面安(但し、欧州も同様の状況にあり、依然として、ユーロ安が続く。)

↓ • 短期的には、金融機関への資本注入によるバランスシート健

全化とともに、中央銀行によるインターバンク市場へのドル資金の(無限の)供給によって対応(米国連邦準備銀行制度と各国中央銀行と通貨スワップ協定)。

• 今後、上記の長期的な問題が露呈するだろう。

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日本銀行 『経済・物価情勢の動向』 2008年10月

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• 通貨暴落の通貨危機に直面した東アジアの国に対してチェンマイ・イニシアティブ(CMI)による通貨スワップの実施の準備。【CMIの限界:総額830億ドル+80%がIMFリンク。】

⇒日中韓首脳会議( 12月13日)で通貨スワップ額を倍増(日韓:130億ドル⇒300億ドル)

• 東アジアが世界経済のエンジンになることが期待されている。しかし、「失われた10年」の日本と外需依存の中国。短期的には、財政刺激。長期的には、外需依存経済から内需依存経済へ。

• 長期的には、東アジアは、域内における「ドル基軸通貨体制」からの脱却。域内取引の決済通貨がユーロである欧州においても深刻な影響。域内取引の決済通貨がドルに依存しているアジアにおいて、欧州と同じことが起こっていたら、欧州・ユーロ以上に深刻化しただろう。

世界金融危機に対する東アジアの対応

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基軸通貨とは、 • ブレトンウッズ体制における各国通貨価値のアンカー(ドル・ペッグ)

• 国際貿易取引及び国際資本・金融取引における決済通貨(⇒通貨の交換手段としての機能が重視。通貨の価値貯蔵手段として機能が軽視。)

ドル基軸通貨体制とは、 • ドルが唯一の基軸通貨である体制(ブレトンウッズ体制)

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ブレトンウッズ体制における基軸通貨ドル(1944年~1971年)

DM 円

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ブレトンウッズ体制崩壊直後(1973年~1978年)

DM 円

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共同フロート制(EMS)(1979年~1998年)

ECU EMS通貨の加重平均値

DM

F.Fr

EMS

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ユーロ導入後の国際通貨制度(1999年~)

£ €

EU19

EU28

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ガリバー型国際通貨システムにおける基軸通貨ドルの慣性 • 国際通貨の交換手段としての機能は、一般受容性と関係する。一般受容性においてはネットワーク外部性が作用する。規模の経済が働く。

• 規模の経済が働く市場では、有効な通貨競争が行われにくい。(ガリバー型国際通貨システム)

• 基軸通貨ドルに慣性が作用する。

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ドル基軸通貨体制vs.複数基軸通貨体制 • ドル基軸通貨体制: 交換の効率性が高い。 通貨独占状態のため、アメリカの対外通貨政策(ドルの対外価値

の安定)にガバナンスが働かない。 ⇒アメリカの対外通貨政策の規律付けが必要。 ⇒米国連邦準備制度は、世界各国の中央銀行に対する「最後の貸

し手」としての役割を果たす必要がある。 • 複数基軸通貨体制: 交換の効率性が低い。 通貨競争によって対外通貨政策(通貨の対外価値の安定)に規

律が働く。 ⇒基軸通貨国間において、世界各国の中央銀行に対する「最後の

貸し手」としての役割の協調。

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ドル基軸通貨体制から複数基軸通貨体制へ • グローバル経済において、基軸通貨ドルの慣性が働いているので、基軸通貨ドルからの脱却には時間を要する。

• 地域通貨を地域における基軸通貨にすることは可能。(ユーロ導入前のドイツマルク、ユーロ導入後のEU及び周辺国におけるユーロ)

⇒アジアにおける地域通貨による基軸通貨が必要。 【アジア共通通貨単位の創設からアジア共通通貨へ】 (ASEAN+3財務大臣会議の下のresearch groupがアジア共通通貨単位を研究)

そのためには、political willが必要。