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26 5 Chapter 写真:赤松 孝 5 Chapter Engine Cooling Heat Loss Reduction with “ Thermo-Swing Wall Insulation Technology (TSWIN)”

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26

5Chapter

写真:赤松 孝

5Chapter

トヨタ自動車(株)/(株)豊田中央研究所

エンジン冷却

損失低減の

理論を実現へ

内燃機関の冷却損失は︑多くのエンジン開発者の意欲を駆り立てるものだった︒

しかし断熱エンジンの研究は︑大きなトレードオフに悩まされ︑途絶しているのが現状だ︒

ここでトヨタは︑﹁壁温スイング﹂に活路を見出した︒

すでにあるアイデアではあったが︑実際にカタチにできていなかったエンジンである︒

燃焼室の熱を伝え難くすることに加えて︑

壁の熱容量も小さくして壁の温度を制御する技術である︒

しかしそのために適した材料は何か︒

膨大な材料の中から見つけたのは︑身近なものだった︒

Engine C

ooling Heat Loss R

eduction with

“ Therm

o-Swing W

all Insulation Technology (TSW

IN)”

燃焼室壁温スイング遮熱〝TSWIN〟による

エンジン冷却損失低減技術の開発

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27 AUTO TECHNOLOGY 2018

過去の断熱エンジンの教訓から

新しい遮熱コンセプトへ

 

エンジン(内燃機関)で最も大きな損失が、冷却損失

である(図1)。燃料の燃焼で得た熱を冷やさなければ

ならないのは、実に効率が悪い話である。しかし、それ

が現実である。とはいえ、その冷却損失をできるだけ少

なくしようと1980年前後、セラミックを使った断熱

の研究が盛んに行われた。当時のセラミックスエンジン

は、ピストン、シリンダヘッド、鋳鉄シリンダのライナ

をセラミックで作る構造のディーゼルエンジンだった。

だが、断熱することでエンジンの壁面温度が上がってし

まうと、その影響が吸気温度に及び、吸気が加熱される

ことにより十分な空気量を得られないことから性能が低

下したり排ガスが悪化したりした。このため、今日に至

るまで断熱エンジンの実用化は実現していない。

 

しかしながら、資源保護や気候変動抑制のためにはエ

ンジンの熱効率の改善は最大の要求項目となっている。

そこで、燃焼室の壁温をガス温度の変化に追従させ、ガ

スと燃焼室壁の温度差を小さくすることで冷却損失の低

減と吸気加熱の防止を同時に可能とするピストン頂部の

表面処理技術が開発された。これが、壁温スイング遮熱

と名付けられた新技術である(図2)。

 

過去の断熱エンジン実用化の断念から、今回の壁温ス

イング遮熱の実現に至る経緯を、豊田中央研究所機械1

部パワトレシステム研究室の主任研究員であり工学博士

の脇坂佳史は次のように分析する。

「1980年代から'90年代にかけての断熱エンジンの研

究は、熱を伝え難いセラミックで厚い壁を形成して、熱

の逃げを小さくすることに主眼を置いていました。今回

の開発では、熱を伝え難くすることに加えて、壁の熱容

量も小さくして壁の温度を制御した点が新しいと言える

でしょう。

 

とはいえ、壁の熱容量を小さくして温度を制御する発

想は、我々の独創といえることではなく、'90年代にも論

文は書かれていました。しかしそれは計算のなかでの試

算であって実際に物ができたということまでには至って

いませんでした。

 

我々は、理想像を追求することを開発の動き出しとし、

特許を出そうと考えていました。そのための調査過程で、

そうした論文があったことを知ったのです。どれくらい

熱容量を下げれば効果が得られそうかという着想は我々

と同じであり、材料開発を通じて糸口があるのではない

かとの考えが生まれました。

 

その意味では、壁温スイング遮熱という我々の開発コ

ンセプトの種自体は以前からあったものかもしれません

が、それを実現するための材料開発へ我々がつなげたと

いうことが言えるのではないかと思います」

燃費向上に向け

高い目標に挑戦

 

脇坂とともに、開発を主導したトヨタ自動車パワート

レーンカンパニーエンジン先行設計部主幹の川口暁生は、

話を補足して、

「従来のエンジン開発では、まず排ガス浄化が最大の課

題でしたが、次に燃費が厳しく求められるようになった

ことにより、自然発生的に同時多発で壁温スイング遮熱

のコンセプトを用いて課題を解決する考え方が出てきて

いたと思います。そこは、他社はもちろん、トヨタ社内

でも気づいた人はほかにもいたでしょう」と語る。

 

それでありながら、脇坂や川口が、実現に持ち込めた

のはなぜであったのだろう。

「効果を、定量的に示すことを試みました」と脇坂。

「どこを遮熱するか、どれくらいの温度にするかといっ

た様々な条件を定量化し、明確化していったことにより、

開発の課題が明らかになっていきました。壁の温度をど

れくらい制御できれば、どれだけの成果が得られるかを

割り出し、人に説明できるようにしていったのです。一

次元の計算から始めて、三次元でのCFD(数値流体力

学)も導入して試算しました」

 

川口も、

「遮熱条件の定量というのが大切なのです。遮熱するた

めに表面に形成させる膜の厚さはどの程度が適切か。熱

伝導率、熱容量の変更によりどの程度改善効果があるの

か。膜の遮熱性を解析することによって、どういう膜を

作るのかという膜の諸元の目標が明確になりました」と

言う。

 

試算から、熱伝導率で0.1W(ワット)/mK(メートル・

ケルビン)、体積比熱で100kJ(キロ・ジュール)/

㎥K(立方メートル・ケルビン)、遮熱膜厚100μmを、

ディーゼルエンジンのピストン、ヘッド、バルブの各表

面に形成すると、熱効率が約8%向上するという結果を

得た。脇坂は、

「高い目標ではあるけれども、これほどの改善効果が得

られるならやるべきで、これを実現する遮熱膜の材料が

世の中にありそうだと判断し、開発を進めていました」

エンジン冷却損失低減の理論を実現へ―トヨタ自動車(株)/(株)豊田中央研究所―

ガス温

-360 -180 TDCクランク角(deg. ATDC)

180 360

壁音スイング幅

温度

壁温スイング遮熱

(金属表面)壁温(過去の断熱エンジン)

壁温(通常エンジン)

図2 壁温スイング遮熱技術のコンセプト

図1 エンジン熱バランスの例

正味仕事40%

摩擦損失 4% 損失

排気損失30%

冷却損失26%

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5Chapter

と、経緯を語る。

遮熱に使える

材料探しが始まった

 

ここから、遮熱膜を実現する材料探しが始まった。脇

坂は、

「複数のメンバーで文献を調べたり、インターネットで

検索したり、展示会へ足を運んだり、諸元や物を取り寄

せたり、片っぱしからあらゆる情報を調べていきました。

物として集めた材料は数十ありましたし、調査した資料

はその何倍もありました」と、そのときの様子を話す。

 

川口も、

「断熱材の選定では、エンジンで使えるという点から取

捨選択し、そのうえで材料実験をしてみて、また振り落

とし、最終的にエンジンで試すということをしました」

と説明する。

 

その結果は、

「熱を伝えにくく、熱容量が小さいという断熱材として

の熱物性と、エンジンに使っても壊れないという三つの

条件を満たす断熱材は、ほとんどありませんでした」と、

脇坂は当時の落胆の様子を語るのである。

 

どうするか。ここで、エンジン屋だと自らを言う脇坂

と川口は、材料の専門家に相談し、陽極酸化皮膜にはナ

ノサイズの孔を持ち、そこに空気層をたくさん持てるた

め断熱効果があるのではないかと助言を得た。トヨタ自

動車無機材料技術部金属材料室主任の西川直樹は「今回

使った陽極酸化皮膜は、一般的にアルマイト(理化学研

究所で発明された際の商標)と呼ばれるものです。これ

は、建材やアルミサッシの防錆、自動車では耐摩耗部品

などに使われています。ただし、通常使われている薄い

膜の状態だと、断熱材としては使えないかもしれない。

そういったことから、脇坂や川口たちが調べたときには、

対象外としてはねられていたのでしょう。一般的には皮

膜の厚みは10ミクロンかそれ以下ですが、今回は70~

100ミクロンですから、7倍以上の厚みになります」

 

脇坂は、

「陽極酸化皮膜は、10ミクロン程度の薄い皮膜として使

うことを前提に書かれていたため、使えないと判断して

いました。しかし実際に必要な厚みで試験をしてみると、

文献とは違った結果が得られ、意外にいいねという印象

でした。どのような物に、どれくらいの膜を用いるか、

それによって物性が異なることを今回学びました」と話

す。

アルミ鋳造品に

アルマイトを施す

 

材料が専門の、豊田中央研究所材料・プロセス1部界

面制御研究室の技師である清水富美男も、

「表面処理を知っている人にとっても、アルミ鋳造品に

アルマイトを施すのは難しいというのが常識でした。そ

こを、エンジン部品であるアルミ鋳造品にアルマイトを

厚膜化して使うという挑戦をしたのがこの開発です」と

語る。

 燃焼室断熱による冷却損失の低減は、1980年代から多くの技術者や自動車メーカーが取り組んだ開発であったが、十分な性能が出せないなどの課題を残したままとなってきた。この開発では、アルミ鋳造ピストン頂部に陽極酸化皮膜を設けることで、燃焼室の壁面温度をガス温度に追従させ冷却損失を低減する壁温スイング遮熱法を、ディーゼルエンジンで実現した。陽極酸化被膜という手法に到達するまでの断熱材の選定や、高温・高圧にさらされるディーゼルエンジン用ピストンに用いるための被膜強度の確保、さらには量産へ向けた生産工程の時間短縮など、完成までには多くの難問が待ち受けたが、それらを粘り強く解決し、冷却損失と熱効率の向上を実証して、エンジン本体で約2%の燃費向上を果たしている。今後は、ハイブリッド車などの動力源であるガソリンエンジンに対しても有効な手法であると将来性が期待されており、その実用化へ向けさらなる開発が続けられる予定である。

冷却損失に挑戦し続けた開発

図3 シリカ強化多孔質陽極酸化皮膜の構造

アルミ合金

シリカ封孔

ナノポア

ミクロポア

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西川は、

「通常アルマイトは、表面や断面を美しく仕上げる目的

で使います。一方、今回の開発は、気孔をたくさん持た

せることが目的でしたから、鋳造品でもアルマイトとの

相性が良かったということです。とはいえ、アルマイト

を厚く表面処理できるのかという課題はありました。ま

た、厚くついても、その適応性や信頼性については未知

数でした」と、未知への取り組みを語る。

 

それにしても、アルマイトへの着目に至るまで3年近

い歳月を経たという。川口は、

「希望と挫折が交互に訪れる日々でした。もうだめかと

思ったことも、正直あります」と、当時を振り返る。脇

坂も同様に、

「初めのうちは希望を持って、かなり先の可能性を期待

しながら見ていましたが、2年くらい結果が出なかった

ときには、ダメかもしれないとの思いになったこともあ

りました」と、苦悩の様子を

語る。

 

そうした時代を経て、アル

ミ鋳造品にアルマイト処理を

することは、多孔質になり、

熱伝導率と体積比熱が小さく

なることが分かった。またア

ルマイトは無機材料のセラ

ミックであるため、耐熱性に優れることは容易に予測で

きたことから、陽極酸化皮膜(アルマイト)の使用が有

効であるという結論に到達した。

 

ところが、それでもまだ一段落というわけにはいかな

かった。川口は、

「実験用のエンジンで試して適応を確認したところ、エ

ンジン試験では皮膜が壊れてしまうのです。理由は、

ディーゼルエンジンは高圧縮、高温で、2000気圧の

高圧燃料噴射を使うためです。対策として、パーヒドロ

ポリシラザンという無機ポリマーを補強剤として用い

ました(図3)。これにより、微細な孔を埋めて硬化し、

表面処理の硬度を高めることができます」と、材料の改

良へと移っていった様子を説明する。

 

脇坂も、

「いろいろな試験をしていくと、皮膜が壊れることは

あっても、陽極酸化皮膜の界面は鋳造アルミとしっかり

エンジン冷却損失低減の理論を実現へ―トヨタ自動車(株)/(株)豊田中央研究所―

清水 富美男 Fumio SHIMIZU

株式会社豊田中央研究所材料・プロセス1部界面制御研究室 技師

「この技術開発の論文がノミネートされたことは川口さんから聞いていましたが、受賞できるとは思わず、まさかと驚きました。同じ部署や社外の知人の方々からおめでとうと言われ、長い時間のかかった技術開発がやっとできあがり、それが受賞という形になってよかったと思っています。多くの人の代表として戴いたと思っており、光栄に思います」

脇坂 佳史 Yoshifumi WAKISAKA

株式会社豊田中央研究所機械1部 パワトレシステム研究室主任研究員 工学博士

「この技術開発に 10 年かかわりましたが、その間、外部へ内容を話すことはできませんでした。研究所に勤務しながら論文を出せなかったので、恩師も心配していたと聞いています。ようやく論文発表ができ、周りからの反響も大きく、賞も戴いて安心してもらうことができました。この技術開発には多くの人が関係しているのでみなさんに感謝しています。これまで助言や手伝ってくれた多くの人に、少しは恩返しができたのではないかと思います」

山下 親典 Chikanori YAMASHITA

トヨタ自動車株式会社パワートレーンカンパニーエンジン設計部第2基盤技術設計室 主任

「社内でもかかわりが薄かった人から、賞を取ったのだそうだねと声を掛けられ、自動車関連会社の方からもこれまでと違った目で見てもらえるようになり、光栄に思いました。褒められて嬉しいと、素直に思いました」

西川 直樹 Naoki NISHIKAWA

トヨタ自動車株式会社無機材料技術部金属材料室 主任

「子供が生まれる前で妻のつわりが酷いときになかなか家に帰ることができず、これがあのとき出張が多かった仕事の成果だと、賞という形を伴って報告できたのがよかったです。関連会社の方や社外の知人からもよかったですねと言って戴きました。結果が形となったことで久しぶりに知人から連絡をもらえたことも嬉しかったです」

川口 暁生 Akio KAWAGUCHI

トヨタ自動車株式会社パワートレーンカンパニーエンジン先行設計部 主幹

「社内報にも受賞の一報が出て、同期入社の人から 25 年ぶりに連絡があり、呑みに行きました。そういういい機会になりました。今回の開発ではまとめ役のマネージャーとしてかかわり、部署の代表として受賞したと思っており、仲間と、関係者、関係会社の方々に感謝し、その思いを、受賞によってより強くしました」

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5Chapter

ついていたので、これなら使えるだろうと考えました。

エンジン部品では、剥離してしまうことは許されないか

らです。この点で、陽極酸化皮膜に賭けました」と付け

加えた。

 

西川はさらに、

「パーヒドロポリシラザンを使って硬化するとは、陽極

酸化皮膜にはもともと微細な孔が開いており、その表面

の孔をパーヒドロポリシラザンで補強するということで

す。一方、内部の大きな孔は、そこまで含侵していかな

いことによって空間として残り、熱伝導率と体積比熱を

小さくすることができるのです」と解説する。

 

ここまでの検証が進む中、清水は、膜の厚みをどう出

すかで苦労していた。

「陽極酸化で使用する電解液について、当初はどのよう

な成分の水溶液にするかの検討がありました。次に、水

溶液の濃度はどれくらいがいいのか、試行錯誤していま

す。アルミ鋳造品に膜が付いたといっても、電解液の温

度や電流条件をどれくらいにしたときの膜の厚みがいい

のか、脇坂の所で実際にエンジンを使い試験をしてもら

いながら、表面処理の条件を絞り込んでいきました」

市場投入が

大幅に前倒しされた

 

こうして、開発が進んでいき、いよいよ量産へと移っ

ていく。担当したのは、トヨタ自動車パワートレーンカ

ンパニーエンジン設計部第2基盤技術設計室主任の山下

親典である。

「量産の難しさは、主に二つありました。一つは、これ

までにない皮膜の厚みにするため、作業時間が余分にか

かるという生産上の不利です。もう一つは、膜の強度を

上げるためパーヒドロポリシラザンを塗った後に焼成工

程が必要であり、そのための時間が掛かることで生産性

が落ち、数を多く作るのが難しいことでした。

 

ほかに気掛かりな点として、表面処理を施したピスト

ンを組み込んだエンジンが、ほかの部品との耐久信頼性

を確保できるのかどうかということ。ピストンの温度環

境が変わるので、ピストンの強度を上げなければならな

くなりました(図4)。

 

当初は、断熱をすれば温度が下がり、部品として有利

になるのではないかと期待したのですが、燃焼室全体で

断熱しているわけではないため、ピストンの温度分布が

変わり、熱変形により応力の高い部分ができてしまうの

です。このため、肉厚を上げて強度を高めるのですが、

一方で、動く部品ですから重量の上限があります。ピス

図4 エンジンに組み込まれたとき耐久信頼性を確保できるのか、様々な確認がされた

600

550

500

450

400

350-120 -60 TDC

クランク角〔°ATDC〕

SiRPA

SiRPA なし(アルミニュウム合金表面)

表面温度〔K〕

140K

45K

60 120

図5 シリカ強化多孔質陽極酸化皮膜の有無での表面温度計測結果

0.5100%

80%

60%

40%

20%

0%

3.2 3.9

31.3

18.3

17.2

29.5

ベース SiRPA 適用

31.9

0.5

16.5

17.2

30.0

未燃損失

排気エネルギー

冷却損失

ポンプ損失

摩擦損失

正味仕事

図6 シリカ強化多孔質陽極酸化皮膜有無でのエネルギーバランス変化

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31 AUTO TECHNOLOGY 2018

トン自体には当初からの余裕代がありましたので、それ

を使う形で補強しています」

 

そして、そもそもの生産性に関しては、

「厚い皮膜を作るための時間を、当初の1/10まで縮め

ました。また、パーヒドロポリシラザンを焼き付ける時

間も1/8に短縮しています」

 

量産化の様子を淡々と話す山下だが、川口はその苦労

を次のように称えた。

「この技術は、当初もっと先の時期に量産化する計画で

した。ところが、効果がありそうだということが分かっ

て大幅に前倒しで市場導入することになったのです。短

い開発期間の中で量産化を実現できた要因の一つは、温

度分布の変わることによって厳しくなる強度の条件を、

山下がCAEを使って分析し、解決策を導き出したので、

対処が早くできたことです」

実用化は

まだ第一歩

 

改めて、今回の開発の行方を左右した山場は何かとい

う問いに対し、脇坂は、

「テストピースで材料の熱物性を確認していましたが、

実際にエンジンで使うとなかなか成果が得られなかった

とき、遮熱膜の効果を、熱流束計で測ると遮熱している

ことを実測できたこと。壁の温度がすぐに変わる(スイ

ングする)ことを計測で確認できたことなどによって、

基本コンセプトに嘘はないと確信できたときです(図

5)」と振り返る。また川口は、

「直列4気筒エンジンの軸出力で燃費性能を上げること

ができたことと、耐久試験で何ら問題が出なかったこと

から手応えを得ました」と語った。

 

熱効率の向上という成果については、軽負荷における

エンジン本体の燃費で2%の向上が確認された(図6)。

川口は、

「2%というと、一般的な自動車の燃費で考えると小さ

な改善に過ぎないと思われるかもしれませんが、エンジ

ン単体での数値としては小さくない効果です。

 

また、今回はピストンの頂部に皮膜を設けたのみで、

ヘッドやバルブに適用していません。したがって、今回

の実用化はまだ第一歩と考えています。

 

今回はディーゼルエンジンでの実用化ですが、ガソリ

ンエンジンでも活かせるのではないかと考えています。

エンジンの燃費の効率マップでもっとも良い領域は高負

荷時ですが、そこを改善できる案が今はあまりなく、こ

の遮熱膜がそれを実現する策となります」と、抱負を語

るのである。

エンジン冷却損失低減の理論を実現へ―トヨタ自動車(株)/(株)豊田中央研究所―