やすお じいちゃん物語あるところに、もの忘れが始まった、やすお...

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やすお じいちゃん物語 20:04:01 1 岩手医科大学神経内科・老年科准教授 高橋

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Page 1: やすお じいちゃん物語あるところに、もの忘れが始まった、やすお じいちゃんが 20:04:02家族に囲まれて暮らしていました。 2 『わしの万年筆、使っておらんか?』

やすお じいちゃん物語

20:04:01 1

岩手医科大学神経内科・老年科准教授 高橋 智

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あるところに、もの忘れが始まった、やすお じいちゃんが家族に囲まれて暮らしていました。20:04:02 2

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『わしの万年筆、使っておらんか?』 1時間ほど前に、自分の部屋から万年筆を

持ち出して、客間で手紙を書き、そのまま

置きっぱなしにしてきたのですが、それを

忘れて、自分の部屋の万年筆がないと怒っ

て、探しています。

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『ダメだよ、じいちゃん』

ボケてるんだから、自覚してって言ってるだろ!』

『じいさん、昨日も、おとといも、その前も・・・・

そういって、自分の部屋にあったじゃないか!

仕事から帰ってきたお父さん、イライラして

います。『何言ってるの、きのうも一昨日も

そう言って、自分で置き忘れてたじゃないの

、俺だって忙しいんだ

ぞ』って、1分間、

怒鳴っていきました。

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『そうか、まちがっとったか! これから気をつけよう。』

それを聞いたおじいちゃん、『そうか、ま

ちがっとったか!息子にも面倒かけないよ

うに気をつけよう』。とはなりません。

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『困っているときに、怒鳴る怖い人・・』

自分の部屋に戻ってきたおじいちゃん、何を言われたかは忘れたけれど、心の中に残ったのは、『ワシが困って助けを求めても、怒って返す怖い人』という不快な感情です・・・。

不快、恐怖

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『困っているときに、怒鳴る怖い人・・』

6か月後

このようなケアの繰り返しの中で、6か月のときが流れました。

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『手を出してきたら、先に殴ってやる!』

おじいちゃんの心に残っていったのは、息子を見た時のこの人は怖い人という感情でした。しばらくすると、息子が介護で手を出そうとすると殴りかかって、介護への抵抗や暴力が始まりました。20:04:05 8

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『ワシゃ、あんな怖い人のいる家には帰らんぞー・・・・・』

『あんな怖い家には居たくない』という思いから勝手に外出し、20:04:05 9

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『ここは、どこじゃー・・・(徘徊へ)』

そして、おじいちゃんは町を徘徊するように

なってしまいました。

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その2

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『わしの万年筆、使っておらんか?』 万年筆を、客間に置きっぱなしにしてきた

やすお じいちゃん、やっぱり忘れて、

万年筆がないと怒って、探しています。

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『おじいちゃん、  いっしょに探してみよう!』

『だいじょうぶ!ボクも手伝うよ!』

仕事から帰ってきたお父さんと孫の健太君

、またいつもの、もの忘れかなとは思いま

したが、『一緒に探そう!』と優しい言葉

をかけて、1分ほど探していましたが、お

じいちゃんは、万年筆のことを忘れて部屋

にもどっていきました。

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自分の部屋に戻ってきたおじいちゃん、『さ

っきは何かを探そうとしていたが・・』、

何をしたかは忘れてしまったけど、心の中に

残ったのは、・・・・・。

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『おじいちゃん、    いっしょに探してみよう!』

『だいじょうぶ!ボクも手伝うよ!』

困ったときにやさしく助けてくれる人・・・・。やさしく、あたたかい感情です。

うれしいな

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6か月後

このようなケアの繰り返しの中で、6か月のときが流れました。

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『優しいみんなといっしょ、この家は楽しいなー』

もの忘れは少し進みましたが、やすお じいちゃんはみんなと楽しく暮らしています。20:04:07 17