ORIENTAL MOTOR

10 RENGA No.175 （2011）

モーター安全規格　UL1004シリーズの改正と当社の対応奥井　善雄　　　佐治　裕司

Safety standard for Motors, – Revision and Actions for UL1004 Series

Yoshio OKUI, Hiroshi SAJI

１．はじめに　モーターのUL規格であるUL1004「Electric Motors」（モーターの構造全般に関する規格）および UL2111

「Overheating Protection for Motors」（モーターの過熱保護に関する規格）に代わる規格として、2008 年以降 UL1004-1 からUL1004-8までのシリーズ規格が制定されました。　ここでは、新たに制定されたシリーズ規格に対して、当社モーターに関連する変更内容と影響および当社の対応について紹介します。

２．改正の概要２．１．規格体系の細分化　改正前の規格 UL1004シリーズが UL1004-1 からUL1004-5 に再構築され、UL1004-6、UL1004-7

および UL1004-8 の 3 つの規格が新たに発行されました。UL1004-1 は、基本要求事項としてすべてのモーターに適用され、UL1004-2 からUL1004-8 は、モーターの種類に応じ、UL1004-1と併用します。　また、改正後の規格には Effective Date が定められています。Effective Dateとは、改正前の規格から改正後の規格に置き換わる日を意味し、改正前の規格で認証されているモーターは、Effective Dateまでに改正後の規格への更新申請が必要となります。詳細は 4.1 節にて説明します。

　改正前の体系を表 1に、改正後の体系とEffective

Dateを表 2に示します。

表 1　改正前の体系規格番号 規格名称

UL1004 Electrical Motors

UL1004A Fire Pump Motors

UL1004B Electric Motors and Generators

UL2111 Overheating Protection for Motors

表 2　改正後の体系と Effective Date

規格番号 規格名称 発行日 Effective Date

UL1004-1Rotating Electrical Machines-

General Requirements

2008.9.15

2010.9.15

UL1004-2 Impedance Protected Motors 2013.9.16

UL1004-3 Thermally Protected Motors 2014.9.15

UL1004-4 Electric Generators 2010.9.15

UL1004-5 Fire Pump Motors 2010.9.15

UL1004-6 Servo and Stepper Motors 2009.12.16 2009.12.16

UL1004-7 Electronically Protected Motors 2009.10.15 2009.10.15

UL1004-8 Inverter Duty Motors 2009.9.17 2009.9.17

２．２．UL認証カテゴリーの細分化　規格改正に伴い、モーターの UL 認証カテゴリーも従来の分類から細分化されました。大別すると、過熱保護機構（Thermal Protection）が評価に含まれない認証カテゴリー（表 3 参照）と評価に含まれる認証カテゴリー（表 4 参照）となります。

　UL1004 and UL2111 of the UL standards for the motors have been revised. As well as the content of

requirements were changed, the standards system and the certification categories have been greatly

changed according to the types of motors. With the revision, we have also implemented the revisional

applications for our motors as needed. Although there has been little influence on the end equipment

associated with it, no such infl uence that will require a reappraisal.

　This article introduces the changes and the influences related to our motors, and our actions to the

newly enacted Series standards.

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表 3　過熱保護機構の評価が含まれない認証カテゴリーCCN（注 1） 認証カテゴリーの名称 適用規格

PRGY Motors-Listed UL1004-1

PRGY2 Motors-Component UL1004-1

NDMM2Incomplete Rotating Machine and

Rotating Machine Parts-ComponentUL1004-1

JZGZ Generators-Listed UL1004-1, UL1004-4

JZGZ2 Generators-Component UL1004-1, UL1004-4

PRHZ2 Servo and Stepper Motors-Component UL1004-1, UL1004-6

PRHJ Motors, Inverter Duty UL1004-1, UL1004-8

PRHJ2 Motors, Inverter Duty-Component UL1004-1, UL1004-8

FFWT Traction Motors-Limited UL1004-1

表 4　過熱保護機構の評価が含まれる認証カテゴリーCCN 認証カテゴリーの名称 適用規格

XEIT2 Impedance-protected Motors-ComponentUL1004-1

UL1004-2

XEWR2 Thermal-device-protected Motors-ComponentUL1004-1

UL1004-3

XGFW2 Motor Thermal Protection Systems-ComponentUL1004-1

UL1004-3

XDNW2 Electronically-protected Motors-Component

UL1004-1

UL1004-7

UL60730-1

XDAM2Dual-scheme Thermally-protected Motors-

Component

UL1004-1

UL1004-2/-3/-7

UL60730-1

３．改正による主な変更点３．１．モーターに関する基本要求事項３．１．１．感電および火災のリスク　　

　まず最も重要な変更として、これまで UL1004 では定義されていなかった「感電のリスク」および「火災のリスク」が、UL1004-1 で定義されたことがあげられます。

（1）感電のリスク・部品とアース、またはその他の同時接触可能な部品

間の電圧が、交流の場合は 42.4Vpeak、直流の場合は 60Vを超える場合

・対象二点間に接続された 1500Ω の抵抗に流れる電流が 0.5mAを超える場合

（2）火災のリスク・二点間の開回路電圧が 2500Vpeak 以上の場合　・二点間に接続された外部抵抗に 15Wを超える電力が供給される場合　これらの定義が追加されたことで、上記リスクに該当しない場合は、関連する要求事項への適用が除外されることになります。　当社 DC24V 入力モーターに対する感電のリスクを例にあげます。UL1004 では絶縁距離（空間距離、沿面距離）が 1.6mm 要求されていましたが、取付角寸

法が 20mm や 28mm のような小型のモーターは、その要求を満たすことができず、同規格での認証は取得できませんでした。UL1004-1 では感電のリスクが存在しないモーターと定義されるため、絶縁距離の適用が除外されます。

３．１．２．絶縁距離の代替要求事項

　UL1004-1 では UL1004 の絶縁距離の要求に加え、新 た に UL840「Insulation Coordination Including

Clearances and Creepage for Electric Equipment」（絶縁距離に関する規格）を代替として引用することが可能となりました。　UL 840は国際規格である IEC 60664-1「Insulation

Coordination for Equipment Within Low Voltage

Systems – Part 1: Principles, Requirements and

Test」の類似規格であり、過電圧カテゴリーや汚損度などから絶縁距離を規定しています。これにより、これまでは入力電圧に対して一定の絶縁距離が要求されていましたが、モーター絶縁設計の際、上記条件や絶縁材料の選択など、設計の幅が広がったことになります。

３．１．３．絶縁耐圧試験の試験電圧改正

　改正前後の試験電圧の比較を表 5 に示します。250V 以下の製品はより厳しい改正となりますが、該当する多くの当社製品は、表 5 の試験電圧を満足しています。

表 5　改正前後の試験電圧の比較

モーター定格電圧試験電圧 [V]

UL1004 UL1004-1

AC42.4V peak以下または DC60V以下1000

500

AC42.4V peak超または DC60V超1000+2Va（注 2）AC/DC250V以下で 1/2馬力以下

AC/DC250V超または 1/2馬力超 1000+2Va

３．２．サーボモーターおよびステッピングモーターに関する規格　ここでは当社製品に関わるUL1004-6について紹介します。　UL1004-6 は、サーボモーターおよびステッピングモーターを対象とした規格で、適切な制御回路を用いて通常運転させる場合の評価について規定しています。ポイントは次の二つです。

３．２．１．モーターの停止時および回転時における特性評価

　従来、UL1004 では適用モーターの種類まで記載されていません。ステッピングモーターは、位置決め用

（注 1）Category Control Numberの略。特性と構造が同じ製品を一つのグループに割り当てるためのコード番号。（注 2）Va：銘板に表示されている最も高い電圧

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モーターという特徴から、回転時の要求事項は特に適用されず、停止状態のみで評価されていました。今回、UL1004-6 で初めて回転時の入力電流と温度上昇に関する要求が追加されました。しかし、回転速度については特に指定はなく、モーターメーカに委ねるかたちになっています。　一方サーボモーターについては、UL1004においても回転時の要求事項が適用されていたため、この点においては UL1004-6 の発行においてもあまり大きな影響はないと思われます。

３．２．２．回転速度－トルク特性曲線のユーザへの公開

　サーボモーターとステッピングモーターに対して今までにない要求であり、大きな変化といえます。サーボモーターには、図 1 に示すような安全動作領域曲線（SOAC）（注 3）の公開が要求されています。また、この安全動作領域において、放熱板、外部ファンを用いた場合の境界線を示してもよいことになっています。

Continuous

（連続）

ω max

（最大速度）

Spe

ed

（回転速度）

0 Torque（トルク）

T max

（最大トルク）

Withblower

（ファン付）

Intermittent

（断続）

図 1　安全動作領域曲線（SOAC）の例

　ステッピングモーターにおいても同様に回転速度－トルク特性カーブの公開が要求されています。同時に、その特性カーブにおいてホールディングトルク、プルアウトトルク、最高スピード、電圧、電流を示すことが要求されています。　以上が UL1004-6 の主なポイントですが、その他に表示要求項目（Marking）に下記の内容が新たに追加されています。

（1）サーボモーターa. 連続停動電流（注 4）

b. 最高回転速度c. 定格温度上昇または絶縁システムクラス

（2）ステッピングモーターa. ホールディングトルクb. 最高回転速度c. 定格温度上昇または絶縁システムクラス

　なお、サーボモーターおよびステッピングモーターに対する c の要求は、旧規格では外形７インチを超えるモーターに対するものでしたが、改正によりモーターの大きさに関係なく要求されることになりました。　また、サーボモーターでは連続停動電流と最高回転速度を、ステッピングモーターではホールディングトルクと最高回転速度を、製品そのものまたは最小梱包単位に表示することが要求されています。

４．改正に対する当社の取り組み４．１．Industry File Review　改正前の規格で認証済みの製品に関しては、改正後の要求事項に適合しているか I.F.R.（Industry

File Review：登録製品再評価）により評価されます。I.F.R. は、改正後の規格に記載されている Effective

Dateまでに完了させなければなりません。　以下に当社製品が対象となる I.F.R. の状況を紹介します。

（1）UL1004

　2010 年 9 月 14日までに I.F.R. が完了しました。この I.F.R.により、当社ではブラシレスモーターおよびサーボモーターの認証カテゴリーに変更が生じています（表6 参照）。最終装置への影響に関しては 5 章で説明します。

（2） UL2111

　表 2 に示す通り、UL2111 は今回の改正によりUL1004-2とUL1004-3に細分化されました。　インピーダンスプロテクテドモーターは 2013 年 9月 15

日、サーマルプロテクテドモーターは 2014 年 9 月 14日までに I.F.R.を完了させる必要があり、当社対象製品は現在 UL へ申請中です。この I.F.R.による製品および認証カテゴリーの変更はありません。

（注 3）Safe Operating Area for Continuous operationの略。サーボモーターの回転速度－トルク特性カーブで、連続運転可能な領域を示すもの。（注 4）モーター停動時（ロックドローター）に、定格温度上昇を超えることなく、巻線に流すことができる最大の電流値。

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表 6　I.F.R.前後での認証カテゴリー

対象製品認証カテゴリー

I.F.R.前 I.F.R.後

ACモーター（サーマルプロテクテド） XEWR2 変わらず（インピーダンスプロテクテド） XEIT2 変わらず

ブラシレスモーター（AC入力ドライバ接続用） PRGY2 NDMM2

（DC入力ドライバ接続用） NWGQ2（注 5）（I.F.R.対象外）

ステッピングモーター（AC入力ドライバ接続用） XEIT2 変わらず

（DC入力ドライバ接続用） NWGQ2（注 5）（I.F.R.対象外）

サーボモーター PRGY2 PRHZ2

４．２．CTDP（注6）での対応　当社では、UL1004 および UL2111 で関連する各試験に対して CTDP の認証を取得しています。改正による追加および変更箇所については、2010 年度の定期審査にて、UL 審査官立会いのもと評価され、更新を完了しました。

５．最終装置への影響５．１．I.F.R. による影響　　　4.1 節で述べたとおり、当社ブラシレスモーターおよびサーボモーターは、認証カテゴリーが変更となりました。いずれも過熱保護機構の評価が含まれないカテゴリー内での変更のため、現在これらのモーターを使用中の最終装置に対しては特に影響はありません。ただし、最終装置の ULレポートにモーターの認証カテゴリーが記載されている場合は、必要に応じて記載を修正していただくことになります。

５．２．ステッピングモーターの認証カテゴリー　当社ステッピングモーターの AC 電源入力ドライバタイプは、これまでインピーダンスプロテクテドモーターの認証カテゴリーであるXEIT2で認証されていました。しかし、今後の新規申請においては、基本的に新設されたサーボモーターおよびステッピングモーターの認証カテゴリーである PRHZ2 での認証となる予定です。　2.2 節で述べましたが、この PRHZ2 は過熱保護機構の評価を含まないカテゴリーです。したがって、当社ステッピングモーターは、過熱保護機構の評価をされたものと、評価されていないものに分かれることになります。いずれにしても、モーターを最終装置に組み込み、実使用状態にて、モーターの認証カテゴリーを考慮したモーターの温度評価が必要になります。

６．まとめ　今回の改正により、UL 規格がモーターの種類に応じて細分化され、現状に則した規格になりました。これにより、各種モーターの設計および評価の判断が明確になりました。ここでは UL 規格について述べましたが、それ以外の規格も随時改正されています。それらの変化に迅速に対応し、常に適切な安全規格に適合したモーターを提供していきます。　なお、UL1004 シリーズの改 正につきましては、2011 年 11月 30日現在の内容となっています。

（注 5）UL60950-1認証製品。 認証カテゴリー名称：Information Technology Equipment Including Electrical Business Equipment - Component（注 6）クライアントの試験ラボを使用し、その試験データをULが活用するためのプログラム。必要レベルに合わせてWTDP（Witness Test Data Program）、CTDP（Client Test Data Program）、TCP（Total Certifi cation Program）の３つのプログラムが用意されている。CTDPの

維持継続には、試験業務および試験ラボに関する品質プログラム ISO/IEC 17025への準拠および試験施設と設備、資格のある試験員の適合性を、ULによる年一回の審査により確認される。CTDPを維持継続することで、UL規格に基づく適切な製品評価が実施でき、さらに

UL認証取得リードタイムの短縮といった効果があげられる。

筆者

奥井　善雄

技術本部　技術管理統括部　　安全規格課

佐治　裕司

技術本部　技術管理統括部　安全規格課i NARTE PRODUCT SAFETY ENGINEER

Copyright 2011 ORIENTALMOTOR CO.,LTD.