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1 持続可能な改修によるオフグリッドハウスの設計 Design and construction of cost efficient off-grid house by means of sustainable renovation 一般社団法人えねこや 代表理事 湯浅 (株式会社アトリエ六曜舎 代表取締役) ■えねこやについて 「えねこや」は、自然の力でつくったエネルギーだけで心地よく過ごせる「エネルギー の小屋」のことです。太陽光発電と蓄電池による電力自立(=オフグリッド)を前提に、 少ないエネルギーでも快適かつ健康的に過ごすために、建物規模を抑え(小屋化)、断熱 気密性能の向上と省エネ機器の採用、太陽や風などの自然エネルギーと再生可能な木質バ イオマスエネルギーを最大限活用し、CO2 排出量・完全ゼロを目指しています。 えねこやを考え始めたきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災と「福島第一原発 事故」でした。福島県を中心に、東日本の広大な土地が放射能で汚染され、多くの人たちがい まだに避難生活を続けているなか、原発事故の収束の兆しはなかなか見えません。国民の7割 が原発の再稼働に反対しているにも関わらず、日本政府は一部の政治家や企業、個人など、原 子力村の利益を優先して、原発を再稼働させて延命をはかろうとしています。 またEUをはじめとする先進国は、 温暖化対策の最重要課題として「再 生可能エネルギー」の普及を強力に 推進しているのに対し、日本ではベ ースロード電源とされる「原発」が、 再生可能エネルギー普及の大きな阻 害要因となっています。

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持続可能な改修によるオフグリッドハウスの設計

Design and construction of cost efficient off-grid house by means of sustainable renovation

一般社団法人えねこや 代表理事 湯浅 剛

(株式会社アトリエ六曜舎 代表取締役)

■えねこやについて

「えねこや」は、自然の力でつくったエネルギーだけで心地よく過ごせる「エネルギー

の小屋」のことです。太陽光発電と蓄電池による電力自立(=オフグリッド)を前提に、

少ないエネルギーでも快適かつ健康的に過ごすために、建物規模を抑え(小屋化)、断熱

気密性能の向上と省エネ機器の採用、太陽や風などの自然エネルギーと再生可能な木質バ

イオマスエネルギーを最大限活用し、CO2 排出量・完全ゼロを目指しています。

えねこやを考え始めたきっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災と「福島第一原発

事故」でした。福島県を中心に、東日本の広大な土地が放射能で汚染され、多くの人たちがい

まだに避難生活を続けているなか、原発事故の収束の兆しはなかなか見えません。国民の7割

が原発の再稼働に反対しているにも関わらず、日本政府は一部の政治家や企業、個人など、原

子力村の利益を優先して、原発を再稼働させて延命をはかろうとしています。

またEUをはじめとする先進国は、

温暖化対策の最重要課題として「再

生可能エネルギー」の普及を強力に

推進しているのに対し、日本ではベ

ースロード電源とされる「原発」が、

再生可能エネルギー普及の大きな阻

害要因となっています。

Hitzer
[SUDee2018 Preprint: https://sudworkshops.wordpress.com/] Received: 23rd October 2018 Author: Architect Mr. Tsuyoshi Yuasa (Rokuyosha, Enekoya in Chofu, Japan)
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いくら国民が声をあげても、国が原発をやめて再生可能エネルギーへ急にシフトするとは思

えない状況下で、私たちに一体何ができるだろうか? いろいろ考えている中で、「オフグリ

ッド」、そしてオフグリッドの小屋=「えねこや」という選択肢が見えてきました。

2016年6月、えねこやの普及を目的に「一般社団法人えねこや」を仲間とともに立ち上げまし

た。えねこやを、カフェやギャラリー、子育てや高齢者のサロンなど、半公共空間として

地域にひらき、さまざまな活動や参加型イベントを通して「エネルギー多消費型の暮らし」

から「持続可能で豊かな省エネルギー型の暮らし」へと発想の転換を促すことを目的とし

ています。また災害時の拠点として、えねこやを

地域に開くことで、災害に強いまちづくりの実現も

目指しています。

[点から面へ]

■オフグリッドについて

日本で一般に普及している住宅用太陽光発電の 99%以上は、イラストの左側のように、電力

会社とつながっていて、発電時の余剰電力を売電し、発電できない夜間や雨天時の電力は電力

会社から購入するという系統連系のシステムになっています。これに対して「オフグリッド」

の太陽光発電システムは、電力会社の送電網にはつながらず、日中発電した電気を蓄電池に貯

め、夜間や雨天時に活用するという独立したシステムとなります。

[系統連系] [オフグリッド]

電力会社の場合、原子力は今少ないものの、石炭やガスなど枯渇エネルギーによる発電が大

きな割合を占めていて、温暖化の影響は免れない状況です。また遠隔地の大規模発電所で作ら

れた電力が消費地まで送られて来る際に、送電ロスが発生していて、発電ロスとあわせると、

実に発電に用いたエネルギーの2/3近くを捨ててしまっているとも言われています。

オフグリッドの場合は、その場所で発電した電力をその場で使う地産地消型のため、電力ロ

スが少ないこと、無限の完全クリーンエネルギーであること、災害によって電力会社の送電が

ストップ(停電)しても、全く影響を受けないこと、などのメリットがあります。

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■オフグリッドを実現するために

蓄電池の容量や太陽光発電の能力など、作リ出すエネルギーには限りがあり、また天気に

よっては、より少ないエネルギーで賄わなければならない時期もあることから、オフグリッド

を実現するためには、まず3つのポイントについて考えておく必要があります。

(1)コンパクトかつシンプルな空間構成 →小屋化

空間が大きくなれば、冷暖房や照明などのエネルギー消費がどうしても増えてし

まいます。まずは空間をコンパクトにして消費エネルギーを抑えることが必要です。

(2)徹底的な断熱気密の強化により省エネを実現

建物の断熱気密性能が低いと、熱の損失が大きく、冷暖房などのエネルギー消費

が大幅に増えてしまうため、まずは建物の断熱気密性能を高め、熱の損失を抑える

ことが重要です。これにより省エネながら、快適で健康的な空間を得ることが可能

となります。古い住宅のリノベーションの場合は特に、開口部(窓)や床からの熱

損失が大きいので、このような問題箇所から改善していくと効果的です。

(3)必要となる小さなエネルギーは「再生可能エネルギー」で賄う

空間を小さく抑え、断熱強化をした上で、それでも必要となる小さなエネルギー

は、再生可能エネルギーで賄います。開口部を通して、太陽熱や風を上手に直接活

用することがまずは基本です。夏は太陽熱を遮蔽して通風を確保し、冬は太陽熱を

極力取得するようなことを念頭に開口部や周辺の計画を行えば、より気持ちよく過

ごすことが可能となります。

そして最後に、太陽光発電、

太陽熱温水器、木質バイオマ

ス(薪、ペレットストーブ、

ボイラー)などを用いて、再

生可能エネルギーから、電気

や熱を取り出して活用します。

[えねこや全体の構成イメージ]

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■古家を改修してオフグリッドを実現した「えねこや六曜舎」

2016 年 6 月、調布の深大寺で築 40 年の空き家を、スケルトン+減築リノベーションして、

えねこやの第一号となる事務所兼用住宅「えねこや六曜舎」をつくりました。

[改修前↑] [改修後→]

(1)耐震補強工事

無筋コンクリート基礎だったため、布基礎内側に補強基礎をつくり、全体をベタ基礎にして

補強した上で、気密+室内化を行いました。また耐震診断を行った上で、筋交いと構造用パネ

ル、補強金物を必要箇所に設置して、建物の耐震性能を高めました。

(2)温熱改修工事

屋根、壁、基礎に断熱材を設置し、トリプルガラスの断熱サッシや木製断熱サッシを採用し

開口部の断熱性能も高めて、外皮性能を UA 値 0.48 までひき上げました。

また一台の換気扇(逆回転可能)を用いて、室内空気循環システムを構築。床下を室内化さ

せ、冬は室内の温まった空気を床下に送り、それを室内に循環させることで室温の均一化をは

かりながら足元の冷えを抑え、夏は一台のみ設置したエアコンの冷気を、逆回転させて床下か

ら2階まで運び、2階の室温を下げることも可能です。

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(3)国産材や自然素材の活用、コミュニティー参加

構造と外装、造作には高知県産の土佐杉を、

また内装床・壁には長野県産のカラマツなど、

国産材をフルに活用して環境負荷を抑え、室

内の湿度調整の役割にも活用しています。

なお工事期間中には、珪藻土左官ワークシ

ョップや、人力井戸掘りワークショップなど

を開催するなど、多くの友人や地元調布の知

り合いにも関わってもらいました。

(4)オフグリッド・システム

切妻だった屋根を片流れにして3kW の太陽光発電パネル(12 枚)をのせ、安価なフォーク

リフトのバッテリー(鉛蓄電池/18kWh・48V)を組み合わせることで、完全オフグリッドを実

現させました(システム協力:自エネ組)。ガスもひいていないので、コンロは IH、お湯は太

陽熱温水器のみですが、年間7割以上の日数で40度となるので、お風呂やシャワーも十分に

使えています。発電容量が落ちる冬場の暖房には、友人が開発した重力式の無電力ペレットス

トーブ(薪兼用)を採用し、曇りや雨の日には、木質バイオマスのエネルギーに頼っています。

また雨水タンクの利用などは、比較的ローコストで採用が可能です。

[太陽光発電パネル/蓄電池/太陽熱温水器/無電力ペレットストーブ ]

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(5)エネルギーの見える化

HEMS(Home Energy Management System)を導入して、日・月・年間の電気使用量や、機

器別の使用量などを確認できるようにしています。それによって、何に一番エネルギーを使っ

ているのか、何に気をつければより効果的な省エネが可能か、ひじょうによく見えてきます。

省エネを実践していくためには「エネルギーの見える化」もとても大切な要素となります。

(6)オフグリッド・ライフ

えねこや六曜舎が完成して 2 年が過ぎましたが、一度も停電することなく、毎日快適に仕事

をしています。雨が続いて少し電気が足りなくなるのは、1年間で1日程度という状況です。

これまでと大きく変わったのは、天気予報をかなり先まで見るようになったことでしょうか。

太陽が出ないとエネルギーをつくれないので、それにあわせた生活(仕事)スタイルを実践し

なければなりません。晴れて発電量が多い日は、コピーを多めにとり、コンピューターを使い、

エアコンをつけて、掃除機などの充電をするなど、極力電気を使うようにしていますが、雨で

あまり発電しない時には、極力電気を使わない仕事、例えば手書きの図面やスケッチ、模型制

作をするなど、仕事のほうで少し工夫を凝らしています。ただ実際は曇りでもかなり発電可能

なパネルを使っているせいか、それほど気にはしていないのも事実です。

(7)持続可能な改修によるオフグリッドハウスの設計

改修によってオフグリッドの住宅や建築を実現させるためには、まず建物をコンパクトにす

ること(減築の選択肢もあり)。耐震改修と同様に、温熱改修によって、建物の断熱気密性能

を改善すること。太陽熱や通風を上手に活用すること。国産材や自然素材を採用して環境負荷

を抑え、室内空間の湿度調整効果も得られること。

そして必要な小さなエネルギーは、太陽光、太陽熱、木質バイオマス、雨水など、家庭で得

られる再生可能エネルギーでつくり出せば、オフグリッドハウスは十分に実現可能です。

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■移動式えねこや

私たちはいま、電力自立の小型版となる「えねこや屋台」をつくってイベントに参加したり、

セミナー企画や出張セミナーへの参加など、啓蒙活動を続けていますが、次は「えねこや2号」

として断熱気密性能を高め、太陽光発電と蓄電池を搭載した「移動式のえねこや」をつくる予

定です。多くの人に関わって頂きながら、さまざまな楽しい仕掛けを通して、省エネや再生可

能エネルギーの普及を促進し、原発や枯渇エネルギーに頼らない安全で持続可能な社会づくり

に寄与できればと考えています。ご興味があれば、ぜひご参加、ご協力をお願いいたします。

[移動式えねこやイメージ]