ことば - biochem-kanto.jp · Walker A,B モチーフ:Walker A とB モチーフはATP や...

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Walker AB モチーフWalker A B モチーフは ATP GTP の結合と加水分解に寄与するタンパク質構造を形成 する.Walker A モチーフ(P-loop とも呼ばれる)は,ATP もしくは GTP のリン酸基結合部位を構成しており GXXXXGKTS をコンセンサス配列として持つ.Walker B モチーフは hhhhDEh:疎水性アミノ酸)を一般的なコ ンセンサス配列として持ち,Mg イオンを介してヌクレ オチドに結合することで ATP 加水分解に寄与する.多く ATPase はこれらモチーフを持ち,その中には AAAATPase associated with diverse cellular activities)ファミ リー ATPase も含まれている.MCM ファミリータンパク 質は AAA+ファミリー ATPase の一員である. (鐘巻将人 遺伝研Arg-finger モチーフGTPase 活性化タンパク質(GAPGTPase-activating protein)にみられる GTPase の活性化に 関与するアルギニン残基と類似の機能と構造を持つモチー フ.MCM ヘリカーゼにおいては Walker B 下流にある保 存された ヘリックスの末端に Arg-finger を構成するアル ギニン残基があり,ATPase 活性化を促進する.AAAファミリーにみられる六量体 ATPase では Walker AB チーフから形成される ATP 結合部位が隣り合うサブユ ニットに接している.この際 Arg-finger は隣り合ったサブ ユニットの ATP 結合部位に作用するトランスアクチベー ターモチーフとして機能すると考えられる. (鐘巻将人 遺伝研ファンコニ経路:ファンコニ貧血症(Fanconi anemiaFA原因遺伝子がコードするタンパク質群が構成する DNA 復経路をさす.これまで16の原因遺伝子(FANCABCD D EFGIJLMNOPQ)が ファンコニ貧血症の患者から同定されており,その中には 組換え修復に関与する BRCAFANCD ),Rad 51 C FANCO),Slx FANCP),XPFFANCQ)な ど も 含 ま れている.これら遺伝子の変異細胞は,シスプラチンやマ イトマイシン C などが作る DNA 鎖間架橋(ICL)に超感 受性を示し,コードされるタンパク質は ICL 修復に関与 している.ICL は複製フォーク停止を引き起こすが,これ が引き金となり E ユビキチンリガーゼである FA コア複 合体が活性化されて,FANCI-D 複合体がモノユビキチン 化される.このユビキチン化が,ICL 修復経路活性化の目 印になると考えられている.最終的には ICL は二本鎖 DNA 切断を伴う Pol による損傷乗り越え修復と相同組換 えにより修復されると考えられる. (鐘巻将人 遺伝研亜鉛輸送体(zinc transporter:生体膜を介して亜鉛を輸 送するタンパク質.主な亜鉛輸送体として cation diffusion facilitatorCDF)フ ァ ミ リ ー と zinc-regulated transporters, iron-regulated transporter-like proteinZIP)ファミリーの二 つがある.CDF の多くは回膜貫通型で H Zn を交換 輸送することで細胞質亜鉛濃度を低下させる対向輸送体で ある.CDF の中には Zn 特異的に輸送する分子,Zn 加えて他の二価カチオン(Mn Fe Cd Ni Co など)を輸送する基質特異性の低い分子,Zn を輸送しな い分子がある.ZIP の基本構造は回膜貫通型で,細胞質 亜鉛濃度を上昇させるように Zn を輸送するが,輸送機 構については不明である.ZIP の多くは基質選択性が低 く,Zn に加えて Fe などほかの二価カチオンも輸送する 分子が多い. (河内美樹 名古屋大院・農亜鉛シグナリング(zinc signaling:亜鉛イオンにより制 御される情報伝達経路. 2004年に平野俊夫らの研究グ ループによって亜鉛がシグナル伝達因子として働くことが 発見された.亜鉛シグナリングは刺激後数分で起こる早期 亜鉛シグナリング(early zinc signalingEZS)と数時間で 起こる後期亜鉛シグナリング(late zinc signalingLZS)に 大別される.前者は転写非依存的な細胞内亜鉛濃度上昇 「亜鉛ウェーブ(zinc wave)」によるシグナル伝達であり, 後者は亜鉛輸送体の発現上昇など転写依存的な細胞内亜鉛 濃度変化によるシグナル伝達.亜鉛シグナリングは,初期 発生,免疫・アレルギー応答,皮膚代謝,骨代謝制御など 多くの生理機能に関わることが報告されている. (河内美樹 名古屋大院・農Lectin-IGOT-LCMS 法(Lectin-IGOT-LCMS method生体試料中,ある特定の糖鎖が付加されたタンパク質と, その付加位置を大規模同定するオミクス技術.試料プロテ アーゼ消化物からのレクチンを用いた糖ペプチドの選択捕 集,N 結合型糖鎖付加 Asn 残基の 18 O 安定同位体標識法 IGOTisotope-coded glycosylation site-specific tagging), LCMS ショットガン法によるタンパク質同定技術を組み 合わせる.用いるレクチンの糖鎖認識様式から付加糖鎖種 の推定も可能であり,糖鎖修飾の生体機能研究,糖鎖バイ オマーカー探索などに活用される.マウス組織,ヒト細胞 株,線虫などでの同定結果がデータベース GlycoProtDB 公開されている. (菅原大介 杏林大・医ことば 538 生化学 86巻第号( 2014

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Walker A,Bモチーフ:Walker Aと Bモチーフは ATPやGTPの結合と加水分解に寄与するタンパク質構造を形成する.Walker Aモチーフ(P-loopとも呼ばれる)は,ATPもしくは GTPのリン酸基結合部位を構成しておりGXXXXGKT/Sをコンセンサス配列として持つ.Walker Bモチーフは hhhhDE(h:疎水性アミノ酸)を一般的なコンセンサス配列として持ち,Mg2+イオンを介してヌクレオチドに結合することで ATP加水分解に寄与する.多くの ATPaseはこれらモチーフを持ち,その中には AAA+(ATPase associated with diverse cellular activities)ファミリー ATPaseも含まれている.MCMファミリータンパク質は AAA+ファミリー ATPaseの一員である.

(鐘巻将人 遺伝研)

Arg-fingerモチーフ:GTPase活性化タンパク質(GAP:GTPase-activating protein)にみられる GTPaseの活性化に関与するアルギニン残基と類似の機能と構造を持つモチーフ.MCMヘリカーゼにおいてはWalker B下流にある保存された ヘリックスの末端に Arg-fingerを構成するアルギニン残基があり,ATPase活性化を促進する.AAA+ファミリーにみられる六量体 ATPaseではWalker A,Bモチーフから形成される ATP結合部位が隣り合うサブユニットに接している.この際 Arg-fingerは隣り合ったサブユニットの ATP結合部位に作用するトランスアクチベーターモチーフとして機能すると考えられる.

(鐘巻将人 遺伝研)

ファンコニ経路:ファンコニ貧血症(Fanconi anemia:FA)原因遺伝子がコードするタンパク質群が構成する DNA修復経路をさす.これまで16の原因遺伝子(FANCA,B,C,D1,D2,E,F,G,I,J,L,M,N,O,P,Q)がファンコニ貧血症の患者から同定されており,その中には組 換 え 修 復 に 関 与 す る BRCA(FANCD1),Rad51C(FANCO),Slx4(FANCP),XPF(FANCQ)なども含まれている.これら遺伝子の変異細胞は,シスプラチンやマイトマイシン Cなどが作る DNA鎖間架橋(ICL)に超感受性を示し,コードされるタンパク質は ICL修復に関与している.ICLは複製フォーク停止を引き起こすが,これが引き金となり E3ユビキチンリガーゼである FAコア複合体が活性化されて,FANCI-D複合体がモノユビキチン化される.このユビキチン化が,ICL修復経路活性化の目印になると考えられている.最終的には ICLは二本鎖DNA切断を伴う Polによる損傷乗り越え修復と相同組換えにより修復されると考えられる.

(鐘巻将人 遺伝研)

亜鉛輸送体(zinc transporter):生体膜を介して亜鉛を輸送するタンパク質.主な亜鉛輸送体として cation diffusionfacilitator(CDF)ファミリーと zinc-regulated transporters,iron-regulated transporter-like protein(ZIP)ファミリーの二つがある.CDFの多くは6回膜貫通型で H+と Zn2+を交換輸送することで細胞質亜鉛濃度を低下させる対向輸送体である.CDFの中には Zn2+特異的に輸送する分子,Zn2+に加えて他の二価カチオン(Mn2+,Fe2+,Cd2+,Ni2+,Co2+

など)を輸送する基質特異性の低い分子,Zn2+を輸送しない分子がある.ZIPの基本構造は8回膜貫通型で,細胞質亜鉛濃度を上昇させるように Zn2+を輸送するが,輸送機構については不明である.ZIPの多くは基質選択性が低く,Zn2+に加えて Fe2+などほかの二価カチオンも輸送する分子が多い.

(河内美樹 名古屋大院・農)

亜鉛シグナリング(zinc signaling):亜鉛イオンにより制御される情報伝達経路.2004年に平野俊夫らの研究グループによって亜鉛がシグナル伝達因子として働くことが発見された.亜鉛シグナリングは刺激後数分で起こる早期亜鉛シグナリング(early zinc signaling:EZS)と数時間で起こる後期亜鉛シグナリング(late zinc signaling:LZS)に大別される.前者は転写非依存的な細胞内亜鉛濃度上昇「亜鉛ウェーブ(zinc wave)」によるシグナル伝達であり,後者は亜鉛輸送体の発現上昇など転写依存的な細胞内亜鉛濃度変化によるシグナル伝達.亜鉛シグナリングは,初期発生,免疫・アレルギー応答,皮膚代謝,骨代謝制御など多くの生理機能に関わることが報告されている.

(河内美樹 名古屋大院・農)

Lectin-IGOT-LC/MS法(Lectin-IGOT-LC/MS method):生体試料中,ある特定の糖鎖が付加されたタンパク質と,その付加位置を大規模同定するオミクス技術.試料プロテアーゼ消化物からのレクチンを用いた糖ペプチドの選択捕集,N 結合型糖鎖付加 Asn残基の18O安定同位体標識法(IGOT:isotope-coded glycosylation site-specific tagging),LC/MSショットガン法によるタンパク質同定技術を組み合わせる.用いるレクチンの糖鎖認識様式から付加糖鎖種の推定も可能であり,糖鎖修飾の生体機能研究,糖鎖バイオマーカー探索などに活用される.マウス組織,ヒト細胞株,線虫などでの同定結果がデータベース GlycoProtDBで公開されている.

(菅原大介 杏林大・医)

こ と ば

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生化学 第86巻第4号(2014)