「シャインマスカット」の栽培マニュアル

平成 28年 3月

大 阪 府

1 シャインマスカットの特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ １

（１） 来歴

（２） 樹、果実の特性

２ ぶどうの植付け方法と初年度の管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・２

（１）植付け方法

（２）初年度の管理方法（棚栽培の場合）

（３）新植、幼木期の管理

３ シャインマスカットの整枝、剪定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・４

（１）短梢栽培による剪定法

４ 新梢管理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・５

（１）芽かき

（２）誘引

（３）摘心

５ 花穂整形・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

（１）花穂整形の方法

（２）先端の異常花穂の整形方法

６ 植物成長調整剤の利用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・７

７ 整房と摘房・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・９

（１）摘粒

（２）摘房

８ 収穫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

（１）果皮色と熟度

９ その他の管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

（１）かん水

（２）袋かけ

（３）施肥

（４）その他の留意点

目 次

10 病害虫、生理障害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

（１）チャノキイロアザミウマ

（２）カメムシ類

（３）かすり症

（４）未熟粒混入症

<参 考>

① 収穫期の判定方法（カラーチャート値と糖度） ・・・・・・・・・・・・・・・15

② シャインマスカット果実品質調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

③ 長期貯蔵について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

④ 長梢剪定の場合の管理について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17

⑤ 小房栽培について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

⑥ 生産、販売及び産地状況について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

〈資 料〉

・ハウスピオーネ省力栽培指針

（H10 大阪府中央農業技術指導センター作成資料より抜粋）・・・・・・・・24

1

１ シャインマスカットの特徴

（１） 来 歴

シャインマスカットは、農林水産省果樹試験場（現 独立行政法人農業・食品産業技

術総合研究機構果樹研究所）で♀「ブドウ安芸津 21号」(♀「スチューベン」×♂「マ

スカット・オブ・アレキサンドリア」)×♂「白南」を交雑して育成された２倍体欧州

系品種で、2006年（平成 18年）に品種登録されました。

▲ シャインマスカットの系統図

（２） 樹、果実の特性

樹勢は強勢で、新梢伸長は旺盛です。発芽はデラウェアと比べ２日ほど遅く、多数

の芽が萌芽します。開花期はジベレリン処理したデラウェアと比べて 11 日ほど遅く

なります。

収穫期は、大阪府で８月中下旬（雨よけ栽培）となり、巨峰より黒とう病には弱く、

晩腐病には比較的強く、べと病の抵抗性は巨峰と同程度、裂果や縮果症の発生は少な

い品種です。

果肉は硬くて、噛み切りやすく、マスカットの香りがあります。果皮は黄緑色で、

薄くて渋みも少ないため皮ごと食べられます。巨峰より脱粒しにくく、日持ちが良い

です。糖度は１８度以上になり、酸含有量は 0.3～0.5g/100mlと低い品種です。

スチューベン-------マスカットオブ カッタグルカン-------甲斐路

アレキサンドリア

ブドウ安芸津

21号 ------------------------- 白南

シャインマスカット

2

２ 植付け方法と初年度の管理

（１）植付け方法

永年作物であるぶどうは、初年度の管理が後々まで多大な影響を及ぼします。従って、

苗木の植付けには、苗木選びから細心の注意を払う必要があります。

専業農家であれば、植付ける前年から苗木を注文し、優良苗を手に入れるようにした

いものです。

■場所：日当たり水はけの良い場所で、風当たりの強い所は避けます。

■時期：11月中旬～３月が適期ですが、極寒の時は避けます。

■方法

損傷した根は軽く切り直し、根が交差しない四方に配置して、先端部が下方になる

よう植え付けます。深植えは避け、接ぎ木部が土に埋まらないようにします。また、

枝先は地面から５０cm前後で切り返しておきます。以下、下図に従って行います。

定植１ヶ月以上前に、植穴を掘り上げ完熟堆肥(40kg)、苦土石灰(５kg)、ようりん(５

kg)、菜種粕(２kg)などを肥し、土とよくなじませておきます。なお、各資材の配合量

は土によって調整して下さい。

なお、シャインマスカットは初期生育が旺盛なため、チッソ肥料はほとんど必要あり

ません。

※その後の栽培ポイント

苗木の場合は、根が少ないので、植えた後に十分にかん水をすることが重要です。ま

た、乾燥しないように苗木の周囲には敷きわらをします。その後も、乾燥が続くときは

かん水を行います。

1.5～2.0m

3

（２）初年度の管理方法

苗木は貯蔵養分が少ないため、芽の数を少なくするほど、初期の成長は良好となりま

す。そこで、展葉が始まったら、勢いのよい新梢を２本残して残りはかき取ります。

30cmぐらいに成長したころに、勢いの強い方を支柱に誘引し(下図参照)、もう１本

は、かき取ります。

除草はこまめに行い、苗木が雑草に負けないようにします。

新梢が棚面まで達した頃(５月中～下旬)に棚下 30cmで摘心し、同じ勢力の副梢を２

本発生させます。

副梢が伸びてくれば、棚下 50～100cm の位置にある２本を残し、棚下の副梢はす

べて１葉残して摘心します。

その後、支柱および棚にきちっと誘引をします。夏場に十分かん水すれば、１週間に

20cmは伸びるでしょう。

生育が旺盛ならば、棚上に上が

った副梢からは複数の孫枝が発生

します。孫枝の内、主枝候補とな

る枝以外は、２～３葉残して摘心

します。

▲苗木における新梢誘引の方法

※幼木期の栽培ポイント

無核栽培では、本来１３～１５ｇ程度の果粒になりますが、幼木では果粒の肥大

が不十分な場合があります。

このため、主枝や亜主枝など、骨格となるような枝は生育旺盛で充実した１年枝

を芽数で３５芽程度残し、樹冠の拡大を図ります。

さらに、新梢数を確保するため、水上がり直前～開始期に芽傷処理を行います。

4

３ シャインマスカットの整枝・剪定

（１） 短梢栽培による剪定法

シャインマスカットは、ピオーネや巨峰と同様に、樹勢が強い品種であることから、

ジベレリン処理等による無核栽培を前提に、短梢Ｈ型整枝の導入をお薦めします。

樹間などはピオーネを基準にして整枝を行い、芽とびも少ないため、結果母枝はす

べて１～２芽で剪定します。（P24～ 「ピオーネの栽培」参照）

▲ 短梢Ｈ型整枝のぶどう園

※栽培ポイント

樹勢が旺盛で節間が広い場合には、１芽座あたり２新梢を出すことによって結果枝

を確保します。

5

４ 新梢管理

（１） 芽かき

生育を揃えるため芽かきを行います。時期は枝の生育状態がはっきりとしてくる展

葉５～６枚の時期から行います。

なお、弱い枝は空枝として利用するために１割程度残します。

シャインマスカットは、基部に強勢な新梢が発生しやすく、芽かきや誘引が不適切

な場合は、負け枝が発生しやすく、摘心などの新梢管理を十分に行わないと、徒長し

た枝（ドブづる）が発生することがあります。

短梢剪定の場合は、主枝１ｍあたり左右合わせて 10本を目安に残すようにします。

（２） 誘引

芽かきによって整理した新梢を重ならないように配置します。新梢長が約５０ｃｍ

（展葉数８枚位）まで伸長したらバインド線で段階的に誘引します。あまり早く誘引

すると基部から折れ、翌年の結果枝の確保に影響するため、十分伸長してから行いま

す。

（３） 摘心

シャインマスカットは、樹勢が強くなるため、強く摘心します。開花始期(展葉 12

～13 枚)に先房の先３～４節で新梢を切断すると、果粒肥大を促進できます。また、

副梢は葉を２枚程度残して除去します。

6

５ 花穂整形

（１） 花穂整形の方法

開花始期に花穂の先端（最下部）が４cm程度（一円玉

２枚分）になるように整形します。また、ジベレリン処理

の目印として上部支梗を２本残すようにすると、処理の見

落としに役立ちます。

なお、花穂整形の時期が早いと、同じ長さで処理しても

開花期までに花穂が伸びるため、思った以上に長く、段数

が多くなりますので注意が必要です。

（２）先端の異常花穂の整形方法

シャインマスカットでは、異常花穂の発生が、ピオーネなどの他の品種よりも多く

みられます。基本的には、第１花穂を残しますが、先端が丸く肥大しているものは切

り詰め、二股に分かれているものは、先の１つを切除するか、あるいは分岐部から切

除します。

極端に湾曲しているものは利用せず、副穂を利用します。

○ △ ×

▲ 整形後の花穂

目印に残した支

梗（ジベレリン処

理が済んだら切

除する）

正常な花穂 一部使用する花穂 使用しない花穂

４㎝

7

６ 植物成長調整剤の利用

（１）無核化処理と果粒肥大促進

満開時～満開 3 日後および満開 10～15 日後にジベレリン 25ppm の花房(果房)

浸漬処理により、無核化と果粒肥大促進効果が得られ、種なしぶどうとして生産でき

ます。

＜第１回ジベレリン処理＞

無核化を目的に、満開時～満開 3 日後（完全に花が咲くのを待って）にジベレリン

25ppm 溶液で花房を浸漬処理します。シャインマスカットは「欧州系２倍体品種」

の登録となっています。

ジベレリン処理が満開時より早いと花穂の主軸が湾曲しやすく、軸が伸びすぎたり、

先端部が花振いしたりする原因になります。

満開時に行うと、花振いは軽減できますが、ショットベリーの着生が多く、満開５

日後以降の処理では着粒が不安定になります。

▲ ジベレリン処理失敗房 ▲ ジベレリン処理適期

※植物成長調整剤の利用のポイント

シャインマスカットは種子が残りやすいため、完全に無核化するには、スト

レプトマイシンの開花前散布もしくは花房浸漬処理をします。若木の時期の着

粒安定には、１回目のジベレリン処理時に低濃度のフルメットを加用すること

が有効です。

ストレプトマイシンとフルメットは同時混用すると、効果にふれがあります。ス

トレプトマイシンの処理は、開花前散布をおすすめします。

8

＜第２回ジベレリン処理＞

果粒肥大を目的に、満開10～15日後にジベレリン25ppm溶液を浸漬処理します。

フルメット濃度

(ppm )

果房重(g) 摘粒前果

粒数(粒)

最終果粒

数(粒)

１粒重(g ) 肩部分の

１粒重(g )

肩部分の

糖度(度)

０ 438.0 60.2 48.8 9.0 12.0 17.4

２ 575.4 62.1 47.0 12.2 16.2 21.2

５ 603.8 63.3 48.1 12.6 16.5 21.0

▲フルメット処理濃度と果房品質(2008 南河内農と緑)

※フルメットの使用について（その①）

花振い防止と果粒肥大を目的に、第１回ジベレリン処理時にフルメット液剤２～５ｐｐｍ

溶液を加用しましょう。

ただし、第１回ジベレリン処理時に加用したフルメットの濃度が高いほど、果粒の内部空

洞や変形を助長し、果皮が硬くなったり、糖度が低くなる傾向があります。

※フルメットの使用について（その②）

第２回ジベレリン処理時にフルメットを加用すると、糖度の上昇が遅れ、裂果を

助長する恐れがありますので、使用には注意が必要です。

9

７ 整房と摘房

（１） 摘粒

第２回ジベレリン処理前からピオーネに準じ

て摘粒を始めますが、最終的に１果房あたりの着

粒数は４５～５０粒程度とします。（P24～「ピ

オーネの栽培」参照）

支梗は１０～１３段とし、果房上段は１支梗あ

たり４～５粒、中段は２～３粒、下段は１粒程度

を目安とします。

小果梗が太い、しっかりとした果粒を中心に残

し、胴部と先端部を粗摘粒しておき、肩部分の飛

び出した粒は除きます。

シャインマスカットは、果房上部（肩）に隙間

ができて、房しまりが悪くなりやすいので、最上

部の支梗にはやや多めに果粒を残します。肥大が

旺盛で着果過多になる場合は、仕上げ適粒で減ら

します。

（２） 摘房

着果基準は、１新梢当たり１果房を基本とし、10 房／３.３㎡（１坪当たり）とし

ます。１０ａ当たりの平均着房数は 3,000房、平均果房重を 600ｇとすると、

１０ａ当たりの収量は約 1,800kgとなります。

収量

（㎏）

段

数

着粒数 １粒重 果房重 着房数

１，8００ 10～

13段

45～

50粒

13ｇ

以上

550～700ｇ ３，０００房 １０房

（１坪当たり）

▲ 摘粒後

１０～１３段

▲ マニュアルで目指す収量と果房

※栽培のポイント

弱い新梢の場合は空枝とします。シャインマスカットは多収性の品種ですが、

着果過多になりますと糖度の低い品質の不良な果実になりやすく、700ｇを超え

る果房では、糖度が低くなる傾向があるので注意が必要です。

10

8 収穫

（１） 果皮色と熟度

高品質なシャインマスカットとは、果皮が鮮やかな黄緑色、糖度 18 度以上で、マ

スカットの香りが備わっていることです。

酸含量が少ないため、収穫開始時期は糖度と果皮色で判断します。一例として、羽

曳野市における無加温一重ハウスの収穫期は、８月中旬でピオーネよりやや遅くなっ

ています。非着色系品種のため、収穫時期の判断は難しいですが、糖度が１８度に達

した頃を収穫始めとします。

このため、果皮色については、最近では収穫期の判定の指標として、果皮の「カラ

ーチャート」（山梨県作成）が活用されています。（P15～「収穫期の判定方法」参照）

また、シャインマスカットは脱粒しにくく、樹

上で長く日持ち（棚もち）しますが、熟すに従っ

て、果皮は緑色から黄緑色、そして黄色へと変化

し、黄緑色になる頃から果皮のかすり症が発生す

ることがあります。（P13～ 「10 病害虫、生

理障害」の項参照）

▲カラーチャートによる収穫

期判定

11

9 その他の管理について

（１） かん水

発芽期や果粒肥大期は、ぶどうが最も水を必要とする時期です。土壌が乾いていれ

ば、十分にかん水を行います。できれば、スコップ等で土を掘り起こし、どの程度水

がしみこんでいるかを確認します。ジベレリン処理期に乾燥が続くようであれば、か

ん水してハウス内の湿度を上げておきます。

＜参考：ハウスの温度・水分管理（例）＞

（２） 袋かけ

摘粒作業後は、なるべく早い段階で袋かけを行います。

袋かけの目的は、病害虫被害や薬剤の付着防止ですが、シャインマスカットの果皮

を黄緑色に維持することと、「かすり症」の発生を軽減させることにも有効です。（P13

～ 「10 病害虫、生理障害」の項参照）。

特に遮光率が高い緑色、青色の袋かけで収穫期延長の効果が認められています。

生育期被覆～

加温開始

加温開始～

発芽期

発芽～

新梢伸長期開花期

果粒肥大期～

収穫期収穫後

普通加温

昼温度(℃)（換気目標）

-(35)

25～30(35)

25～30(30)

25～30(28)

25～30(28)

－夜温 保温 15～18 ハウス開放

無加温

昼温度(℃)（換気目標）

-(35)

-(30)

-(28)

夜温 保温 ハウス開放

かん水 高湿度管理適度な湿り気を保つようにかん水

晴天が続けば、5日おきにかん水

半月雨がなければかん水

▲ 緑色、青色の果実袋の使用例

12

果房重

(g)

果房長

(cm)

果皮色

果軸長

(cm)

着粒数

(個)

１粒重

(g)

糖度

(%)

かすり

症指数

緑色袋 580 19.8 2.8 18.5 43.3 13.4 19.6 1.0

青色袋 663 20.6 3.3 17.8 48.3 13.7 20.6 1.2

白色袋 520 19.5 3.8 17.3 42.3 12.3 21.3 1.7

（３） 施肥

ピオーネに準じて行いますが、肥料過多は、樹勢が強くなりすぎるため禁物です。

やや控えめの施肥とします。（P24～ 「ピオーネの栽培」参照）

肥料が残っているかどうかは葉の色や棚下の雑草の色で判断します。ただし、シャ

インマスカットの葉の色は他の品種に比べてやや薄いため、注意が必要です。

（４） その他の留意点

シャインマスカットは、特に黒とう病に弱いため、露地栽培への導入は適していま

せん。

また、デラウェアと混植している園では大粒種と小粒種で使用基準が異なる農薬が

あるため、農薬を使用する際には、特に注意してください。

表 果実袋の色の違いによる果実品質（2015 （地独）環境農林水産総合研究所（農大））

注) ①Ｈ型短枝剪定 10年生樹、雨除け栽培、調査日：8月 24日

②果皮色、5段階評価専用カラーチャート（山梨県作成）による。

③かすり症指数、0:無、1:ごく一部に見られる。2:果房の 1/3に見られる。3 :果房の 1/2に見られる。

13

10 病害虫、生理障害

最近、大阪府内のシャインマスカット栽培で問題となっているものを記載していま

す。

（１）チャノキイロアザミウマ

成虫の体長は約１ｍｍで、５月から園外より飛来し、６月にかけて幼虫の密度が高

まります。高温乾燥の年は発生が多くなりますので注意が必要です。

はじめは新梢の茎葉に寄生し、やわらかい若い葉の葉脈に沿って食害します。食害

痕は水浸状で、後に褐色になります。

果粒肥大後は果粒の表皮を吸汁し、幼果期では表皮をコルク状に、成熟期には褐色

にします。成熟期の症状はかすり症とよく似ていますが、かすり症は生理障害である

点で異なります。

防除は落花直後と袋かけ前の農薬散布を徹底します。薬剤は登録のある農薬であれ

ば、効果が期待できますが、抵抗性の発達を避けるため、同一系統の薬剤の連用は避

け、ローテション散布を心がけます。また、虫が出入りしないよう、袋の止め金具を

しっかりと締めます。

（２）カメムシ類

大阪府では５月からぶどう園へのカメムシ類の飛来が見られ、年によっては、平年

の１０倍以上発生し、傘紙や袋かけをしていても被害を受けます。ピオーネなどのよ

うに黒く着色しないため、被害も非常に目立ちます。

▲カメムシ類による被害果

14

■かすり症軽減にむけた他府県事例

・果皮中のカルシウムを高くします。

→過度なチッ素の施肥を控えます。

（チッ素およびカリウムはカルシウム吸収を妨げるため）

・樹冠面積の拡大を図ります。

・着果負担を減らします。

・有色果実袋（緑色、青色）の使用で果皮の黄化を軽減します。

（３）かすり症

成熟期に果皮が褐変する障害で、２～３年生の若

木で多く発生しますが、樹齢の進行とともに減少し、

樹冠拡大の終了した６年生以上では発生がかなり減

少しています。

満開 75 日後以降、糖度が 17 度に達する前後か

ら発生が目立つようになり、18度を超えると増加し

ます。

また、高湿度条件で発生し、特に梅雨時期に成熟

期を迎える作型で多発すると言われています。

（４）未熟粒混入症

成熟期の果房に未熟な果粒が混じる生理障害で、果粒軟化期にしか判別できません。

着果過多園で見られる傾向にあり、現在のところ原因は不明です。果粒の大きさは

様々ですが、肥大した果粒でも糖度が上がらず、高酸度のままで食味の悪い粒が混入

します。

収穫期には、他の粒とほとんど大きさが変わらないほど肥大する場合もあり、注意

が必要です。

▲ かすり症状の発生した果実

15

＜参考 ① 収穫期の判定方法（カラーチャート値と糖度）＞

シャインマスカットの糖度と果皮色の関係（下図左）および果実糖度の推移（下図右）を調査した結果は下記グラフの通りです。果皮色はシャインマスカット専用カラーチャ

ート（平成 24年版山梨県作成）を用いて 5段階評価しました。 カラーチャート値（ＣＣ値）が「３」程度で糖度は 18 度を超え、この程度の果皮

色が収穫始めの目安といえます（下図左）。ただし、果皮色は作型や栽培環境によって

も変化するので、この目安が自園のシャインマスカットに合うかどうかを、いくつか

のサンプルであらかじめ確かめておくことをおすすめします。

なお、果房の上部は中部および下部に比べて、糖度の上昇が早く、果皮の黄化が進

みやすいため、糖度や果皮色をチェックするときは、房の中下部で判断します（下図

右）。

▲ 房の各部位における糖度の推移 ▲ 糖度と果皮色（CC値）の関係

※無加温一重ハウス栽培 10年生シャインマスカット（Ｈ型短梢剪定）を用いて試験

（2013（地独）大阪府立環境農林水産総合研究所）

12

14

16

18

20

22

24

7月29日 8月12日 8月26日 9月9日 9月23日

糖度（°）

房上

房中

房下

12

14

16

18

20

22

24

1 2 3 4 5

糖度（°）

CC値

16

＜参考 ② 大阪府内産地別シャインマスカットの果実品質＞

大阪府内の９つの産地におけるシャインマスカットの果実品質は下記表の通りです。

カラーチャート値（ＣＣ値）が 3以上であった 7園地のうち 5園地のシャインマスカ

ットの糖度が 18度以上でした。

また、巨大な房を作ると、カラーチャート値（ＣＣ値）が低く、糖度の低い未熟な房

になることがあるので、着果過多には注意しましょう。

＜参考 ③ 長期貯蔵について＞

シャインマスカットは、他のぶどう品種に比べ、貯蔵性が大変優れています。

そのため、直売所等では適期に収穫したものを冷蔵庫で貯蔵することにより、販売期

間の分散を図り、有利販売につなげることができると考えられます。

ただし、普通冷蔵では長期保存による穂軸の褐変や果粒の萎凋が発生し、良い品質の

ものを出荷することができません。

そこで、シャインマスカットの長期保存等を可能にするマニュアルが、他の研究機関

等から発行されていますので、参考までに紹介します。

■ブドウ「シャインマスカット」収穫期延長と長期貯蔵技術

http://www.aomori-itc.or.jp/index.php?id=4862

（地方独立行政法人青森県産業技術センターりんご研究所 HP）

▲栽培暦の異なる大阪府内 9か所で栽培されたシャインマスカットの果実品質

※Ａ園は加温栽培、Ｂ～Ｉ園は 1重無加温栽培

（2015 （地独）大阪府立環境農林水産総合研究所）

園地 調査日 ＣＣ値果房重（g）

1粒重（g）

果粒相当数有核果率（%）

糖度（%）

酸含量（g/100ml）

糖酸比

A 7月28日 3.3 719 12.4 58 0 17.6 0.37 49

B 8月19日 3.0 645 13.1 49 0 16.7 0.34 50

C 8月19日 2.0 1113 14.7 76 0 15.4 0.38 41

D 8月19日 3.8 611 9.3 65 0 18.2 0.28 65

E 8月19日 3.0 564 11.9 48 26.7 19.8 0.33 60

F 8月19日 3.7 674 12.6 53 0 21.9 0.26 83

G 8月20日 4.3 760 16.5 46 36.7 19.7 0.21 94

H 8月21日 3.0 612 16.7 36 6.7 18.0 0.27 68

I 8月21日 2.3 715 16.7 43 0 17.9 0.27 66

17

＜参考 ④ 長梢剪定の場合の管理について＞

◎ 芽かき、誘引について 芽かきは、横芽～やや上向きの芽を 13～14本／3.3㎡を目安に残すようにします。

芽かきで整理した新梢は重ならないように配置します。

◎ 摘心について

開花始期（展葉 12～13枚）に先房の房先５節で摘心します。（新梢先端 15cm程

度を切除します）。若木では行わず、芽数の確保を優先します。

その後、摘心部から発生する副梢は、そのまま元の新梢の伸長方向に誘引し、1.5ｍ

程度の新梢長を確保した段階で適宜、先端の未展葉部分を軽くつまむ程度の摘心を行

います。

▲摘心の位置（長梢剪定の場合）

① ② ③ ④ ⑤

房先５枚で摘心

18

■1花穂 2果房とする場合

結果枝当たり 1花穂に整え、その主穂の先端（下房）と主穂上部の第 1支の

先端（上房）を各々2cmずつ残す。

■2花穂 2果房とする場合

結果枝当たり 2花穂に整え、各 （々基房、先房）の主穂先端を 2cmずつ残す。

＜参考 ⑤ 小房栽培について＞

パック出荷にあう 300g～400g（25粒程度）の小房を生産するための花穂整形の

方法で、次の 2種類の方法があります。

▲小房の花穂整形の方法

※下房より上房の方が、

また、先房より基房の方が

糖度は早く上昇します。

▲１花穂２果房の様子

基房 先房慣行房

下房上房

4cmに花穂整形 2cm程度に花穂整形

1花穂1果房 2花穂2果房 1花穂2果房

慣行の房つくり 小房の房つくり

▲2 花穂２果房（左、中央）と

慣行房（右）

19

<参考 ⑥ 生産・販売及び産地状況について＞

大阪府では平成 17年に試験的に導入され、平成 27年現在約８ha栽培されていま

す。無加温栽培が中心で、７月中旬～９月末に出荷され、大部分が直売などで販売さ

れているとともに、一部では市場出荷も行われています。

一方、販売については、大阪府でも全国の様々な産地のシャインマスカットが販売

されています。

（１） 産地の動向

◎ 入荷量

平成 26 年大阪府中央卸売市場へは、全国の産地からシャインマスカットが入荷し

ています。産地は、北海道、沖縄を除く全国に広がり、年間入荷量は、山梨県、長野

県、大阪府、岡山県、広島県、香川県が３ｔを超え、以下福島県、鳥取県、佐賀県と

続きます。山形県、和歌山県、福岡県ついては過去に出荷実績がありますが、平成 26

年は出荷されていません。

一方、平成 25年京浜市場へは、山梨県、長野県、岡山県がそれぞれ年間３３４ｔ、

２３０ｔ、４４ｔの入荷実績を持ち、市場の９７％を占めています。

いずれの産地も最近２、3年で 2倍から 6倍に入荷量が増えましたが、これは品種

登録と同時に全国で一斉に栽培が開始された結果によるものと思われます。

◎ 単価

平成 26年大阪府中央卸売市場における平均単価は、最近の 4年間では、各府県と

も大幅な下落、上昇はありませんが、産地間には大きな価格差があります。

産地間の価格は、３ｔを超える入荷量実績のある産地で比較すると、大阪府の年平

均単価は、他産地の約 1/2以下の 1,191円/kgとなっています。

平成 25年京浜市場における主要３県（山梨県、長野県、岡山県）の年平均単価は、

大阪府中央卸売市場の単価と比較するとそれぞれ、478円/kg、681円/kg、621円

/kg高くなっています。

20

21

○日本園芸農業協同組合連合会集計

○京浜市場のデータは、東京都中央（築地、太田、淀橋、豊島、北足立、葛西、世田谷、板橋、

多摩 ニュータウン）、三鷹市、横浜市（本場、南部）、川崎（北部、南部）の各市場合計。

22

23

○日本園芸農業協同組合連合会集計。

○京浜市場のデータは、東京都中央（築地、太田、淀橋、豊島、北足立、葛西、世田谷、板橋、多摩

ニュータウン）、三鷹市、横浜市（本場、南部）、川崎（北部、南部）の各市場合計。

（２） 産地の取組

山梨県では、品種登録時から試験販売を行い、流通関係者からの意見である「出荷

規格の統一」、「販売先の絞り込み」、「販売推進活動 2年以上」に努めてきたほか、糖

度 18度以上の生産物出荷にも心掛けてきました。

また、長野県では、県の推奨品種として品質の向上を図り、岡山県では、マスカッ

ト・オブ・アレキサンドリアや瀬戸ジャイアンツ同様に高級嗜好品として位置付けて

きました。これらの各産地の努力が現在の高価格評価に繋がっていると言えます。

24

＜資 料 ハウスピオーネ省力栽培指針＞

（H10 大阪府中央農業技術指導センター作成資料より一部抜粋）

１ 整枝せん定の考え方

①長梢せん定と短梢せん定

岡山県では現在無核ピオーネが４５０㌶

を越えており、全国の主力産地となってい

る。すべて短梢せん定であり、この整枝法

が成功の秘訣であると言える。

しかし、長梢せん定でうまくつくりこな

している産地もあり、短梢せん定でないと

ダメとは言えない。

②大阪で導入する場合の考え方

《長梢せん定》

◎デラウェアで経験があり、馴染みやすい。

◎ピオーネは樹勢が旺盛であることから、夏季の新梢管理が一番問題になると思われ

る。長梢では、新梢の徒長を押え、摘心をする管理が面倒になる。

◎ハウス栽培を前提としているが、波状型のハウスでは収穫時まで天井ビニールを全

面残すことは無理である。１枚おきに除去するにしてもどうしても雨を避けること

ができないので、多少の裂果は覚悟する必要がある。

《短梢せん定》

◎新梢の位置が揃っているので、新梢管理、ジベレリン処理など省力的に行える。

◎枝下げができるので、樹勢の調節がやりやすく、夏季の新梢管理も容易である。

◎短梢せん定は苗木の定植時に植栽位置を決めておかないと後から変更ができない。

◎従来のぶどう棚では短梢せん定の枝管理が難しく、作り替える必要がある。

③大阪でのピオーネの整枝せん定をどうするの

か⇒短梢の考え方を導入した長梢せん定とする

○亜主枝は側枝並みとし、主枝に４～５本つけ、

結果母枝は毎年更新し、短梢せん定とする。

○樹冠の拡大期は亜主枝を太らせない、芽かき

と更新せん定の徹底。

○結果母枝の芽かきは主幹部に近い部分では

強く（先端２～３芽をかく）、遠い部分では

弱くする（先端１芽をかく）

▲短梢せん定

25

★★ 短梢せん定の樹形の作り方 ★★

（１）植付け１年目

・苗木から発生した新梢を１本選び、支柱へ誘引しながら伸ばし、棚に達したら棚面に

誘引する。棚下５０ｃｍくらいの位置に発生した副梢を残し、反対側へ誘引しながら棚

上に伸ばす。

・ＷＨ型短梢せん定では主枝間隔２ｍで８本必要になるので、まず外側の主枝４本から

形成していく。生育が旺盛であれば、１年目で外側の主枝の位置まで伸ばすことができ

る。

・主枝延長枝から発生する副梢は２～３葉で摘芯しておく（主枝延長枝が肥大しすぎる

のを防ぐ）。主枝の先端は７月下旬～８月上旬に摘芯し、その後先端から発生する副梢

は半月ごとに摘芯し、主枝延長枝が扁平、長大とならないようにする。

・冬のせん定では摘芯した位置

より短い部分で主枝を切り返

す。この時節間が短くなった部

分で切るとよい。

（２）植付け２年目

・２年目に入ると８本の主枝候補の枝が確

保できるので、それぞれ主枝位置に誘引し

ていく。ただし、内側の左右の主枝の発生

位置は２芽以上の間隔をあけ、主幹部へ返

すように誘引する（図）。主枝候補の新梢

は幹線にぶら下げるように誘引する。主枝

延長枝から発生した副梢は１年目と同様、

２～３葉で摘芯する。また主枝延長枝以外では果実を着果させてもよい。

・冬のせん定で主枝延長枝の切返位置は２０芽までとし、あまり長くしない。

(３)植付け３年目以降

・主枝延長枝はさらに伸ばし、所定の位置にくれば先端を摘芯しておく。そのほかの管

26

理は１年目、２年目に準ずるが、２年目に延ばした主枝の部分には着果させ、冬は１芽

せん定を行う。

（４）せん定の方法

せん定は１芽せん定が基本で、左図のように２

芽目の節のところで切る（犠牲芽せん定）

この芽は基部のところにあると、わかりにくく、

実際には２芽目を残している場合も多い。

（５）結果枝がはげ上がった場合

ピオーネは発芽しないことがよく

あり、そのままでは新梢本数が確保で

きなくなる。

そこで、その部分の芽を確保するた

めに、それより先端部の新梢を元へ返

しながら誘引して芽を確保する必要

がある。

（６）短梢せん定の新梢の誘引

主枝は幹線の針金にぶら下げる。新梢は側

線に乗せるように誘引する。

収穫時期には側線からたれている新梢先端

部分を摘芯しておく。

27

２ 摘粒

目標とする果房

穂軸の長さ：５～６ｃｍ、車 数：８～１０車、着粒数：３０～３５粒

一 粒 重：１２ｇ以上、一房重：４００ｇ～５００ｇ

・１回目摘粒

１回目の摘粒はなるべく２回目ジベ処理までに実施する。

支梗（車）を８段～１０段残す

ことを目標に、それより支梗の数

が多い場合は肩の部分から除去す

る。しかし、房先のまとまりが悪

い場合は房先を切りつめてから支

梗の数を調整する（下図）。穂軸は

もうほとんど伸びないので、長さ

を５～６cmに調整する。

着粒数が多い場合は、手で揉むようにして摘粒する。３５～４０粒を目標に。

この時期に高温（日中３５℃以上）に遭遇すると花振いすることがあるので温度管理

には注意する。

・２回目摘粒

２回目ジベレリン処理のあと、小粒果や内側に向いた粒を取り除き、外を向いた

果粒を残すようにする。また果粒の肥大状況をみながら仕上げの摘粒の程度を決める。

時期は早いほうがいいが、果粒の肥大程度の見極めができない場合があるので、その

ような時は袋かけ、あるいは水まわりのころを最終とする。果粒数の目標は１房あた

り３０粒程度とするので、１支梗あたり４粒程度の着粒となる。

〈注意事項〉

☆摘粒の時、小果梗が残ると他の果粒に傷をつけるので、小果梗まで切り取ること。

☆大きな果房は着色不良となりやすいので、穂軸の切込みは確実に実施する。摘粒

が遅れた場合は下図のようにらせん状に粒を間引くとよい。

28

３ 施肥

ピオーネはチッ素肥料に敏感なのでチッ素過多にならないように注意する。

１０ａあたりの年間の成分量はチッ素で８㎏、リン酸で８㎏、カリで８㎏程度とし、全

量を１０月ごろに施用する。追肥は特に必要がない。

９月には有機質の補給として牛糞たい肥などを１０ａあたり２トン程度施用するが、

株元に重点的にマルチ状に施用するとよい。また土壌水分を保持するために株元に敷わ

らをするのも効果的である。

土壌の酸度はｐＨ６．５程度になるよう、苦土石灰などを施用する。また若木の間は

苦土欠が出やすいので、苦土の施用量を多めにする。

29

＜編集後記＞

本マニュアルは、試験研究機関での試験や現地試験園の調査ならびに府内生産

者の栽培状況調査結果を活用し、作成したものです。

本マニュアルが、大阪府内のぶどう生産者が新たな品種として「シャインマ

スカット」を導入する場合の参考になれば幸いです。

平成 28年３月

《編集・発行》

大阪府

《編集協力》

地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所

大阪府果樹振興会

平成 28年３月発行

大阪府環境農林水産部農政室推進課

〒559-8555 大阪市住之江区南港北 1-14-16

代表：06-6941-0351

※このマニュアルは、 部作成し、1部あたりの単価は 円（税込）です。