大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... ·...

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厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業(精神障害分野) 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患の実態把握と 対応ガイドラインの作表・評価に関する研究 平成25年度 総括・分担研究報告書 研究代表者 吉晴 平成26年(2014年)3月

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厚生労働科学研究費補助金

障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作表・評価に関する研究

平成25年度 総括・分担研究報告書

研究代表者 金 吉晴

平成26年(2014年)3月

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目 次

I. 総括研究報告書

大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患の実態把握と対応ガイドラインの

作成・評価に関する研究------------------------------------------------------

研究代表者 金 吉晴

II. 分担研究報告書

1. 災害時地域精神保健医療活動ガイドライン改訂に関する研究------------------

分担研究者 金 吉晴

2. 唾液コルチゾール測定による PTSD 症状評価の利点と注意点

:DV 被害母子研究に向けて ---------------------------------------------- - 分担研究者 金 吉晴

研究協力者 伊藤真利子、永岑光恵、丹羽まどか、加茂登志子

3. DV 被害親子に対するこころのケアハンドブックの開発に関する研究 -その 2 専門的治療に関する専門職トレーニングのストラテジーについて----- 分担研究者 加茂登志子、金 吉晴

研究協力者 氏家由里、伊東史ヱ、丹羽まどか、中山未知、廣野方子、

大久保彩香

4. 犯罪被害者の急性期心理ケアプログラムの構築に関する研究------------------

分担研究者 中島聡美

研究協力者 加茂登志子、中澤直子、小西聖子、吉田謙一、辻村貴子、

鈴木友理子、金 吉晴、成澤知美、淺野敬子、深澤舞子

5. 東日本大震災後の宮城県職員の精神健康状態と関連要因

①バーンアウトとその関連要因の検討----------------------------------- --

分担研究者 鈴木友理子

研究協力者 深澤舞子、金 吉晴

6. 東日本大震災後の宮城県職員の精神健康状態と関連要因

②精神健康の推移と被災、業務による影響の検討---------------------------

分担研究者 鈴木友理子

研究協力者 深澤舞子、金 吉晴

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7. 総合病院のための虐待対応マニュアルと虐待防止教育用テキストの

開発に関する研究---------------------------------------------------------

分担研究者 石郷岡 純

研究協力者 加茂登志子、内出容子

8. 口蹄疫被災における畜産農家・防疫従事者・地域住民の継続的健康調査---------

分担研究者 渡 路子

研究協力者 堤 敦朗、蒔田浩平、辻 厚史、重黒木真由美、

河野次郎、日高真紀、野上朋子

9. 東日本大震災に伴う産後うつ病の実態把握

-エジンバラ産後うつ病評価票を用いて- ---------------------------------

分担研究者 尾崎紀夫

10. 災害時における調査研究の倫理審査の現状に関する調査 ---------------------

分担研究者 飯島祥彦

11. PTSD補助療法としての高照度光照射の有効性の検討

:高照度光による恐怖消去学習促進効果 -----------------------------------

分担研究者 栗山健一

研究協力者 吉池卓也

I. 研究成果の刊行に関する一覧表 ----------------------------------------------

II. 研究成果の刊行物 ----------------------------------------------------------

Relationships between mental health distress and work-related factors among prefectural public servants two months after the Great East Japan Earthquake. International Journal of Behavioral Medicine Fukasawa, M., Suzuki, Y., Obara, A., & Kim, Y.

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Ⅰ. 総括研究報告

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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))

大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究

平成 25 年度 総括研究報告書

研究代表者 金吉晴

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部

研究要旨

【目的】東日本大震災と宮崎県口蹄疫後の精神保健の実態解明と、調査の方法論と倫理的

課題の検討。平常時の医療における DV 被害、虐待被害、犯罪被害への対応体制の整備。

トラウマ関連障害を発症した場合の検討。災害時のガイドラインの検討、DV 被害親子に対

するこころのケアハンドブックの開発に関する研究

【方法】ストレスを反映する生理指標に関する文献展望。司法解剖に付された人の遺族や、

被災した自治体職員の自記式健康調査。各種ガイドライン・パンフレット・マニュアルの

整備及び運用。口蹄疫対策における専門職従事者についての分析、被災農家の縦断研究、

地域精神保健活動マニュアルの作成。エジンバラ産後抑うつ自己評価票の施行。倫理審査

の現状についてのアンケート調査。高照度光による恐怖条件づけ消去促進効果の評価。既

存の災害時こころの情報支援センターの項目別の検討、県の児童相談センター全心理職員

に対し、PCITに関するイニシャルワークショップの効果検証。

【結果】

唾液コルチゾール測定による PTSD 症状評価の検討では、その利点と注意点が示された。

司法解剖遺族の長期にわたる精神健康不良の持続、また遺族の精神健康状態と警察官や法

医学者の対応には関連があることが明らかになった。東日本大震災後の宮城県職員のバー

ンアウトとその関連要因の検討では、バーンアウトに関連する/しないと思われる要因が

明らかになった。虐待対応マニュアルと虐待防止教育用テキストの開発に関しては、マニ

ュアル運用開始までにとどまった。口蹄疫被災に関する健康調査では、IES-R 値の上昇には

感染拡大の危険性やその判断を必要とする専門性の高い作業が関連していることがわかっ

た。また、被災農家の縦断研究では経年で改善する傾向を認めた。東日本大震災に伴う産

後うつ病の実態把握調査では、大規模災害時においては、直接被災していない地域の母親

においても不安症状が強まる可能性が示唆された。災害時の調査研究の倫理審査研究では、

事後審査に対する消極性が明らかになった。高照度光を持続曝露療法の併用療法として用

いることにより,治療効果を増強し治療期間を短縮しうる可能性が示唆された。災害時の

ガイドラインのあり方についての検討課題が抽出された。PCIT はライブケース体験やコン

サルテーションの在り方などに改良すべき点があった

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【考察】コルチゾール測定の有用性を活かしたさらなる検討が期待される。被災地住民、

遺族、自治体職員の精神健康とその関連要因 が実態に即して明らかとなった。それを受

け、今後の対応の向上が窺知される。作成された各種マニュアルの普及と発展が望まれる。

災害時における調査の研究倫理に関して体制整備の必要性が明確となった。PTSD 補助療法

としての高照度光照射の有用性が示唆された。現行の災害時地域精神保健医療活動ガイド

ライン(2003)に関して、現在の国際水準に照らしても評価すべき点が多々ある一報で、DPAT

体制を踏まえた更なる改善点が明らかとなった。今後の PCITについての系統的訓練体制が

必要である。

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A.研究目的 災害、犯罪(犯罪被害者等基本法の定め

るところによる)の被害者の苦痛に対する

精神医療対応への社会的期待は近年、急速

に高まっているが、とりわけ東日本大震災

を受けて、その関心は急速に高まっている。

犯罪被害者やその家族、遺族においては、

PTSD等精神疾患の有病率が高いことが多く

の研究で報告されている。これらの要因と

して初期対応の不十分さや二次被害の影響

が指摘されている。その一方、一般精神医

療におけるトラウマ被害対策は遅れてお

り、医療ネットワークモデルを確立し、

PTSD の専門治療者を育成する必要がある。

したがって本研究では、犯罪被害者が被害

直後に関わる機関(産婦人科医療、警察及

び民間被害者支援団体、法医学関連機関)

において、被害者への対応の実態を把握し、

適切な対応を行うための急性期心理社会支

援ガイドラインやパンフレット等を作成す

る。また、司法解剖に付された人の遺族の

精神健康の状態と、司法解剖時の警察官や

法医学者などの対応の関係を明らかにし、

急性期の遺族ケアの在り方を検討する。

さらに宮崎県の口蹄疫被害は地域住民の

生活への影響が甚大であり、その中期的な

影響が懸念されることから、宮崎県口蹄疫

被害による住民の精神健康への影響調査を

行う。

B.研究方法

① 災害時の精神保健医療対応:東日本大震

災の心のケアチームの活動に関する解

析を進め、中越大震災時の調査結果との

比較を行うとともに、災害後のフェーズ

ごとの活動内容の変遷、住民ニーズの変

化、それに対応した効率的なケアシステ

ムのあり方を検討する。既存の災害時地

域精神医療対応ガイドライン等を参照

しつつ、日本の医療実態に即したガイド

ラインを作成する。研究倫理については

分担研究者氏名

加茂 登志子

東京女子医科大学付属

女性生涯健康センター 所長

中島 聡美

国立精神・神経医療研究センター

精神保健研究所 成人精神保健研究部

室長

鈴木 友理子

国立精神・神経医療研究センター

精神保健研究所 成人精神保健研究部

室長

石郷岡 純

東京女子医科大学 医学部

精神医学教室 主任教授

渡 路子

国立精神・神経医療研究センター

精神保健研究所 災害時こころの情報

支援センター 室長

尾崎 紀夫

名古屋大学大学院医学系研究科 精神医学 教授

飯島 祥彦 名古屋大学大学院法学研究科 法曹実務専攻 特任講師

栗山 健一 国立精神・神経医療研究センター

精神保健研究所 成人精神保健研究部

室長

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先行する指針等を検討し、意見の集約を

はかる。宮崎県口蹄疫被災の調査につい

ては、被災農家は被災当初から3年間分

のデータの中で、全感染農家を抽出し、

経年での分析を行い、被災後の復興状況

や復興を妨げる背景因子について分析

する。防疫従事者については、これまで

宮崎県内従事者については集団として

の健康影響が認められなかったことか

ら、平成24年度に全国に拡大して行った

調査のうち、特に家畜の殺処分等に濃厚

に関わった獣医師に対象を絞って健康

影響の有無を評価する。今年度が本研究

の3年目に当たることから、これまでの

経年データを用いて、口蹄疫被災におけ

る精神保健対策マニュアルを作成、自治

体への配布等により周知を図る。東日本

大震災の後で心のケアチーム活動を行

った関係者を対象としたデルファイ法

による調査結果を集約する。そのうえ

で、個別の事案での精神保健対応の課

題、既存ガイドラインの修正すべき点を

明らかにする。 ② トラウマ医療ネットワークモデル:犯罪

被害者に対するケアマニュアルを作成

し、その効果検証を行う。同時に、東京

女子医科大学と連携のある産婦人科、な

らびに同大学病院救急外来を対象とし、

1年目は総合病院での運用を想定した虐

待対応マニュアルと研修テキストの開

発を行い、2年目は、犯罪被害者への急

性期支援ガイドラインの有効性の評価

と内容の修正、性暴力被害者への産婦人

科医療現場における対応についての聞

き取り等を行ったことを踏まえ、今年度

は、司法解剖時の遺族への対応の現状と

心理的影響に関する研究について考察

し、司法解剖における心理支援マニュア

ル原案を作成する。また、産婦人科医療

現場での心理的支援のマニュアル案を

作成し、被害者支援に熟達した産婦人科

医氏、精神科医、臨床心理士を対象とし

てエキスパートの意見を集約する。 ③ 母子PTSD、複雑性悲嘆に対する認知行

動療法の均てん化と効果研究:母子トラ

ウマへのPCIT, 複雑性悲嘆に対する

CBTの指導者育成、研修システムを確

立し、治療効果研究を実施する。 ④ 災害時の疫学研究に関する方法論的研

究:自然災害時の精神保健評価尺度につ

いて具体的な項目ないし尺度を推奨/

提案する。関係者から意見聴取し、コン

センサスの得られた最終版を作成する。

妥当性の検討が十分でない推奨項目/

尺度については、小規模な調査を実施し

妥当性を確認するとともに、推奨項目/

尺度およびマニュアルの改善に資する。

世界精神保健調査から自然災害経験者

のデータを解析し、自然災害と精神疾患

との関係を時系列的に解析し整理する。

ま た う つ 病 に つ い て は biological markerとの関係を参照しつつ、改めて

妥当性を検証する。災害時の研究倫理指

針については先行研究並びに東日本大

震災後の研究実態を踏まえて提言を行

う。 倫理的配慮

東日本大震災後の活動記録の解析につ

いては、一部、行背データを使用するこ

とがあるため、疫学研究の倫理指針に基

づき、行政データの二次使用に関する手

続を取る。治療研究(治療ネットワーク、

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PTSDの認知行動療法)については関係

施設の倫理委員会の承認を得る。治療研

究に関しては臨床研究に関する指針を踏

まえる。実際の調査、治療研究に当たっ

ては、対象が被害を受けた方々であるこ

とを十分に踏まえ、応接の態度などにも

十分に配慮し、インフォームド・コンセ

ントの取得に当たっては、自由意志に基

づいてなされるように万全を尽くす。デ

ータは全て連結可能匿名化とし、匿名化

されたデータであってもそれぞれの研究

の責任者が管理し、研究生などが研究施

設外に持ち出すことは許可しない。

C.結果と考察

金らは、唾液コルチゾール測定による

PTSD 症状評価の利点と注意点について検

討を行った。配偶者からの家庭内暴力(DV)

の被害は近年多く報告されており,適切で

迅速な介入の必要性がとりわけ高い。DV被害を受けた母子の PTSD 関連症状の発症

と回復について,母子を関連づけて理解す

るためには,客観的に定量化された指標を

用いる必要がある。ストレスを反映する生

理指標の一つとしては,唾液コルチゾール

がよく用いられている。そこで本研究では,

唾液コルチゾールの基本特性とストレスに

よる影響を検討した実験室研究,および主

に女性の PTSD を対象とした研究を紹介し,

唾液コルチゾールを指標とした PTSD 研究

の利点と注意点について述べた。PTSD 研

究における唾液コルチゾール測定の有用性

としては,以下の三点が挙げられた。第一

には,採取の負担が軽いことである。第二

には,質問紙のように認知的な要求がなく,

様々な集団を対象とした検討ができること

である。第三には,繰り返しの採取ができ

ることである。一方、注意点としては,次

の二点が挙げられた。第一に,コルチゾー

ルレベルは様々な要因を反映することであ

る。PTSD はしばしば抑うつや不眠や生活

リズムの乱れを伴い,アルコールや治療薬

を使用している患者も多い。他の指標とも

組み合わせ,こうした要因を計画時や統計

解析時に統制し,結果の解釈を明確にしな

ければならない。第二に,PTSD 患者自身

に唾液の採取を依頼する場合には,決めら

れた時刻と手順で確実に採取できるように

特に注意する必要があることである。健康

な参加者であっても自宅での採取のコンプ

ライアンスはデータの精度を左右するおそ

れがあり,注意の集中や新しく記憶するこ

とが困難な PTSD 患者では特に注意が必要

であると考えられた。 金らは災害時地域精神保健医療活動ガイ

ドライン(2003)の再検討に向けて、同ガイ

ドラインの意義と限界を検討し、新たに追

加すべき項目を抽出した。同ガイドライン

には、自然回復の尊重、PFA の導入、見守

り対応の重視、報道との連携、多文化対応、

支援者支援など、当時として国際的にも先

進的な方針が明示されていた。しかし時相

別の症状と対応策の整理についてはデータ

の不足のために課題が残っていた。また今

後の改訂のためには、DPAT による派遣、

DMHISS の使用、DMAT 等との連携、研

究倫理、精神医療システム支援、情報不安

などへの対応が求められることを見出した。 加茂らは(PCIT)のワークショップとコ

ンサルテーションの経験をモデルに、専門

的治療に関するトレーニングのストラテジ

ーについて検討した。県の児童相談センタ

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ー全心理職員に対し、PCIT に関するイニシ

ャルワークショップ(WS)とその後の具体

的事例を用いたコンサルテーションを軸に

系統的トレーニングを行った。トレーナー

トレーニングと治療プロトコルやアセスメ

ントなどの資料については治療効果エビデ

ンスを最大限維持する形で導入することが

出来たが、ライブケース体験やコンサルテ

ーションの在り方などに改良すべき点があ

った。今後、PCIT やこれに類するエビデン

スに基づいた心理療法の均てん化を日本で

も推し進める場合、治療トレーニングセン

ターを設けることが必要であることを見出

した。

中島らは、犯罪被害者への急性期心理ケ

アプログラムの構築のため、以下の 2 つの

研究を行った。研究 1:検視(検死)及び

司法解剖時の遺族への対応の現状と心理的

影響に関する研究では、司法解剖に付され

た人の遺族の精神健康の状態と、司法解剖

時の警察官や法医学者などの対応の関係を

明らかにし、急性期の遺族ケアの在り方を

検討する目的で研究を行った。共同研究機

関である東京大学法医学教室で司法解剖に

付された人の遺族のうち、承諾を得られた

45名に対して司法解剖前後の警察官や法医

学者の対応の印象、K6、BGQ、IES-Rを含む

自記式の調査票を郵送し、27 名から回答を

得た(回収率 60%)。回答者の 52.2%が重症

精神障害相当(K6 13 点以上)、46.0%が複

雑性悲嘆の疑い(BGQ 5 点以上)、40.9%が

PTSD疑い(IES-R 25点以上)に該当してお

り、約半数は精神健康が不良であることが

示された。K6得点と BGQ得点は法医学者の

丁寧な説明や思いやりのある態度と負の相

関があり(r=-.975, -.910, p=.05)、IES-R

得点は司法解剖前に警察官から説明時間を

十分と感じた度合いと、遺族の希望や意見

を尊重してくれたと感じた度合いに負の相

関(r=-.531, -.440, p = .05)があっ

た。以上のことから、司法解剖遺族では、

長期にわたり精神健康が不良な状態が持続

しており、また、遺族の精神健康状態と警

察官や法医学者の十分な説明や配慮ある対

応には関連があることが明らかになった。

また、研究 2:性暴力被害者向け支援情報

パンフレットの開発では、近年増加してい

る性暴力被害者救援センターや産婦人科医

療現場で被害者に対して心理教育や情報提

供を行うためのパンフレットの作成を行っ

た。原案に対して性暴力被害者支援に精通

した専門家 27名から意見を求め、修正を行

った。

鈴木らは、東日本大震災後の宮城県職員

の精神健康状態と関連要因、特にバーンア

ウトとその関連要因を明らかにした。自治

体職員は災害後、自ら被災しながら膨大な

業務に追われる。時間が経過すると、精神

健康とともに、バーンアウトが労務管理上

の課題となる。本研究の目的は、行政職員

のこうしたバーンアウトの状態およびその

関連要因を明らかにすることである。東日

本大震災の発生後に 3 回実施された宮城県

職員の自記式健康調査の第 1 回調査(2011

年 5 月)、第 2 回調査(同 10 月)、第 3 回調

査(2012 年 7 月)のデータを連結して、す

べての調査に回答した 3,174 名(全職員の

60.0%)を解析対象とした。分析のアウトカ

ム は 職 務 上 の バ ー ン ア ウ ト (Maslach

Burnout Inventory-General Survey MBI)とし、

震災業務、過重労働、職場環境、被災状況、

基本属性の領域の要因について、関連を検

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討した。結果であるが、バーンアウトが疑

われたものは、481 人(15.1%)であった。バ

ーンアウトのリスクを高めていたのは、女

性、最長労働月の時間外勤務、調査時点で

休息が不十分なこと、職場内コミュニケー

ションが不良であること(2011 年 5 月と、

2012 年 7 月)、半壊以上の家屋損壊であっ

た。疲弊感については、女性、保健福祉部、

調査時点での震災関連業務の従事、調査前

月の時間外勤務時間、自宅外生活が影響を

与えていた。シニシズムについては、女性、

最長労働月の時間外勤務、調査時点で休息

が不十分なことと職場内コミュニケーショ

ン不良が関連していた。職務効能感の低下

には、女性、50-65 歳、調査時点での職場内

コミュニケーション不良が関連していた。

石郷岡らは、総合病院のための虐待対応

マニュアルと虐待防止教育用テキストの開

発に関する研究を行った。医療機関におけ

る虐待事例への対応は、一般医療における

トラウマ被害対策として重要事項であり、

各医療機関においては虐待防止組織の整備

や虐待防止に関する知識の啓蒙が進められ

てきた。これらは、医療安全の観点からも

必要な事項と思われる。本研究では東京女

子医科大学病院を総合病院の 1 モデルとし、

そこでの運用を想定した包括的な虐待防止

マニュアルと、教育用テキスト、研修プロ

グラムの開発を目的とし、東京女子医科大

学病院虐待防止委員会とともに作業を行っ

てきた。研究最終年度にあたる今年度は、

完成したマニュアルを運用しつつアンケー

ト調査を施行し、その結果を踏まえて教育

ツールを完成させる予定であったが、最終

的にそれぞれのマニュアルの運用開始まで

にとどまった(一部は尚、試用の扱いであ

る)。今年度は平成 24 年に施行された障害

者虐待防止法に関連する事例報告を得た。

平成25年4月から8月末までの全虐待に関

する報告事例は 17 事例であった。児童、

DV、高齢者、障害者事例から各 1 例を個人

情報の観点から若干改変して提示した。

渡らは、平成 22 年 4 月に発生した宮崎県

における口蹄疫感染事例について、口蹄疫

被災における畜産農家・地域住民・防疫従

事者の継続的健康調査を発災当初より2年後

まで行って来た。今年度は、より詳細に口

蹄疫災害が与える健康影響について把握す

るために、平成 24 年度の防疫従事者調査よ

り防疫作業において中心的な立場にあった

者(専門職の宮崎県職員)についての分析

と、平成 22 年度から 24 年度に継続して行

った被災農家調査における縦断研究を行っ

た。そして、これまでの 3 年間の調査研究

で得られた知見をもとに、平成 25 年度版

「口蹄疫対策における地域精神保健活動マ

ニュアル」を作成した。方法であるが、1.

平成 24 年度防疫従事者における健康調査

専門職の宮崎県従事者についての分析;宮

崎県職員のうち、口蹄疫防疫作業に従事し

た獣医師と畜産を担当する技師(161 人)

に対し、口蹄疫における作業内容や具体的

なストレス内容について調査した。2.被

災農家の縦断研究;平成 22 年度~24 年度

の被災農家に対する調査データのうち、継

続してデータが得られた 127 人について、3年間のデータを統合した新たなデータベー

スを作成し分析した。3.口蹄疫対策にお

ける地域精神保健活動マニュアルの作成;

平成 22 年度から 24 年度の研究結果と、口

蹄疫発生時支援にあたった各市町の保健師、

被災地域の民間獣医師や行政所属の獣医師

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等さまざまな立場の防疫従事者へのインタ

ビュー結果を踏まえ、研究班によるマニュ

アル作成のための検討会を行った。結果は、

1.平成 24 年度防疫従事者における健康調

査専門職の宮崎県従事者についての分析;

IES-R 値の上昇には、感染拡大の危険性や

その判断を必要とする専門性の高い作業が

関連していた。一方、殺処分・埋却業務に

ついては、関連性は認められなかった。2.

被災農家の縦断研究;調査年度毎の K6 得

点を 3 区分(9 点以上/4~8 点/3 点以下)に

し、それぞれの群の人数の推移では、3 点

以下の群は年毎に増加し、9 点以上、4~8点の群はいずれも減少していた。また、9点以上、4~8 点の群では年毎に得点が低下

し、下位の群へ移行し、3 年間継続して 9点以上の者は認められなかった。3.口蹄

疫対策における地域精神保健活動マニュア

ルの作成;平成 22 年から 25 年度までに得

られた全ての研究知見をもとに平成 25 年

度版のマニュアルを作成した。 尾崎は、東日本大震災に伴う産後うつ病

の実態把握を行った。現在、東日本大震災

に伴う精神障害の発症・悪化が懸念されて

いるが、被災地である宮城県沿岸部におけ

る調査では、産後うつ病の可能性がある女

性は 21.5%に上ったと報告された。しかし、

直接的には被災していない地域における震

災当時の産後うつ病の実態は明らかではな

く、十分な実態把握がなされたとは言い難

い。そこで、名古屋大学で約 10 年にわたり

継続している妊産婦研究の経過から、東日

本大震災後における産後うつ病の実態を調

査した。2004 年 8月~2013 年 8月、名古屋

市内にある計 3 病院の産婦人科で出産予定

の女性計 865 名に、産後 1 か月においてエ

ジンバラ産後抑うつ自己評価票(Edinburgh

Postpartum Depression Scale:EPDS)を施

行した。そして、EPDSの因子構造を解析し、

1)震災前に妊娠・出産した群 2)震災前に

妊娠し震災後に出産した群 3)震災後に妊

娠・出産した群で得点の推移を比較検討し

た。結果は、EPDS合計点の平均値は 1)震災

前に妊娠・出産した群 569名:4.50点±4.4

点 2)妊娠中に震災を経験した群 30 名:

6.4±5.6点 3)震災後に妊娠・出産した群

100名:5.0点±4.8点となり、妊娠中に震

災を経験した群が高値となった。また、EPDS

は不安因子・抑うつ因子・快感喪失因子の

3 因子構造の適合度が良好となり、妊娠中

に震災を経験した群は全ての因子得点が他

群よりも高値となった。各因子得点を群間

比較すると、不安因子にのみ有意差が認め

られた。

飯島は、災害時における調査研究の倫理

審査の現状に関する調査を行った。またその

調査により、災害時の調査研究の対応ガイ

ドラインを策定するための知見を得た。

2013 年 9-11 月、全国の研究機関の 446 倫

理委員会に対して、アンケート調査を行い、

217委員会(回答率 48.7%)から回答を得た。

結果は、災害に関する調査研究を倫理審査

した委員会は、31(14.3%)、災害時には迅

速な審査が必要とするとした委員会は 147

(67.7%)、集中する研究の調整が必要と回

答した委員会は 129(59.4%)であった。一

方、事後審査については必要とする委員会

は 38(17.5%)にとどまった。

栗山らは、PTSD補助療法としての高照度

光照射の有用性の検討を行った。高照度光

(bright light: BL)は生物時計を介したリ

ズム調整作用を有するのみならず,情動,

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注意,覚醒などの認知機能を修飾する非視

覚的作用を有する。BLは概日リズム位相変

位と独立に気分調整作用を示し,うつ病に

対する臨床応用がなされているが,近親疾

患である不安障害の治療有効性は明らかに

されていない。恐怖条件づけ消去学習は曝

露療法による不安障害治療の中核認知モデ

ルであり,脳機能画像研究では前頭皮質に

よる辺縁系活動の抑制および,海馬—扁桃体

の機能協調の減弱が関係していることが示

唆されている。本研究は BL による恐怖条件

づけ消去促進効果を,恐怖条件づけ生理反

応(皮膚電気抵抗反応: SCR)および前頭皮

質活動により評価した。25 名の健康成人

(21.4 ± 0.16 歳,女性 9 名)を無作為に,

BL 照射群(12 名)および対照群(13 名)の 2

群に割り付け,恐怖条件づけ消去学習中に

高照度(8,966 ± 267 lux)もしくは低照度

(431 ± 31.8 lux)の光照射を約 15 分間行

った。BL は恐怖条件づけ消去学習中の SCR

に影響を与えなかったが,24 時間後の想起

試験において SCR を有意に抑制した(p

= .030)。さらに,BL は恐怖条件づけ消去

学習中のみならず(p = .020),想起試験中

の前頭皮質活動も有意に減少させ (p

= .009),前頭皮質活動の減少が大きいほど

SCR が減弱するという正の相関関係が認め

られた(r > .67; all p < .049)。BL は恐

怖条件づけ消去学習および再発耐性を促進

することが明らかになった。さらに,恐怖

条件づけ消去に伴い,前頭皮質の活動負荷

を低減することから,不安障害に対する曝

露型認知行動療法の有用な増強手段となる

可能性が強く示唆された。

D. 結論

DV 被害母子の PTSD 関連症状の発症と

回復の研究では、母子間の相互作用の実態

解明が遅れているという現状をふまえ,言

語的表現能力に依存せず客観的に定量化さ

れる生理指標として唾液コルチゾールに焦

点を当てた。有用性と注意点について検討

することが出来たものの、検討は始まった

ばかりであり,子どもを対象とした研究は

数少ない。さらに,DV 被害を受けた母子

間の関連については未解明であるため,コ

ルチゾール測定の有用性を活かしたさらな

る検討が期待される。

災害時地域精神保健医療活動ガイドライ

ンの改訂に向けて今回抽出された項目に更

に検討を加えるとともに、DPAT の体制整備

と並行して、その成果を即座に反映させる

ような柔軟な体制が必要である。

PCIT については一定の研修効果が検証

されたが、さらにエキスパートの育成のた

めに専門の体制整備が必要である。

司法解剖時の遺族への対応の現状と心理

的影響に関する研究では、司法解剖時にあ

ると良いと思う支援については、すべての

項目において過半数の遺族が必要と回答し

ていたことから、支援へのニーズは高いと

考えられた。また、支援の内容によって、

提供してほしい職種が異なっていたことか

ら、遺族への支援は、一人の支援者(ある

いは一つの支援機関)で行われるよりも、

内容に応じてそれぞれの専門性のある立場

の人から提供されることが望まれていると

考えられた。このためには、警察や法医学

教室など早期に遺族とかかわる組織におい

て、遺族に対応する際の連携の仕方や、支

援を提供できる組織に関する知識などに関

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する研修や情報提供などが行われることが

必要であると考えられる。性暴力被害者に

関わる機関で使用できる被害者向けのパン

フレットの開発については、今後はこのパ

ンフレットの有用性について支援現場で検

証を行っていくことが必要である。

東日本大震災後の宮城県職員のバーンア

ウトとその関連要因の検討では、バーンア

ウトには、過重労働、職場環境といった平

常時に共通するリスクファクターに加えて、

災害時の要因として、家屋損壊はリスクを

増していたが、震災関連業務がリスクを増

すという仮説は支持されなかった。過重労

働については、最長労働月の時間外勤務、

調査時点の不十分な休養が、職場環境につ

いては、震災初期と調査時点のコミュニケ

ーションの状態が影響を与えていた。

総合病院のための虐待対応マニュアルと

虐待防止教育用テキストの開発に関する研

究では、教育ツール(具体的には教育用テ

キストと研修プログラム)についての開発

を今後も継続していく必要があることがわ

かった。

口蹄疫被災に関する健康調査では、1.平

成 24 年度防疫従事者における健康調査

専門職の宮崎県従事者についての分析;

IES-R 値の上昇には、感染拡大の危険性や

その判断を必要とする専門性の高い作業が

関連していることがわかった。特に獣医師

等の専門性の高い従事者については、その

他とは違うストレスがかかるため、防疫従

事者への保健対策を検討する際にはこれら

の差違を考慮する必要がある。2.被災農

家の縦断研究; K6 得点の高い者、中等度

の者とも、経年で改善する傾向を認め、ま

た 3 年間継続して高得点の者は認められな

かった。今回の調査は、継続した地域精神

保健活動との連携による結果であるが、こ

の回復経過については、被災時の啓発活動

等の基礎資料となると考えられる。3.口

蹄疫対策における地域精神保健活動マニュ

アルの作成;作成したマニュアルについて

は、研究班を構成する関係機関からインタ

ーネットを介して提供するとともに、家畜

感染症における精神保健活動の意義につい

て普及啓発するため、関係機関および世界

銀行、国連大学の協力を経て、特に発展途

上国を中心とした政策立案者に向け、ビデ

オ配信する予定である。

東日本大震災に伴う産後うつ病の実態把

握調査では、大規模災害時においては、直

接被災していない地域の母親においても不

安症状が強まる可能性が示唆された。

災害時の調査研究の倫理審査の現状では、

審査は特別配慮が求められており、迅速な

審査、研究集中に対する対応が必要である

とする傾向にあった。一方、事後審査や被

災地域の機関の関与の導入については消極

的であった。災害における調査研究では、

迅速な研究の実施と、研究参加者となる過

酷な状況にある被災者の権利・利益の保護

を実現しなければならない。そのために災

害時における調査研究では、研究参加者と

なる被災者の権利・利益を確保するために、

研究を行う者と救助を行う者を分離し、イ

ンフォームド・コンセントの場所・状況を

工夫するなどの配慮が求められる。治療・

ケアーが必要な場合は、研究に優先しなけ

ればならない。現行の倫理指針を遵守し、

可能な限り迅速に倫理審査を行うべきであ

るが、事後審査は現時点では容認できない。

被災地の実情を踏まえて適切な実施体制が

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望まれる。重複する研究のコーディネート

は今後の課題である。対応策として研究の

事前登録制や中央倫理委員会による集中倫

理審査があり、体制の整備が望まれる。

PTSD補助療法としての高照度光照射の有

用性の検討については次のように結論づけ

られた。恐怖消去学習中の高照度光照射は,

恐怖消去学習に関連した前頭皮質活動負荷

を有意に低減し,翌日の想起時の恐怖条件

付け反応を有意に抑制した。さらに,これ

は恐怖再暴露後の再発耐性を促進し,これ

に関わる前頭皮質負荷を低減させた。これ

らの効果は,気分や概日リズムに影響を与

えず,従来から知られている高照度光によ

る概日リズム同調効果や抗うつ作用とは独

立した神経調節作用である可能性が示唆さ

れた。本結果は,高照度光を持続曝露療法

の併用療法として用いることにより,治療

効果を増強し,治療期間を短縮しうる可能

性を示唆する。

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Ⅱ. 分担研究報告

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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))

大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究 分担研究報告書

災害時地域精神保健医療活動ガイドライン改訂に関する研究

分担研究者 金吉晴

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部 研究要旨 災害時地域精神保健医療活動ガイドライン(2003)の再検討に向けて、同ガイドラインの意

義と限界を検討し、新たに追加すべき項目を抽出した。同ガイドラインには、自然回復の

尊重、PFA の導入、見守り対応の重視、報道との連携、多文化対応、支援者支援など、当

時として国際的にも先進的な方針が明示されていた。しかし時相別の症状と対応策の整理

についてはデータの不足のために課題が残っていた。また今後の改訂のためには、DPATによる派遣、DMHISS の使用、DMAT 等との連携、研究倫理、精神医療システム支援、

情報不安などへの対応が求められる。

Ⅰ はじめに

2003年の池田小学校事件を受けて災害時

地域精神保健医療活動ガイドラインが制定

され、厚生省(当時)を通じて都道府県市

に配布され、災害に際して活用されてきた。

その後、新潟県中越大震災(2004)、東日本

大震災(2011)の経験を経、また国際的にも

NICE、IASC からのそれぞれトラウマ対応、

災害対応の精神医療に関するガイドライン

が公開され、また Dlphi方を持ちいたエキ

スパートコンセンサスによるガイドライン

素案が日本で作成されたことを受け、種々

の改善点が浮かび上がってきた。また東日

本大震災(2011)の後で従来方の心のケアチ

ーム活動は DPAT に制度化され、その枠組み

での活動の指針も求められるようになって

いる。

Ⅱ 現行ガイドラインの批判的検討

(1) 災害時地域精神保健医療活動ガイ

ドライン成立の経緯

災害時地域精神保健医療活動ガイドライ

ンが制定された当時は、阪神淡路大震災に

おいて主として米国から紹介された心理的

デブリーフィングの影響が残っており、池

田小学校事件に際して支援に駆けつけた専

門家のあいだで急性期の対応方針について

の合意形成が困難な状況であった。これを

打開すべく、いわゆる心のケアの方針、概

念の共有を行うことが主たる目的であった。

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その中でエビデンスに基づかない急性期の

心理的介入を画一的に行うことを批判し、

自然経過と回復力を尊重するという方針を

打ち出したこと、また急性期には取り乱し、

呆然自失といった分かりやすい状態像を手

がかりとして、見守りの対象者を選択する

という方針を提示したことは、その後の海

外のガイドラインの理念を先取りするもの

であったといえる。

(2) 各項目の検討

*以下の見出し数字はガイドライン本体の

ものを踏襲する。

Ⅰ.災害時における地域精神保健医療活

動の必要性

1. 災害体験と地域精神保健医療

活動

2. 災害時の地域精神保健医療活

1) 災害時の地域精神保健医療

活動の方針

2) 災害時の地域精神保健医療

における焦り

この章で述べられていることは災害に起

因する精神健康の悪化と、既存の精神保健

医療システムの被害のために、災害時に特

化した精神保健医療対応が必要だというこ

とである。またそのための活動として(1)

保健活動:一般援助者や地域精神保健医

療従事者が被災地域へ出かけていくア

ウトリーチ活動と、災害情報の提供、一

般的な心理教育、比較的簡単な相談活動

ならびに心理的反応に配慮した災害復

旧や生活支援などの現実的な援助(2)

個別医療活動:疾患のある個人をスクリ

ーニングし、受診への動機付け、個別的

な心理教育、専門医への引き渡しについ

て記載がなされている。また心理的デブ

リーフィングへの批判がなされ、急性期

の集中的な介入よりは地域全体を見据

えた保健活動に注意喚起をしている。

ガイドラインでは精神保健医療システム

の被害は、被災者への治療、ケアが不足す

る要因として述べられているが、精神保健

医療システムそれ自体を精神保健医療支援

活動の対象とするという記述は不十分であ

った。また活動内容も直接被災者を対象と

した活動が書かれており、精神保健医療シ

ステム自体に向けられた活動の記載は十分

とは言えない。

新潟県中越大震災(2004)では県内の精神

科病院が被災し、患者の搬送が行われ、東

日本大震災(2011)ではやはり宮城県内、福

島県内の被災した精神科病院、ならびに福

島県内の原子力発電所事故に起因する避難

区域に含まれた精神科病院からの患者の県

内外への搬送が行われた。既存の精神保健

医療システムへの被害という点で、精神科

病院への被害はもっとも深刻なものである

が、被災県における現状把握、対応が遅れ

たという点では、東日本大震災は未曾有の

災害であったといって良い。今後の災害に

おいて精神科病院救援ならびにその他の精

神保健医療システムへの支援は大きな課題

であると言える。

また急性期の集中的な治療については、

PTSDの予防介入としてのデブリーフィング

は否定されるものの、意識障害をともなう

急性ストレス障害については持続エクスポ

ージャー療法(Prolonged Exposure

Therapy: PE)が有効であるという報告もあ

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り、症状プロファイルによっては急性期の

精神療法の適応があることは否定できない。

また従来からの精神疾患の増悪例について

は当然のことながら治療介入の対象となる。

なお東日本大震災では選択的セロトニン

再取り込み阻害薬、抗てんかん剤の一部が

不足し、交通インフラの破壊のために人俗

な供給ができなかった。医薬品の供給の障

害もまた、医療システムの破壊の中に含め

て良いであろう。

Ⅱ.災害時における心理的な反応

1. どのような心理的な負荷が生じ

るのか

1)心的トラウマ

(1)災害の体感(地震の揺れ

や音、火災の炎や熱、爆発の音

や熱風など)

(2)災害による被害(負傷、

近親者の死傷、自宅の被害など)

(3)災害の目撃(死体、火災、

家屋の倒壊、人々の混乱など)

2)悲嘆、喪失、怒り、罪責

(4)死別、負傷、家財の喪失

などによる悲嘆

(5)罪責(自分だけが生き残

ったこと、適切に振る舞えなか

ったこと)

(6)周囲に対する怒り(援助

の遅れ、情報の混乱など)

(7)過失による災害の場合の

過失責任機関・責任者に

対する怒り、犯罪が関与

する場合の犯人に対する

怒り

3)社会・生活ストレス

(8)避難・転宅(新しい居住

環境でのストレス、集団生活な

ど)

(9)日常生活の破綻(学校、

仕事、地域生活、これま

での疾病の治療、乳幼児

や老人・障害者のケアな

ど)

(10)新たな対人関係や情報

の負担(情報や援助を受

けるための対人接触、情

報内容の処理)

(11)被災者として注目され

ることの負担(人目に付

くことのストレス、同情

や好奇の対象になってい

るのではないかとの不安

など)

ここで述べられていることは総じてスト

レス反応の領域に属しており、トラウマ、

悲嘆喪失、現実生活のストレス反応に焦点

を当てている。これらのストレス要因はす

べて災害に特異的なものであるが、他方で、

日常生活においても生じるストレス要因と

の共通項目については必ずしも網羅的には

触れられていない。これは本ガイドライン

が災害時に生じる特異的なストレス要因に

関して臨床家の関心を喚起することが目的

であったためであるが、実際の災害におい

ては、多種多様なライフイベントが生じる

といっても過言ではなく、家族関係の変化、

就労状況の変化、といった日常臨床におい

ても生じ得るストレス要因が災害という特

殊な状況において特殊な様相を帯びて精神

への影響を与えることも多い。さらに精神

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疾患へのスティグマは今回の東日本大震災

においても効果的な精神保健医療活動の阻

害要因としてしばしば現地において指摘さ

れたところであるが、その点への言及が不

十分である。

さらに common symptomとしての睡眠、食

欲、喫煙・飲酒などの生活習慣、身体疾患

との相関、発達障害に伴う常同行為、驚愕

反応、周産期に伴う問題などは、臨床家の

常識的対応に委ねている部分が残っている。

2. どのような心理的な反応が生じ

るのか

1) 初期(災害後1ヶ月まで)

付)災害直後数日間

2) 中長期(災害後1ヶ月以降)

時相別の精神症状の把握についてはいく

らか漠然とした部分が残っているが、その

理由の多くは災害時の地域住民の先進状態

に関する日本でのデータが乏しいためであ

り、その事情は今日でもある程度の限界と

して残っている。まず急性期についての状

態像としてトラウマ反応を意識しつつ、過

覚醒優位(取り乱し型)、解離優位(呆然自

失型)と分類したことは理念型としては当

時の海外文献の知見とも符合しており、頻

度としては前者が6,7割、後者が3,4

割とされていたが、それは事故や犯罪被害

の場合であり、自然災害における頻度は明

らかにはされていない。またこのガイドラ

インの時相別分類は主として新たに生じた

トラウマ反応を念頭に置いており、非トラ

ウマ系の一般的な不安、抑うつ、睡眠障害

などの経過は必ずしも十分に踏まえられて

いない。

先に述べたように心理的デブリーフィン

グへの批判はこの箇所の記述の背景になっ

ており、大多数が自然に回復するというモ

デルを提示することによって、自然の回復

力(レジリアンス resilience)を尊重した

対応を重視しているが、ここで社会全体を

対象としたパブリックヘルス的な対応指針

と、症状のために生活機能が障害され、も

しくは自らが治療を求める患者に関しての

経過および対応を時相的に整理することは

今後の課題として残っている。

Ⅲ.災害時における地域精神保健医療活

動の具体的展開

1.災害対策本部における精神保健

医療の位置づけ

*精神保健医療活動に関する、

災害対策本部としての方針を

決定すること

*現場で援助活動に当たる者

を通じて、被災住民の精神健康

状態を把握すること

*現場で活動をしている様々

な援助者に、精神保健医療活動

の助言を与えること

*現場で活動をしている様々

な援助者に対する精神保健医

療活動を行うこと

地域精神保健医療活動を,個別のいわ

ゆる心のケアチームによる活動に全てを任

せるのではなく、被災県に設置される災害

対策本部の中に位置づける必要性を指摘し

ていることは重要である。しかしその後の

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各種災害等の事例を見ると、このガイドラ

インの趣旨が十分に生かされているとは言

い難い。またこの章の前提は、本ガイドラ

インの内容は各心のケアチームによって理

解されているということであり、したがっ

て心のケアチームは具体的な活動において

は自立的な活動を行うと考えられていた。

しかし東日本大震災では各チームの活動実

績に不均一さがあり、保健医療資源の効果

的な活用を考えたときに、担当地域の見直

しを含めて、対策本部レベルで情報を集約

して還元するという機能が必要であった。

本ガイドライン制定当時は対策本部に精神

医療関係者が入ることそれ自体が課題であ

ったため、精神医療全体に対する本部機能

への言及が課題として残っている。しかし

他方で、広汎な地域で展開される精神保健

医療活動鬼関して、あまりに一元的な指示

体制を組むことも災害によっては困難なこ

とがあり、また限定された地域では現地の

様々な診療科の協力体制が構築され、自発

的に統括者が選ばれることもある。このよ

うな場合にも対応できる柔軟性が必要であ

ろう。

2. 初期対応(災害後1ヶ月まで)

1) 現実対応と精神保健

2) 直後期の対応=ファース

ト・コンタクト

3) 見守りを要する者のスクリ

ーニング

4) 心理的応急処置

5) 医学的スクリーニング

6) 情報提供

7) 「心の相談」ホットライン

8) 「PTSD」をどのように

扱うか

まずこの時点で心理的応急処置(サイコ

ロジカルファーストエイド

psychological first aid: PFA)への言

及があることは、自然災害への精神医療

ガイドラインとしては世界的にも珍しく、

特筆すべきである。また基本方針として

自然回復モデル、見守りを重視している

こともその後の国際的な自然災害ガイド

ラインを先取りしている点といえる。し

かしながらこの時点では今日のような体

系化された PFAは存在していなかったた

め、PFAが具体的に普及、展開されるこ

とには結びつかなかった。見守りの方針

は、後の NICEガイドラインにおける

watchful waitingに相当している。情報

提供の仕方、ホットラインの設営と撤去

についての指針などは日本での災害時の

精神保健医療対応の経験を生かした実際

的な指針と言える。

この箇所については、新潟県中越大震

災(2004)、東日本大震災(2011)の経験を

踏まえ、さらに実際的な活動の具体的指

針を発展させ、統合すべきといえる。

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3.トラウマからの自然回復

1) 自然回復を促進する条件

2) 自然回復を阻害する要因

この箇所もまた、Kesslerらの先行研究

を踏まえ、トラウマからの回復を尊重し

た対応の重要性を指摘しており、ほぼ今

日でもそのまま通用する方針である。

4.外部ボランティアとの連携

1) 援助の方針は災害対策本部

が定めるべきである

2) 住民との接触は災害対策本

部がコントロールすべき

である

3) 外部からの調査活動は災害

対策本部がコントロール

すべきである

この点は今日でもますます重要な箇所で

ある。しかし対策本部がボランティア活

動による心のケアをコントロールすべき

という提言は、その後、心のケアへの関

心の広がりとともに多くの団体が活動を

するようになった現状を踏まえると実際

的ではない。この箇所の意図は、不揃い

な心のケア活動によってかえって被災者

のストレスが生じていることへの注意を

喚起することでもあったが、その目的の

ためには災害前から、PFAや各種の研修

を通じてボランティアを含んだ一般社会

の災害時の心のケアに対するリテラシー

を向上させることがもっとも肝要である

といえる。

5.報道機関との協力・対応

1) 報道による情報援助の意義

2) 取材活動によるPTSD誘

発の危険

6. 多文化対応

報道機関との連携は、現在は災害時こ

ころの情報支援センターを通じた広報活動

によって、本ガイドライン執筆当時よりは

格段に改善している。しかし東日本大震災

八歳直後は、そもそも心のケアとは何か、

という基本的な主題についての取材が筆者

宛に殺到したことを考えると、将来の災害

に備えて積極的にメディアカンファレンス

を開くなどの一層の工夫が求められる。

多文化対応については、本ガイドライ

ン執筆後の甚大な災害の主要な被災地が大

都市圏ではなかったこともあり、比較的注

目を集めてこなかったが、今後大都市圏で

の災害が生じた場合に備えて、準備性を高

めることが求められる。その際、PFAの各

国語による研修などを普及させることなど

が必要である。

7. 援助者の精神健康

1) 背景

2) 援助者のストレス要因

3) 援助者に生じる心理的な反

4) 対策

援助者のうち、地元で被災した援助者

への支援は今回の東日本大震災において決

して十分であったとはいえない。特に行政

職員に関しては地域住民からの怒りが向け

られることも少なくなく、休暇を取ること

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が許されないという事態も一部に見受けら

れ、その中で身体、精神健康を害するとい

う事案も報告されていることから、災害時

のという枠組みを超えた労災という視点の

導入も検討されるべきである。

Ⅳ 平常時から行うべきこと

1) 災害時の精神保健医療活動

についての住民教育

2) 災害を想定した訓練におけ

る精神保健医療活動のシ

ミュレーション

3) 精神保健医療の援助資源の

確保

4) 日常的な精神保健医療活動

における心的トラウマ援

助活動の促進

5) 精神保健医療従事者への研

修活動

研修活動の充実に関しては本ガイドライ

ン制定以後、大きな進歩が認められた。厚

生労働省の心の健康作り事業の一環として

PTSD研修が毎年開催され、災害対応もその

中に含められるようになっている。今後の

課題は系統的に受講者を組織化することと、

すでに知識の普及に関しては各種教材も開

発されていることから、今後はスキル向上

のためのワークショップ形式による研修、

PFA研修などを考慮することが求められる。

Ⅲ 今後のガイドラインにとっての必要な

検討事項

本ガイドラインには含まれていなかった

ものの、今後の災害対応のために必要と思

われる項目は以下の通りである。

(1) DPATを通じた派遣の枠組み

心のケアチームがどのようにして現地に

入るのか、その際の制度的な枠組み、統括

DPATとの連絡など。またロジスティクスに

ついては新潟県中越大震災(2004)に際して

のマニュアルに記されているが、より系統

的な記載が必要である。

(2)DMHISS

活動記録を一元的に web入力することの

必要性と、DMHISSの操作、e-learning方法

について。

(3) DMAT、公衆衛生、JMAT等との連携

特に急性期支援を行う際には DMATとの

連携が必要であり、研修の相互化、e-rad

へのアクセスなどに言及する。また内科的

な JMAT、公衆衛生などの医療保健チームと

の連携について解説する。

(4) 精神医療システムへの支援

精神科病院が被災した場合の患者搬送、

法的な問題、外来精神医療の継続、自立支

援等の手続の問題等。

(5) 情報不安

原子力発電所災害に見られるような情報

による事後不安への対応

(6) 調査、データに関する倫理

倫理的手続を踏まえない、調査活動に対

する指針の策定

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(7) 支援者支援

業務過剰、労災、惨事ストレスなどにつ

いての解説

(8) 研修登録制

災害対応のための研修について、組織的

な登録制の必要性について言及する。

【参考文献】

1. 金吉晴, 阿部幸弘, 荒木均, 岩井圭司, 加藤寛, 永井尚子, et al. 災害時地域精神保健医療活動ガイドライン [Internet]. Available from: http://www.ncnp.go.jp/nimh/seijin/saigai_guideline.pdf

2. Inter-Agency Standing Committee. IASC Guidelines on Mental Health and Psychosocial Support in Emergency Settings [Internet]. 2007. Available from: http://www.who.int/mental_health/emergencies/guidelines_iasc_mental_health_psychosocial_june_2007.pdf

3. Kim Y, Abe Y, Araki H, Fujita M, Iwai K, Kato H, et al. Guideline for local mental health care activities after a disaster. National Institute of Mental Health, National Center of Psychiatry and Neurology, Japan. 2004.

4. World Health Organization. WHO版心理的応急処置(PFA) [Internet]. Available from: http://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/who.html

5. National Institute for Clinical Excellence. Post-traumatic stress disorder: the management of PTSD in adults and children in primary and secondary care. London: Royal College of Psychiatrists; 2005.

Ⅳ 知的所有権の取得状況

1. 特許取得

2. 実用新案登録

3. その他

いずれもなし

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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)) 大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究 平成25年度 分担研究報告書

唾液コルチゾール測定による PTSD 症状評価の利点と注意点

:DV 被害母子研究に向けて

分担研究者 金 吉晴 1) 研究協力者 伊藤真利子 1) 研究協力者 永岑光恵 2)

研究協力者 丹羽まどか 3)

研究協力者 加茂登志子 3)

1) 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 2) 防衛大学校 人間文化学科 3) 東京女子医科大学附属女性生涯健康センター

1. はじめに

近年の調査(内閣府男女共同参画局, 2012)によれば,女性の三人に一人近くが

配偶者からの家庭内暴力(DV)被害を受け

ている。中でも,子どものいる家庭におけ

る DV は,離婚が躊躇されやすいために慢

性化しやすく,母子の両方にトラウマ被害

を与える。女性や子どもはトラウマ被害後

にPTSDを発症するリスクが高い(Brewin, Andrews, & Valentine, 2000)。子どもに

とっては,直接の暴力を受けない場合であ

っても,DV を目撃したり,最も身近で安

全であるはずの養育環境が不安定になるこ

とで,発達遅滞や成長後の健康問題につな

がりうる。そのため,DV 被害は適切で迅

研究要旨

配偶者からの家庭内暴力(DV)の被害は近年多く報告されており,適切で迅速な介

入の必要性がとりわけ高い。DV 被害を受けた母子の PTSD 関連症状の発症と回復に

ついて,母子を関連づけて理解するためには,客観的に定量化された指標を用いる必

要がある。ストレスを反映する生理指標の一つとしては,唾液コルチゾールがよく用

いられている。本稿では,唾液コルチゾールの基本特性とストレスによる影響を検討

した実験室研究,および主に女性の PTSD を対象とした研究を紹介し,唾液コルチゾ

ールを指標とした PTSD 研究の利点と注意点について述べた。

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速な介入の必要性がとりわけ高いと考えら

れる。 DV 被害母子の PTSD 関連症状の発症と

回復を理解するうえで,母子間の相互作用

は無視することができない。しかしながら,

その実態解明は遅れているというのが現状

である。検討が不十分である理由の一つに

は,成人に比べて子どもでは言語的表現能

力が低く,現在普及している面接や質問紙

といった言語に依存する尺度による正確な

評価が難しいことが考えられる。 子どもの PTSD 関連症状を評価し,それ

を母親の症状評価と関連づけて分析するた

めには,言語的表現能力に依存せず客観的

に定量化される生理指標に注目することが

有益であると考えられる。本稿では,スト

レスの生理指標として頻繁に用いられてい

る唾液コルチゾールに焦点を当てる。そし

て,測定方法の基礎とストレスによる影響

を検討した実験室研究,および唾液コルチ

ゾールを指標とした PTSD 研究を紹介し,

唾液コルチゾールを指標とした PTSD 研究

の利点と注意点について述べる。 2. 唾液コルチゾールの基本特性

コルチゾールとは,副腎皮質から分泌さ

れるホルモンの一種であり,ストレス反応

に役割を果たす。ストレス刺激を視床下部

が感知すると,コルチコトロピン放出ホル

モンを通じて下垂体が刺激される。下垂体

から副腎皮質刺激ホルモンが放出されると,

それを受けて副腎皮質からコルチゾールが

血中に分泌される。 分泌されたコルチゾールは,血中,唾液

中,尿中から測定することができる。唾液

採取は血液採取に比べると非侵襲的で痛み

を伴わず,医師の資格のない者や対象者自

身でも行うことができ,採取器具が安価で

あるという利点がある(井澤・小川・原谷, 2010)。血中と唾液中のコルチゾール濃度

の相関は .90 前後の非常に高い値を示す

(井澤・鈴木, 2007)。尿採取に比べると,

ストレスへの即時的反応を捉えやすいとい

う利点がある。 唾液コルチゾールの濃度はストレス以外

にもいくつかの要因によって影響されるこ

とが知られている。一つは日内変動であり,

健康な成人ではコルチゾール濃度は朝には

高く,午後に低下する。ただし,この日内

変動は睡眠と覚醒のリズムによっても影響

され,子どもを対象とした相関研究では睡

眠が妨害されている子どもほど午後のコル

チゾールレベルが高かった(El-Sheikh, Buckhalt, Keller, & Granger, 2008)。性

差,女性の性周期による日内変動の違いは

明瞭ではない(Kirschbaum, Kudielka, Gaab, Schommer, & Hellhammer, 1999)。また,飲食は約 30,60 分後のコルチゾール

濃度を有意に上昇させるため,測定前の飲

食管理にも留意しなければならない(Toda, Morimoto, Nagasawa, & Kitamura, 2004)。激しい運動,喫煙も唾液採取の 1 時間程度

前から制限されるべきである。 3. 健常者においてストレス刺激が唾液コ

ルチゾール濃度に及ぼす影響

ストレスによる唾液コルチゾール濃度の

即時的な上昇は,これまでに健常者を対象

とした実験室研究で示されてきた。実験室

におけるストレス負荷課題にはいくつかあ

るが,社会的ストレス課題として Trier Social Stress Test (TSST, Kirschbaum,

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Pirke, & Hellhammer, 1993) が広く用い

られている。TSST は評価者の前でスピー

チと暗算を行うように求める 15~20 分ほ

どの課題である。Kirschbaum et al. (1999) は,健康な若年の男性,女性(卵胞期,黄

体期,経口避妊薬使用者)に TSST を課し

て,その前後に唾液を採取した。その結果,

唾液コルチゾール濃度はTSSTの実施後10分時点でピークを示し,実施後 20 分時点に

おいてもベースラインよりも有意に高い値

を示した。10 分後のコルチゾールレベルは

卵胞期や経口避妊薬使用女性に比べて,男

性や黄体期の女性で有意に高かった

(Kirschbaum et al., 1999)。日本で健康

な若年男女を対象として TSST を課した Izawa, Sugaya, Kimura, Ogawa, Yamada, Shirotsuki, Mikami, Hirata, Nagano, & Nomura. (2013) でも反応パターンは同様

であり,女性よりも男性においてストレス

負荷後の上昇が顕著であった。Kudielka, Buske-Kirschbaum, Hellhammer, & Kirschbaum (2004) でも,TSST を課した

五つの研究を再分析した結果,TSST の実

施完了から約 10 分後にコルチゾールレベ

ルのピークが示され,このストレス応答は

若年成人だけではなく子ども(平均12.1歳,

31 名)でも同じであった。このように,実

験室での社会的ストレス負荷が唾液コルチ

ゾールレベルを上昇させることが異なる集

団について示されてきた。

4. パートナーからの暴力や性被害による

PTSDとコルチゾールレベルの関連 PTSD に話を戻すと,PTSD ではトラウ

マ的出来事の体験後もその恐怖の記憶が蘇

り(再体験),その記憶が想起されて恐怖

を感じることを避けようとしたり(回避),

刺激に対して過敏に反応する(過覚醒)。

よって,PTSD では慢性的にストレスに曝

され続けていると推測することができ,コ

ルチゾールの分泌機能に変調をきたしてい

ることは想像に難くない。 これまでに,コルチゾール分泌に関して

PTSD の特徴が多面的に検討されてきた。

例えば,トラウマを想起させた際の即時反

応や,通常通りの(実験的に刺激を与えな

い)生活内でのコルチゾール分泌量や分泌

のリズムについて,PTSD の元となった出

来事の直後で,あるいは慢性化した状態で,

測定が行われている。これらの研究で得ら

れた結果は,経験されたトラウマの質や程

度によっても異なる可能性がある。例えば,

性的暴行は加害者が身体的に接触してくる

ために,被害者が受動的な反応を起こしや

すいという特徴があり,戦闘や事故や災害

などのトラウマ的体験とは質を異にするか

もしれない。本稿ではDV被害によるPTSDの特徴に焦点を当てるため,以下では親密

なパートナーによる暴力(intimate partner violence: IPV)被害や性被害による PTSDに絞って,唾液コルチゾールを測定した研

究を紹介する。 IPV 被害女性を対象としてコルチゾール

分泌量を検討した研究がいくつか行われて

いる。IPV 被害(大半が 12 か月以内)を受

けた女性とそうした被害歴のない女性を比

較した研究では,夜の測定においてのみ被

害群でのコルチゾールレベルの有意な上昇

が認められた(Pico-Alfonso, Garcia-Linares, Celda-Navarro, Herbert, & Martinez, 2004)。IPV への暴露あり統

制群(PTSD ではない)と PTSD 生涯診断

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のある群とを比較した研究では,後者の群

において起床後 1 時間(Johnson, Delahanty, & Pinna, 2008)や一日

(Inslicht, Marmar, Neylan, Metzler, Hart, Otte, McCaslin, Larkin, Hyman, & Baum, 2006)の唾液コルチゾール分泌量が

多かった。このように,IPV への暴露やそ

の後の PTSD の発症に関連して,コルチゾ

ール分泌量の上昇が報告されている。 上記の研究は IPV 被害女性を対象とした

ものであったが,PTSD のうちでもレイプ

被害者で特に,トラウマ想起時のコルチゾ

ール分泌反応が鋭敏化する可能性を示した

研究がある。Gola, Engler, Schauer, Adenauer, Riether, Kolassa, Elbert, & Kolassa (2012) では,戦争と拷問を経験し

た PTSD 群を対象として,トラウマ的体験

に関する面接の前後の唾液コルチゾール濃

度を調べた。レイプ被害を受けなかった群

(20 名)ではトラウマ想起直後のコルチゾ

ール濃度の上昇が認められなかったが,レ

イプ被害を受けた群(10 名)では上昇が認

められた。なお,両群の間で PTSD の重症

度は同程度であり,どちらの群も半数程度

は男性であった。 IPV,レイプへの暴露や PTSD はコルチ

ゾールレベルの高さに関連するという報告

がある一方で,被害の慢性化がコルチゾー

ルレベルの低さに関連するという報告もあ

る。Johnson et al. (2008) では,IPV 被害

女性において虐待の慢性度が高いほど一日

の唾液コルチゾールレベルが低かった。ま

た,Resnick, Yehuda, & Acierno (1997) は,

レイプ被害直後の女性を対象に血中コルチ

ゾールを測定した結果,測定時以前にも被

害を経験していた女性では,測定時以前に

被害歴のない女性に比べてコルチゾールレ

ベルが有意に低かった。このように,スト

レスイベントへの反復暴露によってコルチ

ゾール反応が小さくなる可能性があり,そ

の背景にはコルチゾールシステムのダウン

レギュレーションが推測される。 ところで,健常な成人では起床時からそ

の約 30 分後にかけてコルチゾール濃度が

上昇し(起床時反応),これはコルチゾー

ル分泌機能の指標の一つとされている。こ

の起床時反応に関しては IPV 被害の PTSD女性における鋭敏化は認められなかった

(Johnson et al., 2008)。また,過去半年

以内に性的虐待を受けた青年期女子を対象

に唾液コルチゾールの採取を行った研究

(Keeshin, Strawn, Out, Granger, & Putnam, 2014)では,PTSD の重症度が高

いほど起床時反応が鈍化していた。これら

の女子のうち,PTSD 診断基準(CAPS-CA)

を満たした 12 名は,満たさなかった 12 名

よりも起床時反応が小さかった。これらの

結果から,コルチゾール分泌の起床時反応

については,IPV への暴露や PTSD の発症

によって鋭敏化されるとはいえないようで

ある。 以上をまとめると,親密なパートナーか

らの暴力や性被害の PTSD においてコルチ

ゾールレベルを調べた研究はいくつか行わ

れているが結果は複雑である。IPV やレイ

プ被害を受けたりその後 PTSD を発症した

者でコルチゾール分泌量が多いとする報告

があるが,慢性化や過去の被害経験がコル

チゾールの分泌を抑制している可能性があ

る。コルチゾールの起床時反応に関して結

論を導くためには,今後さらにサンプルサ

イズを増やして,唾液採取も複数日に渡っ

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て反復測定を行うなどして信頼性の高い知

見を蓄積する必要があるだろう。 5. PTSD 研究における唾液コルチゾール測

定の有用性と注意点

PTSD 研究における唾液コルチゾール測

定の有用性としては,三点を挙げることが

できる。第一には,採取の負担が軽いこと

である。PTSD 患者によっては,痛みを伴

ったり,閉所,拘束,他者による生理測定

そのものがトラウマを想起させて苦痛を与

える可能性も考えられる。そのため,血液

採取などに比べて,痛みがなく,場所や姿

勢の制約がなく,対象者自身による採取が

可能であることは大きな利点である。第二

には,質問紙のように認知的な要求がなく,

様々な集団を対象とした検討ができること

である。子どもの唾液コルチゾールでも,

社会ストレスへの応答は成人と同様であっ

た(Kudielka et al., 2004)。第三には,繰

り返しの採取ができることである。生理測

定に対して自記式の質問紙調査などでは,

頻繁に繰り返し回答することが結果を歪ま

せる可能性を否定できない。反復採取でき

る利点を活かして,PTSD の治療経過に沿

ってコルチゾール濃度を測定すれば,症状

の変化を定量的に追跡することができる。 注意点としては,二点を挙げることがで

きる。第一に,コルチゾールレベルは様々

な要因を反映することである。PTSD はし

ばしば抑うつや不眠や生活リズムの乱れを

伴い,アルコールや治療薬を使用している

患者も多い。他の指標とも組み合わせ,こ

うした要因を計画時や統計解析時に統制し,

結果の解釈を明確にしなければならない。

第二に,PTSD 患者自身に唾液の採取を依

頼する場合には,決められた時刻と手順で

確実に採取できるように特に注意する必要

がある。健康な参加者であっても自宅での

採取のコンプライアンスはデータの精度を

左右するおそれがあり,注意の集中や新し

く記憶することが困難な PTSD 患者では特

に注意が必要である。 本稿では,DV 被害に関連のある,IPVやレイプ被害と PTSD 患者において唾液コ

ルチゾールを測定したいくつかの研究を紹

介したが,検討は始まったばかりであり,

子どもを対象とした研究は数少ない。さら

に,DV 被害を受けた母子間の関連につい

ては未解明であるため,コルチゾール測定

の有用性を活かしたさらなる検討が期待さ

れる。 6. 引用文献

Brewin, C. R., Andrews, B., & Valentine, J. D. (2000). Meta-analysis of risk factors for posttraumatic stress disorder in trauma-exposed adults. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 68, 748-766.

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with war- and torture-related PTSD. Psychoneuroendocrinology, 37, 213-220.

Inslicht, S. S., Marmar, C. R., Neylan, T. C., Metzler, T. J., Hart, S. L., Otte, C., McCaslin, S. E., Larkin, G. L., Hyman, K. B., & Baum, A. (2006). Increased cortisol in women with intimate partner violence-related posttraumatic stress disorder. Psychoneuroendocrinology, 31, 825-838.

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Izawa, S., Sugaya, N., Kimura, K., Ogawa, N., Yamada, K. C., Shirotsuki, K., Mikami, I., Hirata, K., Nagano, Y., & Nomura, S. (2013). An increase in salivary interleukin-6 level following acute psychosocial stress and its biological correlates in healthy young adults. Biological Psychology, 94, 249-254.

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ゾールの測定キットの比較-唾液中・血

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内閣府男女共同参画局 (2012). 男女間にお

ける暴力に関する調査(概要) 内閣府

男女共同参画局推進課

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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野)) 大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究 平成 25 年度 分担研究報告書

DV 被害親子に対するこころのケアハンドブックの開発に関する研究

-その2 専門的治療に関する専門職トレーニングのストラテジーについて

分担研究者 加茂登志子1)・金吉晴2)

研究協力者 氏家由里1)・伊東史ヱ1)・丹羽まどか1)・中山未知1)・廣野方子1)・

大久保彩香 1)

1)東京女子医科大学附属女性生涯健康センター

2)国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

A.はじめに

DV被害親子のこころのケアに関するハン

ドブックの作成研究に当たり、平成 24年度

は1)DVに関係する世界的な動向とケア

の方向性の検討‐特にこころのケアと予防

の関連から

2)日本におけるDV被害者とその子ども

へのケアに関する支援の現状

3)被害親子の精神健康被害と求められる

アセスメント

4)専門的支援者に必要なスキルと推奨さ

れる専門的治療

研究要旨

DV 被害親子のこころのケアに関するハンドブックの作成研究に当たり、専門的支援者

に必要なスキルと推奨される専門的治療に焦点を当て、児童相談センター心理職に対す

る親子相互交流療法(Parent-Child Interaction Therapy: PCIT)のワークショップと

コンサルテーションの経験をモデルに、専門的治療に関するトレーニングのストラテジ

ーについて考察する。A,B2県の児童相談センター全心理職員に対し、PCITに関するイニ

シャルワークショップ(WS)とその後の具体的事例を用いたコンサルテーションを軸に

系統的トレーニングを行った。トレーナートレーニングと治療プロトコルやアセスメン

トなどの資料については治療効果エビデンスを最大限維持する形で導入することが出来

たが、ライブケース体験やコンサルテーションの在り方などに改良すべき点があった。

今後、PCIT やこれに類するエビデンスに基づいた心理療法の均てん化を日本でも推し進

める場合、治療トレーニングセンターを設けることが必要である。

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5)予防とこころのケアガイドラインの関

係概念図

についてアウトラインを述べた。今年度は

ハンドブックのコア部分にあたる4)に焦

点を当て、児童相談センター心理職に対す

る 親 子 相 互 交 流 療 法 ( Parent-Child

Interaction Therapy: PCIT)のワークショ

ップとコンサルテーションの経験をモデル

に、専門的治療に関するトレーニングのス

トラテジーについて考察する。

PCITの効果については行動上の問題を

持つ子どもや育児不安のある養育者、ある

いは被虐待児童とその家族などを対象に既

に米国、オーストラリアなどで数多くのラ

ンダム化比較試験が行われており、メタア

ナリシス研究によればアメリカ心理学会の

提示するエビデンスに基づく治療のガイド

ラインにおいて「よく確立された well-

established」治療 に位置付けられている。

被虐待児童とその親に対する PCIT の治療

効果は 1990 年後半から報告されるように

なり、被虐待児の行動障害、親の育児スト

レスの減少、短期的な虐待の減少が認めら

れたとする報告や虐待の再発を防ぐ中期的

効果の報告、DV被害を受けた親子に対し有

効であったとする報告等がある。わが国に

おいては筆者らが平成 23 年度に DV 被害母

子に対する予備的治療介入研究を行い、良

好な結果を得ている。

B. 研究方法

DV被害母子やその他子ども虐待に関連す

る里親を含む家族再統合への治療的介入支

援を目的とし、23 年から 25 年にかけて、

A,B2県の児童相談センター全心理職員に対

し、PCITに関するイニシャルワークショッ

プ(WS)とその後の具体的事例を用いたコ

ンサルテーションを軸に系統的トレーニン

グを行った。その方法論と今後の改善点に

ついて考察する。

C. 結果

1)トレーナートレーニング

諸外国ですでにエビデンスの確立した心

理療法を日本に導入するにあたり、エビデ

ンスの維持を担保することは重要な前提条

件である。なかでも WSとコンサルテーショ

ン、スーパービジョンを行うトレーナーは

指導する治療そのものに対する十分な経験

とともに、トレーナーとしての技術を有し

なければならない。

本研究における WS トレーナーは研究分

担者及び研究教職者の中から加茂と伊東が

担当した。両者とも 20年から日本のケース

に PCIT を導入し、22 年 5 月からは PCIT

の創始者であるフロリダ大学 Eyberg 教授

に師事し、同教授研究チームのサポートを

受けながらセラピスト及びトレーナーとし

てのトレーニングを積んでいる。また 24年、

25年の 2回に渡り、Eyberg教授および PCIT

マスタートレーナーである Auburn 大学

Elizabeth Brestan-Knight教授を日本に招

聘し、日本の専門職に対しイニシャル WSを

共同開催することでトレーナーとしての技

術を高めた。また、ケーススーパービジョ

ンに関する研修も同時並行で行っている。

2)治療プロトコルとアセスメントツー

エビデンスの維持・担保に関するもう一

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つの重要な前提条件は治療プロトコルやア

セスメントツールの質の保持である。今回

の児相ワークショップで用いた治療プロト

コルは、米国で用いられている標準プロト

コルをまず日本語に翻訳し、次にこれを英

語に back-translation したものについて

米国側と検討し、日本語訳をより正確なも

のに仕上げたものである。

このほか PCIT 施行の必須アセスメント

と し て 、 ECBI(Eyberg Child behavior

Inventory:アイバーグ子どもの行動評価

票)、及び Abridged Dyadic Parent-Child

Interaction Coding System-III(親子対の

相互交流評価システム短縮版第 3 版:

DIPCS-III(Eyberg, 2010)があるが、両者

と も プ ロ ト コ ル と 同 様 に back -

translation の技法を用いて日本語版を作

成した。ECBI に関しては日本の事例に対す

る validation studyと標準化も並行して行

った。また、DPICS については日本語場―

ション使用に当たっての注意点を日本語ノ

ートとしてまとめ、翻訳に添付した(資料

参照、DPIC 日本語ノート)。

3)イニシャル WS

A 県、B 県とも児相でのイニシャル WS の

構成は米国内で標準的に行われ、国際的な

基準ともなる 40 時間ワークショップを基

礎とした。ただし、日程構成や時間配分に

ついてはそれぞれの児相の規模や参加人数、

勤務環境に適合させた。

国際的な標準 PCITWSは参加者8名、5日

間連続であり、原則的にライブケースもこ

の期間中に体験する。しかし、多忙な児相

において 5日間連続 WS開催するには日常の

実務への支障が生じる可能性が高かったた

め、A 県では 2 連続の週末を利用して 2 回

に分けて WSを行い、B県では週末を利用し

た4日間連続で1日の授業コマ数を増やす

形とした。A 県の日程の詳細を文末に添付

する。規模の大きい A 県では参加する心理

専門職者の数も多かったため、WSは1年に

1回ずつ合計2回行った。B 県は1回のみ

の開催でほぼ全員の心理職が WS を受講す

ることが出来た。

両県ともトレーナーが児相に出向く形で

WSを行ったため、WS中にライブケースを導

入することは困難であった。その代替とし

て、文末に添付した A県 WSの後半第一日目

の参加者用ハンドアウトに見るように、ロ

ールプレイとビデオを多用した。ライブケ

ース体験については、A県、B県ともに経験

豊富な治療者がいるため、WS外で実際のケ

ースを見学することとした。

なお、WS には、過去の WS に参加し、現

在 PCIT を実施している児相内経験者もサ

ブトレーナーとして参加し、新しい参加者

のスキル獲得を支援するとともにロールプ

レイに積極的に参加した。

4)ケースコンサルテーション

A県では毎月1回、B県では2~3か月に

1回イニシャルWS後1年以上に渡り、定期

的に具体事例のケースコンサルテーション

を行った。

国際標準としてのPCITトレーニングでは、

新規にPCITに取り組むセラピストに対し、

トレーナーがその場で指導するか、あるい

はセッションごとにビデオを用いて指導を

行うが、児相という環境上これを実行する

Page 35: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

には困難があった。

厳格な守秘義務を必要とする児相でのケ

ースコンサルテーションは、WSトレーナー

が児相に出向くか、女性生涯健康センター

で会場を用意する形で行った。

5)ケースの進捗について

PCITは通常60分のセッションを毎週行

い、12週から20週程度で修了すること

が多いが、児相ケースの場合、多くは1か

月に1回の頻度でセッションが持たれてい

た。児相側の要因としては、心理職の数が

全体に不足していること、PCITが出来る機

能を備えた治療スペースが十分でないこと

などがあり、また、PCITを受ける養育者側

にも、心身の不調のためキャンセルが続く

ことがある等の要因が認められた。

しかし、A県でコンサルテーションを行っ

た2事例については次第にECBI強度得点が

下がるなど、PCITの効果が認められたが、

両者とも導入後修了まで約1年を要した。

その他のケースについてもA県、B県とも積

極的にPCITの導入を進めている。

D. 考察

A,B2県の児童相談センター全心理職員に

対し、PCITに関するイニシャルワークショ

ップ(WS)とその後の具体的事例を用いた

コンサルテーションを軸に系統的トレーニ

ングを行った。

トレーナートレーニングと治療プロトコ

ルやアセスメントなどの資料については治

療効果エビデンスを最大限維持する形で導

入することが出来たと考えている。イニシ

ャルWSの開催方法については、WS開催期間

内にライブケース体験ができない点が問題

点として残った。臨床現場でのケース見学

から補完的な体験は可能だが、治療効果を

実感しながらのWSの受講はスキル獲得の大

きなモチベーションになるため、今後はラ

イブケースの導入も視野に入れていきたい。

もっとも大きな問題は、コンサルテーシ

ョンとスーバービジョンの方法論にある。

まず、心理療法を推奨された枠組みで行う

ことは、治療効果を最大限に引き出す前提

であるので、それぞれの施設の治療環境に

適合しつつも今後は週1回のセッションの

開催を目標としていくよう環境を整える支

援を行う必要がある。また、特に行動療法

に関しては初学者が治療を行う場合、指導

の場でエラーの修正をその都度十分に行っ

ていくことが重要だが、月1回のコンサル

エラー修正が不十分となりやすい。これら

の問題を解決するためには、トレーナー側

にも時間的フレキシビリティが要求される。

米国シンシナティ子ども病院トラウマ治

療トレーニングセンター(TTTC)では、本部

スタッフらより地域の児童保護施設職員や

保健師等を対象にPCIT のTrauma-Focused

Cognitive Behavioral Therapy(TF-CBT)、

Child Adult Relationship

Enhancement(CARE)等エビデンスのある心

理療法について研修会を開催しセラピスト

を養成したうえで、治療に対するスーパー

バイズを行っている。また地域のデータを

集積かつ分析し、その結果を地域保健施設

に還元するなどして家庭内暴力被害に向け、

地域ぐるみの治療スキルの底上げを達成し

ている。今後、PCITやこれに類するエビデ

ンスに基づいた心理療法の均てん化を日本

でも推し進める場合、TTTC に類似した治療

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トレーニングセンターの構築が必須である。

E. 文献

加茂登志子他:DV被害母子に対する親子相

互 交 流 療 法 (Parent-Child Interaction

Therapy: PCIT)の効果に関する研究-DV被

害母子フォローアップ研究との比較、平成

23 年度厚生労働科学研究費補助金、「大規

模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態

把握と対応ガイドラインの作成・評価に関

する研究」報告書 2012

F. 関連業績

著作

加茂登志子:家庭内暴力被害母子への相互関

係介入プログラム、BIRTH、第 2 巻

第 2 号,77-83,2013

伊東史ヱ他:医療現場における Child-Adult

Relationship Enhancement (CARE)の実践報

告 : ドメスティック・バイオレンス被害を

受けた母親に対する CARE を用いたグルー

プ療法型子育て支援の試み、トラウマティ

ック・ストレス 11(2), 181-187, 2013

研究発表

Toshiko Kamo. Step by step progress of

PCIT implementation in Japan –Integrity

of PCIT and cultural consideration, the

2nd biennial PCIT international

convention , 2013

G. 知的財産権の出願・登録状況(予

定を含む。)

1.特許取得 なし。

2.実用新案登録 なし。

3.その他 なし。

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DPICS 日本語ノート Ver.1.01

加茂登志子、河瀬さやか、Elizabeth Brestan-Knight, Regina Bussing ノート1:Description の訳語について 本来、Description の訳語としては「描写」を用いるのが最も適切だが、「描写」はより

文語的な表現であり、口語的な日常用語としての使用はごく稀である。そのため、親によ

っては、とりわけ知的水準に若干の問題がある養育者にとっては、その意が十分に理解で

きない可能性がある。そこで日本語版 PCIT では、あえて「説明」という誰でも知っている

易しい日本語表現を用いることとした。これらを鑑み、日本語版 CDI ティーチングでは、

PRIDE スキルにおける「説明」の示す意について、以下の点をセラピストから養育者に具

体的に伝えることとする。すなわち、英語における Explanation と Description は前者が

解釈を含み、後者は解釈を排し、ありのままを言語化するという点が大きく異なっており、

PCIT における「説明」とは後者にあたるものである。 ノート2:終助詞「ね」の取り扱い 「ね」は日本語文法では終助詞に分類される。終助詞とは文や句の末尾について疑問・

禁止・感動などの意味を付け加えるものであり、そのものだけでは意味を持たない。「ね」

は、日本語の終助詞の中でも特に重要であり、使わなければ会話が不自然となる場合があ

ることが知られている。そのため、以下のように、会話のリズムや柔らかさを維持する働

きの限りである「ね」は軽い「ね」としてコーディングしない。一方、談話の文脈や語気

の強さ、イントネーションによって念押しや強い同意を求めること、あるいは質問の意味

合いを含むことが明らかである場合は、その意図するところに合わせてコーディングする。

なお、「ね」における評価者間一致等の詳細は今後の研究課題である。 「ね」のコーディングにおける暫定的な判断 ❏ 軽い「ね」はコードしない 会話のリズムや柔らかさを維持する

❏ 重い「ね」はコードする 念押しの「ね」⇒間接的命令 強く同意を促す「ね」⇒間接的命令 質問の「ね」(語尾上がり)⇒質問

ノート3:義務・責任の表現の翻訳(should, must, have to, need to の訳語について)

should, must, have to など、義務・責任に関する英語表現は一般に二重否定「~ねばな

らない」を使用して日本語に翻訳されることが多い。この二重否定を用いた命令「ねばな

らない」は、日本語において義務・責任を表す表現として多用され、子どもにもよく使わ

れる。この「ねばならない」は「~しないあなたはよくない(正しくない)」という否定的

メッセージもまた含意するため、DPICS 親カテゴリーでは否定的会話との異同が問題とな

る。1 つの文章が 2 つの意を示すとき、DPICS では Priority Order を用いる。PO におい

て命令と否定的会話では否定的会話が上位となるため、二重否定は必然的に否定的会話に

分類されることになる。これらを鑑み、日本語 DPICS-III 第 1 版は二重否定を用いた命令

を、命令ではなく否定的会話に分類することとした。 一方、義務、責任を示し、二重否定に代わる表現には「べき」があるが、「べき」には固

いイメージがあり、文章には頻繁に使われるが、大人同士の口語でも使用はまれであり、

親子の会話では通常ほとんど使われない。 そのため、DPICS-III 日本語第 1 版では、原版における should, must, have to, need to 等

の義務・責任表現を、暫定的に「しなさい」「してください」といった柔らかで丁寧な命令

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に意訳(変換)して翻訳した。 二重否定を用いた命令を、否定的会話に分類することの是非、義務・責任を表す命令に柔

らかで丁寧な命令や既存の決まりがあることを示す表現を用いることの是非については引

き続き今後の研究課題である。 ノート4:子どもの呼名について DPICS において、注意を喚起するために子どもの名前を呼ぶことは、「こちらを向きなさ

い」という意を含む間接的命令に分類される。そのため、PCIT プロトコルでは、子どもの

名前を呼びすぎないこと、特に、命令を与える直前には呼名しないようにすることが示さ

れている。日本語版 DPICS においても、原版同様注意喚起のための呼名は間接的命令とし

てコーディングされる。 一方、日本語による親子の会話で子どもを「あなた」と呼称することは少なく、通常「あ

なた」は省略されるか、あるいは、子どもの名前がそのまま使われることが多い。この場

合の呼名は英語の三人称(She、He)とは異なるものであり、「you」同様二人称的機能を

有するものである。これらを鑑み、通常の会話のなかで用いられる二人称としての呼名に

ついては、コーディング外のものとする。

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PCIT training and blush up Workshop 2012

第1ターム X 月 5 日(金)、6 日(土)、7 日(日) 第 2 ターム X 月 20 日(土)、10 月 21 日(日) 場所:A 県児童相談センター 講師:加茂登志子、伊東史ヱ(東京女子医科大学附属女性生涯健康センター) 他 PCIT-Japan メンバー 資料:①PCIT オリジナル 2.09 日本語版 ②DPICS-III 日本語版 ③ECBI ④その他 日程表 第一ターム CDI 午前 9:30-12:30 午後 13:30-17:00 X 月 5 日(金) 今日の目標 概論 □PCIT の理念を理解する □PCIT の手順の概要を理解する CDI □Do スキル(PRIDE スキル)を理解し特別な時

間で使える □Don’t スキルを理解し、特別な時間で使わな

いようにする □戦略的無視を理解し特別な時間で使えるよう

になる

イントロダクション (自己紹介) PCIT の歴史 これまでの研究について PCIT の構造 PCIT オリジナルと PCIT-A ビデオ(ケース 9)(ケース 22) CDI①PRIDE スキル-関係を強化する要素 デモンストレーションビデオ PRIDE skills

デモンストレーションロールプレイ クリッカー使用 Don’t skill(質問)(批判)(命令)20 分 ロールプレイ① PRIDE スキル+don’t skills 1 グループ 6 人 60 分 CDI② こどもの破壊的な行動-戦略的無視・こどもの有

害な行動-遊びの中止 デモロールプレイ(戦略的無視) ロールプレイ② 無視を含む:小グループによる CDI 演習

60 分 質問タイム

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午前 9:30-12:30 午後 13:30-17:00 X 月 6 日(土) 今日の目標 CDI コーディング □DPICS-III を用いて基本的なコーディングの

ルールを理解する □プライオリティオーダー, ディシジョン・ルー

ル・オーダーを理解する □日本語の特性について知る □CDI マステリー基準を理解する □コーディングができるようになる CDI コーチング □コーチングの理念を理解する □コーチングのステイトメントとレベルについ

て理解する □レベル1コーチングが出来る様になる

昨日の振り返りと疑問点 ECBI CDI-コーディングの基礎-DPICS-III ①基本的なコーディングルール ②プライオリティ・オーダーとディシジョン・ルール・オ

ーダー ③日本語の特性 コーディング演習①:クリッカー 質問 行動の説明 ビデオを用いたコーディング演習 ケース① マクニールビデオ CDI マステリー基準について

CDI ロールプレイ+コーディング練習:小グループによる 質問タイム コーチング イントロダクション 様々なコーチングのステイトメント コーチングのレベルについて デモロールプレイ:レベルIコーチング ロールプレイ:レベルIコーチング演習

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午前 9:30-12:30 午後 13:30-17:00 X 月 7 日(日) 今日の目標 CDI コーチング □II,III レベルのコーチングを理解し、取

り入れることができる 反対の良い行動 □反対の良い行動を誉めることによる行動

変容について理解する □CDI の流れについて理解する PDI □PDI の概観について理解する □PCIT-A とオリジナル版の相違について

理解する □壊れたレコードのスキルを理解し、出来

るようになる

昨日の振り返りと疑問点 コーチング(続き) レベル II, III コーチングについて デモ・ロールプレイ:レベル II,III コーチング ロールプレイ:CDI ロールプレイ+レベル II, III コーチン

グ 反対の良い行動を誉めることによる行動変容 ワークシートを用いた演習

CDI ティーチング練習(2 人組で交代して行う) PDI イントロダクション PCIT オリジナルと PCIT-A の相違 タイムアウトの椅子 バックアップ(タイムアウトの部屋、その他のバックアッ

プ手順:swoop and go, シール法) (壊れたレコードのスキル) デモ・ロールプレイ:壊れたレコードのスキル ロールプレイ:壊れたレコードのスキル 宿題

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第2ターム PDI 午前 9:30-12:30 午後 13:30-17:00 X 月 20 日(土曜日) 今日の目標 PDI 概論 □PDI の考え方について理解する タイムアウトの手順 □良い命令の出し方を理解する □PDI のセリフを覚える。 □PDI の手順を理解し、実践できる。 クマさんのセッション □クマさんのセッションが出来る PDI コーディング □PDI コーディングのルールを理解する □PDIコーディングシートを使ってコーデ

ィングが出来る

宿題の振り返り 第一タームの振り返り PDI の手順について PDI の考え方、良い命令の出し方の復習 PDI の手順について タイムアウトの椅子 バックアップの手順(タイムアウトの部屋、Swoop and go、シールのバックアップ、) デモ・ロールプレイ:PDI ロールプレイ:PDI

PDI ティーチングセッション ①親にタイムアウトの手順を教える ②こどもに PDI を教える:クマさんのセッション デモ・ロールプレイ:クマさんのセッション ロールプレイ:クマさんのセッション PDI コーディングについて PDI マステリー基準 PDI デモ・ロールプレイ+コーディング練習 PDI コーディング練習 ロールプレイと共に 宿題 PDI のセリフを覚える PDI ティーチングの部分を読む

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午前 9:30-12:30 午後 13:30-17:00

X 月 21 日(日) 今日の目標 PDI コーチング □PDI コーチングが出来る □PDI の流れについて理解する □お片付けの位置づけについて理解する □ハウスルールについて理解する □PDIの汎化と公共の場での使用について

理解する □きょうだいセッションについて理解す

宿題の振り返り 定着度テスト(2) PDI コーチングについて CDI コーチングとの違い PDI コーチング デモ・ロールプレイ:PDI コーチング ロールプレイ:PDI コーチング

PDI の流れについて(1) PDI ティーチング練習(2 人ペア) PDI の流れについて(2) ハウスルールの設定 PDI の汎化と公共の場での使用について きょうだい、その他のしつけツール 終了式 今後について (アンケート)

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1

PCIT Work shop 2012第2ターム①

加茂登志子

PCIT-Japan

東京女子医科大学附属女性生涯健康センター

第1日目

宿題の振り返り

2段階の治療

親が子どものリードに従う「特別な(遊びの)時間」

www.OhioCanDo4Kids.org

主な目的:親子の交流の強化

肯定的行動の増進

否定的行動の減退

主な目的:

具体的で効果的なスキルを提供し

子どもがより親の指示・命令に従うようにする

子が親のリードに従う「良い命令の出し方」

☆無視すること:

気に障る不快な行動

☆遊びを中止する:

危険行動または破壊行動があった時

避けること(Don’t Skills):

Command 命令

Question 質問

Criticisms批判

行うこと(Do Skills):

Praise 具体的な賞賛

Reflect 繰り返し

Imitate まね

Description

行動の説明

Enjoy

楽しく!

CDI: 子ども指向相互交流第一段階: 関係の強化

Special Play Time 「特別な遊びの時間」

PDI: 親指向相互交流第二段階: しつけ

• 言うことを聞く訓練 (一度に一つずつ)

– 良い命令を出すことを親に教える

– 親子にタイムアウトを教える

– 先ずセラピストを相手に練習してから、子どもと練習する

– 親は、言うことを聞く練習の間は怒りをコントロールすることを学ぶ

– 親は家庭で徐々にタイムアウトを適用していく

• ハウスルール (子どもが依然として攻撃的な場合)

• 公共の場への導入

www.OhioCanDo4Kids.org

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2

セラピストもPCITスキルを使う

PCITのスキルは親もセラピストも共通して用いる

セラピスト:PCITスキルを使って親にコーチする

親:PCITスキルを

使ってこどもとプレイセラピーをする

具体的賞賛グッドです!

PCITのプロセス

• アセスメント

• ティーチング

• コーディング

• コーチング

• 宿題

1人の親に対する50分間のセッションの構成

www.OhioCanDo4Kids.org

タイムテーブル(15回の場合)Session 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1112 13 1415 B

PhaseApre

CDI PDIApost

アセスメントセット

ECBI

DPICS-III

ティーチング

CDI-コーディング

CDIコーチング

PDIコーディング

PDIコーチング

宿題

アセスメントツール(必須)

• 子どもの行動

• ECBI: Eyberg Child Behavior Inventory

アイバーグ子どもの行動評価票– >114

• 親のスキルと子どもの命令に対する反応

• DIPCS: Dyadic Parent-Child Interaction Coding System-III10-10-10(8-6-6)

PDI

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3

タイムテーブル(15回の場合)Session 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 1213 14 15 B

PhaseApre

CDI PDIApost

アセスメントセット

ECBI

DPICS-III

ティーチング

CDI-コーディング

CDIコーチング

PDIコーディング

PDIコーチング

宿題

PDIで親が学ぶ必要のある3つの原則

• 一貫性– 親の感じ方次第で、PDIスキルの使用法を変えない。

• 予測性– いつも穏やかで淡々とした態度にする。ロボットのよ

うに機械的に自動的に振る舞う。

• 徹底性– 一度始めたら最後までやり通す。

親指向相互交流PDI:良い命令を出す

• 直接的

• 肯定的

• 1回に1つ

• 具体的

• 子どもの発達年齢に見合って適切に

• 礼儀正しく丁重に

• 説明は命令が出される前か、子どもが命令に従った後に

• 必要な時だけ

子どもが命令に従った場合

• 惜しみない具体的賞賛を与える

– “こんなに早く言うことを聞いてくれるなんてすごい”

– “あなたが私が言ったことをしてくれるとお母さんうれしい”

– “よく聞いていました”

「命令に従う」と「命令に従わない」

• 命令に従う(忠実性) CO

• 命令に従わない(非忠実性) NC

• 命令に従う機会なし(忠実性) NOC

• COとNCはどう区別するのか?

ぐずるときの5秒ルール

• 特別な時間での直接的命令は繰り返さず、子どもが従うか従わないか分かるまで、なにも言わない。

• “あなたの子どもがぐずぐずするとき、あなたは子どもが命令に従う方向へ動くかどうか決めなければなりません(子どもがすぐに従うか従わないかには、このルールは適用されません-その結果ははっきりしています)あなたが決めようとしている間、子どもには何も言わずに、あなたの頭のなかで黙って5つ数えて下さい。もし、子どもが、この5秒間が終わっても命令に従うことを明らかに始めていなかったら、それは命令に従っていません”

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4

PDIの手順

直接的命令①

忠告 具体的賞賛

従わない

5秒以内に従う

タイムアウトの椅子

5秒後従わない

バックアップの手法

①に従う

従わない

簡単な承認

具体的賞賛

直接的命令②

従う

従わない

従う

バックアップの手法

シール帳 PCIT-A

タイムアウトの部屋 オリジナルPCIT

Swoop and Go(おもちゃと一緒に部屋から出る)

★タイムアウトの椅子から子どもが降りてしまう場合のバックアップ手法

バックアップ手法の長所と短所

長所 短所

PCIT-A シール帳 • 楽しい• 簡単(ストレス小)

• 導入時期に工夫が必要

• 親が持参を忘れる• 子どもが何度も従わ

ない場合、シールがなくなることがある

オリジナルPCIT

タイムアウトの部屋

• 一貫性が保たれる• 忘れることはない

• トラウマのある子どもに注意を要する

• 特別なスペースが必要になる

Swoop and Go • 一貫性が保たれる• 忘れることはない

• 家で特別な時間の場所をもつとき、場所が限定される

• トラウマのある子どもに注意を要する

タイムアウトの椅子

• 大人用の椅子(子どもは投げたり動かしたりすることが難しくなる)– 頑丈なもの– 背もたれがまっすぐなもの– リクライニングや回転ができないもの

• 椅子は、比較的開放的な場所で何も興味を引くものがないところに向かうように置く

• 椅子に座り両手を振って手の届く範囲に何もないようにする

• タイムアウトの椅子には3分間+5秒の静寂(子どもが静かにしている時間)

子どもがタイムアウトの椅子の上でするほとんどすべてのことを無視する

• 完全に無視しなければならない。子どもの方を見てもいけない。

• 否定的な行動を無視する場合、初めは悪化することを親に説明する。

• 一貫して否定的な行動を無視し続ければ止まることを親に保証する。

• 否定的な行動を一貫して無視することができなければ、この椅子の手順は効果を発揮しないことを親に説明する。

タイムアウトの椅子の間、親が無視してはならない5つの行動

• 椅子からの脱出(体の50%以上が椅子から離れる)。

• 椅子をずらす。

• 激しく揺らす。危険であるため。

• 椅子の上にまっすぐ立ち上がる。危険であるため。

• 自傷行為(出血あるいはあざの可能性)。

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5

フロリダ大学セラピールームの設備(タイムアウトの部屋(-)バージョン)

観察室

プレイルーム

タイムアウトの部屋

通路

モニタールーム

ビデオカメラ

フロリダ大学セラピールーム②の設備(タイムアウトの部屋(+)バージョン)

観察室

プレイルーム

タイムアウトの部屋

通路

ビデオカメラ

PDIでは決まったセリフを用いる

• もし[子どもの名前]ちゃんが[命令を入れる]をしなかったら、[子どもの名前]ちゃんは(タイムアウトの)椅子に座ることになります。

• [私]がしなさいと言ったことをしなかったから、(タイムアウトの)椅子に座ることになりました。

• 私が降りていいと言うまで椅子に座っていなさい。

• [子どもの名前]ちゃんは椅子の上に静かに座っていることができました。[元の命令]が出来るようになりましたか?

• 分かった。[お母さん]が降りていいというまで椅子の上にいなさい。

• [子どもの名前]は[お母さん]がいいと言う前に椅子から降りました。もし、[子どもの名前]ちゃんがまた椅子から降りたら、[子どもの名前]ちゃんはタイムアウトの部屋に行くことになります。[お母さん]が降りていいと言うまで椅子にいなさい。

• [お母さん]がいいという前に椅子から降りたから、[子どもの名前]ちゃんはタイムアウトの部屋に行くことになりました。

ビデオ

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6

PDIデモ・ロールプレイ

PDIロールプレイ

小グループ(6人)

PDIティーチングセッションロールプレイ・2人1組

子どもにタイムアウトの手順を教えるクマさんのセッション

(PDI第一回コーチングセッションの冒頭)

• クマさんを用いて子どもにPDIの手順を説明する

• ビデオ

• 「クマさんと一緒にこどもにPDIを教える(シール帳バージョン)」 セラピスト用資料

クマさんのセッションデモ・ロールプレイ

クマさんのセッションロールプレイ2人グループ

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7

PDIコーディング

• 養育者は5分間に最低4つの命令を行う

• マステリーには75%が効果的命令であることが要求される(直接的かつ明確に行われ、子どもに「命令に従う」や「命令に従わない」を示す機会を与えるひとつの命令を1回と数える)

• 養育者は効果的な命令に引き続いて、適切なスキルを用いなくてはいけない(「命令に従う」に引き続く具体的な賞賛、「命令に従わない」に引き続く忠告)

• 観察中に子どもにタイムアウトが必要な場合は、養育者はPDIの手続きの手順に沿ってそれを行わなくてはいけない

• コーディングシート参照

コーディングの例

命令が直接的か間接的か

命令に従う機会なし

命令に従う

命令に従わない

賞賛LPかUPか?

椅子の忠告

命令に従う

命令に従わない

賞賛LPかUPか?

タイムアウトの椅子

タイムアウトの部屋

DC ✓ LP

DC ✓ ✓ ✓ LP

IC ✓

DC ✓ ✓ ✓ ✓✓ ✓

✓ 承認

DC ✓ LP

コーディング練習デモ・ロールプレイ

ロールプレイPDIコーディング

小グループ(6人)

ロールプレイ①親 子ども

直接的命令(具体的賞賛)

命令に従う

直接的命令(具体的賞賛)

命令に従わない→椅子の忠告→命令に従う

直接的命令(承認)

命令に従わない→忠告に従わない→タイムアウトの椅子→座っていられる→最初の命令に従う

直接的命令(具体的賞賛)

命令に従う

命令が直接的か間接的か

命令に従う機会なし

命令に従う

命令に従わない

賞賛LPかUP

か?

椅子の忠告

命令に従う

命令に従わない

賞賛LPかUP

か?

タイムアウトの椅子

タイムアウトの部屋

緑のブロックDC

✓ LP

赤のブロックDC

✓ ✓ LP

シマウマDC

✓ ✓ ✓ ✓

✓ 承認

ライオンDC

✓ LP

ロールプレイ①のコーディング例

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ロールプレイ②

親 子ども

直接的命令(具体的賞賛)

命令に従う

直接的命令(具体的賞賛)

命令に従わない→椅子の忠告→命令に従う

直接的命令(承認)

命令に従わない→椅子の忠告→命令に従わない→タイムアウトの椅子→タイムアウトの椅子から降りる→タイムアウトの部屋の忠告→椅子に戻り座っていられる→命令に従う

直接的命令(具体的賞賛)

命令に従う

命令が直接的か間接的か

命令に従う機会なし

命令に従う

命令に従わない

賞賛LPかUP

か?

椅子の忠告

命令に従う

命令に従わない

賞賛LPかUP

か?

タイムアウトの椅子

タイムアウトの部屋

緑のブロックDC

✓ LP

赤いブロックDC

✓ ✓ ✓ LP

シマウマDC

✓ ✓ ✓ ✓✓

✓ 承認

ライオンDC

✓ LP

ロールプレイ②のコーディング例

ロールプレイ③

親 子ども

直接的命令(具体的賞賛)

命令に従う

直接的命令(具体的賞賛)

命令に従わない→椅子の忠告→命令に従う

直接的命令(承認)

命令に従わない→椅子の忠告→命令に従わない→タイムアウトの椅子→椅子から降りる→タイムアウトの部屋の忠告→椅子に戻らない→タイムアウトの部屋→椅子に戻す→タイムアウトの椅子→命令に従う

直接的命令(具体的賞賛)

命令に従う

命令が直接的か間接的か

命令に従う機会なし

命令に従う

命令に従わない

賞賛LPかUP

か?

椅子の忠告

命令に従う

命令に従わない

賞賛LPかUP

か?

タイムアウトの椅子

タイムアウトの部屋

緑のブロックDC

✓ LP

赤のブロックDC

✓ ✓ LP

シマウマDC

✓ ✓ ✓ ✓ ✓

✓ 承認

ライオンDC

✓ LP

ロールプレイ③のコーディング例

宿題

• PDIのセリフを覚えてくる

• PDIティーチングセッションを読む お疲れ様でした!また明日!

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厚生労働科 学 研 究 費 補 助 金 ( 障害者 対策総合研究事業 (精神障害分野 ))

大 規 模 災 害 や 犯 罪 被 害等による精神 疾患の実態把握と 対 応 ガ イ ド ラ イ ン の作成・評価に関 する研究

平 成 2 5 年 度 分 担研究総合報告書

犯罪被害者の急性期心理ケアプログラムの構築に関する研究

分 担 研 究 者 中 島 聡 美 国 立 精 神 ・ 神 経 医 療 研 究 セ ン タ ー 精 神 保 健 研 究 所

成 人 精 神 保 健 研 究 部 犯 罪 被 害 者 等 支 援 研 究 室 室 長 研 究 協 力 者 加 茂 登 志 子 東 京 女 子 医 科 大 学 付 属 女 性 生 涯 健 康 セ ン タ ー 所 長

中 澤 直 子 東 京 厚 生 年 金 病 院 産 婦 人 科 医 長 小 西 聖 子 武 蔵 野 大 学 人 間 科 学 部 教 授 吉 田 謙 一 東 京 大 学 大 学 院 医 学 系 研 究 科 法 医 学 講 座 教 授 辻 村 貴 子 東 京 女 子 医 科 大 学 医 学 部 日 本 語 学 教 室 講 師

鈴 木 友 理 子 国 立 精 神 ・ 神 経 医 療 研 究 セ ン タ ー 精 神 保 健 研 究 所 成 人 精 神 保 健 研 究 部 災 害 等 支 援 研 究 室 室 長 金 吉 晴 国 立 精 神 ・ 神 経 医 療 研 究 セ ン タ ー 精 神 保 健 研 究 所 成 人 精 神 保 健 研 究 部 部 長 成 澤 知 美 国 立 精 神 ・ 神 経 医 療 研 究 セ ン タ ー 精 神 保 健 研 究 部 成 人 精 神 保 健 研 究 部 協 力 研 究 員

淺 野 敬 子 国 立 精 神 ・ 神 経 医 療 研 究 セ ン タ ー 精 神 保 健 研 究 部 成 人 精 神 保 健 研 究 部 協 力 研 究 員

深 澤 舞 子 国 立 精 神 ・ 神 経 医 療 研 究 セ ン タ ー 精 神 保 健 研 究 所 成 人 精 神 保 健 研 究 部 協 力 研 究 員

研 究 要 旨 : 犯 罪 被 害 者 へ の 急 性 期 心 理 ケ ア プ ロ グ ラ ム の 構 築 の た め 、 以 下 の 2

つ の 研 究 を 行 っ た。【 研 究 1:検 視( 検 死 )及 び 司 法 解 剖 時 の 遺 族 へ の 対 応 の 現

状 と 心 理 的 影 響 に 関 す る 研 究 】司 法 解 剖 に 付 さ れ た 人 の 遺 族 の 精 神 健 康 の 状 態

と 、 司 法 解 剖 時の 警 察 官 や 法 医 学 者 な ど の 対 応 の 関 係 を 明 ら か に し 、急 性 期の

遺 族 ケ ア の 在 り 方 を 検 討 す る 目 的 で 研 究 を 行 っ た 。共 同 研 究 期 間 で あ る 東 京 大

学 法 医 学 教 室 で 司 法 解 剖 に 付 さ れ た 人 の 遺 族 の う ち 、 承 諾 を 得 ら れ た 45 名 に

対 し て 司 法 解 剖 前 後 の 警 察 官 や 法 医 学 者 の 対 応 の 印 象 、K6、BGQ、IES-R を 含 む

自 記 式 の 調 査 票 を 郵 送 し 、27 名 か ら 回 答 を 得 た( 回 収 率 60% )。回 答 者の 52.2%

が 重 症 精 神 障 害 相 当 ( K6 13 点 以 上)、 46.0%が 複 雑 性 悲 嘆 の 疑 い ( BGQ 5 点

以 上 )、 40.9%が PTSD 疑 い( IES-R 25 点 以 上 )に 該 当 し て お り 、約 半 数 は 精 神

健 康 が 不 良 で あ る こ と が 示 さ れ た。K6 得 点 と BGQ 得 点 は 法 医 学 者 の 丁 寧 な 説 明

や 思 い や り の あ る 態 度 と 負 の 相 関 が あ り ( r=-.975, -.910, p=.05)、 IES-R 得

点 は 司 法 解 剖 前 に 警 察 官 か ら 説 明 時 間 を 十 分 と 感 じ た 度 合 い と 、遺 族 の 希 望 や

意 見 を 尊 重 し て く れ た と 感 じ た 度 合 い に 負 の 相 関 ( r= - .531, - .440, p

= .05)が あ っ た 。 以 上 の こ と か ら 、 司 法 解 剖 遺 族 で は 、 長 期 に わ た り 精 神 健 康

が 不 良 な 状 態 が 持 続 し て お り 、ま た、遺 族 の 精 神 健 康 状 態 と 警 察 官 や 法 医 学 者

の 十 分 な 説 明 や 配 慮 あ る 対 応 に は 関 連 が あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。

【 研 究 2: 性 暴 力 被 害 者 向 け 支 援 情 報 パ ン フ レ ッ ト の 開 発 】 近 年 増 加 し て い る

性 暴 力 被 害 者 救 援 セ ン タ ー や 産 婦 人 科 医 療 現 場 で 被 害 者 に 対 し て 心 理 教 育 や

情 報 提 供 を 行 う た め の パ ン フ レ ッ ト の 作 成 を 行 っ た 。原 案 に 対 し て 性 暴 力 被 害

者 支 援 に 精 通 し た 専 門 家 27 名 か ら 意 見 を 求 め 、 修 正 を 行 っ た 。 今 後 は こ の パ

ン フ レ ッ ト の 有 用 性 に つ い て 支 援 現 場 で 検 証 を 行 っ て い く こ と が 必 要 で あ る 。

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研 究 1 検 視 ( 検 死 ) 及 び 司 法 解 剖 時 の

遺 族 へ の 対 応 の 現 状 と 心 理 的 影 響 に 関

す る 研 究

A 目 的

犯 罪 被 害 に よ っ て 家 族 を 喪 っ た 遺 族 で

は 、PTSD( 有 病 率 23.2~ 75.5% ) 1 ) 1 7 ) 1 2 ) 2 1 ) 、 複 雑 性 悲 嘆 ( 有 病 率 21.9 % ~

43.0% )1 2 ) 1 6 )、う つ( 有 病率 11~ 12.3% )1 7 ) 1 2 , 1 4 )な ど 、 様 々 な 心 理 的 影 響 が 生 じ

る こ と が こ れ ま で に 明 ら か に さ れ て き た 。

さ ら に 、 こ れ ら の 症 状 の 重 症 度 は 、 事 件

後 に 二 次 被 害 を 受 け た と 感 じ た 頻 度 や 二

次 被 害 に よ る 主 観 的 な 苦 痛 の 度 合 い に 相

関 が あ る こ と も 報 告 さ れ て い る 1 7 ) 1 2 )。

死 因 不 明 事 案 で は 、 警 察 や 検 察 に よ る

捜 査 や 裁 判 な ど の 司 法 手 続 き が 行 わ れ る

が 、 こ の 手 続 き そ の も の が 被 害 者 や 遺 族

の 意 思 に か か わ ら ず 一 方 的 に 要 求 さ れ る

も の で あ る 8 )た め に 、 捜 査 の 過 程 に お い

て 被 害 を 再 体 験 し た り 、 二 次 被 害 を 受 け

た り す る こ と で 、 精 神 健 康 に 悪 影 響 を 及

ぼ す こ と も 指 摘 さ れ て い る 4 )。

家 族 の 司 法 解 剖 を 経 験 し た 遺 族 の 手 記

に は 、 当 時 の 対 応 の 状 況 や そ れ に よ る 心

情 が 記 さ れ て お り、「 こ れ は 警 察 の ル ー ル

だ か ら 」「 裁 判 所 の 命 令 だ か ら 」 1 5 ) 5 )な ど

一 方 的 な 「 通 知 」 で あ っ た こ と が 述 べ ら

れ て い る 。 他 に も 、 法 医 学 教 室 に 出 向 い

た も の の 、「 ど こ で 待 て ば 良 い の か が 分 か

ら ず 、 茫 然 と 立 ち 尽 く し て 終 わ る の を 待

ち 続 け た 」 5 ) 様 子 も 述 べ ら れ て お り 、 家

族 の た め の 設 備 の 不 足 や 案 内 の 不 足 な ど

が う か が わ れ る 。 研 究 者 か ら も 、 断 定 的1 8 )、 高 圧 的 、 威 圧 的 3 )な 様 子 が 報 告 さ れ

て い る 。 こ れ ら の 言 葉 に よ り 遺 族 が 傷 つ

く こ と が 二 次 被 害 と 受 け 止 め ら れ て い る

こ と 、 さ ら に 、 二 次 被 害 が 遺 族 の 精 神 健

康 に 関 連 す る と い う 研 究 報 告 1 2 ) を ふ ま

え る と 、 捜 査 関 係 者 が 遺 族 を 傷 つ け な い

よ う な 対 応 を 行 う こ と は 遺 族 の 精 神 健 康

の 回 復 の 上 で も 重 要 だ と 思 わ れ る 。 Ito

ら 1 4 )は 、司 法 解 剖 後 に 悲 し み や 怒 り が 増

し た と 回 答 し た 遺 族 の う ち 86.4% が 事

前 の 説 明 に 不 満 と 回 答 し 、 司 法 解 剖 後 に

悲 し み や 怒 り を 覚 え た と 回 答 し た 遺 族 の

う ち 75.5% は 結 果 を 伝 え ら れ て い な い

こ と を 報 告 し た 。 こ の 結 果 か ら 、 司 法 解

剖 前 後 の 説 明 が 不 適 切・不 十 分 で あ る と 、

遺 族 の 悲 嘆 や 怒 り を 増 長 す る こ と が 示 唆

さ れ 、 司 法 解 剖 前 後 に は 遺 族 が 理 解 で き

る よ う な 説 明 が 重 要 で あ る と 考 え ら れ た 。

こ れ ら の こ と か ら 、 本 研 究 で は 、 犯 罪

に よ っ て 亡 く な り 検 視( 検 死 )・司 法 解 剖

に 付 さ れ た 人 の 遺 族 に 対 す る 関 係 者 に よ

る 対 応 の 現 状 と 、 そ れ に よ る 遺 族 へ の 心

理 的 影 響 を 明 ら か に し 、 最 終 的 に は 関 係

者 の 利 用 で き る 遺 族 対 応 の ガ イ ド ラ イ ン

/マ ニ ュ ア ル を 開 発 す る こ と を 目 的 と し

て い る 。

平 成 24 年 度 に は 検 視・司 法 解 剖 に お け

る 関 係 者 ( 警 察 官 、 検 視 官 、 法 医 学 者 )

の 対 応 の 現 状 や 問 題 点 に つ い て 聞 き 取 り

を 行 っ た 。平 成 25 年 度 は 、そ の 結 果 を 踏

ま え て 、 上 記 関 係 者 の 対 応 、 現 在 の メ ン

タ ル ヘ ル ス の 状 態 を 調 べ る こ と で 、 司 法

解 剖 時 の 遺 族 の 苦 痛 お よ び そ の 後 の 遺 族

の 精 神 健 康 と の 関 係 を 明 ら か に す る た め

に 、 遺 族 へ の 自 記 式 質 問 紙 に よ る 調 査 を

実 施 し た 。

B . 研 究 方 法

(1) 対 象

2007 年 7 月 から 2011 年 12 月 の 間 に 研

究 協 力 機 関 で あ る 東 京 大 学 法 医 学 教 室 で

司 法 解 剖 に 付 さ れ た 人 の 遺 族 ( 201 人 )

を 対 象 と し た 。適 格 基 準 は 以 下 で あ る 。:

① 死 別 か ら 1 年 以 上 経 過 し て い る こ と 、

② 20 歳 以 上 、③ 文 章 に よ る イ ン フ ォ ー ム

ド コ ン セ ン ト が 得 ら れ る こ と 。 な お 、 除

外 基 準 は 現 在 精 神 科 に 通 院 中 で 主 治 医 か

ら 研 究 参 加 の 許 可 が 得 ら れ な い こ と 、 現

在 妊 娠 中 で あ る こ と と し た 。

(2) 方 法

① 調 査 方 法

自 記 式 の 調 査 票 に よ る 横 断 調 査 で あ る 。

② 対 象 者 の リ ク ル ー ト

2007 年 7 月 から 2011 年 12 月 の 間 に 東

京 大 学 法 医 学 教 室 で 司 法 解 剖 を 受 け た 人

の 遺 族 201 人 に 対 し て 、2013 年 1 月 に 研

究 の 目 的 と 内 容 に 関 す る 説 明 文 書 を 郵 送

し 、 調 査 票 の 送 付 の 可 否 に つ い て 質 問 し

た 。こ れ に 対 し て 送 付 し た 遺 族 39 名 と そ

の 家 族 6 名 か ら 調 査 票 送 付 の 承 諾 が 得 ら

れ た 。2013 年 4 月 -5 月 、調 査 票 送 付 の 承

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諾 が 得 ら れ た 45 名 に 対 し て、郵 送 で 調 査

票 を 配 布 し 、27 名 か ら 回 答 を 得 た( 回 収

率 60%)。

② 調 査 項 目

調 査 項 目 は 以 下 で あ る 。

1) 対 象 者 の 属 性:年 齢 、性 別 、婚 姻 関 係

お よ び 同 居 家 族 、 就 労 状 況 、 教 育 歴

2) 死 別 状 況:故 人 の 性 別 、死 亡 時 の 年 齢、

死 因 、 故 人 と の 関 係 、 死 別 時 期

3) 検 視 、司 法 解 剖 に つ い て の 警 察 官、法

医 学 教 室 の ス タ ッ フ の 対 応 と そ れ に

対 す る 遺 族 の 受 け 止 め 方:司 法 解 剖 前

後 の 警 察 官 の 対 応 、司 法 解 剖 後 の 法 医

学 者 の 対 応 に つ い て 、「 ア .説 明 は 分 か

り や す か っ た」「 イ .説 明 に か け ら れ た

時 間 は 十 分 だ っ た」「 ウ .あ な た か ら の

質 問 に 対 す る 返 答 の 内 容 は 十 分 だ っ

た」「 エ .あ な た の 希 望 や 意 見 を 尊 重 し

て く れ た 」「 オ .あ な た の 気 持 ち を 理 解

し て く れ た」「 カ .対 応 に 気 遣 い や 思 い

や り を 感 じ た」「 キ .対 応 に 苦 痛 や 不 快

を 感 じ た 」の 7 項 目 に つ い て、そ れ ぞ

れ「 非 常 に あ て は ま る 」~「 全 く あ て

は ま ら な い 」の 5 件 法 で 評 価 を 求 め た。

こ の 項 目 の ア ~ ウ は 、説 明 の 様 子 に つ

い て 、エ ~ カ は 遺 族 の 気 持 ち へ の 配 慮

に つ い て 、キ は 苦 痛 の 度 合 い に つ い て

質 問 し た 。

4) 司 法 解 剖 当 時 及 び 現 在 の 解 剖 実 施 に

対 す る 納 得 の 度 合 い:司 法 解 剖 に 対 す

る 気 持 ち に つ い て は 、司 法 解 剖 前( 想

起 ) と 現 在 の 2 時 点 で、「 故 人 の 身 体

に 傷 を つ け ら れ る( つ け ら れ た)の が

嫌 だ 」「 司 法 解 剖 の 間 、 故 人 か ら 離 れ

た く な い( な か っ た )」「 死 因 が 分 か っ

て も 故 人 は 生 き 返 ら な い 」「 司 法 解 剖

を し な い と 故 人 の 身 体 を 返 し て も ら

え な い た め 、 司 法 解 剖 を 受 け 入 れ た 」

「 犯 人 の 逮 捕 や 処 罰 の た め に 必 要 な

の で 、司 法 解 剖 を 受 け 入 れ た」の 6 つ

を 挙 げ 、当 て は ま る も の を 複 数 回 答 で

選 択 し て も ら っ た

5) 司 法 解 剖 時 に あ る と 良 い と 思 う 支

援 :「 司 法 解 剖 を 実 施 す る 法 医 学 教 室

の 最 寄 駅 か ら 遺 族 待 合 室 ま で の 案 内 」

「 遺 族 に よ く 起 こ る 心 理 的 な 反 応 に

つ い て の 説 明 」「 司 法 解 剖 の 終 了 を 待

つ 間 の 付 き 添 い 」「 今 後 必 要 と な る 刑

事 手 続 き( 事 情 聴 取・裁 判 な ど )に 関

す る 説 明 」「 今 後 必 要 と な る 公 的 手 続

き( 死 亡 届 の 提 出 な ど )に 関 す る 説 明」

「 解 剖 執 刀 医 へ の 連 絡 の 仲 介 」「 司 法

解 剖 終 了 後 の 相 談 や 心 の ケ ア 」の 中 で、

複 数 回 答 で 選 択 し て も ら っ た 。

6) 司 法 解 剖 の 際 に 望 ま れ る 支 援 内 容 に

つ い て は、警 察 官 、警 察 の 心 理 専 門 職

員、警 察 以 外 の 心 理 専 門 家、被 害 者 支

援 団 体 の 支 援 員 、法 医 学 教 室 の ス タ ッ

フ 、そ の 他 、特 に 支 援 は い ら な い 、の

各 選 択 肢 の 中 で 、ど の 職 種 の 人 に 提 供

し て ほ し い と 思 う か 、あ る は 支 援 が 必

要 な い か を 質 問 し た 。

7) 司 法 解 剖 な ど で 遺 族 に 対 応 す る 警 察

官、法 医 学 者 、法 医 学 教 室 ス タ ッ フ に

持 っ て い て ほ し い 知 識 に つ い て は 、

「 遺 族 の 心 情 に つ い て 」「 心 理 的 な ダ

メ ー ジ を 受 け た 人 へ の 接 し 方 」「 検 視

( 検 死 ) に 関 す る 最 新 の 知 識 や 技 術 」

「 司 法 解 剖 に 関 す る 最 新 の 知 識 や 技

術 」の 中 か ら 複 数 回 答 で 選 択 し て も ら

っ た 。

8) 現 在 の 精 神 健 康

精 神 健 康 に つ い て は 、 一 般 的 精 神 健 康

( K6)、ト ラ ウ マ 反 応( IES-R)、悲 嘆 反 応

( BGQ) を 評 価 し た 。

K6 は 、2002 年 に Kessler ら 9 )が 考 案 し 、

項 目 反 応 理 論 に 基 づ い て 選 択 さ れ た 6 項

目 か ら 成 る 一 般 人 口 中 の 精 神 疾 患 の 簡 便

な ス ク リ ー ニ ン グ の た め の 尺 度 で あ る 。

各 項 目 は 1~ 5 点 で 評 価 し、合 計 点 が 抑 う

つ 性 障 害 及 び 不 安 障 害 を ス ク リ ー ニ ン グ

の 対 象 疾 患 と し て い る 。 日 本 語 版 は 、 古

川 ら 6 )に よ っ て 信 頼 性 、 妥 当 性 が 確 認 さ

れ て い る 。 カ ッ ト オ フ 値 は 5 点 以 上 で あ

り 、13 点 以 上 は 重 症 精 神 障 害 に 相 当 す る

と さ れ て い る 。

IES-R( impact of event scale revised:

出 来 事 イ ン パ ク ト 尺 度 ) は 、 Weiss ら 1 9 )

に よ っ て 開 発 さ れ た 自 記 式 の PTSD 症 状

評 価 尺 度 で あ る 。22 項 目 で 各 項 目 の 症 状

出 現 頻 度 を 0~ 4 点 で 評 価 し、合 計 点 に よ

っ て 重 症 度 を み る 。 日 本 語 版 は 飛 鳥 井 ら2 )に よ っ て 標 準 化 さ れ て い る 。 カ ッ ト オ

フ 値 は 24/25 が 推 奨 さ れ て い る 。

BGQ( Brief Grief Questionnaire)は 、

Shear ら 1 6 )が 複 雑 性 悲 嘆 の ス ク リ ー ニ ン

グ と し て 開 発 し た 5 項 目 の 尺 度 で あ り 、

各 項 目 を 0~ 2 点 で 評 価 す る も の で あ る 。

日 本 語 版 は Ito ら 7 )に よ っ て 信 頼 性 、 妥

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当 性 が 確 認 さ れ て い る 。 5 点 以 上 は 複 雑

性 悲 嘆 の 疑 い が あ る と さ れ て い る 。

③ 解 析

こ れ ら の 各 質 問 項 目 に つ い て 記 述 的 分

析 を 行 い 、 更 に 、 関 係 者 の 対 応 に 対 す る

遺 族 の 評 価 の 数 値 の 合 計 と 、 精 神 健 康 尺

度 の 合 計 得 点 に つ い て 相 関 関 係 を 求 め た 。

解 析 に は 、SPSS Statistics 21 を 用 い た 。

(3) 倫 理 的 配 慮

本 研 究 は 、 疫 学 研 究 の 倫 理 指 針 に 基 づ

き 研 究 計 画 を 作 成 し 、 国 立 精 神 ・ 神 経 医

療 研 究 セ ン タ ー お よ び 東 京 大 学 大 学 院 医

学 系 研 究 科 の 倫 理 委 員 会 で 承 認 を 得 て 実

施 し た 。 本 研 究 に お け る 利 益 相 反 は 存 在

し な い 。

C . 結 果

( 1) 回 答 者 の 属 性 ( 表 1)

回 答 者 の 性 別 は 男 性 15 人 ( 55.6%) で

あ り 、 男 女 は ほ ぼ 同 数 で あ っ た 。 年 齢 は

36 歳 -78 歳( 平 均 年 齢 57.7 歳 ,SD=12.3)

と 幅 広 い 年 齢 に 分 布 し て い た 。 現 在 の 婚

姻 状 態 は 、 既 婚 が 17 人 ( 65.4%) と 最 も

多 か っ た 。 教 育 歴 は 、 高 等 学 校 ・ 旧 制 中

学 卒 業 以 上 が 96.2%と ほ と ん ど で あ っ た 。

現 在 の 就 労 状 態 は 、 パ ー ト ・ ア ル バ イ ト

を 含 め 就 労 状 態 に あ る 人 が 50%で あ っ た 。

( 2) 死 別 状 況 ・ 故 人 の 属 性 ( 表 2)

死 別 状 況 で は 、 子 ど も を 失 っ た 人 が 最

も 多 く ( 30%)、 次 い で 配 偶 者 と 親 を 失 っ

た 人 が 多 か っ た ( 22%)。 死 因 は 、 殺 人 ・

傷 害 が 9 名( 33%)、交 通 事 故 が 5 名( 19%)

な ど の 暴 力 死 に よ る 死 亡 が 多 か っ た が 、

一 方 約 20%は 死 因 が 不 詳 で あ っ た 。 死 別

か ら の 経 過 期 間 は、最 も 短 い 人 で 19 ヶ 月、

長 い 人 で 90 ヶ 月 で あ っ た 。 平 均 は 39.2

ヶ 月 、 SD=18.3) で あ り 、 59%は 死 別 か ら

2 年 -4 年 の 経 過 で あ っ た 。

( 3) 身 元 確 認 状 況 と 遺 族 の 反 応 ( 表 3)

故 人 の 身 元 確 認 に 立 ち 会 っ た 人 は 17

人( 62.2%)で あ り 、そ の う ち 警 察 官 か ら

事 前 の 説 明 を 聞 く こ と が で き た 人 は 12

人( 70.6%)で あ っ た 。身 元 確 認 の 際 に 同

伴 者 が い た 人 の 割 合 が 高 く ( 76.4%)、 ほ

と ん ど が 家 族 ・ 親 戚 で あ っ た 。 遺 体 の 損

傷 が あ っ た の は 、 12 人 ( 70.6%) で あ っ

た 。 身 元 確 認 前 に 警 察 官 か ら 方 法 の 希 望

を 聞 か れ た 人 は 4 人( 25.0%)で あ り 、身

元 確 認 に と ら れ た 方 法 は 、 持 ち 物 や 衣 服

で の 確 認 、 身 体 の 一 部 を 見 て 確 認 が そ れ

ぞ れ 2 人 ( 11.8%)、 全 身 を 見 て 確 認 が 7

人 ( 25.9%)、 持 ち 物 や 衣 服 と 身 体 の 一 部

を 見 て 確 認 が 3 人 ( 17.6%)、 持 ち 物 や 衣

服 と 身 体 の 一 部 と DNA 鑑 定が 1 人( 5.9%)

で あ っ た 。 こ の よ う な 身 元 確 認 の 方 法 が

心 理 的 負 担 の 軽 減 に 寄 与 し た か に つ い て

は 、 あ る 程 度 和 ら げ た と 感 じ た 人 が 2 人

( 13.3%)に と ど ま っ て お り 、負 担 が 軽 減

さ れ な か っ た と 感 じ た 人 が 、 約 65%で あ

っ た 。 身 元 確 認 に よ る 精 神 的 な シ ョ ッ ク

を 受 け た と 回 答 し た 人 93.8%で あ り 、 身

元 確 認 は ほ と ん ど の 遺 族 に お い て シ ョ ッ

ク の 強 い 体 験 で あ る こ と が 明 ら か に さ れ

た 。

( 4) 司 法 解 剖 状 況 と 遺 族 の 反 応 ( 表 4)

74.1%の 人 が 司 法 解 剖 前 に 警 察 官 か ら

説 明 を 受 け て い た が 、 司 法 解 剖 結 果 に つ

い て の 説 明 は 、 警 察 官 か ら 受 け た 人 が 9

人( 33.3%)で あ り 、法 医 学 者 か ら 司 法 解

剖 結 果 に つ い て 説 明 を 受 け た と 回 答 し た

人 は 5 人 ( 18.5%) で あ っ た 。

司 法 解 剖 の 結 果 を 説 明 し て ほ し い と 思

う 人 の 職 業 は 、 複 数 回 答 で 、 解 剖 執 刀 医

が 21 人 ( 77.8%) と 最 も 多 か っ た 。

遺 族 待 合 室 が 設 置 さ れ て い る と い う 情

報 は 、 約 半 数 は 知 ら な か っ た ( 48.1%)。

知 っ て い た 人 で は 、 警 察 官 か ら の 事 前 の

説 明 で 知 っ た あ る い は 、 東 京 大 学 に 着 い

て か ら ( 法 医 学 教 室 関 係 者 か ら ) 知 ら さ

れ た と 回 答 し た 人 が 多 か っ た 。 遺 族 待 合

室 は 、 存 在 を 知 っ て い た 全 員 が 利 用 し て

い た が、「 静 か だ っ た 」、「 あ っ て よ か っ た 」

と い う 回 答 の 一 方、「 あ ま り 気 持 ち の 良 い

場 所 と 感 じ な か っ た 」 と い う 回 答 も 多 か

っ た( 45.5%)。自 由 記 載 で 見 る と、「 暗 い」。

「 普 段 使 わ れ て い な い 様 子 」 な ど の 理 由

が あ げ ら れ て い た 。

遺 体 の 修 復 に つ い て は 、 き れ い な 状 態

に し て く れ た と 回 答 し た 人 が 最 も 多 か っ

た ( 14.8%) が 、「 き れ い な 状 態 に は し て

く れ な か っ た 」、「 身 体 に 傷 を つ け ら れ た 」

と い う 回 答 も 11.1%あ っ た 。

( 5)警 察 官 及 び 法 医 学 者 の 対 応 に つ い て

① 司 法 解 剖 前 の 警 察 官 の 対 応 に つ い て

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( 図 1-1)

司 法 解 剖 前 に 警 察 官 か ら の 説 明 を 受 け

た と 回 答 し た 21 人 に 対 し て、警 察 官 の 対

応 に つ い て 質 問 し た 。 説 明 の 仕 方 ( わ か

り や す さ 、 時 間 の 十 分 さ 、 質 問 へ の 応 答

の 十 分 さ ) は い ず れ も 「 当 て は ま る 」 と

い う 回 答 は 20%未 満 で あ っ た が 、 一 方 。

「 希 望 や 意 見 の 尊 重 」、「 気 持 ち の 理 解」、

「 気 遣 い や 思 い や り 」 に つ い て は 40―

60%の 人 が「 当 て は ま る 」と 回 答 し て お り 、

説 明 の 仕 方 は や や 不 十 分 で あ る も の の 、

遺 族 へ の 配 慮 に 対 し て は 感 じ ら れ た と す

る 対 象 者 が 多 か っ た 。

② 司 法 解 剖 後 の 警 察 官 の 対 応 に つ い て

( 図 1-2)

司 法 解 剖 結 果 を 警 察 官 か ら 聞 い た 人 は

11 人 ( 40.7%) で あ っ た 。 司 法 解 剖 後 の

警 察 官 の 説 明 に つ い て は、「 分 か り や す か

っ た」( 18.2%)、「 返 答 の 内 容 は 十 分 で あ

っ た」( 9.1%)で あ り 、時 間 が 十 分 だ っ た

が あ て は ま っ た と い う 人 は い な か っ た 。

司 法 解 剖 前 に 比 べ て 解 剖 後 の 警 察 官 の 説

明 の 仕 方 や 時 間 、 応 答 が 十 分 な も の で あ

っ た と い う 回 答 が 少 な く な っ て い た 。 ま

た 、遺 族 へ の 配 慮 に つ い て も、「 希 望 や 意

見 を 尊 重 し て く れ た 」と 感 じ た 人 は 5.1%

と 司 法 解 剖 前 よ り 少 な く な っ て い た。「 気

持 ち の 理 解 」( 45.5%) や 「 対 応 に 気 遣 い

や 思 い や り を 感 じ た 」( 36.4%) は 司 法 解

剖 前 の 対 応 の 評 価 と あ ま り 変 わ ら な か っ

た 。 ま た 、「 対 応 に 苦 痛 や 不 快 を 感 じ た 」

に つ い て は 「 あ て は ま る 」 と い う 回 答 は

2 人( 18.2%)で あ り 、態 度 へ の 不 快 感 は

少 な い も の の 、 説 明 の 不 足 を 感 じ て い る

こ と が 分 か っ た 。

③ 法 解 剖 後 の 法 医 学 者 の 対 応 に つ い て

( 図 1-3)

司 法 解 剖 後 に 法 医 学 者 か ら 結 果 に つ い

て 説 明 を 受 け た の は 6 人( 22.2%)で あ っ

た。「 説 明 は 分 か り や す か っ た」( 66.7%)、

「 説 明 に か け ら れ た 時 間 は 十 分 だ っ た」、

「 質 問 に 対 す る 返 答 の 内 容 は 十 分 で あ っ

た」( 33.3%) で あ り 、 警 察 官 に 比 べ い 、

説 明 を 十 分 だ と 感 じ た 割 合 が 高 か っ た 。

ま た 、 遺 族 へ の 対 応 に つ い て も あ て は ま

る と 回 答 し た 割 合 が 、「 希 望 や 意 見 を 尊 重

し て く れ た 」( 33.3%)、「 気 持 ち を 理 解 し

て く れ た 」( 33.3%)、「 対 応 に 気 遣 い や 思

い や り を 感 じ た」( 33.3%)で あ り 、「 対 応

に 苦 痛 や 不 快 を 感 じ た 」 と 回 答 し た 人 は

い な か っ た 。 法 医 学 者 の 説 明 を 聞 い た 割

合 は 少 な い が 、 説 明 や 対 応 に 満 足 し た と

い う 回 答 が 多 く 見 ら れ た 。

( 6) 遺 族 の 司 法 解 剖 へ の 納 得 ( 図 2)

司 法 解 剖 前 と 現 在 で の 司 法 解 剖 実 施 へ

の 納 得 の 度 合 い に つ い て 質 問 し た 。 非 常

に 納 得 し て い る と 回 答 し た 人 は 、 司 法 解

剖 前 が 3 名 で あ っ た が 、 現 在 で は 4 名 と

や や 増 え て い た が 、 あ る 程 度 納 得 し て い

る と 答 え た 人 は、司 法 解 剖 前 が 19 名 か ら

現 在 が 17 名 と 減 っ て お り、納 得 の 度 合 い

が 増 し た と 言 え る 。 司 法 解 剖 前 に 、 全 く

納 得 し て い な い と い う 回 答 は 1 名 あ っ た

が 、 現 在 で は 0 名 と な っ て い た 。

( 7) 司 法 解 剖 に 対 す る 気 持 ち の 変 化

( 図 3)

遺 族 に と っ て 司 法 解 剖 を 受 け る こ と は

故 人 の 身 体 に 傷 を つ け ら れ る と い う 認 識

を 持 つ こ と が 事 前 の イ ン タ ビ ュ ー か ら 得

ら れ て お り 、 実 際 司 法 解 剖 を 受 け る こ と

に よ っ て そ の 気 持 ち に 変 化 が あ る か を 質

問 し た 。「 身 体 に 傷 を つ け ら れ る の が 嫌

だ」、「 故 人 か ら 離 れ た く な い 」 と い う 質

問 に つ い て は い ず れ も 司 法 解 剖 前 と 比 べ

現 在 が 減 っ て い た。「 死 因 を 解 明 し て ほ し

い」、「 司 法 解 剖 を し な い と 故 人 の 身 体 を

返 し て も ら え な い 」 な ど 死 因 解 明 等 の た

め に 司 法 解 剖 を 受 け 入 れ た と い う 回 答 は

む し ろ 現 在 に お い て 減 っ て お り、「 死 因 が

分 か っ て も 故 人 は 生 き 返 ら な い 」 と い う

認 識 は 増 加 し て い た 。

( 8)司 法 解 剖 時 に あ る と よ い 思 う 支 援 の

内 容 ( 図 4)

「 司 法 解 剖 中 の 付 き 添 い」( 22.2%) の

項 目 を 除 く と 、 す べ て の 支 援 項 目 に お い

て 過 半 数 の 回 答 者 が 必 要 で あ る と 回 答 し

て い た 。 通 常 の 死 で は な い た め か 「 公 的

手 続 き の 説 明」( 66.7%) を 求 め る 回 答 者

が 多 か っ た 。 ま た 、 今 回 の 回 答 者 は 、 犯

罪 や 事 故 の 遺 族 が 多 か っ た こ と も あ り

「 刑 事 手 続 き の 説 明 」( 63.0%) な ど 司 法

手 続 き の 説 明 を 求 め る 人 も 多 か っ た。「 心

理 反 応 に つ い て の 説 明」( 63.0%)や、「 相

談 や 心 の ケ ア」( 63.0%) な ど そ の 後 の 遺

族 の 心 理 的 ケ ア へ の ニ ー ズ も 高 い こ と が

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明 ら か に な っ た 。

( 9) 支 援 を 提 供 し て ほ し い 人 の 職 種

( 図 5)

前 述 し た 支 援 を ど の よ う な 職 種 が 提 供

す る の が 適 切 か と い う 質 問 に 対 し て は 、

支 援 内 容 に よ っ て 希 望 す る 職 種 が 異 な る

こ と が 明 ら か に な っ た 。具 体 的 に は 、「 法

医 学 教 室 の 最 寄 駅 か ら 遺 族 待 合 室 ま で の

案 内 」( 29.6%) や 「 刑 事 手 続 き に つ い て

の 説 明 」( 37.0%) は 警 察 官 の 支 援 を 望 む

人 が 最 も 多 か っ た 。

「 心 理 的 な 反 応 に つ い て の 説 明 」

( 44.4%)や「 司 法 解 剖 終 了 後 の 相 談 や 心

の ケ ア 」( 51.8%)で は 心 理 専 門 職 に 、「 今

後 必 要 と な る 公 的 手 続 き ( 死 亡 届 の 提 出

な ど ) に 関 す る 説 明 」 は 、 被 害 者 支 援 団

体 の 支 援 員( 33.3%)に 望 む 人 が 最 も 多 か

っ た 。「 解 剖 執 刀 医 へ の 連 絡 の 仲 介 」に つ

い て は 、 法 医 学 教 室 の ス タ ッ フ に 望 む 人

の 割 合 が 最 も 多 か っ た ( 55.6%)。

( 10) ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト ( 表 6)

司 法 解 剖 の 対 象 と な っ た 死 別 に つ い て

誰 か に 相 談 し た こ と が あ る と 回 答 し た の

は 17 人 ( 63.0%) で あ り 、 相 談 相 手 は 、

家 族 が 11 人 ( 64.7%) と 最 も 多 く 、 次 い

で 、 友 人 ・ 知 人 ( 47.1%) で あ っ た 。

ま た 、身 元 確 認 、検 視( 検 死 )、司 法 解

剖 に つ い て 誰 か に 相 談 し た こ と が あ る と

回 答 し た の は 9 人( 33.3%)で あ り、相 談

相 手 は 家 族 が ( 66.7%) と 最 も 多 か っ た 。

死 別 に つ い て も 司 法 解 剖 等 に つ い て も 被

害 者 支 援 団 体 等 へ の 相 談 は 20%未 満 で あ

っ た 。

( 12) 心 身 の 健 康 状 態 ( 表 7)

死 別 後 の 心 身 の 不 調 が あ っ た と 回 答 し

た の は 14 人 ( 51.6%) で あ り 、 現 在 も 不

調 が あ る と 回 答 し た の は 6 人( 22.2%)で

あ っ た 。 司 法 解 剖 以 前 の 精 神 科 の 相 談 歴

が あ る 人 は 1 名 の み で あ っ た 。

過 去 ま た は 現 在 に 不 調 が あ っ た と 回 答

し た 14 人 の う ち 、医 療 機 関 の 受 診 や 心 理

相 談 機 関 で の 相 談 を し た こ と が あ る と 回

答 し た の は 5 人 ( 35.1%) で あ っ た 。

受 診 や 相 談 先 で は 、 精 神 科 、 心 療 内 科

を 含 む 医 療 機 関 が 最 も 多 か っ た 。 心 身 の

不 調 が あ っ た 人 の 約 90%は 、 死 別 体 験 の

影 響 で あ る と 感 じ て い た 。

( 13) 現 在 の 精 神 健 康 ( 図 8-10)

全 般 的 精 神 健 康 に つ い て は 、K6 で 評 価

し た。K6 の 平 均 値 は 12.3( SD=5.0)で あ

り 、 52.2%が 重 症 精 神 障 害 相 当 ( 13 点 以

上 ) に 該 当 し た 。 悲 嘆 反 応 に つ い て BGQ

を 用 い て 評 価 を 行 っ た 。 BGQ の 平 均 値 は

5.7( SD=13.2)、 46.0%が 複 雑 性 悲 嘆 の 疑

い ( 5 点 以 上 ) に 該 当 し た 。 ト ラ ウ マ 反

応 に つ い て は IES-R を 用 い て 測 定 し 、 平

均 値 が 27.1( SD=13.2) で あ り 、 40.9%

が PTSD 疑 い ( 25 点 以 上 ) で あ っ た 。 各

尺 度 の 間 に は 有 意 な 相 関 (Person’ s r)

が み ら れ た :( K6 と IES-R( r=.54, p=.01),

K6 と BGQ(r=.44, p=.05) , BGQ と

IES-R(r=.73, p=.01))。

精 神 健 康 と 個 人 の 属 性 ・ 死 別 状 況 の と

の 関 連 で は 、 子 を 亡 く し た 人 が 、 義 父 、

お じ 、 お ば を 亡 く し た 人 よ り も BGQ 得 点

が 有 意 に 高 か っ た 。 性 別 、 死 因 、 死 別 後

経 過 年 数 に よ る 差 は み ら れ な か っ た 。

司 法 解 剖 当 時 の 警 察 官 の 対 応 の 印 象 と

現 在 の 精 神 健 康 に お い て い く つ か の 項 目

で 有 意 な 相 関 が み ら れ た 。 司 法 解 剖 前 の

警 察 官 の 対 応 で 説 明 時 間 を 十 分 と 感 じ た

度 合 い と IES-R 得 点 ( r=-.531, p=.05)、

遺 族 の 希 望 や 意 見 を 尊 重 し て く れ た と 感

じ た 度 合 い と IES-R 得 点 ( r=-.440,

p=.05)、 司 法 解 剖 後 の 警 察 官 の 対 応 に 思

い や り を 感 じ た 度 合 い と 司 法 解 剖 実 施 へ

の 納 得 の 度 合 い( 当 時:r=.665, p=.05 現

在: r=.738, p=.05)に 有 意 な 相 関 が み ら

れ た 。 法 医 学 者 の 対 応 で は 、 結 果 の 説 明

の 分 か り や す さ と K6 得 点 ( r=- .910,

p=.05)、 結 果 の 説 明 の 分 か り や す さ と 司

法 解 剖 実 施 へ の 納 得 の 度 合 い ( r=.943,

p=.05, p=.05)、説 明 時 間 を 十 分 と 感 じ た

度 合 い と K6 得 点( r=-.917)、法 医 学 者 の

説 明 を 十 分 と 感 じ た 度 合 い と BGQ 得 点

( r=-.975, p=.05)、希 望 や 意 見 を 尊 重 し

て く れ た と 感 じ た 度 合 い と BGQ 得 点

( r=-.961, p=.05) に お い て 有 意 な 相 関

が あ っ た 。

D . 考 察

( 1) 対 象 者 に つ い て

本 研 究 で は 、 家 族 の 司 法 解 剖 を 経 験 し

た 遺 族 を 対 象 と し た が 、 母 集 団 に 対 す る

応 答 率 は 13.4%と こ れ ま で 国 内 で 犯 罪 被

害 者 遺 族 に 対 し て 行 わ れ た 他 の 研 究

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( 20% 1 2 )、31% 8 ))と 比 較 す る と 低 か っ た 。

一 つ の 理 由 と し て 、 司 法 解 剖 対 象 者 の 死

因 は 必 ず し も 犯 罪 性 の あ る も の だ け で は

な く 、 ま た 、 故 人 と の 関 係 性 が 低 い 家 族

も 少 な か ら ず い る こ と が あ げ ら れ る 。 ま

た 、 既 存 の 犯 罪 被 害 者 遺 族 研 究 は 、 当 事

者 団 体 に 所 属 し て い る 遺 族 が 対 象 で あ る

た め 、 研 究 参 加 に 対 す る モ チ ベ ー シ ョ ン

が 高 い 可 能 性 が あ る が 、 今 回 の 対 象 者 で

は 、 支 援 を 求 め る な ど 社 会 活 動 を 行 っ て

い る わ け で は な い た め 、 研 究 参 加 へ 動 機

付 け が 低 く な っ て い た と 考 え ら れ る 。

( 2) 警 察 官 に よ る 身 元 確 認 前 、 検 視 時 、

身 元 確 認 前 後 の 説 明 の 現 状

身 元 確 認 前 、 検 視 時 、 司 法 解 剖 前 の 説

明 は 、 7 割 以 上 の 人 が 受 け た と 回 答 し て

い た が 、 司 法 解 剖 後 の 説 明 に つ い て は 、

警 察 官 か ら 受 け た と 回 答 し た 人 が 11 人

( 40.7%)、 法 医 学 者 か ら 受 け た と 回 答 し

た 人 が 6 人( 22.2%)と 、段 階 が 進 む に つ

れ て 説 明 を 受 け る 機 会 が 減 少 し て い る こ

と が 明 ら か に さ れ た 。 司 法 解 剖 に 対 す る

気 持 ち に 関 す る 質 問 で は 、18 人( 66.7%)

が 死 因 を 解 明 す る た め に 司 法 解 剖 を 受 け

入 れ た ( 司 法 解 剖 前 ) と 回 答 し て い る こ

と か ら 、 司 法 解 剖 後 の 結 果 説 明 は 非 常 に

重 要 で あ る と 考 え ら れ る 。 さ ら に 、 結 果

を 説 明 し て ほ し い 人 の 職 種 に つ い て は 、

法 医 学 者 ( 解 剖 執 刀 医 ) を 希 望 し て い る

意 図 が 78%で あ っ た こ と か ら 、 遺 族 の 希

望 と 実 際 に 行 わ れ て い る 対 応 の 間 に は ず

れ が あ る こ と が 示 さ れ た 。

( 3)警 察 官 及 び 法 医 学 者 に よ る 対 応 に つ

い て の 遺 族 の 受 け 止 め 方

警 察 官 の 共 感 的 な 態 度 は あ る 程 度 感 じ

ら れ て い る も の の 、 説 明 に か け ら れ る 時

間 や 内 容 に つ い て は 共 感 的 な 態 度 に 比 べ

る と 不 足 が 感 じ ら れ て い る こ と 、 司 法 解

剖 後 の 対 応 に つ い て は 、 司 法 解 剖 前 に 比

べ る と 遺 族 の 評 価 が 下 が る こ と が 明 ら か

に な っ た 。

法 医 学 者 の 対 応 へ の 遺 族 の 評 価 は 、 司

法 解 剖 前 及 び 後 の 警 察 官 の 説 明 に 対 す る

評 価 の 平 均 よ り も 高 く 、 最 も 高 く 評 価 さ

れ て い た 。 説 明 に 関 す る 評 価 が 警 察 官 に

対 す る も の よ り も 高 か っ た 。

こ れ ま で に 実 施 し た 法 医 学 者 の イ ン タ

ビ ュ ー 調 査 か ら は 、 法 医 学 者 は 、 す べ て

の 遺 族 に 説 明 を 行 っ て い る わ け で は な く 、

事 件 性 が な い か 、 事 件 性 が あ っ た と し て

も 遺 族 に そ の 犯 行 の 疑 い が か け ら れ て い

な い 場 合 で あ り 、 そ の た め 、 回 答 し た 遺

族 に 偏 り が あ っ た 。

ま た 、 警 察 官 へ の イ ン タ ビ ュ ー 調 査 で

は 、 遺 族 対 応 や 説 明 の 仕 方 に つ い て 、 系

統 立 て た 教 育 や ロ ー ル プ レ イ な ど の 実 践

的 な 研 修 を 受 け た こ と が な い こ と が 述 べ

ら れ て お り 、 警 察 官 が 十 分 に 遺 族 対 応 や

説 明 を 学 ん で い な い こ と が 反 映 さ れ た と

考 え ら れ る 。

( 4) 遺 族 の 現 在 の 精 神 健 康

本 研 究 で 回 答 が 得 ら れ た 遺 族 の う ち 約

半 数 は 、 現 在 で も 精 神 健 康 を 測 る 各 尺 度

の 得 点 が カ ッ ト オ フ 値 を 超 え て お り 、 精

神 健 康 が 良 く な い 状 態 に あ る こ と が 明 ら

か に な っ た。さ ら に 、全 般 的 精 神 健 康( K6)、

ト ラ ウ マ 反 応 ( IES-R)、 悲 嘆 反 応 ( BGQ)

の 重 症 度 の 間 に は 有 意 な 相 関 が み ら れ た 。

こ の こ と か ら 、 こ れ ら の 症 状 は 、 相 互 に

影 響 し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ た 。

現 在 の 精 神 健 康 状 態 と 、 故 人 と の 続 柄

で は 、 子 を 亡 く し た 人 の 悲 嘆 反 応 が 有 意

に 高 く 、こ れ ま で に 報 告 さ れ た 結 果 1 3 , 1 6 )

と 一 致 し て い た 。

( 5)遺 族 の 警 察 官 及 び 法 医 学 者 に よ る 対

応 の 受 け 止 め 方 と 精 神 健 康 の 関 係

警 察 官 の 司 法 解 剖 前 の 配 慮 あ る 対 応 は

ト ラ ウ マ 症 状 の 低 さ と 関 連 し て お り 、 法

医 学 者 の 丁 寧 な 説 明 は 全 般 的 精 神 健 康 と

悲 嘆 症 状 の 低 さ に 関 連 し て い た 。 ま た 、

警 察 官 や 法 医 学 者 の 配 慮 あ る 対 応 や 十 分

な 説 明 は 司 法 解 剖 に 対 す る 納 得 の 度 合 い

と 関 連 し て い た 。

こ れ ら に つ い て 因 果 関 係 は 証 明 で き な

い が 、 警 察 官 お よ び 警 察 官 の 配 慮 あ る 対

応 や 十 分 に 納 得 の で き る 説 明 は 急 性 期 に

お け る 遺 族 の 混 乱 を 軽 減 し 、 そ の 後 の 精

神 健 康 に も 何 ら か の 影 響 を 与 え る 可 能 性

も 示 唆 さ れ た 。

( 6) 今 後 求 め ら れ る 支 援

司 法 解 剖 時 に あ る と 良 い と 思 う 支 援 に

つ い て は 、 す べ て の 項 目 に お い て 過 半 数

の 遺 族 が 必 要 と 回 答 し て い た こ と か ら 、

支 援 へ の ニ ー ズ は 高 い と 考 え ら れ た 。 ま

た 、 支 援 の 内 容 に よ っ て 、 提 供 し て ほ し

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い 職 種 が 異 な っ て い た こ と か ら 、 遺 族 へ

の 支 援 は 、 一 人 の 支 援 者 ( あ る い は 一 つ

の 支 援 機 関 ) で 行 わ れ る よ り も 、 内 容 に

応 じ て そ れ ぞ れ の 専 門 性 の あ る 立 場 の 人

か ら 提 供 さ れ る こ と が 望 ま れ て い る と 考

え ら れ た 。 こ の た め に は 、 警 察 や 法 医 学

教 室 な ど 早 期 に 遺 族 と か か わ る 組 織 に お

い て、遺 族 に 対 応 す る 際 の 連 携 の 仕 方 や 、

支 援 を 提 供 で き る 組 織 に 関 す る 知 識 な ど

に 関 す る 研 修 や 情 報 提 供 な ど が 行 わ れ る

こ と が 必 要 で あ る と 考 え ら れ る 。

研 究 2: 性 暴 力 被 害 者 向 け 支 援 情 報 パ ン

フ レ ッ ト の 開 発

A 目 的

第 2 次 犯 罪 被 害 者 等 基 本 計 画 の 推 進 に

よ り 、 近 年 性 暴 力 被 害 者 救 援 セ ン タ ー が

各 地 に 設 立 さ れ る よ う に な っ て き た 。 こ

れ ら の 機 関 で は 、 性 暴 力 被 害 後 急 性 期 の

被 害 者 に 対 す る 包 括 的 な 支 援 を 提 供 す る

た め に 、 産 婦 人 科 医 療 機 関 や 警 察 、 民 間

被 害 者 支 援 団 体 、 弁 護 士 な ど 多 様 な 職 種

と ネ ッ ト ワ ー ク を 構 築 し て い る 。 し た が

っ て 、 多 様 な 情 報 を 提 供 す る 必 要 が あ る

と 考 え ら れ る 。

我 々 が 過 去 に 日 本 女 性 心 身 医 学 会 に 所

属 す る 産 婦 人 科 医 師 を 対 象 に 行 っ た 調 査

で は、「 被 害 者 支 援 団 体 の 紹 介 」に つ い て

は 、 通 常 の 業 務 の 範 囲 で 対 応 す る こ と が

困 難 で あ る と の 回 答 が 多 く、「 被 害 者 向 け

パ ン フ レ ッ ト 」 に 対 す る ニ ー ズ が 多 い こ

と が 明 ら か と な っ た 1 0 )。

こ の よ う な 性 暴 力 被 害 者 支 援 の 現 場 で

の 需 要 に 応 え る た め 、 産 婦 人 科 医 療 機 関

等 急 性 期 の 性 暴 力 被 害 者 に 関 わ る 機 関 で

使 用 で き る 被 害 者 向 け の パ ン フ レ ッ ト の

開 発 を 行 っ た 。

B 研 究 方 法

前 述 し た 産 婦 人 科 医 療 機 関 の 調 査 結 果

お よ び 、 昨 年 度 実 施 し た 性 暴 力 被 害 者 へ

の 聞 き 取 り 調 査 を 踏 ま え て 、 既 存 の 性 暴

力 被 害 者 へ の パ ン フ レ ッ ト や ガ イ ド ラ イ

ン 2 0 ) 1 1 1 1 )を 基 に 原 案 を 作 成 し た 。

こ の 原 案 に 対 し て 、 性 暴 力 被 害 者 の 支

援 に 関 わ る 多 職 種 の 関 係 者 に 意 見 を 求 め

修 正 を 行 っ た 。

C 結 果

原 案 に 対 し て 、 性 暴 力 被 害 者 支 援 に 関

わ る 専 門 家 30 名 に 意 見 を も と め た と こ

ろ 、27 名( 応 答率 90%)か ら 回 答 を 得 た 。

回 答 者 の 職 種 は 以 下 で あ る 。 産 婦 人 科 医

医 師( 3 名 )、産 婦 人 科 医 療 機 関 に 勤 務 す

る 看 護 師( 2 名 )、警 察 官 お よ び 警 察 に 所

属 す る 臨 床 心 理 士( 3 名 )、被 害 者 支 援 団

体 の 相 談 員 ・ 所 属 す る 心 理 士 ・ 臨 床 心 理

士( 6 名 )、心 理 相 談 機 関 に 所 属 す る 心 理

理 師・臨 床 心 理 士( 6 名 )、弁 護 士・検 事 ・

法 学 者( 3 名 )、被 害 者 支 援 に 精 通 し た 精

神 科 医 師 ・ 臨 床 心 理 士 ( 4 名 ) で あ る 。

こ の 中 に は 被 害 経 験 者 1 名 が 含 ま れ て い

る 。

こ れ ら の 専 門 家 の 意 見 を 基 に 、 原 案 の

修 正 を 行 い、「 ひ と り じ ゃ な い よ あ な た

の こ れ か ら の た め の 支 援 情 報 ハ ン ド ブ ッ

ク 」 を 作 成 し た ( 別 紙)。

こ の ハ ン ド ブ ッ ク は 持 ち 運 び し や す い

よ う A5 版 サ イ ズ と し 、被 害 の 影 響 、被 害

者 の 心 理 的 反 応 、 被 害 者 自 身 の ケ ア 、 支

援 機 関 の 紹 介 ( 産 婦 人 科 、 警 察 、 民 間 被

害 者 支 援 団 体 、 検 察 庁 ・ 弁 護 士 ・ 法 テ ラ

ス 、 精 神 科 ・ 心 療 内 科 ) お よ び 、 支 援 機

関 一 覧 を 掲 載 し て い る 。 被 害 者 が 、 最 低

限 必 要 な 情 報 に つ い て 一 冊 で か な り の こ

と が 得 ら れ る よ う に 、 情 報 量 は あ え て 多

く し て お り 、 断 り 書 き で 被 害 者 に 全 部 読

む 必 要 は な い こ と を 添 え た 。

基 本 的 に は 支 援 機 関 に お い て 、 相 談 員

等 が 説 明 し な が ら 被 害 者 に 渡 す こ と を 想

定 し て い る が 、 相 談 に 結 び 付 か な い 被 害

者 も 多 い こ と か ら、HP(犯 罪 被 害 者 メ ン タ

ル ヘ ル ス 情 報 ペ ー ジ を 予 定 )上 で 無 料 で

ダ ウ ン ロ ー ド で き る よ う に す る こ と を 検

討 し て い る 。

E . ま と め

今 年 度 は 、 犯 罪 被 害 者 へ の 急 性 期 支 援

プ ロ グ ラ ム の 構 築 に あ た り 、 2 つ の 研 究

を 行 っ た 。

研 究 1 「 検 視 ( 検 死 ) 及 び 司 法 解 剖 時

の 遺 族 へ の 対 応 の 現 状 と 心 理 的 影 響 に 関

す る 研 究 」 で は 、 東 京 大 学 法 医 学 教 室 で

司 法 解 剖 に 付 さ れ た 方 の ご 遺 族 を 対 象 に

現 在 の 精 神 健 康 と 警 察 官 ・ 法 医 学 関 係 者

の 対 応 に つ い て の 受 け 止 め 方 に つ い て 自

記 式 の 質 問 票 を 用 い て 調 査 を 行 っ た 。 こ

の 調 査 で 、 司 法 解 剖 に 付 さ れ た 方 の ご 遺

族 で は 、 死 別 か ら 平 均 4.5 年 経 過 し た 時

点 で も 約 半 数 が 精 神 健 康 が 不 良 な 状 態 に

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あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。 ま た 、 遺 族

の 現 在 の 精 神 健 康 と 警 察 官 の 司 法 解 剖 前

の 配 慮 あ る 対 応 は ト ラ ウ マ 症 状 の 低 さ と

関 連 し て お り 、 法 医 学 者 の 丁 寧 な 説 明 は

全 般 的 精 神 健 康 と 悲 嘆 症 状 の 低 さ に 関 連

し て い た こ と か ら 、 遺 族 へ 対 応 や 説 明 の

仕 方 は そ の 後 の 精 神 健 康 に 影 響 を 与 え る

可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 し か し 、 司 法 解 剖

当 時 の 警 察 官 お よ び 法 医 学 者 の 対 応 ・ 説

明 は レ ト ロ ス ペ ク テ ィ ブ な も の で あ り 、

ま た 客 観 的 事 実 で は な く 遺 族 の 主 観 的 な

受 け 止 め 方 で あ る た め 、 現 在 の 精 神 健 康

状 態 が 過 去 の 出 来 事 へ の 受 け 止 め 方 に 影

響 し て い る 可 能 性 も あ り 、 今 後 は 前 向 視

研 究 に よ っ て 検 証 す る 必 要 が あ る 。 ま た

本 調 査 で は 対 象 者 数 が 27 名 と 少 な か っ

た こ と か ら 、 す べ て の 遺 族 の 意 見 を 反 映

し て い る わ け で は な い こ と も 限 界 と し て

あ げ ら れ る 。

し か し 、 司 法 解 剖 や 検 視 な ど の 関 係 者

の 説 明 や 対 応 の 精 神 健 康 に 与 え る 影 響 を

調 査 し た 研 究 は 国 内 外 で も ほ と ん ど な い

た め 、 司 法 解 剖 現 場 で の 支 援 の 検 討 を 行

う 上 で も 重 要 で あ る と 言 え る 。

研 究 2 で は 今 ま で の 研 究 成 果 の 総 括 と

し て 、 産 婦 人 科 や 性 暴 力 救 援 セ ン タ ー で

使 用 で き る 性 暴 力 被 害 者 向 け パ ン フ レ ッ

ト の 作 成 を 行 っ た 。 こ の パ ン フ レ ッ ト の

有 用 性 に つ い て 今 後 検 証 を 行 う 必 要 が あ

る と 考 え ら れ る 。

F . 健 康 危 険 情 報

な し G . 研 究 発 表

1 . 論 文 発 表 1 ) 成 澤 知 美 : 検 視 ( 検 死 ) 及 び 司 法 解

剖 時 の 被 害 者 遺 族 に 対 す る 警 察 官 の

対 応 及 び 意 識 に つ い て . 被 害 者 学 研

究 第 24 号 ,( 印 刷 中 ) 2 ) 中 島 聡 美 : 喪 失 と 悲 嘆 の ケ ア - レ ジ

リ エ ン ス に 焦 点 を 当 て た ケ ア・介 入 .

週 間 医 学 の あ ゆ み 247 (4 ), 375 -377,2013 .

3 ) 中 島 聡 美 : プ ラ イ マ リ ・ ケ ア に お け

る「 遺 族 ケ ア 」.堀 川 直 史 編:ジ ェ ネ

ラ ル 診 療 シ リ ー ズ あ ら ゆ る 診 療 科

で よ く 出 会 う 精 神 疾 患 を 見 極 め 、

対 応 す る .羊 土 社 .東 京 ,pp157 -159,

2013 . 4 ) 中 島 聡 美 : 犯 罪 被 害 者 支 援 と メ ン タ

ル ヘ ル ス . 精 神 保 健 福 祉 白 書 編 集 委

員 会 . 精 神 保 健 福 祉 白 書 2014 年 版 ,

中 央 法 規 , pp49 . 2013 . 2 . 学 会 発 表

1 ) 成 澤 知 美 :検 視 (検 死 )及 び司 法 解

剖 時 の被 害 者 遺 族 に対 する警 察 官 の対

応 及 び意 識 について.日 本 被 害 者 学 会

第 24 回 大 会 ,東 京 ,2013 . 1 . 1 .

H . 知 的 財 産 権 の 出 願 ・ 登 録 状 況

な し

< 引 用 文 献 >

1 ) A m i c k - M c M u l l a n A , K i l p a t r i c k D G, R e s n i c k H S : H o m i c i d e a s a r i s k f a c t o r f o r P T S D a m o n g s u r v i v i n g f a m i l y m e m b e r s . B e h a v M o d i f 1 5 : 5 4 5 - 5 5 9 , 1 9 9 1 .

2 ) A s u k a i N , K a t o H , K a w a m u r a N , e t a l . : R e l i a b i l i t y a n d v a l i d i t y o f t h e J a p a n e s e - l a n g u a g e v e r s i o n o f t h e i m p a c t o f e v e n t s c a l e - r e v i s e d ( I E S - R - J ) : f o u r s t u d i e s o f d i f f e r e n t t r a u m a t i c e v e n t s . J N e r v M e n t D i s 1 9 0 : 1 7 5 - 1 8 2 , 2 0 0 2 .

3 ) 新 恵 里 : 司 法 解 剖 を め ぐ る 犯 罪 被 害

者 支 援 の 現 状 と 課 題 ―事 件 直 後 か ら

グ リ ー フ カ ウ ン セ リ ン グ ま で ― . 京都 産 業 大 学 論 文 集 社 会 科 学 系 列 2 6 : 1 8 7 - 2 0 6 , 2 0 0 9 .

4 ) C a m p b e l l R , R a j a S : S e c o n d a r y v i c t i m i z a t i o n o f r a p e v i c t i m s : i n s i g h t s f r o m m e n t a l h e a l t h p r o f e s s i o n a l s wh o t r e a t s u r v i v o r s o f v i o l e n c e . Vi o l e n c e Vi c t 1 4 : 2 6 1 - 2 7 5 , 1 9 9 9 .

5 ) 地 下 鉄 サ リ ン 事 件 被 害 者 の 会 . そ れ

で も 生 き て い く . 東 京 : サ ン マ ー ク

出 版 , 1 9 9 8 . 6 ) F u r u k a wa TA , K a wa k a m i N , S a i t o h M ,

e t a l . : T h e p e r f o r m a n c e o f t h e J a p a n e s e v e r s i o n o f t h e K 6 a n d K 1 0 i n t h e Wo r l d M e n t a l H e a l t h S u r v e y J a p a n . I n t J M e t h o d s P s y c h i a t r R e s 1 7 : 1 5 2 - 1 5 8 , 2 0 0 8 .

7 ) I t o M , N a k a j i m a S , F u j i s a wa D , e t a l . : B r i e f m e a s u r e f o r s c r e e n i n g

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c o m p l i c a t e d g r i e f : r e l i a b i l i t y a n d d i s c r i m i n a n t v a l i d i t y. P Lo S O n e 7 : e 3 1 2 0 9 , 2 0 1 2 .

8 ) I t o T, N o b u t o m o K , F u j i m i y a T, e t a l . : I m p o r t a n c e o f e x p l a n a t i o n b e f o r e a n d a f t e r f o r e n s i c a u t o p s y t o t h e b e r e a v e d f a m i l y : l e s s o n s f r o m a q u e s t i o n n a i r e s t u d y. J M e d E t h i c s 3 6 : 1 0 3 - 1 0 5 , 2 0 1 0 .

9 ) K e s s l e r R C , A n d r e ws G, C o l p e L J , e t a l . : S h o r t s c r e e n i n g s c a l e s t o m o n i t o r p o p u l a t i o n p r e v a l e n c e s a n d t r e n d s i n n o n - s p e c i f i c p s y c h o l o g i c a l d i s t r e s s . P s y c h o l M e d 3 2 : 9 5 9 - 9 7 6 , 2 0 0 2 .

1 0 ) 中 島 聡 美 , 加 茂 登 志 子 , 金 吉 晴 , 他 . 性 暴 力 被 害 者 の 急 性 期 心 理 ケ ア プ

ロ グ ラ ム の 構 築 に 関 す る 研 究 . 主任 研 究 者 金 吉 晴 . 平 成 2 0 年 度 厚 生

労 働 科 学 研 究 費 補 助 金( こ こ ろ の 健

康 科 学 研 究 事 業 )「 大 規 模 災 害 や 犯

罪 被 害 等 に よ る 精 神 科 疾 患 の 実 態

把 握 と 介 入 手 法 の 開 発 に 関 す る 研

究 」 分 担 研 究 報 告 書 : 9 0 - 1 0 5 2 0 0 9 . 11 ) 中 島 聡 美 , 成 澤 知 美 , 淺 野 敬 子 他 :

犯 罪 被 害 者 に 対 す る 急 性 期 心 理 社

会 支 援 ガ イ ド ラ イ ン . 東 京 :独 立 行

政 法 人 国 立 精 神・神 経 医 療 研 究 セ ン

タ ー 精 神 保 健 研 究 所 成 人 精 神 保

健 研 究 部 , 2 0 1 3 . 1 2 ) 中 島 聡 美 , 白 井 明 美 , 真 木 佐 知 子 ,

他 : ト ラ ウ マ の 心 理 的 影 響 に 関 す る

実 態 調 査 か ら 犯 罪 被 害 者 遺 族 の 精

神 健 康 と そ の 回 復 に 関 連 す る 因 子

の 検 討 . 精 神 神 経 学 雑 誌 111 : 4 2 3 - 4 2 9 , 2 0 0 9 .

1 3 ) N e r i a Y, G r o s s R , L i t z B , e t a l . : P r e v a l e n c e a n d p s y c h o l o g i c a l c o r r e l a t e s o f c o m p l i c a t e d g r i e f a m o n g b e r e a v e d a d u l t s 2 . 5 - 3 . 5 y e a r s a f t e r S e p t e m b e r 11 t h a t t a c k s . J T r a u m a S t r e s s 2 0 : 2 5 1 -2 6 2 , 2 0 0 7 .

1 4 ) R h e i n g o l d A A , Z i n z o w H , H a w k i n s A , e t a l . : P r e v a l e n c e a n d m e n t a l h e a l t h o u t c o m e s o f h o m i c i d e s u r v i v o r s i n a r e p r e s e n t a t i v e U S s a m p l e o f a d o l e s c e n t s : d a t a f r o m t h e 2 0 0 5 N a t i o n a l S u r v e y o f A d o l e s c e n t s . J C h i l d P s y c h o l P s y c h i a t r y 5 3 : 6 8 7 - 6 9 4 , 2 0 1 2 .

1 5 ) 酒 井 肇 , 酒 井 智 惠 , 池 埜 聡 他: 付 属

池 田 小 事 件 の 遺 族 と 支 援 者 に よ る

共 同 発 信 犯 罪 被 害 者 支 援 と は 何

か . 東 京 : ミ ネ ル ヴ ァ 書 房 , 2 0 0 4 . 1 6 ) S h e a r K M , J a c k s o n C T, E s s o c k S M , e t

a l . : S c r e e n i n g f o r c o m p l i c a t e d g r i e f a m o n g P r o j e c t L i b e r t y s e r v i c e r e c i p i e n t s 1 8 m o n t h s a f t e r S e p t e m b e r 11 , 2 0 0 1 . P s y c h i a t r S e r v 5 7 : 1 2 9 1 - 1 2 9 7 , 2 0 0 6 .

1 7 ) 白 井 明 美 中 島 聡 美 , 真 木 佐 知 子 他 : 犯 罪 被 害 者 遺 族 に お け る 複 雑 性 悲

嘆 及 び P T S D に 関 連 す る 要 因 の 分 析 . 臨 床 精 神 医 学 3 9 : 1 0 5 3 -1 0 6 2 , 2 0 1 0 .

1 8 ) 武 市 尚 子 , 吉 田 謙 一 , 稲 葉 一 人 : 司法 解 剖 に お け る 遺 族 へ の 情 報 開 示

の 問 題 点 ア ン ケ ー ト 調 査 に 基 づ

い て . 法 学 セ ミ ナ ー 5 9 5 : 7 6 - 8 0 , 2 0 0 4 .

1 9 ) We i s s D S , M a r m a r , C . R . T h e i m p a c t o f t h e E v e n t S c a l e - R e v i e d . I n : Wi l s o n J P, K e a n e , T. M . , e d . A s s e s s i n g p s y c h o l o g i c a l t r a u m a a n d P T S D : A p r c t i o n e r ' s h a n d b o o k . N e w Yo r k : G u i l f o r d P r e s s : 3 9 9 - 4 11 1 9 9 7 .

2 0 ) Wo r l d H e a l t h O rg a n i z a t i o n . G u i d e l i n e s f o r m e d i c o - l e g a l c a r e o f v i c t i m s o f s e x u a l v i o l e n c e . G e n e v a : Wo r l d H e a l t h O rg a n i z a t i o n , 2 0 0 3 .

2 1 ) Z i n z o w H M , R h e i n g o l d A A , B y c z k i e wi c z M , e t a l . : E x a m i n i n g p o s t t r a u m a t i c s t r e s s s y m p t o m s i n a n a t i o n a l s a m p l e o f h o m i c i d e s u r v i v o r s : p r e v a l e n c e a n d c o m p a r i s o n t o o t h e r v i o l e n c e v i c t i m s . J Tr a u m a S t r e s s 2 4 : 7 4 3 -7 4 6 , 2 0 11 .

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表 1 対象者の属性 (N=27)

n %

性別 男性 15 55.6 女性 12 44.4 平均年齢(才) 57.7(SD 12.3)

婚姻状態 既婚 17 65.4 離別・死別 7 26.9 未婚 2 7.4 教育歴(卒業) 中学校 1 3.8 高等学校等 11 42.3 短期大学等 4 15.4 大学 9 34.6 大学院 1 3.7 就労状態 正社員・常勤 7 26.9 パート・アルバイト 6 23.1 主婦・主夫 4 154.4 無職 7 26.9 その他 2 7.7

表 2 死別状況・故人の属性 (N=27)

n % 故人との関係 1)

配偶者

6

22.2 子ども 8 29.6 きょうだい 4 14.8 父母 6 22.2 その他 3 11.1 死因 入院中の事故 2 7.4 交通事故 5 18.5 殺人・傷害致死 9 33.3 労災 1 3.7 不詳・わからない 6 22.2 その他 4 14.8 故人の性別

男性

18

66.7 女性 8 29.6 故人の死別時の年齢 10 代 1 3.7 20 代 1 3.7 30 代 3 11.1 40 代 6 22.2 50 代 3 11.1 60 代 3 11.1 70 代 5 18.5 80 代 4 14.8 死別からの経過年数 1 年以上 2 年未満 5 18.5 2 年以上 3 年未満 9 33.3 3 年以上 4 年未満 7 25.9 4 年以上 5 年未満 1 3.7 6 年以上 1 3.7

1) 回答者から見た場合の関係

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表 3 身元確認状況 N % 警察官による身元確認の (n=24)1)

の事前説明を受けた 12 48.0 身元確認の立会い 17 70.8 身元確認の時の同伴 (n=17)2)

があった 13 76.5 身元確認場所 (n =17)

警察署の霊安室 6 35.3 その他 11 64.7 遺体の損傷 (n=17)

有 12 70.6 無 4 23.5 不明・覚えていない 1 5.9 警察官からの身元確認方法の希望聴取 (n=17)

有 4 25.0 無 8 50.0 覚えていない・その他 4 17.4 身元確認方法(n=17) 持ち物や衣服での確認 2 11.8 身体の一部を見て確認 2 11.8 全身を見て確認 7 25.9 持ち物や身体の一部 3 17.6

DNA 1 5.9 身元確認の際の精神的ショック (n=17)

非常にショックを受けた 8 50.0 ややショックを受けた 7 43.8 どちらともいえない 1 6.3 1) n は、警察による身元確認があったと回答した数

2) n は、身元確認に立ち会ったと回答した数

表 4 司法解剖について

N %

説明の内容(n=20)1) 司法解剖が必要である理由 17 63.0

遺族の意思にかかわらず行われる 8 44.4 司法解剖が行われる場所 17 85.0

家族の待機場所 11 61.1 司法解剖終了後の連絡方法 12 63.2 司法解剖結果の説明者の希望 (n=27)

警察官 2 7.4 検察官 3 11.1 解剖執刀医 21 77.8 執刀医以外の法医学教室員 5 18.5 その他(臨床心理士など) 2 7.4 分からない 3 11.1

東大の遺族待合室の情報入手状況

警察からのパンフレット 1 3.7 警察官の事前の説明 4 14.8 東京大学に到着後の説明 4 14.8 知らなかった 13 48.1 司法解剖時に東京大学に行った 13 48.1 遺族待合室の利用者(n=13)2) 10 76.9 遺族待合室の環境についての意見 3)(n=27)

静かな場所だった 3 27.3 「遺族待合室」があって良かった 3 27.3 あまり気持ちの良くなかった 5 45.5 覚えていない・その他 6 51.6 遺体修復についての遺族の気持ち(n=27)

きれいな状態にしてくれた 4 14.8 きれいな状態にしてくれなかった 2 7.4 身体に傷をつけられた 1 3.7 何とも思わなかった 2 7.4 覚えていない 2 7.4 身体は見ていない 10 37.0 1)n は、警察官から説明を受けた人数 2)n は、東京大学に行った人数, 3)複数回答

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表 5 ソーシャルサポート (N=27)

N % 死別体験の相談経験 17 63.0 相談相手(n=17)1) 家族 11 64.7 友人・知人 8 47.1

被害者支援団体の支援員 3 17.6 その他 3 17.6 身元確認・検視(検死)・司法解剖の相談

有 9 33.3 相談相手(n=9)1) 家族 6 66.7 友人・知人 1 11.1 被害者支援団体の支援員 1 11.1 その他 2 22.2 1) n は、相談したことがあると回答した人数,

複数回答

表 6 心身の健康状態 (N=25)1)

N % 死別体験後の心身の不調 今も不調がある 6 22.2 過去にあったが今はない 8 29.6 今までなかった 11 40.7 受診や相談の有無(n=14)2) 有 5 35.1

受診や相談機関(n=5)3) 精神科・心療内科 2 40.0 上記以外の医療機関 2 40.0 心理相談機関 1 20.0

その他の機関 1 20.0 心身の不調の死別体験の影響(n=14)2) 死別体験の影響と思う 13 93.3 司法解剖以前の精神科相談既往歴(n=25)1)

有 1 3.7 1) 有効回答数,2) n は、心身の不調があったと回

答した人数,3) n は、心身の不調について受診・相

談経験があったと回答した人数,複数回答

図 1-1 司法解剖前の警察官の対応についての遺族の意見 1) n は警察官から説明を聞いたと回答した人数

1

5

5

3

8

6

6

4

4

5

5

6

5

7

7

5

4

5

1

1

2

5

6

5

8

1

2

3

3

2

2

0

2

1

2

3

5

0% 20% 40% 60% 80% 100%

苦痛や不快を感じた

気遣いや思いやりを感じた

気持ちを理解してくれた

希望や意見を尊重してくれた

質問に対する返答の内容は十分だった

説明にかけられた時間は十分だった

説明は分かりやすかった

n=21 1)

非常に当てはまる やや当てはまる どちらでもない

やや当てはまらない 全く当てはまらない 覚えていない

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図 1-2 司法解剖後の警察官の対応についての遺族の意見

図 1-3 司法解剖後の法医学者の対応についての遺族の意見

1

2

3

5

1

1

2

5

6

3

5

4

3

1

1

1

3

3

5

4

3

1

1

1

3

2

2

1

1

1

1

2

0% 20% 40% 60% 80% 100%

苦痛や不快を感じた

気遣いや思いやりを感じた

気持ちを理解してくれた

希望や意見を尊重してくれた

質問に対する返答の内容は十分だった

説明にかけられた時間は十分だった

説明は分かりやすかった

n =11

非常に当てはまる やや当てはまる どちらでもない

やや当てはまらない 全く当てはまらない 覚えていない

1

1

2

1

1

2

2

3

4

5

4

2

2

2

1

1

1

1

2

3

1

2

2

1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

苦痛や不快を感じた

気遣いや思いやりを感じた

気持ちを理解してくれた

希望や意見を尊重してくれた

質問に対する返答の内容は十分だった

説明にかけられた時間は十分だった

説明は分かりやすかった

n=6

非常に当てはまる やや当てはまる どちらでもない

やや当てはまらない 全く当てはまらない 覚えていない

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図 2 司法解剖に対する気持ちの変化

図 4 司法解剖時にあるとよいと思う支援(複数回答)

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

身体に傷をつけられるのが嫌だ

故人から離れたくない

死因が分かっても生き返らない

死因を解明してほしい

身体を返してもらうため

犯人逮捕や処罰のため

(N=27)

司法解剖前 現在

0 2 4 6 8

10 12 14 16 18 20

人 (N=27)

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図 5 希望する支援の内容と支援提供者の職種

0 2 4 6 8

10 12 14 16

(N=27)

警察官 警察の心理専門職員 警察以外の心理専門家 被害者支援団体の支援員 法医学教室のスタッフ その他の人 特に支援はいらない

図 6 図 7

図 8

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一人じゃないよ

あなたのこれからのための

支援情報ハンドブック

(独)国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部

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もくじ

はじめに - あなたへのメッセージー ・・・・・・・・・・・・・・・

この冊子をご利用いただくにあたって ・・・・・・・・・・・・・・・

これって暴力なの? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

被害の様々な影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

心やからだの反応・変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

考え方や行動の変化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自分をケアしましょう ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どこに相談したらよいのでしょう? ・・・・・・・・・・・・・・・・・

産婦人科ができること ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

警察ができること ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

民間被害者支援団体ができること ・・・・・・・・・・・・・・・・

検察庁・法テラス・弁護士ができること ・・・・・・・・・・・

こころの相談・治療機関ができること ・・・・・・・・・・・・・・

ご家族や周囲の方々へ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

各機関の連絡先 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<参考資料>

性暴力被害についての誤解や偏見 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

刑事手続きの流れと警察からの被害にあわれた方へのお願い ・・・

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はじめに ーあなたへのメッセージー

今,この冊子を手にとっているあなたは,とても大変な

出来事にあって,どうしてよいかわからず混乱していたり,

「被害にあったのは自分が悪い」と,自分のことを責めて

苦しい想いでいるかもしれません。 今のあなたには受け入

れられないかもしれないけど,伝えたい言葉があります。

「一人じゃないよ,絶対にあなたのことを心配して思っていてくれる

人がたった一人でもいるよ。自分を責めないで。あなたは悪くないよ」

この言葉は,ご自身が被害にあわれたアコースティックデユオ

PANSAKUのぱんさんからのあなたへのメッセージです。

このハンドブックは,性暴力の被害にあわれた方が必要とす

るような様々な支援についての情報を載せたものです。 この中

にあなたが必要としている支援があるかもしれません。

今,全部読まなくてもよいのです。 あなたが気になっている

ところだけでも目を通してみてください。 あなたの助けになる

ところや人に出会えるかもしれません。

ぱんさんのメッセージは許可を得て以下から引用しています。

福島県警被害者支援室ホームページ http://www.police.pref.fukushima.jp/soudan/higaisyasien/interview05.html

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この冊子には,性暴力の被害にあわれた方やご家族・

周囲の方が,これから必要とするのではないか思われる

支援を中心にした情報を載せています。

□ 最初に,性暴力について理解してもらうためのページがあり

ますが,まず自分に必要なところや疑問に思うところを読み

たい方もいると思います。 そういう方は,もくじから自分の

気になる項目を選んでそのページを読んでください。

□ 性暴力という文字を見るだけでもつらくなってしまう人も

います。読みたいけど読めないという方は,家族や信頼でき

る人,相談機関の人と一緒に読むことが助けになるかもし

れません。

□ このハンドブックでは,警察や検察庁での手続きの話がでて

きますが,被害届を出すことをすすめるものではありません。

しかし,警察では被害届を出さなくても相談すれば受けら

れる支援もありますので,どんな支援があるかについては

知っていただくとよいかもしれません。

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この冊子を利用いただくにあたって

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これって暴力なの?

性暴力の加害者は,知人やデートの相手であることも少なくありません。

そういう時,被害者は「これって暴力?」とわからなくなってしまって,相談できな

いことがあります。

“性暴力”は,一言でいうと,「脅しや強制力注)を用いて行われるあなたの

意思に反していたり,あなたの同意がない性的な行為のすべて」です。

相手がどんな人(例えば,友人,知人,恋人,配偶者,家族など)であっても,

どのような状況や場所(例えば,自宅,相手の家,職場,学校,ホテルなど)で

起きても性暴力になるのです。

また,性暴力は,レイプ(性器の挿入を伴う行為)だけではありません。 体や

性器に直接ふれる行為(痴漢も含まれます)や,盗撮,性器などを見せること,

ポルノ映像・写真を見せることやその被写体にすること,それを勝手に公開す

ること,性的な嫌がらせをすることもすべて性暴力なのです。

性暴力は,それを受けた人の尊厳や自尊心を傷つけ,無力感や屈辱感をも

たらします。 愛し合っているパートナーとの性的な関係は,喜びや満足,幸福

感をもたらすものですが,性暴力はそれとは全く異なるものです。

※ ここでの性暴力の定義は, 世界保健機構(WHO)の定義を参考にしていますが,残念ながら, 日本の法律上の定義はもっと狭いものになっています。 裁判で認められるかどうかについては, 警察官や弁護士など法律の専門家にご相談していただくことが必要です。 注) 職場の上司と部下のようにその力関係自体が強制力となっているものも含まれます。

とうさつ

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おど きょうせいりょく

そうにゅう

ひ し ゃ た い

ちかん

そんげん じ そ ん しん むりょくかん くつじょくかん

せ か い ほ け ん き こ う

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被害のさまざまな影響

性や妊娠・出産に関わる 健康への影響

• 望まない妊娠 • 性感染症 • 性機能障害 など

心への影響

• 恐怖,不安,自責感,怒り,などの様々な感情

• 感覚や気持ちの麻ひ • 気分の落ち込み など からだへの影響

• 被害による負傷 • 眠れない,悪夢 • めまいや吐き気,痛み など様々な身体の不調 社会生活や

対人関係への影響

• 仕事や学校に行けない • 外出したり,活動ができない • 人と会いたくなくなる • 人間関係が悪くなる など

性暴力被害は,被害者にさまざまな影響を与えます。

ここにあげたのはその一部です。

えいきょう

あなたの体験していることがどのようなことなのかを知ることは,

回復への大切な第一歩です。

次のページからは,もう少し詳しく,心やからだ,考え方などの

反応や変化を説明しています。

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心やからだの反応・変化

ショックや動揺・混乱

「本当のこととは思えない」,「信じられない」という気持ちになる

頭の中が真っ白で何も考えられない,どうしたらよいかわからない

不安や恐怖,気持の落ち込みが続く

考えたくないのに被害のことがくり返し頭に浮かぶ

被害がまた起こっているような感覚になる(フラッシュバック)

怖い夢や被害に関係した夢をみる

被害のことをよく覚えていない,思い出せない

何をしても楽しくない,物事への興味や関心がない

時間の流れや出来事の順序がよくわからない

● 生きていたくない,死にたいと考えてしまう

過敏になって,落ち着かない

寝つきが悪い,夜に何度も目が覚める

何か起こりそうでいつもびくびくしている

イライラしたり怒りっぽくなる

集中力がない,仕事や勉強が手につかない

からだの調子が悪い

心臓がドキドキする,過呼吸になってしまう

食欲がない(気持ちを紛らわすために食べ過ぎることもあります)

吐き気や,嘔吐,下痢や便秘などお腹の調子がよくない

頭痛やめまいがする

下腹部や背中,肩など身体のあちこちが痛い

生理が不規則だったり,生理痛がひどい,不正出血がある

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被害の後には,心とからだにさまざまな反応や変化が起きます。

このような反応や変化は, 被害のすぐ後にあらわれることもあれば,

しばらくたってからあらわれることもあります。続く期間も人によって

さまざまです。

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考え方や行動の変化

考え方の変化

行動の変化

「被害にあったのは自分のせいだ」と自分のことを責める

「自分は弱い,何をやってもだめだ」という無力感をおぼえる

「自分は汚れてしまった」,「もう,前の自分には戻れない」と思う

「もう,自分は幸せにはなれない」と思う

他人を信じられない,この世の中では安心して暮らせないと思う

「自分はみんなとはもう違う」と思い,孤独な気持ちが強くなる

外出できない,引きこもりがちになる

大勢の人(とくに男性)がいる場所など被害を思い出させる場所を避ける

ひとりきりになるのが怖くて,誰かにそばにいてもらわないといられない

被害を思い出すのが怖くて,新聞やテレビを見なくなる

趣味など今まで好きだったことをしなくなる

家族や友人と話したり,会うことを避ける

恋人やパートナーと性的な関係を持てない

自分を傷つけたり,死のうとする行動をとってしまう

被害にあった後の反応や様子は一人ひとり違いますが,このような

変化が生じると,“自分がおかしくなってしまったのではないか”と

不安になる人もいます。

しかし,性暴力被害のように非常にショックな出来事にあったときに,

このような反応が起こるのは自然なことです。

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被害は考え方や行動にもさまざまな影響を与えます。

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✎メモ

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自分をケアしましょう (その1)

被害の後は気持ちが不安だったり,落ち込んでしまっていたり,

またするべきことが多すぎて自分をケアすることが難しくなって

いることがあります。少しずつでもよいです。

自分のケアをしていきましょう。

以下のことは必ず確認してケアしておきましょう

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被害の時に身体の中や外側が傷ついていませんか?

今は症状がなくても後から表れることがあります。 必ず病院で検査や治療をうけましょう。

妊娠や性感染症の恐れはありませんか?

万が一でも不安があったら必ず産婦人科を受診しましょう。

あなたの身の回りは安全ですか? 加害者が住所を知っているようなことはありませんか? 家のどこか壊れているところはありませんか?

修理したり,家族や安心できる友人の家で過ごすことが役に立つかもしれません。安全を守るために,警察や被害者支援団体に相談しましょう。

眠れなかったり,食欲がないことが続いていませんか? 不安や恐怖で生活がつらくなっていませんか? 死にたい気持ちがでてきていることはないですか?

家族や友人,被害者支援団体やこころの 相談・治療機関に相談してみましょう。

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こんなことが自分のためにできるかもしれません

自分をケアしましょう (その2)

□ とても大変なことが起こったのです。とてもつらくて,傷ついているのはあな

たが弱いのではなく,出来事が大変だったからです。自分を責めないであげ

てください。今何とか生活していることだってとても頑張っていることです。

□ 被害が起こったのは自分に責任があったように思っているかもしれません。

でも,たとえ不注意と思えることがあったとしても,人に危害を与えることはい

けないことです。だから,悪いのは加害者です。そのことを自分がわかってあ

げましょう。

□ 自分でうまく気持ちをコントロールできなかったり,思うように生活できないと

感じることもあるかもしれません。無理もないことです。少しずつでもよいん

だと自分に言いきかせようとすることで,少し落ち着くこともあるかもしれませ

ん。

□ 怖かったり,悲しかったり,不安だったり… そういう気持ちを一人で抱え込む

のはとてもつらいことです。あなたが信頼できるお友達や家族など周りの人

に少し伝えてみましょう。全部ではないかもしれないけど,わかってもらえる

と思うと少しほっとするかもしれません。

□ 大変なことが起こった時には,誰でも手助けが必要です。お友達や家族,

支援団体の人,警察の人,それぞれにできることがあります。こんな大変な

ことを一人で対処するのは大変です。相談して手伝ってもらいましょう。

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こんなことが自分のためにできるかもしれません

自分をケアしましょう (その3)

□ ご飯を食べたり,お風呂に入ったり,寝たりといった日常生活を少しずつやって

いきましょう。ゆっくりでよいのです。自分のペースを取り戻していきましょう。

疲れた時には休むことも大切です。

□ 仕事や学校に行きにくかったり,行っても思うように

仕事や勉強ができないかもしれません。

今は,無理をし過ぎないようにしましょう。

□ すぐには難しいかもしれませんが,自分の心が落ち着けること,リラックスでき

ることをためしてみましょう。音楽やアロマ,ストレッチなどはどうでしょうか?

①3つ数えながら

鼻から息を吸います

②そのまま息を

とめます

(3つくらい)

③6つ数えながら,

ゆーっくり息を吐きます

(鼻からでもいいです)

吐くときにすこしずつ 身体の力をぬいていきましょう

5回から10回ほどくり返しましょう

~気持ちが動揺したり,不安な時に,

落ち着く方法を紹介します~

(出典:国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター 堀越勝,新明一星: 「感情教育CBTプログラム:こころのアラームのメンテナンス」を一部改編)

“リラーックス”と頭の中で 声をかけてみるのも

よいです。

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どこに相談したらよいのでしょうか?

詳しくはこちらのページをご覧ください

産婦人科 12 ページ

警 察 13-14 ページ

被害者 支援団体

性暴力救援 センター

15 ページ

検察庁 法テラス 弁護士

16 ページ

こころの 相談機関

17 ページ

妊娠したり,性感染症に かかったらどうしよう? 身体のことが心配…

犯人が怖い,捕まえてほしい… 証拠をとっておきたいけど… でも,警察ってなんか怖い…

どうしたらいいかわからない… 誰に相談したらいいの? 警察には相談したくない…

裁判の手続きってわからない… 法律のことを誰か教えてほしい 弁護士ってどうやって探したら

いいの?

? ?

不安でどうしようもない… 眠れないし,食欲がないし…

精神科だとお薬だけなんじゃないの? カウンセリングってどこで受けられるの?

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産婦人科ができること

● 警察への連絡 警察へ連絡しないで産婦人科を受診した場合,被害者が希望すれば,病院側から警察に連絡することができます。 被害者の同意がないのに,警察に連絡す

ることはありません。 (⇒ 警察の支援は13ページ)

● 緊急避妊 被害から72時間以内であれば,緊急避妊薬(ノルレボ®錠など)を処方します。緊急避妊薬の服用によりほとんどの場合は妊娠を避けられます。服用開始が 早いほど妊娠を避けられるため,被害後できるだけ早く受診することが大切です。 また,72時間をすぎても,5日間以内であれば,IUD(子宮内避妊具)を用いた 避妊措置を行う方法もあります。

● 証拠採取 加害者を特定するための客観的な証拠を採取することができます※

● 身体(性器を含む)への負傷の状況 ● 加害者の毛髪や体液(唾液,精液など)

● 性感染症検査とその治療 性感染症(梅毒,エイズ,クラミジア,淋菌,B型肝炎,C型肝炎など)の検査と治療をします。 性感染症の種類によって検出時期が異なるため,検査は初診時,2週間後,8週間後の3回程度行う必要があります。

● 診察/傷の手当て/他の医療機関の紹介 診察し,身体の傷の手当をします。 症状によっては他の医療機関 (外科, 心療内科・精神科など)を紹介します。

※ 証拠採取はすべての病院で対応できるわけではないので,可能であれば, 警察に相談して,警察から紹介された病院を受診することをおすすめします。

※ 警察に相談の上受診した場合には緊急避妊費用,初診料,診断書料, 性感染などの検査費用,人工妊娠中絶費用などが公費負担となる場合 があります。詳しくは,13ページを参照してください。

● 妊娠に関する相談 妊娠や中絶についての相談を受けています。

治療や検査,警察への連絡などは,被害者の同意を得て行います。 妊娠や性感染症の心配があったら,必ず産婦人科を受診してください。

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警察ができること 1

警察は,犯人の逮捕だけでなく,あなたの安全を守ったり,様々な 支援ができます。被害の届け出をためらっている場合でも相談することができます。

● 被害者への情報提供

パンフレット「被害者の手引」で刑事手続の流れなどを説明しています。「被害者連絡制度」により捜査の状況などについて,情報を提供しています。さらに,被害者の方の希望に応じて,地域警察官が被害者訪問・連絡活動を実施します。

● 相談・カウンセリング

各都道府県警察では,性犯罪に係る被害や捜査に関する相談を受け付ける「性犯罪被害110番」等の相談電話や「性犯罪被害者相談コーナー」等の相談室を設置し,女性の警察官等が相談に応じています。届出を迷っている場合も相談できます。

(⇒ 性犯罪被害相談電話設置一覧表は20ページ)

また,警察のカウンセラーにょるカウンセリングも行っています。

● 緊急避妊等の経費負担

警察に相談した被害者に対しては,緊急避妊などに要する経費(初診料,診断書料,性感染などの検査費用,人工妊娠中絶費用などを含む)を公費で負担しています。

● 犯罪被害給付制度

被害によって怪我を負ったり,病気になった場合(重傷病給付金)や,身体に障害が残った場合(障害給付金),あるいは遺族(遺族給付金)に給付金が支給される制度があります。 この制度では対象となる犯罪や病気・障害の程度など様々な条件がありますので,希望する場合には,警察に相談してください。

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警察ができること 2

※ここでは,性暴力被害者が必要とすると考えられるものを記載しました。

詳しくは,警察庁ホームページ「警察による犯罪被害者支援」をご覧ください。

http://www.npa.go.jp/higaisya/home.htm

警察に届け出てからの警察での手続きについては,

24-25ページの「刑事手続の流れ」をご覧ください。

検 索 警察庁 犯罪被害

● 女性の警察官による捜査

あなたが望む場合には女性の警察官が捜査を担当します。女性捜査官は,事情聴取や,証拠採取,証拠品の受領,病院等への付き添い,捜査状況の連絡を行います。(ただし,女性の警察官は人数が少ないので,難しい場合もあります)

●証拠採取における配慮

被害者の衣服や身体から証拠を採取する場合に被害者にできるだけ気持ちの負担をかけないように配慮しています。産婦人科と連携して,安心して検査や治療を受けられるようにします。証拠として衣類を預かる場合には,着替えも用意しています。実況見分(被害状況の確認)の時には,人形を使うなどの方法で気持の負担を和らげるようにしています。

● 被害者の安全確保

被害者は,警察に相談したり,届け出たりすることで犯人などから仕返しをされるのではないかという不安を持つことがあります。警察では,被害者との連絡を密にし,防犯指導など必要な助言を行うとともに,状況に応じて自宅や勤務先における身辺警戒やパトロール等を強化したり,緊急通報装置を貸出しするなど,被害者の方の不安を解消し,また,危害を未然防止するための種々の対策を講じています。

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被害者支援団体ができること

電話相談・面接相談

被害にあった方やご家族の悩みや困り事について,電話や面接でご相談を受けています。どうしたらよいかわからない時にも一緒に考えます。

警察への届け出やその後の刑事手続き,裁判などの司法手続きについての相談を受けています。

支援機関やその窓口,支援制度(犯罪被害給付金含む)などについて説明します。

受診できる病院を探して紹介します。

直接支援

必要に応じて,警察や検察庁,病院などへ付き添います。

裁判で証人になったり,傍聴するときなど法廷などへの付き添いを 行います。

必要に応じて,弁護士,医師,カウンセラーなどの専門家を紹介します。

心理カウンセラーが心の相談やカウンセリングを行います。

付き添い支援

専門家の紹介

性暴力救援センター 性暴力救援センターでは,主に24時間のホットラインで支援員が電話相談を

受けています。被害直後の被害者のニーズに応えて,総合的な支援を行ってい

ます。病院が拠点となっているところでは速やかに産婦人科のケアが受けられ

ます。あなたが必要とすれば,支援員が産婦人科の診療や警察への通報・付き

添いもできます。弁護士や他の相談機関への紹介も行います。

⇒ 連絡先は22ページ

ここでは,主に全国被害者支援ネットワークに加盟している民間被害者支援団体や性

暴力救援センターで行っている支援を紹介しています。

団体(連絡先は21ページ)によって提供している支援が異なりますので,

電話で確認してください。電話は匿名でかけることもできます。

心理カウンセリング

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検察庁・法テラス・弁護士ができること

検察庁では,警察から送致された事件について,更に捜査を行い,起訴・不起訴の処分を決定します。裁判所に公判請求した事件については,公判で有罪を立証し,求刑をします。犯罪被害者の方々から詳しく事情を聞き,処分結果等を通知し,被害者の諸権利を説明します。被害者が,公判で裁判所に被害者特定情報秘匿申立や被害者参加申立をする場合,全て検察官を通じて行います。

犯罪被害者に対しては,以下のような支援制度があります。

検察庁

被害者支援員 制度 被害者等通知制度 関係機関・団体等

の紹介 被害者ホットライン

※詳しくは,検察庁ホームページ「犯罪被害者の方々へ」をご覧ください。 http://www.kensatsu.go.jp/higaisha/index.htm 検 索 検察庁 犯罪被害者の方々へ

以下の内容について支援しています。弁護士の紹介は法テラスで行っています。

弁護士

捜査機関 への

告訴・告発

警察署 検察庁 裁判所等 付き添い

損害賠償 請求

示談交渉

被害者参加 弁護士

犯罪被害者等 給付金の 代理申請

※弁護士費用は,支援の内容,程度などによって異なります。 経済的に余裕のない方には,経済的援助の諸制度があります (いずれの制度も, 利用には一定の条件があります)。

詳しくは,日本弁護士会ホームページ「犯罪の被害者に遭われた方へ」をご覧ください。 http://www.nichibenren.or.jp/contact/crime_victims.html

マスコミ 対応

検 索 日弁連 犯罪の被害

以下の内容について支援しています。

法テラス

刑事手続の 流れを説明

各種支援制度 を紹介 弁護士の紹介 経済的援助制度の

説明,手続き ※

※弁護士を依頼する場合の費用等について,資産額など一定の要件のもと,法テラスを 通じて利用することができる制度があります。

詳しくは,法テラスホームページ「犯罪被害者支援」をご覧ください。 http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/ 検 索 法テラス 犯罪被害者支援

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近所の精神科がわからない,どこに通院したらよいかわからない場合には,

最寄りの保健所や精神保健福祉センター,被害者支援団体,警察の性犯罪被害

相談電話などにお問い合わせください。(⇒ 各機関の一覧は20-22ページ)

ここでは,精神科や心療内科について紹介しています

<予約・受診> 予約制の病院が多いです。早めに電話で予約をしましょう。その際,女性の 医師の診察が受けられるかなど問い合わせましょう。初診(最初の診察)は時間 がかかることが多いので,あらかじめ時間の余裕を見ておきましょう。

*大学病院などでは紹介状が必要なことがあります。そういう時には,近所のかかりつけ のお医者さんから紹介状をもらいましょう。

<面接・検査・診断> まずお話を伺い,どのような症状があるのか,どのような病気なのかを診断します。その際,心理検査が行われることもあります。 <治療> 診断に基づいて,お薬による治療や精神療法(お話を聞いて問題を一緒に考える)が行われます。お薬について疑問なことや心配なことはしっかり聞きましょう。

*心理カウンセラーによるカウンセリングは実施できるところとできないところがあります。 また,カウンセリングは自費診療になる場合もあります。かかっている医療機関に相談してみてください。

*精神科の外来通院には自立支援法に基づく,公費負担制度が適応できる場合があります。あなたの住んでいる市町村の担当窓口で申請できます。

こころの相談・治療機関ができること

眠れない,食欲がない,強い不安や恐怖で落ち着かないなどの症状が長く(数週間)続いている時

不安や不眠,気持の落ち込みなどの心の問題で,学校や職場に行くのが困難だったり,外出できないなど日常生活や社会生活に支障をきたしている時

死にたいあるいは,自分を傷つけたいという気持ちや行動がある時 気持がつらくてどうしたらよいかわからない時

こんな時には精神科や心療内科に相談しましょう

精神科や心療内科での治療や相談

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ご家族や周囲の方々へ (その1)

大切な人が被害にあうと,家族や周囲の方もショックを受け,どのように対応して

よいかわからなくなります。

でも,みなさんは被害にあわれた方にとって,とても安心や信頼を与えることの

できる重要な方たちです。みなさんができることは,実はたくさんあります。

• 特に被害直後は,被害者を一人にしないで,だれかがそばに付き添っている

ようにしましょう。 被害者が信頼して,安心できる人が一番よいです。

• 被害者は何も話すことができないかもしれません。無理に話をさせなくてもよ

いです。ただそばに寄り添って,一緒のときを過ごすだけでもよいのです。

(身体を触ることは注意してください。かえっておびえることがあります。

普段からそういう関係にない人は控えましょう)

• 被害者が話すときには,丁寧に耳を傾けましょう。その人の言うことをわかろう

と思って聞きましょう。またいろいろなことの相談相手になりましょう。

その時には被害者の気持ちや意思を尊重しましょう。

• あなたが,被害者を大切に思って気遣っていることや,被害者が悪いわけでは

ないということ,被害者を信じていること,できるだけ力になりたいと思っている

ことを少しずつ伝えていきましょう。

• 被害者の身体に気をつけてください。けがをしていないでしょうか? 医療機関

(産婦人科)のケアを受けていないようなら,受診をすすめるだけでなく,一緒

に探したり,付き添ってあげてください。

身近な人ができること

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• 被害者が安心して休める場所を探しましょう。

• 生活のことに気を配りましょう。食事や睡眠がとれているでしょうか?

食事や買い物など手助けが必要なことがあります。

• 被害後は刑事手続などわからないことがたくさんあります。

被害者が情報を集めたり,問い合わせたりする手助けをしたり,警察,

病院などに付き添えることを伝えてください。

• 周囲の人もケアを必要としています。

ご自身が支援機関に相談することも助けになります。

身近な人ができること(続き)

周囲の方の動揺した気持ちをそのまま被害者にぶつけると被害者は自分が否定されたり,わかってもらえないんだと思って,周囲の人を信じられなくなったり,話さなくなってしまうかもしれません。それを防ぐために,以下のことに気を付けて接してみてください。

被害者の話を聞こうとしなかったり,嫌な顔をしたりしないようにしましょう。

聞く方も,つらいですが,話す側はもっとつらいのです。

被害者の話を批判したり,否定しないようにしましょう。 「そんなはずはないでしょ!」とか「ありえない」とか言ってしまいがちです。

「あなたが不注意だった」,「そうしなければよかった」など被害者を責めたり,罪悪感を強めないようにしましょう。

被害者の気持ちを尊重して,静かにそっと見守ることも必要です。激励したり,「こうするように」と行動をせかしたり,お説教をしないようにしましょう。

不安定な状態は少しずつ改善しますが,時間がかかることが多いです。 早く回復するようにと焦らせないで,長い目で見守っていきましょう。

被害者を傷つけないために…

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ご家族や周囲の方々へ (その2)

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各機関の連絡先 1

名 称 電話番号

北海道 性犯罪被害110番 0120-756-310 011-242-0310

函館 性犯罪被害110番 0120-677-110 旭川 性犯罪被害110番 0120-677-110 釧路 性犯罪被害110番 0120-677-110

0154-24-0310 北見 被害者相談電話 0120-677-110 青森 性犯罪被害110番 0120-897-834 岩手 性犯罪相談電話 0120-797-874 宮城 性犯罪被害相談電話 022-221-7198 秋田 レディース通話110番 0120-028-110 山形 女性専用相談電話 023-615-7130 福島 性犯罪被害110番 0120-503-732

警視庁 警視庁犯罪被害者ホットライン 03-3597-7830

茨城 性犯罪被害相談「勇気の電話」 029-301-0278

栃木 性犯罪被害者相談電話 0120-710-873 群 馬 女性相談者専用電話 027-224-4356

警察安全相談電話 027-224-8080 埼玉 犯罪被害者支援室相談電話 0120-381-858 千 葉 女性被害110番 043-223-0110

相談サポートコーナー 043-227-9110 女性相談所 0120-048-224

神奈川 性犯罪被害110番 045-681-0110 新潟 女性被害110番 025-281-7890 山梨 性暴力110番 055-224-5110

長野 女性被害犯罪ダイヤルサポート110 026-234-8110

静岡 性犯罪被害110番 0120-783-870 富山 女性被害110番 0120-72-8730 石川 レディース通話110番 076-225-0281 福井 レディーステレホン 0120-29-2170

0776-29-2110 岐阜 性犯罪110番 0120-870-783

058-277-3783

名 称 電話番号

愛知 レディースホットライン 0120-67-7830 三重 警察総合相談電話 059-224-9110 滋賀 県民の声110番 077-525-0110 京都 レディース110番 075-411-0110

レディース相談 075-682-0913 大阪 ウーマンライン 06-6941-0110 兵庫 レディースサポートライン 078-351-0110 奈良 性犯罪被害相談110番 0742-24-4110 和歌山 性犯罪被害110番 073-432-0110 鳥取 性犯罪110番 0857-22-7110 島根 性犯罪110番 0852-23-4110

0120-110-267 岡山 性犯罪被害相談電話 0120-001-797 広島 性犯罪相談110番 0120-72-0110 山口 女性犯罪被害相談電話 083-932-7830

レディース・サポート110 0120-37-8387

徳島 子供・女性を守る通報ダイヤル 088-623-6110

香川 性犯罪被害専用相談電話 087-831-9110 (ハートフルライン)

愛媛 警察総合相談電話 089-931-9110 高知 女性被害相談電話 088-873-0110

「レディースダイヤル110番」 福岡 犯罪被害者相談電話 092-632-7830

ミズ・リリーフライン 佐賀 レディーステレホン 0952-28-4187 長崎 性犯罪被害110番 0120-110-874 熊本 レディース110番 0120-834-381

096-384-1254 大分 警察安全相談電話 097-534-9110 宮崎 女性被害相談電話 0985-31-8740 鹿児島 性犯罪被害110番 099-206-7867 沖縄 性犯罪被害者相談専用電話 098-868-0110

内閣府 犯罪被害者等施策トップ > 被害者支援の相談窓口 > 主な支援機関・団体 http://www8.cao.go.jp/hanzai/soudan/kikan/kikan.html

検察庁 トップページ > 犯罪被害者の方々へ http://www.kensatsu.go.jp/higaisha/index.htm

警察庁 警察による犯罪被害者支援ホームページ http://www.npa.go.jp/higaisya/home.htm

警察庁 性犯罪被害相談電話設置一覧表(平成25年4月30日現在)

最新の情報は,警察庁ホームページ「性犯罪被害相談電話設置一覧表」で確認できます。 http://www.npa.go.jp/consultation/sousa1/index.htm (ホームページには受付時間が記載されています。)

※受付時間は都道府県で異なります。 留守電等になっている 場合もあります。 20

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各機関の連絡先 2

21

名 称 電話番号 北海道 道南

(公益社団法人北海道家庭生活総合カウンセリングセンター内)北海道被害者相談室

011-232-8740 月~金 10時~16時

北海道 道北

(一般社団法人北・ほっかいどう総合カウンセリング支援センター内)北・ほっかいどう被害者相談室

0166-24-1900 月~ 木 10時~15時

青森 公益社団法人あおもり被害者支援センター 017-721-0783 月~金 10時~17時 水は20時30分まで 岩手 公益社団法人いわて被害者支援センター 019-621-3751 月~金 13時~17時 宮城 公益社団法人みやぎ被害者支援センター 022-301-7830 火~金 10時~16時 月は予約の相談日 秋田 公益社団法人秋田被害者支援センター 0120-62-8010/018-893-5937 月~金 10時~16時 山形 公益社団法人やまがた被害者支援センター 023-642-7830 月~金 10時~16時 福島 公益社団法人ふくしま被害者支援センター 024-533-9600 月~金 10時~16時 茨城 公益社団法人いばらき被害者支援センター 029-232-2736 月~金 10時~16時 栃木 公益社団法人被害者支援センターとちぎ 028-643-3940 月~金 10時~16時 群馬 公益社団法人被害者支援センターすてっぷぐんま 027-243-9991 月~金 10時~15時 千葉 公益社団法人千葉犯罪被害者支援センター 043-225-5450 月~金 10時~16時 東京 公益社団法人被害者支援都民センター 03-5287-3336 月・木・金 9時30分~17時30分 火・水 ~19時 埼玉 公益社団法人埼玉犯罪被害者援助センター 048-865-7830 月~金 9時~16時 神奈川

認定NPO法人神奈川被害者支援センター

045-311-4727 月~土 9時~17時 045-328-3725 月~金 10時~16時 (性被害専用)

新潟 公益社団法人にいがた被害者支援センター 025-281-7870 月~金 10時~16時 石川 公益社団法人石川被害者サポートセンター 076-226-7830 火~土 13時30分~16時30分 福井 公益社団法人福井被害者支援センター 0120-783-892/0776-88-0801 月~金 10時~16時 富山 公益社団法人とやま被害者支援センター 076-413-7830 月~金 10時~16時 長野

認定NPO法人長野犯罪被害者支援センター

026-233-7830 長野相談室 0263-73-0783 中信相談室 0265-76-7830 南信相談室 月~金 10時~16時

山梨 公益社団法人被害者支援センターやまなし 055-228-8622 月~金 10時~16時 岐阜 公益社団法人ぎふ犯罪被害者支援センター 0120-968-783/058-268-8700 月~金 10時~16時 静岡 NPO法人静岡犯罪被害者支援センター 054-651-1011 月~金 10時~16時 愛知 公益社団法人被害者サポートセンターあいち 052-232-7830 月~金 10時~16時 三重 公益社団法人みえ犯罪被害者総合支援センター 059-221-7830 月~金 10時~16時 滋賀 NPO法人おうみ犯罪被害者支援センター 077-525-8103/077-521-8341 月~金 10時~16時 京都 公益社団法人京都犯罪被害者支援センター 075-451-7830/0120-60-7830 月~金 13時~18時 大阪 認定NPO法人大阪被害者支援アドボカシーセンター 06-6774-6365 月~金 10時~16時 兵庫 公益社団法人・NPO法人ひょうご被害者支援センター 078-367-7833 火・水・金・土 10時~16時

奈良 公益社団法人なら犯罪被害者支援センター

0742-24-0783 月~金 10時~16時 0744-23-0783 中南和相談コーナー 火のみ 10時~16時

和歌山

公益社団法人紀の国被害者支援センター

073-427-1000 月~金 10時~16時 土13時~16時 第1・3土は女性の被害に関する専門相談日

島根 一般社団法人島根被害者サポートセンター 0120-556-491 月~金 10時~16時

岡山 公益社団法人被害者サポートセンターおかやま (VSCO)

086-223-5562 月 ~土 10時~16時

広島 公益社団法人広島被害者支援センター 082-544-1110 月・水・木・土 10時~16時 山口 NPO法人山口被害者支援センター 083-974-5115 月~金 10時~16時 鳥取 公益社団法人とっとり被害者支援センター 0857-30-0874 月~金 10時~16時

全国被害支援ネットワーク加盟組織一覧(NPO法人全国被害者支援ネットワークホームページ) http://www.nnvs.org/list/index.html

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各機関の連絡先 3

性暴力被害専用の相談窓口(2014年3月現在)

名 称 電話番号

愛媛 一般社団・NPO法人被害者こころの支援センターえひめ 089-905-0150 火~土 10時~16時 高知 NPO法人こうち被害者支援センター 088-854-7867 月~金 10時~16時 香川 NPO法人被害者支援センターかがわ 087-897-7799 月~金 10時~16時 徳島 公益社団法人徳島被害者支援センター 088-678-7830 月・水・木・金 9時~16時 福岡 公益社団法人福岡犯罪被害者支援センター 092-735-3156 月~金 10時~16時 佐賀 NPO法人被害者支援ネットワーク佐賀VOISS 0952-33-2110 月~金 10時~17時 長崎 公益社団法人長崎犯罪被害者支援センター 095-820-4977 月~金・第2土 10時~16時 熊本 公益社団法人くまもと被害者支援センター 096-386-1033 月~金 10時~16時 大分 公益社団法人大分被害者支援センター 097-532-7711 月~金 10時~16時 宮崎 公益社団法人みやざき被害者支援センター 0985-38-7830 月~金 10時~16時 鹿児島 公益社団法人かごしま犯罪被害者支援センター 099-226-8341 火~土 10時~16時 沖縄 公益社団法人沖縄被害者支援ゆいセンター 098-866-7830 月~金 10時~16時

名 称 電話番号 北海道

性暴力被害者支援センター北海道 SACRACH

050-3786-0799 月~金 13時~20時 土日祭日・12/29-1/3除く

福島

性暴力被害救援協力機関(SACRAふくしま) SACRAホットライン

024-533-3940 月・水・金 10時~20時 火・木 10時~16時 土日・祝祭日 年末年始を除く

東京

性暴力救援センター・東京(SARC東京)

03-5607-0799 24時間ホットライン http://mobilesaq-en.mymp.jp/

レイプクライシスセンター つぼみ

03-5577-4042 月~金 14時~17時 祝日除く http://crisis-center-tsubomi.com/

愛知 ハートフルステーション・あいち 0570-064-810 月~土 9時~20時 (ただし,愛知県内から通話可能)

大阪

性暴力救援センター・大阪(SACHICO)

072-330-0799 24時間ホットライン http://www.sachico.jp/

兵庫

性暴力被害者支援センター・神戸

078-993-1225 月~金 9時~17時 土9時~13時 日祝・年末年始休み http://1kobe.jimdo.com/

和歌山

性暴力救援センター和歌山 わかやまmine(マイン)

073-444-0099 相談・医療 9時~17時 (土日~16時30分,祝日・年末年始除く) 緊急医療 9時~22時 (年末年始を除く)

島根

しまね性暴力被害者支援センター 「さひめ」

0852-28-0889 http://sahime.onnanokonotameno-er.com/

福岡 性暴力被害者支援センターふくおか 092-762-0799 年末年始を除く全日9時~24時

佐賀

性暴力救援センター・さが

0952-26-1750 月~金 9時~17時(救急受診はこの限りではない) http://www.avance.or.jp/mirai.html

全国被害支援ネットワーク加盟組織一覧(つづき)

法テラス(日本司法支援センター) ホーム > 法テラス犯罪者被害者支援 http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/

日本弁護士連合会 HOME > 法律相談ガイド > 犯罪の被害に遭われた方へ http://www.nichibenren.or.jp/contact/crime_victims.html

全国の精神保健福祉センター一覧(厚生労働省) http://www.mhlw.go.jp/kokoro/support/mhcenter.html

(本冊子の参考文献) 小西聖子著『[増補新版]犯罪被害者の心の傷』(白水社, 2006) 22

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性暴力被害についての誤解・偏見

幼い子どもから高齢者まで,あらゆる年代の女性が被害にあっています。女性だけでなく,男性も被害にあっています。

“若い女性にだけ レイプ被害は 起きる”

実際には,被害女性の多くは特別に挑発的な服装をしているわけではありません。しかし,被害者がどのような服を着ていたとしても,どのような行動であったとしても,相手が望まない行為をしてはいけないのです。

“被害者側の 服装や行動が

被害をもたらす”

被害者は,「抵抗しない」のではなく,「抵抗できない」のです。抵抗したら殺される,とてもかなわないと思ったり,恐怖心のために,声をあげることさえできないのです。脅しやお酒などで抵抗できなくされていることもあります。

“抵抗しなかったのは 「合意があった」 ということだ”

内閣府の調査によると,一生の間でレイプの被害を経験したことがある女性は全体のおおよそ6~7%います。 実際には,15-16人に1人が被害にあっているのです。

“日本で被害に あうことは

まれなことだ”

内閣府の調査によると,顔見知りの者やよく知っている者からの被害が約8割になっています。むしろ見知らぬ人からの被害の方が少ないのです。

“加害者は 見知らぬ人が多い”

性暴力被害については,さまざまな誤解や偏見があるため,被害者自身も,

それを信じていて,自分を責めていることがあります。ここであげたのは一部ですが,

このような誤解や偏見で自分を責めないようにしましょう。

ごかい へんけん

ていこう

(参考資料)

23

ご か い へんけん

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犯罪の発生

捜査の開始

被疑者の特定

逮 捕

不起訴

裁 判

判 決

<刑事手続の流れ>

・・・届出,110通報

・・・事情聴取 証拠品の提出 実況見分の立ち会い

任意捜査

送 致

勾 留

起 訴

48時間 以内

最長20日

捜査 犯人を捕まえ,証拠を収集して事実を明らかにし,事件を解決するために行う活動を捜査といいます。 警察が一定の証拠に基づいて犯人であると認める者を被疑者といい,警察は,必要な場合には被疑者を逮捕しますが,逮捕してから48時間以内に,その身柄を検察官に送ります。 これを受けた検察官が,その後も継続して被疑者の身柄を拘束する必要があると認める場合には,裁判官に対して勾留の請求を行い,裁判官がその請求を認めると,被疑者は最長で20日間勾留されることとなります。 被疑者が勾留されている間にも,警察は,様々な捜査活動を行います。 *被疑者が逃走するおそれがない場合などには,被疑

者を逮捕しないまま取調べ,証拠をそろえた後,捜査結果を検察官に送ることとなります。

任意捜査

犯人を明らかにし,犯罪の事実を確定し,科すべき刑罰を定める手続きのことを 刑事手続といい,これは,大きく,捜査,起訴,公判の3つの段階に分かれます。

起訴 検察官は,勾留期間内に,被疑者を裁判にかけるかどうかの決定を行います。 裁判にかける場合を起訴 裁判にかけない場合を 不起訴,といいます。 *起訴については,

・通常の公開の法廷での裁判を請求する公判請求 ・一定の軽微な犯罪について書面審理により罰金や科料を命ずる裁判を簡易裁判所に対して請求する略式命令起訴 とがあります。

また,被疑者を逮捕しない事件送致の場合には,送致を受けた検察官は,事件について必要な捜査を行った後に,被疑者を裁判にかけるかどうかの決定を行います。 なお,起訴された被疑者を被告人といいます。

公判 被疑者が起訴され,公判が開かれる日が決められた後,審理が行われ,判決が下されます。 公判手続きの間,被告人が逃亡するおそれがあるなどの場合には,裁判所は,被告人を勾留することとなります。 *犯人が少年(20歳未満)の場合には,少年審判手続き等による場合があり,手続きに違いがあります。

*24-25ページは,警察庁ホームページ(http://www.npa.go.jp/higaisya/home.htm)の 内容を引用して記載しています。

刑事手続きの流れと警察からの被害にあわれた方へのお願い (参考資料)

24

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<警察からの被害者の方へのお願い>

被害者の方には,刑事手続上必要な様々なお願いをし,そのことでご負担をおかけすることもあると思います。

ご本人にとっては,早く忘れたい事件をもう一度思い出すようでつらいことと思いますが,犯人を逮捕し,厳しく処罰する上で非常に重要なことばかりです。

あなたのため,そして同じような被害に遭う人をなくすためにも,是非ともご協力をいただきたいと思います。具体的には次のようなことがあります。

事情聴取

証拠品の提出

実況見分の 立会い

検察官による事情聴取

公判での証言

犯行の状況や犯人の様子などについて詳しくお聞きします。 被害者の方には思い出したくないこと,言いたくないこともあるかと思いま

すが,犯人を捕まえて事件を解決するため,ご協力をお願いします 詳しいことが分かれば分かるほど,捜査もスムーズになり,犯人の早期検

挙につながります。

被害当時に着ていた服,持っていた物などを証拠品として提出いただくことがあります。これらは物的証拠として公判において非常に重要なものですので,ご協力ください。

証拠として提出していただいた物は,捜査上も裁判上もこちらで保管する必要がなくなれば,裁判が終わらない段階でもお返しいたします。(還付)

その証拠品をまだ保管する必要があっても,所有者の方が返してもらいたいときには,請求していただければ,仮にお返しすることができる場合もあります。(仮還付)

また,返してもらう必要がないと思われるものは,提出時などに所有権放棄の手続きをしていただければ,捜査上も裁判上もこちらで保管する必要がなくなった後に,他人の目に触れないように処分いたします。

実況見分は,事件に遭った状況などを明らかにするために行います。 被害者の方には,状況の説明のため,立ち会っていただくこともあります。 ある程度の時間がかかりますが,事実の解明や立証に不可欠な場合に

行うものですので,ご協力をお願いします。

被害者の方は,警察官による事情聴取のほかに,検察官からも事情を聴かれることもあります。「どうして同じ事を繰り返し聴かれるのだろう」と思われるかもしれませんが,検察官が起訴,不起訴の判断をするために重要なものですからご理解ください。

公判がはじまると,被害者の方に裁判所で証言していただく必要が出てくる場合もあります。

25

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本冊子の制作: 淺野敬子,中島聡美,金吉晴 〒187-8553 東京都小平市小川東町4-1-1 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部

制作年月日: 2014年3月 この冊子の全部あるいは部分の無断転載を禁じます。

この冊子は,平成23-25年度厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))「大規模

災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と対応ガイドラインの作成・評価に関する研究」(研究代表者金吉晴)による研究の成果として作成されました。

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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))

大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究

平成 25 年度 分担研究報告書

東日本大震災後の宮城県職員の精神健康状態と関連要因: ① バーンアウトとその関連要因の検討

分担研究者 ○鈴木友理子 独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所

成人精神保健研究部 災害等支援研究室長

研究協力者 深澤 舞子 独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究

金 吉晴 独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所

(○は執筆者)

研究要旨

【目的】自治体職員は災害後、自ら被災しながら膨大な業務に追われる。時間が経過する

と、精神健康とともに、バーンアウトが労務管理上の課題となる。行政職員のバーンアウ

トの状態およびその関連要因を明らかにすることを目的とした。

【方法】東日本大震災の発生後に 3 回実施された宮城県職員の自記式健康調査の第 1 回調

査(2011 年 5 月)、第 2 回調査(同 10 月)、第 3 回調査(2012 年 7 月)のデータを連結し

て、すべての調査に回答した 3,174 名(全職員の 60.0%)を解析対象とした。分析のアウト

カムは職務上のバーンアウト(Maslach Burnout Inventory-General Survey MBI)とし、震災業

務、過重労働、職場環境、被災状況、基本属性の領域の要因について、関連を検討した。

【結果】バーンアウトが疑われたものは、481 人(15.1%)であった。バーンアウトのリスク

を高めていたのは、女性、最長労働月の時間外勤務、調査時点で休息が不十分なこと、職

場内コミュニケーションが不良であること(2011 年 5 月と、2012 年 7 月)、半壊以上の家

屋損壊であった。疲弊感については、女性、保健福祉部、調査時点での震災関連業務の従

事、調査前月の時間外勤務時間、自宅外生活が影響を与えていた。シニシズムについては、

女性、最長労働月の時間外勤務、調査時点で休息が不十分なことと職場内コミュニケーシ

ョン不良が関連していた。職務効能感の低下には、女性、50-65 歳、調査時点での職場内コ

ミュニケーション不良が関連していた。

【結論】バーンアウトには、過重労働、職場環境といった平常時に共通するリスクファク

ターに加えて、災害時の要因として、家屋損壊はリスクを増していたが、震災関連業務が

リスクを増すという仮説は支持されなかった。過重労働については、最長労働月の時間外

勤務、調査時点の不十分な休養が、職場環境については、震災初期と調査時点のコミュニ

ケーションの状態が影響を与えていた。

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A.研究目的

2011年 3月11日に発生した東日本大震災

後、被災自治体の行政職員の業務は増大し、

健康への悪影響が懸念されている。東日本

大震災の被災地における行政職員のストレ

スに対し、多くの現場からの支援経験をも

とに警鐘が鳴らされている(加藤,他, 2011)。

このような現場からの声を集約して、日本

精神神経学会からも「被災自治体(県、市

町村)職員の健康に関する緊急要請」とし

て声明が発せられた

(http://www.jspn.or.jp/info/daishinsai/taisaku_i

nfo/geje_emergency_appeal2011_07_21.html)。

宮城県では、東日本大震災後に職員の心

身の健康状態への意識を促し、メンタルヘ

ルス維持のために職員を対象とした健康調

査が実施された。これらのデータを二次解

析した結果、震災から 2 か月後の第 1 回調

査から被災の程度が大きいことが、行政職

員のメンタルヘルスに影響を与えており、

精神的不調者の割合は、被災規模が大きか

った職員で多く、これらで異なるリスクフ

ァクターが明らかになった(Fukasawa, In

press)。また、震災から 7 か月後の第 2 回調

査から、週 1 日程度の休暇をとること、職

場のコミュニケーションのレベルによって、

精神健康に影響を与える要因は異なってお

り、特にコミュミケーションが良くない職

員においては、被災後の苦情対応、被災状

況などが影響を与えていることが明らかに

なった(Suzuki, In press)。

時間が経過すると、精神健康とともに、

バーンアウトが労務管理上の課題であると

現場から指摘があり、被災後の行政職員の

バーンアウトおよびその関連要因を明らか

にすることが、今後のメンタルヘルス対策

に資することと考えられた。そこで、本研

究では、震災から 16 か月後に行われた第 3

回健康調査データを二次解析して、行政職

員におけるバーンアウトの程度を測定し、

震災関連業務、長時間労働、職場環境、被

災状況の領域から、その関連要因を検討し

た。 仮説としては、バーンアウトには、平常

時に報告されている長時間労働、職場環境

といった要因に加え、震災関連業務や被災

状況が影響を与えている、とした。また、

バーンアウトは、情緒的消耗感、シニシズ

ム、職務効能感の低下の3つの下位尺度に

よって構成されるが(Maslach, 1986, Maslach,

2002)、特に情緒的消耗感については、震災

関連業務の影響の程度が大きいという仮説

をもち、これを検証した。

B.研究方法

1)対象

宮城県の全職員 5,305 名が健康調査の対

象とされた。

2)デザイン

上記を対象とした縦断調査を行った。第

1 回調査は 2011 年 5 月、第 2 回調査は 2011

年 10 月、第 3 回調査は 2012 年 7 月に実施

された。本解析は、第 3 回目調査のバーン

アウト状態をアウトカムとし、第1回調査、

第3回調査時の状況を説明変数として分析

した、横断研究である。

3)調査方法

宮城県の厚生課を通じて、宮城県の全職

員に対して、職員ポータルサイトを通じて

実施された。記名による自記式調査である。

本研究は、匿名化したデータを二次使用の

許可を得て実施した。

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4)観察項目

(1) 職務上のバーンアウトとして、Maslach Burnout Inventory-General Survey 日本

語版を使用した(北岡, 2011)。 バーンアウトとは、職場環境で、情緒的、

対人関係上のストレスに反復的、そして持

続的にさらされることで生じる心理的反応

である(Maslach, 1986)。 Maslach は、この

ような状態をバーンアウトと定義し、心理

尺度を開発し、これは疲弊感、シニシズム、

職務効能感の低下という3つの側面に分け

られるとした(Maslach, 2001)。なかでも、疲

弊感がその状態像の中核をなし(Koeske,

1989)、シニシズムに影響を与えると考えら

えている(Bakker, 2000)。また、疲弊感が続

くことで、職務効能感の低下につながるこ

とが指摘されているが、独立した側面であ

るという報告もある(Toppinen-Tanner, 2002)。

バーンアウトの評価にはいくつかの方法が

報告されているが(Maslach, 1986)、ここでは

まず、疲弊感、シニシズム、職務効能感の

低下のそれぞれの下位尺度において上位

25%のものをハイリスク群と区分した。そ

して、疲弊感の他に 1 つ以上の下位尺度で

ハイリスクの基準を満たしたものを、バー

ンアウト疑いと定義した。この「疲弊感+1」はオランダ、スウェーデンの産業保健

の場面で用いられている基準であるが、日

本における妥当性の検証は行われていない

(北岡, 2011)。

(2) 震災関連業務変数として、所属(2011 年

5 月)、震災関連業務への従事の有無(2011年 5 月)、従事の程度に関する 5 段階評価

(2012 年 7 月)、苦情対応、遺体関連業務(そ

れぞれ 2011 年 5 月)の自己申告を求めた。

震災関連業務の従事の程度(2012 年 7 月)については、本来業務として行っている・

災害関連業務中心とそれ以外(本来業務と

災害関連業務が同程度・本来業務中心・震

災関連業務は行っていない)に区分した。 (3) 長時間労働として、前月および最長労働

月の時間外労働時間(2012 年 7 月)を尋ねた。

記入された時間数を、20 時間未満、20 時間

以上 40時間未満、40時間以上に区分した。

休養については、休日の有無(2011 年 5 月)、休養がとれているか(2012 年 7 月)に関す

る自己申告を求めた。休養がとれているか

は、十分取れている、まあまあ取れている、

どちらともいえない、あまりとれていない、

ほとんどとれていない、の 5 段階評価を求

め、十分とれている・まあまあとれている、

それ以外に区分した。 (4) 職場環境として、被災地域(内陸部/沿岸部)(2011 年 5 月)、職場コミュニケーシ

ョン(2011 年 5 月、2012 年 7 月)を尋ねた。

2011 年 5 月には、かなりとれている、まあ

まあとれている、とれていないの 3 段階、

2012 年 7 月には、かなりとれている、まあ

まあとれている、どちらともいえない、と

れていないの 4 段階で主観的評価を求め、

まあまあとれている・かなりとれている/とれていない・どちらともいえない、に区分

した。 (5) 被災状況として、家屋損壊(2012年 7月)、喪失体験(2011 年 5 月)、避難所生活(2011年 5 月)を検討した。 (6) 基本属性として、性、年齢(10 歳階級)、

を尋ねた。

5)統計解析

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分析対象は、調査に回答した宮城県職員

(1 回目調査 4,334 名、2 回目調査 4,413

名、3 回目調査 4,662 名)のうち、1 回目

調査から 3 回目調査のデータを連結して、

全ての調査に回答した 3,174 名(全職員の

60.0%)である。

分析のアウトカムは、第 3 回調査時点に

バーンアウトが疑われるものとした。この

バーンアウト疑いを予測する変数を同定す

るために、多変量ロジスティック解析を行

った。説明変数としては、震災業務、長時

間労働、職場環境、被災状況のそれぞれの

領域の変数を検討した。また、基本属性と

して、性、年齢(10 歳階級)の変数を一括投

入して、それぞれのオッズ比および 95%信

頼区間を算出した。

また、MBI の 3 つの下位尺度についても、

それぞれ上位 25%のものをハイリスク集団

として、これらを予測する変数を同定する

ために、同様の分析を行った。

解析は全て Stata 12.0 for Windows

(StataCorp LP, College Station, TX)を用いて

行った。有意水準は 0.05 とし、両側検定を

用いた。

6)倫理的配慮

本研究計画は国立精神・神経医療研究セ

ンター倫理委員会にて承認された。

C.結果

バーンアウトと説明変数の二変量解析の

結果を表1、表2に示す。女性、30-39 歳、

保健福祉部、2012 年 7 月に震災関連業務へ

の従事があったこと、苦情相談対応、2012

年 7月の時間外労働時間が 20時間以上の区

分、最長労働月の時間外勤務が 40 時間以上

の区分、2012 年 7 月に十分な休養が取れな

いこと、沿岸部勤務、2011 年 5 月と 2012

年 7 月の職場内コミュニケーションが良く

ないことにおいて、バーンアウトが疑われ

るものではこれらの割合が統計的に有意に

多かった。震災関連要因については、差異

は見られなかった。

バーンアウトの下位尺度と説明変数の二

変量解析の結果を表3、4に示す。疲弊感

については、上記に加え、2011 年 5 月まで

に自宅外生活があった、現在もしている者

では、疲弊感のハイリスクが疑われる者の

割合が有意に多かった。

シニシズムについては、2012 年 7 月に震

災関連業務への従事があったこと、苦情相

談対応、業務地域以外において、疲弊感と

関連している要因と同じ変数において、ハ

イリスクが疑われる者の割合が有意に多か

った。

職務効能感の低下については、女性、2012

年7月に休養が十分とれていないこと、2011

年 5 月と 2012 年 7 月の職場内コミュニケー

ションが良くないことにおいて、ハイリス

クと考えられる者の割合が有意に多かった。

多変量分析の結果を表5に示す。説明変

数を一括投入して調整した結果、バーンア

ウトのリスクを高めていたのは、女性、最

長労働月の時間外勤務が 40 時間以上 80 時

間未満、80 時間以上、同時点で休息が不十

分なこと、職場環境として、2011 年 5 月と、

2012 年 7 月の職場内コミュニケーションが

不良、被災状況として、家屋損壊が半壊以

上であった。

疲弊感のリスクを高めていたのは、女性、

保健福祉部、2012 年 7 月の震災関連業務の

従事、2012 年 7 月の時間外労働が 20 時間

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以上40時間未満、40時間以上80時間未満、

80 時間以上、最長労働月の時間外労働が 80

時間以上、2012 年 7 月に休息が不十分なこ

と、職場環境として、2011 年 5 月と 2012

年 7 月の職場内コミュニケーションが不良、

被災状況として、2011 年 5 月に自宅以外で

の生活があった、現在もしていることであ

った。

シニシズムのリスクを高めていたのは、

女性、最長労働時間月の時間外勤務が 20 時

間以上のすべての区分、2012 年 7 月に休養

が十分でないこと、職場環境として、2011

年 5 月と 2012 年 7 月の職場内コミュニケー

ションが不良では有意差は認められた。

50-65 歳であることは、18-29 歳であること

に比べるとリスクは低かった。

職務効能感の低下のリスクを高めていた

のは、女性、50-65 歳、2012 年 7 月の職場

内コミュニケーションが不良のみが関連し

ていた。

D.考察

1)バーンアウトの関連要因

バーンアウトに関連していた要因は、過

重労働として最長労働月の時間外勤務(特

に 40 時間以上の時間外労働)、そして調査

時点で休息をとれないこと、職場環境(2011

年 5 月、2012 年 7 月時の職場コミュニケー

ション不良)、被災状況(家屋損壊が半壊以

上)、基本属性としては女性であることがリ

スクを高めていた。過重労働、職場環境と

いった平常時に共通するリスクファクター

に加えて、災害時の要因である家屋損壊は

リスクを増すが、震災関連業務がリスクを

増すという仮説は支持されなかった。災害

関連業務(遺体関連業務、苦情対応)の欠

損の割合が多かったことがその一因として

考えられる。過重労働については、時期は

特定できないが、最も長時間勤務した月の

時間外労働時間とバーンアウト測定時の状

況が影響を与えており、職場環境としての

コミュニケーションは、震災初期(2か月

後)の状態も影響を与えていた。つまり、

震災後の多忙を極める時期の、過重労働、

職場のコミュニケーションの状態がその後

のバーンアウトを予測することが示唆され

た。しかし、コミュニケーションの質は、

「上司・同僚・部下とのコミュニケーショ

ンはとれている」という 1 項目に対して本

人の主観的回答を求めたものなので、この

妥当性、そして主観的評価がコミュミケー

ションの質、そしてバーンアウト双方に影

響を与えた可能性もある。なお、統計的な

有意水準は満たさなかったが、50-65 歳では

バーンアウトについて保護的な影響を与え

る傾向がみられた。

2)疲弊感の関連要因

疲弊感に関連していた要因は、保健福祉

部での勤務、調査時点での震災関連業務へ

の従事があったこと、過重労働(2012 年 7

月の時間外労働が 20-40 時間、40-80 時間、

80 時間以上)、最長労働月の 80 時間以上の

時間外労働、2012 年 7 月に休養が取れない

ことであった。職場環境として、職場内コ

ミュニケーションが良くないこと(2011 年

5 月、2012 年 7 月とも)はバーンアウトと

同様に関連していた。被災状況については、

2011 年 5 月に自宅以外で生活している、そ

れ以前に生活していたことがリスクを高め

ていた。基本属性として、女性であること

が疲弊感のハイリスクであることに関連し

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ていた。疲弊感はバーンアウトの中核的要

素といわれるが、バーンアウト測定時点だ

けでなく、震災初期の過重労働と自宅外生

活が影響を与えていた。震災から 1 年後に

おいても震災関連業務に従事していること、

また保健福祉部という対人サービスに従事

しているといった業務内容が情緒的疲弊感

に影響を与えていたことが示唆された。し

かし、具体的な震災関連業務として、遺体

関連業務、苦情相談対応については、関連

が認められなかった。これも先述のように、

震災関連業務に関する情報に欠損値が多か

ったために、この影響が適切に把握されな

かった可能性もあるので、さらに情報収集

の精度を上げて検討することが必要である。

3)シニシズムの関連要因

シニシズムとの関連を検討したところ、

過重労働として、最長労働月の時間外勤務、

調査時点で休息がとれないこと、職場環境

として、職場内コミュニケーションが不良

であること(2011 年 5 月、2012 年 7 月とも)

が関連していた。震災関連業務および被災

状況に関する変数との有意な関連は見られ

なかった。シニシズムとは、仕事への無関

心や、仕事への距離感を示すもので、興味

や熱意を失っている状態を尋ねている。労

働時間の量とともに、職場内コミュニケー

ションといった質がここでも影響していた。

年齢が 50-65 歳であることはシニシズムの

リスクを低減していた。年齢の影響につい

ては後述したい。

4)職務効能感の関連要因

職務効能感の低下と関連していたのは、

職場内コミュニケーションが不良であるこ

と(2012 年 7 月のみ)、女性、年齢が 50-65

歳であることであった。震災関連業務、過

重労働、被災状況の影響はなかった。職務

効能感とは、仕事に対する自信ややりがい

を意味しているが、疲弊感、シニシズムと

異なり、過重労働や被害状況の影響はみら

れなかった。

5)年齢の影響

年齢の影響は、特に 50-65 歳の職員は、

バーンアウトとシニシズムについてはリス

クを低減する傾向に作用し、職務効能感の

低下についてはリスク高めていたという独

特の作用がみられた。つまり、これらの年

代の職員は、30 歳未満の職員に比べて、仕

事に対する自信ややりがいを持てていない

ものの割合が多いが、必ずしも、シニシズ

ムといった興味や熱意を失っているものの

割合が多いわけではなく、全体としてこの

年代ではバーンアウトのリスクは低減して

いた。これは、50-65 歳の職員の職位やそれ

にまつわる職務上の裁量や管理責任の大き

さが影響している可能性がある。しかし、

今回の調査では、職位や職務上の権限やコ

ントロールの範囲といった、いわゆる仕事

の要求度‐コントロールモデルのうち、コ

ントロール側の要因を十分に検討しおらず、

この点が本研究の限界である。

E.結論

バーンアウトには、過重労働、職場環境

といった平常時に共通するリスクファクタ

ーに加えて、災害時の家屋損壊はリスクを

増すが、震災関連業務がリスクを増すとい

う仮説は支持されなかった。過重労働につ

いては、最長労働月の影響とともに、調査

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時点に休養がとれないことが影響しており、

職場環境としてのコミュニケーションにつ

いても、震災初期および調査時点の状態も

影響を与えていた。

バーンアウトの下位尺度のうち、疲弊感

は、震災関連業務、長時間労働、職場環境、

被災状況の影響がみられた。シニシズムは、

過重労働のなかでも最長労働月の時間外労

働時間、調査時点に休息が不十分なこと、

職場内コミュニケーションについては、2

時点とも影響を与えていた。職務効能感の

低下については、調査時の職場内コミュニ

ケーションが不良であることが影響を与え

ていた。

震災関連業務については、今回の分析で

は、バーンアウト、その下位尺度に影響を

与えていなかったが、欠損値が多かったこ

とがその一因としても考えられるので、今

後はさらにこれらの情報の精度を上げて検

討する必要がある。

【参考文献】

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Page 103: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

1.論文発表

2.学会発表

G.知的所有権の取得状況

1.特許取得

2.実用新案登録

3.その他

いずれもなし

Page 104: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

N % n % n % df χ2

3,174 481 2,693基本属性

男性 2,449 77.2 319 66.3 2,130 79.1 1 0.9 **女性 725 22.8 162 33.7 563 20.9

18-29歳 397 12.5 70 14.6 327 12.1 3 44.8 **30-39歳 777 24.5 159 33.1 618 23.040-49歳 1,114 35.1 172 35.8 942 35.050-65歳 886 27.9 80 16.6 806 29.9

被災状況

半壊未満 2,717 85.7 396 82.5 2,321 86.2 1 4.6半壊以上 455 14.3 84 17.5 371 13.8

家族の死・行方不明等

無 3,095 97.5 470 97.9 2,625 97.5 1 0.3有 78 2.5 10 2.1 68 2.5

自宅外生活(避難所など)(2011年5月)

なし 2,456 77.5 348 72.7 2,108 78.3 2 8.5あった 657 20.7 123 25.7 534 19.8現在もしている 58 1.8 8 1.7 50 1.9

Note. Chi-square tests were used. *: p < 0.05, **: p < 0.01

年齢

自宅への被害

表1. Maslach Burnout Inventoryによるバーンアウトと基本属性と被災状況の領域の関連要因のχ2検定の結

その他バーンアウト

高得点群全員

性別

Page 105: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

N % n % n % df χ2

3,174 481 2,693

保健福祉部 560 17.6 107 22.3 453 16.8 1 8.3 **その他 2,614 82.4 374 77.8 2,240 83.2

震災関連業務への従事(2011年5月)

無 760 24.0 116 24.2 644 23.9 1 0.0有 2,413 76.1 364 75.8 2,049 76.1

震災関連業務への従事(2012年7月)1)

無 2,557 80.6 371 77.1 2,186 81.2 1 4.3 *有 617 19.4 110 22.9 507 18.8

遺体関連業務

なし 2,204 91.5 335 92.0 1,869 91.4 1 0.2あり 206 8.6 29 8.0 177 8.7

苦情相談対応

なし 2,195 91.1 319 87.6 1,876 91.7 1 6.2 *あり 215 8.9 45 12.4 170 8.3

調査前月の時間外勤務(2012年7月)

0-20時間 2,411 76.0 304 63.2 2,107 78.2 3 68.3 **20-40時間 486 15.3 98 20.4 388 14.440-80時間 241 7.6 63 13.1 178 6.680時間以上 36 1.1 16 3.3 20 0.7

最長労働月の時間外勤務(2012年7月)

0-20時間 928 29.2 109 22.7 819 30.4 3 23.2 **20-40時間 662 20.9 89 18.5 573 21.340-80時間 926 29.2 151 31.4 775 28.880時間以上 658 20.7 132 27.4 526 19.5

休養(2011年5月)

とれていない 145 4.6 25 5.2 120 4.5 1 0.5とれている 3,028 95.4 455 94.8 2,573 95.5

休養(2012年7月)

十分・まあまあとれている 2,385 75.1 241 50.1 2,144 79.6 1 190.3 **どちらともいえない・あまり・ほとんどと 789 24.9 240 49.9 549 20.4

業務地域

内陸部 2,695 84.9 391 81.3 2,304 85.6 1 5.8 *沿岸部 479 15.1 90 18.7 389 14.4

上司・同僚・部下とのコミュニケーション(2011年5月)

まあまあ・かなりとれている 3,085 97.2 448 93.1 2,637 98.0 1 35.1 **とれていない 88 2.8 33 6.9 55 2.0

上司・同僚・部下とのコミュニケーション(2012年7月)

まあまあ・かなりとれている 2,857 90.0 354 73.6 2,503 92.9 1 169.9 **とれていない・どちらともいえない 317 10.0 127 26.4 190 7.1

Note. Chi-square tests were used. *: p < 0.05, **: p < 0.01

表2. Maslach Burnout Inventoryによるバーンアウトの下位尺度と震災関連業務、長時間労働、業務環境の領域の関連要因のχ2検定

の結果

1) 有:本来業務として行っている・災害関連業務中心、無:本来業務と災害関連業務が同程度・本来業務中心・災害関連業務

は行っていない

震災関連業務

所属(2011年5月)

長時間労働

職場環境

その他バーンアウト

高得点群全員

Page 106: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

表3.

Mas

lach

Bur

nout

Inve

ntor

yによ

るバ

ーン

アウ

トと

基本

属性

と被

災状

況の

領域

の関

連要

因のχ2 検

定の

結果

n%

n%

dfχ2

n%

n%

dfχ2

n%

n%

dfχ2

697

2,47

474

52,

429

857

2,31

7基

本属

男性

475

67.9

1,97

479

.81

44.1

**53

371

.51,

916

78.9

117

.4**

637

74.3

1,81

278

.21

5.3

**女

性22

532

.150

020

.221

228

.551

321

.122

025

.750

521

.8

18-2

9歳10

114

.429

612

.03

52.0

**10

313

.829

412

.13

55.8

**93

10.9

304

13.1

33.

630

-39歳

216

30.9

561

22.7

228

30.6

549

22.6

206

24.0

571

24.6

40-4

9歳25

937

.085

534

.628

338

.083

134

.231

436

.680

034

.550

-65歳

124

17.7

762

30.8

131

17.6

755

31.1

244

28.5

642

27.7

被災

状況

半壊

未満

582

83.4

2,13

586

.31

3.8

630

84.7

2,08

786

.01

0.8

717

83.7

2000

86.4

13.

8半

壊以

上11

616

.633

913

.711

415

.334

114

.014

016

.331

513

.6家

族の

死・

行方

不明

無68

497

.92,

411

97.5

10.

472

597

.52,

370

97.6

10.

083

697

.622

5997

.51

0.0

有15

2.2

632.

619

2.6

592.

421

2.5

572.

5自

宅外

生活

(避

難所

など

)(

2011年

5月)

なし

503

72.2

1,95

378

.92

15.8

**54

473

.21,

912

78.8

216

.9**

646

75.4

1810

78.2

24.

3あ

った

182

26.1

475

19.2

191

25.7

466

19.2

190

22.2

467

20.2

現在

もし

てい

る12

1.7

461.

98

1.1

502.

121

2.5

371.

6N

ote.

Chi

-squ

are

test

s w

ere

used

. *:

p <

0.0

5, *

*: p

< 0

.01

職務

効能

感低

得点

群そ

の他

性別

年齢

自宅

への

被害

その

他疲

弊感

高得

点群

シニ

シズ

ム高

得点

群そ

の他

Page 107: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

表4.

Mas

lach

Bur

nout

Inve

ntor

yによるバーンアウトの下位尺度と震災関連業務、長時間労働、業務環境の領域の関連要因のχ

2 検定の結果

n%

n%

dfχ2

n%

n%

dfχ2

n%

n%

dfχ2

697

2,47

474

52,

429

857

2,31

7

保健福祉部

162

23.1

398

16.1

118

.7**

150

20.1

410

16.9

14.

2*

144

16.8

416

18.0

10.

6そ

の他

538

76.9

2,07

683

.959

579

.92,

019

83.1

713

83.2

1,90

182

.1震

災関

連業

務へ

の従

事(

2011年

5月)

無16

523

.659

524

.11

0.1

179

24.1

581

23.9

10.

022

025

.754

023

.31

1.9

有53

476

.41,

879

76.0

565

75.9

1,84

876

.163

774

.317

7676

.7震

災関

連業

務へ

の従

事(

2012年

7月)

1)

無52

975

.62,

028

82.0

114

.3**

586

78.7

1,97

181

.11

2.3

692

80.8

1,86

580

.51

0.0

有17

124

.444

618

.015

921

.345

818

.916

519

.345

219

.5遺

体関

連業

なし

495

92.9

1,70

991

.11

1.8

518

91.7

1,68

691

.41

0.0

583

91.5

1621

91.4

10.

0あ

り38

7.1

168

9.0

478.

315

98.

654

8.5

152

8.6

苦情

相談

対応

なし

470

88.2

1,72

591

.91

7.1

**50

389

.01,

692

91.7

13.

858

091

.116

1591

.11

0.0

あり

6311

.815

28.

162

11.0

153

8.3

579.

015

88.

9

調査

前月

の時

間外

勤務

(20

12年

7月)

0-20時間

428

61.1

1,98

380

.23

146.

3**

529

71.0

1,88

277

.53

27.2

**65

776

.71,

754

75.7

22.

720

-40時

間14

620

.934

013

.712

516

.836

114

.912

915

.135

715

.440

-80時

間10

114

.414

05.

772

9.7

169

7.0

586.

818

37.

980時間以上

253.

611

0.4

192.

617

0.7

131.

523

1.0

最長

労働

月の

時間

外勤

務(

2012年

7月)

0-20時間

159

22.7

769

31.1

338

.5**

175

23.5

753

31.0

318

.4**

261

30.5

667

28.8

21.

020

-40時

間13

118

.753

121

.515

821

.250

420

.817

420

.348

821

.140

-80時

間21

430

.671

228

.823

030

.969

628

.725

029

.267

629

.280時間以上

196

28.0

462

18.7

182

24.4

476

19.6

172

20.1

486

21.0

休養

(20

11年

5月)

とれ

てい

ない

334.

711

24.

51

0.0

395.

210

64.

41

1.0

384.

410

74.

61

0.0

とれ

てい

る66

695

.32,

362

95.5

705

94.8

2,32

395

.681

995

.622

0995

.4休

養(

2012年

7月)

十分・まあまあとれている

360

51.4

2,02

581

.91

270.

4**

450

60.4

1,93

579

.71

113.

2**

614

71.7

1771

76.4

17.

7**

どちらともいえない・あまり・ほとんどとれていない

340

48.6

449

18.2

295

39.6

494

20.3

243

28.4

546

23.6

業務

地域

内陸

部56

881

.12,

127

86.0

19.

9*

620

83.2

2,07

585

.41

2.2

716

83.6

1979

85.4

11.

7沿

岸部

132

18.9

347

14.0

125

16.8

354

14.6

141

16.5

338

14.6

上司

・同

僚・

部下

との

コミ

ュニ

ケー

ショ

ン(

2011年

5月)

まあ

まあ

・か

なり

とれ

てい

る66

494

.92,

421

97.9

118

.7**

699

94.0

2,38

698

.21

38.7

**82

295

.92,

263

97.7

17.

5**

とれ

てい

ない

・ど

ちら

とも

いえ

ない

365.

152

2.1

456.

143

1.8

354.

153

2.3

上司

・同

僚・

部下

との

コミ

ュニ

ケー

ショ

ン(

2012年

7月)

まあ

まあ

・か

なり

とれ

てい

る54

978

.42,

308

93.3

113

4.1

**57

376

.92,

284

94.0

118

5.8

**71

583

.42,

142

92.5

156

.6**

とれ

てい

ない

・ど

ちら

とも

いえ

ない

151

21.6

166

6.7

172

23.1

145

6.0

142

16.6

175

7.6

Not

e. C

hi-s

quar

e te

sts

wer

e us

ed. 

*: p

< 0

.05,

**:

p <

0.0

11)

有:

本来

業務

とし

て行

って

いる

・災

害関

連業

務中

心、

無:

本来

業務

と災

害関

連業

務が

同程

度・

本来

業務

中心

・災

害関

連業

務は

行っ

てい

ない

職場

環境

その

他職

務効

能感

低得

点群

その

震災

関連

業務

所属

(2011年

5月

長時

間労

その

他疲

弊感

高得

点群

シニ

シズ

ム高

得点

Page 108: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

表5. Maslach Burnout Inventoryによるバーンアウトとその下位尺度に関する調整済みオッズ比と95%信頼区間 (n=3169)

OR OR OR OR

基本属性

男性 1.00 1.00 1.00 1.00女性 2.16 1.67 - 2.80 ** 2.12 1.68 - 2.68 ** 1.42 1.14 - 1.78 ** 1.33 1.08 - 1.64 **

18-29歳 1.00 1.00 1.00 1.0030-39歳 1.22 0.87 - 1.72 1.16 0.85 - 1.57 1.14 0.85 - 1.52 1.18 0.88 - 1.5740-49歳 0.79 0.56 - 1.11 0.87 0.64 - 1.16 0.87 0.66 - 1.16 1.29 0.98 - 1.7050-65歳 0.68 0.46 - 1.00 0.75 0.53 - 1.04 0.57 0.41 - 0.78 ** 1.35 1.01 - 1.81 *

保健福祉部以外 1.00 1.00 1.00 1.00保健福祉部 1.25 0.95 - 1.64 1.41 1.11 - 1.80 ** 1.16 0.91 - 1.46 0.86 0.69 - 1.07

震災関連業務への従事(2011年5月)

無 1.00 1.00 1.00 1.00有 0.90 0.69 - 1.18 0.95 0.76 - 1.21 0.91 0.73 - 1.14 0.92 0.75 - 1.12

震災関連業務への従事(2012年7月)1)

無 1.00 1.00 1.00 1.00有 1.15 0.89 - 1.50 1.28 1.02 - 1.61 * 1.14 0.91 - 1.42 0.97 0.79 - 1.20

遺体関連業務

無 1.00 1.00 1.00 1.00有 1.24 0.79 - 1.94 1.03 0.69 - 1.54 1.14 0.79 - 1.65 0.99 0.71 - 1.38

苦情相談対応

無 1.00 1.00 1.00 1.00有 1.40 0.95 - 2.06 1.39 0.98 - 1.97 1.22 0.87 - 1.71 0.96 0.69 - 1.33

調査前月の時間外勤務(2012年7月)

0-20時間 1.00 1.00 1.00 1.0020-40時間 1.19 0.88 - 1.61 1.47 1.13 - 1.91 ** 0.82 0.63 - 1.06 0.95 0.74 - 1.2140-80時間 1.18 0.80 - 1.73 1.80 1.28 - 2.52 ** 0.78 0.55 - 1.10 0.77 0.54 - 1.0980時間以上 2.04 0.94 - 4.43 4.57 2.04 - 10.23 ** 1.72 0.82 - 3.60 1.37 0.66 - 2.83

最長労働月の時間外勤務(2012年7月)

0-20時間 1.00 1.00 1.00 1.0020-40時間 1.19 0.86 - 1.66 1.13 0.85 - 1.50 1.42 1.09 - 1.85 ** 0.94 0.74 - 1.1940-80時間 1.38 1.00 - 1.91 * 1.16 0.88 - 1.54 1.47 1.13 - 1.91 ** 1.03 0.82 - 1.3080時間以上 1.82 1.28 - 2.60 ** 1.58 1.16 - 2.15 ** 1.71 1.27 - 2.29 ** 1.03 0.79 - 1.34

休養(2011年5月)

とれている 1.00 1.00 1.00 1.00とれていない 1.21 0.75 - 1.95 1.04 0.67 - 1.60 1.23 0.82 - 1.84 0.93 0.63 - 1.36

休養(2012年7月)2)

とれている 1.00 1.00 1.00 1.00とれていない 2.89 2.29 - 3.65 ** 3.06 2.49 - 3.76 ** 2.00 1.63 - 2.45 ** 1.17 0.96 - 1.42

業務地域

内陸部 1.00 1.00 1.00 1.00沿岸部 1.06 0.79 - 1.42 1.13 0.87 - 1.46 0.96 0.75 - 1.24 1.08 0.86 - 1.37

上司・同僚・部下とのコミュニケーション(2011年5月)3)

良 1.00 1.00 1.00 1.00不良 2.83 1.72 - 4.66 ** 2.07 1.27 - 3.38 ** 2.86 1.80 - 4.55 ** 1.47 0.94 - 2.30

上司・同僚・部下とのコミュニケーション(2012年7月)3)

良 1.00 1.00 1.00 1.00不良 3.58 2.71 - 4.73 ** 2.88 2.20 - 3.77 ** 3.88 3.01 - 5.01 ** 2.27 1.77 - 2.91 **

被災関連要因

半壊未満 1.00 1.00 1.00 1.00半壊以上 1.39 1.04 - 1.86 * 1.24 0.95 - 1.61 1.11 0.86 - 1.42 1.19 0.94 - 1.49

家族の死・行方不明等

無 1.00 1.00 1.00 1.00有 0.66 0.32 - 1.38 0.70 0.38 - 1.31 0.97 0.55 - 1.71 0.90 0.54 - 1.52

自宅外生活(避難所など)(2011年5月)

なし 1.00 1.00 1.00 1.00あった・現在もしている 1.16 0.92 - 1.46 1.24 1.01 - 1.51 * 1.18 0.97 - 1.42 1.13 0.95 - 1.35

*: p < 0.05, **: p < 0.011) 有:本来業務として行っている・災害関連業務中心、無:本来業務と災害関連業務が同程度・本来業務中心・災害関連業務は行っていない2) とれている:十分とれている・まあまあとれている、とれていない:どちらともいえない・あまりとれていない・ほとんどとれていない3) 良:まあまあ・かなりとれている、不良:とれていない・どちらともいえない

自宅への被害

性別

年齢

震災関連業務

所属(2011年5月)

過重労働

業務環境

バーンアウト高得点群

疲弊感高得点群

シニシズム高得点群

職務効能感低得点群

95%CI 95%CI 95%CI 95%CI

Page 109: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))

大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究

平成 25 年度 分担研究報告書

東日本大震災後の宮城県職員の精神健康状態と関連要因:

② 精神健康の推移と被災、業務による影響の検討

研究分担者 鈴木友理子 独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所

成人精神保健研究部 災害等支援研究室長

研究協力者○深澤 舞子 独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所

小原 聡子 宮城県精神保健福祉センター

金 吉晴 独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所

(○は執筆者)

研究要旨

【目的】自治体職員は災害後、自ら被災しながら膨大な業務に追われる。被災の状況や

業務の状況と精神健康との関連を検討した。【方法】東日本大震災の発生後に 3 回実施さ

れた宮城県職員の自記式健康調査(第 1 回(2011 年 5 月)、第 2 回(2011 年 10 月)、第 3

回(2012 年 7 月))の全てに回答した 3,174 名(全職員の 60.0%)を解析対象とした。K6

(得点範囲 0-24 点)で 10 点以上の場合に精神健康不良と定義し、被災の状況や業務の状

況、ストレスの自覚やその要因、身体健康などとの関連を検討した。また、初回調査で K6

が 10 点以上であった者のうち、3 回の調査を通じて 10 点以上である者とそうでない者と

を比較した。【結果】精神健康不良者の各調査における割合はいずれも 1 割弱であった

ものの、調査ごとに精神健康不良に該当する者の半数は入れ替わっており、3 回の調査

とも精神健康不良に該当し続けていた者は 2.7%であった。初回調査にて精神健康不良

であった者のうち、続く 2 回の調査とも精神健康不良であった者はそうでなかった者

と比較して、家屋被害が半壊以上、休養がとれていない、職場でのコミュニケーショ

ンがとれていない、ストレスを感じている、身体健康がよくない者の割合が大きくな

っていた。【結論】震災から 2 か月後に精神健康不良であった者は 1 割程度であり、そ

の半数は震災 7 か月後の調査において精神健康不良に該当しなくなったが、家屋被害

が大きかった者、休養がとれていない者、職場でのコミュニケーションがとれていな

い者、ストレスを感じている者、身体健康がよくない者では、精神健康不良の状態が

長引く恐れがある。

Page 110: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

A.研究目的

大規模災害時、被災した自治体の職員には、

自ら被災しつつ急増した業務を担い、プライ

バシーのない避難所等で住民とともに寝起き

するような状況で働き続けることもあり、非

常に大きな負担がかかる。東日本大震災の被

災地へ支援に入った専門家らは、被災地の自

治体の職員の疲弊に危機感を感じた(井上ら,

1012; 竹口ら, 2012)。

宮城県では東日本大震災後に全職員を対象

とした健康調査が行われた。本研究ではその

調査のデータを用い、被災の状況や業務の状

況と精神健康との関連を検討した。健康調査

は計 3 回(震災から 2 か月後、7 か月後、16か月後)行われたが、本研究では、各調査に

おいて精神健康と関連する項目を検討する

とともに、震災直後の初回調査で精神健康不

良であった人のうち、2,3 回目の調査でも

精神健康不良である人とそうでない人の比

較を行った。

B.研究方法

1)調査

宮城県厚生課により、東日本大震災後、宮

城県の全職員を対象とした自記式の健康調査

が行われた。調査は職員専用のポータルサイ

トを通じて記名式で行われ、震災から 2 か月

後の 2011年 5月(第 1 回調査)、7か月後の 2011

年 10 月(第 2 回調査)、16 か月後の 2012 年 7

月(第 3 回調査)に実施された。

2)対象者

第 1 回調査では 4,334 名 (全職員 5,233 名の

うちの 82.8%) 、第 2 回調査では 4,413 名 (全

職員 5,305 名のうちの 83.2%) 、第 3 回調査で

は 4,662 名 (全職員 5,287 名のうちの 88.2%)が

回答した。3 回の調査全てに回答した者は

3,174 名(第 3 回調査時の全職員の 60.0%)で

あり、本研究ではこの 3,174 名を解析対象とし

た。

3)変数

1. 被災の状況

自宅の被災状況 (第 2 回調査時に取得、以下

7m;被害なし、ほとんど被害なし、一部損壊、

半壊、大規模半壊全壊)、家族の死・行方不明

等(2m;有、無)、自宅外生活(避難所など)

(2m;なかった、あった、現在もしている)

について尋ねた。また、震災による転居(転

居なし、仮設住宅(民間賃貸住宅借り上げを

含む)へ入居、それ以外の住宅へ転居)につ

いても尋ねた(7m, 16m)。

2. 業務の状況

所属、震災関連業務への従事(2m;有、無)

とその内容(遺体関連業務、苦情相談対応、

その他)、震災関連業務への従事の程度(7m,

16m;5 段階)を尋ねた。

過重労働の指標として、月 100 時間を超え

る時間外勤務(2m;有、無)と週 1 日程度の

休日取得(2m;はい、いいえ)、調査前月の時

間外勤務時間および震災後に時間外勤務時間

が最長だった月の時間外勤務時間(7m, 16m)、

休養がとれているか(7m, 16m;5 段階)を尋

ねた。

職場の環境の指標として、上司・同僚・部

下とのコミュニケーションはとれているか

(2m;かなり、まあまあ、とれていない、7m,

16m;かなりとれている、まあまあとれている、

どちらともいえない、とれていない)尋ねた。

また、勤務地(内陸部、沿岸部)についての

情報を取得した(2m, 7m)。

3. ストレス

ストレスを感じている度合い(4 段階)、ス

トレスの要因(16の選択肢から 3つまで選択)、

ストレスに対する震災の影響の程度(5 段階)

について尋ねた(7m, 16m)。

4. 健康状態

体調(よい、普通、あまり良くない、悪い)、

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睡眠(よく眠れる、大体眠れる、あまり眠れ

ない、眠れない)について尋ねた(2m, 7m, 16m)。

また、食欲(2m;増えた、変わらない、減っ

た、7m, 16m;ある、まあまあある、あまりな

い、ほとんどない)、飲酒量(2m, 7m, 16m;増

えた、変わらない、減った、飲まない)につ

いても尋ねた。また、震災後、新たに治療を

はじめた疾患の有無、その疾患(高血圧症、

不整脈、狭心症・心筋梗塞、糖尿病、高脂血

症、不眠症、こころの不調、その他)につい

ても尋ねた(7m, 16m)。

精神健康は、K6 ( Kessler, et al, 2002;

Furukawa, et al, 2008)を用いて評価した。K6

は、「神経過敏に感じましたか」「絶望的だと

感じましたか」といった 6 項目からなる標準

化された非特異的な精神的不調のスクリーニ

ング尺度であり、各項目 5 段階(0-4 点)にて

過去 30 日間の頻度(全くない、少しだけ、と

きどき、たいてい、いつも)を尋ね、合計点

(0-24 点)を用いて評価する尺度である。本

研究では、10 点以上だった場合に精神健康不

良と定義して分析を行った。

5. 基礎属性

性別、年齢を尋ねた(2m)。年齢は 4 区分し、

カテゴリー変数として扱った (18-29, 30-39,

40-49, 50-64 歳) 。

4)統計解析

1. 各調査における精神健康不良と基礎属性、

被災の状況、業務の状況、ストレスとの関連

を検討した (chi-square tests)。

2. 精神健康不良に該当した者(K6≥10)の各調

査における割合を算出し、第 1 回、2 回調査で

精神健康不良に該当した者のうち、後の調査

においても精神健康不良に該当する者の割合、

および、3 回の調査において一貫して精神健康

不良に該当している者の割合を明らかにした。

3. 第 1 回調査にて精神健康不良に該当した

者のうち、その後の調査においても継続して

精神健康不良に該当する者の特徴を探ること

を目的として、第 1 回調査にて精神健康不良

に該当した者のうち、第 2 回および第 3 回調

査両方においても精神健康不良に該当した者

と、そうでない者の 2 群に分類し、基礎属性、

被災の状況、業務の状況、ストレス、健康状

態を比較した。

解析は全て Stata 12.0 for Windows (StataCorp

LP, College Station, TX)を用いて行った。有意水

準は 0.05 とし、両側検定を用いた。

5)倫理的配慮

本研究は既存データの二次利用により行わ

れた。本研究計画は国立精神・神経医療研究

センター倫理委員会にて承認された。

C.結果

1)各調査において精神健康不良と関連して

いる変数

表 1 に、基礎属性と被災状況に関する変数

と K6 との関連を示す。3 回の調査とも女性で

精神健康不良である者の割合が大きくなって

いた。年齢については、第 1 回調査において

は 30 歳代、40 歳代で精神健康不良である者の

割合が大きくなっていたのに対し、第 2 回調

査では加えて 30 歳未満の者においても精神健

康不良である者の割合が大きくなり、第 3 回

調査では 30 歳未満、30 歳代で精神健康不良で

ある者の割合が大きいままであるのに対して

40 歳代ではその傾向が見られなくなっていた。

50 歳以上では一貫して精神健康不良である者

の割合は小さかった。

自宅への被害については、半壊以上の被害

を受けた者で、精神健康不良である者の割合

が大きくなっていた。家族の死・行方不明に

ついては、第 1 回、第 2 回調査では精神健康

と関連が見られたものの、第 3 回調査におい

て統計的に有意な関連は見られなかった。自

宅外生活については、震災から 2 か月後の第 1

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回調査時点において自宅外生活をしている者

も、その時点ではしていないがそれまでに経

験した者でも、精神健康不良である者の割合

が大きくなっていた。転居については、第 1

回調査では尋ねていないが、第 2 回、第 3 回

調査ともに、転居した者で精神健康不良であ

る者の割合が大きくなっていた。

表 2 に、業務の状況に関する変数と K6 との

関連を示す。所属については、第 1 回調査で

は環境生活部や保健福祉部で、精神健康不良

である者の割合が大きくなっていた。第 2 回

調査では統計的に有意な関連は見られなかっ

たが、これら 2 つの部における精神健康不良

である者の割合は大きくなっていた。第 3 回

調査では保健福祉部における精神健康不良者

の割合が目立って大きく、また、土木部にお

いてもやや大きくなっていた。

震災関連業務への従事については、第 1 回

調査における従事の有無は、第 1 回調査にお

いてもその後の調査においても精神健康との

関連は見られなかった。第 2 回調査では、震

災関連業務に従事している程度が高い者で、

精神健康不良である者の割合が大きくなって

いた。第 1 回調査における遺体関連業務への

従事は精神健康との関連は見られなかったが、

苦情相談対応への従事については、第 1 回お

よび第 2 回の調査で、従事していた者で精神

健康不良である者の割合が大きくなっていた。

第 3 回調査においても、統計的に有意な関連

は見られなかったものの、影響が残っている

可能性がうかがわれた。

過重労働に関しては、第 1 回調査における

月 100 時間を超す時間外勤務は、第 2 回調査

における精神健康と関連が見られたが、第 1

回と第 3 回の調査における精神健康とは統計

的に有意な関連は見られなかった。第 2 回、

第 3 回調査とも、調査前月の時間外勤務が長

い者、休養がとれていない者で、精神健康不

良である者の割合は大きくなっていたが、震

災後に時間外勤務が最長だった月の時間外勤

務時間は、第 2 回調査における精神健康とは

関連が見られたものの、第 3 回調査における

精神健康との関連は見られなかった。

職場の環境については、勤務地は第 1 回調

査において精神健康との関連が見られたが、

第 2 回調査では統計的に有意な関連は見られ

なかった。上司・同僚・部下とのコミュニケ

ーションは 3 回の調査を通じて、精神健康と

非常に強い関連が見られた。

表 3 に、自覚しているストレスとその要因

と K6 との関連を示す。ストレスの自覚と精神

健康には関連が見られた。ストレスの要因と

して、自分の健康状態、勤務時間の増加、休

みがとれないこと、職場の人間関係を挙げた

者で、精神健康が不良である者の割合が大き

くなっていた。また、これらの要因に対して

震災の影響があると回答した者で、精神健康

が不良である者の割合が大きくなっていた。

2)各調査における精神健康不良者の割合お

よびその内訳

図 1 に、精神健康不良者(K6 ≥10)の各調査に

おける割合、および、その後の調査において

も精神健康不良者に該当する者の割合、3 回の

調査において一貫して精神健康不良者に該当

している者の割合を示す。第 1 回調査におけ

る精神健康不良者は 306 名(9.6%)、第 2 回調

査における精神健康不良者は 302 名(9.5%)、

第 1 回調査における精神健康不良者は 296 名

(9.3%)であり、割合にはほとんど変化が見

られなかった。第 1 回調査において精神健康

不良(K6 ≥10)であった者のうち、48.0%の者が、

第 2 回調査においても精神健康不良に該当し

た。第 2 回調査において精神健康不良(K6 ≥10)

であった者のうちでは、47.7%の者が、第 3 回

調査においても精神健康不良に該当した。3 回

全ての調査において精神健康不良に該当した

者の割合は全体の 2.7%であった。

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3)初回の調査にて精神健康不良であった者

のうち、その後の調査においても継続して精

神健康不良である者とそうでない者との比較

第 1 回調査にて精神健康不良に該当した者

のうち、その後の調査においても継続して精

神健康不良に該当する者の特徴を探ることを

目的として、第 1 回調査にて精神健康不良に

該当した者 (N=306)のうち、第 2 回および第 3

回調査両方においても精神健康不良に該当し

た者 (N=85)と、そうでない者(N=221)の 2 群を

比較した(表 4、5、6)。その後の調査におい

ても継続して精神健康不良である者はそうで

ない者と比べ、自宅の被害が半壊以上であっ

た者、2 回目調査時において、休養がとれてい

ない(どちらともいえないを含む)者、職場

でのコミュニケーションがとれていない(ど

ちらともいえないを含む)者、ストレスを感

じている者の割合が大きくなっていた。性別

や年齢、家屋被害以外の被災状況、震災直後

(第 1 回調査時)の業務の状況などは、両群

間に統計的な有意差は見られなかった。また、

身体健康については、継続して精神健康不良

である者は、第 1 回調査時においても、第 2

回調査時においても、主観的健康状態や睡眠

の状況がよくない者の割合が大きくなってい

た。また、第 1 回調査時において食欲の増減

が見られた者、第 2 回調査時においてアルコ

ール摂取量が増加した者の割合が大きくなっ

ていた。新たに治療を始めた疾患の有無につ

いては、精神健康と統計的に有意な関連は見

られなかったものの、その後の調査において

も継続して精神健康不良である者はそうでな

い者と比べ、疾患をもっている者の割合が大

きくなっていた。

D.考察

1)各調査において精神健康不良と関連して

いる変数

年齢については、第 1 回調査においては 30

歳代、40 歳代で、第 2 回調査では 30 歳未満、

30 歳代、40 歳代で、第 3 回調査では 30 歳未

満、30 歳代で、精神健康不良である者の割合

が大きくなっており、震災からの時間の経過

によって、精神健康が不良である年齢層に違

いが見られることが明らかとなった。年齢は

体力や家族のなかでの役割などの他に、宮城

県職員という対象者の特性上、業務の内容や

責任などとの相関も強いと考えられ、震災か

らの時間の経過とともに、負担のかかる年齢

層が移動していく可能性が示唆された。

被災状況については、先行研究でも示され

てきているように、大きな被害を受けた者で

精神健康不良である者の割合が大きくなって

いたが、自宅への被害や自宅外生活の経験、

転居については、震災から 16 か月時点におけ

る第 3 回調査においても精神健康と関連が見

られたものの、家族の死・行方不明について

は、第 3 回調査において統計的に有意な関連

は見られなくなっていた。被災自体による精

神健康への影響に加え、被災による生活の変

化による影響など、様々な要因が絡み合って

いると考えられ、本調査ではそれらの影響を

分けて明らかにすることはできないが、震災

から 16 か月の時点においても被災したことに

よる精神健康への影響は続いていると考えら

れた。

業務の状況については、所属に関しては保

健福祉部の精神健康不良である者の割合の大

きさが目立っていた。対人援助の専門職が多

く、震災以前から職員の健康に対する懸念が

指摘されていた部署でもあり、より一層の注

意が必要だと考えられた。

震災関連業務への従事については、第 2 回

調査で、震災関連業務に従事している程度が

高い者で、精神健康不良である者の割合が大

きくなっていた。震災直後の遺体関連業務へ

の従事は精神健康との関連は見られなかった

が、苦情相談対応への従事については、第 1

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回、第 2 回の調査で、従事していた者で精神

健康不良である者の割合が大きくなっていた。

本調査では、震災関連業務の中身についての

検討はできないが、被災直後に苦情相談対応

に従事していたことは、7 か月後時点までの精

神健康には影響を与えるが、16 か月後時点に

おける精神健康にまでは影響を与えないとい

う可能性が示唆された。

過重労働に関しては、震災直後の月 100 時

間を超す時間外勤務や、震災後に時間外勤務

が最長だった月の時間外勤務時間は、第 2 回

調査における精神健康とは関連が見られたも

のの、第 3 回調査における精神健康との関連

は見られなかった。調査前月の時間外勤務や、

休養がとれていないことは、第 2 回、第 3 回

調査において、精神健康との関連が見られた。

調査時点における多忙が精神健康に影響して

おり、被災直後の多忙は 7 か月後時点では精

神健康に影響を与えていたが、16 か月後時点

では影響は残っていないと考えられた。

職場の環境については、上司・同僚・部下

とのコミュニケーションは 3 回の調査を通じ

て、精神健康と非常に強い関連が見られた。

ストレスの自覚と K6 との関連については、

ストレスを強く感じている者ほど精神健康が

よくないという関連が見られた。ストレスの

要因としては、職務内容の変化を挙げた者が

多く 4 割を占めていたが、職務内容の変化を

挙げたことと精神健康との間に関連は見られ

ず、自分の健康状態、勤務時間の増加、休み

がとれないこと、職場の人間関係を挙げた者

で、精神健康が不良である者の割合が大きく

なっていた。また、これらの要因に対して震

災の影響があると回答した者で、精神健康が

不良である者の割合が大きくなっていた。勤

務時間の増加や、休みがとれないこと、職場

の人間関係をストレス要因に挙げた者で精神

健康が不良である者の割合が大きくなってい

ることは、業務の状況において、時間外勤務

時間や休養がとれないこと、職場でのコミュ

ニケーションがとれていないことが精神健康

不良と関連している結果ともよく一致してい

た。また、震災の影響があると回答する者は、

第2回目調査では60.0%、第3回調査では45.6%

であり、多くの人が震災から 16 か月経過して

もその影響を感じているが、それでも減少し

てきていることは、被災状況に関する多くの

変数が、第 3 回調査においても精神健康と関

連している一方で、家族の死・行方不明など

が、第 1 回、第 2 回調査では精神健康と関連

していたのに対し、第 3 回調査においては精

神健康と統計的に有意な関連が見られなくな

ったことと、一致していた。

2)各調査における精神健康不良者の割合、

および、初回の調査にて精神健康不良であっ

た者のうち、その後の調査においても継続し

て精神健康不良である者の特徴

精神健康不良者(K6 ≥10) の各調査における

割合はいずれも 1 割弱であり、ほとんど変化

が見られなかった。また、第 1 回調査におい

て精神健康不良であった者のうち、第 2 回調

査においても精神健康不良に該当した者は 5

割弱、同じく第 2 回調査において精神健康不

良であった者のうち、第 3 回調査においても

精神健康不良に該当した者も 5 割弱、3 回の調

査を通じて精神健康不良であり続けた者は全

体の 2.7%であった。3 回の調査とも精神健康

不良者の割合はほとんど変わらなかったもの

の、調査ごとに精神健康不良に該当する者の

半数は入れ替わっており、ずっと精神健康不

良に該当し続けている者は少数であることが

明らかとなった。

平時における市役所職員の調査では、K6 で

9 点以上であった者が 8.2%であったとの報告

があり(Suzuki K, et al, 2010)、本調査の各調査

におけるK6が 10点以上であった者の割合は、

Suzuki らの調査の数値を参考にすると、やや

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高めであった。また、平成 22 年度の国民生活

基礎調査における宮城県住民 15-64 歳におい

てK6が 10点以上である者の割合は、12.3%(災

害時こころの情報支援センター)と報告され

ている。本調査の対象者である自治体職員は、

被災による大きなストレスを受けているもの

の、被災後も職に就いて働き続けており、一

般住民より集団としての健康状態は良好であ

ると考えられた。

第 1 回調査にて精神健康不良に該当した者

のうち、第 2 回および第 3 回調査両方におい

ても精神健康不良に該当した者とそうでない

者の 2 群を比較したところ、その後の調査に

おいても継続して精神健康不良であった者で

は、自宅の被害が半壊以上であった者、第 2

回調査時において、休養がとれていない者、

職場でのコミュニケーションがとれていない

者、ストレスを感じている者の割合が大きく

なっていた。また、身体健康については、第 1

回調査時においても、第 2 回調査時において

も、主観的健康状態や睡眠の状況がよくない

者の割合が大きく、第 1 回調査時において食

欲の増減が見られた者、第 2 回調査時におい

てアルコール摂取量が増加した者の割合が大

きくなっていた。アルコール摂取量について

は、震災 7 か月後の調査において摂取量の増

加は精神健康不良と関連していたが、被災直

後の摂取量の増加と精神健康との関連は見ら

れず、直後の飲酒量の増加はその後の精神健

康に影響を与えていない可能性が示唆された。

飲酒はストレスへの対処のひとつの方法とし

て機能するとも考えられ、アルコールの問題

についての予防的な啓発は被災直後から必要

であろうが、被災直後の飲酒はその後の精神

健康に必ずしもつながらないとも考えられる。

震災直後に実施された K6 にて 10 点以上で

あった者は職員の 1 割弱を占めたが、そのう

ち、精神健康のよくない状態が長く続く者と

そうでない者に、性別や年齢などの属性や、

震災直後の業務の状況に違いはなく、7 か月後

時点における仕事上の休養やコミュニケーシ

ョンがとれているかどうかに違いが見られた

ことから、震災直後の状況が落ち着いてきた

後、休養をとることやコミュニケーションを

円滑にするような業務上の調整を行うことで、

精神健康の不調が長引くことを防ぐことがで

きる可能性も考えられた。ただし、今回の調

査では既往歴についての情報は取得しておら

ず、震災後の長引く精神健康不良と関連が強

いと考えられる震災以前からの精神疾患の影

響について検討できないことは、大きな限界

である。

E.結論

震災から 2 か月後から 16 か月後にかけて行

われた 3 回の健康調査において、精神健康不

良者(K6≥10)の各調査における割合はいずれも

1 割弱であったものの、調査ごとに精神健康不

良に該当する者の半数は入れ替わっており、3

回の調査とも精神健康不良に該当し続けてい

た者は 2.7%であった。震災から 2 か月後に精

神健康不良であったもののうち、家屋被害が

大きかった者、休養がとれていない者、職場

でのコミュニケーションがとれていない者、

ストレスを感じている者、身体健康がよくな

い者では、精神健康不良の状態が長引く恐れ

がある。

【参考文献】

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験.日本集団災害医学会誌 2012;17:687.

F.研究発表

1.論文発表

2.学会発表

G.知的所有権の取得状況

1.特許取得

2.実用新案登録

3.その他

いずれもなし

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n % n % n % n % n % n % n % n % n %3,174 2,868 306 3,174 2,872 302 3,174 2,878 296

基礎属性

性別

男性 2,449 77.2 2,243 78.2 206 67.3 † 2,448 77.1 2,231 77.7 217 71.9 * 2,448 77.1 2,248 78.1 200 67.6 †女性 725 22.8 625 21.8 100 32.7 726 22.9 641 22.3 85 28.2 726 22.9 630 21.9 96 32.4

年齢

18-29歳 397 12.5 363 12.7 34 11.1 † 379 11.9 333 11.6 46 15.2 † 342 10.8 300 10.4 42 14.2 †30-39歳 777 24.5 678 23.6 99 32.4 750 23.6 660 23.0 90 29.8 702 22.1 612 21.3 90 30.440-49歳 1,114 35.1 989 34.5 125 40.9 1,121 35.3 1,009 35.1 112 37.1 1,112 35.1 1,011 35.1 101 34.150-65歳 886 27.9 838 29.2 48 15.7 924 29.1 870 30.3 54 17.9 1,017 32.1 954 33.2 63 21.3

被災状況

自宅への被害

なし 448 14.1 415 14.5 33 10.8 † 448 14.1 406 14.2 42 13.9 448 14.1 412 14.3 36 12.2ほとんどなし 1,274 40.2 1,160 40.5 114 37.3 1,274 40.2 1,164 40.6 110 36.4 1,274 40.2 1,162 40.4 112 38.0一部損壊 995 31.4 901 31.4 94 30.7 995 31.4 905 31.5 90 29.8 995 31.4 902 31.4 93 31.5半壊 210 6.6 182 6.4 28 9.2 210 6.6 185 6.5 25 8.3 210 6.6 190 6.6 20 6.8大規模半壊 84 2.7 69 2.4 15 4.9 84 2.7 73 2.5 11 3.6 84 2.7 75 2.6 9 3.1全壊 161 5.1 139 4.9 22 7.2 161 5.1 137 4.8 24 8.0 161 5.1 136 4.7 25 8.5(再掲)

半壊未満 2,717 85.7 2,476 86.4 241 78.8 † 2,717 85.7 2,475 86.2 242 80.1 † 2,717 85.7 2,476 86.1 241 81.7 *半壊以上 455 14.3 390 13.6 65 21.2 455 14.3 395 13.8 60 19.9 455 14.3 401 13.9 54 18.3

家族の死・行方不明等

無 3,095 97.5 2,804 97.8 291 95.4 * 3,095 97.5 2,807 97.7 288 95.7 * 3,095 97.5 2,808 97.6 287 97.0有 78 2.5 64 2.2 14 4.6 78 2.5 65 2.3 13 4.3 78 2.5 69 2.4 9 3.0

自宅外生活(避難所など)

なし 2,456 77.5 2,265 79.0 191 62.8 † 2,456 77.5 2,246 78.2 210 70.0 † 2,456 77.5 2,254 78.4 202 68.5 †あった 657 20.7 555 19.4 102 33.6 657 20.7 576 20.1 81 27.0 657 20.7 572 19.9 85 28.8現在(震災2m後)もしている 58 1.8 47 1.6 11 3.6 58 1.8 49 1.7 9 3.0 58 1.8 50 1.7 8 2.7

転居

なし 3,015 95.0 2,738 95.4 277 91.7 * 2,930 92.3 2,670 92.8 260 87.8 *仮設住宅(民間賃貸住宅借り上げを含む)入居 54 1.7 44 1.5 10 3.3 45 1.4 38 1.3 7 2.4上記以外の住宅へ転居 104 3.3 89 3.1 15 5.0 199 6.3 170 5.9 29 9.8(再掲)

転居なし 3,015 95.0 2,738 95.4 277 91.7 † 2,930 92.3 2,670 92.8 260 87.8 †転居あり 158 5.0 133 4.6 25 8.3 244 7.7 208 7.2 36 12.2

Chi-square tests were used. *: p<0.05, †: p<0.01

全体 K6: 10点未満 K6: 10点以上

表1.K6のカットオフ値を10点に設定した場合の精神健康度と属性、被災状況との関係(n=3,174)1回目(2m後) 2回目(7m後) 3回目(16m後)

全体 K6: 10点未満 K6: 10点以上 全体 K6: 10点未満 K6: 10点以上

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表2-1.K6のカットオフ値を10点に設定した場合の精神健康度と業務の状況との関係(n=3,174)

n % n % n % n % n % n % n % n % n %3,174 2,868 306 3,174 2,872 302 3,174 2,878 296

業務の状況

所属

総務部 433 13.6 405 14.1 28 9.2 † 429 13.5 392 13.7 37 12.3 426 13.4 394 13.7 32 10.8 †震災復興・企画部 105 3.3 91 3.2 14 4.6 101 3.2 94 3.3 7 2.3 105 3.3 100 3.5 5 1.7環境生活部 200 6.3 172 6.0 28 9.2 199 6.3 175 6.1 24 8.0 197 6.2 178 6.2 19 6.4保健福祉部 560 17.6 484 16.9 76 24.8 572 18.0 512 17.8 60 19.9 591 18.6 510 17.7 81 27.4経済商工観光部 619 19.5 566 19.7 53 17.3 602 19.0 545 19.0 57 18.9 586 18.5 536 18.6 50 16.9農林水産部 483 15.2 447 15.6 36 11.8 493 15.5 452 15.7 41 13.6 508 16.0 471 16.4 37 12.5土木部 581 18.3 524 18.3 57 18.6 581 18.3 526 18.3 55 18.2 569 17.9 512 17.8 57 19.3出納局 45 1.4 42 1.5 3 1.0 49 1.5 45 1.6 4 1.3 43 1.4 37 1.3 6 2.0企業局 56 1.8 53 1.9 3 1.0 55 1.7 48 1.7 7 2.3 55 1.7 50 1.7 5 1.7その他 92 2.9 84 2.9 8 2.6 93 2.9 83 2.9 10 3.3 94 3.0 90 3.1 4 1.4

震災関連業務への従事

無 760 24.0 684 23.9 76 24.8 760 24.0 685 23.9 75 24.8 760 24.0 683 23.7 77 26.1有 2,413 76.1 2,183 76.1 230 75.2 2,413 76.1 2,186 76.1 227 75.2 2,413 76.1 2,195 76.3 218 73.9

震災関連業務への従事

本来業務として行っている 289 9.1 260 9.1 29 9.6 † 308 9.7 277 9.6 31 10.5災害関連業務中心に本来業務も行っている 366 11.6 312 10.9 54 17.9 309 9.7 275 9.6 34 11.5本来業務と災害関連業務が同程度 423 13.4 380 13.3 43 14.3 423 13.3 382 13.3 41 13.9行っているが本来業務中心 943 29.8 865 30.2 78 25.9 891 28.1 821 28.5 70 23.7災害関連業務は行っていない 1,148 36.2 1,051 36.7 97 32.2 1,243 39.2 1,123 39.0 120 40.5

遺体関連業務への従事

無 2,967 93.5 2,674 93.3 293 95.8 2,967 93.5 2,680 93.4 287 95.0 2,967 93.5 2,689 93.4 278 94.2有 206 6.5 193 6.7 13 4.3 206 6.5 191 6.7 15 5.0 206 6.5 189 6.6 17 5.8

苦情相談対応への従事

無 2,958 93.2 2,682 93.6 276 90.2 * 2,958 93.2 2,687 93.6 271 89.7 * 2,958 93.2 2,691 93.5 267 90.5有 215 6.8 185 6.5 30 9.8 215 6.8 184 6.4 31 10.3 215 6.8 187 6.5 28 9.5

Chi-square tests were used. *: p<0.05, †: p<0.01

K6: 10点以上

1回目(2m後) 2回目(7m後) 3回目(16m後)

全体 K6: 10点未満 K6: 10点以上 全体 K6: 10点未満 K6: 10点以上 全体 K6: 10点未満

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表2-2.K6のカットオフ値を10点に設定した場合の精神健康度と業務の状況との関係(n=3,174)

n % n % n % n % n % n % n % n % n %3,174 2,868 306 3,174 2,872 302 3,174 2,878 296

業務の状況

過重労働

月100時間を超す時間外勤務

無 2,920 92.0 2,640 92.1 280 91.5 2,920 92.0 2,652 92.4 268 88.7 * 2,920 92.0 2,643 91.8 277 93.9有 253 8.0 227 7.9 26 8.5 253 8.0 219 7.6 34 11.3 253 8.0 235 8.2 18 6.1

先月の時間外勤務

20時間未満 2,326 74.4 2,132 75.4 194 65.1 † 2,411 76.0 2,214 76.9 197 66.6 †20-40時間未満 537 17.2 483 17.1 54 18.1 486 15.3 440 15.3 46 15.540-80時間未満 218 7.0 177 6.3 41 13.8 241 7.6 200 7.0 41 13.980時間以上 46 1.5 37 1.3 9 3.0 36 1.1 24 0.8 12 4.1(再掲)

月80時間以上 46 1.5 37 1.3 9 3.0 * 36 1.1 24 0.8 12 4.1 †月100時間以上 25 0.8 4 0.7 21 1.3 16 0.5 11 0.4 5 1.7 †

20時間未満 1,059 34.0 971 34.4 88 29.6 * 928 29.2 849 29.5 79 26.720-40時間未満 706 22.6 650 23.0 56 18.9 662 20.9 606 21.1 56 18.940-80時間未満 816 26.2 722 25.6 94 31.7 926 29.2 830 28.8 96 32.480時間以上 537 17.2 478 16.9 59 19.9 658 20.7 593 20.6 65 22.0(再掲)

月80時間以上 537 17.2 478 16.9 59 19.9 658 20.7 593 20.6 65 22.0月100時間以上 343 11.0 304 10.8 39 13.1 417 13.1 376 13.1 41 13.9

週1日程度の休日

無 145 4.6 133 4.6 12 3.9 145 4.6 137 4.8 8 2.7 145 4.6 133 4.6 12 4.1有 3,028 95.4 2,735 95.4 293 96.1 3,028 95.4 2,734 95.2 294 97.4 3,028 95.4 2,745 95.4 283 95.9

休養

十分とれている 815 25.7 790 27.5 25 8.3 † 784 24.7 757 26.3 27 9.1 †まあまあとれている 1,488 46.9 1,386 48.3 102 33.9 1,601 50.4 1,486 51.6 115 38.9どちらともいえない 425 13.4 352 12.3 73 24.3 401 12.6 330 11.5 71 24.0あまりとれていない 373 11.8 296 10.3 77 25.6 333 10.5 269 9.4 64 21.6ほとんどとれていない 69 2.2 45 1.6 24 8.0 55 1.7 36 1.3 19 6.4

職場の環境

勤務地

内陸部 2,695 84.9 2,449 85.4 246 80.4 * 2,686 84.6 2,440 85.0 246 81.5沿岸部 479 15.1 419 14.6 60 19.6 488 15.4 432 15.0 56 18.5

とれていない 88 2.8 49 1.7 39 12.8 †まあまあとれている 2,268 71.5 2,028 70.7 240 78.4かなりとれている 817 25.8 790 27.6 27 8.8

かなりとれている 748 23.6 710 24.7 38 12.6 † 789 24.9 757 26.3 32 10.8 †まあまあとれている 2,055 64.8 1,908 66.5 147 48.8 2,068 65.2 1,897 65.9 171 57.8どちらともいえない 324 10.2 230 8.0 94 31.2 291 9.2 205 7.1 86 29.1とれていない 44 1.4 22 0.8 22 7.3 26 0.8 19 0.7 7 2.4(再掲)

まあまあ・かなりとれている 3,085 97.2 2,818 98.3 267 87.3 † 2,803 88.4 2,618 91.2 185 61.5 † 2,857 90.0 2,654 92.2 203 68.6 †とれていない・どちらともいえない 88 2.8 49 1.7 39 12.8 368 11.6 252 8.8 116 38.5 317 10.0 224 7.8 93 31.4

Chi-square tests were used. *: p<0.05, †: p<0.01

K6: 10点未満 K6: 10点以上

震災後に時間外勤務時間が最長だった月の時間外勤務

上司・同僚・部下とのコミュニケーション

上司・同僚・部下とのコミュニケーション

1回目(2m後) 2回目(7m後) 3回目(16m後)

全体 K6: 10点未満 K6: 10点以上 全体 K6: 10点未満 K6: 10点以上 全体

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n % n % n % n % n % n %3,174 2,872 302 3,174 2,878 296

ストレス

度合い

大変強く感じている 118 3.7 51 1.8 67 22.2 † 83 2.6 28 1.0 55 18.6 †強く感じている 360 11.4 236 8.2 124 41.1 378 11.9 249 8.7 129 43.6多少感じている 1,656 52.2 1,557 54.2 99 32.8 1,600 50.4 1,503 52.2 97 32.8あまり感じていない 1,039 32.8 1,027 35.8 12 4.0 1,113 35.1 1,098 38.2 15 5.1(再掲)大変強く・強く感じている 478 15.1 287 10.0 191 63.3 † 461 14.5 277 9.6 184 62.2 †

要因(3つまで選択)

自分の健康状態 300 14.1 220 11.9 80 27.6 † 357 17.3 281 15.8 76 27.1 †家族の健康状態 339 15.9 288 15.6 51 17.6 393 19.1 334 18.8 59 21.0家屋・家財の物的被害 201 9.4 176 9.5 25 8.6 152 7.4 130 7.3 22 7.8居住環境の変化 104 4.9 92 5.0 12 4.1 107 5.2 87 4.9 20 7.1経済的負担の増加 133 6.2 112 6.1 21 7.2 114 5.5 98 5.5 16 5.7勤務時間の増加 367 17.2 305 16.5 62 21.4 * 358 17.4 289 16.2 69 24.6 †職務内容の変化 886 41.5 761 41.3 125 43.1 888 43.1 758 42.6 130 46.3勤務場所の変更 195 9.1 172 9.3 23 7.9 187 9.1 165 9.3 22 7.8被災者・マスコミ等の対人的な対応 102 4.8 82 4.5 20 6.9 98 4.8 83 4.7 15 5.3通勤時間の増加 152 7.1 127 6.9 25 8.6 147 7.1 17 7.3 130 6.1地震・余震 279 13.1 246 13.3 33 11.4 148 7.2 130 7.3 18 6.4原子力発電所事故 161 7.5 142 7.7 19 6.6 127 6.2 111 6.2 16 5.7休みがとれないこと 202 9.5 163 8.8 39 13.5 * 164 8.0 129 7.3 35 12.5 *職場の人間関係 266 12.5 202 11.0 64 22.1 † 275 13.3 207 11.6 68 24.2 †分からない 142 6.7 114 6.2 28 9.7 * 137 6.7 117 6.6 20 7.1その他 218 10.2 179 9.7 39 13.5 177 8.6 137 7.7 40 14.2 †

震災の影響

非常にある 441 20.9 350 19.2 91 31.6 † 280 13.7 233 13.2 47 16.9大いにある 827 39.1 721 39.5 106 36.8 653 31.9 556 31.5 97 34.9あまりない 495 23.4 436 23.9 59 20.5 596 29.1 522 29.5 74 26.6ほとんどない 225 10.6 205 11.2 20 6.9 285 13.9 256 14.5 29 10.4全くない 126 6.0 114 6.2 12 4.2 232 11.3 201 11.4 31 11.2(再掲)

あまり・ほとんど・全くない 846 40.0 755 41.4 91 31.6 † 1113 54.4 979 55.4 134 48.2 *非常に・大いにある 1,268 60.0 1,071 58.7 197 68.4 933 45.6 789 44.6 144 51.8

Chi-square tests were used. *: p<0.05, †: p<0.01

全体 K6: 10点未満 K6: 10点以上

表3.K6のカットオフ値を10点に設定した場合の精神健康度とストレスとの関係(n=3,174)2回目(7m後) 3回目(16m後)

全体 K6: 10点未満 K6: 10点以上

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n % n % n %306 221 85

基礎属性(2m)性別

男性 206 67.3 150 67.9 56 65.9女性 100 32.7 71 32.1 29 34.1

年齢

18-29歳 34 11.1 22 10.0 12 14.130-39歳 99 32.4 68 30.8 31 36.540-49歳 125 40.9 92 41.6 33 38.850-65歳 48 15.7 39 17.7 9 10.6

被災状況

自宅への被害(7m)半壊未満 241 78.8 182 82.4 59 69.4 *半壊以上 65 21.2 39 17.7 26 30.6

家族の死・行方不明等(2m)無 291 95.4 209 95.0 82 96.5有 14 4.6 11 5.0 3 3.5

自宅外生活(避難所など)(2m)なし 191 62.8 136 62.1 55 64.7あった 102 33.6 78 35.6 24 28.2現在(震災2m後)もしている 11 3.6 5 2.3 6 7.1

転居(7m)転居なし 279 91.2 202 91.4 77 90.6転居あり 27 8.8 19 8.6 8 9.4

Chi-square tests were used. *: p<0.05, †: p<0.01

表4.初回の調査でK6が10点以上であったものうち、2,3回目の調査でもK6が10点以上であることと、そうでないも

のの、属性、被災状況の比較(n=306)

全体(1回目調査で10点

以上)

K6: 2,3回目調査の

どちらか、もしくは両方10点未満

K6: 2,3回目調査の

両方とも10点以上

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n % n % n %306 221 85

業務の状況

所属(2m)総務部 28 9.2 21 9.5 7 8.2震災復興・企画部 14 4.6 12 5.4 2 2.4環境生活部 28 9.2 20 9.1 8 9.4保健福祉部 76 24.8 54 24.4 22 25.9経済商工観光部 53 17.3 40 18.1 13 15.3農林水産部 36 11.8 26 11.8 10 11.8土木部 57 18.6 38 17.2 19 22.4出納局 3 1.0 0 0.0 3 3.5企業局 3 1.0 2 0.9 1 1.2その他 8 2.6 8 3.6 0 0.0

所属(7m)総務部 35 11.4 29 13.1 6 7.1震災復興・企画部 12 3.9 10 4.5 2 2.4環境生活部 26 8.5 17 7.7 9 10.6保健福祉部 67 21.9 48 21.7 19 22.4経済商工観光部 53 17.3 38 17.2 15 17.7農林水産部 36 11.8 25 11.3 11 12.9土木部 59 19.3 40 18.1 19 22.4出納局 4 1.3 2 0.9 2 2.4企業局 2 0.7 1 0.5 1 1.2その他 12 3.9 11 5.0 1 1.2

震災関連業務への従事(2m)無 76 24.8 54 24.4 22 25.9有 230 75.2 167 75.6 63 74.1

震災関連業務への従事(7m)本来業務として行っている 28 9.2 21 9.5 7 8.2災害関連業務中心に本来業務も行っ 45 14.7 31 14.0 14 16.5本来業務と災害関連業務が同程度 31 10.1 24 10.9 7 8.2行っているが本来業務中心 83 27.1 59 26.7 24 28.2災害関連業務は行っていない 119 38.9 86 38.9 33 38.8

遺体関連業務への従事(2m)無 293 95.8 212 95.9 81 95.3有 13 4.3 9 4.1 4 4.7

苦情相談対応への従事(2m)無 276 90.2 202 91.4 74 87.1有 30 9.8 19 8.6 11 12.9

過重労働

月100時間を超す時間外勤務(2m)無 280 91.5 199 90.1 81 95.3有 26 8.5 22 10.0 4 4.7

先月の時間外勤務(7m)40時間未満 261 87.3 192 89.3 69 82.140時間以上 38 12.7 23 10.7 15 17.9

週1日程度の休日(2m)無 12 3.9 10 4.6 2 2.4有 293 96.1 210 95.5 83 97.7

休養(7m)(n=305)十分・まあまあとれている 180 59.0 145 65.9 35 41.2 †どちらともいえない・あまり・ほとんどと 125 41.0 75 34.1 50 58.8

職場の環境

勤務地(2m)内陸部 246 80.4 177 80.1 69 81.2沿岸部 60 19.6 44 19.9 16 18.8

勤務地(7m)内陸部 248 81.1 182 82.4 66 77.7沿岸部 58 19.0 39 17.7 19 22.4

上司・同僚・部下とのコミュニケーション(2m)まあまあ・かなりとれている 267 87.3 194 87.8 73 85.9とれていない 39 12.8 27 12.2 12 14.1

上司・同僚・部下とのコミュニケーション(7m)まあまあ・かなりとれている 223 73.1 171 77.7 52 61.2 †とれていない・どちらともいえない 82 26.9 49 22.3 33 38.8

Chi-square tests were used. *: p<0.05, †: p<0.01

表5.初回の調査でK6が10点以上であったものうち、2,3回目の調査でもK6が10点以上であることと、そうでないも

のの、業務の状況の比較(n=306)

全体(1回目調査で10点

以上)

K6: 2,3回目調査の

どちらか、もしくは両方10点未満

K6: 2,3回目調査の

両方とも10点以上

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n % n % n %306 221 85

ストレス(7m)度合い

あまり・多少 166 54.3 145 65.6 21 24.7 †大変強く・強く感じている 140 45.8 76 34.4 64 75.3

要因(3つまで選択)

自分の健康状態 69 25.7 46 24.7 23 27.7家族の健康状態 49 18.2 36 19.4 13 15.7家屋・家財の物的被害 29 10.8 17 9.1 12 14.5居住環境の変化 18 6.7 12 6.5 6 7.2経済的負担の増加 18 6.7 10 5.4 8 9.6勤務時間の増加 45 16.7 31 16.7 14 16.9職務内容の変化 104 38.7 71 38.2 33 39.8勤務場所の変更 20 7.4 14 7.5 6 7.2被災者・マスコミ等の対人的な対応 14 5.2 7 3.8 7 8.4通勤時間の増加 22 8.2 16 8.6 6 7.2地震・余震 38 14.1 28 15.1 10 12.1原子力発電所事故 21 7.8 12 6.5 9 10.8休みがとれないこと 31 11.5 21 11.3 10 12.1職場の人間関係 53 19.7 35 18.8 18 21.7分からない 24 8.9 14 7.5 10 12.1その他 30 11.2 18 9.7 12 14.5

震災の影響

あまり・ほとんど・全くない 81 30.3 57 30.8 24 29.3非常に・大いにある 186 69.7 128 69.2 58 70.7

身体健康

体調 (2m)よい・普通 154 50.3 120 54.3 34 40.0 *あまりよくない・悪い 152 49.7 101 45.7 51 60.0

睡眠 (2m)よく・大体眠れる 145 47.4 113 51.1 32 37.7 *あまり・眠れない 161 52.6 108 48.9 53 62.4

食欲 (2m)変わらない 181 59.2 139 62.9 42 49.4 *増えた・減った 125 40.9 82 37.1 43 50.6

飲酒量 (2m)変わらない・減った・飲まない 242 79.3 173 78.6 69 81.2増えた 63 20.7 47 21.4 16 18.8

体調 (7m)よい・普通 188 61.4 154 69.7 34 40.0 †あまりよくない・悪い 118 38.6 67 30.3 51 60.0

睡眠 (7m)よく・大体眠れる 173 56.5 145 65.6 28 32.9 †あまり・眠れない 133 43.5 76 34.4 57 67.1

食欲 (7m)ある・まあまあ 278 90.9 202 91.4 76 89.4あまり・ほとんどない 28 9.2 19 8.6 9 10.6

飲酒量 (7m)変わらない・減った・飲まない 229 75.1 169 76.8 60 70.6 *増えた 76 24.9 51 23.2 25 29.4

震災後、新たに治療をはじめた疾患 (7m)無 262 85.9 195 88.2 67 79.8有 43 14.1 26 11.8 17 20.2

(複数選択)

高血圧症 3 1.0 0 0.0 3 3.6 †不整脈 1 0.3 0 0.0 1 1.2狭心症・心筋梗塞 0 0.0 0 0.0 0 0.0糖尿病 2 0.7 1 0.5 1 1.2高脂血症 1 0.3 1 0.5 0 0.0不眠症 5 1.6 1 0.5 4 4.8 †こころの不調 10 3.3 7 3.2 3 3.6その他 27 8.9 17 7.7 10 11.9

Chi-square tests were used. *: p<0.05, †: p<0.01

表6.初回の調査でK6が10点以上であったものうち、2,3回目の調査でもK6が10点以上であることと、そうでないも

のの、ストレス、身体健康の比較(n=306)

全体(1回目調査で10点

以上)

K6: 2,3回目調査の

どちらか、もしくは両方10点未満

K6: 2,3回目調査の

両方とも10点以上

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図1.各調査における K6 が 10 点以上の者の割合

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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))

大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究

平成25年度分担研究報告書

総合病院のための虐待対応マニュアルと

虐待防止教育用テキストの開発に関する研究

分担研究者 石郷岡純1)

研究協力者 加茂登志子2)1) 内出容子1)2)

1)東京女子医科大学精神医学教室

2)東京女子医科大学附属女性生涯健康センター

研究要旨

医療機関における虐待事例への対応は、一般医療におけるトラウマ被害対策として重要事

項であり、各医療機関においては虐待防止組織の整備や虐待防止に関する知識の啓蒙が進

められてきた。これらは、医療安全の観点からも必要な事項と思われる。本研究では東京

女子医科大学病院を総合病院の1モデルとし、そこでの運用を想定した包括的な虐待防止マ

ニュアルと、教育用テキスト、研修プログラムの開発を目的とし、東京女子医科大学病院

虐待防止委員会とともに作業を行ってきた。研究最終年度にあたる今年度は、完成したマ

ニュアルを運用しつつアンケート調査を施行し、その結果を踏まえて教育ツールを完成さ

せる予定であったが、最終的にそれぞれのマニュアルの運用開始までにとどまった(一部

は尚、試用の扱いである)。今年度は平成24年に施行された障害者虐待防止法に関連する

事例報告を得た。平成25年4月から8月末までの全虐待に関する報告事例は17事例であった。

児童、DV、高齢者、障害者事例から各1例を個人情報の観点から若干改変して提示した。教

育ツール(具体的には教育用テキストと研修プログラム)についての開発は今後も継続す

る。

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A.研究目的

医療機関における虐待事例への対応は、

一般医療におけるトラウマ被害対策と位置

付けることができる。

東京女子医科大学病院を総合病院の1モ

デルとし、ここで運用される虐待防止マニ

ュアルと教育用テキストの開発を行う。前

年度まで、4つの虐待防止関連法について

各々虐待防止マニュアルを整備してきた。

※4つの虐待防止関連法:「児童虐待の防

止などに関する法律」(児童虐待防止法)、

「配偶者からの暴力の防止及び保護に関す

る法律」(DV防止法)、「高齢者虐待の防

止、高齢者の養護者に対する支援等に対す

る法律」(高齢者虐待防止法)、「障害者

虐待の防止、障害者の養護者に対する支援

等に関する法律」

今年度はマニュアルの完成とそれらの院

内正式運用を待ち、運用後に病院職員に対

しアンケート調査を行い、教育ツールを開

発する。

B.方法

4つの法案に関連する虐待対応マニュア

ルを整備したのち、マニュアルを運用しつ

つ医療従事者をはじめとする病院職員にア

ンケート調査を行い、虐待対応についての

知識や理解度を評価する。その結果に基づ

き、教育テキストと研修プログラムを開発

する。

倫理的配慮として上記は東京女子医科大

学病院虐待防止委員会の活動にあわせて行

った。またアンケートの施行にあたっては、

匿名調査とし、回答をもって同意とみなす

旨明記した説明書を調査票とともに配布し、

回答によって調査同意を得るものとする。

アンケートの内容:

<回答者の属性>

年齢、性別、職種、勤務状況、経験年数、

所属する診療科

<虐待に関する知識>

虐待に関する4つの法律を知っているか

虐待の種類を知っているか

院内に「虐待防止委員会」があることを知

っているか

院内の虐待防止マニュアルの存在を知って

いるか

通告義務のある虐待事例はどれか

援助者による「二次被害」を知っているか

<対処>

虐待事例に遭遇した経験の有無

通告経験の有無

通告をためらったことの有無(有の場合理

由も)

院内の相談、連絡先を知っているか

以上

※東京女子医科大学病院虐待防止委員会

以下に示す4つのサポート委員会で構成

される。医師1名、医療ソーシャルワーカー

1名がそれぞれの委員会のコアメンバーと

して指名されている。(資料参照)

・子育てサポート委員会:児童虐待対応

・家族(DV)サポート委員会:配偶者間暴

力対応

・介護(高齢者)サポート委員会:高齢者

虐待対応

・介護(障害者)サポート委員会:障害者

虐待対応

「子育てサポート委員会」は、他施設でC

APS(Child Abuse Prevention System)と称

される組織とほぼ同じ機能をもつ。

当院虐待防止委員会の特徴としては、多

くの診療科が参加していること、診療科に

よっては複数のサポート委員会に関与する

ことが挙げられる。平成25年9月現在、15

診療科にのぼる(前年比:4診療科増)。

C.結果

前年度までに正式運用されていたのは児

童虐待防止マニュアルのみであった(東京

女子医科大学病院イントラネット上で参照

可能)。今年度は「DV被害者対応マニュア

ル」の正式運用(平成25年9月)と、高齢者

虐待対応、障害者虐待対応のマニュアル作

成(作成済み、正式運用待ち)、さらに「児

童虐待・DV・高齢者虐待発生時の当院での

対応について」と称する簡易マニュアル(平

成25年9月から試用中)の作成を行った。

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児童虐待防止マニュアルは現在当院のイ

ントラネット上で公開、運用されているが、

DV被害者対応マニュアルについてパンフレ

ットを作成した。

しかし、すべてのマニュアルの正式運用

にまで至らなかったため、職員に対するア

ンケート調査が施行できず、よって教育ツ

ールの開発が叶わなかった。

一方で平成25年8月末までの虐待事例報

告は、児童事例10、DV事例2、高齢者事例4、

障害者事例1の計17事例であり、この時点で

昨年度と比較して1事例多い。

次に事例を提示する。尚、事例提示にあ

たっては個人情報の観点から若干の改変を

加えた。

症例1 2か月女児

先天性心奇形、無脾症。母親は外国籍。他

の医療機関で出生後、紹介で当院に入院。

手術適応であったが、両親は希望せず。ま

た母親は体調不良を理由に見舞いにも来な

い状況であった。受療について親族のサポ

ートが得られることを確認し、保健師の定

期訪問も設定した上で自宅に退院。しかし

退院後、服薬や受診など遵守できず、保健

師の訪問も断わられてしまう。その後の受

診時、すでに重篤な状態にあり余命1週間程

度と判断されるが、両親の強い希望で自宅

に帰る。

症例2 50歳女性

外傷を主訴に外科外来と整形外来を受診。

外傷は夫による暴力が原因であると本人は

いい、診療録に創部の写真を残すことを希

望した。さらに診断書作成の希望があり、

暴力と怪我の因果関係を記載してほしいと

言い募った。診察時の所見は記載できるが

因果関係は記載できない、と担当医が伝え

たところ、本人が診断書作成を取り下げた。

相談先機関を提示し、診察終了となった。

症例3 70歳男性

家族に連れられ当院時間外救急外来を受診。

脱水の所見あり、またその他の状況からネ

グレクトが疑われた。本人が気分症状を訴

えて受診を希望したため、精神科紹介受診。

うつ状態であり、これが介護拒否につなが

っている可能性が示唆されネグレクトは否

定的であった。ソーシャルワーカーから家

族に介護に関する情報提供を行い、精神科

で経過観察する方針とし終了。

症例4 40歳女性

染色体異常、精神遅滞、統合失調症の診断

で長く当院精神科に通院しており、入院歴

もある症例。以前から本人の問題行動を抑

えるために、父親が本人を強く抑制するこ

とがあり、担当医らが居住市に相談してい

たが、介入がうまくいっていなかった背景

がある。ある定期受診日に、左眼瞼の著し

い腫脹と内出血の所見があり、本人と父親

に問うたところ、本人は父親に打たれたと

話し、父親は本人の手がたまたま当たった

と話した。障害者虐待防止法が施行された

ことを鑑み、ソーシャルワーカーを通じて

居住市へ通報を行い、支援策を検討しても

らうことになった。

D.考察

各マニュアルの整備に相当の時間を要し、

計画した研究が完遂できなかった。これは

マニュアルの正式運用が許可されるまでに、

院内の複数の委員会の了承を得る必要があ

ったことが原因のひとつである。大規模総

合病院ならではの結果であるが、そのよう

な施設で使用することを想定したツール開

発を目指していただけに残念である。

さて、C.で提示した症例について若干の

考察を行いたい。

症例1は児童事例であるが、担当医は治療

ネグレクトに相当する可能性を疑い、虐待

防止委員会のほか、医療安全対策委員会に

も相談を行っている。事例のような予後不

良の症例では、生命倫理の観点からも多様

な意見が出てくるものと思われる。当院で

はこのような症例への対応につき、児童虐

待防止マニュアルとは別に、母子総合医療

センターの産科医主導で「重篤な疾患を持

つ胎児・新生児への対応」と称するマニュ

アルが整備された。そこで虐待防止委員会

からの意見も取り入れられている。マニュ

アルの内容をごく簡単に紹介すると、第一

義は「新生児の最善の利益」であり、さら

に児の両親と医療スタッフで最善の対応を

選択するための協議を行うことが求められ

る、というものである。

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症例2はDV事例である。ここであがったよ

うな診療録への記載や診断書作成に関する

事項は重要であるが、ここで対応に迷った

担当医は虐待防止委員会に相談し、解決を

みている。診療録には常に客観的に記載す

ること、また診断書作成の請求には応じる

べきであるが因果関係は断定しない、等の

原則については繰り返し周知する必要があ

ると思われた。

症例3は高齢者事例である。事例のような

気分障害、あるいは認知症の症状に関連し

たセルフケアの悪化とネグレクトは鑑別が

難しいことが予想される。事例では本人が

精神科受診を希望したのであるが、ここで

救急医はソーシャルワーカーを通じて精神

科医に事前の情報提供を行った。診察の結

果、一旦ネグレクトは否定されたが、引き

続き経過観察しながら福祉的介入について

も早めに策を講じることとなり、結果的に

は起こり得たかもしれない虐待の防止効果

につながったといってもよい。

症例4は障害者事例である。以前から本人

のためを思う家族の行動(問題行動を抑止

する)と虐待との境界が曖昧であったこと

は指摘されており、担当医やソーシャルワ

ーカーらが居住市の担当者や警察と協議し

たこともあったが、介入がうまくいかずに

経緯していた。障害者虐待防止法施行後に、

明らかな外傷をみとめる状況で受診した折

に改めて事例として通報することで、居住

市には以前よりも積極的に関与してもらえ

ることになり、解決を見た。

E.結論

一般医療におけるトラウマ被害対策とし

ての虐待防止を考えたとき、すべての医療

関係者は虐待事例を発見する可能性があり、

事例の状態像を的確に捉えたうえで適切な

対応が求められることについては論を俟た

ない。

予定していた教育ツールの開発には至ら

なかったが、当院虐待防止委員会の活動と

併せてマニュアルが整備されていく中で、

虐待事例の発見と、その後の適切な対応が

なされたことが示された。どの病院関係者

にも適切な事例対応が可能になるような、

教育ツール(テキスト、研修プログラム)

の開発を継続していく。

F.研究発表

論文発表なし、学会発表なし

G.知的所有権の取得状況

特許取得なし、実用新案登録なし、その

他なし

参考資料

東京女子医科大学病院平成25年度第1回虐

待防止委員会議事録 平成25年9月

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虐待防止委員会(東京女子医大モデル)

• 法律別のサポート委員会で構成される • 医師1名 MSW1名をコアメンバーとする

子育て サポート委員会

家庭(DV) サポート委員会

介護(高齢者) サポート委員会

介護(障害者) サポート委員会

新生児科 小児科 産婦人科 循環器小児科 腎小児科 脳外科 小児外科

救命救急科、形成外科、整形外科、外科 皮膚科、眼科 神経精神科、神経内科

看護部 業務管理課 社会支援部

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児童虐待(子育てサポート)、配偶者間虐待(家庭サポート)フローチャート

虐待疑い・発見・相談

担当医 サポート委員

虐待防止委員 MSW

虐待防止委員会

委員長

病院長

実務者緊急会議

担当医・MSW・虐待防止委員・サポート委員・主治

医 看護師・関係部署医師・管理課

MSW 虐待防止委員会の名で召集

虐待防止委員会フローチャート 家庭(DV)編

MSW *担当医に報告 *委員長に適宜報告 *虐待防止委員、サポート委

員に結果報告

配偶者暴力相談支援センターへ

の連絡

要支援家庭 関係機関への連絡

配偶者暴力相談支援セ

ンター(居住地)

Page 131: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

高齢者虐待(介護・高齢者サポート)、障害者虐待(介護・障害者サポート) フローチャート

虐待疑い・発見・相談

担当医 :サポート委員

虐待防止委員 MSW

虐待防止委員会

委員長 病院長

実務者緊急会議

担当医・MSW・虐待防止委員・サポート委員 ・

主治医 看護師・関係部署医師・管理課

MSW 虐待防止委員会の名で召集

虐待防止委員会フローチャート 障害者編

MSW *担当医に報告 *委員長には適宜報告 *虐待防止委員には結果報告

障害者福祉課への連絡 要支援家庭 関係機関への連絡

障害福祉課(居住地)

虐待疑い・発見・相談

担当医 :サポート委員

虐待防止委員 MSW

虐待防止委員会

委員長 病院長

実務者緊急会議

担当医・MSW・虐待防止委員・サポート委員 ・

主治医 看護師・関係部署医師・管理課

MSW 虐待防止委員会の名で召集

虐待防止委員会フローチャート 介護・高齢者編

MSW *担当医に報告 *委員長には適宜報告 *虐待防止委員、結果報告

地域包括支援センターへの連絡 要支援家庭 関係機関への連絡

地域包括支援センター

(居住地)

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東京女子医科大学病院

DV 被害者 対応マニュアル 虐待防止委員会 家族サポート委員会

平成 25 年度 Ver. 1β

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DV 被害者対応マニュアル(平成 25 年度 Ver.1β)

◆ドメスティック・バイオレンス(DV)には以下のようなものがある。

・身体的暴力

(打つ、殴る蹴る、引きずり回す、凶器を突きつける、物を投げつける等)

・性的暴力

(性行為の強要、中絶の強要、避妊への非協力、ポルノを見せる等)

・精神的暴力

(モラル・ハラスメント=言葉や態度で、相手の人格を繰り返し執拗に傷

つけ、相手を支配すること)

・経済的暴力

(生活費を渡さない、就労させない等)

公衆衛生学的な見地からも、DV 被害の多さは看過できない。

被害者の恐怖が強いとき、一方的で支配的な人間関係のパターンが出

来上がっているときは何らかの介入が必要である。軽視せずに経過に

注意を向ける姿勢も重要。

DV は加害者が存在する犯罪であり、見逃すこと、見て見ぬふりをするこ

とは犯罪幇助になる。

◆医療機関の役割

医療関係者は職務上DV被害者を発見しやすい立場にある。医療関係

者が被害に気付き、適切且つ効果的な対応を行うことに意味がある。

※医療関係者=医師、歯科医師、看護師、助産師、保健師、心理士、

ソーシャルワーカー、事務職員などすべての病院職員

◆発見:特定の診療科に限らない

外科領域:暴力による外傷を疑わせるもの

Page 134: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

内科領域:胃潰瘍、喘息、高血圧、種々の自律神経症状

精神科領域:さまざまな不安症状、抑うつ、物質依存(アルコール、抗

不安薬)など

婦人科領域:性交痛、性感染症、中絶の繰り返し

※外傷などの理由で頻繁に受診する、受傷から受診まで長く経過して

いる、受傷機転の説明があいまいである、等も DV 被害を示唆させる所

見である。

◆DV を疑ったら~問診の仕方

被害者と疑われる人物の安全を確保する

プライバシーの保護:同伴者には席を外してもらう。その人物が加害者

であることも多いため。

DV について「誰にでも質問している」ことを伝えて不安の軽減を図り、話

しやすい雰囲気をつくる。

・被害を否認する場合:回答を尊重したうえで、また相談に乗れることを

告げる

・被害を打ち明けた場合:共感を示し、被害者の自責感や羞恥心を取り

除く。その後、状況と危険度を把握するための情報を得る。

※被害者が自ら被害を医療関係者に相談することは少ない。問題はた

いてい潜在化されたままであるため、二次被害(後述)に注意しながらう

まく聞き出す。あらためて守秘義務について保証することも大事。

◆二次被害の防止

援助者の言動により、さらに被害者を傷つけることを「二次被害」という。

特に、医療者の価値観を押し付けたり、被害者の落ち度を責めたりしな

いよう留意する。

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◆被害者に対する情報提供

相談窓口(配偶者暴力相談支援センターなど)についての情報を提供

する義務がある。

東京ウィメンズプラザ:03-5467-2455

東京都女性相談センター:03-5261-3110

東京都女性相談センター多摩支所:042-522-4232

警視庁総合相談センター:03-3501-0110

夜間・休日: 東京都女性相談センター:03-5261-3911

警察 110(事件発生時)

DV 防止法第 6 条第 4 項:医師その他の医療関係者は、その業務を行

うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認

められる者を発見したときは、その者に対し、配偶者暴力相談支援セン

ター等の利用について、その有する情報を提供するよう努めなければな

らない。

◆関係機関への通報

本人の了解を得たうえで、配偶者暴力相談支援センターまたは警察に

通報できる。

ただし、被害者の身体的生命的危険度が大きいと判断した場合は、本

人の同意がなくても通報することが必要。

※児童虐待事例との相違:被虐待児の発見では、市町村または児童

相談所に通報する義務がある。

◆記録(カルテ記載)

DV に関する問診、診察の記録はきちんととっておく。被害者が医療機

関で治療したという記録になる。具体的かつ客観的に記載することが求

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められる。

被害者の陳述はそのまま「」に入れて記載するとよい。

外傷については、本人の了承がえられれば写真に残す。傷をクローズア

ップした写真と、被害者の顔と傷が両方入った写真を撮り、本人の傷で

あることを証明する。

写真撮影は医師の指示のもと複数医療者で対応する。

◆診断書を求められたら応じること。

「DV によるものである」との記載を要請されることがあるが、因果関係に

ついては記載しない。医学的所見と、それについての本人の説明を記

載すればよい(診察で得られた所見と、被害者から聴取したことは区別

する)。

診断書の請求者と費用、窓口等について確認すること

請求者が本人?親族等?虐待当該者?児相、地域包括支援センタ

ーなど公的機関?

→本人からの依頼以外は、社会支援部(連絡先 20175)を通すこと

◆プライバシー(個人情報)の保護

被害者の安全確保が重要。加害者からの問い合わせに注意。

受診状況等への確認への対応、入院・退院状況の確認があった場合

への周知方法と対応

→原則本人以外には回答しない。公的機関からの照会で情報提供に

ついて迷う場合は、社会支援部へ(20175)

◆対応に困ったら

対応に不明な点があれば、社会支援部(連絡先:20175)または

虐待委員会内の家族サポート委員に連絡、相談することができる。

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◆対応した事例についての報告

社会支援部(連絡先:20175)あてに事例報告を行う。

◆院内虐待委員会での共有

事例について院内虐待委員会で共有し、課題があれば検討する。

◆医療関係者のセルフケア

十分な休養をとる。仕事の時間以外には被害者のことを考えない。

自分の限界を認めて、無理をしない。

一人ですべての責任を負わない。孤立しない。信頼できる同僚に相談

する。

スーパービジョンを受ける。

<参考文献>

宮地直子 「医療現場における DV 被害者への対応ハンドブック 医師

および医療関係者のために」明石書店.東京.2008.

広島県健康福祉局総務監理課こども家庭課、児童虐待防止・DV 対策

室 「DV 被害者対応マニュアル 医療関係者向け」平成 22 年 1 月

岡山県生活環境部男女共同参画課 「医療関係者のための DV 被害

者対応の手引き」 平成 19 年 1 月

ほか

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参考資料 ~すべての虐待事例に速やかに対応するために~

児童虐待・DV・高齢者虐待発生時の当院での対応について

Ⅰ当院では平成 22 年 10 月に虐待防止委員会規程が施行されました。

Ⅱ虐待防止委員会は、虐待・虐待疑い事例に関して以下の業務を行な

っています。

① 調査・分析②官公庁関係機関への通報及び連携 ③院内支援体

④院内における虐待防止に関する教育 ⑤脳死判定委員会への協力

Ⅲ虐待(含む疑い)事例に対しての取り扱い

1.児童虐待:虐待発見時通報は義務

相談窓口は居住地の児童相談所です。

① 児童虐待防止マニュアルに沿って対応を行なう(イントラ各種マニュ

アルを参照のこと)

休日・夜間等:児童虐待疑いの症例発生時の連絡・相談先

東京都児童相談センター:03-3208-1121

(東京都以外の児童の場合も先ず上記でご相談ください)

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2.DV(配偶者間暴力等):虐待発見時通報は努力義務

相談窓口は配偶者暴力相談支援センターです。

東京都では東京ウィメンズプラザ 03-5467-2455(9 時から 21 時)

① 情報提供・・・相談機関の案内;パンフレットを手渡す

パンフレット:救命救急センター、社会支援部(第 1 病棟 1 階:20175)迄

②本人の保護の要請を確認したら、配偶者暴力相談支援センター、ある

いは警察に通報可

③被害者の生命にかかわる重篤な危害がある場合は、本人の承諾がな

くても警察に通報することが必要

④カルテには出来るだけ具体的に客観的に記載する。

⑤担当医は虐待防止委員会(社会支援部:20175)に事例報告する。

⑥事例対応に不明な点があれば、家族サポート委員(神経精神科:内出

28038、又は社会支援部ソーシャルワーカー:木舟 28978 等)に連絡相

談可。

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3.介護・高齢者虐待:虐待発見時通報は努力義務

相談窓口は居住地の地域包括支援センターです。

① 虐待が疑われる場合、被害者からの訴えがある場合、被害者本人の

同意を得た上で、本人の居住地の地域包括支援センターに連絡、

(社会支援部ソーシャルワーカーに相談 20175)

② 被害者の生命に重篤な危害がある場合は、社会支援部ソーシャルワ

ーカー、もしくは、地域包括支援センターに連絡通報。

(地域包括支援センター等についての問い合わせは社会支援部へ)

③ 夜間(緊急の場合)については警察に相談が出来る

④ カルテには出来るだけ具体的に客観的に記載する。

⑤ 担当医は虐待防止委員会(社会支援部:20175)に事例報告を行

う。

⑥ 事例対応に不明な点があれば、介護サポート委員(社会支援部ソー

シャルワーカー:20175 虐待防止委員会担当医師)に連絡相談可。

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4.介護・障害者虐待:虐待発見時通報は義務

相談窓口は居住地の障害者虐待防止センターです。

① 虐待が疑われる場合、被害者からの訴えがある場合、被害者本人

の同意を得た上で、本人の居住地の障害者虐待防止センター(区

市町村の障害者福祉課等)に連絡、若しくは社会支援部ソーシャ

ルワーカーに相談 20175

② 被害者の生命にかかわる重篤な危害がある場合は、社会支援部ソ

ーシャルワーカー、もしくは、障害者虐待防止センターに連絡通報。

(障害者虐待防止センター:区市町村の障害者福祉課等)について

の問い合わせは社会支援部へ)

③ 夜間(緊急の場合)については警察に相談が出来る。

(各市町村に連絡、夜間対応相談はあるが、動きとしては未確認)

④ カルテには出来るだけ具体的に客観的に記載する。

⑤ 担当医は虐待防止委員会(社会支援部:20175)に事例報告。

⑥ 事例対応に不明な点があれば、介護サポート委員(社会支援部ソ

ーシャルワーカー:20175、虐待防止委員会担当医師)に連絡相

談可。

高齢者虐待、障害者虐待については、対応者・施設等が児童虐待

のように確立されていることが少なく、より養護家族への支援(要支援

家族・家庭)という対応が必要

Page 142: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

平成 25 年度 厚生労働科学研究費補助金

(障害者対策総合研究事業)

「大規模災害や犯罪被害等による

精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究」

Page 143: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

平成 25年度 厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)

「大規模災害時の精神疾患実態把握と対応ガイドラインの作成・評価に関する研究」

分担研究報告書

口蹄疫被災における畜産農家・地域住民・防疫従事者の継続的健康調査

研究分担者 渡 路子 (国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)

研究協力者 堤 敦朗 (国連大学グローバルヘルス研究所)

蒔田 浩平 (酪農学園大学獣医学部)

辻 厚史 (NOSAI連宮崎リスク管理指導センター)

重黒木 真由美 (宮崎県高鍋保健所)

河野 次郎 (宮崎県精神保健福祉センター)

日高 真紀 (宮崎県精神保健福祉センター)

野上 朋子 (宮崎県精神保健福祉センター)

研究要旨:

【目的】

本研究では、平成22年の宮崎県における口蹄疫被災において、発災当初より2年後まで継続して被災農家、地域

住民、防疫従事者を対象に健康調査を行ってきた。今年度は、より詳細に口蹄疫災害が与える健康影響について

把握するために、平成 24 年度の防疫従事者調査より防疫作業において中心的な立場にあった者(専門職の宮崎

県職員)についての分析と、平成 22年度から 24年度に継続して行った被災農家調査における縦断研究を行う。そ

して、これまでの 3年間の調査研究で得られた知見をもとに、平成 25年度版 「口蹄疫対策における地域精神保健

活動マニュアル」を作成する。

【方法】

1.平成 24 年度 防疫従事者における健康調査 専門職の宮崎県従事者についての分析;宮崎県職員のうち、口

蹄疫防疫作業に従事した獣医師と畜産を担当する技師(161 人)に対し、口蹄疫における作業内容や具体的なスト

レス内容について調査した。

2.被災農家の縦断研究;平成 22年度~24年度の被災農家に対する調査データのうち、継続してデータが得られ

た 127人について、3年間のデータを統合した新たなデータベースを作成し分析した。

3.口蹄疫対策における地域精神保健活動マニュアルの作成;平成 22 年度から 24 年度の研究結果と、口蹄疫発

生時支援にあたった各市町の保健師、被災地域の民間獣医師や行政所属の獣医師等さまざまな立場の防疫従事

者へのインタビュー結果を踏まえ、研究班によるマニュアル作成のための検討会を行った。

【結果】

1.平成 24年度 防疫従事者における健康調査 専門職の宮崎県従事者についての分析;IES-R値の上昇には、

感染拡大の危険性やその判断を必要とする専門性の高い作業が関連していた。一方、殺処分・埋却業務について

は、関連性は認められなかった。

2.被災農家の縦断研究;調査年度毎の K6得点を 3区分(9点以上/4~8点/3点以下)にし、それぞれの群の人

数の推移では、3点以下の群は年毎に増加し、9点以上、4~8点の群はいずれも減少していた。また、9点以上、4

~8点の群では年毎に得点が低下し、下位の群へ移行し、3年間継続して 9点以上の者は認められなかった。

3.口蹄疫対策における地域精神保健活動マニュアルの作成;平成 22年から 25年度までに得られた全ての研究

知見をもとに平成 25年度版のマニュアルを作成した。

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【考察および結論】

1.平成 24 年度 防疫従事者における健康調査 専門職の宮崎県従事者についての分析; IES-R 値の上昇に

は、感染拡大の危険性やその判断を必要とする専門性の高い作業が関連していることがわかった。特に獣医師等

の専門性の高い従事者については、その他とは違うストレスがかかるため、防疫従事者への保健対策を検討する

際にはこれらの差違を考慮する必要がある。

2.被災農家の縦断研究;被災農家127人に対し、3年間の縦断調査により健康状態の経過を評価した。K6得点の

高い者、中等度の者とも、経年で改善する傾向を認め、また 3 年間継続して高得点の者は認められなかった。今回

の調査は、継続した地域精神保健活動との連携による結果であるが、この回復経過については、被災時の啓発活

動等の基礎資料となると考えられる。

3.口蹄疫対策における地域精神保健活動マニュアルの作成;作成したマニュアルについては、研究班を構成する

関係機関からインターネットを介して提供するとともに、家畜感染症における精神保健活動の意義について普及啓

発するため、関係機関および世界銀行、国連大学の協力を経て、特に発展途上国を中心とした政策立案者に向

け、ビデオ配信する。

Ⅰ.背景

平成 22 年 4 月に国内で 10 年ぶりに発生した口蹄

疫は、約 29 万頭の家畜が殺処分、埋却される国内最

大の感染事例となった。口蹄疫は感染症という特性上、

地域での移動制限や昼夜を問わない防疫体制がとら

れ、畜産業のみならず地域社会全体に影響を及ぼし

た。これまで、このような特殊な災害下での精神保健対

策の知見はほとんど見られず、具体的な精神保健対

策の構築を目的に、平成 22 年度 厚生労働科学研究

費補助金 特別研究事業 「宮崎県の口蹄疫対策にお

ける被災者支援とその実績に基づいた精神保健対策

マニュアル作成に関する研究」において精神保健対策

マニュアルの作成や支援者向け研修の実施等、被災

後の支援について検討を行った。引き続き平成 23 年

度、24 年度も厚生労働科学研究費補助金 障害者対

策総合研究事業 分担研究として口蹄疫感染および

ワクチン接種農家(以下、被災農家と記す)、感染周辺

地域で飲食業等に従事する者(以下、地域住民と記

す)、口蹄疫発生時に防疫作業に従事した者(以下、

防疫従事者と記す)の 3つの集団において調査を行い、

これまでの結果として、長期的な感染周辺地域の精神

保健活動の必要性と継続的調査による被災後の影響

の評価の重要性が示唆された。

本研究では、より詳細に口蹄疫災害が与える健康影

響について把握するために、平成 24 年度の防疫従事

者調査より防疫作業において中心的な立場にあった

者(専門職の宮崎県職員)についての分析と、平成 22

年度から 24 年度に継続して行った被災農家調査にお

ける縦断研究を行う。そして、これまでの 3 年間の調査

研究で得られた知見をもとに、平成 25 年度版 「口蹄

疫対策における地域精神保健活動マニュアル」を作成

する。

Ⅱ.平成 24 年度 防疫従事者における健康調査 専

門職の宮崎県従事者についての分析

A.研究目的

宮崎県内の防疫従事者を対象に行った平成 22年度

と 23 年度の調査では、健康状態は平時と比較して同

等レベルのもので、集団としての健康影響は認められ

なかった。そこで調査対象を、特にストレス負荷が大き

いと考えられる殺処分作業に濃厚に関わった獣医師

等の集団とし、防疫作業の健康影響についての最終

的な評価を行う必要があった。よって平成 24年度調査

では、宮崎県を含む全国から派遣された当時防疫作

業に携わった者(防疫従事者)について調査を行った。

その結果として、K6 得点のハイリスク者(10 点以上)の

割合は 1.5%と平時(平成 19年度 国民生活基礎調査

全国データでは 10%)より顕著に低い値であった。そ

のため防疫作業が与える健康影響については、さらな

る分析が必要となった。そこで今年度は、平成 24 年度

調査より、専門職の宮崎県職員(以下、宮崎県従事者

と記す)を抽出し分析を行い、当時の状況やストレス状

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態を詳細に把握し、防疫作業が与える健康影響につ

いて明らかにすることを目的とした。尚、評価指標につ

いては、被災 2年後の調査のため、長期的に症状を残

しうる PTSD(外傷後ストレス障害)を考慮し、IES-R(改

訂出来事インパクト尺度)を使用した。

B.研究方法

1.調査対象:宮崎県職員のうち、口蹄疫防疫作業に

従事した獣医師と畜産を担当する技師(161人)

2.調査方法:本調査実施前の平成 24 年 7 月に防疫

作業に従事した宮崎県職員 8 名に対し参加型疫学調

査を実施し、その結果をもとに口蹄疫における作業内

容やストレス状態を項目とした調査票を作成した。調査

票は、宮崎県農政水産部 畜産・口蹄疫復興対策局

畜産課 家畜防疫対策室(当時)より、該当部署宛てに

調査協力依頼を行った上で、電子メールによる配布、

回収を行った。回収した回答はデータベース化し、分

析を行った。

3.調査期間:平成 24 年 11 月 1 日~平成 24 年 12

月 21 日

4.回収率:62.1%(100人)

5.分析方法:記述統計に加え、各変数と IES-R値との

関連はウイルコクソンの順位和検定を用いた。

(倫理面への配慮)

調査票の内容において、回答者個人が特定され

るような質問事項は設置していない。

C.研究結果

1.対象者属性(図 1)

性別では男性74人(74%)、女性26人(26%)であり、

対象者全体の平均年齢は 45.1歳であった。

2.防疫作業状況

(1)防疫作業従事場所(表1)

口蹄疫発生時の防疫作業従事場所について回答を

得た。結果を表1に示す。発生状況や現場の状況によ

り人員配置が行われ、複数箇所にて従事する者もあっ

た。

(2)防疫作業内容(表 2)

従事した作業内容、平均従事期間、平均従事時間

について表2に示す。「発生農場での殺処分・埋却・消

毒」に従事した者が最も多く、次いで「市町村対策本部

での指揮」、「堆肥処理」であった。

3.IES-R値との関係

防疫作業従事中に受けたストレスによる IES-R 値へ

の影響について解析を行った。IES-R は、侵入症状、

回避症状、過覚醒症状の各項目から構成されており、

心的外傷性ストレス症状を測定するための 22項目から

なる尺度である。

(1)防疫作業内容と IES-R値の関係(表 3)

それぞれの作業従事の有無と IES-R 値との関係に

ついての結果を表 3 に示す。「堆肥処理」、「病性鑑定」

に従事した者はしなかった者より IES-R 値が有意に高

かった。「疫学調査」、「県庁内対策本部での指揮」、

「翌日以降の殺処分の日程調整」に従事しなかった者

は従事した者より有意に IES-R値が高かった。

(2)時期別のストレス有無と IES-R値の関係(表 4)

口蹄疫発生時期(平成 22年)の防疫作業期間中、防

疫作業期間終了直後、調査時(平成 24年)におけるそ

れぞれのストレス有無と IES-R 値の関係では、いずれ

の時期もストレス有りと回答した者がそうでない者よりも

有意に IES-R値が高かった。

4.防疫作業に関するストレス内容

防疫作業中の精神的ストレスについて、さまざまな作

業場面におけるストレスの有無と、それぞれのストレス

の強さを1~5(ややストレスを感じた~非常にストレス

を感じた)の 5段階評価とし、回答を求めた。

(1)防疫作業全般に関するストレス(表 7)

ストレスありと最も多く回答されたのは、「超過勤務」

(78人)であった。「命令系統の混乱」(60人)、「外部か

らの防疫対策に関する批判」(59 人)についてもストレ

スありと回答した者が多かった。ストレスの強さについ

ては、「病性診断の難しさ・責任の重圧」に対するストレ

スが 4.0 と高い数値を示した。全体的には、より高ストレ

スを示す 3.5以上となるものが多く、ストレス内容も多岐

に渡っていた。

(2)単独での意思決定に関するストレス(表 5)

防疫作業全般のストレスのうち、「単独での意思決定」

を要するさまざまな場面についてのストレスの有無と、

それぞれのストレスの強さについて回答を求めた。結

Page 146: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

果を表 5 に示す。「発生農場での殺処分・埋却・消毒」

(27人)にストレスありと回答した者が最も多かった。スト

レスの強さについては、「発生農場での殺処分のイン

フォームド・コンセント」(3.9)、「発生農場での殺処分・

埋却・消毒」(3.8)に対するストレスで高い数値を示した。

5.防疫作業期間中の相談相手(表 6)

防疫作業期間中に感じた自身のストレスについて、

どのような人に話や相談をしたかの問いでは、「家族」

(28 人)とした者が最も多く、次いで「職場の同僚」(18

人)、「職場の上司」(17人)であった。

D.考察

作業全般をマネジメントする対策本部での指揮や、

殺処分作業でのリーダー的役割等、防疫作業者の中

でも中心的な立場にあった専門職の宮崎県従事者の

分析を行った。IES-R値の上昇に有意に関係する作業

内容は、「堆肥処理」、「病性鑑定」であった。堆肥処理

は口蹄疫ウイルスを熱処理するための作業であるが、

従事者自らが感染を拡大させる危険性を念頭に置か

なければならない作業である。また、病性鑑定は獣医

師としての重大な判断を迫られる作業であり、どちらも

専門性の高い作業が関連していることがわかった。一

方で、殺処分・埋却業務については、平時より作業に

慣れている集団であることから関連性がなかったと考え

られた。また、具体的なストレス内容を 5 段階評価する

と、過重労働の詳細が確認できた。特に病性診断の業

務では、口蹄疫ウイルス感染有無を判断する第一段階

の作業であり、その難さと責任の重圧のため高ストレス

となることが判明した。そして、ストレスを感じた場合に

は家族や職場の同僚等、身近な人に相談することが

多く、平時からのメンタルヘルス対策に加え、災害時の

心のケアについての啓発や要支援のケースが専門家

へつながるための情報提供が必要であると考えられ

た。

E.結論

防疫作業者の中でも中心的な立場にあった専門職

の宮崎県従事者の分析を行った。IES-R 値の上昇に

は、感染拡大の危険性やその判断を必要とする専門

性の高い作業が関連していることがわかった。口蹄疫

の防疫作業は、作業内容、作業時間等さまざまであり、

派遣元や現場での立場も異なっていることから、一義

的な対応では効果的な対策は行えない。特に獣医師

等の専門性の高い従事者については、その他とは違う

ストレスがかかるため、防疫従事者への保健対策を検

討する際にはこれらの差違を考慮する必要がある。ま

た、防疫従事者に対しては、平時からのメンタルヘルス

対策とともに、災害時の心のケアについての啓発や要

支援のケースが専門家へつながるための情報提供が

必要であると考えられた。

Ⅲ.被災農家の縦断研究

A.研究目的

口蹄疫発生年である平成 22 年から被災 2 年後の平

成 24 年まで、被災農家における口蹄疫災害が与える

健康影響について、自治体が行う地域精神保健活動

と連携しながら調査研究を行った。結果として、集団と

しての健康状態は被災2年後で一定の回復を認めると

考えられたが、健康影響については、さらに縦断的に

評価する必要があった。

今年度研究では、これまでのデータをもとに新たにデ

ータベースを作成、分析し、口蹄疫被災における健康

影響の経年変化について明らかにすることを目的とし

た。

B.研究方法

1.分析対象:平成 22 年度~24 年度の被災農家に対

する調査データのうち、継続してデータが得られた 127

人のデータ

2.分析方法: 3 年間のデータを統合した新たなデー

タベースを作成し分析した。(記述統計)

(倫理面への配慮)

分析に使用したデータには個人情報は含まれて

いない。

C.研究結果

1.分析対象者属性(図 2)

対象者の属性を図 2 に示す。川南町では感染農家

の割合(68.1%)が多く、都農町ではワクチン接種農家

Page 147: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

の割合(87.3%)が多かった。全体の平均年齢は 68.3

歳であった

2.K6得点の推移

精神的状態について、K6(うつと不安のスクリーニン

グ尺度)を用い平成 22年度~24年度の各年度毎に回

答を得、3 年間の推移について分析を行った。K6 は、

2002 年にアメリカの Kessler が項目反応理論に基づき

提案し、気分・不安障害のスクリーニングを目的として

開発されている(日本語版は古川ら、2003)。

(1)K6平均点(図 3)

各調査年度毎の町別K6平均点を図3に示す。平成

22 年の口蹄疫発生時には川南町で 2.42、都農町で

2.45 という数値を示し、以後年毎に点数は両町とも低

下していた。

(2)3区分した K6得点の推移(図 4)

調査年度毎の K6 得点を 3 区分(9 点以上/4~8 点

/3点以下)にし、それぞれの群の人数の推移を図 4に

示す。3 点以下の群は年毎に増加し、9 点以上、4~8

点の群はいずれも減少していた。

(3)3区分した K6得点の経年変化(図 5)

調査初年の平成 22 年度の K6 得点を 3 区分(9 点

以上/4~8点/3点以下)にし、それ以後の調査におけ

るそれぞれの群の推移を図 5に示す。全体的な傾向と

して、3 点以下の群はほぼ同群で推移し、9 点以上、4

~8 点の群では年毎に得点が低下し、下位の群へ移

行していた。

D.考察

口蹄疫発生当初から被災 2年後まで継続して 127人

の健康状態について評価をした。初年度に 7名であっ

た K6 高得点(9 点以上)の者は経年で減少し、2 年後

には 1名となった。また、K6中等得点(4~8点)の者も

初年度 20 名から 2 年後に 2 名となるなど、全体として

経年で改善する経過が認められた。また、3 年間継続

して高得点である者は認められなかった。

E.結論

被災農家 127 人に対し、3 年間の縦断調査により健

康状態の経過を評価した。K6 得点の高い者、中等度

の者とも、経年で改善する傾向を認め、また 3 年間継

続して高得点の者は認められなかった。今回の調査は、

継続した地域精神保健活動との連携による結果である

が、この回復経過については、被災時の啓発活動等

の基礎資料となると考えられる。

Ⅳ.口蹄疫対策における地域精神保健活動マニュア

ルの作成

A.目的

口蹄疫という特殊な災害下での精神保健対策の知

見はこれまでほとんど見られず、本研究班では平成 22

年の口蹄疫発生時の研究をもとに、平成22年度版「口

蹄疫対策における地域精神保健対策マニュアル」を作

成した。その後 2 年間調査研究を進め、新たな知見を

集積し、それらを踏まえたマニュアルの必要性が高ま

った。そこで、平成 22年度版を改訂し、新たに平成 25

年度版マニュアルを作成することを目的とした。

B.方法

平成 22年度から 24年度の研究結果と、今年度新た

に行った平成 22年の口蹄疫発生時支援にあたった各

市町の保健師、被災地域の民間獣医師や行政所属の

獣医師等さまざまな立場の防疫従事者へのインタビュ

ー結果を踏まえ、研究班によるマニュアル作成のため

の検討会を行った。それらの結果をもとに、平成 25 年

度版のマニュアルを作成した。

(倫理面への配慮)

マニュアル作成にあたっては、個人情報の取り

扱いはない。

C.結果、D.考察、E.結論

マニュアル(資料1)参照。なお作成したマニュアル

については、研究班を構成する関係機関からインター

ネットを介して提供するとともに、家畜感染症における

精神保健活動の意義について普及啓発するため、関

係機関および世界銀行、国連大学の協力を経て、特

に発展途上国を中心とした政策立案者に向け、ビデオ

配信する。

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F.健康危険情報 なし

G.研究発表

1.論文発表

1)Makita K, Inoshita K, et al. Temporal

Changes in Environmental Health Risks and

Socio-Psychological Status in Areas Affected b

y the 2011 Tsunami in Ishinomaki Japan .

Environment and Pollution.2014,3(1),1-20.

2.学会発表

1)門脇弾・堤敦朗・野上朋子・渡路子・蒔田浩平.20

10年に宮崎で発生した口蹄疫被災農家の経営再開に

関わるメンタルヘルスの再解析.日本獣医学会,2013.

9,岐阜.

2)蒔田浩平・渡辺卓人・日比珠莉・野上朋子・渡路

子.2010年宮崎口蹄疫において県外から派遣された防

疫従事者のメンタルヘルス.日本獣医学会,2013.9,

岐阜.

H.知的財産権の出願・登録状況(予定を含む)

1. 特許取得 なし

2. 実用新案登録 なし

3. その他 なし

I.謝辞

調査に御協力いただきました対象者の方々、対象地

区自治体、調査に携わった保健師、看護師の方々、宮

崎県農政水産部 畜産新生推進局 家畜防疫対策課、

関係団体(宮崎県看護協会、食品衛生協会)等、全て

の関係者の皆様に深く感謝いたします。

[引用・参考文献]

1)石田 康,金 吉晴,渡 路子,松尾祐子,堤 敦朗,

蒔田浩平,辻 厚史,野上朋子. 宮崎県の口蹄疫対

策における被災者支援とその実績に基づいた精神保

健対策マニュアル作成に関する研究.平成 22 年度

厚生労働科学研究費補助金 特別研究事業 特別研

究報告書.2011.9.

2)古川壽亮,大野 裕,宇田英典,中根允文. 一般人

口中の精神疾患の簡便なスクリーニングに関する研究.

厚生労働科学研究費補助金 特別研究事業 心の健

康問題と対策基盤の実態に関する研究 平成 14 年度

特別研究報告書.2003.3,p.127-130.

3)口蹄疫に関する情報提供.宮崎県.

http://www.pref.miyazaki.lg.jp/contents/org/nosei

/chikusan/miyazakicow/h22kouteindex.html

4)国民生活基礎調査.厚生労働省.

http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

5)平成 19 年 国民生活基礎調査 特別集計 都道府

県別 K6データ表.災害時こころの情報支援センター.

http://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/document/medica

l.html

6)みやざきのうごき 2011.2011.7, 宮崎県.

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回答者属性と防疫作業状況

613

6 1 0

3

10 24 34

30

5

10

15

20

25

30

35

40

20-29 30-39 40-49 50-59 60-69

図1. 年齢・性別(N=100)

女性 男性

(歳)

(人)

平均年齢45.1歳

防疫対策で従事した場所 回答者(人)

畜産試験場・川南支場 13

宮崎家畜保健衛生所 31

都城家畜保健衛生所 9

畜産課 13

県庁内対策本部(畜産課配属以外) 3

川南町現地本部(日向市の防疫対応含む) 36

新富町現地本部 25

市町村対策本部駐在 14

その他 20

従事内容人数(人)

平均従事期間(日)

平均従事時間(時間)

<口蹄疫対策本部>

県庁内対策本部での指揮 9 60.0 15.4

一般市民・マスコミ等からの質問への対応

3 216.0 4.4

市町村現地対策本部での指揮

15 45.3 15.0

<発生農場およびワクチン接種農場における殺処分に関連する作業>

発生農場での殺処分のインフォームド・コンセント

7 47.4 5.6

発生農場での殺処分・埋却・消毒

43 59.2 11.6

資材調達 9 45.2 10.9

翌日以降の殺処分作業の日程調整

7 50.6 6.2

ワクチン接種のインフォームド・コンセント

3 17.5 14.0

ワクチン受払い 1 N.A. 14.0

清浄検査 8 24.0 8.7

<その他の作業>

住民への説明 2 62.3 1.5

病性診断 11 108.1 9.5

疫学調査 12 40.6 10.3

堆肥処理 13 30.3 9.5

表1. 防疫作業従事場所 (複数回答)

表2. 防疫作業内容 (複数回答)ストレス内容

ストレスあり(人)

平均得点

<口蹄疫対策本部>

県庁内対策本部での指揮 4 3.3

一般市民・マスコミ等からの質問への対応 8 2.8

市町村現地対策本部での指揮 12 3.0

〈発生・ワクチン接種農場関連業務〉

発生農場での殺処分のインフォームド・コンセント 17 3.9

発生農場での殺処分・埋却・消毒 27 3.8

資材調達 18 3.3

翌日以降の殺処分作業の日程調整 18 3.4

ワクチン接種のインフォームド・コンセント清浄性検査

47

2.5 2.6

<その他の作業>

住民への説明 8 3.0

病性診断 10 3.5

疫学調査 10 2.6

IES-R値

作業内容従事した

従事していない

p値

発生現場での殺処分・埋却・消毒 5.8 4.1 0.13

市町村現地対策本部での指揮 3.7 5.2 0.32

清浄検査 5.4 4.8 0.82

疫学調査 1.9 5.3 0.04 *

堆肥処理 10.2 4.1 <0.01**

病性鑑定 9.2 4.4 0.05 *

資材調達 3 5.2 0.40

県庁内対策本部での指揮 1.1 5.3 0.05 *

発生農場での殺処分のインフォームド・コンセント

8.1 4.6 0.72

翌日以降の殺処分の日程調整 0.6 5.3 0.02 *

消毒ポイント 5 4.9 0.38

住民への説明 5.5 4.9 0.68

一般市民・マスコミなどからの質問への対応

1 5.1 0.23

ワクチン接種のインフォームド・コンセント

2.7 5 0.41

ワクチン受払い 33 4.6 0.08

IES-R値

時期ストレス

有ストレス

無p値

口蹄疫防疫作業期間中 5.4 0.5 <0.01

防疫作業期間終了直後 5.8 1.7 <0.01

調査時(平成24年度) 6.8 2.1 <0.01

相談相手 人数(人)

家族 28

職場の同僚 18

職場の上司 17

他の防疫従事者 16

友人・知人 9

公的機関の相談窓口 2

病院・診療所の医師 1

民間の相談機関 0

役場で作業前に血圧を測定する看護師 0

IES-R値の関連とストレス・相談状況

表6. 防疫作業期間中の相談相手(複数回答)

表3. 防疫作業内容とIES-R値の関係

表4. 時期別のストレス有無とIES-R値の関係

表5. 単独での意思決定に関するストレスとストレス得点

ストレス内容ストレスあり(人)

平均得点

<作業全般に関するストレス>

単独での意思決定 54 3.5

超過勤務 78 3.4

<マネジメントに関するストレス>

命令系統の構築 41 3.1

命令系統の混乱 60 3.4

国からの要請に対する対応 38 3.3

防疫体制の不備 43 3.0

指揮担当者の人員不足 49 3.4

殺処分準備における人員不足 40 3.4

現場への資材配置に関する悩み 41 3.3

自衛隊部隊の派遣に伴う困難 23 2.7

県外からの派遣作業従事者の調整 32 3.2

殺処分作業日程の計画 26 3.3

ワクチン接種作業日程の計画 11 3.1

職員の健康管理 24 3.2

<批判・不満対応に関するストレス>

外部からの防疫対策に関する批判 59 3.5

畜産関係団体や獣医師団体などからの批判 45 3.6

殺処分方法についての外部からの批判 33 3.6

自治体からの批判 28 3.2

防疫作業に関するストレス内容表7. 防疫作業全般に関するストレスとストレス得点

ストレス内容ストレスあり(人)

平均得点

<殺処分現場およびワクチン接種現場でのストレス>防疫従事者の劣悪な作業環境 40 3.7 殺処分方法についての畜産農家とのトラブル 29 2.8 作業従事者からの作業内容に対する不満 33 3.3 発生農家およびワクチン接種農家に対する憐憫 42 3.2 対策本部での作業方針と作業従事者の考え方の違い

36 3.6

現場での資材不足に対する作業従事者からの不満

37 3.4

作業中の作業者の外傷および事故 40 3.6 ワクチン接種農場での発症確認に関するトラブル

17 3.0

防疫に関わる他者との意見の対立 34 3.4 殺処分やワクチン接種農家への説得 24 3.3 <その他のストレス>補償制度に関する農家とのトラブル 26 3.1 補償制度に関する自治体・NOSAIとのトラブル 13 3.2 国の疫学調査手法に対する疑問 27 3.6 病性診断の難しさ・責任の重圧 20 4.0

2348

49 7

66.6

70.5

64.0

66.0

68.0

70.0

72.0

0

20

40

60

80

川南町 都農町

図2. 地域別・対象者区分・平均年齢(N=127)

ワクチン接種農家 感染農家 平均年齢(人) (歳)

H22 H23 H24

川南町 2.42 0.76 0.53

都農町 2.45 0.47 0.28

0.00

1.50

3.00図3. K6平均点(町別) (N=127)

(点)

7 2 120 5 2

100120 124

0

50

100

150

H22 H23 H24

図4. K6得点(3区分)の推移 (N=127)9点以上 4-8点 3点以下(人)

9点以上4-8点3点以下

図5. K6得点(3区分)の経年変化 (N=127)

H22 H23 H24

(数字は人数)

被災農家における経年変化(H22-24調査)

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口蹄疫対策における地域精神保健活動マニュアル 平成 25年度 厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業

1. はじめに

(1)口蹄疫とは

○原因ウイルス;ピコルナウイルス科 (Picornaviridae) 、アフトウイルス属(Aphthovirus)

○ウイルスの性状 ;O,A,C,SAT-1,2,3,Asia-1 の各血清型があり、各型は多数のサブタイプを持つた

め、発生時のウイルス株が備蓄ワクチンとサブタイプが異なる場合、ワクチンの効果が低調となる。pH7.0~9.0,

4℃で 18週間病原性が保持される。消毒薬はヨウ素、塩素系、アルデヒド系、酸、塩基である。

○病原性 ;偶蹄目動物(牛、豚、山羊、めん羊、水牛等)に感染、発病し、接触感染で容易に周囲の感受性動

物に感染し、空気感染の可能性もある。牛は検出動物、豚は増幅動物と言われ(ウイルス排出量には千倍程

度の差がある)、伝播力は強力(家畜法定伝染病。越境性動物疾患の代表。)である。山羊、めん羊はほとんど

症状を起こさないが牛、豚への感染力を有するため、運搬動物と呼ばれる。ヒトに対して問題となりうる病原性

はない。

○侵入経路 ;日本への侵入経路としては、汚染国から来日または帰国した人・物にウイルスが付着して侵入す

る可能性の他、輸入動物および物品、また風による飛来の可能性(Shi ら,2009)が指摘されている。

○症状 ;発熱、食欲不振、多量流涎、口腔・乳房・蹄部の水疱・潰瘍等があり、多彩で不定である。致死性は幼

若な豚で高い(約50%)。成豚には脱蹄など顕著な症状を起こす場合が多いが、成牛では発症後死亡すること

なくほぼ回復する。しかし、回復後も発育、運動、泌乳量の減少が見られる。潜伏期は 2~10日である。

○貿易上の重要性 ;国際獣疫事務局(OIE)により口蹄疫の清浄性によって家畜および畜産物輸出入が制限さ

れており、清浄性を保てない場合、価格の低い口蹄疫汚染国の畜産物が国内に流入するため、自国の畜産

業が成り立たず、食糧自給率確保の面で大きな問題となる。OIEの規則では、発生が起きた場合、摘発淘汰に

よる防疫を実施した場合は最終発生日から 3か月後、ワクチン使用後ワクチン接種動物の殺処分を行う場合は

殺処分終了後の 3か月後、ワクチン接種動物の殺処分を伴わない場合は最終発生日または最終ワクチン接種

日のいずれか最近の日から 6か月後に清浄国復帰となる(OIE,2013a)。

○予防・治療 ;我が国では、「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」に基づく防疫措置により、感染拡大を

防止する。治療は行わない。

(参考)「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」(抜粋)

移動制限; 範囲:発生農場を中心とした半径 10km以内の区域

期間:最終発生例の殺処分完了後 21日間

内容:生きた偶蹄類の家畜やその死体等の移動の禁止、と畜場及び家畜市場の閉鎖 等

搬出制限; 範囲:発生農場を中心とした半径 10~20km以内の区域

期間:発生から 21日間

内容:生きた偶蹄類の家畜の搬出制限区域以外への移動を禁止、と畜用以外の家畜を

入場させる家畜市場の開催を中止 等

資料1

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(2)我が国における近年の口蹄疫被害の事例と近隣諸国における状況

・平成 22年 宮崎県の事例

平成 22年 4月 20日に感染が確認され、同年 8月 27日に終息宣言がなされるに至った宮崎県の被害の概要

と経緯は以下の通りである。

○発生自治体数と被災農家数

発生自治体数 ;11市町(県内 26市町村のうち)

被災農家数 ;発生農家;292戸(県全体の 28%)

ワクチン接種農家;1,012戸

○患畜を含む全頭殺処分と埋却の状況

処分頭数 ;288,649頭

(内訳)牛 68,272頭(県全体の約 22%)、

豚 220,034頭(約 24%)、

その他 343頭

埋却地;252 ヵ所(個人 165、共同 75、公有地 12 ヵ所)

○発生区域等道路にける消毒ポイント ;最大 403 ヵ所に設置

○県民のとり組み ;公共施設、店舗等出入り口での消毒マット等による消毒

○防疫従事者(家畜殺処分、埋却、農場消毒、車両消毒などの対応に従事した者)

;延べ約 158,500人

(内訳)国関係職員 約 14,500人 他都道府県職員 約 5,000 人 (獣医師は約 1,150人) 自衛隊 約 18,500人 警察官(県外含む) 約 38,000人 団体(JA等) 約 16,500人 市町村職員 約 18,000人 県職員 約 48,000人

○口蹄疫発生と対応の経過 ;

H22. 4.20 都農町で口蹄疫感染疑いの牛が見つかる(1例目)

H22. 4.28 川南町で国内では初の豚への感染を確認

H22. 5.17 一日最大発生数 15例 28,452頭

H22. 5.18 宮崎県知事が非常事態宣言

H22. 5.22 感染周辺農場家畜に対するワクチン接種開始

H22. 7. 4 宮崎市で感染確認(292例目・最終事例)

H22. 7. 5 対象の家畜約 29万頭の殺処分及び埋却措置完了

H22. 7.27 県内全域の移動制限と非常事態宣言解除

H22. 8.27 口蹄疫終息宣言

・近隣諸国における口蹄疫発生状況

口蹄疫は 2012 年 1 月から 2013 年 12 月にかけて、特に中国全域と北および南アフリカで多く発生が見られて

いる。隣国である韓国においては日本と重なる時期に口蹄疫が発生し、全国に発生が及んだため、国内の偶蹄

類家畜全頭に口蹄疫ワクチンを使用した。現在でもワクチンを使用しており清浄化には至っていない。図 1からわ

かるとおり、地理的に見る限り日本への口蹄疫侵入のリスクは未だ高い状況が続いている(OIE,2013b)。

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図1.2012年 1月から 2013年 12月までの世界の口蹄疫発生状況(WAHID, OIE)

青丸は終息した発生、赤丸(中国)は発生継続中を示す。

2.口蹄疫発生時における精神保健活動

(1)被災農家の状況と対応

防疫対策により移動・接触制限がなされるため、特に感染およびワクチン接種農家(被災農家)においては、長

期間、孤立した状況下に置かれることとなる。また、家畜の殺処分後は急激な生活様式の変化が起こる。平成 22

年の宮崎県の事例では、被災農家全体の2割に何らかの健康影響が確認されている。特に抑うつ症状に影響す

る因子としては、年齢、現病歴があること、対人関係や家族関係に問題を抱えていること等の被災者側の要因に

加え、行政対応や支援の在り方等の社会的な要因が関連していたことから、地域の精神保健担当者の被災前の

情報を収集しながら支援にあたるともに、家畜の殺処分から埋却などの防疫体制が円滑になされることも、被災農

家の心理的負荷を軽減することになる。また、同事例においては、精神保健的なハイリスク者の割合は経年で回

復を認め、3 年間の縦断調査においても経年でハイリスクの者は認められなかった。しかしながら、地域の畜産業

の再開率は被災 2年後においても約半数であり、地域の復興には長期間を要することが想定されるため、口蹄疫

感染終息後も一定期間は支援の継続が必要である。

※被災農家の声

宮崎県都農町では、平成 22年 6月 14日から 8月 31日にかけて保健師が被災農家 194戸の全戸訪問を

行った。町に寄せられた農家の声を冊子(口蹄疫「みんなの気持ち」)にまとめた。

・牛がいないのに牛の鳴き声がしたりうなされたり、一人で寝ることができなかった。

・ストレスから動悸・血圧が上がって服薬開始。夜も眠れない。

・牛のことが思い出されて元気がでない・・・息子は 6キロ、自分は 4キロ痩せた。

・アルコールの飲み過ぎと家族から注意されるが、いくら飲んでも酔わない。

・自分が感染源になってはいけないと思い、今でも家の中だけで過ごしている。牛の他に飲食店でも働

いていたが客が減りその仕事も失ってしまった。今後のことは完全に終息してからでないと何も考えられ

ない。

・ワクチン接種しか方法がなかったのか、助けられなかったのかと思うと怒りがこみ上げてくる。

・殺処分の日程が 3回も変わり、精神的にきつかった。

・防疫中はとてもピリピリしていた。殺処分された時はその緊張感から解放され正直ほっとした。でも日が

経つにつれ、重くのしかかる思いがつのってきた。

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(2)地域住民の状況と対応

口蹄疫の発生は、地域の人と人の行き来を制限することになるため、畜産業のみならず、感染周辺地域の産業に大

きな影響を与えることが特徴である。平成 22 年の宮崎県の事例では、感染周辺地域の飲食業については、発生直後

の収益が 36%減であったが、1年後も 29%減という結果であり、経済的な影響が長期間持続することがわかっている。

精神保健的には、K6カットオフポイント(10点)以上のハイリスク者の割合は、被災前の宮崎県では 8.8%であるのに対

し、発生直後 12.7%、1年後 11.0%と高くなり(発生直後では有意差あり)、2年後に被災前と同等のレベルに回復する

経過であった。その背景因子としては、1年後、2 年後とも経済状況や廃業や転業などの仕事の変化が関連していた。

このように、感染周辺地域の住民は精神保健的には長期間に渡りハイリスクの集団と言えるが、被災農家とは異なり、

様々な補償の対象とはなっていない。このため、地域精神保健を担当する際には、地域の復興状況を踏まえつつ、長

期に渡った配慮が必要であり、何らかの対策を検討しておくべきである。

(3)防疫従事者の状況と対応

口蹄疫の防疫作業においては、感染およびワクチン接種家畜の殺処分・埋却が急務となるため、その作業は激務

かつ長時間となり、防疫作業現場の過重労働が問題となりうる。平成 22年の宮崎県の事例では、殺処分業務は1回に

つき 8 時間以上となる割合が 6 割を越えた。K6 カットオフポイント(10 点)以上のハイリスク者の割合は、発生直後から

2 年後まで通じて、通常時のレベルと同等からそれ以下に減少し、集団としての精神保健的な影響は認められなかっ

た。しかしながら、抑うつ症状の上昇と関連のある因子としては、家畜の殺処分業務への参加が有意に認められた。具

体的なストレス内容としては、情報・命令系統に関するもの(予定等に関する不伝達、命令系統の混乱等)と、殺処分

の関連にするもの(方法、農家への説明等)があり、有意に関係していた。平成 13年の英国での発生においても情報・

命令系統の混乱によるストレスは報告されている(Nusbaum et al., 2007)。平成 22年の宮崎では、口蹄疫対策本部が県、

市町村内に独立して複数設置されたこと、殺処分中の人員不足から上司の命令を確認する間もなく継続して判断をし

なければならない状況が続いたことなどが報告されている。また、殺処分については動物を救うために獣医師となった

自らの使命感と逆の活動を連日行わなければならなかったこと、大量に殺処分をしているにも拘わらず発生が拡大し

て行く恐怖・無力感、農家への同情など体力的・精神的に辛い状況下で活動しなければならなかったストレスの内容が

報告されている(蒔田ら,2012)。殺処分従事者の中には、発生から 3 年以上経過した現在でも、口蹄疫の記憶が忘れ

られず休職・早期退職する獣医師が少なからずいることが分かっている。その他の防疫作業では、高い専門性を要し、

※地域住民の声(調査時の自由記述より抜粋)

H22 (被災半年後)

・お客さんがいまだに少ないのでこのままでいいのか心配。自分達でいろいろ考えて行っているが、思っ

たようになってない。

・トラックステーションの近くで営業しています。牛乳や肉、野菜のトラックはあの日からすっかり止まらなく

なりました。毎日の売り上げを見ると頭の痛い日が続きそうです。

・業績の悪化で悩む日が多く、夜眠れない日が続いています。

・口蹄疫、続いて鳥インフルエンザ等で本当に売上が減少し、昨年の 8月頃から貯えを少しずつとりこわ

しながら資金繰りをして貯金も底をついた状態で借入するところもなく、途方にくれる有様となっていま

す。身体に変調は今のところありませんが、2 次~3 次災害の飲食店はみんな本当に困って悩んでおり

ます。

H23 (被災 1年後)

・他の商売のことも考えてほしい。牛や豚だけの問題ではない。その周りのことは何も考えていないであ

んまりです。牛や豚がおったら何事も一番ですか?その他でも泣いている人はたくさんいます。

・口蹄疫発生以来客入り減少し売上も全く上がらず生活が困難になったため、私は自営から会社員にな

りました。少しでも援助があっていたのならば外に出ずに済み主人と二人で自営をやっていけたのにと

心から思います。私たちも被害者の一人です。

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口蹄疫ウイルス感染有無を判断する病性診断や殺処分後の堆肥処理作業に従事した者の高ストレスが確認されてい

る。病性診断ではその難しさと責任の重圧、堆肥処理ではウイルス存在の可能性を有する堆肥を扱うことで、自らがウ

イルスの媒介となり拡散させるのではないかという不安等の影響を受けることが、高ストレスの要因となるという報告もあ

る。これらのことから、防疫従事者は集団としての影響は認められないものの、特に情報・命令系統の在り方や、家畜の

殺処分に濃厚に関わる者、高ストレスが予測される作業の従事者への作業後のフォローアップ体制を充分に検討して

おく必要がある。

3.口蹄疫発生における精神保健医療体制

(1)保健医療体制の構築にあたって(その他の家畜伝染病対策との違い)

まん延防止のために直ちにと殺することが義務付けられている家畜伝染病7疾患のうち、高病原性鳥インフ

ルエンザについては、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」や厚生労働省通知(平成

18年 12月 27日 健感発第 1227003号)等により、保健所が養鶏業者等の疫学調査や健康観察、防疫作業者の

健康状態の把握や感染防護の指導を行うなど役割が明確である。このため養鶏業者や防疫従事者に接する機会

を通じてメンタルヘルス対策の実施が可能である。

一方、口蹄疫は人への病原性は問題ないとされており、高病原性鳥インフルエンザのように発生農家や防疫

従事者等への関わりが明確ではない。また、家畜伝染病多発時のこころのケアを含めた保健活動についても前

例がなかったため平成 22 年の宮崎県での発生時には混乱がみられた。今回の事例を参考にするとともに、発

生状況等により臨機応変に対応するため平常時からの健康危機管理体制の強化が求められる。

(2)発生段階ごとの体制

口蹄疫発生が確認されると、直ちに防疫体制が設置され、感染拡大防止のため家畜の移動・搬出制限が開始となる。

同時に地域全体においても、消毒体制等の措置がとられる。このように口蹄疫発生は、畜産関連のみならず地域全体

で移動などの影響を受ける。発生規模によって移動などの制限は異なるため、必要となる支援も異なる。発生状況に

合わせた柔軟な対応が重要となる。

①口蹄疫発生初期

○支援体制の整備;口蹄疫発生後、直ちに農政部門を主体とした本部が設置され、防疫対策を主体とした体制

が整備される。精神を含めた保健医療体制として対策を講じる際に必要となる畜産農家や防疫従事者のリスト

や発生状況に関する情報収集、防疫体制全般の影響から生じる精神保健上の問題へ対応するために、対策本部

には精神保健の専門家を配置することが望ましい。また、口蹄疫発生地域においては、県対策本部、精神保健

の専門家等との連携のもとに、保健所が中心となって、情報収集・発信、活動内容や方針の検討、市町村の保

支援対象者 発生初期 まん延期 終息直後

被災農家相談窓口の設置情報収集情報提供

医学的スクリーニング必要に応じたアウトリーチ活動

情報の集約

終息後のフォロー体制の構築

地域住民

相談窓口の設置情報収集情報提供

医学的スクリーニング必要に応じたアウトリーチ活動

情報の集約

終息後のフォロー体制の構築

防疫従事者対策本部と連携した取り組み

・身体とこころの健康相談窓口の設置・メンタルヘルスを考慮した作業管理 等

フォロー体制の構築

支援体制の構築

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健活動への支援等を行う体制が必要である。平成 22 年の宮崎県での発生時では、このような全体的な体制が

十分に機能しない状況の中で市町対策本部から保健師にさまざまな指示が出されるため、現場の保健師は難し

い判断を迫られた。体制が有機的、効果的に機能するためには指揮命令系統が明確化された組織であることが

必要であり、それら組織間の連携が適切に行われることが重要である。

○精神保健窓口の設置;精神保健福祉センターおよび保健所、市町村等に設置する。感染拡大防止のため、移

動制限が設けられている場合もあり、窓口に相談に来る事例は多くはない。そのため、電話等、来所せずに相

談できる体制を整える必要がある。設置期間については、被災からの回復は個人によって異なるため、口蹄疫

終息後もしばらく残しておくことが望ましい。

○情報提供・情報収集;相談窓口の設置、被災による孤立した生活や生活様式の変化によって起こりうる心理的影響

や経過について、リーフレット等による情報提供を広く行う。心理的影響については、大規模災害時に注目される外傷

後ストレス障害(PTSD)に関する内容に偏らないことが重要である。特に発生地区周辺では、口蹄疫感染防止のため

に文書配布等が困難となるため、テレビ・ラジオ等のマスメディアおよび各市町村等の設置する防災無線等の媒体活

用による周知を、対応窓口の一本化と併せて考慮する必要がある。また、口蹄疫発生状況により各地域の移動制限が

異なってくること等、状況は常に変化する。発生状況は、支援の実施時期や内容、方法等に影響を与えるため、対策

本部の情報を常時収集する必要がある。他に影響をおよぼすと考えられる機関やサービス等についても情報収集、提

供が必要である。

②口蹄疫まん延期

○医学的スクリーニング;抑うつ・不安等の精神症状を中心に、簡便に、かつ関係者が広く扱える指標(K6/K10 等)を

選択するべきである(参考;資料 A.スクリーニングシート)。平成 22 年の宮崎県事例では、県内の精神科医療施設の

調査において、外傷後ストレス障害(PTSD)は報告されておらず、PTSD に偏ったスクリーニング、保健活動は勧められ

ない。

保健活動に際しては、被災前の地域や住民の状況を収集しながら支援にあたると同時に、発生農家のリストや地域

の発生状況について情報提供を受けるなど農政部門との連携が不可欠である。また、様子が気になる畜産農家につ

いての情報提供や、必要に応じて農政担当者の同行訪問を依頼するなどの協力を得るとよい。

○精神保健医療チームによるアウトリーチ活動;移動・接触制限が行われている地域については、医学的スク

リーニングによるハイリスク者に対して、防疫に充分配慮したアウトリーチ活動が重要である。平成 22 年の

宮崎県の事例においては、発生状況が市町村によって異なっており、一部市町村では比較的早期に全戸訪問を

行っているが、感染拡大防止のため、多くの地域では積極的な訪問支援が難しい状況にあった。そのため被災農家

については、県による電話でのスクリーニングの上、ハイリスク者について、地元市町村の保健担当者及び精神科医

によるアウトリーチ活動を行った(図 2)。

また、このような積極的な支援をいつ行うべきかについては、感染状況を充分に踏まえ、防疫対策に影響を与えない

ことが前提であるが、平成 22年の宮崎県の事例における被災農家の調査では、最も不安やストレスを自覚する時期は

家畜の殺処分の時期であることがわかっている。

〈参考〉福祉医療サービスへの影響

移動制限区域の拡大に伴い、介護サービスや訪問看護等を利用していた畜産農家が送迎や訪問を

遠慮したり、サービス事業者の中には感染拡大させることへの不安を抱えながら業務を行うケース

もみられた。健康状態の悪化やサービス中断による家族の負担増はメンタルヘルスへの影響も懸念

されるため、要支援者の状況把握、サービス事業者への感染対策についての情報提供、地域の関係

機関との調整などについて、行政による介入が必要である。

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図 2.宮崎県における精神保健医療チーム「こころと身体の健康支援チーム」(平成 22年)

保健所 県立看護大学 宮崎県看護協会 宮崎大学医学部等

農 家(発生農家とワクチン接種農家)

保健所 市町①聴き取り調査

②要訪問案件の連絡

③個別訪問

※フリーダイアルは農家のみに広報

当初1~2週目は、保健所、県立看護大学4名で相談票等の検討作成を含め手順等確立。

3週目~保健所1名、県立看護大学2名、宮崎県看護協会6名による9名体制で実施。

こころと身体の健康支援チーム(H22年6月7日~7月31日)

精神保健福祉センター

派遣要請

派遣連絡

医師派遣

医師派遣(往診)(H22年6月28日~

8月31日)

保健師

「こころと身体の健康支援チーム」概要図

派遣連絡

保健師

○支援者の体制整備;平成 22 年の宮崎県の事例においては、感染拡大防止のため、近隣市町間の援助が困難とな

り、地元市町村の保健担当職員の過重労働の状況が長時間続いた。精神保健活動を円滑に行うためには、対策本部

より情報を収集しながら、地元市町村の保健担当への適切な人員配置等について、柔軟に対応していく必要がある。

○防疫従事者の健康管理;感染拡大防止のために迅速な殺処分が優先される現場では、必然的に過重労働環境と

なり、作業従事者の負担も大きい。口蹄疫においては防疫作業従事者の作業前後の健康調査を行う法的根拠はなく

通常の労働安全管理体制での対応が基本となる。適切な作業管理や産業保健スタッフとの連携が重要であるが、複

数の組織から従事者が派遣された場合の健康管理体制、心のケアにも配慮した作業管理のあり方等について検討が

必要である。また県外から派遣された従事者については、派遣人員体制、事前の情報提供、宿泊先の過ごし方や地

元でのフォローアップ体制等に配慮した受け入れが望ましい。さらに防疫従事者に対する調査の結果、従事する作業

の種類によるストレス度の違いや、ストレスを感じた場合に家族、職場の同僚、上司、他の防疫従事者など身近な人に

相談することが多いことがわかっており、平常時からのメンタルヘルス対策に加え、作業ごとの影響を考慮したかかわり

や、災害時等の心のケアについての啓発および支援の必要なケースが専門家へつながるための情報提供が必要で

ある。

〈参考〉防疫従事者の健康相談

長期間防疫従事者の集合拠点であった宮崎県川南町では、保健師等により健康相談(健康チェック、血

圧測定等)を実施。体調不良者の把握以外にも、朝食欠食者への対応(地元店舗の好意により食品提

供)、消毒薬による化学熱傷予防の情報提供等状況に応じてさまざまな対応を行った。また作業後には、

外傷や体調不良者のトリアージや軽傷者の応急処置等を行っている。殺処分が長引くにつれ問診時に不

眠などの訴え等もきかれ、従事者からも“健康相談時に保健師と話すことで気持ちが落ち着いた”等の声

がきかれている。

※宮崎県口蹄疫防疫マニュアル(平成 23 年 4 月)においては、「健康管理への配慮」として、希望者が保

健師等による健康相談を受け体調の良否を自身で判断することとなった。健康相談は原則現地対策本部

から市町村に依頼し、同時多発等で対応が困難な場合は県対策本部に動員要請する。

(保健所は要請に応じた健康相談の支援、防疫従事者のこころの相談窓口の設置等を行う)

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○医療機関との連携;地域の医療機関への時間外診療の依頼(防疫作業は夜間におよぶ場合があるため)や、精神

科以外の診療科に対する精神疾患に関する対応についての情報提供を行う場合がある。特に、精神的不調を訴えな

がらも精神科以外の診療科を受診する場合が多いことから、地元医師会等への情報提供・協力要請を検討する。

③口蹄疫感染終息後

移動制限が解除された場合は、地元の市町村が中心となった精神保健活動が再開される。このため、被災農家につ

いては、畜産農家の背景(感染農家かワクチン接種農家か、殺処分の時期や埋却の場所等)などの農政側の情報と、

それまでに行われていた精神保健活動での保健側の情報を、地元の市町村保健担当者に集約する必要がある。

感染周辺地域住民については、精神保健的にハイリスクな集団と捉え、長期間(少なくとも 2 年間)の見守りの体制を

各レベルで整備しておく必要がある。また、防疫従事者については、特に家畜の殺処分に濃厚に関わった者を中心に、

所属機関において何らかのフォローアップ体制を整備しておくことが望ましい。

口蹄疫被災は、被災農家をはじめ地域住民、防疫従事者に対し、心理的、社会的影響や地元の地域産業に長期に

渡った経済的影響など幅広い分野の影響を残す。それらを考慮した終息後の支援体制の整備が求められる。

《資料》 ※平成 22年の宮崎県における口蹄疫発生時に使用

A.スクリーニングシート:口蹄疫相談記録票、K6/K10 (被災 1年後に使用)

B.電話相談フローチャート(口蹄疫発生時の電話スクリーニングにて使用)

参考文献

Nusbaum KE, Wenzei JGW, Everly Jr GS: Psychologic first aid and veterinarians in rural communities

undergoing livestock depopulation. J Am Vet Med Assoc. 231, 692-694 ,2007.

OIE: Recovery of free status, Article 8.6.9.1, Chapter 8.6. Foot and mouth disease, Volume II.

Recommendations applicable to OIE listed diseases and other diseases of importance to

international trade, Terrestrial Animal Health Code.2013a .

[http://www.oie.int/index.php?id=169&L=0&htmfile=chapitre_1.8.6.htm]

OIE: Disease distribution maps, Disease information, WAHID Interface.2013b.

[http://www.oie.int/wahis_2/public/wahid.php/Wahidhome/Home]

Shi F, Yamada P, Han J, Abe Y, Hatta T, Du M, Maki T, Wakimizu K, Yoshikoshi H and Isoda H:

Detection of foot and mouth disease virus in yellow sands collected in Japan by real time

polymerase chain reaction (PCR) analysis. Journal of Arid Land Studies.19 (3): 483-490 ,

2009.

蒔田浩平,辻厚史,大和田孝二,壱岐佳浩,吉原啓介,榎本豊,河野宏,黒木啓光,由地裕之:2010年に宮崎県

で発生した口蹄疫により地域獣医師が受けた精神的ストレス. 臨床獣医. 30(8), 29-35, 2012.

都農町健康管理センター:口蹄疫「みんなの気持ち」.2010.8.

宮崎県口蹄疫防疫対策本部:宮崎県口蹄疫防疫マニュアル.2011.4(2012.3一部改訂).

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ID

1.相談日 対応者

市町村名

電話番号

③.年齢

    歳

②業務の関わり

⑥殺処分の立ち会

③口蹄疫関連の

相談有無

0.なし1.あり

⑦殺処分の手伝い

④支援者の状況

0.なし1.あり

⑧埋却地

③.年齢

    歳

1.牛

2.豚

ワクチン接種日

感染確認日

⑧業務形態  ⑩経営形態

⑨再開について

⑪従業員

7.口蹄疫に関するトラブル

8.口蹄疫に関する行政の情報提供についての満足度

9.口蹄疫に関する行政からの支援についての満足度

※口蹄疫の発生段階や状況によって、必要な項目を使用してください。

平成    年    月    日 (   )曜   時頃  

2.住 所

1.○○町  2.○○町  3.○○町  4.○○町  5.○○町6.○○市  7.○○市   8.○○市  9.○○市

(       )

3.回答者氏名

①.フリガナ ④.性別

② 氏名 1.男 0.女

4.農場主との関係

1.農場主本人     2.家族(続柄         ) 3.その他(        )

5.回答者の立場

 ①家族構成

0.なし(1人暮らし)1.あり (自分以外     人)

⑤殺処分場所

1.敷地内2.共同埋却地3.敷地外(共同埋却地以外)

①.夫婦のみ②.夫婦と子ども③.夫婦,子ども、祖父母④.その他(        )

1.畜産従事(家業)2.畜産従事(その他)3.畜産以外の家業に従事4.その他

0.なし(立ち会わなかった)1.あり(立ち会った)

0.なし(他の農家の手伝いはしなかった)1.あり(他の農家へ手伝いに行った)

1.敷地内2.共同埋却地3.敷地外(共同埋却地以外)

6.農場主氏名

①.フリガナ ④.性別

② 氏名 1.男  0.女

⑤畜産種別 ①.乳牛(酪農)  ②.繁殖   ③.肥育   ④.一貫  ⑤.その他

①.一貫     ②.繁殖    ③.肥育 

⑥対象者区分

0.発生農家1.ワクチン接種農家

⑦飼育頭数

殺処分日 埋却日

0.大変不満である。1.やや不満である。2.どちらでもない。3.やや満足している。4.大変満足している。

0.大変不満である。1.やや不満である。2.どちらでもない。3.やや満足している。4.大変満足している。

0.畜産専業1.畜産以外と兼業

0.家族のみで経営1.その他

0.再開中1.再開予定2.未定3.廃業4.その他(      )

0.なし1.あり(         人)

0.なし    1.あり<内容>

様式1 口蹄疫相談記録票

資料 A-1.スクリーニングシート(口蹄疫相談記録票)

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10

15.既往歴0.なし1.あり

16.現病歴0.なし1.あり

17.口蹄疫後の新たな受診・入院

18.主訴

19

処遇内

22

①.からだの不調/変化 ②こころの不調/変化

主訴区分

0.なし 1. あり 0.悪化1.改善

9.変わらない0.なし  1. あり 

0.悪化1.改善

9.変わらない

1.不眠2.疲労感3.めまい4.肩こり5.吐き気6.腹痛7.食欲不振

1.イライラ感2.災害の事が頭から離れない3.災害についての夢をみる4.眠れない5.気分の落ち込みが激しい6.神経が敏感になっている7.記憶力が低下している8.誰とも話す気になれない9.やる気がない10.物事に集中できない11.疲れやすい12.アルコール量が増えた

8.その他

13.その他

11.暮らしの問題/変化 12.仕事・経済上の悩み/変化

0.なし    1. あり0.悪化1.改善

9.変わらない0.なし    1. あり

0.悪化1.改善

9.変わらない

1.生活設備の不足2.生活物資の不足3.生活情報の不足

1.仕事がない2.今の仕事が不満3.経済的困難

13.家族問題/変化 14.対人関係問題/変化

0.なし    1. あり0.悪化1.改善

9.変わらない0.なし   1. あり

0.悪化1.改善

9.変わらない

21.保健師判断

根拠

1.家族の病気、不調2.家族間のトラブル3.育児、子育て4.高齢者等の介護

1.家族、親戚2.友人、知人3.近隣、地域社会

<内訳> 1.悪性新生物    2.心疾患     3.脳血管疾患   4.高血圧5.糖尿病     6.肝臓疾患     7.腎臓病      8.呼吸器疾患9.精神疾患(病名:              治療期間・最終受診日:          )10.その他(                       )

<内訳>1.病名(①                   )2.通院医療機関(②                   )《服薬等治療状況》 眠剤服用含む(③                           )

①受診0.なし1.あり    病名(             )

②入院0.なし1.あり    病名(                )

20.対象者リスク

1.高齢者(65歳以上)  2.単身者  3.要介護者あり  4.障害者あり5.子供あり     6.精神疾患既往あり   7.身体疾患既往あり8.その他(                )

指導区分

対応

1.受診勧奨2.要訪問3.見守り4.再電話5.追跡不要(情報提供)

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口蹄疫関係者に対するスクリーニング票 <スクリーニングシート(K6/K10)>

<K6K10 スクリーニング票に関する留意事項>

農 業 主

氏 名

(男・女) 対応者名

ID

回 答 者

氏 名

( 歳)

(世帯主との関係: ) 回 答 日

平成 年 月 日( )

住 所

電話番号

過去 30 日の間にどれくらいの頻度で次のことがありまし

たか。 (0:全くない 1:少しだけ 2:時々 3:たいてい 4:いつも)

※ 質問項目は言い回しを変えても問題ありません。

全く

ない 少しだけ ときどき たいてい いつも

0 1 2 3 4

理由もなく疲れ切ったように感じましたか。

神経過敏に感じましたか。

どうしても落ち着けないくらいに、神経過敏に

感じましたか。

絶望的だと感じましたか。

そわそわ落ち着かなく感じましたか。

じっと座っていられないほど、落ち着かなく感

じましたか。

憂うつに感じましたか。

気分が沈み込んで何が起こっても気が晴れな

いように感じましたか。

何をするのも骨折りだと感じましたか。

自分は価値のない人間だと感じましたか。

点数 K6

K10

判定結果

※ K6/K10 がスクリーニング出来るのは、抑うつ性障害(大うつ病、気分変調症)および不安障害(パニック障害、

広場恐怖、社会恐怖、全般性不安障害、PTSD)です。

カットオフポイント(精神疾患である確率が50%以上である)は K6 9 点以上 K10 15 点以上です。

(①全くない・・・0点 ②少しだけ・・・1点 ③時々・・・2点 ④たいてい・・・3点 ⑤いつも・・・4点)

様式2

○「30 日間の頻度」については、今あったとしたら、それはいつ頃なのかを聞き、どのくらいの

日にちが続いたのかを確認し、30 日間に換算して点数化してください。

○「元気です」と答えた方で、こころと身体について、心配ないと思った方の分は、スクリーニン

グ票に「0.全くない」として点数化しておきます。特記事項に「元気ですとのことで実施なし」

と記載してください。

○また、心配あるが、拒否した場合も、特記事項「拒否のため実施なし」をあわせて記載してくだ

さい。

資料 A-2.スクリーニングシート(K6/K10)

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資料B.電話相談フローチャート

〔あり〕 〔なし〕

〔受診の意思あり〕 〔受診の意思なし〕 〔あり〕 〔なし〕

[受診なし] [ハイリスクな方]

[ハイリスクな方] [再電話により状況確認]

[往診要の方] 〔左記以外の方〕

総合窓口等

の情報提供

その他気になる事項の確認 専門機関・相談機関への

受診勧奨

身体的な問題の事項(症状悪化、飲酒薬物行動)

スクリーニングによりカットオフポイント以上

電話による

継続観察

市町村事業参加

時点での見守り

管轄市町村保健師等による

訪問等

受診勧奨

保健師および医師とのチーム訪問等 保健師・関係機関等の訪問等に

よる継続フォロー

電話相談フローチャート

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厚生労働科学研究費補助金 (障害者対策総合研究事業[精神障害分野])

大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と 対応ガイドラインの作成・評価に関する研究

平成 25 年度 分担研究報告書

東日本大震災に伴う産後うつ病の実態把握 ―エジンバラ産後うつ病評価票を用いて―

研究分担者 尾崎 紀夫

名古屋大学 大学院医学系研究科 精神医学分野 教授 研究要旨: 【目的】 東日本大震災に伴う精神障害の発症・悪化が懸念されている。被災地である宮城県沿岸部に

おける調査では、産後うつ病の可能性がある女性は 21.5%に上ったと報告された。しかし、直

接的には被災していない地域における震災当時の産後うつ病の実態は明らかではなく、十分

な実態把握がなされたとは言い難い。そこで、当大学で約 10 年にわたり継続している妊産婦

研究の経過から東日本大震災後における産後うつ病の実態を調査した。 【方法】 2004 年 8 月~2013 年 8 月、名古屋市内にある計 3 病院の産婦人科で出産予定の女性計

865 名に、産後 1 か月においてエジンバラ産後抑うつ自己評価票(Edinburgh Postpartum Depression Scale:EPDS)を施行した。そして、EPDS の因子構造を解析し、1)震災前に妊

娠・出産した群 2)震災前に妊娠し震災後に出産した群 3)震災後に妊娠・出産した群で得

点の推移を比較検討した。 【結果】 EPDS合計点の平均値は 1)震災前に妊娠・出産した群 569名:4.50点±4.4点 2)妊娠中に

震災を経験した群 30名:6.4±5.6点 3)震災後に妊娠・出産した群 100 名:5.0点±4.8点と

なり、妊娠中に震災を経験した群が高値となった。また、EPDS は不安因子・抑うつ因子・快感

喪失因子の 3 因子構造の適合度が良好となり、妊娠中に震災を経験した群は全ての因子得

点が他群よりも高値となった。各因子得点を群間比較すると、不安因子にのみ有意差が認め

られた。 【結論】 大規模災害時においては、直接被災していない地域の母親においても不安症状が強まる可

能性が示唆された。

A.目的 2011 年 3 月に発生した東日本大震災は、

大きな津波を引き起こし、東北地方と関東地

方の太平洋沿岸部を中心に甚大な被害をも

たらした。そして、現在も多くの被災者が大

きな精神的・身体的負担を伴う生活を強いら

れている。このような大規模災害においては、

心的外傷後ストレス障害 (Posttraumatic stress disorder: PTSD)をはじめとする精

神障害の発症・悪化が懸念される。 特に、周産期の女性においては、妊娠・

出産という大きなライフイベントに加えて大規

模災害に伴う精神的・身体的負担が加わる

ことで、産後うつ病のリスクが大きく上昇する

ことが指摘されている。東北大学の調査では、

2011 年 2~10 月に出産した宮城県沿岸部

在住の女性 683 名に産後うつ病のスクリー

ニングツールであるエジンバラ産後抑うつ自

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己 評 価 票 ( Edinburgh Postpartum Depression Scale;EPDS)を施行した結果、

21.5%に産後うつ病の可能性があると報告

されている。 しかし、直接は被災していない地域にお

ける震災当時の産後うつ病の実態は未だ明

らかではなく、検討が十分とは言い難い。今

回の震災では、津波をはじめとする直接的

な被災に加え、原子力発電所事故による大

規模計画停電や放射能汚染への不安など、

幅広い地域に被害が波及し精神的負担が

高まっており、適切な支援策を講じるために

各地での実態把握が必須となる。 そこで、当大学で約 10 年にわたり継続し

ている産後うつ病研究の結果を、東日本大

震災前後の変化に着目して解析した。 B. 研究方法

2004 年 8 月~2013 年 8 月末までに、名

古屋市内の産婦人科をもつ計3病院におい

て、母親教室等で研究説明を行い、研究参

加者を募った。研究への参加同意が得られ

た計 865 名の参加者に、産後 1か月時点で

の自己記入式質問紙の回答を依頼した。評

価尺度として、抑うつ状態には、エジンバラ

産 後 抑 う つ 自 己 評 価 票 ( Edinburgh Postpartum Depression Scale;EPDS)を用いた。 1. EPDS の因子構造 産後うつ病の各症状の経過を調査するこ

とを目的として EPDS の因子構造を解析し

た。対象を無作為に 2 群に分割し、各群に

探索的因子分析・確認的因子分析を施行し

た。探索的因子分析においては、因子数決

定はスクリープロットにより行い、最尤法・プ

ロマックス回転を用いた。 2. 震災時における産後うつ病の実態調査 震災と妊娠出産イベントとの前後関係から 1)震災前に妊娠・出産した群 2)震災前に妊

娠、震災後に出産した群 3)震災後に妊娠・

出産した群の 3 群に分類し、産後1ヶ月にお

ける EPDS10 項目に欠損値が無い対象の

総得点と各因子得点を抽出した。各群の差

の検定には Kruskal-Wallis 検定を用い多

重検定としてペアごとの比較を施行した。

(倫理的配慮) 本研究は名古屋大学医学部附属病院倫理

委員会の承認に則り実施した。 C. 研究結果 対象者の平均年齢は 32.0±4.5 歳、平均回

答日は産後 32.7±6.1 日となった。 1. EPDS の因子構造 探索的因子分析においては、抑うつ因子

(質問番号 7・8・9・10)・不安因子(質問番号

3・4・5)・快感喪失因子(質問番号1・2)の 3因子構造が適切と考えらえた。上記モデル

は、確認的因子分析において適合度良好

(RMSEA=0.085,GFI=0.947,AGFI=0.901,CFI=0.958)であることが確かめられた。 2. 震災に伴う症状の変化 産後1ヶ月における EPDS 得点の平均値

は、1)震災前に妊娠・出産した群 569名:4.50点±4.4点 2)妊娠中に震災を経験

した群 30 名:6.4±5.6 点 3)震災後に妊

娠・出産した群 100 名:5.0 点±4.8 点となっ

た。 抑うつ因子得点の平均値は、1)震災前に

妊娠・出産した群 1.0±1.6 点 2)妊娠中に

震災を経験した群:1.8±2.6 点 3)震災後に

妊娠・出産した群:1.3±2.0 点となった。 不安因子得点の平均値は、1)震災前に

妊娠・出産した群: 2.0±2.2 点 2)妊娠中に

震災を経験した群:3.0±2.5 点 3)震災後に

妊娠・出産した群:2.6±2.5 点となった。 快感喪失因子得点の平均値は、1)震災

前に妊娠・出産した群:0.3±0.7 点 2)妊娠

中に震災を経験した群30名:0.6±1.0点 3)震災後に妊娠・出産した群:5.0 点±4.8 点と

なった。 いずれの因子得点も、妊娠中に震災を経

験した群が高値となった。また、各因子得点

に関してはKruskal-Wallis検定により不安

因子得点のみ有意差あり(p=0.015<0.05)と判定された。 D.考察

名古屋市内の計3病院で出産した女性に

おいても、妊娠中に震災を経験した群では、

EPDS 合計点の上昇を認めた。抑うつ因

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子・快感喪失因子・不安因子いずれもの因

子得点が上昇していたが、不安因子に統計

学的有意差が認められた。これらの結果か

ら、震災後、直接的に被災していない地域

においても、産後女性の不安が強まる可能

性が示唆された。 また、震災後に妊娠・出産した群において

は EPDS 総合計点・各因子得点ともに減少

しており、震災から時間が経過するとともに

不安症状が改善していると考えられた。 しかし、本研究結果のみでは、震災の発

生と、不安症状の悪化との間に直接的な関

連性を示す証左は不十分であり、今後も各

地域における調査が必要であろう。 E.結論

東海地方においても、震災時に妊娠して

いた女性においては、産後に平常時と比べ

て不安が強まる可能性が示唆された。大規

模災害時に直接被災していない地域におい

ても、母親の心理的支援を行う必要性が明

らかになった。 F.研究発表 1.論文発表(原著論) ・Asano M, Esaki K, Wakamatsu A, Kitajima T, Narita T, Naitoh H, Ozaki N, Iwata N: Maternal overprotection score of the Parental Bonding Instrument predicts the outcome of cognitive behavior therapy by trainees for depression. Psychiatry Clin Neurosci 67 (5):340-4, 2013 ・Furumura K, Koide T, Okada T, Murase S, Aleksic B, et al. (2012) Prospective Study on the Association between Harm Avoidance and Postpartum Depressive State in a Maternal Cohort of Japanese Women. PLoS One 7: e34725. ・Hayakawa N, Koide T, Okada T, Murase S, Aleksic B, et al. (2012) The postpartum depressive state in relation to perceived rearing: a prospective cohort study. PLoS One 7: e50220.

2.学会発表(国際学会のみ) ・Kubota C, Aleksic B, Ando M, Ozaki N. Factor structure of the Japanese version of the Edinburgh Postnatal Depression Scale in postpartum period; 2013; Kyoto. ・Morikawa M, Okada, T, Chika Kubota, Branko Aleksic, Ozaki N. Reliability and validity of Social Support Questionnaire in Japanese women in pregnancy and postpartum periods; 2013; Kyoto. 3.それ以外(総説論文) ・宇野洋太, 尾崎紀夫 (2013) 産後うつ病

を亜型分類とする意味. 臨床精神医学 42: 857-864. ・森川真子,久保田智香,尾崎紀夫 (2013) 精神科ユーザーの妊娠・出産. 精神科治療

学 28,5:561-566 ・久保田智香, 森川真子, 尾崎紀夫: 婦人

科におけるうつ病診察のコツと処方例. 日常

診察におけるうつ病治療指針~うつ病を見

逃さない~ 2012, 149-167 (著書・題名・発表誌名・巻・頁・発行年等も

記入) ・久保田智香, 岩本邦弘, 尾崎紀夫: 妊娠

期における双極性障害の薬物療法. BIRTH 1 (5):42-51, 2012 ・中村由嘉子, 國本正子, 尾崎紀夫: 妊産

婦に生じるうつ病を対象としたゲノムホート研

究. 日本生物学的精神医学会誌 23 (3):205-210, 2012 G.知的所有権の取得状況 1.特許取得 なし 2.実用新案登録 なし 3.その他 なし

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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))

大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と 対応ガイドラインの作成・評価に関する研究

平成 25 年度分担研究報告書

災害時における調査研究の倫理審査の現状に関する調査

分担研究者 飯島祥彦

名古屋大学大学院医学系研究科 生命倫理審査委員会

研究要旨

【目的】災害時の調査研究の倫理審査の現状を調査し、災害時の調査研究の対応ガイドラインを策定するた

めの知見を得ること。

【方法】2013年 9-11月、全国の研究機関の 446倫理委員会に対して、アンケート調査を行い、217委員会(回

答率 48.7%)から回答を得た。

【結果】災害に関する調査研究を倫理審査した委員会は、31(14.3%)、災害時には迅速な審査が必要とする

とした委員会は 147(67.7%)、集中する研究の調整が必要と回答した委員会は 129(59.4%)であった。一方、

事後審査については必要とする委員会は 38(17.5%)にとどまった。

【考察】災害時の調査研究の倫理審査については特別配慮が求められており、迅速な審査、研究集中に対す

る対応が必要であるとする傾向にあった。一方、事後審査や被災地域の機関の関与の導入については消極的

であった。

Keywords 研究倫理、災害研究、研究のコーディネート、中央倫理委員会

A.はじめに

地震や台風などの自然災害やテロ(以下「災害」

という)が発生した直後、被災者や犠牲者(以下「被

災者」という)を対象として、メンタルヘルスに関

する調査研究が行われる。このような調査研究は、

災害によるトラウマを理解し、将来、災害が発生し

た際、被災者に対し適切な精神医療を実施し、被害

を最小限にするためには不可欠である 1。

一方、災害により、ストレスに曝され心身ともに

過酷な状況にある被災者を調査の対象とするため、

研究参加者となる被災者の権利・利益の保護が要請

される。災害の発生時には、内容の重複した調査研

究が集中して実施されるため、研究参加者は、短期

間に多数の調査研究への参加を余儀なくされ、過度

な負担を強いられる可能性がある。そのため、各々

の調査研究自体には倫理的問題がなくても、多数に

なると深刻な問題を引き起こすことに留意する必要

がある 2。このように、災害時の調査研究では、被

災者である研究参加者の権利・利益を保護するとと

もに、迅速に研究を実施しなければならないという

解決が困難な問題がある 3。

平成 24年度の報告では、災害時の調査研究の倫理

について、比較的報告が豊富な米国の議論の状況を

踏まえて、我が国の実情に合致した災害時の調査研

究の倫理について考察を行った 4。

平成 25年度は、災害時における調査研究の倫理審

査の現状を全国の研究機関の倫理委員会に対してア

ンケートによる調査を行い、災害時の調査研究の倫

理審査に関する対応ガイドラインを作成するための

知見を得ることを試みた。

B.研究方法

1)研究の対象

厚生労働省の臨床研究倫理審査委員会報告システ

ム 5 に登録されている倫理委員会(以下「委員会」

という)を対象とした。同一の研究機関で複数の委

員会が登録されている場合には,そのうちの一委員

会に限定した。大学・研究所はすべて、病院など医

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療機関は約 50%をランダムに選択した。個人病院は

調査対象から除外した。

調査対象とした委員会の総数は 446 であった。地

域は、北海道 18 委員会、東北(青森、秋田、岩手、

宮城、山形、福島)56 委員会、関東(栃木、茨木、

群馬、埼玉、東京、神奈川)111 委員会、甲信越・

北陸(長野、山梨。新潟、富山、金沢、福井)38委

員会、東海(静岡、愛知、岐阜、三重)43 委員会、

近畿(和歌山、滋賀、京都、奈良、大阪、兵庫)60

委員会、中国・四国(岡山、広島、鳥取、島根、山

口、香川、高知、徳島、愛媛)51委員会、九州(福

岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄)

69 委員会であった。

委員会を設置する研究機関の規模・性質は、医学

系大学・基幹病院(500 病床以上)103委員会(47.4%)、

中規模病院(100-499 病床)61 委員会(28.1%)、小

規模病院(99病床以下)42委員会(2.8%)、研究所・

非医学系大学 42委員会(19.4%)、行政機関 5委員

会(2.3%)であった。

2)調査方法と調査項目

アンケート調査は、倫理委員会事務局宛の郵送に

よる無記名自記式質問紙調査により行った。調査は、

2013 年 9 月から同年 11 月にかけて行った。本調査

は個人情報を扱わないものではあるが、名古屋大学

医学部生命倫理員会により承認(簡易審査)されて

いる。

アンケートの調査項目は、24 年度の研究にて、災

害研究で倫理上問題となる事項として明らかにした、

以下の 11項目とした。すなわち、①災害における調

査研究の倫理審査の経験の有無、②災害における調

査研究の倫理審査への特別配慮の必要性、③研究集

中への苦慮の経験、④オクラホマモデルの必要性、

⑤迅速審査の必要性、⑥事後審査の必要性、⑦研究

のコーディネートの必要性、⑧被災地域の機関の関

与の必要性、⑨被災者の脆弱性、⑩研究チームの独

立性の必要性、⑪災害研究に関する特別規定の有無

である。

C 結果

全国の 446 委員会のうち、回答した委員会は 217

で回答率は 48.7%であった。回答した 217委員会の

研究機関の性質は、大学・基幹病院 103機関(47.4%)、

中規模病院 61 機関(28.1%)、小規模病院 6 機関

(2.8%)、研究所・非医学系大学 42機関(19.4%)、

行政機関 5 機関(2.3%)であった(表 1)。災害に

関する調査研究を倫理審査した経験のある委員会は

31(14.3%)であった。31委員会のうち、東北 8委

員会、関東 9委員会、甲信越・北陸 2 委員会、東海

4 委員会、関西 4 委員会、中国・四国 2 委員会、九

州 2 委員会であった。審査件数は、東北 105 件、関

東 21 件、甲信越・北陸 3 件、東海 11 件、関西 10

件、中国・四国 4件、九州 4 件であった(図 1)。

災害における調査研究の倫理審査への特別配慮の

必要性については、171委員会(78.9%)が「必要」

と回答した。研究集中への苦慮の経験は、「ある」と

回答した委員会は 2委員会(0.9%)に留まった。災

害時には州政府などの行政が積極的に研究の倫理審

査に関与するオクラホマモデル 6 の必要性について

は、94委員会(43.3%)が「必要」と回答した(図

2)。

迅速審査は、147 委員会(67.7%)が「必要」と

回答した。また、内容が重複する研究をコーディネ

ートは、129 委員会(59.4%)が「必要」と回答し

た。一方、事後審査について「必要」と回答した委

員会は 38委員会(17.5%)に留まった(図 3)。

被災地域の機関の関与については、51 委員会

(23.5%)が「必要」と回答した。被災者は脆弱な

存在であると、162 委員会(74.7%)の委員会が回

答した。研究チームの災害救助からの独立性につい

ては、117委員会(54.0%)が「必要」と回答した。

災害研究に関する特別規定の存在については、181

委員会(83.5%)が「ない」と回答した(図 4)。

D.考察

本研究は、日本における災害時の調査研究の倫理

審査の現状について、調査したものである。我が国

では、地震、台風など自然災害が発生しているが、

災害時の調査研究を倫理審査した経験のある委員会

は 14.6%にとどまった。過半数の研究が東北地方の

研究機関で倫理審査されているため、主として東日

本大審査に関する調査研究であったと推測される。

研究の集中に対し対応に苦慮した委員会は 2委員

会にとどまった。ただし、過半数の委員会が、中央

倫理委員会などの運用により研究の集中へのコーデ

ィネートが行われるべきと回答した。災害が発生し

た場合、同種の研究が集中して実施されるため、コ

ーディネートをする必要性が一定程度あるとするこ

とが明らかとなった。ただし、コーディネートをす

るべき機関を特定することはできなかった。アンケ

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ートの質問紙の自由記載欄にて、国(厚生労働省、

文部科学省)、地方自治体、災害拠点病院、地域の基

幹大学など、様々な機関がコーディネートする機関

として挙げられていた。

被災地の機関が倫理審査に関与し、コーディネー

トまで行うべきとの見解が特に米国で主張されてい

るが 6、被災地域の機関が倫理審査に関与するべき

とする委員会は少なく、被災地域の機関が関与する

べきとする米国とは異なる傾向にあった。

その理由としては、第一に、我が国は米国と比し、

地域毎の文化・慣習の多様性が少ないため、被災地

で固有に審査しなければならない事項が少ないため

である。第二に、地域の行政機関の規模・権限の相

違がある。米国は連邦制であり、州政府が大きい権

限を持っているのに対して、我が国は、国が大きい

権限を持ち、地方公共団体の権限は米国の州政府と

比べると小さい。第三に、我が国の場合、テロより

は、地震や噴火などの自然災害を想定しなければな

らない事情がある。自然災害の場合、被災面積が広

く、被災地域の地方自治体や医療機関は自らも被災

するとともに、同時に被災者の支援を行わなければ

ならない。そのため、研究のコーディネートを行う

余力はなく、被災地域の機関が研究のコーディネー

トを行うことは期待できないのである。

研究をコーディネートへの対応策の一つとして倫

理委員会の集約化がある。厚生労働省は臨床複数病

院からなる大規模なネットワークの中核となり、臨

床研究の拠点となる臨床研究中核病院を選定してい

る 7。臨床研究の倫理審査も拠点病院を中心に集中

して行うという、倫理審査を効率化することが想定

されている。中部地区の 10大学と 2 ナショナルセン

ターで構成する中部円環コンソーシアムでは、中央

倫理委員会を設置し、各研究機関の臨床研究の倫理

審査を中央審査する体制が整備された 8。中央倫理

委員会の萌芽として注目する動きである。

災害時の調査研究については、迅速に行わなけれ

ばならない。現行指針で運用できる迅速審査手続で

審査するべきである。研究を実施した後に倫理審査

をするという事後審査については、現時点では否定

的な委員会が過半数を占めた。一方、被災者は経済

的にも精神的にも危機的状態に陥っている可能性が

高いため、脆弱であると考えていることが判明した。

そのため、被災者の権利・利益を保護する特段の配

慮が求められている。被災者である研究参加者は、

自発的な決定能力が低下している可能性があり、自

発的な同意が確保されているか常に注意をしなけれ

ばならない。研究チームは救助とは独立する体制が

望まれ、インフォームド・コンセントは落ち着いた

場所で取得するなど、被災者の権利・利益を保護す

る体制が求められる。

本研究は、災害時の調査研究の倫理審査について、

全国規模で行った数少ない調査であり、今後の検討

に向けての基礎的な知見が得られたと考える。

本研究の調査の限界として、回答率が 48.7%と必

ずしも高くなかったため、全国の委員会の現状を代

表しているとはいえない。また、臨床研究倫理審査

委員会報告システムに登録していない非医学系の研

究機関の研究については明らかにできていないこと

が課題として残った。

E.終わりに

災害における調査研究では、迅速な研究の実施と、

研究参加者となる過酷な状況にある被災者の権利・

利益の保護を実現しなければならない。

そのために災害時における調査研究では、研究参

加者となる被災者の権利・利益を確保するために、

研究を行う者と救助を行う者を分離し、インフォー

ムド・コンセントの場所・状況を工夫するなどの配

慮が求められる。治療・ケアーが必要な場合は、研

究に優先しなければならない。現行の倫理指針 9 を

遵守し、可能な限り迅速に倫理審査を行うべきであ

るが、事後審査は現時点では容認できない。被災地

の機関の研究への関与は必ずしも必要はないが、被

災地の実情を踏まえて適切な実施体制が望まれる。

重複する研究のコーディネートは今後の課題である。

対応策として研究の事前登録制や中央倫理委員会に

よる集中倫理審査があり、体制の整備が望まれる。

文献

1. Zack N:Ethics for Disaster.Rowman & Littlefield Publishers Inc:Maryland.2009

2. 柴田明徳:災害時の学術調査と研究者の倫理.

建築雑誌 116(7):35-36,2001

3. Iijima Y et al:Necessity for Ethical Consideration of Research in the Aftermath of Disaster.Psychiatry and Clinical Neuroscience 65:535-536,2011

Page 168: 大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患 ...¹³成25(2013)年度 大... · 厚生労働科学研究費補助金. 障害者対策総合研究事業(精神障害分野)

4. 飯島祥彦:災害時における調査研究の倫理.

大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患の

実態把握と対応ガイドラインの作成・評価に

関する研究―平成 24年度総括・分野研究報告

書:91-97,

5. 厚生労働省:臨床研究倫理委員会報告システ

http://rinri.mhlw.go.jp/PublicPage/publi

ctoppage.aspx

6. North C et al:Ethical and Methodological Issues in Academic Mental Health Research in Populations Affected by Disasters: The Oklahoma City Experience Relevant to

September 11, 2001.CNS Spectrums 7 (8):580-584,2002

7. 厚生労働省ホームページ

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/chiken/03. html

8. 中部先端医療開発円環コンソーシアムホームペ

ージ

http://www.nu-camcr.org/cms/center_index/c-cam/

9. 厚生労働省:疫学研究に関する倫理指針.平

成 13 年 3 月 29 日(平成 20 年 12 月 1 日一部

改正

Abstracts

To examine the present state of ethical review for disaster research in Japan, an anonymous self-administered questionnaire was mailed to ethical review committees (ERCs) (N = 446). The questionnaires were returned by 217 ERCs (which is a response rate of 48.7%). Of these, 14.3% of the ERCs agreed to review disaster research; 67.7% of ERCs answered that disaster research needs a fast-track review process; 59.4% replied that collaboration among researchers and coordination of research is important in order to decrease redundancy and the burden on participants. The findings suggest that there exists a dire need for expeditious reviews and for coordination among researchers. Engagement by local academic or governmental authorities and approval after the initiation of the research, however, may not be necessary.

Keywords: Research Ethics, Disaster Research, Coordination of Research, Central IRB

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表1. 回答した倫理委員会の機関の性質(N=217)

医学系大学・基幹病院 103機関(47.4%)

中規模病院 61機関(28.1 %)

小規模病院 6機関(2.8%)

研究所・非医学系大学 42機関(19.4%)

行政機関 5機関(2.3%)

図1.災害に関する調査研究を倫理審査した機関および審査件数

審査件数(N=158)

北海道 東北 関東 甲信越

東海 関西 中国四国 九州

審査機関(N=31)

北海道 東北 関東 甲信越

東海 関西 中国四国 九州

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図2.特別配慮、研究の集中に対する苦慮、オクラホマモデルの必要性

特別配慮(N=217)

必要 不要 不明

オクラホマモデル(N=217)

必要 不要 不明

研究の集中(N=217)

あり なし 不明

図3.より迅速な倫理審査、研究のコーディネート、事後審査

迅速な倫理審査(N=217)

必要 不要 不明

コーディネート(N=217)

必要 不要 不明

事後審査(N=217)

必要 不要 不明

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図4.被災地域の機関の関与、被災者の脆弱性、研究チームの独立性、特別既定の存在

被災地域の機関の関与(N=217)

必要 不要 不明

被災者は脆弱か(N=217)

はい いいえ 不明

研究チームの独立性(N=217)

はい いいえ 不明

特別規定(N=217)

策定 一部策定 策定なし 不明

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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))

大規模災害や犯罪被害等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究

平成25年度 分担研究報告書

PTSD補助療法としての高照度光照射の有用性の検討

: 高照度光による恐怖消去学習促進効果

研究分担者 栗山健一 独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所

成人精神保健研究部 精神機能研究室長

研究協力者 吉池卓也 独)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所

成人精神保健研究部 協力研究員

研究要旨

高照度光(bright light: BL)は生物時計を介したリズム調整作用を有するのみならず,情動,

注意,覚醒などの認知機能を修飾する非視覚的作用を有する。BL は概日リズム位相変位と

独立に気分調整作用を示し,うつ病に対する臨床応用がなされているが,近親疾患である

不安障害の治療有効性は明らかにされていない。恐怖条件づけ消去学習は曝露療法による

不安障害治療の中核認知モデルであり,脳機能画像研究では前頭皮質による辺縁系活動の

抑制および,海馬—扁桃体の機能協調の減弱が関係していることが示唆されている。本研究

は BL による恐怖条件づけ消去促進効果を,恐怖条件づけ生理反応(皮膚電気抵抗反応: SCR)

反応および前頭皮質活動により評価した。25 名の健康成人(21.4 ± 0.16 歳,女性 9 名)を無作

為に,BL 照射群(12 名)および対照群(13 名)の 2 群に割り付け,恐怖条件づけ消去学習中に

高照度(8,966 ± 267 lux)もしくは低照度(431 ± 31.8 lux)の光照射を約 15 分間行った。BL は恐

怖条件づけ消去学習中の SCR に影響を与えなかったが,24 時間後の想起試験において SCR

を有意に抑制した(p = .030)。さらに,BL は恐怖条件づけ消去学習中のみならず(p = .020),

想起試験中の前頭皮質活動も有意に減少させ(p = .009),前頭皮質活動の減少が大きいほど

SCR が減弱するという正の相関関係が認められた(r > .67; all p < .049)。BL は恐怖条件づけ

消去学習および再発耐性を促進することが明らかになった。さらに,恐怖条件づけ消去に

伴い,前頭皮質の活動負荷を低減することから,不安障害に対する曝露型認知行動療法の

有用な増強手段となる可能性が強く示唆された。

A. 研究目的

高照度光療法は季節性感情障害や概日リズ

ム睡眠障害等の,概日リズム同調機構の障害

を中核病理とする精神疾患の中心的治療法で

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ある。高照度光は概日リズム機構の主要な同

調因子の一つであり,感受性の高まる時間帯

における一定時間(30分~数時間)の高照度

光照射は,メラトニン分泌等の内因性概日リ

ズムを適正化することにより季節性感情障害

や概日リズム睡眠障害を改善させると考えら

れている(Boulos & Terman, 1998; Rosenthal et

al., 1984)。一方で,上記疾患群のみならず,

大うつ病,産褥期うつ病などを含む非季節性

感情障害においても一定の有効性を有するこ

とが臨床的に知られている(Terman, 2007)。非

季節性感情障害への高照度光の作用機序は明

確にされていないが,概日機構の修正に起因

しない抗うつ作用機序が推測されている

(LeGates et al., 2012; Hattar et al., 2006;

Vandewalle et al., 2009; Stephenson et al., 2012)。

LeGates ら(2012)は,高照度光が内因性概日

リズムに影響を与えることなく気分および認

知機能を改善する可能性を動物実験で示して

いる。ヒトでも,一部の認知機能を強化する

ことが示されており,脳機能画像研究で高照

度光が視床や視床下部のみならず,扁桃体や

海馬,さらには前頭皮質や帯状回皮質を含む

広範な皮質領域の賦活を迅速に促進すること

が確認されている(Vandewalle et al., 2009)。光

の非視覚的作用は,視覚イメージ形成に係る

桿体および杆体とは異なる網膜の光感受性細

胞により発現すると考えられているが,この

光感受性細胞の神経投射は,視交叉上核や腹

外側視索前野といった睡眠覚醒調整に関与す

る視床下部の神経核のみならず,扁桃体や海

馬にも投射している(Hattar et al., 2006)。この

ため,高照度光が情動や認知を直接かつ迅速

に調整する背景メカニズムは,この光感受性

細胞を介した非視覚的神経作用である可能性

が推測されている。

外傷後ストレス障害(PTSD)を含む不安障害

は,恐怖記憶の過剰強化と消去不全を中核病

理とする。恐怖消去学習は,恐怖感情と環境

刺激との条件づけを和らげ,安全なシグナル

と環境刺激との関連付けに置き換える学習で

あり,曝露型認知行動療法の中核認知プロセ

スとして不可欠な役割を果たしている(Milad

et al, 2007; Phelps et al., 2004)。高照度光療法は

ヒトの記憶機能を促進し(Bersani et al., 2008),

不安を軽減すること(Youngstedt et al., 2007;

2011)が示唆されており,高照度光が不安障害

の病態生理を改善する可能性が示唆される。

前頭皮質は恐怖消去学習において,扁桃体

を含む辺縁系構造の過剰活性化を抑制する中

心的役割を果たしていることが明らかにされ

ている(Marek et al., 2013; Quirk & Mueller,

2008; Milad et al, 2007; Phelps et al., 2004)。不安

障害では,内側前頭皮質の機能不全と情動処

理障害の関連性が確認されており,これが恐

怖消去学習不全の背景メカニズムとなってい

る可能性が推測されている (Killgore et al.,

2013; Shin & Liberzon, 2010)。高照度光による

情動調整作用は前頭皮質の機能調整を伴うこ

とが示唆されており(Benedetti et al., 2007),高

照度光照射は前頭皮質機能の改善により,不

安障害の暴露型認知行動療法の作用を促進し,

治療効果を高める可能性が強く示唆される。

暴露型認知行動療法は,PTSD をはじめと

した不安障害の治療におけるファーストライ

ンであり,高い有効性と低い副作用危険性が

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両立しているのみならず,病態認知メカニズ

ムにかなった治療法として高い評価を得てい

る(Foa, 2011)。一方で,治療者および患者双方

の時間や労力,コスト面での負担から普及が

立ち遅れている。このため暴露型認知行動療

法の効率や有効性を向上させる方法の開発は

急務である。本研究はこうした背景をもとに,

高照度光による不安障害の認知行動療法の有

効性促進効果を検討する上での基礎的知見を

得ることを目的とし行われた。

B. 研究方法

1. 研究対象

25 名の健康成人[21.4(平均)± 0.16(標

準誤差)歳]を対象とした。研究はヘルシン

キ宣言および臨床研究に関する倫理指針(平

成20年厚生労働省告示第415号)に則り,

国立精神・神経医療研究センター倫理委員会

の承認のもとで行われた。参加者は文書及び

口頭により説明を受け,文書による同意後に

研究に参加した。睡眠障害,他の精神障害,

網膜疾患を有する者を除外した。

2. 照度による群分け

参加者は無作為に高照度光照射(HI: High

Intensity)群(12 名)および対照群となる低

照度光照射(LI: Low Intensity)群(13 名)の

いずれかに割付けられた。参加者の眼前約

70cm の距離にある PC モニターの両脇に設置

した 2 つの光源(HI 群:高照度光治療器,LI

群:家庭用卓上ライト)を使用し,高照度光

による概日リズム相変位作用が通常生活リズ

ムで最少点近辺にあたる 13 時前後に,約 15

分間の光照射を課題(学習課題 2)試行中に

行った。

3. 個人基本特性

学習効率や光感受性は日周指向性が影響す

る こ と が 示 唆 さ れ て い る た め ,

Morningness-Eveningness Questionnaire (MEQ)

を用い,日周指向性の個人差を評価した。睡

眠日誌を用い,睡眠–覚醒習慣を評価した。情

動学習に影響を与えうる,個人の不安および

抑うつ特性を,State-Trait Anxiety Inventory

(STAI),Beck Depression Inventory-Ⅱ(BDI-Ⅱ)

を用い評価した。

4. 恐怖獲得・消去手続き

恐怖条件付けは,指尖電気刺激を侵害刺激

(US),視覚図形刺激を環境刺激(CS)とし,CS

提示の 0.5秒後にUSを提示することで両者を

関連付けた(CS+)。消去学習は,条件づけられ

た CS のみを連続的に提示し,侵害刺激と環

境刺激の関連付けを弱める学習(CS-)を行っ

た。

同一被験者に 3 種類の視覚図形刺激を用い,

獲得学習後に消去学習を行う消去条件(CS+

& CS-),獲得学習のみを行う獲得条件(CS- &

CS+),条件付けを行わない対照条件(CS- &

CS-)の 3 種類の条件を設定した。

2 日間の実験スケジュールを設定し,初日

に学習セッションを 30分の間隔をあけ 2セッ

ション,24 時間後の 2 日目に想起試験および

再強化刺激後に再発試験を行った。学習セッ

ションは各条件ごとに 10 試行から成り(計

30 試行),学習課題 2 の遂行中に光照射を行

った。想起試験と再発試験は 1 セッションず

つ,各条件 3 試行(計 9 試行)から成り,全

て US 提示なしの条件で行った。両試験間に

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対照条件を除き各条件 1 度だけ US を提示し,

条件付け再強化(再発)を促した。

5. 条件付け反応

恐怖条件付け反応は,生理学的想起反応で

ある皮膚電気抵抗反応( skin conductance

response: SCR)を用い評価した。SCR は US

を与えられる逆の手第 3 指および第 4 指に取

り付けた電極より計測した。

6. 脳機能計測

学習課題および想起・再発試験中の前頭皮

質 活 動 を 近 赤 外 線 分 光 法 ( near-infrared

spectroscopy: NIRS)を用い評価した。恐怖条

件づけ学習は強い情動興奮および身体反応を

伴うために,体動の発生が避けられない。ま

た,高照度光照射の有効性を高めるうえで,

実験環境設定に制限が生じる。これらの制約

を克服し,かつ高い時間分解能および前頭皮

質における空間分解能を有し,血流動態

(BOLD)を反映する機能画像計測法として,近

赤外線分光法(NIRS)を選択した(Sato et al.,

2013)。これは,臨床的有用性を高めることも

考慮された。両側の前頭前野をカバーするよ

うに,30mm 間隔に配列された 3×5 個の NIRS

プローブを装着した。最下列のプローブは,

国際脳波標準電極配列の T3-Fpz-T4 列に沿う

ように設置した。前頭極を中心に 22 チャンネ

ル(ch)の局所活動を計測した。事象関連デザイ

ンを用い,局所酸化ヘモグロビン濃度([O2Hb])

変化を z 標準化し解析した。

7. 覚醒度,気分,不安,および睡眠への影響

覚醒度,気分,および不安を visual analogue

scale (VAS)を用い,初日光照射前・後,およ

び光照射 24 時間後(2 日目)に評価した。光

照射当夜の睡眠をアクチグラフィにより評価

した。

8. 統計

主観的覚醒度,気分,および不安に対する

高照度光の影響の検討に 2 要因分散分析[群

(2)×時間(3)],学習課題に対する高照度

光および学習条件の効果の検討に 3 要因分散

分析[群(2)×学習条件(3)×試行(6)],

試験課題に対する高照度光および学習条件の

効果の検討に 2 要因分散分析[群(2)×学習

条件(3)]を用いた。

C. 研究結果

1. 光照度の群間差

HI 群 (8,966 ± 267 lux)は LI 群 (431 ± 32

lux)より光照度が有意に高かった (t23 = 33.1;

p < .0001)。

2. 個人基本特性

t 検定の結果,MEQ (44.76 ± 1.34),習慣的

睡眠時間(6.92 ± 0.16 h),BDI-Ⅱ (7.52 ± 0.85),

STAI-S (42.1 ± 2.1),および STAI-T (42.0 ± 1.8)

に群間差を認めなかった(ps > .11)。

3. 恐怖条件付け獲得・消去学習における高照

度光の即時効果

学習課題 1における 3要因分散分析の結果,

学習条件(F2,42 = 70.84; p < .0001)および試行

(F5,105 = 5.597; p <.0001)の主効果が認められた

が,群の主効果は認められなかった。下位検

定の結果,消去条件が獲得条件(p < .0001)およ

び対照条件(p < .0001)より有意に高い SCR が

認められた(図 1A)。

学習課題 2における 3要因分散分析の結果,

学習条件(F2,42 = 74.928; p < .0001 )および試行

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(F5,105 = 9.009; p < .0001 )の主効果が認められ

たが,群の主効果は認められなかった。下位

検定の結果,獲得条件が消去条件(p < .0001)

および対照条件(p < .0001)より有意に高い

SCR が認められた(図 1B)。

4. 恐怖条件付け想起・再発における高照度光

の遅延効果

想起試験における 2 要因分散分析の結果,

群の主効果が認められた (F1,21 = 5.426; p

= .030)。下位検定の結果,HI 群が LI 群より有

意に低い SCR が認められた(p = .030: 図 2A)。

再発試験における 2 要因分散分析の結果,群

(F1,21 = 7.462; p = .0125)および学習条件(F2,42 =

8.416; p = .001)の主効果が認められた。下位検

定の結果,HI 群が LI 群より有意に低い SCR

を認め (p = .012),対照条件が消去条件 (p

= .002)および獲得条件(p = .015)より有意に低

い SCR が認められた(図 2B)。

5. 前頭皮質活動における高照度光の即時お

よび遅延効果

学習課題 1における 3要因分散分析の結果,

学習条件の主効果が認められた(F1,23 = 8.024;

p = .009)。下位検定の結果,消去条件が獲得条

件より有意に高い [O2Hb]が認められた (p

= .009)。学習課題 2 における 3 要因分散分析

の結果,群×学習条件の交互作用が認められ

た(F1,23 = 6.384; p = .019)。下位検定の結果,

HI 群において消去条件が獲得条件より有意

に低い[O2Hb]が認められた(p = .020: 図 3A)。

想起試験における 3 要因分散分析の結果,

群の主効果が認められた(F1,23 = 0.90; p = .007)。

下位検定の結果,HI 群が LI 群より有意に低

い[O2Hb]が認められた(p = .009: 図 3B)。再発

試験における 3 要因分散分析の結果,群×学

習条件の交互作用が認められた(F1,23 = 4.833;

p = .038)。下位検定の結果,HI 群において消

去条件が獲得条件より有意に低い[O2Hb]が認

められた(p = .018: 図 3C)。

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6. 恐怖条件付け消去の遅延効果における前

頭皮質の機能関連

再発試験において,消去条件の HI 群におい

て,ch 8 (r = .713), 9 (r = .722), 12 (r = .675), 13

(r = .735), 15 (r = .680), 16 (r = .670), および

18 (r = .697) に[O2Hb]平均変化量—平均 SCR

間の正の相関関係を認めた(ps < .048: 図 4A)。

他方,同条件の LI 群に置いては,ch 1 (r =

−.761), 3 (r = −.757), 4 (r = −.759), 5 (r = −.722),

6 (r = −.850), 8 (r = −.760), 9 (r = −.935), 10 (r =

−.810), 11 (r = −.782), 12 ( r = −.874), 13 ( r =

−.880), 16 (r = −.805), 17 ( r = −.798), 18 ( r =

−.759), 20 (r = −.671), 21 ( r = −.729), および

22 (r = −.784) に負の相関関係を認めた(ps

< .034: 図 4B)。

7. 高照度光の主観的状態および睡眠に対す

る影響

2 要因分散分析の結果,覚醒度,気分,お

よび不安のいずれにも群の主効果および交互

作用が認められなかった(ps > .30)。t 検定の結

果,アクチグラフィにより測定した睡眠変数

(入眠時刻,入眠潜時,睡眠効率,入眠後覚

醒時間,睡眠時間)のいずれにも群間差を認

めなかった(ps > .143)。

D. 考察

1. 高照度光の恐怖消去学習促進作用

恐怖条件づけ消去学習中に照射された高照

度光は,24 時間後の恐怖条件づけ反応を有意

に抑制しただけでなく,再強化刺激後の再発

試験においても恐怖条件づけ反応を有意に抑

制した。これは,暴露型認知療法と高照度光

療法を組み合わせることで,不安障害の治療

効果を促進するのみならず,トラウマ出来事

の再暴露に対する耐性を強化できる可能性を

示唆している。不安障害における認知行動療

法の作用増強療法として,NMDA 受容体部分

作動薬である D-cycloserine (Kuriyama et al.,

2011; 2013; Guastella et al., 2004)や,抗てんか

ん薬でありかつHDAC阻害薬としての効果を

持つバルプロ酸((Kuriyama et al., 2011; 2013)

などが検討されているが,副作用が少なく簡

単に利用可能である高照度光は,新たな治療

増強薬として期待が高い。

15 分間の高照度光照射では,記憶への影響

は認められながらも,気分や不安や,概日リ

ズムや睡眠への影響は認められなかった。こ

れは,高照度光を暴露した時間帯が,概日リ

ズムへの影響が 1 日の内でも最低となる時間

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帯に当たるためと考えられる。また,高照度

光による抗うつ効果の発現には,10,000 lux

(本研究の照度に相当)で最短 30 分程度の曝

露が必要と考えられており(Wirz-Justice et al.,

2009),抗うつ効果の発現には暴露時間が短か

った可能性が考えられる。これらの結果は,

高照度光が気分や概日リズムの調整と独立に

情動記憶・学習に影響を与える可能性を強く

示唆している。

2. 高照度光の恐怖獲得阻害作用

恐怖条件づけ獲得学習中に照射された高照

度光は, 24 時間後の想起試験および再発試

験における恐怖反応を有意に抑制した。高照

度光の認知促進作用は,恐怖条件づけ消去作

用の増強のみならず,むしろ恐怖条件づけ獲

得学習も増強する可能性が推測されたが,逆

の結果が得られた。これには,高照度光が学

習時の情動を非特異的に減弱する作用が推測

される。また,恐怖消去学習促進による恐怖

獲得への般化が反映された可能性も考えられ

る。実際に PTSD などの不安障害に対する認

知行動療法は,恐怖消去学習を促す一方で,

トラウマ記憶への再曝露が恐怖記憶の強化を

むしろ促進し,病状を悪化させるリスクを伴

うが,本結果は高照度光の併用で恐怖記憶強

化が積極的に抑制できる可能性を示しており,

高照度光照射の臨床有用性を支持する所見で

ある。

3. 高照度光による前頭皮質の負荷低減作用

高照度光は消去学習中の恐怖条件付け反応

には影響を与えなかったにもかかわらず,消

去に関わる前頭皮質活動を有意に減少させた。

24 時間後の想起試験においては,高照度光に

より恐怖条件づけ反応の低下と前頭皮質活動

の低下が同期しており,消去された恐怖条件

づけの想起に関連した前頭皮質活動が,恐怖

条件づけ消去学習時の高照度光照射による影

響を示唆している。さらに高照度光の前頭皮

質に対する遅延効果は,再発試験においても

確認された。再発試験において前頭皮質活動

と恐怖条件付け反応の間に消去条件のみで光

照度の差異による対照的な相関関係が確認さ

れ,前頭皮質活動と恐怖条件づけ反応抑制量

の関係性が,高照度光照射群では逆転し,恐

怖反応抑制に要する前頭皮質活動がむしろ減

少する。前頭皮質の機能不全をその脳機能病

態として有する PTSD などの不安障害におい

て,この前頭皮質機能を補う高照度光の効果

は曝露療法への反応性を高め消去学習を促進

することにより治療転帰の改善をもたらす可

能性を強く示唆する。

E. 結論

恐怖消去学習中の高照度光照射は,恐怖消

去学習に関連した前頭皮質活動負荷を有意に

低減し,翌日の想起時の恐怖条件付け反応を

有意に抑制した。さらに,これは恐怖再暴露

後の再発耐性を促進し,これに関わる前頭皮

質負荷を低減させた。これらの効果は,気分

や概日リズムに影響を与えず,従来から知ら

れている高照度光による概日リズム同調効果

や抗うつ作用とは独立した神経調節作用であ

る可能性が示唆された。本結果は,高照度光

を持続曝露療法の併用療法として用いること

により,治療効果を増強し,治療期間を短縮

しうる可能性を示唆する。

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高照度光照射による恐怖条件付け学習効

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2) 吉池卓也,本間元康,金吉晴,栗山健一.

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23-27, 2013.

G. 知的所有権の取得状況

1.特許取得

2.実用新案登録

3.その他

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Ⅲ. 研究成果の刊行に関する一覧表

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研究成果の刊行に関する一覧表 書籍

著者氏名 論文タイトル名 書籍全体の 編集者名

書 籍 名 出版社名 出版地 出版年 ページ

金 吉晴 集団的災害対応精神医療システム

精神保健福祉白書編集委員会編

精神保健福祉白書2014年版

中央法規 東京 2013

雑誌

発表者氏名 論文タイトル名 発表誌名 巻号 ページ 出版年

金 吉晴 災害時の不安障害のマネジメント

保健医療科学 62(2) 144-149 2013

金 吉晴 自然災害後の精神医療対応の向上の取り組み

日本精神科病院協会雑誌

32(10) 19-26 2013

加茂 登志子 家庭内暴力被害母子への

相互関係介入プログラム BIRTH

(医学出版)

第2巻 第2号

77~83 2013

加茂 登志子 女性とうつ病 最新医学 (最新医学社)

第68巻 第12号

102~ 105

2013

成澤知美 検視(検死)及び司法解剖時

の被害者遺族に対する警察官

の対応及び意識について

被害者学研究 第24号 印刷中

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Ⅳ. 研究成果の刊行物

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Relationships Between Mental Health Distress and Work-RelatedFactors Among Prefectural Public Servants Two Months Afterthe Great East Japan Earthquake

Maiko Fukasawa & Yuriko Suzuki & Akiko Obara &

Yoshiharu Kim

# International Society of Behavioral Medicine 2014

AbstractBackground In times of disaster, public servants face multipleburdens as they engage in a demanding and stressful disaster-response work while managing their own needs caused by thedisaster.Purpose We investigated the effects of work-related factorson the mental health of prefectural public servants working inthe area devastated by the Great East Japan Earthquake toidentify some ideas for organizational work modifications toprotect their mental health.Methods Two months after the earthquake, Miyagi prefectureconducted a self-administered health survey of prefecturalpublic servants and obtained 4,331 (82.8 %) valid responses.We investigated relationships between mental health distress(defined as K6≥13) and work-related variables (i.e., job type,overwork, and working environment) stratified by level ofearthquake damage experienced.Results The proportion of participants with mental healthdistress was 3.0 % in the group that experienced less damageand 5.9 % in the group that experienced severe damage. In thegroup that experienced less damage, working >100 h ofovertime per month (adjusted odds ratio [OR], 2.06; 95 %confidence interval [CI], 1.11–3.82) and poor workplace

communication (adjusted OR, 10.96; 95 % CI, 6.63–18.09)increased the risk of mental health distress. In the group thatexperienced severe damage, handling residents’ complaints(adjusted OR, 4.79; 95%CI, 1.55–14.82) and poor workplacecommunication (adjusted OR, 9.14; 95 % CI, 3.34–24.97)increased the risk, whereas involvement in disaster-relatedwork (adjusted OR, 0.39; 95 % CI, 0.18–0.86) decreased therisk.Conclusions Workers who have experienced less disaster-related damage might benefit from working fewer over-time hours, and those who have experienced severe dam-age might benefit from avoiding contact with residents andengaging in disaster-related work. Facilitating workplacecommunication appeared important for both groups ofworkers.

Keywords Mental health . Public servants . Disaster-relatedwork . Overwork . Great East Japan Earthquake

Introduction

On March 11, 2011, the Great East Japan Earthquake andtsunami hit the northeastern coast of Japan leaving 18,550dead or missing [1]. Another 2,688 people died owing to theeffects of this disaster [2]. Professionals dispatched to supportthose affected in the devastated area were highly concernedabout the level of exhaustion of local public servants [3, 4].Disaster exposure, such as bereavement and property damage,is known to adversely affect mental health [5]. In times ofdisaster, public servants face multiple burdens as they engagein demanding and stressful disaster-response work while man-aging their own needs caused by the disaster.

Although many studies have investigated the effects ofpost-disaster work on mental health, these have focused main-ly on first responders trained to handle traumatic events, such

M. Fukasawa (*) :Y. Suzuki :Y. KimDepartment of Adult Mental Health, National Institute of MentalHealth, National Center of Neurology and Psychiatry, 4-1-1Ogawa-Higashi, Kodaira, Tokyo 187-8553, Japane-mail: [email protected]

A. ObaraMiyagi Mental Health and Welfare Center, 5-7-20 Furukawaasahi,Osaki, Miyagi 989-6117, Japan

Y. KimNational Information Center of Disaster Mental Health, NationalInstitute of Mental Health, National Center of Neurology andPsychiatry, 4-1-1 Ogawa-Higashi, Kodaira, Tokyo 187-8553, Japan

Int.J. Behav. Med.DOI 10.1007/s12529-014-9392-8

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as rescue workers, firefighters, and police [6–8]. The fewstudies focusing on public servants or company employeesother than first responders were conducted among recoveryworkers such as construction workers, cleanup workers, andmunicipal workers [9–13], transit workers responding to the2001 World Trade Center attack [14], or recovery workersinvolved in later phases of the response to the 2005 Pakistaniearthquake [15]. These studies indicated that the mental healthof the workers involved was affected by exposure to traumaticevents in the course of their work [9, 12–14] or the duration ofthe work engagement [10, 11, 13], as well as by disaster-related damage experienced, such as losing family membersor friends or household goods and property damage [11, 14,15]. However, most of these studies were conducted severalyears after the disaster, and they did not consider the syner-gistic effect of work-related stressors and disaster-related dam-age on mental health.

In this study, we compiled data from a health survey ofprefectural public servants conducted 2 months after the GreatEast Japan Earthquake, compared the perceived health condi-tion and mental health status of these public servants by levelof earthquake damage they experienced, and investigatedrelationships between work-related variables and mentalhealth stratified by level of earthquake damage experienced.We hypothesized that post-disaster job type, overwork, orworking environment might affect the mental health of publicservants differently depending on the level of earthquakedamage they experienced. We aimed to find some clues aboutorganizational work modifications in the more acute phase ofthe disaster to assist public servants who experienced severedamage by the earthquake.

Method

Survey

A web-based self-administered health survey was conductedby the Labor Welfare Division of Miyagi prefecture, for all itspublic servants 2 months after the Great East JapanEarthquake (May 2011). Miyagi prefecture has a populationof approximately 2,327,110 [16] and is located on the Pacificside of the northeastern region of mainland Japan. The pre-fecture was heavily damaged by the earthquake, and morethan 10,000 were reported dead or missing [1].

Study Population

The May 2011 survey (the first survey) involved 4,334(82.8 %) participants among all public servants in the prefec-ture as of May 2011 (N=5,233). From this survey, we includ-ed 4,331 (82.8 %) participants in our analysis who had nomissing data on mental health distress as measured by the K6

and no missing data for the questions concerning the damagethey experienced from the earthquake (i.e., degree of propertydamage, existence or non-existence of dead or missing familymembers, and experience of living someplace other than theirown house). This study did not include police, firefighters, orteachers because they belonged to a different personnelsystem.

Study Variables

Damage Caused by the Great East Japan Earthquake

The survey asked about degree of property damage as listed inthe official report (i.e., none or minimal, partial collapse, halfcollapse, or total collapse of the home). As for information onthe degree of property damage, we also used data from theOctober 2011 survey (the second survey), which we conduct-ed in the same manner for the same population as the firstsurvey. Among the 4,334 participants in the first survey, 3,743(86.4 %) were involved in the second survey, which repre-sented 71.5% of all public servants in the prefecture as ofMay2011. We compared responses on property damage betweenthe first and second surveys among workers who participatedin both surveys (n=3,743) and found that 1,069 (28.6 %)participants had reported different degrees of property dam-age. Thus, at the time of the first survey, degree of propertydamage possibly was not yet certified, or it might havechanged by the time of the second survey. Therefore, toenhance data accuracy, we used data from the second surveyfor participants who responded to both surveys and data fromthe first survey for participants who did not respond to thesecond survey.

We also asked for information on dead or missing familymembers (yes or no) and whether participants were livingsomeplace other than their own house such as a shelter (no;previously, yes; or currently, yes).

Work-Related Variables

Variables representing job type included involvement indisaster-related work (yes or no) and job description (work ata morgue, handling residents’ complaints, or other). Variablesrepresenting overwork included working more than 100 hoursovertime per month (yes or no) and taking 1 day off per week(yes or no). Variables representing working environment in-cluded work site (inland area or coastal area) and level ofworkplace communication (i.e., communication with bosses,colleagues, and subordinates [poor, reasonable, or good]).

Health-Related Variables

We asked for information on subjective physical condition(bad, not so good, as usual, or good), sleep (sleepless, not so

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good, good, or excellent), appetite (unchanged, decreased, orincreased), and change in alcohol intake (unchanged, de-creased, increased, or nondrinker).

Mental health distress was assessed by the K6, a six-itemstandardized screening instrument of non-specific psycholog-ical distress over the past 30 days [17, 18]. Items are rated on afive-point Likert scale from 0 (none) to 4 (all the time), with asummary score ranging from 0 to 24. In this study, mentalhealth distress was defined as a K6 score of ≥13 [19].

Demographic Characteristics

We obtained information on gender and age, with age used asa categorical variable divided into four age groups (18–29,30–39, 40–49, and 50–64 years).

Statistical Analysis

We divided participants into two groups by level ofearthquake-related damage experienced: the less damagedgroup and the severely damaged group. The severe damagedgroup comprised participants whose homes had half collapsedor totally collapsed, who had a family member(s) who haddied or was missing, or who were living someplace other thantheir own home at the time of the first survey. The lessdamaged group comprised all other participants.

First, we compared demographic characteristics, work-related variables, and health-related variables between thesetwo groups (chi-square tests). Second, we examined the rela-tionships between mental health distress (K6 ≥13) and work-related variables within each group (chi-square tests). Then,for each group, we calculated the adjusted odds ratio (OR) and95 % confidence interval (CI) for job type, overwork, andlevel of workplace communication on mental health distress,controlling for gender, age group, and work site using logisticregression analysis.

All statistical analysis was performed using Stata 12.0 forWindows (StataCorp LP, College Station, TX). Statisticalsignificance was set at 0.05, and all tests were two-tailed.

Results

Table 1 shows the level of earthquake-related damage bygroup, with 667 participants categorized in the severely dam-aged group and 3,664 participants in the less damaged group.Table 2 shows the demographic characteristics and work-related variables of the study groups. More than three-quarters of all participants were men. No statistical differ-ences in these variables were found between the two groupsexcept for work site. As would be expected, the severelydamaged group included more participants who worked in acoastal area.

Table 3 shows the comparison of health condition betweenthe study groups. Severely damaged participants were morelikely to perceive their physical condition as not so good orbad, be dissatisfied with their sleep, and have decreased orincreased appetite and alcohol intake. Regarding mentalhealth distress, the proportion of participants whose scoreexceeded the K6 cutoff point of ≥13 was larger in the severelydamaged group (n=39, 5.9 %) than in the less damaged group(n=111, 3.0 %).

In the less damaged group, bivariate analysis (chi-squaretests) of relationships between demographic characteristicsand work-related variables and mental health distress showedthat those who were female, in their thirties or forties, worked>100 h overtime per month or did not have good workplacecommunication were more likely to score ≥13 on the K6. Asfor job type, we found no significant correlations with mentalhealth distress (Table 4). In the severely damaged group, thosewho were female, not involved in disaster-related work, orwho did not have good workplace communication were morelikely to have mental health distress. As for overwork, wefound no significant correlation with mental health distress(Table 5).

Table 6 shows the results of the logistic regression analysisof the relationship between work-related variables and mentalhealth distress, controlling for gender, age group, and worksite in each group. In the less damaged group, working >100 hovertime per month (adjusted OR, 2.06; 95 % CI, 1.11–3.82)and poor workplace communication (adjusted OR, 10.96;95 % CI, 6.63–18.09) increased the risk of mental healthdistress. In the severely damaged group, handling residents’complaints (adjusted OR, 4.79; 95 % CI, 1.55–14.82) andpoor workplace communication (adjusted OR, 9.14; 95 %CI, 3.34–24.97) increased the risk of mental health distress,and involvement in disaster-related work reduced the risk(adjusted OR, 0.39; 95 % CI, 0.18–0.86).

Discussion

Themain findings of this study can be summarized as follows.In the severely damaged group, handling residents’ com-plaints increased the risk of mental health distress, althoughengagement in disaster-related work decreased the risk. In theless damaged group, working >100 h overtime per monthincreased the risk. In both groups, poor workplace communi-cation increased the risk.

In the severely damaged group, although job type wasrelated to mental health distress, overwork was not. Whenresponding to a major disaster as part of an organization,disaster-related work might produce a sense of belonging toan organization or society, or a sense of contributing to thedisaster response, factors which might be more protective tomental health than reducing overwork, particularly for those

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who have experienced severe disaster-related damage. On theother hand, handling residents’ complaints increased the riskof mental health distress. A previous survey conducted amongthe firefighters responding to the Great Hanshin–AwajiEarthquake in 1995 found similar findings [20]. Arguably,how to handle residents’ complaints is a major challenge foran organization to address in order to perform necessarydisaster relief activities while protecting the mental health ofits workers. Furthermore, public servants who are responsiblefor contacting community residents must often repeatedlyhear about experiences of the disaster and its impact onresidents’ lives, which might serve to increase their owndistress. When making allowances for severely affectedworkers, a possible countermeasure is to modify those workassignments requiring close contact with residents.

In the less damaged group, working >100 h overtime permonth increased the risk of mental health distress. Previousstudies also indicated that extending working hours increasedthe risk of mental health distress among workers [3, 21, 22].Managing workloads to avoid extending working hoursshould not be neglected, not even in the face of disaster relief.

As for workplace communication, poor communicationwith bosses, colleagues, and subordinates increased the riskof mental health distress in both groups, much more than jobtype or overwork. In a previous study, promoting communi-cation was significantly and negatively correlated with psy-chological distress among workers [23]. Although good com-munication might be dependent upon supervisors or the orga-nizational system, it might also depend upon the communica-tion skills of workers. Therefore, improving workplace com-munication could be difficult in the short term after a disaster.Daily efforts to promote workplace communication in normaltimes might protect the mental health of workers withoutregard to gender, age, or degree of disaster-related damage.

In our study, working at a morgue did not increase the riskof mental health distress. We had anticipated an increased riskbased on an earlier study that showed a significantly higherprevalence of posttraumatic stress disorder among those whoperformed disaster response tasks not common in their usualoccupations [10]. In our study, we asked participants onlywhether or not they worked at a morgue but did not delve intothe nature or amount of this work, which contaminated therelationship between morgue work and mental health distress.

When comparing health condition between the less dam-aged and severely damaged groups, participants in the severe-ly damaged group were more likely to rate their physicalcondition as low, be dissatisfied with their sleep, and havechanges in their appetite and/or alcohol intake. The effects ofproperty damage or loss of family members due to the earth-quake or a subsequent change in living environment or life-style seemed to detrimentally affect their health.

To evaluate the participants’ mental health, we used ascore of ≥13 on the K6 [17] to indicate mental health distress.Kessler selected a score of 13 as the optimal cutoff point toscreen for serious mental illness as, among other factors, itequalized false-positive and false-negative results [19]. Theanalysis of the data obtained by the United States NationalHealth Interview Survey in 1997–2009 indicated the propor-tion of people scoring ≥13 was 3.1 % [24], although somereports revealed a great variety in the proportion amongregions or races [25, 26]. In regard to surveys conductedafter a disaster, a community survey conducted in the areaaffected by Hurricane Katrina indicated the proportion ofpeople scoring ≥13 on the K6 increased from 6.1 % beforethe disaster to 11.3 % about 6 months after it [27]. In a surveyconducted 2 to 3 years after the World Trade Center attack,10.7 % of survivors of collapsed or damaged buildingsscored ≥13 on the K6 [28].

Table 1 Description of damagecaused to participants by theGreat East Japan Earthquake bylevel of damage

a Participants who did not meetthe criteria for "severely damagedparticipants" described belowb Participants whose house washalf collapsed or totally collapsed,had dead or missing family mem-ber(s), or who were living some-place other than their own houseas of 2 months after the disaster

All participants Less damaged participantsa Severely damaged participantsb

N % n % n %4,331 3,664 667

Property damage

None or minimal 2,409 55.6 2,354 64.3 55 8.3

Partial collapse 1,342 31.0 1,310 35.8 32 4.8

Half collapse 366 8.5 0 0.0 366 54.9

Total collapse 214 4.9 0 0.0 214 32.1

Dead or missing family member(s)

No 4,223 97.5 3,664 100.0 559 83.8

Yes 108 2.5 0 0.0 108 16.2

Lives someplace other than their own house (e.g., a shelter) (n=4,330)

No 3,359 77.6 3,001 81.9 358 53.8

Previously, yes 887 20.5 663 18.1 224 33.6

Currently, yes 84 1.9 0 0.0 84 12.6

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Community surveys conducted in Japan in normal timesreported the proportion of people scoring ≥13 on the K6 was3.0 % [29] and 2.7 % [30]. According to data from theComprehensive Survey of Living Conditions, among peopleaged 15 to 65 years in Miyagi prefecture, the proportionscoring ≥13 was 5.5 % in 2010 and 5.4 % in 2007 [31]. Asurvey of local government staff reported a proportion of2.5 % [32]. As for surveys conducted after the NiigataChuetsu Earthquake in Japan, the corresponding proportionwas 2.4 % 1 year after the earthquake, 3.6 % 2 years after it,and 1.8 % 3 years after it among participants of annual health

checkup programs conducted by the city affected by theearthquake [33]. In consideration of these reported propor-tions, the proportion obtained in this study, 3.5 %, iscomparable.

In Japan, a score of 5 on the K6 has been recommended asthe best cutoff point to maximize the sum of sensitivity andspecificity [30] and has been used in several studies [34, 35].The proportion of people scoring ≥5 on the K6 was reportedbetween 27.5 % [29] to 31.3 % [30] in community settings,26.7 % in men and 33.1 % in women in a national represen-tative sample of employees [34], 41.6 % among permanent

Table 2 Demographic participantcharacteristics and work-relatedvariables by level of damage

Chi-square tests were useda Participants who did not meetthe criteria for "severely damagedparticipants" as described belowb Participants whose house washalf collapsed or totally collapsed,had dead or missing family mem-ber(s), or who were living some-place other than their own houseas of 2 months after the disaster

**p<0.01

Allparticipants

Less damagedparticipantsa

Severely damagedparticipantsb

N % n % n % df χ2 p value4,331 3,664 667

Gender

Male 3,351 77.4 2,829 77.2 522 78.3 1 0.4 0.551

Female 980 22.6 835 22.8 145 21.7

Age group (years)

18–29 501 11.6 425 11.6 76 11.4 3 7.4 0.060

30–39 1,031 23.8 898 24.5 133 19.9

40–49 1,426 32.9 1,199 32.7 227 34.0

50–65 1,373 31.7 1,142 31.2 231 34.6

Work-related variables

Job type

Involved in disaster-related work

No 1,093 25.2 914 25.0 179 26.8 1 1.1 0.303

Yes 3,237 74.8 2,749 75.1 488 73.2

Works at a morgue (n=4,327)

No 4,028 93.1 3,402 92.9 626 94.0 1 1.0 0.317

Yes 299 6.9 259 7.1 40 6.0

Handles residents’ complaints (n=4,327)

No 4,053 93.7 3,429 93.7 624 93.7 1 0.0 0.976

Yes 274 6.3 232 6.3 42 6.3

Overwork

Works > 100 h overtime per month (n=4,330)

No 4,017 92.8 3,394 92.7 623 93.4 1 0.5 0.493

Yes 313 7.2 269 7.3 44 6.6

Takes one non-work day each week (n=4,330)

No 213 4.9 178 4.9 35 5.3 1 0.2 0.670

Yes 4,117 95.1 3,485 95.1 632 94.8

Working environment

Work site

Inland area 3,672 84.8 3,161 86.3 511 76.6 1 40.8 <0.001**

Coastal area 659 15.2 503 13.7 156 23.4

Workplace communication (n=4,330)

Poor 143 3.3 116 3.2 27 4.1 2 2.9 0.236

Reasonable 3,117 72.0 2,628 71.7 489 73.3

Good 1,070 24.7 919 25.1 151 22.6

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employees of a manufacturing company [35], and 17.6 % in asurvey of local government staff [32]. Among the participantsin the above-mentioned annual health checkup programs con-ducted after the Niigata Chuetsu Earthquake, the proportionwas 23.4 % 1 year after the earthquake [33]. Considering thesereported proportions, the proportion obtained in this study (i.e.,41.9 % of all participants scoring ≥5) seems relatively high.

To the best of our knowledge, no other surveys havereported K6 scores of public servants working in a devastatedarea soon after a major disaster. Therefore, we are not able tocompare our results with those of other studies. We reasonedthat our study population faced especially stressful circum-stances as disaster victims and as workers with increasedworkloads in the disaster’s aftermath. They would have hadto cope with unfamiliar disaster-related duties and respond toresidents’ complaints or anger. Thus, we would expect theirK6 scores to be higher and that a larger proportion of themwould score ≥5. Furthermore, 2 months after the disaster,resources that could have been used to care for them werelimited. This is why we used a score of 13 on the K6 as thecutoff point to identify (and give priority to) highly distressed

participants. The suitable cutoff point for them might varyover time as their circumstances change.

To promote the mental health of workers serving in devas-tated areas, high-risk workers who are severely affected by adisaster might benefit from engaging in disaster-related workthat offers a sense of contribution to disaster relief as well asfrom avoiding stressful contact with community residents.Workers who have experienced less damage might benefitfrom coordinated work schedules that prevent unduly longovertime hours. Finally, facilitating good workplace commu-nication would seem to be of benefit to all workers.

Limitations

In this study, we used the K6, a simple screening instrument ofnon-specific psychological distress, to measure our partici-pants’ mental health status. Earlier studies on post-disastermental health focused on posttraumatic stress disorder [6–8],and several studies identified the differences between riskfactors of posttraumatic stress disorder from those of depres-sive symptoms [11, 14, 15]. We might have been able to

Table 3 Health condition by levelof earthquake damage

Chi-square tests were useda Participants who did not meetthe criteria for "severely damagedparticipants" as described belowb Participants whose house washalf collapsed or totally collapsed,had dead or missing family mem-bers, or who were living in otherthan their own house as of2 months after the disaster

**p<0.01

Allparticipants

Less damagedparticipants a

Severely damagedparticipants b

N % n % n % df χ2 p value4,331 3,664 667

Physical condition

Bad 38 0.9 26 0.7 12 1.8 3 20.9 <0.001**

Not so good 575 13.3 461 12.6 114 17.1

As usual 3,245 74.9 2,761 75.4 484 72.6

Good 473 10.9 416 11.4 57 8.6

Sleep

Sleepless 20 0.5 13 0.4 7 1.1 3 16.2 0.001**

Not so good 623 14.4 503 13.7 120 18.0

Good 2,675 61.8 2,271 62.0 404 60.6

Excellent 1,013 23.4 877 23.9 136 20.4

Appetite (n=4,330)

Unchanged 3,651 84.3 3,119 85.2 532 79.8 2 12.5 0.002**

Decreased 296 6.8 239 6.5 57 8.6

Increased 383 8.9 305 8.3 78 11.7

Change in alcohol intake (n=4,326)

Unchanged 2,076 48.0 1,795 49.0 281 42.3 3 13.4 0.004**

Decreased 734 17.0 610 16.7 124 18.7

Increased 426 9.9 342 9.3 84 12.6

Nondrinker 1,090 25.2 914 25.0 176 26.5

Mental health distress (K6 score)

≥5 1,814 41.9 1,478 40.3 336 50.4 1 23.4 <0.001**

≥10 429 9.9 328 9.0 101 15.1 1 24.2 <0.001**

≥ 13 150 3.5 111 3.0 39 5.9 1 13.4 <0.001**

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identify different risk factors had we used the assessment scalefor posttraumatic stress symptoms as an outcomemeasure.Wealso identified participants who scored ≥13 on the K6 to havemental health distress but did not consider the severity of theirdistress. Therefore, we cannot argue that work-related vari-ables increased the risk of mental health distress among par-ticipants who had already scored ≥13 due to the effects ofearthquake damage.

In addition, the use of a score of ≥13 as a cutoff pointproduced small samples with mental health distress, which

raised questions about the robustness of our results. To con-firm the stability of our findings, we also conducted repeatedanalysis of the data using cutoff scores of 10, 11, and 12 andobtained almost the same results as those with a cutoff score of≥13. In the less damaged group, adjusted odds ratios forworking >100 h overtime per month fell within 1.30 to 1.53,although they were not statistically significant. In the severelydamaged group, adjusted odds ratios of handling residents’complaints fell within 1.54 to 2.45 and of disaster-relatedwork 0.52 to 0.95, although they were not statistically

Table 4 Relationships betweendemographic characteristics andwork-related variables and mentalhealth distress as measured by theK6 in less damaged participants

Chi-square tests were used

*p<0.05, **p<0.01

All K6<13 K6≥13

N % n % n % df χ2 p value3,664 3,553 111

Demographic characteristics

Gender

Male 2,829 77.2 2,759 77.7 70 63.1 1 13.0 <0.001**

Female 835 22.8 794 22.4 41 36.9

Age group (years)

18–29 425 11.6 414 11.7 11 9.9 3 13.2 0.004**

30–39 898 24.5 858 24.2 40 36.0

40–49 1,199 32.7 1,159 32.6 40 36.0

50–65 1,142 31.2 1,122 31.6 20 18.0

Work-related variables

Job type

Involved in disaster-related work (n=3,663)

No 914 25.0 885 24.9 29 26.1 1 0.1 0.772

Yes 2,749 75.1 2,667 75.1 82 73.9

Works at a morgue (n=3,661)

No 3,402 92.9 3,295 92.8 107 96.4 1 2.1 0.148

Yes 259 7.1 255 7.2 4 3.6

Handles residents’ complaints (n=3,679)

No 3,429 93.7 3,328 93.8 101 91.0 1 1.4 0.241

Yes 232 6.3 222 6.3 10 9.0

Overwork

Works >100 h overtime per month (n=3,663)

No 3,394 92.7 3,297 92.8 97 87.4 1 4.7 0.031*

Yes 269 7.3 255 7.2 14 12.6

Takes one non-work day each week (n=3,663)

No 178 4.9 174 4.9 4 3.6 1 0.4 0.545

Yes 3,485 95.1 3,379 95.1 106 96.4

Working environment

Work site

Inland area 3,161 86.3 3,072 86.5 89 80.2 1 3.6 0.058

Coastal area 503 13.7 481 13.5 22 19.8

Workplace communication (n=3,663)

Poor 116 3.2 90 2.5 26 23.4 2 160.4 <0.001**

Reasonable 2,628 71.7 2,553 71.9 75 67.6

Good 919 25.1 909 25.6 10 9.0

Int.J. Behav. Med.

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significant. As for workplace communication, adjusted oddsratios fell within 7.02 to 9.00 in the less damaged group and5.37 to 8.01 in the severely damaged group with statisticalsignificance (results available upon request).

Furthermore, that the clinical importance of scores ≥13 onthe K6 is not known is a major limitation of this study.However, there are practical and ethical problems inconducting more detailed assessments of mental disorders ina disaster setting with limited resources. Instead, repeated useof the K6 or other brief scales and accumulating the patterns of

score distributions might be practically useful whenresponding to future disasters. In future studies, although theclinical meaning of a particular score and available resourcesmight vary with the situation, in ordinary times, we need toestablish an evidence base for the proportion of people whoneed support as determined by particular K6 scores.

As for property damage, we were able to use the data fromthe second survey only for 3,743 (86.4 %) participants.Among them, 1,069 participants reported a level of propertydamage different from the first survey, 968 of whom reported

Table 5 Relationships betweendemographic characteristics andwork-related variables and mentalhealth distress as measured by theK6 in severely damagedparticipants

Chi-square tests were used

*p<0.05, **p<0.01

All K6<13 K6≥13

N % n % n % df χ2 p value667 628 39

Demographic characteristics

Gender

Male 522 78.3 501 79.8 21 53.9 1 14.5 <0.001**

Female 145 21.7 127 20.2 18 46.2

Age group

18–29 76 11.4 70 11.2 6 15.4 3 2.8 0.427

30–39 133 19.9 125 19.9 8 20.5

40–49 227 34.0 211 33.6 16 41.0

50–65 231 34.6 222 35.4 9 23.1

Work-related variables

Job type

Involved in disaster-related work

No 179 26.8 161 25.6 18 46.2 1 7.9 0.005**

Yes 488 73.2 467 74.4 21 53.9

Works at a morgue (n=666)

No 626 94.0 589 93.9 37 94.9 1 0.1 0.812

Yes 40 6.0 38 6.1 2 5.1

Handles residents’ complaints (n=666)

No 624 93.7 590 94.1 34 87.2 1 3.0 0.085

Yes 42 6.3 37 5.9 5 12.8

Overwork

Works >100 h overtime per month

No 623 93.4 586 93.3 37 94.9 1 0.1 0.703

Yes 44 6.6 42 6.7 2 5.1

Takes one non-work day each week

No 35 5.3 33 5.3 2 5.1 1 0.0 0.973

Yes 632 94.8 595 94.8 37 94.9

Working environment

Work site

Inland area 511 76.6 481 76.6 30 76.9 1 0.0 0.962

Coastal area 156 23.4 147 23.4 9 23.1

Workplace communication

Poor 27 4.1 19 3.0 8 20.5 2 37.3 <0.001**

Reasonable 489 73.3 458 72.9 31 79.5

Good 151 22.6 151 24.0 0 0.0

Int.J. Behav. Med.

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more severe damage in the second survey. Therefore, becausethe property damage of those who did not participate in thesecond survey might have been more severe, we might haveunderestimated the property damage of our study participants.Furthermore, as for severity of earthquake damage, we coulduse data only on property damage, dead or missing familymembers, and whether living someplace other than their ownhome. Therefore, the less damaged groupmight have includedparticipants who experienced severe damage, including dam-age to their parent’s house, dead or missing relatives orfriends, or being injured or their family being injured.

Small group sizes, especially for the severely damagedgroup, hindered our efforts to detect relationships betweenseveral work-related factors and mental health distress. Also,the cross-sectional nature of our data made it difficult to infercausality. We could not obtain information on many well-known risk factors for post-disaster mental health such associoeconomic status, family factors, pre-disaster psycholog-ical symptoms, social support [5], and prior trauma history[12, 15] because we had to limit the number of study questionsconsidering the time constraints of conducting this study only2 months after a major disaster. Future studies are needed toconsider the aforementioned factors when exploring the rela-tionships between work-related variables and mental health inefforts to reform the working conditions of public servantsworking in a devastated area soon after a disaster.

Acknowledgement Wewould like to express our deepest thanks to Ms.Rumiko Sasaki, Mr. Toshinori Ushibukuro, and Mr. Mitsunori Sato fromthe Division of Human Resources and Welfare of Miyagi prefecturalgovernment, and to Dr. Yuiko Kimura and Ms. Yumiko Moriya fromMiyagi Prefectural Government Health Clinic. We also would like toacknowledge the dedicated coordination efforts of Ms. Akemi ToubaifromMiyagi Mental Health and Welfare Center. This work was supportedby Health and Labor Science Research Grants for Research on Psychiatricand Neurological Diseases and Mental Health (Grant No. 23201501)from the Ministry of Health, Labour and Welfare, Japan.

Ethical Considerations All procedures followed were in accordancewith the ethical standards of the responsible committee on human exper-imentation (institutional and national) and with the Helsinki Declarationof 1975 as revised in 2000. This study involved secondary analysis ofexisting data. The study protocol was reviewed and approved by theEthics Committee of the National Center of Neurology and Psychiatry.

Conflict of Interest None.

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Table 6 Adjusted odds ratios and95 % confidence intervals ofwork-related variables for mentalhealth distress (score ≥13 on theK6)

Logistic regression analyses wereperformed with adjustment ofgender, age-group, and work sitea Participants who did not meetthe criteria for "severely damagedparticipants" as described belowb Participants whose house washalf collapsed or totally collapsed,had dead or missing family mem-ber(s), or who were living some-place other than their own houseas of 2 months after the disaster

Less damaged participantsa Severely damaged participantsb

OR 95 % CI OR 95 % CI

Job type

Disaster-related work

No 1.00 1.00

Yes 0.96 0.60–1.55 0.39 0.18–0.86

Work at a morgue

No 1.00 1.00

Yes 0.56 0.20–1.61 1.68 0.35–8.04

Handling residents’ complaints

No 1.00 1.00

Yes 1.41 0.70–2.84 4.79 1.55–14.82

Overwork

Works >100 h overtime per month

No 1.00 1.00

Yes 2.06 1.11–3.82 1.10 0.23–5.27

Takes one non-work day each week

No 1.00 1.00

Yes 1.46 0.51–4.21 0.80 0.17–3.74

Working environment

Workplace communication

Good or reasonable 1.00 1.00

Poor 10.96 6.63–18.09 9.14 3.34–24.97

Int.J. Behav. Med.

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厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業(精神障害分野))

大規模災害や犯罪被害者等による精神疾患の実態把握と

対応ガイドラインの作成・評価に関する研究

平成25年度 総括・分担研究報告書

発行日 平成26(2014) 年3月 発行者 研究代表者 金 吉晴 発行所 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部

〒187-8553 東京都小平市小川東町4-1-1