平成 21 年度 「米国の代理店、ディストリビュー...

37
平成 21 年度 「米国の代理店、ディストリビューター、取引回収 システムについて」 平成 22 3 日本貿易振興機構(ジェトロ)

Transcript of 平成 21 年度 「米国の代理店、ディストリビュー...

平成 21 年度

「米国の代理店、ディストリビューター、取引回収

システムについて」

平成 22 年 3 月

日本貿易振興機構(ジェトロ)

本報告書に関する問い合わせ先:

日本貿易振興機構(ジェトロ)

海外市場開拓課

〒107-6006 東京都港区赤坂 1-12-32

TEL:03-3582-5313

FAX:03-5572-7044

【免責条項】

ジェトロは、本報告書の記載内容に関して生じた直接的、間接的、あるいは懲罰的損害

および利益の喪失については、一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロがかか

る損害の可能性を知らされていても同様とします。

© JETRO 2010

本報告書の無断転載を禁ずる

アンケート返送先 FAX 03-5572-7044

日本貿易振興機構 海外市場開拓課宛

● ジェトロアンケート ●

「米国の代理店、ディストリビューター、取引回収システムについて」

ジェトロでは将来の市場として、潜在的需要が高い可能性のある国や地域のマーケット

情報を日本の中堅中小企業の方々に紹介することを目的に本調査を実施いたしました。報

告書をお読みいただいた後、是非アンケートにご協力をお願い致します。

質問1:今回、本報告書で提供させていただきました「米国の代理店、ディストリビュー

ター、取引回収システムについて」について、どのように思われましたでしょうか?(○

をひとつ)

4:役に立った 3:まあ役に立った 2:あまり役に立たなかった 1:役に立たなか

った

■ 質問2:上記のように判断された理由、また、その他、本報告書に関するご感想をご記

入下さい。

■ 質問3:その他、ジェトロへの今後のご希望等がございましたら、ご記入願います。

貴社・団体名:

部署名:

★ ご記入いただいたお客様の情報は適切に管理し、本報告書の成果把握に利用いた

します。ご協力ありがとうございました。

1

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

はじめに

本稿は、全体として、米国進出を検討されている日本企業(貴社)が、米国進出にあた

って弁護士に必要な手続を依頼し、弁護士の法的助言を得た上で行為するであろうこと

を前提に、例えば弁護士との間で円滑なコミュニケーションを図る際などの手助けとな

ることを主たる目的として記載されております。本稿は、貴社がこうした手続を弁護士

に依頼せずに自ら手続を行ったり、弁護士の法的助言を得ずに行為することを前提に、

必要な手続やこれに関連するリスク等について網羅的に記載したものではないことをご

了承下さい。

また、本稿は、基本的に 2010 年 3 月現在での情報を基に記載されております。その後、

法改正等が行われている可能性もございますので、実際に米国進出等を行うにあたって

は、当該時点で最新の情報を入手されるようお願いいたします。

なお、本調査は Pillsbury Winthrop Shaw Pittman LLP.に委託した。

2010年 3月

日本貿易振興機構 海外市場開拓課

2

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

目次

エージェント・ディストリビューター ................................................................................................. 3

1 当社は日本から製品を輸出する企業ですが、米国企業を使って製品の拡販を図りたい

と思います。 通常、どういった方法が考えられますか? .................................................. 3

2 エージェント(Agent=代理店)、ディストリビューター(Distributor=販売店)という言葉を聞

くのですが、これらはどう違うのでしょうか? ...................................................................... 4

3 こういったエージェントやディストリビューターと契約を締結するにあたっては、どういった

点に注意したらよろしいでしょうか?................................................................................ 12

4 エージェント・ディストリビューターの業績が芳しくありません。エージェント・ディストリビュ

ーターとの関係を直ちに解消したいのですが、どのような問題がありますか。 ............. 17

取引・回収 .................................................................................................................................... 19

1 売掛回収リスクが高いと聞いていますが、米国の顧客に製品を販売する際、債権を保

全する上で気をつけることは何ですか。 ......................................................................... 19

2 商品の売主が買主に対する売買代金債権を担保する方法にはどのようなものがありま

すか。またその特徴は。 ................................................................................................... 22

3 担保権の登記の方法について教えてください。 ............................................................. 25

4 他にも担保権者がいた場合の優先順位はどのようにして決まりますか。 ...................... 27

5 担保権を設定した製品が第三者に売却された場合でも、担保権は行使できますか。 28

6 銀行が既に買主の全資産を担保にとっている場合、売主はどのようにして担保を取れ

ばよいでしょうか。 ............................................................................................................. 30

7 契約締結後、顧客に対する信用不安が発生した場合、どういった対策が可能でしょうか。

例えば、信用不安を理由に製品の引渡しを拒絶できますか。 ...................................... 32

8 売掛金の回収が滞った場合、どういった対策が可能でしょうか。例えば、製品引渡し後

に商品の取り戻しは請求できますか? ........................................................................... 34

3

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

エージェント・ディストリビューター

1 当社は日本から製品を輸出する企業ですが、米国企業を使って製品の拡販を図りたいと

思います。 通常、どういった方法が考えられますか?

一般的な方法としては、米国のエージェント(Agent=代理店)やディストリビューター

(Distributor=販売店)とエージェンシー契約(Agency Agreement=代理店契約)やディストリ

ビューターシップ契約(Distributor Agreement=販売店契約)を締結し、かかるディストリビュ

ーターやエージェントがすでに築いている販売網や顧客情報を利用しつつ、製品の拡販を

図ることが考えられます。

このように米国のディストリビューターやエージェントを使う場合であっても、米国内に現地

法人を設立するか否かによりメリット・デメリットが異なってくる場合がありますが、以下では、

基本的に現地法人を特に設立せずに日本から直接取引を行う場合を念頭におきつつご説

明致しますので、ご留意下さい。

4

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

2 エージェント(Agent=代理店)、ディストリビューター(Distributor=販売店)という言葉を聞く

のですが、これらはどう違うのでしょうか?

上述のとおり、米国におけるエージェント及びディストリビューターは、いずれも製品の拡販

機能を有する点で共通していますが、2.1で述べるように、両者の「法的な性質」は根本的

に異なっており、これに起因し、2.2及び 2.3で述べるようなメリット・デメリットが生じます。

2.1 法的な性質の違い

エージェントとは、一般的に、本人(貴社)の「代理人」として販売の手助けをしてくれる者を

指します1。したがって、エージェントを通じて貴社の製品を顧客に販売する場合、法律上、

製品の売買は貴社と顧客との間で直接成立していることになり、エージェントは仲介役とし

て様々な手助け(特に、顧客を見つけてくれるサービス、技術指導やアフターサービスな

ど)をしてくれるに過ぎません。製品が顧客に販売されるまでは製品は全て貴社の在庫とな

りますし、売上げも販売に要するコストも、基本的にはすべて貴社に帰属することになります。

この場合、エージェントは、貴社からコミッション(Commission=手数料収入)を受け取ること

で営業を行います。

これに対し、ディストリビューターとは、一般的に、自己のリスクと勘定で製造者等から製品

を購入した上で顧客に再販する者のことをいい、製造者等からは「独立した当事者

(Independent Contractor)」となります(つまり、ディストリビューターは、買主であり同時に売

主でもあります)。ディストリビューターを使って製品の拡販を図る場合、貴社は、ディストリビ

ューターに対し製品を売却し、ディストリビューターが自己の責任の下でさらに顧客に販売

する形になります。ディストリビューターに製品を売却することで貴社に売上げが立つことか

ら、当該製品が最終的に顧客に販売されたか否かを問わず、ディストリビューターへの売却

をもって、当該製品は貴社の在庫から外れます。また、法律的な観点からみれば、販売に

要するコストも、ディストリビューターに売却後はディストリビューターが負担するのが自然な

帰結といえます。ディストリビューターは、貴社からの仕入れ価格とユーザーへの販売価格

の差額を収入として得ることで営業を行います。

以下、両者のメリット・デメリットについて説明しますが、これらのメリット・デメリットは、基本的

には、上述の両者の「法的な性質の違い」から導かれます。ただし、実務的には、当事者間

の合意により、柔軟に対応することも多々行われています。この場合、基本的には、契約は

当事者間でなされた合意により修正され、この合意内容に従って取引が成立することになり

ます。

1 エージェントに付与する権限の内容・範囲によってエージェントが果たす機能にも幅があります。一

般的には、「本人(貴社)を法的に拘束する(第三者との)契約締結権限」までエージェントに付与

することは稀であると思われます。その意味では、実務的にはエージェントは、日本でいう「代理

人」というよりは、むしろ「仲介者」「取引先の紹介斡旋人」といった役割を果たしていることが多

いように思われます。

5

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

また、実社会においては、取引慣行上、「エージェント」、「ディストリビューター」(日本語で

使用される表現としては、「代理店」「販売店」)、及び(これらの者との間で締結される契約と

して)「エージェンシーアグリーメント」「ディストリビューターシップアグリーメント」(日本語で

使用される表現としては、「代理店契約」「販売店契約」「総代理店契約」、「販売代理店契

約」)などという用語が、必ずしも上述の「法的な性質の違い」に則さずに使用されているケ

ースも多々あるように思われます。このような場合、法規制の適用の有無やその他法律上の

取扱いは、「当事者がどのような呼称を用いていたのか」という点のみにより決せられるもの

ではなく、むしろ「取引の実態を総合的・実質的にみて、当該取引がどのような法的性質を

有していたのか」という観点から判断されることになります。したがって、以下に述べますメリ

ット・デメリットを検討する場合も含め、法律上の取扱いを検討する際には、当事者が使用し

ている呼称のみに着目するのではなく、取引を総合的・実質的に見て、その取引の法的な

性質がエージェンシー契約であるのか、ディストリビューターシップ契約であるのか、あるい

はまた別の契約類型に該当するのかをご判断いただく必要があります。2

2.2 エージェントを使う場合のメリット・デメリット

特徴を一言でいえば、メリットとして「米国現地企業(エージェント)に対し強いコントロールを

及ぼすことができること」と、その反面デメリットとして「各種リスクやコスト負担が大きいこと」

です。以下、詳述します。

2.2.1 メリット

2.2.1.1 エージェント及び取引自体に対するコントロール

エージェントは、本人(貴社)の「代理人」であり、本人たる貴社は、エージェントに

どこまで任せ、どこまで権限を与えるのかをエージェンシー契約(Agency

Agreement)の中で定めることができます。この点、実務的には、エージェントに、

「本人(貴社)を法的に拘束する契約締結権限」まで与えることは稀で、

エージェントはあくまで貴社と取引先の仲介や、貴社への取引先斡旋といっ

た役割を担うことが多いようです。その結果、エージェントから紹介された

取引先と最終的に契約を締結するか否か、また、締結する場合にどのよう

な条件で締結するかの最終判断は、本人である貴社が行うことになります3。

こうした、具体的な取引の締結の有無・内容に対する貴社の自由な決定権

を留保できる点が、エージェントを使用する場合の大きなメリットの一つ 2 なお、2.2.及び 2.3においては、エージェントとディストリビューターは完全に別のものであるという前提に立ち、

理論的な側面からエージェント及びディストリビューターのメリット・デメリットを分析しています。しかし、実務的に

は、両者の区分けが必ずしも明確にできない場合も少なくないように思われます。このような場合、以下に述べ

るようなメリット・デメリットも、必ずしもそのまま当てはまらない可能性があることもお含み置き下さい。

3 エージェントに与える権限があまりに広範囲に及ぶ場合には、メリットとして述べたこれらの点があ

てはまらないばかりか、本人は不測の損害を被る恐れが高くなります。他方で、与える権限の範囲が

あまりに狭い場合、エージェントは現場の状況に応じた適切な対応を取れず、十分な成果ある拡販活

動を行うことができないおそれがあります。エージェントにどこまで権限を与えるかを決めるに当た

っては、こうしたバランスをいかに図るかが重要なポイントの一つといえます。

6

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

といえます。これに加え、一般論として、エージェントはそもそも本人の利益の

ために活動することが想定されており、本人たる貴社の(合理的な)指示に従う義

務を負っています。本人たる貴社は、(たとえば、製品の販売方法や、販売価格等

について)エージェントにある程度自由に指示を出しながら拡販活動に従事させ

ることができ、かつこのような指示を出したとしても、2.3.2.1において後述するディ

ストリビューターの場合とは異なり、基本的に独占禁止法に違反しないという点も、

大きなメリットの一つといえるでしょう。

2.2.2 デメリット4

2.2.2.1 在庫リスク等の負担

エージェントは、代理人あるいは仲介人に過ぎませんので、エージェントを通じて

貴社の製品をユーザーに販売する場合、法律上、製品の売買は、貴社と顧客と

の間で直接成立していることになります。このため、製品が顧客に販売されるまで

に発生するコストは貴社が負担することになりますし、製品が顧客に販売されるま

では、貴社が在庫を抱えることとなり、最終的に顧客に販売されなければ、貴社が

在庫リスクも負担することとなります。後述のとおり、ディストリビューターシップ契約

の場合は、貴社は基本的にディストリビューターに売却するまでに発生するコスト

を負担するにとどまり、在庫リスクについてもディストリビューターに対し売却すれ

ば負担から解放されることになりますので、これと比較すれば、デメリットといえるで

しょう。

2.2.2.2 代金回収リスクの負担

上述のとおり、製品の売買は、貴社と顧客との間で直接成立していますので、顧

客が資金難等で販売した製品の代金を支払わない場合、貴社がその責任と負担

4 本文で述べた点以外にも、デメリットとして、①エージェントに支払うコミッションをめぐる問題や

②エージェントが与えられた権限を越えた行為をした場合の責任負担といった問題を挙げることもで

きます。

① :エージェントに支払うコミッション(手数料)の算定方法をどのように規定するのかが問題と

なることが実務上少なくなく、かかる算定方法に関する規定が明確でない場合には、事後的にエ

ージェントとの間でコミッションの支払いを巡って紛争に発展する可能性も低くありません。こ

の点は、ディストリビューターに支払う金銭の算定方法が比較的簡明なディストリビューターシ

ップ契約を利用する場合に比べ、デメリットといえるでしょう。

② :エージェントが、本人(貴社)から与えられた権限を越えて行為をした場合(例えば、貴社を

法的に拘束する契約を締結する権限は与えられていないのに、エージェントが、これを与えられ

たと偽って第三者との間で、貴社を拘束する内容の契約を締結した場合)、貴社は、一定の条件

(例えば、貴社が、その第三者に対して「エージェントは貴社を法的に拘束する契約を締結する

権限を有する」と誤解させるような言動を取っていたときなど)が満たされれば、エージェント

の越権行為についての責任を負担させられます。仮にそのような一定の条件が満たされず、最終

的に責任は負担しない場合でも、第三者との間で訴訟等の紛争に巻き込まれること自体が、貴社

のビジネス上マイナスとなることが多く、そのような紛争リスクがあること自体がデメリットと

いうこともできるでしょう。

7

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

でこれを顧客から回収し、回収できなければその損失を負担することとなります。

後述のとおり、ディストリビューターシップ契約の場合、貴社は、ディストリビュータ

ーからの代金回収リスクは負担する一方で、顧客からの代金回収リスクは負担しま

せんので、基本的にディストリビューターの信用状態を管理しておけばよいことに

なります。個々の顧客からの代金回収リスクを負っている点は、エージェントのデメ

リットといえるでしょう。

2.2.2.3 米国内での課税5

貴社が日本の法人であり、日本国内でのみ事業活動を行っている場合には、米

国内で各種租税は課されません。もし貴社が、一定の要件を満たす「物的施設」

や「代理人」などを米国内に有することにより、米国内に恒久的施設を保有してい

ると認められる場合、貴社の米国での産業上・商業上の所得は、米国の連邦法人

税の課税対象となります。エージェントは、一定の要件を満たす場合6には、貴社

にとっての、上述の「代理人」に該当しますので、貴社はエージェントの存在を以

って米国内で連邦法人税を課される可能性があります。また、連邦法人税の対象

とならない場合でも、当該州・市町村内で「事業活動」をしている場合には、税法

上何らかの負担を課されることが多いといえます7。エージェントを通じた拡販活動

は、かかる「事業活動」に該当する可能性がありますので、エージェントの存在に

より州・市町村の税法上の負担が発生する可能性があります。こうした点は、ディ

ストリビューターを通じた拡販活動を図る場合と基本的に異なる点です。

2.2.2.4 米国の裁判所で直接訴訟当事者として訴えられるリスク8

民事事件において、米国内の裁判所がある事件を受理し審理するためには、当

該裁判所は、その事件の被告等に対し裁判管轄権(Jurisdiction)を有している必

要があります。この裁判管轄権は、たとえば当該事件の被告等と裁判所が所在す

る州との間で「最低限の接点(Minimum Contact)」がなければ認められません。貴

社が日本の法人であり、日本国内でのみ事業活動を行っている場合には、基本

的には、米国内のいずれの州とも、この「最低限の接点」を欠き、米国の裁判所に

おいて直接訴訟当事者として訴えられることはありません。しかし、「会社の設立、

維持、閉鎖」の 1.1.2で述べた、貴社が米国内に支店を開設して「事業活動」を行

っているような場合以外にも、たとえば、貴社が一定の要件を満たす「代理人」等

を米国内に有する場合にも、貴社はこうした「代理人」等を通じて米国内で事業活

5 貴社が米国内に現地法人を設立した上で当該現地法人がエージェントを使用(採用)する場合には、

ここに記載のデメリットは必ずしも当てはまらない可能性があります。

6 一般的に、要件としては「常習的に本人のために契約を締結する権限を有するか」などが挙げられますが、

詳細は税務の専門家にご確認下さい。

7 州や市町村の法人税については、州や市町村の税法に基づき課されるため、実際に課税を受けるか否か等に

ついては各州・市町村の税法を確認する必要があります。

8 貴社が米国内に現地法人を設立した上で当該現地法人がエージェントを使用(採用)する場合には、

ここに記載のデメリットは必ずしも当てはまらない可能性があります。

8

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

動を行っていると判断され、かかる事業活動によって米国内の州と「最低限の接

点」を持ったと判断される可能性があります。この場合、貴社は、当該州所在の裁

判所で、「代理人」が貴社製品の拡販活動として行っていた事業活動についても、

直接訴訟当事者として訴えられるリスクを負うことになります。ご承知のとおり、米

国での訴訟は、長い時間と高額な費用の負担が伴うことが多く、民事裁判におい

ても陪審制が存在するため、訴訟の結果の予測が困難なケースも珍しくありませ

ん。また、敗訴した場合の損害賠償額が想定外の巨額に上る可能性も否定できま

せん。そのため、こうした「代理人」による拡販活動についても、米国内の裁判所

で直接訴訟当事者として訴えられるリスクは決して軽視できず、日本企業としては、

可能な限り米国で直接訴訟当事者として訴えられるリスクを回避するに越したこと

はありません。エージェントの採用に際しては、リスクが発生することを十分勘案の

上、エージェントを利用することの必要性を慎重に検討するべきでしょう。

2.3 ディストリビューターを使う場合のメリット・デメリット

特徴を一言でいえば、デメリットとして「米国現地企業(ディストリビューター)に対するコント

ロールが限定されること」と、その反面メリットとして「各種リスクやコストの負担が相対的に軽

いこと」です。以下、詳述します。

2.3.1 メリット

2.3.1.1 在庫リスクからの早期解放

ディストリビューターは、貴社からは「独立した当事者(Independent Contractor)」で

あり、貴社は、ディストリビューターとの間で製品の売買契約を締結する形になりま

す。したがって、ディストリビューターへの製品の売却をもって、当該製品の所有

権は貴社からディストリビューターに移転し貴社の在庫から外れることになります。

そのため、その後、当該製品が最終的に顧客に販売できなかった場合の在庫リス

クは、通常ディストリビューターが負担することになります。販売に要するコストにつ

いても、貴社からディストリビューターへ売却後のコストは、基本的にディストリビュ

ーターが負担することになります。

また、ディストリビューターへの製品の売却が完了し、製品の所有権がディストリビ

ューターに移転した後は、危険負担(Risk of Loss=製品がいずれの契約当事者

の責にも帰すことができない事由(たとえば、天災など)により滅失・毀損した場合

のリスク負担)も、ディストリビューターに移転するのが自然といえます。

2.3.1.2 ユーザーからの代金回収リスクを直接負担しない

貴社は、ディストリビューターに製品を売却することにより、製品の所有権をディス

トリビューターに移転します。その後は、ディストリビューターが、貴社とは別個の

独立した当事者として、自らの責任・リスク負担のもとで顧客に当該製品を販売す

ることになります。そのため、別段の合意がなければ、顧客からの代金回収業務も、

9

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

ディストリビューターがその責任で行うことになり、仮に顧客が資金難等によって代

金を支払わず、代金回収が焦げ付いた場合にも、かかる焦げ付きはディストリビュ

ーターが負担することになります。この場合、貴社は、基本的にディストリビュータ

ーの信用状況を把握し、ディストリビューターからの代金回収リスクさえ管理してお

けば良いということになります。

2.3.1.3 米国内での課税との関係

ディストリビューターは、貴社からは「独立した当事者」であって、本人の「代理人」

ではありませんので、エージェントの場合と異なり、貴社の製品を取り扱うディストリ

ビューターの存在自体をもって、貴社が米国内に課税の基礎となる「代理人」を有

していると判断されることはないものと考えられ、これに基づいて米国内で法人税

を課されることもないと考えられます。9

ただし、貴社が、たとえば、米国内に物的施設等を保有している場合には、かかる

物的施設等の存在により、米国内で課税を受ける可能性はありますので、注意が

必要です。

2.3.1.4 米国の裁判所で直接訴訟当事者として訴えられるリスクの回避

ディストリビューターは、貴社からは「独立した当事者」であって、本人の「代理人」

ではありません。そのため、エージェントの場合と異なり、貴社の製品を取り扱うデ

ィストリビューターの存在により、ディストリビューターが行っていた貴社製品の拡

販活動(より具体的には、ディストリビューターと顧客との間で発生したトラブル)に

ついて、貴社が米国内で直接訴訟当事者として訴えられることも基本的にありま

せん。もっとも、ディストリビューターという呼称に関わらず、取引実態がエージェン

トに実質的に等しく、貴社が米国内で営業を行っているとみなされれば、裁判管

轄も生じ、米国の裁判所で直接訴訟当事者として訴えられることになるという点は、

これまでご説明してきたとおりです。また、(ディストリビューターが行っていた貴社

製品の拡販活動についてではなく)、ディストリビューターとの間の取引について

発生した紛争については、一定の要件が満たされれば米国内で直接訴訟当事者

として訴えられる可能性がありますのでご注意下さい。

2.3.2 デメリット

2.3.2.1 コントロールの限界

ディストリビューターは、貴社からは「独立した当事者」であり、貴社は、ディストリビ

ューターへの製品の売却をもって、当該製品の所有権をディストリビューターに移

9 もっとも、2.1においてすでにご説明しましたとおり、ディストリビューターとの呼称を契約書等において用いたと

しても、取引実態がエージェントの場合と実質的に同視できると税務当局が判断したような場合には、これらの

課税が問題となります。

10

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

転します。そのため、ディストリビューターへ製品を売却した後は、基本的にディス

トリビューターがその権限及び裁量の下で自由に製品を販売することになり、貴社

は、ディストリビューターとの間で別段の合意をしない限り、たとえば販売方法や販

売価格等についてディストリビューターを拘束することはできません。また、ディスト

リビューターとの間で、販売地域・方法や販売価格その他の再販売の際の条件に

ついて貴社がディストリビューターを拘束する旨の合意をする場合には、かかる合

意が独占禁止法に抵触しないよう検討する必要があります10。その意味では、エ

ージェントを使用する場合に比べ、取引に対するコントロールは相対的に弱まる

可能性があります。

2.4 顧客からみたメリット・デメリット

2.2及び 2.3では、主として、米国での製品拡販を図ることを企図する日本企業(貴社)の

視点から、エージェント・ディストリビューターのメリット・デメリットを述べてきましたが、実務

上は、顧客の視点からみた利便性・不便性も重要な検討要素です。以下、顧客からみた

利便性・不便性についても簡単に触れたいと思います。

すでに述べたとおり、エージェントを利用する場合、製品の売買は、日本企業たる貴社と顧

客との間で直接行われることになります。このことは、顧客からみた場合、輸入通関等の手

続きは顧客が行わなければならないことを意味し、また、トラブルが発生した場合の紛争処

理も顧客からみれば海外の輸出者(である貴社)と行わなければならないことを意味します11。

この点、ディストリビューターを利用する場合、製品の売買は、法律上 2段階で存在するこ

とになり(すなわち、①日本企業たる貴社とディストリビューターの間の売買と、②ディストリ

ビューターと顧客の間の売買)、顧客が直接売買の相手方とするのはディストリビューター

です。そのため、顧客は、米国内にいるディストリビューターと取引をすればよく、トラブル

が発生した場合の紛争処理も第一義的にはディストリビューターを相手にすればよいこと

になります。また、輸入通関等の手続きは、貴社とディストリビューターの間の売買の中で

処理されるため、輸入通関等の手続はディストリビューターが行うことになります。

こうした点も踏まえて考えると、顧客の視点からはディストリビューターを通した取引のほう

がメリットが大きいということができるように思われます。

2.5 まとめ

10

独占禁止法上、許容される再販売制限であるか否かは、基本的に「合理の原則」(Rule of Reason)に

よって判断されると考えられます。「合理の原則」の下では、当該制限によって得られる利益、当該

制限が市場に与える競争制限的効果等、各種事情を総合的に考慮してケースバイケースで判断がなさ

れます。

11 貴社が米国内に現地法人を設立した上で当該現地法人がエージェントを使用(採用)する場合には、

ここに記載のデメリットは必ずしも当てはまらない可能性があります。

11

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

以上の点から、一般論としては、日本企業(貴社)の側からみても、顧客の側からみても、

手続的なコストや紛争が発生した場合のリスク負担などの点でディストリビューターを利用

したほうがメリットが大きいことが多く、実務的には、通常の拡販活動を図る場合には、エー

ジェントに比しディストリビューターを利用するケースのほうが多いように思われます。もっと

も、このような手続的なコストや紛争が発生した場合のリスク負担などのデメリットを考えても

なお、日本企業(貴社)が米国での拡販活動に強いコントロールを及ぼすことのメリットのほ

うが大きいと判断される場合(例えば、顧客一人(一社)に対し大量の製品を販売するなど、

顧客との間の個々の取引のインパクトが大きいような場合が考えられます)には、エージェ

ントを利用することも考えられます。

12

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

3 こういったエージェントやディストリビューターと契約を締結するにあたっては、どういった点

に注意したらよろしいでしょうか?

以下に述べる点も参考の上、重要な取引条件を明確に規定した、書面による契約書を締

結しておくことが、将来の紛争を回避する上で望ましいといえます。日本では取引慣行上、

当事者間の信頼関係を前提に、書面での契約書は取り交わさなかったり、きわめて曖昧な

内容の条項しか規定していない契約書しか取り交わさない例も見られます。しかし、口頭で

の合意や曖昧な契約書は、米国においては、訴訟の際、不測の損害を被る原因にもなりか

ねません。専門家の助言を得つつ、重要な条件を明確に定めた契約書をあらかじめ締結し

た上で、取引関係を開始することをお勧めいたします。

3.1 エージェンシー契約(Agency Agreement)・ディストリビューターシップ契約

(Distributorship Agreement)に含まれる典型的な条項

エージェントやディストリビューターとの間で締結する契約書に規定すべき条項は、取引ご

とに千差万別といえますが、その中でも、ある程度典型的と思われる条項としては、たとえ

ば以下のものを挙げることができます。なお、これらの条項の中で、特に問題となることが多

いと思われる条項について、3.2~3.6で個別に解説致します。

エージェンシー契約 ディストリビューターシップ契約

エージェントの任命(Appointment of Agent) ディストリビューターの任命(Appointment of

Distributor)

契約期間(Term of Agreement)

- 自動更新しない旨(The Agreement shall

not be renewed automatically)を含む

契約期間(Term of Agreement)

- 自動更新しない旨(The Agreement shall

not be renewed automatically)を含む

権限の付与(Grant of Authorities)(以下を含

む)

- エージェントは本人を法的に拘束する権

限を有しない旨(Agent shall not have any

power to legally bind Principal)(販売につ

いての最終決定権が本人にあること)

- 独占性・排他性(Exclusivity)を付与する

か否か(本人が直接販売できるか否かを

含む)に関する規定

- 本人の商標等知的財産権の使用等に関

する規定(Usage of Principal’s Intellectual

Property)

- 取扱う商品・地域の特定(Identification of

Products and Designation of Territory)

販売権の付与(Grant of Right to Distribute)

(以下を含む)

- ディストリビューターが販売できる地域等を

限定する規定(Designation of Territory)

- ディストリビューターからの購入申込みに

対し、貴社が販売する義務を負わない旨

(In no event shall the Company owe any

duty to sell Products to the Distributor)

- 独占性・排他性((Exclusivity)を付与する

か否か(貴社が直接販売できるか否かを

含む)に関する規定

- 貴社の商標等知的財産権の使用等に関

する規定(Usage of Principal’s Intellectual

Property)

- 取扱う商品の特定(Identification of

Products)

エージェントの義務(Duty of Agent)(以下を含

む)

- 忠実義務(Fiduciary Duty)

ディストリビューターの義務(Duty of

Distributor)(以下を含む)

- 受領時の製品の検査義務(Duty to

13

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

- 報告義務(Duty to Report to Principal)

- 製品の最低販売数設定の有無(Minimum

Sales Guarantee)

- 秘密保持義務 (Confidentiality)

- 競合他社の製品の取扱い禁止(Prohibition of dealing with Competitors’

Products)

- 顧客情報の取扱い(Treatment of

Customer Information)

Inspect Products)

- 報告義務(Duty to Report to Principal)

- 製品の最低購入義務の有無(Minimum

Purchase Guarantee)

- 秘密保持義務(Confidentiality)

- 競合他社の製品の取扱い禁止(Prohibition of dealing with competitors’

products)

- 補修サービス等に関する義務(Duty

concerning Maintenance and Repair

Services)

- 顧客情報の取扱い(Treatment of

Information about Customers)

瑕疵担保責任・保証責任の限定に関する規

定(Disclaimer of Warranties)

コミッションの算定基準・支払いに関する規定(Calculation of Commission/Payment)

販売代金の算定基準・支払いに関する規定

(Calculation of Price/Payment)

製品の発送等に関する取扱い規定 (Orders

and Shipments)

一方当事者に契約違反があった場合の契約

解除権 (Termination with Cause)

当事者に契約違反がなくとも契約を中途で終

了できる解約権の有無に関する規定

(Termination without Cause)

一方当事者に契約違反があった場合の契約

解除権 (Termination with Cause)

当事者に契約違反がなくとも契約を中途で終

了できる解約権の有無に関する規定

(Termination without Cause)

仲裁条項(Arbitration Clause) 仲裁条項(Arbitration Clause)

合意の完全性(Entire Agreement) 合意の完全性(Entire Agreement)

準拠法(Governing Law) 準拠法(Governing Law)

その他雑則 (Miscellaneous) その他雑則(Miscellaneous)

3.2 エージェントに付与する代理権の範囲

エージェントを利用した拡販活動を行う場合、エージェントにいかなる内容の権限を付与す

るかは重要なポイントとなります。すでに述べましたとおり、通常は、「本人たる貴社を法的

に拘束する契約を第三者との間で締結できる権限」まで付与することは稀であると思われま

す。エージェントがその裁量で締結した契約にすべて拘束されるとなると、あまりにリスクが

大きいからです。しかし、他方で、さらに進んでエージェントの権限を極端に限定していった

場合には、エージェントによる機動的で実効性のある拡販活動が損なわれる可能性が出て

きます。いかなる内容の代理権を付与するかは、個別具体的な取引案件毎の事情を考慮

の上、検討する必要がありますが、その際には、この「本人(貴社)の負担するリスク」と「実

効的な販促活動の実現」のバランスをいかに図るかが重要になってきます。

これ以外に、代理権の範囲に関連して多くの場合に問題となるのが、3.3.及び 3.4で述べる

独占権の付与の有無、及び販売テリトリーの設定という点です。これらについては以下でご

説明します。

14

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

3.3 独占的代理権・販売権の付与

エージェント・ディストリビューターいずれを利用した拡販活動を図るにしても、エージェント・

ディストリビューターに独占的な代理権・販売権を与えるのか否かが多くの場合に問題とな

ります。独占的代理権・販売権というのは(多くの場合、特定の地域内において)、当該エー

ジェント・ディストリビューターのみに代理権・販売権を与え、(同地域内の)他のエージェン

ト・ディストリビューターには代理権・販売権を与えないこととする代理権・販売権のことをい

います。関連する問題として、本人たる貴社自身も、当該エージェント・ディストリビューター

を通すことなく、直接に(同地域内の)顧客を訪問したり、かかる顧客に製品を販売すること

ができないのか、それとも、本人(貴社)は直接顧客を訪問し製品を販売できるとするのか、

も問題となります。エージェント・ディストリビューターとしては、独占権を与えられることによ

って顧客を横取りされるなどのおそれがなくなり、安心して拡販活動に従事できるとして、多

くの場合これを与えるよう要求してきます。

他方で、独占権を与えることは、貴社にとっては独占権を与えたエージェント・ディストリビュ

ーター以外を通じた拡販活動は行えないことを意味します。このため、独占権を与えるケー

スでも、多くの場合、販売テリトリーを限定した上で、最低販売数や最低購入量が達成され

なかった場合の独占権の解除権や契約中途解約権などと組み合わせて規定し、独占権を

与えることによる不都合を緩和する措置を講じます。その意味では、こうした独占権を与える

か否かにあたっては、販売テリトリーの限定や、エージェント・ディストリビューターの最低販

売数・最低購入量不達成時の独占権の解除・契約の中途解約の可否、などといったポイン

トも併せて総合的にそのビジネス上のインパクトを判断し、決定する必要があります。いずれ

にせよ、貴社の米国でのビジネスの成否をも左右しうる極めて重要なポイントになり得ます

ので、必要に応じ、専門家の助言も得ながら慎重に検討する必要があります。

3.4 販売テリトリー(Sales Territory)、再販価格(Resale Price)の指定

各エージェント・ディストリビューターに販売テリトリーを設けたり、実際にユーザーに販売す

る際の再販売価格を貴社が指定できるようにすることは、貴社の拡販活動の戦略上の重要

な要素たりうるでしょう。すでに述べましたとおり、エージェンシー契約においては、エージェ

ントはあくまで本人たる貴社の利益を図るための代理人ですので、貴社はエージェンシー

契約書などの中で規定することによって基本的に自由に、これらの販売テリトリーや販売価

格の指定を行うことができます。他方で、ディストリビューターシップ契約においては、ディス

トリビューターは貴社から独立した当事者ですので、ディストリビューターを拘束するために

は、ディストリビューターシップ契約において特にその旨の規定を盛り込む必要があります。

その際には、2.3.2.1 において述べましたとおり、独占禁止法に抵触する可能性があるため、

専門家の助言も得つつ、同法に違反しないよう注意する必要があります。

3.5 顧客情報の取扱い

エージェンシー契約・ディストリビューターシップ契約の下で、エージェント・ディストリビュー

ターが取得した顧客情報が、エージェント・ディストリビューターに帰属するのか、貴社に帰

属するのかについては、特にエージェンシー契約・ディストリビューターシップ契約が解消さ

15

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

れた段階で問題となることがあります。未然に紛争を防ぐためには、エージェンシー契約・

ディストリビューターシップ契約締結段階で、あらかじめ、いずれの当事者に帰属するのか

について明確な規定を設けておく必要があります。

3.6 その他

3.6.1 契約期間及び中途解約権

エージェンシー契約・ディストリビューターシップ契約いずれにおいても、契約期間を短

期にし、契約の終期を明確に規定した上で、少なくとも当該エージェント・ディストリビュ

ーターとの取引関係を構築していく初期段階においては、自動更新条項(当事者が更

新拒絶の意思を表示しなければ、契約が自動更新される旨の規定)ではなく、当事者

が(積極的に)合意することにより更新できる旨の規定を入れておくのが望ましいと思わ

れます。自動更新条項が存在する場合、適時に更新拒絶の手続きを採ることを失念し

たような場合にも契約は継続されることになります。また、後述するとおり、エージェント・

ディストリビューターとの関係がうまく行かず、エージェンシー契約・ディストリビューター

シップ契約を解消しようとする場合でも、自動更新条項が存在するときには、貴社が積

極的に更新拒絶の意思表示をしなければ契約関係は自動的に更新されてしまいます。

しかし、契約関係を終わらせるために、積極的な意思表示をした場合、その代償として、

一定の補償等を求められるリスクが発生します。かかるリスクは少しでも低減しておくこと

が望ましいといえます。

また、後述するとおり、エージェント・ディストリビューターに契約違反がないにもかかわら

ず契約期間中に契約を終了するためには、エージェンシー契約・ディストリビューターシ

ップ契約の中で、当事者に明示的に中途解約権が付与されていることが前提となります。

少なくとも取引関係が構築された初期段階では、契約期間を短期に限定した上で、この

ような中途解約権を規定しておくのも一つの合理的な選択肢であるように思われます。

3.6.2 仲裁条項

契約の当事者は、当該当事者間で発生する紛争の解決を、訴訟ではなく仲裁人による

仲裁判断に委ねることにあらかじめ合意しておくことができます。米国で訴訟を行う場合

には、証拠開示(ディスカバリー)手続等、多大な時間と労力・費用を要する手続きが存

在するほか、民事裁判においても陪審制が存在するため、訴訟の結果についても予測

可能性が乏しく、時に、全く予想しない判断が下される可能性も否定できません。また、

訴訟手続は基本的に公開されているため、企業秘密に関連する紛争を訴訟で争う場合、

かかる企業秘密の漏洩につながる可能性もあります。このような訴訟による紛争解決の

問題点を少しでも回避する方法として、仲裁による紛争解決があります。仲裁を最終的

な紛争解決方法として指定する場合、「仲裁人は何名にし、どのように仲裁人を選定す

るか」、「仲裁はどこの、いかなるルールに従って行うのか」、「仲裁地はどこにするか」、

「仲裁に要する費用は誰がどのような割合で負担するのか」等についても併せて規定さ

れることが一般的です。なお、これらの要素いかんでは、仲裁による紛争解決が貴社に

16

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

とって不利な紛争解決方法となるおそれもありますので、必要に応じ専門家の助言を得

つつ検討することをお勧めします。

17

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

4 エージェント・ディストリビューターの業績が芳しくありません。エージェント・ディストリビュー

ターとの関係を直ちに解消したいのですが、どのような問題がありますか。

4.1 契約の中途解約

エージェンシー契約・ディストリビューターシップ契約において定められた契約期間満了前

に契約を解消するためには、①エージェント・ディストリビューターが契約解消に合意するか、

②エージェント・ディストリビューターに重大な契約違反が存在するか、または③エージェン

シー契約・ディストリビューターシップ契約書上、貴社に中途解約権が付与されており、かか

る中途解約権を行使できることが通常必要になります。①、②または③のいずれかが存在し

ない限り、契約を中途で解約することはそもそもできません(言い換えれば、これに反し、契

約は解約されたものとしてエージェント・ディストリビューターとの取引関係を絶てば、貴社は

損害賠償を請求されます)。加え、仮に③貴社に中途解約権が付与されていたとしても、

4.3において述べるとおり、法律上、かかる中途解約権の行使に制限が付される可能性が

あります。この場合には、法律上科される要件も充足する必要があります。

4.2 契約の更新拒絶

契約期間の満了が迫っている場合には、かかる契約期間の満了時に契約を更新しないに

よって、エージェント・ディストリビューターとの関係を解消することも考えられます。この場合

には、4.1で述べた①、②または③は必要なく、単に契約の更新をしないこと(自動更新条

項が付されている場合には、更新拒絶の意思表示を所定の期間内に行うこと)によりエージ

ェント・ディストリビューターとの関係を解消できるのが原則です。しかしながら、4.3で述べる

とおり、法律上、更新拒絶に一定の制限が付される場合があり、この場合はかかる制限をク

リアしなければ関係を解消することはできません。

4.3 法律上のエージェント・ディストリビューターの保護

4.3.1 フランチャイズ法(Franchise Law)による保護

州によっては、フランチャイズ法が制定され、同法の下で、フランチャイズ形態の取引を解

消する場合に一定の制限を設けていることがあります。同法は基本的にフランチャイズ契約

を対象として適用されますが、州によっては、ディストリビューターシップ契約やエージェン

シー契約の一部も同法の適用対象となる場合があります12。フランチャイズ法によるディスト

12

フランチャイズ法の適用対象となる取引は州によって異なりますが、たとえばニューヨーク州の場合

を含め、一般的に考慮されることが多い要素として挙げられるのは、①一方当事者(フランチャイザ

ー)の商標等を実質的に使用して他方当事者(フランチャイジー)の事業活動が行われていること、

②一方当事者(フランチャイザー)が策定した営業計画に実質的に従って他方当事者(フランチャイ

ジー)が事業活動を行っていること、及び③フランチャイズ料が支払われていること(名目は問わず、

製品の代金以外の金銭の支払いは幅広くこれに含まれる可能性があります)、の3つです。ただし、

州によっても、また適用場面によっても必要な要件は異なることにご留意下さい。こうした要素を満

たす場合には、エージェンシー契約やディストリビューターシップ契約に基づく関係であったときで

も、フランチャイズ法による規制対象となりえますので注意が必要です。

18

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

リビューターの保護の内容は、州によって異なりますが、契約解除及び契約の更新拒絶の

際に問題となる規制としては、一定の事前通知義務を課すものや、一定の補償義務を課す

ものなどがあります13。このような義務が課されている場合には、契約関係を解消するために

は、上記 4.1または 4.2で述べた要件に加え、これらの法律上の義務を履行する必要があ

ります。

4.3.2 その他の法理によるエージェント・ディストリビューターの保護

上述のフランチャイズ法による保護に加え、詐欺(Fraud)や信義則等の一般法理によっても、

エージェント・ディストリビューターは、契約解消に際し保護される可能性があります。こうし

た法理が適用されるか否かは具体的な事案ごとの個別判断になるため、一般化することは

困難ですが、あえて典型的な事例を挙げれば、例えば、以下のような場面が考えられます。

エージェント・ディストリビューターとの契約解消が予想されるにもかかわらず、エー

ジェント・ディストリビューターに事業拡大や積極的な投資を要求し、エージェント・

ディストリビューターに投資等をさせた後に契約を解消した場合(貴社は、エージェ

ント・ディストリビューターの投資額等の一部又は全部の補償を求められる可能性が

あります。)

ディストリビューター・エージェントの業績が思わしくないなどの理由から、製品供給

者が一方的にエージェント・ディストリビューターへのサポートを絶ち、エージェント・

ディストリビューターを通じて知った顧客と直接取引きを始めたような場合(関係解消

の仕方が不公正(Unfair)と認められ、あるいは、顧客リストの不正取得であるとされ、

損害賠償義務を課される可能性があります。)

これらの事例をはじめ、トラブルの多くは契約書に明確な規定が存在しないことにより、「言

った、言わない」の争いが紛争に発展した結果生じているように思われます。例えば、投資

を要求するにせよ、顧客リストを契約解消後に使用するにせよ、類型的に紛争化することが

予想される場面を想定した具体的な取決めを契約書等の書面であらかじめ明確に定めて

おくことで、相当数のトラブルは未然に防ぐことができるように思われます。

13

こうした規制は、契約の中途解約なのか、それとも更新拒絶なのかによっても内容が異なるのが一般

的です。なお、州によっては、契約解除・更新拒絶の際に問題となる規制のほかに、例えば、ディス

トリビューターとの契約開始前に、一定の情報を開示する義務を課す規制などがありますのでご留意

下さい。

19

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

取引・回収

1 売掛回収リスクが高いと聞いていますが、米国の顧客14に製品を販売する際、債権を保全

する上で気をつけることは何ですか。

契約を締結する前であれば、顧客の信用力調査(Credit Check)により顧客の取捨

選択を行うこと及び交渉により貴社にとって有利な契約条件を盛り込むことが重要

です。また、契約締結後に売掛回収リスクが生じたのであれば、統一商法典

(Uniform Commercial Code、以下「UCC」といいます。)の定めに従い、顧客に対

して適切な保証を求めたり、すでに出荷した製品の取り戻しすることができますの

で、有事に迅速に行動できるよう普段から必要な手続きを確認しておくことが必要

です。以下、契約締結前の債権保全策につき詳述します15。

1.1 顧客の信用力調査

第一に、売掛金回収リスクを軽減するために最も重要なことのひとつとして、取

引に入る前に、顧客が取引相手として十分な信用力を有しているかどうかをきち

んと調査することが挙げられます16。あらかじめ顧客の財政状態及び資産状況を

把握していれば、そもそも財政状態に問題のある顧客とは取引を行わないという

選択もできますし、また取引を行う場合にも、以下に述べる各種の債権保全策の

中から最も効果的な策を講じることができます。顧客との契約交渉の過程におい

ては、契約条件について一定の譲歩をせざるを得ない場合がありますが、どの契

約条件が貴社の債権保全のために重要かを把握しておけば、さほど重要でない条

件については相手方の言い分を呑むことによってメリハリのある交渉が可能にな

ります。また、顧客の状態を把握しておけば、顧客との取引に関連して将来起こ

りうる危険を予測することができるため、有事にも迅速かつ的確に対応すること

ができるでしょう。

顧客の財政状態及び資産状況を把握するためには、顧客が上場企業であれば、ウ

ェブ上で財務諸表等公開情報を入手することができますし17、顧客が閉鎖会社で

ある場合又は公開情報では不十分である場合には、顧客に直接必要な情報の提供

を請求したり、調査会社を使って調査を行う方法が考えられます18。また、顧客

のどの資産に担保権が設定されているかについては、登記された担保登記書面の

14

ここでいう顧客には、「エージェント・ディストリビューター」の箇所で述べたディストリビュータ

ーも含むものとして考えることができます。

15 契約締結後の債権保全策については、本稿「取引・回収」の 7 及び 8 をご参照ください。

16 取引相手の財政状態について最新状況を把握しておくことは、契約締結前に限らず契約締結後も取引

が継続している限り重要であるといえます。

17 一般的に利用されているのが、U.S. Securities and Exchange Commission のサイトです。http://sec.gov/edgar/searchedgar/companysearch.html

18 特定の顧客の信用状況について報告書を提供してくれる会社としては、Dun & Bradstreet などが有名で

す。

20

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

調査を通じて確認することができます19。さらに、顧客の関与する訴訟や裁判所

への提出物をチェックしたり、財政難の予兆となるような顧客社内の動き20をニ

ュース記事で追うことも必要です。

1.2 有利な契約条件を含んだ契約の締結

第二に、売掛金回収リスクを最小限に抑えるための条件を含んだ有利な契約を締

結すべく努力する必要があります。多くの場合、米国の売買契約は、注文書や契

約書の表面に記載の条件のみで決まるわけではなく、取引の詳細に関する terms

& conditions が細かい文字で契約の裏面に書かれていたり、別紙やウェブサイト

を参照しなければならない形式になっています。これらは裏面約款と呼ばれます

が、何か問題が起きた場合に参照すべき定め(危険負担(Risk of Loss)、債務

不履行時(Event of Default)の救済方法など)は、当該裏面約款に定められてい

ることが多いため、契約締結時には、取引の価格や数量など専ら表面に記載され

ている事項のみならず、裏面約款についてもきちんとチェックすることが重要で

す。通常、当該裏面約款は定型フォームになっており、当該フォームを保有する

会社にとって徹底的に有利になるよう作成されています。したがって、契約の相

手方が契約書ドラフトを用意する場合には、必要に応じて交渉のうえ、貴社にと

って不利な条項の削除・変更を要求する必要があります。例えば、顧客の信用力

に不安がある場合には、代金の前払いや支払い期日までの期間をなるべく短くす

る方法が考えられます。一方、一通の契約書に貴社・顧客双方が署名するという

形式ではなく、顧客が注文書(Purchase Order)を発行し、これに対して貴社が

確認書(Confirmation)を発行するというように複数の書面をやり取りすること

によって契約が成立する場合があります。この場合に、注文書・確認書それぞれ

に全く異なる内容の裏面約款が付いていると、どちらの条件が適用されるのか明

らかでなくなってしまうという状況が発生することがあります21。後のトラブル

を防ぐためには、各当事者が相手に書面をそれぞれ送り付けて終わりにするので

はなく、1 つのものに両者がサインし、いずれの条件が両者間の取引に適用され

るかを明確にしておくことが重要ですので、貴社が確認書を送付する際には、顧

客に対して確認書上の条件が取引に適用されることを説明し、顧客がこれに合意

したことを示すために、確認書に顧客のカウンターサインをするよう要求するの

が望ましいでしょう。

1.3 人的担保(Guarantee/Suretyship)・物的担保(Security Interest)の取得

19

本稿「取引・回収」3.2 をご参照ください。

20 例えば、合併等の組織再編、経営陣の交代、財務コンサルタントの採用、財務諸表発行の遅延などが

挙げられます。

21 このような状況は「書式間の抵触(battle of forms)」と呼ばれます。

21

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

第三に、売掛金回収リスクを軽減する方法として、担保の取得が挙げられます。担保に

は、顧客の親会社などから支払保証をとる方法と、顧客の資産に担保権を設定すること

により支払いを担保する方法があります。それぞれについては、下記2をご参照ください。

22

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

2 商品の売主が買主に対する売買代金債権を担保する方法にはどのようなものがあります

か。またその特徴は。

売主である貴社が売買代金債権を担保する方法には、顧客の親会社などから顧客の支払

いに対する保証を取得する場合(以下「人的担保」といいます。)と、顧客の資産に担保権

を設定し、債務不履行時に担保権を実行することにより債権回収をする場合(以下「物的

担保」といいます。)の二種類があります。その種類と特徴について、以下詳述します。

2.1 人的担保の種類と特徴

人的担保としては、銀行の信用状(Stand-by Letter of Credit)又は親会社保証(Parent

Guarantee)が一般的です。銀行の信用状とは、銀行に買主の支払いを保証させるもの

ですので、買主が商品の代金支払いを怠った場合、売主は信用状によって銀行から支

払いを受けることができます。この場合、銀行は、買主に対して与信をすることになるの

で、この信用リスクをカバーするため、銀行が支払った金額を買主に求償することになり

ます。したがって、財務状態の悪い買主に対しては、銀行が当該買主の現金の積み立

てを信用状発行の条件とすることが多々あり、これは買主のキャッシュフローを圧迫する

ことになるため、現実的には利用するのが難しいことがあります。これに対して、買主の

親会社に買主の支払いを保証させる親会社保証は、通常親会社が自分の子会社であ

る買主に現金の積み立てを要求することはないため、銀行の信用状よりも獲得するのが

容易であるといえます。

2.2 物的担保の種類と特徴

物的担保としては、不動産を担保対象とするものと不動産以外を担保対象とするものが

あります。以下では、売買契約上の債権を担保する際に最も一般的に用いられる、

在庫(Inventory)、設備(Equipment)、売掛債権(Account Receivable)といっ

た不動産以外を担保対象とする担保権についてご説明致します22。これらは、主

に UCC の Article 8 及び Article9 に基づく担保権であり、当該担保権によって担

保された債権は、債務者の破産時にも、担保付債権として無担保債権者に優先し

て支払いを受けることができます。こうした効力が認められるためには、①

(2.2.1 で述べる要件を満たすによって)適切に担保権が設定され、かつ②

(2.2.2 で述べる要件を満たすことによって)設定された担保権の優先性を第三

者に主張できる必要があります。以下、順番にご説明致します。

2.2.1 担保権の設定の仕方

UCC Article9 の担保権を設定するためには、次の 3 つの要件を満たす必要があり

ます。

22

なお、不動産を担保対象とする物的担保の場合には、以下でご説明する内容とは一部異なってくる部

分がありますので、ご注意下さい。

23

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

(1)売主が買主との間で担保契約を締結すること

(2) 売主が買主に対して何らかの価値のあるもの(対価)を与えること

(3)買主が担保財産を所有していること

以下、詳述します。

2.2.1.1 売主が買主との間で担保契約を締結すること

まず、売主が買主との間で締結する担保契約は、書面によって締結される必要が

あります。また、この担保契約には、売主-買主間で担保権を設定する旨の合意

があること、担保財産が特定されていること、買主が署名することが必要です。

担保財産の特定は、具体的かつ詳細である必要はありませんが、何を担保財産と

するのか両当事者(または裁判所)が識別しうる程度に明確でなければなりませ

ん。

2.2.1.2 売主が買主に対して何らかの価値のあるもの(対価)を与えること

担保の設定にあたっては、売主は買主に対し、何らかの価値のあるもの(対価)

を供与しなければなりません。その際、契約上の対価であれば、どのようなもの

でも担保権設定における対価として有効になります。たとえば、掛売りによる売

主から買主への商品の引渡しは有効な対価となります。23

2.2.1.3 買主が担保財産を所有していること

買主は、他人の財産には担保を設定することはできません。有効に担保権を設定

するためには、買主が、担保を設定しようとする財産を所有している必要があり

ます。買主が担保を設定しようとする財産を所有している限りは、たとえその財

産上にすでに Liens(先取特権・留置権)が設定されていても、担保を設定するこ

とはできます24。場合によっては、まだ買主自身に引き渡されていない、買主が

将来取得する財産(After-Acquired Property)に対して担保権を設定することもで

きます。これを一般に、浮動リーエン(Floating Lien)と呼びます。買主のビジネ

スにおいて生じる売掛債権と買主の手持ち在庫は、日常のビジネスにおいて絶え

ず回転しますので、買主が現存の担保財産のみを対象とする担保契約しか締結で

きないとすれば、現存の在庫が売却されたり、売掛債権が回収されることによっ

て買主が担保を設定できる財産が限定されてしまいます。そのような場合に、将

来取得する財産を担保とする浮動リーエンを設定すれば、新たな在庫や売掛債権

23

つまり、掛売りの場合、売主は買主に対し、一定期間経過後に代金を受け取る約束で商品を売り渡し

ますが、この場合には、「商品」という価値のあるものを売主は買主に対し、担保設定に当たって与

えていることになり、この要件を満たすことになります。

24 この場合、すでに設定されている Lien の効力が優先するため、この Lien の負担が付いた財産に担保を

取得することになります。

24

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

が債務者のビジネスに生じる都度それらを担保契約に取り込むことができますの

で、買主は十分な担保を維持することができるのです。

2.2.2 担保権の優先性を第三者に主張するために採る必要がある手続

2.2.1 で述べた要件を満たすことにより担保権は設定されますが、この設定され

た担保権を買主以外の第三者に対し主張するためには、担保権の設定を受けた売

主は、基本的には、法が定めた公示手続等(優先性を第三者に主張するための手

続)をさらに採る必要があります。このような手続を採ることが要求されるのは、

たとえば、買主が担保権を設定した物をさらに別の売主のために担保提供したり、

あるいは別の第三者に売却してしまったりする可能性があり、最初に担保権の設

定を受けた売主と、その後担保提供を受けた別の売主や売却を受けた第三者との

間で、誰の権利が優先するのかその優劣関係の調整をする必要が出てくるためで

す。

こうした優先性を第三者に主張するための手続として、UCC Article9 上、典型的

かつ最も重要な方法が登記手続です25。登記手続による場合、担保権の優先順位

は、通常、登記がなされた順序(先後関係)によって決定されます。この担保権

の優先順位については以下の 4.でご説明いたします。また、登記手続については、

次の 3.でご説明いたします。

25

優先性を第三者に主張するための手続としては、登記のほかに、占有取得(すなわち、担保権を設定

を受けた売主が、買主から担保物の引渡しを受けて売主が実際に保有すること)などがあります。

25

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

3 担保権の登記の方法について教えてください。

設定された(又は将来設定される)担保権を登記することにより、その優先性を第三

者に主張するためには、所轄官庁に担保登記書面(Financing Statement)を提出する必

要があります。

3.1 担保登記書面(Financing Statement、UCC-1)

登記は担保契約自体の写しを登録することによっても可能ですが、一般的には書

式 UCC-1 による担保登記書面(Financing Statement)を登記することによってなさ

れます。下記 3.2 で述べますように、第三者は、担保を提供した買主(担保権設

定者)の会社設立州の州務長官事務所(Office of the Secretary of State)でこの担

保登記書面を調べることによって、担保権の存在及び性格についての適切な情報

を得ることができます。有効な担保登記書面には、以下の項目が含まれなければ

なりません。なお、第三者に対して優先性を主張できるためには、正確に当該登

記を行う必要がありますので、書面作成にあたっては弁護士等専門家に内容確認

を依頼することが望ましいでしょう。

(1) 担保を提供した買主(担保権設定者)の氏名・住所

(2) 担保権を取得した売主(担保権者)の氏名・住所

(3) 担保財産についての記載26

3.2 登記の場所

担保登記書面は、原則として、UCC Article 9 に定める債務者(=担保を提供し

た買主)の所在地(Debtor’s Location)の州務長官事務所において登記するもの

とされています。なお、担保を提供した買主(担保権設定者)が会社

(Corporation)の場合、担保を提供した買主(担保権設定者)の所在地は当該会社

が設立された州となります。

3.3 有効期間

担保登記書面は、登記後 5 年間有効です。有効期間満了前 6 ヶ月以内に継続申請

書(Continuation Statement)を提出することによって、これを 5 年間延長できます

ので、当該更新手続きを失念しないよう注意が必要です。被担保債務(売買代

金)の完済、又はその他の義務が全て履行された場合、担保を提供した買主(担

保権設定者)は、担保権を取得した売主(担保権者)に署名付きの解除申請書

26

担保財産については一般的な種類を記載すれば足り、特定の担保財産についての詳細は不要です。

26

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

(Termination Statement)の交付を要求でき、これを登記することにより解除が有効

となります。27

27

なお、UCC Article 9 は、担保権の設定と対抗力取得手続きのどちらが先に生じるべきかにつき定めて

いません。したがって、実務的には、担保権を取得した売主(担保権者)は、担保提供した買主(担

保権設定者)との担保権設定契約の締結が完了していない段階で、担保登記書面の登記手続きを開始

することが可能です。

27

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

4 他にも担保権者がいた場合の優先順位はどのようにして決まりますか。

たとえば、貴社が顧客に貴社製品を販売する取引を行うに当たり、売主として、顧

客(買主)が保有する売掛債権に担保権を設定したところ、実は顧客(買主)の他

の売主や銀行も同じ売掛債権に担保権の設定を受けていたことが判明した場合、貴

社と、他の売主や銀行の優先順位はどのように決まるか、という問題です。

この事実関係において、もし貴社、他の売主や銀行の中で、登記その他法が第三者

に優先性を主張するための手続として定める手続(2.2.2 に定める手続です。ここ

では登記手続を念頭におくことにします。)を採った者が誰もいなかった場合、最

初に担保権の設定を受けた者が優先権を有します。

これに対し、登記手続を採っている者と採っていない者がいた場合は、登記手続を

採っている者が、登記手続を採っていない者に優先します。他方、登記手続を採っ

ていた者が複数いた場合は、その複数の者の間での優先関係は、原則として最初に

登記した者が優先権を有する、というルールによって規律されます。ただし、当該

原則に当てはまらないものとして、以下の 6.の中でご説明する売買代金担保権など

がありますのでご注意ください。

28

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

5 担保権を設定した製品が第三者に売却された場合でも、担保権は行使できますか。

製品について担保権を取得した売主が、登記その他法が第三者に優先性を主張する

手続として定める手続(2.2.2 に定める手続です。ここでは登記手続を念頭におく

ことにします。)を採っていたか否かによって結論が異なってきますので、場合を

分けてご説明致します。

5.1 登記された担保権の場合

担保権が有効に設定され、かつ登記されている場合は、担保の設定された製品が

第三者に売却された場合でも売主は原則として担保権を行使することができます。

担保権を提供した買主が担保財産たる製品を売却する場合、その担保権は、その

後の製品の買主(以下「第三取得者」といいます。)が製品を取得した後も引き

継がれ、第三取得者は担保付きの製品を購入してしまうことになります。第三取

得者は、たとえ担保財産たる製品に対する十分な対価を支払い、担保権が設定さ

れていることを知らなかった場合でも、登記された担保権を取得していた者に敗

れてしまいます。第三取得者としては、製品を購入する前に当該製品に対する担

保設定状況を担保登記所において調べておくことにより、このような事態に陥る

ことを回避することが必要となっています。

しかしながら、登記された担保権がその後の買主に対し優先権を有するという一

般原則には例外があります。担保財産たる製品が、担保権を提供した買主の通常

の取引過程(Buyers in the Ordinary Course of Business)において在庫品(Inventory)28から売却された場合には、第三取得者は、その売却が売主(担保権者)-買主

(担保権設定者)間の担保契約の条項に違反するということを知らない限り、売

主の担保権のついていない製品を受け取ることができます29。したがって、この

例外に該当する場合には、担保権者は第三者に売却された製品に対して担保権を

行使できないことになります。在庫の販売を業とする者から在庫品を購入する者

に対して、毎回登記所で担保状況を確認しなければ保護されない(担保付きの製

品を購入してしまう)ことになると、取引の安全を損なうことになるため、この

ような例外が認められています。

5.2 担保権が登記されていない場合

担保権が有効に設定されたが、まだ登記されていない場合において、担保権の設

定された製品が第三者に売却されたときは、次の条件を満たす場合、第三取得者

が、登記手続きを採っていない担保権者たる売主に対して優先します。すなわち、

第三取得者が、(1)購入した製品に対し対価(Value)を支払っていること、及び(2)

28

在庫(Inventory)とは、販売・リース契約等に基づいて第三者に転売することを目的として保有される商

品, 製品, 半製品, 仕掛品, 原材料, 消耗品等の資産を指します。

29 第三取得者が(当該売却が担保契約の条項に違反していることについては知らず)単に担保の存在を

知っているにとどまるときは、第三取得者は保護され、担保権の負担を免れることになります。

29

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

担保権が登記される以前、かつ第三取得者が担保権が存在するということを現に

知る前に、製品の占有を取得すること。

30

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

6 銀行が既に買主の全資産を担保にとっている場合、売主はどのようにして担保を取ればよ

いでしょうか。

売買代金担保権(Purchase Money Security Interest)を取得する方法が有効です。上記 5

に記載のとおり、UCC Article 9 の担保権者間での優先度は、一般的に、登記をした

順序により決まりますので、遅れて登記した売主は、先に登記した銀行に劣後して

しまうのが原則です。しかしながら、売主が売買代金担保権を取得する場合には、

後に登記したにもかかわらず、先に登記し対抗力を取得した担保権者(以下「早期

の担保権者」といいます。たとえば上記にいう銀行がこれに該当します。)に対し

て優先権を取得することができるのです。30

典型的な売買代金担保権は、債務者に設備や在庫を信用販売した製造業者や販売業

者が、その販売した設備や在庫に担保権を取得する場合に成立します31。売買代金

担保権者が、すでに登記を済ませている担保権者に対して優先権を取得するための

要件は、担保対象物によって次のとおり異なります。

6.1 在庫に対する売買代金担保権(Inventory Purchase Money Security Interest)

在庫(Inventory)とは、販売・リース契約等に基づいて第三者に転売することを目

的として保有される商品, 製品, 半製品, 仕掛品, 原材料, 消耗品等の資産を指し

ます。 たとえば、卸売業者(債権者)がデパート(債務者)に対して、デパー

トで販売するためのスーツを卸売する場合、当該スーツは在庫になります。この

事実関係において卸売業者がデパートに対するスーツの売買代金を担保するため

に、当該スーツに対して担保を取得する場合、同じ在庫に担保を設定しかつ先に

登記を行なった銀行などの他の担保権に対し、卸売業者は、次の場合に優先権を

有します。

(1)卸売業者(売買代金債権者)からデパート(債務者)に在庫が引き渡される

より前に、売買代金担保権が設定されて登記が行われており、かつ、

(2)デパート(債務者)に在庫が引き渡される前に、卸売業者(売買代金債権

者)が、先に登記を行った者に対して、売買代金担保権について書面による通

知を送付すること。その際、この通知は、「卸売業者(売買代金債権者)がデ

パート(債務者)の在庫に売買代金担保権を取得している、又は取得する予定

である」ことを述べ、売買代金担保権に服するその在庫を種類、又は類型によ

って記述している必要があります。

30

ただし、買主と銀行の間の貸付契約書において、買主が銀行以外の第三者に対して担保を与えること

を禁止しているような場合も多いので注意が必要です。

31その他、債務者が設備や在庫を購入できるように資金を貸し付けるか、又はその他の信用供与を行い、

その物に対し担保を取得した貸主も売買代金担保権者に当たります。

31

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

6.2. 在庫以外の資産・財産に対する売買代金担保権(Non-inventory Purchase Money

Security Interest)

在庫以外の担保対象物として典型的なのは、設備品(equipment)です。たとえば、

メーカー(債権者)がデパートに対して、デパートで使用するレジを販売する際、

レジは設備品になります。在庫以外を担保とする売買代金担保権は、デパートが

レジの占有取得後 20 日以内に担保権を登記する場合にのみ、レジ又はその対価

(Proceeds)について、対立する担保権に対する優先権を有します。在庫以外を担

保とする売買代金担保権者は他の担保権者に通知しなければならないという要件

はありません。

32

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

7 契約締結後、顧客に対する信用不安が発生した場合、どういった対策が可能でしょうか。

例えば、信用不安を理由に製品の引渡しを拒絶できますか。

まずは、顧客との契約を読み直し、契約中に顧客の信用不安が発生した場合に、売

主が商品引渡しを拒絶するための根拠となりうるような条文がないかどうかを確認

することが重要です。たとえ契約中に根拠条文がない場合でも、UCC 上一定の条

件を満たせば、売主は引き渡しを拒絶することができます。

UCC Article 2-609 によると、売主が顧客の契約履行について「不安を抱く合理的な

理由(reasonable ground for insecurity)」を有する場合には、売主は顧客に対し、顧

客がその義務を履行することにかかる「適切な保証(adequate assurance)」を要求

することができます。当該顧客が、売主の要求から 30 日以内に適切な保証を与え

なかった場合、売主は、これを顧客による契約の履行拒絶(repudiation of the

contract)とみなすことができ、売主は自らの契約履行を取りやめ、契約違反に基

づいて顧客に対して訴えを提起することができます。

ここで問題となるのは、「不安を抱く合理的な理由」や「適切な保証」が具体的に

どのような状況を指しているかということです。これらの用語に明確な定義はなく、

UCC によれば、商慣習及び個別具体的な事情を考慮した上で裁判所により決定さ

れるものとされています。例えば、「不安を抱く合理的な理由」については、顧客

による契約上の支払遅延、信用枠(Credit Line)利用の拡張、顧客業界に出回って

いる当該顧客の財務状態に関する情報・噂などが該当するという判例があります。

ここで、実際に噂が真実である必要はなく、買主の財務状況が不安定であるという

噂があるだけで売主に合理的な不安があると認めたケースもあります。「適切な保

証」については、顧客が新興企業であれば保証を差し入れたり前払いをすることが

求められる可能性がある一方で、大企業であれば、口頭により適切な保証を与える

ことができる可能性もあります。いずれにしても売主は、誠実に、売主・顧客双方

の業界の一般的慣行に従い、客観的な基準に基づいて行動を起こす必要があります。

売主側がいたずらに引渡し拒絶をすれば、顧客側から逆に契約違反を理由に訴えら

れる可能性もありますので、契約違反リスクと債権保全の必要性のバランスを見極

めて慎重に行動することが重要です。

顧客との間に継続的な取引関係がある場合、その後の取引に応じないといった対応

をちらつかせることにより支払いについて有利な取扱いを認めてもらう、あるいは

新規の取引については今までよりも有利な取引条件(例えば、支払条件を短縮す

る)を認めてもらうといったことも考えられます。しかし、顧客の信用不安が明白

な場合、他の債権者も貴社同様に買主に対して回収のための手を強めている可能性

が高く、貴社に対してのみ特別な取扱いを認めてもらうことは困難な場合が多いよ

うに思います。また、上記のような対策を採ることによりかえって顧客の破産申請

の時期を早めてしまう結果になることも珍しくありません。その意味では、取引相

手の信用性に関しては恒常的に情報を入手するように努め、信用不安を抱く事象が

33

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

発生した場合は、できる限り早いタイミングで対応策を採れる体制を構築しておく

ことが重要といえます。

34

Copyright © 2010 JETRO. All rights reserved. 本レポートの無断転載を禁ずる。

8 売掛金の回収が滞った場合、どういった対策が可能でしょうか。例えば、製品引渡し後に

商品の取り戻しは請求できますか?

UCC Article 2-702 (2)に基づき、売主は、顧客が製品受領時に、通常の取引過程にお

ける債務支払停止もしくは弁済期(Due Date)の到来した債務の支払不能の状態に

ある場合、または破産法(Bankruptcy Code)上の insolvency (債務超過)の状態に

ある場合(以下、当該 3 つの状況を総括して「Insolvencyの状態」といいます。)

には、引渡しから 10 日以内に顧客に請求することによって、製品を取り戻すこと

ができます。また、破産法 Section546(c) によると、売主は、製品引渡しから 45 日

以内に書面によって顧客に請求すれば、製品を取り戻すことができます。但し、当

該 45 日の期間中に破産手続きが開始した場合には、売主は、破産申請から 20 日以

内に当該請求をしなければなりません。

このように売主が製品の取戻請求を行う際、売主は通常の業務の範囲内(normal

course of business)において誠実にこれを行わなければなりません。顧客が

Insolvencyの状態にあることを知り次第すぐに取戻請求を行う、かつどの製品が取

り戻しの対象となるかを正確に特定しておくことが望ましいでしょう。ここで注意

すべきなのは、取戻請求が売主にとって最善の手段ではない場合があるということ

です。たとえば、取戻しを求める製品が買主により銀行その他の債権者の担保の対

象となっている場合、銀行その他の債権者の担保権が優先するためほとんどの場合

製品を取り戻すことはできません。取り戻しの対象となる商品がその顧客のために

特別に製造した特注品である場合、そのような製品は第三者にとっては価値がない

ものであるために売主がこれを取り戻しても第三者に転売することができず、結局

売主が自己の費用負担で処分したり、第三者にスクラップとして安値で売却するこ

とになる可能性があります。その場合、もし、売主が当該顧客に対してなんらかの

債務を負っているのであれば、当該債務と取り戻しを検討している製品の代金債権

とを相殺するというのも一つの手段です32。

なお、売主が製品を出荷してから顧客が製品を受領するまでの間に顧客が

Insolvencyの状態にあることが判明した場合、売主は、製品を配送しないよう運送

会社または倉庫業者に指示することができます。

以上

32

相殺を実施する際には、売主は顧客に対してその旨通知する必要があります。