特 集 2015年版ISO 9001活用ハンドブック アイソス no.228 2016年 11月号...

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10 アイソス No.228 2016年 11月号 執筆/株式会社テーガル 代表取締役 横山吉男 2015年版ISO 9001活用ハンドブック ―早くも2015年版で認証取得した企業の実例を参考に― 特 集 現時点で2015年版への切り替え、また は、認証取得企業がどのくらいになったの か、統計的数値は把握できていないが、 認証機関のセミナーへ参加した企業の話 ではほとんど何もしなくてもいいような講師 の口ぶりであったと聞き、ぞっとしている。 確かに、認証機関としては現在認証を 維持している企業の中で2015年版乗り 換えが大変だったら効果も感じられない ので返上しようという考えが相当数出てく るのでは?という懸念があるようだ。そこで、 セミナーでは極力「乗り換えは大変」とい うイメージをなくすのに躍起になっている ということと理解する。 今回の特集は筆者のライフワークと自 負している「ISOの活用」という視点で、 最低限このくらいの仕組みを作っていけ ば2015年版へ乗り換えがOKということ ではなく、 ISO規格の変更・追加の意図 を理解しながら、すでに乗り換えを完了し ている企業の2015年版構築の状況で弱 い点に焦点を当てて、若干の具体化を 提案させていただく。 ピックアップした項目は新規に加え、既 存の要求ではあるが活用できていなかっ た項目も若干拾って71項目の解説を行っ た。品 質マネジメントシステムの原 則が 従来の8項目から7項目になっているが、 ISO 9001:2015の序文で明記されてい る。削減されたのは「マネジメントへのシス テムアプロ—チ」である。プロセスアプロー チに統合されたとの解説がされている。削 除された「システムアプロ—チ」は5.1.1リー ダーシップ及びコミットメントc)組織の事業 プロセスへの品質マネジメントシステム要 求事項の統合からみて「プロセスが有機 的につながって組織全体(システム)とし て効果的か」という意味で重要である。 システムとは「有益な機能を実行する のに必要な全要素」との解説があり、今 回の改訂はまさに品質システムアーキテク チャとして、すべての要素を個別に対応す るのではなく、「戦略的な方向性」「リスク と機会」などをキーワードに全体を結びつ けた仕組みに変更することが重要である。 1. 2008年版の運用の形骸化度調査 2. ギャップ分析をどのように進めるか 3. 2015年版移行のステップ 4. 序文をシステム再構築に活かす  0.1a)はアウトプットマター(ISOを取得 しているのに品質が良くならない) 0.2品質マネジメントの原則 0.3プロセスアプローチ 0.3.3リスクに基づく考え方 5. 4.1外部・内部の課題は企業のどのレ ベルで検討・抽出するのが良いか 6. 4.1内部の課題の明確化に対する視 点をどのように持つか 7. 4.1外部の課題の明確化に対する視 点をどのように持つか 8. 「戦略的」という要求への対応 9. 4.2誰を利害関係者とするか 10. 4.2「密接に」がヒント。単に一般的な 利害関係者を羅列しても意味がない 11. 4.3内外の課題から「適用範囲」にど う結び付けるか 12. 4.4.1プロセスから「期待されるアウト プット」をどのように明確にするか 13. 4.4.1各プロセスのパフォーマンス指 標は設定されているか、どのようなパ フォーマンス指標が望ましいか 14. 4.4.1「リスク及び機会への取り組み」 を活動としてどのように構築するか 15. 4.4.1各プロセスの評価方法は決めら れているか、どのようなときに「必要な 変更」を実施するか 16. 5.1.1どのような場で、どのような状態 だと「説明責任」が果たされているか 17. 5.1.1「戦略的な方向性」をどのよう にシステム内で見える化するか 18. 5.1.1業務とQMSの統合度合いをど のように測るか 19. 5.1.1「プロセスアプローチ」をどのよう に実現するか?

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10  アイソス No.228 2016年 11月号

執筆/株式会社テーガル 代表取締役 横山吉男

2015年版ISO 9001活用ハンドブック―早くも2015年版で認証取得した企業の実例を参考に―

特 集

 現時点で2015年版への切り替え、また

は、認証取得企業がどのくらいになったの

か、統計的数値は把握できていないが、

認証機関のセミナーへ参加した企業の話

ではほとんど何もしなくてもいいような講師

の口ぶりであったと聞き、ぞっとしている。

 確かに、認証機関としては現在認証を

維持している企業の中で2015年版乗り

換えが大変だったら効果も感じられない

ので返上しようという考えが相当数出てく

るのでは?という懸念があるようだ。そこで、

セミナーでは極力「乗り換えは大変」とい

うイメージをなくすのに躍起になっている

ということと理解する。

 今回の特集は筆者のライフワークと自

負している「ISOの活用」という視点で、

最低限このくらいの仕組みを作っていけ

ば2015年版へ乗り換えがOKということ

ではなく、ISO規格の変更・追加の意図

を理解しながら、すでに乗り換えを完了し

ている企業の2015年版構築の状況で弱

い点に焦点を当てて、若干の具体化を

提案させていただく。

 ピックアップした項目は新規に加え、既

存の要求ではあるが活用できていなかっ

た項目も若干拾って71項目の解説を行っ

た。品質マネジメントシステムの原則が

従来の8項目から7項目になっているが、

ISO9001:2015の序文で明記されてい

る。削減されたのは「マネジメントへのシス

テムアプロ—チ」である。プロセスアプロー

チに統合されたとの解説がされている。削

除された「システムアプロ—チ」は5.1.1リー

ダーシップ及びコミットメントc)組織の事業

プロセスへの品質マネジメントシステム要

求事項の統合からみて「プロセスが有機

的につながって組織全体(システム)とし

て効果的か」という意味で重要である。

 システムとは「有益な機能を実行する

のに必要な全要素」との解説があり、今

回の改訂はまさに品質システムアーキテク

チャとして、すべての要素を個別に対応す

るのではなく、「戦略的な方向性」「リスク

と機会」などをキーワードに全体を結びつ

けた仕組みに変更することが重要である。

1.2008年版の運用の形骸化度調査2.ギャップ分析をどのように進めるか3.2015年版移行のステップ4.序文をシステム再構築に活かす   0.1a)はアウトプットマター(ISOを取得

しているのに品質が良くならない)

  0.2品質マネジメントの原則

  0.3プロセスアプローチ

  0.3.3リスクに基づく考え方

5.4.1外部・内部の課題は企業のどのレ

ベルで検討・抽出するのが良いか

6.4.1内部の課題の明確化に対する視 点をどのように持つか

7.4.1外部の課題の明確化に対する視 点をどのように持つか

8.「戦略的」という要求への対応9.4.2誰を利害関係者とするか10.4.2「密接に」がヒント。単に一般的な 利害関係者を羅列しても意味がない

11.4.3内外の課題から「適用範囲」にど う結び付けるか

12.4.4.1プロセスから「期待されるアウト プット」をどのように明確にするか

13.4.4.1各プロセスのパフォーマンス指 標は設定されているか、どのようなパ

フォーマンス指標が望ましいか

14.4.4.1「リスク及び機会への取り組み」 を活動としてどのように構築するか

15.4.4.1各プロセスの評価方法は決めら れているか、どのようなときに「必要な

変更」を実施するか

16.5.1.1どのような場で、どのような状態 だと「説明責任」が果たされているか

17.5.1.1「戦略的な方向性」をどのよう にシステム内で見える化するか

18.5.1.1業務とQMSの統合度合いをど のように測るか

19.5.1.1「プロセスアプローチ」をどのよう に実現するか?

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  11

20.5.1.2「顧客重視」に対するリーダー シップをどのように実証するか

21.5.1.2リスクの中で顧客満足に関する ものが見える化されているか

22.6.1.1「リスクと機会の明確化」は思い 付きでやるのか、結果は〇〇表に書

いてあるが…

23.6.1.1で決定されたリスク・機会への取 り組みの具体的PDCAの回し方が

明確か

24.6.1.2で決定されたリスク・機会に対す る取組で「潜在的な影響」をどのよう

に具体化しているか

25.6.1.2リスクの「回避・除去・共有・低 減・移転・受容」の方法は

26.6.2.1でプロセスに対する「品質目標」 が追加されているが認識があるか

27.6.3 2008年版5.4.2b)相当だが、具 体的方法が示されているか

28.7.1.4注記で「社会的・心理的・物理 的」と例示されている環境要因にど

のように対応するか

29.7.1.52008年版と同じではあるが、校 正の結果異常が発見された場合の

「妥当性評価」の方法が未構築な

企業がある

30.7.1.5ソフトウェアの管理がなくなって いるが該当がある場合はここで!

31.7.1.62008年版の力量の管理とどの

ように差別化するか

32.7.2内容的には同じだが、対象の表 現が微妙に異なっている

33.7.3 2008年版の6.2.2から「認識」 を独立させた意図をどのように理解

するか・・・各要員のミッション・ビジョン・

ゴールを明確にし、従業員のモチ

ベーションアップにつなげる

34.7.3「自らの貢献」をどのように具体化 するか・・・何を達成したか?自分の行

動で評価できる部分は?

35.7.3「組織の管理下で働く人々」が主 語なので、どのように「確実」になっ

ているかを検証するか・・・「成長でき

る機会」につなげる

36.7.4内部・顧客とのコミュニケーション は2008年版では単にコミュニケーショ

ンの場や、手段を羅列しているだけ

であったが、どのように活用するか

…勝てる企業になるための最初の

ステップ:情報共有→一体感のある

組織

37.7.5文書化の要求が少なくなったこと をQMS内でどの様に活かすか−多

重階層文書化の整理

38.8.1「意図しない変更によって生じた 結果」として何を該当させ、リスクに基

づく考え方をシステムにどのように反

映させるか

39.8.2.1顧客とのコミュニケーションの中 で発生する「不測の事態」の具体化

40.8.2.2「当社が製品及びサービスに関 して主張していること」とは何かを具

体化

41.8.2.3「顧客が明示していない要求事 項」は2008年版の時も実務とのつな

がりが明確でなかった

42.8.3設計・開発の適用範囲は変更す る必要があるのか

43.8.3.2 a)「設計・開発活動の複雑さ」 をどのように考慮するか

44.8.3.2e)設計・開発の外部資源とはど のようなことがあるか

45.8.3.2g)顧客及びユーザの参画の必 要性の具体化

46.8.3.2h)以降の製品の提供に関する 要求事項として、後工程やアフター

サービスを考慮しているか

47.8.3.2i)顧客・利害関係者によって期 待される管理レベルとは

48.8.3.3 e)製品およびサービスの性質 に起因する失敗としてどのような行

為に結び付けるか

49.8.3.4a)「達成すべき結果」を各プロ セス段階で考慮しているか

50.8.3.4b)2008年版以降「レビュー」を 意味が理解できていない

51.8.4.1b)「外部提供者から直接顧客

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12  アイソス No.228 2016年 11月号

に提供される場合」はない場合もあ

るが、ある場合でも品質マニュアル・

規定等で定められていないことが多

いので、これは製品のリリースの決ま

りごとが社内と同じようにできないこ

とを検討する必要がある

52.8.4.2「組織の能力に悪影響を及ぼ さないことを確実にするため」と具

体化されているので、どのようなケー

スがあるかをより明確にする取り組

みが必要

53.8.4.2 b)「外部提供者に適用するた めの管理及びそのアウトプットに適

用するための管理」と対象が2つあ

ることが明確になっているが、対応

できているか

54.8.4.2 c)「外部提供者によって適用 される管理の有効性」と、外部提

供者が自分で実施している管理の

レベルをちゃんと見ろ!と要求された

のだが……

55.8.4.2d)「その他の活動」としては外 注監査等が考えられるが……

56.8.4.3 d)「外部提供者との相互作 用」は外部提供者から受け取る製

品の影響度や、組織から外部提供

者への影響項目の伝達といった要

求であるが、該当することを明確に

する必要がある

57.8.4.3 f)「外部提供者先での妥当 性確認活動」とはどのようなことが

該当するか

58.8.5.1 g)新規要求事項の「ヒューマ ンエラー」に対する取組を反映させ

ているか

59.8.5.4注記に「汚染防止」が追加さ れているので、保存という視点でよ

り明確にする内容がないかを確認

60.8.5.5注記でリサイクル・最終廃棄の 記述があり、環境ISOを持っていな

い場合も製品のライフサイクルを考

慮する必要がある

61.8.5.6 2015年版で何か所かに要求 されている変更管理の1つで、4M変

更が該当する

62.8.6 b)トレーサビリティに対する仕組 みの追加は必須項目

63.8.7.2 d)不適合に関する処置の決 定権限は2008年版では文書化要

求項目であったので「責任権限」は

要求されていたと理解できるが、今

回記録の要求はあるが文書化の

要求はないため、どのような不適合

を誰が判断するのかを再確認する

必要がある

64.9.1.1 a) 2008年版8.2.3ではすべ てのプロセス(とは明記されていな

いが)が監視対象であったが、2015

年版では必要な対象を明確にすれ

ばよいことになった

65.9 .1 .1各プロセスの監視とともに、 QMSのパフォーマンス及び有効性

評価が要求されているので、具体

化が必要。ここは業務とQMSの統

合に度合いを見る要求事項を理解

できる

66.9.2.2 a)監査プログラムの作成する 場合「組織に影響を及ぼす変更」を

考慮に入れることが要求されている

67.9.3.1「組織の戦略的な方向性との一致」がマネジメントレビューの目的と

して明確化されたことにより、a)〜f)の

インプットを通して、戦略的方向性に

対する一致度に触れる必要がある

68.9.3.1 e)「リスク及び機会への取り 組みの有効性」をどのように評価す

るかも課題

69.10 .1で改善の目的が明確化され た。2008年版では8.5.1継続的改

善が是正・予防処置の枕詞的な

位置づけで、ぼやけており、何を実

施するかが明確にされない状態で

あったが2015年版では改善の仕組

みの明確化を期待したい

70.10.2.1b)3)類似点調査が要求事項 に追加されているので、対応が必要

71.10.2.1 e)「計画策定段階で決定し

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  13

たリスク及び機会」とは6.1のことで

あり、是正の対象になった不具合が

拾い上げられていなかったのかを含

め検証する必要がある

1. 2008年版の運用の形骸化度調査

 2015年版では5.1.1 c)で「組織の事

業プロセスへの品質マネジメントシステム

要求事項との統合を確実にする」が要求

された。「ISOで仕事をする」がISO規格

の大前提のはずが、ISO認証取得目的

が「顧客要求」であったり、「入札要件」、

「加点条件」といったことでISOの「看

板」としての目的が先行した企業が多いこ

との裏付けになっている。

 今回の改訂で筆者がコンサルタントの

視点で見ると、認証取得して、しばらく自

力で運用してきた企業が認証機関主催

のセミナーで「簡単ですよ」の言葉に勇

気づけられ、自力で2015年版への乗り換

えに踏み出そうとしていることが危惧され

る。これも、認証取得時には顧客の要請

もあり、銀行から借金してもISOをとらなく

ては!と投資したが、(審査)経験が豊かに

なると、「根拠のない自信」が身につくよう

で、何とかなると考えている企業が多いよ

うに感じる。

 筆者からみると、「乗り換えだけは何と

かなる」=「2015年版の認証証は手に入

る」のであるが、相変わらず役に立たない

ムダ金投資が継続されることに気づかな

い経営者が多い。これは、経営者の意識

の低さと、各企業のISO事務局のプライド

のなせる業と考える。

 そこで冒頭でまずトライいただきたいの

が下記形骸化チェックリストである。

 

【01】品質目標以外に会社としての中期

計画・年度方針・業務目標がある。

【02】ISO認証以前に会社に規定集が

あった場合、ISO取得後も文書シ

ステムが2つ維持されている。

【03】品質方針は認証時、コンサルから

案としてもらったものを維持してい

る。あるいは認証後大きく変更した

ことがない。

【04】2008年版5.4.2の品質マネジメント

システムの変更が計画された場

合、・・・の要求が活かされていない。

又は何を要求されているのか理解

できてない。

【05】認証取得時、規定類を10個以上

作成したが、文書の軽減を考えたこ

とはない。

【06】文書の承認者が適切かを考えたこ

とがない。

【07】品質記録の保管年限を見直しした

ことがない。

【08】新規の帳票を作成しているのに、

記録台帳に追加しておらず、実質

的に文書管理の範疇ではない帳

票が増えている。

【09】5.2顧客重視の要求は8.2.1顧客

満足と同じである。

【10】品質目標は「顧客クレーム低減」等

でずーっと同じである。

【11】管理責任者がほとんどISO関連の

指示を出さないと、運用が止まって

しまう。

【12】経営者がISOを会社の運用に活

かそうという姿勢が見られない。(サ

ラリーマン社長で関心がなさそう)

【13】5.5.3内部コミュニケーションは会社

の会議体を羅列しているだけで、

認証後大幅にいじったことがない。

【14】マネジメントレビューは管理責任者、

事務局がお膳立てして何とか成り

立っている。

【15】マネジメントレビューは今やめても

会社の仕組みに影響はない。

【16】マネジメントレビューで経営者から

有効な指示が出ない。

【17】力量の管理で「スキルマップ」「力

量評価表」的な帳票の運用はある

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14  アイソス No.228 2016年 11月号

が、ただつけて、年に1度改定して

いるだけ。

【18】スキルマップの内容が、「積極性・

提案力・明朗さ・規律性・責任感・

判断力・理解力・協調性・経営的視

点」など直接業務ができることと直

結しない人事評価的な内容である。

【19】教育訓練の記録の目的が明確で

なく、各部門負担に感じている。

【20】O J Tでも記録をとっている。

【21】6.3インフラの要求に対し設備一覧

があるだけで、始業点検等の仕組

みがあり記録に残していても、改善

にはつながっていない。

【22】6.4作業環境も書くことがないから

「5S」とか書いてあるが、心がけ

程度。

【23】7.1製品実現の計画でa)〜d)は品

質マニュアルに書いてあるが、特に

業務とのつながりがない。

【24】7.2.1b)顧客が明示していないが、

……も、品質マニュアルには書いて

あるが、自分の仕事にとの様に関

係するのかわからない。

【25】7.2.3顧客とのコミュニケーションは

a)〜c)は書いてあるが、実務に影響

がない。

【26】設計・開発のレビュー・検証・妥当

性確認の意味が理解できず、当初

のルール通り実施はしているがパ

フォーマンスは感じない。

【27】設計・開発で定められた帳票は使

用しているが、本当は必要性を感じ

ない。

【28】購買の評価表は実質後付けが多

い。

【29】購買の評価表を年1回規定通り運

用しているが付加価値は感じない。

【30】購買の評価表が新規も継続も1枚

の帳票でカバーしている。

【31】7.4.2購買情報a)〜c)は品質マ

ニュアルに書いてあるが、自分の会

社で該当が見当たらず、そのままに

してある。

【32】購買製品の検証は受け入れ検収

を該当させ、記録もあるが、「供給

者先での検証」もなく供給者の品

質向上にはつながっていない。

【33】7.5.3識別及びトレーサビリティで製

造現場のパレットに「検査前」等の

札を審査の時だけ運用している。

【34】トレーサビリティの仕組みはずっとな

いまま。

【35】7.5.5製品の保存の「識別」と7.5.3

の識別の区別がつかない。

【36】監視・測定機器はリストに登録して

ある機器を校正等ルール通り実施

してはいるが、品質向上には貢献

しているという感覚はない。

【37】顧客満足の管理としてアンケートを

実施しているが、有効な情報が得

られているという感じがない。

【38】内部監査は本業のかたわら、いや

いややっている感じで、有効に機

能している実感がない。

【39】内部監査を実施しても不適合、観

察事項がほとんど出ず、形式的で、

マンネリ化している。

【40】プロセスの監視測定として、プロセ

ス管理表を作成してあるが、単に

作ってあるだけで、予防的な運用と

いう感じではない。

 以上40問あるので、該当にチェック入

れていただきたい。下記基準で評価する

と、あなたの会社はどのランクになるであろ

うか?

①10個以下: かなり有効にQMSが機能している。2015年版の改訂をより有効

なQMSにすべく本項を参考に頑張ってく

ださい。

②20個以下: 活用度は低いが会社の中ではQMSが役立っている部分があり、

ISOを即やめるという論議はない。

③30個以下: かなり重症で義務的に運用しており、TOPがISOをやめると言っ

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  15

てくれるのを待っている。

④30個超え: ISO認証取得以降、ISOが邪魔にこそなれ、QMSを運用していて

よかったという成功体験のない会社であ

ろう。

2. ギャップ分析をどのように進めるか

 認証機関から一般的にギャップ分析

的な資料が送られてきた企業もあるので

はないか?(図表1)

 ISO 9001の改訂で使用する場合、

ギャップ分析は「規格の要求事項vs現

状」となる。ただし、各要求事項を羅列し

て、右側に関係の有無、実施の有無、具

体的方法と並べてみても、規格の要求事

項が正確に理解できていて、達成イメージ

が描けてこそ、初めて有効になる。

 例えば4.1で考えた場合、期待される

「課題の明確化」とは、企業の業績に

影響を与える外部の状況としては後出の

ファイブフォース分析のようにMECE(重

複なく・漏れなく)に顕在化できたかが重

要で、初回から100%うまく検出することは

不可能である。従って、一度明確化した

場合でも毎年レビューし、過去1年間で発

生した状況により、あるいは環境の変化

を反映して、よりよいものにしていく仕組

みに価値がある。

 まずは何を目指すのかを考えていただ

くだけでも価値があると考える。例えば、会

社が存続し、従業員の幸福度が増し、若

干でも発展すること、でも価値がある。年

輪経営である。

3. 2015年版移行のステップ

 2015年版移行プロセスを5つに分けて

解説する。本稿でISO9001規格の要求

事項を正しく理解した後、以下の流れで

取り組みたい。

①日常業務の中から新規要求事項を探す 2008年版に比べて、追加要求の要素

がないものはそのまま、品質マニュアルの

項番だけ変更すればよい。

 それでは4.1,4.2等どの解説書を見ても

「新規」とされている要求事項にはどの

ように対応したらよいであろうか?

 結論から述べると、「自分に会社です

でに実施していることからISO規格で“新

規”と言われていることに該当するものが

ないかを一生懸命探すこと」である。

 実際にどんな会社でも新規の自社開

発商品を販売する場合、世の中に同様

の製品があるかとか、価格はどのくらいな

ら買ってもらえるかなどと検討するであろ

う。この様な外部の状況把握なしで商品

開発したり価格を決めたりすることはあり

図表1 ギャップ分析調査表(例)

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16  アイソス No.228 2016年 11月号

えない。しかし、このような仕事は今までの

QMSの中には見えてこない。

 そこで2015年版が登場したので、こ

のように今まで実施してきたことを品質

マニュアルなり、手順書に落とし込めば

5.1.1リーダーシップ及びコミットメントc)事

業プロセスとQMSの統合になる。

 ISO9001始まって以来ずっと要求さ

れている「マネジメントレビュー」も本来、同

じように従来から実施されている幹部会

議とか経営会議を充てればよかったが、

新規に年1回形式的な運用のマネジメント

レビューを実施し、既存の会議との一体

化を検討もしていない企業のなんと多い

ことであろう。

 とにかく最初の提言は「実施しているこ

とからISOの要求事項に該当することを

探す」である。 Adapt

②要求事項の中で重要なものとそうでないもので、ランク付けをする 2015年版のshall項目は約120個+α

で2008年版より若干少なくなっている。た

だし、数えてはいないが2015年版はa),b)

…と、整理されており、このような構成の要

求事項の場合shallは1つなので、一概に

要求事項の数が減ったとは言えない。

 2008年版まで使用されていた「適用

除外」は使わなくなり、「適用不可」となっ

た。そして適用不可は〇〇項に限定さ

れるという制約もなくなっている。ただし、

2015年版の8章中心に検討する必要が

あり、それ以外は7.1.5に計測機器の要

求が移っているので8章以外に一部「不

可」の可能性はある。

 2015年版の用語で適用不可でない

場合は何らか実施することを記述しなけ

ればならないが、各要求事項はどの企業

でも同じように重要とは限らない。例えば、

組み立て的な製造業の場合は、加工委

託先を管理することが品質的にも重要

になるが、一般的な購入品のみの場合は

「8.4外部から提供される製品」はそれほ

ど重要でなくなる。

 このように企業により企業の品質に対

する生命線は異なるのでまずは見極め

が重要である。品質マニュアルに「当社

では8.4外部から提供される製品は重き

を置かない」と書く必要はないが、お付き

合い程度の軽い仕組みで対応すればよ

い。 Importance

③自社で2015年版で新規要求事項に仕組みがない場合はプロセスを構築する 例えば老舗の和菓子屋さんで、「4.1

組織及びその状況の理解」関連を検討

する場合、①を検討した結果、今実施し

ているプロセスでまったく該当がない。中

期計画や年度計画もなく、江戸時代から

受け継いだメニューを作り続け、それなり

に完売していた。とすると、このようなお店

(企業)が「内部・外部の課題を明確に

する」と言われても、必要もなかったし、と

路頭に迷うことになる。

 これに対し、幹部が集まって、他の老舗

の情報を集めたり、テレビやインターネット

でヒントを探す仕組みを作る。この結果、

・売り上げの横ばい傾向

・原材料の高騰・資源の枯渇

・贔屓(ひいき)顧客の高齢化

があげられた。この場合は幹部の話し合

いによる課題抽出が新しいプロセスにな

る。このようにどう考えても、社内に既存の

仕組みがない場合は仕組み(ルール)を

作る必要がある。 Rules

④ISO規格の各要求事項のつながりを確認し、プロセスをつなげる 上記例で説明すると、4.1では「外部

及び内部の課題に関する情報を監視、レ

ビューしなければならない」という漠然とし

た要求で終わっているが、「6.1リスク及び

機会への取り組み」では「組織は、4.1に

規定する課題及び4.2に規定する要求

事項を考慮し」となっているので、つなが

りを見える化する必要(考慮していること

の説明)がある。

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  17

 これ以外にも4.3で適用範囲を検討す

る場合にも引用されている。また、6.1.2で

は「リスク及び機会への取り組み」の計画

が必要なので、直接的な要求はないが6.2

品質目標につなげることも重要と考える。

 2008年版まででも作成している企業

は多いが、新「品質保証体系図」を企業

自ら作ってみると各要求事項のつながり

が頭に入ると考える。 Combine

⑤③④で作った仕組みを評価し、改善する 上記で仕組みを作成し、いよいよ実施

である。各企業で2015年版対応ができる

と、すぐに変更審査を受けるところが多い

と考えられるが、2015年版をより効果的

に、パフォーマンスを上げて運用する視点

では本来は6ヵ月くらいのトライ期間が欲し

いものである。

 本稿が掲載される10月時点で、どのくら

いの企業が2015年改訂対応を開始して

いるかわからないが、改訂期限まであと2

年と考えると、筆者の時計ではそろそろ活

動開始期限ぎりぎりと考えるがいかがであ

ろうか?

 若干脱線したが、③,④で作った仕組

みを評価し、各プロセスのパフォーマンス

を評価していただきたい。

③の事例で続きをお話しすると、上記で

拾い上げられなかった事項で

・近隣に駅前再開発で大きな商業ビル

ができて、客の流れが変わって売り上

げの減少が始まった。

・有名な洋菓子店が近くにできて、客がそ

ちらに流れている。

といった想定外の問題が出てくることがあ

る。このように課題の抽出方法が思い付

きだけでは課題を拾い上げきれないと判

断した場合は、課題の抽出方法に工夫

を加える必要が出てくる。 Evaluation

 以上5項目に分けて、ステップアップし

ていただくとよい。ISOと業務の統合のま

たとないチャンスととらえていただきたい。

 これ以降は2015年版の新規要求、あ

るいは2008年版からの踏襲ではあるがう

まく活用できていなかった要求事項に焦

点を当て、具体策を含めて、逐次解説を

行っていきたい。

4. 序文をシステム再構築に活かす 

0.1a)はアウトプットマター(ISOを取得しているのに品質が良くならない) b),d)は2008年版1.適用範囲に記述さ

れていたものが序文に移動した内容であ

るが、a)は「顧客要求事項を満たした製

品を一貫して提供できる」と言い切ってお

序文

0.1一般 品質マネジメントシステムの採用は,パフォーマンス全体を改善し,持続可能な発展への取組みのための安定した基盤を提供するのに役立ち得る,組織の戦略上の決定である。 組織は,この国際規格に基づいて品質マネジメントシステムを実施することで,次のような便益を得る可能性がある。

a)顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供できる。

b)顧客満足を向上させる機会を増やす。

c)組織の状況及び目標に関連したリスク及び機会に取り組む。

d)規定された品質マネジメントシステム要求事項への適合を実証できる。

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18  アイソス No.228 2016年 11月号

り、そうなってほしいというTC176メンバー

の悲痛な叫びと理解できる。逆に考える

とISO9001認証を受けている企業が品

質が改善されていないとの認識の裏付け

ともいえる。各企業は2008年版の運用に

よって得られて成果を振り返り、品質向

上が確認できない、又は成果が少ないと

判断した場合は、分析し、なぜ成果に結

びついていないかを検討することが必要

である。

 b)も2008年版の1.適用範囲から移動

と書いたが、「機会を増やす」との表現は

2015年版の特徴で、2008年版では「顧

客満足の向上を目指す」と、やや消極的

にも見える。従って、「ぜひ、うまく使ってく

ださい。運用次第ですよ!」と言っているよ

うに見える。

 話が前後するが、0.1でa)に入る前に

「品質マネジメントシステムの採用は、

……、組織の戦略上の決定」という言葉

から始まる。2015年版になって「戦略」と

いう言葉が初めて登場しており、9001規

格全体で数か所使われており、言葉の

意味を理解しておく必要がある。9000(基

本及び用語)では「長期的または全体的

な目標を達成するための計画」とされてお

り、2015年版の規格を活かすキーワード

と考える。

0.2品質マネジメントの原則 ISO9001規格誕生からベースになる

考えとして、8原則があったが、2015年版

で初めて9001規格の中で7原則になっ

て、直接、目にする状態になった。1つ減っ

たのはシステムアプローチがプロセスアプ

ローチに統合されたと解説されている。シ

ステムとプロセスは親子関係でそれなりに

意味があると思うが、複数のアプロ—チと

いう言葉が混乱を招くとの配慮であろう

か? 2008年版の7.3でレビュー・検証・妥

当性という3つの要求が理解されないまま

今日を迎えているのと同じように思える。

 システムとプロセスの関係は「森と木」

の関係と理解すればよい。木を見て森を

見ず・・・にならないように。

 また、2015年版の改訂で、7原則と規

格要求事項の言葉の一致が進んだ。そ

れでも「人々の参画」や「関係性管理」

は、つながりが読み取りにくく、具体的要

求事項としては理解できない部分は残さ

れている。

 7項目が序文に示され、「この規定には,

それぞれの原則の説明、組織にとって原

則が重要であることの根拠、原則に関連

する便益の例、及び原則を適用するとき

の・・・例が含まれている」と記述されてい

るので4章以降でタイトル及び、具体的要

求の中で探していただきたい。この内容も

各企業ごとに異なる具体的方法にまで落

とし込むことができないと、言葉の遊びに

なるので注意が必要と考える。

0.3プロセスアプローチ 4章以降では5.1.1にたった1ヵ所登場

するだけであるが、2008年版でも序文に

は出てくるものの、4章以降のいわゆる

shall項目には登場しないので認識してお

く程度でも問題なかったが、2015年版で

は5.1.1d)で「プロセスアプローチを促進す

る」ことが要求されており、促進とは当然

採用されていつ必要があるので、プロセス

アプローチをしていない企業は仕組みの

中に取り込みことが要求されている。

 プロセスを明確にしたり、相互関係を示

すことは2008年版の4.1で要求されてお

り、一般的には保証体系図で示されてい

たが、役に立っているかというと、ただ図を

作っただけ、という感じで「運用」とは縁が

ない企業がほとんどであった。今回は文

字通り「プロセスアプローチ」が社内で採

用されていることを示せる必要がある。

 どの様に示すか? 「タートル図」で整

理すると明確になる。各業務に「〇〇プ

ロセス」とつけるとプロセスになるが、それ

だけでは各プロセスの機能が明確になっ

ておらず、プロセスの目的(目標)が必要に

なる。目的を明確にするとプロセスが有効

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アイソス No.228 2016年 11月号  19

か?が判断できるようになる。

 各企業で審査を通じてみていると、内

部監査でも同様であるが、ISO9001の

直接的な要求がない部門(生産管理、生

産技術、総務、経営企画等)の審査・監

査は品質マニュアルに何も書いていない

から、「適合性」の視点でとらえにくく、形

式的にならざるを得ないようである。また、

結果としても有効性を高める指摘が出て

きにくい。

 筆者は2008年版の要求で表現する

と、審査では5.5.1責任・権限で「当部門

はどのようなプロセス(業務)を実施してい

ますか?」からスタートする。本来「機能」を

質問しているのであるが、いただける回答

は「やっている仕事」である(例えば生産

管理の場合、顧客注文を受け、各部署

の生産計画を作成しています等)。機能

と仕事は微妙に異なる。例えば、意味の

ない承認(単にハンコを押す)行為は「何

のために?」と質問すると、答えに詰まって

しまうことがある。つまり単に決まっている

から……ということも少なくない。この承認

は機能(役割)がない。単なる行為(仕事)

ということになる。

 このようなことから、タートル図で、各プ

ロセスの目的を明確にするところからス

タートしていただきたい。(図表2)

0.3.3リスクに基づく考え方 今回ISO 9001として初めて明確に

登場した「リスク」であるが、「プロセスア

プローチ」の3つ目(0.3.3)と位置付けら

れている。今回同時に改訂されたISO

14001では著しい環境側面がリスクの

要求の中で謳われており、ISO14001

6.1.2では基準が要求されているため、い

わゆる「リスクアセスメント」がほぼマストに

なっている。今回ISO9001でも要求され

たリスクで基準は要求されていないため、

品質と環境の両規格を運用されている

企業でも品質のリスク抽出の方法を決定

する場合は注意が必要である。(違う方

法でよい)

 この中ではリスクという用語を2008年

版の予防処置と関連させており、2008

年版以前もリスクという考えは存在して

いたことを滲ませてはいるが、問題はリス

クの抽出方法であろう。企業の方向性

の判断に影響を与える要因をどのように

洗い出すのかがポイントで、筆者が見て

きた2015年版を運用開始した企業では

「〇〇会議にて」とか、「〇〇議事録に

明確にする」との記述は多いが、どのよう

に抽出したのか(するのか)が見えない場

合が多い。「思いつきですか?」と質問した

くなる。思いつきは否定しないが、いかに

抜け漏れを防ぐのかという視点も必要と

考える。

 具体的な方法としてはチェックリスト、グ

ループディスカッション、アンケート、FMEA・

FTA的方法、不具合事例を集めるなど

がある。また、発生要因からスタートする・

結果系からスタートすることも検討するとよ

い。発生要因としては材料の供給がストッ

プする、材料費の高騰、供給者の高齢化

などがある。結果系から考えると一番重要

なのは会社の倒産、製品の販売不振、

消費者ニーズの変化、現金不足、雇用の

確保などがあげられる。

 分析手法としてはSWOT分析、バ

リューチェーン分析、VRIO分析、PEST

分析、5フォース分析などがあるので、詳細

を記述する紙面はないが、研究されると

よい。

  図表2 タートル図

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20  アイソス No.228 2016年 11月号

5. 4.1外部・内部の課題は企業のどのレベルで検討・抽出するのが良いか

 審査で各企業の抽出過程を見ると、

各部門単位、各プロセス単位に帳票を作

成しているのを目にする。結論からお話し

すると、QMSそのものが本来、会社全体

を対象範囲(企業により一部門で認証

取得されている場合もあるが)にしている

ので、会社全体を俯瞰できる視野が必要

になる。従って、各部門の中で抽出され

た内容は2008年版8.2.3(2015年版では

項目は消えたが、8.1や9.1.1に似た要求

がある)のプロセスの監視として活かすこと

はできる。

筆者の意見は経営者層で論議すべき

項目と考えるが、各部門・プロセスの情報

網で抽出された内容を経営層につなげ

てもよい。参考に営業部門での抽出表を

例示する。これを全社の会議資料として

提出し、集約して、幹部会等でもんでいた

だくとよい。(図表3)

4.1組織及びその状況の理解

 組織は,組織の目的及び戦略的な方向性に関連し,かつ,その品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える,外部及び内部の課題を明確にしなければならない。 組織は,これらの外部及び内部の課題に関する情報を監視し,レビューしなければならない。

図表3 外部・内部課題抽出表(例)

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  21

6. 4.1内部の課題の明確化に対する視点をどのように持つか

 2008年版8.2.3(プロセスの監視・測定)

への対応として筆者は「プロセス管理表」

を推奨していたが、一部企業ではこれと

ほぼ同様の帳票で各プロセスにおけるリ

スクを追加して、運用する方法が見られ

る。例えば、購買プロセスでのリスクは注

文忘れ、不良品の納入等があげられてい

る。この方法も否定はしないが、各プロセ

スに潜むリスクは日常業務での不具合防

止には役立つものの、企業全体で発生

しうるリスクを顕在化するという「鳥の目」・

「俯瞰図」的な見方にはなり得ない。

 この要求の対象は「内部」なので、下

記のようなものが考えられる。

・後継者問題・従業員のモチベーション・技術の流出・喪失・従業員の退職・新規採用の困難さ・高齢化・インフラ関連(老朽化・陳腐化・能力不 足)

・従業員の能力不足・資金面の問題・供給者関連

7. 4.1外部の課題の明確化に対する視点をどのように持つか

 外部とは文字通り、企業の外側という

ことで2015年版に切り替えた企業の資

料で、4.2で要求される「利害関係者」と

の使い分けが効果的にできていないこと

が見られたので検討を要する。これだけ

ではないと思うが、マイケル・ポーターが著

書『競争の戦略』で紹介している5つの

視点をご紹介する。

ファイブ・フォースの主な要素

・買い手の交渉力 o買い手の集中比率

o交渉手段

o買い手のボリューム

o買い手の相対的な切替コスト

o買い手の情報力

o後方統合能力

o既存代替品の有効性

o買い手の価格感応度

o総合購買価格

・供給企業の交渉力 o供給企業の相対的な切替コスト

o供給品の差別化の程度

o代替供給品の存在

o供給企業の集中比率

o供給企業の前方統合の相対的

脅威

o販売価格に対する供給価格

o供給企業におけるボリュームの重

要性

・新規参入業者の脅威 o参入障壁の存在

o製品差別化の価値

oブランド・エクイティ

o切替コスト

o必要資本(サンクコスト)

o流通経路

o絶対的コスト優位性

o学習の優位性

o既存業者からの報復

o行政の方針

・代替品の脅威 o代替品への買い手の性向

o代替品の相対的プライス・パフォー

マンス

o買い手の切替コスト

o製品の差別化への認知度

・競争企業間の敵対関係 o競争企業の数

o業界の成長力

o一時的な業界の過剰生産力

o撤退障壁

o競争企業の多様性

o情報の複雑性および非対称性

oブランド・エクイティ

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22  アイソス No.228 2016年 11月号

o付加価値あたりの固定費用

o広報費用

 一部上記と重複するが、それ以外の

視点としては

・法令違反・市場動向・景気判断・リコール等の品質問題・競合他社との比較(ベンチマーク)・商品構成・顧客の動向・新商品・資材調達環境・新技術の動向(自動車の自動運転、電 気自動車・燃料電池自動車、古くはレ

 コードからCDへ等)

・新製品への転・法的環境の変化(電力自由化等)・参入障壁・新規業態(タクシーとUBER、ホテルと 民泊、持つから借りる等)

・内外製政策・テクノロジーの変化・生産設備の老朽化・新テクノロジーへ の対応

・製品自体の陳腐化・顧客の嗜好の変 化

・マーケティングの対応

・価格競争力・コモディティ化などが考えられ、0.3.3で示した各種手法も

参考に企業の継続的発展に影響しそうな

大きなものから課題を抽出いただきたい。

8. 4.1「戦略的」という要求への対応

 これは品質目標にもつながる中期的視

点をQMSに織り込むという側面があると

考える。大企業ではまず普通に実施され

ている「中期経営計画」をQMSに取り込

み、ISO用品質目標から脱却していただ

きたい。下記URLで事例が参照できるの

で参考にしていただきたい。

http://www.darecon.com/link/link6.

html#chyukei

9. 4.2 誰を利害関係者とするか

 この要求は単なる利害関係者ではなく

「密接に関係する」をどううまく運用する

かである。2015年版で運用する企業の

品質マニュアルを見ると、この要求の中に

はほぼ間違いなく、行政機関や従業員が

含まれているが、品質マニュアルの他の

項を含め利害関係者の「要求事項」が

明確にされていないケースが多いように感

じられる。

 この要求への対応としても〇〇会議

議事録や課題をまとめた帳票を作成し、

何等かその中に記述され、「毎年〇月に

見直す」と定められている。筆者の期待

値とは大きく異なり、違和感を覚える。この

方法だと毎年、「大きな変化はなく、従来

からの利害関係者からの要求及び課題

を継続する」で終わりそうな予感がする。

4.2利害関係者のニーズ及び期待の理解

 次の事項は,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供す

る組織の能力に影響又は潜在的影響を与えるため,組織は,これらを明確にしなければならない。

a)品質マネジメントシステムに密接に関連する利害関係者b)品質マネジメントシステムに密接に関連するそれらの利害関係者の要求事項

 組織は,これらの利害関係者及びその関連する要求事項に関する情報を監視しレビューしなければならない。

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  23

 もちろん利害関係者からの要求が毎

年コロコロ変わることはないと考えるが、

2015年版7.4コミュニケーションと関連付

けて、この1年で内外のコミュニケーション

から得られた情報をベースにレビューする

方法が良いと考える。

 

10. 4.2「密接に」がヒント。単に一般的な利害関係者を羅列しても意味がない

 利害関係者すべてについて例示する

ことはできないが、どの企業にも当てはま

り、かつ重要な利害関係者を2つ取り上

げて、具体的に考察してみる。

①供給者

a)供給している製品(部品)の早めの

情報(モデルチェンジ・設計変更等)

b)要求数の安定化

c)顧客サイドの内外製の変更

d)要求数量の需要予測

e)適切な利益の確保

f)技術的要求

②従業員

a)安定した雇用

b)生活レベルの向上

c)会社生活でのレベルの向上・動機

づけ

d)福利厚生

e)適切な評価

f)経営者層からの方向性の提示・明

g)職場環境の改善

などではないであろうか? 内部・外部か

らの課題と同様、これらから課題を抽出

し、監視・レビューを実施する。

11. 4.3内外の課題から「適用範囲」にどう結び付けるか

 ISO9001としては関係ないで済ませ

ているが、企業にとって重要なものの1つ

に資金繰りがある。従業員への賃金の支

払いがある。納期管理には供給者への

発注のタイミングが関係し、生産管理とい

うか生産指示・進捗管理も重要である。う

まく同期生産ができていないと在庫管理

にも影響する。

 この様な諸課題は通常ISO9001の

直接的な要求はないため、品質マニュ

アルに記述されていないことが多い。ま

た、審査・監査でも要求事項がないため、

ルールが明確でないため改善につながる

内容の検証が実施されていない。

 適用範囲の決定はどのような参考書・

解説書でも新規要求とはみなされていな

いが、

a) 4.1に規定する外部及び内部の

課題

b)4.2に規定する,密接に関連する利

害関係者の要求事項

 c)組織の製品及びサービス

を考慮しなければならない。

 このように2008年版では1章に定めら

れていたことが4章(shall項目)へ移動し

ている意味を再検討することが本来の

ISOと業務の統合にもつながると考える

のだが……

 社内の除外部門や対象製品を限定し

ている企業にとって「従来通り」では済ま

されない場合が多くなるのではないか?

 審査側としてあまり面倒くさいことを言

うと、企業が逃げて行ったり、ISOをやめ

たりする可能性があるので、ここは穏便に

運用することになると考える。

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24  アイソス No.228 2016年 11月号

12. 4.4.1プロセスから「期待されるアウトプット」をどのように明確にするか

 4.4QMS及びそのプロセスの4.4.1で

は2008年版4.1と似たような要求事項が

並んでいる。この中には2015年版特有の

要求事項がいくつかある。

 a)はプロセスをタートル図で考えた場合

の成果=アウトプットである。2008年版で

は品質保証図を作成しておけばとりあえ

ず事足りたが、インとアウトを明確にする必

要があり、まさにプロセスアプローチの「初

めの1歩」である。例えば、

a)目標管理プロセスで考えると、インと

して内部・外部の情報を勘案・分析

して抽出された課題があり、リスク・

機会を考慮して方策を考え、

PDCAを回す。目標は2008年版

同様、測定可能でないといけない

ので、これも考慮しアウトプットとして

指標を決めて、管理する。

b)購買プロセスの場合はいくつかの

小プロセスに分けるとよい。例えば

「外部提供者評価・選定プロセス」

があるであろう。この場合のインプッ

トは評価選定対象の企業の状況

がインプットになるが、どのような外

部提供者が必要かも重要なイン

プットである。プロセスとしては今ま

でだと、「購買先新規評価表」とか

「継続評価表」などがプロセスにあり、

アウトプットは評価結果であったり、

評価内容が思わしくない場合は外

部提供者に改善を要求することな

どがアウトプットになる。

 2015年版では期待されるアウトプットと

なっているのでb)の例で考えると、評価し

た結果の記録が「期待された」結果か?と

考えると、評価・選定の期待された結果(こ

の場合、目的でもある)は「互恵関係」つま

りWIN-WINの関係が進んでいることで

はないであろうか?

 品質マニュアルに規格の要求通りに

記述して終わりにもできる項目ではある

が、実務とのつながりを期待したい条項

である。

13. 4.4.1各プロセスのパフォーマンス指標は設定されているか、どのようなパフォーマンス指標が望ましいか

 c)でかっこの中に記載されている内容

が重要である。かっこ以外は2008年版の

4.1c)と大差はない。前掲の購買の評価

選定プロセスで考えると、平均評価点をパ

フォーマンス指標に使える。例えば、縫合

4.4品質マネジメントシステム及びそのプロセス

4.4.1組織は,この国際規格の要求事項に従って,必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む,品質マネジメントシステムを確立し,実施し,維持し,かっ,継続的に改善しなければならない。

 組織は,品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわたる適用を決定しなければならない。また,次の事項を実施しなければならない。

a)これらのプロセスに必要なインプッ ト,及びこれらのプロセスから期待さ れるアウトプットを明確にする。b)これらのプロセスの順序及び相互 関係を明確にする。c)これらのプロセスの効果的な運用 及び管理を確実にするために必要 な判断基準及び方法(監視,測定及 び関連するパフォーマンス指標を含 む。)を決定し,適用する。d)これらのプロセスに必要な資源を明 確にし,及びそれが利用できることを 確実にする。e)これらのプロセスに関する責任及び 権限を割り当てる。f) 6.1の要求事項に従って決定したと おりにリスク及び機会に取り組む。g)これらのプロセスを評価し,これらの プロセスの意図した結果の達成を 確実にするために必要な変更を実 施する。h)これらのプロセス及び品質マネジメン トシステムを改善する。

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  25

評価点100点満点で昨年度の平均が82

点とすると、今年は各種指導により、85点

を目標とするなどを検討するとよい。

 このパフォーマンス指標は規格の表現

から読み取ると、すべてのプロセスで何ら

かの指標を検討することが望ましい。なぜ

そこまで言うか? プロセスには必ず担当

者がいて仕事をしているからである。担当

者の存在価値を考えると、人がやらなくて

も将来的にパソコンでできることだけでは

寂しいではないか?

 

14. 4.4.1「リスク及び機会への取り組み」を活動としてどのように構築するか

 2008年版の8.5.3予防処置をリスクの

要求としてとらえると、90%以上の企業で

は活きた活動が実施されていなかったし、

審査側でも容認(黙認?)していた。つまり

2015年版でせっかく明確になった要求

に対し運用として「リスクと機会記述書」

的な帳票に1度だけ明確にされ、以降は

毎年、特に変更なし、問題なし!で済ませ

る道を選ぶのか?

 これも企業のスタンス次第と考える。リス

クは明確にした以上、年ごとにリスクが低

下したり、改善の機会は挑戦して、企業

の進化につながっている状態にすること

が望ましい。リスクと機会は「明確にする」

ことが要求ではなく、結果が要求されてい

ることを肝に銘じるべきである。

 そして、6.1.2で要求されているようにリ

スク・機会への取り組み計画が必要にな

る。具体的方法として品質目標と同様の

帳票を検討するとよい。

15. 4.4.1各プロセスの評価方法は決められているか、どのようなときに「必要な変更」を実施するか

 g)を実施するためには各プロセスの「目

的やあるべき姿」が明確になっていないと

評価はできない。評価とは目的・目標に照

らしてそのギャップを明確にする行為なの

で、鑑(かがみ)がないと評価にならない。

 いくつかの企業の品質マニュアルには

「プロセス管理表」で実施する旨が記載

されているが、筆者の経験ではプロセス

管理表なる帳票が存在する企業は優秀

な仕組みを持っているとは思うが、この帳

票も1度作るとそれっきりが多い。

 変更が必要な時とは? 一つ事例を示

そう。外部提供者(どうも言葉の収まりが

悪いので、以降、供給者と呼ばせていた

だく)の評価表であるが、評価表はそもそ

も何の目的で作成するのか?⇒規格の要

求事項だから。評価してどうする?……???

(答えがない)

 ということで、評価すること自体は手段

で、目的は供給者の状況を知り、必要な

場合改善していく、または、供給者の弱み

を把握し、改善につなげることで、WIN-

WINの関係に近づけることではないか?

 従って、評価表が弱みを見つける内容

になっていない場合、評価表の内容を変

えていく必要があるのだが、実際には同じ

評価表をずーっと使い続けている企業が

ほとんどである。また、供給者といってもひ

とくくりにはできない。図面を渡して部品

を加工してもらう場合と、既製品を購入

する商社的な供給者では評価内容も、

重要度も違うのに、同じ評価表を使って

いる。また、ISO9001で要求されている

評価を一枚の「評価表」だけで済ませる

のか?という発想もない企業もある(本来、

供給者の業務により評価内容は変わる

はず)。

 力量評価の方法でも同じ業務分類で

変更していないことが多く、世の中の進

歩、作業方法の変化が全く力量評価に

反映されていないこともよく見ることであ

る。このように現状の変化に合わせてプ

ロセスの内容が変わるので、それを反映

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26  アイソス No.228 2016年 11月号

「戦略的」についてはISO9000の解説

を引用したので、そちらを参照いただきた

い。ここでは戦略的でないとはどういうこと

か?を説明しておく。「近視眼的な・洞察力

のない・小手先による・表面的な・思いつ

きによる」という理解でよいかと思う。

 具体的には中期的視点で会社をどの

ような方向に持っていくかを示す。この内

容を具体化することとは、「中期計画」を

作成すればよい。期間は3〜5年が一般

的であるが、世の中の変化の速さを考える

と、3年が妥当と考える。

 

18. 5.1.1業務とQMSの統合度合いをどのように測るか

 この要求を初めて目にしたとき筆者は

ISO規格が恥ずかしくもなく堂 と々このよ

うな要求を出したものだ!とあきれた。こん

なこと大前提じゃないか!と。

 筆者は1996年から審査の仕事に携

わっているが、2000年版が出る前から規

格の不足部分、具体化されていない部分

として力量の話をし、スキルマップをお勧

した内容に変更するのが本稿の主旨で

ある。

 

16. 5.1.1どのような場で、どのような状態だと「説明責任」が果たされているか

 「説明責任」はAccountabilityの訳で

あるが、Responsibilityと何が違うか?イン

ターネット(http://www.huffingtonpost.

jp/hisami-oshiba/responsibility-

accountability_b_8046218.html)で見

てみるとAccountabilityは起こってしまっ

たことに対する責任である。政治家の不

始末で「説明責任」が使われているが、

説明して納得してもらえば済むということ

ではなく、「結果責任」の意味であると考

える。これに対し、Responsibilityはこれ

からのことに対する責任である。従ってこ

こ5.1リーダーシップ及びコミットメントで経

営者層に対する最初の要求は「何があっ

ても経営者層の結果責任は免れません

よ」と釘を刺したうえで、詳細な要求に入

るのである。

 2008年版の5.1に比べて、要求項目が

倍になっている。また、「支援」という言葉

も使われており、結果責任の前に要所要

所でしっかりフォローしなさいという雰囲気

が読み取れる。昔のバカ殿のように「良き

にはからえ」では済ませられない。

 Accountabilityを果たすために5.3で

Responsibilityを明確にする要求につな

がるのである。権限移譲ということになる

が、上司の立場で考えると、権限移譲は

Accountabilityも移譲することにはならな

いことを肝に銘ずるべきである。

 

17. 5.1.1「戦略的な方向性」をどのようにシステム内で見える化するか

 「戦略的」という言葉は魅力的な響き

があるが、何をもって「戦略的」とするか? 

b)品質マネジメントシステムに関する品質方針及び品質目標を確立し、それらが組織の状況及び戦略的な方向性と両立することを確実にする。

c)組織の事業プロセスへの品質マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする。

トップマネジメントは,次に示すことによって、品質マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。

a)品質マネジメントシステムの有効性に説明責任を負う。

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  27

めしてきた。

 そして2000年版が発行されると力量が

要求事項になっており、その管理手段と

して、「スキルマップ」は今では当たり前に

使われている。2000年版が出ると別な要

求事項で5.4.2QMSの変更が良い要求

事項と感じた半面、具体化に乏しく、各企

業の理解度は1%以下と感じ、各企業の

中で実施されている変更管理的な行為

とISO9001の要求を結びつけて、企業

の理解度を深め活用の気づきを提供して

きた。

 2015年版でやっと「変更」がQMS全

体、製品実現各レベルで具体化されたこ

とを好ましく考えている。このように規格の

レベルの少しづつ進化していると感じる

半面、規格として文字で伝える限界も感

じている。そして、2015年版5.1.1c)で要

求されている「事業とQMSの統合」がこ

のまま品質マニュアルに書かれているだ

けになりそうなので、ここで、どのように活

かしていくか考察してみる。

a)文書体系の統合 ISO9001の取得して10年以上経過

する企業が50%を超えたのではないかと

推測するが、ISO9001認証取得以前か

ら何らかの形で社内に文書体系が存在

する企業がそれなりにあるはずである。だ

いたい総務部門管轄でその場合、文書

管理規定が総務管理のものと、QMSで

作成した品質保証部門管理の実質2つ

ある企業は審査でたくさん見ている。この

問題はなかなか奥が深く、文字通り、2つ

の文書体系の責任・権限が異なることに

よる。部門間では調整できないこともあり、

経営者にはここで大ナタを振るっていただ

きたい。

b)品質マニュアルに登場しない部門の仕事 ISOの適用範囲から除かれている部

門(業務)、適用範囲には含まれているが

品質マニュアルにはその部門のメイン業

務についての記述がない場合。の2つの

ケースがある。2015年版ではプロセスアプ

ローチが要求事項なので、ISO9001で

直接的な要求がない場合でも最終的に

顧客に製品を提供するうえで、必要な仕

事は含めることが本来の姿である。経理、

財務、総務、生産技術、生産管理などは

含まれることが望ましい。品質マニュアル

に入れてしまえば最低限ルールを明確に

することが必要だし、適合性の視点での

審査・監査は成り立つ。あとは目的を明確

にし、そのギャップを指摘することができれ

ば、有効性の視点で審査・監査ができる

ようになる。

c)マネジメントレビューの有効性 マネジメントレビューをうまく会社の仕組

みにして運用できているな!と感じる企業

は20社に1社程度である。あと19社は余

分な要求事項という感覚から抜け出せ

ていない。マネジメントレビューが認証取

得時に理解できず、既存の会議(経営会

議・幹部会議的なもの)との融合の知恵が

なく今日まで来ている企業はほとんどであ

る。マネジメントレビューが筆者として「事

業とQMSの統合」を一番実施していただ

きたい項目である。9.3項でのインプット項

目もだいぶ増えているが、従来の会議体

にうまく融合する状態を作っていただきた

い。特に大きな会社で親会社からトップが

来て2〜3年ごとに入れ替わる場合はうま

く機能しないことを見ており、進め方の工

夫が必要である。

d)目標の1本化①本来の業務目標とか、年度方針書があ

るにもかかわらず、ISO専用の目標管

理表が存在する。

②無理やり数値目標を作成している。

③毎年同じ目標.

④達成しているのに目標値を変えてい

ない

 ①が統合の対象である。②〜④は目

標の設定内容で統合とは直接関係な

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28  アイソス No.228 2016年 11月号

いが、有効な目標、あるいは目標のレベル

アップを再検討いただきたい。

e)監査業務の統合 これはちょっと大きい企業やISO認証

を複数維持している場合である。ISOの

場合は統合あるいは合同で監査を実施

しているが、業務監査やJ-sox法に基づ

く監査の場合は主管部門が異なる場合

が多く、部門間では調整ができないため、

経営者層の判断、裁量になる。また、監査

とは言わないが社長診断なども実施され

ているのでこれらも統合を検討してはい

かがであろうか?

f)認証取得時に(取得のために)始めたこと、あるいは使い始めた帳票の有効性の確認 一番代表的なのはマネジメントレ

ビュー、内部監査、購買の供給者評価で

ある。内部監査だけはちょっと違うが、あ

とは認証時既存の仕組みと融合できな

かっただけのことで、当時ちょっと知恵が

足りなかった。認証後それなりに時間が

経過しているので各企業ともだいぶ知恵

がついてきていることが期待される。

g)文書の承認者の見直し 適切な承認という視点で、一番気にな

るのが、あまり高次元ともいえない帳票や

手順書が社長承認のままにされているこ

とである。また、スキルマップも総務部承

認などをときどき見かける。総務部門の長

が現場の要員の力量を判断できるとは思

えない。

 意味のある上位者の承認になっている

かを再確認いただくとよい。

h)記録台帳的な管理を全社と、部門管理に適切に分ける 中規模の企業でよく見かける光景であ

る。どんな帳票(現場的なもの)でも総務

部門に申請して台帳に登録するルール

である。これは結構面倒臭いので、申請

せずに運用されていることを見受ける。

 また、事務局で統一しているはずなの

に、現場で勝手にアレンジして使っている

こともある。

 これ以外には大きい企業で結構見る

のであるが、統一帳票を決めていないこと

の功罪も検討するとよい。確かに部門に

より使い易さ、にくさが微妙に異なることが

あるので理解できないこともないが、完全

に統一して問題ないものまで各部門任せ

もある。程度問題が難しい。

i)購買先評価方法が付加価値のあるやり方かを再確認

 認証取得時にコンサルから提供され

た帳票を考えもせず使っている企業は多

い。審査員として、「確かに適合ではある

が、ISOでは至るところで有効性がうたわ

れているので、この視点で、今の購買評

価は役に立っていますか?」と。筆者は今

までの一般的なQCDで10項目ちょっとの

評価する帳票とは全く違う評価方法を提

案している。誌面の関係で、ご紹介できな

いが、ご興味ある方はお問い合わせいた

だきたい。

j)アンケートによる顧客満足の評価を見直す アンケート方式は70%くらいの企業が採

用している顧客満足の管理方法である。

残り20%くらいは実質何もやっていない。

10%くらいのほんの一握りがインタビュー

方式等結構意味ありな管理かな!と感じ

る程度である。

 はっきり言おう。アンケート方式から有効

な情報を全く得られない!ISO要求事項

があるので、他の方法の知恵がないため

採用している企業ばっかりである。

 ヒントを提供しよう!企業の売り上げや

利益が増加している企業は何らかの形で

顧客が評価している何よりの証拠であり、

その真の理由を突き止めることである。

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  29

19. 5.1.1「プロセスアプローチ」をどのように実現するか

 リーダーシップの要求の中で「プロセス

アプローチを促進」が経営者層に求めら

れている。どのような場面でリーダーシップ

を発揮したらよいかを検討する。

 まずプロセスアプローチの方法につい

ては1.で述べたので参照いただきたい。

タートル図は一度作ったらなかなか改訂

されないのが世の常である。筆者の提案

としてタートル図を進化させることである。

進め方としては2015年版切り替え時に大

きなプロセスのタートル図をまず作成する。

タートル図には必ず「目的」欄があり、その

フォローを毎月実施される幹部会議(的)

の場で実施する。目的(場合により目標)

の進捗で問題ありの場合、詳細プロセス

に細分化したり、プロセスの構成要素の

是非を確認していくとよい。

 

20. 5.1.2「顧客重視」に対するリーダーシップをどのように実証するか

 2015年版では2008年版で7.2.1、

8.2.1参照となっていたが、参照がなくな

り、a)〜c)を通じてリーダーシップとコミットメ

ントを実証することが要求されている。リー

ダーシップは発揮され・実証されるというこ

とはプロセス(経過)と結果で見ることがで

きる。顧客満足という視点では企業の売

り上げ、利益が増加していることは顧客

満足の結果であり、リーダーシップの実証

とみることができる。トップが主導でどんな

にいろいろな手を打っても結果がついて

こない場合には、顧客満足と言ってもむ

なしさが残る。

 よくマスコミには「プロの経営者」という

言葉が登場するが、その人たちでさえ、ど

んな事業環境でも対応できるわけでもな

く、別な会社に移動したとたんに情報漏

えい問題が発生し、成果を出せないまま

世の中から消えていくことも見ている。昔

「ピーターの法則」を知って、この法則か

ら逃れた経営者はほとんどいないことを

認識している。

 顧客重視はアンケートのような評価をし

てもあまり意味がない。顧客満足はむし

ろ、企業としてトップがリーダーシップを発揮

して、売り上げを伸ばしたり、新規事業の

挑戦したりするプロセスが重要と考える。

21. 5.1.2リスクの中で顧客満足に関するものが見える化されているか

 b)顧客満足を向上させる能力に影響

を与え得る「リスクと機会」を決定し、取り

組んでいる、が要求であるが、顧客がどの

程度供給者との互恵関係(Win-Win)を

考えているかによって左右するが、顧客

の立場でも重要なのが「事業継続」の仕

組みではないだろうか? リスクの最も大き

なものは会社の存続が危ぶまれることで

ある。これらの視点でトップは顧客との信

頼関係を増すための行動を意識していた

d)プロセスアプローチ及びリスクに基づく考え方の利用を促進する

5.1.2顧客重視

a)顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を明確にし,理解し,一貫してそれを満たしている.b)製品及びサービスの適合並びに顧客満足を向上させる能力に影響を与ええる,リスク及び機会を決定し取り組んでいる.

c)顧客満足向上に重視が維持されている.

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30  アイソス No.228 2016年 11月号

だきたい。

 また視点を変えると、顧客との接触頻

度は一般社員が多い企業が大半と考え

る。顧客の立場で見ると、社員の対応(電

話のとり方、元気さが伝わってくるか?な

ど)や明るさ、職場のきれいさなどもリスクと

いう言葉と関連付けることができる。

 どこの企業もアンケート結果で顧客満

足を監視していますという段階を卒業し

ていただきたい。

22. 6.1.1「リスクと機会の明確化」は思い付きでやるのか、結果は〇〇表に書いてある(はずだ)

 この要求事項も1.で方法論には触れ

ているので、別な視点で検討したい。リス

クと機会を決定するのは考え方を整理す

る意味でSWOT分析がわかりやすい。

社内と社外の概念は4.1に出てくるので、

6.1と組み合わせるとちょうどSWOTの概

念になる。タートル図でもそうであるが、形

式的に作成するだけでは意味がない。た

だし、最初から質の高いものを狙うより、

使っていきながら徐々に質を高めていくの

がお勧めである。

 作成する場合、「想定の範囲」をどのよ

うに広げるかがポイントになる。事業内容

によってリスクとなりうる事象は様々なの

で例を書いても該当しないものばかりで

は意味がないので企業の取り組みから

気付いた点を何点か述べる。

a)コンプライアンスの視点:最近自動車の

燃費関連で複数のカーメーカーが話

題になっているが、大手電機メーカー

の問題を含めトップ自ら悪事にリーダー

シップを発揮していては、世の中から

退場するしか選択肢は残されていな

い。どのような仕組みを作っても最終的

に人間のモラルの上で成り立っている

ことを肝に銘じていただきたい。ここ数

年マスコミを賑わしたものとして「ブラッ

ク企業、セクハラ、パワハラ、法未順守、

燃費偽装、免振ゴムデータ改竄、排ガ

スソフト、産廃、お家騒動、企業乗っ取

り」等々がありうんざりである。

b)製品のトレンドと技術革新:どのような

状況になるとその製品は不要になるの

か? この見極めは難しいが、いくつか

事例を述べる。

 ・CDが誕生した時のレコード針、ピック

アップ等のレコードプレイヤー関連

 ・電気自動車が主流になったときのエ

ンジン関連

 ・自動運転技術が完成した場合の関

連産業(運転免許が不要、教習所が

不要、酒酔い運転がなくなる、運転代

行が不要など)

 ・法令が改訂されて、軽自動車の区分

が撤廃されると、各種の優遇税制は?

 ・法令が改訂されて、旅館業法が変わ

ると、民泊は?

 ・法令が改訂されて、道路運送法が変

わると、タクシー業界は?

 ・電気の発電方法の進化

 などその業界にとって死活問題となる。

電気関連産業を見ていると、家電メー

カーが軒並み斜陽化し、重電関連を

持っているデパート的な電気関連会社

が元気である。一時期もてはやされた

「集中と選択」はもはや過去の言葉で

あろうか?考え方としては必要なもので

はあるが、台湾の企業の傘下になった

会社もかつてはこの言葉を実践する最

も進んだ経営とみなされていた。集中と

選択は株投資で考えるとハイリスク・ハイ

リターンの発想で、一発逆転、ギャンブ

 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1に規定する課題及び,4.2に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない.

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  31

ラー的な経営者には向いているのであ

ろう。企業経営をギャンブルにしてはい

けない。また、果てしない拡大志向も非

常に危険を感ずる。「身の丈」をどう考

えるか。

c)シナリオプランニング:シナリオプランニン

グとはロイヤルダッチ/シェルで始めら

れた手法で簡単に言えば、今後の見

通しを3つのストーリーで考えておくもの

で、3つでカバーできるのか等の問題は

あるが、第1次、第2次オイルショックを想

定し、乗り越え、世界シェアを高めたこと

で関心が高まった方法である。これと同

じようにアメリカの9.11世界貿易センター

ビルへの旅客機突入で当時のリーマン

ブラザースが災害の翌日から事業を再

開し一躍有名になった「事業継続」もあ

る。このような管理の先進企業が数年

後に大恐慌の引き金(リーマンショック)に

なったことは皮肉な結果である。

d)危機管理:リスク管理という言葉と同じ

ように用いられるもので「危機管理」

がある。専門家ではないので異論もあ

ろうが筆者はリスク管理が平常時の取

り組みとすると、危機管理は懸念事

項発生時の取り組みをあらかじめ考

え、練習しておくもので、ともに重要であ

る。本年、熊本で大規模な地震があっ

たが、その後の問題はあるものの、ボラ

ンティア受け入れや、各自治体との連

携、避難者への応援物資の管理等

5年前の東日本大震災の教訓から得

られた知見が文字通り組織の知識と

なって活かされている。大地震は防げ

ないけど大震災は防げる!という発想を

企業でも導入することが必要と考える。

23. 6.1.1で決定されたリスク・機会への取り組みの具体的PDCAの回し方が明確か

 6.1.2とセットで運用するわけだが、リス

クは低減させる計画が必要だし、機会に

は挑戦する計画が必要である。また、考え

方としてはリスクと機会は表裏の関係とも

とれる。リスクは「脅威(社外)」「弱み(社

内)」ともいえるが弱みはすべて、強化す

るのか?結論的にはそうではない。やはり

重みをつけてメリハリのある運用が必要で

ある。

 実施時期:基本的には経営計画作成

前に実施する。経営計画は年度の切り

替え時期であろう。また、SWOT分析を使

用する前提で提案すると、いろいろな変

化点が発生した場合には当然対応が必

要になるので、SWOTを実施することを

お勧めする。

 c),d)で望ましい結果の増大と望ましく

ない影響の低減が目的であるので、適切

な監視は必要になる。6.1.2とセットで考え

ると、月次のフォローの何らかの進捗が判

断できる指標的なものがあるとよい。

 

24. 6.1.2で決定されたリスク・機会に対する取組で

「潜在的な影響」をどのように具体化しているか

 製品及びサービスの適合への「潜在

的な影響」となっているので、当然影響

度の大きいものから対応するということで

 組織は,次の事項を計画しなければならない.

a)上記によって決定したリスク及び機会への取り組み

b)次の事項を行う方法 1)その取り組みの品質マネジメント

システムプロセスへの統合及び実施

 2)その取り組みの有効性の評価

 リスク及び機会への取り組みは,製品及びサービスの適合への潜在的な影響と見合ったものでなければならない.

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32  アイソス No.228 2016年 11月号

あるが、「潜在的」となっているものの、顕

在化されたものはすでにリスクの定義から

外れているので、想定されるといった理

解で問題ない。一般的にはハイリスク、ハ

イリターンであるからまさに大逆転を狙うの

であれば、リスクの面では「受容」して、機

会にかける選択となる。台湾メーカーの傘

下になった家電メーカーは液晶に「選択

と集中」を行って、見事に散っていったの

である。中小企業の場合、資本関係はな

いものの、受注量の90%を1社の顧客で

占められている場合と、最大でも10%未

満の顧客が数社といったパターンが見ら

れるが、リスクの面では後者のほうが安全

である。前者は顧客が伸びると、ともに成

長する。カーメーカーのグループ会社はそ

のパターンであるが、親亀と運命共同体と

認識して運営していくしかない。

 大企業の場合は一般的には升が大き

いので、新製品開発も資金的・人材的に

キャパがあるので、思い切った投資も許

容できるが、中小企業の場合はバランスを

とりつつ、独自の強みをつけていくことが

肝要と考える。中小企業でも、ロケットに搭

載されるとか新幹線で採用されていると

か、ぴかりと光る技術を持って生き抜いて

いる会社が時々マスコミで紹介されてお

り、長野の食品会社はトヨタの社長が師

と仰いでいるとの話も耳にする。このよう

にしっかりしたポリシーで地道に企業運営

し、大成する企業もあるので、バクチだけ

が一発逆転の選択肢ではない。

25. 6.1.2リスクの「回避・除去・共有・低減・移転・受容」の方法は

 ISO9001の場合はリスクだけ単独で

考える必要はなく、回避・除去……の中か

ら〇〇を選択という方法に必ずしもこだ

わる必要はない。6.1.2のポイントはa)、b)

への取り組みを計画つまり具体化するこ

とである。

 ここで要求される「計画」とは計画書だ

けではなく実行する仕組み・ルールととら

えてよい。リスク・機会への取り組みは「中

期経営計画」的なものになると思われる

が、b)への対応は「QMSへの統合計画

書」とはならないであろう。b)は独立した要

求ではなくa)の実施方法で、上述のよう

に実施していることをQMSに取り込めば

この要求に対応できていることになる。

 

26. 6.2.1でプロセスに対する「品質目標」が追加されているが認識があるか

 この要求の中に新たにプロセス(単位)

で品質目標を設定する要求が追加されて

いる。2008年版同様すべてのプロセスに

目標がないとダメか?という質問には、完全

にダメ!とは言い切れないのかもしれない

が、プロセスが「インプットをアウトプットに変

換する」のであれば機能が存在するはず

であり、機能を果たしているか、効果的か

を見ていくことは自然ではないだろうか?

 筆者のお勧めは、各プロセスがどんな

役割を果たしているか(付加価値のある

仕事か)という視点で、例えば機械やパソ

コンに置き換えられると判断するのであれ

ば、改善して、人間にふさわしいプロセス

にすることを期待したい。

 また、英語のmeasurableは変更ない

が、和訳が「測定可能」と変わっているの

で惑わされないように注意したい(数値の

いう意味ではない)。

組織は,品質マネジメントシステムに必要な,関連する機能,階層,及びプロセスにおいて,品質目標を確立しなければならない.

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  33

 各プロセスの目標としてはどんなことを

検討するとよいかを例示してみよう!

文書管理(プロセス):標準化の推進、暗黙知の形式知化

受注プロセス:売上及び粗利率の確保、顧客満足の向上

購買プロセス:より安価で高品質な製品の確保

設計プロセス:作りやすく、メンテナンスしやすい製品の開発、競合他社を凌駕す

る商品開発力

生産プロセス:QCDを満たした製品の製造サービスプロセス:タイミングのよいサービス提供

物流管理プロセス:効率よく、タイムリーな製品提供

27. 6.3 2008年版5.4.2b)相当だが、具体的方法が示されているか

 今回の改訂でこのタイトルにあるように

「変更の計画」と、ISO9001規格の趣

旨が明確になった。2008年版の時は品

質マニュアルの記述はあるものの、まさ

に、書いてあるだけで90%の企業で実務

とはつながっていなかった。ISO規格と

実務の融合度が一番低い要求事項で

あった。

 4.4参照になっていることも興味深い。

各企業がこの「参照」をどのくらい気がつ

いて、QMSの仕組みに取り込んでいただ

けるか楽しみである。今回の改訂で「変

更」を明確に打ち出した項はこれ以外に、

8.1、8.5.6、9.2.2がある。変更という文字を

拾うともっとあるが、2008年版で見られな

い新しい要求という意味で重要である。

 新規対応としては「変更管理規定」(図

表4)を作成し、「変更」の対照を明確にす

るところから始めていただきたい。

6.3変更の計画 組織が品質マネジメントシステムの変更の必要性を決定した時,その変更は,計画的な方法で行わなければならない.(4.4参照)

図表4 変更管理規定(例)

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34  アイソス No.228 2016年 11月号

28. 7.1.4 注記で「社会的・心理的・物理的」と例示されている環境要因にどのように対応するか

 2008年版では「製品要求事項への

適合」が対象であったが、2015年版では

「プロセスの運用」と、対象が拡大してい

る。7.1.3のインフラストラクチャーは本解説

で特に取り上げていないが同様の表現

になっている。これは5.1.1で示されてい

る事業とQMSの統合に原点があると理

解できる。つまり製品に特化するのではな

く、事業:企業全体を対象にしないと、製

品に直接関係ない部門:プロセスが生じて

しまうので、なるべく広く網掛けしようとの

意図であろう。

 企業での対応として、どこまでルール決

めするかはお任せでよいと考える。注記

で例示されている要因は大きな企業であ

ればQMSに関係なく、取り組みが行わ

れているもので今回の改訂を機に品質

マニュアルに取り込むと「事業とQMSの

統合」近づくことになる。企業の規模によ

り、どこまで取り込めるかの判断は分かれ

るが、心理的要因(例えば鬱病、精神疾

患)で社員が1名いなくなるとその影響度

合いは大企業の比ではなく、何とかならな

 適切な環境は,次のような人的及び物理的要因の組み合わせであり得る.

a)社会的要因(例えば,非差別的,平穏,非対立的)

b)心理的要因(例えば,ストレス軽減,燃え尽き症候群の防止,心のケア)

c)物理的要因(例えば,気温,熱,湿度,光,気流,衛生状態,騒音)

 これらの要因は,提供する製品及びサービスによって,大いに異なる.)

図表5 計量器点検不具合対策書(例)

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  35

い状況になる可能性が大きいと考えるの

で、中小企業でも取り組み価値があると

考える。

 2008年版では半導体製造等環境の

管理(クリーンルーム)が品質に直結する企

業以外はおまけ的な要求事項であった

が、社内の課題(4.1)とつなげて考えると

重要な要求事項に変化したとみることも

できる。

29. 7.1.5 2008年版と同じではあるが、校正の結果,異常が発見された場合の

「妥当性評価」の方法が未構築な企業がある

 先日審査で訪問した企業でも発見され

たのであるが、校正NGが発生しているの

にそれまでの検査等の妥当性が評価さ

れていなかった。品質マニュアルにはちゃ

んと要求事項通りに書いてあるが実務が

伴っていない。この現象は認証したての会

社で発生しているのではなく、認証後数年

が経過している企業でそれなりの頻度で

見る。校正NGがないために仕組みの不備

が見つからないケースもある。読者の会社

でも大丈夫かご確認いただきたい。(図表

5)

 

30. 7.1.5ソフトウェアの管理がなくなっているが該当がある場合はここで!

 2008年版7.6では「規定要求事項に

係る監視・測定にコンピュータソフトウェ

アを使う場合、……」の要求があったが

2015年版では消えている。理由は定か

ではないが、ソフトがおかしい状態では正

しい製品は生まれない。先日ドイツのカー

メーカーがテストの時と通常走行で異なる

排ガス対応する悪知恵ソフトを作成してい

たことがばれて、危機的状況になってい

る。これは悪意に基づくもので7.1.5で取

り上げた主旨とは異なるので参考にはな

らないが、万が一、不適切なソフトで検査

して出荷した場合、不具合があると致命

的になる可能性もあるので、ISO9001規

格でなくなったからといって軽視しないで

いただきたい。 

31. 7.1.6 組織の知識と2008年版の力量の管理とどのように差別化するか

 ある企業の品質マニュアルには「当社

の必要な知識はスキルマップにより明確

にし、力量が不足している場合は教育・訓

練を実施する」的な記述があり、7.2力量

の要求事項との差別が読み取れない。

 また、別な企業では暗黙知を取り上

げ、(ここまではよいのだが)標準化を推進

することが定められている。

 この要求はいわゆるナレッジマネジメント

の要求で7.3(認識)と無関係ではないが

2008年版までは個人の力量にしか目が

向いていなかったものを、企業としての技

能・技術能力ととらえた、「よく気が付いて

くれました」とISO9001の委員を誉めて

7.1.5.2 測定機器が意図した目的に適していないことが判明した場合,組織は,それまでに測定した結果の妥当性を損なうものであるか否かを明確にし,必要に応じて,適切な処置をとらなければならない.

7.1.6組織の知識 組織は,プロセスの運用に必要な知識,並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要な知識を明確にしなければならない。 この知識を維持し,必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。 変化するニーズ及び傾向に取り組む場合,組織は,現在の知識を考慮し,必要な追加の知識及び要求される更新情報を習得する方法又はそれらにアクセスする方法を決定しなければならない。

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36  アイソス No.228 2016年 11月号

あげたい部分である。

 ナレッジマネジメントの要求ととらえてい

るか、ヒントは注記・附属書A.7にあり、附

属書A.7では以下の記述がある。

a)例えば、次のような理由による知識の

喪失から企業を保護する

 −スタッフの離職

 −情報の取得および共有の失敗

b)例えば、次のような方法で知識を獲得

することを組織に推奨する

 −経験から学ぶ

 −指導を受ける

 −ベンチマークする

といった内容である。暗黙知は本人も気

づいていないことが多く、よく「体が覚えて

いる」という表現を使うが、自動車の運転

などもいちいち考えて手足を動かすわけ

ではない。これは日常の仕事でも全く同

様である。

 例として、ある年配の従業員がいて定

年退職した。今までは気が付かなかった

が、彼が辞めた途端、いろいろな情報が

入ってこなくなったり、コミュニケーションが

うまくいかなくなったり、といったことがあ

る。これは退職した本人も特別なスキルと

は考えず、メールのCCで情報を流したり、

事前に耳に入れておいたりしていたこと

が、結果的に仕事の潤滑油になっていた

ということである。また、最近の傾向として

アウトソース化がいろいろな面で実施され

ている。アップルやユニクロは製造を完全

にアウトソースで実施しているが、企業の

運営上重要な技術をアウトソースして、知

らない間に企業が弱体化することがない

ように注意が必要である。

 野中郁次郎氏らが示したプロセスモデ

ルでSECIモデルという概念があるので

研究されるとよい(参考書:知識創造企

業)。(図表6)

●共同化(Socialization)・親から子供へ、先輩から後輩へ、上司

から部下へ、同僚から同僚へ、言葉で

はなくて共有される経験を通して受け

継がれる知識(=共同化される知識)

・経験やカンによって支えられているノ

ウハウやコツといったもので、言葉に

なっていない(=言語化されていない)

という特徴がある。こうした知識のこと

を、「暗黙知(tacit knowledge)」と呼

び、こうした暗黙知は山本五十六方式

(やって見せ…)で伝えられる。

●表出化(Externalization) 言葉になっていない知識を、マニュ

アルやルールとして、文書化されたものを

「形式知(explicit knowledge)」と呼

ぶ。このようにして、組織の中で、ある知識

が言葉や図・表として共有されることを表

出化と言います。表出化された知識(=

形式知)は、暗黙知より目で見る管理に

なってくる(筆者は表出化できるのは仕事

の40%程度の考え、残りの60%は伝達手

段は共同化ではないかと考えている)。

●結合化(Combination) 組織の中で共有された形式知は、他

の形式知と「結び付けられる」とさらに強

化される。今回の筆者の約60の提言も、

バラバラだった知識が、ある特定の知識

が形式知化することで、全体として編集さ

れ、まとめられる(=体系化される)、といっ

たことで当てはまる。

●内面化(Internalization) こうして体系化された知識を基にして、

個人は(学習により)行動を変化させ、新

しい行動によって、新たしい経験が得ら

れ、ノウハウやコツといった暗黙知が個人

の内面に積みあがる(=内面化・身体知

化)。具体的にはどんなに立派な手順や

マニュアルを作ってもそれを見ながら作

業することはありえない。せいぜい宇宙船

の中で実施される各種の実験くらいでは

ないか。

共同化Socializaiton

表出化Externalization

連結化Combination

内面化Internalization

暗黙知

形式知

形式知

暗黙知

SECI モデル図表6 SCEIモデル

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  37

32. 7.2 力量に対する要求事項は内容的には同じだが、対象の表現が微妙に異なっている

 2008年版の審査では総務部門や営

業部門で力量の管理が実施されていな

いことがたまにあった。従来から製品要求

事項への適合とは製造に直接携わる人

という意味ではありませんよ。と、説明して

きたのだが、2008年版の表現では営業

はまだしも、総務部門となると、製品要求

事項(直接的な製品品質と理解している

方にとっては)には影響ない。という理解

になることも無理はないかな。ということで

やんわりと改善の機会を提供してきた。

 2015年版の改訂で、るびの部分のよう

に表現が変わり、QMSに含まれる人はす

べて対象に力量管理の実施の要求が明

確化されている。(その管理下、という表

現がまた、微妙で供給者まで入れるの?と

いう解釈も悩みの種になりそうである。現

実的には供給者に最終検査者あるいは

検査責任者・品質保証責任者を届け出

させ、検査成績書にその人のサインなり

印がないとダメ!という運用はよく見ること

である。

 

33. 7 .3 2008年版の6.2.2から「認識」を独立させた意図をどのように理解するか・・・各要員のミッション・ビジョン・ゴールを明確にし、従業員のモチベーションアップにつなげる

 ISO9001:2015ポケット版に附属され

ているISO90002基本概念及び品質マ

ネジメントの原則2.2.5.4に以下の記述が

ある。

 

 人々が,各自の責任を理解し,自らの行動が組織の目標の達成にどのように貢献するかを理解した時、認識は確固としたものとなる. 

 この内容は2008年版の6.2.2d)とほぼ

同様なもので目新しくはないのだが、マズ

ローの「欲求の5段階説」を改めて思い出

させる。(図表7)

 ISO9001:2015でわざわざ独立させた

主旨をくみ取れば、何もしないのはもった

いない。社員の活性化のため個人のプロ

モーションにつながる仕組みを検討いただ

きたい。

 

 

34. 7.3「自らの貢献」をどのように具体化するか・・・何を達成したか? 自分の行動で評価できる部分は?

 まず、名著から以下ご紹介したい。

貢献を考えることによって個人も組

2008年版6.2.2a) 製品要求事項への適合に影響がある仕事に従事する要員に必要な力量を明確にする.

2015年版7.2a) 品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(または人々)に必要な力量を明確にする.

自己実現欲求

尊厳欲求

社会的欲求

安全欲求

生理的欲求

高次の要求(内的に充たされたい)

低次の要求(外的に充たされたい)

マズローの「欲求の5段階説」

7.3認識

 組織は,組織の管理下で働く人々が,次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない.

a)品質方針b)関連する品質目標c)パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む,品質マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献

d)品質マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味

図表7 マズローの「欲求の5段階説」

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38  アイソス No.228 2016年 11月号

織も成長する 

(ドラッカー名著集『経営者の条件』より)

 「成果をあげるには、自らの果たすべき

貢献を考えなければならない。手元の仕

事から顔を上げ目標に目を向ける。組織

の成果に影響を与える貢献は何かを問

う。そして責任を中心に据える」と、ISO

9001の要求はまさにドラッカーの著書の

引用ではないかと思えるほど、「認識」に

対する主旨を言い当てている。

 これは4.2利害関係者のニーズ及び期

待の理解と関連付けて考えるのも面白

い。また「組織の管理下、(7.2も同様であ

るが)」という言葉は、ISO14001:2015

では附属書A.3で明確に「組織のために

働く人 (々例えば、請負者)を含む」と定め

ている。ISO9001にはそのような定めは

見当たらないが、供給者も品質を左右す

る要素であり、万が一、委託している工程

なり製品(部品)で問題が発生した場合は

当然企業の責任になる。多少拡大解釈

気味かもしれないが、供給者にもこの要

求を直接ではないにしても管理する価値

があると考える。

 会社勤めの人はマズローの3段階まで

は満たされている。認識を活かす方法は

第4段階で「他人から認められたい」とい

う欲求を満たす方策を検討する。具体的

にはプロジェクトのリーダーに任命したり、

小さくてもリーダーシップを発揮できるよう

な仕掛けを検討するとよい。

 第5段階は「自分の能力を引き出し創

造的活動がしたい」という欲求なので、

自己申告制やプロモーションを明示し

て、本人のやる気を喚起することである。

やる気が出た人間は最低でも2倍の活

躍をする。

35. 7.3「組織の管理下で働く人々」が主語なので、どのように「確実」になっているかを検証するか・・・「成長できる機会」につなげる

 「確実にする」は経営者の場合、自ら

実施しなくてもよい項目で使用される表現

だが、ここは主語が「組織」なので何らか

の確実にする仕組みが必要になる。

 そこで各企業の中でISOと離れて、一

般的に社員に対する動機付けの施策を

考えると、提案制度、報奨制度、人事評

価、組織を一体化するための各種イベン

ト等、工夫されているのではないかと考え

る。このようなことと、7.3の認識を結びつ

ければ、これも今実施していることをQMS

に取り込むだけでよい。決して、品質マ

ニュアルに書いてあるだけ、で終わらせな

い取り組みを期待したい。

36. 7.4内部・顧客とのコミュニケーションは2008年版では単にコミュニケーションの場や、手段を羅列しているだけであったが、どのように活用するか・・・勝てる企業になるための最初のステップ:情報共有→一体感のある組織

 2008年版の内部コミュニケーションは

2015年版では7.4に含まれたが、顧客と

のコミュニケーションだけなぜか8.2.1で独

7.4コミュ二ケーション

 組織は,次の事項を含む,品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない。

a)コミュ二ケーションの内容b)コミュニケーションの実施時期c)コミュニケーションの対象者d)コミュニケーションの方法e)コミュニケーションを行う人

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  39

立して再登場している。2008年版では顧

客関連プロセスの3番目の要求であったも

のが1番目に、順番が入れ替わっている。

顧客とのコミュニケーションをここで含める

か微妙であるが、「内部及び外部」と要求

されているので別扱いする必要はないで

あろう。

 従って、内部と利害関係者ということ

で、a)〜e)を満たす記録(文書化した情

報)をとっておかなくてはならない。どの程

度かは「決定」すればいいので、企業で

基準を決めて残すことでよい。

 a)〜e)の前向きに考えると「決定」する

のであるから、事前に会議等、決まってい

るものと考えるのがふつうであるが、定期

以外に変化点が発生した時に〇〇の情

報を流す。という決め方も考えられる。マネ

ジメントレビューや設計のDR等重要な会

議の場合c)の対象者については単に出

席者を記録にとどめておけばいいというこ

とにはならない。欠席だと、会議の主旨が

満足できないことが多い。極端な例を挙

げると、マネジメントレビューで経営者が欠

席ではシャレにならない。

 社内のミーティングの場合、朝礼的なも

のは通常議事録は残さない。〇〇会議

は通常残す。今までの実施レベルで問題

ない。「決定」していますか?に答えられれ

ば良い。

 この要求は2008年版でさえ、「QMSの

有効性に関しての情報交換が行われる

こと」という、どうすればいいのか悩むよう

な目的あるいは狙い的な言葉が読み取

れた。だが2015年版ではa)〜e)は明確化

されているものの、AnnexSLへのお付き

合い程度の意味合いしか感じられない。

ISO規格の検討メンバーがコミュニケー

ションの重要性は認識しているものの、規

格の要求事項としてどのような要求をす

れば意味があるのかの答えを見いだせな

かったものと感じる。

「コミュニケーション」は一義的には「伝

達」であるが、どの様に活かすかを次に検

討する。

 2015年版の要求事項の狙いがいま

いち不明確である。ISO14001の場合だ

と、外部とのコミュニケーションは往々にし

て苦情的なものがあるのでしっかり記録

を残し、解決すべきものとの認識がある。

また、ISO14001 :20157.4.2b)ではコ

ミュニケーションプロセスが、組織の管理

下で働く人々の継続的改善への寄与を

可能にするとの要求で、コミュニケーション

に前向きさが感じられてよい。

 これに比べるとISO9001のほうは目的

があいまいで規格の一連の流れで品質

の面でコミュニケーションをどのような位置

づけにしようとしているかが見えないので、

筆者から提言させていただく。

①世の中に氾濫している「データ」をコミュ

ニケーションにより意味のある「情報」

に変換する

②変換した情報を会議的なコミュニケー

ションにより「行動・改善」に置き換える

というストーリーはいかがであろうか?

 適切なコミュニケーションにより次のよう

な効果が期待できる。

a)意思決定を速める

b)リスク・問題点を共有化する

c)仕事のベクトルを合わせる

d)(日本的ではあるが)阿吽の呼吸を身に

着ける

e)相手の意思を咀嚼する(思いやる)

f)要員の育成・論理的説明力を育成す

る・プレゼン力を向上させる

g)感性を磨く

h)根回しする

i)有言実行

j)考えの幅を広げる・改善に糸口を見つ

ける

k)適切なコミュニケーション手段を身に着

ける(最近は何でもメールという人が増

えているが、コミュニケーション的にはよ

いことばかりではない)

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40  アイソス No.228 2016年 11月号

37. 7.5文書化の要求が少なくなったことをQMS内でどの様に活かすか-多重階層文書化の整理を促進

 ISOも約30年が経過するのでもうそろ

そろ細かいこと言わなくてもちゃんとできる

よね、って意図が読み取れる。本項を執

筆しながらISO14001の規格も併読して

いるが、この項はAnnexSLと寸分たがわ

ないし、14001とも一緒である。従って、規

格作成者は品質マニュアルの要求も廃

止になり、「なんでも文書化」を卒業した

ので、AnnexSLに記載されていること以

上には特にありません!!ということなのであ

ろう。でもこれで本当に良いのであろうか?

 現場を見ていない人が作ると、こんなこ

とになるのですね。しからば、審査でいろ

いろな企業を拝見している審査員の生の

意見や問題・改善点を提起させていただ

こう。

a)文書と記録の意味合いは本来違うのに何でごちゃごちゃにしちゃうの? 2008年版以前の規格を知らない人は

今後、文書の意味と記録の意味が使い

分けできなくなるであろう。

 ・文書は仕事の指示につながる内容

が記述されたもの(ルール・基準)

 ・記録は証拠・トレーサビリティ

 この使い分けはしっかり維持していただ

きたい。文書・記録管理規定的なものを

持っておられる企業は踏襲していただき

たい。

b)7.5.2の作成更新c)で記録にまで承認が必要と理解するの? 2008年版を知っている人および、解説

書では7.5は2008年版の4.2.3、4.2.4踏

襲していると一言で片づけているが、文

書だけ承認でいいのでは?記録にも通常

誰が記録したかは残るがこれは承認とは

言わないですよね!

c)文書類の電子化の進行を意識した改

訂と読めるが、7.5.3.1b)で文書化した情報が十分に保護されている この要求もISO 9001の視点では余

計なお世話です。どこの企業でも、ISO/

IEC27001を取得していなくても、パソコ

ンの管理、USBの管理は結構できていま

す。アクセスに対し職位や部門によって見

ることを制限したりもできています(審査で

会議室などでやるとそのパソコンでは必要

な資料が見ることができない〈権限が付与

されていない〉ことがあり、困りますが)。

d) ISO取得して10年以上経過した企業でまだ、認証当初のルールがそのままのものが結構ある もう頭に入ったでしょ!と言いたくなる場

面があり、必要に応じてではあるが簡略

化を期待したい。

e)会社の総務部門管理の古い文書体系とISOの文書体系が整理できていない この部分こそ業務とQMSの統合をお

願いしたい。

f)現場には現場責任者が工夫して作成した基準書的またはワンポイント的な紙が掲示されているが、現場責任者に「これって文書ですか?」と聞くと日付も承認も版数もなくちょっと慌てている

7.5.2作成及び更新

 文書化した情報を作成及び更新する際,組織は,次の事項を確実にしなければならない。

a)適切な識別及び記述(例えば,タイトル,日付,作成者,参照番号)

b)適切な形式(例えば,言語,ソフトウェアの版,図表)及び媒体(例えば,紙,電子媒体)

c)適切性及び妥当性に関する,適切なレビュー及び承認

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  41

 もうそろそろ文書、記録の違いを覚えて

ください。

g)記録類の電子化は大いに進めるべきであるが、審査でもなかなか探し当てられないことがある もちろん審査のために行っているので

はなく、整理できていないんだから、さぞ日

常でも困っているんじゃないですか? な

に! 困っていないって! それって記録と

してとっておかなくてもいい書類なんじゃ

ないの?

h)保管期間がなくなったが、7.5.3.2d)の保持で代用? 確かに電子化すると保管期間を決め、

期限が過ぎたらきっちり捨てる。これは紙

の場合、重要である。前に書いたように電

子ファイルでもごちゃごちゃではいざという

とき引っぱり出せないので電子内でもファ

イリングと不要な電子のごみも整理したほ

うがいいと考える。

i)文書のレビュー(定期見直し) これも筆者が審査で見ると「文書は毎

年見直し……」的な内容が定められ運用

されるようになったと感じる。7.5.2c)に適

切なレビューとはあるが、その前に「適切

性及び妥当性に関する」となっているの

でここを2008年版4.2.3b)に当てはめれ

ばよい。

38. 8.1「意図しない変更によって生じた結果」として何を該当させ、リスクに基づく考え方をシステムにどのように反映させるか

 8.1運用の計画及び管理では箇条6で

決定した取り組みを実施するために箇条

8があるとの表現である。それでは今一度

箇条6を確認すると、

6.1リスク及び機会への取り組み

6.2品質目標及びそれを達成するため

の計画策定

6.3変更の計画

 で構成されている。本項のテーマ「意図

しない変更」は悪いことを含めて、想定外

が発生した場合に、より強固にレビューし、

「有害な影響を軽減する処置をとらなけ

ればならない」としている。特に記録の保

持という要求はない。

 意図しない変更が発生すること自体

が、意図した変更の管理が不十分だっ

た。想定の範囲が狭かった。という論理

で、この項自体は有害な影響を軽減する

8.1運用の計画及び管理

 組織は,次に示す事項の実施によって,製品及びサービスの提供に関する要求事項を満たすため,並びに箇条6で決定した取組みを実施するために必要なプロセスを,計画し,実施し,かっ,管理しなければならない(4.4参照)。

a)製品及びサービスに関する要求事項の明確化

b)次の事項に関する基準の設定 1)プロセス 2)製品及びサービスの合否判定c)製品及びサービスの要求事項への適合を達成するために必要な資源の明確化

d)b)の基準に従った,プロセスの管理の実施

e)次の目的のために必要とされる程度の,文書化した情報の明確化及び保持

 1)プロセスが計画通りに実施されたという確信を持つ。

 2)製品およびサービスの要求事項への適合を実証する。

 この計画のアウトプットは,組織の運用に適したものでなければならない. 組織は,計画した変更を管理し,意図しない変更によって生じた結果をレビューし,必要に応じて,有害な影響を軽減する処置をとらなければならない。 組織は,外部委託したプロセスが管理されていることを確実にしなければならない(8.4参照)。

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42  アイソス No.228 2016年 11月号

処置を要求しているがこれ自体は当たり

前なことで、仕組みで考えると読み切れな

かった、経験不足だったということ以外考

えられない。仕組みとしては「過去トラ(過

去のトラブル事例集)」を作成し、想定の

範囲を広くしておく。また、スポーツの世界

でよく実施されているが、「イメージトレーニ

ング」も役に立つかもしれない。

 審査でいろいろな地方へ行くので、交

通障害に遭遇することがままある。審査員

としての対応はあらかじめここが止まった

ら、このルートで、とか、今日はこの時間は

悪天候の影響が出そうなので早めの移

動に切り替える。こういったことで乗り越え

てきた経験がある。

 各企業における業務も同様で、すべて

計画通りに進行することのほうが稀であ

る。各要員ごと、業務ごとに引き出しをたく

さん準備しておくことが重要である。

39. 8.2.1 顧客とのコミュニケーションの中で発生する

「不測の事態」の具体化

 「 不 測の事 態 」とは原 文だと

「contingency」で不測という訳で正しい

のではあるが、読めるか/読めないかと

いうと、読める不測である。contingency

planという用語もあり、企業が、為替相場

の急変や石油輸入ストップなどの不測の

事態をあらかじめ想定し、それに対する有

効な対処法を計画しておくこと。緊急時

対応計画としては今はやりの仕組みとし

ては「事業継続計画:BCP」である。ただ

し、この項は「確立」が要求なので、顧客

と早めに取り交わしをしておくことが必要

である。

 この要求は企業により実施済みの場

合と、まだ考えてもいなかったという企業

に分かれると思う。東日本大地震(東北

地方太平洋沖地震)や熊本地震(2016

年)ではサプライチェーンが分断され、電気

及び自動車他いろいろな企業が生産を

一時停止せざるを得ない状況が発生して

いる。ただし、各所関連では消防・警察・

自衛隊などの指示系統や政府の激甚災

害の指定等は改善がみられる。

40. 8.2.2「当社が製品及びサービスに関して主張していること」とは何かを具体化

 2008年版7.2.1とタイトルは同じである

が、7.2.1の内容は8.2.3に移動しており、

8.2.2は実質新しい要求と考えるほうが適

切と判断する。それではどのような場面を

想定しているかを考えると、顧客と商談に

入る前の状態と考えられる。筆者はコンサ

8.2.1顧客とのコミュニケーション 顧客とのコミュニケーションには,次の事項を含めなければならない。

a)製品及びサービスに関する情報の提供

b)引合い,契約又は注文の処理。これらの変更を含む。c)苦情を含む,製品及びサービスに関する顧客からのフィードバックの取得

d)顧客の所有物の取扱い又は管理e)関連する場合には,不測の事態

への対応に関する特定の要求事項の確立

8.2.2製品及びサービスに関連する要求事項の明確化

 顧客に提供する製品及びサービスに関する要求事項を明確にするとき,組織は,次の事項を確実にしなければならない。

a)次の事項を含む,製品及びサービスの要求事項が定められている。

 1)適用される法令・規制要求事項 2)組織が必要とみなすものb) 組織は,提供する製品及びサービ

スに関して主張していることを満たすことができる。

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  43

ルタントの仕事も実施しているので、例え

ば、コンサルのオファーがあり、他社とのコ

ンペ状態になり、オファー頂いた企業(顧

客)に対しプレゼンすることがある。ここでは

コンサルフィーの話はまだ出ない。

 例えばISO9001:2015への乗り換え

のサポートを依頼受けたとすると、当社で

はこのようなスケジュールで変更審査まで

サポートします。というだけではどこに依頼

しても同じようにしかならない。他社との

差別化を売り込む必要がある。当社のア

ドバンテージは改善型で自立支援型のコ

ンサルが売りなのであるが、最近は品質

マニュアルの作ってくれるの?的な全面委

託、丸投げ希望が増加しており、ちょっと

抵抗がある。

 という話はさておき、合い見積もりでプ

レゼンを通じ当社を採用していただけるよ

うな主張がb)と理解してはいかがであろう

か? 自社開発型の場合特にこの概念

が強い。これも自動車の事例になるが、F

社が初めて、自動ブレーキを採用した車を

発表した時などがまさに、当社の主張であ

り、M社の燃費偽装は主張を満たすこと

ができない事例であり、顧客をだましてい

る。ISO9001:2015としては失格の会社

ということになる。排ガスでインチキソフトを

使用したV社も同様である。

 6.1の(リスク及び)機会はSWOT分析で

考えると社内の強みとセットで商機をもの

にする取り組みにつなげていただきたい。

41. 8.2.3「顧客が明示していない要求事項」は2008年版の時も実務とのつながりが明確でなかった

 2008年版の7.2.1b)であり今回8.2.2

が商談前と考えた場合、商談時の要求

に含まれた内容で、2008年版の時もどの

ようなものかがほとんど理解されずただ品

質マニュアルに書かれているだけの活用

度ゼロの要求事項であった。

 これも自動車の事例になるが、燃費が

カタログ通り(このような車はほとんどない

が)、気持ちよく加速する、エンジンが静

か、ブレーキがちゃんと効くなど、「当たり前

品質」という言葉が使われる範囲の要求

と考えるとよい。

 機械加工で糸面取りを事例に出すこ

ともある。亜鉛メッキでは外観品質やバリ

の処理の程度などもどこに使われる製品

かにより図面指示がなくても「当たり前品

質」で企業側が考えないといけないような

ことを指している。ぜひ自社の製品でその

ようなことを探したり、具体化して、社内指

示につなげていただきたい。これも7.1.6

組織の知識に該当するかも。

42. 8.3 設計・開発の適用範囲は変更する必要があるのか

 まず、2008年版と2015年版で「設計・

開発」がISO9000用語の定義としてど

のように変わっているかを示す。

2008年版:要求事項を製品、プロセスまたはシステムの規定された特性又は仕様

書に変換する一連のプロセス

2015年版:対象に対する要求事項を、その対象に対する詳細な要求事項に転換

する一連のプロセス

 このように微妙に変更されている。

「2008年から主旨の変更はない」と、

QMS国内委員会メンバーが記述した参

考書には書いてあるが、2008年版では

8.3.1一般 組織は,以降の製品及びサービスの提供を確実にするために適切な設計・開発プロセスを確立し,実施し,維持しなければならない。

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44  アイソス No.228 2016年 11月号

一般的な表現であるが7.1注記2「組織

は,製品実現のプロセスの構築にあたっ

て,7.3に規定する要求事項を適用して

もよい。」に基づき「工程設計」は含め

ない。このような理解ではなかったのか? 

これは一般的に含めないが……という意

味での注釈である。ISO/TS16949で明

確に工程設計を要求しているのとは大き

く違う。

 国内委員会の先生方の希望的解説

は理解できる。設計・開発の要求事項

を導入すると、設計品質(対象が工程で

あっても)が大幅に向上する可能性がある

ことは間違いないが、国際会議でもそこま

でのコンセンサスは得られなかったのであ

ろう。

 従って、各認証機関の共通の意見と

して、今まで設計なしでシステムを作った

企業に対しては2015年版適用に当たり、

プロセス設計(製造であれば、部品図・組

み立て図、設備メーカーでは施工図的な

もの)に変化がない場合、2015年版の移

行条件を審査側から要求することは企業

(受審企業)に負担を強いることになり、こ

れを強制することになれば、登録返上企

業の増加を招く懸念が強くなるであろう。

ただし、JABから規格改訂説明会でこの

内容の説明資料が出されており、今後の

認証機関の対応を見守るしかない。

43. 8.3.2 a)「設計・開発活動の複雑さ」をどのように考慮するか

 2015年版でも8.3.2は「設計・開発の

計画」と計画という文字があるが、本文に

は計画ではなく「段階及び管理を決定」

という表現になっている。計画書はもう要

求されていないのか?タイトルが計画となっ

ているので、計画書に織り込む内容と理

解する。もちろん1枚の紙ですべてが網羅

させていなくでも問題はない。

 また、a)〜j)と10項目あるが、2008年

版の「明確にする」から今回は「考慮す

る」となっており、該当しないものは除外

してもOKになり、例示という要素が強く

なった。

 これからが本項の主旨である。2008年

版では考慮されていなかった複雑さとい

う要求が出てきた。これは設計開発と一

口に言っても対象の難易度は様々であ

る。顧客の都合である部位の長さをちょっ

と変えるだけの簡単な設計(この事例は

製図と呼んで設計に入れなくてもよいか

も)から、世界初の製品を設計する場合と

大きな違いがある。ISO規格もやっとこの

レベルに気が付いてくれたというのが筆

者の感想である。

 具体的にはS,A,B,C,Dとランク付けし

て、ランクごとに実施内容のルールを作る

方法である。Sは世界初、Aは日本初、B

は当社初、Cは既存の製品のモデルチェ

ンジ、Dは既存製品のマイナーチェンジと

いった意味合いである。

44. 8.3.2 e)設計・開発の外部資源とはどのようなことがあるか

 内部及び外部資源の必要性となって

いる。2008年版では「設計・開発に関連

するグループ間のインターフェイスの運営

管理」が要求されていたが、2015年版で

はf)にその記述がみられる。グループにつ

8.3.2設計・開発の計画 設計・開発の段階及び管理を決定するに当たって,組織は,次の事項を考慮、しなければならない。

a)設計・開発活動の性質,期間及び複雑さ

e)製品及びサービスの設計・開発に必要な内部資源及び外部資源の必要性

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  45

いて、内外には触れていないが、外部と

しては顧客、設計委託先、供給者(原材

料と加工委託)、実験・試験を委託する評

価機関などが考えられる。内部は製造、

サービス、購買、品質保証、生産技術、生

産管理などであろう。

 e)で対象部門を明確にし、f)でどの時

点でどのように関係するか(インターフェイ

ス)を明確にする、という2段構えになった

と考えるとよい。

45. 8.3.2 g)顧客及びユーザの参画の必要性の具体化

 更にg)で顧客・ユーザとの接点にも言及

しているのでe)を含めて、設計・開発業務

フローを作成して明確にするとよい。また、

8.3.2a)で示された設計・開発の複雑さによ

り、どのような条件の場合は、顧客との調整

が必要であることを明確にすることもよい。

46. 8.3.2 h)以降の製品の提供に関する要求事項として、後工程やアフターサービスを考慮しているか

 英語でsubsequentとなっているので、

ある場合には、

a)アフターサービスの視点で部品交換や

修理がしやすいか?

b)最近の製造方法としてブロック化や

ユニット化が進んでいるので、アフター

サービス時、例えば10円の部品が故障

したために1万円のユニットを交換しな

いといけないとなるとユーザは納得しが

たい。このようなことは設計段階で考慮

しておかないといけない。

c)製造しやすい設計か

d)なるべく共通部品を採用しているか

などがあげられる。

47. 8.3.2 i)顧客・利害関係者によって期待される管理レベルとは

 車や家電など組み立て産業、土木・建

設業などは供給者により前工程(部品)

の設計が任されている(承認の仕組みは

あっても)場合は供給者の実力や親会

社の技術力により、どこまで管理するか

(首を突っ込むか)を決めることが要求され

た。今の製品は半導体なしには考えられ

ないものが多いが、半導体の知識は企業

にはブラックボックスの場合が多い。誤動

作や、発火などのメカニズムが供給者の

知識に任せられている場合は供給者が

どのような検証を実施しているかをチェッ

クすることが重要である。(次頁図表8)

 レベルとしては下記のような区分が考え

られる。

①すべてお任せ(これは実質許されない)

②要求事項への適合の証拠で検証

③検証方法も確認

④共同でDRを実施

⑤共同設計

g)設計・開発プロセスへの顧客及びユーザの参画の必要性

i)顧客及びその他の密接に関連する利害関係者によって期待される,設計・開発プロセスの管理レベル

h)以降の製品及びサービスの提供に関する要求事項

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46  アイソス No.228 2016年 11月号

48. 8.3.3 e)製品およびサービスの性質に起因する失敗としてどのような行為に結び付けるか

 「性質」という言葉は英語でnatureが

使われている。この単語は2008年版の

8.3で「不適合の性質の記録」という使い

方がされており、2015年版でも10.2.a)に

踏襲されている。なかなか日本語としてう

まい訳がないが意味合いとしては「本質:

不具合の原因にまでさかのぼって」という

ニュアンスと理解している。

 また、製品の性質としては、

①使用頻度(車のハザードランプや中国

でのホーン、ABSの使い方)

②使用環境(砂漠で使う、極寒地で使う)

③使用者(老人か若者か)

設計・開発フロー図

8.3.3設計・開発へのインプット

 組織は,設計・開発する特定の種類の製品及びサービスに不可欠な要求事項を明確にしなければならない。組織は,次の事項を考慮しなければならない。

e)製品及びサービスの性質に起因する失敗により起こり得る結果

図表8 設計・開発フロー図(例)

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アイソス No.228 2016年 11月号  47

④使用目的(猫を乾かすのに電子レン

ジ?)

などがある。

49. 8.3.4 a)「達成すべき結果」を各プロセス段階で考慮しているか

 これは一見明確なように考えるが、開

発を進めていく中で、まったく勝算がない

ことはありえないが、多分にチャレンジの

要素が大きい。M自動車の燃費偽装も目

標はあるものの、他社との競争もあり、目

標の燃費に到達する技術が確立できず、

偽装という悪の道に入ってしまった。また、

T社のハイブリッド車開発時、上層部から

「燃費2倍」という目標が掲げられ、設計

者は悩んだが努力の結果達成できた。と

いうエピソードも聞いている。

 とはいえ、時間との勝負もあり、結果(目

標)は希望目標と必達目標に分ける方法

もよいのではないか。

 

50. 8.3.4 b)2008年版以降「レビュー」の意味が理解できていない

 2008年版で「レビュー・検証・妥当性確

認」の3セットの理解・運用がうまくいって

いない企業が多く見受けられた。2015年

版にも軽くなってはいるが残されている。

 レビューとは日本語では「審査」が一番

近く、筆者は「節目管理」と説明している。

8.3(特に7.3.1)の中にも何回も「段階」が

出て切るが、この段階という言葉を筆者は

「節目」と理解している。開発でも製造で

も節目を設けて、チェックし悪いものを後

工程に流さない方法は品質保証の王道

である。

 ある企業では文書のレビュー(確認)

や注文のレビューの同程度の意味合い

の理解し、ルールを決めていて、筆者は

ちょっと軽いのでは?とお伝えした。

 設計のレビューは、

①各段階の目的

②レビュー者(審査者)

③方法

④レビュー結果(OK、条件付きOK、NG)

⑤またOKでない場合の後日の結果

⑥設計の難易度による、段階の基準(難

易度が高いほど段階が多い)

のような要件を明確にすることが望まし

い。

「フロントローディング」という考え方があ

る。フロントローディングとはモノづくりのプ

ロセスにおいては、不具合発生による設

計変更はそれが下流の工程で見つかる

ほどコストと時間が必要になる。また、製

品コストの大部分は設計段階で決まって

しまうため、その後の価格低減の余地は

小さい。これらのことからできる限り、製品

開発の初めにコスト、品質を作りこむこと

を意味する。ただフロントローディングを進

めると、特に設計部門は負荷が増加す

る。そこで、フロントローディングを行うときに

は、CAD、3Dデータでのデザインレビュー

などのツールを効率的に活用してシュミ

レーションをコンピュータ上で行ったりする

ことで不可と時間の軽減化を図ることが

重要になる。

b)設計・開発の結果の,要求事項を満たす能力を評価するために,レビューを行う。

8.3.4設計・開発の管理

 組織は,次の事項を確実にするために,設計・開発プロセスを管理しなければならない。

a)達成すべき結果を定める。

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51. 8.4.1 b)「外部提供者から直接顧客に提供される場合」は外注加工先から社内を経由しないで直接顧客に納入されることで、ある場合でも品質マニュアル・規定等で定められていないことが多いので、これは製品のリリースの決まりごとが社内と同じようにできないことを(特に社内検査ができない)検討する必要がある

 この要求は2015年版で追加されたも

のではあるが、筆者は審査の中で有無と

確認し、ある場合には製品のリリースの仕

組みがあるかを確認してきた。今回明確

に要求事項になったので、検証がしやす

くなったと感じている。

 この仕組みがない企業は結構あると

思われる。明確な仕組みが説明できない

場合には供給者でどのような検査を実

施し、記録を残すかを検討する必要があ

る。企業として、どのような仕組みを説明

できると妥当なのかを例示しよう。

①検査表を出荷の都度送ってもらい承

認する(これはタイミングの問題で現実

的ではない)。インターネットでリアルタイム

に承認ができれば実施してもよいが。

②年に何回か供給者に出向き、仕組み

が機能しているかを検証する。

③供給者の検査員を登録して、必ずその

人が検査したことを記録に残す。

また、自社保証の観点で、すべて、一度

自社に納入してもらい出荷する場合、納

入後検査だけして主化する場合も見受け

るが、効率の面であまり評価できない。

52. 8.4.2「組織の能力に悪影響を及ぼさないことを確実にするため」と具体化されているので、どのようなケースがあるかをより明確にする取り組みが必要

外部から提供されるプロセスを組織の

マネジメントシステムの管理下にとどめるこ

とを確実にする。これは非常に管理の幅

が広いので、各企業で今までに供給者

起因で発生した不具合を棚卸し、十分と

判断すれば、最低限のいわゆる「継続評

価」だけでもよい。ただしISOを取得して

いてもなかなか品質が良くならない企業

にとっては何等か手を加えることの検討

をすべきであろう。

8.4.1一般

 組織は,外部から提供されるプロセス,製品及びサービスが,要求事項に適合していることを確実にしなければならない。 組織は,次の事項に該当する場合には,外部から提供されるプロセス,製品及びサービスに適用する管理を決定しなければならない。

b)製品及びサービスが,組織に代わって,外部提供者から直接顧客に提供される場合

8.4.2管理の方式及び程度

 組織は,外部から提供されるプロセス,製品及びサービスが,顧客に一貫して適合製品及び適合サービスを引き渡す組織の能力に悪影響を及ぼさないことを確実にしなければならない。 組織は次の事項を行わなければならない。

a)外部から提供されるプロセスを,組織の品質マネジメントシステムの管理下にとどめることを確実にする。

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アイソス No.228 2016年 11月号  49

53. 8.4.2 b)「外部提供者に適用するための管理及びそのアウトプットに適用するための管理」と対象が2つあることが明確になっているが、対応できているか

 この要求は2008年版7.4.1でも述べら

れていたことで同じなのだが、

・製品に関しては7.4.3購買製品の検証・供給者に関しては7.4.1の評価選定で実施しているだけで、本来は「保証納

入:受け入れ検査をやらない管理」まで

品質を高めることを検討するとよい。

 また、供給者そのものに対する管理も

単なる評価表の紙1枚だけではなく品質

等で評価が低い供給者には共同で改善

活動を実施したり、指導したり、監査したり

する必要がある。ISOのためだけの評価に

なっていないかを再確認することが必要。

54. 8.4.2 c)「外部提供者によって適用される管理の有効性」と、外部提供者が自分で実施している管理のレベルをちゃんと見ろ!と要求されたのだが・・・

1)組織の能力に与える潜在的な影響 供給者の内部で発生している体制の

変更等があり、品質保証責任者の届け

出制や工程等変更があった場合の届け

出などの仕組みがあるとよい。

2)外部提供者によって適用される管理の有効性 この要求は非常に意味のある要求と

考える。具体的には供給者に対する管理

としては大半が評価表だけであり、評価

表はいつから作っている?というと、ISO認

証から。との返事がほとんどである。これ

は有効性からみると後付けなので本来な

くてもよかった場合が多くみられる。

 またこの部分への対応はほとんどの企

業が新たに仕組みを作る必要があると考

える。

55. 8.4.2 d)「その他の活動」としては外注監査等が考えられるが・・・

 既述したが、供給者に対する方針展

開、書類審査、監査、指導、共同改善な

どがあり、供給者のランク付けやワースト

10等の仕組みとセットで運用するとよい。

56. 8.4.3 d)「外部提供者との相互作用」は外部提供者から受け取る製品の影響度や、組織から外部提供者への影響項目の伝達といった要求であるが、該当することを明確にする必要がある

b)外部提供者に適用するための管理,及びそのアウトプットに適用するための管理の両方を定める。

c)次の事項を考慮に入れる。 1)外部から提供されるプロセス,製品

及びサービスが,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を一貫して満たす組織の能力に与える潜在的な影響

 2)外部提供者によって適用される管理の有効性

d)外部から提供されるプロセス,製品及びサービスが要求事項を満たすことを確実にするために必要な検証又はその他の活動を明確にする。

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50  アイソス No.228 2016年 11月号

 2015年版で以前の品質マネジメントシ

ステムの8原則の8番目「供給者との互

恵関係」が2015年版発行で「関係性管

理」となったが、上述した、供給者への方

針展開などでWIN-WINの関係を伝達

すること、万一供給者内での不具合を

内在する製品が提供されると親会社とし

て、検証が難しくそのまま市場へ流出す

ること、また、一部の企業であるが、顧客

から「この図面の製品・部品を作ってく

れ」とのオファーはあるがどのように使わ

れるのかが知らされない場合があり、これ

など信頼関係の面ではいまいちの付き

合いと感じる。(図表9)

 

図表9 供給者品質監査手順(例)

8.4.3外部提供者に対する情報

 組織は,外部提供者に伝達する前に,要求事項が妥当であることを確実にしなければならない。 組織は,次の事項に関する要求事項を,外部提供者に伝達しなければならない。

d)組織と外部提供者との相互作用

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  51

57. 8.4.3 f)「外部提供者先での妥当性確認活動」とはどのようなことが該当するか

 この要求も2008年版7.4.3から踏襲され

ている内容ではあるが、あまり明確にされて

いない企業を見ている。8.4.1b)も含まれる

が、定期的な供給者の管理方法の妥当性

をちゃんと見なさいと理解することが必要で

あろう。ぜひルール化していただきたい。

58. 8.5.1 g)新規要求事項の「ヒューマンエラー」に対する取組を反映させているか

 この要求も新規であり、チャレンジ的で

好感が持てる。ただし、難しい。改善を進

めていくと、ルール化、自動化ができず最

後に残る難題である。ヒューマンエラー防

止の研究も多々行われているが、中小企

業の目に触れることは少ないようだ。ヒュー

マンエラー防止は作業者による違いを観

察してエラーを全く起こさない人の頭の

中を解き明かすことがヒントである。筆者も

カーメーカー勤務時にいろいろ研究しトライ

し、それなりの成果を上げたことがあり、各

企業ごとにまだまだ改善できると考える。

59. 8.5.4注記に「汚染防止」が追加されているので、保存という視点でより明確にする内容がないかを確認

 あまり度が過ぎるとISO14001との区別

がなくなりそうであるが、情報セキュリティも環

境も単一の視点だけだと、外から見ていて

過剰管理と感ずる面がある。最近の事例

だと某企業に審査に伺い、報告書を渡そ

うとしたとき、いっさいのUSBを受け付けな

い仕組みのようでメール添付しか方法がな

い。筆者は最近までパソコンにWi-Fi機能

を持っていなかったので、こうなるとお手上

げである。またある企業ではメールにファイル

を添付できないように縛ってある。こうなると

昔に戻って、FAXですか?情報または、環

境の審査員には怒られるが、これらはやり

すぎでこんなことで情報漏えいが防げます

かと言いたい。悪意がある人はどんな状況

でも突破して盗むのである。うっかりミスを防

ぐ程度であれば、もっと賢い方法があると

感ずる。これらで仕事がやりにくくなっている

弊害のほうが大きいと思うが……

60. 8.5.5注記でリサイクル・最終廃棄の記述があり、環境ISOを持っていない場合も製品のライフサイクルを考慮する必要がある

g)ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する

f)組織又はその顧客が外部提供者先での実施を意図している検証又は妥当性確認活動

8.5.1製造及びサービス提供の管理

 組織は,製造及びサービス提供を,管理された状態で実行しなければならない。 管理された状態には,次の事項のううち,該当するものについては,必ず,含めなければならない。

注記 保存に関わる考慮事項には,識別,取扱い,汚染防止,包装,保管,伝送又は輸送,及び保護を含まれ得る。

注記 引渡し後の活動には,補償条項(warrantyprovisions),メンテナンスサービスのような契約義務,及びリサイクル又は最終廃棄のような補助的サービスの下での活動を含まれ得る。

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52  アイソス No.228 2016年 11月号

 これも前項と同じである。2008年版で

は7.5.1f)に記述されていた内容が、8.5.5

と独立して出世した。実質的には該当す

る場合は8.5.5で明確にしておくとよい。

61. 8.5.6 2015年版で何か所かに要求されている変更管理の1つで、4M変更が該当する

 この要求は6.3同様2015年版の目玉

的な新規追加項目と理解する内容であ

る。6.3がQMS全体にかかわる変更を取

り扱っているのに対し、ここでは製品実

現に限定している。2008年版の時から契

約の断面、設計の断面では要求があり

2015年版でも継承されている。

62. 8.6 b)トレーサビリティに対する仕組みの追加は必須項目

 2008年版7.5.3で「要求事項となって

いる場合」のみの要求であったが、2015

年版ではマストの要求となった。これは最

近の状況として、CSR(企業の社会的責

任)の一環でリコールの仕組みがない食

品、電気製品、ガス関連機器などでも製

品の回収が実施されており、トレースの仕

組みがないために多大な費用の場合によ

り企業の看板に大きな傷をつける状況が

頻発している。

 規格の要求は「リリースを正式に許可

した人」だけであるが、企業生命を守る

視点でトレーサビリティは検討が必要で

ある。

63. 8.7.2 d)不適合に関する処置の決定権限は2008年版では文書化要求項目であったので「責任権限」は要求されていたと理解できるが、今回記録の要求はあるが文書化の要求はないため、どのような不適合を誰が判断するのかを再確認する必要がある

8.6製品及びサービスのリリース

 組織は,製品及びサービスの要求事項を満たしていることを検証するために,適切な段階において,計画した取決めを実施しなければならない。 計画した取決めが問題なく完了するまでは,顧客への製品及びサービスのリリースを行ってはならない。ただし,当該の権限をもつ者が承認し,かつ,顧客が承認したとき(該当する場合には、必ず)は,この限りではない。 組織は,製品及びサービスのリリースについて文書化した情報を保持しなければならない。これには,次の事項を含まなければならない。

b)リリースを正式に許可した人(又は人 )々に対するトレーサビリティ

8.5.6変更の管理

 組織は,製造又はサービス提供に関する変更を,要求事項への継続的な適合を確実にするために必要な程度まで,レビューし,管理しなければならない。 組織は,変更のレビューの結果,変更を正式に許可した人(又は人々)及びレビューから生じた必要な処置を記載した,文書化した情報を保持しなければならない。

8.7.2組織は次の事項を行った文書化した情報を保持しなければならない。

a)不適合が記載されている。b)とった処置が記載されている。c)取得した特別採用が記載されている。

d)不適合に関する処置について決定する権限をもつ者を特定している。

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  53

 この要求へはどこの企業でも対応がと

れていると思うが、あえて、筆者の体験を

紹介させていただく。

 供給者で不具合があり、調査していく

と、現場の作業者が不良を発見し、手直

しを行い次工程に流した。ところが結果

的に手直し方法が不適切であり、現場責

任者に報告が行ってないことも判明した。

 この事例からいえることはどのような不

具合はだれが(判断することも力量の1

つ)判断するかを想定できる範囲で決め

ておくことが重要である。安全目を見て、

「すべて上長に打ち上げ!」というのは脳

がないルールである。つまり、要員に自主

性を持たせる部分がない。想定できる不

具合はセキュリティ直し方法も標準化し、

手直しの資格又は力量を管理する。ま

た、状況により手直し方法が異なる場合、

想定外の不具合などは上司に報告。と

いったルールが必要である。

64. 9.1.1 a) 2008年版8.2.3ではすべてのプロセス(とは明記されていないが)が監視対象であったが、2015年版では必要な対象を明確にすればよいことになった

 それでは、どのように対象を絞り込む

か?想像できる答えとしては「重要なプロセ

ス」ということになるが、筆者は重要でない

と判定されたプロセスも誰かが担当してお

り、監視しなくてよいプロセスはない!と断

言したい。

 監視する人が1人とか限定される場合

は重点志向でやむを得ないが。その場合

は管理者の管理スパンが不適切という見

方ができる。最近もう1社燃費で不適切な

管理が発覚し、CEOの会長が肩書を外

す旨、記者会見を行い、その席で、S会長

が今後は集団指導体制に持っていくと

の発表をニュースで聞いた。

 話が脱線しっぱなしであるが、一代で

超大企業にしたカリスマ会社が日本にも

何社もあり、S自動車の前にもコンビニの

雄で退任劇もあり、管理スパンの問題は

結構大きな落とし穴になっていることを痛

感する。

 

65. 9.1.1各プロセスの監視とともに、QMSのパフォーマンス及び有効性評価が要求されているので、具体化が必要。ここは業務とQMSの統合に度合いを見る要求事項を理解できる

 2015年版にはパフォーマンスという言

葉が、おびただしく出てくる。2008年版で

は直接的には出てこなかった。かろうじ

て有効性という表現が使われていた。パ

 組織は,パフォーマンス及び品質マネジメントシステムの有効性を評価しなければならない。 組織は,この結果の証拠として,適切な文書化した情報を保持しなければならない。

9.1監視,測定,分析及び評価

9.1.1一般

 組織は,次の事項を決定しなければならない。

a)監視及び測定が必要な対象

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54  アイソス No.228 2016年 11月号

フォーマンスは用語集の定義として「測

定可能な結果」で有効性は「計画の達

成度」という説明がある。パフォーマンスの

定義は何とも味気ないが、ニュアンス的に

は「向上させるべきもの」とか「評価すべ

きもの」である。パフォーマンスが低い。と

いう表現は期待値があり、改善を促す雰

囲気があり、測定可能な結果を上げろ!で

は、力が出ない。

 このことからQMSを構成する各プロ

セスでパフォーマンス(指標)を設定して

管理することを徐々に拡大していただき

たい。

 

66. 9.2.2 a)監査プログラムの作成する場合「組織に影響を及ぼす変更」を考慮に入れることが要求されている

 この新規要求も見逃してほしくない項

目である。2008年版でも監査プログラム

作成の条件に「プロセス及び領域の状

態」があった。これに気が付いた企業は

監査ごとに重点を決めて実施する仕組

みを持っているが、10%に満たない。

 このことから、筆者が審査する場合、各

部門で「この1年間での変化点はありまし

たか?」という確認から始めている。チェック

リストを使用するのであればぜひ1つ目の

確認で入れていただきたい。

 67. 9.3.1「組織の戦略的な方向性との一致」がマネジメントレビューの目的として明確化されたことにより、a)〜f)のインプットを通して、戦略的方向性に対する一致度に触れる必要がある

 どこの企業でも品質マニュアルにこの

一文は入れるであろうが、この内容を実践

しているかを質問しても答えが返ってこな

いのではないか? 具体的な質問としては

「戦略的方向との一致をどのように見て

いますか?」。大半の企業では「御社の戦

略的方向性を説明してください」と聞いて

も答えがないと考えられる。

 そもそも9.3.1の前で序文以外には

4.1,5.1、5.2の3ヵ所で「戦略的」という用

語が使用されているが、いずれもすでに

決まっていることとして扱われており、ど

こかの項で「戦略的方向性を定めろ」と

いう要求事項がないのである。これは珍

しくハイカラな言葉を採用したために規

格の作者が見落としているとも思われる

(AnnexSLの要求とのことであるが)

 要求では欠落しているが、戦略的方向

性を「中期経営計画」の導入により明確

にしていただきたい。

68. 9.3.2 e)「リスク及び機会への取り組みの有効性」をどのように評価するかも課題

9.2.2組織は,次に示す事項を行わなければならない。

a)頻度,方法,責任,計画要求事項及び報告を含む,監査プログラムの計画,確立,実施及び維持。監査プログラムは,関連するプロセスの重要性,組織に影響を及ぼす変更,及び前回までの監査の結果を考慮に入れなければならない。

9.3.1一般

 トップマネジメントは,組織の品質マネジメントシステムが,引き続き,適切,妥当かつ有効で更に組織の戦略的な方向性と一致していることを確実にするために,あらかじめ定めた間隔で,品質マネジメントシステムをレビューしなければならない。

9.3.2マネジメントレビューへのインプット

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特集 2015 年版 ISO 9001 活用ハンドブック

アイソス No.228 2016年 11月号  55

 審査先で見かけたプロセス監視表的

なものでは、プロセスに内在する不具合

を防止する程度のことしか書いてないの

で、マネジメントレビューで取り上げるような

あるいは「有効性」として評価するような

内容にはなり得ない。

 また1年に1回程度のマネジメントレビュー

では、変化の激しい最近の状況には対応

できないと考える。もちろん毎月リスク表を確

認して、変化はないか有効かと確認しても

意味はない。筆者のお勧めはタイミングとし

ては毎月で、変化ないしその兆候が表れた

場合には即確認する、という方法である。

いわば大地震の前のナマズの動きを観察

しているような方法を探してみるとよい。

69. 10.1で改善の目的が明確化された。2008年版では8.5.1継続的改善が是正・予防処置の枕詞的な位置づけで、ぼやけており、何を実施するかが明確にされない状態であったが2015年版では改善の仕組みの明確化を期待したい

 a)〜c)3つの項目が示された。いずれも

これまでになじみのある内容である。b)は

筆者が2008年版で、不具合で個別対応

は是正処置、傾向不具合は予防処置と

の説明をしてきたが、「予防処置」は消え

たがこのような形で片鱗が残された。

 注記にびっくりポンの内容が登場して

いる。「現状打破」とか「革新」である。

ISOにも一発逆転の要素を入れないとい

けない時代になってきている。筆者はもと

もと、ISOはルールを作って守りながら改

善していくツールで大改革には向かない、

と言ってきたが、革新手法との接点を研

究しないといけない時代になってきたのか

もしれない。

 

70. 10.2.1 b) 3)類似点調査が要求事項に追加されているので、対応が必要

 マネジメントレビューは,次の事項を考慮して計画し,実施しなければならない。

e)リスク及び機会への取組みの有効性(6.1参照)

10.1一般

 組織は,顧客要求事項を満たし,顧客満足を向上させるために,改善のための機会を明確にし,選択しなければならず,また,必要な処置を実施しなければならない。 これには,次の事項を含めなければならない。

a)要求事項を満たすため,並びに将来のニーズ及び期待に取り組むための,製品及びサービスの改善

b)望ましくない影響の修正,防止又は低減

c)品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性の改善

10.2.1苦情から生じたものを含め,不適合が発生した場合,組織は,次の事項を行わなければならない。

a)その不適合に対処し,該当する場合には,必ず,次の事項を行う。

1)その不適合を管理し,修正するための処置をとる。

2)その不適合によって起こった結果に対処する。

b)その不適合が再発又は他のところ

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 昔発生した新幹線のトンネル側壁落

下事故の直後トンネルの点検が一斉に

実施された。中央高速小仏トンネルの天

井落下事故直後にも同様の点検が実施

され、ボルトが浮いている状況が多数確

認された。その後天井が撤去された。この

ように発生してしまった事故を再発防止

する場合、類似点調査は非常に有効で

ある。筆者はISOに取り込むのが遅きに

失している気がするが、気が付いた良い

点が遅かろうがどんどん入れていただき

たい。気が付いてない項目や間に合わな

かった項目は、筆者は審査で追加してア

ドバイスする。

 ということで、仕組みに類似点調査

と、水平展開(横展開)を入れていただ

きたい。

71. 10.2.1 e)「計画策定段階で決定したリスク及び機会」とは6.1のことであり、是正の対象になった不具合が拾い上げられていなかったのかを含め検証する必要がある

 この要求は「不適合及び是正処置」の一部であり、不具合がリスクとして洗い

出されているかというと、2015年版対応

で各企業が準備される「リスク表」的なも

のには当たり前すぎて出てこないのでは

ないか?

 そうであれば、e)の要求はあまり役に立

たないことになる。ただし、8.7が不適合な

アウトプットなので、10.2はそれ以外(製造

以外)の不適合と区別すると意味が出て

くる運用も見えてくる。以下気が付いた内

容を示そう。

①契約・受注:営業が顧客仕様を設計や

製造に伝達漏れした

②契約・受注:営業が変更情報を伝達漏

れした

③生産管理が顧客図面で読めない部分

を勝手に数値化した

④設計が検証方法を間違えた

⑤設計が使用を勘違いした

⑥設計が製造できない図面を作った

⑦技術が達成できない精度を工作機メー

カーに依頼しメーカーも受けてしまった

株式会社テーガル代表取締役

横山吉男

1975年日産自動車株式会社入社、生産性向上(IE)に従事。1986年物流管理(倉庫管理)に従事。1993年品質保証業務に従事。1996年審査機関に出向し、ISO9001審査業務に従事、230社を審査。1999年復職後、退職、株式会社テーガル代表取締役就任。現在、ISO9001/14001、ISMS認証取得、生産性向上を中心にコンサルティングを行うとともに、審査機関でISO9001審査業務に従事。ISO9001活用ネットワーク「するめ会」主宰。著書:「Q&AISO9001活用ハンドブック」「ISOの品格―業績向上のためのISO≪86の知恵≫」(いずれも共立出版)など。

 発生しないようにするため,次の事項によって,その不適合の原因を除去するための処置をとる必要性を評価する。 1)その不適合をレビューし,分析す

る。 2)その不適合の原因を明確にする。 3)類似の不適合の有無,又はそれが

発生する可能性を明確にする。

e)必要な場合には,計画の策定段階で決定したリスク及び機会を更新する。

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