平成 15 年度 修士論文 -...

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平成 15 年度 修士論文 AlGaN/GaN HEMT の大振幅過渡応答特性の研究 徳島大学大学院 工学研究科 電気電子工学専攻 赤松 志郎

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平成 15 年度 修士論文

AlGaN/GaN HEMT の大振幅過渡応答特性の研究

徳島大学大学院 工学研究科 電気電子工学専攻

赤松 志郎

平成 15年度 卒業論文 内容梗概 電気電子工学科

研究題目 AlGaN/GaN HEMT の大振幅過渡応答特性の研究

氏 名 赤松 志郎

【はじめに】

AlGaN/GaN HEMT は、高い飽和電子速度、高電子移動度、バンドギャップエネルギーの広さから次世代の高

周波、高出力デバイスとして期待されている。しかし、表面準位等の影響による電流コラプスや I-V 特性のヒステ

リシスなどの現象に関連した出力電力の低下が問題となっている。今回、これらの大振幅過渡応答特性を調べ

るために周波数可変のカーブトレイサーを自作した。また、測定結果を説明するための表面準位による仮想ゲー

トのモデルを考案し SPICE シミュレーションを行うことによって検討した。

【大振幅 IV カーブトレイサーの製作】

測定装置は、市販のPC をベースにして作製した。電圧印加部は、任意波形を発生できるファンクションジェネ

レータおよび Max50mA のバッファアンプから構成される。電流電圧変換回路は、高速大電流 OP アンプを用い

て作成した。印加電圧と電流値を同時にサンプリングするために16bit AD 変換ボード(最大サンプリング周波数

10kHz)を2枚用いた。(図1)

【IV 特性ヒステリシスの周波数分散】

ゲートバイアスを固定し、ドレインに正弦波を印加し I-V 測定を行った。0.001Hz以下の低周波では飽和型

の特性を示すが、1kHz以上の高周波では電流の立ち上がりが劣化する。中間的な周波数では、電圧が上がる

時が上側、下がる時に下側を通るヒステリシスを描く。一方、ドレインバイアスを固定しゲート電圧に正弦波を加え

た場合には低周波では良好な立ち上がりを示すが、高周波では電流が低下し、その中間の周波数でヒステリシ

スを示した。また、この周波数分散に光の影響があることがわかった。

【SPICE シミュレーション】

ゲート側端部に仮想ゲートを置き、仮想ゲートの電圧がチャネルおよびゲートとの容量性結合と、それらとの間

のリーク電流とのバランスで決まるとしたモデルで SPICE シミュレーションを行い I-V ヒステリシスの測定結果を説

明できた。

【まとめ】

今回の測定とシミュレーションの結果から AlGaN/GaN HEMT の大振幅の過渡応答特性には、パッシベーション

層のリークの影響が大きいことがわかった。

図2 I-V 特性のヒステリシス 図1.測定装置概略 左:VGを固定 VDを変化 右:VDを固定 VGを変化

【大野研究室】

0 5 10

0

2

4

6

8

VG=0V

I D(m

A)

VD(V)

1kHz 0.1Hz 0.001Hz

-10 -5 0

0

2

4

6

8

VD=10V

I D(m

A)

VG(V)

1kHz 0.1Hz 0.001Hz

目次 1. 序論

1.1 背景および目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 1.2 本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

2. AlGaN/GaN デバイスの大振幅過渡現象

2.1 AlGaN/GaN HEMT について・・・・・・・・ ・・・・・・・ 5 2.2 AlGaN/GaN HEMT における大振幅過渡現象・・・・・・・・・ 5 2.3 過渡応答に関するメカニズム・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

3. I―Vカーブトレイサーの製作

3.1 I-Vカーブトレイサーとは・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 3.2 実験装置概略・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 3.3 AD変換について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 3.4 電流電圧変換回路・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 3.5 バッファアンプ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 3.6 装置性能評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16

4 I-VカーブトレイサーによるI-Vヒステリシスの測定

4.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 4.2 ドレイン電圧-ドレイン電流間のヒステリシス・・・・・・・・・・ 21 4.3 電圧振幅変更時のヒステリシス・・・・・・・・・・・・・・・ 23 4.4 ゲート電圧-ドレイン電流間のヒステリシス・・・・・・・・・・ 24

5 SPICEシミュレーションを用いた仮想ゲートモデルの考察

5.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 5.2 SPICEシミュレーションについて・・・・・・・・・・・・ 26 5.3 リークを考慮した仮想ゲートモデル・・・・・・・・・・・・・ 26 5.4 シミュレーションに用いた回路・・・・・・・・・・・・・・・ 27 5.5 シミュレーション結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 5.6 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

2

6 本研究のまとめ

6.1 本研究のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 謝辞・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 付録 ① 基板設計と作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33

3

第1章 序論

1.1 背景および目的

近年の情報通信技術の発展はまさに日進月歩である。1837年のモールス(Morse)の

電信通信からはじまり、1876年には、グラハム・ベル(Graham Bell)が有線電話機を発

明した。その後無線通信が発明され、ラジオ、テレビ(アナログ通信、地上波ディジタル

通信)、各種無線通信、携帯電話、無線 LAN などの発展により無線通信の情報量は増えつ

づけている。しかし無線周波数帯域は有限であり、今後の無線情報量の増加に対応するに

は、新たな技術革新が必要とされている。 この一つの解決の手段として、現在、あまり使用されていないミリ波帯の使用があげら

れる。現在のミリ波デバイスは、大型かつ高価格であるため民生用途に普及しがたい。こ

こで、ミリ波固体デバイスを実現することができれば、小型かつ低価格を実現することが

できる。ここで、ミリ波固体デバイスとして GaN/AlGaN HEMT が注目されている。 GaN は、大きなバンドギャップエネルギーをもつことから、高耐圧、微細化が可能とさ

れている。また、GaN/AlGaN の2次元電子ガス構造は、Si デバイスに比べて高移動度で

ある。これらの物理特性から高速、高出力デバイスが期待されている。 GaN/AlGaN HEMT の実用化に向けての問題点のひとつが、電流コラプス、IV 特性の

ヒステリシスなどの過渡応答特性による出力電力の低下である。この現象は、バッファ層

や、表面準位などの深い準位が原因とされているが、より深い理解、解決のための指針が

今、必要とされている。 本論文では、この AlGaN/GaN HEMT における大電流過渡応答現象を解析するために、

市販のパーソナルコンピュータをベースに独自の測定システムを作成した。この過程でA

D変換装置や、オペアンプ回路などを使用した。この装置を用いてI-Vヒステリシスの

周波数依存性を測定、光依存性等を測定した。また、この測定結果を説明するために仮想

ゲートモデルを考案し、SPICEシミュレーションを行って考察した。

1.2 本論文の構成 本論文は、全6章から構成される。第2章において AlGaN/GaN デバイスの大振幅過渡

応答について述べる。第3章ではI-Vカーブトレーサーの説明、第4章では前述の装置

を用いた測定結果について述べる。第5章では、仮想ゲートモデルを用いたSPICEシ

ミュレーションを行い測定結果を考察する。第6章は全体のまとめを行う。

4

第2章 AlGaN/GaN デバイスの大振幅過渡応答

2.1 AlGaN/GaN HEMT について

HEMT とは、high electron mobility trasistor の略で、バンドギャップの異なる異種の

半導体材料を用いた電界効果型トランジスタである。現在は、低雑音素子として GaAs を

用いた HEMT が衛星放送等の用途に使用されている。GaN は、GaAs よりもバンドギャッ

プエネルギーが大きく、電子移動度も高いため、GaAs を超えるデバイスとして期待されて

いる。AlGaN/GaN HEMT の構造を下図に示す。異種材料境界に生じた2次元電子ガスと

呼ばれる電子層をキャリアとして用いる。電子供給層と電子走行層が異なるため、高電子

移動度を実現している。AlGaN/GaN HEMT では、MOCVD 法によりサファイア基板上に、

GaN/AlGaN を成長させる。AlGaN が電子供給層、GaN が電子走行層である。図 2.2.1 が

簡略化した構造図で、図 2.1.2 がバンド構造を示したものである。

D

AlGaN

GaN

サファイア基板

S G

GaN Eg=3.4eV

AlGaN Eg=3.4eV

Ev

Ec

2次元 電子ガス

D 図 2.1.1 AlGaN/GaN HEMT 構造図 図 2.1.2 AlGaN/GaN HEMT バンド構造

2.2 AlGaN/GaN HEMT における大振幅過渡現象

現在、AlGaN/GaN HEMT では、GaN半絶縁基板、表面準位および、エピ/基板界面に

存在する深い不純物準位に起因したさまざまな寄生現象が知られている。これらはデバイ

スの出力電力、安定性、信頼性の面で問題となっている。 まず、表面準位について説明する。半導体結晶内部ではブロッホ関数的な近似によって

5

エネルギー準位が決まっている。しかし、半導体の表面では、ブロッホ関数的な連続性は

途切れている。このため、バルク結晶内部とは異なるエネルギー準位を持つ。これを表面

準位と呼ぶ。表面準位は結晶表面での再配列や、酸素原子、水素原子等の外部の原子を吸

着などで形成されるため理論は非常に複雑である。 AlGaN/GaN HEMT の大振幅過渡応答を測定することで、これらの寄生現象について考

察する。以下で、各種寄生現象について説明する。 電流コラプスとは、ドレイン電圧を印加していくと電流が減ってしまう現象で HEMT の

出力電力の低下などの原因となっている。 また、電圧上昇時と電圧下降時で、電流値が異なるヒステリシス現象も観察される。 また、ドレインコンダクタンスの周波数分散と呼ばれる現象がある。1MHz 以下の低い

周波数で FET の出力コンダクタンスが変化してしまう現象で、GaAs MESFET では以前か

ら知られていた現象である。ほかにも、ドレイン電圧の急な変化に対してドレイン電流が

過渡的に変化するドレインラグ、同じくゲート電圧の急な変化に対してドレイン電流が過

渡的に変化するゲートラグ現象なども、AlGaN/GaN HEMT の過渡応答として知られて

いる。

図 2.2.1 AlGaN/GaN HEMT の IV 特性 図 2.2.2 AlGaN/GaN HEMT の

-80

-40

0

40

80

10 1000 100000

FREQUENCY(Hz)

DR

AIN

CO

ND

UC

TA

NC

E(μ

S)

0

10

20

30

SU

SC

EP

TA

NC

E(μ

S)

G

B

ドレインコンダクタンスの周波数分散

2.3 過渡応答に関するメカニズム

このような過渡現象には、基板の深い準位や表面準位がの充放電がある一定の時定数を

もっていて、ゲートやドレインに印加した信号に追従できないことによって起こる。一例

として表面準位の帯電状況によって引き起こされるドレインラグの説明をする。IV特性

6

ヒステリシスも本質的には同じ現象である。 AlGaN/GaN HEMT のドレインラグ現象について、ゲート電圧を0V に固定しドレイン

電圧を変化させた場合について説明する。 初、ゲート電圧0V、ドレイン電圧0V として

十分な時間がたった状態(①)から、ドレイン電圧を+10V まで変化させる。(②)急激

に変化させた場合①ゲート近傍の表面準位に電子がトラップされるよりもドレイン電圧変

化が早いので、②のような電位分布となる。その後、時間がたつにつれてゲート近傍が帯

電して③のような電位分布となる。このとき、③の状態は、ゲート②の状態と比べてゲー

ト近傍の表面の電位がゲートの電圧に近い。このため、ドレイン電流が少なくなる。次に

この状態から、ドレイン電圧をもう一度0V に戻す。(④)このとき、急激に戻すとやはり

ゲート近傍の表面準位が帯電したままなので、電流が絞られた IV 特性を示しながら電圧降

下する。この状態で、(⑤)表面から電荷が失われ電流値は、再びもとに戻る。これが、表

面準位の充電、放電によって起こるドレインラグであり、周期バイアスを印加した場合、

電圧上昇時と、電圧下降時の IV 特性の差となって現れる。これが IV 特性のヒステリシス

である。 次に、ドレイン電圧を固定して、ゲート電圧が変化したときは、どのような現象が起こ

るだろうか?ここでは、ドレイン電圧を+10V に固定、ソース電圧を0V として、ゲート

電圧を 0V→-3V→0V と変化させた場合を考える。(図 2.3.2)ドレイン電圧は10V 固定な

ので 初からドレイン側のゲート端端部の表面準位は帯電している。(①)ここで、ゲート電

圧を-3V に急激に振るとまず、②のような電位分布になる。その後、側端部の表面準位が

マイナスに帯電しようとする。(③)その後、ある一定の時間が経過すると側端部の表面準位

がマイナスに帯電し、電位分布が③のようになる。したがって、ゲート電圧を0V→-3Vのように変化させると、後から表面準位が帯電しはじめるため寄生ゲートによって電流が

絞られる。-3V→0V のように変化させると、今度は 初から表面準位が帯電しているた

め電流が絞られているが(④)、表面準位が電化を失うとともに次第に電流値が増加する。

(⑤)このため、電圧上昇時には、下側。電圧降下時には、上側を通るヒステリシス曲線

が描かれる。

7

【トラップの帯電状態】 :電子 ① ※1 ② ※2 ③ ※3 ④ ※4 ⑤ ※5 【表面の電位分布の変化】

ゲート

ゲート(0V) ドレイン(0V)

ゲート(0V) ドレイン(0V)

ゲート(0V) ドレイン(10V)

ドレイン(0V)ゲート(0V)

ゲート(0V) ドレイン(10V)

① ※6 ②→③※7 ③ ② +10V ④→⑤※8 ④ ⑤ 図 2.3.2 表面準位の帯電と電位分布の図 注釈 ※1 ① 初期状態・・・ゲート近傍の表面準位が電子を捕獲していない。 ※2 ② ソース電圧を急激に10V に・・・ゲート近傍の表面準位がまだ帯電していない。 ※3 ③ ②の状態から一定時間が経過・・・ゲート近傍の表面準位が帯電する。 ※4 ④ ③の状態から急激にドレイン電圧を0V に戻す・・表面準位が帯電したまま ※5 ⑤ ④の状態から一定時間が経過・・・表面準位が電荷を失う→①の状態 ※6 ① 初期状態なのでゲートからドレインまで0V 一定 ※7 表面の帯電にともなって電位分布が②→③のように電位分布が変化

8

※8 表面の電荷の放出にともなって④→⑤のように電位分布が変化 【表面の電位分布】 :電子 ①※1 ②※2 ③※3 ④※4 ⑤※5 【表面の電位分布】 ①※6 0V 10V ②→③※7 ③ ② ②

10V ④→⑤※8 ④ ⑤ ④ ⑤

3V

ソース

ゲート

ゲート

10V

ソース ゲート

ソース ドレイン ゲート

ドレイン

ドレイン

ドレイン ソース ゲート

ドレイン ゲート ソース

9

図 2.3.2 表面準位の帯電と電位分布の図 ※1 ① 初期状態・・・・・ドレイン側のみ表面準位がすでに帯電(S=0,G=0,D=10V) ※2 ② ゲート電圧を変化・・ゲート電圧は変化したが表面準位の帯電状況はそのまま ※3 ③ ②から一定時間が経過・・・ソース側、ドレイ側ともに表面準位が帯電 ※4 ④ ③の状態からゲートの電圧を0V に戻す。・・表面準位の帯電状況はそのまま ※5 ⑤ ④の状態から一定時間が経過すると①の電位分布にもどる。表面準位が電化を

失う。 ※6 ②→③ 時間の経過とともに、ソース側の表面準位が帯電する。ドレイン側もさら

に帯電する。これによって表面の電化分布が変化する。 ※7 ④→⑤ 時間の経過とともにソース側の表面準位が電荷を失う。ドレイン側も初期

状態に戻る。

ここでは、表面準位に負電荷が充放電する場合を用いて過渡応答を説明した。

AlGaN/GaN HEMT では絶縁物であるサファイア上に GaN の半絶縁性基板を用いている

ため、基板側の深い準位が帯電によって電流値が変調を受けてしまうバックゲート効果な

ども、過渡応答の原因として考えられる。

10

第3章 I-V カーブトレイサー

3.1 I-V カーブトレイサーとは

I-V カーブトレイサーとは、ある一定の周波数の周期バイアスを加えたときにの電流値

を測定することで測定対象の I-V 特性を得る装置である。ほとんどの電子デバイスは、電

流電圧特性によって評価される。このため、手軽にリアルタイムで I-V 特性を得られる計

測器としてカーブトレーサーは重要な役割を担っている。 ① 抵抗

図 3.1.1 抵抗のV特性の測定の例

② ダイオード

図 3.1.2 ダイオードのIV特性の測定の例

③バイポーラトランジスタ

図 3.1.3 バイポーラトランジスタのIV特性の測定の例

電圧 電流I 0

11

元来、カーブトレーサーは、このような静特性のI-V曲線を手軽に得るための装置で

ある。今回の AlGaN/GaN HEMT 測定では、前章で説明したような電圧上昇時と電圧下降時

で異なる電流値をしめす。ヒステリシス特性が見られる。(図 3.1.4)このヒステリシス

特性の周波数依存性を調べるために、周期バイアスの周波数を変更できるカーブトレー

サーを作成した。

Vg

Iout

Iout

Vin

Vin信号源 (周期バイアス)

12

3.2 実験装置概略

まず、今回作成した装置の基本構成を示す。入力波形を発生するためにファンクション

ジェネレータを用いた。ファンクションジェネレータでは負荷に大きな電流を流すことが

できないため、バッファアンプを用いた。HEMT に流れる電流値をサンプリングするために

OP アンプを用いた電流電圧変換回路を製作した。OP アンプに±15V の直流電源が必要で

あるため、直流電圧源を用意した。測定結果は、AD 変換ボードの付属ソフトウェアにより

Excel 形式のファイルとして取り込まれる。

信号発生装置 信号発生

図3.1 カーブトレーサーの基本構成

図3.2.1 実験装置概観

+15V -15V GND OTHER

測定用 PC AD 変換 ボード搭載

電流電圧変換回路

プローバー

バッファアンプ

直流電源

ファンクションジェネレータ

-Vg

測定対象 トランジスタ

パーソナル Iout

Vin

電流電圧変換回路

コンピュータ AD 変換

13

3.3 AD 変換について

AD 変換とは、自然界には連続的な信号しか存在しないものを、計算機の中で表現できる

離散的な値に変換することである。この測定器では、AD 変換ボードは時間に対して連続的

に測定を行い、データを PC に蓄積する電圧計の役割を果たす。ここで大事なことは、AD 変

換にはある程度の時間がかかることがある。アナログ信号をある瞬間にサンプリングして

その電圧を保持(ホールド)して、然るのちにディジタル値への変換を行う。AD 変換を行

うと電圧値が離散化するだけでなく、時間軸向にも離散化する。ここで、AD コンバータの

性能を示す値を説明する。

今回使用したAD変換ボード・・・PCI-3135 (インターフェ

ース社)

●シングルエンド 16 チャンネル/差動 8チャンネル

●分解能: 16bit

●変換時間: 10µs(チャンネル固定時)

100µs(チャンネル切替時)

●入力レンジ: バイポーラ ±1V, ±2.5V, ±5V, ±10V

●外部トリガ対応 ●外部クロック対応 ●外部割り込み入力可能

●汎用入出力搭載 ●複数枚同期化対応

サンプリング周波数・・・・1秒間に何回測定をすることができるかをあらわす数字、つま

り時間軸の分解能は、サンプリング周波数で決まる。

分解能・・・・どんな精度で電圧を測定できるか、たとえば±10Vで 16bit であれば、測

定電圧の幅10Vを 16bit(75536)で割った値、0.000132(V)の精度で測定することがで

きる。

14

図3.2.3 AD 変換ボードが刺さっている様子

この AD 変換ボード(PCI-3135)を印加電圧サンプリングと、電流電圧変換回路の出力電圧の

サンプリングに用いる。2枚の AD 変換ボードのサンプリングタイミングに差があると、正確な

IV カーブが得られない。この AD 変換ボードは16チャンネル/差動8チャンネルという多チャ

ンネルであるが、AD 変換回路自体は1回路しか搭載されていないマルチプレクサ方式である。

そのためチャンネル切り替え時には、100μsを必要とする。つまり、入力電圧を測定した 100

μs後に、出力電流を測定するシステムしか構築することができない。これは、1kHz であれば、

10 分の 1周期ずれてしまうことになる。

今回、この問題にたいして、2枚の AD 変換ボードを同期させることで対応した。これにより、

電圧値と電流地のサンプリングタイミング差が40nsとなり、実質5kHz 程度までしか使用

しない今回の測定システムでは十分な性能を得た。より理想的には、2 回路以上の AD 変換回路

を搭載したマルチ ADC 方式のボードを使用したほうがよい。

また、今回は AD 変換ボードから測定回路までの間の配線をそれぞれ1m程度使用した。ノイ

ズを低減するために接地線と信号線をより線にしたスイストペアケーブルを用いた。

3.4 バッファアンプ

図 3.4.1 バッファアンプの回路(ボルテージフォロア回路)

15

ファンクションジェネレータでは、大きな電流が流れる負荷を駆動することができない。そこで

オペアンプを用いてバッファアンプを作成した。今回、AD826(アナログデバイセズ社)オペア

ンプを使用した。この OPアンプは、定格では、スルーレート 350μs 大電流 50mA となってい

る。この回路は別名ボルテージフォロアともいわれる。

図 3.4.2 電流電圧変換回路

電流値をサンプリングするためには、電流値を電圧値に変換してやる必要がある。

今回は、OP アンプを用いた AD 変換回路を製作した。この方法は、動作が不安定になったり OP

アンプ駆動用の電源を用意する必要があるが、抵抗を用いていないのでより正確なサンプリング

ができる。これに対して手軽ではあるが、小さな抵抗を挿入して、その抵抗に発生する電圧を測

定する方法がある。この方法では、ソース部分の電位が抵抗に発生する電圧によって変化してし

まうので解析が複雑になる。

〔オペアンプの選定〕

今回の測定システムでは、30mA 程度の入力電流で、かつ高速動作することができる OP アンプ

が要求される。そのため高いスルーレートと大きな入力電流値が必要とされた。

そこで、いくつかの OP アンプについて電流電圧変換回路を作成して実験した。

3.6 装置性能評価

実際に作成したバッファアンプとIV変換回路の性能について、抵抗負荷を用いて評価を行っ

た。横軸の電圧は、抵抗にかかっている電圧であり、縦軸の電流は抵抗を流れる電流である。

〔1〕 470Ω負荷 Vpp=10V(+0V~10V)

まずオペアンプの定格電流の範囲内である470Ωの負荷抵抗(10Vで21mA)で周波数依

存性を測定した。

16

100Hz(470Ω)

-5

0

5

10

15

20

25

-2 0 2 4 6 8 10 12

印加電圧(V)

電流

値(m

A)

実測値

理論値

470Ω(5kHz)

-5

0

5

10

15

20

25

-2 0 2 4 6 8 10 12

印加電圧(V)

実験値

理論値

5kHz(470Ω)

10kHz(470Ω)

0

5

10

15

20

25

0 2 4 6 8 10 12

印加電圧(V)

電流

値(m

A)

実測値

理論値

図 3.6.1a(上)、3.6.1b(中),3.6.1c(下)カーブトレーサー負荷試結果 図 3.6.1a(上)、3.6.1b(中),3.6.1c(下)カーブトレーサー負荷試結果

17

20kHz(150Ω)

0

5

10

15

20

25

0 2 4 6 8 10 12

印加電圧(V)

電流

(mA

)

実測値

理論値

図 3.6.1d カーブトレーサー負荷試験結果

実験結果より、バッファアンプと I-V 変換回路が470Ω負荷では5kHz程度まで線形

性をもって動作することがわかった。しかし、それ以上の周波数の周期バイアスを印加す

ると、電圧値と電流値の線形性が崩れ、ややヒステリシスが見える。

〔2〕 150Ω負荷 Vpp=10V(+0V~10V)

まずオペアンプの定格電流をやや超える150Ωの負荷抵抗(10Vで21mA)で周波数依存

性を測定した。周期バイアスの波形は正弦波である。

100Hz(150Ω)

-10

0

10

20

30

40

50

60

70

-2 0 2 4 6 8 10 12

印加電圧(V)

電流

(m

A)

実測値

理論値

図 3.6.2a カーブトレーサー負荷試験結果(150Ω,100Hz)

18

150Ω負荷(5kHz)

-10

0

10

20

30

40

50

60

70

-2 0 2 4 6 8 10 12

印加電圧(V)

電流

(m

A)

実測値

理論値

図 3.6.2b カーブトレーサー負荷試験結果(150Ω,5kHz)

10kHz(150Ω)

0

10

20

30

40

50

60

70

0 2 4 6 8 10 12

印加電圧(V)

電流

(m

A)

実測値

理想値

図 3.6.2c カーブトレーサー負荷試験結果(150Ω,10kHz) オペアンプの定格出力電流の50mA を超えているが、きちんと電圧値に電流値が追従して

いる。やはり、10kHzからややヒステリシスが見える。(図 3.6.2c)このIV特性のヒ

ステリシスは、オシロスコープで観察した場合には観測されない。このため、OPアンプ

や回路の性能によるものではなく、AD変換ボードの変換時間によって起こっているもの

であると考えられる。

19

〔3〕 100Ω負荷 Vpp=10V(+0V~10V)

まずオペアンプの定格電流を大きく超えた100Ωの負荷抵抗(10Vで100mA)で周波数

依存性を測定した。

100Hz(100Ω)

-100

102030405060708090

100

-2 0 2 4 6 8 10

入力電圧(V)

電流

値(m

A)

実測値

理論値

図 3.6.2d カーブトレーサー負荷試験結果(150Ω)

今回は、ファンクションジェネレータでは印加電圧が10Vであるにもかかわらず、およ

そ8.8(V)程度の電圧しか負荷抵抗にかかっていない。このためバッファアンプの性

能が追いついていないことがわかる。

これらの実験より、今回作成したカーブトレイサーでは、電流値が 50mA 以下の負荷、周期

バイアスの周波数が 5kHz 以下で測定しなければ正確な値が得られないことがわかった。

20

第4章 I-Vヒステリシスの測定

4.1 はじめに

本章では、前章で作成したIVカーブトレイサーを用いて AlGaN/GaN HEMT のIVヒ

ステリシスの周波数依存性について測定する。また、光依存性や振幅依存性などについて

も測定した。

4.2 ドレイン電圧-ドレイン電流間のヒステリシス

① IV ヒステリシスの周波数依存性について測定した。 ● 印加信号 正弦波(振幅10V)周波数を 5kHz~0.001Hz まで変更 ● サンプル 19-3_L=2μm_W=50μm SiO2(EB)パッシベーション

0 2 4 6 8 10

-1

0

1

2

3

4

5

6

7図4.2.1 IVヒステリシスの周波数分散 5kHz~50Hz

Ids(

mA

)

Vds(V)

5kHz 2kHz 1kHz 500Hz 100Hz 50Hz

0 2 4 6 8 10

0

1

2

3

4

5

6

7図4.2.2 IVヒステリシスの周波数分散 50Hz~1Hz

Ids(

mA

)

Vds(V)

50Hz 20Hz 10Hz 5Hz 2Hz 1Hz

21

0 2 4 6 8 10

-1

0

1

2

3

4

5

6

7 図4.2.3 IVヒステリシスの周波数分散 1Hz~0.02Hz

Y A

xis

Title

X Axis Title

1Hz 0.5Hz 0.2Hz 0.1Hz 0.05Hz 0.02Hz

0 2 4 6 8 10

-1

0

1

2

3

4

5

6

7 図4.2.4 IVヒステリシスの周波数分散 0.05Hz~0.001Hz

Ids(

mA

)

Vds(mA)

0.05Hz 0.02Hz 0.01Hz 0.005Hz 0.002Hz 0.001hz

この結果からヒステリシスが 大となる周波数が存在することがわかった。このヒステ

リシスは、高周波側でも低周波側でも小さくなる。Vd-Id 特性において、周期バイアスを高

周波にすると電流の立ち上がり悪くなるが、電流の 大値は大きくなった。低周波側では、

立ち上がりが良くなるが、電流値の 大値は高周波よりも少なかった。

22

4.3 電圧振幅を変化させたときのヒステリシス

● サンプル 19-3_L=2μm_W=50μm SiO2(EB)パッシベーション ドレイン電圧の振幅を5V を基点として、10V~0V まで変更した。

0 2 4 6 8 10

-1

0

1

2

3

4

5

6

7図4.3.1 IVカーブの振幅依存性 周波数10Hz

Ids(

mA

)

Vds(V)

10V 9V 8V 7V 6V 5V 4V 3V 2V 1V 0V

0 2 4 6 8 10

-1

0

1

2

3

4

5

6

7図4.3.2 IVカーブの振幅依存性 周波数1Hz

Ids(

mA

)

Vds(V)

10V 9V 8V 7V 6V 5V 4V 3V 2V 1V 0V

23

周期バイアスの振幅を変化させた場合、10Hz では、電圧振幅が現象すると立ち上がり

時の電圧に落ち着くことがわかった。1Hz では、電圧振幅を小さくしていくと電圧が立ち

上がり時と、立下り時の間の電流値に落ち着いた。

4.4 ゲート電圧-ドレイン電流間のヒステリシス

● 印加信号 正弦波(振幅10V)周波数を 1kHz~0.01Hz まで変更 サンプル① 19-3_L=4μm_W=50μm SiO2(EB)パッシベーション サンプル② 19-3_L=2μm_W=50μm SiO2(EB)パッシベーション

-6 -5 -4 -3 -2 -1 0

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0図4.4.1 Vg-Ig特性のヒステリシスの周波数分散

VDS

=10V

電流

(m

A)

ゲート電圧(V)

1kHz 100Hz 10Hz 1Hz 0.1Hz 0.01Hz

-10 -8 -6 -4 -2 0

-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

4.5

5.0

図4.4.2 Vg-Id特性のヒステリシスの周波数分散

VDS

=10V

電流

値(m

A)

ゲート電圧(V)

1kHz 100Hz 10Hz 1Hz 0.1Hz 0.01Hz 0.001Hz

24

ドレイン電圧 Vd を固定して Vg を変換させたときの、ヒステリシス特性が得られた。 ある周波数で、大きなヒステリシスを示し、高周波側、低周波側ともにヒステリシスは小

さくなっていく。高周波側では、ドレイン電流があまり流れない。低周波側では、電流が

流れる。このことから、ゲートに大振幅信号を印加する用途において、1kHz 以上の高周

波では、今回測定した HEMT は十分な性能を発揮できないことがわかる。また、このゲー

ト電圧-ドレイン電流の間のヒステリシスは、ドレイン電圧-ドレイン電流の間のヒステリシ

スが小さい場合にも見られる。

25

第五章 SPICE シミュレーションを用いた

仮想ゲートモデルの考察

5.1 はじめに

本章では、前章の測定結果を説明するために「仮想ゲートモデル」という等価回路モデ

ルを用いて SPICE シミュレーションを行う。

5.2 SPICE シミュレーションについて

SPICE とは、「Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis」の略で、1

970年代にアメリカ合衆国のカリフォルニア大学バークレー校で開発された電子回路シ

ミュレーションプログラムです。基板上に実際に回路を作らなくても回路図を入力すると

パソコン上で動作を解析することができます。また、SPICE には各種電子部品のモデルが

搭載されています。これらモデルのパラメータを変更することによって自分で部品を作成

することもできます。今回は、IV ヒステリシス現象を説明するためのモデルをこの SPICEを用いて検証します。 今回の実験では、SPICEには AlGaN/GaN HEMT のモデルが搭載されていないため代用

として n型MOS-FETのモデルの各種パラメータを変更することでAlGaN/GaN HEMTと

して用いた。このためDC特性(0.1Hz程度)に見られる熱による電流の低下等の現象は

考慮に入れていない。

5.3 リークを考慮した仮想ゲートモデル

2章で取り上げた、表面準位による過渡応答現象をゲート側端部にも表面準位の帯電に

よるゲートがあると考えた「寄生ゲートモデル」によって説明する。本来、分布定数回路

的な扱いをすべきであるが、簡単のためにソース側、ドレイン側にそれぞれ一つ、既成ゲ

ートを設置した。この既成ゲート表面準位の充電、放電の状況によって電位が変化する。

ここで、トラップが充放電を行いトラップの占有率を変化させるためには、キャリアを

どこか別の場所から供給してやる必要がある。実際のデバイス構造を考えるとゲート側端

部へのキャリアの供給元は、ゲート電極もしくは直下のチャネルだと考えられる。このゲ

ートから既成ゲートへのキャリア供給をリーク電流を表す抵抗として回路にあらわした。 また、ゲート-寄生ゲート間、寄生ゲート-チャネル間は電気容量をもつためキャパシタンス

を挿入した図 5.3.1 のような回路を考えた。

26

図 5.3.1 寄生 FET を用いた回路モデル 高周波では、電位のキャパシタンス結合による分割が支配的になり、低周波

では電位の抵抗による分割が支配的になる。

5.4 シミュレーションに用いた回路

前述した仮想ゲートモデルを用いてSPICEシミュレーションを行った。シミュレーシ

ョンに用いた回路を図 5.4 に示す。前述 5.3 の回路からの変更点は、ゲート電極とゲート直

下のチャネルとの間に、外部的にキャパシタンスを追加してある。またリアルゲートのF

ETをはさむようにして1GΩの抵抗が挿入されている。これらを用いずにシミュレーシ

ョンを行うと、異常な値をとって発散してしまう。これは、SPICE の MOSFET の内部等

価回路に起因するとみられる。

変更点

図 5.4.1 シミュレーションに用いた回路

27

SPICE シミュレーションに用いた、nMOS-FET を用いた AlGaN/GaN HEMT のパラメ

ータの表(パラメータの詳細については、SPICE のマニュアルを参照) FET1 FET2 FET1 FET2

LEVEL 1 1VTO -3 -3

L 2U 0.5UW 100U 100U

PHI 2500 undefinedLAMBDA 0 0

RS 0 0CBD 0 0

IS 10F 10FPB 800M 800M

CGDO 0 0CGB0 0 0

CJ 0 0MJ 500M 500M

MJSW 330M 330MJS 10N 10N

MSUB undefined undefinedMSS undefined undefined

TPG undefined undefinedXJ 0 0

WD 0 0UO 1000 1000

UEXP 0 0UTRA 0 0

NEFF 1 1XQC 1 1

AF 1 1FC 500M 500M

THETA 0 0ETA 0 0

RG 0 0RB 0 0

JSSW 0 0N 1 1

TT 0 0NLEV 0 0

T_MEASURED undefined undefinedT_ABS undefined undefined

T_REL_LOCAL undefined undefined undefined

KP undefined undefined UCRIT 20K 20K

GAMMA 10 10 VMAX 0 0

RD 0 0 KF 0 0

CBS 0 0 DELTA 0 0

CGSO 0 0 KAPPA undefined undefined

RSH 0 0 RDS 0 0

CJSW 0 0 PBSW 800M 800M

TOX 12N 12N GDNOI 1 1

NFS 0 0T_REL_GLOBAL undefined undefined

LD 0 0

表 5.4.1 SPICE シミュレーションに用いた nMOS の AlGaN/GaN HEMT モデル のパラメータ

28

5.5 シミュレーション結果

VG を一定としたときの Vd-Id 特性のヒステリシスの周波数分散を求めるためのシミュ

レーションを行った。ゲート-ソース間の電圧を 0V として、ドレイン-ソース間に振幅10

V(0~10V)の正弦波信号を周波数 1kHz~0.001Hz の範囲で変化させて印加した。

0 2 4 6 8 10

0

10

20

30

40

50

60図5.5.1 Vd-Id特性のシミュレーション結果

I D(m

A)

VD(V)

1kHz 100Hz 10Hz 1Hz 0.1Hz 0.01Hz 0.001Hz

シミュレーション結果は、電圧上昇時には上側、下降時には下側を通るヒステリシスを描

いた。また、1Hz 付近でヒステリシスが 大となり、高周波、低周波ともにヒステリシス

が無くなっていくという傾向も見られた。また、高周波側では、立ち上がりが劣化してい

る。この結果からこのヒステリシス現象を引き起こしているのは 1Hz=1 秒程度の過渡現象

であると考えられる。シミュレーションに用いた FET の構造が異なるため、ドレイン電流

の大きさは異なっているが、第 4 章で測定された Vg を固定した場合の IV ヒステリシスの

周波数分散結果を定性的には、よくあらわしている。

29

次にソース-ドレイン間電圧を10V に固定、ゲート電圧を振幅3V(-6~0V)の正弦

波電圧を、周波数 1kHz~0.001Hz まで変化させながら印加した。

-8 -6 -4 -2 0

-5

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

55

図5.5.2 Vg-Id特性ヒステリシスのシミュレーション結果

電流

値(m

A)

VG(V)

1kHz 100Hz 10Hz 1Hz 0.1Hz 0.01Hz 0.001Hz

この結果、先ほどと同じく1Hz 付近でヒステリシスが 大となった。また、高周波側では、

電流値が小さく、低周波側では電流値が大きいという結果になった。電圧上昇時に下側を

とおり、電圧下降時には上側をとおるヒステリシスを示した。 この結果も定性的には、第 4 章の測定結果を良くあらわしている。

5.6 まとめ

IV ヒステリシス現象は、表面準位によって引き起こされ解析が難しいとされている。今

回行った寄生ゲートモデルによるシミュレーションでは、リーク電流を想定した抵抗とキ

ャパシタンスのみで表し、表面準位に関する情報は考慮に入れていない。にもかかわらず、

定性的には第 4 章で行った実測と同じ結果がシミュレーションによって得られた。これは、

表面準位の充放電の時定数が、パッシベーション層のリークもしくは、表面のリークと表

面とチャネルの間のリークによって決まっていることを表している。

30

第6章 本研究のまとめ 本研究では、自作のIVカーブトレイサーを用いて AlGaN/GaN HEMT における過渡応

答特性を評価した。 IV カーブトレーサーを用いて SiO2パッシベーションの AlGaN/GaN HEMT のIV特性

のヒステリシスの周波数分散に関する測定を行った。IV 特性のヒステリシス現象について

詳しい観察ができた。また、SPICE シミュレーションを用いてゲート-寄生ゲート間のリー

クを考慮した寄生トランジスタを用いたモデルでこのヒステリシス現象を考察した。 この結果、Vd-Id 特性のヒステリシスがゲートと表面準位による寄生ゲート間、寄生ゲー

ト-チャネル間の容量性結合とリーク電流の大きさの比で決まっていることが予測された。

このことは、ヒステリシスが少ないからといって表面準位や深い準位が少ないとは限らな

いこと、絶縁膜として使用する膜の性質によって AlGaN/GaN HEMT の過渡応答特性が劣

化してしまうことを示している。Ig-Vd 特性の測定から、今回測定した HEMT は、大振幅

高周波動作時には電流がほとんど流れないこと、Vd-Id 特性にヒステリシス少くても Vg-Ig特性を測定しなければ、良好なトランジスタ特性を得られているとは限らないことなどた

わかった。 この結果 AlGaN/GaN HEMT の安定動作のためには、表面準位が深く影響しているだけ

でなく、表面パッシベーション膜や AlGaN 層のリークが大きな影響を与えていることがわ

かった。 また今回作成した測定装置で、大振幅での振幅依存性、光依存性、熱による IV 特性の変

化等、ゲートラグ、ドレインラグ等の測定を行うことができる。これらの測定結果と SPICEのシミュレーションを組み合わせることで様々な考察が可能であろう。

31

謝辞 本研究を行うにあたり、終始懇切なるご指導とご鞭撻をいただきました徳島大学工学部

電気電子工学科 大野泰夫 教授および 助手 敖金平先生 に心より感謝いたします。 本研究を進めるにあたり、適切なご指導を有益なご教示を賜りました徳島大学工学部電

気電子工学科 酒井士郎 教授に深く感謝いたします。 本研究を進めるにあたり、ご指導を賜りました徳島大学電気電子工学科 富永喜久雄

助教授ならびに直井美貴助教授に感謝いたします。 本研究を進めるにあたり、ご指導を賜りました徳島大学電気電子工学科 講師 西野

克志先生、に深く感謝いたします。 本研究を進めるにあたり、多大なご尽力を賜りました文部科学技官、稲岡武氏、一宮正

博氏に感謝します。 本研究を進めるにあたり、多大なご指導をいただきました徳島大学工学部電気電子工学

科 研究員の西薗和博氏に深く感謝いたします。 本研究を進めるにあたり、常に有益なアドバイスをいただきました徳島大学工学部電気

電子工学科 菊田大悟氏に深く感謝いたします。 本研究を進めるにあたり、様々な場面でご協力をいただきました、徳島大学工学部電気

電子工学科 大野研究室の皆様に深謝いたします。

32

付録1 OPアンプ用のプリント基板の作成

【背景・目的】OPアンプ回路をより理想に近い状態で動作させるためには、ブレッドボ

ードやユニバーサル基板にジャンパ線を用いる方法よりも、露光装置とエッチング装置を

用いてプリント基板を自作することが好ましい。プリント基板用のマスクの製作法と露光

法、エッチングの方法等についてメモした。 【用意する道具】 ● プリント基板設計ソフト(PCBE)・ ● インクジェットプリンタ ● OHPフィルム(インクジェットプリンタ対応) ● エッチング液(サンハヤト)・・塩化第二鉄液 ● 露光装置(為貞研究室所有。蛍光灯でも良い) ● 現像液(スプレー状のものが使用しやすい。) ● ドリル(先が細いもの) ● プリント基板(ガラスエポキシ基板がのぞましい。) 【プロセス】 1.マスク設計(マスク設計ソフトPCBEを用いてマスクの設計を行う。) 2.OHPに印刷・・・OHP シートに印刷していわゆるマスクを作成する。黒い部分が実

際に銅が感光せずに残る部分である。裏表を間違えないように。ここで、プリンタの

種類によっては、黒が薄い。OHPモードよりも、写真モードで印刷したほうがイン

クが大量に出るため有効である。できあがったマスク(OHP)を天井の蛍光灯に透

かしてみて、光が透けてしまうようならば、もう一枚印刷して重ねることが望ましい。 3.露光・・・プリント基板は蛍光灯の光で露光しないようにフィルムが張ってある。そ

れを剥して、すばやくマスク(OHP)を適当な位置に貼り付ける。(別に数秒程度の

感光では露光しないので安心を)。露光装置がある場合は、露光装置を用いて行う。無

い場合は蛍光灯でもよい。 初は10分程度の露光が適当であるが、現像後にパター

ンがきちんと現像されてこない場合は、露光時間を変更する。 4.現像・・・洗面所で、露光済みのプリント基板に現像用のスプレーをまんべんなく吹

きかける(スプレーを良く振らないとだめ)数分(別途記述)待つと、見事に感光し

た部分が溶け落ちる。このときの液は、別に産業廃棄物ではないので流してしまって

も良い。 5.エッチング・・エッチングは為貞研究室のエッチング水槽を温度と時間が多少シビア

である。エッチング液が40度程度に温まっていなければ銅はとけにくい。40度程

33

度で10分ほどエッチングする。 エッチング液は有毒な産業廃棄物であるので処理は説明書にしたがって行う。エッチン

グが終了した基板は、水洗で長時間洗う。基板にエッチング液が多少でも残っていると、

経年使用時に銅箔が腐食してしまうので十分(15分ぐらい)水で流す。 6.穴あけ ドリルで穴を開ける。説明不要。ガラスエポキシ基板硬いので安物のドリルは壊れるの

で注意。 【プロセスパラメータの一例】 1.紫外線露光3分(サンハヤト露光装置使用時・・為研) 2.現像1分(スプレーをかけて・・実際にはもっと長い) 3.エッチング 温度40度 14分 ●PCBEで、マスクを設計している図

雑な説明で申し訳ありません。これらのことは、為貞研究室の一宮技官に教えていただき

ました。

34