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名古屋大学エコトピア科学研究所 第1回 研究交流会 アブストラクト集 日程:2007年4月20日,23日 会場:共同教育研究施設2号館8階801会議室

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名古屋大学エコトピア科学研究所第1回 研究交流会アブストラクト集日程:2007年4月20日,23日

会場:共同教育研究施設2号館8階801会議室

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「微生物を用いて土壌地下水汚染を浄化する」

-汚染浄化能力を高めた自立的人工微生物生態系の作出と維持-

研究グループ:片山新太、井上康、吉田奈央子、柴田敦司、馬場大輔、葉麗珍 世界中の国々で、土壌地下水汚染が見つかり、その浄化は急務となっている。高濃度汚染を対

象とする積極的な対策技術が開発され、浄化が進められてきた。しかし、主に物理化学的手法か

らなるこれらの積極的浄化技術は、低濃度汚染地では費用対効果が悪く、汚染サイトが浄化処理

されないままに残される原因の一つとなってきた。そこで、微生物を用いた生物浄化処理が、よ

り安価な浄化技術として、期待されている。しかし、過去の研究では、微生物活性を環境中で維

持できず、野外における微生物の活性制御が大きな研究課題となっている。そこで、本研究グル

ープは、自立的微生物生態系の作出による微生物能力維持法を研究するとともに、自然環境を模

擬したメンテナンスフリーの微生物群による浄化システムを、人工生態系として環境中に埋め込

み、自然の浄化容量を高める微生物浄化技術として構築することを目的として研究を進めている。

特に難分解性有機化学物質である芳香族及び塩素系化合物の汚染がある地下地盤や底質などで利

用できる嫌気性微生物群を対象として研究を進めている。 ポイント

人工環境作出による環境導入微生物の能力維持 浄化に有用な嫌気性微生物の単離・集積と異種微生物共存系のデザインによる高効率化 作出した人工微生物生態系の安全性モニタリング

その他、汚染浄化技術のリスク経済評価、廃棄物を巡るリスクと法政策、生物系廃棄物の有効

利用技術に関する研究も進めている。

人工環境作出による嫌気微生物群の能力維持人工環境作出による嫌気微生物群の能力維持

Influent reservoir Effluent reservoir

Peristaltic pump

Balance PC

N2 gas bag

N2 gas bag

Flow direction

0.5mmGB

2.0mmGB

50cm

φ7.4cm

PV=920cm3

Sampling

嫌気的微生物群

Influent reservoir Effluent reservoir

Peristaltic pump

Balance PC

N2 gas bag

N2 gas bag

Flow direction

0.5mmGB

2.0mmGB

50cm

φ7.4cm

PV=920cm3

Sampling

嫌気的微生物群

模擬地下水帯での微生物能力維持• 分解活性• 微生物の生残と死滅• 微生物の輸送• 数理モデル

( ) soldesorpsorpbiopspp

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受動的(自律的)な生物浄化技術の開発

汚染

水環境

汚染

水環境

汚染

水環境

汚染

水環境 自然減衰

浄化帯

透過性反応浄化壁

嫌気分解微生物の単離・集積

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-236

Sterile controlRejuvenation

PCB分解

嫌気微生物群

Tauera sp.R5 Desulfitobacterium sp.B31e3OH

OOHCC

Cl

Cl

Cl

Cl

CCCl

H

Cl

H

9

① ② ③ ④

16S-rRNA遺伝子のPCR-DGGE解析

標識DNAや糖プロー

ブによる特異的検出呼吸鎖キノン解析

環境微生物群のモニタリング

• 異種微生物群集の構造解析

真性細菌

対照

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名古屋大学 エコトピア科学研究所 環境システム・リサイクル科学研究部門

◆ 低温非平衡プラズマ(電離気体)を利用した,新しい機能性薄膜

材料の創製と物性評価に関する研究を行っています.自然界に存在

しない新奇窒化物材料の創製,生体を模倣した表面微細構造化バイ

オミメティック材料の形成,プラズマ薄膜堆積プロセスにおける気

相・表面反応過程の解明などをテーマにしています.

◆ 地球上に蓄積する一方の低レベル放射性廃棄物から,ウランのよ

うな核燃料放射性元素を分離し,除染済廃棄物として安全に処分・

リサイクルできるようにするため,その基礎となる,非接触・高感

度・高速度の極微量核燃料元素検出手法を研究開発します。

レーザー光を照射することにより発生する,元素特有の励起光を利用し,固体表面上の核燃料物質を高感度・高精度・高速度で非接触検出する計測方法の開発研究を行います。

レーザー光

励起光窒素プラズマ窒素プラズマ

金属蒸発源

基板

窒化物薄膜

窒素プラズマを利用して,自然界には存在しないような新奇な金属窒化物を成膜し,その構造や,物理的・化学的・光学的・電気的・機械的特性を明らかにします。

原料ガス

プラズマ発光分光法

質量分析法

赤外吸収分光法

プラズマプロセスにおいて,どんな気相・表面反応が進行しているのか,分光学的その場計測手法と成膜後の特性評価手法を駆使して,総合的にプラズマ中の反応過程を解析します。

自然界の蓮の葉と同じような表面凹凸・疎水特性を有する薄膜

蓮の葉の表面と同様な超はっ水性を示す

バイオミメティックの概念に基づいて,動物の小腸内壁にある「微絨毛組織」構造を模倣した微細構造化により,エレクトロクロミック(EC)窒化物薄膜の特性向上を目指します。

窒化インジウム薄膜の微細構造制御化により,色変化を大きく,速くできる

◆スタッフ: 井上 泰志 助教授

◆学生:修士4名,学部生2名

◆協力講座:高井 治教授/エコ

トピア科学研究所融合プロジェ

クト研究部門 (兼:マテリアル理

工学専攻),齋藤永宏助教授/物

質制御工学専攻,大竹尚登助教

授/マテリアル理工学専攻

◆アクセス:共通教育研究施設1

号館2F227号室(井上:内線

5941),235号室(学生室:

内線7387)

http://yinoue.numse.nagoya-u.ac.jp/

極微量核燃料元素検出法の開発 プラズマ成膜過程のその場計測 新奇金属窒化物薄膜の創製

バイオミメティックEC薄膜 バイオミメティック超はっ水薄膜

表面の微細構造と化学結合状態を厳密に制御し,蓮の葉表面と同様の表面状態を実現することにより,超はっ水性などの表面特性をもつ新しい機能性薄膜を創製します。

研究室の構成

井上研究室 (兼):大学院工学研究科 マテリアル理工学専攻

エコトピア材料工学講座

核燃料物質リサイクル

システム研究グループ

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高効率エネルギー変換のための基礎技術 北川邦行、松本幸三、森田成昭

研究01 高温燃焼場解析技術の開発 概要 新しい高温エネルギー変換技術開発にとって必要不可欠なものとして、燃焼場の in-situ(その場での)解析技術が必

要である。現在燃焼場での制御のための測定では温度測定用器具などを用い、測定・制御を行っている。しかし、燃

焼場中に器具を入れると接触により場の雰囲気が変化してしまうため、理想的な環境を維持することができず、効率

が下がったり、副生成物を生成する要因にもなっている。本研究開発は、燃焼場の解析を非接触にておこなうための

基礎的な技術検討を行っている。 この研究の新規性・独創性 非接触の温度測定法には、赤外線を利用する温度計が実用化されているが、これでは数百度オーダーの温度をある程

度でしか測定できない。高温高効率熱変換を行うために1000℃を超える高温場測定が必要である。これをOHラ

ジカルを利用する温度測定法や測定物体が放射している光を測定して温度を決定する測定法を活用し、プラズマの温

度測定まで可能とした。 産学連携を目指した応用研究 製鉄産業、電熱炉産業、窯業、耐熱製品開発産業など高温を利用する産業に転用可能である。

研究02 バイオマスー水熱ガス化のための計測法の開発 概要 バイオマス(木くず、もみがら、生ゴミ、堆肥)燃料は、資源の乏しい日本にとって重要なエネルギー源であり、循

環型資源(カーボンニュートラル)であるため地球温暖化ガスである二酸化炭素の排出抑制に貢献するものである。

燃料化に水熱プロセスを利用することで、エネルギーの高効率利用ができ、かつ資源(原料)としても利用すること

が可能である。本プロセスの基礎的な検討とこれを観察する計測技術開発を行っている。 この研究の新規性・独創性 バイオマスを燃料として利用するためには、一般に脱水という作業が必要であるが、水熱ガス化プロセスを利用する

と含水性の高いものへそのまま利用でき、圧縮状態で生成ガスが回収できる。また、原料によってポリフェノールや

多価不飽和脂肪酸など付加価値の大きい副生成物も得られる可能性がある。 産学連携を目指した応用研究 バイオマス発電事業や化粧品、食品添加物など天然資源を利用する産業、バイオマスプラスチックを利用できる自動

車、家電産業にも転用可能。 これまでの研究テーマ ・ レーザー誘起プラズマを用いた燃焼炎中の気体化学種の測定と燃焼炎中の酸化還元雰囲気の測定 ・ 高輻射材料の輻射伝熱特性の評価 ・ LIPSを用いた火炎中の微量金属元素の測定 ・ 工業炉内での二次元測定法の開発 ・ 高温予熱空燃焼炎の温度解析と成分分析 ・ 水熱プロセスによるバイオマスの高効率燃料化技術の開発 ・ 新規計測手法を活用した水熱ガス化のメカニズム解明

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原子力燃料サイクルと超臨界流体技術開発

環境システム・リサイクル科学研究部門 教授・榎田洋一,准教授・澤田佳代

この研究グループでは、エコトピア社会で必要十分なエネルギーを環境負荷の小さな原子力発電でまかなうために不可欠である原子力燃料サイクルの確立に貢献すべく、核燃料のリサイクルおよび放射性廃棄物の処理処分技術の研究ならびにその技術を原子力エネルギー利用以外の分野へ応用する研究を行っている。また、基礎研究として、省エネルギー・低環境影響の面で優れた性質を有する超臨界流体の利用を中心とする研究を行っており、これらの研究例を以下で紹介する。 1. 原子力燃料サイクル技術開発 (1) 核燃料のリサイクル技術研究 核燃料の再処理工場で発生する放射性廃棄物を大幅に低減し、その経済性を向上することを目的として、従来の水溶液を使用する方法に代替する超臨界二酸化炭素を媒体とした再処理方法や液化ガスを媒体とする再処理方法の原理を提案・実証し、国内外の研究機関と情報交換しながら、この分野では珍しい日本発の技術として、民間企業と共同して実用化を目指した研究を行っています。 超臨界二酸化炭素を媒体とする場合には、

250気圧に加圧した二酸化炭素を 40℃に加温して超臨界流体とし、この中に特殊な有機物(リン酸トリブチル等)を溶解させます。すると、硝酸等の酸をマイクロエマルションとして均一に分散することができ、この高圧流体を用いると金属や金属酸化物を二酸化炭素中に均一に溶解・抽出することができます。超臨界流体は拡散性に富み、細かな構造にも容易に侵入し、溶解・抽出反応を起こすことが可能であるため、汚染物の洗浄などに向いています。また、減圧するだけで、溶解していた成分が、固体や液体として完全に回収できますので、省エネルギー性が高く、分離効

率のよいプロセスを構築できます。この原理に基づく再処理方法として、SUPERDIREX法と呼ばれる方法を開発し、小規模ではありますが、実際の核燃料を試験的に処理する実験を茨城県東海村の実験施設で行い、ウランとプルトニウムの回収に成功しました。 最近では、液化ガスである二酸化窒素を媒体として、金属酸化物を水溶液を経ることなく直接、硝酸塩に転換する方法も研究しており、この成果を発展させれば、超臨界二酸化炭素を媒体とする方法と組み合わせて、放射性物質処理における放射性廃棄物の一段の発生削減に寄与できる見込みです。 (2) 放射性廃棄物の除染技術研究 放射性廃棄物の多くは、母材表面にわずかな量の放射性物質が物理的、あるいは化学的に付着している状態にあり、母材そのものが放射性物質であるということは稀です。このため、少量の放射性物質を母材から高効率で除去できれば、一般産業用途にリサイクル利用することが可能です。これまで問題となっていたのは、少量の放射性物質の除去のために、その 100倍以上の化学物質を必要とすることでした。われわれは、超臨界二酸化炭素中に実現するナノメートル構造であるマイクロエマルジョンを利用して、必要な化学物質の量を低減し、母材表面の放射性物質を除去する研究に取り組んでいます。マイクロエマルジョンの中に有機酸水溶液を保持して、超音波照射と並行して作用させることにより、炭素鋼の表面に堆積した放射性金属を含むマグネタイト層の除去に部分的に成功しました。様々な放射性物質による汚染の除去に応用が期待されます。

写真 東海村の超臨界流体抽出装置

(a)

(b)

(a)

(b) 写真 除染処理前後の模擬廃棄物

(a) 処理前のマグネタイト付着した状態, (b) 処理後の様子

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(3) 高レベル放射性廃棄物のガラス固化技術

研究 原子力発電の結果として、核分裂生成物を含む高レベル放射性廃棄物が発生します。通常、高レベル放射性廃棄物は、使用済み燃料の再処理工場でガラス固化されます。ガラス固化体の健全性の向上や発生量の削減のためには、ガラス固化の際に高レベル放射性廃棄物に含まれる白金族元素を除去することが有効であるといわれていますが、これまでに適切な方法がありませんでした。我々は、ガラス固化体を作製する工程で溶融金属銅を用いて、Ru, Rh, Pdを除去する方法を提案し、基礎研究でRu 酸化物からの回収可能性を示すとともに模擬試料からの白金族の回収に成功しました。現在、ナノサイズに分散した金属銅を含むガラスの製作や溶融ガラス中の銅による白金族の回収の数値シミュレーション等に研究を進めており、実際の再処理工場への適用を目指した研究を続けております。この研究の結果を応用すると、自動車の廃触媒から白金族を回収するプロセスに適用することも考えられ、現在、実用化されている方法よりも低温での白金族の回収が可能になると期待されます。

2. 超臨界流体技術開発 (1) 超臨界二酸化炭素ミセルを利用する新し

い有機物分解方法の研究 水中に溶存する有機物に超音波を照射して分解する方法が知られています。この方法の欠点は、処理量が少ないことですが、これは水への有機物の溶解量に限界があるからです。超臨界二酸化炭素はよく有機物を溶解しますので、高圧水中に適切な界面活性剤を使用して超臨界二酸化炭素のミセルを形成し、その中に有機物を溶解した上で、超音波を照射してミセル中に含まれる有機物を分解すれば、有害気体の発生の少ない優れた有機物分解方法を創成することが可能であると期待され、現在、原理実証実験を行っており、これまでに n-ドデカンの分解を確認しています。

(2) 超撥水白金触媒の製造と水素同位体分離への応用

水素同位体分離方法としては、様々な方法が知られていますが、核融合炉やその実験施設から排出される低濃度のトリチウムを効率的に回収するための方法としては、水と水素ガスの間では、重い水素同位体が水に濃縮されるという原理を利用する水―水素交換反応法が最有力であると考えられています。しかし、この方法のためには疎水性の白金触媒が必要です。これまでは、プラスチック製担体に白金微粒子を担持した触媒が、そのために使用されておりましたが、燃焼することが心配されています。この欠点を改善するため、我々は、超撥水加工したステンレス鋼製金網に白金ナノ粒子を担持した触媒を製造する方法を開発いたしました。また、これを利用して、水素と重水素の同位体交換反応を促進できることを確認いたしました。今後は、大型装置に充填して装置特性を評価する方針です。開発した技術のポイントは、超臨界二酸化炭素中の高拡散性を利用して、超撥水膜中に還元剤や白金化合物水溶液を分散させる技術の開発であり、これまでに使用できる界面活性剤、還元剤および白金化合物の組み合わせを見いだしています。

写真 銅を用いた白金族回収

0.0

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SDSTritonX-100C

(t) C0

time applying ultrasound, t, min

図 n-ドデカンの分解

写真 超撥水加工したステンレス鋼製金網に担持し

た白金ナノ粒子

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持続可能エネルギー源に関する研究-次世代原子力を中心として 環境部門 有田裕二

我々の研究グループでは次世代(高速増殖炉)原子燃料サイクルにおける様々な材料の基

礎物性を評価するとともに、水素関連材料、熱電材料等の材料研究を行っている。 図 1 に示すように将来の(電気)エネルギー確保のために原子力の有効利用が計画されてお

り、今後次世代型の軽水炉そして高速増殖炉への移行が指向されている。高速増殖炉では、

「もんじゅ」型の酸化物燃料および先進湿式再処理が主概念として研究が推進されている。

一方で、世界的な原子力開発の拡大と核拡散防止の観点から、日本では副概念とされている

金属燃料・乾式再処理技術について、世界的な注目が高まっている。 我々の研究グループではこの金属燃料システムにおける基礎的研究を推進している。具体

的には、長寿命放射性核種を消滅させるための金属燃料の製造技術開発に必要となる基礎物

性評価とデータベースの構築を計画している。また、金属燃料を再処理する際に適用される

乾式再処理法において使用する溶融塩の基礎物性、高速増殖炉用新規制御棒の基礎物性評価

といった実用化に向けて必要となる研究を行い、国内外の研究機関と共同して早期実用化を

目指している。 また、貴金属元素など使用済み核燃料中に含まれる希少元素の有効利用や、ウラン濃縮で

出てくる濃縮かすのウラン(劣化ウラン)の有効利用を目指して、熱電材料などへのエネルギー

機能材料としてのリサイクル研究も実施している。 原子力分野以外では、近年見いだされたセラミックスによる水素生成原理の実証と実用化

に向けた研究も行っている。 研究設備としては、本研究室で開発・改良した比熱容量測定装置が特色ある装置である。

本装置は、2000K までの材料の比熱容量および導電率が同時測定できるものであり、材料基

礎物性評価に威力を発揮する。また、1600K までの TG-DSC(熱重量-走査示差熱分析)がで

きる装置もあり、特に

高温における熱物性評

価に対応できるものが

そろっている。 今後は、高温材料科

学の点から融合研究へ

の貢献ができるかどう

か検討するとともに、

原子力のあり方・進め

方に関する文理融合を

進めていくいくことで

研究所のミッションに

貢献できればと考えて

いる。

0

20

40

60

80

2000 2050 2100 2150

合計

高増殖炉心

(増殖比1.2)

低増殖炉心

(増殖比1.03)

西暦(年)

2104年移行完了

2051年低増殖炉導入

次世代型

軽水炉

従来型軽水炉

軽水炉

プルサーマル

文科省「高速増殖炉サイクルの研究開発方針について」から引

原子

力発

電設

備容

量(

GW

e)

図1.国の計画による炉型別原子力発電の構成

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マルチスケール材料強度学の構築および高強度・低環境負荷な材料・システムの開発 エネルギー科学研究部門 木村英彦

【1.研究の概要】

最先端のエネルギーシステムを開発したり,従来

のシステムを高効率化,高機能化や大型化する場合,

それを作り上げる材料には過酷な条件が課せられる.

目標の機能を発現し,充分な性能を発揮し,実用に

耐え得るシステムを実現するには,その構成材料の

精密な「強度評価」が不可欠となる. 高精度な材料強度評価法を構築して材料の損傷・

破壊のメカニズムを明らかにすれば,そのエネルギ

ーシステムの安全運用を保証し,性能を最大限に発

揮することができる.更に,破壊機構を解明すれば,

破壊を引き起こさないより高強度な新材料や構造物

を開発することができる.高強度材料の使用は,軽

量化による燃費向上やリサイクル性の向上など,環

境負荷の低減にも結びつく.つまり,高精度な材料

強度学の構築により,高強度で高機能なエネルギー

材料を開発し,高効率なエネルギーシステムを造る

ための,最適な材料・構造や運用システムを明らか

にすることが可能となる.

【2.研究テーマ】 ●ナノ材料強度学の構築 高精度な材料強度評価には,ナノスケールの精密

な計測・解析が不可欠である.そこで,材料のナノ

構造とそれに作用するナノ力学に基づき,ナノ材料

強度学の構築を行っている. ●放射光・中性子による高精度強度評価 強度評価を高精度に行うには非破壊の計測が必要

となるため,ミクロ領域には放射光,機械内部には

中性子を使用して,応力ひずみ解析を行っている. ●ミクロ・マクロ統合マルチスケール強度評価

放射光と中性子によるミクロとマクロな計測に,

電子線後方散乱回折 (EBSD)法,原子間力顕微鏡

(AFM)法やナノ圧子法などのミクロな多角的計測法

を同一領域で統合することにより,ナノからメート

ルに至るマルチ・スケールな広い領域をカバーする

新しい材料強度評価法を構築している. ●燃料電池の長期信頼性設計法の確立 固体酸化物型燃料電池(SOFC)は,燃料電池の中で

も高効率で低環境負荷だが,稼働時の内部熱応力に

よる損傷が実用化への妨げとなっている.そこで,

放射光により実稼働時の高温反応過程において非破

壊計測を行い,損傷メカニズムの解明を行っている. ●原子力発電の高信頼性設計法の確立 沸騰水型原子炉では,構造部材の応力腐食割れが

安全上および運用コスト上の問題となっている.そ

こで,マルチスケール解析により,原子力配管の損

傷機構解明を行い,高精度な余寿命評価法と効率的

運用法の確立を行っている. ●ナノ・超細粒材の製作と強度特性

金属は結晶粒を微細化すると高強度化でき,リサ

イクル性も向上するため,ナノ・超細粒結晶の利用

が期待されるが,その変形・破壊機構はほとんど解

明されていない.そこで EBSD・AFM ハイブリッド

ナノ計測法を開発し,従来は解析不可能であったナ

ノスケール強度評価を行っている. ●自己修復機能を有するスマート材料構造 材料自ら破壊を制御し自己修復できるスマート材

料を機械構造物に適用できれば,最小の物質とエネ

ルギで最大の強度・効率を得られるため,省資源・

省エネルギに大きく貢献できる.そこで,形状記憶

合金と高強度プラスチックスなどを使用し,スマー

ト材料構造に関する基礎的研究を行っている.

【3.今後の発展テーマ】 ●風力発電用風車の高強度化設計法の構築

風車は高効率化のために大型化が求められている

が,損傷破壊事例が問題となる.そこで,流体力学

や振動工学と連成した材料強度評価を行い,安全設

計・運用法を確立する.また,CFRP 等の複合材料

の適用を実現し,塩水腐食環境下による強度評価法

の確立も行う. ●破壊力学によるリサイクルの省エネルギー化

家電等の機械・構造物のリサイクルは,粉砕とそ

の後の分別回収が一般的であり,リサイクル過程で

多大なエネルギーを消費している.破壊力学により,

通常使用時には十分な強度を確保し,リサイクル時

のみ容易に破壊分離および分別回収が可能な構造を

検討する. ●材料強度学によるリユース設計法の構築 家電等の機械は,今後,回収・分離・再生にエネ

ルギーを消費するリサイクルから,エネルギー消費

の少ないリユースに移行すべきと考えられる.材料

強度学により,1製品において,リユースする本体

部分を高強度化し,リサイクルする消耗品部分に損

傷を集中させる「リユース設計法」を構築する. ●材料強度に関するエコ・インデックスの構築

材料強度学により精密な強度・余寿命評価ができ

れば,機械・構造物の安全運用だけでなくリユース・

リサイクルが促進される.また,高強度化を実現す

れば,部材軽量化による省エネ効果,機械全体の燃

費向上・運用費削減,リサイクル性向上による環境

負荷低減など,波及効果は絶大となる.しかし現在

は,材料強度学のエコトピア科学への寄与を定量的

に示す指標がないため,経済および社会システムま

で含めて材料強度のエコ指標を構築する.

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4 月 20 日 エコトピア科学研究所研究交流会

災害廃棄物の発生抑制と減量化に着目した防災と廃棄物処理のあり方〜水害事例を中心に〜

融合プロジェクト研究部門 岡山朋子

1. はじめに

災害廃棄物においては市町村が処理を行うが、突発的かつ大量に発生するうえ当該市町村も

被災することから、その迅速な処理および減量化の取組は困難であることが多い。しかし温暖

化による気候変動が世界的な問題であり、3R 化が急務となっている昨今では、できる限りの災

害廃棄物の減量化と効率的な処理が極めて重要である。本研究では、これらの災害のうち我が

国において最も発生リスクの高い主に豪雨災害に着目し、その災害廃棄物処理において発生抑

制あるいは減量化を進める要因を見出し、提案することを目的とする。

2. 方法とケーススタディの概要

ケーススタディとして東海豪雨(2000 年)と新潟豪雨(2004 年)をとりあげ、これらの被災

地においてヒアリング調査を実施した。東海豪雨ケースでは、旧西枇杷島町住民 6 名および清

須市職員 2 名、新潟豪雨ケースでは旧中之島町住民 6 名および長岡市職員 4 名にインタビュー

を行った。インタビュー後、両ケースを比較検証した。

3. 各ケースヒアリング調査結果の考察と提案

① 行政による避難勧告と住民の対応

非常時には用意していた連絡手段がダウンすることが往々にして起こり得る。従って、有線・

無線・車による広報・その他といった三重四重の情報媒体を用意しておくことが肝要である。

② 水害によって消失した家財として最も心残りなもの

もう手に入らない本、自作ノート、アルバム、仏壇(位牌)等が共通してあげられた。これ

らのものを避難させることを鑑み、避難勧告準備には最低 30 分を要すると考えられる。

また、経済的な被害が大きいためショックの大きい家財は共通して自動車、その他では冷蔵

庫や洗濯機、テレビ等家電である。家電については洗って乾かせばもう一度使える可能性が

あるので、メーカーが被災後の洗浄・乾燥・修理を行うことを提案したい。

③ 災害ごみの処理

(特に決められていなくても)災害廃棄物は、まず、各戸前に排出される。行政は平時から

土木協会や産廃協会等と連携し、事前に災害廃棄物計画を策定しておくべきである。住宅密

集地や幹線道路沿い等からといった優先順位に従い収集を行うが、1次保管場所が必要にな

る。これも事前に用意しておくべきであろう。特に都市部においては十分な空き地が確保で

きないため、グラウンドや公園が集積所として使用される可能性が高い。平時に近隣住民か

ら合意を得ておく必要がある。

キーワード:災害廃棄物、発生抑制、減量化

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1Gbit/ s (Super SINET)

NAGDIS- II

NAGDIS- I

CSTN- IV

RIP

HYBTOK- II

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エネルギー機能材料の機能発現のメカニズムに迫る

エコトピア科学研究所 エネルギー科学研究部門

工学研究科 マテリアル理工学専攻 量子エネルギー工学分野

長崎 正雅 吉野 正人

主としてエネルギー分野で使われる(可能性のある)機能材料を対象として,その物理化学的

性質を,実験と理論計算の両面から調べている.機能発現のメカニズムを明らかにし,より高性

能な材料を開発するための指針を得ることをめざしている.

1)イオンビーム蒸着法による同位体制御薄膜の創製とその評

価(マテリアル理工学専攻松井研究室との共同研究)

イオンビーム蒸着法を用いて,同位体の組成(存在比)や構

造(配列)を制御した材料の創製を試みている.これまで,Ge,

Si, Fe 等の単一同位体単結晶薄膜を作製することに成功した.

中でも Ge については,欠陥の少ない良質の単結晶を得ること

ができた(図1).今後,これらの試料を用いて,熱拡散率そ

の他の物性に表れる同位体効果を実験的に明らかにする予定で

ある.

2)サブピコ秒パルスレーザーを用いた薄膜の熱拡散

率の測定

物質の熱拡散率(熱の伝わりやすさ)を測定する代

表的な方法として,レーザーフラッシュ法――厚さ数

mmの試料の片側表面をレーザーパルスで加熱し,反

対側表面の温度上昇を測定する方法――がある.同様

の原理で薄膜の熱拡散率を測定することをめざして,

超短パルスレーザーを用いた熱拡散率測定装置を開発

している.現在,やっとシグナル(図2)がでるよう

になった段階であるが,今後,測定精度を高めるため

の改良を加え,同位体制御薄膜や機能性薄膜の熱拡散

率の測定に適用する予定である.

3)酸化物プロトン伝導体の物性

ペロブスカイト型の結晶構造を持つ酸化物の中には,水素ま

たは水蒸気雰囲気において,プロトン(水素イオン)伝導性を

示すものがあり,水素を燃料とする燃料電池の電解質や,水素

センサー,水素ポンプ等への応用が期待されている.これらの

物質に対して,中性子回折や赤外吸収等の実験ならびに量子化

学計算を行い,水素の存在位置(図3)や存在状態を明らかに

した.今後,中性子回折によるプロトン拡散経路の可視化や,

より詳細な量子化学計算を試みる予定である.

図1 Ge-74単一同位体単結晶

薄膜の反射高速電子回折像.

0 200 400 600 800 1000-0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

Mo film (100 nm thick)

∆T / ∆Tmax

t / ps

図2 サブピコ秒パルスレーザーで加熱し

た Mo薄膜(厚さ 100 nm)の温度変化.

Ba Sn/In

O D

図3 BaSn0.5In0.5O2.75-D2O の原

子核密度分布(中性子回折に

よる).

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再利用型バイオミメティック機能材料の開発 融合プロジェクト研究部門 高井 治 【研究目的】 再利用型材料の研究は,環境調和型機能材料を開発する上で重要である.「生物の生み出す物質,

構造,機能,プロセスなどを学び,理解し,洗練させることにより,新しい機能材料をデザイン

し,創製すること」を,『バイオミメティック材料プロセシング』と呼んでいる.この環境調和型

のプロセシングにより生まれる機能材料をバイオミメティック機能材料という.本研究は,バイ

オミメティック材料プロセシングを,再利用型機能材料開発,特に分子レベルでのナノ複合化に

よる,新しい無機・有機,有機・有機複合材料開発に応用することを目的とし,現在,下記の課

題の研究を行っている.本研究を通し,『バイオミメティック材料工学』とも呼ぶべき,生物科学

と材料工学の融合によって生まれる新しい研究分野,さらに工業分野の構築をめざす.

(1)超はっ水・超親水表面上での細胞マイクロアレイ作製法の開発

(2)静電ポテンシャルのゆらぎを有する自己組織化単分子膜表面の形成

(3)自己組織化単分子膜上へのタンパク質吸着挙動の解明

(4)生体分子と材料表面間相互作用の検出技術の開発

(5)ソリューションプラズマによるナノ微粒子合成法の開発

【研究成果】

(1)再生医療工学に応用可能な細胞培養テンプレートの作製をめざし,超はっ水・超親水領域

を有するマイクロパターン表面の作製を行った.そのマイクロパターン表面上で細胞培養を行う

ことにより,超はっ水領域上では細胞が培養されず,超親水領域上のみで細胞が培養されること

を明らかにした.この技術を用いることにより,多細胞マイクロアレイおよびシングル細胞マイ

クロアレイを作製する技術を確立した.また,細胞の接着挙動に及ぼす表面官能基の影響につい

ても検討を行い,超親水領域上のカルボキシル基が細胞接着に強く相関することが判明した.

(2)シリコン基板上に走査型プローブ顕微鏡でナノドットを形成させることにより,表面上に

静電ポテンシャルのゆらぎを与え,自己組織化法による有機単分子膜の成長領域の制御を行った.

ナノドットを起点として,単分子膜の成長が開始することがわかった.これにより,自己組織化

単分子膜の核生成の制御法を確立した.

(3)疎水性および親水性を有する自己組織化単分子膜表面上でのフィブリノゲンの吸着挙動に

ついて検討を行った.疎水性を有する表面上へのタンパク質の吸着量は,親水性を有する表面よ

りも多くなる.また,疎水性および親水性表面へのフィブリノゲンの吸着速度定数の算出を行っ

た.これにより,フィブリノゲンの吸着挙動に関する基礎的知見を得た.

(4)生体分子-材料表面の相互作用の検出法を検討し,光スラブ導波路を用いた吸光分光分析

および表面プラズモン蛍光分析法が有効な手段になりうることを明らかにした.また,材料表面

と生体分子の吸着状態に関する基礎的データの収集を行った.

(5)溶液中でプラズマを発生させる技術およびそのための電源開発を行った.この液中でのプ

ラズマプロセスにより,金ナノ微粒子および白金ナノ微粒子の作製技術を確立した.液中プラズ

マによるナノ微粒子合成法の開発により,ナノ微粒子の高速合成プロセスが誕生した.

【融合研究】

(1)ヒューマン系融合研究

生体材料の創製,新規細胞培養法の開発,液中プラズマによる滅菌など,バイオ・メディカル

系との共同研究を行っている.さらに,「人」に関する文理融合研究に発展させる.

(2)水の先進理工学に関する融合研究

水の機能性,物性,応用など,水に関する総合的な融合研究を行っている.資源的な問題,有

効利用の問題など,文理融合研究も進める.

(3)子供の環境教育に関する融合研究

幼児を含めた子供に対し,環境教育を行うことは重要である.幼いうちから環境保全に関する

気持ちを育むにはどのようにしたらよいかを研究している.

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2007/4/20

イオンビ-ム物性改質とイオンビ-ム材料分析:

イオンビ-ムを用いた新機能材料開発

エネルギー科学部門 松波紀明

量子ビーム、主にイオンビーム(eV から sub GeV)と固体• 固体表面との相互作

用の基礎・応用研究を進めている。量子ビーム照射に伴うエネルギー付与及び入射

イオンと固体構成原子との反応を通じて物性改質を行い、新しい機能をもつ材料の

創生を目指している。

イオンビームの特徴として、以下の例のように表面近傍の物性改質がある。

1. TiO2光触媒活性のイオン照射による向上:表面近傍の電子構造、価数変換、原

子構造改質

2. 低温動作水素吸蔵セラミックス:表面近傍での水素吸蔵

イオンビーム特有の効果として、熱力学的平衡からのずれの効果、即ち、非熱的

過程が期待される。以下の結果は非熱的過程と考えられる。

3. Al-doped ZnO へのイオン照射による電気伝導率の増加。Zn 位置への Al の置換。

4. 界面反応。Si3N4/SiO2, AlN/R-Al2O3への Nイオン照射による N-Si(SiO2),

N-Al(SiO2)反応。

5. イオン照射による SiO2薄膜、ZnO 薄膜における粒界配向整列。

基礎的な研究として

6. 電子励起による原子変位機構(電子系から格子系へのエネルギー移行)

の系統的測定、解明を進めている。

さらに、イオンビーム物性改質を利用して、エネルギーの高効率利用の可能性、

例えば、水素同位体の選択透過を持つ材料、光電変換効率の良い材料への改質を探

求している。また、イオンビームの応用として、材料、特に薄膜の厚さ、組成、不

純物を非破壊高分解能で分析し、新機能材料開発に利用している。

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図1ジグザグ型 CNT膜のTEM像と電子線回折像

(a) tube axis

1010

b (b)

高密度カーボンナノチューブ薄膜の合成と応用

エコトピア科学研究所 環境・リサイクル研究部門 楠 美智子

カーボンナノチューブ(CNT)合成には、様々な合成法があるが、今後、電

子デバイスへの応用を視野に入れてゆくためには、サイズ、カイラリティ、位

置を制御した CNT 合成法を確立することが重要となる。

我々は、SiC 表面分解法により SiC 結晶表面上に CNT 配向膜が自己形成する

ことを見出し、その構造、生成メカニズムを明らかにしてきた 1, 2)。図 1(a)は

SiC 単結晶(000-1)C 面を 1500℃までゆっくり昇温し(1℃/min)、1500℃にて

10 時間加熱したときの表面上に、長さ約 0.2μm、平均直径 3nm の主に2層 CNT

が形成されているのが観察された。また、図 1(b)に示すように、電子線制限視

野回折法により殆どの CNT がジグザグ型の CNT であることが明らかになった。

CNT の構造は SiC の結晶方位に依存することが明らかになっており、SiC 結晶の

骨格を巧みに利用して一定の構造を持った CNT が形成されていると考えられる。

また、これら構造制御・サイズ制御を進めるとともに、直線性、高配向、高

密度、基板との高密着性等の特徴をいくつかの応用に適用するための検討を行

った。まずは、機械的応用に生かすため、ナノインデンテーションによる硬さ

試験の評価を行った。その結果から、この CNT 配向膜が高い変形エネルギー吸

収能力を発揮すること

が確認され、特殊な耐

摩耗部材としての可能

性が示された。

さらに、FET、蓄電材

料、樹脂分散膜等の応

用を平行して行ってお

り、また、粉末 SiC か

らの大量合成技術の開発状況と併せて進捗状況を紹介する。

[1] M. Kusunoki et al., Appl. Phys. Lett., 77, 531 (2000).

[2] M. Kusunoki et al., Chem. Phys. Lett., 366, 458 (2002).

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生活圏の汚染防止のためのガス淨化プロセスと環境材料開発

環境システム・リサイクル科学研究部門 環境材料工学研究グループ

1.研究グループ目標

ガス状汚染物質は,不可視であり広範囲に拡散し閉空間に滞留しやすい特徴を持つ.そ

のため,大気圏から室内空間まで様々な規模の環境ダメージを引き起こす.このようなガ

ス状汚染物質による潜在的環境ダメージの拡大を未然に防ぎ,我々の生活圏に安全と安心

をもたらすためには,ガス発生源における適切な対策技術と,汚染空間からの回収技術が

必要となる.当研究グループでは、材料の機能に着目したガス状汚染物質の高効率処理を

目的とした環境プロセスの設計や、新しい環境材料によるガス浄化技術の開発を行ってい

る。

2.研究グループテーマ

材料機能に着目したディストピア回避技術に関する研究

・ 触媒材,多孔材,固体酸,溶融塩,機能性結晶などが創成する反応場の応用に着目した

材料開発と,それらの物理・化学的作用を効果的に利用した有害ガス浄化技術について

研究を行う.

グローバル汚染ガスの処理・リサイクルシステムに関する研究

・ フロン・ハロンなどのオゾン層破壊・温暖化ガス,酸性ガスの分解や濃縮・固定化など

の処理技術の確立を行うとともに,ガスに含まれる有用資源を効果的に改質・分離・回

収・リサイクルプロセス確立のための研究を行う.

環境ダメージ最小化技術におけるリサイクル材料の活用

・ 出来るだけ環境負荷の少ない環境親和材料やリサイクル材料を利用して,有害ガスによ

る環境ダメージを最小化するための各種プロセス開発に関する研究を行う.

3.外部との連携

・中部電力株式会社との共同研究 平成 17~18 年度連携,平成 19 年新連携

・ 地域連携融合研究(愛知県)平成 19~20 年度連携

・ 産総研との共同研究 平成 17~19 年度連携

ナノ細孔アルミノシリケートの結晶構造 アルカリ性固体を利用したフロン分解装置

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ナノマテリアル科学研究部門 余語グループ

環境調和型機能材料の研究 −環境負荷低減のための機能材料の研究−

教授 余語 利信 准教授 坂本 渉 助教 守谷 誠

本グループでは、地球環境と調和する新材料の創製や省エネルギープロセスによる材料

設計・合成を目的として、ナノ構造を制御した環境調和型機能材料の合成と評価について

研究を行っている。現在、以下のテーマについて検討を進行中である。

(1) 環境調和型機能性ナノ粒子/有機ハイブリッド材料に関する研究

(2) 低環境負荷下での機能性薄膜合成に関する研究

(3) イオン導電性材料の開発に関する研究

特に環境負荷低減を目指して、新規機能材料を前駆体となる分子の設計と溶液中での反

応制御により、環境に対する負荷がより低い溶液プロセスにより合成し、その特性を評価

する。また、環境負荷の低減のためのエネルギー変換材料の合成と評価を目的として、イ

オン導電性材料の合成と性質について検討を行っている。

○成果の概要

(1) 環境調和型機能性ナノ粒子/有機ハイブリッド材料に関する研究

分子設計した金属-有機化合物前駆体を合成し、前駆体の室温付近での in situ プロセ

スにより、ナノ構造を制御した機能性セラミックス結晶粒子/有機ハイブリッドを合成し、

その磁気特性、誘電特性を評価している。機能性セラミックス粒子として、複合スピネル

粒子(ニッケルフェライト、コバルトフェライト、リチウムフェライトなど)、誘電体であ

るペロブスカイト型酸化物(チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム)、n型半導体で

ある酸化亜鉛などについて研究している。金属-有機化合物前駆体を分子設計し、反応条

件の制御により、吸収端や磁気的性質を制御したハイブリッド材料が合成できることを明

らかにしている。

(2) 低環境負荷下での機能性薄膜合成に関する研究

化学溶液法を用いて、各種機能性薄膜の合成とそれらの性質について検討している。

半導体分野におけるメモリー等への応用を考えた場合に重要な分極疲労特性に優れたビ

スマス層状化合物薄膜の化学溶液法による合成について検討している。Bi4Ti3O12(BiT)の Bi

サイトに希土類元素を、Ti サイトに V あるいは Ge などの元素により置換することで、良

好な強誘電性を示す薄膜を合成することを可能にした。BiT-SBTi 薄膜は Nd 添加量の最適

化により、表面微構造が改善され、残留分極値が 20μC/cm2の薄膜が合成できた。

さらに、強誘電・強磁性を併せ持つマルチフェロイック材料のひとつである、ペロブス

カイト型 BiFeO3系薄膜を低温合成することができた。化学組成の最適化により試料は弱い

強磁性を示し、薄膜試料は残留分極値が-190℃で約 50μC/cm2 を示した。マンガンイオン

のドープが本化合物系薄膜の室温における強誘電特性の改善に効果的であることも例証し

ている。

(3) イオン導電性材料に関する研究

中温域燃料電池用電解質膜として期待される、プロトン導電性無機・有機ハイブリッド

膜を合成し、評価を行っている。ケイ素アルコキシド誘導体から合成したハイブリッド膜

は、透明でフレキシブルであり、130℃、低湿度下で導電率 10-3 Scm-1 台の良好なプロトン

導電性を示すことを報告している。

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有機合成化学の過去、現在、未来

融合プロジェクト研究部門 坂倉 彰 [過去から現在まで] 有機合成化学において、私が有機合成の研究を開始した今から約 10~15 年前までは「欲しいものだ

けを作る」をキーワードに、選択的反応、不斉合成の研究が盛んに行われていた。その結果、分子量が

2600 を超え、64 個の不斉炭素と 7 つの幾何異性を含むパリトキシンと呼ばれる有機化合物が「選択的に」化学合成されるに至った。

[現在から未来へ] 現在も選択的合成、不斉合成に関する研究は盛んだが、「欲しいものだけを作る」に加えて「どのように

作るか」が大切であるという認識が定着しつつある。グリーンケミストリーを指向した有機合成である。私

はこれまで、生合成経路に倣った環境低負荷型有機合成反応の開発を行ってきた。有機合成化学は、単

なる「ものづくり」に止まらず、様々な「化学」への応用可能である。 1.バイオミメティックな触媒的脱水縮合反応の開発 生体内では酵素を触媒とした脱水反応を利用することにより複雑な骨格の生物活性物質が生合成され

ている。脱水反応は、触媒的に行うことができれば副生成物が水のみとなるため、化学合成において触

媒的脱水反応を巧みに利用するのが環境に負荷をかけず理想的である。私はこれまでに、カルボン酸エ

ステル合成、リン酸モノエステル合成、オキサゾリン・チアゾリン合成における生合成経路に倣ったバイオ

ミメティックな触媒的脱水縮合による合成法を開発した。

O

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CO2CH3

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2.バイオミメティックなドミノ反応を利用した短段階合成法の開発 複雑な構造の有機化合物を効率よく合成するためには、「各工程の収率を限りなく 100%に近づける」

だけでなく「工程数の短縮」が極めて重要である。生体内ではいくつかの反応が酵素により連続的に進行

し(ドミノ反応)、複雑な化合物でも環境に負荷をかけることなく効率よく合成されている。私は、生合成に

倣ったバイオミメティックなドミノ反応による含ハロゲン多環状化合物の合成法の開発に成功した。

O

SiPh3

O

SiPh3

P N

H

Ph

N

O

O

I

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H* *

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52% $% 3.有機合成化学を基盤とした環境汚染物質の除去・分解法の開発 有機合成反応に用いた触媒を廃棄せずに回収し再利用できれば、環境汚染の軽減、省エネルギー化

が可能となる。そこで、簡便な操作で回収可能な固体担持型触媒の開発などにより、触媒の回収再利法

の開発を行っている。また、金属イオンと有機配位子の錯形成に関する研究を基盤とし、有害な金属イオ

ンを選択的に吸着する配位子を結合した固体有機材料の開発を行う予定である。

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クライオ電顕による新鮮膜細胞骨格ナノ分子システムの解明 融合プロジェクト部門 先端技術共同研究施設 バイオイメージンググループ 臼倉治郎 細胞膜は外界と細胞形質を隔てる単なる限界膜ではなく、物質の取り込みや

運動、またレセプターを解しての情報伝達、能動的なイオン輸送などを行う生

命の最前線である。細胞膜の多様な機能はその細胞質側表面を覆う(密着する)

膜細胞骨格(いわゆる膜の裏打ち構造)と密接な関係にある。その分子構築と

変化を解明することは機能を知る上で極めて重要である。我々はごく最近、新

しい膜標本作製技術の開発し、膜細胞骨格複合体(膜の裏打ち)を採取し、目

的とする蛋白質を免疫金コロイドで標識し、急速凍結後ヘリウム電顕で直接観

察することに成功した。分離蛋白質や結晶ではなく、凍結されてはいるが水を

含んだ新鮮な骨格構造を in situ で観察できることの意味は大きい。本研究の目

的はこのような新しい方法と免疫フリーズエッチング法を組み合わせながら、

膜と細胞骨格の相互作用、とりわけ運動や膜の動的機能変化に対して微小管や

アクチン線維などが如何に再構築されるかを一つ一つ分子を同定しながら形態

学的に明らかにすることである。 膜の細胞質側表面を観察することは容易ではなく、通常の超薄切片法では観

察できない。フリーズエッチング法においても膜の採取と同時に細胞質の溶出

性成分(soluble proteins)を除去しなければ観察できない。我々は apical 側の

膜は図 1 のような吸着法で、また超音波刺激により細胞を破壊し(unroofing 法)

基質吸着している basal 側の膜を採取することに成功した(図 2)。吸着法で得

られた膜標本はクライオ電顕で直接観察し、unroofing 法による膜標本はフリー

ズエッチングレプリカ用に使用した。 図 1 吸着による膜の剥離法 図 2 超音波による unroofing

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フリーズエッチング法による膜の構造解析 図 3 に示すようにアクチン線維、微小管、クラスリンを主成分とする膜裏打

ち構造を立体的に観察できた。特にアクチン線維は膜に密着する成分と細胞質

内にある所謂細胞骨格とに分類される。そして細胞運動に関与するアクチン結

合蛋白である IQGAP1 はこの密着するアクチン線維に優先的に結合することが

明らかになった。従来、アクチン結合蛋白などのように結合標的性のある蛋白

は全ての標的蛋白と結合するものと考えられてきた。しかし、IQGAP1 の場合

局所性があることが判明した。如何にして局所性が生じるのかは大変興味があ

り、今後の課題である。 図 3 培養細胞の細胞膜裏打ちのフリーズエッチングレプリカ像 膜に密着して走行する多数のアクチン線維や膜面へのクラスリン被覆が認めら

れる。 クライオ電顕による水を含んだ新鮮細胞膜の構造解析 吸着法を用いて細胞膜を採取することにより、今回初めて新鮮、細胞膜裏打

ち構造を観察することに成功した。全体的にはフリーズエッチングレプリカ法

による観察結果を支持するものであったが、フリーズエッチングレプリカ法で

しか観察できなかったことが別の方法で、しかも新鮮状態で観察可能になった

ことの意味は大きい。また、無固定であるため微細構造はフリーズエッチング

レプリカ像と異なる。微小管はフレキシビリティーがあり、断片化することな

く極めて長く観察される。またアクチン線維も直線的ではなく流れるように走

行していた。また吸着法により採取した膜標本を用いて、免疫標識し水を含ん

だ状態で観察することが出来た。IQGAP1 標識の場合、標識用金コロイドがア

クチン繊維の上に認められた。

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図 4 吸着法により得られた細胞膜を急速凍結し、いっさいの前処理なしで 10Kの温度にて観察した像。 微小管は曲がりくねりながら伸びている(二重矢印)。 Inset A はその微小管の一部拡大図、 また inset B は人工的に合成した微小管

のクライオ電顕像

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環境調和型電気エネルギーシステム構築を目指して

大久保仁,遠藤奎将,早川直樹,小島寛樹 (エネルギー科学研究部門,エネルギーシステム寄附研究部門)

キーワード:電力技術,電力機器工学,高電界技術,超電導電力応用

電気エネルギーは安全で使いやすいエネルギーとして,今日の社会では家庭,

産業,公共をはじめあらゆる分野のインフラで欠かすことのできないエネルギ

ーになっている。全消費エネルギーに占める電気エネルギーの比率は既に 42%に達しており,近い将来には 50%を超えるものと予測され,その重要性はます

ます高まっている。電気エネルギーには,高品質なことが要求される一方で,

電力システムの経済性確保や地球環境負荷の低減が求められ,また,高経年機

器の増加への対応が焦眉の急になっている。以上の電力システムの諸課題を解

決するためには,材料~機器~システムをトータルとして捉え,システムとし

ての協調を図ることが重要である。 本研究室では次世代の電気エネルギーシステムに関する技術開発のキーワー

ドを「高効率エネルギー伝送」,「環境適合」,「システム的思考」の3つと考え,

高電圧・電力技術の観点から取り組んでいる。特に,電力機器の信頼性を支配

する電気絶縁性能に関する物理・化学的な基礎過程を究明し,これを合理的な

絶縁設計や機器診断など,より高性能な機器開発への応用研究に発展させるこ

とを目指している。これらを通じて,エネルギー利用の中心である電気エネル

ギーをいかに確実にかつ効率よく伝送・制御するか,また先端超電導技術など

を適用した将来の電力機器やエネルギーシステムはどうあるべきか,などにつ

いて創造していく。 主な研究テーマは以下の通りである。 1)電力機器の地球温暖化抑制/難燃・不燃化技術 2)高感度部分放電測定による機器診断技術 3)真空中の放電・帯電制御技術 4)ナノ誘電材料・傾斜機能材料(FGM)の電力機器適用技術 5)高精度電界解析/測定と電界コントロール技術 6)高温超電導電力技術(電力貯蔵技術(SMES),限流変圧器,ケーブル開発) 7)インバータ駆動モータの高信頼化技術 8)電力システムの知的な最適運用技術

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廃熱を利用した熱電発電に関する要素技術の開発

融合プロジェクト研究部門 准教授 伊藤 孝至

日本における全一次供給エネルギーの約70%が、廃熱として未利用のまま捨てられ

ているのが現状である。この莫大な熱エネルギ-を有効利用することは、省エネルギー

および環境保全の観点から21世紀に解決すべき課題の一つである。熱電発電は、二酸

化炭素あるいは放射性物質等を排出することなく、タ-ビン等の可動部を必要とするこ

となく熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換することのできる熱電半導体モジュ

ールによる発電方法である。また、熱電発電は、産業用から民生・家庭用まで、分散的

に存在する廃熱エネルギ-を電力に変換する分散熱エネルギ-有効利用技術として位

置づけることができる。熱電発電システムは、一次供給エネルギ-の削減(省エネルギ

ー)とこれに伴う CO2 排出量の削減(環境保全)に直接貢献できるため、その実用化お

よび普及が大いに期待されている。

廃熱利用という観点では、小型タ-ビンを用いたコジェネレ-ション技術が実用化の

段階に入っている。熱電発電の変換効率は、タ-ビンを用いた場合には及ばないが、熱

電発電にはスケール効果が無く、廃熱源のスケールを問わない点が最大の利点である。

熱電発電には、工場、ゴミ焼却場、自動車、ディ-ゼルエンジン、燃料電池からの廃熱

や太陽熱、ガスの触媒燃焼等様々な形態の熱源が利用可能である。研究報告されている

民生用発電機の規模もナノワットクラスの薄膜型発電素子から、キロワットクラス大型

発電器まで熱源形態の多様性を反映した応用範囲の広さを示している。この様にオンサ

イトの小規模なエネルギ-変換システムとしての熱電発電は、従来利用不可能であった

廃熱を電力に変換しうるため、従来のコジェネレ-ション技術と相補的であるとともに、

これらを組み合わせることで、より大きな効果が期待される。

熱電発電による廃熱回収を実用化するために最も重要な技術開発課題は、廃熱の温度

域で高性能に働く熱電材料・素子・モジュールの開発である。当研究グループでは、各

種システムからの廃熱として多い 500~800K(中温域)の廃熱にターゲットを絞り、

低製造コストに繋がる新しい製造プロセスを提案し、その製造プロセスによる高性能な

熱電材料の開発を進めている。さらに、性能向上の観点から、フラーレンを均一分散さ

せた熱電材料の開発や熱電材料のナノ粒子化、ナノシート化に関する研究も行っている。

また、素子・モジュールの開発では、高変換効率に繋がる大きい温度差に対応できる積

層型熱電素子・モジュールの開発を新しく提案した製造プロセスを用いて行っている。

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環境政策の制度設計とその実証に関する研究

エコトピア科学研究所融合プロジェクト研究部門

准教授 林希一郎

1.環境政策の比較分析:諸外国(欧米・アジア)の法制度の比較研究

(1)意思決定の持続可能性配慮手法の研究 ・ 計画等の意思決定のできるだけ早い段階から環境配慮等を盛り込む手法について、制

度や事例の研究を実施している。本研究では、環境影響評価法制度および戦略的環境

アセスメント法制度等の欧米・アジア諸国の制度比較分析を行い、効果的な戦略的環

境アセスメント制度を実現するための要因を研究している。 (2)環境税の活用に関する政策研究 ・ 地球温暖化対策の効果的な政策手法の一つとして環境税制の活用が注目されている。

一方で、実際に欧州諸国等で導入されている環境税は、理想的な環境税とは大きく異

なる制度となっている。本研究では、欧州諸国で導入されている環境税に着目し、エ

ネルギー関係税制全体の観点から各国の制度の比較研究を実施している。また、わが

国において当該制度を導入するに際しての要因についても研究を行っている。 2.国際条約の交渉課題の研究:生物多様性条約、WTO 他

(1)国際環境条約の交渉に関する研究 ・ 国際環境条約の制度や交渉課題の研究を通じて、国際的環境社会システムのあり方の

研究を実施している。特に、現在手がけているのは生物多様性条約の制度設計に関す

る研究である。本研究では生物多様性条約の遺伝資源アクセスと利益配分(ABS)の

課題について着目し、政策および経済学的な学際研究を実施している。 3.事例研究:環境影響評価、環境データ・マネジメント

(1) バイオ廃棄物の有効利用の影響評価に関する研究 ・ エコ研長谷川教授を代表とする「バイオウェイストのリファイナリー資源化」にする

文理融合型研究に参画している。特に、インドネシアのパームオイル廃棄物に着目し、

そのマテリアルフローや環境インパクトの研究を行っている。 (2)エネルギー・環境マネジメントに関する研究 ・ 意思決定の持続可能な配慮手法に関連する事例研究として、地区レベルにおける環

境配慮を効果的に推進するための方策の研究を実施している。特に、地区単位の環

境配慮型都心再生を総合的に推進するための方策として、環境モニタリングと対策

効果の検証システムの構築による都心部における効果的な環境対策の研究を実施

している。

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次世代 ULSI に向けた金属/半導体界面制御技術

中塚 理

名古屋大学 エコトピア科学研究所 ナノマテリアル科学研究部門 1970 年代から指数関数的な性能進化を続けてきた Si 系集積回路(LSI)は、近年、一つの

チップあたりが 10 億個以上ものトランジスタを内包するに至っており、現代の高度情報化社

会の基盤を支える最も重要な電子デバイスである。その加速度的性能向上が、今後も維持さ

れることで、低コスト、超低消費電力で膨大な情報を高速に処理する能力が、携帯可能なサ

イズにまで集積小型化されるとみられる。これによって、経済、社会活動の更なる高効率化、

省エネルギー化が促進されるであろう。 LSI の基本素子である MOS 型電界効果トランジスタ(MOSFET)は、現在、産業ベースで

ゲート長 65nm 以下と、極限にまで微細化が進んでおり、その更なる高性能化に向けて、数

多くの技術的障壁に直面している。半導体 Si 中で処理された電気信号を外部に取り出す金属

電極と Si とのコンタクトに注目した場合、トランジスタ動作を制限する寄生抵抗であるコン

タクト抵抗の極限までの低減、ナノスケールにまで微細化された接合構造の原子尺度での均

一平坦化技術が重要な課題となっている。これらの課題に対し、我々は、金属/Si 界面への第

三元素の添加による、界面反応およびコンタクト諸物性の制御技術に関する研究を行ってお

り、今回、幾つかの事例を紹介する。 次世代のコンタクト材料として着目されている NiSi 薄膜は 600℃以上の高温プロセス時に

多結晶粒が凝集を起こす熱的不安定性に問題があった。イオン注入法等を用いて Ni/Si 界面に

1%以下の C を添加することで、多結晶 NiSi 薄膜の構造安定化性が 750℃程度まで向上でき

る。また、NiSi/Si コンタクトへの C 添加は、同時に、ドーパント原子である B の界面への偏

析を促進し、これによってコンタクト抵抗率が 3 分の 1 程度にまで低減されることも見出さ

れた。これらの成果により、コンタクト材料候補としての NiSi の可能性がさらに広げられた。 原子尺度で均一平坦な金属/Si 界面の実現に向けては、Si 基板上へのエピタキシャルシリサ

イドの成長が着目されている。我々は Ni/Si 界面への Ti の極薄中間層の導入によって、Si 中への Ni の固相拡散と NiSi2の核形成を制御することで、従来にない超平坦で均一なエピタキ

シャル NiSi2(001)/Si(001)界面構造を形成できることを見出した。また、このエピタキシャル

NiSi2/Si コンタクトの形成によって、単一面方位の接合による均一な Schottky 障壁高さを有す

る界面が形成できることも明らかになった。将来の極微細トランジスタからなる超々大規模

集積回路においても、特性に揺らぎのないコンタクト構造の実現が期待できる。 次世代 MOSFET の高移動度チャネル材料として注目される Ge に向けても、新しいコンタ

クト材料、構造の開発などが必要であり、多元系材料からなるコンタクトのナノスケールで

の界面反応の理解に立脚した、金属/半導体界面における物性制御技術の重要性は、今後も

益々増大すると考えられる。

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高性能電子顕微鏡とナノ電磁界評価技術の開発

ナノマテリアル科学研究部門

教授 丹司敬義 准教授 田中成泰 助教 川﨑忠寛(工学研究科)

次世代の高度先端技術の発展には,その特性を原子や分子のレベルで制御した新しい機能

を持つ材料の開発が不可欠である。そしてそのためには,材料の原子構造や組成,電気的・

磁気的構造をナノメータ以下のスケールで正確に観察・計測する必要がある。我々は,電子

線を使ってそのような極微細構造を観察・評価するための装置や新技法の開発を行っている。

主な研究テーマは次のようなものである。

1)実時間ステレオ電子顕微鏡の開発

2)電界放出電子銃の高輝度化の研究

3)カーボンナノチューブを用いた微小電子源, 微小探針の開発

4)環境電子顕微鏡の開発

5)無収差電子顕微鏡の開発

6)電子線ホログラフィによる薄膜内の電気的・磁気的構造の解明

7)高分解能電子顕微鏡による半導体界面の原子構造の解明

8)電子線誘起電流法を用いた半導体の電気的特性の解明

下図は燃料電池の本命として期待されている固体酸化物燃料電池(SOFC)の白金—ガドリ

ドープトセリア(GDC)モデルセルを電子線ホログラフィで観測した例で,再生位相像(a),(c)

には,電極間に外部電圧を図(b),(d)の様に印加した時に生じた,界面における電気二重層と

酸素イオン濃度の偏在が確認される。

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人と機械の健康的共生をめざすものづくり

融合部門 大日方五郎,金泳佑 性能やコストではなく「健康」をサポートする機械を創るためには、生理機

能やメンタルの状態を非侵襲的に計測・推定する技術が必要である。また、人

が環境から受ける刺激がどのように生理機能に影響するかを知ることが重要で

ある。医工連携、産学官連携の仕組みを通して実現をめざす「ものづくり」プ

ロジェクトの概要を説明する。

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低環境負荷な材料合成と資源回収技術の開発 環境システム・リサイクル科学研究部門(兼務)

講師 笹井 亮

私たちは,『資源循環を実現した豊かな社会システム』の構築を目指して,それに必要な

技術や材料の開発に関する研究を進めている.この目標を達成するための材料製造技術や

資源回収技術は,“低環境負荷”・“低消費エネルギー”・“高効率”であることが必要不可欠

である.そこで私たちは,自然界に存在するさまざまな現象を利用・模倣した‘材料合成’

や‘資源回収’を実現することで上記の必要条件を満たすべく,以下の研究を進めている. ① 光機能性を有する無機/有機ナノハイブリッド固体材料の創製と評価

私たちは,現在多くの研究者により「低消費電力駆動」,「多色化」や「高輝度化」に関する研究が進めら

れている“発光材料”を,できる限り有害な資源や希少な資源を使わず(低環境負荷&資源使用量低減),低

消費エネルギーで作ることを目的に研究を行っている.これを実現できるだけでなく,発光波長の連続的な

調節が可能な“発光性有機色素”を固体状態で高効率に発光させるために,天然産出物の一種でありクラー

ク数の高い元素(Si, Al, Mg)からなる粘土層間への分散・ナノハイブリッド化を試みている.現在までの結

果,粘土の層間へ発光性有機色素と共に界面活性剤を共存させることで,界面活性剤の“自己組織化現象”

を利用して色素を分散させることに成功し,色素のみでは高量子収率・高輝度発光が困難な高濃度領域(0.1

mol/dm3)で発光量子収率約 0.8 を有する固体材料の開発に成功している.今後は,この材料のレーザーデバ

イス化,電流/電界駆動化,構造・性能制御などを検討していく予定である.

② 資源回収を指向した環境対応水熱技術の開発

工業廃水に含まれる多くのオキソ酸(B,F,P,As,Se,Cr など)は,水中で非常に安定なため除去が困難

である.一方でこれらの元素は,工業原料として有価であるにもかかわらず,現行の処理法では回収される

ことなく廃棄されている.これら廃水中からの除去が困難なオキソ酸を利用可能な資源として分離・回収す

ることで有害廃水を無害化するために,私たちは“地球の鉱物生成機構”に注目し,これを模倣する

(Geo-Mimicry)ことで廃水処理を実現する手法として,『水熱鉱化廃水処理法』を提案し,これまで研究・開

発を進めてきた.B,F,P,As,Cr などのオキソ酸に関してはこれまでに天然に存在する鉱物資源として回

収できると共に,廃水を低消費エネルギーかつ高効率に無害化できることを明らかにしている.今後は,本

手法の実用化のためのシステム設計,更なる適用範囲の探索および鉱物生成機構(熱力学的・速度論的考察)

の解明などを検討していく予定である.

【研究コンセプトの全体像】

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超低消費電力半導体材料・デバイス

小川正毅

CMOSLSIの超低消費電力化の実現を目指し、チャネル半導体へのゲルマニウム

採用可能性を検討している。ゲルマニウムは電子と正孔の移動度がシリコンの

約4倍と大きい。とくに超低消費電力化が期待できるサブスレショルド領域で

のCMOS動作では、拡散電流が支配的となるため、高移動度半導体材料が本質的

に有利となり、ゲルマニウムの優位性が顕著となるものと期待される。

ゲルマニウムCMOS実現に対する第1の困難は、ゲルマニウムの表面安定化とゲ

ルマニウム上へのゲート絶縁膜形成である。我々は、ラジカル窒化法によって

得られるGe表面構造を原子レベル分解能で観測し、酸素雰囲気下における表面

構造と比較した。ラジカル窒化法では、表面線欠陥の導入を伴わずに原子レベ

ルで平坦な清浄Ge表面が形成されることをはじめて明らかにした。ラジカル窒

化法を用いることにより、シリコンにおける熱酸化法に対応する良質な表面安

定化がゲルマニウムにおいても可能なことを示唆するものであり、長年にわた

るGe研究に多大なインパクトを与えるものと思われる。さらに、低温ラジカル

窒化したのち希土類高誘電率膜であるプラセオジウム酸化膜を被着し、比誘電

率25という大きな値をもつGeCMOS用ゲートスタック構造を実現した。これら

の成果は、ゲルマニウムCMOS実現への大きな一歩と考えている。

第2の困難は、n型Geへの金属障壁高さが大きいという点である。すなわち、

高駆動能力を有するnチャネルMOSFETの実現に懸念を与えている。このため、

NiおよびPtとGeの固相反応研究に着手した。金属/Ge界面におけるフェルミピニ

ングの起源を明らかにし、上記困難へのブレークスルー技術を創成することが

今後のターゲットとなる。

ゲルマニウムに2軸性引張り歪を印加すると、伝導帯のΓ点エネルギーが低

下し、さらには、直接遷移型バンド構造を示すことが理論予測されている。電

子の有効質量が大幅に小さくなることによる高電子移動度特性、歪による価電

子帯の縮退がとけることによる高正孔移動度特性、さらには、光学利得を有す

るIV族半導体実現など、従来のIV族半導体では得られなかった特性と機能の発

現が期待されている。我々は、Geより格子定数の大きなGeSn成長に挑戦し、さ

らにこのGeSn上にGeを形成することにより、世界最高の2軸引っ張り歪を有す

るGe薄膜形成に成功した。GeSnは共晶系であり、完全分離系である。熱的安定

性が確保されたSn組成の大きなGeSn混晶の形成という未踏のテーマに今後挑戦

するとともに、引っ張りGeを早期に実現して、理論予測されている物性に対し

実験面からの検討を加えたい。

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テラヘルツ波の発生と応用

川瀬晃道

近年,テラヘルツ(THz)波と呼ばれる約 0.3 ~ 10 THz(波長 1 mm ~ 30 μm)の電磁周波数帯の光源開発とその

応用開拓が進んでいる.この帯域は電波と光波の中間に位

置しており,電波のように紙,プラスチック,ビニール,

繊維,半導体,脂肪,粉体,氷など様々な物質を透過する

と共に,光波のようにレンズやミラーで空間を自在に取り

回すことができる.また,電波に比べて波長が短いため,

多くのイメージング用途にとって必要十分な適度な空間分

解能を有している.さらに近年,ビタミンや糖,医薬品,

農薬など様々な試薬類に固有の吸収スペクトルがテラヘル

ツ帯で見出され,その応用可能性が広がりつつある.テラ

ヘルツテクノロジー動向調査委員会の報告によればテラヘ

ルツ波の応用が見込まれる分野は実に広範囲にわたる.そ

れは,テラヘルツ波が物質を透過し,数百μm の空間分解

能を有し,人体に安全で,試薬類の指紋スペクトルを有し,

さらには DNA の1本鎖と2本鎖の識別・水と氷の吸収

差・半導体不純物への感度・ラセミ体の判別,などといっ

た他の電磁周波数帯に無いユニークな特長を有しているた

めである. 人類はかつてニーズのあるところ必ずそれを実現する技

術を発展させてきたが,テラヘルツ応用もいずれは光源と

検出側の技術が飛躍的に高まり,種々の非破壊検査などが

実用化されてゆくと確信している.さらに言えば,X 線,

紫外,可視,赤外,ミリ波,マイクロ波,電波帯・・・とそ

れぞれの周波数域に固有の画期的な用途が開拓されてきた

ように,テラヘルツ波においても画期的な応用が複数見つ

かると考えている.また、近い将来,産業用途に応え得る

性能の小型高出力テラヘルツ光源や高感度テラヘルツカメ

ラなどが開発され,それに伴って応用分野の飛躍的な拡大

がもたらされるであろう. 我々は,レーザー光の波長変換技術を用いて,既存の自

由電子レーザーなどに較べ小型簡便な広帯域波長可変テラ

ヘルツ光源を開発し,高性能化,小型化などに関する研究

を進めている.光注入型テラヘルツパラメトリック発生器

は,パルス幅のフーリエ限界の狭線化(0.003 cm-1, 100 MHz)を達成した.最近では,マイクロチップ Nd:YAG レーザー

を励起光源とした超小型光注入型テラヘルツパラメトリッ

ク発生器の開発,あるいはトップハットビーム形状の

Nd:YAG を励起光源として変換効率の増大などを進めてい

る 1,2. また,次のようなテラヘルツ波利用技術に関する研究を

継続中である.まず,広帯域波長可変テラヘルツ光源を用

いたテラヘルツ分光イメージング技術の研究開発を行った.

これは,複数の試薬が混ざったサンプル中の特定試薬の分

布密度を画像化する技術で,光源の広帯域波長可変性,お

よび 3THz 以下の低周波域で次々見出されている試薬類の

指紋スペクトルを活かした成果である 3.この技術を用い

て,郵便物検査,覚醒剤・爆発物所持検査,医薬品検査,

病理組織診断,などへの応用が期待される.また,テラヘ

ルツ波の散乱光モニタリングにより隠された粉体の摘発が

可能であることを示し,大量に流通する郵便物の中から迅

速に疑わしい郵便を抽出する実験を進めている.また,レ

ーザーテラヘルツ放射顕微鏡という新しい非破壊非接触の

計測診断技術を阪大と共同で開発し,半導体チップ

(LSI)の故障解析への応用を展開している 4.さらに,メ

タルメッシュなどのテラヘルツ技術を用いた新奇なケミカ

ル/バイオセンサーなどへの応用展開を図っている. 既述したテラヘルツ波のユニークな特性は X 線のように

物質を”透視”でき,多くの目的に必要十分な数百μm の

空間分解能を有し,かつ指紋スペクトルで試薬類を識別で

きる,というものであるが,実はこの能力を有するのはテ

ラヘルツ波の中でも 0.5 ~ 2.5 THz の狭い範囲に限られる 5.

なぜならば,多くの物質は大約 2.5 THz 以下の周波数帯の

み透過し,他方,試薬類が指紋スペクトルを有するのは大

約 0.5 THz 以上の周波数帯だからである.私見で恐縮であ

るが,X 線~可視~赤外~電波と,あらゆる電磁周波数帯

で,この”透視識別能力”を有するのは 0.5 ~ 2.5 THz だ

けであると言うことができ,テラヘルツ波のこの特性が今

後の産業応用にとって重要であると考えられる.幸いなこ

とに,我々が開発している非線形光学効果を用いたテラヘ

ルツ光源,および世界的に広く用いられている THz-TDS(時間領域分光法)は,この周波数領域を丁度カバーして

いる. 非線形光学が専門の私ゆえ贔屓目なのかもしれないが,

70 年代に広く研究されていた差周波光混合による半導体結

晶からの広帯域波長可変テラヘルツ波発生をリバイバルし,

最近のレーザー技術,波長変換技術を動員して高出力波長

可変テラヘルツ光源を実現することが,実は上記のような

安全安心や非破壊検査等の目的にとって近道なのではない

かと感じている. 参考文献

1) K. Kawase, J. Shikata, H. Ito, “Terahertz wave parametric source,” J. Phys. D: Appl. Phys. 35 (2002) R1-R14.

2) S. Hayashi, H. Minamide, T. Ikari, Y. Ogawa, J. -i. Shikata, H. Ito, C. Otani, and K. Kawase, "Output power enhancement of a palmtop terahertz-wave parametric generator," Applied Optics, vol. 46, pp. 117-123 (2007).

3) K. Kawase, Y. Ogawa, Y. Watanabe and H. Inoue, “Non destructive terahertz imaging of illicit drugs using spectral fingerprints,” Opt. Exp. 11 (2003) 2549-2554.

4) M. Yamashita, K. Kawase, C. Otani, T. Kiwa and M. Tonouchi, “Imaging of large-scale integrated circuits using laser-terahertz emission microscopy”, Optics Express, vol. 13, no. 1, pp. 115-120 (2005).

5) A. Dobroiu, C. Otani, K. Kawase, “Terahertz-wave sources and imaging applications (Invited Review),” Measurement Science and Technology, vol. 17, R161-R174 (2006).

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研究紹介(平成 19 年 4 月 23 日)

「人の『生の質』を損なわない/支えるものづくりの探索」

松本光太郎(融合プロジェクト研究部門)

自己紹介

(1) 私は,高齢者がどのような環境のなかで生活を営んでいるのか,もしくは生活環境において日々どのようなこ

とが起こっているのか,そのようなことを在宅高齢者や施設居住の高齢者の生活に長期間付き合いながら記述してきま

した。それらの研究は,以下のような論文として公刊してきています。

〔①松本光太郎. (2007b). 施設に居住する高齢者の日常体験を描き出す試み:外へ出て‐内に帰ることに注目して. 質的心理学研究,6,

77-97. ②松本光太郎. (2007a). なぜ古野さんのコーヒーを飲む姿に僕は魅了されたのか:映画「ジョゼと虎と魚たち」を導きの糸に

しながら. 『発達』,109,78-89. ③松本光太郎. (2005c). 高齢者の生活において外出が持つ意味と価値:在宅高齢者の外出に同行

して. 発達心理学研究 ,16(3),265-275. ④松本光太郎. (2005b). 行為 / 体験から描き出される高齢者の外出を取り巻く意味世界:

同行という方法による事例的考察. 九州大学心理学研究 , 6, 57-67. 〕

(2) (1)のような研究は,今回テクニカルな言葉を除いているため,一見簡単そうではありますが,研究行為と

して実践および論文にして公刊する際には様々なことを検討する必要があります。

①相手が「生活」と「生身の人」であること 高齢者が「どのような環境においてどのように生活をして

いるか」ということがテーマですので,何をどこまでやればという明確なゴールを設定することが出来ませ

ん。また,生活を知る上で不可欠である生身の高齢者と彼/彼女の生活の場において付き合い続けることは,

面白い反面しんどい場合もあります。

②「科学的」という前提の再検討 多くの研究者が前提としている「科学的知見」が満たすべき要件,具

体的には「観察者が事象(実験)に影響を及ぼさないこと,事象の客観性を阻害しないこと」,「再現性が保

たれること」,「一般性に結びつけられること」,「量化すること」,「操作可能であること」などの要件を満た

すことは,人(私たち)が営む生活に注目する際には困難であるにとどまらず,多くの研究者が前提として

いる「科学的知見」と「私たちの営む生活」の間には大きな隔たりが横たわっていると言えます。多くの研

究者が前提としている「科学」という枠組みを再検討することと併せて,私の行っている研究行為が「科学

的知見」としても認められうることを示そうとしてきました。

これらのことについては,上記の公刊論文と併せて,私自身主催者の 1 人である「てんむすフィールド研究会」およ

び研究会で発行する「てんむすフォーラム」(7 月創刊号公刊予定)にて議論しています。

(3) 以上から,エコトピア科学研究所における私のオリジナリティとしては,「人の生活を理解することを『研究

行為』として試みてきたこと」,「特に高齢者と,彼/彼女を取り巻く環境との関係に注目してきたこと」が挙げられると

思います。

(4) それらの背景から,エコトピア科学研究所に赴任後始めた仕事としては,「高齢者の生活におけるモノ環境の

意味」,「高齢者の生活に介護ロボットを導入することにより変わってしまうと予想されること」といったテーマについ

て,人-環境系という視点から理論的,実証的に検討しています。

〔Kotaro Matsumoto and Goro Obinata. Toward a Desirable Relationship of Artificial Objects and the Elderly: From the Standpoint of Engineer and

Psychologist Dialogue. ICOST07(International Conference On Smart homes and Telematics). in press.〕

研究紹介当日は,「人の『生の質』を損なわない/支えるものづくりの探索」に関して具体的に行っていることを紹介

したいと思います。

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山本 芳弘(融合プロジェクト研究部門) 研究タイトル:環境・エネルギー問題の経済分析 キーワード:応用ミクロ経済学、環境経済学、環境・エネルギー問題 要約: 環境・エネルギー問題を、ミクロ経済学の分析手法を用いて研究している。融合研究の

可能性を検討するには研究手法を知ってもらうことが重要と思われるので、ここでは研究

手法の説明を中心に研究紹介をする。 ミクロ経済学は、経済主体の最適化行動を基礎として経済を描写し分析する経済学であ

る。研究対象は、個々の企業や消費者の行動原則、また競争市場や産業の構造である(こ

れに対してマクロ経済学では、経済全体を分析対象とする。例えば、経済成長、インフレ

ーション、景気循環、失業など。ミクロ経済学とマクロ経済学との差は、現代では分析手

法ではなく対象となる経済問題の差に求められる)。 現代ミクロ経済学のもっとも重要な分析ツールのひとつは、ゲーム理論である。ゲーム

理論では、戦略的相互作用が働く状況における人々の意思決定の記述に主眼を置く。ここ

で戦略的状況とは、各経済主体にとって最適な行動が他の主体の行動に依存する状況をい

う。ゲーム理論の応用として、インセンティブ、交渉理論、エージェンシー問題などがあ

る。インセンティブとは、経済主体にある行動を取らせる要因・刺激のことをさす。現代

経済学では、経済主体の行動はインセンティブによって決まると考え、経済システムにお

ける経済主体のインセンティブの構造を分析することが中心的な課題である。交渉理論で

は、主にゲーム理論のツールを用いて、経済主体間のパイの分配を規範的・事実解明的の

両面から分析する。エージェンシー問題では、ある経済主体が他の経済主体に、情報の非

対称性が存在する状況下で特定の行動を選んでもらいたいときに、インセンティブをうま

く与えてそれを実現させることを分析する。一般に、戦略的状況にある人々の行動は、彼

らがプレーするゲームのルールに影響される。換言すると、様々な経済行動や資源配分が、

ゲームのルール次第でプレーヤーたちの均衡行動として実現可能かどうかを考えることが

できる。ゲームのルール(メカニズム)を適切に定めることにより、特定の行動を均衡と

して実現できるかどうかを分析することをメカニズムデザインという。 これらの分析手法は、政府、企業、消費者等を問わず経済主体間で相互作用が働く経済

行動の分析すべてに適用可能である。これを用いて、競争戦略、流通・マーケティングな

どの取引、企業組織の内部構造や組織間関係、経済制度と慣行などを分析することを応用

ミクロ経済分析という。この研究方法を、環境・エネルギーに関する問題に適用して研究

する。例えば、省エネのためのインセンティブ、環境に配慮した企業行動の誘導、環境・

エネルギー分野での研究開発促進、環境・エネルギー技術の社会への普及、環境・エネル

ギー問題でのコンフリクトの解決などについて、通常の環境経済学とともに研究している。

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「機能性ナノ材料の構造と物性の電子線を用いた研究」 ナノマテリアル科学研究部門 田中研究室

教授 田中 信夫 講師 齋藤 晃 助教 山崎 順

キーワード: 超微粒子、ナノチューブ、超薄膜、界面、ナノ構造体、光触媒、

半導体および磁性量子ドット、電子顕微鏡法

超微粒子、超薄膜や界面の原子構造と電子物性のダイナミックスを解明し、光触媒、ナノ磁性体素子に関連するナノテクノロジーの基礎的研究を行っています。またバイオテクノロジーの研究を視野にいれた高分子や生体細胞の 3 次元観察法の開発研究も行っています。

主な研究テーマ ・ 金属、半導体、セラミックスのナノ結晶の構造と物性のダイナミックスの研究

(特に光触媒、ナノ磁性記録) ・ 超薄膜、超微粒子の電子線プローブによるナノ加工、操作の研究 ・ 超 LSI のための半導体界面の電子線コンビナトリアル解析法の研究 ・ 球面収差補正電子顕微鏡像の引き算による原子直視観察 ・ 球面収差補正制限視野ナノ電子回折法の確立 ・ 球面収差補正 HRTEM による超高分解能観察法の研究 ・ 電子線トモグラフィーをもちいたナノ構造体の 3 次元観察 ・ 収束電子回折法による高精度格子歪み測定法の開発 ・ 準結晶および近似結晶の構造および対称性の研究 主な実験装置 ・ 収差補正超高分解能電子顕微鏡 ・ 光化学反応その場観察電子顕微鏡 ・ 超高真空電子顕微鏡 ・ 真空蒸着装置 ・ 電子顕微鏡観察用試料研磨装置

(a)電子線トモグラフィーによる強磁性 FePtナノ微粒子複合膜の3次元再構成構造。(b)電子回折図形。(c)高分解能像。

(a) (b)

(c)

収差補正電子顕微鏡をもちいたSi[110]高分解能像。

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「高効率エネルギー変換システムの開発」について

エネルギー科学研究部門 長谷川豊・小島義弘・久保貴・朴海洋

○研究の目的

地球温暖化への対応は地球規模での緊急の課題となっているおり,化石燃料の化学的エネルギーか

らの高効率発電技術の開発に加えて,再生可能エネルギーの導入が必要不可欠である.そこで,高温

高効率エネルギー変換のためのケミカルガスタービンシステムの構築を目的として,燃焼過濃燃焼技

術,燃焼希薄燃焼技術,システム冷却技術の開発研究を行っている。また,再生可能エネルギー利用

技術の確立を目指した研究,廃棄物の無害化処理および燃料化に関する研究も行っている。

○主な研究内容

【燃焼形態および 2 次燃料投入による DME の燃料過濃燃焼条件下の燃焼挙動に関する研究】

一段目タービンに燃料過濃燃焼を用いたケミカルタービンシステム(ChGT)において,安定燃焼の

維持が困難であることと,すすが生成し易いという問題が挙げられる。一方,DME は,分子中に酸素原

子の介在により炭素-炭素の直接結合を有しないため,燃焼時のすす生成抑制が期待できる。本研究で

は, 燃料過濃燃焼時のすす生成抑制を目的として,燃料として DME を用い,燃料過濃燃焼方法の検討

を試みた。

【ガスタービン冷却システム開発に関する研究】

ガスタービンシステムの高効率化を図るため,マイクロガスタービン用遠心圧縮機の入口において

水噴霧質の注入することによる遠心圧縮機における圧縮効率の改善を目指すと共に,ガスタービンロ

ータディスクの冷却システム・冷却空気量の最適化を目指す研究を実施した. 【風力エネルギー利用技術の開発・確立に関する研究】

地形起伏が大気境界層流れに及ぼす影響を実験・数値解析により明らかにすると共に,突風を含め

た風力タービンへの流入風条件が水平軸風力タービンの発電特性・騒音特性に及ぼす影響を統計的手

法の利用により調べた.また,風力タービンシステムにおける翼弾性ならびにロータ翼 3 次元形状が

タービン空力特性に及ぼす影響を調べた。

【水熱酸化反応によるバイオマスのエネルギー変換に関する研究】

バイオマスのモデルとしてエタノールを用いて,一次元反応管における水熱酸化反応の数値計算

を行った。亜臨界から超臨界状態への遷移を含む数値計算を行い,エタノールの分解特性を明ら

かにした。

【超臨界 CO2を用いた熱搬送システムに関する研究】

現在の冷媒サイクルの作動媒体をそのまま自然冷媒に置き換えることは困難であるため,自然冷媒

を単独で使用するのではなく,熱搬送媒体を用いたシステムが考えられている。本研究では,熱

源側の冷媒としてプロパン,熱搬送側に CO2を用いたシステムの検討を行った。

【超音波を利用した汚染土壌の浄化処理に関する研究】

①水中揮発性有機化合物(VOC)を高効率で無害化する超音波分解装置,②土壌中 VOC を高

速除去する超音波洗浄装置,③高速な固液分離装置の各要素技術を確立し,さらにそれらを

組み合わせた原位置処理が可能な可搬式の汚染土壌中 VOC 無害化システムを構築することを

目的として,本研究グループでは,②に関する「VOC 汚染土壌に対する超音波洗浄効果」に

ついて検討を行った。

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情報・通信科学研究部門 情報通信システム分野における研究活動

担当教員:教授:片山正昭, 准教授:山里敬也, 助教:西野隆典

無線通信システム・音響システムの提案・解析・試作実験・性能評価を行っている.研

究分野は,情報理論,通信理論,変復調理論,ディジタル信号処理,トラヒック理論,制

御理論である.また情報メディア教育センターを兼務しており,本学の情報メディア教育

の推進,名大の授業の電子公開などの活動も行ってきている.

無線通信システム(http://www.katayama.nuee.nagoya-u.ac.jp)

工学研究科電子情報システム専攻の協力講座として,無線通信技術における主要な課

題について,基礎から応用までの幅広い研究を行っている(片山・山里).変化の激しい無

線通信分野において,幅広い活動を行ってきた結果,国内外の学会における招待講演,論文

発表数や委員会での活動等からみても,国内外において最も活発な無線通信の研究グルー

プを形成できている.また人材供給の面でも国内外の無線通信関連企業の多くに研究者・

技術者を送り出してきている.本学で唯一の無線通信システムに関する研究室である.

◆超高信頼性無線制御・通信システム

◆高信頼性電力線通信システム

◆ソフトウェア無線通信システム

◆第4世代移動体通信システム

◆マルチホップ/セル無線システム

◆センサネットワーク

◆高速・高信頼性無線動画像伝送技術

◆衛星通信システム

◆可視光通信システム

◆高度交通システム(ITS)

音響システム(http://www.sp.m.is.nagoya-u.ac.jp/HRTF/)

情報学研究科の音声・言語・行動信号処理研究室の一員として,高臨場感再現・通信につ

いての研究を行なっている(西野).特に頭部伝達特性と呼ばれる音響伝達特性に着目した

検討を進めている.頭部伝達特性は,音源とユーザの耳道入口との間の音響特性を表現し,

この伝達特性を再生したい音に畳み込むことにより,立体音響効果を与えることが可能と

なる.現在は,頭部近傍での音響特性計測のための小型計測用音源の開発・計測と,自由

視聴点システムの開発(自由聴点部)を通じて,頭部伝達特性に関する基礎的検討,なら

びにその応用例についての検討を行なっている.

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機能性自己組織化膜の作製

ナノマテリアル科学研究部門 岡野 孝 自己組織化とは、特定の分子が集合して構造的な秩序を形成する現象である。生物

では、DNA やタンパク質、細胞膜(脂質二重層膜)等が「分子認識」という機構を

使って「自己組織化」しており、生命の機能を作り出している。自己組織化は室温・

常圧で「自発的に」起こる現象なので、高度な秩序(低エントロピー状態)にもかか

わらず、全くエネルギーを必要としないで形成することができる。このような膜組織

を無機結晶や金属表面に実現した膜が自己組織化膜(self-assembled monolayer: SAM)で、当研究グループでは、有機合成化学の手法を使って、機能性官能基を有する自己

組織化分子を合成し、その自己組織化による機能性材料の開発を目指している。なお、

この研究は、融合プロジェクト部門高井治教授との共同プロジェクトの一部である。 (1) 水素終端化シリコンへの有機分子の自己組織化による機能性シリコン基板の作製 酸化膜表面を持つシリコン基板をフッ化水素酸で処理すると Si-H 結合表面を持つ水

素終端化シリコン基板となる。有機化学的には、Si-H 結合は、C-C 不飽和結合にラジ

カル反応による付加反応が可能な構造である。適切な分子設計に基づいて合成した分

子を反応させることによりシリコン基板に新たな機能性を付与することができる。多

環芳香族アセチレンとの反応では、シリコン格子とσ-π共役構造で結合したπ-共役

系有機構造が構築でき、そのダイオード特性を示した。また、以前より行っていた抗

電界の小さい有機強誘電性分子構造である含フッ素エーテルをシリコン基板に直接

結合することで、強誘電性メモリ材料への応用へと開く強誘電性基板を作製した。さ

らに、可逆的な酸化還元特性を持つ有機金属錯体であるフェロセンを末端に持つ分子

を自己組織化することで、酸化還元を繰り返すことができ、新しい書き換え可能なメ

モリ材料への応用が期待される自己組織化膜の作製を行った。 現在、SAM の機能性向上のために機能性官能基の積層化を考え、そのための基本

構造として、ポリペプチドのへリックス構造を SAM 構造の土台に利用するよう新規

官能基置換アミノ酸の合成法の開発とペプチド化を検討している。 (2) 含フッ素チオールの合成と非「金」金属基板への自己組織化膜形成 シリコン基板と並んで、安定な自己組織化膜を形成する組み合わせとして、金基板

とアルカンチオールの組み合わせがよく知られている。これは、金とイオウ原子との

間の特異的に安定な結合を利用するものであるが、一般に、アルカンチオールは他の

金属とは安定な SAM を形成しない。これに対して、イオウの電子供与性を減じた含

フッ素アルカンチオールは金以外の金属とも比較的安定な SAM を形成する。末端に

官能基を導入した含フッ素アルカンチオールを合成し機能性材料の開発を図ってい

る。最終的な目標は、末端に細胞接着性オリゴペプチドを導入したチオールを合成し、

生体適合性金属材料を開発することである。

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環境調和型エネルギー変換とその利用

○長谷川達也、坪井和也、隈部和弘(融合プロジェクト研究部門)

キーワード:バイオマスエネルギー、ヒートポンプ、レーザ樹脂溶着、ナノ流体

環境と調和するように二酸化炭素や有害物質の排出を低減しながら製造,輸送,生活に必要な

エネルギーを発生させ,利用することが求められています.そこで,本研究室では航空機や自動

車のエンジンシステム,工業炉や発電などのエネルギー発生システム,工場での生産システム,

ビルや家屋の空調システムなど,熱や流れのエネルギーを利用したり発生したりするシステムの

効率を良くし,二酸化炭素や有害物質の排出を低減することを目的として研究を行なっています.

(1)バイオマスエネルギーの研究(水熱プロセスによる廃棄物ガス化と湿式燃焼による熱エネ

ルギー発生)

高温高圧の水は油のような有機物を良く溶解し,あらゆる反応の媒体になることが物理・化学

的に知られています.これを水熱プロセスと呼びます.この高温高圧の水に生物系廃棄物や低質

燃料を溶解させ分解すれば水素やメタンなどの高品質のガス燃料を取り出すことができます.ま

た酸化剤を入れて燃焼させれば熱エネルギーが発生しますのでボイラーとして発電や熱供給に

利用できます.これを湿式燃焼と呼びます.この研究では生物系廃棄物や低質燃料などをエネル

ギー資源化し,有害物質の排出を低減しながら熱エネルギーを生成することを目的としています.

これまでにおからや汚泥などの有機廃棄物や泥炭などの低質燃料から選択的に水素を生成する

研究、エタノールの湿式燃焼の研究を行っています.

(2)環境調和型冷媒を使用する高効率ヒートポンプシステムとその応用

空調機,冷凍機などで使用されている代替フロン(HCFC)はオゾン層を破壊するので 2010 年に

は現在の 35%以下に削減することが決まっています.それに代わる冷媒として開発されている

新代替フロン(HFC)は塩素を含まないのでオゾン層を破壊しませんが,潤滑油との相溶性が悪い

ため,圧縮機の潤滑がうまく行かず,これを従来の空調システムで使用することは通常困難と言

われています.このような障壁を解決する技術として開発されたのが追設凝縮器を組み込む技術

です.この追設凝縮器は従来の空調システムに常に凝縮器として働くように組み込むと,冷媒の

種類によらず効率が1割程度増加してエネルギー消費が減る,潤滑油を良く循環して圧縮機の潤

滑を維持するので新代替フロンが単体で使用できる,高温の外気においても熱放出して正常に動

作し,低温の外気においては霜がつかず正常に動作するなどの優れた特性を発揮します.この研

究は追設凝縮器のこれらの特長がどのような原理や機構によって生じるのかを明らかにし,空調

機や給湯器などの熱交換機器を高効率化することを目的としています.

(3)半導体レーザによる熱可塑性樹脂の接合およびその応用

半導体レーザの熱エネルギーを用いて熱可塑性樹を接合し,機械,電機部品や医療器具等の製

造,樹脂フィルムによる包装などをエネルギー効率良く精密に行なうことを目的とする研究です.

半導体レーザは安価であり,電力のエネルギー変換効率が高く,小型で場所を取りません.また

局所的に加熱するので精密な加工ができ,ロボットと組み合わせれば自由自在な加工も可能です.

自動車,コンピュータ,家電製品,医療機器などでは樹脂部品が多用されていますが,この樹脂

部品の加工を半導体レーザで行なえば,省エネルギーで精密で自由自在な加工ができ,工数,部

品数の削減ができるので低コスト,高リサイクルの樹脂部品の生産が可能になります.これまで

に次のような研究を行ない,研究論文と特許出願を出しています.光透過性/不透過性の熱可塑

性樹脂をラップ接合する方法の特性評価,光透過性樹脂同士をレーザラップ接合する方法,樹脂

フィルムをレーザ接合する方法,樹脂表面にレーザでコーティングする方法,異種樹脂同士や金

属やセラミックスと樹脂をレーザ接合する方法の開発.

(4)ナノ流体による熱伝導の向上

冷媒や熱媒体にナノ粒子を分散させることで、流体の熱伝導率を向上させることを狙った研究

です.異なる媒質,異なるナノ粒子,異なる粒子密度により熱伝導率がどのように変化するのか

を調べています.

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社会基盤の環境負荷・エネルギー負荷の軽減へ向けて

環境システム・リサイクル科学研究部門 准教授 北 川 徹 哉 近,取り組んでいる研究の概要:

1.ケーブルのウェイクギャロッピングに関する数値流体解析 複数の物体から構成される構造物は土木,建築,機械,エネルギー,電力,通信など多くの分野にあ

り,周囲を移動する流体も気体,液体あるいは混相流など様々である.これらの複数物体まわりの流れ

場と流体力は各物体の配置に応じて複雑な様相を呈するために予測が難しく,設計や防災,事故防止な

どの応用の幅広さと重要性とを背景に多くの検討が行われている.特に,近接に配置された二つの円形

断面ケーブルについては,ウェイクギャロッピングとよばれる特異な流体励起振動が発現する.ウェイ

クギャロッピングの励振メカニズムは未解明であり,この複雑な励振メカニズムを実験的に検討するに

は限界がある.そこで本研究においては,数値流体解析によりウェイクギャロッピングの励振メカニズ

ムの解明を試みている. 2.ウェーブレットを用いた風速変動の分析,シンセサイズ,対風応答予測 乱れた気流などの発達した乱流の変動には自己相似性があるが,これが完全な自己相似ではなく,局

所的に間欠性も含まれることが明らかにされつつある.風速変動の時刻歴データをウェーブレット変換

を用いて分析し,間欠性の検出を行っている. 構造物の耐風応答の予測においては風の時刻歴データが必要となる場合があり,多様な風の変動を模

擬したデータが人工的に作ることができれば非常に便利である.そこでウェーブレットをシンセサイズ

(合成)することによって多様な模擬風速変動データを作成する手法を考案した. 観測された風速変動データに対する構造物の応答振動(バフェティング)を予測する手法を考案した.

ウェーブレットを応用することで,突風のような風速の局所的な変動を構造物の応答振動に反映させる

仕組みになっており,バフェティングのより精緻な予測を可能にすることが狙いである. 3.高速道路トンネルの環境負荷・エネルギー負荷の軽減 自動車交通の基幹である高速道路では照明,サービスエリア,トンネルの換気システム,ロードヒー

ティング,電光表示板ならびに各種情報システム,ITV を含む各種センサーなどの多くの設備は電力を

恒常的に消費している.例えば,あるトンネルは年間 1GWh 以上の電力を消費し,これは火力発電換算

でおよそ1千トンの CO2 排出量に相当する.山岳地形が多くを占める我国においては多様な規模・設備

を有するトンネルが多数存在し,トンネルだけでも膨大なエネルギー負荷ならびに環境負荷を強いてい

る.事故防止やドライバーの安全のため,ひいては円滑な社会活動や経済活動のために,高速道路交通

を支えるこれらの設備は必要不可欠なものであるが,そのエネルギー負荷軽減が必要である.本研究に

おいては,高速道路のトンネルを走行する自動車からエネルギーを回収してそのトンネルの設備エネル

ギーに循環利用することを考え,このための手法の提案と実装した場合のエネルギー代替効果について

検討する.

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所内研究交流会資料

環境システム・リサイクル科学研究部門 環境共生システムグループ

舘石和雄

○研究テーマ

(1) 低環境負荷型社会基盤システムの構築技術に関する研究

(2) 社会基盤施設の高度診断・モニタリングシステムに関する研究

(3) 社会基盤システムのロングライフ化構築技術の研究

(4) リサイクル・リユースのための社会基盤システム構築技術の研究

○研究の背景・目的

建設分野は大量の資源を消費し,かつ,建設副産物の産業廃棄物における割合も大きい

ため,環境共生社会の形成に大きな責任を負っている.すなわち,社会基盤施設を計画・

建設,供用・維持管理,廃棄・取り替え,リサイクル・リユースのライフサイクルで考え,

低環境負荷型の整備・運用技術を研究開発する必要がある.

○成果の概要

(1)疲労損傷を受けた鋼橋の延命化技術の開発

鋼橋の寿命を延ばし,架け替えなどによる環境負荷,コストを低減するための手法とし

て,疲労き裂が生じた鋼橋に対する延命化手法の開発が必要である.鋼橋で疲労き裂が多

発する溶接継手を対象に,その補修・補強方法について提案し,効果の確認を行っている.

(2)腐食した鋼製部材の残存板厚計測技術の開発

鋼橋の架け替え理由のうち,腐食が占める割合は高い.腐食した鋼部材の残存性能を評

価するためにはその板厚を計測することが も基本的な事項となることから,画像計測に

よって腐食鋼材面の表裏の形状を計測する手法の開発を行っている.

(3)地震時における鋼製構造部材の崩壊を防ぐための技術開発

鋼製部材の地震時における崩壊モードの一つに低サイクル疲労破壊がある.地震時にお

ける鋼部材の低サイクル疲労損傷を防ぐことは,構造物の安全性を向上させるとともに,

損傷に起因する廃棄・取替の量を減らすことにつながる.鋼溶接継手部における低サイク

ル疲労強度,鋼部材の地震時動的解析結果とを組み合わせることにより,鋼部材の低サイ

クル疲労破壊の発生の有無を予測する手法について検討を行っっている.

○設備

大型構造物載荷システム,30トン動的載荷装置,5トン動的載荷装置,振動式疲労試験

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高性能キラル分離剤の開発

キラル高分子工学(ダイセル)寄付研究部門

客員教授 岡本佳男   助教 辻 雅司

[緒言]

 生体は核酸、タンパク質、多糖などの光学活性な高分子の集合体であり、光学異性体に対して異な

る生理活性を示すことが多い。特にキラルな医薬品の場合、光学異性体の一方は本来の薬理活性を示

し、もう一方は副作用や競合阻害などを引き起こす場合も少なくなくない。したがって、光学異性体

を高効率に分離することは重要な課題であるが、光学異性体は物理的、化学的性質の多くが同様であ

るため、その分離は容易ではない。

 当部門ではこれまで、光学異性体を簡便かつ実用的に分離するための高速液体クロマトグラフィー

用のカラム充填剤(キラルカラム、図 1)の開発を行ってお

り、これらのキラルカラムはすでに広く用いられている。キ

ラル充填剤に用いられる高分子材料は、重合により得られる

一方巻きらせん構造を有するポリメタクリル酸エステルなど

の光学活性ポリマーや、天然に存在するセルロースやアミ

ロースの誘導体である。これらの高分子のキラル認識能は、

化学構造、分子量とその分布などの一次構造とらせん構造などの高次構造に強く依存する。したがっ

て、これらの高分子が持ちうる特性を最大限に引き出すためには、これらの構造の制御が極めて重要

である。

[研究内容と特徴]

 当部門では、セルロース、アミロースな

どの多糖の様々なカルバメートおよびエス

テル誘導体を合成し、その光学分割能につ

いて検討を行っている。その中で、セルロー

スおよびアミロースの 3,5-ジメチルフェニ

ルカルバメート(図 2)は非常に高い不斉識別能を有し、実用性のある高速液体クロマトグラフィー

(HPLC)用のキラル固定相となることを見いだしている。また、その不斉識別機構についても、明ら

かにしつつある。一方、これらのキラル充填剤は、多糖誘導体の溶解性のために使用できる溶媒に制

限がある。この問題を解決するために、不斉認識能を損なうことなしに、これらを不溶化させ支持体

であるシリカゲル上に固定化する手法の開拓を目指して研究を行っている。

図 1. キラルカラム

図 2. セルロースおよびアミロースの 3,5-ジメチルフェニルカルバメート

O

OCONH

OCONHOCONH

R

RR

OO

OCONH

OCONHOCONH

R

RR

On n

R =CH3

CH3

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排熱排熱排熱排熱のののの熱化学変換熱化学変換熱化学変換熱化学変換 Energy conversion from exhaust heat to higher exergetic energy by thermochemical processes

名古屋大学名古屋大学名古屋大学名古屋大学エコトピアエコトピアエコトピアエコトピア科学研究所科学研究所科学研究所科学研究所

熱化学熱化学熱化学熱化学プロセスプロセスプロセスプロセス研究研究研究研究グループグループグループグループ

小林敬幸小林敬幸小林敬幸小林敬幸

低質な排熱を有効利用するためには,その質をよりエクセルギーの高いエネルギーへ変換することが重要である。 本報告では、60~85℃程度の排熱を利用する冷凍機の開発事例を中心に研究紹介する。 1 研究研究研究研究のののの背景背景背景背景・・・・目的目的目的目的 原油価格の高騰とCO2排出抑制を背景に、エネルギー利用効率の更なる向上が強く求められるようになってきた。そのため、これまで対コストの観点からほとんど手が付けられなかった低温排熱を効果的に利用する技術にも関心が向けられるようになってきた。 80℃以下の排熱を利用する技術には、吸着冷凍機や多重効用吸収冷凍機があるが、より低温排熱を利活用するには吸着冷凍機がより適している。 しかし、これまで吸着冷凍機は体格に対する出力(比出力)が小さくかつ比較的高価であったため導入が遅れていた。 本研究では、高性能吸着材を吸着器の熱交換面にコートし、物質移動と熱移動速度を大幅に向上させた。その結果、吸着器の比出力はこれまでの最大10倍程まで向上した。 ここでは、開発したヒートポンプの構造と成果を報告する。併せて、応用技術として吸着ヒートポンプと直火式ボイラーを複合したハイブリッド給湯器を提案し、その高性能性についても紹介する。

2 開発内容開発内容開発内容開発内容のののの概要概要概要概要 2.12.12.12.1 排熱排熱排熱排熱からのからのからのからの高出力冷熱生成高出力冷熱生成高出力冷熱生成高出力冷熱生成((((高比出力高比出力高比出力高比出力のののの吸着冷凍機吸着冷凍機吸着冷凍機吸着冷凍機のののの開発開発開発開発)))) 試作した吸着冷凍機は、図1に示すように二つの吸着器と凝縮器,蒸発器から構成され、4つのエアバルブで連結されている。使用した吸着剤はゼオライト系吸着材のFAM Z01およびZ02,吸着質は水である。吸脱着は二つの吸着器で交互に行うため、エアバルブはコンピュータで制御される。容器内は10torr(=1.3kPa)程度に減圧されている。 冷熱は、水が乾燥した吸着剤に吸着される際の蒸発潜熱を蒸発器から奪うことによって生成する。吸着が完了した後は、排熱を吸着器に加えて再度乾燥(脱着再生)させる。

第1図 吸着冷凍機の概念図と構成

第2図 試作吸着冷凍機の概観

はじめにはじめにはじめにはじめに

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第3図に試験結果の一例(FAM Z01)を示す。図より安定した温度で冷水が生成していることがわかる。また、サイクル時間は既往の市販装置(5分以上)よりも大幅に短縮されている。これにより比出力(体積当りの出力)が大幅に向上することに結びついた。比出力の結果を第4図と5図に示す。再生温度が低い場合にはFAMZ01を用いると高出力が得られ、85℃を越えるとFAMZ02を用いれば報告されている値としては最高性能の1kW/L以上を示している。

項 目 単 位 数 値 熱源温度 ℃ 80 冷却水温度 ℃ 30 冷水温度 ℃ 15→13 サイクル切替時間 s 210(FAM Z01) 110 (FAM Z02) 吸着材充填量 (吸着器1個当り) g 244(FAM Z01) 252(FAM Z02) 熱交換流体流量 L/min. 蒸発器流量 3.5 凝縮器流量 4 吸着器流量 4~5

第1表 各種試験条件

第3図 試験結果(各温度の径時変化)

第4図 試験結果(低再生温度時の比出力)

第5図 試験結果(高再生温度時の比出力) 2.2.2.2.2222 吸着吸着吸着吸着ヒートポンプヒートポンプヒートポンプヒートポンプをををを組組組組みみみみ込込込込んだんだんだんだ高高高高COPCOPCOPCOP給給給給湯器湯器湯器湯器((((ハイブリッドハイブリッドハイブリッドハイブリッド給湯器給湯器給湯器給湯器))))のののの開発開発開発開発 開発に成功した高比出力を実現するヒートポンプを組み込んで、高いCOP(目標1.3以上)を実現するガス焚き給湯器を開発した。 装置構成の概略は第6図のとおりで、ガス焚きボイラーの一部の熱を吸着材の再生に利用し、蒸発器に大気から熱を供給することで1を超えるCOP(一次エネルギー基準)を実現する。 試験結果の一例を第7図に示す。気温と水温に依存するが、年間を通して1.3を越えるCOPを実現できる可能性を示している。

第6図 吸着ヒートポンプを組み込んだ給湯器の装置構成

第7図 試験結果(月別の給湯COP) 連絡先 名古屋大学 エコトピア科学研究所 エネルギー科学研究部門 准教授 小林敬幸 [email protected], 052-789-2733

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<交流会アブストラクト:エネルギー科学研究部門・田原・古澤>

1. 高温プラズマの X 線診断

核融合研大型ヘリカルプラズマ(LHD)において不純物からの X 線を用いたプラ

ズマ診断やすざく衛星の X 線撮像分光データを用いた高温の星間プラズマや銀河団プラ

ズマの研究を行っている。

前者では小型の結晶分光器を用い主として高階電離鉄 K 輝線の測定から主要プラズマ

パラメータの導出とともに核融合の反応率低下の原因となる不純物イオンの制御に資す

るデータの取得を目的としている。また後者では酸素から鉄に至る諸元素の高階電離

イオンからの X 線の観測から例えば銀河系の中の星間高温プラズマの物理状態の解明や

諸元素の起源の解明を目指している。

2. 次世代高効率・高精度 X 線望遠鏡の開発

衛星搭載用に小型軽量でありながら高感度で高空間分解能を持った望遠鏡開発が課題

となっている。極めて薄い基板を用いていながら数百ミリサイズでミクロンレベルの形状精

度とサブナノメートルの表面粗さが要求される非球面光学系である。要素技術には精密切

削加工した NiP 表面を非球面レプリカ・マンドレルとするためのの超精密研磨法や、従来

十分な反射率の得られなかった数十 keV の硬 X 線に対して反射が可能となる多層膜スー

パーミラー製作法、エポキシとアルミ基板を用いた超薄肉大型鏡面転写(レプリカ)などの

技術がある。

3. X 線結像光学システムの応用

プラズマ診断や天文観測以外の研究への X 線結像光学システムの応用として多層膜を

応用した新しいタイプの X 線顕微鏡システムの開発を行っている。現在の直接の目的は暗

黒物質探査であり、これは宇宙の観測でその存在が知られている非バリオン型暗黒物質

の正体を探る地上実験において、有力候補の素粒子が原子核乾板に作ることが期待され

るサブミクロンの飛跡の読み出しに用いるものである。高分解能・高速処理が課題であり

実現すれば他分野への応用も考えられる。

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複雑流動現象の先進的数値シミュレーションと気液二相流の流量測定法の開発

情報・通信科学研究部門 内山 知実

キーワード:計算流体力学,Lagrange 型解法,流体計測,気液二相流,固気二相流 1.複雑流動現象の先進的数値シミュレーション 自然界で観察される流れや工業装置が扱う流動は,一般に,広範で多様な時間・空間スケール

をもち,非線形な挙動を示す.当研究室では,このような複雑流れに関するモデリングとシミュ

レーションに取組んでいる. 複雑流れの典型例として,気体,液体,固体など異なる相が混在して相互作用を及ぼし合いな

がら流れる混相流,様々なスケールの渦から構成される乱流などがある.当研究室では,渦度,

濃度および温度などの物理量をもつ微小な粒子を導入し,粒子の挙動を追跡することにより現象

を解析する,いわゆる Lagrange 型解法(粒子法)の開発を進めている.すなわち,現象のミク

ロな素過程をメゾスケールの粒子挙動としてモデル化する解法である.本解法は,現象の時間・

空間の発展過程を直接計算でき,広範囲の

Reynolds 数における高い安定性,逆流や剥

離を伴う非定常流への優れた適用性をもつ.

これまで,気流中に微細な固体粒子が付与

された固気二相流,水流中に微小な気泡を

含む気泡流,物体後流および噴流における

物質拡散,不可逆一段反応を伴う混合層,

自由表面を有する流れなどの解析に適用し,

既存の実験的研究を補完し得る貴重な知見

が得られている. 図 1 は,静止水中を上昇する気泡群が誘

起する流れ(気泡プルーム)の解析例を示

す. 2.気液二相流の各相流量の同時測定法の開発 円管内を流れる気液二相流を対象とした,各相流量の同時測定法の開発にも取組んでいる.図

2のように,円管内に楔形の渦発生器を設置し,その前後の管壁圧力(P1および P2)を測定する

と,差圧(P1-P2)の時間変動は気相および液相の流量 jgおよび jlに依存することが知れる.つ

まり,差圧変動の特徴量(尖り係数や標

準偏差など)を測定すれば,流量が同定

(測定)できる.当研究室では,同定に

ニューラルネットワークを援用する方法

を開発している.可動部がないこと,圧

力測定に基づく方法であることなどから,

安価・簡便・メンテナンスフリーの特徴

がある.これまでの研究により,測定誤

差が5%であることが確認されている.

図1 気泡プルームの解析結果

図2 気液二相流の差圧変動に着目した 各相流量の同時測定

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流体情報学(Fluid Informatics) パターン形成,回転流,分岐,ビジョン 情報・通信科学研究部門 渡辺 崇 流体の運動や,人,車,そして情報流れがみせる複雑系現象の力学的構造を,系統的に把握,理

解することは重要である.計算機シミュレーションや実験によりもたらされるデータから,発見

的,情報科学的アプローチを用いて,有用な情報を抽出する,流れの情報学(フルードインフォ

マティクス)の確立を目指した研究を進めている. ・回転場における流れの分岐現象 円柱容器内の回転円盤周りの流れや,回転2重円筒間の流

れの回転流は,かつてより注目されてきているが,その複

雑な力学的構造には,新たな知見が見出され続けている.

円盤と容器の間に隙間がある場合や,円筒の長さが有限で

ある場合には,代表的な外的パラメータやレイノルズ数が

同じであるにもかかわらず,異なったパターンを持つ各種

の分岐構造が現れることを示し,実験的に見出されている

定常流モードの存在を数値的に確認している.また,定常

流モードが同じであるにも関わらず,そのモードに至るま

でに流れがとる遷移ダイナミクスの非一意性について調

べている.これらの現象の解明は,トルクコンバータなど

の振れ回り現象,電力エネルギ保存のためのフライホイー

ルの駆動や,化学反応器の運転についての,効率的な制御

を可能とするものである. ・複数カメラの協調制御 人や渦の流れを解析するために,局所的に観測されるイメ

ージ情報を統合して,逐次変化する流れの構造を認識する

方法を考えている.基本技術の確立,および,より汎用的

な場への適用を考慮して,複数個の移動対象のうち,特定

した対象を,複数台の動的カメラにより同定し,追跡する

方法の開発も行っている.カメラが複数になると,それら

の校正作業は複雑となる.また,移動対象の数が増し,そ

れらの特徴も時間的に変化する場合には,通常の追跡法は

適用できない.このため,カメラ間での位置,姿勢の動的

校正や,時時刻刻変化する各移動物体の特徴量を随時評価

した,カメラの協調制御についての研究を進めている. ・人の行動の追跡,予測 快適なユビキタス環境やセキュリティの面から,人の行動

を追跡,予測する方法を構築している.ここでは,実環境

におけるビデオカメラ情報から人の行動を切り出すとと

もに,行動の始まりと終りをイベントとして検出し,人の行動による物体の移動などの状況変化

を同定する.また,観測結果に基づき,モデリングを通して人の行動の予測を行っている.これ

らの結果では,わずかな環境変数の変化が,予測される人の行動のカオス的な変化を引き起こす

ことなど,興味ある現象が現れている.

パン・チルト

人動作認識

動画取得・表示

・動作開始検出・動作位置検出・動作終了検出

通過・停留判定

動画取得・表示

移置物体認識

姿勢・拡大率制御

移置物体認識・保存

背景画像構築

×

画像画像 ズーム

撮影エリア

環境監視カメラ

通過・停留対応物体監視カメラ

nn領域領域AA:: 個人個人空間空間

nn領域領域BB:: 他人と会話他人と会話

nn領域領域C:C: 他人の他人の判別判別

AABBCC 個人の前後個人の前後

接近者との距離接近者との距離個人空間個人空間の広さの広さ密着に対する好み密着に対する好み緩急度緩急度

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環境調和型機能性材料の創製環境システム・リサイクル科学研究部門 竹内恒博

我々の研究グループでは,局所原子配置,電子構造,フォノン分散を精密に解析することで,様々な物質(金属材料,酸化物,窒化物.カルコゲナイド化合物等)で観測される特徴的な固体物性の支配因子を解明する基礎研究と,基礎研究により得られた知見を用いて機能性材料を開発する応用研究を行っている.研究手法としては,(1)物性測定(比抵抗,熱電能,熱伝導度.ホール係数.磁気抵抗効果,磁化率,比熱等),(2 )精密構造解析(放射光Rietveld解析),(3)電子構造測定(高分解能角度分解光電子分光,軟X線発光・吸収分光,共鳴光電子分光),(4)電子構造計算(FLAPWバンド計算,DVXαクラスター計算)を用いている.試料の作成から物性の測定および評価に至るまで自らの研究グループ内で実施することで,情報の迅速なフィードバックが可能になり,基礎研究でも応用研究でも効率的に研究を行うことが可能になっている.特に,機能性材料開発に電子構造を解析する最新の実験手法である高分解能角度分解光電子分光を用いている研究は世界的に見ても珍しく,我々の研究を特徴づけている.また,微視的な観点から(電子構造やフォノン分散を考慮して)材料設計を行うことから,環境に優しいことを条件とした機能性材料の開発が可能になっている.

【最近行っている研究プロジェクト】※ 電子構造とフォノン分散の制御による環境調和型高性能熱電材料の開発(巨大な熱電能と金属伝導の共存機構の解明,低い格子熱伝導度の発現機構の解明)

※ 金属ガラスの安定化機構の解明と機能性金属ガラスの開発※ 酸化物高温超伝導体における高い超伝導遷移と特異な電子物性(比抵抗,ホール係数.熱電能)の発現機構の解明

※ 電子物性や熱物性に及ぼす非周期構造(準周期構造や無秩序構造)の役割の解明