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高等教育開発センターフォーラム

PBL のもたらす学生の地域進出創造とコミュニティデザインへの効果

佐 藤 宏 樹(要旨) 近年、学生の学習到達度、学ぶことに対する意欲を高める手法として Project-Based

Learning1)(後述は PBL と略す。)が教育現場に取り入れられるようになってきた。PBL は学内のみでは完結せず、学外の資源や人々など地域住民や団体と協同して実施されることが多い。これを域学連携の観点から見ると学生の地域進出を通し、地域の活性化を促進すると考えられる。 本論文では PBL の側面を持った学生主体の地域住民交流イベントを事例として用いながら、学生への学びの効果、地域コミュニティ活性化に対する効果を見ていく。また、コミュニティ活性化には継続的なアプローチが必要という観点から、いかに学生に継続的な地域進出を促していくかについての方策も検討する。

(キーワード)Project-Based Learning、学生の地域進出、地域活性化、域学連携、コミュニティデザイン

1. 序論

1.1. PBL 概況 同志社大学の取り組みをモデルとして

 PBL がもたらす地域の活性化について考えていく前に、まずは概況を把握しておこう。 現在でこそ PBL を教育手法として採用している教育機関は多くなった 2)が、もっとも先進的な取組をしているのが同志社大学と言われている。ここでは同志社大学の定義を基点として PBL を考えていきたい。同志社大学が定義する PBL とは「一定期間内に、一定の目標を実現するために、自律的・主体的に、学生が自ら発見した問題に取組、それを解決しようと、他者と協働して取り組んでいく創造的・社会的な学び 3)」となっている。期限がある中で、目標に対して主体的に動き、関係者と協力をしながら目標を達成するという、社会で働く際に実際に行われるプロジェクトフローに則った内容といえるだろう。 同志社大学は他の教育機関に先駆け 2006 年から PBL を根幹に置く「プロジェクト科目」を導入した。プロジェクト科目は学内完結型の授業ではなく、学外の企業・行政・地域団体等と協力した科目 4)となっている。現在スタートしてから 8 年が経過したが、実施されたプロジェクト数は 183 5)にものぼる。 プロジェクトの内容は商品や製品企画、イベントプロデュースまで様々だが、それらの

高等教育開発センターフォーラムVol.1: 91-111, 2014

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PBLのもたらす学生の地域進出創造とコミュニティデザインへの効果

中でも特に目を引いたのは、錦市場や上京区、伏見地域を舞台として地域活性化や土地の魅力を、子どもや外国人に伝えるという地域の魅力を発信するプロジェクトが多くあることである。成果物として活性化プランの策定や魅力を伝えることはもちろん、プロジェクトに関

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わる学生たち自身が、地・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

域やそこに住む人々と密な関係を構築することで「・

京・

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6)仕組みがなされている。学生の地域愛の希薄化が叫ばれる中、学生と地域との距離を縮めることにも貢献している。このつながりづくりは「PBL の派生効果」と言えるだろう。本論文ではこの PBL の派生効果を地域コミュニティと大学の共生、域学連携の方法として考えを深めていきたい。 また、中でも注目したいのが年度を超えて引き継がれているプロジェクトがあることだ。つまりこれはプロジェクトが評価され、継続して実施すべき価値があると判断されたことを意味する。同志社大学の PBL の取り組みが成功していると捉えられるだろう。

1.2. PBL の派生効果「地域とのつながりづくり」

 では次に、先に述べた「PBL の派生効果」が生み出す地域コミュニティの醸成について考えていきたい。 地域活性化分野で「コミュニティデザイン」という言葉が近年使われるようになった。この用語は、現在では社会学で使われているが、もともとは 1960 年代に建築分野で使われ始めた言葉である。社会背景の変遷により言葉の持つ意味も変遷するものだが、まだ不明瞭な部分も多い。本論文において、コミュニティデザインを考えていく上で、まずはこの言葉の定義を明確にしておく必要がある。 新しい意味のコミュニティデザインとしてこの言葉を最初に使い、今やこの分野の第一人者と呼ばれるようになった Studio-L 代表の山﨑亮氏は、コミュニティデザインとは「人がつながるしくみをつくること 7)」と定義する。 もう少しこの言葉の持つ意味を考えてみよう。「コミュニティデザイン」に似た言葉に

「ソーシャルデザイン」という言葉がある。またこの言葉を包含するポジションに「まちづくり」という言葉もある。これらは似ているようだが、イコールではない。この言葉の持つ詳細な意味を考えながら、現在の社会にこの言葉が再び出現した背景を考えてみると、「まちづくり」では括りきれない地域の考え方が現れてきたように感じる。 ソーシャルデザインは「まち」よりもさらに大きな「社会」を基点にしてマクロの視点から地域を活性化させようという部分に重きを置いているし、コミュニティデザインは「まち」よりもさらに小さい部分にフォーカスし、ミクロの視点で「人と人のつながり」から地域を盛り上げようという考えが含まれている。 地域を舞台とする PBL の目的となるのは、地域の課題を分析し、それに対する施策を考案する、というソーシャルデザインの視点が多くを占める。そのように成果物を通す地域活性化がこれまでは主にフォーカスされてきたが、ここではコミュニティデザインという

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高等教育開発センターフォーラム

言葉が意味するように PBL の過程で培われた地域住民と学生や大学の関係性が地域活性化に寄与するのではないかという発想を基点に考えていく。

1.3. PBL 基点の地域活性化モデル

 ここからは PBL の派生効果として生まれた「学生と地域のコミュニティデザイン」が地域活性化に寄与する形を考えていく。 そもそも地域が活性化するとはどういうことだろうか。この言葉が持つ意味はとても広い。様々な研究や事例を見ても同一の定義を謳っている案件はあまり見当たらない。 多く見られる事例としては、地域に存在する資源を用い、それらを加工して、新たな付加価値を持たせ、ブランドを確立することで地域に還ってくる収入によって、地域が経済的に潤うことを表すケースが多い。ブランドを構築できた地域は人口減少に歯止めがかかり、人口の流入が促進されるという効果も見込まれる。様々な地域で行われているまちおこしに関するプロジェクトがこれに当てはまるだろう。 しかし、今後の社会において、国家として人口が減っているこの状況では地域の人口が減少するのは必然といえるし、今は流入がある都市部でさえも、長期的スパンで考えるといずれ人口減少は始まるだろう。そのような中で、コミュニティデザインやソーシャルデザインという言葉が使われるようになったのは、地域内の交流が盛んになることで育まれる、人

々・

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が元となった「仲の良い街」が求められているということではないだろうか。 コミュニティデザインでは、交流が生まれることにより、今まで出会えなかった人同士のつながりが作られると、そこから新たな価値が生み出され、それは地域への収入源を生み出したり、人が集まる特定の場所が作られればそこから街に賑わいを創出できる。集団心理として賑わいのある場所に人は集まることからも、継続的に人が集まる仕組みを作ることができる。このように地域活性化が行われると考えられる。 下記のモデル Phase.1 ~ 3 は作り出すのにはとても多くのエネルギーを必要とするが、そこを経ずに PBL は Phase.4 の「今まで出会えなかった人同士のつながり作り」という部分で大きく貢献できる。限られた仲間内のコミュニティでのみ行動をする若者、希薄化した

 ■ コミュニティデザインによる地域活性化モデルPhase.1 人が集まりやすい場所をつくるPhase.2 人々が集まるよう仕掛けを作るPhase.3 人々の間に交流が生まれる・交流を促すPhase.4 交流の中からつながりが作られるPhase.5 つながりが継続的な集まり・新しい付加価値を生み出すPhase.6 多くの人が集う場所がつくられるPhase.7 人が人を呼び、さらに多くの人が集まる → Phase.4 へ

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PBLのもたらす学生の地域進出創造とコミュニティデザインへの効果

地域コミュニティ内の関係性、学生との接触が出来ない企業という 3 つの異なるコミュニティ同士をつなぐことができるのが PBL という仕組みなのである。 この際、地域に対し活動を行う人や団体がいることを周知し共感を得る仕組み作りも重要である。共感を得ることによって、活動自体に関わる人が現れることも考えられるし、イベントであれば継続的な参加をする可能性もある。地域活動を活発化させられる要因をPBL は持っている。 このように、ある地域活動が人々の関わりやつながりを通して広まっていくことが活性化につながっていく。人

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々の交流を生み出す仕組みづくりも域学連携の重要なファクターだろう。 次章では、東京都立川市で現在学生たちと「地域住民同士のつながりづくり」を目的に実施している取り組みやイベントを事例として、PBL に参加することによる学生の学びの効果と地域活性化への効果をアンケート結果から分析していく。

2. 課外活動としての PBL プロジェクト

 現在学生団体の運営に携わっていることもあり、学内・学外問わず多くの学生たちといくつかの地域プロジェクトを実施している。これらは最初のきっかけこそ筆者が行っているが、それらの課題や対応策は学生たち自身が考え形にしていく。この過程は、先述した同志社大学の定義する PBL のプロジェクトフローと一致する。この章ではいくつかの事例をもとに学びと地域活性化の効果を検証していく。 地域で行われるイベントも目的の違いによって効果が変わってくる。事例をあげる前にこれらの違いを明確にしておく。

2.1. コミュニティデザインを目的とした地域イベントについて

 イベントという形態にもいくつか種類がある。地域に関するイベントがすべてコミュニティデザインにつながっているかというとそうではない。どれが良くて悪いという意味ではないが、目的の違いによってコミュニティデザインとなるものかどうかがわかる。 たとえば、住民を集めて街を盛り上げることを目的にしたイベントは、イベント期間のみ人が集まるだけでは、一時的に対象の地域を盛り上げ、賑わいを作れても、作るだけではコミュニティ活性化の効果は弱い。いかに再度同じ場所に来てもらえるかを考えているかが大事。 また、地域の商品を販売することを目的としたイベントは、普段揃うことがない様々な商品が一同に並ぶことで、物珍しさから人は集まる。ただ、商品を販売するだけで終わってしまっては人の交流の継続性は保たれない。もちろん出店店舗の商品を周知することが目的なのであればそれでもいいし、店舗同士の横のつながりが構築されることによって新たな価値が生み出されるかもしれない。

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 しかしコミュニティデザインという観点から考えると、住・

民・

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になるため、上記だけではコミュニティデザインへのコミット力は弱いだろう。イベント実施における目指すべき目的が明確になったところでいくつか事例を見ていこう。

2.1.1. 課外活動 PBL Case ①:まんがトーーク / まんがワークショップ 東京都立川市は「聖☆おにいさん 8)」や、「とある魔術の超電磁砲・とある魔術の禁書目録 9)」など、近年まんがの舞台となることが多く、まんがを地元文化のひとつとして捉え、市の活性化ツールとして位置づけている。その施策を具現化したのが、今年 3 月 20 日、立川市錦町にオープンした立川市子ども未来センターに併設されている「立川まんがぱーく 10)」である。 立川まんがぱーくは「まんがを用いて地域住民の交流を促すことをコンセプト」として運営されている。そのため、漫画喫茶とは異なり個室のブースで仕切られてはおらず、オープンなスペースの中にまんがの書架が置かれ、シームレスな空間でまんがを読むことができる。まんがの図書館といったニュアンスが伝わりやすい。また、まんがを題材にしたイベントやワークショップを同センターの登録団体などと催し、まんがをハブに利用者同士をつなげていく施策を行っている。しかし、現在の利用状況を見ると「まんがを読む場所」という認識を利用者は強く持っているようだ。 この課題を解決することを目的に学生たちと実施している企画が「まんがトーーク」と「まんがワークショップ」11)である。 まんがトーークは、毎回特定のまんがを題材にいくつかのテーマを設定し、それについて不特定多数の参加者とトークを楽しむというものである。老若男女、世代に関係なく楽しめるまんがというツールをハブとすることで地域住民の多世代交流を促そうというアイディアである。同じ趣味という共通項はつながりを作りやすく、またトークの題材となるまんがは無数にあるため、継続して行うことで、ここで出来た参加者=利用者同士のつながりを継続的にすることで、まんがぱーくを人々の集まる中継点としていきたいというねらいだ。後々はイベントという特別な場所を作らずとも、自然と利用者同士がまんがをハブとして会話が生まれてくる場にしていきたい。 まんがワークショップは、まんがトーークをサポートする企画としてスタートした。見ず知らずの人と話をするのは抵抗があるという人のために、共通の作業を行うことによって、そこから会話を発生させるというねらいである。好きなまんがを選んでもらい、それにつけるブックカバーをクリアファイルを材料にして作るというものづくりワークショップである。使わなくなったものを再利用できるため、環境面でもエコな企画となっている。また、このワークショップでは好きなまんがの POP を作るブースも用意している。この場で作成した POP はまんがぱーく内に掲示されるようになっており、自分の作品が掲示され

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ることで愛着を育み、参加者の継続的な施設利用を促す効果を見込んでいる。 このプロジェクトに関わることで、学生たちは施設の利用者とはもちろん、施設の運営スタッフとの関わりを強くしていく。つながりが強くなることに比例して、まんがぱーくや子ども未来センターと学生たちの距離が近くなり、地域拠点となっていく。この過程を通し学生と地域の関係性が強まり、地域への愛着が育まれる。

2.1.2. 課外活動 PBL Case ②:体験型環境教育プロジェクト 体験型環境教育プロジェクト それいけ!たまレンジャー!! 12)は多摩地域の小・中学生を対象にした環境教育イベントである。年間 2 回の実施で、すでに実施回数は 12 回を数えている。 環境の汚染が問題となる中で自然環境に対する意識の低さが問題視されている。この課題を解決するため、体験を通すことで興味を持たせつつ、地元にある資源を用いることで、地元への愛着を育むことを目的としている。第 8 回から学生委員会の学生たちが企画を行うようになり、さらに「多世代交流」と「継続的なつながり」を作ることを目的に盛り込んでいる。子どもたちに環境について学んでもらうことと同時に高校生・大学生と仲良くなり、地域での友達を作ってもらいたいというねらいである。どちらの世代に対しても、多世代の友達が地域の中にたくさんいることで、地域や自分の街を魅力的に感じてもらえる。また地域の人々の目が子どもたちに注がれることによって地域に住む子どもの安全性が増すという効果ももたらせられるだろう。 上記にあげた、目的である【環境教育】【多世代交流】【継続的なつながり】を達成するために実施した企画を下記に示す。

 ■ 第 10 回 それいけ!たまレンジャー!!~ 1 泊 2 日で多摩の自然と触れよう!遊ぼう!味わおう! / 体験!古き良き日本文化~(2012 年 8 月) これまでは日帰りのイベントとして実施してきたが、初めて宿泊を盛り込んだ。安全面を考え定員を少なくし、学生による子どもたちへの綿密なフォロー体制を構築した。宿泊場所を大学セミナーハウス 13)としたが、子どもひとりに対し、学生ひとりの担当がつき、参加者の最寄り駅まで担当学生が迎えに行くという対応を行った(多世代交流)。プログラムとしては暑さが心配されたため、セミナーハウス屋内を主に使い、自然を使ったアート教室、バラ染め、ペットボトルロケット、ペットボトルビーズなどを実施した(環境教育)。いずれもリサイクルを学ぶことや、自然に触れることを目的としている。 2 日目は国営昭和記念公園 花みどり文化センター 14)に会場を移し、多摩地域の名所を歌留多にするワークショップや 1 日目で抽出したバラ染めの液体を使ってハンカチ染めを行った。 宿泊したことで長時間一緒にすごした(継続的なつながり)子どもたちとは日帰りで実

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施するイベント以上に仲良くなれ、クリスマスパーティを行うなど継続的な関わりを持てている。

 ■ 第 11 回 それいけ!たまレンジャー!!~ Mr.T からの挑戦状~(2013 年 3 月) 第 10 回たまレンジャーに参加した子どもたちの感想から、「アウトドア経験が満足度を高める」という分析結果をもとに、屋内が多かった実施場所を屋外に変え、高尾山 15)を舞台とした(環境教育)。高尾山では空想のキャラクター Mr.T から謎解きの挑戦状が送られてきた、という設定のもとそこに記載された謎を解きながら山頂を目指すという企画を実施した。小・中学生と高校生・大学生をシャッフルしたグループで登るとともに、共に謎を考える(多世代交流)という過程を通し、大学生や高校生とだけでなく、参加者同士が仲良くなれるような仕組み(継続的なつながり)を作った。

 ■ 第 12 回 それいけ!たまレンジャー!!~動物博士になろう~(2013 年 3 月) 多摩動物公園 16)を舞台に実施した。園内を第 11 回の際と同じようにグループ単位で周り(多世代交流)、事前に決めたチェックアニマル(=チェックポイント)の動物たちの生態や特徴を動物図鑑 17)に記載(環境教育)していく。図鑑が完成したチームから、チェックした内容を模造紙サイズの MAP に記載し、最後に全員で発表するという企画である。個人のもので完成ではなく、メンバー全員で作成するという共同作業を通し、つながり(継続的なつながり)を深めた。 参加した子どもたちからの感想として、仲良くなったお兄さんやお姉さんがいると「◯◯がいるからまた来たい!」といった声がよく聞かれる。また保護者にしても、一度参加すると、実施している人の顔が見えるため継続的な参加につながりやすいようだ 18)。 学生委員会には子どもたちが通う保育園でのイベントに参加してほしい、といった新しい広がりも見られることから、継続的なつながりが作られていることが伺える。

2.1.3. 課外活動 PBL Case ③:ぼくらの学び舎プロジェクト 東京都立川市で行っている「ぼくらの学び舎プロジェクト 19)」は、勉強嫌いの子どもが増えつつある現在、子どもたちに勉強の楽しさを伝えるにはどうすればいいのか、という課題を解決するためにスタートしたプロジェクトである。地域で活動する人々や住民がそれぞれの持つスキルやノウハウを各科目に割り当て、学校の授業とは異なる視点で授業を実施していく。普段とは異なる体験を通すことで、授業内容に面白みを持たせ、学ぶことに興味を持たせることを目的としている。 音楽の授業を担当する学生は、自身が教師を目指すこともあり音楽に対する苦手意識を持つ子どもを減らしたいと授業を受け持っている。学校の音楽授業では決まったカリキュラムを実施しなくてはならない上、授業時間も少ないため、画一的になってしまい楽しさ

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が半減していると考えた彼女たちは学校の授業では実施されにくい「自由な表現」をテーマに授業カリキュラムを考案した。リズム遊びを主に用いることで誰でも気軽に参加出来る授業を実施している。 もともとは子どもが対象であったが、誰でも参加しやすいという気軽さに加え、リズムを使うという拡張性から大人も巻き込んで演奏会を実施するなど、多世代がつながりを作れる授業となっている。 ここまでいくつかコミュニティデザインを目的としたイベントを紹介してきたが、このような「地域(場所や資源)を舞台にしたイベント」がどれだけ地域活性化に効果をもたらしているのかをアンケート結果をもとに考えていく。ついで、この活動に参加した学生たちの感想をもとに学びの効果や課題点、解決策を検討していく。

2.2. アンケートによるリサーチ方法について

 アンケートは各種イベントにおいて原則、プログラムを体験・実施後に行った。中でもたまレンジャーは対象が小学生~中学生(未就学児も一部含む)ということもあり、保護者に対しアンケートを実施している。他のイベントに関しても保護者同伴の際は保護者を対象にアンケートを行っている。

イベント名 実施日時それいけ!たまレンジャー!! 2013 年 3 月 30 日(+告知イベント 20))

2013 年 8 月 24 日まんがトーーク /まんがワークショップ

2013 年 5 月 25 日2013 年 6 月 16 日2013 年 7 月 21 日2013 年 8 月 3 日、4 日2013 年 10 月 6 日、20 日

ぼくらの学び舎プロジェクト 2013 年 7 月 15 日2013 年 8 月 1 日、31 日2013 年 9 月 12 日、22 日、28 日2013 年 10 月 19 日

 またイベント自体の内容に左右されることを防ぐため、単一のイベントのみでは集計を行わなかった。イベントの種類としては「体験」要素、「遊び」要素、「学び」要素の特色が強いイベントをそれぞれ選んだ。上記がアンケートを行ったイベントである。

3. アンケート分析結果

 アンケートは 2 項目それぞれ 3 選択肢からなる選択制とした。この質問項目以外にも各イベントにおけるオリジナル質問を複数織り交ぜている。下記 2 つのみ全てのイベントで共通した質問項目とした。

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 質問項目は「コミュニティデザイン」の観点から、「このイベントやワークショップに参加したことにより、地域を身近に感じることが出来ましたか?」(問①)という項目と、「人々が集まる仕掛けをつくる」の考えをベースに「地域で行われているイベントや講座に、今後参加したいと思うようになりましたか?」(問②)という項目を作成した。

 問①を測る指標として、選択肢は下記を用いた。 Q.このイベントやワークショップに参加したことにより、地域を身近に感じることが出来ましたか? A. 地域で活躍している人を知り、これまで以上に地域を身近に感じることが出来た B. 地域で活躍している人のことを知ることが出来た C. 新しい発見はなかった

 また、問②を測る指標として、選択肢は下記を用いた。 Q.地域で行われているイベントや講座に、今後参加したいと思うようになりましたか? A. 積極的に参加したい B. 都合がつけば参加したい C. あまり参加はしないと思う

 アンケートの有効回答数はそれぞれ問①が 221 件、問②が 226 件であった。内訳は問①の A が 82 件(37.10%)、B が 132 件(59.73%)、C が 7 件(3.17%)であり、問②の A が71 件(31.42%)、B が 153 件(67.70%)、C が 2 件(0.88%)という結果であった。

3.1 結果分析

 上記問①の結果はイベントの企画、プログラム自体への満足度によっても影響されると思うが、参加者からの回答を見ると、自分たちの住む地域に対して身近に感じることが出来ているようである。またイベントの主催者や運営者の存在、活動内容を周知させること

地域のイベント参加によって

地域への意識が変わったか

地域で活躍している人を

知り、これまで以上に地

域を身近に感じることが

出来た

地域で活躍している人の

ことを知ることが出来た

新しい発見はなかった

4.31%

35.78%

59.91%

 ■ アンケート集計結果 21)(問①)

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につながっている。大半の参加者が地域イベントに参加することで、地域に対する発見や得るものがあったようだ。この結果から地域でイベントを行うことはコミュニティデザインに寄与出来ていると結論づけられる。 また問②に関して、選択肢 A と B をあわせると 98%以上の参加者が再び何かしらの地域イベントに参加したいという回答をしている。地域活動への参加を促す最初のきっかけとしてイベントは効果を発揮出来ているようである。ただしそのうち約 7 割が「都合がつけば」としていることから、地域活動は生活における趣味の域を出ないことが見てとれる。いかに日々の生活における延長線として地域活動が出来るか、PBL としても地域プロジェクトを仕掛ける側は実施してもらう側に負担なく関わってもらえる仕組みにするかが、活性化を促す要因となるのではないだろうか。 さらにここでもうひとつのデータを見てみたい。

 ■アンケート集計結果 23)(イベントへの参加頻度)

 上記は、イベントに参加した人々に地域を舞台にしたイベント等への参加頻度を聞いたものである。結果を見ると、はじめて参加した、が 170 件(70.83%)、年 1 ~ 2 回が 37 件

(15.42%)、年 3 ~ 5 回が 14 件(5.83%)、年 6 ~ 10 回が 12 件(5.00%)、年 11 回以上が 7

件(2.92%)というものであった。この調査における有効回答数は 240 件。この集計結果から考えられるものとしては 2 つの見方が出来る。     

地域イベントへの参加頻度

はじめて

年 1~ 2回

年 3~ 5回

年 6~ 10 回

年 11 回以上

2.92%5.00%

5.83%

15.42%70.83%

 ■ アンケート集計結果 22)(問②)

地域のイベントに継続して

参加したいと思うか

積極的に参加したい

都合がつけば参加したい

あまり参加はしないと思う

1.68%

29.83%

68.49%

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3.1.1 住民の地域進出 まずひとつは、「イベントをきっかけとして住民を地域に関わらせることが出来ている点」である。7 割強の人々がそれまで参加したことのない地域イベントに参加している。これまで、あまり興味や関心がなかった「地域」に対して興味を持ち始めていると言えるだろう。 この背景としてよく言われることに、東日本大震災が上がってくる。未曾有の自然災害を経て、人々のつながりが見直されている。これらは「つながり 2.0」や「時代の転換点」といった表現方法を用いて表されているが、まさしく震災をきっかけとして、人々の地域や人付き合いに対する意識は変わったといえる。特に 10 代後半~ 20 代前半にかけての若者世代の意識変化は著しい。震災直後はもちろん、2 年半ほど経過した現在でも、被災地を対象とした内容ではなくとも継続的にボランティア活動を行っている学生団体や、人と人の交流の場を作ることを目的にイベントを定期的に実施している若者もいる。また、「つながり」自体に対して考えを深めることを目的に、地域の人を交えてワークショップを実施している学生たちもいる。 このような動きは人々のつながり、地域との関わりが希薄化している現在、地域に活力を与える原動力になるだろう。

3.1.2 継続参加の促進 集計結果から考えられるもうひとつの見方は「継続参加を促すまでにいたってはいない」、ということである。 これにはやはり宣伝力の強さが影響しているだろう。最初は物珍しさで人は集まるが、継続的な集客となるとある程度の宣伝が必要になる。また企画自体の内容に対する満足度も関わってくる。地域活動家の問題点としてよくあげられるが、予算が少ない中でこの問題を解決するには、まず活動家同士のネットワークで宣伝提携を結び、お互いの活動を協力して宣伝し合うべきだと考えられる。次いで、地域の活性化を目的としている観点からも行政との密な連携が出来ると好ましいだろう。大学の PBL プロジェクトの際は大学が周知の補助を出来るとよい。 立川市子ども未来センターでは登録団体となることで、コミュニティプログラム(公共性のある内容で、利益目的ではないもの)を実施することが可能になる。このコミュニティプログラムを行う際に限って施設設備を無償で利用できる。行政のバックアップとしては好例であろう。この仕組みがあることで、活動家は予算を宣伝に回すことが出来るようになる。 根本的なことだが地域活性化は単独で成功させることは出来ず、さまざまな人々との協力、そしてバックアップ体制があって成功するのである。

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3.2 PBL プロジェクトの効果と課題

 次に地域を舞台としたイベントに参加した学生の感想 24)から、これらの活動による学びの効果と問題点を考える。

『今回のイベントで得たものは大きいです。自分が指・

示・

を・

だ・

す・

側・

と・

な・

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て・

活・

動・

し・

た・

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初・

め・

て・

の・

こ・

と・

で・

、大・ ・ ・ ・ ・ ・

変良い経験をすることができました。自分の役目を果たすことができたのは今回の企画に携わっていた全

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ての方々の協力あってのことだと思っています。なによりも子供たちの笑顔が、「次も成功させるぞ」という気持ちにさせてくれますね。来年も、企画側も参加者側も一緒になって笑顔になれる企画を行いたいと思います。』

明星大学 2 年 女

『個人的なことになってしまうのですが、自分自身の性格や無力さを思い知ることができました。私はメンバーの一員にもかかわらず何もできず、逆に足でまといになるようなことばかりでした。同

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

じ大学生なのに他のメンバーはしっかりしているし、自・

分・

の・

意・

見・

を・

持・

っ・

て・

い・

て・

、私・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ももっと人としてしっかりしなければと思いました。そんなことも含め、このチームに入ってよかったなぁと思います。今回のイベントは内容もよく、子ども達も楽しく学んでくれて大成功でした。ただ、本番を迎えるまでの自分が気に入らず、今、なんとも複雑な気持ちでいます。次回のイベントは、今回のよかった点も反省点も全部活かして、今までよりも更に魅力的な企画ができるようにしたいです。また子ども達のキラキラした笑顔が見たいです。』

玉川大学 2 年 女

『今回は初めての宿泊企画ということもあり、当日までの準備が非常に大変でした。しかし、メンバーみんなが自分のやるべきことに向き合い、課題を解決していきました。その激務を通して、いままで知らなかった自分の長所や短所などについての気付きを得られたはずです。また、ぼくたちには去年から大きな課題があります。それは「計

画・

を・

立・

て・

る・

こ・

と・

」と「効・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

率よく物事を進めること」の 2 つができていないことです。何度も言いますが、今回の準備は大変でした。しかし、そのハードワークをこなしたおかげで強みや改善点がわかり、結果、このチームの「ビジョン」が見えてきたと思います。それが今回、チームにとっての大きな収穫です。あとはそれを実現し、次の世代につなげられることを目標に今後も励んでいきたいです。』

中央大学 2 年 男

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3.2.1 PBL プロジェクト参加による学びの効果 まず明星大学の女子学生のコメントから、普段体験出来ない「指示を出す側」での体験がとても学びになったとある。彼女は事実上チームの中心となって指示を出すポジションを担っていた。学生はアルバイトなどでも「指示を受ける側」となることが多く、全体を把握して指示を出すという経験はできにくい。新しい視点で物を考えることが出来たのではないだろうか。また「全ての方々の協力あっての成功」という認識は友達だけではなく、周りを取り巻く多くの関係者の存在を知り、ひとつの企画を成功させるためには多くの人が関わっているという学びを得たはずである。 では次いで 2 人目の玉川大学の女子学生だが、「他のメンバーはしっかりしているし、自分の意見を持っている」とコメントしている。これは自分と同じ状況に置かれているメンバーがいて、比較できる環境にあるからこそ言えるコメントである。PBL の協働という側面がもたらしたコメントと言えるのではないか。 最後に中央大学の男子学生のコメントを見ると、冷静に自分たちの状況を分析し、チームとしての課題点を複数あげている。彼はこのイベントに関わって 3 度目でもあり、チーム立ち上げ時から在籍しているため全体を見ることについては客観的な見方ができるようになっている。成長度の大きさは外部と関わる経験の長さに比例するのではないだろうか。

3.2.2 PBL 活動の課題点 学生達の活動を見ていると課題となるのは大きく 3 つあると思われる。まず 2 つは先述の中央大学の男子学生が言う通り、スケジュール管理と効率のよい運営、そして 3 つ目は学生のモチベーション維持である。 まずスケジュール管理だが、各プロジェクトには必ず実施日や発表日などの期限が設けられている。この定まった期限に対していつまでに何をやっておくのかという細分化されたスケジュールの把握が出来ない。長期スパンを短期的に分割し、タスク管理を行うことを苦手としているようだ。チームでプロジェクトを進めるため、全員のスケジュールを調整しなくてはならないが、自らの予定を優先させがちであるため、この調整も苦手である。 期限がある上でそれぞれの生活もあるため、作業を行う際は効率の良さが必要になる。しかし効率良い作業が出来ていないことが散見される。これは次のモチベーション維持にもつながるが、やる気がある一部のメンバーにタスクが集中してしまい、処理しきれていないためと考えられる。結果期限に遅れが生じてしまうのである。 モチベーションの問題は同志社大学でも学生の感想に記述されていたが、長期のプロジェクトは、中だるみが起こり、著しくモチベーションが低下することが多い。モチベーションの低下はコミットするメンバーの人数を減らしてしまい、「作業する人が少ない」という新しい問題も併発させる。またモチベーションが低いままプロジェクト期限となってしまうと、次のプロジェクトへの参加は難しいものになってしまう。

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PBLのもたらす学生の地域進出創造とコミュニティデザインへの効果

 これら 3 つの課題は相互に関連しており、どれかひとつだけを解決しても再発してしまう問題である。例えばスケジュール管理が出来ておらず作業が間に合わない。するとメンバーのモチベーションが低下し、作業効率も低下する。これは作業の効率が悪い点やモチベーションの低下を基点にしても同じように 3 つの現象に影響を与えてしまう。これらは連動して引き起こされるため根本を解決する必要がある。このためには全体を見渡し、客観的に調整を出来る存在が必要だろう。 次の章では、これらの課題を解決する方策を考えていく。

4. PBL の効果的な運用のために

4.1 ファシリテーターの導入

 これらの課題を解決する方策として、プロジェクト全体を管理する「ファシリテーター 25)」の存在が必要不可欠になってくる。ファシリテーターはよく調整役と言われるが、この主導権を持たず、全体を円滑に回すポジションの存在は PBL のようなプロジェクトを運営する際に最適の存在である。 大学の講義としての PBL であれば、講師がファシリテーターを担うべきであろう。ファシリテーターはプロジェクトの主導権を握り、主体的に全体を引っぱっていく存在ではなく、全体を見渡しメンバーの考えを引き出し、調整することでコンセンサスをはかり、目的達成を後押しする存在であるため、学生に主体性を持たせるという点でベストな形となりえるはずである。地域を舞台としたプロジェクトであるならばプロジェクト立案者などの地域住民がファシリテーター役を担うという形も良い。重要なのはいかに参加する学生に主体性を持たせられるかという点である。 主体性を持たせるという点について筆者が実施した先攻研究 26)では、「中心的な役割を担うことで主体性を持ち継続的に活動に関わる」という結果が出た。例えばボランティアとして、あるイベントに関わったとしても一度限りになってしまうケースが多くあるが、中には、継続的に活動を続けられている学生がいるのも事実である。このモチベーションの違いは関われるポジションが、中心的なポジションなのか、サポート的なポジションなのかが大きな影響をおよぼすという結果が出ている。おそらくボランティアという限られた裁量の中での活動では企画を動かしているという実感を得られず、楽しさを感じきれないからではないだろうか。自分たちが主体となることによって「自分ごと」として物事を捉えることができるようになり、継続的に関わっていきたくなるのだと推察できる。 そういう意味ではメンバーの仲介となり、中心となるという意味で、学生がファシリテーターを受け持つことも良いだろう。何より、同じ立場の人が仲介役となることで、意見を言い易かったり、「大人」からの指示ではないため、やらされ感を軽減することにも貢献するだろう。ここでは用語の意味に混乱を起こしかねないので、学生がファシリテーションを務める場合はコーディネーターという言葉を用いることにする。

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 ではまずこのような地域を舞台としたプロジェクトにおいて、ファシリテーターの役割を担っている団体の活動から具体的な役割分担について考えてみたい。地域住民とともに地域活性化を行っている 2 つの団体にご協力をいただいた 27)。

4.1.1 Case ①:特定非営利活動法人エンツリー 東京都八王子市堀之内に拠点を置く、特定非営利活動法人エンツリー(代表:吉田恭子さん)は女性の社会進出推進を目的として発足した団体だが、活動を続けていく過程で地域の団体や住民との関係を構築し、男女平等参画の活動を続けながら、現在では地域活性化の分野 28)にも活動領域を広めている。 この活動のひとつとして京王堀之内駅の駅ビル 「ビア長池」にクオレ堀之内という拠点を作り、コミュニティスペースとして貸出しを行う傍ら、地域の住民とともに堀之内エリアの活性化を目指し「楽しも!堀之内実行委員会」というプロジェクトチームを運営している。このなかに「地域密着雑談番組 GAYA.TV ~まったり堀之内~」という Ustream 番組の配信がある。これはこのチームに関わるメンバーから出たアイディアを具現化したものである。毎月一度の配信ながら、地域で活躍する個人や団体にゲスト出演してもらい、それぞれの活動をアピールする場となっている。 この企画において、配信に関する機器や技術、司会などはメンバーに任せ、エンツリーは運営スタッフへの情報共有や番組内企画の調整など、つまりは運営のファシリテーション役を担っている。企画に関わるメンバーにインタビューをすると、「番組企画を自由に作らせてもらえるのには感謝している」といった言葉や、「こういう拠点があると色々な企画が行いやすい」といった感想を聞く。 人が集うことによって場所が活性化するという観点から、エンツリーの「人が集う場所づくり」という最上段の目的に関係者のベクトルをあわせ、内容はメンバーに任せるというこの立ち位置はファシリテーターと言えるだろう。

4.1.2 Case ②:任意団体 bond place

 山梨県を拠点に活動する任意団体 bond place(代表:小笠原祐司さん)は、人々の交流を生み出すことによって、経験や考えを共有した学びの場、人と人がつながる場を作り、広げていくことを目的として活動を行っている。bond place がもっとも得意とする分野は「対話」をベースにおいたワークショップを行い不特定多数の人をつなげる「場」づくりである。 先日行われたワークショップ、「Open Talking Café」では【これからの育】をテーマに対話の場をセッティング。教育関係を志す学生や、すでに社会に出て働いている人々など様々な人が参加した。そこで出た意見を集約し、具体的なアクションプランに構築して、「障がい児を対象に即興楽器で奏でる音を使った音楽授業」を行う予定だという。 ここで bond place が行っているのは、企画内容の提案ではなく、人々から意見や考えが

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出やすい雰囲気の場をつくる部分と、参加者から出てきた意見をまとめ、似通った意見を同一のベクトルにまとめアクションプランを構築していく部分、つまりファシリテーションである。

4.2 ファシリテーター導入による効果

 どちらのケースを見てもわかるように、それぞれの団体は一歩引いた場所に立っていることがわかる。大事なのはプロジェクトを達成するために必要な、企画の主体になって動く人々のやる気を引き起こす立場でいることである。このような立場の存在がいることで、近視眼的になりがちな学生たちの行動を俯瞰し、スケジュールの管理や効率的な作業分担、モチベーションの維持をサポートすることが出来る。ただ注意すべきなのはあくまでも主体となる学生たちを後押しすることが任務であり、主導権を握って引っぱっていくようになってしまってはならない。この力加減はファシリテーターを担う人の力量によるため、ある程度のスキルが必要とされる。 また、先述したように学生の中からこのような立場を担うコーディネーターを選出するのも有用である。学生がこの立場を担うことにより学生自身の成長に大きく貢献することができる。社会に出て働く際も、プロジェクトリーダーとして企画を推進できる能力を身につけられるだろう。具体的に身につけられると考えられる能力を以下に示す。

 ■ ファシリテーションスキルを身につけることにより得られると考えられる効果

① . 相手の話を聞くことができるようになる。② . 話の内容を租借し、自らの意見を言えるようになる。③ . 場の雰囲気を読む、作ることができるようになる。④ . 多数の人のコンセンサスをとることで人をまとめる能力がつく。⑤ . 全体を見通す「俯瞰力」が身に付く。⑥ . 人の長所同士を結びつけ、新たな価値を作れるようになる。

 このように学生に足りないといわれるコミュニケーション能力を育めたり、近視眼的な見方になりがちな学生にとっては、俯瞰する能力が身につけられる点は、就職活動で求められる能力という面から見てもとても有用であろう。 ただ、これらはプロジェクトの中で自然と身につけられる能力ではない。事前の講習や、ファシリテーションスキルを学べる授業などの仕組みを導入することも必要である。授業では理論や手法を伝えることはもちろん、いかに実践の場を作れるかが大事である。これらをまずは学生間で実践し、ある程度身につけたあと、PBL のような、学生以外の異なる属性の人々との中で実践していく。このサイクルを繰り返すことでスキルの定着と昇華を

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させることができると考えられる。

5. まとめ 〜地域と学生の関わり方〜

 ここまで PBL の手法を導入部として、学生と地域の関わりについて論じてきた。この中で地域を舞台としたプロジェクトを実施することによる地域活性化への効果をコミュニティデザインの観点から見るとともに、アンケート結果を元に効果を分析、学生の抱く感想から学びに対する効果、そして PBL の課題点を浮き彫りにし、最後にこの課題に対する解決策を検討してきた。しかし、学生も千差万別であるように地域にも様々な人々が暮らしており、プロジェクトが直面する課題も多種多様である。ここで考案してきた手法がすべてに対応出来るかといえば難しいが、PBL を推進する上でひとつの対応策となれれば幸いである。 地域に対して活動を行う方々と話をすると「若者が関わってくれるといいよね」という言葉や「若者がやっている活動は応援したくなるよね!」という声を良く聞く。現在俗に言う「意識の高い学生」が主体的に様々な活動を始めている。このような学生が増えてくるととてもいいのだが、実際は自ら動くことにはまだまだ抵抗があるようだ。地域からのニーズは沢山あり、少し外に出さえすればすぐに関われる環境は用意されている。あとはそこに飛び込むきっかけを作ってあげれば良いのである。 地域活動の現場にいると、活動家の年齢層が下がってきていることに気付く。少し前までは仕事を定年で退職された方が、地域への恩返しとしてそれこそ趣味の一環、ボランティアとして活動しているケースが多く見られたが、現在では年齢層がどんどん下がり、20 代や 30 代の若い世代が地域で活動をし始めているケースをよく見かけるようになった。 しかし、やはり活動の主体になっているのは前者の年齢層の方々が大半を占める。そういう見た目もあって、学生にとってはなかなか「自分ごと」として認識出来ず、参加しにくいのだろう。ただ、ちょっとしたきっかけから地域活動に参加をした学生たちは、口々に楽しさや継続してやっていきたい、といった声をあげている。 地域からのニーズと学生のシーズを組み合わせることができるのは 2 つの中間に位置する大学のみである。大学は、機会という「場」を提供し、学生たちの成長を信じて、一歩を踏み出すために、最後の背中を押す立場となるべきである。それは地域の活性化と学生の成長を両立させるという意味で域学連携の目指すべき場所のひとつであろう。 最後にこれまでに地域の PBL プロジェクトに関わってくれた学生の声 29)を記載して締めくくりたいと思う。

『まだまだ未熟な私たちのイベントに毎回参加してくれている参加者がいることに改めて感激したとともに、まだまだ自分たちは成長をすることが出来ると感じました。当たり前のことですが、誰のために、なんのために、なにをするのかが一番大事なん

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だと感じました。毎回言っていますが、私は子供の笑顔を見るあの瞬間がたまらなく好きなんだと思います。この気持ちが消えない限りこのイベントは続きますし、このチームも終わりません。』

BBT 大学 2 年 男

『最初はぎこちなかったもののミーティングや日にちが近づくうちにメンバーの個性が出てきて、この活動でメンバーの結束力も深まったのではないかと思います。今までより、参加者共々仲良くなれたイベントだったと思います。次回はさらに気愛のこもったプログラムでたくさんの参加者と楽しめるものに出来たら良いと思います。』

玉川大学 2 年 女

『何より子供たちの笑顔には、言葉にしたら軽いものになってしまいそうな、すごい力があるものだと痛感させられました。また子供たちの、心からの純粋な笑顔が見たいです。』

明星大学 1 年 男

『長く一緒にいることによって今まで気づかなかったことが分かったり、少人数だったから一人一人と関わることができました。私はいつの間にか子供たちに楽しまされていたようなそんな気がします。』

女子美術大学 3 年 女

『今回のプログラムは、どれもとにかく夢中になれて面白かった!というのが私の感想です。子ども達と大学生、両者共々楽しむことができる内容になっていたので、予想以上に盛り上がりました。プログラムを通して子ども達同士の絆も深まり、最後には仲間との別れを惜しむ姿を見ることができて、「あぁ、前回を越える、良いものができたんだな。」としみじみ嬉しく思いました。』

玉川大学 4 年 女

『反省点は山ほどあります。しかし、それらを踏み台にし、よりよいものが作れたらいいと思えることがありました。自分が求めるものへの到達度よりも、子供達が楽しめたという事実が重要であると気付かされました。このチームでしか出来ない経験が、まだまだあります。私は、それらを通して一回りも二回りも成長したいと思っています。』

玉川大学 1 年 女

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『子どもたちと一緒に活動しているときはとても楽しくて、子どもたちも笑顔で楽しんでくれて、この企画に参加してよかったと思えました。子どもたちは、純粋で素直で一緒にいるだけで、心が安らぎました。自分のいたらなさがあったとしても、子どもたちが楽しんでくれることが最も大切であり、自分たちが満足していても子どもたちが楽しくなかったら意味がないのだと思いました。今回は、反省する点ばかりでしたがこの経験を無駄にすることなく、むしろ糧にして成長できたらなと思います。』

玉川大学 2 年 女

『子どもたちの元気はハンパじゃない。めちゃくちゃ疲れたけど、子どもたちの笑顔で頑張れました。こんな体験そんなに出来ません。楽しい一日、興奮する一日、思い出の一日みんなそれぞれの一日違うけれど、今日はこんな一日でした。実は子ども苦手でしたが、今回は動物の企画だから自分の得意なことを活かせられて、楽しかったです。』

帝京大学短期大学 1 年 男

『私は、動物の資料をもって動物のことについて子供に教える役割だったんですが、子供の方が動物に詳しくて実際のところあまり役に立たてませんでした。次はもっと準備して行きたいと思います。色々あったけど、イベントを通して大きなトラブルやケガ人がでることなく終われて良かったです。』

帝京大学 1 年 男

『イベントを参加・運営をしてきた中でいつも思うことがあります。それは、子ども達とイベントを楽しむと自分は元気が出ること。これはすごくいいことだと思う、イベント準備をしっかりする。これ大事。イベントを成功させる。これも大事。何事も無く無事に終わる。もちろん大事。じゃあ、終わった後は?アフターフォローをして、今回の反省を洗い出して、次回に活かす。これを実行するには元気と体力が必要。2 つある要素が一つでも欠けたらダメ。だから、

「元気が出る」ってことはすごくいいことなんだと思います。それを今回のイベントで確認できました。このイベントとイベントに関わった人たちのおかげです。ありがとう。』

帝京大学 2 年 男

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PBLのもたらす学生の地域進出創造とコミュニティデザインへの効果

(注) 1) PBL は Project-Based Learning と Problem-Based Learning に大別されるが本論文では主に前者を話

題の中心とする。 2) 多摩地域に立地する大学では多摩美術大学や多摩大学などが本格的に導入している。多摩美術

大学はパッケージデザインの部分でメーカーと協力し製品を作成。参考 多摩美術大学ホームページ:http://www.tamabi.ac.jp/dept/pbl/ 多摩大学はサンリオピューロランドにて主に学生の集客を上げる施策として学生対象のイベントなどを実施している。

3) 同志社大学 PBL 科目パンフレット掲載文章を参照した。 4) 学外からのプロジェクトの公募も併せて行っており地域との密な関係性が伺える。 5) 同志社大学ホームページ:http://pbs.doshisha.ac.jp/index.html プロジェクト科目一覧より集計。

2013 年 12 月 6 日現在 6) 近年の若者に対する研究では「仲間意識」を感じられる場所に強くコミットするという分析結

果が出ている。参考:古市憲寿(2011)『絶望の国の幸福な若者たち』講談社 7) 山崎亮(2011)『コミュニティデザイン −人がつながるしくみをつくる−』学芸出版社 8) 中村光(2006 ~)講談社 9) 鎌池和馬(原作)、はいむらきよたか(キャラクター原案)、近木野中哉(作画)(2007 ~)スク

ウェア・エニックス 原作は、アスキー・メディアワークス発行のライトノベルとしているが、立川まんがぱーくではまんがをコンテンツとしているため、本企画でもまんが版を用いている。

10) 指定管理業者:株式会社合人社計画研究所11) 主催:Design Lab. t.s.d.c. / 運営:学生団体 N.G.I. / 協力:立川まんがぱーく まんがトーークは

2013 年 5 月から、まんがワークショップは 2013 年 8 月から月 1 度のペースで実施している。12) 主催:公益社団法人 学術・文化・産業ネットワーク多摩 企画運営:ネットワーク多摩学生委

員会13) 東京都八王子市。大学生や社会人の合宿や研修場所として用いられている。同施設をイベント

の開催場所とするのは初めてとなる。14) 東京都立川市。これまで同施設を本イベントは主に開催場所としてきた。15) 東京都八王子市。同地をイベントの開催場所とするのは初めてとなる。16) 東京都日野市。同施設をイベントの開催場所とするのは初めてとなる。17) 市販のものではなく、学生たちがオリジナルのイベントグッズを作成した。18) つながりを継続させるという点からイベント実施前には前回参加者へイベント告知のダイレク

トメールを送付。送付先の子どもたちの参加率は平均 20%~ 30%だが、50%を超える時もあった。

19) 主催:Design Lab. t.s.d.c. 現在、高校生・大学生・社会人の個人、グループなどが講師となり約15 科目が開講もしくは開講予定。

20) 第 11 回たまレンジャー開催に合わせ、告知として特定非営利活動法人野外遊び喜び総合研究所主催の第 6 回ウォークラリー(府中市)にてブースを出店した際にも参加者に同アンケートを実施した。

21) 2012 ~ 2013 年に行われた地域イベント参加者からのアンケート調査をもとに作成。22) 同注 2123) 同注 2124) 学生団体 N.G.I. メンバーのイベント実施後感想集より抜粋。25) 特定非営利活動法人 日本ファシリテーション協会の定義によると、ファシリテーションとは人々

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の活動が容易にできるよう支援し、上手くことが運ぶよう舵取りをすること。集団による問題解決、アイディア創造、教育、学習など、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働きを意味する。その役割を担う人がファシリテーターであり、会議で言えば進行役にあたる、とされている。参考同法人ホームページ:https://www.faj.or.jp

26) 佐藤宏樹(2014)『大学を核とした Knowledge Sharing がもたらす FD と地域 ESD への効果』帝京大学高等教育開発センターフォーラム 原稿 に詳細記述。

27) エンツリー、bond place の活動についてはヒアリング調査に基づく。28) コミュニティビジネス構築に関する講演や、コミュニティカフェの運営などを行っている。29) 同注 24、本学エコビジネスリーダー養成コース インターンシップ参加者の感想より抜粋。

(参考文献)

(邦文文献)◯  山崎亮(2011)『コミュニティデザイン −人がつながるしくみをつくる−』学芸出版社◯  古市憲寿(2011)『絶望の国の幸福な若者たち』講談社◯  藤村龍至・山崎亮(2012)『藤村龍至×山崎亮対談集 コミュニケーションのアーキテクチャを

設計する』彰国社◯  グリーンズ(2012)『ソーシャルデザイン−−−−−社会をつくるグッドアイデア集』朝日出版

社◯  グリーンズ(2013)『日本をソーシャルデザインする』朝日出版社◯  佐藤宏樹(2014)『大学を核とした Knowledge Sharing がもたらす FD と地域 ESD への効果』帝

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