ゼブラフィッシュ側線器有毛細胞死におけるKinase の役 …

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ゼブラフィッシュ側線器有毛細胞死における Kinaseの役割~Kinase inhibitorを用いた試み~

○竹本洋介,広瀬敬信,菅原一真,橋本 誠,山下裕司山口大学大学院 医学系研究科医学部 耳鼻咽喉科学

【はじめに】ゼブラフィッシュの体表面には水流を感知する側線器が存在し、有毛細胞を有する神経小丘で構成されている。その特徴は哺乳動物と構造的・生理学的にも酷似している1)。これは、げっ歯類の内耳が魚類の側線器に由来する事による。稚魚は、全長 2mm程度で側線器有毛細胞が体表面にあるため、観察が容易である。また、一回の産卵で数百匹の稚魚を産むことが出来る。このことから、薬剤のスクリーニングに適している動物として広く知られている。我々はケルセチン、アスタキサンチン、漢方製剤などの抗酸化剤について、ゼブラフィッシュを用いて有毛細胞保護効果について報告してきた。今回我々は、有毛細胞死における Kinaseの役割について注目した。Kinaseとは蛋白質にリン酸基を付加する分子の総称で、一部の Kinaseが有毛細胞死に重要な役割を持つことが報告されている。例えば、Sugaharaらは c―Jun n―terminal Kinase inhibitorが caspase―9の活性化を抑制し、ネオマイシンに対して有毛細胞を保護したことを報告している2)。そこで、金沢大学がん進展制御研究所との共同研究として、Kinase inhibitorと有毛細胞障害の関係について検討した。ゼブラフィッシュを用いてスクリーニングを行ったので報告する。

【方法】生後 5日目の野生型ゼブラフィッシュを用いて、Kinase inhibitorについて、有毛細胞障害、有毛細胞保護に関する実験を行った。10匹ずつの群に分け、それぞれの Kinase inhibitor

(0.1 uM―10 uM)に 1時間暴露した後、ネオマイシンに 1時間暴露した。また、Kinase in-

hibitor 10 uMに 2時間暴露し、ネオマイシンを投与しない群も作成した。パラホルムアルデヒドで固定し、anti―parvalbumin antibody、Alexa 488 goat anti―mouse fluorescent antibody

にて免疫染色した。有毛細胞を蛍光顕微鏡でカウントし、有毛細胞残存率についてのグラフを作成した。検定は one way ANOVAを用い、SEM(標準誤差)についても検討した。

【結果】有毛細胞障害をきたす薬剤、ネオマイシンに対する有毛細胞保護効果を示す薬剤を同定したので、その一例を図に示す。コントロール群と比較して、Kinase inhibitor xxx17 10 uM

を投与した群では有意に有毛細胞が減少していた(P<0.05)。また、ネオマイシンに対する有毛細胞保護効果は認めなかった。Kinase inhibitor xxx4 1 uMを投与した群では、ネオマイシンに対する有毛細胞保護効果を認めた(P<0.05)。

【まとめと今後の課題】今回我々は、Kinaseと有毛細胞死との関連性について、ゼブラフィッシュの稚魚を用いて検討した。Kinase inhibitorのスクリーニングを行い、有毛細胞死との関連が示唆される

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薬剤を同定することができた。現在有毛細胞において、細胞死と Kinaseの関連を網羅的に検討した報告は認めない。今後さらなる検討を重ね、細胞死における Kinaseの役割を明らかにしていく予定である。

【参考文献】1.Ton C, Parng C. The use of zebrafish for assessing ototoxic and otoprotective agents.

Hear Res. 2005 ; 208(1―2): 79―88.

2.Sugahara K, Rubel EW, Cunningham LL. JNK signaling in neomycin―induced vestibular

hair cell death. Hear Res. 2006 ; 221(1―2): 128―35.

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