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2009 - 9「車両技術 238 号」 3

JR 東日本 E259 系特急形直流電車(成田エクスプレス)※川

かわ

 畑はた

 晶あき

 彦ひこ

 

写真 1 外観

要旨首都圏主要駅と成田空港をダイレクトかつスピーディに結ぶ東日本旅客鉄道株式会社の 253 系特急形直流電車

は、“N’EX”の愛称で 1991 年の運行開始当初からご好評をいただき、多くのお客さまにご利用いただいている。今回、253 系特急形直流電車の置換え及びお客さまへのサービス向上を図るため、E259 系特急形直流電車を新造した。製作両数は 6両× 22 編成の合計 132 両の予定である。ここに、その概要を紹介する。(編集部注:E253 系は本誌 193 号-1991 年 2 月、E257 系 500 代は 229 号-2005 年 3 月、E231 系は 220 号-2000 年 9 月、E233 系は 233 号- 2007 年 3 月参照)

1.はじめに今回投入するE259 系は、2004 年度に房総地区に投入し

た E257 系 500 代特急形直流電車の基本構造に加えて、2006 年から首都圏輸送における更なる輸送安定性向上並

びにサービス向上を目指した通勤・近郊電車として投入している E233 系直流電車の新しい技術を取入れたものである。乗り心地や車内設備の充実などの快適性の向上を図るとともに、E231 系(山手線)などで導入している車内情

※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部

写真 2 室内(グリーン車) 写真 3 室内(普通車)

JR 東日本 E259 系特急形直流電車(成田エクスプレス)4

表 1 JR東日本 E259 系特急形直流電車 車両諸元

会社・車両形式 東日本旅客鉄道㈱・E259 系使用線区 東海道本線・横須賀線・総武本線・成田線・

中央本線ほか軌間(㎜) 1 067

基本編成 6両(4M2T) 許容軸重(kN)用途 特急車両 電気方式 直流 1 500 V車体製作会社 東急車輛製造㈱、近畿車輛㈱ 製造初年 2009 年 台車製作会社 東急車輛製造㈱、近畿車輛㈱ 1次製作両数 132 両主回路装置製作会社 ㈱日立製作所 車両技術 238

●;駆動軸 ○;付随軸 VVVF;主制御装置 SIV;補助電源装置 CP;空気圧縮機 BT;蓄電池<;パンタグラフ 連結器[+:密着、▽:密着(電連・復心装置付)=:半永久(衝撃吸収緩衝器付)-:半永久)]

個別の車種形式 クロE259

モハE259

モハE258

モハE259

モハE258

クハE258

車種記号(略号) Tsc M- 500 M’-500 M M’ Tc’空車質量(t) 38.9 37.0 38.0 36.5 38.0 38.4定員(人) 28 54 56 56 56 40 編成定員 290うち座席定員(人) 28 54 56 56 56 40特記事項 高品位サービスの提供・乗り心地向上(フルアクティブ制御・車体間ダンパ)・主要な機器の

二重系化など

車両性能

最高運転速度(㎞/h) 130加速度(m/s2) 0.556(2.0 km/h/s)減速度(m/s2)

常用 1.440(5.2 km/h/s)非常 1.440(5.2 km/h/s)

ユニット当りの定格出力(kW)定格速度(㎞/h)ユニット当りの引張力(kN) 76.16動力伝達方式 平行カルダンTD継手式

ブレーキ制御方式

回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ・抑速ブレーキ・直通予備ブレーキ・耐雪ブレーキ(応荷重・滑走再粘着・遅れ込め制御付)

制御回路電圧(V) DC 100こう配条件(‰)抑速制御 あり

運転保安装置ATS-P・ATS-SN自動列車停止装置

列車無線 デジタル列車無線非常時運転条件

電気駆動系主要設備

集電装置

形式/質量(㎏) PS33D方式 シングルアーム式

制御装置

形式/質量(㎏) SC85制御方式 2レベル PWMインバータ仕様

主電動機

形式/質量(㎏) MT75方式 かご形三相誘導電動機1時間定格(kW) 140回転数(min -1) 2 360連続定格(kW) 128

主回路標準限流値

力行(A)ブレーキ(A)

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車体の構造・主要寸法

構体材料/構造アルミ合金中空押出形材/ダブルスキン構造

車両の前面形状 貫通形運転室 貫通形高床式

長さ(㎜)先頭車 21 000中間車 20 000

連結面間距離(㎜)

先頭車 21 430中間車 20 500

心皿間距離(㎜) 14 150車体幅(㎜) 2 946

高さ(㎜)屋根高さ 3 655屋根取付品上面 3 980(パンタ折りたたみ)

床面高さ(㎜) 1 140

車体特性・構造及び主要設備

相当曲げ剛性(MNm2)相当ねじり剛性(MNm2/rad)曲げ固有振動数(㎐)ねじり固有振動数(㎐)内装材 アルミ化粧板・FRP・シート貼・ゴム床ほか側窓構造 固定式妻引戸 片引戸・両妻

側扉構造 両引戸片側数 2(Tsc 車:1)

戸閉め装置形式/質量(㎏) TK120方式 空気式(戸閉力弱め機能付)

腰掛方式 回転リクライニングシート

車体連結装置

先頭車 密着連結器

中間車半永久連結器/密着連結器(3・4 号車間のみ)

空調換気システム

冷房方式 床下集中式暖房方式 シーズ線式 ・空調内蔵換気方式 自然換気配風方式 腰中ダクト

車内主要設備

照明方式 間接照明・蛍光灯・LED移動制約者設備 車いす対応便所・車いすスペース・腰掛便所 電動車いす対応大形洋式便所・洋式便所・小便所汚物処理 真空式汚物処理装置(真空タンク内蔵便器)

その他の主要設備

主幹制御器形式/質量 MEC9速度計装置 メータ表示器車両情報制御システム

モニタ装置 TIMSモニタ表示器 カラー LCD

非常通報装置 あり(通話型)

行先表示器前面 -側面 フルカラー LED

車内案内表示 17 インチTFT列車情報装置 -

放送車内向け あり車外向け -

車両間連結電気系 ジャンパ連結栓・光ケーブル空気管系 密着連結器・ゴムホース

その他の主要設備

補助電源装置

形式/質量(㎏) SC90A方式 待機二重系 2レベルインバータ方式容量

蓄電池種類/質量(㎏) アルカリ電池容量(Ah) 105(補助:80)

空調装置形式/質量(㎏) AU302A方式 床下集中式容量(kW) 冷房 42 /暖房 20

暖房装置 容量(kW) 空調装置 20・シーズ線ヒータ 4.55(中間車)

空気圧縮機形式/質量(㎏) MH3124-C1600SN3B圧縮機容量 1 600㍑ /min電動機方式 かご形三相誘導電動機

空気タンク元空気タンク 330㍑供給空気タンク 165㍑(中間車)/85㍑× 2(先頭車)

標識灯前灯 HID・ハロゲンシールドビーム併用尾灯 前灯一体形 LEDその他 -

ブレーキ

ブレーキチョッパ 形式/質量(㎏) -ブレーキ抵抗器 形式/質量(㎏) -

ブレーキ装置 形式/質量(㎏)C179(M車)・C180(M' 車)・C181(Tsc車)・C182(Tc'車)

台   

形式M台車 DT77T台車 TR262・TR262A(先頭台車のみ)

支持装置車体 ボルスタレス式軸箱 軸はり式

けん引装置 一本リンク式

ばね方式空気ばね(まくら)コイルばね(軸)

軸距(㎜) 2 100

ばね定数

(N/㎜)

まくらばね 365

軸ばね

コイルばね958(DT77 のみ)/1 030(DT71A以外) 総

913(DT77のみ)979(DT77以外)

防振ゴム19 614

台車最大長さ(㎜) 3 014/3 229(先頭台車のみ)車輪径(㎜) 860基礎ブレーキ

M台車 踏面ブレーキT台車 ディスクブレーキ・踏面ブレーキ併用

ブレーキ倍率3.5(M台車)/1.5(TR262台車踏面)・2.4(TR262・TR262A台車ディスク)

制輪子M台車 合成制輪子T台車 焼結合金制輪子

ブレーキシリンダ・個数

M台車 4T台車 ディスク 4、踏面 4

駆動方式 平行カルダン駆動方式 4軸/両歯数比(減速比) 96:17=5.65継手 TD継手軸受 密封複式円すいころ軸受

質量(㎏)M台車 6 179T 台車 5 601(TR262)/ 5 391(TR262A)

JR 東日本 E259 系特急形直流電車(成田エクスプレス)6

報提供装置を当社の特急電車として初めて採用し、お客さまへの情報案内の充実も図っている。車両のデザインは、空港アクセス特急にふさわしい機能とデザインを兼ね備えるものとし、お客さまに高く評価いただけることを目指した車両である。

2.基本コンセプトと特徴E259 系の主な特徴は以下の通りである。⑴  編成は、6両を基本とし、6両編成又は 12 両編成での営業運転に対応した。

⑵  運転室は、12 両編成時のお客さまの車内移動を考慮した貫通構造である。

⑶  車体は、アルミ合金中空押出形材を使用したダブルスキン構造である。

⑷  故障に強い車両とするため、主要な機器が故障した場合にも通常走行が可能となるよう、電気機器や保安装置などの主要機器を二重系化するなどしてバックアップが可能なシステムを採用した。

⑸  フルアクティブ振動制御(両先頭車)や車体間ダンパ装置を装備し、乗り心地の向上を図った。

⑹  各座席にコンセントを備えた腰掛や車内販売などに対応できる設備など、高品位のサービスを提供する。

⑺  客室内及び出入台に液晶画面の車内案内表示器を設置し、次駅案内、列車運行情報、ニュース、フライト情報などの充実した情報を提供する。

⑻  荷物置場に錠装置、出入台と荷物置場に防犯カメラを設置してセキュリティの向上を図った。

⑼  列車の情報制御装置は、E233 系などと同様にTIMS(Train Information Management System)を採用し、列車制御や状態監視など編成全体での一括管理制御を実現した。

⑽  冷暖房を行う空調装置を床下に搭載し、従来の天井から下向きに冷風又は温風を吹き出す方式から、荷物棚の先端付近から横向きに吹き出す方式の空調システムを採用した。

3.デザインコンセプト車両のデザインは、空港アクセス特急にふさわしい機能

とデザインを兼ね備えるものとした。1991 年の列車投入以来、253 系で築いてきた空港特急の代名詞として定着している“N’EX”のブランドステータスを最新のテクノロジーにより、精

せい

緻ち

でクオリティの高いデザインとしてブラッシュアップすることを目指した。また、防犯意識の高まりや IT環境などの時代とともに変化してゆくお客さまのニーズに応えるデザインと、それを実現する最新テクノロジーとの融合により、新たなお客さまサービスを提供することも目指した。エクステリアデザインは、赤、白、黒をベースカラーと

した 253 系のブランドイメージを継承した。○ホワイト:極地の白○レ ッ ド:地平線に低く輝く太陽のイメージ○ブラック:成層圏から続く宇宙空間先頭部は高運転台として、新型“N’EX”のイメージを

創出すると共に、貫通扉のほろのふた部分には、“N’EX”のロゴとシンボルマークを配してアクセントとし、成田エ

クスプレスのブランドイメージの継承と新たな精緻な技術の実現を表現した。インテリアデザインは、国際空港に乗り入れる特急車両として、日本の伝統紋様である市松紋様をデザインキーワードとする一方で、出入台及び通路部はメタリックの新素材で未来感を表現することによって、伝統と先端技術をハイブリッドさせた車内空間とした。また、海外のお客さまが日本で初めて乗る特急車両として、日本の文化を感じられるクオリティの高さを備えるものとし、アップグレードな快適な移動空間を提供することをねらった。特にグリーン車は、本革シート及び木目調の内張りを採用するとともに、床にじゅうたんを貼り、照明を電球色の間接照明とすることで、落着きと 253 系を超えるグレード感を提供している。安全で安心できる室内空間を提供するために、セキュリティ及びバリアフリーにも考慮したデザインとした。

4.編成と主要諸元編成は、上り方(大船寄り)をTc’車で 1号車、下り方

(成田空港寄り)をグリーン車の Tsc 車で 6号車とした4M2Tの 6両編成である。車両の構造は、6両すべてで異なっており、番代で区別している。M車は、予備パンタグラフを含む 2台のパンタグラフを搭載している車両を 500 番台として、1台のパンタグラフを搭載している車両と区別しており、M車と 2両のユニットを組むM’車も併せて 500 番代としている。定員は普通車 262 人、グリーン車 28 人で、合計 290 人である。トイレと洗面所は、1号車及び 6号車に設置した。クハE258(1 号車)には洋式トイレと小便所及び洗面所を設け、クロ E259(6 号車)には大形洋式便所(車いすに対応した洗面所兼用の大便所)及び小便所を設けている。各トイレには、便座クリーナ(除菌シート)、折たたみ式のおむつ交換台及び折りたたみ式のベビーチェアを設けて、お客さま利便性の向上を図り、また炎

ほのお

検知装置も設置している。クロ E259(6 号車)の大形洋式便所は車いすに対応した寸法で、手すりなどを設けたほか、スイッチ式の自動開閉扉を設けた。洗面所は、幅を広く、洗面台を低くしている。モハ E259(5 号車)の客室には車いすスペースを設けるとともに、車いすが固定できる一人掛け腰掛を通路を挟んで左右に 1脚ずつ、計 2脚配置した。この腰掛は、車いすから乗り移りやすいように座席の回転方向を通路側回転としている。モハ E259(5 号車)から、クロ E259(6 号車)に設置

した車いす対応の大形洋式便所及び多目的室への通路幅は、車いすでの移動を考慮して有効幅を 800 ㎜以上を確保している。多目的室は車いすに乗ったままで入室が可能であり、また授乳や体調がすぐれないお客さまが横になれるように、ベッドとして利用できる折りたたみ式のいすを設けている。多目的室と通路を挟んだ反対側には、お客さまへの車内販売サービスに対応するために、放送装置、流し台、手洗い装置及び冷蔵庫などの設備を設置した車販準備室を設けている。空調装置は、42 kW(36 000 kcal/h)の冷房能力と、20 kW(17 200 kcal/h)の暖房能力を持つAU 302 A 形を床下に 1台搭載した。

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図1 編成図

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図 2- 1 形式図 クロE259(Tsc)

図 2- 2 形式図 モハE259(M-500)

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図 2- 3 形式図 モハE258(M’-500)

図 2- 4 形式図 モハE259(M)

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図 2- 5 形式図 モハE258(M’)

図 2- 6 形式図 クハE259(Tc’)

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図 3- 1 車体断面(グリーン車)

図 3- 2 車体断面(普通車)

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電動空気圧縮機は、各M’車とTsc 車に搭載し、パンタグラフは、E233 系と同じシングルアーム式 PS33D 形を各M車に搭載するほか、5号車のM車後位には予備パンタも搭載した。パンタグラフ折りたたみ高さは、3 945 ㎜として、狭小トンネルにも対応する高さとした。補助電源装置(SIV)は、待機二重系のものを各M’車

に各 1台を搭載している。保安装置は、ATS-P(二重系)を装備し、緊急防護装置としてEB・TE装置、デジタル列車無線装置を搭載している。列車の情報制御装置は、E233 系などと同様にTIMS を

採用し、列車制御や状態監視などの役割を担っている。サービス機器としては、液晶方式の車内案内表示器を客室通路部(先頭車:8台、中間車:12 台)と出入台(各 1台)に設置しているほか、自動放送装置や、AM・FMラジオ受信用アンテナなどを備えている。

5.車両詳細5.1 車体構造車体幅は、E257 系と同じ 2 946 ㎜であるが、屋根高さは、

客室通路部に液晶方式の車内案内表示器を設置した状態でも十分な通路高さを確保するために E257 系と比べ 105 ㎜高くしている。先頭車の連結面間距離は、デザインや機器収納構造などの制約から 21 000㎜として、E257 系と比べて 500 ㎜長くなっている。床面は、お客さまの乗降を容易にするため、253 系に比べて 50 ㎜低くした。構体構造は、アルミ合金の中空押出形材を用いたダブル

スキン構体である。外板と内板の間をトラス状にした断面形状の中空形材を、車体全長の約 20 メートルにわたって連続溶接することで構成している。この構造は、従来の外板、柱及び内骨を一体化しており、溶接箇所の削減、車体剛性の向上及び構体寸法の誤差が少ないなどのメリットを持っている。また形材にカーテンレール状の溝を設け、機

器や内装品を構体に直接取付けることにより、組立作業の容易化を図っている。車端の外妻面には、E257 系電車と同じく車端ダンパを設けているが、さらに乗り心地の向上のために、台枠部の各車両間に車体間ダンパを設ける構造としている。床構造は、E257 系で用いているゴム系弾性材料に加えて、出入台を含む床面全体をアルミニウム板で覆い、その上にゴム床を敷いた構造で車内の静粛性の更なる向上を図っている。先頭構体部は、屋根及びほろのふた部を除いて、FRPで構成している。また、先頭構体と出入台部にクラッシャブルゾーンを設けて、万一の衝突事故による車体破壊から、運転士とお客さまの安全を守る構造としている。5.2 車内全般客室は、大きな側連続窓の採用や天井を可能な限り高くしたことにより、開放感のある車内空間を実現した。天井に空調ダクトや排気ダクトがないため、中央天井部の厚さは最大限薄くした。照明は、蛍光灯をラップさせて配置することにより連続した間接照明を実現している。客室天井の全長に通したルーバには、スピーカや LEDダウンライトを埋込んでいる。客室通路の天井部には、次駅案内やフライト情報など様々な情報を提供できる 17 インチワイド画面の車内情報表示器(LCD)を、視認性を考慮した位置に配置している。各車両の出入台と客室の間には、253 系と同様に大型のスーツケースなどを置くことができる荷物置場を設けた。荷物置場の下段(床置き)は、大型のスーツケースを縦に置くことができ、中段(下の棚)は、スーツケースを横置きできる棚の高さ寸法を確保して、253 系よりもお客さまの荷物の取扱いの向上を図っている。各荷物棚には、お客さまが自身で扱えるキーレス方式の 4桁ダイヤル式ワイヤ錠を、普通車は 32 個、グリーン車は 24 個設置するととも

写真 5 多目的室写真 4 錠装置付荷物置場

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図 4- 1 床下機器配置 クロE259(Tsc)

図 4- 2 床下機器配置 モハE259(M-500)、モハ E259(M)

図 4- 3 床下機器配置 モハE258(M’-500)、モハ E258(M’)

図 4- 4 床下機器配置 クハE258(Tc’)

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BB

BB

図5 運転室機器配置

写真6 運転台

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図6 動台車(DT77)

番号

名称

1輪軸組立(M)

2輪軸組立(一般用)

3輪軸組立(一般用)

4軸箱支持装置

5軸箱支持装置

6台車わく組立(M)

7主電動機及び歯車箱吊り取付

8たわみ継手組立

9車体支持装置

10ブレーキ装置

11ブレーキ装置

12台車ブレーキ管装置(M)

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図7 付随台車(TR262)

番号

名称

1輪軸組立(T)

2輪箱組立(一般用)

3輪軸組立(連発・接地用)

4軸箱支持装置

5軸箱支持装置

6台車わく組立(T台車・中間用)

7車体支持装置 フルアクティブT

8踏面ブレーキ装置

9踏面ブレーキ装置

10ディスクブレーキ装置

11台車ブレーキ配管装置(T・中間)

12動揺防止制御装置配管

13AG36形速度発電機取付

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図8 主回路つなぎ

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図9 力行性能曲線

図10 ブレーキ性能曲線

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に、荷物室天井に監視カメラを取付け、セキュリティ面の向上を図っている。客室内の荷物棚は、奥行きを確保するとともに、高さを

E257 系と比べて 40 ㎜低くして荷物を載せやすくした。荷物棚の下面は、座席の頭上スペースを確保する高さにしている。荷物棚に加えて、着座した状態でも腰掛下に荷物を置いていただけるように、座席下の空間を床面から 250㎜確保している。このため客室ヒータを腰掛下につり下げる方式では設置できないので、側腰下部に客室全長にわたって設置している。腰掛のテーブルは、パソコンなどの利用を想定して、グ

リーン車はスライド式、普通車は背面テーブルの位置を見直すとともに、客室端部の荷物置場との仕切壁に、パソコンを利用しやすい大形の折りたたみテーブルを設けている。各腰掛には、パソコンにも使えるコンセントを窓側のお客さまが通路に出る際に邪魔にならないように、側ひじ掛先端部に配置している。またグリーン車及び普通車の腰掛には、可変式のまくらを配置して座り心地の向上を図っ

ている。出入台と荷物置場の間の内妻引戸は、ステンレス枠付きの強化合わせガラスで構成した両引き自動扉とした。有効開口幅は 1 060 ㎜で、大きな荷物を持ったお客さまでも支障なく通ることができる。グリーン車の後位寄は片引き扉とし、ここの扉は窓のないパネル構造として、グリーン車内のプライバシーを確保した。外妻引戸には、火災対策の観点から強化ガラスの 2倍の強度がある耐火ガラスを使用している。貫通路を挟んで隣接した外妻引戸装置は連動指令となっており、連動して開閉動作を行う。ただし、1- 2号車間及び 5- 6号車間には、先頭車側の小便所使用時の折戸開閉動作によって、中間車側の外妻引戸が同時開閉しないよう、それぞれ 2号車側、5号車側からのみの連動指令となっている。5.3 グリーン車グリーン車は、木目調の内装材及び床敷物にじゅうたんなどを使用することによって、落着いた雰囲気の高級感のある客室とした。蛍光灯は電球色を採用し、普通車との差

写真 7 腰掛(グリーン車) 写真 8 腰掛(普通車)

写真 10 車内案内表示器写真 9 大形洋式トイレ

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別化を図った。腰掛は、本革を用いた 2+ 2列の回転リクライニングシートとし、前後ピッチ 1 160 ㎜で配置している。必要な通路幅を確保しながら、ゆったりした座席幅が得られるよう、腰掛形状に工夫を凝らしている。本革部は、耐久性を向上させる加工とともに、座面と背ずり部には、通気性をよくする加工(パンチング)を施している。可変式のまくらには、表面のタッチが柔らかな人工皮革を使用して座り心地の向上を図っている。腰掛背面には、スライド式の大形背面テーブルを設けてパソコンなどの利便性を向上させるとともに、Tバー形状の跳ね上げ式の足掛を設けた。なお、操作時の質感向上のために腰掛設備の収納方向にダンパ機能を設けてある。5.4 普通車普通車は、日本の伝統紋様である市松紋様をデザインキ

ーワードとし、国際空港に乗入れる特急車両にふさわしい内装としている。腰掛は、市松模様の織物生地を用いた 2+ 2列の回転リクライニングシートを前後ピッチ 1 020 ㎜で配置している。グリーン車と同様に、各腰掛の側ひじ掛先端部にパーソナルコンセントを配置するとともに、可変式のまくらを配置し、お客さまへのサービス向上を図っている。背面テーブルは、パソコンなどの利便性を考慮した位置とし、網袋も収納性向上させるために、伸縮性のあるものを設けた。5.5 出入台普通車の側出入口は、前後位 2箇所に配置している。グ

リーン車のクロ E259(6 号車)は、車いす対応の大形洋式便所や多目的室を設けたこともあり、前位のみの片側 1箇所としている。各出入台のかもい部には、荷物置場と同様に防犯カメラを設置し、セキュリティ面の向上を図っている。各車両の側出入口の外側には、従来の特急車と同様に列

車名及び行先などを表示するフルカラー LED式の側面表示器を設けている。すべての側引戸の開閉時には、各引戸に設置したチャイムを鳴動させると共に、各側引戸のかもい下部に設置した赤色の扉開閉表示灯を点滅させて、目の不自由なお客さま並びに耳の不自由なお客さまへの配慮をした“バリアフリー整備ガイドライン”に対応した仕様としている。目の不自由なお客さまに配慮した設備としては、当社の

特急車としては初めて、出入台から客室内に入るドアに向かって左側の壁と、トイレのドアの内側に、現在位置や各種設備の位置を案内する触地図を設けた。各室内標記についても、大きさ及びデザインを統一し、分かりやすいものとしている。また、普通車の各出入台には、跳ね上げ式の腰掛を 2脚設置してお客さまの着座機会の拡大も図っている。(編集部注:触地図は、“触知地図”や“触覚地図”とも呼ばれ、線、面及び点の凹凸による表現と点字を使用して、触覚により理解できる。触覚のみならず、視覚でも理解できるように作成されている。)5.6 乗務員室設備乗務員室は、運用中の分割・併合を考慮した高床貫通運

転台構造としている。通路を構成する貫通構造に加えて、自動ほろ装置やメータ表示器などがあるために、従来の運転台に比べて構造物や制約事項が多い。このため、モック

アップを製作して、運転時の視界と前頭デザインの両立を図った。乗務員室の機器配置は、E351 系と E233 系をベースとしたメータ表示器などに対応したレイアウトで、アナログゲージ及び表示灯類の多くを廃止した。主幹制御器は、左手操作のワンハンドルマスコンを採用している。前部標識灯は、雨天及び着雪などを配慮し、HID とシ

ールドビームの組合せとした。後部標識灯は、LEDとし前部標識灯ユニット内に設置している。前面ガラスは、3次曲面ガラスとし、通勤電車などと同様のクリアとグリーンガラスで前方の視認性を確保すると共に、日射透過率及び紫外線透過率の低減を図っている。前面ガラスだけでなく、引窓部を除く側面ガラスにも熱線ヒータを設け、くもりや結露防止を図っている。前面ガラスのワイパは、E233 系と同様に運転士側に 1本と助士側に 1本で構成する 2本の主ワイパに加え、ワイパに不具合が生じた場合にも、切替えることによって使用できる補助ワイパを中央部に 1本設けることによって、輸送障害の低減を図っている。5.7 ぎ装床下機器は、構体に中空押出形材を使用したことによって、構体のレール方向の取付け溝(カーテンレール)に、専用のボルトで床下機器を固定している。各車の車体中央付近に、空調装置を搭載している。空調装置とつながる空調ダクトを床下面に配置しているため、床下機器の取付けは、この高さの分だけ低い位置に取付けている。各車の床下機器配置は、以下の通りである。○各車共通: TIMS 箱、ブレーキ制御装置、供給空気タンク、直通予備ブレーキ装置、滑走防止弁装置、空調装置○M車: VVVFインバータ装置、フィルタリアクトル、断路器箱、断流器箱、高速度遮断器箱、母線遮断器箱、SIV 断流器箱○M’車: 電動空気圧縮機、元空気タンク、静止形インバータ装置(SIV)、トランスフィルタ箱○Tsc・Tc’車: 保安装置(ATS-P、 ATS-SN 車上子)、蓄電池箱、整流装置、中間連結器箱、水タンク、汚物処理装置、連結締切装置、運転室空調室外機、ブレーキ制御装置、供給空気タンク、加速度センサ箱、電磁弁箱 ○ Tsc 車のみ:電動空気圧縮機、元空気タンク、F救援ブレーキ装置○Tc’車のみ:補助蓄電池箱5.8 車内案内表示器(情報提供装置)お客さまへの情報案内の充実を図るために、E231 系(山手線)や E233 系で導入している情報提供装置を、当社の特急電車として初めて採用した。17 インチワイド液晶ディスプレイを客室妻部及び中央部に 2台並べて配置し、デッキ部にも 1台設置している。空港アクセス用列車として、主要な表示は 4ヵ国語(日・英・中・韓)に対応し、新たなコンテンツを提供できる。空港行きの列車では、フライト情報や海外の天気を、都心方面行きの列車では、国内の天気や週間ニュースなどとお客さまのニーズにあった内容

2009 - 9「車両技術 238 号」 21

の情報を提供する予定である。5.9 性能及び電気機器主回路の制御方式は、三相誘導電動機をVVVFインバ

ータで制御する方式である。主回路方式に 2レベル式を採用した。主電動機 4台を 1群とした制御を行い、1台のインバータ装置には 2両分 2群のインバータユニットを納めている。運転台からの力行・ブレーキなどの指令は、TIMS 経由で伝送によって、VVVF インバータ制御装置及びブレーキ制御装置へ伝えている。歯数比は 5.65 とし、最高運転速度を 130 ㎞/h としてい

る。主電動機は、E257 系とは異なり E531 系用MT75 形主電動機の吸気車体ダクトタイプであるMT75B 形主電動機を採用している。主電動機本体はMT75 形主電動機と同一である。補助電源装置は、IGBT素子を使用した静止形インバー

タで、出力は三相 440 V、210 kVAの容量を持つ。本装置は、待機二重系の 3レベルインバータ方式である。5.10 台車・ブレーキ台車は、E257 系用台車・E233 系用台車を基本に設計し

たボルスタレス方式を採用し、M台車を DT77 系、T台車をTR262 系としている。ブレーキ装置は、電動台車が踏面片押しブレーキ、付随台車が踏面片押しブレーキとディスクブレーキの併用である。なおTR262 台車は駐車ブレーキ装置付きである。両先頭車には、当社の E2系及び E3 系新幹線車両で採

用している空圧式フルアクティブ動揺防止制御装置を搭載し、乗り心地の向上を図っている。このフルアクティブ動揺防止制御装置は、車体の振動加速度を元に最適な制御力を空気圧駆動のアクチュエータによって発生させ、車両の振動(主に左右方向)を積極的に低減し、乗り心地を向上させるシステムである。ブレーキ方式は、制御伝送によるシリアル伝送で各車に

指令する回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキとした。このほかに、貫通ブレーキ機能を持つ常時加圧式の非

常ブレーキ系統、保安ブレーキとしての直通予備ブレーキ、抑速ブレーキ及び降雪時に踏面と制輪子の間に雪が介在するのを防ぐ耐雪ブレーキを持っている。常用ブレーキは、従来の 1M1T、あるいは 1M2Tユニットによる制御から、TIMSによる編成ブレーキ力管理システムになったことによって、制輪子の摩耗量を低減し、かつ摩耗量の均一化を図っている。また、ブレーキ時の滑走によるフラット発生を防ぐために、滑走した軸のブレーキ力を一時的に弱めて再粘着を促進させる滑走検知装置も設けている。

6.営業運転開始及び投入スケジュールについてE259 系の営業運転開始は、現在のところ 2009 年 10 月の計画である。まずは、9編成(予備 1編成含む)を運用に投入する予定であるが、首都圏は 2009 年 3 月 14 日にダイヤ改正を行ったところであり、営業運転開始時での輸送体系の変更予定はない。最高速度は、現行の 253 系と同等の 130 ㎞/h であり、走行性能が同程度であるため、所要時間の短縮も計画はしていない。

7.おわりにE259 系は、本年 4月から来年度にかけて 22 編成 132 両が落成し、鎌倉車両センターに配属となる。前述の通り、営業運転開始時での輸送体系の変更予定はないが、成田空港の平行滑走路 2 500 m化による発着枠の拡大に伴う利用増が見込まれるため、増発など輸送体系の変更については今後検討して行く予定である。成田エクスプレスは、首都圏主要駅と成田空港を乗換え無しでダイレクトに結ぶ特急電車として、1991 年の開業時から、その利便性の良さを追求しているが、今回の E259 系も是非、多くの皆様にご利用いただき、長く親しんでいただければ幸いである。最後に、E259 系の設計及び製造にあたりご指導をいただいた関係各位に対し、誌上をお借りして厚くお礼申し上げる。