抗菌薬適正使用1 帯広協会病院 篠田 雅和 十勝薬剤師研修会...

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1

帯広協会病院 篠田 雅和

十勝薬剤師研修会

~厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き」 の理解に向けて~

抗菌薬適正使用

第 2 回 2017年12月5日

知ろうAMR

「インフォグラフィック」

本日の内容

1.前回のおさらい

2.感染症治療の原則

3.細菌の分類と対策

4.経口抗菌薬の注意点

5. 「抗微生物薬適正使用の手引き」

急性気道感染症

感染症は勉強しにくい

感染症は勉強しにくい

■ 病原微生物の種類が多い

■ 適応をもつ抗菌薬の種類が多い

■ 従来の教科書がイマイチ だった

書いているのが、感染症治療の専門家ではなく他の診療科の

医師だったり、微生物研究者だったりした。

■ 添付文書の用法用量に不適切なものが結構ある

■ 治療の専門家が非常に少ない

大学にも市中病院にも、「感染症科」がとても少ない。

しかし抗菌薬はほぼ全ての医療機関で処方される。

よくある抗菌薬スペクトル一覧表

『これを見て使い方を覚えてください』 !?

2

イ.「代表的な疾患※1」に関する症例を実習できる

体制を整備していること

一般社団法人 薬学教育協議会

「6年制薬局実習の受入薬局に対する基本的な考え方」

※1 がん、高血圧症、糖尿病、心疾患、脳血管障害、

精神神経疾患、免疫・アレルギー疾患、感染症

この研修会が設定する

到達目標

●「風邪に抗菌薬」を使わないための対策を

説明できる

● キノロンと経口第三世代セフェムの

問題点を説明できる

● 抗菌薬の濫用がなぜ良くないかを

説明できる

カルバペネム系?

よくある抗菌薬の疑問:

「強い抗菌薬」 とは?

ニューキノロン系?

⇒ 「強い抗菌薬」は存在しない

よくある抗菌薬の疑問:

「強い抗菌薬」とは?

(重要) 感染症治療の三角形

病原菌は?

重症度は?

感染部位は?

抗菌薬

or 免疫状態 or 緊急度

感染のフォーカス (部位) は?

3

感染のフォーカスはどこだ?

・排尿時痛? ・尿白血球増加? ・尿亜硝酸陽性?

・咳? ・肺の異音? ・胸部X線像?

・中心静脈カテーテルあり?

・etc…

原因微生物は?

例:市中肺炎の代表的な原因菌

・Streptococcus pneumoniae 肺炎球菌

・Haemophilus influenzae インフルエンザ菌

・Moraxella catarrhalis モラキセラ・カタラーリス

・Mycoplasma pneumoniae マイコプラズマ

・Chlamydophila(Chlamydia) pneumoniae クラミジア

・Legionella pneumophila レジオネラ

重症度・患者背景は?

例: 急性咽頭炎における Red Frag

● 人生最悪の痛み、唾も飲み込めない、開口障害、

呼吸困難

● 突然発症、嘔吐、咽頭所見が乏しい

⇒ 扁桃周囲膿瘍、急性喉頭蓋炎、咽頭膿瘍 などを考慮

⇒ 急性心筋梗塞、くも膜下出血、頸動脈・椎骨動脈解離

などを考慮

(重要) 感染症治療の三角形

病原菌は?

重症度は?

感染部位は?

抗菌薬

or 免疫状態 or 緊急度

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1. 医療面接、身体所見、鑑別診断

微生物学的な確定診断のための検査

(培養、抗体検査、抗原検査、PCRなど)

(重要) 感染症診療のプロセス

(判明した原因微生物の第一選択薬である、

より狭域な抗菌薬へ変更)

2. 初期治療 empiric therapy

3. 培養、感受性などの検査結果を確認

4. 最適治療 definitive therapy

「de-escalation」

(比較的広域

な抗菌薬)

直訳すると「経験的治療」

培養などで菌が同定されるまでの間、推定される微生物に

対して行う抗菌薬治療

推定範囲をだいたいカバーするように、比較的広域スペク

トルの抗菌薬を用いることが多い

初期治療 empiric therapy

「経験によるあてずっぽう」「ブラインドセラピー」とは異なる

・標的とする臓器はどこか?

・標的臓器で検出頻度の高い病原微生物は?

・考慮すべき患者背景は?

培養が陽性になるのに最低24時間、さらに菌の同定まで

24時間、感受性結果まで24時間、合計72時間以上かかる。

(一部、長いもので2~3週間)

培養結果が出たら、初期治療薬から、同定した菌に応じた

最適治療薬(第一選択薬)へと切り替え、治療期間を設定する。

de-escalation

ターゲットの微生物

初期治療

最適治療

de-escalation

・余分に広いスペクトルは、耐性菌リスクを高める。

・それまで効いていたからといって、「最もよく効

く」抗菌薬とは限らない。

常に「第一選択薬は使えるか?」を考える。

第一選択薬を調べる

日本感染症学会/日本化学療法学会 共同発行

日本化学療法学会 ウェブサイト

http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/index.html

JAID/JSC感染症治療ガイドライン―呼吸器感染症―

2014年1月

JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015

―尿路感染症・男性性器感染症―

JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―腸管感染症―

JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016―歯性感染症―

第一選択薬を調べる

これらはPDFでダウンロード可能 COIは微妙であるが、参考にしやすい

5

グラム陰性 G(-)

グラム陽性 G(+)

桿菌

球菌

グラム陽性球菌 GPC

(Gram-Positive Cocci)

グラム陰性桿菌 GNR

(Gram-Negative Rods)

http://www.naramed-u.ac.jp/~lab-h/labo/bisei/bisei.html

http://www.eiken.pref.kanagawa.jp/002_kensa/02_microbe/detailed.htm

例:ピペラシリン(PIPC)のサークル図

臨床上重要な菌はGNRとGPCに多い

ブドウ球菌属

連鎖球菌属

腸球菌属

GPC(グラム陽性球菌)の第一選択薬

菌名 PCG or AMPC

CEZ 主な治療薬

ブドウ球菌属 × ○ MSSA→ セファレキシン MRSA→バンコマイシン

連鎖球菌属 ○ ○ PCG AMPC

腸球菌属

E.faecalis ○ ×

E.faecium × × バンコマイシン

PCG or AMPC が使える場合、優先して使います

MSSAに対する第一選択は第一世代セフェムです。

ペニシリンG アモキシシリン 属 代表菌 常在性 感染症

ブドウ球菌属 Staphylococcus

黄色ブドウ球菌 S.aureus 皮膚、鼻腔

など

皮膚軟部組織感染、カテーテル、静脈炎、骨髄炎など

表皮ブドウ球菌 病原性は低い

レンサ球菌属Streptococcus

A群溶連菌 S.pyogenes

咽頭、皮膚 など

咽頭炎、丹毒、 壊死性筋膜炎など

肺炎球菌 S.pneumoniae

肺炎、中耳炎、髄膜炎

腸球菌属

E.faecalis

腸管 尿路感染、感染性心内膜炎など

E.faecium

GPC (グラム陽性球菌)

6

GNR の重要な菌

Qestion : 腸内細菌の代表で、尿路感染の3大起炎菌

PEK とは?

Answer: Proteus mirabillis プロテウス菌

Escherichia coli 大腸菌 ダントツの1位!

Klebsiella pneumoniae 肺炎桿菌

基礎疾患のある肺炎にも クレブシエラ

Qestion :

医療関連感染の原因となる

SPACE とは?

・中心静脈カテーテル関連感染

・尿道カテーテル感染

・院内肺炎

・手術部位感染

Answer: Seratia セラチア

Pseudomonas 緑膿菌など

Acinetobacter アシネトバクター

Citrobacter シトロバクター

Enterobacter エンテロバクター

環境菌

腸内細菌

…腸管、皮膚、 呼吸器、環境にも。

S・P・Aは water bug と呼ばれ、湿潤環境を好む

菌 治療薬

セラチア

シトロバクター

エンテロバクター

セフォタックス(CTX)

セフトリアキソン(CTRX)

※AmpC型βラクタマーゼ産生に注意

緑膿菌

アシネトバクター 抗緑膿菌薬

7

経口抗菌薬

の理解に必要な分類方法をみてみましょう

分類 一般名

ペニシリン系 ペニシリンG、アモキシシリン

βラクタマーゼ配合 ペニシリン

クラブラン酸/アモキシシリン スルタミシリン

第一世代セフェム セファレキシン、セファクロル

第三世代セフェム セフカペン・ピボキシル セフジトレン・ピボキシル

マクロライド系 クラリスロマイシン エリスロマイシン

ニューキノロン系 レボフロキサシン トスフロキサシン

テトラサイクリン系 ミノサイクリン

ST合剤 スルファメトキサゾール・トリメトプリム

嫌気性菌 メトロニダゾール

主な経口抗菌薬とその分類

経口抗菌薬のbioavailability (BA)

系統 抗菌薬 BA

ペニシリン系 AMPC アモキシシリン 88%

βラクタマーゼ配合ペニシリン CVA/AMPC オーグメンチン 60~75%

セフェム1世代 CEX セファレキシン 90~99%

セフェム1世代 CCL セファクロル 93%

セフェム3世代 CFDL セフゾン 25%

セフェム3世代 CDTR-PI メイアクト 16%

セフェム3世代 CFPN-PI セフカペン 16% (AUCから推測)

マクロライド系 CAM クラリス 50%

マクロライド系 AZM ジスロマック 30~37%

テトラサイクリン系 MINO ミノサイクリン 93%

リンコマイシン系 CLDM ダラシン 90%

サルファ配合剤 ST バクタ 98%

ニューキノロン系 LVFX クラビット 98%

忽那賢志 先生

国立国際医療研究センター国際感染症センター 総合感染症科

DU

経口第三世代セフェムの使用に特に注意

経口第三世代セフェムは旧世代の抗菌薬に比べて

MICが小さい(活性が高い)ものが多く、

一見よく効きそう。

しかし、そこには2つの大きな問題点がある。

➀ バイオアベイラビリティが低い!

用量も比較的小さい!

⇒ 十分な血中濃度に到達しない

抗菌スペクトルがグラム陰性桿菌へ

余分に広がっている

経口第三世代セフェムの使用に特に注意

例えば創感染や軟部組織感染で狙うべきは

主にMSSA、レンサ球菌

± 手術に応じて、大腸菌など腸内細菌群

± 経過によって嫌気性菌をカバー

問題点

8

セフカペン・ピボキシル CFPN-PI 第三世代セフェム

フロモックス錠100mg

用量 成人 300~450mg 3×

MIC

Staphylococcus aureus (MSSA) 1.56

Streptococcus agalactiae (GBS) ≦0.1 (レンサ球菌)

Escherichia coli 0.39

一見、どれもMICが低めで効果があるように見えるが・・・

セフカペン・ピボキシル CFPN-PI 第三世代セフェム

セフカペン100mg セフカペン150mg

黄ブ菌の標準MICを越えられない!

黄色ブドウ球菌をカバーできない薬は創感染への選択として 不適切。 手術・処置の予防投与としても不適切。

実は血中濃度が低く、目標とするMICを十分に越えられていない

セフジトレン・ピボキシル CDTR-PI 第三世代セフェム

メイアクトMS錠

用量

成人300~600mg 3x

MIC

S.aureus (MSSA) 0.39~1

S.pyogenes ≦0.1

E.coli 0.2

経口第三世代セフェムの使用には、

以下の検討が必要

□ 低濃度の抗菌薬曝露により耐性菌が誘導されやすい

□ CEX(セファレキシン)、CCL(セファクロル)、

CVA/AMPC(オーグメンチン)、AMPC(アモキシシリン)

のような、グラム陽性球菌を得意とする薬の方が適切な場面

ではないか?

□ 肺炎球菌、インフルエンザ桿菌などを想定する第三世代セフェム

が得意な局面であっても、経口薬で十分な血中濃度に到達できな

ければ抑えられないのでは

□ セフカペンでもいい状況というのは実は、 抗菌薬が無くても

いい状況ではないか?

もっと出番を増やせる経口抗菌薬

セファレキシン CEX 第一世代セフェム

用量

成人1000~2000mg /日

投与量大きい! 吸収率高い!

(血中濃度大きい)

MIC

S.aureus (MSSA) 3.13

S.pyogenes 1.56

(化膿レンサ球菌)

(創、軟部組織、咽頭などの感染に活用できる)

L-ケフレックス顆粒500mg

ケフレックスカプセル250mg

9

セファレキシン CEX 第一世代セフェム

● 培養で感受性があれば、大腸菌などの腸内細菌に対する

標的治療に活用できる

● レンサ球菌、黄色ブドウ球菌(MSSA)への活性が高い

⇒ 創、軟部組織、咽頭などの感染に活用できる

● 添付文書量 250~500mg ×4 であるが、

分4が難しい場合にでもせめて1500mg/日は必要か

● [参考] Sanford 250~1000mg ×4 (4g/日)

セファクロル CCL 第一世代セフェム

ケフラールカプセル250mg

用量

成人750~1500mg 3x 投与量大きい!

吸収率高い! (血中濃度大きい)

MIC

S.aureus (MSSA) 1.56

S.agalactiae (GBS) 1.56 (溶連菌)

E.coli 2~3

(創感染、軟部組織、咽頭、尿路などに活用できる)

● セファレキシンより若干大腸菌への活性が高い。

外来で尿路感染へのエンピリック治療に用いやすい

● 添付文書量 250~500mg ×3 であるが、

500mg×3を標準にしてほしい

セファクロル CCL 第一世代セフェム

● 第二世代に分類されることもある

アモキシシリン AMPC 経口ペニシリン

サワシリン錠250mg

用量

成人 250mg ×3~4

(適宜増減)

セフカペンより投与量大きい!

MIC

S.aureus (MSSA) (0.5)

S.agalactiae (GBS) 0.03 (溶連菌)

E.coli 2~4

吸収率高い! (血中濃度大きい)

250mg単回投与

血清中濃度

μg/mL

1

0.5 1 2 4 6 (hr)

レンサ球菌に特に強い! 感受性あれば大腸菌やMSSAにも

International Dose とは?

世界的な標準投与量。

日本の抗菌薬の保険承認用量の中には

これと比較して、十分な根拠なく大幅に

少ないものがある。

アモキシシリン (AMPC)

添付文書で分かりにくい推奨量

サンフォード (米国) 日本の添付文書

一般感染症

250mg ~ 1g ×3

or 875mg ×2

処置の予防:2g ×1

250mg ×3~4

(適宜増減)

ピロリ除菌 1g ×2 750mg×2

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クラバモックス小児用配合ドライシロップ

(CVA/AMPC)

( 参考:小児用量 )

クラバモックスとして1日量96.4mg/kg

(アモキシシリン水和物として 90 mg/kg)

(製剤量として0.15g/kg)

を2回に分けて12時間ごとに食直前投与

アモキシシリン細粒20%「タツミ」

(AMPC)

通常 1日 20~40mg/kg 3~4回に分割

最大 90 mg/kg

● 溶連菌に対して特に強い活性を持つ。

● 感受性が確認できればMSSA、大腸菌、腸球菌などの

標的治療に活用できる

● 適宜増減を含めて、500mg ×3 で処方されることもある

アモキシシリン AMPC 経口ペニシリン

オーグメンチン+サワシリン 「オグサワ」

成人で

オーグメンチン配合錠250RS 3T 3x

+ サワシリン錠250mg 3T 3x

オーグメンチンだけではAMPCが750mg/dayと過小であるところを

サワシリンと組み合わせて補う。

オーグメンチンだけで6T3xのような増量をすると、下痢が増えす

ぎる。

アモキシシリン/クラブラン酸 (AMPC/CVA)

オーグメンチン+サワシリン 「オグサワ」

● MSSAが得意な点についてはケフラールと類似

(MSSAの半分はβラクタマーゼをもつ)

● βラクタマーゼ阻害薬があることで嫌気性菌もカバー

できる。

膿瘍、咬症 への経口薬治療に使用される。

黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus

MSSA (メチシリン感受性) MRSA

βラクタマーゼ(-) βラクタマーゼ(+)

ABPC (ビクシリン)

PIPC (ペントシリン)

CEX (セファレキシン)

AMPC/CVA MEPM

VCM (バンコマイシン)

黄色ブドウ球菌と治療薬の関係

← 経口でMSSAへの第1選択 ← 〃 〃 第2選択

ピボキシル基を有する抗菌薬使用時の

低カルニチン血症 に注意

ピボキシル基を有する抗菌薬では、消化管吸収を良くするために、

ピバリン酸をくっつけられている。

ピバリン酸は、カルニチン抱合を受けてから尿中で排泄されるので、

このときにカルニチンが消費されて、低カルニチン血症が生じること

がある。

カルニチン不足=脂肪のβ酸化ができず糖新生できない

→ 低血糖(意識低下、痙攣)

1歳前後の乳幼児での報告多い(妊婦などの成人でも有り)

11

シプロフロキサシン (CPFX)

添付文書で分かりにくい推奨量 ついでにもう一つ

サンフォード (米国) 日本の添付文書

500~750mg ×2

100~200mg ×2~3

(適宜増減)

炭疽:400mg ×2

1日量 [ 1000~1500mg ] [ 200~600mg ]

1日600mg未満は勧められない

AMR対策について 厚生労働省 健康局 結核感染症課

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html

抗微生物薬適正使用の手引き 第一版 (2017年6月1日) [1,864KB] 51ページ

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-

Kenkoukyoku/0000166612.pdf

手引き ダイジェスト版

(2017年9月29日) [1,148KB] 7ページ

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-

Kenkoukyoku/tebiki_1.pdf

手引き策定の目的

適正な感染症診療が広がることで、患者に有害事象

をもたらすことなく、抗微生物薬の不適正使用を

減少させること

手引きより

現在、不適正使用がたくさんある

12

手引きの対象

主に外来診療を行う医療従事者

手引きより

対象外:βラクタムアレルギー

入院診療

専門医に相談すること

手引きより

想定する患者群

基礎疾患のない

手引きより

対象外:乳幼児

成人および学童期以上の小児

各論の骨子

□ 風邪 (感冒, ウイルス性上気道炎) に抗菌薬を

使用しない

本研修会では各論として気道感染症を取り上げる

□ 急性下痢症に対してはまずは水分補給を

励行し、基本的に対症療法のみとして

抗菌薬を使用しない

なぜ、風邪に抗菌薬が必要だと

思ってしまうか?

風邪は基本的にウイルス感染症だと知らないから

ウイルスと細菌の区別が良くわからないから

そのまま経過をみていい風邪かどうか

の判断に自信がもてないから

13

抗微生物薬適正使用の手引き より

抗菌薬は不要

「風邪」をひいたと訴えて

受診した患者

気道感染症

以外を考慮

気道症状

なし

気道症状

あり

バイタルサインの異常

(頻呼吸、意識障害、

低血圧)あり

敗血症を考慮

バイタルサインの異常はあるか?

気道症状はあるか?

鼻・喉・咳

急性気道感染症の診断及び治療の手順

拡大

感冒:鼻・喉・咳

症状が同程度

抗菌薬は不要

気道症状

あり

インフルエンザ流行期

に高熱・筋肉痛・関節痛

あり

インフルエンザの 流行期?

急性鼻副鼻腔炎:

鼻症状がメイン

急性咽頭炎:

喉症状がメイン 急性気管支炎:

咳症状(3週間以

内)がメイン

インフルエンザ

を考慮 インフルエンザ様の 症状ある?

気道症状のうち、メインの症状は?

急性気道感染症の診断及び治療の手順

拡大

感冒の治療方法 (日本呼吸器科学会、日本小児呼吸器学会、日本小児感染症学会)

感冒に対しては、抗菌薬は投与しないことを推奨する

感冒に対して抗菌薬を処方しても治癒が早くなることはな

く、抗菌薬による副作用がプラセボ群に比べて2.62倍(※1)

多く発生することが報告されている。

(※1) 95%信頼区間 1.32~5.18倍

いまは風邪のようだけど、

肺炎になったら困るなぁ。

念のため、抗生剤だしておこう。

CQ:風邪に対する抗生物質の投与は

メリットがあるか?

A:1万2255回抗菌薬を処方することで

1回の肺炎を防ぐ

抗菌薬の副作用の頻度は、アナフィラキ

シーショックが1万分の1、発疹は100分

の1、下痢は10分の1

Meropol SB, et al:Ann Fam Med. 2013;11(2):165-72.

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抗菌薬は不要

急性鼻副鼻腔炎:

鼻症状がメイン

軽症 中等症以上

症状の程度は?

抗菌薬を考慮

※1の表に基づいて分類

急性気道感染症の診断及び治療の手順

拡大

細菌性副鼻腔炎として治療が必要な場合

● 強い片側性の頬部の痛み・腫脹・発熱がある

● 鼻症状が5日以上持続、かつ頬部に痛み・圧痛と、膿性鼻汁、

2峰性の病歴がある

抗菌薬は不要

急性咽頭炎:

喉症状がメイン

Red Flag:

● 人生最悪の痛み、唾も飲み込めない、開口障害、呼吸困難

⇒ 扁桃周囲膿瘍、急性喉頭蓋炎、咽頭膿瘍 などを考慮

● 突然発症、嘔吐、咽頭所見が乏しい

⇒ 急性心筋梗塞、くも膜下出血、大動脈(頸動脈)解離などを考慮

Red Frag あり

陽性

抗菌薬を考慮

GAS※迅速抗原検査 または 培養 精査

※ A群β溶血性連鎖球菌

陰性

急性気道感染症の診断及び治療の手順

拡大

なし

GAS (A群β溶血性連鎖球菌) に対する抗菌薬

△ セフカペンピボキシル

IDSA:アメリカ感染症学会

△ セフジトレンピボキシル

◎ アモキシシリン

成人 1回250mgを1日3~4回 (添付文書)

1回1000mgを1日1回

1回 500mgを1日2回 (IDSA推奨)

抗菌薬は不要

肺炎の鑑別のために考慮する所見:

バイタルサインの異常

(体温38℃以上、脈拍100回/分、呼吸数24回/分

のいずれか1つ)

または

胸部聴診所見の異常

上記所見なし

胸部レントゲン撮影を含む精査

上記所見あり

急性気管支炎:

咳症状(3週間以内)がメイン

急性気道感染症の診断及び治療の手順

拡大

15

咳症状メイン型の、ほかの要注意症状

●肺気腫、COPDなど肺の病気がある人の発熱

●食事がとれない

●咳をすると胸が痛い、呼吸が苦しい、血痰がでる

●寝汗びっしょり

●悪寒戦慄

●3週間以上続く咳

参考:岸田直樹 総合診療医が教える よくある気になるその症状

【医師から患者への説明例:感冒の場合】

診察した結果あなたの「風邪」は、ウイルスによる「感冒」だと

思います。 つまり、今のところ抗生物質(抗菌薬)が効かないタ

イプのようです。症状を和らげるような薬をお出ししておきます

。こういう場合はゆっくり休むのが一番です。

普通、最初の2~3日が症状のピークで、あとは1週間から10日間

かけてだんだん良くなっていくと思います。

ただし、色々な病気の最初の症状が一見「風邪」のように見える

ことがあります。また数百人に1人の割合で「風邪」の後に肺炎や

副鼻腔炎など、ばい菌による感染が後から出てくることが知られ

ています。

3日以上たっても症状が良くなってこない、あるいはだんだん悪く

なってくるような場合や、食事や水分がとれなくなった場合は、

血液検査をしたりレントゲンを撮ったりする必要がでてきますの

で、もう一度受診するようにしてください。

薬剤師から患者への説明例:抗菌薬が出ていない場合の対応

医師の診察の結果、あなたの「風邪」にはいまのところ抗生物質

(抗菌薬)は必要ないようです。むしろ、抗生物質の服用により

下痢などの副作用を生じることがあり、現時点では抗生物質の服

用はお勧めできません。 代わりに、症状をやわらげるような薬が

処方されているのでお渡しします。

ただし、いろいろな病気の最初の症状が「風邪」のように見える

ことがあります。

3日以上たっても症状が良くなってこない、あるいはだんだん悪く

なってくるような場合や、食事や水分がとれなくなった場合は、

もう一度医療機関を受診するようにしてください。

Q1 風邪薬で風邪の予防はできますか?

A1 いいえ、できません。

Q2 風邪薬は症状が無くなるまで飲み続けるべきで

しょうか?

A2 いいえ、つらい症状を緩和する薬ですので、症状がつらい間だけ

服用してください。

総合感冒薬による眠気、口渇、尿閉などの副作用リスクも考慮する

必要があります。

参考:岸田直樹 総合診療医が教える よくある気になるその症状

Q3 ヨード系うがい薬で風邪の予防はよいですか?

A3 うがい自体は悪いことではありませんが、ヨード系のうがい薬は

あまりお勧めしません。

その刺激性により気道粘膜を傷害する可能性が指摘されています。

口腔内の常在細菌叢のバランスも崩してしまいます。効果としても

水やぬるま湯以上のことは無いと考えられています。

Q4 水枕やおでこに貼る冷却シートは良いですか?

A4 解熱効果は期待できません。もしも解熱したい場合には 首、脇、

鼠蹊部の3点クーリングをします。

ただし風邪では本人のつらさを緩和することが重要ですので、本人

が気持ちよいと感じる場合のおでこの冷却はメリットがあると考え

ます。

参考:岸田直樹 総合診療医が教える よくある気になるその症状

日本プライマリ・ケア連合学会誌 / 38 巻 (2015) 4 号

原著(研究):耳鼻咽喉科診療所でのグラム染色検査によってもた

らされた抗菌薬の選択・使用の変化 : 予備的検討

前田 雅子, 前田 稔彦, 松元 加奈, 森田 邦彦

目的 : 診療時グラム染色検査の導入が抗菌薬の使用動向に影響を及ぼすかを検討

することを目的とした.

方法 : グラム染色導入前後での抗菌薬の種類・使用量の動向, 診療経過の動向を後

方視的に調査した.

結果 : 抗菌薬処方頻度 (100 人当たり) は, マクロライド系は20.9件 (2006年) か

ら3.6件 (2012年) , 第三世代セフェム系は7.9件 (2005年) から2.4件 (2012年)

に減少の一方, ペニシリン系は1.6件から3.9件に増加した. それにともなって1人

当たりの抗菌薬消費額が約1/5に低下した. 小児急性副鼻腔炎患者50人当たりの抗

菌薬不使用患者数は9倍に増加した一方, 治療期間中に抗菌薬2種類以上を処方され

た患者数は26名から9名に減少し, 治癒に要した日数は約6日間短縮された.

結論 : グラム染色導入がよりよい抗菌薬使用につながる取り組みとなる可能性が

示唆された. 多施設での研究的取り組みによる評価の必要性が考慮される.

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参考資料

抗菌薬と細菌について 獨協医科大学越谷病院 佐野邦明

https://www.slideshare.net/kuniakisano9/ss-23099611

“実践的”抗菌薬の選び方・使い方

医学書院 細川直登

類薬の使い分け、添付文書量と国際標準量の考え方

について丁寧に説明されている。

総合診療医が教える よくある気になるその症状

レッドフラッグサインを見逃すな!

じほう 岸田直樹

かぜ、頭痛・腰痛、下痢など薬局で出会う症状に

薬剤師がどのように対応するか?

「経過観察」と「受診勧奨」についてもう一歩考える本

抗菌薬サークル図データブック 第2版

じほう 戸塚恭一 浜田康次ほか

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菌のGPC/GNRの区別を把握しやすい。

12月下旬に第3版がでます。

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Q&A形式で読みやすく、薬剤師向けに書かれた良書。

著者の多くが薬剤師。

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本日のポイント

経口第三世代セフェムを安易に用いることの

デメリット

狭域抗菌薬を効果的に使う工夫

風邪には原則抗菌薬が不要であること

どのように「例外」を見極めるのか