昆虫とその病原ウイルスとの相互作用 -...

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新たなるバイオ医薬品開発

昆虫とその病原ウイルスとの相互作用昆虫は地球上でもっとも繁栄している生物群で、現時点で約100 万種が報告されている。昆虫は地球上に生息する全動物種の約 80%を占めていることから、地球が「虫の惑星」と呼ばれることもある。地球上での昆虫の繁栄は、その適応力の高さにある。昆虫はあらゆる環境に生息し、その食物メニューも変化に富んでいる。一部の昆虫は農作物を食い荒らしたり、マラリア、日本脳炎などの人間の病気を媒介することから、害虫と呼ばれ、人間と敵対関係にある。 人間に病気があるように、昆虫にも様々な感染症が存在する。昆虫の感染症を引き起こす微生物には、ウイルス、細菌、糸状菌、原生動物があり、これら病原体の一部が昆虫集団で大流行を引き起こすことがある。また、昆虫の病原微生物は一般に宿主範囲が狭く、標的昆虫以外の動植物には感染しない。これらのことから、昆虫病原微生物を資材化し、化学合成農薬にかわる害虫の防除資材としての利用が世界中で検討されている。東京農工大学 応用遺伝生態学研究室では、自然界から昆虫に対して病原性を有する微生物株を探索、分離、培養(増殖)し、その特性を解明することにより、これら微生物の資材化に取り組んでいる。

ガの幼虫における昆虫ウイルスの感染致死機構核多角体病ウイルス(NPV)はバキュロウイルス科に属する2本鎖 DNA ウイルスで、昆虫に特異的なウイルスである。NPVは植物や脊椎動物からは発見されていないことから、安全性の高い微生物防除資材として注目されている。NPV の宿主昆虫への感染機構は、他の昆虫ウイルスと比較してよく研究されているが、その詳細については解明されていない部分が多く残されている。宿主昆虫のウイルスに対する感受性を決定している要因を明らかにすることは、昆虫ウイルスを害虫防除資材としてより効率よく使用するために重要である。当研究室では、人為的な選抜により NPV に対して抵抗性を獲得したチャノコカクモンハマキ(茶樹の重要害虫)の系統を作出し、その感染抵抗性機構について調査している。さらに、昆虫ウイルスに対して感受性の異なる昆虫種における感染過程を調査することにより、昆虫の感受性を決定する要因の解明を試みている。

ガにおける雄殺しの機構解明一般に動物は雄と雌が 1 対 1 で存在している。しかし昆虫ではしばしばメスの割合が非常に多い集団が見つかる。メスの割合が多くなる原因にはいくつかあるが、特に雄が発育の途中で選択的に致死することにより、性比がメスに偏る現象を

『オス殺し現象』と呼んでいる。オス殺し現象は細胞質内にいる微生物(細菌)によって引き起こされ、チョウ・テントウムシ・ハエ・ハチなどで報告されている。これらの昆虫では、胚子の時期にオスが選択的に致死する。本研究室では、茶樹の害虫であるチャハマキで、発育過程でオス幼虫(蛹)が選択的に致死する『オス殺し現象』を発見した。オスが幼虫期と蛹期に死亡するタイプの『オス殺し現象』は、これまで蚊で一例報告があるだけで、非常に珍しい現象である。チャハマキで発見されたオス殺しは、RNA ウイルスによって引き起こされていることを世界で初めて明らかにした。現在、オスが選択的に殺される機構や本ウイルスを利用した害虫防除法の開発に関する研究を行っている。

国見 裕久(東京農工大学大学院農学研究院長)E-mail: kunimi@cc.tuat.ac.jphttp://www.tuat.ac.jp/~insect/

国立大学法人 東京農工大学 戦略企画室〒 183-8538 東京都府中市晴見町 3-8-1TEL:042-367-5944 FAX:042-367-5946www.tuat.ac.jp

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環境中の包埋体

中腸

ウィルス粒子

円筒細胞

高pHの消化液により包埋体が溶解しウィルス粒子が放出

血体腔

出芽型ウィルス

全身の組織

ウィルス膜と細胞膜の融合により円筒細胞に侵入

出芽型ウィルスはEndocytosis により細胞に侵入

核多角体病ウィルスの感染過程

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