Post on 19-Jan-2020
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第1章
保守点検に必要な
「作業手順書」の
つくり方
第2章
油圧装置編
第3章
空気圧装置編
第4章
動力伝達装置編
第5章
転がり軸受・
すべり軸受編
第6章
締結部品編
第7章
生産設備の
保守・点検編
第1章
保守点検に必要な「作業手順書」のつくり方
1-1 ◉「稼げる作業手順書」をつくるためのポイント1-2 ◉実際に作成して、使ってみよう
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製造設備の全体または設備の一部の保守メンテナンスをする場合には、少なくとも生産設備
に対して設備を熟知した保全マンが行うことが必要です。しかし、生産設備を保守メンテナン
スする保全マンがいない場合や、設備の保守メンテナンスなどを協力会社に依頼している場合、
自社で生産設備を保守メンテナンスすることは非常に難しい。また、生産設備の保守メンテナ
ンスを行う場合、設備の操作を行っているオペレータが設備の点検を含めて保守メンテナンス
をすることが少なくありません。また、これから保全マンを目指す者や経験が少ない者が保全
マンに従事して行う場合、担当設備に詳しくなる必要があります。
その時に、担当する設備に対して教える者が、生産設備を保守点検する時の適切な作業手
順書をもっていれば、効率よく教えることができ、かつ保守メンテナンスを行うことができ
ます。また、担当する設備の保守メンテナンスの仕方を教える場合、なぜそうするのかなど、
適切に教えることができます。
教える者は、教わる者に何を望むかよく考えるたとえば、自分が経験したことについて教えることでも、
① 新入社員に基本的なビジネスマナーを教える
② 新人保全マンに基本的な汎用工具の使い方を教える
③ 駅まで行く道を尋ねられたので駅までの道順を教える
④ 自転車競技をしている者に効率よく走るフォームを教える
①から④の例はすべて教えることで共通しています。教えることでは同じですが教わった方は、
どのような結果を望んでいるのか、教える内容の目的をよく考えて教えることが必要です。
①は新入社員が基本的なビジネスマナーを習得し社会人として、社内・社外の人に対して
接することができるようになる。②は新人保全マンが基本的な汎用工具を使いこなせるよう
になる。③は道を尋ねた方が無事に駅までたどり着けるようになる。④は自転車を効率よく
正しいフォームで走らせるようになる。①から④の教える人は相手が望んでいることの違い
を考える必要があります。つまり、教わる相手がどのような結果を望んでいるかを明白に把
握して教えることが必要だということです。
教えることをまとめると、教えるほうがここまではできるようになって欲しいとして教え
ている時、教わる相手が望み通りの行動ができるようになる能力に達してくれることです。
そのためには、
Ⅰ:相手が望ましい行動ができていない→ゼロから教えて身につけさせる。
Ⅱ:相手が望ましい行動ができるのに実践していない→実践できるように導き、またどこが
1-1 SAGYOTEJUNSHO
「稼げる作業手順書」をつくるためのポイント
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第1章
保守点検に必要な
「作業手順書」の
つくり方
第2章
油圧装置編
第3章
空気圧装置編
第4章
動力伝達装置編
第5章
転がり軸受・
すべり軸受編
第6章
締結部品編
第7章
生産設備の
保守・点検編
実践できないか、その原因を把握する。
Ⅲ:相手が間違った行動をしている→間違った行動を修正し、正しく行えるようにする。
また、教えるほうは、教わる相手の「技能」が不足しているのか、「知識」が不足してい
るのかを見極めて、「技能」が不足している時は、実技や練習を提供し、「知識」が不足して
いる時は、座学などで知識を提供し、教わる相手が自分の希望するレベルに達するように図
ることです。
このように、教えるということは、教わる相手が希望する行動ができるようになるように
(レベルに達するように)導くことです。
作業手順書は「正」「早」「安」「楽」を念頭に作成生産設備の保守メンテナンスについての作業手順を生産現場で教える時には、よくビジネ
スマナーで使われている「正」「早」「安」「楽」と目標咀そ
嚼しやく
を念頭において説明をします。
正早安楽は、保守メンテナンスする時に、
「正」:正しく正確に間違いが無いように
「早」:作業が早く、確実に行えるように
「安」:安全にかつコストがかからないように
「楽」:やさしく・楽しく・やりやすく
などを考えながら作業手順書を作成していきます。
また、生産現場で保守メンテナンス作業を説明する時には、ひとつ1つの作業について目
標咀嚼を行いながら細かくかみ砕いた、かつ平易な用語で説明をします。生産設備について
保守メンテナンスを行うことは、ただ壊れた部品交換を行うだけではなく、再度同じトラブ
ルを発生させないという、再発防止を図り、恒久的な保全作業を生産現場に提供することが
第一と心得ています。
作業手順書作成のすすめ方生産現場にある設備を保守メンテナンスするための作業手順を考える場合、手順や工程、
急所(ポイント)、急所(ポイント)の理由を考えながら作成をしていきます。
Ⅰ:手順や工程は、作業者の動作や工程を確認しながら文字に置き換えていきます。手順や
工程では、「何々する」というように動作を書き表します。たとえば、工具を手に持った、
作業者の姿勢が変わった時に文字で「例:工具を左手から右手に持ちかえて」とういう
ように手順を具体的に書き出します。
Ⅱ:ポイントは、各手順・工程において重要なポイントで、目に見える動作や見えない意識
などになります。
Ⅲ:ポイントの理由はなぜそのようにしなければならないかなど、理由を見つけ出します。
また、作業者が無意識で行っている場合や、作業者がやりやすい方法など、自ら探し出
したことなどをポイントとします。著者はポイントを見つける時には、正・早・安・楽
を考えながらポイントの洗い出しをします。また、保守メンテナンスの方法を生産現場
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で説明する時には、作業手順と目標咀嚼の両方を考えながら行うようにしています。保
守メンテナンスの説明を目標咀嚼を取り入れて行う時に、消耗した部品の発注方法(予
想金額、納期、検品、図面の提示、加工方法、材質、金属表面処理など)など、ただ単
に消耗した部品の交換方法だけでなく、部品を購入する時に必要な知識なども一緒に説
明をするようにしています。なぜそのように行うか、理由はベアリングなどの既成品の
ように、ただ単に交換部品として購入可能な部品なら問題はありませんが、軸継手のよ
うな機械加工が必要な場合は、加工方法から図面や寸法まで含めて発注側で行い発注し
なければならない場合があるからです。その時に、寸法や図面の指示を間違えるおそれ
があります。そうしたことを防ぐこともあって、購入時の心構えなども教えます。
作業手順書のつくり方Ⅰ:手順や工程を洗い出す場合には、①作業者の立ち位置や姿勢、②工具を持った姿勢が変
わった、などの行動を洗い出して書き出します。たとえば、メガネレンチでボルトを取
り外す、パイプレンチでパイプを取り外す、などの作業の行動を書くようにします。
Ⅱ:急所(ポイント)などを洗い出す場合には、①手指の動きや手加減など、②作業者の視
線、目の付け所や見ているポイントなど、③使用する工具など、なぜその工具を使用し
ているかなど、④場所や作業の環境、なぜその場所や作業環境でなければならないかな
ど、作業のポイントには、理由があります。
ポイントを洗い出す表現は、「何々しながら」、「何々を使って」などと書き出します。
また、手加減や熱さなどは定量的に測定することで数値化できます。しかし、難しいの
は力やスピードなど「加減」の表現です。たとえば「早く」、「少しゆっくりと」などの
表現では作業者の感覚になりますので、人それぞれ違う感覚になります。「早く」や「少
しゆっくりと」などの表現は、測定すれば数値化できますが、その測定値を身体に覚え
させ、再現しやすくなるような表現の工夫が必要です。ビデオによる映像と音声の記録
や作業者への聞き取りを収録する方法が、有効な方法になります。しかし、実際に作業
を行わせて、身体に覚えさせる実習が大切です。
Ⅲ:急所(ポイント)には、急所となる理由があります。作業者がなぜそのように作業を行
うか理由があります。この理由を詳細に示します。また、中にはあたり前すぎて意識さ
えしないような理由もあります。また、作業者が自ら見つけた方法もあります。理由の
探し方は、①「なぜそのようにするのか?」②「なぜそうしないといけないのか?」
③「なぜその場所、道具なのか?」など理由を書き出します。そして理由探しのキーワー
ドは、①正:正しい方法、正確な方法のため、②早:早い方法、やりやすい方法のため、
③安:安全な方法、コストがかからない方法のため、④楽:自ら見つけた方法や苦労し
て見つけた方法、作業が自分流に楽にできるように工夫しているため、などをキーワー
ドにして洗い出します。
作業手順書を用いて、実際生産現場で保守メンテナンスを行う場合には、作業の手順ご
とに細かく説明しながら保守メンテナンスができるように教育していきます。
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第1章
保守点検に必要な
「作業手順書」の
つくり方
第2章
油圧装置編
第3章
空気圧装置編
第4章
動力伝達装置編
第5章
転がり軸受・
すべり軸受編
第6章
締結部品編
第7章
生産設備の
保守・点検編
保守点検手順 ポイント その理由
●① サクションフィルタのメッシュを確認する
目視で 油圧ポンプなどの金属摩耗粉を確認するため
●②
サクションフィルタのメッシュの大きさを確認する
目視で ポンプの金属摩耗粉がフィルタを通過した時にどれくらいの大きさの摩耗粉か確認するため。油圧作動油の粘度とキャビテーションの発生を起させないように
●③ サクションフィルタの内側から清掃をする
エアガンを使って フィルタの外側からエアブローすると異物がフィルタ内部に入り込むため
●④サクションフィルタの表面を確認する
目視で フィルタの損傷個所が無いか確認するため。フィルタに損傷個所があると異物を吸い込んでポンプを損傷させるおそれがあるため
例A:サクションフィルタの保守点検手順
たとえば、油圧タンク内にあるサクションフィルタの点検をする作業手順を考えると、
①サクションフィルタのどこを見て判断をするか、②フィルタのメッシュのどこを確認する
か、③フィルタの清掃方法は、④フィルタの良否点検方法は、などサクションフィルタの点
検をするうえで必要な作業手順を考えて行います。
生産現場で作業手順書を作成する場合には、作成者は生産設備に対して保守メンテナンス
や設備の点検ポイントを熟知している者でなければいけません。そうして、他の作業者にわ
かりやすく、作業手順書の内容が確実に同じ考え方や見方、作業方法でできるようにする必
1-2 SAGYOTEJUNSHO
実際に作成して、使ってみよう POINT 油圧タンク内のサクションフィルタの点検①油圧タンク内のサクションフィルタは油圧作動油中にあるゴミなどの異物がフィルタ表面に付着している。
②フィルタ表面にどのようなゴミが付着しているかなどよく調べることで、油圧ポンプの状態を把握することができる。
③油圧ポンプ内部の金属がどのような金属で作られているかを知ることで、ポンプの状態が把握できる。
サクションフィルタの点検方法と清掃方法を説明している
フィルタ内部にあった ゴミなどの中に金属摩耗粉が無いか確認をする
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手順工程(動作の変化)
作業者の動作を記入する
ポイント(作業の要点、急所)
その理由なぜそうしないといけないか
理由を見つける
1.手順・工程の見つけ方
(作業者の動作を確認しながら手順・工程を確認する)
①工具・道具を持った、置いた
②作業者の姿勢が変化
2.手順の表現は必ず「何々する」を語尾に付ける
「○○する」という動きや動作を表現する言葉で
ポイントは、各手順・工程にある重要なポイントで、目に見える動作や見えない意識など。
また、作業者が無意識で行っている場合や、作業者がやりやすい方法などを自ら探し出したことなど。
ポイントの見つけ方や探し方、
①作業者の立ち位置や姿勢
②手指の動きや手加減など
③作業者の視線、目の付け所や見ているポイントなど
④使用する工具など、なぜその工具を使用しているかなど
⑤場所や作業の環境、なぜその場所や作業環境でなければならないかなど
表現は、
①コツを書き出す
○○しながら
△△を使って
二人で
②カンを書き出す
手加減や熱さなどの加減は定量的に測定することで数値化できる。しかし、難しいのは力やスピードなど加減の表現。
測定すれば数値化できるが、その測定値を身体に覚えさせ、再現しやすくなるような表現の工夫が必要になる。
ビデオによる映像と音声の記録や作業者への聞き取りを収録する方法が有効な方法になる。
作業のポイントには、ポイントとなる理由がある。作業者がなぜそのように作業を行わねばならないか。その理由を平易でわかりやすく文字にする。
また、中にはあたり前すぎて意識さえしないような理由もある。また、作業者が自ら見つけた方法もある。
理由の探し方は、
なぜそのようにするのか?
なぜそうしないといけないのか?
なぜその場所、道具なのか?
そして理由探しのキーワードは、
①正:正しい方法、正確な 方法のため。
②早:早い方法、やりやすい方法のため。
③安:安全な方法、コストがかからない方法のため。
④楽:自ら見つけた方法や苦労して見つけた方法、作業を自分流に楽にできるように工夫しているため。
例B:Aの見える化の表現―マニュアル化の進め方
要があります。
保守メンテナンスに必要な作業手順書には、ただ単に部品交換や点検をするだけの内容で
はなく、万が一突発的に損傷個所が発生した場合、どのようにしたら恒久的な保全方法が行
えるかなど、修復や加工方法などが明記されていることが必要です。