経営戦略 -...

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経営戦略Ⅱ

2.新興国市場戦略

東京大学経済学研究科・教授

新宅 純二郎

前回課題の解説J社Xモデル C社Yモデル

小売価格 1800ドル 700ドル

機能/5点評価技術評

価ユーザー満

足度

技術評価

ユーザー満足度

1走行安定性 4 5 3 5

2エンジンの騒音 5 4 1 2

3ブレーキ性能 5 5 2 4

4燃費 5 5 1 2

5車体の振動 5 5 2 5

6エンジン動力性能 4 4 3 3

平均点 4.7 4.7 2.0 3.5

解説ポイント

商品企画がカギマーケティング、開発、生産の連携

顧客ニーズ

製品

コンセプト

機能要件価格

製品設計

仕様、

設計図、部品

生産出荷

量産歩留

工程不良

市場

・・・・商品企画の質

顕在的・潜在的な顧客ニーズを商品企画に転写できるか?

設計品質

機能要件を設計図面に正確に転写できるか?

製造品質

製品の設計情報をモノに正確に転写できるか?

市場品質

設計情報を転写されたモノが顧客に届いているか。

市場で想定外の使われ方をしていないか。

・・・・

・・・・

・・・・

5

製品価格と機能:ヘドニック関数

– ヘドニック関数

• 製品の価格と機能の関係を数理的に分析するモデル

• マーケティングの分野ではランカスター・アプローチと言われることもある

• ヘドニック価格、shadow price

– 考え方

製品は機能(属性)の束であり、価格は機能レベルに帰属させることができる

𝑷 = 𝜶𝟏𝒁𝟏 + 𝜶𝟐𝒁𝟐 + 𝜶𝟑𝒁𝟑 +⋯+ 𝜶𝒏𝒁𝒏 + 𝜷

𝑷:

𝒁𝒊:

𝜶𝒊:

𝜷:

価格

機能

係数

切片

実際の製品データがあれば、重回帰分析を使うことによって、上記の式の係数を推定することができる。

6

製品価格と機能:ヘドニック関数–例:コンパクトデジタルカメラ

• 単回帰分析

(1)画素を説明変数、価格を被説明変数にして回帰分析。 年別に推定。

𝑷 = 𝜶𝟏𝒁𝟏 + 𝜷

𝑷:

𝒁𝟏:

𝜶𝟏:

𝜷:

価格

画素

係数

切片

7

製品価格と機能:ヘドニック関数

–例:コンパクトデジタルカメラ• 重回帰分析

(2)年度ダミーを入れて重回帰

𝑷:

𝒁𝟏:

𝜶𝟏:

𝜷:

価格

画素

画素の係数

切片

𝒁𝟐⋯𝒁𝟏𝟎: 年度ダミー

𝜶𝟐⋯𝜶𝟏𝟎: 年度ダミーの係数(技術進歩率)

𝑷 = 𝜶𝟏𝒁𝟏 + 𝜶𝟐𝒁𝟐 + 𝜶𝟑𝒁𝟑 +⋯+ 𝜶𝟏𝟎𝒁𝟏𝟎 + 𝜷

8

製品価格と機能:ヘドニック関数–例:コンパクトデジタルカメラ

(3)多様な機能を説明変数にした重回帰分析

被説明変数を価格、説明変数を画素、ズーム、大きさ(容積)でとって分析

𝑷 = 𝜶𝟏 ×画素 + 𝜶𝟐 ×ズーム + 𝜶𝟑 ×大きさ(容積)+ 𝜷

2000年 2001年 2002年

係数 t値 係数 t値 係数 t値

画素(万) 202.06 5.02 152.07 9.91 119.10 7.69

ズーム(ダミー) -1,161.59 -0.60 2,328.24 2.34 413.28 0.46

容積(㎝3) 55.37 3.33 21.10 2.86 48.75 4.91

2003年 2004年 2005年

係数 t値 係数 t値 係数 t値

画素(万) 107.99 6.77 78.63 9.35 56.46 6.28

ズーム(ダミー) 1,662.14 1.09 961.88 1.41 -978.55 -1.05

容積(㎝3) 46.18 3.30 45.44 4.82 39.00 2.73

*黄色く塗りつぶしている箇所が統計的に5%有意。

9

製品価格と機能:ヘドニック関数

–例:コンパクトデジタルカメラ

• 製品価格と画素数:コンパクトカメラとデジタル一眼レフカメラ– サンプル … ヨドバシ.com (http://www.yodobashi.com/)において、2012年5

月に発売されていたデジタル一眼レフカメラ(ミラーレスは除く)とコンパクトデジタルカメラ(各社エントリーモデル)

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

120,000

140,000

160,000

180,000

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000

価格(円)

画素数(万画素)

図 製品価格と画素数の関係

コンパクトデジタルカメラ

デジタル一眼レフ

ヘドニック関数の導出

10

ヘドニック関数の導出:デジタル一眼レフカメラ

(1)画素数を説明変数にした回帰分析

– サンプル … ヨドバシ.com (http://www.yodobashi.com/)において、2012年5月21日に発売されていたデジタル一眼レフカメラ(ミラーレスは除く)22機種を対象。価格はボディのみのものである。

y = 28.913x + 95508R² = 0.014

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

700,000

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000

図 製品価格と画素数の関係

R2 0.013修正済みR2 -0.035N 22

係数 t P-値

切片 95507.54 0.887 0.385

画素数 28.91328 0.532 0.600

価格(円)

画素数(万画素) 色つきは5%有意水準を満たすことを表している

11

y = 26695x - 33933R² = 0.3064

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

700,000

0 5 10 15

価格(円)

連続撮影速度(コマ/秒)

図 製品価格と連続撮影速度の関係

ヘドニック関数の導出:デジタル一眼レフカメラ

(2)画素数以外の要素を説明変数にした回帰分析

12

ISO感度・・・高感度になるほど暗い場所での撮影がより速いシャッター速度で可能になる

y = 11.254x + 14821R² = 0.4396

0

100,000

200,000

300,000

400,000

500,000

600,000

700,000

0 20,000 40,000 60,000

価格(円)

ISO感度

図 製品価格とISO感度の関係

ヘドニック関数の導出:デジタル一眼レフカメラ(3)多様な機能を説明変数にした重回帰分析

被説明変数を価格、説明変数を画素、ISO感度、連続撮影速度でとって分析

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R2 0.714修正済みR2 0.510N 22

係数 t P-値切片 -10295.3 -0.121 0.904

画素数 -34.6929 -0.669 0.511ISO感度 7.99503 2.307 0.033

連続撮影速度 18706.6 1.562 0.135

色つきは5%有意水準を満たすことを表している

𝑷 = 𝜶𝟏 ×画素+ 𝜶𝟐 × 𝑰𝑺𝑶感度+ 𝜶𝟑 ×連続撮影速度+ 𝜷

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イノベーターのジレンマ

–参考文献Christensen, Clayton M. (1997) The Innovator’s Dillemma: When New Technology Cause Great Firms to Fail, Boston: Harvard Business School Press.

(邦訳:玉田俊平太監修、伊豆原弓訳『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社)

–イノベーターのジレンマ(←原著。訳書ではイノベーションのジレンマ)

イノベーションによって競争優位を確保した既存企業が、ライバル企業の水

平的差別化に対応できずに衰退していく

–鍵概念• 価値ネットワーク(value network)

• 分断的イノベーション(disruptive innovation) 訳書:破壊的イノベーション

• 持続的イノベーション(sustaining innovation)

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イノベーターのジレンマ

–価値ネットワーク

上位の全体システムと下位の構成要素が「入れ子」状の階層構造を形成してい

る取引システムのこと

• 同じ製品のメーカーでも異なる価値ネットワークに組み込まれていると、顧客も異なり、製品に対する要望も異なってくる

Ex) ハードディスクメーカー

14インチ(メインフレーム)⇒8インチ(ミニコンピュータ)

–分断的イノベーション disruptive innovation

それまでにない新しい製品属性で新たな価値を提供しているものの、従来からの

属性評価基準では価値を減じてしまうような技術革新

• 新しい製品属性において価値を提供⇒水平的差別化

• 従来からの価値尺度では品質水準低下⇒垂直的差別化の程度の低下

イノベーターのジレンマクリステンセン(1997)

1. イノベーターは主流市場の価値ネットワークによりよく適合することで成功する(持続的技術sustaining technologies)

2. 既存の主流市場では低く評価される技術が、新しい価値基準をもった市場で評価され始めることがある(分断的技術 disruptive technologies)

3. イノベータは新市場(新価値ネットワーク)で失敗。

4. 時にして、技術が主流市場をオーバーシュートしていることがある。

5. すると、分断技術が主流市場にも適用されるようになる。過去のリーダーは元の主流市場でも地位が低下。

6. 分断的技術に対応するためには組織を分離すべし。

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イノベーターのジレンマ(クリステンセン)と新興国市場戦略のジレンマ

クリステンセン(1997)

1. イノベーターは主流市場の価値ネットワークによりよく適合することで成功する(持続的技術sustaining technologies)

2. 既存の主流市場では低く評価される技術が、新しい価値基準をもった市場で評価され始めることがある(分断的技術 disruptive technologies)

3. イノベータは新市場(新価値ネットワーク)で失敗。

新興国市場戦略

1. 日本企業は、日本国内や北米など先進国市場にむけた製品戦略で成功してきた。

2. 新興国市場向けの製品は先進国では評価されない。その新興国市場がニッチから大きな市場に拡大。

3. 先進国で成功した日本企業は、新興国で失敗。

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クリステンセンのイノベーターのジレンマと新興国市場戦略のジレンマ

クリステンセン

4. 時にして、技術が主流市場をオーバーシュートしていることがある。

5. すると、分断技術が主流市場にも適用されるようになる。過去のリーダーは元の主流市場でも地位が低下。

6. 分断的技術に対応するためには組織を分離すべし。

新興国市場戦略

4. 既存製品が先進国市場でオーバーシュートしていないか?

5. 新興国向け製品が先進国市場に流入してくる(Reverse Innovation)GE, 携帯、二輪

6. 新興国市場向け組織と先進国市場向け組織の分離?

18

」」

19

イノベーターのジレンマ

20

分断的イノベーションと持続的イノベーション

21

イノベーションの変革力マップ

市場面でのインパクト

技術面でのインパクト

保守的 破壊的

保守的

アーキテクチャ構築型

イノベーションニッチ創出型イノベーション

通常型イノベーション

革命的イノベーション

破壊的

W・アバナシー、K・クラーク、A・カントロウ『インダストリアル・ルネッサンス』(1983年)TBSブリタニカ

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2種類の差別化–垂直的差別化

一定の属性間の組み合せで、各属性のレベルを他社よりも向上させる。

例)より薄いノートPC

–水平的差別化製品に含まれる属性間の組み合せ、ないしはその比率が他社と異なる。

Ex) カシオのデジカメ

画質を犠牲にして薄型化

• 上海生活総合研究センター(白物家電系):2005年~

– 商品企画の現地化を図れないか・・(事業部が強い会社。企画の主導権は事業部にある。開発者が短期間現地に滞在しても、うまく企画できない)

– 市場調査専任のローカルスタッフを10人で組織化、ホームアプライアンス社(

洗濯機、冷蔵庫、エアコン)、パナソニック電工(理容・健康機器)、エコシステムズ社(空気清浄機)と契約を結び、現地家庭の市場調査や商品企画の提案を実施、情報を日本の事業部や中国のマーケティング部隊とも共有化

– 家庭訪問調査、グループインタビュー、アンケート、街頭インタビュー、商品コンセプト提案、事業部側との協議・発表会

– グループ内の認知度が上がり、成果が出始めている

中国人ユーザー(主婦)の目線に立った商品企画と日本側への情報発信(上海生活総合研究センター)

導入事例:光触媒を利用したAG除菌機能(洗濯機)

幅55セン

チの冷蔵庫(右)

新興国市場における日本車シェア

• 全般的には上位企業で5%程度のシェア• タイ、インドネシアは日本車圧倒的。とくにトヨタが強い。• インドはスズキが5割以上あったシェアを最近は落としながらも、トップ維持。

中国 ブラジル ロシア インド タイ インドネシア1,364万台 380万台 294万台 277万台 144万台 112万台

トヨタ 6.1% 3.0% 5.2% 6.2% 35.9% 36.3% 8.5% 219万台日産 6.0% 2.8% 5.2% 1.6% 8.6% 6.0% 5.1% 131万台

ホンダ 4.4% 3.5% 0.7% 2.6% 11.9% 6.2% 4.2% 107万台スズキ 1.9% 0.2% 1.1% 38.3% ― 11.3% 5.8% 149万台三菱 ― 1.6% 2.5% ― 9.0% 13.3% 1.6% 41万台

マツダ 1.4% ― 1.5% ― 5.1% 1.1% 1.2% 32万台ダイハツ ― ― ― ― ― 14.6% 0.6% 16万台

7社計 19.8% 11.1% 16.3% 48.8% 70.5% 88.8% 27.1% 696万台

6ヶ国計

2,570万台2012年

出所:中国は、「日本車新興国を拓く」日本産業新聞、2013年8月7日。タイはトヨタ資料。ブラジル、ロシア、インド、インドネシアはJETRO資料。中国とインドは乗用車のみ、ロシアは乗用車と小型商用車、それ以外は全体。

トヨタ IMV 2004-2015(Innovative International Multi-purpose Vehicle)

Source: Toyota

Hilux (Pickup truck)

Fortuner(SUV) Innova (Minivan)

新興国向けの専用車同一のプラットフォームで3車型

2004-12 累計売上500万台2012年 単年度で100万台