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ALSの発症機序解明並びに診断薬 開発に関する研究
研究責任者 : 原 英彰 (岐阜薬科大学 薬効解析学研究室 教授) コーディネータ: 羽田野 泰彦 (名古屋産業科学研究所 中部TLO 技術移転部 部長)
2013年2月25日
研究背景 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は… ● 重篤な筋肉の萎縮と筋力低下を特徴とする進行性神経変性疾患
● 上位および下位運動ニューロンが選択的に障害を受ける
● 病因仮説 i) グルタミン酸毒性・受容体異常 ii) 酸化ストレス iii) 小胞体 (ER) ストレス などが提唱されているが、いずれも決定的ではない
● 治療薬:リルゾールのみ (グルタミン酸放出抑制剤)
● ALSの診断は除外診断が基本
http://www.talkingpointsmemo.com/archives/week_2009_08_30.php
Lou Gerick http://www.alsa.org/als/default.cfm
Dr. Steven Hoking
疾患の原因解明・確定診断法の確立が求められている
http://www.abconlinepharmacy.com/ns/customer/product2363-c-p1
新規病態関連タンパク質GPNMBの同定
脊髄
<DNAマイクロアレイ>
ALSモデルマウス ALSで変動する遺伝子を網羅的に解析
● 1回膜貫通型糖タンパク質
● 低転移性メラノーマ細胞株においてGPNMBが高発現
● 乳がん、結腸直腸がん、膵臓がん等にも高発現
● GPNMBの変異がDBA2Jマウスにおける緑内障を惹起。 Michael G. Anderson et al., Nature Genetics 2002
● 長期間の脱神経による骨格筋の減少を保護する。 Furochi et al., The Journal of Medical Investigation 2007
細胞外ドメイン
細胞膜
細胞内ドメイン Abdulhafez A. Selim et al. Med Sci Monit, 2009
中枢神経系に関する報告は未だない
GPNMB (glycoprotein transmembrane nmb)
ALS病態に対するGPNMBの作用 W
T A
LS
6 10 14 20 weeks
Values are mean ± SEM (n = 3 to 6). #P < 0.05 versus control (Student’s t-test). *P < 0.05, **P < 0.01 versus vehicle (Dunnett’s test).
V 0.025 0.25 2.5
G93A + Serum free GPNMB
µg/mL C
% o
f PI p
ositi
ve c
ells
* **
0
2
4
6
8
10
12
14
2.5
#
Control G93A/GPNMB (2.5 µg/mL)
G93A/vehicle GPNMB (2.5 µg/mL)
100 µm
青 (Hoechst) :生細胞 赤 (PI) :死細胞
<GPNMBの神経保護作用>
ALSで増加するGPNMBは神経保護作用を有する
<病態進行に伴う脊髄中のGPNMBの増加>
Rel
ativ
e qu
antit
y of
GP
NM
B (%
)
WT ALS
**
** **
6 10 14 20 weeks 0.0
4.0
8.0
1.2
1.6
2.0
## ##
##
Values are mean ± SEM (n = 3 to 5). **P < 0.01 versus WT mice (Student’s t-test). ##P < 0.01 versus 6-week-old ALS mice (Dunnett’s test).
100 µm
5 rpmの速度で回転するバーの上を走らせ、落下するまでの時間を計測(最大600秒)
G93A/GPNMB G93A/- -/GPNMB -/-
V5-tagged GPNMB
ß-actin
WT GPNMB
<ダブルトランスジェニックマウス>
<Rotarod test>
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
80 90 100 110 120 130 Days
Ons
et
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
Cum
ulat
ive
surv
ival
100 110 120 130 140 150 Days
G93A/-
<生存期間 (survival)>
<ローターロッドから落ちるまでの期間≒発症時期>
G93A/-
8.2%の延長
10.4%の延長
G93A/GPNMB
G93A/GPNMB
N = 10, P < 0.01 using the log-rank test
N = 10, P < 0.05 using the log-rank test
GPNMB過剰発現によるALS病態への影響
GPNMBを過剰発現させたALSマウスの作製
運動機能の評価
GPNMBはALS病態を改善する
ALS患者とGPNMB ~臨床サンプルを用いた検討~
n =3, **p < 0.01 vs. Control
**
Rel
ativ
e qu
antit
y of
G
PN
MB
dep
ositi
on (
fold
s)
0
1
2
3
4
5
6
Control SALS
脊髄
Values are mean ± SEM (n = 10 to 28). **P < 0.01 versus control (Mann–Whitney U-test; CSF samples). **P < 0.01 versus controls and patients with Alzheimer (AD) and Parkinson diseases (PD) (Tukey’s test; sera samples).
脳脊髄液 血清
Control SALS
**
GP
NM
B (n
g/m
L)
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
Control AD
GP
NM
B (n
g/m
L)
0 5
10 15 20 25 30 35 40 45 50
**
新技術の特徴、従来技術・競合技術との比較
長年の研究において多くのALS病態関連分子が同定さ
れてきたが、いずれもALS治療および診断には応用され
ていない。 今回発見されたGPNMBが、 ①神経保護作用を有しすること ②ALSバイオマーカーとしての可能性が示されたこと ③神経変性疾患の病態に関与していること を本発明が初めて示したことから、上記問題点を解決し
得る新たな標的分子として期待できる。
想定される用途
1.ALSに対するバイオマーカーとしてALS診断への応用が期待される
2. 治療効果を把握するための指標としても使用が可能 3. GPNMB抗体による病理診断 4. GPNMBに作用する化合物の創出 → ALS治療薬開発へ (他疾患への応用も視野に)
本研究成果は、2012年8月13日付の英国科学誌「Scientific Reports」 (vol.2, No.573, pp.1-11) に掲載されました。
実用化に向けた課題
今回の検討において、GPNMBが神経保護作用を有する
こと、そしてALS患者血清および脳脊髄液中で比較的特
異的に上昇することを発見した。しかし、GPNMBの生体
内 (特に中枢神経系) における機能は不明な点が多い。 今後は本技術の臨床応用に向けて、 GPNMBの発現、細
胞外分泌等の制御メカニズムの解明、GPNMB受容体の
同定並びに、臨床サンプルを用いた病態進行度および治
療成績に対する血中GPNMB量の変化を検討していく。
本技術に関する知的財産権
●発明の名称:筋萎縮性側索硬化症マーカー及び その利用 ●出願番号 :PCT/JP2011/071311 ●出願人 :岐阜市 ●発明者 :原 英彰、嶋澤 雅光、田中 彦孝
想定される技術移転
今回発見されたGPNMBは、神経保護作用およびALSのバ
イオマーカーとしての可能性を有することが新たに示された。
すなわち、GPNMBおよび関連タンパク質を標的とした新薬
および新たなバイオマーカーの開発が期待される。バイオ
マーカーは単独でもALSの良好な発症可能性の判定指標と
なり得るが、従来までに同定された他の指標も利用すること
も可能であるためその応用の幅は広がるであろう。 今後は、医薬品および診断薬メーカーとの共同で、GPNMBを標的とした治療薬・診断薬の開発・実用化を目指したい。
本発明の実用化は、全世界のALS患者のQOL向上に寄与
するものと期待される。
お問い合わせ先
岐阜薬科大学
生体機能解析学大講座 薬効解析学研究室
原 英彰 URL: http://www.gifu-pu.ac.jp/lab/ seitaikinou/index.html Tel & Fax: 058-230-8126 e-mail: hidehara@gifu-pu.ac.jp