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20160521過労死防⽌学会国際シンポ 過重労働による健康障害 と労働時間規制

天笠

MD,

MPH,

DrPH代々⽊病院精神科

働くもののいのちと健康を守る東京センター京都⼤学⼤学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野

精神医学から⾒た⽇本の過労⾃殺対策と 過労死防⽌法

あらすじ

• 1990年代後半から社会問題化した、年間⾃殺者3万⼈時代と労働関連⾃殺• 遺族・弁護⼠による「電通過労⾃殺裁判」が、労働衛⽣⾏政の動きを加速させた• 過労⾃殺は過労死と違い、⻑時間過重労働だけで⽣じるわけでない• 予防対策の基本的考え⽅を紹介• 現代の労働現場に⾒られやすい労働ストレス要因とうつ病に関する医学研究を紹介• 過労死と違って、過労⾃殺では⻑時間労働とうつ病の関係に⼀貫性が得られなかった理由?• 私たちの研究結果を紹介• 過労⾃殺対策の⼀つとして、労働安全衛⽣法改正により、⻑時間労働者⾯接が全事業所で実施され

ることになった• 2015年には過労死防⽌法が策定され、2015年12⽉からストレスチェック制度が義務化さ

れた• 与党によって⾼度プロフェッショナル制度というホワイトカラーエグゼンプションが2016年4

⽉での導⼊が⾒込まれたが⾒送りとなり、代わって⻑時間労働規制法案が野党4党により衆議院に

提出された• 綱引き状態が続いている

自殺対策基本法

2227人

労災申請(⺠間労働者)

被災者︵⼜は︶遺族

所轄労働基準監督署⻑

労働者災害補償保健審査官

労働保険審査会

地⽅裁判所

⾼等裁判所

最⾼裁判所

審査請求の⽇から3ヶ⽉経過

障害・遺族補償給付5年以

内療養・休業・葬祭料2年以

給付⾦⽀

払請求審査

請求

60⽇間

提訴

3

ヶ⽉以

控訴

14⽇以内

再審査

請求

60⽇間

上告

14⽇以内

業務起因性⾃殺裁判上、「判断指針」は

あくまで参考&運⽤上の問題

1998年:

いわゆる“電通

過労⾃殺”東京⾼裁判決

(損害賠償請求事件);

過失相殺あり

1999年:「精神障害等の

労災認定に係わる判断指

針」

2000年:

いわゆる“電通

過労⾃殺”最⾼裁判決;⾼

裁判決を⼀部棄却、差し

戻し;過失相殺を否

定・・・>1億6千万円

2000年:

「事業場におけ

る労働者の⼼の健康づく

りのための指針」

2006年4⽉:

改定労働

安全衛⽣法等の施⾏

(⾯

接指導/過重労働・メンタ

ルヘルス対策の樹⽴)

「過労⾃殺

Karojisatsu」よりも、労働関連 ⾃殺(work-related

suicide)の⽅が有⽤• 仕事による過労・ストレスが原因となって⾃殺に⾄ることを、

「過労⾃殺(suicide

due

to

overwork)」と呼ぶ。過労⾃殺

は、過労死の⼀種であり、現代⽇本の職場の⽭盾の現れである。

(『過労⾃殺』1998;川⼈博、iii⾴)

• 予防は過労死の予防と⾃殺の予防の両⾯から。• 労働関連疾病(work-related

diseases(WHO/ILO))にな

らって、労働関連⾃殺(work-related

suicide)が有⽤か

⾃殺 過労死過労

⾃殺

⇒一部から

不服として提

請求213人決定99人

1割が労災請求し4%が労災認定

2014年月平均時間外労働時間別補償状況

2014年

精神障害の出来事別支給決定件数

• 請求件数1307件中、支給決定件数497件(女性150件)

• 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした~72(43)

• (ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた~69(26)

• 特別な出来事(心理的負荷が極度のもの)~61(9)• 1か月に80時間以上の時間外労働を行った~55(6)

• 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があっ

た~50(9)

• (重度の)病気やケガをした~43(5)

RR(相対リスク)、

EAP(曝露者寄与割合)、

PAP(人口寄与割合)

表:相対リスク(RR)とは-仮想例

自殺 自殺せず

長時間労働 30(a) 14970(b) 15000

非長時間労働 10(c) 9990(d) 10000

(式1)RR=a/a+b÷c/c+d=30/15000÷10/10000=2

(式2)EAP=RR-1/RR・・・・>50%(30-10)÷(30+10)

(式3)PAP=Pe(RR-1)/1+Pe(RR-1)・・・>17%

Pe:要因保有割合:20%

疫学の重要概念

曝露者寄与割合と人口寄与割合• 喫煙は非喫煙に比べて、4倍肺がんにかかりやすい• この4倍のことを、相対リスク(RR)、という(因果効果の指標)

• 曝露者寄与割合(%)= (RR‐1)

/ RR ×100(因果効果の指標)

• 肺がんの真の原因として何%と考えられるか• 要因保有割合、今の場合、喫煙者割合をPeとすると

• 人口寄与割合(%)=[Pe×(RR‐1)]/[1+Pe×(RR‐1)]×100(公衆

衛生対策の指標)

• 喫煙者をゼロにできたら肺がんの何%を減らせるか

人口寄与割合(PAP)

人口寄与割合(%)

=要因保有割合×(相対リスク-1)

1+要因保有割合×(相対リスク-1)×100

疫学研究社会調査

(実態調査)

予防対策のターゲットは

• 強いほど

• 多いほど

• 立てやすい(取り組みやすい)

・・・・ほど、重要なターゲット(標的)

プレゼンター
プレゼンテーションのノート
われわれはこうした22例の過労自殺のケースシリーズを報告したことがある。 22事例の自殺に至る経過をまとめると、自殺の前にうつ病の発症があり、それ以前に1日労働時間の中央値が13時間の長時間労働と、過重労働とが見られた。 うつ病と自殺の因果関係は、すでに十分に確立されている。 また、カラセックのJob demand/controlモデルとうつ病の因果関係もほぼ確立されている。 しかし、長時間労働とうつ病発症の因果関係については、先行研究の結果が一貫していない。 労働要因、特に長時間労働とうつ病発症の因果関係を解明できれば、うつ病から自殺の連鎖を断つのでなく、労働要因からうつ病の連鎖を断つことで自殺を防ぐ手がかりが増える。

昇進・転勤・配

転・リストラ

長時間過重労働

自殺

顕性発症

生活上の出来事

生活上の出来事

身体的不調

言動の変化

仕事中心→対処が分からない(→受診勧める)

新規課題・叱咤激励・鼓舞

家族の対処

事業所の対処

「一見」就労を継続

過労自殺過労自殺にいたるにいたる

経過経過

精神科医

産業医

5-11-18M前

2W-2M-8M前

11-13-16時間/日以上健診

一般医

◆Amagasa T, Nakayama T, Takahashi Y. et al. Karojisatus or work-related suicide: a social problem in Japan. WPA2002.

http://www.jstage.jst.go.jp/article/joh/47/2/157/_pdf

仕事や職業生活に強い悩み、不安、ストレスを感じる者

60.9%

http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h24-46-50_01.pdf

ライフイベントとうつ病発症

表a. 15種類の出来事の大うつ病発症に対するオッズ比(発生から1ヶ月ごと)

発生 0 1 2 3 4 5 621 17.91*** 2.41 2.35 5.73* 4.43* 2.73 2.84

245 7.13*** 1.50 1.85 0.55 1.58 2.76* 2.38*173 6.69*** 2.65* 3.56*** 2.43* 3.01* 2.39 1.8695 5.95*** 2.64 1.74 1.76 2.16 2.51 2.58

205 4.54*** 1.86 1.28 0.71 1.16 1.24 0.9482 6.73*** 0.76 NE NE 0.96 1.14 1.2262 1.96 2.86 4.34** 3.42* 4.87** 6.03*** 4.26*

230 5.56*** 1.2 2.77** 1.06 2.02 1.93 5.81***96 7.64*** 3.60** 1.44 2.98* 1.51 2.96 NE75 2.00 1.04 1.14 4.20* 1.68 1.86 NE

342 3.12*** 1.45 1.28 3.58* 2.12* 1.74 1.57273 4.98*** 2.46** 2.38* 1.88 1.03 2.63* 4.15***

1038 2.66*** 0.78 0.78 0.66 1.50 1.71 2.6069 6.19*** 0.79 0.84 0.98 2.32 2.97 1.44

564 2.47*** 1.11 0.97 0.42 1.16 1.00 1.40NE: セルのNが少ないために推定不能*: p<0.05 **: p<0.01 ***: p<0.001 (Kendler et al. 1998より)

大うつ病発症と関係のある出来事の発生から大うつ病発症までの月数

仲の良い人との問題仲の良い人との危機仲の良い人の死

住居問題病気失職法的問題

出来事暴行離婚/別居経済的問題

仲の良い人の病気

失恋や友人との別れ婚姻上の問題盗難職業上の問題

Job demand control support model 仕事の要求度・裁量度・支援度モデル

表5 さまざまなストレス因子とうつ病ないしは重いうつ状態

労働ストレス因子 相対リスク 95%CI心理的緊迫21)  高要求+低裁量 6.97 2.39-19.42

高要求度(男性) 1.77 1.57-1.99低裁量度(男性) 22) 1.38 1.22-1.56低支援度(男性) 1.58 1.41-1.78

生命科学関連専門職(男性)22) 1.44 1.06-1.95

職業上のストレスフルな出来事22) 1個 1.57 1.37-1.79 2個以上 1.73 1.40-2.14

職場いじめ23)  短期 2.27 1.50-3.42  長期 4.81 2.46-9.40

(参考)オンコールの回数完全フリーな日数の少なさ   文献24)

  有意な相関関係

生活ストレス因子個人的ストレスフルな出来事22) 1個 1.15 1.01-1.31 2個 1.58 1.33-1.87 3個以上 1.77 1.32-2.37

婚姻状況(男性)22)  既婚 1  単身 1.72 1.18-2.51  別居 2.88 1.73-4.79  離婚 2.01 1.53-2.63  死別 1.93 1.11-3.35

表5

さまざまなストレス因子(リスクファクター)とうつ病・抑うつ症状

労働ストレス因子(リスクファク

ター)相対リスク 95%CI

研究デザ

イン結果

高要求度(女性)1.37 1.13-1.67

コホート研

究抑うつ症状

低裁量度(女性)

20) 1.41 1.15-1.73

低支援度(女性) 1.29 1.06-1.57

職種20)

エンジニア(女性) 1.07 0.56-2.03

保健福祉専門職(女性) 1.05 0.43-2.59

管理部関連専門職(女性) 2.16 1.31-3.57

職長(女性) 2.01 1.15-3.51

事務(女性) 2.04 1.47-2.85

職業上のストレスフルな出来事

20)

1個 1.44 1.14-1.82

2個以上 2.04 1.47-2.85

生活ストレス因子

婚姻状況20)コホート研

究抑うつ症状

独身(女性) 1.25 0.85-1.84

同棲(女性) 1.37 0.94-1.99

別居(女性) 2.16 1.14-4.10

離婚(女性) 1.36 1.03-1.79

死別(女性) 1.81 1.09-3.01

個人的ストレスフルな出来事

20)

1個 1.53 1.23-1.90

2個 2.02 1.52-2.69

3個以上 3.17 2.08-4.82

高要求・低裁量・低支援のう

つに対する相対リスク(男性)は1.77×1.38×1.58=3.9

相対リスク(女性)は1.37×1.41×1.29=2.5(Niedhanmmer, 1998)

ERIモデルとうつ病:

ERI>1だと・・・

著者 対象者 相対リスク 報告年Stansfeld 1.8(男性) 1998

2.3(女性)Stansfeld 2.6(男性) 1999

1.7(女性)Kuper 1.4 2002

Siegrist 3.4~4.5 1990

Siegrist 2.9~3.6 1992Lynch 1.6~2.3 1997

Bosma 2.2 1998

Kuper 1.3 2002 ハザード比

ERIといろいろな健康被害の関係(Tsutumi、2004年より)

備考

1998年と同一対象集団ハザード比

「~」はどの因子の影響を除いたかで大きさが異なる

冠動脈疾患

10308人の公務員

7830人の公務員416人のブルーカ

1727人の男性10308人の公務員7830人の公務員

急性心筋梗塞または心臓突然死上記に脳卒中を追加急性心筋梗塞

狭心症

健康障害の例メンタル不全

精神障害罹患

メンタル不全

19

参考ERI=Effort Reward Imbalance(努力報酬

不均衡)・男性でERIが1より大

きいと、1.8倍メンタル

不全にかかりやすい・3.4~4.6倍急性心

筋梗塞または心臓突然

死になりやすい。

プレゼンター
プレゼンテーションのノート
努力報酬不均衡-Effort Reward Imbalance、ERI-とメンタル不全や心筋梗塞などとの因果関係を解明した研究の結果をまとめた表です。 この表から、ERIは、過労死や過労自殺の中度~強い原因となることが解明されていることが知れます。

ハラスメントは過労死・過労自殺を引き起こす

職場いじめの経験

人数 粗OR(95%信頼区間) 調整OR*(95%信頼区間)

なし 3884 1.00 1.001回 323 0.73(0.43-1.22) 0.72(0.43-1.21)2回とも 65 2.53(1.28-5.03) 2.31(1.15-4.63)

なし 4109 1.00 1.001回 325 2.26(1.50-3.40) 2.27(1.50-3.42)2回とも 64 4.78(2.45-9.31) 4.81(2.46-9.40)* 性・5歳年齢階級・収入で調整した(影響を除いたときの)オッズ比≒RR

心臓血管疾患罹患(286人)

うつ病罹患(214人)

ハラスメント(職場いじめ)と心臓血管疾患・うつ病との関連性 ◇「職場いじめ」はハラスメ

ントとほぼ同じ内容を扱って

いる■「職場いじめの経験」で、

「2回」とあるのは、2回行っ

た調査の両方で「ハラスメン

トを経験している」と回答し

た、長期にハラスメントを受

けている労働者を意味して

いる。職場いじめ(ハラスメ

ント)は、うつ病に対して、1

回の経験でも2.26倍と「中程

度の原因」、長期に続く場合

「強い原因」として働くことが、

この研究で解明されている

と解釈できます。(Kivimäki M, OEM2003)

プレゼンター
プレゼンテーションのノート
成果主義導入によって、増加が示唆された、ハラスメントと心臓血管疾患やうつ病との因果関係を解明した研究の結果です。 この研究では、2回調査を実施しています。 2回のいずれかだけでハラスメントを経験していると答えた、「1回」の人でも、経験なしとした労働者に比べて、2.27倍うつ病にかかりやすくなる、2回とも経験している、つまり、「長期的に」ハラスメントを経験している労働者は、経験なしに比べて4.81倍うつ病にかかりやすくなることを解明しています。

表1:精神障害分類別標準化死亡比(SMR)

大分類 下位分類 SMR 95%CI器質性障害 332 293-375

物質使用障害 574 541-609鎮静剤と他剤 4423 2804-6637多剤乱用 1923 1612-2276麻薬 1400 1079-1788アルコール 586 541-633

機能性障害 1209 1178-1241自殺観念/未遂 4737 3762-5887神経性食思不振症 2069 1069-3614大うつ病 2035 1827-2259特定不能の気分障害 1610 1452-1781双極性障害 1505 1225-1844適応障害 1379 376-3532強迫性障害 1154 238-3372パニック障害 1000 457-1898精神分裂病 845 798-895

注:95%CIとは、95%信頼区間(Confidentaial Interval)文献1)E. Clare Harris, Braian Barraclough. Suicide as an outcome for mental disorders A meta-analysis. British Journal of Psychiatry 1997, 170: 205-228.より抜粋引用改変。

実際の死亡数

――――――期待死亡数

*SMR= × 100

・・・>オッズ比≒20

http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=ANHRS

KOR

JPN

FRA

http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=ANHRS

長時間労働とうつ病(うつ状態)について

• 女性の長時間労働(41時間以上/以下);2.2 (1.1-4.4)(

Shields, 1999)

• 1990年代以降の文献レビューで、両者には一貫した関連性

が見出されていないと、繰り返し指摘(Spurgeon1997, van der Hulst2003, Fujino2006)

オリジナル調査1の概要

• A事業所(N=225)事務職員:平均年齢42.3±10.2

男171、女46、不明1

安全衛生委員会(委員会)から従業員のメンタルヘルス改善

の相談。1999年12月に自記式質問紙調査で実態調査(アセスメント)

し、1、2、3年後にも同じ調査内容で調査(モニタリング)した。

ベースライン調査には全従業員225名を対象に実施、218

(96.9%)が回答。

25

• B事業所(N=28,072)販売職員;最多年齢階級45‐9歳、男395、女性739安全衛生担当者より相談

「成果主義的な賃金制度を支店に導入してきたが、メンタル

ヘルス不全者の発生が増えた。何か関連はないだろうか?」2007年12月から翌年正月までの短期間に、26支店(28,072

人)の従業員から1,160(4.1%)の回答を得た。

オリジナル調査2の概要

26

プレゼンター
プレゼンテーションのノート
Bで妥当なの?

モデル1自由度=3カイ2乗値=41.5確率=.00

裁量度 労働時間 要求度

うつ状態

モデル2自由度=3カイ2乗値=8.06確率=.05

裁量度 要求度

労働時間

うつ状態

●標準化総合効果●裁量度

長時間労働

要求度うつ状態

‐0.23

‐0.07

0.30

●標準化総合効果●裁量度

長時間労働

要求度うつ状態

‐0.23

0.11

0.28

Amagasa T, et al. JOEM2012

プレゼンター
プレゼンテーションのノート
以上をまとめますと、Hobsonが可能性を指摘していたように、労働時間は、左の図のように、直接うつ状態に影響するのではなく、右の図のように、要求度を介してうつ状態の原因となるという関係にあることが示唆された。 つまり、労働時間とうつ状態やうつ病の関係を検討するときには、左の図のようなモデルで分析してしまうと労働時間の影響が過調整されてしまって観察されにくくなるようである。 日本語では、長時間過重労働がうつ病や自殺の原因となる、という言い方がされてきましたが、まさにそれが正解だったと言える。 そういう結果が得られました。 これまで長時間労働とうつ状態やうつ病の因果関係を解明しようとした研究で一貫した結果が得られなかったのは、因果関係の考え方が誤っていたからではないか。 労働時間は、仕事の要求度を介してうつ状態やうつ病の原因となる、と言う視点から再検討してみる必要がある、というわけです。

A事業所(事務系職員)

B事業所(販売職員)

長時間労働(週60

時間以上労働)

=1.5~2.

過重労働

=1.3~1.

長時間過重労働

=2.3~4.

※統計的に有意差あり(α

=.05)Amagasa

T,

et

al.

JOEM2012

オリジナル調査2のフォローアップ調査から

10倍

5倍

リスク

ベースライン 1年後

非長時間過重→長時間過重14.7倍(1×14.7)

長時間過重→非長時間過

重0.11倍(0.11×1)

長時間過重→長時間過重1.62倍(0.11×14.7)

ベースライン、1年

後とも非長時間非

過重労働

いま、あるいは1

年後も長時間過

重労働であり続

けることよりも、

1年間で非長時

間過重から長時

間過重に変化す

ることの方がリス

ク(15倍)

逆は予防的(9

分の1)

29Amagasa

T,

et

al.

JOEM2013

さまざまな労働ストレス要因とうつ

雇用形態 年齢 性別 労働時間多寡

月労働時間

サービス残業

労働時間増減

管理職か否か

長時間労働賃金制度

成果主義

臨床的うつ

従業員規模

要求度 裁量度

職場支援度家族等支援

度対人ストレ

努力報酬不均衡

CES-D

ハラスメント

販売職員1160人

自由度=146 カイ2乗値=568.825確率=.000 CFI=0.904 RMSEA=0.05 

成果主義

長時間労働

ハラスメント 職場支援

裁量

要求

対人ストレス

家族支援

努力報酬不均衡

うつ

.054 

.176 

.044  ‐.124  ‐.082 

.100

.120  ‐.134 

.292  30

Effort‐

reward

imbalanc

e

うつ状態評

価尺度

Amagasa

T,

et

al.

in

preparing

自殺対策基本法長時間労働者面接

2227人

過労死等防止推進法

ストレスチェック制度

義務化

32http://www.mhlw.go.jp/file/06‐Seisakujouhou‐11200000‐Roudoukijunkyoku/0000061175.pdf

ポスト過労死防止法時代の対策

• 長時間労働規制法など・・・>長時間労働者を減らす

• 長時間労働者面接(労安法によってあらゆる事業所が対象)

• ストレスチェック制度で過重労働を減らし職場のサポートを増やす

• 週50時間以上の長時間労働者≒2割(週60時間以上≒1割)

過重労働への従事者≒3割

努力報酬不均衡(Effort‐reward

imbalance)の従事者≒2割

ハラスメントを受けている労働者≒1割

有職うつ病患者の発生率≒5%

うつ病に対する相対リスク≒2(Shields,

1999、Amagasa,

2013),4(Niedhammer,

1998),2

(堤,2004)、5

うつ病の自殺に対する相対リスク≒20

• 職場のうつ病の7割、自殺の4割を減らすことも可能

• 被雇用者・勤め人7164人@2014年・・・>3000人弱の自殺を減らせる

労働時間法制の綱引き、ILO条約

• 日本の労働基準法には、農業・畜産業、管理監督者等の適用除外がある

• 36条で、かなり弾力的な労働時間制度の運営が可能になっている

• 告示で一定期間の延長時間に限度基準を設けているが実効性がない(1

5時間/1w、27時間/2w・・・120時間/3m、360時間/1yr)

• 割増賃金率は25%以上と低い

• 与党;ホワイトカラーエグゼンプション@2006年頃議論・・・>高度プロ

フェッショナル(高度専門職で一定の収入(年収1,075万円以上)がある者

のみ?)・・・2016年4月導入を見送り

• 野党;長時間労働規制法案を衆議院に提出@2016年4月

• 労働時間関連条約をすべて批准していない;第1号(労働時間)、第47号

(40時間制)など

精神医学から見た日本の過労自殺対策と

過労死防止法

まとめ

• 1990年代後半から社会問題化した、労働者の自殺は、長時間と過重労働という過労だけが原

因となるのではないから労働関連精神疾患、労働関連自殺と呼ぶ方が有益である

• 強いほど、多いほど、取り組みやすいほど重要なターゲットとなる

• ライフイベント、JDCモデル、ERIモデル、ハラスメントとうつ病についてはある程度解明されている

• うつ病と自殺の因果間関係は確立されている

• 長時間労働が過重労働の原因となり、過重労働がうつ病の原因になると考えれる必要がありそ

うだ

• 要するに、長時間過重労働が精神的な健康を壊す

• 長時間労働者面接@2006、ストレスチェック制度の義務化@2015が機能すれば、職場で発

生するうつ病の6割、自殺の4割弱を予防することも可能である

• 労働時間規制を緩和するのか強化するのか、もう何年も国会では綱引きが続いている

• 2015年に制定された過労死防止法を利用しつくし、5年後の改定の時期にはさらに抜本的に

改定を図れるよう、本学会には学術的な知見を集積する役割が期待されている

N人

要因A保有者

N・Pe人

要因A非保有者

N・(1-Pe)人

要因A保有者

N・Pe人

要因A非保有者

N・(1-Pe)人

Y人

X人

RR

EAPとは、Y(人)の

うち何%が真に要因

Aが原因でイベント

(うつ病罹患や自

殺)が起きたか

Y -N・(1-Pe)

(N・Pe)×X

RR =

N・(1-Pe)

N・Pe

Y

=RR

RR-1

参考:EAP

N人

要因A保有者

N・Pe人

要因A非保有者

N・(1-Pe)人

要因A保有者

N・Pe人

要因A非保有者

N・(1-Pe)人

Y人

X人

RR

PAPとは、Y+X(人)

のうち何%が真に要

因Aが原因でイベント

(うつ病罹患、自殺)

が起きたか

Y+X

Y -N・(1-Pe)

(N・Pe)×X

RR =

N・(1-Pe)

N・Pe

Y

=1+Pe・(RR-

1)

Pe・(RR-1)

参考:PAP