2 設計法案の概要 齋藤

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Ⅱ.設計法案の概要

伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会

設計法部会主査   齋藤幸雄

    伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会            第四回フォーラム in滋賀

「石場建てを含む伝統的構法木造建築物の設計法」報告会-            2014年 7月 12日(土):会場・立命館大学             びわこ・くさつキャンパス ローム記念館 

        設計法案の概要

1.木造建築物に対する主な法規定の変遷と  設計法作成の経緯2.伝統的構法木造建築物の構造的特徴3.伝統的構法の設計法案概要  設計法作成の基本方針4.木造の耐震性能に関する規定の主な課題と  標準設計法案での対応5.最後に

壁量

基礎

仕口継手

柱脚

  1950年   1959年   1971年   1981年    2000年16cm/m   33cm/m

面材を追加 24cm/m    

規定なし コンクリート又は RC造布基礎

(無筋コンクリート ブロック、礎石)

RC造

2 2 2

土台の設置、土台を基礎に緊結、又は柱を基礎に緊結足固め設置(平家)

 接合部の 詳細規定

ホ -ルダウン金物、込み栓

土塗壁、木ずり壁筋かい

ボルト,かすがい込み栓

基礎と地盤に関する詳細規定 

枠組壁工法、木質プレハブ工法、丸太組構法については、別途告示により基準を定めているため、木造(令第 40条~令第 49条)の規定は適用されない。伝統的構法も別途告示化を目指している(その理由)同じ軸組構法であるが、現行の木造規定とは全く異なった設計思想のもとに作成した設計法(伝統的構法の良さを生かした設計法)

  1999年度  2004年  2007年    2008年度    2010年度~ 2002年              ~ 2009年度  ~ 2012年度 建築確認申請

の厳格化(構造計算適合性判定)

前検討委員会(石場建ては 対象としない)

伝統的構法の・・・検討委員会 (石場建てを  含む)

2000年限界耐力計算

2

005年度・京町家

2

006年度・水平構面

2

008年度・柱脚浮き上がり許容

2010年度・検証用モデル住宅

2

012年度・伝統的構法住宅

京町家(耐震補強後)・ 3方向加振( JMA神戸)

伝統的構法木造建築物の設計法

伝統的構法の地域性、多様性を考慮

⇒ 三種類の設計法が必要

   ◆標準設計法

   ◆詳細設計法

   ◆汎用設計法

2010~ 2012年度構造要素の実験

2010年度実大振動台実験検証用モデル住宅

2012年度実大振動台実験伝統的構法住宅

2010年度詳細設計法

2011~ 2012年度詳細設計法標準設計法汎用設計法 2011~ 2012年度

構造要素のデー タベース

詳細モデル時刻歴解析

設計法の検討・実証

実大実験と解析

2012年度設計法の検証設計法完成

検討委員会での設計法の構築と検証

①石場建ての性能評価と設計法 伝統的構法の特徴である石場建てをどう生かすか  柱脚の許容 滑り量( 滑り量の算定)

②主要な構造要素の性能評価 土塗り全壁、 小 壁( 垂 壁、 腰 壁)、 貫など

③ 水平構面( 床・屋根)の性能評価  水平構面の 剛性と変形が応答に及ぼす影響を評価

④ 仕口接合部・継 ぎ 手の性能 評価  変形性能を担保する、倒壊・崩壊を防ぐ性能 

⑤ 通し柱の 効果  通し柱の 折損などの損傷と地震応答に及ぼす影響を評価

1 ②

③④②④

設計法の構築で検討すべき重要事項

上記の 個別性能を建物として総合的に評価

◆ 偏心・上 下階の剛性・耐力バランスの評価と設計法への組込み◆設計のクライテリアをどのように設定するかの検討 入力地震動レベルと構造物全体・各部の耐震性能および許容できる 損傷の程度

石場建て(柱脚の 移動(水平、上 下)を拘束しない)の設計法

・柱脚が 移動 ( 水平・上 下)することを許容する設計 法の安全性に対する疑問 (疑問点) ・最大滑り量の 根拠や滑り量算定方法について  の検討が不十分 ・実大振動台実験は限定された条件での結果  時刻歴解析結果には、設定最大滑り量を 超え  る場合がある ・柱脚が 滑ることによる上部構造 への影響につい  て検討が不十分

◆実大振動台実験での結果の分析、時刻歴解析  によるパラスタにより、最大滑り量を設定。◆ 摩擦係数のバラツキを考慮、柱脚が礎石から  落下しないための規定で、安全側の評価◆ 上部構造 への影響については、詳細な規定を  設けて、安全性を十分考慮している

   伝統的構法の特長

在来構法にはない特長を保持している

・材料・構法ともに自然体である・長年に渡る大工棟梁の知恵と技が詰まっている・構造要素は優れた変形性能を持つ・継手・仕口 は木組みで極力金物を用いない・柱脚・土台を基礎に緊結しない・水平構面 は剛床ではなく地震時に変形する・我が国で最も長期間使用されている実績がある

伝統的構法の特長(良さ)を生かした設計法(在来構法)・壁量計算 

・柱脚固定

・剛床仮定

・接合部は金物による

(伝統的構法)・対象となる構造要素は優れた変形性能を有する ことが検証されたものを使用。 評価法として 近似応答計算が適切・柱脚は石場建て 形式(柱脚の 移動(水平・上下)を 拘束しない)を含める(推奨する)・水平構面は変 形することを前提とするが、適度な 剛性・耐力が必要  標準仕 様の設定 開口制限・継手・仕口は木組みを基本とし、金物の 使用は 極力避ける。 変形性能を担保できる

柔床のせん断変形

偏心がある場合

偏心のない場合

剛床 剛床過大な変形

標準床により過大な変形を防止

0

20

40

60

80

100

120

0 20 40 60 80 100せ

ん断

応力

度(kN/m2 )

変形角(x10-3rad)

1.5P以上2P以下

1P以上1.5P未満

0

1

2

3

4

5

0 20 40 60 80 100曲げ

モー

メン

トM(kN

・m)

回転角(x10-3rad)

h=300 h=270h=240 h=210h=180 h=150

雇いほぞ込み栓打ち仕口の 曲げモー メント-回転角関係角関係

土壁 のせん断応力度―層間変形角関係

負勾配

構造要素性能検証実験

建築物は様々な構造要素から構成されるため、仮に層としての復元力特性が負勾配になっても、勾配は緩やかなものになる層間変形角 1/20rad時に最大耐力の 80%以上は 十分確保できる

-1-0.8-0.6-0.4-0.2

00.20.40.60.81

-0.08 -0.04 0 0.04 0.08

層せ

ん断力

係数

層間変形角 (rad)

1階S方向

No.5

No.6

-1-0.8-0.6-0.4-0.2

00.20.40.60.81

-0.08 -0.04 0 0.04 0.08層

せん

断力

係数

層間変形角 (rad)

1階L方向

No.5

No.6

実大振動台実験から得られた層せん断力ー層間変形角関係

実大振動台実験結果の設計法への反映

 

 

試験体 No.1・No.2

試験体No.3

試験体 No.4

2010年度の実験

主として柱脚の 滑り

上部構造の課題 解明

全ての課題解明

時刻歴応答解析(立体モデル)による検討

設計法作成の基本方針(その1)

建築基準法第 1条:目的 この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする。

第 1条の目的に合致した設計法を作成

 建築物が崩壊・倒壊に至らない 建築物を支える軸組が大きな 損傷を受けない

柱( 小 壁 付き柱、 通し柱、柱脚)は 折損しない。仕口接合部は変 形性能を維持

壁の 損傷を防ぐための補強により、軸組に損傷が生じる

設計法作成の基本方針(その2)

◆伝統的構法の特長を生かす  (在来構法とは異なる)◆ 既存の伝統的構法の構造形式を概ね前提に、  耐震性能をより向上 させる  柱脚については 石場建てを含める  (全く新しい構造形式の建築物の設計法では   ない)◆設計のための課題をできる限り 明らかにし、   実験・解析等により検証し設計法に反映◆実務者が実践的に使いやすい

 伝統的構法の良さを生かした設計法•  柱脚固定・ 剛床仮定が前提ではない•建築物への過大入力を防ぐ   柱脚(石場建て 形式、土台形式)が滑る   ことによる免震的効果 •水平構面の変 形による応答低減効果   履歴によるエネルギー消費•軸組を壊さない(制震構造的手法)   柱の 折損防止と仕口接合部の変 形性能維持   (土壁の 損傷は可:修復可能)

柱脚が礎石か ら落下しない。バラバラに動かない等

水平構面に適度な 剛性を付与(標準仕様)

柱脚固定・ 剛床仮定を前提にすると良さが失われる

No.4試験体:土壁の 損傷

設計法案の概要

対象建築物により設計法を選択

スタート   階数≦2述べ面積≦ 500m2    高≦ 13m軒の高さ≦ 9m

標準設計法 詳細設計法 汎用設計法

柱脚条 件の確認

柱脚仕 様規定 A

柱脚仕 様規定 B

柱脚仕 様規定 C

水平・上 下とも移動を拘束

水平のみ移動を拘束

水平・上 下とも移動を拘束しない

標準・詳細以外

住 宅

住 宅・ 社寺

4

号建築物相当

標準設計法と詳細設計法

◆耐震性能評価に関する基本的な考え方は   同じである◆詳細設計法は近似応答計算により地震時  の応答変位を求め、設計のクライテリアを  満足することを確認することで安全性を  担保できる◆標準設計法は簡易な計算と仕 様規定に  従えば、結果として設計のクライテリアを  満足し、安全性を担保できる◆構造要素は共通であるが、復元力は標準  設計法では特性値を用いる

設計のクライテリア(詳細設計法)

◆ 稀に発生する地震動時  損傷限界層間変形角 1/90rad以下

◆ 極めて稀に発生する地震動時  安全限界層間変形角  代表層間変形角 1/20rad以下  (近似応答計算による応答層間変形角)  最大層間変形角 1/15rad以下  (偏心等による変位増大係数により算定)

標準設計法

◆対象建築物:規模等は 4 号 建築物 相 当         主として住宅で、 積載荷重が住宅          の居室と同程度のものに限る。

◆耐震性能評価の拠り所は詳細設計法と同様で あるが、近似応答計算を必要とせず、比較的簡 易な計算と仕 様規定により設計が可能 (他の荷重・外力に対しても同様)◆この設計法が確立できれ ば標準的な設計法と  して使用されることを想定している

標準設計法耐震性能評価◆ せん断耐力( 1階)≧作用せん断力( 1階) ・せん断耐力:構造要素の復元力を加算則により  各階・各方向別に算定( PΔ効果を考慮)  構造要素:全面壁・ 小 壁・ ほぞ・差し鴨居・貫等 ・作用せん断力: 1階階高と地盤種別、地震地域  係数との関係により Cbとして与えられる(一覧  表)    2階ついては、  応答層間変形角: 1階が 2階より大きくなること  ( 1階先行降伏)を条件式により確認する   ◆平面形状等によりゾーニングの手法を 導入

結果として設計のクライテリア(稀に発生する地震動時、極めて希に発生する地震動時)を満足する

基本は整形な平面形

2階建ての場合は、1・ 2階の耐力バランス等により 1階の応答変形角が異なるため、1・ 2階の耐力比、重 量 比、階高比等をパラメータとした近似応答計算により、 Cbを設定。

◆ せん断耐力の低減   ・偏心率が 0.15を超える場合は低減  (偏心率は 0.3以下) ・水平構面が標準仕 様でない場合は低減  標準仕 様を設定(板厚・釘径・脳天打ち等)  剛性・耐力の確保  (床開 口に関する規定) ・柱脚の浮き上がり のみ許容する場合  (柱脚仕 様規定 B)  浮き上がりに 伴うせん断耐力の低減柱脚 仕 様規定 Aおよび Cは低減の必要がない

柱脚の仕 様と規定

・柱脚仕 様規定A 柱脚の 移動(水平・上 下)を拘束 (柱脚固定)   ・柱脚仕 様規定B 柱脚の 移動(水平)を 拘束、浮き上がりは許容 柱脚が 踏み外すことを防ぐための規定    ・柱脚仕 様規定C 柱脚の 移動(水平・上 下)を拘束しない (柱脚フリー) 柱脚と上部構造の 損傷を防ぐための規定              

詳細設計法

◆対象建築物:規模等は標準設計法と同じ          対象建築物は住宅・ 社寺等◆耐震性能評価の方法  近似応答計算により、稀に発生する地震時  および極めて稀に発生する地震時の応答変位  を求め、予め設定したクライテリアを満足する  ことを確認する◆ 柱脚の検討  柱脚の 移動を拘束(水平・上 下)しない場合は、  柱脚の 滑り量は 滑りを考慮した近似応答計算  を用いて算出する

          

近似応答計算は精度よく算定できる手法を 提案2階先行降伏とする設計も可能柱脚は固定として算定

変位増大率を考慮した最大層間変形角の算定 (標準設計法では、せん断耐力の低減)

・偏心率により変位増大率を算定 剛床とみなした場合の算定式による

・床の変形による変位増大率を算定 偏心率と関連させた算定式による(標準仕 様と 標準でない仕 様)

・柱脚の浮き上がりを 考慮した復元力の算定

  汎用設計法

◆対象建築物:特に規定しない(制約を設けない)  住宅 系:町家 型民家、農家型民家、数寄屋・書院     住宅 系大規模:住宅 系本堂、庫裏、旅館・料亭    宗教建築:仏堂・社殿、塔、鐘楼・門    その他:土蔵、城郭建築◆耐震性能評価の方法  主として時刻歴応答解析による(モデル化が重要)  構造要素:標準・詳細設計法と共通するが、他に  社寺建築物で考慮すべき「柱 傾斜復元力」 や  「組み物」等も対象になる

圓教寺

  時刻歴応答解析のためのモデル化

◆質点系モデル、質 点系(ねじり振動考慮可能剛床  モデル)、 擬似3次元モデル、 3次元立体モデル 等    対象建築物に応じて適切に選択  (応答結果として、何が必要か判断、たとえば、各   鉛直構面の柱脚の 滑り量が 必要な場合は、 3次元   立体モデルによる)◆ 各モデル化手法(軸組、接合部、 鉛直構面、水平  構面)とその特徴について解説   各モデルに 必要な要素の一覧表を提示

時刻歴応答解析による場合は特別な審査を受ける必要があり、具体的な内容については 審査機関と協議することが必要である。

時刻歴応答解析モデル モデル化は対象建築物の特性を考慮して最適な方法を選択

標準設計法 詳細設計法 汎用設計法

実務者が使いやすい簡便な設計法目的

実務者が使いやすい設計法

高度な設計法

対象建築物

特徴

4号建築物相当 主として住宅 ・積載荷重は居室相当 )

住宅・ 寺社建築物など規模は 4 号相当

特に規定なし

簡便な設計法簡易な計算+仕 様規定により設計が可能。

実務者が使いやすい設計法近似応答計算等により建築物個別の詳細な検討が可能

時刻歴応答解析等により耐震性能の詳細な検討が可能・ねじれ変形や水平構面の変 形の検討、柱脚の滑りや 浮き上がりの検討が可能

標準設計法   詳細設計法   汎用設計法

柱脚の検討

柱脚の 滑りを許容するが、柱脚が礎石から落下しないこと(柱脚の最大滑り量を規定 )や柱脚 間が広がるのを制限する規定を設ける

柱脚の浮き上がりを許容するが、浮き上がりによるせん断耐力を低減

・柱脚の 滑り量を近似的に求める・極希地震に対して柱脚の 滑りを許容するが、柱脚が ばらばらに移動したり柱脚 間が広がるのを制限する。

・柱脚が 移動する可能性がある場合は、各構面の柱脚の滑り量を 直接求め、安全性を検討

・極めて希に発生する地震動に対して柱脚の浮き上がりを許容・浮き上がりを考慮した復元力による応答計算

柱脚の浮き上がりを考慮できる解析モデル により、安全性を検討

柱脚の滑り

柱脚の浮き上がり

耐震性能の検証法

標準設計法   詳細設計法   汎用設計法建物のせん断耐力を簡易な計算により算定し、建物の階高等により予め設定された作用せん断力を上 まわることを確認

近似応答計算により応答層間変形角を求める(限界耐力計算と同等)応答結果がクライテリアを満足することを確認

時刻歴応答解析により必要な部位の必要な応答 量を 求める

(一部は近似応答計算による)

各層限界変形の検討(クライテリア)

損傷

安全

希地震に対する変形角  1/90以下

極希地震に対する変形角  1/20以下最大層間変形角 1/15以下

極希地震に対する変形角  1/20以下 ( 仕 様規定を守れば満足)

極希地震に対する変形角  1/20以下

希地震に対する変形角  1/90以下

希地震に対する検討は省略(自動的に満足)

最後に、伝統的構法の設計法が実務者にとってより使いやすい設計法とするためには、現在の設計法案を設計事例によって検証する作業が不可欠である

伝統的構法設計法案に基づいた別途告示化により、伝統的構法が建築基準法で明確に位置づけられることで、より多くの関係者が伝統的構法に携わることができ、 知恵と工夫により造られて来た伝統的構法の維持・発展に繋がることを切に願う。

ご清聴ありがとうございました