第 章 設備保全と計画保全 - pub. · PDF file1-1 setsubi-hozen 設備保全とは

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第1章

設備保全と計画保全

1-1 ◉設備保全とは1-2 ◉設備保全の目的と意義

1-3 ◉設備保全を工場内で行うには1-4 ◉設備保全に必要な技能・技術

1-5 ◉生産設備に使用される主な設備1-6 ◉設備保全と計画保全1-7 ◉計画保全の進め方

1-8 ◉計画保全を効率よく行うには

 ものづくりに必要な製造設備は、多くの機械要素部品で構成されています。この機械要素

部品を適切に保守管理することで、製造される製品の品質を保ち、設備の稼働率を向上させ、

さらに製造設備を長寿命化することが「製造装置の設備保全」ということです。

 「製造設備の設備保全」は、自社の従業員や保全マンが工場設備の稼働状態を注視し、定

期的に確認しながら工場設備を見ることです。製造設備をよく観察し、構造を深く理解する

ことで、潤滑オイル・潤滑グリスの交換や給脂、締結ボルトの調整や増し締め、消耗部品の

交換や調整を適切に行うことができるようになります。例えば、回転軸受には適切な潤滑オ

イルや潤滑グリスの給脂を行い、電動機などの振動が発生する部分には、締結ボルトなどの

増し締めや調整などを行うといった具合です。

 とくに伝達装置などに用いられているチェーンやVベルトなどは、稼働時間により適切な

交換が必要なので常に注意が必要です。

 しかし、「製造装置の設備保全」は、製造設備を闇やみ

雲くも

に保全することではありません。適

切に設備保全をすることは、設備保全にかかる費用を最小にしながら、製造設備の稼働や製

造される製品の品質などを安定して製造できるようにし、長期間トラブルなく操業できる状

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1-1 SETSUBI-HOZEN1-1 SETSUBI-HOZEN

設備保全とは

電動機のプーリなどをスリップした状態で回転したためにプーリの摩擦熱により、Vベルトに火がついた。電動機が回転していたため切れかかったVベルトが振り回されコンプレッサ内部の電気配線などを切断し、また、切れたベルトが電動機に巻き付いたため電動機が止まってしまった。

コンプレッサの2本あるVベルトを損傷した状態で使用

現象

設備保全の不備で発生したトラブル

態にすることです。これが『稼げる設備保全』です。このためには、製造設備をよく理解し

ながら、どのように設備保全を行うかを計画しなければなりません。

分解整備の必要性 A社は、設備のメンテナンスなどの保全を行わずに設備を使い続けてきました。また、社

員に対しても、設備に対してどのように保守点検を行うか、どのように「分解整備」を行う

かなどの教育に取り組んでいませんでした。その結果、突然設備が故障し操業できなくなる

ばかりか、製品の品質も安定せずに不良品が出ていました。

 私が生産設備を確認すると、軸受などには給脂した形跡がなく、古いグリスなどが軸受に

固着した状態でした。軸受にグリスを注入していくと、赤茶色のさびのグリスが出てきまし

た。軸受内部が非常に損傷した状態になっている様子で、回転数が上がると異音が発生して

いました。おそらく軸受内部の外輪・内輪・玉などがフレーキングを起こしている状態と推

測しました。このまま使用を続けると軸受からの発熱などにより、軸受ばかりか軸の損傷に

つながる恐れがあるので、軸受を新品に取り換えることにしました。

 この他、変速機のギヤオイルやチェーンなどは、寿命を超えている状態で、特にチェーン

などは脂分が完全に無い状態で、スプロケットの偏摩耗など損傷が激しい状態でした。設備

の消耗した部品などを調べ、交換が必要な部品については、1つひとつ社員の方と一緒に交

換を行い、製造設備を正常な状態にしていきました。

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第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

第6章

第7章

設備保全と

計画保全

空気圧装置の

計画保全

動力伝達装置の

計画保全

油圧装置の

計画保全

軸受の

計画保全

役立つ「設備保全作業

手順書」を作ろう

電動装置の

計画保全

コンプレッサで作られた圧縮空気のごみなどを除去するエアフィルタ。エアフィルタの濾過紙が燃えていた。

エアフィルタのトラブル

現象

 設備が正常な状態に近づくに従い、設備が突然停止する回数も少なくなり、不良発生の原

因も把握できるようになりました。この結果、稼働率も徐々に上昇していきました。

 このように、必要に応じて設備の分解整備を行うことで、設備を延命することが可能にな

ります。

 自社の設備を自社で設備保全を行うことができるようにするには、設備保全を社内教育な

どで取り入れることが必要です。まず最初に設備の概要を把握し、設備の一部または同様な

部品を教材として、日常的に分解整備の練習を行います。

コンプレッサが燃える事故 B社では、圧縮空気をつくるコンプレッサが燃える事故が発生しました。メンテナンスを

していた社員によると、「数カ月前からカラカラと異音が出ていた」ということでした。や

がて、圧縮空気の供給不足により、コンプレッサから煙と炎が上がってしまいました。幸い

初期消火したので大事には至らなかったものの、もし遅れていたら大惨事になったところで

した。

 B社でも、決められた設備の設備保全は行われていなかったのです。コンプレッサの保守

点検時には、Vベルトの損傷状態を確認しながら、損傷の状態に応じてVベルトの交換、お

よび調整が必要です。これをしなかったためにコンプレッサが故障し、圧縮空気がつくれな

くなったのです。

 設備保全は、工場設備にどのような設備があるか、また設備がどのように保守点検がされ

ているかを把握するところから始まります。設備には、コンプレッサ、油圧装置、空気圧装

置、電動機、動力伝達装置など数多くあります。これらの設備が工場のどこに設置されてい

るか、どのように保守点検がされているか、製品を製造するうえでどれだけ重要度を占めて

いるかなど、各設備の重要度を決めて適切な計画を立てていくことが大切です。

 工場設備を設備保全する目的は、設備の寿命を延命するとともに、製造設備が完全な状態

で日々稼働し、品質の安定や稼働率の向上につなげることです。また、製造設備を適切な方

法でメンテナンスを行うことで、設備が損傷したときに、損傷個所を最小限にすることがで

きます。

 皆さんの工場設備全体の設備保全をどのように行っていたでしょうか? 製造設備が壊れ

てから修理をしていたでしょうか、それとも壊れる前に適切な修理をしていたでしょうか。

おそらく製造設備が壊れてから修理をしていた企業が多いかと思います。設備が壊れる前に

修理をするのと、壊れた後で修理をするのとでは、どこがどのように違うのでしょうか。製

造設備が壊れてから修理を行う場合、このような問題が発生します。

 製造設備が操業中に壊れた場合、製品の品質、納期、修理完了までの時間ロスなど、さま

ざまな問題が発生します。また、壊れてから直すと他の製造設備個所まで壊れることもある

ので注意が必要です。

1-2 SETSUBI-HOZEN

設備保全の目的と意義

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第1章

第2章

第3章

第4章

第5章

第6章

第7章

設備保全と

計画保全

動力伝達装置の

計画保全

油圧装置の

計画保全

軸受の

計画保全

役立つ「設備保全作業

手順書」を作ろう

電動装置の

計画保全

チェーン軸継手のチェーンによって油圧ポンプと電動機が接続されている。長期間チェーン軸継手のメンテナンスをしていなかったため、グリスが変質していた。チェーン軸継手は、定期的にグリス交換や軸心調整などのメンテナンスが必要。チェーン軸継手のグリス交換をしなかった場合、潤滑が損なわれチェーンの固着やチェーンが偏摩耗になる恐れがある。また、チェーン軸継手の役割は、電動機が高速で回転をしているときに電動機から発生する振動や軸心のずれやひずみを吸収することである。

現象

チェーン軸継手に使われているチェーン。

空気圧装置の

計画保全

車両整備での経験 車両整備をしていたとき、次のような壊れ方をした車両が多かったのです。

 車両の内燃機関(エンジン)内部に「タイミングベルト」と呼ばれる部品があります。タ

イミングベルトはエンジンのクランクシャフトとカムシャフトの両方のタイミングを取りな

がら回転しています。そして、ピストンの上下に動くタイミングに合わせて、カムシャフト

で駆動された排気バルブ、吸気バルブの動作を制御しています。タイミングベルトは通常は、

10万キロメートル前後走行したら交換することが推奨されています。タイミングベルトの

材質はゴムと強靭な繊維でできていますが、金属とは違い経年劣化により定期交換が必要な

部品です。

 内燃機関(エンジン)を定期修理する場合、タイミングベルト、テンショナベアリング、

オイルシールなどを一緒に交換するのが一般的です。部品代として数万円ぐらいの経費で済

むことになります。しかし、走行中にタイミングベルトを切ってしまったら、その場で走行

できなくなるばかりか、内燃機関(エンジン)のすべてが壊れ、エンジン自体をすべて交換

することになります。タイミングベルトが切れることにより、クランクシャフトとカムシャ

フトのタイミングをとることができなくなり、ピストンと吸気・排気バルブが干渉してしま

製造現場の設備保全をする場合、必ず必要なことは、製造設備がどのような機械要素部品で構成されているか把握することである。製造設備がどのような構造になっているか、どのような機械要素部品が使用されているか、各機械要素部品に対してどのようなメンテナンス方法が必要か、機械要素部品が消耗した場合の交換時期は、これらのことを理解しながら適切なときに適切なメンテナンスを行うことが求められる。設備保全を適切に行うことは、製造される製品の品質向上や不良品の低減、設備の寿命延命につながり、総合的にコストの低減につながる。

現象

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チェーンカップリングのグリスの交換。長期間交換をしないで使用していたため、グリスが半固体状態でなくなり、プラスチック状態になってしまっていた。