Post on 09-Jan-2016
description
第 6章 物価指数
経済統計 ー ー
この章の内容Ⅰ 物価指数の考え方
a) 個別価格指数b) 平均指数
ⅰ ) 単純平均指数 ⅱ) 加重平均指数c) 金額比指数
ⅰ ) ラスパイレス指数 ⅱ) パーシェ指数Ⅱ 数量指数
c) 個別数量指数d) 平均指数
ⅰ ) 単純平均指数 ⅱ) 加重平均指数c) 金額比指数
Ⅲ 指数に関するいくつかの検討e) フィッシャーのテスト
ⅰ ) 時点逆転テスト ⅱ) 要素逆転テストf) ラスパイレス指数とパーシェ指数の関係g) 経済理論との対応
Ⅳ 物価指数の実際h) 消費者物価指数
ⅰ ) データの源泉 ⅱ) 基準の改定 ⅲ) 作成される指数の種類
i) 企業物価指数、企業向けサービス価格指数j) 貿易価格指数
Ⅰ 物価指数の考え方
a) 個別価格指数 牛肉 2000 年を基準( 100 )とすると、 2010 年は
となる。これが 2010 年の牛肉の価格指数である。
牛肉 豚肉 鶏肉
2000 年 200 円 150 円 120 円
2010 年 240 円 160 円 140 円
( 例 )100g あたりの肉の値段
240200
×100=120
同様に、豚肉は
とり肉は
となる。 一般に第 i 品目の個別価格指数は
と表すことができる。
個別価格指数によって、各品目ごとの価格変化はわかった。しかし、物価を考えるには、全体での価格変化が分からなくてはならないのでは?
牛肉 豚肉 鶏肉
2000 年 200 円 150 円 120 円
2010 年 240 円 160 円 140 円
基準時点の価格( 0期)
比較時点の価格( t期)
0期
t期
p01
pt1
p02
pt2
p03
pt3
160150
×100=106.7
140120
×100=116.7
𝑝𝑡𝑖
𝑝0 𝑖×100
とは、 i=1 から n まで Xi をすべて加えるということである。
すなわち、
b) 平均指数ⅰ ) 単純平均指数 各品目の個別価格指数の単純平均を考える。 この例では
となる。これを和記号( Σ )を用いて表すと
となる。 <和記号 Σ (シグマ)について>
120+106.7+116.73
=114.1
1𝑛∑𝑖=1
𝑛 𝑝𝑡𝑖
𝑝0 𝑖×100
∑𝑖=1
𝑛
𝑋 𝑖
∑𝑖=1
𝑛
𝑋 𝑖=𝑋 1+𝑋 2+⋯+𝑋𝑛
単純平均指数は「物価」を表す指数として、自然な発想である。 しかし、次のような問題点がある。
各品目の購入頻度を考慮に入れていない
単純平均指数では高い頻度で購入する野菜の価格変化も、購入する頻度の低い車の価格変化も、同等に扱ってしまう。 → この問題の対処法が加重平均指数
ⅱ ) 加重平均指数 加重平均指数は、各品目の個別価格指数をウエイトをつけて平均したものである。
加重平均指数では、購入頻度を表すウエイトとしてどのようなものを選ぶかが問題である。 購入数量をウエイトに用いる。 → 自然な考え方であるが、単位の相違の問題がある。 (例) 牛肉 300g と CD5 枚を購入した場合、ウエイトとして 300, 5 という単位の異なる 2 つを用いることは問題である。 そのため、購入数量は金額換算し、購入金額をウエイトとする。 金額 = 価格 × 数量 ( piqi ) ( pi ) ( qi )
1
∑𝑤𝑖
∑𝑖=1
𝑛
𝑤𝑖
𝑝𝑡𝑖
𝑝0 𝑖×100= 1
∑𝑤𝑖(𝑤1
𝑝𝑡1
𝑝01+⋯+𝑤𝑛
𝑝𝑡 𝑛
𝑝0𝑛 )×100
c) 金額比指数 「物価」とは、経済全体としての財やサービスの価格である。 基準時と比較時の 2 つの時点では、平均的な家計†が購入する品目のパターンは異なる。もしこの 2 つの時点において、購入する品目のパターンが同じであるとしたなら、 2 時点間の購入金額の合計の相違は、各品目の価格変化を原因とするものであり、その比は、 2 時点間の物価の比をあらわす。† 経済全体の購入量を世帯数で割った、算術平均の定義に合致する家計が存在したとしよう。
基準時の購入金額の合計は
比較時の購入金額の合計は であり、
購入数量を基準時の数量( q0i )で一定としたもの - ラスパイレス指数 購入数量を比較時の数量( qti )で一定としたもの - パーシェ指数
∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝𝑡𝑖𝑞𝑡𝑖
𝑃 𝐿 (𝑡 )=∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖
𝑃 𝑃 (𝑡 )=∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
ⅰ ) ラスパイレス指数 ラスパイレス指数は、購入数量を基準時の数量で一定としたときの購入金額の合計の比であり、
と表される。 これは、加重平均指数において、 wi=p0iq0i とおくと、
となる。すなわち、加重平均指数の 1 種であり、実際の計算はこの加重平均の形でおこなわれる。
1
∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
𝑝𝑡 𝑖
𝑝0 𝑖=∑𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
𝑃 𝐿 (𝑡 )=∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖
ⅱ ) パーシェ指数 パーシェ指数は、購入数量を比較時の数量で一定としたときの購入金額の合計の比であり、
と表される。 これは、
と表すことができる。これは、 wi=ptiqti とした加重調和平均である。 実際の計算は、次のように求めれば良い。
𝑃 𝑃 (𝑡 )=∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
( 1
∑𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖(𝑝𝑡 𝑖
𝑝0 𝑖 )− 1
)−1
𝑃 𝑃 (𝑡 )= ∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑝𝑡 𝑖
𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
購入数量 400g 600g 300g
購入数量 500g 400g 300g
2010 年 価格 240 円 160 円 140 円
購入金額 960 円 960 円 420 円
牛肉 豚肉 鶏肉
2000 年 価格 200 円 150 円 120 円
購入金額 1000 円 600 円 360 円0期
t期
p01
pt1
p02
pt2
p03
pt3pti
p0i
p0iq0i
ptiqti
p01q01 p02q02 p03q03
pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3
q01 q02 q03q0i
qt1 qt2 qt3qti
( 例 )100g あたりの肉の値段と購入金額
牛肉 豚肉 鶏肉
2000 年 価格 200 円 150 円 120 円
購入金額 1000 円 600 円 360 円
2010 年 価格 240 円 160 円 140 円
購入金額 960 円 960 円 420 円
ラスパイレス指数
0期
t期
p01
pt1
p02
pt2
p03
pt3pti
p0ip0iq0i
ptiqti
p01q01 p02q02 p03q03
pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3
𝑃 𝐿 (𝑡 )= 1
∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖
𝑝𝑡 𝑖
𝑝0 𝑖=1000×120+600×106.7+360×116.7
1000+600+360=120000+64000+42000
1000+600+360=2260001960
=115.3
( 例 )100g あたりの肉の値段と購入金額
購入数量 500g 400g 300g
購入数量 400g 600g 300g
2010 年 価格 240 円 160 円 140 円
購入金額 960 円 960 円 420 円
購入数量 500g 400g 300g
牛肉 豚肉 鶏肉
2000 年 価格 200 円 150 円 120 円
購入金額 1000 円 600 円 360 円0期
t期
p01
pt1
p02
pt2
p03
pt3pti
p0ip0iq0i
ptiqti
p01q01 p02q02 p03q03
pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3
q01 q02 q03q0i
qt1 qt2 qt3qti
ラスパイレス指数
q01 q02 q03q0i
パーシェ指数
𝑃 𝑃 (𝑡 )= ∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑝𝑡 𝑖
𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
= 960+960+420
960×1120
+960× 1106.7
+420× 1116.7
=960+960+4208+9+3.6
=234020.6
=113.6
( 例 )100g あたりの肉の値段と購入金額 牛肉 豚肉 鶏肉
2000 年 価格 200 円 150 円 120 円
購入金額 1000 円 600 円 360 円
2010 年 価格 240 円 160 円 140 円
購入金額 960 円 960 円 420 円
0期
t期
p01
pt1
p02
pt2
p03
pt3pti
p0ip0iq0i
ptiqti
p01q01 p02q02 p03q03
pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3
購入数量 400g 600g 300g
2010 年 価格 240 円 160 円 140 円
購入金額 960 円 960 円 420 円
購入数量 400g 600g 300g
購入数量 500g 400g 300g
牛肉 豚肉 鶏肉
2000 年 価格 200 円 150 円 120 円
購入金額 1000 円 600 円 360 円0期
t期
p01
pt1
p02
pt2
p03
pt3pti
p0i
p0iq0i
ptiqti
p01q01 p02q02 p03q03
pt1qt1 pt2qt2 pt3qt3
q01 q02 q03q0i
qt1 qt2 qt3qti
パーシェ指数
qt1 qt2 qt3qti
Ⅱ 数量指数a) 個別数量指数 第 i 品目の基準時の購入数量を q0i 、比較時の購入数量を qti
とすると、 個別数量指数は となる。
b) 平均指数ⅰ ) 単純平均指数 個別の数量指数を単純平均したものⅱ ) 加重平均指数 加重平均指数は、各品目の個別数量指数をウエイトをつけて平均したものである。
数量指数においても、購入金額をウエイトとすることが考えられる。
1𝑛∑
𝑞𝑡𝑖
𝑞0 𝑖
1
∑𝑤𝑖
∑𝑖=1
𝑛
𝑤𝑖
𝑞𝑡𝑖
𝑞0 𝑖×100= 1
∑𝑤𝑖(𝑤1
𝑞𝑡1
𝑞01+⋯+𝑤𝑛
𝑞𝑡𝑛
𝑞0𝑛 )×100
c) 金額比指数 基準時と比較時の 2 つの時点において、すべての品目の価格が同じであるとしたなら、 2 時点間の購入金額の合計の比は、 2 時点間の購入数量の比をあらわす。
価格を基準時の価格( p0i )で一定としたもの
- ラスパイレス数量指数
価格を比較時の価格( pti )で一定としたもの
- パーシェ数量指数
𝑄𝐿 (𝑡 )=∑𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
𝑄𝑃 (𝑡 )=∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖
Ⅲ 指数に関するいくつかの検討
a) フィッシャー (Fisher) のテスト
物価指数が満たすべき基準として、フィッシャーはいくつかのものを設定した。その中の代表的なものが次の 2 つである。
時点逆転テスト - 基準時と比較時を逆転しても矛盾しない 要素逆転テスト - 価格と数量を逆転しても矛盾しない
ⅰ ) 時点逆転テスト
2000 年を基準としたとき、 2010 年に 125 となる指数があったとする。この指数について 2010 年を基準とした指数を作成しなおすことを考えてみよう。 この指数は 2010 年は 2000 年の 倍となっている。したがって、 2010 年を基準とした指数では、 2000 年は 2010 年の 倍の80 となるはずである。
2000 年 2010 年
2000 年基準指数 100 125
2010 年基準指数 100
これが基準時と比較時の逆転である。 時点逆転テストはこれが成り立つかどうかをテストするものであり、基準時と比較時を逆転した指数を考え、元の指数とかけあわせたものが 1 になるかどうかで判断する。 (たとえば個別価格指数を考えると となってこのテストを満たしている)
80
<ラスパイレス指数の場合>
基準時と比較時を逆転した指数
ラスパイレス指数は時点逆転テストを満たさない。
<パーシェ指数の場合>
基準時と比較時を逆転した指数
パーシェ指数は時点逆転テストを満たさない。
𝑃 𝐿 (𝑡 )×𝑃𝐿𝑅 (𝑡 )=∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖
∑𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖×∑𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
≠1
𝑃 𝑃 (𝑡 )×𝑃𝑃𝑅 (𝑡 )=∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
×∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖
≠1
𝑃 𝐹 (𝑡 )×𝑃 𝐹𝑅 (𝑡 )=√∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0𝑖
∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖×∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
×√∑ 𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
×∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖∑𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖
ラスパイレス指数、パーシェ指数ともに時点逆転テストを満たさない。 ラスパイレス指数とパーシェ指数を幾何平均したものを考える。(これをフィッシャー指数という。)
<フィッシャー指数の場合>
基準時と比較時を逆転した指数
フィッシャー指数は時点逆転テストを満たす。
=1
𝑃 𝐹 (𝑡 )=√𝑃𝐿 (𝑡 )×𝑃𝑃 (𝑡 )=√∑𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
×∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
ⅱ ) 要素逆転テスト 基準時と比較時の購入金額の合計の比を考えると
である。この金額の変化には、価格の変化と数量の変化の両方が含まれるが、価格指数 P(t) と数量指数 Q(t) を考えると、
M(t) = P(t)×Q(t) という関係が成り立つことが望ましい。この関係を金額条件という。 価格と数量の役割を逆転したものは、価格指数と数量指数であるが、要素逆転テストはこれらに矛盾がないということを、金額条件が満たされるかどうかによって判断するものである。 (たとえば個別価格指数と個別数量指数を考えると
となってこのテストを満たしている)
𝑀 (𝑡 )=∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
𝑝𝑡 𝑖
𝑝0 𝑖×𝑞𝑡𝑖
𝑞0 𝑖=𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
<ラスパイレス指数の場合>
ラスパイレス指数は単独では要素逆転テストを満たさない。
<パーシェ指数の場合>
パーシェ指数は単独では要素逆転テストを満たさない。
𝑃 𝐿 (𝑡 )×𝑄𝐿 (𝑡 )=∑𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
×∑𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖≠∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
𝑃 𝑃 (𝑡 )×𝑄𝑃 (𝑡 )=∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
×∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖≠∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
ただし、次のような組み合わせを考えることができる。<ラスパイレス価格指数-パーシェ数量指数の場合>
要素逆転テストを満たす。
<パーシェ価格指数-ラスパイレス数量指数の場合>
要素逆転テストを満たす。
𝑃 𝑃 (𝑡 )×𝑄𝐿 (𝑡 )=∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
×∑𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖=∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖
𝑃 𝐿 (𝑡 )×𝑄𝑃 (𝑡 )=∑𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
×∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖=∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖
ラスパイレス指数、パーシェ指数ともに単独では要素逆転テストを満たさない。では、単独でこのテストを満たす指数はないであろうか?
<フィッシャー指数の場合>
フィッシャー指数は要素逆転テストを満たす。
なお、フィッシャー数量指数はラスパイレス数量指数とパーシェ数量指数の幾何平均であり、
である。
𝑃 𝐹 (𝑡 )×𝑄𝐹 (𝑡 )=√∑𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖∑𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
×∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
×√∑ 𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖×∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖=√ (∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖)
2
(∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖)2=
∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
𝑄𝐹 (𝑡 )=√𝑄𝐿 (𝑡 )×𝑄𝑃 (𝑡 )=√∑ 𝑝0𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝0 𝑖𝑞0𝑖×∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖
b) ラスパイレス指数とパーシェ指数の関係 ボルトキヴィッチの関係式
sP - 個別価格指数の標準偏差 sQ - 個別数量指数の標準偏差 r - 個別価格指数と個別数量指数の相関係数いう関係式が成り立つ。
通常、価格が上昇した物の購入数量は相対的に小さくなるので、 r<0 となる。
PL(t), PQ(t), sP, sQ のいずれも+であることから、通常の場合
となり、ラスパイレス指数はパーシェ指数より大きくなる。
𝑃𝑃 (𝑡 )−𝑃 𝐿 (𝑡 )𝑃𝐿 (𝑡 )
=𝑟𝑠𝑃
𝑃𝐿 (𝑡 )𝑠𝑄
𝑄𝐿 (𝑡 )
𝑃𝑃 (𝑡 )−𝑃 𝐿 (𝑡 )𝑃𝐿 (𝑡 )
<0⟺𝑃 𝑃 (𝑡 )<𝑃 𝐿 (𝑡 )
また、通常、個別品目の価格変化や数量変化のちらばりは、時間の経過とともに大きくなるので、 sP, sQ は時間の経過とともに大きくなる。 したがってラスパイレス指数とパーシェ指数のズレは時間の経過とともに大きくなる。
⇒ パーシェ・チェックの必要性
<日本の消費者物価指数> 日本の消費者物価指数はラスパイレス指数により算出されている。 ラスパイレス指数のメリットには、ウエイト(購入金額)に基準時の 1 時点のみを用いればよいことがある。 (パーシェ指数は各比較時点ごとのウエイト ( 購入金額 ) を用いなくてはならない。)
5 年に 1 度の基準改定の時にパーシェ・チェックをおこない、ラスパイレス指数の信頼性を確認している。
ラスパイレス指数
パーシェ指数
基準時 比較時 1 比較時 2 比較時 3
p0i
p0i
p0iq0i
ptiqti
pti
pti
pti
pti
ptiqti
pti
pti
ptiqti
c) 経済理論との対応
ミクロ経済学で用いられる効用理論の観点から物価指数を考えてみる。
同様に比較時の所得を yt とすると、 yt=pt1x1+pt2x2 の解が比較時の購入数量 Qt(qt1,qt2) となる。
x1,x2 の 2 財のみからなる市場を考える。基準時の所得を y0 とすると、消費者は予算制約の範囲内で効用を最大化しようとするので、 y0=p01x1+p02x2
となるように購入量を決める。この解が Q0(q01,q02) である。x1
x2
Q0
Qt
「真の指数」 = 同じ効用を得るために必要な金額の比 と定義する。
同様に基準時の価格体系のもとで、比較時と同じ効用を得るためには、 Q0
*(q01*,q02
*) という購入数量をとればよい。 このとき真の指数は
となる。
比較時の価格体系のもとで、基準時と同じ効用を得るためには、 Qt
*(qt1*,qt2
*)
という購入数量をとればよい。したがって、このとき真の指数は
となる。
x1
x2
Q0
Qt
Q0*Qt*
𝐼 0=∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡𝑖
∗
∑𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
𝐼 𝑡=∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖∗
同様に Q0* と Qt とを比較すると、 Qt は Q0
* の接線の右上方にあることから、基準時の価格体系であれば Qt を購入する際の予算は、 Q0
* を購入する際の予算より大きくなる。よって、となる。
Qt* と Q0 を比較する。
Q0 は Qt* の接線の右上方にあ
ることから、比較時の価格体系であれば Q0 を購入する際の予算は、 Qt
* を購入する際の予算より大きくなる。よって、
となる。
x1
x2
Q0
Qt
Q0*Qt*
∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡𝑖∗<∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖⟺
∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡𝑖∗
∑𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖<∑ 𝑝𝑡 𝑖𝑞0 𝑖∑𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
⟺𝐼 0<𝑃𝐿 (𝑡 )
∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖∗ <∑ 𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖⟺
∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡𝑖
∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖∗ >
∑𝑝𝑡 𝑖𝑞𝑡 𝑖
∑𝑝0 𝑖𝑞𝑡 𝑖
⟺𝐼 𝑡<𝑃𝑃 (𝑡 )
以上のことから、
I0<PL(t) ラスパイレス指数は真の指数 I0の上限 PP(t)<It パーシェ指数は真の指数 It の下限
I0 と It の大小関係がわからないことから、ラスパイレス指数とパーシェ指数の大小関係を直接導くことはできないが、効用関数が一定という条件をつければ、 I0 = It となる。その場合にはラスパイレス指数とパーシェ指数がそれぞれ真の指数の上限と下限ということになる。
Ⅳ 物価指数の実際おもな物価指数
消費者物価指数(総務省統計局) 企業物価指数、企業向けサービス価格指数(日本銀行) 貿易価格指数 ( 財務省関税局 )
a) 消費者物価指数( Consumer Price Index )
平均的な世帯が日常購入する財・サービスの価格の動きをとらえた指数
ラスパイレス指数で算出 5 年ごとにウエイトの改定 (現在は平成 22 年 (2010
年 ) 基準 ) をおこない、過去の指数との接続をおこなう。
基準改定の際、パーシェチェックによって指数の妥当性の検討をおこなう。
ⅰ) データの源泉
ウエイト - 家計調査 平成 22 年平均 1 か月間の 1 世帯当たり品目別消費支出金額 (2人以上世帯 )
価格 - 小売物価統計調査 ( 基幹統計 ) 全国 約 26000店舗・事業所(価格の調査、各地区内の販売数量
または従業者規模等の大きい店舗の
順に、価格取集数に応じた店舗を選定)
約 25000民営借家世帯 ( 家賃の調査 ) 約 530旅館 (宿泊料の調査 )
⇒ 588 品目を指数に採用 ※ 指数に採用される品目は、各品目への支出が消費支出全体
の 1万分の 1以上が目安になっている。
𝑃 𝐿 (𝑡 )=∑ 𝑝0𝑖𝑞0 𝑖
𝑝𝑡 𝑖
𝑝0 𝑖∑ 𝑝0 𝑖𝑞0 𝑖
ⅱ) 基準の改定物価指数は 5 年に 1 度†基準の改定がおこなわれる。基準改定とは、家計消費の変化に対応して、指数採用品目の改廃、ウエイトの変更などをおこなうことである。
基準改定時に、過去の指数は新しいウエイトで再計算すべきであるが、採用品目の改廃などがあるため、非常に困難であり、指数の接続という方法が用いられる。
1995 年を基準とした場合、 1998 年
は102.5 、 2000 年は 101.5 であった。
2000 年の基準改訂の際にこれらを接続するには、それぞれの数字を 101.5 で割れば良い。 1998 年であれば 102.5÷101.5×100=101.0 となり、 1995 年であれば 100÷101.5×100=98.5 となる。
※ ラスパイレス指数は時点逆転テストを満たさないため、理論的にはこのような接続は正しくないが、実際上使わざるをえない。
† 5 年に 1 度では、消費構造の変化に対応しきれない面があるので、中間年における品目・ウエイトの見直しをおこなう。 2008 年 1月は、第 3 のビールの追加、ブラウン管型テレビの統合などを、 2013 年 1月はスマートフォンを従来型携帯電話機に加え、指数化するなどの改変をおこなった。
1995年 1998年 2000年100( )基準時 102.5 101.5
100( )基準時98.5 101.0
ラスパイレス指数で計算される消費者物価指数が妥当であるかどうかを、パーシェ・チェックによって検証する。
パーシェ・チェックは次のような式である。
(L)ラスパイレス指数 (P)パーシェ指数45 (40 )昭和 年 年基準 130.4 126.0 - 3.450 (45 )昭和 年 年基準 172.4 171.0 - 0.855 (50 )昭和 年 年基準 137.2 134.6 - 1.960 (55 )昭和 年 年基準 114.4 113.3 - 1.02 (60 )平成 年 年基準 106.2 105.5 - 0.77 (H2 )平成 年 年基準 106.4 106.2 - 0.212 (H7 )平成 年 年基準 101.0 99.9 - 1.117 (H12 )平成 年 年基準 97.3 94.9 - 2.522 (H17 )平成 年 年基準 99.7 93.1 - 6.6
( )総合指数 持家の帰属家賃を除く年次 P- L)/ L(
𝑃𝑃 (𝑡 )−𝑃 𝐿 (𝑡 )𝑃𝐿 (𝑡 )
ⅲ) 作成される指数の種類<連鎖指数> 0 期を基準時とし、 t 期を比較時とする物価指数を I0,t とあらわすと、連鎖指数は
I0,1×I1,2×・・・×It-1,t
というように、前年のウエイトを使う指数を順次接続していく。
この指数は消費構造の変化に速やかに対応することができる。(ただし、ウエイトを毎年求める労力がかかる)
実際のデータを見ると、ラスパイレス指数による消費者物価指数と、連鎖指数との差はあまりない。
b) 企業物価指数( Corporate Goods Price Index )、 企業向けサービス価格指数( Corporate Service Price
Index )
企業物価指数は企業間で取引される商品の価格をとらえた指数 企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービス(商品輸送な
ど)の価格をとらえた指数であり、企業物価指数と対をなしている。 ともにラスパイレス指数で算出
<企業物価指数> 2000 年基準への改定 (2002 年 12月公表分 ) において、卸売物価指
数( Wholesales Price Index )から名称変更 国内企業物価指数( 910 品目) 企業物価指数 輸出物価指数( 222 品目) 輸入物価指数( 293 品目) 国内企業物価指数は生産者、 1 次卸、 2 次卸の中で価格決定に最も影響を与える部分を調査している。
c) 貿易価格指数
税関を通過する際の提出資料により、輸出と輸入の価格指数を作成
フィッシャー指数で算出